(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記親水性ブロック(A)は、ポリエチレングリコール、モノメトキシポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルアミドよりなる群から選ばれ、且つ、
前記疎水性ブロック(B)は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサン−2−オン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸−コ−グリコリド、ポリ乳酸−コ−カプロラクトン、ポリ乳酸−コ−ジオキサン2−オン、ポリグリコール−コ−カプロラクトン、及びカルボン酸末端が脂肪酸基で置換されたこれらの誘導体よりなる群から選ばれるものである請求項1に記載のポリマーナノ粒子の凍結乾燥物の製造方法。
前記両親媒性ブロック共重合体における親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)との重量比は2:8〜8:2である請求項4に記載のポリマーナノ粒子の凍結乾燥物の製造方法。
前記ポリマーナノ粒子の溶液の25℃の水に対する溶解度が100mg/mL以下である水難溶性薬物を更に含む請求項1に記載のポリマーナノ粒子の凍結乾燥物の製造方法。
得られた前記ポリマーナノ粒子の凍結乾燥物は、両親媒性ブロック共重合体0.1〜78.9重量%、カルボキシル末端基に二価又は三価の金属イオンが結合したポリ乳酸誘導体20.0〜98.8重量%、水難溶性薬物0.1〜20.0重量%、及び凍結乾燥補助剤1〜79.8重量%を含む請求項1に記載のポリマーナノ粒子の凍結乾燥物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いられるポリマーナノ粒子の溶液は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を含むA−B、A−B−A、又はB−A−B型の両親媒性ブロック共重合体、カルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体、及び凍結乾燥補助剤を含み、その溶液中のポリマー濃度は120mg/mL以下(例えば1mg/mL以上、120mg/mL以下)、より好ましくは10mg/mL以上、100mg/mL以下である。ポリマーナノ粒子の溶液中のポリマー濃度が120mg/mLを超えると、凍結乾燥物の再構成時間が長くなるという問題がある。ポリマー濃度の下限は、再構成時間の観点からは低いほど好ましい。しかし、低過ぎると凍結乾燥後にケーキ形態が維持され難いため、凍結乾燥補助剤を十分に添加しなければならない。
【0016】
本発明の一実施形態において、両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)がA−B型に連結された二重ブロック共重合体であり、非イオン性である。また両親媒性ブロック共重合体は疎水性ブロック(B)がコアを形成し、親水性ブロック(A)がシェルを形成するコアシェル形態のポリマーミセルを形成する。
【0017】
両親媒性ブロック共重合体における親水性ブロック(A)は、水溶性ポリマーである。具体的には、例えばポリエチレングリコール、ポリエチレン−コ−プロピレングリコール(polyethylene−co−propylene glycol)等のポリアルキレングリコール;モノメトキシポリアルキレングリコール、モノアセトキシポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール誘導体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;又はポリアクリルアミド等であっても良く、より具体的には、ポリエチレングリコール、モノメトキシポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルアミドよりなる群から選ばれても良い。親水性ブロック(A)は、数平均分子量が好ましくは500〜50,000ダルトン、より具体的には500〜20,000ダルトン、更に具体的には1,000〜20,000ダルトンである。
【0018】
