(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486885
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】コーティングされた切断ツール
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20190311BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20190311BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20190311BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20190311BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
B23B27/14 B
B23B27/20
C23C14/06 A
C23C14/06 P
C23C14/06 L
C04B41/89 J
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-224759(P2016-224759)
(22)【出願日】2016年11月18日
(65)【公開番号】特開2017-148930(P2017-148930A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2016年11月21日
(31)【優先権主張番号】15195692.7
(32)【優先日】2015年11月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591106875
【氏名又は名称】セコ ツールズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アンデション, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン ヨエサール, マッツ
(72)【発明者】
【氏名】ラーション, ステファン
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−047797(JP,A)
【文献】
特開2003−071610(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/105710(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0033723(US,A1)
【文献】
国際公開第2015/156383(WO,A1)
【文献】
特開平11−216601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 14/06
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(1)と、前記本体上の硬質かつ耐摩耗性のPVDコーティング(4)とを備える、コーティングされた切断ツールであって、前記本体は、接合炭化物、サーメット、セラミック、多結晶ダイヤモンド、又は多結晶立方晶窒化ホウ素系材料を含み、前記コーティングは、単一層である第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(2)、及び、積層構造である第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(3)を含み、前記第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(2)が、(Ti1−xAlx)Nz層を含み、ここで、0.1<x<0.4、0.6<z<1.2であり、かつ、前記第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(3)が、(Ti1−x1−y1Alx1Cry1)Nz1層を含み、ここで、0.5<x1<0.75、0.05<y1<0.2、0.6<z1<1.2であり、
前記第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(3)は、A/B/A/B/A/B/…という交互のA層とB層からなる積層構造であり、ここで、A層は、(Ti1−xAlx)Nzであり、0.1<x<0.4、0.6<z<1.2であり、かつ、B層は、(Ti1−x1−y1Alx1Cry1)Nz1であり、0.5<x1<0.75、0.05<y1<0.2、0.6<z1<1.2であり、A層及びB層は、1nmから100nmまでの平均個別層厚を有する、コーティングされた切断ツール。
【請求項2】
前記第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(2)は、0.1μmから2μmまでの厚みを有する、請求項1に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項3】
0.15<x<0.35である、請求項1または2に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項4】
0.55<x1<0.75である、請求項1または2に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項5】
0.05≦y1<0.15である、請求項1または2に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項6】
0.8<z1≦1.1である、請求項1または2に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項7】
前記第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(3)は、0.5μmから10μmまでの厚みを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項8】
前記本体(1)上に前記本体(1)に接触して配置された最内部の単一層構造又は積層構造(5)であって、TiN、TiC、Ti(C,N)、又は(Ti,Al)Nという組成のうちの少なくとも1つを含む、最内部の単一層構造又は積層構造(5)を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項9】
前記コーティング(4)上に配置された最外部の単一層構造又は積層構造(6)であって、TiN、TiC、Ti(C,N)、及び(Ti,Al)Nという組成のうちの少なくとも1つを含む、最外部の単一層構造又は積層構造(6)を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項10】
