(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リン系化合物に含まれるリン(P)の抵抗率は比較的高い。これにより、集電体と活物質層との間の抵抗が上昇する場合がある。また、集電体をコロナ放電した後に、集電体に水を付着させる処理では、集電体表面におけるオキシ水酸化物の発生にばらつきがあり、集電体と活物質層との間の抵抗にもばらつきが生じる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、活物質層と集電体との間の抵抗を低下させた電気化学デバイス用電極及び電気化学デバイス用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る電気化学デバイス用電極は、集電体と、アルミニウム酸化物層と、導電層と、活物質層とを具備する。
上記集電体はアルミニウム箔である。
上記アルミニウム酸化物層は、上記集電体の主面に形成された、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含む。
上記アルミニウム酸化物層上に形成された、導電性材料を含む導電層と、
上記導電層は、上記導電層上に形成されている。
【0009】
本発明に係る電気化学デバイス用電極によれば、集電体の主面に設けたアルミニウム酸化物層と導電層との密着性が向上する。これにより、導電層上に設けた活物質層と、集電体と、の間の抵抗が低下する。
【0010】
上記アルミニウム酸化物層の波数が1300cm
−1以下の赤外線吸収スペクトルにおいて、酸化アルミニウムに由来する吸収ピークは、水酸化アルミニウムに由来する吸収ピークの2倍以上6倍以下になっていてもよい。
【0011】
アルミニウム酸化物層には、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムとが共存する。これにより、導電層とアルミニウム酸化物層との親和性が増加し、導電層とアルミニウム酸化物層との密着性が向上する。
【0012】
上記アルミニウム酸化物層は、1nm以上2μm以下の厚さを有してもよい。
【0013】
これにより、集電体の主面には、厚いアルミニウム酸化物層が形成され、アルミニウム酸化物層のアンカー効果が増加し、導電層とアルミニウム酸化物層との密着性が向上する。
【0014】
上記アルミニウム酸化物層は、ポーラス状であってもよい。
【0015】
これにより、アルミニウム酸化物層のアンカー効果が増加し、導電層とアルミニウム酸化物層との密着性が向上する。さらに、導電層は、アルミニウム酸化物層を介して、集電体に直接的に接続される。
【0016】
本発明の一形態に係る電気化学デバイス用電極の製造方法は、アルミニウム箔である集電体の主面の反応性を増加させる処理する。
上記集電体の上記主面に、アルカリ性溶液を接触させることにより、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含むアルミニウム酸化物層を上記集電体の上記主面に形成する。
上記アルミニウム酸化物層の主面に導電性材料を塗布し上記導電性材料を乾燥させることにより、上記アルミニウム酸化物層の上記主面に導電層を形成する。
上記導電層の主面に活物質層を形成する。
【0017】
本発明に係る電気化学デバイス用電極の製造方法によれば、集電体の主面に設けたアルミニウム酸化物層と導電層との密着性が向上する。これにより、活物質層と集電体との間の抵抗が低下する。
【0018】
上記アルミニウム酸化物層は、カルボキシル塩を溶解させたアルカリ性水溶液が上記集電体に接触することにより形成されてもよい。
【0019】
これにより、カルボキシル塩を溶解させた微アルカリ性水溶液によって、集電体の主面に水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含むアルミニウム酸化物層が形成される。
【0020】
上記導電性材料として、導電材が分散された水系液体が用いられてもよい。
【0021】
導電材が分散された水系液体と、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムと、の親和性は良好である。これにより、導電材が分散された水系液体をアルミニウム酸化物層に塗布した後、該水系液体とアルミニウム酸化物層との接触面積が向上する。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、活物質層と集電体との間の抵抗を低下させた電気化学デバイス用電極及び電気化学デバイス用電極の製造方法が実現する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。図面では、必要に応じてXYZ軸座標系が導入される場合がある。
