特許第6486820号(P6486820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6486820歪分布データ処理装置及び歪分布データ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486820
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】歪分布データ処理装置及び歪分布データ処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20190311BHJP
   G01B 11/16 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   G01M11/00 U
   G01B11/16 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-256344(P2015-256344)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-120210(P2017-120210A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年1月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人科学技術振興機構研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】三浦 悟
(72)【発明者】
【氏名】二村 有則
(72)【発明者】
【氏名】松浦 聡
(72)【発明者】
【氏名】古川 靖
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−032616(JP,A)
【文献】 特開平06−026940(JP,A)
【文献】 特開2002−243588(JP,A)
【文献】 特開2001−194191(JP,A)
【文献】 特開2004−020314(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0303460(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0308682(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 − G01M 11/08
G01B 11/00 − G01B 11/30
G02B 6/00 − G02B 6/02
G02B 6/245 − G02B 6/25
G02B 6/46 − G02B 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定する位置を切り替えながら各位置の歪みを計測する分布型の光ファイバセンサが異なる時刻に前記光ファイバの複数の位置の歪みを測定した複数の歪測定値からなる歪分布データを取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記歪分布データの時間及び位置の面補間により、同一時刻における前記光ファイバの複数の位置の歪みを算出する補間部と、を備えることを特徴とする、
歪分布データ処理装置。
【請求項2】
前記補間部は、前記取得部が取得した前記歪分布データの歪み及び位置の面補間により、同一位置における前記光ファイバの複数の時間の歪みを算出することを特徴とする、
請求項1に記載の歪分布データ処理装置。
【請求項3】
前記補間部が補間した前記歪分布データから、前記光ファイバを取り付けた測定対象物の歪分布の時間的変化を算出する算出部を更に備えることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の歪分布データ処理装置。
【請求項4】
前記補間部が補間した前記歪分布データを出力する出力部を更に備えることを特徴とする、
請求項1〜3の何れか一項に記載の歪分布データ処理装置。
【請求項5】
測定する位置を切り替えながら各位置の歪みを計測する分布型の光ファイバセンサが異なる時刻に前記光ファイバの複数の位置の歪みを測定した複数の歪測定値からなる歪分布データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得した前記歪分布データの時間及び位置の面補間により、同一時刻における前記光ファイバの複数の位置の歪みを算出する補間ステップと、を備えることを特徴とする、
歪分布データ処理方法。
【請求項6】
