特許第6486742号(P6486742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486742
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20190311BHJP
   B41J 25/308 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   B41J2/01 303
   B41J2/01 307
   B41J25/308 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-61274(P2015-61274)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-179610(P2016-179610A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】川井 宗明
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−190737(JP,A)
【文献】 特開2012−176845(JP,A)
【文献】 特開2000−158745(JP,A)
【文献】 特開昭58−59878(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0279507(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
B41J 25/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を搬送方向である副走査方向に沿って搬送する搬送部と、
前記搬送部の上方に配置され、前記副走査方向と直交する主走査方向に沿って延在するインクジェットヘッドを搭載するキャリッジと、
前記キャリッジに回転自在に軸支され、前記搬送部で搬送される前記印刷媒体の印面と接触して当該印面と前記インクジェットヘッドとの間に所定のヘッドギャップを形成する複数の点接触ローラと、
前記キャリッジを前記副走査方向についての位置が規制された状態で、前記主走査方向への揺動動作、前記副走査方向への揺動動作及び鉛直方向への上下動が可能なように支持する支持機構と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記キャリッジは、当該キャリッジにおける前記副走査方向の上流側端部に設けられる左右一対の支持部材に回転自在に軸支される上流側ローラを備え、
前記支持機構は、前記支持部材に形成された鉛直方向に延在する長孔が、装置筐体に固定された左右一対の揺動支軸にそれぞれ嵌合して構成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記キャリッジは、弾性変形可能な部材で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドによりインクを吐出して各種印刷媒体に所望の画像を印刷するインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種印刷媒体(例えば、A3用紙やA4用紙のような各種枚葉紙や、段ボールのような不定形サイズの媒体)を搬送しつつ、位置固定されたキャリッジに搭載される複数のインクジェットヘッドからインクを吐出させることで印刷媒体に所望の画像を印刷するライン型のインクジェット印刷装置が知られている。
【0003】
ところで、この種の装置において、インクジェットヘッドと印刷媒体の印面との間隔(以下、「ヘッドギャップ」という)が規定値よりも大きい場合は、インク滴の着弾位置にズレが生じ、視覚的にぼやけた画像になったり、吐出されたインク滴がミストとして飛散して不要な箇所に付着したりするという問題がある。また、ヘッドギャップが規定値よりも小さい場合は、印刷媒体の変形部分がインクジェットヘッドのノズル面と接触してノズルが損傷する問題がある。
【0004】
そして、このような問題を解決するための機能を備えた装置として、例えば下記特許文献1、2に開示される装置が提案されている。
【0005】
下記特許文献1に開示される装置では、インクジェットヘッドと記録媒体のギャップをギャップ規制部材によって規定してプラテンを記録媒体の厚さに応じて移動する構成であり、搬送される記録媒体の厚さに応じてプラテンが移動して、常に記録媒体の印字面とインクジェットヘッドのギャップが適切な値を保持する仕組みとなっている。
【0006】