前記コーティング(4)と、存在する最内部(5)又は最外部(6)の層構造との総厚は、0.8μmから15μmまでである、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項11】
存在する最内部(5)又は最外部(6)の層構造を含む、前記コーティング(4)の平均組成は、55at%<%Ti<62at%、32at%<%Al<40at%、1at%<%Cr<9at%、%Ti+%Al+%Cr=100at%であり、かつNと均衡している、請求項1から10のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項12】
前記本体(1)は、WCと、4〜15wt%のCoとを含む接合炭化物である、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項13】
前記本体(1)は、バインダ中に少なくとも25vol%の立方晶窒化ホウ素(cBN)を含有する多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)であり、前記バインダは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、及びAlという元素の群のうちの一又は複数から選択された、少なくとも1つの窒化物、ホウ化物、酸化物、炭化物、又は炭窒化物の化合物を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項14】
前記本体(1)は、バインダ中に30vol%<cBN<75vol%を含有しており、平均cBN粒度が0.5μmから10μmまでである、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)であり、前記バインダは、80wt%<Ti(C,N)<95wt%を含有しており、前記バインダの残部は、Ti、N、B、Ni、Cr、Mo、Nb、Fe、Al、及びOという元素の群のうちの2つ以上による化合物を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項15】
前記本体(1)は、バインダ中に35vol%<cBN<75vol%を含有しており、少なくとも約50%のcBN粒子が<5μmの粒度を有し、かつ、少なくとも20%の前記粒子が>5μmの粒度を有する、二峰性のcBN粒度分布を伴う、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)であり、前記バインダは、Alを含む少なくとも1つの化合物と、Tiを含む少なくとも1つの化合物とを含有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項16】
前記本体(1)は、バインダ中に30vol%<cBN<75vol%を含有しており、平均cBN粒度が0.5μmから5μmまでである、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)であり、前記バインダは、80wt%<Ti(C,N)<90wt%と、Ni、Co、Crという元素の群のうちの一又は複数を含有する1wt.%未満の合金と、10wt%未満のMoとを含有しており、前記バインダの残部は、TiB2とAl2O3という化合物の少なくとも一方を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツール。
【請求項17】
物理的気相堆積(PVD)技法、好ましくはカソードアーク蒸着を利用することによって、請求項1から16のいずれか一項に記載のコーティングされた切断ツールを製造するための方法であって、
−堆積に先立って前記本体を洗浄することと、
−(Ti,Al)の複合カソード又は合金カソードと、(Ti,Al,Cr)の複合カソード又は合金カソードをそれぞれ使用することによって、(Ti,Al)N層と(Ti,Al,Cr)N層とを成長させ、全ガス圧が1.0Paから8.0Paまでの、純N2ガス又は混合N2ガス、及びArなどのガスを含む反応性ガス雰囲気を使用して、50Aから200Aまでの蒸発電流を印加し、20Vから300Vまでの負の基板バイアスを印加し、かつ、200°Cから800°Cまでの堆積温度を用いることとを含む、方法。
【請求項18】
前記堆積温度は、300°Cから600°Cまでの堆積温度である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いツール温度を発生させる金属切断応用、例えば、加工面粗さの制御とともに、鋼、鋳鉄、超合金、ステンレス鋼、及び硬化鋼の加工に使用するための、本体とコーティングとを備える、チップ形成金属加工用のコーティングされた切断ツールに関する。コーティングは、物理的気相堆積(PVD)を用いて堆積された(Ti,Al)N系の2つのサブコーティングを含む。
【0002】
1980年代中盤以降、ツールコーティングの特性、例えば摩耗耐性を、ひいては性能を改善するための努力がなされてきた。当時一般的に行われていたのは、切断ツールをTiNでコーティングすることであった。しかし高温においてはTiNの酸化耐性が比較的低いことから、1980年代中盤に、Alを合金して(Ti,Al)Nにすることが提案され、実装されて、良好な結果が得られた。
【0003】
今日、金属切断応用においては、最も一般的な硬質保護コーティング材の中でも特に(Ti,Al)N系コーティングが使用されている。モノリス層として又は積層コーティング構造の一部分としての(Ti,Al)Nの立方晶(B1)構造は、高硬度、並びに、改善された温度耐性及び酸化耐性といった、複数の魅力的な機械的特性を併せ持ち、金属加工応用における良好な性能を提供する。(Ti,Al)N及びその優れた物理的特性の、特に高温においての技術的な強みは、部分的には、スピノーダル分解プロセスの観点から説明される。このスピノーダル分解プロセスにおいて、立方晶(Ti,Al)Nは、等構造的に分解されて、コヒーレントな立方晶c−AlN強化ドメイン及びc−TiN強化ドメインになる。弾性特性と、コヒーレントなc−AlN強化ドメインとc−TiN強化ドメインとの間の格子不整合との組み合わせは、著しい時効硬化につながり、この時効硬化において、(Ti,Al)N薄層の硬度は、15%から20%まで増大することが分かっている。更なる時効においては、c−AlNは熱力学的に安定した、六角形のウルツ鉱(B4)構造のh−AlNに変化し、機械的特性がより低い、c−TiN及びh−AlNを含む複相組織をもたらす。
【0004】
