(54)【発明の名称】被処理水の膜閉塞性評価方法、その膜閉塞性評価方法に用いる膜ろ過装置、およびその膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標値を決定した被処理水の膜ろ過方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被処理水に含まれるナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定が、ナノ粒子追跡解析法(NTA)、レーザー誘起破壊検知法(LIDB)および電気抵抗ナノパルス法(TRPS)から選択される方法により行われることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の被処理水の膜閉塞性評価方法。
【背景技術】
【0002】
限外ろ過膜や精密ろ過膜を用いた膜ろ過装置は、圧力容器内に分離膜を配設してこの分離膜で容器内を原水側と透過水側(ろ過水側)に仕切り、原水側に原水をポンプで加圧導入するとともに、膜ろ過により透過水側から透過水を得るものである。
【0003】
原水として河川水や地下水を使用する場合、クリプトスポリジウムなどの病原性微生物の問題があることから、これら河川水、地下水を原水とした浄水処理への膜ろ過装置の適用が進んでいる。
【0004】
しかしながら、このような膜ろ過装置では、分離膜の原水側膜面や膜細孔内に原水中に含まれる成分の付着や析出が生じて分離膜が汚染し、ろ過性能が次第に低下する。
【0005】
浄水処理において膜汚染を生じさせる物質は、有機物、鉄、マンガン、アルミニウム、シリカなどであると言われており、現状、膜透過流束等の運転条件を選定する際には、原水中のこれらの濃度を測定し、その結果と今までの実績などから経験的に決定することが多い。
【0006】
膜汚染の原因物質として、有機物は最も重要な膜汚染原因物質である。この水質指標としては全有機炭素(TOC)が使用されるが、TOCの値が同じ原水でも膜のろ過抵抗の上昇速度が異なる場合はたびたび見受けられ、実際の運転と設計時の予想が大きく違ったため薬品洗浄の頻度が増えたりするなどのトラブルは少なくない。
【0007】
また、運転管理においても同様であり、TOC濃度に変化が無いのに膜汚染が急激に進行する場合もある。この原因としては、膜汚染を引き起こす原因有機物がTOC成分の極々一部であり、その濃度も非常に低いため、その変化がTOCを測定しても検出できないことにある。
【0008】
TOC等の個々の水質ではなくオーバーオールな分離膜供給水の膜閉塞性を評価する手法として、JIS K3802に定義されているファウリングインデックス(FI値)などがあるが、これら従来の指標は、基本的に逆浸透膜装置への供給水の評価を想定した指標であり、数度の濁度がある水道原水では同じFI値となり評価できない。
【0009】
そこで、本発明者は、従来、鋭意研究を重ね、非特許文献1〜4に記載する水道原水などの膜供給水中の膜閉塞有機物質に関する新しい指標である“ファウリングポテンシャル(Fouling Potential:FP)”を開発していた。
【0010】
非特許文献1によれば、FPとは、試料水を予め0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、濁度成分を除去した後に所定の膜ろ過試験を行い、当該膜ろ過試験において所定の膜差圧上昇が生じた後、膜のスポンジ洗浄とシュウ酸洗浄を行い、これらの洗浄操作で回復しなかった膜差圧(m−Aq at 25℃)の増分を測定し、それを単位膜面積当たりのろ過水量(m
3/m
2)で除した値として定義される。
【0011】
本指標は、水道原水やその前処理を行った膜供給水中の膜閉塞有機物、すなわち、多糖類の存在量や分子量に関する有益な情報を与える指標である。
【0012】
FP測定に必要な試料量は500〜1,000mL程度であり、浄水処理で凝集剤注入率選択のために一般的に行われるジャーテストに必要な試料量とほぼ同じである事から、ジャーテストを行った後に引き続いてFPを測定する事で、凝集処理による膜閉塞物質量の減少量を定量的に把握する事が可能となる、非常に有効な指標の一つである。
【0013】
また、FP等の膜供給水中の膜閉塞物質に関する指標とは異なるものの、膜供給水の膜汚染性を低下させる目的で、原水の膜への供給の前処理としての凝集処理が行われており、この凝集処理の凝集条件(具体的には、凝集剤種類、凝集剤注入率、凝集pH、撹拌条件等)の選定を行うためにゼータ電位を利用することが特許文献1に提案されている。
【0014】
具体的には、特許文献1には、原水を凝集処理した後に多孔質膜でろ過処理する水処理方法において、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過を行うにあたり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位を求め、このゼータ電位が負荷電となるように凝集処理条件を制御することを開示する。
【0015】
特許文献1の水処理方法によれば、ゼータ電位が負荷電に保たれた凝集フロックの、表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜への静電的相互作用により当該多孔質ろ過膜への凝集フロックの付着が抑制されてそのファウリングが抑制され、膜モジュールを安定的に長期間運転することができるようになる。
【0016】
なお、特許文献1の凝集フロックは、電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)などにより測定可能な、後述する非特許文献7でいうマイクロフロックおよび同じく非特許文献7でいう直径数mm程度に集塊化したフロックであると考えられる。
【0017】
さらに、非特許文献5には、凝集処理における粒子(フロックを含む)のゼータ電位を測定することが膜汚染制御に有用であると報告されており、それによると、0.5μm未満の粒子と1μmより大きい粒子のゼータ電位は異なり、0.5μm未満の粒子のゼータ電位を評価する事が膜汚染制御に有効であり、1μmより大きい粒子の評価をしても意味はないと報告されている。
【0018】
また、非特許文献6においても、凝集膜ろ過において0.1μmのMF膜を用いる場合、膜孔径に近い0.05〜0.2μmの凝集剤由来のアルミニウム粒子が膜汚染の原因になっている事が報告されている。そのうえで、凝集処理における膜汚染制御を行う場合、従来のような膜供給水全体の評価や凝集フロックのような粗大粒子の評価及び運転制御は意味がなく、0.5μm未満のコロイド粒子の評価と制御が重要である事が報告されている。
【0019】
なお、非特許文献5においては、0.5μm未満の凝集粒子をナノフロック、1μmより大きい粒子をマイクロフロックと呼んでいるが、かかるナノフロック及びマイクロフロックの定義は一般的ではない。例えば、非特許文献6においては、0.4μm以下の凝集粒子をナノ粒子と称している。
【0020】
水処理分野においては、凝集反応後に10μm程度まで成長した微小フロックのことを“マイクロフロック”と言い、単に“フロック”言った場合には、マイクロフロックがさらに集塊化し、数mmになったものを指す(非特許文献7)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上述のFP(ファウリングポテンシャル)に代表される膜ろ過法を用いる膜供給水中の膜閉塞有機物質に関する指標値の測定は、機器も安価で測定も容易であるという利点がある。しかしながら、凝集前処理条件の選定に代表される多検体試料のリアルタイムの評価が求められる場面や浄水処理の現場における連続モニタリングが必要な場面では、一検体の測定時間として1〜3時間程度必要である事から測定時間が長時間に及ぶこととなり、機器台数が増える事による操作性に関する工夫が必要になるなどの課題もある。
【0024】
