(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486746
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】薄肉部品の製造方法及び切削装置
(51)【国際特許分類】
B23B 11/00 20060101AFI20190311BHJP
B23B 41/00 20060101ALI20190311BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
B23B11/00
B23B41/00 K
B23B51/00 K
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-65891(P2015-65891)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185571(P2016-185571A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2017年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126583
【弁理士】
【氏名又は名称】宮島 明
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 仁志
【審査官】
津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−111806(JP,A)
【文献】
特開2003−103402(JP,A)
【文献】
特開平07−299624(JP,A)
【文献】
特開昭63−089201(JP,A)
【文献】
特開平02−243202(JP,A)
【文献】
米国特許第8701530(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 11/00
B23B 41/00
B23B 51/00
B23B 35/00
B23B 5/26
B23B 5/08
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャックに被削材を固定する被削材固定工程と、
前記被削材の送り方向に穴あけ加工を施すドリルと、前記被削材の外表面に突き当て外径加工を施す外径切削バイトとを、前記被削材に対して位置合わせする位置合わせ工程と、
前記被削材を回転させ、前記ドリルと前記外径切削バイトとを前記被削材に同時に当てることによって同時切削を行う同時切削工程と、を有する薄肉部品の製造方法において、
前記ドリルはマージンを備え、
前記位置合わせ工程にて、前記マージンと前記外径切削バイトの刃先が、前記被削材の回転軸の同一垂線上で前記被削材を挟み、前記被削材の回転方向において、前記ドリルの刃の端部よりも後ろに前記外径切削バイトの刃先が配置されるような位置関係とし、
前記同時切削工程にて、前記位置関係を保持しながら同時切削を行うこと、
を特徴とする薄肉部品の製造方法。
【請求項2】
前記同時切削工程にて、前記ドリル及び前記外径切削バイトの少なくともいずれかを定められた方向へ振動させながら、同時切削を行うこと、
を特徴とする請求項1記載の薄肉部品の製造方法。
【請求項3】
前記同時切削工程にて、前記外径切削バイトを、前記被削材の回転軸と垂直な方向へ振動させながら、同時切削を行うこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の薄肉部品の製造方法。
【請求項4】
前記同時切削工程にて、前記ドリル及び前記外径切削バイトの少なくともいずれかを、前記被削材の回転軸の方向へ振動させながら、同時切削を行うこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の薄肉部品の製造方法。
【請求項5】
被削材を固定するチャックと、マージンを備え、前記被削材の送り方向に穴あけ加工を施すドリルと、前記被削材の外表面に突き当て外径加工を施す外径切削バイトと、を有し、
前記マージンと前記外径切削バイトの刃先が、前記被削材の回転軸の同一垂線上で前記被削材を挟み、前記被削材の回転方向において、前記ドリルの刃の端部よりも後ろに前記外径切削バイトの刃先が配置されるような位置関係であり、
前記位置関係を保持しながら、前記被削材を回転させ、前記被削材に対して、前記ドリルによる穴あけ加工と前記外径切削バイトによる外形加工とを同時に行うこと、
を特徴とする切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルと外径切削バイトを用いて被削材を同時切削することによる薄肉部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被削材の切削加工における加工時間の短縮のために、ドリルによる内径切削とバイトによる外径切削を同時に行う同時切削が検討されてきた。
【0003】
