【実施例】
【0155】
実施例1
抗IL-6R抗体の皮下(SC)投与固定用量を決定する臨床試験
毎週皮下投与される(SC QW)162mgの抗IL-6R抗体(トシリズマブ、TCZ)は、健常人の第1相2試験(WP18097およびBP22065)、日本人RA患者の第1/2相1試験(MRA227)および白人RA患者の第1b相1試験(NP22623)を含む第1/2相4試験の結果に基づき選択した。これらSC試験および比較データを得た4試験のさらなる詳細を表1に示す。
【表1】
【0156】
これらの試験では、180mg/mLのTCZを含むがヒアルロニダーゼは含まないTCZ製剤を使用した(実施例4の表2参照)。
【0157】
日本人RA試験MRA227では、全患者(32)を3試験アームのいずれかに無作為に割り付けた:81mg SC Q2W/QW、162mg SC Q2Wおよび162mg SC QW。白人RA試験NP22623では、全29人の患者を2治療アームのいずれかに無作為に割り付けた:162mg SC Q2W(N=15)および162mg SC QW(N=14)。
【0158】
RA患者の2試験の観察データを基に用量根拠を構築した。
【0159】
この162mg QW用量レジメンの選択は、3つの主要素から導かれた:
sIL-6R結合TCZ複合体(TCZの作用機構のPDバイオマーカー;Nishimotoら, Blood 112(10):3959-3964 (2008))は、他の試験SC用量レジメンと比べて162mg QWでより高速かつ大幅に増加する(
図1)。
CRPは、他の試験SC用量レジメンと比べて162mg QWでより高速かつ一貫して減少する(
図2)。
SC治療アームの安全性プロフィールは、互いに、又は8mg/kg IV Q4Wとの差異はないと考えられる。
一般に、試験SC用量レジメンは、MRA227およびNP22623試験で忍容性が良好である。
特筆すべきは、SC治療アームにおいて死亡はなく、SAEは1件のみ(腎盂腎炎)であった。
どのSC用量レジメンよりも8mg/kg IV Q4Wの平均曝露(AUC、C
max)が一般に高いので、162mg QWの安全性プロフィールは8mg/kg IVのものと同等であると考えられる(
図4)。
【0160】
sIL-6R
図1は、SCおよびIVレジメン後のsIL-6Rプロフィールを示す。162mg QWを受けるRA患者のsIL-6Rプロフィールは、上昇の速度及び大きさにおいて、8mg/kg IV Q4Wで観察されたものと酷似している。他の試験用量レジメン(81mg Q2W/QWまたは162mg Q2W)は、8mg/kg IV Q4Wに匹敵するレベルに到達しなかった。
【0161】
CRP
図2は、RA患者の162mg SC QWおよび8mg/kg IV Q4W用量レジメン後のCRPプロフィールを示す。162mg QWは、試験SC用量レジメンのなかで最も高速かつ持続性のCRP濃度の減少を見せた。
【0162】
DAS28−ESR
疾患活動性(DAS28−ESRで測定)は、他の試験SC用量レジメンと比べて162mg SC QWがより高速かつ大幅にベースラインから減少すると考えられる(
図3)。
【0163】
安全性:観察データ
TCZ SCの4試験では死亡はなく、1件のSAE(81mg用量群の腎盂腎炎)が報告されたのみである。健常人またはRA患者の単回または反復SC投与後に観察されたAEは、概ね第3相RA IV試験で観察されたAEの種類および重症度と一致した。NP22623のデータは、162mgのQW用量群とQ2W用量群の間で異なるAEプロフィールを示さなかった。SC TCZを受ける日本人RA患者及び白人RA患者の検査測定値の平均変化は、IVプログラムのRA患者のものと類似していた。162mg QWを受けた日本人RA患者1人に好中球減少が認められ、用量を162mg Q2Wに減少した。81mg Q2Wを受けた患者1人に好中球減少が認められ、第11週の81mg QWへの切替時、その後の投与を行わなかった。SC注射は一般に忍容性が良好であった。SC注射は皮下プラセボ注射より痛みが大きいとは認識されなかった。
【0164】
MRA227試験では、162mg QW群の患者はいずれも抗TCZ抗体陽性ではなかった。低用量群の患者4人は抗TCZ抗体陽性(81mg QW/Q2W用量群の全員、TCZ投与前に1人);5人が抗TCZ IgE抗体陽性(81mg Q2W/QW用量群の患者3人及び162mg Q2W用量群の患者2人)であった。抗体試験で陽性だった患者のうち、ベースラインで陽性であった患者1人にグレード1の湿疹が認められたが無関係(食物アレルギー)と考えられ、患者1人にグレード1の蕁麻疹が認められ、別の患者に注射部位のあざが認められた。抗TCZ抗体検査で陽性だった患者の「皮膚及び皮下組織」及び「全身障害及び投与局所態様」クラスのAEは他には報告されなかった。
【0165】
PK−安全性関係
MRA227試験及びLRO301試験のSCレジメンとIVレジメン間の定常状態のPKプロフィールをそれぞれ目視検証すると、一般に、162mg QW SCレジメンと比べて8mg/kg IVレジメンの方が高曝露であると考えられる(平均AUC、C
max)(
図4)。例外は平均C
troughであり、162mg QWレジメンのほうが8mg/kg IVよりも高濃度である(第15週の26±15μg/mL及び第16週の16±11μg/mL)。他の低用量群は定常状態で8mg/kg IVと同等の濃度に達成しなかった。162mg SCレジメンのC
troughの被験者間のばらつきは大きかった(58%)。どのSC用量レジメンよりも8mg/kg IV Q4W用量レジメンが概ね高曝露なので、162mg SC QWの安全性プロフィールは8mg/kg IV Q4Wのものと同様となることが予想される。
【0166】
体重に関わらず全RA患者に単回固定用量(162mg QW用量)が投与される。このアプローチは、固定用量に対する全域体重に起因しうる曝露差を差し引いても、観察された162mg QW用量レジメンの3カテゴリー(C
max、C
trough及びAUC)すべての最高曝露がIVプログラムの記述範囲内にある、という事実に裏付けられる。
【0167】
加えて、このアプローチはIVプログラムの安全性データ分析(SAE、AE、臨床検査)に裏付けられる。TCZ曝露とクラス別有害事象、特に「感染症及び寄生虫症」及び「皮膚及び皮下組織」クラスの最も頻発する有害事象の発生との間に明白な関係はない。TCZの曝露と重篤な有害事象の間に明白な関係はない。曝露の増加に伴い、好中球減少以外には検査結果異常の頻度に明白な増加は見られなかった。TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合でグレード3以上の好中球減少の事象が認められた。加えて、TCZ高曝露カテゴリーに1件のグレード3の血小板減少の事象が認められた。トリグリセリド、総コレステロール及びLDLコレステロール濃度に関し、TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合で濃度上昇が認められた。まとめると、これらのデータは固定用量レジメンの使用が許容可能であることを示唆している。
【0168】
まとめると、162mg SC QW用量レジメンは、以下に基づいて選択された:1)162mg SC QWのsIL-6R結合TCZ複合体が、162mg SC QWでより高速かつ大幅に増加し、試験用量レジメンの8mg/kg IV Q4Wと最も類似していた;2)CRPは162mg SC QWの方が他の試験SC用量レジメンよりも速く一貫して減少した:3)SC治療アームの安全性プロフィールは、互いに、又は8mg/kg IV Q4Wとの差異はないと考えられる;および4)8mg/kg IV Q4Wの総曝露がどの試験SC用量レジメンよりも概ね高いことから、162mg SC QWの安全性プロフィールは8mg/kg IV Q4Wと同様のはずである。
【0169】
実施例2
SC抗IL-6受容体抗体のRA臨床試験
これは、1または複数の抗TNF生物学的製剤を含みうるDMARDの安定用量に現在応答不十分である中等度から重度の活動性RA患者に対する、第3相、2アーム、2年、無作為化、二重盲検、ダブルダミー、実薬対照並行群間多施設協同試験である。一次評価項目は、第24週で評価される。この実施例の全体的デザインを
図5に示す。製剤は実施例1のとおりである。
【0170】
スクリーニング来院は、ベースラインの無作為化の来院の前21日まで(または21日を上回る無治療期間を要する場合は56日まで)発生しうる。患者の適格性はスクリーニングとベースラインの来院時に決定し、このとき患者を無作為化する。過去の抗TNF治療が失敗した患者数は、母集団全体の約20%に制限されるであろう。
【0171】
試験参加基準
1.年齢≧18歳
2.関節リウマチの期間≧6ヶ月、1987年改訂アメリカリウマチ学会(ACR、旧アメリカリウマチ協会)の分類基準に従い診断する。
3.スクリーニングとベースライン時の膨張関節数(SJC)≧4(66関節数)および圧痛関節数(TJC)≧4(68関節数)。