両親媒性ブロック共重合体の疎水性ブロック(B)は、水に溶解せず、生体適合性に優れる生分解性のポリマーである。具体的には、ポリエステル、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、又はポリホスファジン(polyphosphazine)等であり、より具体的には、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサン−2−オン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸−コ−グリコリド(polylactic−co−glycolide)、ポリ乳酸−コ−カプロラクトン(polylactic−co−caprolactone)、ポリ乳酸−コ−ジオキサン2−オン(polylactic−co−dioxan−2−one)、及びポリグリコール−コ−カプロラクトン(polyglycolic−co−caprolactone)、及びカルボン酸末端が脂肪酸基で置換されたこれらの誘導体よりなる群から選ばれてもよい。また疎水性ブロック(B)のカルボン酸末端に置換可能な脂肪酸基としては、酪酸基、プロピオン酸基、酢酸基、ステアリン酸基、又はパルミチン酸基が挙げられる。疎水性ブロック(B)は、数平均分子量が好ましくは500〜50,000ダルトン、より具体的には500〜20,000ダルトン、更に具体的には1,000〜20,000ダルトンである。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、水溶液相中で安定したポリマーミセルを形成するための両親媒性ブロック共重合体における親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)の重量比(親水性ブロック(A):疎水性ブロック(B))は2:8〜8:2であり、より具体的には3:7〜7:3であり、更に具体的には4:6〜6:4である。親水性ブロック(A)の比率が低過ぎるとポリマーが水溶液中でポリマーミセルを形成できないおそれがあり、高過ぎると親水性が高くなり過ぎて安定性が低下するおそれがある。
【0020】
本発明の一実施形態において、カルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体は、例えば、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアンハイドライド、及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる1種以上、より具体的にはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、及びD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体よりなる群から選ばれる1種以上の末端のカルボン酸基又はカルボキシル基にアルカリ金属イオンが結合したものであってもよい。
【0021】
一実施形態において、アルカリ金属イオンは、ナトリウム、カリウム、又はリチウムの一価の金属イオンであってもよい。
【0022】
ポリ乳酸誘導体のカルボキシル末端でない方の末端は、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、アセトキシ、ベンゾイルオキシ、デカノイルオキシ、及びパルミトイルオキシよりなる群から選ばれる一つ以上であってもよい。
【0023】
ポリ乳酸誘導体のアルカリ金属イオンが結合したカルボキシル末端基は、pH4以上の水溶液中で親水基として作用し、水溶液中でポリマーミセルを形成する。またポリ乳酸塩又はその誘導体は、室温で固体状態で存在し、空気中の水分に曝されてもpHが中性であるため非常に安定した形態をとる。
【0024】
カルボキシル末端基にアルカリ金属イオンが結合した形態のポリ乳酸誘導体は、両親媒性ブロック共重合体からなるミセルに添加すること、及びミセルのコア内部を硬化することにより、薬物の封入効率を向上する役割を果たす。ポリ乳酸誘導体は、水溶液に溶解して、ポリ乳酸誘導体分子内に存在する親水性の部分と疎水性の部分のバランスを通じてミセルを形成する。従って、疎水性を示すエステルの部分の分子量が大き過ぎると、親水性を示す末端のカルボキシルアニオン同士の会合が難しくなり、ミセルを良好に形成することができなくなり、分子量が小さ過ぎると水に完全に溶解してミセル形成自体が困難になる。一実施形態において、pH4以上でミセルを形成することができる好適なポリ乳酸誘導体の数平均分子量は500〜5,000ダルトンであり、より具体的には500〜2,500ダルトンである。分子量が小さ過ぎると、水に完全に溶解してミセル形成自体が困難になる。分子量が大き過ぎると疎水性が高くなり過ぎて、水溶液での溶解が困難となり、ミセルを形成することができなくなる。このようなポリ乳酸誘導体の分子量は、製造時の反応温度や時間などを制御することにより達成することができる。