特許文献1には、主軸または回転工具軸のいずれか一方の回転に対して、他方を指定回転差で回転することで内径と外径をそれぞれ最適な条件で同時に切削を行う方法であり、外径形状に合わせて切削条件や切削位置を変えながら内径と外径の同時切削を行う方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、内径と外径の同時切削方法であり、外径切削バイトをドリルよりも後退した位置に固定し、切削中のワークの振動を外径切削バイトによって規制している方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−250701(2−4頁、第1図)
【特許文献2】特開平2−243202(3−5頁、第13図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の同時加工方法では、外径切削位置がドリル加工の切削位置よりも前で切削した場合、ドリルによる穴加工により製品のフクレが発生し、寸法精度が悪化する問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の外径切削位置がドリル加工位置より後方の場合、すでに穴が開いた状態に外側から応力が加わるため製品に歪みが発生する問題があった。
【0008】
本発明は、従来の技術の有するこれらの問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外表面に歪みやフクレのない薄肉部品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、チャックに被削材を固定する被削材固定工程と、被削材の送り方向に穴あけ加工を施すドリルと、被削材の外表面に突き当て外径加工を施す外径切削バイトとを、被削材に対して位置合わせする位置合わせ工程と、被削材を回転させ、ドリルと外径切削バイトとを被削材に同時に当てることによって同時切削を行う同時切削工程と、を有する薄肉部品の製造方法において、ドリルはマージンを備え、位置合わせ工程にて、マージンと外径切削バイトの刃先が、被削材の回転軸の同一垂線上で被削材を挟
み、被削材の回転方向において、ドリルの刃の端部よりも後ろに外径切削バイトの刃先が配置されるような位置関係とし、同時切削工程にて、位置関係を保持しながら同時切削を行うこと、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドリルのマージンと外径切削バイトの刃先が被削材の回転軸の垂線上
に位置するためドリル加工によって生じるフクレが除去できる。また、被削材の回転軸の同一垂線上において、被削材をドリルのマージンと外径切削バイトで挟み込む形であることで片側に応力が偏ることがないため、歪みが発生しない。
これにより、加工の時間短縮に加え、歪みを発生させることなくフクレが除去された寸法精度の高い薄肉部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の位置合わせ工程におけるドリルの先端視図である。
【
図3】本発明による製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の同時切削工程における、加工時の状態を示す
図1のA−A断面の概略部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して切削装置17の構成を説明する。切削装置17は、ベッド1の左側に設けられた主軸台2に主軸4を有し、さらに、主軸モーター3の回転する動力を伝えるために主軸4の先端に取り付けられたチャック5を有している。そして、被削材Wは、チャック5により挟まれて固定されるようになっている。
【0013】
また、切削装置17は、中台(図示せず)を介してNC制御装置(図示せず)のNC制御により
図1に示すX軸、Z軸へ移動可能な内径工具台6をベッド1上に有している。内径工具台6にスリーブ7を介してドリル8が着脱可能に取り付けられている。ここでいうZ軸は被削材の回転軸の方向とし、X軸は
図1において紙面上にてZ軸と直交する方向とする。
【0014】
また、ベッド1上には、中台を介してNC制御装置によるNC制御によりX軸、Z軸へ移動可能な刃物台9を備えられている。刃物台9にはバイトホルダー10が取り付けられ、その先端に着脱可能な外径切削バイト11を備えている。
【0015】
ここで、
図2を用いてドリルについて更に説明する。
図2は、
図1のZ軸方向から見たドリル8の先端視図である。ドリル8は、刃14の端部14aより連続して被削材の回転方向Tへ延び、被削材Wの内壁面に沿って位置するドリルの外面部15より突出して被削材Wの内壁面と接するマージン12を備えている。マージン12が切削時にドリル8のガイドの役割をすることで、ドリル8の不安定な振動を抑え、より精密な加工を行うことができる。さらに、マージン12は本発明において被削材の歪みを防ぐために用いるが、これに関しては後述する。
【0016】
次に、
図3のフローチャートを用いて各工程にて
図1、
図2、
図4を参照しながら薄肉部品の製造方法を説明する。
まず、工程S1にて、