また、下記特許文献2に開示される装置では、インクを吐出する記録ヘッドを搭載した往復移動可能なキャリッジと、記録媒体を搬送するための搬送手段と、キャリッジに対する記録ヘッドの位置を変化させて記録媒体と記録ヘッドとの間のギャップを調整する間隔調整手段とを有し、間隔調整手段によって記録媒体と記録ヘッドとのギャップを調整することで、記録媒体の厚さやコックリング(波打ち現象)などの記録条件が変化しても適切な間隔を維持する仕組みとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−147191号公報
【特許文献2】特開2000−158745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される装置では、プラテンによって印刷媒体をギャップ規制部材に押し付けた状態で印刷するため、印刷直後の印刷媒体に付着した未乾燥のインクがギャップ規制部材の接触面と接触して印面が汚れてしまうという問題があった。また、連続して印刷する場合に、ギャップ規制部材に付着した未乾燥のインクが次の印刷媒体の印面に付着して汚れるという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献1の装置では、プラテンとギャップ規制部材との間で印刷媒体を挟持しながら搬送しているが、例えば段ボールのような印刷媒体には箱形状を形成するために接着部分を有しており、プラテンとギャップ規制部材でこの部分が挟持されている間は、この接着部分の厚さが基準になってしまうため、接着部分以外の箇所では適切なギャップを維持することができない。
【0010】
また、特許文献2に開示される装置では、記録ヘッドの位置を印刷媒体の副走査方向(印刷媒体の搬送方向)に対する歪みには対応できるが、例えば段ボールのような印刷媒体では、副走査方向の歪みだけではなく副走査方向と直交する主走査方向にも歪みが存在することがあるため、適切なヘッドギャップを維持することができない。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、厚み差や印面に生じた歪みがある印刷媒体に対して一定のヘッドギャップを保った状態で印刷処理を行うことのできるインクジェット印刷装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載されたインクジェット印刷装置は、印刷媒体を搬送方向である副走査方向に沿って搬送する搬送部と、
前記搬送部の上方に配置され、前記副走査方向と直交する主走査方向に沿って延在するインクジェットヘッドを搭載するキャリッジと、
前記キャリッジに回転自在に軸支され、前記搬送部で搬送される前記印刷媒体の印面と接触して当該印面と前記インクジェットヘッドとの間に所定のヘッドギャップを形成する複数の点接触ローラと、
前記キャリッジを前記副走査方向についての位置が規制された状態で、前記主走査方向への揺動動作、前記副走査方向への揺動動作及び鉛直方向への上下動が可能なように支持する支持機構と、
を備えたことを特徴としている。
【0013】
また、請求項2記載のインクジェット印刷装置は、請求項1記載のインクジェット印刷装置において、前記キャリッジは、当該キャリッジにおける前記副走査方向の上流側端部に設けられる左右一対の支持部材に回転自在に軸支される上流側ローラを備え、
前記支持機構は、前記支持部材に形成された鉛直方向に延在する長孔が、装置筐体に固定された左右一対の揺動支軸にそれぞれ嵌合して構成されていることを特徴としている。
【0014】
また、請求項3記載のインクジェット印刷装置は、請求項1又は2記載のインクジェット印刷装置において、前記キャリッジは、弾性変形可能な部材で形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載されたインクジェット印刷装置によれば、印刷媒体に厚み差や反りなどの歪みがある段ボールのような印刷媒体であっても、キャリッが印刷媒体の印面形状に追従するように所定方向に揺動して点接触ローラが媒体印面から離間しないように常に接触した状態を維持することができるため、安定した印刷処理を行うことができる。しかも、点接触ローラを採用することで、印面とローラ面との接触面積を最小限に止めることができるため、インクが他部に再転写することを防止する効果を奏する。
【0016】
また、請求項2に記載されたインクジェット印刷装置によれば、キャリッジは、当該キャリッジにおける副走査方向の上流側端部に設けられる左右一対の支持部材に回転自在に軸支される上流側ローラを備えており、キャリッジの支持機構は、前記支持部材に形成された鉛直方向に延在する長孔が、装置筐体に固定された左右一対の揺動支軸にそれぞれ嵌合する構成であるため、印刷媒体の印面形状に拘わらず、キャリッジのバウンドを防止することができるとともに、印刷媒体を上流側ローラの重みで抑えつつ安定して搬送することができる。よって、常に印刷媒体に対して一定のヘッドギャップを保つことができる。
【0017】