4.無作為化前に、エタネルセプトを≧2週間、インフリキシマブ、セルトリズマブ、ゴリムマブ、アバタセプト又はアダリムマブを≧8週間、アナキンラを≧1週間、中断している。
5.ベースライン前に、許容された安定用量のDMARDを少なくとも8週間受けている。
6.スクリーニング時、CRP≧1mg/dL(10mg/L)又はESR≧28mm/hrである。
7.ベースライン前に≧4週間の安定用量レジメンにある場合、経口コルチコステロイド(≦10mg/日 プレドニゾンまたは同等)及びNSAID(最高推奨量まで)が許容される。
【0172】
二重盲検期間中、ベースライン来院時、患者は1:1の比率でTCZ162mg SC毎週とプラセボIV Q4W(A群)、又はTCZ8mg/kg IV Q4WとプラセボSC QW(B群)のいずれかに無作為化され、24週間の治療を受ける。一次分析は患者全員が第24週に達したときに行う。
【0173】
第24週で全患者は非盲検期間用に以下のとおり再度無作為化される:
A群:患者は11:1の比率で再度無作為化され、TCZ162mg SC毎週(A1群)又は8mg/kg IV 4週ごと(A2群)を受ける。
B群:患者は2:1の比率で再度無作為化され、8mg/kgをIVで4週ごと(B1群)またはTCZ162mgをSCで毎週(B2群)受ける。
【0174】
二重盲検試験の初回薬物投与に先立ち(ベースライン来院)、患者によるアウトカムおよび有効性評価を24時間以内に行わなければならない(必要に応じて72時間まで許可される)。第24週と第25週の間に1週間の休薬期間を挟み、第25週に非盲検期間の初回治療を行う。
【0175】
有効性パラメーターはベースライン、第2週、第4週、その後第24週までは4週ごとに、その後第37、49、73、97週、または早期脱落(WD)来院時に評価する。
【0176】
各治療群は、TCZ投与前に投与を開始された非生物学的DMARD、コルチコステロイド及び/又はNSAIDを使用する背景治療を許可される。NSAID、コルチコステロイド及び/又は非生物学的DMARDの用量は、コア試験期間(第24週まで)一定でなければならない。しかし、安全性の理由上必要な場合はこれらの治療において減量してよい。
【0177】
有効性評価
ACR20
アメリカリウマチ学会(ACR)の結果基準コアセット及び改善の定義は、SJCとTJCの両方、並びに付加的な5つのパラメーター(医師による疾患活動性の全般的評価、患者による疾患活動性の全般的評価、患者による疼痛評価、HAQおよび急性期応答(CRPまたはESR))のうち3つが、ベースラインよりも≧20%改善していることを包含する。
【0178】
ACR50の獲得は、同じパラメーターで≧50%の改善、ACR70は≧70%の改善を必要とする。
【0179】
疾患活動性スコア28(DAS28)−ESR
DAS28は、RA疾患活動性を測定する複合型指標である。この指標には、膨張及び圧痛関節数、急性期応答(ESRまたはCRP)及び一般的な健康状態が含まれる。本試験ではESRを使用してDAS28スコアを計算する。指標は以下の式を使用して計算する: DAS28=0.56×√(TJC28)+0.28×√(SJC28)+0.36×ln(ESR+1)+0.014×GH+0.96
ここでTJC28は28関節の圧痛関節数、SJC28は28関節の膨張関節数、lnは自然対数、ESRは赤血球沈降速度(mm/hr)及びGHは一般的健康状態、すなわち患者による疾患活動性の全般的評価(100−mm VAS)である。DAS28スケールの範囲は0から10であり、高スコアは疾患活動性が高いことを示す。
【0180】
ACR−ハイブリッド
ACR−ハイブリッドは、ACRコアパラメーターの改善パーセントとACR20、ACR50またはACR70の状態を組み合わせた測定値である。
【0181】
この実施例に開示の毎週皮下投与(SC)されるTCZ162mgの治療は、上記の任意1または複数の有効性基準に基づき、4週ごとに静脈内投与(IV)されるTCZ8mg/kgに匹敵する安全性及び有効性を有すると予想される。
【0182】
実施例3
関節破壊の進行を抑制する抗IL-6R抗体SC
これは、1または複数の抗TNF-α剤を含みうるDMARDに現在応答不十分である中等度から重度の活動性RA患者に対する、第3相、2アーム、2年、無作為化、二重盲検、プラセボ対照並行群間多施設協同試験である。主要評価項目は、第24週で評価される。
【0183】
全体的デザインを
図6に示す。スクリーニング来院は、ベースラインの無作為化の来院の前21日まで(または21日を上回る無治療期間を要する場合は56日まで)発生しうる。患者の適格性はスクリーニングとベースラインの来院時に決定する。ベースラインで患者を無作為化する。前回の抗TNF-α治療が失敗した患者数は、母集団全体の約20%に制限されるであろう。製剤は実施例1のとおりである。製剤は、プレフィルドシリンジ(PFS)又は自動注射器(AI)を使用して投与する。
【0184】
TCZ Q2W投与
この試験では、TCZ162mgを毎週(QW)ではなく2週ごと(Q2W)に投与する。162mg SC QWでの応答と比べ、162mg SC Q2Wの方は、以下に記載のように、sIL-6R結合TCZ複合体を増加させ、CRP正常化を獲得し、結果としてベースラインからDAS−ESRが低下する低用量のSCオプションであると考えられる。さらに、162mg SC Q2WレジメンのPD応答と予備有効性測定値は、他の試験低用量レジメン(81mg Q2W/QW)よりも優れている。
TCZ作用機構のPDバイオマーカーであるsIL-6R複合体は、162mg SC Q2Wでは162mg SC QWよりも増加が少ないが、他の低用量SCレジメン(81mg Q2W/QW)と比べて大幅に増加する(
図1)。
CRP正常化が162mg SC Q2Wで獲得される;低用量SCレジメンはCRP正常化が得られなかった(
図2)。
疾患活動性スコアDAS28−ECRは、他の試験SC用量レジメン(81mg SC Q2W/QW)と比べ、162mg SC QWおよび162mg SC Q2Wでベースラインから大幅に減少すると考えられる(
図3)。
【0185】
安全性:
入手可能な安全性観察データに基づき、SC治療アームの安全性プロフィールは、互いに、又はIVプログラムとの差異はないと考えられる。
162mg SC QW及びQ2Wは、MRA227及びNP22623試験での忍容性が良好であった。
いずれのSC治療アームにも死亡はなかった。81mg SC用量群にSAEとして腎盂腎炎が1件発生した。
平均曝露(AUC、C
max、C
trough)は8mg/kg IV用量の方が162mg SC Q2Wよりも一般に高いことから、162mg SC Q2Wの安全性プロフィールはIVプログラムと同等であると考えられる(
図4)。
【0186】
sIL-6R複合体
sIL-6R結合TCZ複合体は、TCZの作用機構のPDバイオマーカーである。
図1は、SC及びIVレジメン後のsIL-6Rプロフィールを示す。162mg SC QWを受けるRA患者のsIL-6Rプロフィールは、上昇の速度及び幅の両方が8mg/kg IV q4wでの観察と酷似している。他の試験用量レジメン(81mg Q2W/QW及び162mg Q2W)は、8mg/kg IV q4wに匹敵する濃度に達しなかった。隔週(Q2W)の162mg用量は、162mg QWと8mg/kg IVに観察されるよりも低い応答性を示した。sIL-6R複合体は、162mg SC Q2Wで他の試験低用量SCレジメン及び4mg/kg IVよりも大幅に増加する。
【0187】
CRP
図2は、RA患者のSCおよびIV用量レジメン後のCRPプロフィールを示す。162mg SC QWは、試験SC用量レジメンのなかでCRP濃度がもっとも速く持続的に低下した。低用量SCレジメンのうち、162mg SC Q2Wが正常化に達した(尚、MRA227の患者は第0週に単回用量(SD)を投与され、次いで第3週から反復投与が開始され、用量は81mg Q2WからQWに第9週で切り替えられた。
図2参照)。これより低用量のSCレジメン(81mg QW/Q2W)はCRP正常化が得られないと考えられた。従って、162mg SC Q2WはCRP正常化を得られる低用量SCオプションであると考えられる。
【0188】
DAS28−ESR
図3は、RA患者のSC及びIV用量レジメン後のDAS28−ESRの変化を示す。SCレジメンのDAS28−ESRデータは限られているが、疾患活性度は162mg SC QWおよび162mg SC Q2Wにおいて、他の試験SC用量レジメン(81mg SC Q2W/QW)よりも速く大幅にベースラインから減少していると考えられる(
図3)。162mg SC QWで観察された応答と比べ、162mg SC Q2Wは、ベースラインからのDAS−ESRの低下を獲得する低用量SC用量オプションであると考えられる。
【0189】
PK&PK−安全性関係
RA患者へのTCZ反復投与(MRA227)後の平均曝露(AUC、C