また、特許文献1に係る水処理方法によれば、凝集フロックのゼータ電位を負荷電にすることで、表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜への凝集フロックへの付着を抑制することができる。しかしながら、測定されている凝集フロックのゼータ電位は凝集反応後に10μm程度まで成長したマイクロフロックや当該マイクロフロック同士が結合して直径数mmの大型の粒子塊となったフロックのゼータ電位であって、非特許文献5および6に示すような、膜汚染制御の重要なファクターである500nm未満の、あるいは400nm以下の直径を有する凝集粒子(ナノ粒子)についてのゼータ電位を測定することは何ら開示されていない。なお、発明者の試験によれば、特許文献1の分析機器では0.45μm以下のナノ粒子についてのゼータ電位を測定することはできなかった。
【0025】
そのうえ、マイクロフロックやフロックのゼータ電位を測定し、これを負荷電に制御することで凝集フロックの膜付着は抑制されるものの、凝集フロックのゼータ電位を単に測定することのみによっては、被処理水がどのくらい膜を閉塞させる潜在力を有しているかを決定することはできない。このことは、非特許文献5〜6にも当てはまる。
【0026】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、膜処理に供される被処理水の膜閉塞性評価指標値を迅速に決定することができる被処理水の膜汚染性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、分離膜を用いて処理される被処理水の膜閉塞性評価方法であって、被処理水に含まれるナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位
とを測定し、予め求めた、ナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との
相関関係を示す
濃度回帰曲線、並びにナノ粒子のゼータ電位と膜
閉塞性評価指標との
相関関係
を示すゼータ電位回帰曲線に基づいて、前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値が、前記ゼータ電位回帰曲線の非相関領域(NznCR)の場合は、前記濃度回帰曲線を選択して前記ナノ粒子濃度測定値による膜閉塞性評価指標の値を決定し、前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値が、前記ゼータ電位回帰曲線の準相関領域(NzsCR)又は相関領域(NzCR)の場合は、前記濃度回帰曲線又は前記ゼータ電位回帰曲線を選択して膜閉塞性評価指標の値を決定することを特徴とする。
【0028】
請求項2に記載の発明は、前記請求項1記載の被処理水の膜閉塞性評価方法において、前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値が、前記ゼータ電位回帰曲線の準相関領域(NzsCR)の場合は、ナノ粒子のゼータ電位の測定値及びナノ粒子濃度測定値からそれぞれの回帰曲線へと垂線を引いた場合に測定値と回帰曲線との距離が短くなる方の回帰曲線を選択し、該膜閉塞性評価指標の値を決定することを特徴とする。
【0029】
請求項3に記載の発明は、分離膜を用いて処理される被処理水の膜閉塞性評価方法であって、被処理水に含まれるナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位を測定し、予め求めた、ナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係並びにナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係から、前記ナノ粒子濃度の測定値と前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値のうちいずれか一つを選択し、前記被処理水のナノ粒子のゼータ電位が−20mV超−15mV以下となる領域には前記ナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係が相関的となり始めるゼータ電位準相関領域が存在し、前記被処理水のナノ粒子のゼータ電位が−15mV超となる領域には前記ナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係が相関的であるゼータ電位相関領域が存在しており、前記測定された被処理水のナノ粒子のゼータ電位が前記ゼータ電位相関領域にある場合には、前記測定値のうちナノ粒子のゼータ電位の測定値が選択され、該選択された測定値と前記関係とに基づいて前記被処理水の膜閉塞性評価指標の値を決定することを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、被処理水のナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位を測定した後、予め求めていたナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係並びにナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係から測定していたナノ粒子濃度とナノ粒子濃度のゼータ電位とのどちらを用いるかが選択され、選択された測定値と上記関係とから被処理水の膜閉塞性評価指標の値が決定される。
【0031】
したがって、迅速に測定可能なナノ粒子濃度およびゼータ電位を測定することで、予め求めていた関係式から被処理水の膜閉塞評価指標の値を迅速に決定することができる。
【0032】
また、従来、被処理水の凝集処理を伴う膜ろ過処理においてナノ粒子のゼータ電位の測定が有用であることが示されていたにとどまり、ナノ粒子のゼータ電位の測定によっては被処理水の膜閉塞性については把握することができなかったところ、上述のとおり測定されたナノ粒子のゼータ電位から被処理水の膜閉塞性評価指標値を決定することで、被処理水がどのくらい膜を閉塞させる潜在力を有しているかを決定することができる。
【0033】
そのうえ、ナノ粒子についてゼータ電位だけでなく粒子濃度も活用することで、両者の測定値のうち膜閉塞性評価指標との相関が高い測定値を選択することが可能となり、より精度高く膜閉塞評価指標の値を決定することが可能となる。さらに、被処理水のナノ粒子のゼータ電位の測定値がゼータ電位準相関領域の範囲を上回るゼータ電位相関領域にある場合にはゼータ電位の測定値を用いて膜閉塞性評価指標の値が決定されることから、より精度高く膜閉塞性評価指標の値を迅速に決定することができる。
【0034】
請求項
4に記載の発明は、請求項
1〜3の何れか1項に記載の被処理水の膜閉塞性評価方法において、前記被処理水のうち、少なくとも前記ナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定に供される部分に含まれる粒子の大きさが450nm以下であることを特徴とする。
【0035】
この構成によれば、ナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位の測定に供される部分の被処理水1に含まれる粒子の大きさが450nm以下となるから、ナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位の測定に際して妨害因子となる0.45μm以上の粒子の存在が排除されて測定の精度が向上し、したがって、決定される膜閉塞性評価指標値の精度をさらに向上させることができる。
【0036】
請求項
5に記載の発明は、請求項1〜
4の何れか1項に記載の被処理水の膜閉塞性評価方法において、前記被処理水に含まれるナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定が、ナノ粒子追跡解析法(NTA)、レーザー誘起破壊検知法(LIDB)および電気抵抗ナノパルス法(TRPS)から選択される方法により行われることを特徴とする。
【0037】