【0025】
一実施形態では、カルボキシル末端基にアルカリ金属イオンが結合した形態のポリ乳酸誘導体は、下記式(1)で表すことができる。
【0029】
であり、
Zは水素、メチル基、又はフェニル基であり、
Bは、
【0034】
であり、
Yは、水素、メチル基、又はフェニル基であり、
Rは、水素、アセチル基、ベンゾイル基、デカノイル基、パルミトイル基、メチル基、又はエチル基であり、
Mは、ナトリウム、カリウム、又はリチウムであり、
nは1〜30の整数であり、
mは0〜20の整数である。)
【0035】
より具体的に、カルボキシル末端基にアルカリ金属イオンが結合したポリ乳酸塩又はその誘導体は下記式(2)で表すことができる。
【0037】
(式中、Z、R、及びMは、式(1)で定義されたものと同義であり、
Xは、メチル基であり、
Y’は、水素又はフェニル基であり、
pは、0〜25の整数であり、
qは、0〜25の整数であり、
但し、p+qは、5〜25の整数である。)
【0038】
また他の一実施形態において、カルボキシル末端基にアルカリ金属イオンが結合した形態のポリ乳酸誘導体は、下記式(3)又は式(4)で表すことができ、
【0044】
であり、
PLAは、D,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、又はD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体である。)
【0048】
であり、Lは、−NR
1−(式中、R
1は水素又はC
1〜C
10のアルキルである。)又は−O−であり、aは0〜4の整数であり、bは1〜10の整数であり、Mは、ナトリウム、カリウム、又はリチウムであり、
Qは、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
2CH
3、又はCH
2C
6H
5であり、
PLAは、D,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、又はD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体である。)で表すことができる。
【0049】
両親媒性ブロック共重合体とカルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体とを水中で混合して、混合ミセル水溶液を形成していてもよい。
【0050】
一実施形態において、ポリマーナノ粒子の溶液は、水難溶性薬物を更に含むことができ、その結果、混合ミセル内に水難溶性薬物を含有させることができる。混合ミセル中に水難溶性薬物を含ませる方法は、例えば以下の通りである。水難溶性薬物、両親媒性ブロック共重合体及びカルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体を有機溶媒に溶解し、有機溶媒を除去した後、水を加えて混合ミセルを得るか、又は水難溶性薬物とカルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体を有機溶媒に溶解し、有機溶媒を除去した後、その乾燥物に、両親媒性ブロック共重合体を水に加えて溶解させた水溶液を加えることにより、混合ミセルを得ることができる。
【0051】
一実施形態において、有機溶媒は、具体的には、アルコール、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸、アセトニトリル、及びジオキサンよりなる群から選ばれる一つ以上であってもよい。一実施形態において、有機溶媒の含量は、組成物全重量に対して、0.5〜30重量%、具体的には0.5〜15重量%、より具体的には1〜10重量%であってもよい。有機溶媒の含量が0.5重量%未満のときには、薬物を溶解し難くなる。30重量%を超えると、再構成時に、薬物が沈殿するおそれがある。水難溶性薬物とポリマーは、有機溶媒に同時に又は連続して溶解させてもよい。薬物とポリマーを有機溶媒に同時に添加して溶解させてもよく、ポリマーをまず有機溶媒に溶解させて、そこに薬物を溶解させてもよく、又は薬物をまず有機溶媒に溶解させた後、ポリマーをそこに添加して溶解させてもよい。