(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486948
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】純粋栄養膜層から由来した幹細胞及びそれを含む細胞治療剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20190311BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20190311BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20190311BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20190311BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20190311BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
C12N5/074
A61K35/50
A61P19/00
A61P19/04
A61P19/02
A61P25/00
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-545851(P2016-545851)
(86)(22)【出願日】2015年1月8日
(65)【公表番号】特表2017-503508(P2017-503508A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】KR2015000204
(87)【国際公開番号】WO2015105356
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年8月19日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0002308
(32)【優先日】2014年1月8日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512250119
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハ チョルウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジンア
【審査官】
川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−527629(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/146991(WO,A1)
【文献】
特表2017−502071(JP,A)
【文献】
特表2009−527221(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0243172(US,A1)
【文献】
Biochem. Biophys. Res. Commun., 2006, Vol. 340, pp. 944-952
【文献】
清川貴子,日本病理学会会誌,2010年,Vol.99, No.1
【文献】
Br. Med. Bull., 2012, Vol. 105, pp. 43-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎盤の細部組織である純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞。
【請求項2】
前記幹細胞は、CD44、CD73、CD90及びCD105に対して陽性の表面因子発現特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞。
【請求項3】
前記幹細胞は、CD31、CD34、CD45及びHLA−DRに対して陰性の表面因子発現特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の幹細胞。
【請求項4】
前記純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、絨毛膜と脱落膜との間に位置した栄養膜層中、絨毛膜絨毛を除いた組織から由来したことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の幹細胞。
【請求項5】
胎盤の細部組織である純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞を有効成分として含む細胞治療剤。
【請求項6】
前記幹細胞は、軟骨細胞、脂肪細胞、骨細胞、神経細胞、靭帯細胞及び腱細胞からなる群から選択された1種以上に分化されることを特徴とする、請求項5に記載の細胞治療剤。
【請求項7】
前記細胞治療剤は、軟骨損傷、軟骨欠陥、骨欠損、腱・靭帯欠損、または脂肪組織欠損の治療用であることを特徴とする、請求項5または6に記載の細胞治療剤。
【請求項8】