この構成によれば、被処理水1中のナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定が、1〜3時間の時間を要するFP等の膜閉塞性評価指標値の測定よりも迅速なナノ粒子追跡解析法(NTA)、レーザー誘起破壊検知法(LIDB)および電気抵抗ナノパルス法(TRPS)から選択される方法により行われ、この測定値から上記関係式に当てはめることで迅速に膜閉塞性評価指標値を決定することができる。
【0038】
請求項
6に記載の発明は、請求項
5に記載の被処理水の膜閉塞性評価方法において、前記被処理水に含まれるナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定が、ナノ粒子追跡解析法(NTA)により行われ、該ナノ粒子追跡解析法(NTA)において用いるレーザーの波長が、400nm以上500nm以下の範囲から選択されることを特徴とする。
【0039】
この構成によれば、ナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定が、ナノ粒子追跡解析法(NTA)により行われ、且つ、用いるレーザーの波長が、400nm以上500nm以下の範囲から選択されることから、被処理水に含まれるナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位を的確に測定することができる。
【0042】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の被処理水の膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標の値を決定した被処理水の膜ろ過方法であって、該被処理水のナノ粒子のゼータ電位が−15mV超となるか、あるいは該被処理水のナノ粒子濃度が50×10
6個/mL以下となるように前処理を行うことを特徴とする。
【0043】
この構成によれば、被処理水のナノ粒子のゼータ電位が−15mV超となる範囲はゼータ電位相関領域にあり、且つ、膜閉塞性評価指標の値が安定的に小さい値に維持される領域であることから、前処理の効果を増大させ、分離膜の閉塞リスクを低減させることができる。
【0044】
また、被処理水のナノ粒子濃度が50×10
6個/mL以下となる範囲はナノ粒子濃度と膜閉塞性指標との相関があり、且つ、膜閉塞性評価指標の値が安定的に小さい値に維持される領域であることから、前処理の効果を増大させ、分離膜の閉塞リスクを低減させることができる。
【0045】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の被処理水の膜ろ過方法において、前記前処理が、被処理水に凝集剤を添加して行う凝集処理であり、前記ナノ粒子のゼータ電位が−10mV超+5mV以下となるように前記凝集処理の凝集条件を制御することを特徴とする。
【0046】
この構成によれば、凝集処理の際にナノ粒子のゼータ電位が−10mV超+5mV以下の範囲となるように凝集処理の処理条件を制御することで、前処理の効果がさらに増大され、分離膜の閉塞のリスクをさらに低減させることができる。
【0047】
請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の被処理水の膜ろ過方法において、前記前処理が、被処理水に凝集剤を添加して行う凝集処理であり、前記ナノ粒子濃度が10×10
6個/mL以下の範囲となるように前記凝集処理の凝集条件を制御することを特徴とする。
【0048】
この構成によれば、凝集処理の際にナノ粒子濃度が10×10
6個/mL以下の範囲となるように凝集処理の処理条件を制御することで、前処理の効果がさらに増大され、分離膜の閉塞のリスクをさらに低減させることができる。
【0049】
請求項10に記載の発明は、ろ過対象水となる被処理水の流路に設けられて該被処理水を導入してろ過する分離膜を有する被処理水の膜ろ過装置において、前記分離膜よりも前記流路の上流において前記被処理水に含まれるナノ粒子濃度とナノ粒子濃度のゼータ電位を測定
し、前記ナノ粒子濃度の測定値と前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値を得るナノ粒子測定手段と、予め求めた、ナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との
相関関係
を示すゼータ電位回帰曲線、並びにナノ粒子のゼータ電位と膜
閉塞性評価指標との
相関関係
を示すゼータ電位回帰曲線を記憶する回帰曲線記憶手段と、前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値が、前記ゼータ電位回帰曲線の非相関領域(NznCR)の場合は、前記濃度回帰曲線を選択し、前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値が、前記ゼータ電位回帰曲線のゼータ電位回帰曲線の準相関領域(NzsCR)の場合は、ナノ粒子のゼータ電位の測定値及びナノ粒子濃度測定値からそれぞれの回帰曲線へと垂線を引いた場合に測定値と回帰曲線との距離が短くなる方の回帰曲線を選択し、前記ナノ粒子のゼータ電位の測定値が、前記ゼータ電位回帰曲線の相関領域(NzCR)の場合は、前記ゼータ電位回帰曲線を選択して、前記選択された回帰曲線に基づいて前記測定値から膜閉塞性評価指標の値を決定する制御手段と、を有することを特徴とする。
【0050】
この構成によれば、予め求めていたナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係並びにナノ粒子のゼータ電位と膜汚染性評価指標との関係から、膜閉塞性評価指標値決定手段により、ナノ粒子測定手段により測定されたナノ粒子濃度とナノ粒子濃度のゼータ電位のうちどちらを用いるかが選択され、選択された測定値と上記関係とから被処理水の膜閉塞性評価指標の値が決定される。
【0051】
したがって、迅速に測定可能なナノ粒子濃度およびゼータ電位を測定することで、予め求めていた関係式から被処理水の膜閉塞評価指標の値を迅速に決定することができる。
【0052】
また、従来、被処理水の凝集処理を伴う膜ろ過処理においてナノ粒子のゼータ電位の測定が有用であることが示されていたにとどまり、ナノ粒子のゼータ電位の測定によっては被処理水の膜閉塞性については把握することができなかったところ、上述のとおり測定されたナノ粒子のゼータ電位から被処理水の膜閉塞性評価指標値を決定することで、被処理水がどのくらい膜を閉塞させる潜在力を有しているかを決定することはできる。
【0053】
そのうえ、ナノ粒子についてゼータ電位だけでなく粒子濃度も活用することで、両者の測定値のうち膜閉塞性評価指標との相関が高い測定値を選択することが可能となり、より精度高く膜閉塞評価指標の値を決定することが可能となる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、被処理水のナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位を測定した後、予め求めていたナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係並びにナノ粒子のゼータ電位と膜汚染性評価指標との関係から測定していたナノ粒子濃度とナノ粒子濃度のゼータ電位とのどちらを用いるかが選択され、選択された測定値と上記関係とから被処理水の膜閉塞性評価指標の値が決定される。
【0055】
したがって、迅速に測定可能なナノ粒子濃度およびゼータ電位を測定することで、予め求めていた関係式から被処理水の膜閉塞評価指標の値を迅速に決定することができる。
【0056】
また、従来、被処理水の凝集処理を伴う膜ろ過処理においてナノ粒子のゼータ電位の測定が有用であることが示されていたにとどまり、ナノ粒子のゼータ電位の測定によっては被処理水の膜閉塞性については把握することができなかったところ、上述のとおり測定されたナノ粒子のゼータ電位から被処理水の膜閉塞性評価指標値を決定することで、被処理水がどのくらい膜を閉塞させる潜在力を有しているかを決定することはできる。