また、請求項3記載のインクジェット印刷装置によれば、印刷媒体の印面形状が主走査方向に反り上がったような段ボールであっても、キャリッジが弾性変形することで印刷媒体の印面形状にフレキシブルに追従することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置の概略構成図である。
図2】(a)は印刷媒体として使用される段ボールの形状例を示す図であり、(b)は図2(a)に示す段ボールを副走査方向上流側から見た図である。
図3】(a)は同装置における搬送部及び印刷部の概略斜視図であり、(b)は概略側面図である。
図4】(a)はキャリッジの副走査方向下流側が持ち上がるように揺動したときの状態を示す図であり、(b)は同キャリッジの副走査方向上流側が持ち上がるように揺動したときの状態を示す図である。
図5】(a)はキャリッジの主走査方向右側が持ち上がった状態に揺動したときの状態を示す図であり、(b)はキャリッジの主走査方向左側が持ち上がった状態に揺動したときの状態を示す図である。
図6】同キャリッジが水平状態を保ったまま上下移動する状態を示す図である。
図7】(a)は点接触ローラの設置例を示す図であり、(b)は点接触ローラの他の設置例を示す図である。
図8】(a)は印刷部におけるキャリッジの他の構成例を示す概略斜視図であり、(b)は同形態のキャリッジが主走査方向に湾曲した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。また、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者などによりなされる実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれる。
【0020】
なお、本明細書において、各図に示す矢印Xの方向は主走査方向X(すなわち、印刷媒体Pの搬送方向と直交する方向)であり、主走査方向Xと直交する方向を示す矢印Yの方向は副走査方向Y(すなわち、印刷媒体Pの搬送方向)である。また、添付する各図を参照した以下の説明において、方向乃至位置を示すために上、下、左、右の語を使用するが、これはユーザーが各図を図示の通りにみた場合の上、下、左、右に一致する。
【0021】
さらに、本発明に係るインクジェット印刷装置1で使用する印刷媒体Pは、例えば一般的な枚葉紙(A4用紙やA3用紙など)や段ボールのような不定形サイズの媒体など様々であるが、以下の説明では、本発明の目的である、「印刷媒体Pの厚み差や印面に生じた歪みなどの凹凸に対して追従しながら一定のヘッドギャップ(印刷媒体Pの印面とインクジェットヘッド32との間の間隔)を保った状態で印刷処理を行うこと」が明確となるように、図2(a)、(b)に示すような段ボールを使用した例で説明する。
【0022】
図2(a)に示す段ボールの形状は、搬送方向における上流側から徐々に厚みが増していき、略中央付近で最大厚となる。ここは、段ボールを箱形状にするための接着部分にあたる。この接着部分を通過すると段ボールの厚み分薄くなり、搬送方向下流側に沿って徐々に薄くなっていく。また、図2(b)に示すように、副走査方向Yの上流側からみて、図中左側部分に膨らみが生じている。
【0023】
<装置の主要構成>
まず、本発明のインクジェット印刷装置1の構成について説明する。
図1又は図3に示すように、インクジェット印刷装置1は、給紙部10と、搬送部20と、印刷部30と、排出部40と、制御部50を備えている。
なお、インクジェット印刷装置1本体に設けられたインクタンク、ヘッドへのインク経路、束線、搬送部20の軸受けや駆動部等については、説明を簡略化するため、図示を省略している。
【0024】
給紙部10は、印刷媒体Pが積層載置される給紙台11と、給紙台11の上側に配置され給紙台11に積載された印刷媒体Pを1枚ずつピックアップして後段に搬送する給紙ローラ12と、給紙ローラ12の下流側に配置され給紙ローラ12により搬送された印刷媒体Pを一旦止めた後に所定のタイミングで搬送部20に向けて搬送するレジストローラ13とを備えている。なお、給紙ローラ12とレジストローラ対13は、制御部50の制御により駆動するモータ(図示せず)により回転駆動する。
【0025】
搬送部20は、搬送ベルト21と、駆動ローラ22と、従動ローラ23と、吸引ファン24とを備え、装置筐体1a内における印刷部30の下方に配置される。搬送部20は、レジストローラ対13から搬送されてきた印刷媒体Pを、副走査方向Yに沿って搬送する。
【0026】
搬送ベルト21は、駆動ローラ22及び従動ローラ23に環状の搬送ベルト21が掛け渡される。搬送ベルト21のベルト搬送面には、図示していないが印刷媒体Pを吸着保持するための貫通穴であるベルト穴が多数形成されており、吸引ファン24の吸引駆動によりベルト穴に発生する負圧を利用して搬送ベルト21の吸着保持面(印刷媒体Pと接触する面)に印刷媒体Pを吸着保持する。搬送ベルト21は、図示のしないモータにより駆動ローラ22が回転駆動し、図1における時計回り方向に回転して印刷媒体Pを副走査方向Yに搬送する。
