特許第6487064号(P6487064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487064
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】フェイズドアレイアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/26 20060101AFI20190311BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20190311BHJP
   H04J 14/02 20060101ALI20190311BHJP
   H04B 10/25 20130101ALI20190311BHJP
【FI】
   H01Q3/26 Z
   H04B7/06 670
   H04J14/02
   H04B10/25
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-552296(P2017-552296)
(86)(22)【出願日】2016年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2016077009
(87)【国際公開番号】WO2017090301
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229843(P2015-229843)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】官 寧
【審査官】 新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−067802(JP,A)
【文献】 特開2014−096637(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0035183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/26
H04B 7/06
H04B 10/25
H04J 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n個(nは2以上の整数)の放射素子A1,A2,…,Anを備えたフェイズドアレイアンテナにおいて、
中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)と加算することによって、和信号VIF+LO(t)を生成する合波器と、
搬送光CLを和信号VIF+LO(t)で強度変調することによって、信号光SLを生成する光変調器と、
信号光SLに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する時間遅延器と、
遅延信号光SL’iを放射素子Aiに供給する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に変換する給電回路Fiからなる給電回路群と、を備え、
各給電回路Fi(i=1,2,…,n)は、
遅延信号光SL’iをO/E変換することによって、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を生成するO/E変換器と、
遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を分波することによって、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを生成する分波器と、
遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する混合器と、を有している、
ことを特徴とするフェイズドアレイアンテナ。
【請求項2】
n個(nは2以上の整数)の放射素子A1,A2,…,Anを備えたフェイズドアレイアンテナにおいて、
搬送光CLを中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)とで直角位相振幅変調することによって、信号光SLを生成する光変調器と、
信号光SLに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する時間遅延器と、
遅延信号光SL’iを放射素子Aiに供給する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に変換する給電回路Fiからなる給電回路群と、を備え、
各給電回路Fi(i=1,2,…,n)は、
遅延信号光SL’iを復調することによって、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを生成する光復調器と、
遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する混合器と、を有している、
ことを特徴とするフェイズドアレイアンテナ。
【請求項3】
搬送光CLiを生成する光源からなる光源群であって、各光源にて生成される搬送光CL1,CL2,…,CLnの波長が異なる光源群と、
搬送光CL1,CL2,…,CLnを合波することによって、搬送光CLを生成する合波器と、を更に備え、
前記時間遅延器は、
信号光SLに波長分散を与えることによって、遅延信号光SL’を生成する光導波路と、
遅延信号光SL’を波長分波することによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する波長分波器と、を有している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項4】
前記光源は、生成する搬送光CLiの波長が可変な光源である、
ことを特徴とする請求項3に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項5】
前記光導波路は、信号光SLに与える波長分散が可変な光導波路である、
ことを特徴とする請求項3に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項6】
搬送光CLを生成する光源を更に備え、
前記時間遅延器は、
信号光SLを分岐することによって、信号光SL1,SL2,…,SLnを生成する光分岐器と、
各信号光SLiに時間遅延Δtiを与えることによって、遅延光信号SL’iを生成する光導波路からなる光導波路群であって、各光導波路にて与えられる時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnの大きさが異なる光導波路群と、を有している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項7】
前記光源は、生成する搬送光CLの波長が可変な光源であり、
前記光導波路群は、波長分散の異なる光導波路により構成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項8】