水難溶性薬物を有機溶媒に溶解させる温度は、薬物の分解を防止するために0〜60℃、より具体的には10〜50℃、更に具体的には10〜40℃であってもよいがこれらに制限されない。有機溶媒の除去は、減圧蒸留法、気流乾燥法、加熱乾燥法などによって行うことができる。また、有機溶媒を少量使用する場合には、有機溶媒除去工程を省略することができる。水溶液としては、水、蒸留水、注射用蒸留水、生理食塩水、5%グルコース、緩衝液等を用いることができる。ミセル化工程は0〜80℃、より具体的には10〜60℃、更に具体的には10〜40℃の温度で水溶液を加え、ポリマーミセルを形成させることにより行う。
【0052】
水難溶性薬物は、水に対する溶解度(25℃)が100mg/mL以下の薬物から選ぶことができる。また、抗癌剤、抗真菌剤、免疫抑制剤、鎮痛剤、消炎鎮痛剤、抗ウイルス剤、抗不安鎮静剤、造影剤、コルチコステロイド、診断薬、診断造影剤、利尿剤、プロスタグランジン、放射性医薬品、ステロイドを含む性ホルモン剤、及びこれらの組み合わせから選ばれてもよいが、これらに限定されない。
【0053】
一実施形態において、水難溶性薬物は、抗癌剤から選ばれてもよく、具体的には、タキサン抗癌剤であってもよい。例えば、タキサン抗癌剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、7−エピパクリタキセル、t−アセチルパクリタキセル、10−デスアセチル−パクリタキセル、10−デスアセチル−7−エピパクリタキセル、7−キシロシルパクリタキセル、10−デスアセチル−7−グルタリルパクリタキセル、7−N,N−ジメチルグリシルパクリタキセル、及び7−L−アラニルパクリタキセルよりなる群から選ばれる一又は二以上の混合物であってもよい。より具体的にはパクリタキセル又はドセタキセルである。
【0054】
他の一実施形態において、水難溶性薬物は、抗真菌剤から選ばれてもよく、具体的には、アゾール系抗真菌剤であってもよい。例えば、アゾール系抗真菌剤は、ボリコナゾール、ポサコナゾール、ラブコナゾール、フルコナゾール、エコナゾール、ケトコナゾール、及びイトラコナゾールよりなる群から選ばれる一又は二以上の混合物であってもよい。より具体的にはボリコナゾールである。
【0055】
一実施形態において、両親媒性ブロック共重合体及びカルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体の全重量に対して、0.1〜99.9重量%の両親媒性ブロック共重合体及び0.1〜99.9重量%のポリ乳酸誘導体を用いることができ、好ましくは20〜95重量%の両親媒性ブロック共重合体及び5〜80重量%のポリ乳酸誘導体を用いることができ、より好ましくは50〜90重量%の両親媒性ブロック共重合体及び10〜50重量%のポリ乳酸誘導体を用いることができる。他の実施形態において、両親媒性ブロック共重合体、カルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体、及び水難溶性薬物の全重量に対して、0.1〜20重量%の難溶性薬物を用いることができる。
【0056】
一実施形態において、ポリマーナノ粒子の溶液は、二価又は三価の金属イオンの塩を更に含むことができ、その結果、混合ミセル水溶液に二価又は三価の金属イオンの塩を添加することができる。このような二価又は三価の金属イオンは、両親媒性ブロック共重合体及びカルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体を混合して形成されたポリマーミセルの安定性を更に向上させるために添加される。二価又は三価の金属イオンがポリ乳酸誘導体の末端のカルボキシル基と結合し、二価又は三価の金属イオンが結合したポリマーミセルを形成する。例えば、一価アルカリ金属イオンがカルボキシル末端基に結合したポリ乳酸塩又はその誘導体において、カルボキシル末端基の一価の金属カチオンと二価又は三価の金属イオンが置換反応してイオン結合を形成した場合、このイオン結合はイオン強度によってポリマーミセルの安定性を更に向上させる役割を果たす。
【0057】
一実施形態において、二価又は三価の金属イオンは、カルシウム(Ca
2+)、マグネシウム(Mg
2+)、バリウム(Ba
2+)、クロム(Cr
3+)、鉄(Fe
3+)、マンガン(Mn
2+)、ニッケル(Ni
2+)、銅(Cu
2+)、亜鉛(Zn
2+)、及びアルミニウム(Al
