(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
建築鉄骨分野において、溶接施工の能率向上を図るため、溶接用ソリッドワイヤを用いた高電流域でのガスシールドアーク溶接が行われている。溶接用ソリッドワイヤでの高電流溶接では、1層毎の溶着量が多いので溶接の高能率化が可能であるが、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、ビード外観・形状が不良であるなど溶接作業性が悪いという問題がある。また、スパッタが大粒になるため、鋼板表面に付着したスパッタを除去する作業が困難で作業能率も不良であった。さらに、ワイヤ中にSi、MnやTiの脱酸成分やBを多く含有しているため、スラグ生成量が多く、かつスラグが溶接金属から剥離しにくいという問題があった。
【0003】
これら問題を解決する手段として、スパッタ発生量が少ないガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの開発が行われており、例えば特開2006−95551号公報(特許文献1)には、ワイヤ表面に二硫化モリブデン、リン脂質および常温で液体の潤滑剤からなる送給潤滑剤を適量付着させることでワイヤ送給性を良好にし、溶接時のスパッタ発生量を低減する技術が開示されている。また、特開2009−255142号公報(特許文献2)には、ワイヤ表層下にアルカリ金属含浸部を有することでスパッタ発生量を低減できる溶接用ソリッドワイヤが提案されている。しかし、溶接用ソリッドワイヤでの高電流溶接では、発生するスパッタ自体が多いため、たとえワイヤ送給性が良好になってもスパッタ発生量を十分に低減できず、また、スラグ剥離性、ビード外観・形状も改善されないという問題があった。
【0004】
近年では、更なる溶接施工の高能率化の目的から、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件に対応するガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤが開発されておりJIS Z3312 YGW18に規定されている。このようなガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、溶接金属の強度および靭性の低下を招くことなく溶接施工が可能な条件として、引張強さが490MPa級の高張力鋼に対して、最大入熱40kJ/cm、最高パス間温度350℃の溶接施工条件が許容される。また、引張強さが520MPa級の高張力鋼に対しては、最大入熱30kJ/cm、最高パス間温度250℃の溶接施工条件が許容される。
【0005】
大入熱・高パス間温度の溶接施工条件に対応したガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、例えば、特開平10−230387号公報(特許文献3)、特開平11−90678号公報(特許文献4)および特開2001−287086号公報(特許文献5)等にあるように、ワイヤ中にMo、Cr等を多く含有させたものが提案されている。これらソリッドワイヤによれば、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においても、溶接金属の強度および靭性を確保することが可能であるが、やはりアークが不安定でスパッタ発生量が多く、ビード外観・形状が不良でスラグ剥離性が悪いなど溶接作業性が悪いという問題があった。
【0006】
また、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で溶接金属の強度および靭性を確保しつつ、溶接作業性が良好なガスシールドアーク溶接用ワイヤとして、例えば、特開2005−279683(特許文献6)、特開2011−25298号公報(特許文献7)には、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件の下で、良好な溶接作業性が得られるとともに、機械的性能に優れた溶接金属が得られるフラックス入りワイヤが開示されている。しかし、これらのフラックス入りワイヤでは、溶接用ソリッドワイヤでの高電流溶接よりもスパッタ発生量は減少できるものの、やはりスパッタ発生量は総じて多く、また、スラグ生成量が多いので、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすいという問題があった。
【0007】
一方、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件で溶接金属の強度および靭性を確保し、スラグ剥離性が良好で溶接作業性および耐溶接割れ性が良好なガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤとして、例えば、特開2009−106966(特許文献8)には、スラグ結晶化度指数なる式でスラグ剥離性について評価し改善を行っている。