前記軟骨欠陥は、軟骨外傷、軟骨破裂、軟骨軟化、軟骨壊死、骨軟骨炎、軟骨欠損及び骨関節炎からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項7に記載の細胞治療剤。
【請求項9】
胎盤の細部組織である純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞を有効成分として含む組織再生用組成物。
【請求項10】
前記組織は、軟骨、脂肪、骨、神経、靭帯及び腱からなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記軟骨は、硝子軟骨(hyaline cartilage)、繊維軟骨(fibrocartilage)または弾性軟骨(elastic cartilage)であることを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記軟骨は、関節軟骨(articular Cartilage)、耳軟骨、鼻軟骨、肘軟骨、半月状軟骨(meniscus)、膝軟骨、肋軟骨、足首軟骨、器官軟骨、喉頭軟骨及び脊椎軟骨で構成された群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層(絨毛膜絨毛を除いた栄養膜層、chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞及びそれを含む細胞治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の生命工学は、ヒト福祉を最終目標として、食糧、環境、健康問題に新たな解決策の可能性を提示しており、そのうち、幹細胞を用いた技術は、難病治療の新たな地平を開いている。これまでは、ヒトの難病治療のために、臓器移植、遺伝子治療等が提示されていたが、免疫拒否と供給臓器不足、ベクター開発や疾患遺伝子に対する知識不足により、効率的な実用化が微弱であった。そこで、幹細胞への関心が高まり、増殖と分化を通して全ての器官を形成する能力を有する万能幹細胞がほとんどの疾患治療はもちろん、臓器き損を根源的に解決できるものと認識された。また、多くの科学者が、人体のほとんどの臓器再生はもちろん、難病であったパーキンソン病、各種の癌、糖尿病と脊髄損傷等の治療に至るまで幹細胞の適用可能性を多様に提示してきた。
【0003】
幹細胞(stem cell)とは、未分化された細胞であって、自己複製能を有し、かつ二つ以上の互いに異なる種類の細胞に分化する能力を有する細胞をいう。幹細胞は、分化能によって、万能幹細胞(totipotent stem cell)、全分化能幹細胞(pluripotent stem cells)、多分化能(多能性)幹細胞(multipotent stem cells)に分類でき、細胞学的由来によって、胚芽幹細胞と成体幹細胞とに区別できる。胚芽幹細胞は、着床前受精卵や発生中の胎児生殖器組織等に由来するのに対し、成体幹細胞は、成体内で存在する各器官、例えば、骨髄、脳、肝臓、すい臓等に由来する。
【0004】
胚芽幹細胞は、倫理的に制限があるため、細胞治療剤として用いるための限界があった。これに対し、成体幹細胞は、主に脂肪、臍帯血、骨髄及び胎盤等から採取が可能であり、倫理的な問題がなく、特に、脂肪組織にある脂肪幹細胞と出産時に胎盤に存在する胎盤幹細胞は、安全でありながらも分化能力に優れるため、現代医学で治療が厳しい難治性疾患である糖尿、認知症、退行性関節炎、心筋梗塞、脳梗塞、腎不全等の様々な細胞損傷疾患の症状を改善するのに活用できる。
【0005】
このうち、胎盤由来幹細胞の場合、出産後に廃棄される胎盤を利用することにより、採取が容易で多量の幹細胞を容易に確保可能な長所がある。脂肪や骨髄由来幹細胞は、分離、抽出されるドナーの年齢や健康状態等に影響を受け、増殖力や分化能等に制限があり、変動性が多いが、胎盤由来幹細胞の場合、成体幹細胞のうち最も早い時期に収得できる幹細胞であって、ドナーの年齢等の変数によって幹細胞能にほとんど影響を受けず、優れた増殖力及び分化能を有する。また、胎盤由来幹細胞は、神経系疾患、肝臓疾患、筋骨格系疾患等、様々な疾患に活用可能な幹細胞群を分離することができる。
【0006】
上述した長所のため、胎盤由来幹細胞に関する研究が盛んに進んでいる。例えば、大韓民国特許登録第818214号には、NAC(N−acrtyl−L−cysteine)含有培地を利用して羊膜または脱落膜から幹細胞を分離する方法が開示されており、大韓民国特許登録第871984号には、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)含有培地を利用して羊膜、漿膜、基底脱落膜及び胎盤組織から由来した幹細胞を培養する方法が開示されており、大韓民国公開特許第10−2007−0052204号には、胎盤栄養膜の胎盤絨毛(chorionic villi)から幹細胞を分離する方法が開示されている。しかし、今まで胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞についての研究は行われていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、胎盤由来幹細胞の中でも幹細胞能にさらに優れた幹細胞を見つけるための研究を続けた結果、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層(絨毛膜絨毛を除いた栄養膜層、chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞が、従来の胎盤全体由来幹細胞に比べて均質な成長特性、優れた増殖特性及び分化特性を示し、特に、軟骨細胞への分化能に優れて細胞治療剤として有用に利用され得ることを確認することで、本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明の目的は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞を提供することである。