3+)よりなる群から選ぶことができる。他の一実施形態において、二価又は三価の金属イオンは、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、リン酸塩又は水酸化物の形態のポリ乳酸誘導体及び両親媒性ブロック共重合体の混合ポリマー組成物に添加される。具体的には、塩化カルシウム(CaCl
2)、塩化マグネシウム(MgCl
2)、塩化亜鉛(ZnCl
2)、塩化アルミニウム(AlCl
3)、塩化鉄(FeCl
3)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、リン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2)、リン酸マグネシウム(Mg
3(PO
4)
2)、リン酸アルミニウム(AlPO
4)、硫酸マグネシウム(MgSO
4)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)、又は水酸化亜鉛(Zn(OH)
2)の形態で添加される。また二価又は三価の金属イオンは、ポリ乳酸誘導体のカルボキシル末端基の当量に対して、0.001〜10当量、具体的には0.5〜2.0当量の量で添加することができる。
【0058】
一実施形態において、凍結乾燥補助剤(凍結乾燥化剤ともいう)は、糖、糖アルコール、及びこれらの混合物よりなる群から選ぶことができる。糖は、ラクトース、マルトース、スクロース、及びトレハロースよりなる群から選ばれる一つ以上であってもよく、糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、及びラクチトールよりなる群から選ばれる一つ以上であってもよい。凍結乾燥補助剤は、凍結乾燥した組成物がケーキ形態を維持できるようにするために添加される。また、凍結乾燥補助剤は、ポリマーナノ粒子組成物の凍結乾燥後、再構成する工程で、短時間で均一な溶解を補助する役割を果たす。一実施形態において、凍結乾燥補助剤の含量は、凍結乾燥組成物の全乾燥重量に対して、1〜90重量%、より具体的には10〜60重量%である。
【0059】
一実施形態において、凍結乾燥処理されるポリマーナノ粒子の溶液原液のポリマー濃度(即ち、両親媒性ブロック共重合体及びカルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体を含むポリマーの濃度)は1mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上であり、また120mg/mL以下、より好ましくは100mg/mL以下、更に好ましくは50mg/mL以下である。溶液内ポリマーの濃度が高過ぎると、凍結乾燥後、再構成時、ポリマーが凝集する可能性があり、それによって完全な溶解には長時間を要する。ポリマー濃度が低過ぎると用いる溶液の量が多くなり過ぎて使用するのに不便である。
【0060】
ポリマーナノ粒子の溶液の凍結乾燥処理は、
a)ポリマーナノ粒子の溶液を−10〜−45℃の温度範囲内で凍結する第1凍結工程、
b)第1凍結工程の生成物を−25〜0℃の温度範囲まで昇温するアニーリング工程、
c)アニーリング工程の生成物を−10〜−45℃の温度範囲内で凍結する第2凍結工程、
d)第2凍結工程の生成物を0℃未満の温度で減圧下で乾燥させる第1乾燥工程、及び
e)第1乾燥工程の生成物を0℃以上の温度で減圧下で乾燥させる第2乾燥工程を含む。
【0061】
このような凍結乾燥処理を通じて氷晶が大きくなり、その結果、凍結乾燥ケーキの空隙が大きくなって再構成時に水が透過し易くなるため、再構成時間が短くなる。
【0062】
より具体的に凍結乾燥処理において、
第1凍結工程は、初期温度0〜35℃(より好ましくは0〜25℃、最も好ましくは0〜15℃)、最終温度−10〜−45℃(より好ましくは−20〜−40℃、最も好ましくは−30〜−40℃)、降温時間0.5〜24時間(より好ましくは0.5〜12時間、最も好ましくは0.5〜6時間)、及び降温後の保持時間0.5〜24時間(より好ましくは0.5〜12時間、最も好ましくは0.5〜6時間)の条件で行い、
アニーリング工程は、初期温度−10〜−45℃(より好ましくは−20〜−40℃、最も好ましくは−30〜−40℃)、最終温度−25〜0℃(より好ましくは−25〜−10℃、最も好ましくは−25〜−15℃)、昇温時間0.5〜24時間(より好ましくは0.5〜12時間、最も好ましくは0.5〜6時間)、及び昇温後の保持時間0.2〜12時間(より好ましくは0.5〜8時間、最も好ましくは0.5時間〜4時間)の条件で行い、