max、C
trough)は、162mg SC Q2Wで観察されたC
troughよりも低い4mg/kg IV q4wのC
trough濃度を除き、一般に4&8mg/kg IV q4w用量の方が162mg SC Q2Wより高い(
図4)。IVプログラムの安全性プロフィールは広く試験されている。これらのまとめ、及び162mg SC QWとの比較から、162mg SC Q2W用量は、薬物曝露に基づき許容可能な安全性プロフィールを有する低用量SC用量オプションであると考えられる。
【0190】
平均曝露(AUC、C
max、C
trough)は、162mg SC Q2Wで観察されたC
troughよりも低い4mg/kg IV q4wのC
trough濃度を除き、一般に4&8mg/kg IV q4w用量の方が162mg SC Q2Wより高い(
図4)。IVプログラムの安全性プロフィールは広く試験されている。これらのまとめ、及び162mg SC QWとの比較から、162mg SC Q2W用量は、薬物曝露に基づき許容可能な安全性プロフィールを有する低用量SC用量オプションであると考えられる。
【0191】
単回固定用量(エスケープ治療の162mg SC Q2W及び162mg SC QW)が体重にかかわらず全RA患者に投与される。このアプローチは、固定用量に対する体重の全範囲に起因しうる曝露差を差し引いても、観察された162mg SC QW及びQ2W用量レジメンの3パラメーター(C
max、C
trough及びAUC)で定義される最高曝露が、IVプログラムの記載範囲内にある、という事実に裏付けられる。加えて、このアプローチはIVプログラムの安全性データ分析(SAE、AE、研究室)に裏付けられる。TCZ曝露とクラス別有害事象、特に「感染症及び寄生虫症」及び「皮膚及び皮下組織」クラスの最も頻発する有害事象の発生との間に明白な関係はない。TCZの曝露と重篤な有害事象の間に明白な関係はない。好中球減少以外には曝露の増加に伴う検査結果異常の頻度に明白な増加は見られなかった。TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合でグレード3以上の好中球減少の事象が認められた。加えて、TCZ高曝露カテゴリーに単一のグレード3の血小板減少の事象が認められた。トリグリセリド、総コレステロール及びLDLコレステロール濃度に関し、TCZ高曝露カテゴリー患者にわずかに高い割合で濃度上昇が認められた。まとめると、これらのデータは固定用量レジメンの使用が許容可能であることを示唆している。体重がPKに及ぼす影響について、この試験でさらに評価される。
【0192】
RA患者SC試験で観察された安全性データ(MRA227及びNP22623)
全(32)患者がMRA227試験に参加し、29人の患者がNP22623試験に参加し、81mg QW/Q2W(MRA227のみ)、162mg Q2W及び162mg QWを含むTCZ SC治療を受けた。RA患者の皮下投与忍容性は、MRA227試験では33週まで、NP22623試験では12週まで良好であった。RA患者に対するSC用量投与後観察されたAEは、TCZ IVの第3相試験で観察されたものの種類と重症度と概ね一致した。
【0193】
SC TCZの4試験で死亡は報告されなかった。81mg用量群で1件の腎盂腎炎のSAEが報告された。NP22623の限られたデータは、162mg SC QWとQ2Wの用量群間で異なるAEプロフィールを示さなかった。SC TCZを受けた日本人RA患者と白人RA患者の測定値の平均変化の大きさは、いずれもIVプログラムのRA患者のものと似ていた。162mg SC QW日本人RA用量を162mg SC Q2Wに減らした。81mg SC Q2Wを受けた患者1人に好中球減少が認められ、第11週でそれ以降の投与を行わなかった。SC TCZ注射は概ね忍容性が良好であり、皮下プラセボ注射より痛みが大きいとは認識されなかった。
【0194】
MRA227試験では、162mg QW群に抗TCZ抗体陽性患者はいなかった。低用量群の患者4人が抗TCZ抗体陽性(81mg QW/Q2W用量群の患者全員、TCZ投与前に1人)であり;患者5人が抗TCZ IgE抗体陽性(81mg Q2W/QW用量群の患者3人と162mg Q2W用量群の患者2人)であった。抗体検査で陽性だった患者のうち、ベースラインで陽性だった患者1人にグレード1の湿疹が認められたが無関係(食物アレルギー)と考えられ、患者1人にグレード1の蕁麻疹が認められ、別の患者に注射部位のあざが認められた。抗TCZ抗体検査で陽性だった患者の「皮膚及び皮下組織」及び「全身障害及び投与局所態様」クラスのAEは他には報告されなかった。NP22623では、スクリーニングアッセイで患者3人が抗TCZ抗体陽性であったが、確認アッセイでは陽性患者はいなかった。
【0195】
サマリー
先に、TCZ162mg SC毎週(QW)をTCZ8mg/kg IV q4wのコンパレーター用量レジメンとして選択した。残りの試験SC用量のRA患者のPK、PD、有効性及び安全性の観察データは、162mg SC隔週(Q2W)がこのNA25220B試験の適切な低用量SC用量オプションであることを示す。
【0196】
ベースライン来院時、患者は2:1の比率でTCZ162mg SC Q2(A群)、又はプラセボSC QW(B群)のいずれかに無作為化され、24週間治療を受ける。すべての患者が第24週に達したとき一次分析を行う。
【0197】
第24週からすべての患者はTCZ162mg SC Q2Wの非盲検治療を受け、どの患者にもプラセボ注射は行わない。
【0198】
加えて、第24週の来院時、患者は非盲検期間用に以下のとおり再度無作為化される:
A群:患者は1:1の比率で再度無作為化され、TCZ162mg SC隔週を、自動注射器(AI)を使用して(A1群)、又はプレフィルドシリンジ(PFS)を使用して(A2群)受ける。
B群:患者は1:1の比率で再度無作為化され、TCZ162mg SC隔週を、AIを使用して(B1群)、又はPFSを使用して(B2群)受ける。
【0199】
二重盲検試験の初回薬物投与に先立ち(ベースライン来院)、患者によるアウトカムおよび有効性評価を24時間以内に行わねばならない(必要に応じて72時間まで許可される)。
【0200】
有効性パラメーターはベースライン、第2週、第4週、その後第40週までは4週ごとに、その後第48、60、72、84、96週、または早期脱落(WD)来院時に評価する。
【0201】
第24週と第48週のスクリーニング時に手と足それぞれのX線写真を撮る。
【0202】
治療群
個々の治療群:
A群:〜400人(患者数)、TCZ162mg SC Q2W、24週の二重盲検期間中PFS使用、その後以下に再度無作為化:
A1群:〜200人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中AI使用
A2群:〜200人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中PFS使用
B群:〜200人(患者数)、プラセボSC Q2W、24週の二重盲検期間中PFS使用、その後以下に再度無作為化:
B1群:〜100人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中AI使用
B2群:〜100人(患者数)、TCZ162mg SC q2w、非盲検期間中PFS使用
【0203】
患者、施設職員及びスポンサーは、全患者が第24週で二重盲検治療期間を終了し、この時点までの全患者の全データが収集・施錠され報告されるまで、二重盲検期間中TCZ及びプラセボのいずれが投与されたか知らない。
【0204】
各治療群は、TCZの初回投与の8週前に一定量で投与を開始した非生物学的DMARDの背景治療を受けるよう要請される。非生物学的DMARDとコルチコステロイドの用量は、コア試験期間中一定でなければならない(第248週まで)。NSAIDの用量は、第24週まで一定でなければならない。しかし、安全上の理由により、これらの治療における減量が許可される。患者はまた、関節内ステロイド及び/又は経口コルチコステロイド用量の増量(最高用量はトータルで10mg用量/日)を受けうる。
【0205】
一次・二次試験評価項目
主要評価項目
主要評価項目は、第24週でのACR20応答患者の割合である。
副次評価項目
ベースラインから第48週までのvan der Heijde修正シャープX線スコア(van der Heijde modified Sharp radiographic score)の変化を除き、すべての副次評価項目は正式に試験される。アルファレベルを5%に維持するため、副次評価項目は、あらかじめ特定した固定順法を用いて試験される。この方法はDAPに詳述される。
1.ベースラインから
*第24週までのvan der Heijde修正シャープX線スコア。
2.ベースラインから
*第48週までのvan der Heijde修正シャープX線スコア。
3.第24週でACR50応答を有する患者の割合。