【0057】
そのうえ、ナノ粒子についてゼータ電位だけでなく粒子濃度も活用することで、両者の測定値のうち膜閉塞性評価指標との相関が高い測定値を選択することが可能となり、より精度高く膜閉塞評価指標の値を決定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて詳細に説明する。被処理水の膜閉塞性評価方法を、
図1〜
図3を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る被処理水の膜閉塞性評価方法に用いられる膜ろ過装置50を示す模式図、
図2(A)はナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標の関係を示す関係式(回帰曲線)を示す図、同図(B)はナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標の関係を示す関係式(回帰曲線)を示す図、および
図3はナノ粒子測定装置55の制御部58による被処理水の膜閉塞評価指標の値の決定の制御を説明するためのフローチャートである。
【0060】
<膜ろ過装置>
図1に示すように、膜ろ過装置50は、被処理水1が流入する圧力容器52および圧力容器52に配設される分離膜56を有する。圧力容器52よりも上流側に被処理水1を圧力容器内に加圧注入する送液ポンプ60が設けられており、送液ポンプ60を作動させることで圧力容器52内の被処理水1が分離膜56によりろ過される。分離膜59によってろ過されたろ液2は、そのまま下流に送液され、さらなる処理に付されてもよい。したがって、被処理水1の流路3は、
図1に示す破線矢印にて概念的に示される。
【0061】
被処理水1は、分離膜59を用いて処理する水であれば特に限定されない。具体的には、河川水や地下水等の水道原水、海水、生物処理水が挙げられる。また、被処理水1は、水道原水に凝集剤が添加されたものであってもよい。
【0062】
分離膜59としては、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)などが挙げられる。
【0063】
流路3は、分離膜59の上流で分岐してナノ粒子測定装置55を経由して再び流路3に合流するバイパス経路4を有している。なお、バイパス経路4は必須の構成ではなく、ナノ粒子測定装置55が流路3から被処理水1をサンプリング可能なサンプリング手段を有するものであってもよい。
【0064】
本実施の形態において、ナノ粒子測定装置55は、バイパス経路4を流れてきた被処理水1のナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位を測定可能なナノ粒子等測定部56と、ナノ粒子等測定部56で測定されたナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位の測定値から被処理水1の膜閉塞性評価指標の値を決定する制御を担う制御部58を有する。なお、制御部58がナノ粒子測定装置55内に配置されることは必須ではなく、別体として設けられていてもよい。
【0065】
ナノ粒子測定装置55は、100nm以下のナノ粒子が評価できる測定装置であれば、何ら分析原理や測定条件に限定されるものではないが、例えば、ナノ粒子追跡解析法(NTA)、レーザー誘起破壊検知法(LIDB)および電気抵抗ナノパルス法(TRPS)から選択される方法により被処理水1中のナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位を測定可能な装置を用いることができる。
【0066】
ナノ粒子追跡解析法(NTA)は、ナノ粒子トラッキング解析法ともいい、粒子のブラウン運動の速度が粒子径に依存することを利用し、NTA(Nano Tracking Analysis)技術により、粒子のブラウン運動パターンを計測することで、粒子径と個数の粒度分布グラフを得る方法である。例えば、特表2014−521967号公報にその説明が記載されている。なお、ナノ粒子追跡解析法をPTAと略する場合もある。
【0067】
レーザー誘起破壊検知法(LIDB、Laser Induced Breakdown Detection)は、ナノ秒パルスレーザーを、検知するナノ粒子を含む液体に集光させることで、ナノ粒子がレーザービームと交差するたびに生成するプラズマをセンサーによって検知し、得られたプラズマ統計値からサイズ分布と濃度を導き出す方法である。
【0068】
電気抵抗ナノパルス法(TRPS、Tunable Resistive Pulse Sensor)は、ナノポアを挟んだ溶液中に電圧をかけると溶液中に含まれるナノ粒子が細孔を通過するが、その際に発生する電気抵抗ナノパルスから粒子の体積を求める(例えば、長いパルスほど体積の大きい粒子となる)方法である。例えば、特表2013−518268号公報にその説明が記載されている。
【0069】
ナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定は、ナノ粒子追跡解析法(NTA)により行われることが好ましい。また、ナノ粒子追跡解析法(NTA)に用いるレーザーの波長は、400nm以上500nm以下の範囲から選択されることが好ましい。500nmを超えるとエネルギーが過大となり不経済であり、400nm未満であるとナノ粒子濃度およびナノ粒子の測定のためのアルゴリズムの作成が困難となる。特に好ましくは、460nm以上500nm以下の範囲である。
【0070】
なお、本発明は粗大なフロックではなく、膜汚染に大きく関係するナノ粒子を直接測定することを構成要素として含んでいるところ、特許文献1の技術は、測定原理の観点から考えても、数μm以上のゼータ電位を求める技術であり、採用することができない。
【0071】
また、測定原理が動的光散乱法(DLS)の装置についても、使用レーザー波長を600nm以下にしたり、レーザー出力を従来よりも大きくするなど、本発明を使用する被処理水のナノ粒子が測定可能であれば、特に限定されるものではない。
【0072】
制御部58は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータである。制御部58は、ROMに記憶させたプログラムをRAM上に展開して対応する処理をCPUに実行させる。
【0073】
なお、上記プログラムはROMに記憶されている場合に限らず、NVRAM(Non−Volatile Randam Access Memory)に記憶されていればよい。
【0074】
制御部58は、予め求めたナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係(関係(i))並びに予め求めたナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係(関係(ii))からナノ粒子等測定部56により測定された被処理水1のナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位のうち何れか一つを選択し、選択した測定値と前記関係(関係(i)または関係(ii))とに基づいて被処理水1の膜閉塞性評価指標の値を決定する処理を行う。
【0075】
この処理は、ROMに記憶されているプログラムである膜閉塞性評価指標値決定手段により実行される。
【0076】
膜閉塞性評価指標は、ファウリングポテンシャル(FP)、MFI(MFI
0.45)、MFI−UF、MFI−NF、CFS−MFI
UFおよびUMFIから選択される。
【0077】
ファウリングポテンシャル(FP)については、上述の「背景技術」に示したとおりのやり方で測定することができ、例えば、非特許文献1にその説明が詳細に記載されている。
【0078】