このソリッドワイヤは、スラグ剥離性については良好であるがスパッタ発生量は多く、鋼板表面に多くのスパッタが付着するため除去作業が困難となり作業能率も悪いという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、490〜550MPa級鋼の大電流溶接でスラグ剥離性が良好でスパッタ発生量が少なく、アークの安定性およびビード外観・形状が良好で、スラグ巻き込み等の溶接欠陥が少ないなど溶接作業性に優れ、さらに、大入熱および高パス間温度の溶接施工条件で適正な強度と靭性を有する溶接金属が得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、490〜550MPa級鋼の大電流溶接、さらに大入熱・高パス間温度でのガスシールドアーク溶接において、適正な強度および靭性を有する溶接金属が得られるとともに、アークが安定し、スラグ剥離性が良好でスパッタ発生量が少なく、ビード外観・形状が良好で、溶接欠陥が防止できるなど良好な溶接作業性が得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分組成について詳細に検討した。
【0011】
その結果、大電流溶接での溶接施工条件において、アークの安定性を維持しスパッタ発生量を低減させるべく、Na化合物とK化合物の量および弗素化合物量を適正にするとともに、SiO
2を適量含有させることでビード外観・形状を良好にすることを見出した。
【0012】
また、大電流での溶接施工条件における溶接金属の適正な強度と同時に安定した高靭性を達成させるためには、ワイヤ中のスラグ生成剤である酸化物を極力減らし、合金成分のC、Si、Mn、Cu、Ti、B、Alのそれぞれの適正化が有効であることを知見した。さらに、ワイヤ中のMo、B量を適正にすることにより、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においても、溶接金属の靭性を低下させることなく高強度化が可能であることも知見した。
【0013】
また、大電流での溶接施工条件において溶接金属の適正な強度と靭性を確保しつつ、スラグ剥離性を改善するため、スラグの表面張力、粘性、凝固温度およびスラグと溶着金属表面のぬれ性といった物理的性質について影響を与える成分を検討した。その結果、ワイヤ成分中のSi、Mn、Ti、S量の適正化がスラグ剥離性を改善することを知見した。
【0014】
本発明はこれらの知見に基づいてなされたものであって、その要旨は、鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、C:0.05〜0.18%、Si:0.6〜1.6%、Mn:1.8〜2.8%、S:0.008〜0.030%、Cu:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.25%、B:0.0015〜0.010%を含有し、Al:0.01%以下で、かつ、Mn/(Si+Mn+Ti)の値が0.62以上、Ti/(Si+Mn+Ti)の値が0.06以下、Ti/Sの値が15以下で、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、弗素化合物:F換算値の合計で0.01〜0.1%、SiO
2:0.01〜0.2%、Na化合物およびK化合物:Na
2O換算値とK
2O換算値の合計で0.02〜0.15%を含有し、残部は鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分および不可避的不純物からなることを特徴とする。
また、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Mo:0.1〜0.5%をさらに含有することも特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、大電流溶接において、スラグ剥離性が良好でスパッタ発生量が少なく、アークの安定性およびビード外観・形状が優れ、スラグ量が少なく溶接欠陥が防止できるなど溶接作業性が良好で、さらに、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においても溶接金属の強度および靭性を十分に確保し、高能率に高品質な溶接金属が得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、各成分組成それぞれの単独および共存による相乗効果によりなし得たもので、以下にそれぞれの各成分組成の限定理由を述べる。なお、各成分組成の含有率は、フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載して表すこととする。
【0017】
[鋼製外皮とフラックスの合計でC:0.05〜0.18%]
Cは、溶接金属の強度を向上するために必要な元素である。Cが0.05%未満であると、大電流での溶接施工条件で溶接金属の強度が得られない。一方、Cが0.18%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が低下する。また、高温割れ感受性が高くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.05〜0.18%とする。なお、Cは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから鉄粉および合金粉等として添加できる。
【0018】
[鋼製外皮とフラックスの合計でSi:0.6〜1.6%]