4.第24週でACR70応答を有する患者の割合。
5.ACRコアセットの個々のパラメーターにおけるベースラインから第24週の平均変化。
6.第48週での主な臨床的応答(ACR70応答が治療24週を超えて維持される)。
7.第24週でのベースラインからの疾患活性度スコア(DAS28)の変化。
8.第24週でのベースラインからのHAQ−DIの変化。
9.第24週で明白にDAS28応答がある(EULAR応答)と分類される患者の割合。
10.第24週でDAS28低疾患活動性(DAS≦3.2)を獲得した患者の割合。
11.第24週でベースラインからのHAQの変化が≧0.3である患者の割合。
12.第24週でDAS28スコア<2.6(DAS寛解)である患者の割合。
13.第24週でのSF−36サブスケールとサマリースコアの変化。
14.治療群のACR20、50、70の開始時。
15.第24週でのベースラインからのヘモグロビン濃度の変化。
*試験薬物の初回投与前に受けた評価をベースラインとみなす。
【0206】
X線評価
第24週及び第48週のスクリーニング時、手(後方−前方、PA)と足(前方−後方、AP)それぞれのX線写真を別々に撮影する。X線写真は、シャープによるvan der Heijde修正法(van der Heijde, D. "How to read radiographs according to the Sharp/van der Heijde method." J Rheumatol 27: 261- 263 (2000))を使用して評価する。
【0207】
非エスケープ患者は全員第24週からTCZ SC Q2Wを受ける。第48週のX線分析で、ベースラインでプラセボに無作為化された患者とTCZ SC Q2Wに無作為化された患者を比較するが、いずれの群も第24週から実薬を受けている。構造的破壊の進行速度が両期間の間で異なるか検証する。これは特に、ベースラインでプラセボに無作為化された群に関連がある。
【0208】
この実施例で開示されるSC抗IL-6R抗体(TCZ)とDMARDとの併用治療は、(第24週ACR20データに基づき)有効かつ(AEと検査所見に関し)安全であると予測される。さらに、SC抗IL-6R抗体(TCZ)治療により、第24週及び第48週で構造的関節疾患の進行を抑制でき、RA患者の身体機能を改善しうる。
【0209】
実施例4
ヒアルロニダーゼ酵素含有抗IL-6R抗体組成物
この実施例は、抗IL-6R抗体(トシリズマブ)とヒアルロニダーゼ酵素(組換えヒトPH20、rHuPH20)を含有する安定な薬学的製剤の開発について記載する。
【0210】
原体
抗IL-6R抗体トシリズマブ(例えば米国特許第5,795,965号参照)は、製剤中の活性成分で、RAまたは他のIL-6媒介疾患の治療に使用される。
【0211】
組換えヒトPH20(rHuPH20)(例えば米国特許第7,767,429号参照)は、SC注射したTCZの分散域を増大させるために含まれ、2mLより多い量のSC注射を可能にし、かつヒアルロニダーゼを含まないSC製剤と比べて潜在的にバイオアベイラビリティを増加させる(実施例5参照)。
【0212】
pH/バッファーの選択
トシリズマブSCバイアル162mgを安定化させるpHは、およそpH6.0であることが発見された。従って、pH6.0±0.5をこの製剤に選択した。L-ヒスチジン/L-ヒスチジン一塩酸塩を20mMの濃度でバッファーとして製剤に加えるが、この濃度は非経口的バッファーの通常の濃度10〜100mMの範囲内である。およそ6.0のpHは、所定の比率のバッファー塩及び塩基を使用して得られるが、任意で水酸化ナトリウム又は塩酸を使用してpHを調節してよい。
【0213】
安定剤
ポリソルベート80を0.2mg/mLの濃度で安定剤として添加し、機械的ストレス(撹拌)による、及び潜在的な冷凍・解凍よるタンパク質の不安定化を防止する。
【0214】
L-アルギニン塩酸塩とL-メチオニンを100mMと30mMの濃度で安定剤として添加し、タンパク質の熱ストレスによる不安定化を防止する。
【0215】
製剤開発
目的は、トシリズマブの皮下注射用の安定な無菌の液体溶液の開発であった。
【0216】
SC製剤は、使用するトシリズマブの濃度がIV製剤の20mg/mLに対し180mg/mLと高いので、標準シリンジでの放出力と粘度に対するタンパク質濃度の効果に配慮して開発した。皮下注射の量は理想的には1mL以下で、製剤は高濃度のタンパク質を必要とする。一方で、高濃度のタンパク質による高粘度は注射力を増加させる。タンパク質濃度と粘度の相関から、目標のトシリズマブ濃度は180mg/mLであった。
【0217】
表2は、例示的なトシリズマブSC製剤とトシリズマブIV製剤の比較である。114.3mg/mLのTCZを含有する凍結乾燥したSC製剤が、20人の健常人を使用してフランスで実施された先のヒト薬物動態臨床試験で使用された。その試験の目的は、皮下投与経路の絶対的バイオアベイラビリティと忍容性の検証であった。
【表2】
【0218】
過量
製剤中、濃度過量は使用しない。
【0219】
ヒアルロニダーゼ酵素含有製剤
以下の表は、抗IL-6R抗体(TCZ)とヒアルロニダーゼ(rHuPH20)を両方含有する例示的な製剤における成分とその濃度の要約である:
【表3】
【0220】
物理化学的・生物学的特性
この製剤は、遮光して2〜8℃の推奨保存条件で良好な安定性を示した。
【0221】
PK試験
2件の非臨床PK試験が、ヒアルロニダーゼ含有TCZ SC製剤を使用し、1件はミニブタ、もう1件はカニクイザルで実施されている(表4):
【表4】
【0222】
ミニブタがrHuPH20用量選択に選ばれた理由は、その皮膚及びSC組織の肌理がヒトのものと似ていると考えられているからである。ミニブタの試験では、様々な濃度のrHuPH20を含有するTCZ製剤の2つのSC用量レベル並びにTCZ単独のIV投与アーム(表4)を使用して絶対的バイオアベイラビリティ/吸収率の評価を行った。試験の結果、SC投与されたTCZはrHuPH20含有製剤からより速く吸収されていた。従って、TCZの最高血漿濃度までの時間の中央値は、rHuPH20非含有製剤の48時間からすべてのrHuPH20含有製剤の24時間まで短縮された。SC投与されたTCZの吸収率は全用量群において約80%と推定された。
【0223】
カニクイザルの試験で、同種におけるTCZ SC製剤の反復用量の毒性に関する情報を得た(表4)。50mg/kg用量のTCZ SC製剤単回投与後のTCZ血漿濃度を評価した。SC投与後、TCZ最高血清濃度(平均±SD:822±230μg/mL)に48時間後(中央値)に達していることが結果からわかる。この試験の結果は、現在無治療回復期にある動物のもの以外は入手可能である。カニクイザルに13週間100mg/kgで毎週皮下投与した組換えヒアルロニダーゼ(rHuPH20)含有製剤中のトシリズマブは、全身的及び局所的に忍容性は良好であり、テスト項目誘発の所見はなかった。無毒性量(NOAEL)は、用量レベル100mg/kgと考えられた。
【0224】
実施例5
抗IL-6R抗体及びヒアルロニダーゼ酵素含有SC製剤の臨床試験
トシリズマブ(TCZ)は、組換えヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、可溶性及び膜結合型インターロイキン6受容体(IL-6R)に対する。ヒアルロニダーゼ酵素(rHuPH20)は、注射部位でSC間質マトリックスのSCヒアルロン鎖を切断することにより皮下(SC)製剤注射を円滑にするために用いられる。試験の目的は、TCZとrHuPH20の単回漸増投与後の薬物動態(PK)、薬力学(PD)及び安全性の評価であった。
【0225】
材料及び方法
これは健常者の第1相漸増用量(TCZ162mg単独、162mg、324mgおよび648mgのTCZ+rHuPH20)試験である。この試験では実施例4、表3の製剤を使用した。
【0226】
試験の目的は以下のとおりである:
一次目的:
1.TCZの様々なSC用量の曝露へのrHuPH20の効果を調査すること。
二次目的:
1.健常人におけるrHuPH20を含有するSC TCZ単回用量の安全性及び忍容性を調査すること。
2.健常人にSC投与後のTCZ(rHuPH20有り又は無し)のPK/薬力学(PD)関係を、IL-6、sIL-6R及びC反応性タンパク質(CRP)を測定することにより、調査すること。
【0227】
全体的な試験デザイン
これは第1相、単回投与、非盲検、コホート1及び2の並行群間及び残りのコホートについては逐次の、単一施設試験であり、18歳から65歳までの妊娠の可能性のない男女を対象とした。表5は試験デザインの概要である。
【表5】
【0228】