【0027】
印刷部30は、装置筐体1a内における搬送部20の上方に設けられ、直方体形状のキャリッジ31上にインクジェットヘッド32が搭載されている。印刷部30は、給紙部10から副走査方向Yに搬送される印刷媒体Pの印面(すなわち、インクジェットヘッド32のノズルと対向する面)に対してインクを吐出させる印刷動作と、搬送部20による副走査方向Yへの搬送動作とを繰り返すことによって、印刷媒体Pの印面上に順次画像を印刷する。
【0028】
インクジェットヘッド32は、複数のノズル(図示省略)を主走査方向Xに沿って配列させたヘッドブロック32aが、主走査方向Yに沿った一のライン上に沿って複数個(図中では3個)配置され、且つ、副走査方向Yに計2ラインに分けて配置(図中では合計で6個)されているとともに、隣り合うラインでは各ヘッドブロック32aが一部重なりあうように互い違いに千鳥状に配置されている。インクジェットヘッド32は、ライン型インクジェット方式であるため、キャリッジ31が印刷媒体P上を走査することなく搬送部20上の所定位置に固定されている。そのため、キャリッジ31に搭載されたインクジェットヘッド32は、インクジェット印刷装置1で印刷可能な印刷媒体Pの短辺幅(すなわち、搬送される印刷媒体Pにおける主走査方向Xの長さ)と同等以上の距離を有することになる。
【0029】
なお、本実施形態では、単色印刷(例えばモノクロ印刷)対応のインクジェット印刷装置1を例に取って、1色分のインクジェットヘッド32を設置した例で説明するが、例えば複数色の印刷に対応するカラー印刷対応機の場合には、使用するインクの色分のインクジェットヘッド32を設置すれば良い。この場合、各色のインクジェットヘッド32は、副走査方向Yに所定の間隔をおいて配置されることになる。
【0030】
図3(b)に示すように、キャリッジ31が水平な状態において、上流側ローラ33がローラ35と同一の平面に接するように、ローラ33及び支持部材33aの寸法が定められている。
また、印刷媒体Pの形状に応じてキャリッジ31が滑らかに追従できるよう、上流側ローラ33とキャリッジ31側との重量バランスが図られている。
【0031】
排出部40は、印刷媒体Pの搬送方向の最下流側に位置し、印刷部30で印刷がなされた印刷媒体Pを排出ローラ対41で排出して排出台42に積層載置する。
【0032】
制御部50は、例えばCPU(Central Processing Unit )などのプロセッサで構成され、接続されるPC(personal computer )から送信される印刷ジョブを実行するべく、インクジェット印刷装置1の駆動に必要なコンピュータプログラムや各種アプリケーションソフトウェアを読み込んでプログラム処理することでインクジェット印刷装置1全体の制御処理及び各種処理を実行する中央処理装置である。
【0033】
<印刷部の揺動機能>
次に、印刷時における印刷部30の揺動機能について説明する。
本発明のインクジェット印刷装置1では、段ボールのように厚み差や印面に生じた歪みなどの凹凸がある印刷媒体Pに対して安定した印刷処理を施すことを目的としている。
そのため、印刷部30は、印刷媒体Pの印面形状に追従しながら一定のヘッドギャップを保持する構成として、支持機構34と、点接触ローラ35とを備えている。
【0034】
支持機構34は、印刷時にキャリッジ31が印刷媒体Pの印面形状に追従しながら印刷処理を行うため、主走査方向Xにある左右一対の揺動支点R、Fを中心にキャリッジ31を主走査方向Xや副走査方向Yへの揺動及び鉛直方向への上下動が可能なように支持する機構である。なお、本実施形態において、揺動支点Rは図3(a)における奥行き側にある支点であり、揺動支点Fは図3(a)における手前側にある支点である。
【0035】
つまり、キャリッジ31が副走査方向Yに揺動すると、図4(a)や(b)に示すように、揺動支点R又はFを中心にキャリッジ31の上流側端部(図中の左側端部)又は下流側端部(図中の右側端部)が印刷媒体Pの印面形状に追従して上下方向に移動する。
また、キャリッジ31が主走査方向Xに揺動すると、図5(a)や図5(b)に示すように揺動支点R又はFを中心にキャリッジ31の左側端部(図3(a)における奥行き側の側端部に相当)又は右側端部(図3(a)における手前側の側端部に相当)が印刷媒体Pの印面形状に追従して上下方向に移動する。
さらに、印刷媒体Pの印面形状によっては、図6に示すように、揺動支点R、Fを中心としてキャリッジ31が鉛直方向に沿って水平状態を保ちながら上下移動することも可能となる。
【0036】
本実施形態では、例えば図3(a)に示すように、キャリッジ31の上流側における側端部には、一方が副走査方向Yの上流側に延在して他方が鉛直方向に延在する上流側ローラ設置用のL字状部材33aが、左右一対で設けられている。一方、インクジェット印刷装置1の装置筐体1a内には、図示しない支持部材によって揺動支軸34bが主走査方向Xの両側にそれぞれ固定支持されている。そして、前記L字状部材33aに対して鉛直方向に延びる長孔34aを形成し、前記揺動支軸34bが各長孔34aに嵌合された構成としている。そして、図中の2つの揺動支軸34bが前述した揺動支点R,Fとして機能することになる。