前記補間ステップでは、前記取得ステップにおいて取得した前記歪分布データの歪み及び位置の面補間により、同一位置における前記光ファイバの複数の時間の歪みを算出することを特徴とする、
請求項5に記載の歪分布データ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分布型の光ファイバセンサにより測定した歪分布データを処理する歪分布データ処理装置及び歪分布データ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンサを用いて歪みを測定する光ファイバセンシングの分野においては、一般的にFBG(Fiber Bragg Grating)センサが用いられている(例えば、非特許文献1参照)。FBGセンサは、光ファイバのコア内に複数のFBG素子(回析格子)を形成されたセンサであり、ブラッグ波長の反射光の光スペクトラムを解析することで、FBG素子が形成された位置の歪みを測定することができる。なお、FBGセンサは、準分布型の光ファイバセンサと呼ばれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Optical Fiber Sensors Guide -Fundamentals & Applications-,Micron Optics(http://www.micronoptics.com/uploads/documents/Updated_Optical_Fiber_Sensors_Guide_130529.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、FBGセンサでは、センサ部となるFBG素子が離散化されており、また、FBG素子の位置を容易に変更することができない。このため、FBGセンサでは、任意の位置における歪分布データを得ることができない。
【0005】
この点、ブリルアン散乱現象等を利用した分布型の光ファイバセンサのうちの一部では、測定する位置を切り替えながら(ランダムアクセスしながら)各位置の歪みを測定することで、光ファイバ全長にわたる連続した歪分布データを得ることができる。なお、こうした光ファイバセンサは、ランダムアクセス型の光ファイバセンサとも呼ばれる。
【0006】
しかしながら、ランダムアクセス型の光ファイバセンサでは、ある時刻においては一点の歪みしか測定することができないため、ランダムアクセス型の光ファイバセンサにより得られる歪分布データは、各点の計測時刻が一致した歪分布データではない。このため、同一時刻における歪分布を観察することができない。更に、測定した歪みから測定対象物の変位を算出しても、測定対象物の振動モードを観察することができない。
【0007】
そこで、本発明は、同一時刻における歪分布データを得ることができる歪分布データ処理装置及び歪分布データ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る歪分布データ処理装置は、分布型の光ファイバセンサが異なる時刻に光ファイバの複数の位置の歪みを測定した歪分布データを取得する取得部と、取得部が取得した歪分布データの時間及び位置の補間により、同一時刻における光ファイバの複数の位置の歪みを算出する補間部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る歪分布データ処理装置では、取得部が歪分布データを取得すると、補間部は、この歪分布データの時間及び位置の補間により、同一時刻における光ファイバの複数の位置の歪みを算出する。これにより、同一時刻における光ファイバの歪分布データを得ることができる。そして、例えば、光ファイバを橋梁等の測定対象物に取り付けることで、同一時刻における測定対象物の歪分布データを得ることができる。
【0010】
この場合、補間部は、取得部が取得した歪分布データの歪み及び位置の補間により、同一位置における光ファイバの複数の時間の歪みを算出することが好ましい。この歪分布データ処理装置では、補間部は、歪分布データの歪み及び時間の補間により、同一位置における光ファイバの複数の時間の歪みを算出する。これにより、同一位置における光ファイバの歪の時間的変化を得ることができる。そして、例えば、光ファイバを橋梁等の測定対象物に取り付けることで、同一位置における測定対象物の歪の時間的変化を得ることができる。
【0011】
また、補間部が補間した歪分布データから、光ファイバを取り付けた測定対象物の歪分布の時間的変化を算出する算出部を更に備えることが好ましい。この歪分布データ処理装置では、算出部は、補間部が補間した歪分布データから測定対象物の歪分布の時間的変化を算出するため、測定対象物の振動モード等を容易に観察することができる。