MFI(Modified Fouling Index)では、平均孔径0.45μm、直径47mmのメンブレンフィルター(一般に、ミリポア社製、セルロース混合エステル(TYPE HA))を用い、これに圧力2.0bar(200kPa)で被処理水を通水し、ろ過を行う。グラフの横軸及び縦軸をそれぞれ、ろ過水量:V(l)及びろ過時間/ろ過水量:t/V(s/l)として、20℃におけるろ過試験結果としてプロットし、t/V−Vカーブの直線となる部分の傾きを算出し、その値をMFI(MFI
0.45)とする。
【0079】
MFI−UF(Modified Fouling Index-Ultrafiltration)は、UF膜を利用して測定する場合であり、分画分子量13,000ダルトンのUF膜を使用する例がある。
【0080】
MFI−NF(Nanofiltration-Modified Fouling Index)は、NF膜を使用して測定する場合であり、500〜1500ダルトンのNF膜を使用する例がある。
【0081】
CFS−MFI
UF(Crossflow Sampler-Modified Fouling Index-Ultrafiltration)は、MFI−UF法に供給する試験水の前処理として、クロスフローろ過方式の膜ろ過装置を使用し、その膜ろ過水をMFI−UF法の評価装置に供給する方式である。以下、MFI〜CFS−MFI
UFについての参考資料を示す。
【0082】
参考資料:Desalination, Vol.32, pp.137-148 (1980)、Jornal of Membrane Science, Vol.197, pp.1-21 (2002)、Desalination, Vol.192, pp.1-7 (2006)、Water Research, Vol.45, pp.1639-1650 (2011)
UMFI(Unified Membrane Fouling Index)は、実際に使用する膜でミニモジュールを作成し、それを用いてろ過試験を行う方法である。従って、ろ過条件は、使用する膜や実機の運転条件などによって選択される。実際の膜ろ過装置は、定速ろ過で運転される場合が多いため、ろ過試験においても定速ろ過が採用される事が多い。ケーキろ過理論が適用できるので、ケーキろ過定数を算出し、それをUMFIとする(参考資料:Environ. Sci.Technol., Vol.42, pp.714-720 (2008))。
【0083】
ナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係(関係(i))は、
図2(A)に示すように、ナノ粒子濃度が増大するにつれて膜閉塞性評価指標が大きく上昇する曲線を描くという相関関係を有する。したがって、予めナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係から、例えば、最小二乗法により回帰曲線(関係式)を作製しておき、当該関係式にナノ粒子等測定部56で測定された測定値を当てはめることで、迅速に被処理水1の膜閉塞性評価指標値を決定することができる。上記関係式は、制御部58のROMに記憶させておけばよい。
【0084】
また、ナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係(関係(ii))は、
図2(B)に示すように、ナノ粒子のゼータ電位が−30mVから−15mV付近まで増加するにつれて大きく減少し、さらにゼータ電位が増加すると膜閉塞性評価指標の値が0へと収束していく曲線を描くという相関関係を有する。したがって、予めナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係から、例えば、最小二乗法により回帰曲線(関係式)を作製しておき、当該関係式にナノ粒子等測定部56で測定された測定値を当てはめることで、迅速に被処理水1の膜閉塞性評価指標値を決定することができる。上記関係式は、制御部58のROMに記憶させておけばよい。
【0085】
ところで、
図2(B)中の曲線の破線で示した領域はナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性指標との相関関係がないゼータ電位非相関領域(Zeta potential non−correlation region:以下、NznCRともいう。)となり、同曲線の実線が大きく湾曲する湾曲ゾーンは、ナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係が相関的となり始めるゼータ電位準相関領域(Zeta potential semi−correlation region:以下、NzsCRともいう。)となる。また、さらにナノ粒子のゼータ電位が増大した領域はナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係が相関的であるゼータ電位相関領域(Zeta potential correlation region:以下、NzCRともいう。)となる。
【0086】
ゼータ電位非相関領域(NznCR)、ゼータ電位準相関領域(NzsCR)およびゼータ電位相関領域(NzCR)は、後述する実施例に示すように、それぞれ、ナノ粒子のゼータ電位が−20mV以下、−20mV超−15mV以下、−15mV超の領域に存在している。したがって、ゼータ電位非相関領域(NznCR)にナノ粒子のゼータ電位の測定値が存在する場合、ナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係を用いることは好ましくない。
【0087】
また、ゼータ電位準相関領域(NzsCR)またはゼータ電位相関領域(NzCR)にナノ粒子のゼータ電位の測定値が存在する場合、ナノ粒子濃度の測定値およびナノ粒子のゼータ電位の測定値のうちどちらの測定値を用いてもよいが、ゼータ電位相関領域(NzCR)にナノ粒子のゼータ電位の測定値が存在する場合は、ナノ粒子のゼータ電位の測定値を選択することが好ましい。
【0088】
なお、ゼータ電位準相関領域(NzsCR)にナノ粒子のゼータ電位の測定値が存在する場合、ナノ粒子濃度の測定値およびナノ粒子のゼータ電位の測定値のうちどちらの測定値を用いてもよいが、例えば、ナノ粒子濃度とゼータ電位のそれぞれの測定値から上述の関係(i)および関係(ii)の回帰曲線へと垂線を引き、測定値と回帰曲線と距離が短くなる方の測定値を選択することとしてもよい。
【0089】
本発明によれば、一方の測定値(例えば、ナノ粒子のゼータ電位の測定値)の相関が低い領域(例えば、NznCR)に位置する場合には、他方の測定値(例えば、ナノ粒子濃度)を選択して膜閉塞性評価指標値を決定することで、関係式のうち相関関係が低い部分が補完され、迅速且つ精度の高い膜閉塞性評価指標値を決定することができる。
【0090】
なお、どちらの値も相関が高い場合、どちらの値を選択してもよく、その選択も任意であるが、後述する<被処理水の膜閉塞性の評価方法>のステップS106に示すように、例えば、それぞれの測定値から上述の関係(i)および関係(ii)の回帰曲線へと垂線を引き、測定値と回帰曲線と距離が短くなる方の測定値を選択することとしてもよい。
【0091】
<被処理水の膜閉塞性の評価方法>
以上の構成を有する膜ろ過装置50を用いた場合を例に、本実施の形態に係る被処理水の膜閉塞性の評価方法について説明する。なお、本発明の被処理水の膜閉塞性の評価方法は、膜ろ過装置50により行うことが必須というわけではない。
【0092】
まず、
図1に示すように、膜ろ過装置50が起動されると制御部58のROMに記憶されているプログラムである膜閉塞性評価指標値決定手段がRAM上に展開され、同時に、被処理水1が送液ポンプ60により一定の流速で下流の圧力容器52に送液され、一部はバイパス経路4を介してナノ粒子測定装置55に送られる。
【0093】
バイパス経路4のナノ粒子測定装置55への向かう経路には孔径0.45μmの図示しないメンブレンフィルターが設けられており、したがって、測定に供される被処理水1に含まれる粒子の大きさは450nm以下となる(バイパス経路4に代えてサンプリング手段が用いられる場合、被処理水1はサンプリング後の孔径0.45μmnメンブレンフィルターでろ過される。)。