ツールコーティングの性能を更に増強するために、広範な三元系及び四元系についての研究が行われてきた。例えば、Crを合金して(Ti,Al,Cr)Nにすることで、金属切断応用におけるコーティング挙動が改善されることが分かっている。国際特許出願公報WO2012/069475は、(Ti
cAl
aCr
bMe
d)(C
zO
yN
x)の層を備える硬質かつ耐摩耗性のコーティングを有する、コーティングされた切断ツールを開示しており、ここで、層厚が0.5から10μmまでである場合に、0.10<a<0.60、b+d>0.20、c>0.05、0≦d<0.25、0.75<x<1.05、0≦y<0.25、かつ0≦z≦0.25である。
【0005】
今日も、経済的で生産性/フィードスルーが高い製造のための手法を、業界は求め続けている。これらの要求を満たすためには、動作期間のツール寿命を改善するための進歩的な特性を備えた、新たな材料が必要である。金属切断ツール業界においては、応用において使用されるコーティング材の特性を工夫することによって切断ツールの摩耗挙動を改善することに、この努力の大部分が集中されている。典型的には、生産性/フィードスルーが高い切断プロセスはツール温度の劇的な上昇をもたらし、ゆえに、高温摩耗耐性を備えたコーティング材が必要不可欠である。
【0006】
発明の目的
高温特性が改善されているコーティングでコーティングされた切断ツールであって、高温が発生する金属切断応用における性能が改善されており、加工面粗さを制御するようにした、切断ツールを提供することが、本発明の目的の1つである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1態様により、本体上の硬質かつ耐摩耗性のPVDコーティングが提供され、本体は、接合炭化物(cementedcarbide)、サーメット、セラミック、多結晶ダイヤモンド、又は多結晶立方晶窒化ホウ素系材料を含み、コーティングは、単一層である第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティングと、積層構造である第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティングとを備え、第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティングは、(Ti
1−xAl
x)N
z層を含み、ここで、0.1<x<0.4、0.6<z<1.2であり、第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(3)は、(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1層を含み、ここで、0.5<x1<0.75、0.05<y1<0.2、0.6<z1<1.2である。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲に記載の本体とは、硬質かつ耐摩耗性のPVDコーティングが上に堆積される、基材であると理解すべきである。この本体、例えば切断ツールインサートが、中実の本体、又は、下地体(backing body)を備える本体でありうることは、切断ツールに共通であり、この下地体の上には、すくい面の切断エッジ(いわゆる先端体)を覆って、若しくは、すくい部の全体(いわゆる面体の全体)を覆うように、追加材料が配置される。先端体、又は面体全体の手法は、多くの場合、多結晶ダイヤモンド材料又は多結晶立方晶窒化ホウ素材料に基づく切断技術において使用される。
【0009】
一実施形態により、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3である。
【0010】
一実施形態により、0.7<z≦1.1、好ましくは0.8<z≦1.1、より好ましくは0.9≦z<1.1である。
【0011】
一実施形態により、0.55<x1<0.75、より好ましくは0.55<x1<0.70である。
【0012】
一実施形態により、0.05≦y1<0.15である。
【0013】
一実施形態により、0.7<z1<1.1、好ましくは0.8<z1≦1.1、より好ましくは0.9≦z1≦1.1である。
【0014】
一実施形態により、第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティングは、0.1μmから2μmまで、好ましくは0.3μmから1μmまで、最も好ましくは0.3μmから0.8μmまでの厚みを有する。
【0015】
一実施形態により、第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティングは、A/B/A/B/A/B/…という交互のA層とB層からなる積層構造であり、ここで、層Aは(Ti
1−xAl
x)N
zであり、0.1<x<0.4、0.6<z<1.2であり、層Bは(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1であり、0.5<x1<0.75、0.05<y1<0.2、0.6<z1<1.2である。
【0016】
一実施形態により、前記A層及び前記B層は、第2のサブコーティングの中間領域、すなわち、第2のサブコーティングの厚みの30%から70%までの領域内を、例えば断面透過電子顕微鏡によって測定した、1nmから100nmまで、好ましくは5nmから50nmまで、最も好ましくは5nmから30nmまでの平均個別層厚を有し、前記平均層厚は、少なくとも10の隣接する層の厚みの測定からの平均値である。
【0017】
一実施形態により、第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティングは、0.5μmから10μmまで、好ましくは1μmから5μmまで、最も好ましくは1μmから3μmまでの厚みを有する。
【0018】
一実施形態により、コーティングされた切断ツールは、前記本体上に、前記本体に接触して配置された最内部の単一層構造又は積層構造であって、TiN、TiC、Ti(C,N)、又は(Ti,Al)Nという組成のいずれかを含む、層構造を備える。好ましくは、最内部の層構造は(Ti,Al)Nの単一層であり、硬質かつ耐摩耗性の機能性コーティングがそれに続く。
【0019】
一実施形態により、最内部の層構造は、0.05μmから0.3μmまで、好ましくは0.1μmから0.3μmまでの厚みを有する。
【0020】
一実施形態により、コーティングされた切断ツールは、前記コーティング上に配置された最外部の単一層構造又は積層構造であって、TiN、TiC、Ti(C,N)、又は(Ti,Al)Nという組成のいずれかを含む、層構造を備える。好ましくは、最外部の層構造はTiN又は(Ti,Al)Nの単一層であり、硬質かつ耐摩耗性の機能性コーティングがそれに続く。
【0021】
本発明の一実施形態により、前記最外部の層構造は、(Ti