Siは、溶接金属の脱酸および溶接金属の強度確保のために添加する。大電流での溶接施工条件ではSiの消耗が多いが、Siが溶接金属に適量歩留まって強度を確保する必要がある。Siが0.6%未満であると、溶接金属が脱酸不足となり、大電流での溶接施工条件で溶接金属の強度および靭性が低下する。一方、Siが1.6%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靭性が安定して得られない。また、溶接時に生成するスラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.6〜1.6%とする。なお、Siは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属SiやFe−Si、Fe−Si−Mn等の合金粉により添加できる。
【0019】
[鋼製外皮とフラックスの合計でMn:1.8〜2.8%]
Mnは、溶接金属の靭性確保と強度向上のために添加する。Mnが1.8%未満であると、大電流での溶接施工条件でMnの消耗が多くなり溶接金属の強度が低く、靭性が十分に確保できなくなる。一方、Mnが2.8%を超えると、溶接金属の靭性が安定して得られない。また、生成スラグ量が増加してスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMnは1.8〜2.8%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属MnやFe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金粉末により添加できる。
【0020】
[鋼製外皮とフラックスの合計でS:0.008〜0.030%]
Sは、スラグの溶接金属からの剥離を促進する作用と、スラグの結晶化度を低下する作用があり、スラグ剥離性の向上のために添加する。Sが0.008%未満であると、スラグ剥離性が不良となる。一方、Sが0.030%を超えると、溶接金属に割れが発生しやすくなる。従って、Sは0.008〜0.030%とする。なお、Sは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからFe−S等の合金粉末により添加できる。
【0021】
[鋼製外皮とフラックスの合計でCu:0.05〜0.5%]
Cuは、析出強化作用を有し、溶接金属の組織を微細化して靭性を安定させる。Cuが0.05%未満であると、大電流での溶接施工条件で安定した溶接金属の靭性が得られない。一方、Cuが0.5%を超えると、析出脆化が生じて溶接金属の靭性が低下する。また、高温割れが発生しやすくなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCuは0.05〜0.5%とする。なお、Cuは、鋼製外皮に含まれる成分および鋼製外皮表面に施したCuめっき分の他、フラックスからの金属CuやFe−Si−Cu等の合金粉により添加できる。
【0022】
[鋼製外皮とフラックスの合計でTi:0.05〜0.25%]
Tiは、脱酸剤として作用するとともに、溶接金属中にTiの微細酸化物を生成し溶接金属の靭性をより向上させる。Tiが0.05%未満であると、大電流での溶接施工条件で溶接金属の靭性が低下する。一方、Tiが0.25%を超えると、スラグ生成量が増加してスラグ巻き込み等の欠陥が生じやすくなる。また、溶接金属中の固溶Tiが多くなり靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でTiは0.05〜0.25%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属TiやFe−Ti等の合金粉から添加できる。
【0023】
[鋼製外皮とフラックスの合計でB:0.0015〜0.010%]
Bは、大電流および大入熱・高パス間温度での溶接施工条件において溶接金属の組織を微細化して靭性を向上させる。Bが0.0015%未満であると、その効果が得られず、大電流および大入熱・高パス間温度での溶接施工条件で溶接金属の靭性が低下する。一方、Bが0.010%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなると共に、粒界が脆化して靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でBは0.0015〜0.010%とする。なお、Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、Fe−Si−B、Fe−Mn−B等の合金粉により添加できる。
【0024】
[鋼製外皮とフラックスの合計でAl:0.01%以下]
Alは、0.01%を超えると、溶接金属中に酸化物となって残留し、溶接金属の靭性を低下させる。また、アークが不安定となりスパッタ発生量が増加する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計で含有量は0.01%以下とする。なお、Alは必須の成分ではなく、含有率が0%でもよい。
【0025】
[Mn/(Si+Mn+Ti)の値が0.62以上]
スラグ剥離性はSi、MnおよびTiの比率が影響し、この三元系においてはMnが多く、Tiが少なければスラグ剥離性は良好となる。実験によりMn/(Si+Mn+Ti)の値が0.62以上であれば、スラグ剥離性は良好となる結果が得られた。従って、Mn/(Si+Mn+Ti)の値は0.62以上とする。
【0026】
[Ti/(Si+Mn+Ti)の値が0.06以下]