【0094】
なお、メンブレンフィルターとしては親水性の膜が好ましく、親水化処理を行ったPDVF、PES、PSの材質の膜が好ましく、また、親水性の材質であるCAでも構わない。
【0095】
使用するメンブレンフィルターの孔径も、評価すべきナノ粒子の性状に応じて変更可能であり、0.45μm以下であってもよい。孔径0.22μm以下のものが好ましく、特に好ましくは孔径0.1μm以下である。0.45μmよりも小さい孔径のメンブレンフィルターを用いることで、妨害物質をより除去することができ、ナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位の測定の精度がさらに向上する。
【0096】
[ナノ粒子濃度とゼータ電位の測定工程]
次に、
図3に示すように、ステップS101では、被処理水1のナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位がナノ粒子等測定部56において測定される。測定値は、制御部58へと伝達される(以上、ナノ粒子濃度とゼータ電位の測定工程)。
【0097】
[ナノ粒子濃度の測定値とナノ粒子のゼータ電位の測定値のいづれか一つを選択する工程]
ステップS102(
図3参照)では、ナノ粒子のゼータ電位の測定値が、ゼータ電位準相関領域(NzsCR)を下回るか否かを判定する。測定値がNzsCRを下回る場合(YES判定)、ステップS103に移行する。測定値がNzsCRの範囲内にあるか、その範囲を上回る場合(NO判定)、ステップS105に移行する。
【0098】
ステップS103では、測定値としてナノ粒子濃度を選択し、ステップS104に移行する。
【0099】
一方、ステップS102から移行した先のステップS105では、ナノ粒子のゼータ電位の測定値がNzsCRの範囲内にあるか否かが判定される。測定値がNzsCRの範囲内にある場合(YES判定)、ステップS106に移行し、測定値がNzsCRを上回る場合(NO判定)、ステップS107に移行する。
【0100】
ステップS106では、測定値と関係式との距離から測定値を選択する。具体的には、ナノ粒子濃度の測定値およびナノ粒子のゼータ電位の測定値からそれぞれの関係式(回帰曲線)へと垂線を引き、測定値と回帰曲線との距離をそれぞれ測定し、測定した距離が短くなる方の測定値を選択する。これにより、より回帰曲線に近く、精度が高い膜閉塞性評価指標値が得られると考えられる。何れかの測定値が選択されたのち、ステップS104へ、すなわち、膜閉塞性評価指標値の決定工程へと移行する。
【0101】
一方、ステップS105から移行した先のステップS107では、測定値としてナノ粒子のゼータ電位の測定値が選択され、ステップS104に移行する。
【0102】
(以上、ナノ粒子濃度の測定値とナノ粒子のゼータ電位の測定値のいづれか一つを選択する工程)。
【0103】
[膜閉塞性評価指標値の決定工程]
ステップS104では、選択された測定値を、ナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係式またはナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標との関係式に当てはめ、膜閉塞性評価指標の値を決定する(以上、膜閉塞性評価指標値の決定工程)。
【0104】
その後、膜閉塞性評価指標値が決定された被処理水1は圧力容器52内に送液され、分離膜59による膜ろ過処理に付されてろ液2となる。
【0105】
したがって、本実施の形態に係る被処理水の膜閉塞性の評価方法によれば、被処理水1のナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位を測定した後、予め求めていたナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係並びにナノ粒子のゼータ電位と膜汚染性評価指標との関係から測定していたナノ粒子濃度とナノ粒子濃度のゼータ電位とのどちらを用いるかが選択され、選択された測定値と上記関係とから被処理水の膜閉塞性評価指標の値が決定される。
【0106】
したがって、迅速に測定可能なナノ粒子濃度およびゼータ電位を測定することで、予め求めていた関係式から被処理水1の膜閉塞評価指標の値を迅速に決定することができる。
【0107】
また、従来、被処理水1の凝集処理を伴う膜ろ過処理においてナノ粒子のゼータ電位の測定が有用であることが示されていたところ、ナノ粒子についてゼータ電位だけでなく粒子濃度も活用することで、両者の測定値のうち膜閉塞性評価指標との相関が高い測定値を選択することが可能となり、より精度高く膜閉塞評価指標の値を決定することが可能となる。
【0108】
さらに、被処理水1のナノ粒子濃度の測定値がナノ粒子濃度不規則領域(NcIR)の範囲を上回る場合、すなわち、ナノ粒子濃度の測定値を選択してもナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標との関係のうち両者の関係が不規則とならない領域において膜閉塞性評価指標の値が決定されることから、より精度高く膜閉塞性評価指標の値を迅速に決定することができる。
【0109】
同様に、被処理水1のナノ粒子のゼータ電位の測定値がゼータ電位準相関領域(NzsCR)の範囲を上回るゼータ電位相関領域(NzCR)にある場合にはゼータ電位の測定値を用いて膜閉塞性評価指標の値が決定されることから、より精度高く膜閉塞性評価指標の値を迅速に決定することができる。
【0110】
さらに、ナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位の測定に供される被処理水1に含まれる粒子の大きさが450nm以下であることから、測定に際して妨害因子(0.45μm以上の粒子)が排除されて測定の精度が向上し、したがって、決定される膜閉塞性評価指標値の精度をさらに向上させることができる。
【0111】
また、被処理水1中のナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定が、1〜3時間の時間を要するFP等の膜閉塞性評価指標値の測定よりも迅速なナノ粒子追跡解析法(NTA)、レーザー誘起破壊検知法(LIDB)および電気抵抗ナノパルス法(TRPS)から選択される方法により行われ、この測定値から上記関係式に当てはめることで迅速に膜閉塞性評価指標値を決定することができる。
【0112】
さらに、本発明は、本発明の被処理水の膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標の値を決定した被処理水の膜ろ過方法およびこの膜ろ過方法に用いることができる膜ろ過システム10を提供する。
【0113】
<膜ろ過システム>
図4は、本実施の形態に係る被処理水の膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標の値を決定した被処理水の膜ろ過方法に用いる膜ろ過システム10を示す模式図である。図示のように、膜ろ過システム10は、上記膜ろ過装置50と比較して前処理槽15および膜処理槽15への凝集剤添加系統およびその制御系が付加された点において異なる。したがって、これらの新たに付加された構成について主に説明し、他の共通する構成については膜ろ過装置50と同一の符号を付しその説明を省略する。
【0114】
膜ろ過システム10は、圧力容器52の上流に、被処理水1を前処理する前処理槽15を有する。前処理は、膜ろ過、珪藻土ろ過、遠心分離による固液分離、凝集剤を添加する凝集処理等、水質を向上させるための種々の処理を行うことができる。好ましくは、凝集処理であり、本実施の形態においては、前処理として凝集剤を添加して行う凝集処理を採用し、したがって、前処理槽15は凝集剤が添加される凝集槽である。前処理槽15は、経路23を介して凝集剤貯槽20と接続されている。
【0115】