1−xAl
x)N
zからなる。
【0022】
一実施形態により、最外部の層構造は、0.05μmから0.5μmまで、好ましくは0.1μmから0.3μmまでの厚みを有する。
【0023】
一実施形態により、最内部又は最外部の層構造のいずれをも含むコーティングの総厚は、0.8μmから15μmまで、好ましくは1μmから10μmまで、最も好ましくは1μmから6μmまでである。
【0024】
一実施形態により、最内部又は最外部の層構造のいずれをも含むコーティングの平均組成は、EDSにより判定される場合、55at%<%Ti<62at%、好ましくは57at%<%Ti<62at%、より好ましくは57at%<%Ti<60at%、32at%<%Al<40at%、好ましくは34at%<%Al<40at%、より好ましくは34at%<%Al<38at%、1at%<%Cr<9at%、好ましくは3at%<%Cr<9at%、より好ましくは3at%<%Cr<7at%、%Ti+%Al+%Cr=100at%であり、かつ、Nと均衡している。
【0025】
一実施形態により、本体は、WC及び4〜15wt%のCoを含む接合炭化物からなる。
【0026】
一実施形態により、本体は、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)であり、バインダ中に少なくとも1つの立方晶窒化ホウ素(cBN)粒度分布を包含する。一実施形態により、バインダは最大で3vol%のWCを含有する。
【0027】
一実施形態により、本体は、バインダ中に少なくとも25vol%の立方晶窒化ホウ素(cBN)を含有する多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)である。一実施形態により、前述した実施形態向けのバインダは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、及びAlという元素の群のうちの一又は複数を伴う、少なくとも1つの窒化物、ホウ化物、酸化物、炭化物、又は炭窒化物の化合物を含む。かかる化合物の例は、TiCN、TiB
2、及びWCである。
【0028】
一実施形態により、本体は、バインダ中に30vol%<cBN<75vol%、好ましくは35vol%<cBN<70vol%を含有しており、平均的なcBN粒度が0.5μmから10μmまで、好ましくは0.5μmから5μmまでである、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)である。一実施形態により、バインダは80wt%<Ti(C,N)<95wt%を含有しており、バインダの残部は、Ti、N、B、Ni、Cr、Mo、Nb、Fe、Al、及びOという元素の群のうちの2つ以上による化合物を含む。
【0029】
一実施形態により、本体は、バインダ中に30vol%<cBN<75vol%、好ましくは45vol%<cBN<70vol%、より好ましくは55vol%<cBN<65vol%を含有しており、平均的なcBN粒度が0.5μmから5μmまで、好ましくは1μmから3μmまでである、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)である。バインダは、80wt%<Ti(C,N)<90wt%と、Ni、Co、Crという元素の群のうちの一又は複数を含有する1wt.%未満の合金と、10wt%未満のMoとを含有しており、バインダの残部は、TiB
2とAl
2O
3という化合物の少なくとも一方を含む。
【0030】
一実施形態により、本体は、バインダ中に35vol%<cBN<70vol%を含有しており、少なくとも約50%のcBN粒子が<5μmの粒度を有し、かつ少なくとも20%の粒子が>5μmの粒度を有する、二峰性のcBN粒度分布を伴う、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)である。バインダは、アルミニウム(Al)を含む少なくとも1つの化合物と、チタン(Ti)を含む少なくとも1つの化合物とを含有する。かかる化合物の例は、炭窒化チタン、炭化チタン、窒化チタン、窒化アルミニウム、及びホウ化アルミニウムである。
【0031】
本発明によるコーティングされた切断ツールに関する1つの利点は、硬質かつ耐摩耗性のコーティングの温度耐性が改善されることである。本発明によるコーティングされた切断ツールの別の利点は、高温が発生する金属切断応用における性能が改善されている、コーティングされた切断ツールが実現することである。本発明によるコーティングされた切断ツールの更なる利点は、同切断ツールの使用が、加工面の粗さの低減をもたらすことである。
【0032】
本発明の第2態様により、本体と、PVD(物理的気相堆積)技法、好ましくはカソードアーク蒸着の利用による硬質かつ耐摩耗性のコーティングとを備える、コーティングされた切断ツールを生産するための方法が提供され、方法は、
1.堆積に先立って本体を洗浄することと、
2.(Ti,Al)の複合カソード又は合金カソードと、(Ti,Al,Cr)の複合カソード又は合金カソードをそれぞれ使用することによって、(Ti,Al)N層と(Ti,Al,Cr)N層とを成長させ、全ガス圧が1.0Paから8.0Paまで、好ましくは1.0Paから5.0Paまで、より好ましくは2.0Paから5.0Paまで、最も好ましくは3.0Paから5.0Paまでの、純N2ガス又は混合N2ガス、及びArなどのガスを含む反応性ガス雰囲気を使用して、50Aから200Aまでの蒸発電流を印加し、20Vから300Vまで、好ましくは40Vから150Vまで、最も好ましくは50Vから100Vまでの負の基板バイアスを印加し、かつ、200°Cから800°Cまで、好ましくは300°Cから600°Cまでの堆積温度を利用することとを含む。
【0033】
本発明の第3態様により、切断スピード及びインサート形状に応じて、0.08〜0.5mm、好ましくは0.1〜0.4mmの平均送り(フライス加工の場合の一歯あたり)を伴って、50〜400m/分、好ましくは75〜300m/分の切断スピードで加工を行うための、上述の実施形態のいずれかによる、コーティングされた切断ツールの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図4】本発明の一実施形態のX線ディフラクトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に概略的に示している本発明の一実施形態により、本体1と、本体上の硬質かつ耐摩耗性のコーティング4であって、0.3μmから0.8μmまでの厚みを有する、単一の(Ti
1−xAl
x)N