【0037】
また、前述した支持機構34の構成において、揺動支軸34bは、図3(b)に示すように、揺動支軸34bと長孔34aの下端34aaとの距離Laを、揺動支軸34bと長孔34aの上端34abとの距離Lbよりも長めにして長孔34aの中心位置よりも上方に位置させるように設計するのが好ましい。これは、キャリッジ31が印刷媒体Pの印面形状にフレキシブルに追従するようにすること、点接触ローラ35が印刷媒体Pと接触することで形成したヘッドギャップが狭まることがないこと、が主な理由となる。
【0038】
また、揺動支軸34bの直径が長孔34aの副走査方向Yの幅寸法と略同一にすることで、搬送される印刷媒体Pの移動によってキャリッジ31が副走査方向Yにスライドしないような構造となっているため、印刷時においてキャリッジ31が揺動したとしても副走査方向Yにおけるインク着弾位置のズレを防止することができる。
【0039】
点接触ローラ35は、印刷時において、インクジェットヘッド32と印刷媒体Pとの間に適切なヘッドギャップを形成するためのローラであり、インクジェットヘッド32の近傍に、上流側ラインと下流側ラインに沿って、それぞれ複数設けられている。点接触ローラ35は、少なくとも印刷媒体Pがインクジェットヘッド32の下方を通過するまでの間は、常に何れかのローラが印刷媒体Pの印面と接触するため、インクジェットヘッド32と印刷媒体Pとの間の適切なヘッドギャップを保つことができる。また、印刷媒体Pがキャリッジ31に到達する前や通過した後では、点接触ローラ35が搬送部20のベルト搬送面と接触した状態となる。
【0040】
本実施形態では、各点接触ローラ35は、図7(a)に示すように千鳥配置されたヘッドブロック32aにおける主走査方向Yの両側に配置し、各ヘッドブロック32aと同じ上流側ラインと下流側ラインに沿って、それぞれ複数設けられている。なお、図7(b)に示すようにインクジェットヘッド32がライン形状に一本で構成される場合(ノズルは図示省略)は、インクジェットヘッド32の上流側ラインと下流側ラインに沿って所定の間隔を空けながらそれぞれ複数配置される。
【0041】
上記点接触ローラ35は、インク滴下直後のインクとの接触を極力無くして他部へのインク転写を防止するため、図7(a)や(b)に示すように、インクブロック32a又はインクジェットヘッド32の下流側に設置されるものが、印刷媒体Pと点接触となることが要求される。そのため、点接触ローラ35の構成としては、例えば拍車形状のホイール(スターホイール)を複数枚重ねてローラ状にしたもの、ローラ表面に微細粒子を設けたビーズコロや砂付ローラなどがあり、ローラ面に微細な凹凸を有するローラであるため、印面に対する接触面積を最小限に抑えるとともにローラ面に直接インクが転写することを防止している。なお、図7(a)の場合には各ヘッドブロック32aの近傍は全て点接触ローラ35となっているが、これに限定されることはない。例えば、図7(b)の場合は、インクジェットヘッド32の下流側のローラを点接触ローラ35とし、上流側のローラを円柱状のローラ36とした構成である。このような構成の場合は、少なくとも印刷後の印面と接触するインクジェットヘッド32の下流側のローラを点接触ローラ35とすれば、インクジェットヘッド32の上流側のローラは必ずしも点接触ローラ35としなくてもよい。
【0042】
以上のように、印刷部30において、キャリッジ31が印刷媒体Pの印面形状に追従するようにフレキシブルに主走査方向X及び副走査方向Yに揺動自在であり、また鉛直方向に上下動可能に支持される支持機構34を備えているため、印刷媒体Pに厚み差や歪みなどの凹凸がある場合であっても、印刷時ではキャリッジ31が印面形状に追従しながら印刷処理を行うことができる。
【0043】
<印刷時の動作>
次に、上述したインクジェット印刷装置1の印刷時における印刷部30のキャリッジ31の動作例について図1〜6を適宜参照しながら説明する。
なお、印刷媒体Pとしては、図2(a)、(b)に示すような厚み差や歪みによる凹凸がある段ボールを使用し、キャリッジ31の動作の方向は図3(b)の方向からみたときの動作とする。
【0044】
印刷処理が開始されると、給紙部10から給紙された印刷媒体Pは、搬送部20によって副走査方向Yに沿って搬送される。
【0045】
搬送された印刷媒体Pの先端部が印刷部30の下方に達すると、まず図4(b)に示すように、キャリッジ31の副走査方向Yにおける上流側が持ち上がった状態で徐々に傾きが大きくなる。これは、印刷媒体Pの厚さが徐々に厚くなっていくためである。そして、印刷媒体Pの先端部がインクジェットヘッド32の真下にきた時点で、図示しないノズルから下方に向けてインクの吐出動作が始まり、以降、印刷媒体Pがインクジェットヘッド32の下を通過するまでの間に、所定の印刷画像が印刷媒体Pの上面に形成される。そして、印刷媒体Pの先端部がインクジェットヘッド32の真下を通過すると、キャリッジ31の副走査方向Yにおける上流側が持ち上がった状態から傾きが徐々に小さくなっていく。