第2凍結工程は、初期温度−25〜0℃(より好ましくは−25〜−10℃、最も好ましくは−25〜−15℃)、最終温度−10〜−45℃(より好ましくは−20〜−40℃、最も好ましくは−30〜−40℃)、降温時間0.5〜24時間(より好ましくは0.5〜12時間、最も好ましくは0.5〜6時間)、及び降温後の保持時間
0.5〜24時間(より好ましくは0.5〜12時間、最も好ましくは0.5〜6時間)の条件で行い、
第1乾燥工程は、真空度50〜500ミリトール(より好ましくは50〜150ミリトール、最も好ましくは50〜100ミリトール)、乾燥温度−45〜0℃未満(より好ましくは−5〜−40℃、最も好ましくは−10〜−30℃)、及び乾燥時間24〜96時間(より好ましくは24〜72時間、最も好ましくは48〜72時間)の条件で行い、
第2乾燥工程は、真空度50〜500ミリトール(より好ましくは50〜150ミリトール、最も好ましくは50〜100ミリトール)、乾燥温度0〜50℃(より好ましくは5〜40℃、最も好ましくは15〜35℃)、及び乾燥時間6〜48時間(より好ましくは6〜24時間、最も好ましくは12〜24時間)の条件で行う。
【0063】
一実施形態において、第1乾燥工程は、−45〜−20℃未満で1〜5時間保持、−45〜−20℃未満から−20〜−10℃未満まで2〜6時間昇温、−20〜−10℃未満で10〜40時間保持、−20〜−10℃未満から−10〜0℃未満まで1〜5時間昇温、及び−10〜0℃未満で10〜40時間保持する工程を含むことができる。
【0064】
一実施形態において、第2乾燥工程は、−10〜0℃未満から0〜20℃まで0.5〜3時間昇温、0〜20℃未満で0.5〜6時間保持、0〜20℃未満から20〜50℃まで2〜9時間昇温、及び20〜50℃で3〜30時間保持する工程を含むことができる。
【0065】
本発明のポリマーナノ粒子の凍結乾燥物の製造方法は、前述のように凍結乾燥処理した生成物をバイアルに投入した後に窒素を充填して密封する工程、又はバイアルを真空状態で密封する工程を更に含むことができる。
【0066】
一実施形態において、前記のようにして得られたポリマーナノ粒子の凍結乾燥物は、両親媒性ブロック共重合体0.1〜78.9重量%、カルボキシル末端に二価又は三価の金属イオンが結合したポリ乳酸誘導体20.0〜98.8重量%、水難溶性薬物0.1〜20.0重量%、及び凍結乾燥補助剤1〜79.8重量%を含む。
【0067】
本発明のポリマーナノ粒子の凍結乾燥物の製造方法で得られたポリマーナノ粒子の凍結乾燥物は、大気圧下で水性溶媒を用いて再構成する場合に5分以内に、より好ましくは3分以内に再構成されることを特徴とする。
【0068】
一方、本発明の他の態様によれば、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を含むA−B、A−B−A、又はB−A−B型の両親媒性ブロック共重合体、カルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体、及び凍結乾燥補助剤を含み、空隙率(%)が70〜99.9%であり、平均空隙径(μm)が70μm以上(例えば、70〜200μm)、より好ましくは90μm以上(例えば、90〜200μm)、最も好ましくは100μm以上(例えば、100〜200μm)であり、大気圧下で水性溶媒を用いて再構成する場合に、5分以内に、より好ましくは3分以内に再構成されるポリマーナノ粒子の凍結乾燥物が提供される。空隙率が低過ぎるか、又は空隙が小さすぎると、再構成時に水溶液の透過が遅くなり再構成時間が長くなる。
【0069】
一実施形態において、空隙率n(%)は、下記数式(1)に従って計算することができる。
【0071】
(式中、Vsは、固体の部分のみの体積(凍結乾燥ケーキの体積−水の体積)であり、Vは、空隙を含む全体積(凍結乾燥ケーキの体積)である。)
【0072】
本発明のまた他の態様によれば、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)を含むA−B、A−B−A、又はB−A−B型の両親媒性ブロック共重合体、カルボキシル末端基を有するポリ乳酸誘導体、及び凍結乾燥補助剤を含み、崩壊温度が、好ましくは−25〜−5℃、より好ましくは−20〜−5℃、最も好ましくは−15〜−5℃であるポリマーナノ粒子の凍結体が提供される。
【0073】