【0012】
また、補間部が算出した同一時刻における光ファイバの複数の位置の歪みを歪分布データとして出力する出力部を更に備えることが好ましい。この歪分布データ処理装置では、出力部は、補間部が算出した歪分布データを出力するため、同一時刻における歪分布及び同一位置における歪の時間的変化を容易に観察することができる。
【0013】
本発明に係る歪分布データ処理方法は、分布型の光ファイバセンサが異なる時刻に光ファイバの複数の位置の歪みを測定した歪分布データを取得する取得ステップと、取得ステップにおいて取得した歪分布データの時間及び位置の補間により、同一時刻における光ファイバの複数の位置の歪みを算出する補間ステップと、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る歪分布データ処理方法では、取得ステップにおいて歪分布データを取得すると、補間ステップにおいて、この歪分布データの時間及び位置の補間により、同一時刻における光ファイバの複数の位置の歪みを算出する。これにより、同一時刻における光ファイバの歪分布データを得ることができる。そして、例えば、光ファイバを橋梁等の測定対象物に取り付けることで、同一時刻における測定対象物の歪分布データを得ることができる。
【0015】
また、補間ステップでは、取得ステップにおいて取得した歪分布データの歪み及び位置の補間により、同一位置における光ファイバの複数の時間の歪みを算出することが好ましい。この歪分布データ処理方法では、補間ステップにおいて、歪分布データの歪み及び時間の補間により、同一位置における光ファイバの複数の時間の歪みを算出する。これにより、同一位置における光ファイバの歪みの時間的変化を得ることができる。そして、例えば、光ファイバを橋梁等の測定対象物に取り付けることで、同一位置における歪の時間的変化を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、同一時刻における歪分布データを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】歪測定装置を示す概略構成図である。
図2】歪分布データ処理装置を示す概略ブロック図である。
図3】光ファイバセンサにより得られた歪分布データを示す図である。
図4】補間部により補間した歪分布データを示す図である。
図5】実施例の実験装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は左側面図、(c)は正面図である。
図6】梁部材を示す図であり、(a)は平面図、(b)は底面図である。
図7】歪ゲージで拘束条件1の梁部材の歪みを測定した歪分布データを示す図である。
図8図7に示す0m地点における歪の時間的変化を示す図である。
図9】光ファイバセンサで拘束条件1の梁部材の歪みを測定した歪分布データを示す図である。
図10図9に示す0m地点における歪の時間的変化を示す図である。
図11】光ファイバセンサで得た歪分布データを時間及び位置で補間した歪分布データを示す図である。
図12図11に示す0m地点における歪の時間的変化を示す図である。
図13】拘束条件1における比較結果を示す図であり、(a)は歪ゲージの測定歪分布データ、(b)は光ファイバセンサの測定歪分布データ、(c)は光ファイバセンサの補間歪分布データである。
図14】拘束条件2における比較結果を示す図であり、(a)は歪ゲージの測定歪分布データ、(b)は光ファイバセンサの測定歪分布データ、(c)は光ファイバセンサの補間歪分布データである。
図15】拘束条件3における比較結果を示す図であり、(a)は歪ゲージの測定歪分布データ、(b)は光ファイバセンサの測定歪分布データ、(c)は光ファイバセンサの補間歪分布データである。
図16】拘束条件3における比較結果を示す図であり、(a)は歪ゲージの測定歪分布データ、(b)は光ファイバセンサの測定歪分布データ、(c)は光ファイバセンサの補間歪分布データである。
図17】各振動周期における歪ゲージの測定歪分布データと光ファイバセンサの補間歪分布データとの比較結果を示す図である。
図18】歪ゲージの測定歪分布データに対する光ファイバセンサの測定歪分布データ及び光ファイバセンサの補間歪分布データの相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る歪分布データ処理装置、歪分布データ処理方法及び歪測定装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0019】