さらに、実験によりTi/(Si+Mn+Ti)の値が0.06以下であれば、スラグ剥離性は良好となる結果が得られた。従って、Ti/(Si+Mn+Ti)の値は0.06以下とする。
【0027】
[Ti/Sの値が15以下]
Sは、スラグの溶接金属からの剥離を促進する作用と、スラグの結晶化度を低下する作用がある。Tiは強力な脱酸元素であるため、ほとんどのTiがTiO
2としてスラグの主成分となる。実験結果よりTi/Sの値が15以下であればスラグ剥離性を改善する傾向が得られた。従って、Ti/Sの値は15以下とする。
【0028】
[フラックス中に含有する弗素化合物:F換算値の合計:0.01〜0.1%]
弗素化合物は、アークを集中させて安定させる効果がある。弗素化合物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が得られず、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。一方、弗素化合物のF換算値の合計が0.1%を超えると、アークが荒く不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。従って、フラックス中に含有する弗素化合物のF換算値の合計は0.01〜0.1%とする。なお、弗素化合物は、フラックスからのCaF
2、NaF、LiF、MgF
2、K
2SiF
6、Na
3AlF
6、AlF
3等により添加でき、F換算値はそれらに含有されるF量の合計である。
【0029】
[フラックス中に含有するSiO
2:0.01〜0.2%]
SiO
2は、大電流での溶接施工条件において、溶融スラグの粘性を高めてスラグ被包性を向上させてビード止端部のなじみを良好にし、ビード外観・形状を良好にする。SiO
2が0.01%未満であると、溶接ビードのビード止端部のなじみが悪くなり、ビード外観・形状が悪くなる。一方、SiO
2が0.2%を超えると、溶接金属中の酸素量が増加して靭性が低下する。また、スラグ量が多くなり、スラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、フラックス中に含有するSiO
2は0.01〜0.2%とする。なお、SiO
2は、フラックスからの珪砂や、珪酸ソーダおよび珪酸カリウムからなる水ガラスの固質成分等から添加できる。
【0030】
[フラックス中に含有するNa化合物およびK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計で0.02〜0.15%]
Na化合物およびK化合物は、アークをソフトにして安定にする。Na化合物およびK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が0.02%未満であると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。一方、Na化合物およびK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が0.15%を超えると、アークが強くなりすぎ、スパッタ発生量が多くなる。また、ビード止端部のなじみが悪くなり、ビード外観・形状が不良となる。従って、フラックス中に含有するNa化合物およびK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計は0.02〜0.15%とする。なお、Na化合物やK化合物は、珪酸ソーダおよび珪酸カリウムからなる水ガラスの固質成分、K
2SiO
3、Na
2SiO
3、NaF、K
2SiF
6等の粉末から添加できる。
【0031】
[鋼製外皮とフラックスの合計でMo:0.1〜0.5%]
Moは、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件において、溶接金属の強度を確保する効果を有するので必要に応じて添加する。Moが0.1%未満であると、これらの効果が十分に得られず、大入熱・高パス間温度での溶接施工条件で溶接金属の必要な強度が得られない。一方、Moが0.5%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が安定して得られない。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMoは0.1〜0.5%とする。なお、Moは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスへの金属Mo粉やFe−Mo合金粉から添加できる。
【0032】
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、Fe−Si、Fe−Si−Mn、Fe−Mn、Fe−Ti合金などの鉄合金粉のFe分および不可避的不純物である。
【0033】