【0025】
本実施形態に係る電気化学デバイス100について説明する。電気化学デバイス100は、電気二重層キャパシタとすることができる。また、電気化学デバイス100は、リチウムイオンキャパシタ又はリチウムイオン二次電池等の充放電が可能な他種の電気化学デバイスであってもよい。
【0026】
[電気化学デバイスの構成]
図1は、本実施形態に係る電気化学デバイス100の構成を示す斜視図である。
図1に示す電気化学デバイス100は、蓄電素子110が容器120(蓋及び端子は図示略)に収容されている。容器120内には、蓄電素子110と共に電解液(不図示)が収容されている。
【0027】
図2は、蓄電素子110の斜視図である。
図2に示すように、蓄電素子110は、負極130、正極140及びセパレータ150を有し、これらが積層された積層体が捲回芯Cの回りに捲回されている。以下、捲回芯Cが延伸する方向、すなわち、捲回中心軸に平行な方向をZ方向とする。X方向はZ方向に垂直な方向であり、Y方向はX方向及びZ方向に垂直な方向である。なお、捲回芯Cは必ずしも設けられなくてもよい。また、負極130及び正極140は、電気化学デバイス用電極と呼ばれる場合がある。
【0028】
蓄電素子110を構成する負極130、正極140、セパレータ150の積層順は、
図2に示すように、捲回芯C側に向かって(捲回外側から)セパレータ150、負極130、セパレータ150、正極140の順とすることができる。蓄電素子110は、負極130に接合された負極端子131と正極140に接合された正極端子141を有する。負極端子131と正極端子141は、それぞれ蓄電素子110の外部に引き出されている。
【0029】
[蓄電素子の負極及び正極の構成]
図3は、蓄電素子110の断面図である。
図3には、蓄電素子110の負極130、正極140、及びセパレータ150がX−Z平面に沿って平行に伸びた状態が表されているが、
図2に示されるように負極130、正極140、及びセパレータ150は、凸状に歪曲してもよい。
【0030】
負極130は、負極集電体132、負極アルミニウム酸化物層135、負極導電層136及び負極活物質層133を有する。
図3の例では、負極集電体132の両側の主面に負極アルミニウム酸化物層135、負極導電層136及び負極活物質層133が設けられているが、負極集電体132の片側の主面に負極アルミニウム酸化物層135、負極導電層136及び負極活物質層133が設けられてもよい。
【0031】
負極集電体132は、負極130の中央に設けられている。負極集電体132は、金属箔である。この金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。金属箔には、複数の貫通孔が設けられてもよい。負極アルミニウム酸化物層135は、負極集電体132の主面に設けられている。負極集電体132は、負極集電体132の両側の主面に設けられた負極アルミニウム酸化物層135によって挟まれている。負極アルミニウム酸化物層135は、例えば、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含む。
【0032】
負極導電層136は、負極アルミニウム酸化物層135上に設けられている。負極導電層136は、負極アルミニウム酸化物層135と負極活物質層133との間に設けられている。
図3の例では、負極集電体132は、負極集電体132の両側に設けられた負極導電層136によって挟まれている。負極導電層136は、導電性材料を含む。この導電性材料は、例えば、カーボンブラック、黒鉛等の少なくともいずれかである。
【0033】
負極活物質層133は、負極導電層136上に設けられている。
図3の例では、負極集電体132は、負極集電体132の両側に設けられた負極活物質層133によって挟まれている。負極活物質層133は、電解質イオン(例えば、BF
4−)を負極導電層136の表面に吸着させ、電気二重層を形成させる物質である。負極活物質層133は、活物質を含む。活物質は、例えば、活性炭、PAS(Polyacenic Semiconductor:ポリアセン系有機半導体)等の少なくともいずれかを含む。負極活物質層133は、上記の活物質、導電助剤(例えば、ケッチェンブラック)及び合成樹脂(例えば、PTFE(polytetrafluoroethylene))の混合物を圧延してシート状に形成し、それを裁断したものである。
【0034】
例えば、負極活物質層133は、負極活物質がバインダ樹脂と混合されたものでもよく、さらに導電助材を含んでもよい。