【0009】
本発明のまた他の目的は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞または前記幹細胞から分化した細胞を有効成分として含む細胞治療剤及び組織再生用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞を提供する。
【0011】
また、本発明は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞または前記幹細胞から分化した細胞を有効成分として含む細胞治療剤を提供する。
【0012】
また、本発明は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞または前記幹細胞から分化した細胞を有効成分として含む組織再生用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る純粋栄養膜層(絨毛膜絨毛を除いた栄養膜層、chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞は、従来の胎盤全体から由来した幹細胞に比べて均質な成長特性、優れた増殖特性及び分化特性を示し、特に、軟骨細胞への分化能に優れて軟骨損傷または軟骨欠損等の治療のための細胞治療剤及び組織再生用組成物として有用に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】胎盤の断面を示す顕微鏡写真であって、上から胎盤の羊膜上皮(amniotic epithelium;AE)、羊膜(amniotic membrane;AM)、絨毛膜(chorionic membrane;CM)、純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi;CT−V)、絨毛膜絨毛(chorionic villi;CV)及び脱落膜(decidua;DC)が順に積層された形態を示した図である。
【
図2】本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の継代培養する前(P0)と長期間継代培養した後(P28)の細胞形態を顕微鏡で観察した写真(×100)を示した図である。
【
図3】胎盤全体由来幹細胞の継代培養する前(P0)と長期間継代培養した後(P29)の細胞形態を顕微鏡で観察した写真(×100)を示した図である。
【
図4】胎盤全体由来幹細胞及び純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の集落形成単位を示した図である。
【
図5】胎盤全体由来幹細胞及び純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の集団倍加時間を示した図である。
【
図6】本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の表面因子発現特性を確認するためのフローサイトメトリー結果を示した図である。
【
図7】胎盤全体由来幹細胞及び純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の脂肪細胞(Adipogenesis)、軟骨細胞(Chondrogenesis)または骨細胞(Osteogenesis)への分化程度を観察するための各染色結果を示した図である。
【
図8】胎盤全体由来幹細胞及び純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の軟骨細胞への分化程度を観察するために、Saparin−Oで染色した後、定量化した結果を示した図である。
【
図9】胎盤全体由来幹細胞及び純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の軟骨細胞への分化程度を観察するために、Type II collagenを用いた免疫組織化学染色を行った後、定量化した結果を示した図である。
【
図10】胎盤全体由来幹細胞及び純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞の脂肪細胞、軟骨細胞または骨細胞への分化程度を比較分析した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞を提供する。
【0017】