前記光導波路群は、光路長が可変な光導波路からなる、
ことを特徴とする請求項6に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項9】
各給電回路Fiは、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する混合器に代えて、
遅延局所信号VLO(t−Δti)を逓倍することによって遅延局所信号VLOM(t−Δti)を生成する逓倍器と、
遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLOM(t−Δti)とを乗算することによって遅延無線周波数信号VRF(t−Δt)を生成する混合器と、を有している、
ことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項10】
各給電回路Fiは、
対応する放射素子Aiを用いて受信した無線周波数信号VRF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、中間周波数信号VIF’(t+Δti)を生成する混合器と、
中間周波数信号VIF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを加算することによって、和信号VIF+LO’(t+Δti)を生成する合波器と、
和信号VIF+LO’(t+Δti)で強度変調された信号光RSLiを生成する光変調器と、
前記時間遅延器を用いて信号光RSLiに時間遅延を与えることにより得られた遅延信号光RSL’iをO/E変換することによって、遅延和信号VIF+LO’(t)を生成するO/E変換器と、
遅延和信号VIF+LO’(t)を分波することによって、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを生成する分波器と、
遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF’(t)を生成する混合器と、とを更に有している、
ことを特徴とする請求項1に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【請求項11】
各給電回路Fiは、
対応する放射素子Aiを用いて受信した無線周波数信号VRF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、中間周波数信号VIF’(t+Δti)を生成する混合器と、
中間周波数信号VIF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とで直角位相振幅変調された信号光RSLiを生成する光変調器と、
前記時間遅延器を用いて信号光RSLiに時間遅延を与えることにより得られた遅延光信号RSL’iを復調することによって、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを生成する光復調器と、
遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF’(t)を生成する混合器と、とを更に有している、
ことを特徴とする請求項2に記載のフェイズドアレイアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェイズドアレイアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の大容量化を図るために、使用する周波数帯域の広帯域化及び高周波化が進んでいる。近年では、マイクロ波帯(0.3GHz以上30GHz以下)のみならず、ミリ波帯(30GHz以上300GHz以下)が無線通信に使用されるようになっている。なかでも、大気中での減衰が大きい60GHz帯は、データの漏洩が生じ難い帯域として注目されている。
【0003】
60GHz帯の無線通信に使用されるアンテナには、広帯域性の他に高利得性が求められる。60GHz帯は、上述したように、大気中での減衰が大きいからである。60GHz帯での使用に耐える高利特性を有するアンテナとしては、例えば、アレイアンテナが挙げられる。ここで、アレイアンテナとは、複数の放射素子をアレイ状又はマトリクス状に並べたアンテナのことを指す。
【0004】
アレイアンテナでは、各放射素子に供給する無線周波数信号(RF信号)の位相を制御することによって、放射する電磁波の主ビーム方向を変化させることが可能である。このようなビーム走査機能を有するアレイアンテナは、フェイズドアレイアンテナと呼ばれ、盛んに研究開発が進められている。
【0005】
従来のフェイズドアレイアンテナの典型的な構成を、図11に示す。このフェイズドアレイアンテナは、図11に示すように、(1)時間遅延素子TD1〜TD4を用いて無線周波数信号RFに時間遅延を与え、(2)遅延無線周波数信号RF’1〜RF’4を放射素子A1〜A4に供給するものである。
【0006】
しかしながら、図11に示すフェイズドアレイアンテナは、ミリ波帯の使用に適さない。なぜなら、時間遅延素子などの電気的な手段を用いて、ミリ波帯の無線周波数信号に対して高精度の時間遅延を与えることは困難だからである。
【0007】
このため、ミリ波帯を使用するフェイズドアレイアンテナにおいては、通常、波長分散ファイバなどの光学的な手段を用いて、無線周波数信号に対して高精度の時間遅延を与える構成が採用される。このようなフェイズドアレイアンテナを図12及び図13に示す。
【0008】
図12に示すフェイズドアレイアンテナ101は、光源LS1〜LS4と、光合波器OMPと、光変調器OMと、光導波路OWGと、波長分波器WDMと、O/E変換器OE1〜OE4と、放射素子A1〜A4とを備えている。光導波路OMGとしては、波長分散媒質により構成された光導波路が用いられる。このフェイズドアレイアンテナ101では、以下のようにして、異なる時間遅延Δt1〜Δt4が与えられた無線周波数信号RF’1〜RF’4を生成する。
【0009】
(1)波長の異なる搬送光CL1〜CL4を合波することによって、搬送光CLを生成する(光合波器OMP)。(2)搬送光CLを無線周波数信号RFで強度変調することによって、信号光SLを生成する(光変調器OM)。(3)信号光SLに波長分散ΔD(λ)を与えることによって、遅延信号光SL’を生成する(光導波路OMG)。(4)遅延信号光SL’を波長分波することよって、遅延信号光SL’1〜SL’4を生成する(波長分波器WDM)。(5)遅延信号光SL’1〜SL’4をO/E変換することによって、遅延無線周波数信号RF’1〜RF’4を生成する(O/E変換器OE1〜OE4)。
【0010】
図12に示すフェイズドアレイアンテナ101においては、搬送光CL1〜CL4の波長を変更することによって、無周波数信号RF’1〜RF’4に与える時間遅延Δt1〜Δt4を変化させ、これにより主ビーム方向を制御することができる(特許文献1参照)。或いは、信号光SLに与える波長分散ΔD(λ)を変更することによっても、無周波数信号RF’1〜RF’4に与える時間遅延Δt1〜Δt4を変化させ、これにより主ビーム方向を制御することができる(非特許文献1参照)。
【0011】
