特許第6486856号(P6486856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6486856誘導加熱炉用坩堝及び当該誘導加熱炉用坩堝の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486856
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】誘導加熱炉用坩堝及び当該誘導加熱炉用坩堝の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20190311BHJP
   F27B 14/10 20060101ALI20190311BHJP
   H05B 6/24 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   G21F9/30 551J
   F27B14/10
   H05B6/24
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-56977(P2016-56977)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-173033(P2017-173033A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2017年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592134871
【氏名又は名称】日本坩堝株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 昌典
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 晋
(72)【発明者】
【氏名】竹内 晋之介
(72)【発明者】
【氏名】伊能 知宏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 知晃
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−267721(JP,A)
【文献】 特開2014−025819(JP,A)
【文献】 特開昭50−034318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/30
F27B 14/10
H05B 6/24
F27D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導コイルからの誘導加熱により発熱して内部に投入される放射性廃棄物を溶融する誘導加熱炉用坩堝の製造方法であって、
カーボン、炭化珪素及びアルミナを含むとともに、カーボンを50重量%以上80重量%以下含有する材料を配合する配合工程と、
前記材料にバインダーを加えて混練する混練工程と、
前記混練工程により得られる混練物を加圧下で成形する成形工程と、
前記成形工程により得られる成形物を還元焼成する焼成工程と、
焼成された成形物を含浸処理する含浸処理工程と、
含浸処理された成形物を熱処理する熱処理工程と、を備える誘導加熱炉用坩堝の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程では、冷間静水圧プレス成形法によって50MPa以上の圧力で前記混練物を成形する請求項に記載の誘導加熱炉用坩堝の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程では、1000℃〜1400℃の温度で熱処理を行う請求項1又は2に記載の誘導加熱炉用坩堝の製造方法
【請求項4】
前記含浸処理工程では、溶融ピッチで含浸処理を行う請求項1〜のいずれかに記載の誘導加熱炉用坩堝の製造方法。
【請求項5】
誘導コイルからの誘導加熱により発熱して内部に投入される放射性廃棄物を溶融する誘導加熱炉用坩堝であって、
カーボン、炭化珪素及びアルミナを含有する材料からなるとともに、カーボンの含有量が50重量%以上80重量%以下であり
気孔率が6%〜13%であり、
嵩比重が1.99〜2.30であり、
曲げ強度が8.0MPa以上である誘導加熱炉用坩堝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱炉用坩堝及び当該誘導加熱炉用坩堝の製造方法に関し、特に、原子力発電所などから発生する低レベルの放射性廃棄物を高周波誘導加熱により溶融して固化する際に用いられる誘導加熱炉用坩堝及び当該誘導加熱炉用坩堝の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力発電所などで発生する放射性廃棄物は、高レベルと低レベルとに大別される。さらに低レベルの放射性廃棄物は、その汚染度に基づき高い順に、L1,L2,L3の3クラスに分類される。これらの低レベルの放射性廃棄物のうち、可燃性の放射性廃棄物は、まず焼却施設で焼却されて灰に減溶され、その焼却灰や不燃性の雑固体を誘導加熱炉用坩堝(以下、単に「坩堝」という。)内で高周波誘導加熱により溶融し、坩堝内で冷却固化して処分する方法が知られている。