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分は以上説明したとおりであるが、その構造は鋼製外皮をパイプ状に成型し、その内部にフラックスを充填したものである。ワイヤの構造の種類としては、成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られる鋼製外皮に継目の無いワイヤと、鋼製外皮の合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継目を有するワイヤとに大別できる。本発明においては、何れの断面構造のワイヤも採用することができるが、鋼製外皮に継目を有するワイヤは、溶接金属の強度が高くなると低温割れが生じやすくなるので水分含有量の少ない原材料を用いる必要がある。一方、鋼製外皮に継目が無いワイヤは、ワイヤ中の全水素量を低減することを目的とした熱処理が可能であり、また製造後のフラックスの吸湿が無いため、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性の向上を図ることができるので、より好ましい。
【0034】
また、フラックス充填率は特に限定しないが、生産性の観点からワイヤ全質量に対して8〜20%とするのが好ましい。
なお、シールドガスは、炭酸ガスとし、シールドガスの流量は耐欠陥性および大気からの窒素の混入を防ぐために20〜35リットル/分であることが好ましい。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
JIS G3141に規定されるSPCCを(C:0.01〜0.05%)、鋼製外皮として使用し、鋼製外皮を成形する工程でU字型に成形した後にフラックスを充填し、鋼製外皮の合わせ目を溶接した継目が無いワイヤを造管して伸線し、表1および表2に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。ワイヤ径は1.4mmとした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1および表2に示す試作したフラックス入りワイヤを用いて、溶接作業性、スラグ剥離性、スパッタ発生量、溶接欠陥の有無および溶接金属性能の調査を行なった。
溶接作業性および溶接金属性能は、表3に示す条件No.がT1の施工条件で、35°レ形開先、ルートギャップ8mmの裏当金付きの開先を多層盛溶接した。調査項目は溶接時のアークの安定性、ビード外観・形状およびスラグ剥離性である。
【0039】
【表3】
【0040】
スラグ剥離性は、溶接後のスラグの自然剥離状況から評価した。溶接終了後、溶接試験体を1時間空冷し、スラグが自己崩壊を起こし、自然に剥離したスラグの質量が全スラグ量の30%以上を良好、30%未満を不良と評価した。
【0041】
なお、溶接時のワイヤ送給は6m長さのコンジットケーブルを用いた。溶接終了後裏当金を削除してX線透過試験を実施した。また、溶接金属部からA0号引張試験片および衝撃試験を採取して機械的性能を調査した。引張強さは490〜670MPaを良好とし、靭性の評価は、0℃におけるシャルピー衝撃試験を各5本実施し、吸収エネルギーの平均値は80J以上、最低値は60J以上を良好とした。
【0042】
スパッタの発生量は、銅製の捕集箱を用いて、表3に示す条件No.がT2の溶接条件でビードオンプレート溶接を30秒×5回繰り返し行い、1分間当たりのスパッタ発生量を算出した。これにより1分間当たりのスパッタ発生量が1.5g以下を良好とした。それらの結果を表4にまとめて示す。
【0043】
【表4】
【0044】
表1、表2および表4中のワイヤ記号1〜8が本発明例、ワイヤ記号9〜21は比較例である。本発明例であるワイヤ記号1〜8は、フラックス入りワイヤ中のC、Si、Mn、S、Cu、Ti、B、Al、Mn/(Si+Mn+Ti)、Ti/(Si+Mn+Ti)、Ti/Sの値が適正で、フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計、SiO
2、Na化合物およびK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が適量であるので、大電流の溶接施工条件においてもアークが安定してスラグ剥離性およびビード外観・形状が良好で、スパッタ発生量が少なく、溶接欠陥がなく、溶接金属の引張強さおよび吸収エネルギーの平均値および最低値ともに良好で極めて満足な結果であった。
【0045】
比較例中ワイヤ記号9は、Cが少ないので、溶接金属の引張強さが低かった。また、Mnが多いので、吸収エネルギーの最低値が低値で、スラグ生成量が多くなったのでスラグ巻き込み欠陥が生じた。
ワイヤ記号10は、Cが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。また、クレータ部に割れが生じた。さらに、Sが少ないので、スラグ剥離性が不良であった。
【0046】
ワイヤ記号11は、Siが少ないので、溶接金属の引張強さが低く吸収エネルギーも低値であった。また、Sが多いので、高温割れが発生した。
ワイヤ記号12は、Siが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーの最低値が低く、スラグ量が増加してスラグ巻き込み欠陥が生じた。また、弗素化合物のF換算値の合計が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
【0047】
ワイヤ記号13は、Mnが少ないので、溶接金属の引張強さが低く吸収エネルギーも低値であった。また、弗素化合物のF換算値の合計が多いので、アークが荒く不安定でスパッタ発生量が多かった。
ワイヤ記号14は、Alが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低く、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、SiO