図1は、歪測定装置を示す概略構成図である。図1に示すように、歪測定装置1は、光ファイバセンサ2と、歪分布データ処理装置3と、を備える。
【0020】
光ファイバセンサ2は、異なる時刻に測定対象物4の複数の位置の歪みを測定するための分布型の光ファイバセンサである。分布型の光ファイバセンサ2としては、ブリルアン散乱現象を利用したBOCDA(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis)、BOCDR(BrillouinOptical Correlation Domain Reflectometry)、BOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)等がある。このうち、BOCDA及びBOCDRは、ランダムアクセス型の光ファイバセンサと呼ばれ、特に本実施形態に好適である。光ファイバセンサ2は、光ファイバ21と、測定器22と、を備える。
【0021】
光ファイバ21は、測定対象物4に取り付けられて、測定対象物4の歪みを疑似的に光ファイバ21内に生じさせるものである。光ファイバ21は、歪の測定感度を向上するために、測定対象物4に密着させて直線状又はループ状に設置することが好ましい。
【0022】
測定器22は、光ファイバ21の歪みを測定するものである。測定器22は、ブリルアン散乱現象等を利用して、光ファイバ21の複数の位置における歪みを測定する。例えば、光ファイバ内で生じるブリルアン散乱光は、入射光と後方散乱光との周波数差が歪み量に依存することが知られている。そこで、測定器22は、光ファイバ21に入射するポンプ光によりブリルアン散乱光を発生させ、光源(不図示)の発振周波数を変調することで特定の位置におけるブリルアン散乱光を選択し観測する。そして、測定器22は、局所的に発生させた誘導ブリルアン散乱光を検出して、当該位置における光ファイバ21の歪みを算出する。
【0023】
但し、測定器22は、ある時刻においては一点の歪みしか測定することができない。そこで、測定器22は、光源の発振周波数を変調して誘導ブリルアン散乱を局所的に発生させる位置を連続的に変えることで、光ファイバ21の全長にわたる歪分布を測定する。つまり、光ファイバセンサ2は、異なる時刻に光ファイバ21の複数の位置の歪みを測定する。これにより、異なる時刻に光ファイバ21の複数の位置の歪みを測定した歪分布データが得られる。なお、歪分布データは、測定器22により測定された複数の歪測定値により構成され、具体的には、少なくとも、2以上の時刻に光ファイバ21の2以上の位置の歪みを測定した4以上の歪測定値により構成される。この場合、3以上の時刻に光ファイバ21の2以上の歪を測定した6以上の歪測定値であると、後述する測定対象物4の振動モードを観察するのに好適である。
【0024】
歪分布データ処理装置3は、パソコンなどのコンピュータ装置により構成されており、光ファイバセンサ2により得られた歪分布データに基づいて、同一時刻における測定対象物4の複数の位置の歪みを算出する。
【0025】
図2は、歪分布データ処理装置を示す概略ブロック図である。図2に示すように、歪分布データ処理装置3は、取得部31と、補間部32と、算出部33と、出力部34と、を備える。
【0026】
取得部31は、光ファイバセンサ2により得られた歪分布データを取得する。そして、取得部31は、取得した歪分布データを補間部32に送信する。
【0027】
補間部32は、取得部31が取得した歪分布データの時間及び位置の補間(面補間)により、同一時刻における光ファイバ21の複数の位置の歪みを算出する。この補間は、公知の様々な方法により行うことができ、例えば、下記の式(1)又は式(2)により行うことができる。式(1)は、観測値を必ず通るように補間するExact Methodであり、(2)式は観測値を通らないApproximate Methodである(Lam, Nina Siu-Ngan. "Spatial interpolation methods: areview." The American Cartographer 10.2 (1983): 129-150.)。なお、式(1)及び(2)において、pは歪み、xは位置、yは時間、aは係数、Zは観測された歪、をそれぞれ表す。また、式(1)及び(2)において、Nは、2以上の整数であり、好ましくは3以上の整数である。
【数1】

【数2】

ここで、図3及び図4を参照して、補間部32の補間処理を説明する。
【0028】