【0003】
この種の坩堝には、黒鉛が含有された導電性を有する発熱性のものが用いられ、坩堝で発生した熱が放射性廃棄物に伝導されて放射性廃棄物が溶融する。放射性廃棄物の溶融には通常1500℃前後の高温が必要とされるので、この種の坩堝は、一定以上の発熱特性に加えて、高温でも長期間使用できる耐久性が必要とされる。また、放射性廃棄物の廃棄処理には、高い安全性も必要とされ、溶融した放射性廃棄物が外部に漏れ出すことを防止する必要もある。
【0004】
特許文献1には、坩堝をセラミック製の外筒内に収納し、坩堝と外筒との間に耐熱性粉体を充填して2層構造にする技術が開示されている。この特許文献1では、仮に内側の坩堝が破損しても、溶融した放射性廃棄物が外筒により外部へ流出することが防止されている。また、炭化珪素やアルミナなどの骨材をカーボンボンドにより焼結して、導電性を備えた坩堝が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−122599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、外筒がセラミック製であるため、物理的衝撃により外筒が破損するおそれがあり、外筒が万一破損すると、内側の坩堝が破損した際に、溶融した放射性廃棄物が外部に流出する。そこで、外筒を物理的衝撃に強い金属製にすることで、物理的衝撃に対して外筒を破損し難くすることができるが、炭化珪素やアルミナなどの骨材をカーボンボンドにより焼結した坩堝に対して金属製の外筒を用いると、高周波誘導加熱時に、金属製の外筒の温度が内側の坩堝の温度より高くなるため、放射性廃棄物が十分に溶融できる温度まで坩堝の温度を上昇させることはできないという課題がある。
【0007】
本発明は、上記した課題に着目してなされたもので、金属製の外筒を用いたとしても、誘導加熱により放射性廃棄物を溶融可能な温度まで十分に上昇させることができる誘導加熱炉用坩堝及び当該誘導加熱炉用坩堝の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、誘導コイルからの誘導加熱により発熱して内部に投入される放射性廃棄物を溶融する誘導加熱炉用坩堝の製造方法であって、カーボン、炭化珪素及びアルミナを含むとともに、カーボンを30重量%より多く含有する材料を配合する配合工程と、前記材料にバインダーを加えて混練する混練工程と、前記混練工程により得られる混練物を加圧下で成形する成形工程と、前記成形工程により得られる成形物を還元焼成する焼成工程と、焼成された成形物を含浸処理する含浸処理工程と、含浸処理された成形物を熱処理する熱処理工程と、を備える誘導加熱炉用坩堝の製造方法により達成される。
【0009】
上記構成の誘導加熱炉用坩堝の製造方法においては、前記材料には、カーボンが50重量%以上80重量%以下含有されていることが好ましい。
【0010】
また、前記成形工程では、冷間静水圧プレス成形法によって50MPa以上の圧力で前記混練物を成形することがさらに好ましい。
【0011】
また、前記熱処理工程では、1000℃〜1400℃の温度で熱処理を行うことがさらに好ましい。
【0012】
また、前記含浸処理工程では、溶融ピッチで含浸処理を行うことがさらに好ましい。
【0013】
また、本発明の前記目的は、誘導コイルからの誘導加熱により発熱して内部に投入される放射性廃棄物を溶融する誘導加熱炉用坩堝であって、カーボン、炭化珪素及びアルミナを含有する材料からなるとともに、カーボンの含有量が30重量%より大きく、気孔率が6%〜13%であり、嵩比重が1.99〜2.30であり、曲げ強度が8.0MPa以上である誘導加熱炉用坩堝によっても達成される。
【0014】
上記構成の誘導加熱炉用坩堝においては、カーボンの含有量が50重量%以上80重量%以下であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る誘導加熱炉用坩堝によれば、電気比抵抗が10×10−6Ωm以下と十分に低いために、電気抵抗が十分に低下し、これに伴い誘導加熱時に坩堝内に生じる渦電流によって適切なジュール熱が生じる結果、坩堝が効果的に発熱する。したがって、金属製の外筒内に収容された状態で誘導加熱された場合であっても、坩堝の温度を放射性廃棄物を溶融可能な温度まで十分に上昇させることができるので、放射性廃棄物を適切に溶融できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る誘導加熱炉用坩堝を模式的に示す断面図である。
図2】高周波誘導加熱炉に用いられる溶融容器を模式的に示す断面図である。