本発明において、「幹細胞」とは、自己複製能を有し、かつ二つ以上の互いに異なる種類の細胞に分化する能力を有する細胞を意味する。幹細胞は、分化能によって、万能幹細胞(totipotent stem cell)、全分化能幹細胞(pluripotent stem cells)、多分化能(多能性)幹細胞(multpotent stem cells)に分類できる。
【0018】
本発明において、「万能幹細胞(totipotent stem cells)」とは、一つの完全な個体に発生して行くことのできる万能の性質を有する細胞であって、卵子と精子の受精以後8細胞期までの細胞がこのような性質を有し、この細胞を分離して子宮に移植すれば、一つの完全な個体に発生して行くことのできる細胞を意味する。本発明において、「全分化能幹細胞(pluripotent stem cells)」とは、外胚葉、中胚葉、内胚葉層由来の様々な細胞と組織に発生できる細胞であって、受精4〜5日後に現れる胚盤胞(blastocyst)の内側に位置した内部細胞塊(inner cell mass)に由来し、これを胚芽幹細胞と称し、様々な他の組織細胞に分化するが、新たな生命体を形成することはできない細胞を意味する。本発明において、「多分化能幹細胞」は、幹細胞が含まれている組織及び器官を形成する特異的な細胞にのみ分化できる細胞を意味する。本発明の目的上、前記「幹細胞」は、好ましくは、多分化能幹細胞である。
【0019】
本発明において、「胎盤(placenta)」とは、妊娠中に胎児のために作られる生体内組織を意味するが、重さ500〜600g、直径15〜20cm、厚さ2〜3cm程度の円盤形態である。胎盤の一方は、母体と当たって、他方は胎児と当たっており、その間で母体の血液と胎児の血管との間に栄養分及び酸素の伝達がなされるようになる。胎盤は、大きく羊膜、絨毛膜、脱落膜の3層に区別でき、より詳細には、羊膜上皮、羊膜、絨毛膜、栄養膜層、脱落膜に区別できる。脱落膜は、受精卵が子宮に着床するために、子宮の上皮細胞が変形されて形成された膜である。胎盤の断面図を、
図1に簡略に示している。
【0020】
本発明において、「純粋栄養膜層」とは、絨毛膜と脱落膜との間に位置した栄養膜層中、絨毛膜絨毛を除いた組織を意味する。
【0021】
本発明に係る純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、胎盤から分離した純粋栄養膜層組織に酵素溶液を加え、酵素反応を行って得られた細胞を、成長因子を使用せず、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加された培地で培養した後、回収することにより収得され得る。
【0022】
より具体的には、本発明に係る純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、下記のようなステップを通して収得され得る。
【0023】
(a)胎盤から細部組織である純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi;CT−V)を分離するステップ;
(b)前記分離された純粋栄養膜層組織にトリプシン(Trypsin)、コラゲナーゼ(collagenase)、ディスパーゼ(dispase)、DNase、RNase、プロテアーゼ(protease)、リパーゼ(lipase)、ヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)及びエラスターゼ(elastase)からなる群から選択された1種以上の酵素を処理し、純粋栄養膜層由来の細胞を収得するステップ;及び
(c)前記収得した純粋栄養膜層由来の細胞から幹細胞を選別するステップ。
【0024】
以下、本発明の純粋栄養膜層から幹細胞の製造方法を各ステップ別に具体的に説明する。
【0025】
前記(a)ステップは、胎盤から細部組織である純粋栄養膜層を分離するステップであって、分離方法は、特にこれに制限されないが、
フォーセップス(forceps)、メス等を用いた機械的分離方法、酵素的処理を用いた化学的分離方法等によって行われ得る。また、(a)ステップ以後に前記分離された組織を洗浄して胎盤から由来した血液を除去することが好ましく、このとき、洗浄液としてPBSを利用することができ、これに制限されない。
【0026】
前記(b)ステップは、純粋栄養膜層組織にトリプシン(Trypsin)、コラゲナーゼ(collagenase)、ディスパーゼ(dispase)、DNase、RNase、プロテアーゼ(protease)、リパーゼ(lipase)、ヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)及びエラスターゼ(elastase)からなる群から選択された1種以上の酵素を処理し、純粋栄養膜層由来の細胞を収得するステップである。前記コラゲナーゼは、コラゲナーゼA、I、II、IIIまたはIV等を含む。前記酵素の反応を終了する方法は、特にこれに制限されないが、ウシ胎児血清を含む培地を追加する方法を用いることが好ましい。
【0027】