z層であり、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1である、第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング2、及び、1μmから3μmまでの厚みを有する、A/B/A/B/A/B/…という交互のA層とB層からなる積層構造であり、ここで、層Aは、(Ti
1−xAl
x)N
zであり、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1であり、層Bは、(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1であり、0.55<x1≦0.7、0.05≦y1<0.15、かつ0.9≦z1≦1.1である、第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング3を含む、コーティング4とを備える、コーティングされた切断ツールが提供される。A層及びB層は、第2のサブコーティング3の中間領域、すなわち、第2のサブコーティング3の厚みの30%から70%までの領域内を、例えば断面透過電子顕微鏡によって測定した、1nmから100nmまで、好ましくは5nmから50nmまで、最も好ましくは5nmから30nmまでの平均個別層厚を有し、前記平均層厚は、少なくとも10の隣接する層の厚みの測定からの平均値である。
【0036】
個々の前記硬質かつ耐摩耗性のコーティング4が、複合的なコーティング設計の部分であってよく、前記複合的なコーティングの内部層、中間層、及び/又は外部層として使用されうることは、明白である。
【0037】
図2に概略的に示している本発明の一実施形態により、本体1と、本体上の硬質かつ耐摩耗性のコーティング4であって、0.3μmから0.8μmまでの厚みを有する、単一の(Ti
1−xAl
x)N
z層であり、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1である、第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング2、及び1μmから3μmまでの厚みを有する、A/B/A/B/A/B/…という交互のA層とB層からなる積層構造であり、ここで、層Aは、(Ti
1−xAl
x)N
zであり、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1であり、層Bは、(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1であり、0.55<x1≦0.7、0.05≦y1<0.15、かつ0.9≦z1≦1.1である、第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング3を含む、コーティング4と、TiN又は(Ti,Al)Nからなる硬質かつ耐摩耗性のコーティング4上に配置された、好ましくは、0.05μmから0.3μmまでの厚みを有する(Ti
1−xAl
x)N
zの単一層であり、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1である、最外部の単一層構造6とを備える、コーティングされた切断ツールが提供される。A層及びB層は、第2のサブコーティング3の中間領域、すなわち、第2のサブコーティング3の厚みの30%から70%までの領域内を、例えば断面透過電子顕微鏡によって測定した、1nmから100nmまで、好ましくは5nmから50nmまで、最も好ましくは5nmから30nmまでの平均個別層厚を有し、前記平均層厚は、少なくとも10の隣接する層の厚みの測定からの平均値である。
【0038】
図3に概略的に示している本発明の一実施形態により、本体1と、本体1上に、本体1に接触して配置された、0.05μmから0.3μmまでの厚みを有する、最内部の単一層構造又は積層構造5であって、TiN、TiC、Ti(C,N)、又は(Ti,Al)Nなどを含む、最内部の単一層構造又は積層構造5と、本体上の硬質かつ耐摩耗性のコーティング4であって、0.3μmから0.8μmまでの厚みを有する、単一の(Ti
1−xAl
x)N
z層であり、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1である、第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング2、及び、1μmから3μmまでの厚みを有する、A/B/A/B/A/B/…という互い違いのA層とB層からなる積層構造であり、ここで、層Aは、(Ti
1−xAl
x)N
zであり、ここで、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1であり、層Bは、(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1であり、ここで、0.55<x1≦0.7、0.05≦y1<0.15、かつ0.9≦z1≦1.1である、第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング3を含む、コーティング4と、TiN又は(Ti,Al)Nからなる硬質かつ耐摩耗性のコーティング4上に配置された、好ましくは、0.05μmから0.3μmまでの厚みを有する(Ti
1−xAl
x)N
zの単一層であり、0.15<x<0.35、好ましくは0.2≦x<0.3、かつ0.9≦z≦1.1である、最外部の単一層構造6とを備える、コーティングされた切断ツールが提供される。A層及びB層は、第2のサブコーティング3の中間領域、すなわち、第2のサブコーティング3の厚みの30%から70%までの領域内を、例えば断面透過電子顕微鏡によって測定した、1nmから100nmまで、好ましくは5nmから50nmまで、最も好ましくは5nmから30nmまでの平均個別層厚を有し、前記平均層厚は、少なくとも10の隣接する層の厚みの測定からの平均値である。
【0039】
本発明の一実施形態により、総厚、すなわち、(存在する場合には)最内部の層構造5、(存在する場合には)最外部の層構造6、及びコーティング4の厚みの合計は、0.8μmから15μmまで、好ましくは1μmから10μmまで、最も好ましくは1μmから6μmまでである。
【0040】
これらの層の平均組成は、Thermo Noran EDSが装備された、20kVで、かつ、コーティング面に対して直角入射で動作しているLEO Ultra55走査電子顕微鏡を使用して、エネルギー分散型分光(energy dispersive spectroscopy:EDS)分析領域ごとに評価された。業界標準及びZAF補正が、定量分析に使用された。金属組成は、Noran System Six(NSS第2版)ソフトウェアを使用して評価された。
【0041】
本発明の一実施形態により、前記硬質かつ耐摩耗性のコーティング4は、単一層(Ti