崩壊温度は、第1乾燥工程中で許容される試料の最高温度を意味し、この温度以上の温度で第1乾燥工程を行うとケーキの形状が歪んだり崩壊したりすることを意味する。崩壊温度は凍結乾燥顕微鏡を用いて測定する。
【0074】
崩壊温度が高いほど、凍結乾燥ケーキの性状に影響を与えることなく、第1乾燥工程をより高い温度で行うことができるため、凍結乾燥時間を短縮することができる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例により本発明を具体的に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明の説明だけを目的としており、本発明の範囲は実施例によって何ら限定されない。
【0076】
以下の実施例で使用した両親媒性ブロック共重合体及びカルボキシル末端にアルカリ金属イオンが結合したポリ乳酸塩又はその誘導体は、国際公開第03/033592号に開示された方法により製造され、その全内容は本明細書の参照として援用される。
【0077】
実施例1、2、及び比較例2:ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキの製造
両親媒性ブロック共重合体として、数平均分子量が2,000〜1,766ダルトンのモノメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチドを合成した。また数平均分子量1,800ダルトンのD,L−PLA−COONaを合成した。
【0078】
下記表1に示される量で、ポリ乳酸塩にジクロロメタン3.0mLを加え、40℃で透明な溶液になるまで撹拌した。真空ポンプが連結された回転式減圧蒸留器を用いて、約3時間、ジクロロメタンを減圧下蒸留して除去し、白色の泡沫固体を生成させた。これとは別に、両親媒性ブロック共重合体に60℃の水を加えて、ポリマー塊が完全に溶解するまで撹拌し、その後に室温まで冷却した。室温の両親媒性ブロック共重合体溶液を上記白色の泡沫固体に加え、約35℃の温度に保持しながら溶液が青色に透明になるまでミセル化を行った。ここに塩化カルシウムを加えてポリマーナノ粒子を形成させた。ポリマーナノ粒子の溶液に、凍結乾燥化剤としてD−マンニトールを加えて完全に溶解させた後、孔径200nmのフィルターでろ過し、以下の凍結乾燥条件で凍結乾燥して、ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキを製造した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
比較例1:アニーリング工程なしのポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキの製造
アニーリング工程と第2凍結工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。即ち下記の表4の凍結条件で行った。
【0083】
【表4】
【0084】
実験例1:凍結条件がポリマーナノ粒子ケーキの再構成時間に及ぼす影響
実施例1と比較例1でそれぞれ得られたポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキを下記方法で再構成し、再構成時間を測定した。
【0085】
再構成方法
約20℃の注射用蒸留水36mLを、凍結乾燥ケーキ4,788mgが入っているバイアルに入れ、1分間手で激しく振った後、バイアル中の全ての固形成分が溶解するまで手で軽く振った。再構成時間を確認した。測定結果を
図1に示す。
【0086】
図1の再構成時間の測定結果から分かるように、第1凍結後、融点以下の温度範囲内で昇温し、一定時間保持するアニーリング工程を経て、再び第2凍結を行った凍結条件の場合(実施例1:3.7分)は、直ちに温度を低くして凍結だけさせた場合(比較例1:5.9分)の再構成時間より有意に短かった。
【0087】
実験例2:凍結乾燥用の原液濃度がポリマーナノ粒子ケーキの再構成時間に及ぼす影響
実施例1、2、及び比較例2でそれぞれ得られたポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキを実験例1と同じ方法で再構成し、再構成時間を測定した。測定結果を
図2に示す。
【0088】
図2の再構成時間の測定結果から分かるように、凍結乾燥に使用した原液の濃度が高くなると、再構成時間が長くなる傾向を示した。特に1.2mg/mL(ポリマー濃度で約120mg/mL)を超える場合、再構成時間が急激に長くなる傾向を示した。