前処理槽15には、凝集処理による凝集物を除去する除去手段が設けられていてもよく、前処理槽15の下流であって圧力容器の上流に設けた沈殿槽によりかかる凝集物を沈殿除去する構成としてもよい。
【0116】
凝集剤貯槽20は、前処理槽15に添加される凝集剤を貯留する貯留槽である。凝集剤としては、目的に応じて無機凝集剤および高分子凝集剤から選択することができる。凝集剤は、本実施の形態においては液体として例示するが、粉末品であってもよい。その場合、凝集剤貯槽20は開閉弁を備えるホッパーを用いることができる。
【0117】
無機凝集剤としては、アルミニウム塩やカルシウム塩が挙げられ、高分子凝集剤としては、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、両性高分子凝集剤を挙げることができる。
【0118】
経路23には、凝集剤貯槽20から凝集剤を前処理槽15へと送液するためのポンプ22が設けられており、凝集条件制御部25からの信号によりその駆動が制御される。なお、凝集剤が粉末の場合、ポンプに代えて開閉弁を設け、凝集条件制御部25による開閉制御により、前処理槽15に送られる凝集剤の量が制御される。
【0119】
凝集条件制御部25は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータである。制御部25は、ROMに記憶させたプログラムをRAM上に展開して対応する処理をCPUに実行させる。
【0120】
なお、上記プログラムはROMに記憶されている場合に限らず、NVRAM(Non−Volatile Randam Access Memory)に記憶されていればよい。
【0121】
凝集条件制御部25は、ナノ粒子測定装置55の制御部58から選択されたナノ粒子濃度等の測定値の情報を受信し、ポンプ22に信号を送りポンプ22の駆動時間を制御する。
【0122】
この処理は、ROMに記憶されているプログラムにより行われる。
【0123】
具体的には、このプログラムは、凝集条件制御部25が受信した被処理水1のナノ粒子濃度またはナノ粒子のゼータ電位の測定値に基づき、前処理槽15で処理された後の被処理水1のナノ粒子濃度が50×10
6個以下(好ましくは、10×10
6個以下)となるか、あるいは前処理槽15で処理された後の被処理水1のナノ粒子のゼータ電位が−15mV超(好ましくは、−10mV超+5mV以下の範囲内)となるために必要な濃度で凝集剤が前処理槽15に添加されるようにポンプ22に信号を送り、ポンプの駆動時間を制御する。
【0124】
上記前処理槽15における凝集剤の必要な濃度は、例えば、予め被処理水1に対して少なくとも3以上の異なる濃度となるように凝集剤を添加して、凝集剤の添加濃度と添加処理後の被処理水1中のナノ粒子濃度の関係または凝集剤の添加濃度と添加処理後の被処理水1中のナノ粒子のゼータ電位の関係について検量線をそれぞれ作成しておき、この検量線に当てはめることで決定することができる。
【0125】
なお、被処理水1のもとのナノ粒子濃度やゼータ電位が大きく変動する場合、その都度検量線は作成し直す必要がある。
【0126】
<被処理水の膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標の値を決定した被処理水の膜ろ過方法>
次に、以上の構成を有する膜ろ過装置10を用いた場合を例に、
図5を参照して上記本発明の被処理水の膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標の値を決定した被処理水の膜ろ過方法について説明する。
図5は、膜ろ過システム10の凝集条件制御部25による凝集剤添加の制御を説明するためのフローチャートである。
【0127】
図4に示すように、本実施の形態に係る膜ろ過システム10が起動されると、制御部58のROMに記憶されているプログラムである膜閉塞性評価指標値決定手段がRAM上に展開されるとともに、凝集条件制御部25のROMに記憶されている、ポンプ22の駆動時間を制御するためのプログラムがそのRAM上に展開される。また、被処理水1が送液ポンプ60により一定の流速で下流の圧力容器52側へと送液され、一部はバイパス経路4を介してナノ粒子測定装置55に送られる。
【0128】
[ナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定]
図5に示すように、ステップS201では、上記膜ろ過装置50の場合と同様に、被処理水1中のナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位が測定される(以上、ナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定工程)。
【0129】
[ナノ粒子濃度の測定値とナノ粒子のゼータ電位の測定値のいづれか一つを選択する工程]
ステップS202では、上記膜ろ過装置50の場合と同様に、ナノ粒子濃度の測定値とナノ粒子のゼータ電位の測定値のうちいづれか一つが選択される(以上、ナノ粒子濃度の測定値とナノ粒子のゼータ電位の測定値のいづれか一つを選択する工程)。
【0130】
[膜閉塞性評価指標値の決定工程]
その後、ステップS203では、上記膜ろ過装置50の場合と同様に、膜閉塞性評価指標の値が決定される(以上、膜閉塞性評価指標値の決定工程)。
【0131】
[凝集条件(凝集剤添加量)の制御工程]
ステップS204では、制御部58から膜閉塞性評価指標値とともにステップS202で選択された測定値が凝集条件制御部25に伝達される。凝集条件制御部25は、この測定値を、例えば、上述の検量線(すなわち、凝集剤の添加濃度と添加処理後の被処理水1中のナノ粒子濃度の関係または凝集剤の添加濃度と添加処理後の被処理水1中のナノ粒子のゼータ電位の関係について検量線)に当てはめて前処理槽15における凝集剤の必要な濃度を決定し、その濃度とするために必要な速度・量で凝集剤を凝集剤貯槽20から前処理槽15に添加可能となるようにポンプ22に信号を送る(以上、凝集条件(凝集剤添加量)の制御工程)。
【0132】
[凝集剤の添加工程]
ステップS205では、凝集条件制御部25から伝達された信号に基づき、ポンプ22が駆動して前処理槽15に凝集剤が添加され、前処理槽15内で被処理水1と凝集剤が適宜に撹拌混合される(以上、凝集剤の添加工程)。
【0133】
その後、凝集物と分離された被処理水1が圧力容器52へと送液され、分離膜59による膜ろ過処理に付され、ろ過後のろ液2が下流へと送られる。
【0134】
したがって、本実施の形態に係る被処理水の膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標の値を決定した被処理水の膜ろ過方法および膜ろ過方法に用いられる膜ろ過システム10によれば、被処理水1のナノ粒子のゼータ電位が−15mV超となる範囲はゼータ電位相関領域(NzCR)にあり、且つ、膜閉塞性評価指標の値が安定的に小さい値に維持される領域であることから、前処理の効果を増大させ、分離膜の閉塞リスクを低減させることができる。
【0135】
また、被処理水1のナノ粒子濃度が50×10
6個/mL以下となる範囲はナノ粒子濃度と膜閉塞性指標との相関があり、且つ、膜閉塞性評価指標の値が安定的に小さい値に維持される領域であることから、前処理の効果を増大させ、分離膜の閉塞リスクを低減させることができる。
【0136】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0137】
例えば、被処理水の膜閉塞性評価方法を用いて膜閉塞性評価指標の値を決定した被処理水の膜ろ過方法において、前処理槽15における凝集処理条件を、凝集剤の注入率(すなわち、前処理槽15への凝集剤貯槽20からの送液速度・量)により調整しているがこれに限られるものではない。すなわち、使用する凝集剤の種類、前処理槽15におけるpH調整、前処理槽15における撹拌条件(撹拌時間・撹拌速度等)の変更等により調整することも可能である。
【実施例】
【0138】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0139】