前記(c)ステップは、純粋栄養膜層由来の細胞から幹細胞を選別するステップであって、選別方法は、特にこれに制限されないが、前記(b)ステップを通して収得した純粋栄養膜層由来の細胞を培養容器で培養し、前記培養容器の下部に付着して付着培養される細胞を選別する方法によって行われることが好ましい。このとき、培養時に用いられる培地は、幹細胞の培養に用いられる全ての培地を用いることができ、特にこれに制限されないが、成長因子を含まない血清及び抗生剤を含む培地を用いることが好ましい。
【0028】
本発明の一実施例によると、前記(b)ステップで収得した細胞をメッシュにろ過して分解されていない組織を除去し、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加された培地を利用して洗浄する。前記洗浄された細胞を、成長因子を含まず、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加された培地で培養し、培養容器の底に付着される中間葉幹細胞を選別する。前記選別された中間葉幹細胞は、外形的には、突起及び長い形態を示し、線維芽細胞(fibroblastic cells)と類似した形態学的特性を示す。
【0029】
本発明に係る胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、下記のような特徴を示す。
【0030】
(a)線維芽細胞(fibroblastic cell)形状の形態学的特徴;
(b)25〜30以上の継代数に達するように長期間の間増殖できる能力;
(c)脂肪細胞、軟骨細胞または骨細胞に分化できる能力;
(d)集落形成能;
(e)CD44、CD73、CD90及びCD105に対して陽性の免疫学的特性;及び、
(f)CD31、CD34、CD45及びHLA−DRに対して陰性の免疫学的特性;
本発明に係る純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、下記方法によって互いに異なる種類の細胞に分化でき、例えば、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、神経細胞、靭帯細胞または腱細胞(tenocyte)等、様々な種類の細胞に分化でき、これに制限されない。
【0031】
本発明において、「分化(differentiation)」とは、一般的に比較的単純な系が2つ以上の質的に異なる部分系に分離される現象を意味するが、具体的には、細胞が分裂増殖して成長する間に互いに構造や機能が特殊化する現象、即ち、生物の細胞、組織等がそれぞれに与えられたことを果たすために形態や機能が変わって行く現象を意味する。相対的に、「未分化」とは、上述した分化が生じない、未だ幹細胞としての特徴を含有している状態を意味する。
【0032】
幹細胞を分化させる方法は、従来、公知になった方法によって行われ得、特に制限されない。例えば、前記幹細胞をデキサメタゾン(dexamethasone)、インドメタシン(indomethacin)、インスリン及びIBMX(3−isobutyl−1−methylxanthine)を含む培地で培養して脂肪細胞に分化させる方法;前記幹細胞をデキサメタゾン、BMP−6(bone morphogenetic protein 6)、TGF−β(Transforming growth factor beta)、アスコルビン酸(ascorbic acid)及びL−プロリン(L−proline)を含む培地で培養して軟骨細胞に分化させる方法;前記幹細胞をデキサメタゾン、アスコルビン酸、β−グリクロホスフェート(β−glycrophosphate)及びアスコルビン酸−2−ホスフェート(ascorbic acid−2−phosphate)を含む培地に培養して骨細胞に分化させる方法等を用いることが好ましい。
【0033】
前記方法で分化された純粋栄養膜層から由来した幹細胞の分化程度を測定する方法は、特にこれに制限されないが、当該分野に公知になった技法であるフローサイトメトリー法、免疫細胞化学的方法、PCRまたは遺伝子−発現プロファイルを用いて細胞表面標識または形態の変化を測定する方法、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて細胞の形態変化を調査する方法、遺伝子発現プロファイルの変化を測定する方法等を用いることができ、好ましくは、RT−PCR、Oil−red O染色法、Safranin O染色法、Type II collagen免疫組織化学染色法、ALP(alkaline phosphate)染色法またはAlizarin red S染色法等を利用することができる。
【0034】
本発明に係る純粋栄養膜層(絨毛膜絨毛を除いた栄養膜層、chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞は、従来の胎盤全体から由来した幹細胞に比べて均質な成長特性、優れた増殖特性及び分化特性を示し、特に、軟骨細胞への分化能に優れている。
【0035】
従って、本発明は、胎盤の細部組織である純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)から由来した幹細胞または前記幹細胞から分化した細胞を有効成分として含む細胞治療剤を提供する。
【0036】