1−x−yAl
x)N
zである第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング2と、(Ti
1−x−yAl
xCr
y)N
z層(y=0)と(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1層との積層である第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング3と、(Ti
1−x−yAl
xCr
y)N
z(y=0)である最外部6の単一層とからなり、EDSにより判定される場合、55at%<%Ti<62at%、好ましくは57at%<%Ti<62at%、より好ましくは57at%<%Ti<60at%、32at%<%Al<40at%、好ましくは34at%<%Al<40at%、より好ましくは34at%<%Al<38at%、1at%<%Cr<9at%、好ましくは3at%<%Cr<9at%、より好ましくは3at%<%Cr<7at%、%Ti+%Al+%Cr=100at%であり、かつ、Nと均衡している、平均組成を有する。
【0042】
加えて、コーティング4、最内部の層構造5、及び最外部の層構造6は、EDSにより判定される場合、合計濃度が0から3at%まで、好ましくは0から2at%までの酸素(O)及び炭素(C)を含有しうる。
【0043】
Bragg−Brentano型の、Bruker AXS D8−高度X線回折計及びCu−Kα線を使用するX線回折(XRD)による、コーティング相の検出が実行された。典型的には、多結晶混合相材料における各相の検出限界は、5vol%未満である。
【0044】
本発明の一実施形態により、前記第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング2は、立方晶塩化ナトリウム相からなる。
【0045】
本発明の一実施形態により、前記第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング2は、混合された立方晶塩化ナトリウム相と六方晶相とからなる。
【0046】
本発明の一実施形態により、前記第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング3は、立方晶塩化ナトリウム相からなる。
【0047】
本発明の一実施形態により、前記第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング3は、混合された立方晶塩化ナトリウム相と六方晶相とからなる。
【0048】
加えて、コーティング4は、XRD技法の検出限界に近い少量の非晶相も含有しうる。
【0049】
本体1上の前記硬質かつ耐摩耗性の機能性コーティング4の堆積方法は、(Ti,Al)N層と(Ti,Al,Cr)N層の成長をそれぞれ可能にする(Ti,Al)の複合カソード又は合金カソードと、(Ti,Al,Cr)の複合カソード又は合金カソードとを使用する、PVD技法、好ましくは反応性カソードアーク蒸着に基づく。堆積に先立って、本体1は、その場以外での(ex−situ)及びその場での(in−situ)実証済洗浄手順を利用することによって、適切に洗浄される。所望の層組成は、適切な反応性ガス雰囲気と、(Ti,Al)カソード及び(Ti,Al,Cr)カソードの組成とをそれぞれ選択することによって取得される。(Ti,Al)N層及び(Ti,Al,Cr)N層は、全ガス圧が1.0Paから8.0Paまで、好ましくは1.0Paから5.0Paまで、より好ましくは2.0Paから5.0Paまで、最も好ましくは3.0Paから5.0Paまでの、純N2ガス又は混合N2ガス、及びArなどのガスを含む反応性ガス雰囲気における、50Aから200Aまでの(カソードのサイズが大きくなると電流も大きくなる)蒸発電流と、20Vから300Vまで、好ましくは40Vから150Vまで、最も好ましくは50Vから100Vまでの、負の基板バイアスとにより、成長する。堆積温度は、200°Cから800°Cまで、好ましくは300°Cから600°Cまでである。単一層が、カソードのただ1つの組み合わせ、及び上記による成長パラメータから取得された堆積フラックスを、本体1が通過できるようにすることによって、堆積される一方で、積層は、カソードの少なくとも2つの異なる組み合わせから取得された堆積フラックスを、本体1が交互に通過できるようにすることによって成長するが、他の点では上記による成長パラメータは共通である。
【0050】
図4は、本発明の一実施形態のθ−2θX線ディフラクトグラムを示している。このθ−2θX線ディフラクトグラムは、20kVで動作しているEDSにより判定される場合、硬質金属(WC:Co)の本体(1)上の、堆積されたままの状態のコーティングであって、(Ti,Al)Nである第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(2)、及び、Ti=58at%、Al=36at%、及びCr=6at%の平均コーティング組成を有する(Ti,Al)N層と(Ti,Al,Cr)N層との積層からなる第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング(3)を含むコーティングの、塩化ナトリウム構造を検証するものである。2θ(x軸)における約37°、43°、及び62.5°の幅広の回折ピークはそれぞれ、塩化ナトリウム構造の(111)、(200)、及び(220)の格子面である。それ以外のピークは、WC:Coの本体(1)に由来する。
【0051】
最内部の層5及び最外部の層6向けの堆積方法は、PVD技法、好ましくは、TiN、TiC、Ti(C,N)又は(Ti,Al)Nなどの層の成長のために、純カソード、複合カソード、又は合金カソードをそれぞれ使用する、反応性カソードアーク蒸着に基づく。所望の層組成は、適切な反応性ガス雰囲気とカソード組成とをそれぞれ選択することによって、取得される。層は、全ガス圧が1.0Paから8.0Paまで、好ましくは1.0Paから5.0Paまで、より好ましくは2.0Paから5.0Paまで、最も好ましくは3.0Paから5.0Paまでの、純N2ガス又は混合N2ガス、及びArなどのガスを含む反応性ガス雰囲気における、50Aから200Aまでの(カソードのサイズが大きくなると電流も大きくなる)蒸発電流と、20Vから300Vまで、好ましくは40Vから150Vまで、最も好ましくは50Vから100Vまでの、負の基板バイアスとにより、成長する。堆積温度は、200°Cから800°Cまで、好ましくは300°Cから600°Cまでである。
【0052】
本発明の一実施形態により、本体は、接合炭化物、サーメット、セラミック、立方晶窒化ホウ素(cBN)系材料、又は高速度鋼の硬質合金である本体1を含む、チップ除去による加工のための切断インサートである。前記本体は、ドリルやエンドミルといった他の金属切断ツールでもありうる。