図13に示すフェイズドアレイアンテナ102は、光源LSと、光変調器OMと、光分岐器ODと、光導波路OWG1〜OWG4と、O/E変換器OE1〜OE4と、放射素子A1〜A4とを備えている。光導波路OWG1〜OWG4は、波長分散の異なる光導波路、又は、光路長の異なる光導波路により構成される。このフェイズドアレイアンテナ102では、以下のようにして、異なる時間遅延Δt1〜Δt4が与えられた無線周波数信号RF’1〜RF’4を生成する。
【0012】
(1)搬送光CLを無線周波数信号RFにて強度変調することによって、信号光SLを生成する(光変調器OM)。(2)信号光SLを分岐することによって、信号光SL1〜SL4を生成する(光分岐器OD)。(3)信号光SL1〜SL4に時間遅延Δt1〜Δt4を与えることによって、遅延信号光SL’1〜SL’4を生成する(OWG1〜OWG4)。(4)遅延信号光SL’1〜SL’4をO/E変換することによって、遅延無線周波数信号RF’1〜RF’4を生成する(O/E変換器E1〜OE4)。
【0013】
光導波路OWG1〜OWG4が波長分散の異なる光導波路により構成されている場合、搬送光CLの波長を変更することによって、無周波数信号RF’1〜RF’4に与える時間遅延Δt1〜Δt4を変化させ、これにより主ビーム方向を制御することができる(特許文献2参照)。一方、光導波路OWG1〜OWG4が光路長の異なる光導波路により構成されている場合、光導波路OWG1〜OWG4の光路長を変更することによって、無周波数信号RF’1〜RF’4に与える時間遅延Δt1〜Δt4を変化させ、これにより主ビーム方向を制御することができる(非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2007−165956号」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2004−23400号」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2001−85925号」
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Dennis T. K. Tong and Ming C. Wu, 'A Novel Multiwavelength Optically Controlled Phased Array Antenna with a Programmable Dispersion Matrix', IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 8, NO.6, JUNE 1996
【非特許文献2】David A. Tulchinsky and Paul J. Matthews, 'Ultrawide-Band Fiber-Optics Control of a Millimeter-Wave Transmit Beamformer', IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND THECHNIQUES, VOL. 49, NO.7, JULY 2001
【非特許文献3】Timothy P. McKenna, Jeffery A. Nanzer and Thomas R. Clark Jr., 'Photonic Beamstreering of a Millimeter-Wave Array With 10-Gb/s Data Transmission' IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, Vol. 26, NO.14, JULY 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、図12図13に示した従来のフェイズドアレイアンテナ101〜102のように、光学的な手段を用いて無線周波数信号を遅延する場合、電子部品と比べて高価な光学部品を使用する必要があるため、コストの上昇が避けられない。特に、ミリ波帯での使用を想定すると、入手困難又は高価な光変調器やO/E変換器などを使用する必要があり、コストの大幅な上昇が見込まれる。
【0017】
本発明は、上記の課題に鑑みてされたものであり、その目的は、ミリ波帯での使用が可能でありながら従来よりも安価なフェイズドアレイアンテナを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェイズドアレイアンテナは、n個(nは2以上の整数)の放射素子A1,A2,…,Anを備えたフェイズドアレイアンテナにおいて、中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)と加算することによって、和信号VIF+LO(t)を生成する合波器と、搬送光CLを和信号VIF+LO(t)で強度変調することによって、信号光SLを生成する光変調器と、信号光SLに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する時間遅延器と、遅延信号光SL’iを放射素子Aiに供給する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に変換する給電回路Fiからなる給電回路群と、を備え、各給電回路Fi(i=1,2,…,n)は、遅延信号光SL’iをO/E変換することによって、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を生成するO/E変換器と、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を分波することによって、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを生成する分波器と、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する混合器と、を有している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ミリ波帯での使用が可能でありながら従来よりも安価なフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナの構成を示すブロック図である。
図2図1に示すフェイズドアレイアンテナの第1の具体例を示すブロック図である。
図3図1に示すフェイズドアレイアンテナの第2の具体例を示すブロック図である。
図4図1に示すフェイズドアレイアンテナの変形例を示すブロック図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナの構成を示すブロック図である。
図6図5に示すフェイズドアレイアンテナの第1の具体例を示すブロック図である。
図7図5に示すフェイズドアレイアンテナの第2の具体例を示すブロック図である。
図8図5に示すフェイズドアレイアンテナの変形例を示すブロック図である。
図9図1に示すフェイズドアレイアンテナのさらなる変形例を示すブロック図である。