適格な被験者を表6に挙げた1から4のコホートに割り付けた。この試験で使用したrHuPH20濃度は、TCZが2,000または6,000U/mL(ノミナル濃度)のいずれかの濃度のrHuPH20の存在下および不存在下でSC投与された上述の実施例4のミニブタの試験データから導かれた。その結果、SC投与されたTCZはrHuPH20含有TCZ製剤からより速く吸収されていた。TCZの吸収速度に及ぼされるこの影響は、rHuPH20の両濃度間で同等であった。投与溶液の分析的定量化により、rHuPH20の(ノミナル濃度2,000U/mLの代わりに)実濃度1,356U/mLが判明した。従って、rHuPH20濃度1,500U/mLが臨床試験案として選択された。
【表6】
【0229】
この試験は、スクリーニング期間(第28日から第2日)、第1日に試験薬の単回量投与を伴う入院期間(第1日夜から第2日朝)及びフォローアップ期間(第40日から第43日の間)からなる。
【0230】
適格な被験者は第1日に臨床試験ユニットに入院し、服用前評価及び処置を受けた。最低4時間の絶食後、血液及び尿サンプルを採取した。第1日朝の標準化した軽い朝食後、被験者は右又は左の前側大腿部(前方腸骨稜と膝骨頭側縁の中間)にTCZ SC注射を受けた。SC注射の開始時間と終了時間をそれぞれ記録し、個々の注射部位を注射の前後に写真撮影した。
【0231】
被験者は、注射デバイスを留置した後、試験薬物の注射前に、100mmの水平視覚的アナログスケール(VAS)及びカテゴリー別6ポイント痛み自己評価により痛みを評価した。
【0232】
被験者は、24時間のPK評価が終了するまでユニットにとどまり、PK及び安全性評価を受けるため指示に従い再来院した。血清中TCZ濃度を分析するため、血液サンプルを投与前と、投与後2、8、12、24及び36時間で採取した。追加の血液サンプルを第3、4、5、8、11、15、18、22、29、36日目及びフォローアップ時に採取した。IL-6、sIL-6R及びCRP評価用の血液サンプルをPK分析用サンプル採取時に採取した。
【0233】
被験者は、身体検査、3シリアル12誘導ECG、バイタルサイン及び臨床検査などのフォローアップ処置を受けるために第40日から第43日の間に再来院した。
【0234】
安全性(臨床検査及びバイタルサイン)とPK/PDの評価は試験の間中定期的に行った。自然発生的な有害事象を試験の間中記録した。被験者は、24時間のPK評価が終了するまでユニットにとどまった。その後、被験者はPK及び安全性評価を受けるため指定の日に再来院した。
【0235】
PK及びPDサンプルを徹底して収集した。PK及びPDパラメーターはノンコンパートメント法で予測した。一元配置分散分析法を用いてrHuPH20のTCZ曝露への影響を評価した。安全性と忍容性は試験の間中監視した。
【0236】
結果
この試験の結果を
図8〜13に示す。
【0237】
薬力学の結果:
CRP:全コホートに対するSC TCZ投与後、平均CRP値は急速に低下し、コホート1と2ではノミナル時間168時間と240時間で、コホート3と4では336時間で最下点に達したが、おそらくノミナル時間168時間で全コホートにおいて最下点は概ね達成された。その後、平均CRP値は、コホート1と2ではノミナル時間504時間で、コホート4ではノミナル時間672時間でベースライン値に向けて上昇した。平均CRP値はコホート3では672時間時点まで抑制されていたが、不定期のフォローアップサンプルではベースラインに向けて平均値が戻った。コホート1と2の平均CRP値はベースラインから同様の変化を示したが、コホート4のCRP値はベースラインに戻るまで時間的に遅れがあった。コホート3のベースライン値からの平均変化はベースラインよりも下のままであった。平均CRPノンコンパートメントパラメーターに対する用量依存性効果が、コホート全体のCRPの平均AUC
0−D29の用量依存性の低下で観察された。CRPのT
minの用量依存性効果も、用量増加に伴い平均T
minの遅れが観察されるところで認められた。
図10を参照されたい。
IL-6:rHuPH20を含む又は含まないSC TCZの投与後、平均IL-6血清濃度は4コホートすべてで急速に上昇し、次いで時間とともに徐々に減少した。コホート1と2では、平均IL-6濃度はノミナルサンプル時間504時間でおよそのベースラインレベルに達したが、コホート4では平均IL-6血清濃度は、フォローアップサンプルで第40〜43日目におよそのベースライン値に達した。コホート3では、平均IL-6値はノミナル時間672時間で上昇したが、濃度は不定期のフォローアップサンプルでおよそのベースライン値に戻った。
図11を参照されたい。
sIL-6R:rHuPH20を含む又は含まないSC TCZの投与後、平均sIL-6R血清濃度は全コホートで急速に上昇した。コホート1と2でノミナルサンプル時間240時間で最高濃度に達した後、平均sIL-6R濃度はノミナル時間672時間でおよそベースラインレベルに降下した。コホート4では、平均sIL-6R血清濃度はノミナル時間408時間での最高濃度後、フォローアップサンプルで第40日〜43日にベースライン値に向けて減少した。コホート3では、平均sIL-6R血清濃度はTCZ投与後急速に上昇し、全サンプリングポイントを通じて上昇を続け、サンプル時間672時間で観察上最高濃度に達した。
図12を参照されたい。
【0238】
IL-6及びsIL-6Rのノンコンパートメントパラメーターについては、平均AUC
0−D29はコホート全体で用量増加に伴い増加した。平均C
maxは同様の用量依存性の増加を示した。観察された最高血中濃度到達時間(T
max)は用量の増加に伴い長くなった。
【0239】
rHuPH20がPD応答に及ぼす影響をコホート1(TCZ162mg)とコホート2(TCZ 162mg/rHuPH20 1350U)で比較すると、濃度−時間プロフィールは3つのPDパラメーター(CRP、IL-6及びsIL-6R)すべてにおいて類似していた。平均PD(CRP、IL-6及びsIL-6R)AUC
0−D29パラメーターは、コホート1と2の間で類似しており、AUC
0−D29比率はCRP、IL-6及びsIL-6Rがそれぞれ99.6%、100%および97.4%であった。
【0240】
薬物動態の結果:
コホート1と2(TCZ162mg PH20有り又は無し)の結果は、rHuPH20の存在下でT
maxがより早く、曝露率がわずかに高い傾向があり(C
maxとAUC
0−infのGMR[90%信頼区間]は、それぞれ1.45[1.24−1.70]と1.20[1.00−1.44])、排出相のTCZ血清濃度は2製剤で重ねることができた。rHuPH20を加えたコホート2では、TCZのPKパラメーターに明白な変動減少傾向(CV%)が認められた(rHuPH20のそれぞれ有る/無しで、C
maxは17.4対32.4、AUC
0−infは16.4対42.0)。
【0241】
648mgのTCZ/PH20投与後のコホート3では、TCZの平均C
max及びAUC
0−infは、コホート1(TCZ162mg)よりも約6.95倍及び約12.55倍高かったが、投与総量は4倍高いだけであり、TCZのPKの非用量比例性が示された。コホート3の被験者の不定期のフォローアップサンプル(実際の時間の平均1909±66.1時間)により、TCZ血清濃度は全被験者が定量化の限界よりも低いことが明らかになり、TCZ SCの単回用量が完全に排除されたことが示された。
【0242】
コホート4では、324mgのTCZ/PH20投与後、TCZの平均C
max及びAUC
0−infは、コホート1(TCZ162mg)よりも約3.85倍及び約4.44倍高かったが、投与総量は2倍高いだけであった。
【0243】
血漿rHuPH20濃度は、全被験者の測定点が定量化の限界よりも低く、酵素を同時投与剤用の局所浸透促進剤として使用しても定量化可能な全身性曝露はもたらされないことが示された。
【0244】
薬物動態/薬力学の関係:
sIL-6RとTCZ:sIL-6R濃度は、TCZが4コホートすべてでCmaxに達した後Cmaxに達したが、TCZ濃度が上昇し反時計回りのヒステリシス関係を生じたのでsIL-6R濃度の上昇に遅滞があった。TCZ Cmaxは、全コホートでTCZ投与後36〜96時間内に達せられたが、sIL-6Rは、コホート1と2ではノミナル時間240時間で、コホート3ではノミナル時間672時間で、コホート4ではノミナル時間408時間でCmaxに達した。
C反応性タンパク質とTCZ:sIL-6Rと同様に、TCZ投与の結果CRP減少に遅れが生じた(すなわちTCZのCmax後CRP最下点に達した)。CRP最下点は、コホート1と2ではノミナル時間168時間及び240時間、コホート3と4では336時間で達したが、TCZ Cmaxは、全コホートでTCZ投与後36〜96時間内に認められ、反時計回りのヒステリシス関係が生じた。
【0245】
安全性の結果:
報告のあった68件の有害事象のうち61件が、試験責任医師により試験薬の治療と関係ありうるかほとんど関係ない(remotely related)とされた。ほとんどが注射部位の有害事象であり、これはTCZとrHuPH20を受けた被験者のみ報告された。死亡、重篤な有害事象はなく、有害事象により試験から脱落した被験者もいなかった。有害事象の報告があった患者数、rHuPH20の有無、TCZ用量の間に関連はないと考えれらた。