【0053】
一実施形態により、本体は、WC/Co-94wt%/6wt%を含む接合炭化物からなる。
【0054】
一実施形態により、本体は、WC/Co-95wt%/5wt%を含む接合炭化物からなる。
【0055】
一実施形態により、本体は、WC/Co-87wt%/13wt%を含む接合炭化物からなる。
【0056】
本発明の一実施形態により、本体1は、バインダ中に、35vol%<cBN<70vol%を含有しており、少なくとも約50%のcBN粒子が<5μmの粒度を有し、かつ、少なくとも20%の粒子が>5μmの粒度を有する、二峰性のcBN粒度分布を伴う、PCBN材料である。バインダは、Alを含む少なくとも1つの化合物と、Tiを含む少なくとも1つの化合物とを含有する。かかるPCBN材料の一例、及びそれを生産する方法が、PCT出願公報WO2014/177503に記載されている。
【0057】
この開示によるcBN粒度分布及びPCBN材料の粒度は、PCT出願公報WO2014/177503に記載されている方法に準拠して、評価されている。
【実施例】
【0058】
下記の表2〜9で、Nは、積層されたサブコーティング中のA層+B層(二重層)の数であり、at%は、コーティングの金属部分を表している。
【0059】
実施例1
WC/Co-95/5wt%の組成を有する、グレードAの接合炭化物のインサート(ISOジオメトリ:CNMG120408)が、カソードアーク蒸着による層堆積のための本体1として使用された。
【0060】
堆積前に、インサートはアルカリ溶液とアルコールの超音波槽内で洗浄された。システムは2.0x10
−3Pa未満の圧力まで排気され、その後インサートは、回転式の取付具に装着され、Arイオンでスパッタ洗浄された。
【0061】
単一の(Ti
1−xAl
x)N
z層からなり、0≦x<0.6、かつ0.9≦z≦1.1である、第1の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング2が、約0.5μmの総サブコーティング厚に至るまで、4.5Paの純N
2雰囲気、−25Vのバイアス、約500°Cの成長温度、及び150Aの蒸発電流で、所望のコーティング組成(表1参照)を生成するように選択された組成を有する(Ti,Al)複合カソードから、WC:Co本体上に直接堆積された。
【0062】
第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティングは、A/B/A/B/A/B/…という交互のA層とB層からなる積層構造であり、ここで、層Aは(Ti
1−xAl
x)N
zであり、0≦x<0.6であり、層Bは(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1であり、0.55<x1<0.65、0.05<y1<0.15、かつ0.9≦z1≦1.1である。第2の(Ti,Al)系窒化物サブコーティング3が、約2.0μmの総サブコーティング厚に至るまで、4.5Paの純N2雰囲気、−40Vのバイアス、約500°Cの成長温度、及び150Aの蒸発電流で、コーティングの所望の金属組成(表1参照)を生成するように選択された組成を有する(Ti,Al)複合カソード及び(Ti,Al,Cr)複合カソードから、堆積された。概括的に、積層コーティング構造は、異なる層の成長に使用される少なくとも2つの異なるカソード組成からの堆積フラックスを、コーティング本体が交互に通過できるようにすることによって(その他の点では決まった堆積条件で)取得可能であった。このことは、(Ti
1−xAl
x)N
zの成長のためのカソードと、(Ti
1−x1−y1Al
x1Cr
y1)N
z1の成長のためのカソードとを、堆積システム内の両側に、互いに対面するように配置することによって、実現する。取付具の回転を通じて、インサートは、各カソードからの堆積フラックスを交互に通過することになり、それによって、2つの連続した層(いわゆる二重層)が、丸一回転している間に蒸気凝縮により形成される。取付具の回転のスピードを通じて制御されるこれらの層の平均個別層厚は、1nmから100nmまでであった。
【0063】
【0064】
20kVで動作しているEDSによって取得された、成長したままの状態のコーティングの金属組成を、表2に示す。
【0065】
実施例2
実施例1では更に、WC/Co-94/6wt%の組成を有する、グレードBの複数の接合炭化物のインサート(ISOジオメトリ:TPUN160308)に、表3に示すコーティング金属組成が同時に堆積された。
【0066】
実施例3
実施例1では更に、WC/Co-87/13wt%の組成を有する、グレードCの複数の接合炭化物のインサート(ISOジオメトリ:XOMX120408TR−ME12)に、表4に示すコーティング金属組成が同時に堆積された。
【0067】
実施例4
バインダ中に少なくとも30vol%のcBNを含有する、グレードDのPCBNインサートを使用して、実施例1が反復された。バインダは、周期表の第4族、第5族、及び第6族に属する元素、及びAlのうちの一又は複数から選択された、Ti(C,N)やAlNといった、少なくとも1つの窒化物、ホウ化物、酸化物、炭化物、又は炭窒化物の化合物を含む。
【0068】
実施例1において成長した層に加えて、単一の(Ti
1−x−yAl
x)N
z層からなり、0≦x<0.6、かつ0.9≦y≦1.1である、最外部の上層6が、約0.1μmの総サブコーティング厚に至るまで、4.5Paの純N
2雰囲気、−40Vのバイアス、約500°Cの成長温度、及び150Aの蒸発電流で、所望のコーティング組成(表1参照)を生成するように選択された組成を有する(Ti,Al)複合カソードから、堆積された。
【0069】
20kVで動作しているEDSによって得られた、成長したままの状態のコーティング、及びそれらの堆積パラメータ、並びにそれらの金属組成を、表5に示す。
【0070】
実施例5
実施例4では更に、バインダ中に30vol%<cBN<70vol%、好ましくは40vol%<cBN<65vol%を含有しており、平均cBN粒度が0.5μmから4μmまでである、グレードEの複数のPCBNインサートに、表6に示すコーティング金属組成が同時に堆積された。バインダは、80wt%<Ti(C,N)<95wt%を含有しており、その残部は、Ti、N、B、Ni、Cr、Mo、Nb、Fe、Al、及びOという元素の群のうちの2つ以上による、TiB
2やAl
2O
3といった化合物を含む。
【0071】
実施例6