前記分化した細胞は、軟骨細胞、脂肪細胞、骨細胞、神経細胞、靭帯細胞、腱細胞等を含み、治療目的に合わせて選択され得る。
【0037】
本発明の用語「細胞治療剤(cellular therapeutic agent)」とは、ヒトから分離、培養及び特殊な操作を通して製造された細胞及び組織で治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品(米国FDA規定)であって、細胞あるいは組織の機能を復元させるために、生きている自家、同種、または異種細胞を体外で増殖選別するか、または他の方法で細胞の生物学的特性を変化させる等の一連の行為を通して、このような細胞が疾患の治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品を意味する。
【0038】
好ましくは、本発明の細胞治療剤は、軟骨損傷、軟骨欠陥、骨欠損、腱・靭帯欠損、または脂肪組織欠損等への治療用として利用され得る。
【0039】
本発明において、「軟骨欠陥」とは、身体内に含まれる軟骨に損傷、欠陥(defect)または不足のある場合を包括する意味であって、例えば、軟骨外傷、軟骨破裂、軟骨軟化、軟骨壊死、骨軟骨炎、軟骨欠損または骨関節炎等を含むが、これに制限されない。
【0040】
本発明の純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、身体の組織または器官が目的とする細胞群集、例えば、幹細胞または分化細胞群集の生着、移植または注入により調整、強化、治療または代替される様々な種類の治療プロトコルに用いられ得る。本発明の純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、存在する組織を代替または強化させ、新しいか、または変化した組織になるようにするか、または生物学的組織あるいは構造と結合させることができる。
【0041】
また、本発明の純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、関節内に投与することで関節軟骨の病変を治療するか、または腱あるいは靭帯部位に投与することで治療あるいは予防する等の目的で用いられ得る。例えば、本発明の純粋栄養膜層から由来した幹細胞を関節や腱、または靭帯部位に投与することで前記組織の損傷部位に対する回復や調整を図るか、または本発明の純粋栄養膜層から由来した幹細胞から由来した軟骨組織構成物等の幹細胞由来の物質を利用して関節(例えば、膝関節等)の組織を再構成するか、または再生等の方法で治療するのに用いられ得る。
【0042】
本発明の細胞治療剤の好適な投与量は、個体の状態及び体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって異なるが、当業者により適切に選択され得る。投与は、一日に一回投与することもでき、数回に分けて投与することもでき、前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
また、本発明は、純粋栄養膜層から由来した幹細胞または前記幹細胞から分化した細胞を有効成分として含む組織再生用組成物を提供する。
【0044】
前記組織は、特に制限されないが、軟骨、脂肪、骨、神経、靭帯、腱等の組織を含み、好ましくは、軟骨である。
【0045】
前記軟骨は、硝子軟骨(hyaline cartilage)、繊維軟骨(fibrocartilage)または弾性軟骨(elastic cartilage)等を含み、例えば、関節軟骨(articular Cartilage)、耳軟骨、鼻軟骨、肘軟骨、半月状軟骨(meniscus)、膝軟骨、肋軟骨、足首軟骨、器官軟骨、喉頭軟骨または脊椎軟骨であってよいが、これに制限されない。
【0046】
以下、下記実施例を通して、本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を詳細に説明するためのものであって、本発明の範囲は、これらの実施例により制限されるものではない。
【0047】
実施例1:胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の収得
胎盤は、サムスンソウル病院臨床試験倫理委員会指針書によってサムスンソウル病院で帝王切開した正常分娩で寄贈に同意した産婦から収集した。胎盤組織は、滅菌された容器に入れて移した。移した胎盤組織から羊膜を剥離した後、絨毛膜(CM)と脱落膜(DC)との間に位置した栄養膜層を分離し、前記栄養膜層中、絨毛膜絨毛を除いた純粋栄養膜層(chorionic trophoblast layer without villi、CT−V)を滅菌された
フォーセップス(forceps)とメスを利用して注意深く分離した。胎盤の断面図を
図1に示した。
【0048】
分離された純粋栄養膜層組織を、PBSを利用して数回洗浄し、血液及び血球細胞を除去した後に組織をできる限り細かく切った後、0.2%コラゲナーゼを添加したDMEM培地を加え、37℃で撹拌機を利用して2〜3時間反応させ、純粋栄養膜層から由来した細胞を収得した。
【0049】