【0035】
バインダ樹脂は、負極活物質を接合する合成樹脂であり、例えばカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、カルボキシメチルセルロース、フッ素系ゴム、ポリビニリデンフルオライド、イソプレンゴム、ブタジエンゴム及びエチレンプロピレン系ゴム等を用いてもよい。
【0036】
導電助剤は、導電性材料からなる粒子であり、負極活物質の間での導電性を向上させる。導電助剤は、例えば、アセチレンブラックや黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、導電助剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0037】
正極140は、正極集電体142、正極アルミニウム酸化物層145、正極導電層146及び正極活物質層143を有する。
図3の例では、正極集電体142の両側の主面に正極アルミニウム酸化物層145、正極導電層146及び正極活物質層143が設けられているが、正極集電体142の片側の主面に正極アルミニウム酸化物層145、正極導電層146及び正極活物質層143が設けられてもよい。
【0038】
正極集電体142は、正極140の中央に設けられていえる。正極集電体142の材料は、負極集電体132の材料と同じであってもよく、異なってもよい。正極集電体142は、正極集電体142の両側の主面に設けられた正極アルミニウム酸化物層145によって挟まれている。正極アルミニウム酸化物層145の材料は、負極アルミニウム酸化物層135の材料と同じであってもよく、異なってもよい。
【0039】
正極導電層146は、正極アルミニウム酸化物層145と正極活物質層143との間に設けられている。例えば、正極集電体142は、正極集電体142の両側に設けられた正極導電層146によって挟まれている。正極導電層146の材料は、負極導電層136の材料と同じであってもよく、異なってもよい。
【0040】
正極活物質層143は、正極導電層146上に設けられている。例えば、正極集電体142は、正極集電体142の両側に設けられた正極活物質層143によって挟まれている。正極活物質層143の材料は、負極活物質層133の材料と同じであってもよく、異なってもよい。
【0041】
セパレータ150は、負極130と正極140との間に設けられている。セパレータ150は、電解質イオンを透過させ、負極130と正極140とを絶縁するシートである。セパレータ150は、ガラス繊維、セルロース繊維、プラスチック繊維等からなる多孔質シートであるものとすることができる。
【0042】
電解液は、任意に選択することが可能である。例えば、カチオンとしては、リチウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン、5−アゾニアスピロ[4.4]ノナンイオン、エチルメチルイミダゾリウムイオン等を含み、アニオンとしてはBF
4−(四フッ化ホウ酸イオン)、PF
6−(六フッ化リン酸イオン)、(CF
3SO
2)
2N
−(TFSAイオン)等のアニオンを含み、溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン等を含むものとすることができる。具体的には、5−アゾニアスピロ[4.4]ノナン−BF
4やエチルメチルイミダゾリウム−BF
4のプロピレンカーボネート溶液等を用いることができる。
【0043】
図4は、負極130の一部を拡大させた断面図である。例えば、
図4には、
図3のP1で囲む領域が模式的に表されている。
【0044】
図4に示すように、負極集電体132の主面132sには、負極アルミニウム酸化物層135が形成されている。負極アルミニウム酸化物層135には、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムが共存している。負極アルミニウム酸化物層135の膜厚は、例えば、1nm以上2μm以下である。
【0045】
ここで、負極アルミニウム酸化物層135の膜厚が1nmより小さい場合は、親水性が低下して好ましくない。また、負極アルミニウム酸化物層135の膜厚が2μmより大きい場合は、集電抵抗が上昇するので好ましくない。また、負極アルミニウム酸化物層135は、ポーラス状であり、例えば、複数のアルミニウム酸化物135aを含む。
【0046】
複数のアルミニウム酸化物135a中、隣り合うアルミニウム酸化物135a同士は、互いに離れていてもよく、接触してもよい。隣り合うアルミニウム酸化物135a同士が互いに離れている場合には、