[1.ナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位の測定のための測定手法の検討]
(比較例1)
水道原水であるK河川水とその凝集処理水のナノ粒子解析を行った。この試料となる水道原水のFP(膜閉塞性評価指標値)は9.44であり、水道原水としては比較的膜汚染性が高い原水であった。
【0140】
なお、FPの測定は、以下のようにして行った。
【0141】
まず、公称孔径0.22μmの疎水性PVDF膜(ミリポア社製、GVHP、直径25mm)を使用し、これを撹拌式加圧セルに装着し、HPLC用送液ポンプで加圧ろ過を行った。ろ過は、セルの撹拌子を1,450rpmで回転させながら全量定速ろ過(膜透過流束20m/日)で行い、膜差圧がある程度以上上昇した後、膜をセルから取り外し、1%−シュウ酸洗浄(洗浄時間60分、洗浄温度20℃程度)と膜面のスポンジ洗浄を行った。洗浄後、膜をセルに装着し、供試水のGVHP膜ろ過水でろ過を行い、再び膜差圧を測定した。この膜差圧とろ過開始時の膜差圧の差(m−Aq,at25℃)を総ろ過水量(m
3/m
2−膜)で除した値を供試水のファウリングポテンシャル(FP)とした。
【0142】
また、水道原水にポリ塩化アルミニウム(PAC)を注入率20mg/Lになるように添加し、急速撹拌(130rpm×3分)を行い、3分静置したものを凝集処理水とした。
【0143】
分析は、各試料(純水、K河川水(水道原水)、凝集処理水)を0.45μmメンブレンフィルターで前処理した後に行った。散乱強度とナノ粒子のゼータ電位の測定には、動的光散乱法(DLS)を測定原理とした分析装置(大塚電子(株)製:ELSZ−2000、仕様:レーザー波長660nm、レーザー出力70mW)を使用した。なお、本装置ではナノ粒子濃度は測定できない。測定結果を表1に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
結果としては、すべての試料において、10,000(cps)以上の十分な散乱強度を得ることができず、特許文献1で用いられた動的光散乱法(DLS)を測定原理とした分析装置によっては、被処理水中の450nm以下のナノ粒子濃度とナノ粒子のゼータ電位を測定することができなかった。
【0146】
(実施例1)
比較例1と同じ試料を、ナノ粒子追跡解析法(NTA)を測定原理とした分析装置(PMX社製:ZetaView PMX110、仕様:レーザー波長488nm、レーザー出力40mV)で評価した。
【0147】
なお、本実施例では、凝集処理水として、ポリ塩化アルミニウム(PAC)の注入率を20、30、40、50mg/Lの4条件としたものについて測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0148】
【表2】
【0149】
実施例1によれば、ナノ粒子追跡解析法(NTA)を測定原理とした分析装置により、水道原水(K河川水)とその凝集処理水のナノ粒子濃度とゼータ電位を測定できる事が分かる。また、ナノ粒子の粒径分布からメジアン径も評価可能である。
【0150】
また、実施例1によれば、凝集処理において、PACの添加量を増加させるに連れてゼータ電位が上昇する傾向があり、ナノ粒子濃度が低下する傾向にあることがわかる。
【0151】
さらに、PAC注入率50mg/Lにおいては、PAC注入率40mg/Lよりもナノ粒子濃度が増加し、メジアン径が小さくなった事から粒子径分布が小さい方にシフトした事が予想でき、加えて、ゼータ電位が負から正に荷電状態が変わった事から、凝集剤が過剰注入になっている事も分かる。
【0152】
[2.ナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標(FP)との関係及びナノ粒子のゼータ電位と膜閉塞性評価指標(FP)との関係の検討]
(実施例2)
実施例1で用いたナノ粒子追跡解析法(NTA)を測定原理とした分析装置(PMX社製:ZetaView PMX110、仕様:レーザー波長488nm、レーザー出力40mV)を用い、被処理水のナノ粒子濃度およびナノ粒子のゼータ電位を測定した。FPの測定は、比較例1の水道原水のFPの測定と同じ方法で測定した。
【0153】
試料には、水道原水(20種類)と水道原水の凝集処理水A又はBを使用した。
【0154】
これら凝集処理水は、2種類の河川水(原水)の各々にポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加し、急速撹拌(130rpm×3分)を行い、3分静置して得た。また、凝集処理水として、PACの添加量を変えたものをいくつか用意した。
【0155】
分析は、各試料を0.45μmメンブレンフィルターで前処理した後に行った。
【0156】
図6にナノ粒子濃度と膜閉塞性評価指標であるFPとの関係を示し、
図7にナノ粒子のゼータ電位とFPとの関係を示す。
【0157】
図6に示すように、ナノ粒子濃度とFPの関係において、ナノ粒子濃度が50〜100×10
6個/mLの付近に関係式(回帰曲線)が大きく湾曲する湾曲ゾーンが存在する。したがって、この湾曲ゾーンのナノ粒子濃度の範囲以下(50×10
6個/mL以下)である場合、被処理水の膜閉塞性指標(FP)の値は低く、被処理水の膜を閉塞させる潜在力が小さいと判断することができる。
【0158】
また、
図7に示すように、ナノ粒子のゼータ電位とFPとの関係において、ゼータ電位が−20mV以下となる領域はナノ粒子のゼータ電位とFPとの間に相関関係がないゼータ電位非相関領域(NznCR)となり、ゼータ電位が−20mV超−15mV以下となる領域はナノ粒子のゼータ電位とFPとの関係が相関的となり始めるゼータ電位準相関領域(NzsCR)となり、ゼータ電位が−15mV超となる領域はナノ粒子のゼータ電位とFPとの関係が相関的であるゼータ電位相関領域(NzCR)となっている。
【0159】
したがって、ゼータ電位非相関領域(NznCR)においてはナノ粒子のゼータ電位からFPを決定することはできず、ゼータ電位準相関領域(NzsCR)においてはナノ粒子のゼータ電位からFPを決定することは可能であるものの、他の測定値(ナノ粒子濃度の測定値)を用いることが好ましい場合はそちらを選択することが好ましく、ゼータ電位相関領域(NzCR)においてはゼータ電位からFPを精度高く決定することができる。
【0160】
図8は、実施例2の測定結果を、縦軸をナノ粒子濃度(×10
6個/mL)(対数軸で示す)とし、横軸をナノ粒子のゼータ電位(mV)としてプロットした図である。
【0161】
図示のように、ナノ粒子のゼータ電位とナノ粒子濃度の関係を考えてみると、FPとナノ粒子のゼータ電位との関係が相関的といえるゼータ電位相関領域(NzCR)においては、ゼータ電位を測定値として選択し、精度高くFPを決定することができる。この領域は、FPが小さい値となる領域であり、したがって、ゼータ電位はFPの値が小さくなる領域において高い精度を発揮する指標であるといえる。
【0162】
また、FPとナノ粒子のゼータ電位との関係が相関的となり始めるゼータ電位準相関領域(NzsCR)においては、例えば、上述のとおり、ナノ粒子濃度とゼータ電位のそれぞれの測定値から上述の関係(i)および関係(ii)の回帰曲線へと垂線を引き、測定値と回帰曲線と距離が短くなる方の測定値を選択することで、精度高くFPを決定することができる。
【0163】
さらに、ナノ粒子のゼータ電位とFPとの間に相関関係がないゼータ電位非相関領域(NznCR)においては、ナノ粒子濃度を測定値として選択することで、ゼータ電位を選択することによるFPの精度の低下を回避しつつ、FPの値が大きくなる領域においても精度高くFPを決定することができる。
【0164】
上述のとおり、FPとの関係において、FP値が小さい値となる領域で高い精度を示すナノ粒子のゼータ電位とFP値が大きい値となる領域で高い精度を示すナノ粒子濃度を用いることで、両者は相互に補完しあい、広範囲に精度高くFP値を決定可能であることが示された。