【0246】
平均白血球数と好中球数を除いて、血液学的パラメーターの平均は、平均総ビリルビン、ALAT及びASAT濃度同様、試験の間中正常範囲にとどまった。平均白血球数と好中球数は試験終了時に標準範囲内に戻った。低好中球数はまた、試験の間報告された最も一般的で特徴的な臨床検査値異常であり、全治療群を通じて全員で30人の被験者の報告があった。著しく好中球数が少ない被験者8人では感染症も報告されたが、続発症はなかった。ほとんどの被験者のECG測定値とバイタルサインは試験の間中正常であった。血清IgE、IgG、IgM及びIgA濃度に臨床的変化は認められなかった。中和抗TCZ抗体が648mg TCZ/rHuPH20を受けている被験者2人に確認された。中和抗rHuPH20抗体を生じた被験者はいなかった。視覚的アナログスケール及び患者のカテゴリー別自己評価の結果、全コホートでSC注射の忍容性が示された。
【0247】
結論
薬物動態及び薬力学的結論
TCZをrHuPH20と共に投与した結果、曝露が僅かに増加し、コホート2(162mg TCZ/rHuPH20)のコホート1(162mg TCZ)に対する幾何学平均比(90%信頼区間)はAUC
0−infとC
maxがそれぞれ1.20(1.00−1.44)と1.45(1.24−1.70)であり、rHuPH20が局所浸透促進剤として作用するという仮説が支持された。
rHuPH20の存在下でPK変動性が低い傾向が明白に観察された。
コホート3の4倍増のTCZ用量(648mg TCZ/PH20)の結果、コホート1の162mg TCZと比べて648mg TCZ/PH20ではAUC
0−infは12.55倍、C
maxは6.96倍であった。
コホート4の2倍増のTCZ用量(324mg TCZ/PH20)の結果、コホート1の162mg TCZと比べて324mg TCZ/PH20ではAUC
0−infは4.44倍、C
maxは3.85倍であった。
コホート4で評価したSC TCZ単回用量(324mg)は、平均AUC
0−inf10800±3220μg・hr/mL、C
D291.6±2.4μg/mL、C
max43.8±12.4μg/mLであった。
コホート3で評価したSC TCZ単回用量(648mg)は、平均AUC
0−inf29900±5280μg・hr/mL、C
D2912.6±5.0μg/mL、C
max77.8±14.5μg/mLであった。
PDマーカーとしてのsIL-6R、IL-6及びCRPへの影響は、TCZ162mgを含有するSC製剤はrHuPH20の有無にかかわらず同等であった。PDマーカーの用量依存性変化は、TCZ/rHuPH20の162mgから648mgへの増量で観察された。
【0248】
安全性の結論
rHuPH20の有無にかかわらずTCZのSC用量の重篤な有害事象は報告されなかった。
トシリズマブ治療は、治療の2日から5日以内の好中球の減少と関連があった。平均好中球数は、15日目からフォローアップにかけて用量依存的にベースラインまで戻った。
他の臨床パラメーターECG、免疫グロブリン濃度及びバイタルサインの記録はほとんどが試験の間中正常範囲内にとどまった。
2人の被験者で中和抗TCZ抗体が生じた。
中和抗rHuPH20抗体を生じた被験者はいなかった。
視覚的アナログスケール及び患者のカテゴリー別自己評価の結果、全コホートでSC注射の忍容性が示された。
【0249】
実施例6
sJIAにSQ投与される抗IL-6R抗体
この実施例は、全身型若年性突発性関節炎(sJIA)の治療のため皮下投与される抗IL-6R抗体(TCZ)の使用について記載する。TCZ180mg/mLを含有するがヒアルロニダーゼは含有しないTCZ製剤(実施例4の表2参照)がこの実施例で皮下投与される。
【0250】
これは第1b相の非盲検多施設協同試験であり、活動性sJIA患者に皮下投与した後のトシリズマブの薬物動態、薬力学、有効性及び安全性を検証する。この試験で治療される患者は、2歳から17歳までのの小児であり、sJIAの活動性が6か月以上持続しており、毒性または有効性の欠如によりNSAIDやコルチコステロイド(CS)に対する臨床的応答が不十分であった患者である。
【0251】
WA18221試験では、BW<30kgの患者には12mg/kg、BW≧30kgの患者には8mg/kgのTCZを2週ごとに12週間投与した。PK曝露は2つの体重群で同等であった(
図23A)。両BW群で同等のsIL-6Rプロフィール(
図23B)、CRP正常化パターン(
図23C)及びESRプロフィール(
図23D)が得られた。WA18221試験の同等のPK−PDプロフィールは、有効性と安全性が全体重範囲に渡り許容可能であるという結果をもたらした。TCZの治療を受けた患者全員の85.3%が第12週でJIA ACR30応答の一次評価項目と発熱なしを満たし、プラセボ患者の24.3%と比較して統計学的に有意差があった(p<0.0001)。第12週でJIA ACR30、50、70、90応答はそれぞれ90.7%、85.3%、70.7%、37.7%であったが、プラセボ群ではそれぞれ24.3%、10.8%、8.1%、5.4%であった。
【0252】
WA18221試験の用量が適切であったかをさらに検証するために、PK曝露−有効性の関係をPK曝露四分位により分析した。第12週でAUC
2週は第1四分位(849±147μg・日/ml)から第4四分位(1,925±187μg・日/ml)までに2.3倍増加した(表7)。第52週で、第4四分位(108±12μg/ml)のCminは第1四分位(30±16μg/ml)の3.6倍であった(表7)。この試験は各四分位の有効性を比較するほど強化されなかったが、JIA ACR30/50/70/90応答を獲得した患者の割合は4つの四分位を通して同等であると考えられ(表7)、各曝露は曝露−応答曲線のプラトーにあったことが示唆される。各四分位の限られたデータからは、第1四分位から第4四分位の高TCZ曝露(AUC
2週、C
maxまたはC
min)に伴うAEの多発や重篤なAEの明白な傾向は示されなかった(表8)。
【表7】
【表8】
【0253】
WA18221試験では、TCZ12mg/kgを<30kgの患者に、8mg/kgを≧30kgの患者にIV輸液で2週ごとに投与した。体重10.0〜112.7kgの定常状態のC
min散布図(第12週)から、TCZ曝露は体重と無関係であることが示された(
図15)。平均PKモデルで予測したCminを表9にまとめた。
【表9】
【0254】
入手可能な皮下製剤は、1回の注射当たり0.9mLのTCZ162mgを送達する1mLのプレフィルドシリンジに入っている。従って、この試験のSC用量は、BW広範囲に渡るフラット用量レジメンである。この試験の初回用量は、モデリングとシミュレーションに基づき選択され、以下に説明される。
【0255】
WA18221試験では、IV投与後の薬物動態プロフィールは、中央コンパートメントからの飽和型(Michaelis-Menten排出)と非飽和型の両方の一次排出経路を有する2-コンパートメントモデルにより記述された。PK排出(dispositon)パラメーターは明白に特徴づけられた(総クリアランス(CL;L/d)、中央コンパートメントの分布量(Vc;L)、末梢コンパートメントの分布量(Vp;L)、コンパートメント間クリアランス(Q;L/d)、Michaelis-Menten定数(Km;mg/L)及び飽和可能な排出プロセスの最高速度(Vmax;mg/d))。NP22623試験ではTCZ162mgを全29人の成人RA患者に毎週(QW)又は隔週(Q2W)で12週間投与した。NP22623のPKデータの実験的モデリングにより、RA患者の皮下吸収PKパラメーターが提供された(吸収率定数Ka及びバイオアベイラビリティF)。これらの吸収PKパラメーターが小児sJIA患者の吸収PKパラメーターと同様であり、WA18221試験の排出PKパラメーターが投与経路とは無関係であるという前提で、定常状態までの反復投与後の<30kgおよび≧30kgのsJIA患者のPK曝露をシミュレートした。シミュレートしたIVおよびSC投与のPKプロフィールを
図14に示す。C
min値対体重をシミュレートしたPKモデルを
図15から18に示す。シミュレートしたPKプロフィールに基づいて計算したPKパラメーターを表9にまとめる。
【0256】
予想どおり、IV投与レジメンでは投与間隔の間ピーク濃度とトラフ濃度間で変動が大きかったが、SC投与ではピークとトラフ間の変動ははるかに小さい(
図14A及び14B)。
【0257】
PKシミュレーションに基づき、体重≧30kg 162mg QWのsJIA患者で得られた平均±SD C
min(58±20)はWA18221試験の58±23と同等である(表9)。個別のCminデータもまたWA18221試験の90%信頼限界内である(
図16から18)。
【0258】
PKシミュレーションに基づき、体重<30kg 162mg Q2W又は162mg QWの患者の平均±SD CminはWA18221試験の平均Cmin(58±23)よりそれぞれ低かった(29±13)又は高かった(100±35)。162mg Q2W投与については、全データがWA18221の最低−最高範囲内であるが、26%(38中10)のCmin値はWA18221試験の90%信頼下限より低い(