図4に示すように、負極導電層136の一部136pが直接的に負極集電体132に接触している。負極130では、この一部136pが多数存在している。
【0047】
正極140の正極アルミニウム酸化物層145も、負極130と同様にポーラス状であり、正極導電層146の一部が直接的に正極集電体142に接触している。
【0048】
[負極及び正極の製造方法]
図5は、電気化学デバイス用電極の製造過程を示すフローチャート図である。
図5に示す各ステップは、以下の
図6A〜
図7Bを用いて詳細に説明される。
図6A〜
図7Bは、電気化学デバイス用電極の製造過程を示す断面図である。
図6A〜
図7Bには、負極130及び正極140の製造過程のうち、一例として負極130の製造過程が示されている。
【0049】
例えば、
図6Aに示すように、本発明の電気化学デバイス用電極の製造方法では、負極集電体132の主面132sの反応性が増加するように、主面132sの処理を行う。例えば、負極集電体132の主面132sに対し、紫外線照射、コロナ放電処理、プラズマ照射(大気プラズマ、減圧プラズマ等)及び電子ビーム照射、イオンビーム照射等のいずれかの処理132trが行われる(ST01)。この処理132trにより、負極集電体132の主面132sが活性になる。例えば、負極集電体132の主面132sでは、アルミニウムと酸素との結合が切れたり、アルミニウムが負極集電体132の少なくとも一部で露出したりする。
【0050】
なお、負極集電体132に処理132trを施す前に、負極集電体132を有機溶剤、洗剤等を用いて洗浄してもよい。これにより、負極集電体132に付着していたダスト、油脂等が処理132trを施す前に除去される。
【0051】
次に、
図6Bに示すように、負極集電体132の主面132sに、アルカリ性溶液を接触させる(ST02)。このアルカリ性溶液は、有機物を含む。有機物は、例えば、カルボキシル基を含む。アルカリ性溶液の接触は、例えば、大気中で行われる。アルカリ性溶液の接触は、アルカリ性溶液を負極集電体132の主面132sに噴霧することで行ってもよく、負極集電体132をアルカリ性溶液に浸漬してもよい。
【0052】
アルカリ性溶液を負極集電体132に接触させることにより、例えば、アルカリ性溶液中の酸素、水酸基が負極集電体132中のアルミニウムと反応して、負極集電体132の主面132sに負極アルミニウム酸化物層135が形成される。この状態を、
図6Cに示す。
【0053】
負極アルミニウム酸化物層135は、例えば、ポーラス状である。負極アルミニウム酸化物層135は、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含む。また、負極アルミニウム酸化物層135は、複数の開口135hを有する。複数の開口135hは、負極アルミニウム酸化物層135の主面135sから負極集電体132の主面132sにまで達する。
【0054】
次に、
図7Aに示すように、負極アルミニウム酸化物層135の主面135sに導電性材料を塗布し、この導電性材料を乾燥させる(ST03)。導電性材料の塗布は、例えば、大気中で行われる。これにより、負極アルミニウム酸化物層135の主面135sに負極導電層136が形成される。負極導電層136の一部136pは、開口135hに入り込み、負極導電層136の一部136pは、直接的に負極集電体132に接触する。なお、アルカリ性の導電性材料を用いてもよい。
【0055】
導電性材料としては、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムとの親和性の高い材料が選択される。例えば、導電性材料として、導電材が分散された水系液体が用いられる。導電材は、例えば、カーボンブラック、黒鉛等の少なくともいずれかである。
【0056】
次に、
図7Bに示すように、負極導電層136の主面136sに負極活物質層133が形成される(ST04)。このような製造過程(ST01〜ST04)によって、負極130が形成される。
【0057】
[負極及び正極の効果]
本発明に係る負極130では、負極集電体132上に負極アルミニウム酸化物層135が形成される。負極アルミニウム酸化物層135は、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含む。負極アルミニウム酸化物層135は、ポーラス状である。
【0058】