前記収得した純粋栄養膜層組織から由来した細胞を70μmメッシュにろ過して分解されない組織を除去し、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加されたDMEM培地を加えた後、25℃、1000rpmで4分間遠心分離した。上清液を除去して残った沈殿した細胞に成長因子を含まず、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加されたDMEM培地を加え、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。前記培養物から培養容器の底に付着した細胞を選別し、純粋栄養膜層から由来した幹細胞を収得した。
【0050】
比較例1:胎盤全体から由来した幹細胞の収得
全体胎盤組織を細切し、PBSで洗浄して胎盤組織から血液及び血球細胞を除去した。前記洗浄された胎盤組織に0.2%コラゲナーゼを添加したDMEM培地を加え、37℃で撹拌機を利用して反応させ、胎盤細胞を収得した。前記収得した胎盤細胞を70μmメッシュにろ過して分解されない組織を除去し、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加されたDMEM培地を加えた後、25℃、1000rpmで4分間遠心分離した。上清液を除去して残った沈殿した細胞に成長因子を含まず、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加されたDMEM培地を加え、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。前記培養物から培養容器の底に付着した細胞を選別し、胎盤全体(Whole placenta、Pla)由来幹細胞を収得した。
【0051】
実施例2:胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の継代培養
前記実施例1で収得した胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞をPBSで洗浄した後、成長因子を含まず、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加されたDMEM培地を2〜3日毎に取り替えながら培養した。前記幹細胞が80%以上成長した時点でトリプル(TryPLE)を処理して幹細胞を培養容器から分離し、分離された幹細胞を1/4の割合で希釈した後、他の培養容器で培養する方法で継代培養を行った。前記のような継代培養を繰り返して行いながら、それ以上継代培養されない継代数(passage number)を測定し、継代培養する前(P0)と長期間の間継代培養した後の細胞形態を顕微鏡で観察した。また、前記比較例1で収得した胎盤全体(Whole placenta、Pla)由来幹細胞を利用して、同様の方法で継代培養を行った後、継代培養する前(P0)と長期間の間継代培養した後の細胞形態を顕微鏡で観察した。これをそれぞれ
図2及び
図3に示した。
【0052】
図2に示したように、本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞は、線維芽細胞形状の形態学的特徴を示し、継代数が28に達するまで優れた増殖能を有しており、長期間培養が可能であることを確認した。
【0053】
また、
図3に示したように、胎盤全体(Whole placenta、Pla)由来幹細胞は、継代培養初期から線維芽細胞形状の形態的特性を示し、一つの形態ではなく多数の互いに異なる形態の細胞が混合されていることを確認することができた。即ち、本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞(
図2)と比較すると、継代培養前後で純粋栄養膜層(CT−V)から由来した幹細胞は、単一の細胞だけを特異的に維持していたが、胎盤全体から由来した幹細胞は、互いに異なる形態の細胞が混合されていた。
【0054】
実施例3:胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の集落形成能分析
前記実施例1で収得した胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の集落形成能を確認した。より具体的には、前記実施例1で収得した純粋栄養膜層から由来した幹細胞を前記実施例2の方法で第一の継代培養を行い、前記継代培養が終了する時点で100mmの皿に5×10
3個ずつ接種(seeding)した後、10日間成長因子を含まず、ウシ胎児血清及び抗生剤が添加されたDMEM培地で培養した。前記培養された幹細胞を対象にギムザ染色法(Giemsa stain)を実施して幹細胞でいくつの集落が形成されるかを計数し、これらの平均値を算出した。また、前記比較例1で収得した胎盤全体由来幹細胞を利用して、同様の方法で集落形成能を測定し、その結果値を100%として換算した。その結果を
図4に示した。
【0055】
図4に示したように、本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞は、胎盤全体由来幹細胞より集落形成能に優れていることを確認した。
【0056】