図3は、光ファイバセンサにより得られた歪分布データを示す図である。図3において、太線は、歪ゲージにより測定された光ファイバ21の実際の歪であり、黒点は、光ファイバセンサにより得られた歪分布データである。なお、図3では、歪分布データである黒点を細線で結んでいる。図4は、補間部により補間した歪分布データを示す図である。
【0029】
図3に示すように、光ファイバセンサ2により得られた歪分布データは、複数の位置において測定された歪測定値で構成されるが、何れも同期されておらず、異なる時刻に測定された値となる。このため、ある時刻の複数の位置における歪測定を観測することができない。つまり、光ファイバセンサ2により得られた歪分布データでは、光ファイバ21の同一時刻における歪を観察することができない。
【0030】
そこで、補間部32は、図4に示すように、取得部31が取得した歪分布データを時間及び位置で補間することで、所定時間毎、かつ、所定間隔毎の、光ファイバ21の歪みを算出する。これにより、補間部32は、同一時刻における光ファイバ21の複数の位置の歪みを算出する。なお、図4では、14ミリ秒毎、かつ、0.25m毎の、光ファイバ21の歪みを算出した場合示している。
【0031】
更に、補間部32は、取得部31が取得した歪分布データの歪み及び位置の補間(面補間)により、同一位置における光ファイバ21の複数の時間の歪みを算出する。この補間は、公知の様々な方法により行うことができ、例えば、上記の式(1)又は式(2)により行うことができる。
【0032】
算出部33は、補間部32が補間した歪分布データ(補間歪分布データ)から、光ファイバ21を取り付けた測定対象物4の歪分布の時間的変化を算出する。上述したように、補間部32は、複数の時刻における歪分布データ(複数の位置における歪)を補間する。そこで、算出部33は、この複数の時刻における歪分布データから、測定対象物4の歪分布の時間的変化を算出する。測定対象物4の歪分布の時間的変化は、例えば、測定対象物4の固有振動数、測定対象物4の振動モード等により表すことができる。なお、固有振動数及び振動モードの算出は、周知の方法により行うことができる。
【0033】
出力部34は、同一時刻における光ファイバ21の複数の位置の歪み、及び同一位置における光ファイバ21の複数の時間の歪みを歪分布データとして出力する。つまり、出力部34は、補間部32により補間した歪分布データを出力する(図3参照)。出力部34の出力形態は、特に限定されるものではなく、例えば、歪分布データを画像として表示装置から出力してもよく、歪分布データを文字として印刷装置から出力してもよい。また、出力部34は、算出部33により算出された測定対象物4の時間的変化も出力してもよい。
【0034】
次に、歪分布データ処理方法について説明する。
【0035】
まず、測定ステップS1として、測定器22は、異なる時刻に光ファイバ21の複数の位置の歪みを測定する。これにより、光ファイバセンサ2により、光ファイバ21の異なる位置の歪みを異なる時刻に測定した歪分布データが得られる。
【0036】
次に、取得ステップS2として、取得部31は、測定ステップS1で得られた分布データを取得する。つまり、取得部31は、光ファイバセンサ2が異なる時刻に光ファイバ21の複数の位置の歪みを測定した歪分布データを取得する。
【0037】
次に、補間ステップS3として、補間部32は、取得ステップS2において取得した歪分布データの時間及び位置の補間により、同一時刻における光ファイバ21の複数の位置の歪みを算出する。更に、補間部32は、取得ステップS2において取得した歪分布データの歪み及び位置の補間により、同一位置における光ファイバ21の複数の時間の歪みを算出する。
【0038】
次に、算出ステップS4として、算出部33は、補間ステップS3において補間した歪分布データから、測定対象物4の歪分布の時間的変化を算出する。
【0039】
次に、出力ステップS5として、出力部34は、補間ステップS3において算出した同一時刻における光ファイバの複数の位置の歪み、及び同一位置における光ファイバ21の複数の時間の歪みを出力する。なお、出力ステップS5では、算出ステップS4で算出した測定対象物4の歪分布の時間的変化も出力してもよい。
【0040】
このように、本実施形態では、分布型の光ファイバセンサ2が異なる時刻に光ファイバ21の複数の位置の歪みを測定すると、取得部31がこの歪分布データを取得する。そして、補間部32は、この歪分布データの時間及び位置の補間により、同一時刻における光ファイバ21の複数の位置の歪みを算出する。これにより、同一時刻における光ファイバ21の複数の位置の歪分布データを得ることができる。そして、光ファイバ21を測定対象物4に取り付けておくことで、同一時刻における測定対象物4の歪分布データを得ることができる。これにより、測定対象物4の同一時刻における歪分布を観察することができる。この場合、歪から変位を算出することで、測定対象物4の振動モードを観察することができる。