この負極アルミニウム酸化物層135は、アルカリ条件下(例えば、pH8.0以上)で形成される。これにより、負極集電体132上には、安定して水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムを含む負極アルミニウム酸化物層135が形成される。ここで、酸化アルミニウム中の酸素(O)及び水酸化アルミニウム中の水酸基(OH)は、負極集電体132中のアルミニウム(Al)と強く結合する。これにより、負極アルミニウム酸化物層135と、負極集電体132とは、強く密着する。負極アルミニウム酸化物層135は、複数のバッチ処理において、毎回、安定して負極集電体132上に形成される。
【0059】
また、本発明に係る負極130において、負極アルミニウム酸化物層135の膜厚は、自然酸化膜と比較して厚い(例えば、1nm以上2μm以下)。さらに、負極導電層136の一部136pは、負極アルミニウム酸化物層135を介して負極集電体132に直接接触している。これにより、負極アルミニウム酸化物層135のアンカー効果によって、負極導電層136と負極アルミニウム酸化物層135とは強く密着する。
【0060】
また、負極導電層136は、導電材が分散された水系液体を負極アルミニウム酸化物層135に塗布することにより、負極アルミニウム酸化物層135上に形成される。ここで、水系液体と、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムと、の親和性は良好である。これにより、この水系液体は、負極アルミニウム酸化物層135の主面135s及び開口135h内に効率よく濡れ広がる。
【0061】
これにより、水系液体を乾燥させた後の負極導電層136と、負極アルミニウム酸化物層135と、の接触面積は確実に増加する。すなわち、本発明では、アンカー効果のほか、化学的な親和力を利用することにより、負極導電層136と負極アルミニウム酸化物層135との密着力を向上させている。
【0062】
さらに、負極導電層136の一部136pは、負極アルミニウム酸化物層135を介して負極集電体132に直接接触している。これにより、負極導電層136と負極アルミニウム酸化物層135との間の電気的抵抗が低下する。この結果、負極導電層136上に形成された負極活物質層133と負極集電体132との間においても、その抵抗が低下する。
【0063】
このように、本発明に係る負極130によれば、負極導電層136と負極集電体132との間に、負極アルミニウム酸化物層135が形成される。これにより、負極活物質層133と負極集電体132との間の抵抗が低下する。
【0064】
なお、正極140の構造は、負極130と同じであり、正極140についても、負極130と同じ効果が得られる。
【0065】
また、比較例として、負極集電体132に上記処理132trを行わず、負極集電体132上に負極導電層136を直接形成する手法がある。この場合、負極集電体132の主面132sに形成されている自然酸化膜(Al
2O
3)の存在によって、負極導電層136の濡れ性が悪化する。
【0066】
一方、別の比較例として、負極集電体132の主面132sに対してコロナ放電を行った後、この主面132sに水を晒す手法がある。しかし、この手法では、製造環境によって水が酸性又はアルカリ性になり、水酸化アルミニウムが安定して負極集電体132上に形成されない可能性がある。また、負極集電体132に再び水を晒すことで、負極集電体132の一面に酸化アルミニウムが形成する場合。この場合、上記比較例と同様に負極導電層136の濡れ性が良好にならない。
【0067】
[他の実施形態]
上記の実施形態では、電気化学デバイス100として、電気二重層キャパシタが例示されたが、この例には限らない。例えば、上記の実施形態は、リチウムイオンキャパシタの正極に適用してもよい。又は、上記の実施形態は、リチウムイオン電池の電極に適用してもよい。
【0068】
上記の実施形態をリチウムイオンキャパシタに適用した場合、負極130の負極集電体132は、例えば、銅箔等の金属箔である。また、負極活物質層133に含まれる負極活物質は、電解液中のリチウムイオンを吸蔵可能な材料であり、例えば難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、グラファイトやソフトカーボン等の炭素系材料を用いることができる。
【0069】
負極130のバインダ樹脂は、負極活物質を接合する合成樹脂であり、例えばカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、カルボキシメチルセルロース、フッ素系ゴム、ポリビニリデンフルオライド、イソプレンゴム、ブタジエンゴム及びエチレンプロピレン系ゴム等を用いてもよい。
【0070】
導電助剤は、導電性材料からなる粒子であり、負極活物質の間での導電性を向上させる。導電助剤は、例えば、アセチレンブラック、黒鉛やカーボンブラック等の炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、導電助剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0071】