【0046】
次に、インクジェットヘッド32が印刷媒体Pの接着部分に到達し通過すると、点接触ローラ35が接着部分の段差を乗り超えるため、図4(a)に示すようにキャリッジ31の副走査方向Yにおける下流側が持ち上がった状態となる。
【0047】
また、これに伴い、図5(b)に示すようにキャリッジ31の主走査方向Xにおける奥行き側方向が持ち上がった状態となる。これは、印刷媒体Pである段ボールが図2(b)に示すように奥行き側に反りが生じているためである。
【0048】
その後、キャリッジ31は、図4(a)に示す状態で徐々に傾きが小さくなっていき、印刷媒体Pがインクジェットヘッド32の下方を完全に通過すると、図3(b)に示すようにキャリッジ31が水平状態(つまり、搬送部20のベルト搬送面と平行)となる。
【0049】
以上説明したように、本発明のインクジェット印刷装置1は、印刷部30のキャリッジ31が副走査方向Yについての位置が規制された状態で、主走査方向Xへの揺動動作、副走査方向Yへの揺動動作及び鉛直方向への上下動が可能なように支持する支持機構34によって支持されている。また、キャリッジ31に搭載されるインクジェットヘッド32と印刷媒体Pとの間に所定のヘッドギャップを形成する点接触ローラ35が設けられている。さらに、キャリッジ31は、当該キャリッジ31における副走査方向Yの上流側端部に設けられる左右一対のL字状部材33aに回転自在に軸支される上流側ローラ33を備えている。
【0050】
そのため、印刷媒体Pに厚み差や反りなどの歪みがある段ボールのような印刷媒体Pであっても、キャリッジ31が印刷媒体Pの印面形状に追従するように所定方向に揺動して点接触ローラ35が印面から離間しないように常に接触した状態を維持することができるため、キャリッジ31のバウンドが防止され、さらに、印刷媒体Pを上流側ローラ33の重みで抑えつつ安定して搬送することができる。
【0051】
さらに、点接触ローラ35により印刷直後に接触するときでも印面とローラ面との接触面積を最小限に止めることができるため、インクが他部に再転写することを防止する効果を奏する。
【0052】
[その他の実施形態について]
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下に示すように使用環境等に応じて適宜変更して実施することもできる。また、以下の変更例を本発明の要旨を逸脱しない範囲の中で任意に組み合わせて実施することもできる。
【0053】
上述した形態では、直方体形状のキャリッジ31にインクジェットヘッド32が搭載され、このキャリッジ31自体が支持機構34によって揺動自在であるがヘッド搭載面は変形しない構成で説明したが、これに限定されることはない。
【0054】
例えば、図8(a)に示すように、キャリッジ31の材質を弾性変形可能な材料(ステンレス製の板バネなど)で形成することで、図8(b)に示すようにキャリッジ31自体が印刷媒体Pの印面形状に追従して主走査方向Xに湾曲することができる。なお、図例ではヘッドブロック32aが6個の例である。このような構成とした場合、印刷媒体Pの印面形状が主走査方向Xに反り上がったような段ボールであっても、上述した形態に比べてより柔軟に対応することができるようになる。また、インクジェットヘッド32が複数のヘッドブロック32aで構成されている場合は、キャリッジ31のヘッドブロック32a同士の境目に副走査方向Yに沿った折り目を形成しておくことで、よりフレキシブルに主走査方向Xに湾曲することができる。
【0055】
また、上流側ローラ33の構成として、剛性を有する芯ローラの少なくとも一部にスポンジやゴムなどの変形可能な柔軟材料を被覆したものを採用してもよい。このような構成のローラを上流側ローラ33として採用することで、ローラ面が印刷媒体Pの印面形状に合わせて自由に変形し、結果として上流側ローラ33を固定するキャリッジ31が印刷媒体Pの印面形状により追従しやすくなるという効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…インクジェット印刷装置(1a…筐体)
10…給紙部
20…搬送部
30…印刷部
31…キャリッジ
32…インクジェットヘッド
33…上流側ローラ(33a…L字状部材(支持部材))
34…支持機構(34a…長孔、34b…揺動支軸)
35…点接触ローラ
36…円柱状のローラ
40…排出部
50…制御部
P…印刷媒体
R,F…揺動支点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8