【0089】
実験例3:再構成時のバイアル内の真空度がポリマーナノ粒子ケーキの再構成時間に及ぼす影響
実施例1で得られたポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキを実験例1と同様の方法で再構成し、再構成時バイアル内の真空度(真空状態:大気圧)を変えて再構成時間を測定した。測定結果を
図3に示す。
【0090】
図3の再構成時間の測定結果から分かるように、再構成時にバイアル内を真空状態に保持した状態で水を加えた場合、再構成時間が顕著に長くなっており、バイアル間の再構成時間のバラツキも非常に大きかった。
【0091】
実験例4:凍結条件がポリマーナノ粒子の凍結乾燥原液の崩壊温度に及ぼす影響
実施例1の組成のポリマーナノ粒子の凍結乾燥用原液を下記の表5の凍結条件下で凍結させた後、得られた凍結体の崩壊温度を凍結乾燥顕微鏡で測定した。
【0092】
【表5】
【0093】
表5の結果から分かるように、実施例1の組成のポリマーナノ粒子の凍結乾燥用原液をアニーリングを含む凍結工程を通じて凍結した場合の崩壊温度が、アニーリングを含まない単純凍結工程を通じて凍結した場合よりも高かった。従って、凍結時にアニーリングを行う場合は、より効率的な凍結乾燥ができることが確認された。
【0094】
実施例3:ドセタキセル含有ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキの製造
下記表6に示される使用量のドセタキセルとポリ乳酸塩にジクロロメタン3.0mLを加えて40℃で透明な溶液になるまで撹拌したことを除いて、実施例1と同様の工程を行った。
【0095】
【表6】
【0096】
得られたドセタキセル含有ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキ4,828mgが入っているバイアルに約20℃の注射用蒸留水36mLを添加し、1分間、手で激しく振った後、バイアル中の全ての固形成分が溶解するまで手で軽く振った。バイアル中の全ての固形成分が溶解するまでかかった再構成時間は4.2分であった。
【0097】
一方、得られたドセタキセル含有ポリマーナノ粒子の凍結乾燥物(ドセタキセル−PNP)の空隙率は90.0%(凍結乾燥原液のドセタキセル濃度で1.0mg/mL)であった。
【0098】
実施例3の凍結乾燥物を電子顕微鏡で50倍拡大して観察した結果を
図4に示す。
図4に示すように、本発明に係る凍結乾燥物は、無定形の大きな空隙を有することが分かった。比較のために、比較例1で得られた凍結乾燥物を電子顕微鏡で50倍拡大して観察した結果を
図5に示す。
図4、
図5、及び表7から分かるように、本発明により得られた凍結乾燥物は、通常の方法により得られた凍結乾燥物に比べて更に大きい空隙を有することを確認することができた。
【0099】
【表7】
【0100】
実施例4:パクリタキセル含有ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキの製造
下記表8に示した使用量のパクリタキセルとポリ乳酸塩にジクロロメタン3.0mLを加えて45℃で透明な溶液になるまで撹拌したことを除いて、実施例1と同様の工程を行った。
【0101】
【表8】
【0102】
得られたパクリタキセル含有ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキ3,574.5mgが入っているバイアルに約25℃の注射用蒸留水26.4mLを添加し、1分間、手で激しく振った後、バイアル中の全ての固形成分が溶解するまで手で軽く振った。バイアル中の全ての固形成分が溶解するまでかかった再構成時間は1.6分であった。
【0103】
実施例5:ボリコナゾール含有ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキの製造
下記表9に示した使用量のボリコナゾールとポリ乳酸塩にジクロロメタン3.0mLを加えて、40℃で透明な溶液になるまで撹拌したことを除いて、実施例1と同様の工程を行った。
【0104】
【表9】
【0105】
得られたボリコナゾール含有ポリマーナノ粒子の凍結乾燥ケーキ3,410mgが入っているバイアルに約25℃の注射用蒸留水36.0mLを添加し、1分間、手で激しく振った後、バイアル中の全ての固形成分が溶解するまで手で軽く振った。バイアル中の全ての固形成分が溶解するまでかかった再構成時間は2.9分であった。