負極活物質層133は、負極集電体132上に直接設けられてもよく、負極集電体132上に設けられた負極導電層136上に設けられてもよい。
【実施例】
【0072】
以下に、より具体的が実施例を説明する。
集電体(負極集電体132、正極集電体142)としては、アルミニウム箔が選択される。アルミニウム箔の表面に対して、コロナ放電処理(出力0.8kW)を行った後、有機物を含む微アルカリ性溶液が(pH8.0)アルミニウム箔に噴霧される。微アルカリ性溶液は、例えば、1%CMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液である。
【0073】
微アルカリ性溶液は、カルボキシル塩としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(Na)塩、又は、カルボキシメチルセルロースアンモニウム(NH
3)塩を水に溶解したものが用いられる。その後、アルミニウム箔は、50℃以上(例えば、50℃以上60℃以下)に加熱されて、微アルカリ性溶液が乾燥される。これにより、集電体上には、アルミニウム酸化物層(負極アルミニウム酸化物層135、正極アルミニウム酸化物層145)が形成される。
【0074】
図8A〜
図8Cは、赤外線吸収スペクトルを表す図である。
図8A〜
図8Cの横軸は、波数(cm
−1)であり、縦軸は、吸収強度(ABS.(規格値))である。
【0075】
図8Aに、上記の方法で形成されたアルミニウム酸化物層の赤外線吸収スペクトル(FT−IR)を示す。
図8Aに示すように、上記の方法で形成したアルミニウム酸化物層においては、1040cm
−1付近に水酸化アルミニウムに由来する吸収ピークAが確認される。また、950cm
−1付近に酸化アルミニウムに由来する吸収ピークBが確認されている。
【0076】
図8Bには、コロナ放電処理を行う前のアルミニウム箔表面の赤外線吸収スペクトルが示されている。
図8Bに示すように、この例では、水酸化アルミニウムに由来する吸収ピークA(1040cm
−1付近)は、確認されなかった。
また、
図8Cには、アルミニウム箔にコロナ放電処理が行われた後、水が噴霧されたアルミニウム箔表面の赤外線吸収スペクトルが示されている。
図8Cに示すように、この例においても、水酸化アルミニウムに由来する吸収ピークA(1040cm
−1付近)は、確認されなかった。
【0077】
これにより、
図8Aに示す吸収ピークAは、コロナ放電処理後のアルミニウム箔に、1%CMC水溶液を接触させた結果、発生することが分かった。ここで、
図8Aでは、波数が1300cm
−1以下において、酸化アルミニウムに由来する吸収ピークBは、水酸化アルミニウムに由来する吸収ピークAの2倍以上6倍以下になっている。
【0078】
なお、吸収ピークBが吸収ピークAの2倍より小さい場合、親水性が低下するので好ましくない。また、吸収ピークBが吸収ピークAの6倍より大きい場合、集電抵抗が上昇するので好ましくない。
【0079】
図9は、ESR(等価直列抵抗:Equivalent Series Resistance)の比較を表す図である。
サンプルとしては、2つのキャパシタ用電極を準備した。例えば、上記のアルミニウム酸化物層上に、水系の導電塗料を塗布して乾燥し、活物質スラリーを塗布し、再び乾燥させた電極を準備した(実施例α)。別のサンプルとして、脱脂処理をしたアルミニウム箔上に導電塗料を塗布しただけの電極を準備した(比較例β)。双方の電極は、円筒4Fのキャパシタの電極用に用いられた。
【0080】
図9に示すように、初期のESRにおいて、比較例βは、207(mΩ)であるのに対し、実施例αは、163(mΩ)となり、実施例αのESRは、比較例βよりも低くなった(21%減少)。さらに、加速試験(フロート試験、1000h)後において、比較例βでは、等価直列抵抗が初期の値から580%上昇したのに対し、実施例αは、450%の上昇となり比較例βよりも低くなった。
【0081】
このように、本実施例のアルミニウム酸化物層には、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムとが共存している。これにより、導電層とアルミニウム酸化物層との濡れ性が向上し、導電層とアルミニウム酸化物層との密着性が向上する。その結果、導電層とアルミニウム酸化物層との抵抗が低下する。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。