実施例4:胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の集団倍加時間分析
前記実施例1で収得した胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の集団倍加時間を測定した。より具体的には、前記実施例1で収得した純粋栄養膜層から由来した幹細胞を前記実施例2の方法で第一の継代培養を行い、2〜3日間隔で細胞を収得及び継代培養を繰り返した。細胞の収得時は、増加した細胞の数を確認し、継代時は、3×10
5個の細胞を100mmの皿に培養をした。継代過程中にそれ以上細胞の数が増加しない時点を最終的に増加されない時点に定めた。倍加時間は、P2からP6まで継代培養された細胞数で測定し、下記のように計算した。また、前記比較例1で収得した胎盤全体由来幹細胞を利用して、同様の方法で集団倍加時間を計算した。その結果を
図5に示した。
【0057】
倍加時間=培養された時間/倍加
倍加=log(N
初期細胞数/N
増加した細胞数)/log2
図5に示したように、本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞は、胎盤全体由来幹細胞より集団倍加時間(population doubling time)が短く、細胞増殖が速いことを確認した。
【0058】
実施例5:胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の表面マーカー分析
前記実施例1で収得した胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の免疫学的特性を確認するために、下記のような実験を行った。先ず、純粋栄養膜層から由来した幹細胞をPBSで洗浄し、トリプル処理した後、幹細胞を回収して1000rpmで4分間遠心分離した。上清液を除去した後、非特異的結合を抑制するために、2%FBS及びPBSの混合液を入れて幹細胞を洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離した。上清液を除去した後、幹細胞をPBSに浮遊させ、1×10
5cellずつフローサイトメーター専用の丸底フラスコに分注した。ここに抗体(PE−conjugated mouse anti−human monoclonal antibody)を入れて、氷で30分間インキュベーションした後、1000rpmで5分間遠心分離した。再び上清液を除去した後、PBSで洗浄し、1000rpmで5分間遠心分離した。前記過程を2回繰り返した。最後に、上清液を除去した後、幹細胞をシングル化し、フローサイトメーター(FACS)を利用して免疫学的特性を分析した。また、同様の方法で前記比較例1で収得した胎盤全体由来幹細胞の免疫学的特性を分析した。その結果を表1及び
図6に示した。
【0060】
表1及び
図6に示したように、本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞は、CD44、CD73、CD90及びCD105に対して陽性の標識因子発現特性を示し、CD31、CD34、CD45及びHLA−DRに対して陰性の標識因子発現特性を示すことを確認した。
【0061】
実施例6:胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の軟骨細胞への分化能確認
前記実施例1で収得した胎盤の細部組織である純粋栄養膜層から由来した幹細胞の軟骨細胞への分化能を確認するために、幹細胞を公知になった軟骨細胞分化誘導培地(0.1μMデキサメタゾン、50μg/mlアスコルビン酸、40μg/ml L−プロリン、10ng/ml TGF−β3、500ng/ml BMP−6、50mg/ml ITS premixが含まれたDMEM培地)で3週間培養し、軟骨細胞への分化を誘導した。前記幹細胞の軟骨細胞への分化程度を測定するために、従来、公知になった方法によってSafranin−O染色及びType II collagenを用いた免疫化学染色法を行った。また、同様の方法で前記比較例1で収得した胎盤全体由来幹細胞の軟骨細胞への分化能を測定した。その結果を
図7乃至
図9に示した。
【0062】
図7乃至
図9に示したように、本発明に係る純粋栄養膜層(CT−V)由来幹細胞は、胎盤全体由来幹細胞より均一に軟骨細胞に分化できる優れた軟骨細胞分化能を有していることを確認した。
【0063】
特に、従来、公知になった方法によって純粋栄養膜層から由来した幹細胞と胎盤全体由来幹細胞の骨細胞、軟骨細胞、または脂肪細胞への分化能を比較分析した結果、純粋栄養膜層から由来した幹細胞は、脂肪細胞や骨細胞への分化程度は胎盤全体由来幹細胞と類似しているが、軟骨細胞への分化能に特に優れていた(
図10)。
【0064】
これを通して、胎盤全体由来幹細胞は、様々な組織から由来した互いに異なる分化パターンを有する幹細胞が混在しており、目的とする細胞治療効果を奏するのに多少不足するが、本発明に係る純粋栄養膜層から由来した幹細胞を利用する場合、均質な特性を有する細胞だけを利用することができ、軟骨細胞への分化能に優れ、軟骨損傷や軟骨再生が必要な疾患の細胞治療剤に適用する場合、優れた効果を示すことを確認した。