図16)。162mg QW投与については、21%(38中8)のCminデータがWA18221試験の90%信頼上限より高い(
図17)。
【0259】
PKモデルシミュレーションに基づき、体重<30kgの患者では、10日ごと(Q10D)の162mg SC注射は、WA18221試験のデータ(58±23)に匹敵する平均±SD Cmin(58±22)が得られると予測される(表9)。90%信頼境界の外は38中2(5%)のC
min値のみである(
図18)。
【0260】
従って、以下の治療プロトコールが使用される:
1群:体重(BW)≧30kgの患者はTCZ162mgの皮下(SC)注射を毎週(QW)14週間(13用量)受ける。N=12
2群:BW<30kgの患者はTCZ162mgのSC注射を10日ごとに(Q10D)14週間(9用量)受ける。N=12
【0261】
治療は14週間継続する。治療期間中、安定なNSAIDとMTXは試験の14週間の間変更なく続けられる。経口ステロイドの用量はベースラインでのTCZ初回投与から6週間まで一定している。ステロイドの減量は試験責任医師の判断により第6週以降許可される。CS減量については、週当たり20%を超える減量は推奨されない。試験責任医師は、安全上の理由による標準治療に従って、MTX、CS及び/又はNSAIDの同時治療をいつでも調節または中断しうる。フォローアップ来院は最後のSC投与後2、4及び8週目に行う。
【0262】
薬物動態パラメーターには、定常状態のC
max、C
min、T
max、T
1/2及びAUC
tが含まれる。
【0263】
薬力学パラメーターには、sIL-6R、CRP及び/又はESR濃度が含まれる。
【0264】
有効性は以下により評価される:
第14週で熱の有無にかかわらずJIA ACR30/50/70/90応答のある患者の割合;及び他の適切な有効性パラメーター。
【0265】
抗IL-6R抗体(TCZ)は、体重≧30kgのsJIA患者に毎週固定用量162mgで、例えば14週までSQ投与すると有効であると考えられる。
【0266】
さらに、抗IL-6R抗体(TCZ)は、体重<30kgのsJIA患者に10日±1日ごと(Q10D)に固定用量162mgで、例えば14週までSQ投与すると有効であると考えられる。代替投与レジメンには、162mg毎週(QW)または2週ごと(Q2W)を含む。
【0267】
実施例7
pcJIAにSQ投与される抗IL-6R抗体
抗IL-6R抗体(TCZ)を多関節型若年性突発性関節炎(pcJIA)患者に皮下投与する。実施例4の表2に開示のヒアルロニダーゼを含まないTCZ180mg/mLの製剤がここで投与される。
【0268】
これは第Ib相非盲検多施設協同試験であり、活動性pcJIA患者に皮下投与後のトシリズマブの薬物動態、薬力学、有効性及び安全性を検証する。この試験で治療される患者は、2歳から17歳の小児で、少なくとも5関節に活動性関節炎のある(少なくとも3関節の動きが制限された)少なくとも6か月の活動性pcJIA(リウマチ因子(RF)陽性若しくはRF陰性の多発関節炎サブセット又は伸長(extended)少数関節型JIAサブセットを含む)患者であり、有効性の欠如または毒性によりメトトレキサート(MTX)への応答が不十分であり、NSAID、低用量コルチコステロイド又は併用MTXを含むか又は含まない標準治療を受けている。
【0269】
この試験に参加した患者の30%までが、生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(生物学的DMARD)治療を以前受けていた可能性がある。
【0270】
日本人患者で実施されたMRA318JP第3相試験に基づき、日本ではTCZがpcJIA治療に承認されている。この試験の目的は、4週ごとに12週間のTCZ8mg/kgの輸液(3回の輸液)後のTCZの有効性、安全性、PK及びPDを決定することであった。pcJIA50又はpcJIA70スコアに達する確率で表された臨床的応答は、体重が重い患者よりも体重が軽い小児のほうが低いことが観察された。4週ごと12週間のTCZ8mg/kgの治療後:体重<30kgの患者の88%対体重≧30kgの患者の100%がpcJIA50スコアに達した(
図19A);体重<30kgの患者の38%対体重≧30kgの患者の80%がpcJIA70スコアに達した(
図19B)。
【0271】
JIA ACR応答率のこの顕著な差異は、体重が軽い患者、特に約30kg未満の患者では、TCZに対する全身的曝露(AUC
4週)が低いという目視での傾向と関連している。これに対し、体重が30kgを上回る患者では、曝露は多かれ少なかれ体重とは無関係と考えられた(
図20A)。
【0272】
MRA318 TCZのTCZのPKは、パラレル一次(線形CL)とMichaelis-Menten排出(非線形又は濃度依存性CL)動態を有する2-コンパートメント排出モデルで記述された。4週ごとに投与された用量8mg/kgについては、非線形CLのAUCに対する貢献度は小さく、C
maxに対する関連の影響はなかった。TCZのPKに対する最も顕著な濃度依存性CLコンポーネントの影響は、C
minに観察された。C
min値は、非線形CLコンポーネントの平均K
M値に近かった。従って、C
min値は、血清TCZ濃度の小さい変化が非線形CLの比較的大きい変化をもたらす濃度範囲にあった。
【0273】
図24A−Dは、12週間の治療中の経時PK、sIL-6R、CRP及びESRプロフィールを示す。sIL-6R濃度は経時的に増加し、第12週で安定状態に達した(
図24B)。CRP濃度は、次回投与までの間変動し、次回投与前に上昇した(
図24C)。ESRは第4週までに減少し、第8週以後は低レベルを維持した(
図24D)。PK−PD関係の分析で血清TCZ濃度が(1μg/mL)かそれよりも高いとき、CRP及びESRは低く、sIL-6R飽和度は高いことが示された。
【0274】
MRA318JP試験において、pcJIA患者へのTCZ8mg/kg IV Q4W投与後、第4、8、12週での次回輸液の前に、約35から39%の患者のTCZ Cminは<1μg/mLであった(表10)。MRA318JPの小児のほとんどが第12週でACR30の評価項目に達したが、CminのTCZ濃度が測定不能の小児は測定可能な小児と比べてJIA ACR70達成率がはるかに低いと考えられた(25%対73%)。CminのTCZが測定不能であり、最良の奏功性が得られない小児の大多数は、体重が軽かった(<30kg)。
【表10】
【0275】
集団PK解析はMRA318JPのデータ及びWA19977(患者数117人)の暫定PKデータに基づき行った。NP22623試験では、162mgのTCZを全29人の成人RA患者にQW又はQ2Wで12週間投与した。NP22623のPKデータの実験的モデリングにより、RA患者の皮下吸収PKパラメーター(吸収速度定数Ka及びバイオアベイラビリティF)を得た。これらの吸収PKパラメーターが小児pcJIA患者の吸収PKパラメーターと同様であり、WA19977試験の排出PKパラメーターは投与経路とは無関係であるという前提の下で、定常状態までの反復投与後のpcJIA患者<30kgと≧30kgのPK曝露をシミュレートした。シミュレートしたIVとSC投与のPKプロフィールをそれぞれ
図21Aと21Bに示す。定常状態での4週間の投与間隔の間のIVとSC投与後のTCZ濃度は、およそ同等であると考えられた。TCZ曝露パラメーター(AUC
4週、C
min及びC
max)をシミュレートしたモデルを表11に示す。BW<30kgとBW≧30kgの両方の患者のSC用量162mg Q2Wは、WA19977試験に匹敵するAUC
4週の産生に適切であると考えられた(表11)。従って、第1群の全患者に計画されるSC用量は、162mg Q2Wである。
【表11】
【0276】
従って、TCZ162mgをpcJIA患者(N=24)に2週ごとに(Q2W)皮下投与する。治療期間は14週間である。治療期間中、安定なNSAIDとMTXを14週間の試験の間中変更なしで継続する。安全上の理由以外でコルチコステロイド、NSAID又はメトトレキサートを減量できない。PK、PD、有効性のパラメーターを予定した時点で評価する。フォローアップ来院を最後のSC投与後4週間と8週間で実施する。
【0277】
抗IL-6R抗体(TCZ)は、162mg用量で2週ごとに(Q2W)SQ投与で、例えば14週まで、pcJIA患者に投与したとき有効であると予測された。
【0278】
実施例8
全身性硬化症にSQ投与される抗IL-6R抗体