【0041】
また、補間部32は、歪分布データの歪み及び時間の補間により、同一位置における光ファイバ21の複数の時間の歪みを算出する。これにより、同一位置における光ファイバ21の歪の時間的変化を得ることができる。そして、光ファイバ21を測定対象物4に取り付けておくことで、同一位置における測定対象物4の歪の時間的変化を得ることができる。
【0042】
また、算出部33は、補間部32が補間した歪分布データから測定対象物4の歪分布の時間的変化を算出するため、測定対象物4の振動モード等を容易に観察することができる。
【0043】
また、出力部34は、補間部32が算出した歪分布データを出力するため、同一時刻における歪分布データ、及び同一位置における歪の時間的変化を容易に観察することができる。このとき、歪から算出された変位を出力することで、測定対象物4の振動モードを容易に観察することができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
図5は、実施例の実験装置を示す図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は左側面図、図5(c)は正面図である。図5に示すように、実施例の実験装置10では、測定対象物として、ジュラルミン製の細長い梁部材14を用いた。梁部材14の長さ(図5(a)における左右方向の寸法)を2.1mとし、梁部材14の幅(図5(a)における上下方向の寸法)を32mmとし、梁部材14の厚さ(図5(c)における上下方向の寸法)を6mmとした。梁部材14の右側端部を右支持部15Rで支持し、梁部材14の左側端部を左支持部15Lで支持した。右支持部15R及び左支持部15Lによる梁部材14の支持間の長さを、2.0mとした。
【0047】
図6は、梁部材を示す図であり、図6(a)は平面図、図6(b)は底面図である。図5及び図6に示すように、梁部材14の上面には、0.25m間隔で歪ゲージ16を9個取り付けた。具体的には、梁部材14の長さ方向における中央位置を0m地点とし、0m地点から右支持部15R側を正(+)側とし、0m地点から左支持部15L側を負(−)側とした。そして、−1m地点、−0.75地点、−0.50地点、−0.25地点、0m地点、0.25m地点、0.50m地点、0.75m地点及び1m地点の9地点に、それぞれ歪ゲージ16を取り付けた。また、梁部材14の下面には、歪ゲージ16と対向するように梁部材14の長さ方向に沿って光ファイバセンサ17の光ファイバ18を取り付けた。右支持部15R及び左支持部15Lの拘束条件を表1のように変えて、梁部材14の中央部を押すことにより梁部材14を振動させた。なお、表1の拘束条件は、梁部材14を橋梁モデルとした場合に、拘束条件1から拘束条件4に進むに従い、橋梁モデルのうち支承部(右支持部15R及び左支持部15L)が経時劣化して行く状況を再現した条件となる。
【表1】

そして、各歪ゲージ16により200Hzで同期した歪みを測定した。この測定値の分布データを、歪ゲージ16の測定歪分布データという。拘束条件1における歪ゲージ16の測定歪分布データを図7に示す。更に、図7に示す0m地点における歪の時間的変化を図8に示す。図8の(a)は、時間軸方向に測定した歪を線で結んだ測定歪分布データを示しており、図8の(b)は、測定した歪をそのまま点で表わした測定歪分布データを示している。
【0048】
また、光ファイバセンサ17により各歪ゲージ16に対応する位置の歪みを70Hzで巡回しながら測定した。この測定値の分布データを、光ファイバセンサ17の測定歪分布データという。拘束条件1における光ファイバセンサ17の測定歪分布データを図9に示す。なお、歪ゲージ16と光ファイバ18とは、梁部材14の反対側の面に取り付けられているため、歪ゲージ16の測定歪分布データと光ファイバセンサ17の測定歪分布データとは、正負逆の値となる。更に、図9に示す0m地点における歪の時間的変化を図10に示す。図10の(a)は、時間軸方向に測定した歪を線で結んだ測定歪分布データを示しており、図10の(b)は、測定した歪をそのまま点で表わした測定歪分布データを示している。
【0049】