図3】カーボン含有量と電気比抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る誘導加熱炉用坩堝1(以下、単に「坩堝1」という。)の縦断面図である。本発明の坩堝1は、高周波誘導加熱炉(図示せず)において、例えば原子力発電所などから発生する低レベルの放射性廃棄物を高周波誘導加熱により溶融して固化する際に用いられる。溶融対象となる放射性廃棄物は、例えば焼却灰、フィルタ類、保温材、金属類、ガラス、コンクリートなどであるが、これらに限定されるものではない。放射性廃棄物のうち、例えば紙、布切れなどの可燃物は、予め焼却炉で焼却されて灰に減容され、その焼却灰や不燃性の雑固体が坩堝1により溶融される。
【0018】
高周波誘導加熱炉(図示せず)において、坩堝1は、図2に示すように、外筒10内に間に断熱材11が充填された状態で収容された溶融容器4の形態で用いられる。外筒10は、上部が開口する有底の金属製の容器である。外筒10は、電気比抵抗が1×10−7Ωm以上の金属によって形成することで、誘導コイル(図示せず)により生じる渦電流により外筒10が高温になり過ぎることを抑制することができる。また、外筒10は、非磁性金属により形成することが好ましく、これにより、外筒10に生じる渦電流損を小さくでき、外筒10の発熱を効果的に抑えることができる。断熱材11は、公知の断熱材を用いることができ、例えばファインフレックス、セラミックファイバー、珪砂などを用いることができる。断熱材11により、坩堝1からの輻射熱の影響を外筒10が受けることを防止することができる。
【0019】
坩堝1は、上部が開口する有底円筒状の容器であり、底壁部2及び周壁部3を備える。坩堝1は、カーボン、アルミナ及び炭化珪素を特定の割合で配合した材料にバインダーを適当量加えて混練した混練物を、加圧成形して焼成した後、含浸処理及び熱処理を施すことで製造される。当該製造方法において、坩堝1のカーボン含有率を調整するとともに、含浸処理を施すことで、坩堝1の物理特性として電気比抵抗が10×10−6Ωm以下、好ましくは6.2×10−6Ωm以下となるように調整されている。
【0020】
カーボンは、坩堝1に導電性を付与するとともに、坩堝1の耐スポール性及び耐漏れ性の向上を果たす。カーボンとしては、例えば鱗状黒鉛を用いることが好ましく、例えば炭素分が70%以上の高純度のものを用いることが好ましい。黒鉛中に灰分などの不純物が多いと、誘導加熱時に分解変質が生じて電気特性に変化をきたし、坩堝が損傷するおそれがあるためである。また、鱗状黒鉛としては、例えば粒度がタイラー標準フルイ150μm以上1000μm以下である鱗状黒鉛を用いることができる。
【0021】
カーボンの配合割合は、使用する高周波誘導加熱炉に合わせた電気比抵抗となるように調整するが、下限値を30重量%よりも大きくする必要があり、40重量%以上(もしくは40重量%より大きく)とすることが好ましく、50重量%以上とすることがより好ましく、55重量%以上とすることがより好ましく、70重量%以上とすることがより好ましい。また、カーボンの配合割合は、上限値が80重量%以下であることが好ましい。カーボンの配合割合を30重量%より大きくすると、その後に坩堝1に含浸処理を施すことで、坩堝1の電気比抵抗を10×10−6Ωm以下、好ましくは6.2×10−6Ωm以下とすることができる。これにより、坩堝1の電気抵抗が十分に低下し、誘導加熱時に坩堝1内に生じる渦電流によって適切なジュール熱が生じる結果、坩堝1が効果的に発熱する。したがって、誘導加熱により放射性廃棄物を溶融可能な温度まで坩堝1の温度を適切に上昇させることができる。一方で、カーボンの配合割合が高くなると、坩堝1の電気比抵抗は低くなるが、高くし過ぎても、坩堝1の電気抵抗を大幅に低下させることができないために坩堝1の発熱性の向上を大きくは見込めない一方で、誘導加熱時にスーパーヒートが発生し易くなって坩堝1の寿命が著しく低下する、鉄などの導電性の放射性廃棄物の溶融が困難となる、カーボンの酸化消失による損耗が非常に生じ易くなる、などの問題が生じる。これらのトレードオフを考慮し、カーボンの配合割合は80重量%以下とすることが好ましい。
【0022】
炭化珪素は、カーボン(黒鉛)の酸化抑制剤としての役割を果たすとともに、坩堝1の耐スポール性の向上を果たす。炭化珪素は、例えば粒度がタイラー標準フルイ149μm以下の微粉末の形態のものを用いることができる。炭化珪素の配合割合としては、7重量%以下であることが好ましい。炭化珪素の配合割合が高いと、誘導加熱時の分解変質が激しくなる傾向があり、炭化珪素の配合割合が低いと、坩堝1の耐スポール性が低下する傾向がある。
【0023】