これは、全身性硬化症(SSc)患者の第2/3相、多施設協同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、2アーム、並行群間試験である。ヒアルロニダーゼを含まずTCZ180mg/mLを含むTCZ製剤(実施例4の表2参照)をこの試験のSSc患者に皮下投与する。一次評価項目の修正Rodnanスキンスコア(mRSS)における第24週でのベースラインからの変化を第24週で評価する。48週間の盲検期間に続いて48週間の非盲検期間がある。
【0279】
患者は1:1の比率で無作為化され、162mgのSC TCZを毎週(QW)(A群)またはSCプラセボをQW(B群)のいずれかを48週間受ける。全患者が第24週に達すると一次分析を行う。
【0280】
第48週から、全患者はTCZ162mg皮下QWの非盲検治療を受け、プラセボ注射を受ける患者はいない。
【0281】
有効性パラメーターは、ベースラインから第96週まで、評価スケジュールに記載のとおりに評価される。
【0282】
標的集団
以下の条件を満たす患者を登録する:
試験プロトコールの要件を遵守し、インフォームドコンセントを文書で提出する能力及び意思がある
アメリカリウマチ学会診断基準(1980)に従いSScと診断されている
疾患期間≦60か月(最初の非リウマチ性現象の出現時からの時間として定義される)
ベースライン時の年齢≧18歳
スクリーニング来院時、≧15かつ≦40のmRSSユニット
以下の場所のうち1の非病変皮膚:
大腿部前側の中央部位
臍から直接2インチの範囲を除く臍より下の下腹部
上腕外側部分(介護者が患者に注射する場合)
基準Aと基準Bのそれぞれ少なくとも1に定義される活動性疾患:
スクリーニング時の基準A
過去1〜6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時のmRSSユニットの増加が≧3
過去1〜6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時に≧2のmRSSユニットを有する1新規身体領域の病変
過去1〜6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時に≧1のmRSSユニットを有する2新規身体領域の病変
mRSSを用いた上記基準に記載の皮膚硬化の進行と一致する、過去1〜6か月以内の前回来院時と比べスクリーニング時の皮膚硬化悪化の別の記述
スクリーニング時の1または複数のTFRの存在
スクリーニング時の基準B
高感受性C反応性タンパク質≧1mg/dL
赤血球沈降速度≧28mm/hr
血小板数(≧330×10
3/μL)
経口コルチコステロイド(≦10mg/日のプレドニゾンまたは等価物)の治療は、患者がベースライン時を含む≧2週間前から安定用量レジメンにある場合は許可される。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の治療は、患者がベースライン時を含む≧2週間前から安定用量レジメンにある場合は許可される。
アンジオテンシン変換酵素阻害剤、カルシウムチャネルブロッカー、タンパク質ポンプ阻害剤及び/又は血管拡張剤は、患者がベースライン時を含む≧4週間前から安定用量にある場合は許可される。
妊娠の可能性のある女性患者の場合は、スクリーニング時及びベースライン来院時に妊娠検査が陰性でなければならない。
【0283】
有効性の結果測定
一次有効性評価項目は、ベースラインから第24週までの修正Rodnanスキンスコア(mRSS)の変化である。皮膚硬化は触診で評価され、17箇所でゼロ(正常)から3(重篤な皮膚硬化)までスコア付けされる。スコア総数は、個人の0〜51ユニットの17身体領域(例えば顔、手、指、腕の近位部及び遠位部、胸部、腹部;脚の近位領域及び遠位領域、足)の合計皮膚スコアである。この手法はSSc患者に対し妥当とされている。
【0284】
この試験の二次有効性評価項目は、以下のとおりである:
強皮症の健康評価質問票を用いた機能障害指数(SHAQ−DI)スコアのベースラインから第24週と第48週の変化
ベースラインで関節に病変のある患者の、ベースラインから第24週と第48週の28圧痛関節数(TJC)の変化
医師による全般的評価のベースラインから第24週と第48週の変化
慢性疾患療法の機能評価−疲労(FACIT)−疲労スコアのベースラインから第24週と第48週の変化
掻痒5次元痒みスケール(Pruritus 5-D Itch Scale)のベースラインから第24週と第48週の変化
mRSSのベースラインから第48週の変化
mRSSのベースラインから第48週の変化が第24週の変化と同じかそれを上回る患者の割合
【0285】
本明細書に開示の皮下投与されるTCZは、開示のとおり、プラセボ療法の患者と比べて皮膚硬化症を改善し、身体機能を改善し、及び/又は治療を受けたSSc患者の臓器破壊の進行を遅滞させると予測される。例えば、TCZは一次有効性評価項目(第24週でmRSSの変化)及び/又は任意1または複数の二次評価項目を達成しよう。
【0286】
実施例9
巨細胞性動脈炎にSQ投与される抗IL-6R抗体
この実施例は、巨細胞性動脈炎(GCA)治療のために皮下投与される抗IL-6R抗体(TCZ)の使用について記載する。実施例4の表2に記載のヒアルロニダーゼを含まずTCZ180mg/mLを含むTCZ製剤を使用してGCA患者(新規発症又は難治性GCA)を治療する。
【0287】
GCA患者の治療プロトコールを
図22に示す。計画された試験は、GCAと診断された患者の多施設協同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験である。患者は、新規発症または難治性(すなわち、過去のコルチコステロイド(CS)治療への応答が不十分だったGFCA患者)のいずれかでありうる。一次評価項目は、9か月目でCSフリーの寛解が維持されていることになる。寛解は兆候や症状のない、急性期応答の正常化と定義される。維持されるとは、寛解誘発後の再燃なしと定義される。9か月目で一次評価項目を達成する患者は、3か月以内の寛解を得、少なくとも6か月間は寛解を維持しており、CSの減量が可能であろう。9か月目の二次評価項目として、臨床的寛解からGCA疾患再燃までの時間、累積CS用量、クオリティオブライフ及び急性期反応物とヘモグロビンの変化が挙げられる。
【0288】
2用量の皮下投与TCZを使用する:
毎週(qw)162mg;及び
隔週(q2w)162mg。
【0289】
患者は2:1:1の比率(100:50:50)で無作為化され、162mgのSC TCZ qw、162mgのSC TCZ q2w又はSCプラセボのいずれかを二重盲検法で9か月間受ける。加えて、全患者は背景CS治療を受け、6か月に渡りCS減量レジメンに従う(表12参照)。難治性被験者は、その疾患を過去にコントロールした用量よりも10mg多い用量で試験に参加し、試験参加時のプレドニゾンの用量から定められるグルココルチコイド減量の試みを継続する。再燃がなければ、このスケジュールの結果グルココルチコイド用量は4か月後に5mgを下回り、6か月後にはグルココルチコイドは使用されないであろう。
【表12】
【0290】
9か月目、全患者は試験パート2(非盲検の延長)に参加しうる。一次評価項目を満たす患者は皮下注射の中止を要請され、応答の維持についてフォローされる。一次評価項目を満たさない患者は、試験責任医師指導の非盲検TCZを含みうる治療へのエスケープの選択肢がある。非盲検延長の目的は、GCAにおけるTCZの経過の長期的安全性及び有効性を記述し、TCZの長期的ステロイド節約効果及びCS関連有害事象の観点から続発症を記述し、9か月を超えてTCZ治療を維持するのに必要と思われる要件を記述することである。
【0291】
この試験の標的集団は、GCA成人患者である。新規発症及び再発/難治性GCA患者が適格であろう。
【0292】
GCAの診断は以下の基準に従う:
ウェスターグリーン赤血球沈降速度(ESR)>40mm/時間
GCAの明白な頭蓋の症状(新規発症の局所性頭痛、頭皮又は側頭部動脈の圧痛、虚血関連の失明又は他の理由では説明できない咀嚼に伴う口または顎の痛み)
以下のうち少なくとも1つ:
GCAの特徴を示す側頭部動脈の生検
朝の炎症性のこわばりに関連する肩帯及び又は腰帯の痛みとして定義されるリウマチ性多発筋痛症(PMR)の症状
磁気共鳴血管造影法(MRA)、コンピューター断層血管造影法(CTA)又は陽電子放出断層撮影−コンピューター断層血管造影法(PET−CTA)などの血管造影又は断面撮像研究による大血管の血管炎の証拠
【0293】
新規発症又は難治性GCAは以下の基準に従い分類される。
新規発症:ベースライン来院から4週間以内の活動性GCA診断(臨床的兆候又は症状及びESR>40mm/hr)(ベースライン来院時のCS開始(CS initiated)又は活動性疾患の活性に関わらず)
難治性:ベースライン来院の>4週間に診断され、CS治療に関わらずベースライン4週以内の活動性GCA(臨床的兆候又は症状及びESR>40mm/hr)
【0294】
本明細書に開示の皮下投与TCZは、例えばGCAの兆候及び症状の低減、臨床的寛解の維持及び/又はGCA患者に使用するコルチコステロイドの低減または中止など、効果的にGCAを治療することが予測される。