また、光ファイバセンサ17により得られた歪分布データを、時間及び位置の補間により、同一時刻における光ファイバ18の各歪ゲージ16に対応する位置の歪みを算出した。この算出した歪分布データを、光ファイバセンサ17の補間歪分布データという。拘束条件1における光ファイバセンサ17の補間歪分布データを図11に示す。更に、図11に示す0m地点における歪の時間的変化を図12に示す。図12の(a)は、時間軸方向に算出した歪を線で結んだ測定歪分布データを示しており、図12の(b)は、算出した歪をそのまま点で表わした測定歪分布データを示している。
【0050】
図7に示すように、歪ゲージ16の測定歪分布データは、同一時刻において梁部材14の各位置の歪みを測定した歪分布データである。このため、梁部材14の同一時刻における歪分布を観察することができるとともに、梁部材14全体の歪みの時間的変化を観察することができる。
【0051】
これに対し、図9に示すように、光ファイバセンサ17の測定歪分布データは、異なる時刻において梁部材14の各位置の歪みを測定した離散的な歪分布データである。このため、梁部材14の同一時刻における歪分布を観察することができず、梁部材14全体の歪みの時間的変化も観察することができない。
【0052】
そして、図11に示すように、光ファイバセンサ17の補間歪分布データは、同一時刻における梁部材14の各位置の歪みが補間により算出された歪分布データである。このため、歪ゲージ16の測定歪分布データと同様に、梁部材14の同一時刻における歪分布を観察することができるとともに、梁部材14全体の歪みの時間的変化を観察することができる。
【0053】
また、図8の(a)及び(b)に示すように、歪ゲージ16の測定歪分布データでは、全ての測定時刻に同一位置の歪みを測定しているため、同一位置における歪の時間的変化を正確に観察することができる。
【0054】
これに対し、図10の(a)及び(b)に示すように、光ファイバセンサ17の測定歪分布データでは、全ての測定時刻に同一位置の歪みを測定していないため、歪ゲージ16の測定歪分布データ(図8の(a)及び(b)参照)と比較して、同一位置における歪の時間的変化を正確に観察することができない。特に、図10の(b)に示すように、測定した歪を線で結ばずに、測定した歪をそのまま点で表わすと、測定点が分散したように示されるため、同一位置における歪の時間的変化を観察することができない。
【0055】
そして、図12の(a)及び(b)に示すように、光ファイバセンサ17の補間歪分布データでは、同一時刻における梁部材14の各位置の歪みが補間により算出されているため、光ファイバセンサ17の測定歪分布データよりも、同一位置における歪の時間的変化を正確に観察することができる。
【0056】
次に、歪ゲージ16の測定歪分布データに基づいて算出した梁部材14の固有振動数と、光ファイバセンサ17の補間歪分布データに基づいて算出した梁部材14の固有振動数と、を比較した。この比較では、梁部材14を振動させてから10秒後における梁部材14の固有振動数を比較した。比較結果を表2に示す。梁部材14の固有振動数は、梁部材14全体の歪みの時間的変化に相当する。
【表2】

表2に示すように、拘束条件2と拘束条件3とでは、歪ゲージ16の測定歪分布データに基づいて算出した梁部材14の固有振動数と、光ファイバセンサ17の補間歪分布データに基づいて算出した梁部材14の固有振動数とが、同じ値となる。このため、固有振動数によっては、拘束条件2と拘束条件3とを区別することは難しい。しかしながら、歪ゲージ16の測定歪分布データに基づいて算出した梁部材14の固有振動数と光ファイバセンサ17の補間歪分布データに基づいて算出した梁部材14の固有振動数とは、全ての拘束条件において、極めて近接した値となっている。このため、光ファイバセンサ17の補間歪分布データは、固有振動数における変化を表すパラメータとして十分な精度を有していることが分かる。
【0057】
次に、歪ゲージ16の測定歪分布データに基づいて算出した梁部材14の減衰比と、光ファイバセンサ17の補間歪分布データに基づいて算出した梁部材14の減衰比と、を比較した。この比較では、梁部材14を振動させてから10秒後における梁部材14の減衰比を比較した。比較結果を表3に示す。
【表3】

表3に示すように、歪ゲージ16の測定歪分布データに基づいて算出した梁部材14の減衰比と光ファイバセンサ17の補間歪分布データに基づいて算出した梁部材14の減衰比とは、拘束条件が1から拘束条件4に進むに従い離れて行く。しかしながら、上述したように、拘束条件1から拘束条件4に進むに従い橋梁モデルが経時劣化して行く状況を再現した条件となるため、この比較結果から、橋梁モデルにおける減衰比の経時的な変化傾向を推定することができる。
【0058】