実施例4では更に、バインダ中に45vol%<cBN<70vol%、好ましくは55vol%<cBN<65vol%を含有しており、平均cBN粒度が0.5μmから4μmまで、好ましくは1μmから3μmまでである、グレードFの複数のPCBNインサートに、表7に示すコーティング金属組成が同時に堆積された。バインダは、80wt%<Ti(C,N)<90wt%と、一又は複数の元素(Ni、Co、及びCr)を含有する1wt.%未満の合金と、10wt%未満のMoと、主にTiB
2及びAl
2O
3である残部とを、含有する。
【0072】
実施例7
実施例4では更に、バインダ中に70vol%を上回るcBN、好ましくは80vol%<cBN<95vol%を含有しており、cBN粒子の一部分は<10μm、好ましくは0.5μmから10μmまで、より好ましくは1μmから6μmまでの粒度を有し、かつ、cBN粒子の別の部分は>10μm、好ましくは10μmから25μmまで、より好ましくは15μmから25μmまでの粒度を有する、二峰性のcBN粒度分布を伴う、グレードGの複数のPCBNインサートに、表8に示すコーティング金属組成が同時に堆積された。バインダは、Al,B,N,W,Co,Ni,Fe,Al及び/又はOという元素のうちの2つ以上の化合物を含む。
【0073】
実施例8
実施例4では更に、バインダ中に35vol%<cBN<70vol%を含有ており、少なくとも約50%のcBN粒子が<5μmの粒度を有し、かつ、少なくとも20%の粒子が>5μmの粒度を有する、二峰性のcBN粒度分布を伴う、グレードHの複数のPCBNインサートに、表9に示すコーティング金属組成が同時に堆積された。バインダは、Alを含む少なくとも1つの化合物と、Tiを含む少なくとも1つの化合物とを含有する。
【0074】
実施例9
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の表2のサンプル(実施例1におけるコーティングされたグレードA)を使用している。
ジオメトリ:CNMG120412−MF5
応用:表面仕上げ
被加工物材料:34CrNiMo6、48−52HRc
切断スピード:130m/分
送り:0.25mm/回転
切断深さ:0.3mm
冷却:なし
性能基準:耐クレーター摩耗性
【0075】
表10は、サンプル2の性能向上を示す、本発明の相対的な切断性能を示している。
【0076】
実施例10
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の表3のサンプル(実施例2におけるコーティングされたグレードB)を使用している。
ジオメトリ:TPUN160308
応用:表面仕上げ
被加工物材料:100Cr6
切断スピード:320m/分
送り:0.25mm/回転
切断深さ:2mm
冷却:あり
性能基準:耐クレーター摩耗性
【0077】
【0078】
表11は、コーティング11の性能向上を示す、本発明の相対的な切断性能を示している。
【0079】
実施例11
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の表4のサンプル(実施例3におけるコーティングされたグレードC)を使用している。
ジオメトリ:XOMX120408TR−M12
応用:側面フライス加工
被加工物材料:42CrMo4
切断スピード:400m/分
送り:0.3mm/回転
切断深さ:3mm
D(a
e):65mm(20%)
冷却:なし
性能基準:ツール寿命
【0080】
表12は、サンプル21及びサンプル22の性能向上を示す、本発明のツール寿命の結果を示している。
【0081】
実施例12
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の、コーティングされていないPCBNグレードHインサートを含む、表9のサンプル(実施例8におけるコーティングされたグレードH)を使用している。
ジオメトリ:CNGA120408S−01525−L1−B
応用:連続切断
被加工物材料:SAE8620、58−62HRC
切断スピード:250m/分
送り:0.1mm
切断深さ:0.1mm
冷却:なし
性能基準:ツール寿命
【0082】
表13は、サンプル65の明確な性能向上を示す、本発明のツール寿命の結果を示している。
【0083】
実施例13
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の表9のサンプル(実施例8におけるコーティングされたグレードH)を使用している。
ジオメトリ:CNGA120408S−01525−L1−B
応用:連続切断
被加工物材料:SAE8620、58−62HRC
切断スピード:250m/分
送り:0.1mm
切断深さ:0.1mm
冷却:なし
性能基準:材料比、50回の試行後のRmr50%
【0084】
Rmrは、表面粗さプロファイルの材料比の標準的な測定値であり、多くの場合、摩耗耐性を評価するために使用される。表14は、サンプル66と比較した、サンプル65及びサンプル67について、50回の試行後の材料比(Rmr)50%の深さを示している。
【0085】
実施例14
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の表9のサンプル(実施例8におけるコーティングされたグレードH)を使用している。
ジオメトリ:CNGA120408S−01525−L1−B
応用:連続切断
被加工物材料:SAE8620、58−62HRC
切断スピード:250m/分
送り:0.1mm
切断深さ:0.1mm
冷却:なし
性能基準:クレーター摩耗/クレーター深さ
【0086】
表15は、サンプル66、サンプル67、及びコーティングされていないグレードHと比較して、サンプル65の耐クレーター摩耗性が最良であることを示している。
【0087】
実施例15
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の表9のサンプル(実施例8におけるコーティングされたグレードH)を使用している。
ジオメトリ:TCGW110208S−01015−L1−C
応用:ID回転、直径24.69mm、長さ7.6mm
被加工物材料:100Cr6、60HRc
切断スピード:143m/分
送り:0.15mm/回転
切断深さ:0.15mm
冷却:あり、ただしチップ排出のためのみ
性能基準:ツール寿命
【0088】
表16は、従来技術のサンプルと比較しての、サンプル65の性能の向上を示している。
【0089】
実施例16
切断試験には、以下のデータに従って、回転動作中の表9のサンプル(実施例8におけるコーティングされたグレードH)を使用している。
ジオメトリ:DNGA150612S−01525−L1−B
応用:OD回転、直径45mm、長さ26mm
被加工物材料:25MoCr4E、58−64HRc
切断スピード:260m/分
送り:0.15mm/回転
切断深さ:0.2mm
冷却:なし
性能基準:ツール寿命
【0090】
表17は、従来技術のサンプルと比較しての、サンプル65の性能の向上を示している。