アルミナは、坩堝1の耐熱性及び耐食性の向上を果たす。アルミナとしては、焼結アルミナ、電融アルミナ、ムライトなどの高アルミナ質1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。アルミナは、中粒から細粒のものを用いることが好ましく、例えば粒度がタイラー標準フルイで50μm以上500μm以下の中粒と、粒度が10μm以下の細粒とを組み合わせることが、充填性や坩堝形状からした粒度構成上、好ましい。アルミナの配合割合としては、15重量%以上65重量%以下にすることが好ましい。アルミナの配合割合が低いと、坩堝1の耐食性及び耐熱性が低下する傾向がある。
【0024】
坩堝1を構成する上記材料には、必須成分(カーボン、炭化珪素及びアルミナ)に必要に応じて他の成分を配合することができる。例えば、上記材料にシリカ質やガラス質を含めることで、カーボンの酸化抑制を図ることができる。しかし、シリカ質やガラス質を上記材料に含めると、坩堝1の耐熱性が低下するため、上記材料にシリカ質やガラス質を含めることなく、必須成分のみで構成することが好ましい。この場合、坩堝1の表面に所望の釉薬(グレーズ)を塗布することで、坩堝1の酸化防止を図ることが好ましい。
【0025】
上記材料からなる坩堝1は、カーボンを含有することから、導電性が付与され、電気比抵抗がある程度は低下する一方で、カーボンを含有することにより坩堝1に微細な孔が多数形成されるので、電気比抵抗を十分に小さくすることができない。そこで、本発明に係る坩堝1は、カーボンを含有する坩堝1に含浸処理を施すことで、坩堝1の微細な孔が含浸により封孔して坩堝1が緻密化するため、坩堝1の電気比抵抗を一層低下させることができる。また、坩堝1に溶融ピッチによる含浸処理を施すと、溶融ピッチが酸化防止の役割を果たすため、坩堝1が放射性廃棄物の溶融時に酸化・劣化して電気特性に変化をきたすことを抑制できる。溶融ピッチとしては、公知の種々のピッチを用いることができ、例えば、タール、ピッチなどの石油・石炭分留物などを用いることができる。なお、含浸処理は、溶融ピッチによる含浸処理に限定されるわけではなく、例えばフェノール樹脂を用いた含浸処理であってもよい。
【0026】
上記の含浸処理が施された本発明の坩堝1は、気孔率が含浸処理を施す前よりも低下しており、6%以上13%以下とされている。なお、含浸処理を施す前の坩堝1の気孔率は10%以上23%以下とされている。
【0027】
また、上記の含浸処理が施された本発明の坩堝1は、上記の気孔率の低下(緻密化)によってその強度が向上しており、曲げ強度が8.0MPa以上とされている。
【0028】
さらに、上記の含浸処理が施された本発明の坩堝1は、嵩比重が含浸処理を施す前よりも向上しており、1.99以上2.30以下とされており、好ましくは2.10以上2.30以下とされている。
【0029】
また、本発明の坩堝1の厚み(周壁部3の厚み)tは、電気比抵抗とともに、誘導加熱時に外筒10の表面温度に対して坩堝1の表面温度が高くなるように、つまり、坩堝1の温度上昇が外筒10の温度上昇よりも大きくなるように調整されている。これにより、坩堝1の温度を放射性廃棄物を溶融可能な温度まで十分に高くしながら、外筒10の温度を低く(耐熱温度以下に)抑えることができる。そのため、坩堝1の厚みtは外筒10の厚みTよりも大きく形成されており、20mm以上50mm以下、好ましくは30mm以上40mm以下に形成されている。
【0030】
次に、上記構成の坩堝1の製造方法について説明する。まず、カーボン、炭化珪素及びアルミナを、カーボンの含有量が30重量%より大きくなるように所定の割合で配合した材料を用意する(配合工程)。
【0031】
そして、上記材料にバインダーを加えて混練する(混練工程)。バインダーとしては、有機バインダー、耐火粘土及びセラミックバインダーのいずれを用いることができる。有機質バインダーとしては、例えばタールやピッチなどの石油石炭分留物、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂などを挙げることができる。また、セラミックバインダーとしては、例えば珪酸ソーダ、珪酸カリ、アルミナゾルなどを挙げることができる。これらの有機質バインダー、耐火粘土、セラミックバインダーの1種又は2種以上を、上記材料に対して所定の割合(例えば、上記材料100重量%に対して5重量%〜16重量%)添加することが適当である。
【0032】
そして、上記混練工程により得られる混練物を加圧下で成形する(成形工程)。混練物の加圧成形方法としては、例えば冷間静水圧プレス成形法(CIP成形法)などの等方圧成形法、静圧プレス成形法、フリクションプレス成形法などを用いることができるが、CIP成形法を用いることが好ましい。CIP成形法は、高圧容器内においた金型の上にゴム型を被せ、金型とゴム型とで形成される空間に混練物を入れた後、高圧容器内に水を入れ、加圧装置により高圧容器内の水を高圧で加圧して混練物を成形する方法である。混練物を成形する際の圧力は、50MPa以上とすることが好ましく、60MPa以上とすることがより好ましく、70MPa以上とすることがさらに好ましい。
【0033】