次に、各拘束条件において、歪ゲージ16の測定歪分布データと、光ファイバセンサ17の測定歪分布データと、光ファイバセンサ17の補間歪分布データと、を比較した。この比較では、0、π/3、2π/3、πの振動周期における梁部材14の歪みを比較した。比較結果を図13図16に示す。
【0059】
図13は、拘束条件1における比較結果を示す図である。図14は、拘束条件2における比較結果を示す図である。図15は、拘束条件3における比較結果を示す図である。図16は、拘束条件4における比較結果を示す図である。図13図16において、(a)は歪ゲージ16の測定歪分布データ、(b)は光ファイバセンサ17の測定歪分布データ、(c)は光ファイバセンサ17の補間歪分布データを示す。なお、光ファイバセンサ17は、ある時刻においては一点の歪みしか測定できないため、図13図16の(b)では、0、π/3、2π/3、πのときに測定された値以外は、前回測定された値のままとなっている。
【0060】
図13図16の(a)に示すように、歪ゲージ16の測定歪分布データでは、何れの拘束条件においても、梁部材14の同一時刻における歪分布を観察することができるとともに、梁部材14全体の歪みの時間的変化を観察することができる。
【0061】
これに対し、図13図16の(b)に示すように、光ファイバセンサ17の測定歪分布データは、歪ゲージ16の測定歪分布データからかけ離れた歪分布データとなっている。このため、何れの拘束条件においても、梁部材14の同一時刻における歪分布を観察することができず、梁部材14全体の歪みの時間的変化も観察することができない。
【0062】
そして、図13図16の(c)に示すように、光ファイバセンサ17の補間歪分布データは、歪ゲージ16の測定歪分布データに近い歪分布データとなっている。このため、梁部材14の同一時刻における歪分布を観察することができるとともに、梁部材14全体の歪みの時間的変化を観察することができる。
【0063】
次に、歪ゲージ16の測定歪分布データと、光ファイバセンサ17の補間歪分布データと、を比較した。この比較では、各振動周期における、歪ゲージ16の測定歪分布データと、光ファイバセンサ17の補間歪分布データとを、同じグラフ上にプロットした。拘束条件1における各歪分布データの比較結果を図17に示す。図17において、横軸は、歪ゲージ16の測定歪分布データを示しており、縦軸は、光ファイバセンサ17の補間歪分布データを示している。
【0064】
図17に示すように、歪ゲージ16の測定歪分布データと光ファイバセンサ17の補間歪分布データとは、反比例の関係となっている。上述したように、歪ゲージ16の測定歪分布データと光ファイバセンサ17の測定歪分布データとは、正負逆の値となることから、この関係から、光ファイバセンサ17の補間歪分布データは、十分な精度を有していることが分かる。
【0065】
次に、光ファイバセンサ17の補間歪分布データの補間精度を確かめるために、歪ゲージ16の測定歪分布データと光ファイバセンサ17の測定歪分布データとの相関係数Rと、歪ゲージ16の測定歪分布データと光ファイバセンサ17の補間歪分布データとの相関係数Rと、を算出した。算出結果を表4に示す。
【表4】

また、この二つの相関係数Rと、上述した歪ゲージ16の測定歪分布データと光ファイバセンサ17の補間歪分布データとに基づいて算出した固有振動数との差異(Discrepancy in Natural Frequency)と、歪ゲージ16の測定歪分布データと光ファイバセンサ17の補間歪分布データとに基づいて算出した減衰比の差異(Discrepancy in Damping Ratio)と、を同じ図にプロットした。プロットした図を図18に示す。図18において、横軸は、正規化した固有振動数(Normalized Natural Frequency)を示し、左縦軸は、差異(Discrepancy)を示し、右縦軸は、相関係数Rを示す。

【0066】
表4及び図18に示すように、歪ゲージ16の測定歪分布データに対する光ファイバセンサ17の補間歪分布データの相関は、光ファイバセンサ17の測定歪分布データよりも高くなっている。このことから、光ファイバセンサ17の補間歪分布データは、十分な精度を有していることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
1…歪測定装置、2…光ファイバセンサ、21…光ファイバ、22…測定器、31…取得部、32…補間部、34…出力部、3…歪分布データ処理装置、4…測定対象物、10…実験装置、14…梁部材、15L…左支持部、15R…右支持部、16…歪ゲージ、17…光ファイバセンサ、18…光ファイバ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18