図1に示すように円筒形の被削材Wを、切削中にぶれたり、外れたりしないようチャック5に把持する。
【0017】
次に、工程S2にて、工具の位置合わせを行う。初めに、ドリル8の先端を被削材Wの端面の回転中心に当接させ、ドリル8のX座標およびZ座標の初期値を設定する。次に、先端視においてマージン12が外径切削バイト11の刃先13の方向を向くように、ドリル8を固定する。次に、外径切削バイト11の刃先13をドリル8のマージン12に当接させ外径切削バイト11のX座標およびZ座標の初期値を設定する。最後に、製品の目的の肉厚寸法値になるよう外径切削バイト11をドリル8から離間して位置合わせを完了するが、このとき、
図2に示すように、マージン12と外径切削バイト11の刃先13は、被削材Wの回転軸Sの同一垂線P上に位置する。
【0018】
また、他の工具の位置合わせを行う方法として、まず、上記の位置合わせの方法と同様に、ドリル8の先端を被削材Wの端面の回転中心に当接させ、ドリル8のX座標およびZ座標の初期値を設定した後に、先端視においてマージン12が外径切削バイト11の刃先13の方向を向くように、ドリル8を固定する。このとき、予め測定しておいたドリルの寸法を元に、マージン12のX座標、Z座標も決定しておく。これを元に、外径切削バイト11の刃先13のX座標を、マージン12のX座標に製品の目的の肉厚寸法を加えて決定する。また、外径切削バイト11の刃先13のZ軸座標は、マージン12のZ座標と等しい。そして、決定した外径切削バイト11の刃先13のX座標、Z座標の地点へ外径切削バイト11の刃先13が来るように外径切削バイト11を移動する。このとき、上記位置合わせの方法と同様に、マージン12と外径切削バイト11の刃先13は、被削材Wの回転軸Sの同一垂線P上に位置する。
【0019】
次に、工程S3にて、被削材Wを任意の回転数で回転させ、ドリル8のマージン12と外径切削バイト11の刃先13とを被削材Wの回転軸Sの同一垂線P上にあるという位置関係を保持した状態で、ドリル8と外径切削バイト11を同じ送り速度で移動させて同時切削を開始する。このとき、被削材Wが歪まずフクレも除去される理由を、
図4を用いて説明する。
【0020】
ドリル8の刃14で被削材Wを切削するとその切削応力によって、被削材Wの外表面W1で刃14の端部14aと対向する領域にフクレ16が生じる。しかし、このフクレ16は、回転方向Tにおいて、ドリル8の刃14の端部14aよりも後ろに外径切削バイト11の刃先13があるため、外径切削バイト11による外径切削加工と同時に除去される。
また、被削材Wの内壁面W2に接するマージン12と外径切削バイト11をこのような位置関係とすることで、外径切削バイト11からの応力である作用F1が、ドリル8のマージン12の反作用F2によって打ち消される。これによって、被削材Wの歪みを防ぐことができる。
【0021】
なお、マージン12と外径切削バイト11の刃先13が、被削材Wの回転軸Sの同一垂線P上に位置するような位置関係を維持する限りにおいて、外径切削バイト11とドリル8の相対位置は変化してもよい。
【0022】
この場合、例えば、マージン12と外径切削バイト11の刃先13が、被削材Wの回転軸Sの同一垂線P上にあるならば、外径切削バイト11をNC制御にてX軸方向へ任意の周波数にて振動を付与させながら切削してもよい。
【0023】
また、マージン12と外径切削バイト11の刃先13が、被削材Wの回転軸Sの同一垂線P上にあるならば同じ送り速度でなくてもよく、NC制御にてドリル8又は外径切削バイト11あるいはその両方をZ軸方向へ任意の周波数にて振動を付与させながら切削してもよい。
【0024】
このように、X軸又はZ軸方向へドリル8又は外径切削バイト11を任意の振動数で振動させながら切削をすることで、切削が断続的に進行し切粉の分断が可能となる。これにより、長く連続した切粉により、薄肉部品を傷つけるリスクを抑制することができ、品質の低下を防ぐことができる。
【0025】
最後に、切削工程が完了したら、工程S4にて切削を終了する。その際、必要に応じて被削材を図示しない突っ切りバイトで切断する。
【0026】
なお、本実施形態の製造方法では、回転させた被削材にドリル及び外径切削バイトを当
てて切削を行っているが、これに限らず、例えば、被削材を固定し、ドリルのマージンと外径切削バイトの刃先がドリルの回転軸の同一垂線上になるように回転させて切削を行ってもよい。
また、同時切削工程では、製造する部品の形状に応じて、一製品の加工工程において同時に切削しない加工領域を備えるように加工してもよいし、ドリルのマージンと外径切削バイトの刃先が被削材の回転軸の同一垂線上にない加工領域を備えるように加工してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 ベッド
2 主軸台
3 主軸モーター
4 主軸
5 チャック
6 内径工具台
7 スリーブ
8 ドリル
9 刃物台
10 バイトホルダー
11 外径切削バイト
12 マージン
13 刃先
14 刃
14a 刃の端部
15 ドリルの外面部
16 フクレ
17 切削装置
W 被削材
S 回転軸
P 同一垂線