そして、上記成形工程により得られる成形物を還元雰囲気において焼成する(焼成工程)。還元焼成は、非酸化性条件下、つまり、成形物中の炭素分が酸化されない条件下において、例えば1000℃〜1400℃で成形物を加熱することにより行われる。
【0034】
そして、焼成された成形物を含浸処理する(含浸処理工程)。好ましくは、溶融ピッチによる含浸処理を施す。そして、含浸処理された成形物を熱処理する(熱処理工程)。この熱処理工程は、上記の焼成工程と同じく、還元雰囲気において1000℃〜1400℃で含浸処理された成形物を加熱することにより行われる。これにより、坩堝1が製造され、必要に応じて、坩堝1の表面に釉薬(グレーズ)を塗布し、乾燥させた後、出荷される。
【0035】
上記製造方法により製造される坩堝1は、カーボン、アルミナ及び炭化珪素を含有し、カーボンの含有量が30重量%よりも大きく、気孔率が6%〜13%であり、嵩比重が1.99〜2.30であり、曲げ強度が8.0MPa以上であることで、電気比抵抗が10×10−6Ωm以下と十分に低くなる。このように、本発明の坩堝1は、その電気抵抗が十分に低下し、これに伴い誘導加熱時に坩堝1内に生じる渦電流によって適切なジュール熱が生じる結果、坩堝1が効果的に発熱する。したがって、金属製の外筒10内に収容された状態で誘導加熱された場合であっても、坩堝1の温度を放射性廃棄物が溶融可能な温度まで十分に上昇させることができるので、放射性廃棄物を適切に溶融できる。
【0036】
加えて、上記製造方法により製造される坩堝1は、アルミナ及び炭化珪素を含有していることで、耐熱性、耐食性、耐スポール性及び耐酸化性に優れるとともに、含浸処理されていることで気孔率及び嵩比重が向上して緻密化され、曲げ強度にも優れるので、坩堝1の耐久性を向上できる。よって、誘導加熱中(放射性廃棄物の溶融中)の坩堝1の劣化(割れや変質)を抑制することができるので、長期間の使用にも耐えることができる。したがって、本発明の坩堝1は、放射性廃棄物を内部で溶融した後、これを固化させて処分する処理に用いるのに最適である。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明の坩堝の実施例を示すが、本発明がこの実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0039】
坩堝は、カーボンとして鱗状黒鉛(純度70%以上)をそれぞれ、50重量%(実施例1)、55重量%(実施例2)、60重量%(実施例3)、70重量%(実施例4)、80重量%(実施例5)、90重量%(実施例6)、100重量%(実施例7)含むとともに燒結アルミナ及び炭化珪素が所定の割合配合された材料に、予め加熱溶解したピッチを添加し、100℃〜150℃で加熱しつつ十分混練した後、CIP成形法(成形時の圧力:50MPa以上)により有底円筒形状に成形して、成形品を還元雰囲気中において1000℃〜1400℃で焼成し、溶融ピッチによる含浸処理を施した後、還元雰囲気中において1000℃〜1400℃で熱処理することで、形成した。なお、比較例としてカーボンとして鱗状黒鉛(純度70%以上)を30重量%含有する坩堝を形成した。
【0040】
これら実施例1〜7の坩堝及び比較例の坩堝の気孔率(%)、嵩比重、曲げ強度(MPa)及び電気比抵抗(×10−6Ωm)を測定した結果を表1及び図3に示す。なお、曲げ強度は、坩堝の構成材料からなる板状の試験片(横幅20mm(W)×縦幅15mm(t)×長さ100mm(L))を使用し、常温(25℃)でスパン50mmの3点曲げにより得られる値である。また、気孔率及び嵩比重は、上記試験片と同様のものを用い、空中重量を計測後、真空含水法にて水中重量及び含水重量を測定して算出した値である。また、電気比抵抗は、上記試験片と同様のものを用い、相互に垂直な二方向について直流4端子法により測定し、その平均値を算出した値である。
【0041】
【表1】
【0042】
表1及び図3によると、(i)カーボン含有量が30重量%より大きく、(ii)気孔率が6%〜13%であり、(iii)嵩比重が1.99〜2.30であり、かつ、(iv)曲げ強度が8.0MPa以上である実施例1〜7の坩堝は、電気比抵抗が10×10−6Ωm以下であり、十分に電気抵抗が低下しているのに対して、上記(i)〜(iv)を満たさない比較例の坩堝は、電気比抵抗が10×10−6Ωmよりも大きく、電気比抵抗が十分に低下していなかった。よって、上記(i)〜(iv)を満たす坩堝は、電気抵抗が十分に小さいため発熱しやすいことが確認され、坩堝の温度を放射性廃棄物が溶融可能な温度まで適切に上昇させることができ、当該用途に必要な機能を満たす坩堝であることが分かる。
【0043】
さらに、カーボン含有量が55重量%以上であると、電気比抵抗が6.2×10−6Ωm以下とさらに大幅に低下しており、より坩堝が発熱して、坩堝の温度を放射性廃棄物が溶融可能な温度まで効果的に上昇できることが分かる。
【符号の説明】
【0044】
1 誘導加熱炉用坩堝
2 底壁部
3 周壁部
4 溶融容器
10 外筒
11 断熱材
図1
図2
図3