2が少ないので、ビード外観・形状不良であった。
【0048】
ワイヤ記号15は、Cuが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーの最低値が低かった。また、Ti/(Si+Mn+Ti)の値が高いのでスラグ剥離性が不良であった。
ワイヤ記号16は、Cuが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、クレータ部に割れが生じた。さらに、Na
2O換算値とK
2O換算値の合計が多いので、アークが強くスパッタ発生量も多く、ビード外観・形状が不良であった。
【0049】
ワイヤ記号17は、Tiが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、Na
2O換算値とK
2O換算値の合計が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
ワイヤ記号18は、SiO
2が多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値で、スラグ発生量が多くスラグ巻き込み欠陥が生じた。さらに、Mn/(Si+Mn+Ti)の値が低いので、スラグ剥離性が不良であった。
【0050】
ワイヤ記号19は、Tiが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値で、スラグ発生量が多くスラグ巻き込み欠陥が生じた。また、Ti/Sの値が高いので、スラグ剥離性が不良であった。
【0051】
ワイヤ記号20は、Ti/(Si+Mn+Ti)の値が高いので、スラグ剥離性が不良であった。また、Bが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号21は、Sが少ないので、スラグ剥離性が不良であった。また、Bが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。
【実施例2】
【0052】
実施例1と同様にJIS G3141に規定されるSPCCを(C:0.04%)、鋼製外皮として使用し、鋼製外皮を成形する工程でU字型に成形した後にフラックスを充填し、鋼製外皮の合わせ目を溶接した継目が無いワイヤを造管して伸線し、表5および表6に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。ワイヤ径は1.4mmとした。
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
表5および表6に示す試作したフラックス入りワイヤを用いて、溶接作業性、スパッタ発生量の測定および溶接金属性能の調査を行なった。
溶接作業性および溶接金属性能は、表3に示す条件No.がT3の大入熱・高パス間温度の施工条件で、35°レ形開先、ルートギャップ8mmの裏当金付きの開先を多層盛溶接した。調査項目は実施例1と同様に溶接時のアークの安定性、ビード外観・形状およびスラグ剥離性である。
【0056】
スラグ剥離性は、溶接後のスラグの自然剥離状況から評価した。溶接終了後、溶接試験体を1時間空冷し、スラグが自己崩壊を起こし、自然に剥離したスラグの質量が全スラグ量の30%以上を良好、30%未満を不良と評価した。
【0057】
なお、溶接時のワイヤ送給は6m長さのコンジットケーブルを用いた。溶接終了後裏当金を削除してX線透過試験を実施した。また、溶接金属部からA0号引張試験片および衝撃試験を採取して機械的性能を調査した。引張強さは520〜740MPaを良好とし、靭性の評価は、0℃におけるシャルピー衝撃試験を各5本実施し、吸収エネルギーの平均値は80J以上、最低値は60J以上を良好とした。
【0058】
スパッタの発生量は、実施例1と同一の捕集方法で、1分間当たりのスパッタ発生量を算出した。1分間当たりのスパッタ発生量が1.5g以下を良好とした。それらの結果を表7にまとめて示す。
【0059】
【表7】
【0060】
表5、表6および表7中のワイヤ記号22〜24が本発明例、ワイヤ記号25および26は比較例である。本発明例であるワイヤ記号22〜24は、フラックス入りワイヤ中のC、Si、Mn、S、Cu、Ti、B、Al、Mo、Mn/(Si+Mn+Ti)、Ti/(Si+Mn+Ti)およびTi/Sの値が適正で、フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計、SiO
2、Na化合物およびK化合物のNa
2O換算値とK
2O換算値の合計が適量であるので、大入熱・高パス間温度の溶接施工条件においてもアークが安定してスラグ剥離性およびビード外観・形状が良好で、スパッタ発生量が少なく、溶接欠陥がなく、溶接金属の引張強さおよび吸収エネルギーの平均値および最低値ともに良好で、極めて満足な結果であった。
【0061】
比較例中、ワイヤ記号25は、Mn/(Si+Mn+Ti)の値が低いので、スラグ剥離性が不良であった。また、Moが少ないので、溶接金属の引張強さが低かった。
ワイヤ記号26は、Ti/(Si+Mn+Ti)の値が高いので、スラグ剥離性が不良であった。また、Moが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーの最低値が低かった。