図10図5に示すフェイズドアレイアンテナのさらなる変形例を示すブロック図である。
図11】従来のフェイズドアレイアンテナの構成を示すブロック図である。
図12】従来のフェイズドアレイアンテナの構成を示すブロック図である。
図13】従来のフェイズドアレイアンテナの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1の実施形態〕
(フェイズドアレイアンテナの構成)
本発明の第1の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナ1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、フェイズドアレイアンテナ1の構成を示すブロック図である。
【0022】
フェイズドアレイアンテナ1は、図1に示すように、合波器MPと、光変調器OMと、時間遅延器TDと、n個の給電回路F1,F2,…,Fnからなる給電回路群と、n個の放射素子A1,A2,…,Anからなる放射素子群と、を備えた送信用アンテナである。ここで、nは、2以上の任意の整数であるが、図1においては、n=4の場合の構成を例示している。
【0023】
合波器MPは、中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)と加算することによって、和信号VIF+LO(t)=VIF(t)+VLO(t)を生成する。中間周波数信号VIF(t)及び局所信号VLO(t)が(1)式及び(2)式のように与えられている場合、和信号VIF+LO(t)は、(3)式のように与えられる。合波器MPにて生成された和信号VIF+LO(t)は、データ信号として光変調器OMに供給される。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
光変調器OMは、搬送光CLを和信号VIF+LO(t)で強度変調することによって、信号光SLを生成する。光変調器OMにて生成された信号光SLは、時間遅延器TDに供給される。なお、本実施形態においては、光変調器OMとして、MZ変調器(Mach-Zehnder Modulator)を用いる。また、搬送光CLを生成する光源の構成については、参照する図面を代えて後述する。
【0027】
時間遅延器TDは、信号光SLに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する。すなわち、時間遅延器TDは、和信号VIF+LO(t)が重畳された光信号SLから、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)が重畳された遅延光信号SL’iを生成する。各遅延信号光SL’iにおける時間遅延Δtiは、後述するように、放射する電磁波の主ビーム方向に応じて設定される。時間遅延器TDにて生成された各遅延信号光SL’iは、対応する給電回路Fiに供給される。なお、時間遅延器TDの構成については、参照する図面を代えて後述する。
【0028】
給電回路Fi(i=1,2,…,n)は、遅延信号光SL’iを遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に変換する。給電回路Fiにて生成された遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)は、対応する放射素子Aiに供給される。
【0029】
各給電回路Fiは、図1に示すように、O/E変換器OEiと、分波器DPiと、混合器MXiと、を有している。なお、各給電回路Fiの構成は共通なので、図1においては、給電回路F1を構成するO/E変換器OE1、分波器DP1、及び混合器MX1にのみ参照符号を付している。
【0030】
O/E変換器OEiは、遅延信号光SL’iをO/E変換(光電変換)することによって、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を生成する。O/E変換器OEiは、例えば、フォトダイオードである。和信号VIF+LO(t)が(3)式のように与えられている場合、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)は、(4)式のように与えられる。
【0031】
【数4】
分波器DPiは、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を分波することによって、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを生成する。遅延和信号VIF+LO(t−Δti)が(4)式のように与えられている場合、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)及び遅延局所信号VLO(t−Δti)は、(5)式及び(6)式のように与えられる。
【0032】
【数5】
【0033】
【数6】
混合器MXiは、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する。遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)及び遅延局所信号VLO(t−Δti)が(5)式及び(6)式以下のように与えられている場合、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)は、(7)式のように与えられる。
【0034】
【数7】
各遅延信号光SL’iにおける時間遅延Δtiは、従来のフェイズドアレイアンテナと同様に設定すればよい。例えば、放射素子A1,A2,…,Anが同一直線上にこの順で並んでいる場合、各遅延信号光SL’iにおける時間遅延Δtiは、放射する電磁波の主ビーム方向に応じて、(8)式に従って設定すればよい。(8)式において、cは、光速を表し、diは、放射素子A1と放射素子Aiとの間隔を表す。また、θは、放射素子A1,A2,…,Anが並んでいる直線と放射する電磁波の等位相面との成す角である。
【0035】
【数8】
例えば、60GHz帯(57GHz以上66GHz以下)の電磁波を放射する場合、隣接する放射素子間の距離は、例えば、中心周波数61.5GHzに対応する自由空間波長の1/2、すなわち、2.44mmに設定すればよい。すなわち、放射素子A1と放射素子Aiとの間隔diは、2.44×(i−1)mmに設定すればよい。このとき、放射素子A1,A2,…,Anが並んでいる直線と放射される電磁波の等位相面との成す角θが45°になるように放射方向を傾けるためには、各遅延信号光SL’iにおける時間遅延Δtiを5.7×(i−1)psに設定すればよい。
【0036】
一方、70GHz帯(71GHz以上76GHz以下)の電磁波を放射する場合、隣接する放射素子間の距離は、例えば、中心周波数73.5GHzに対応する自由空間波長の1/2、すなわち、2.04mmに設定すればよい。すなわち、放射素子A1と放射素子Aiとの間隔diは、2.04×(i−1)mmに設定すればよい。このとき、放射素子A1,A2,…,Anが並んでいる直線と放射される電磁波の等位相面との成す角θが45°になるように放射方向を傾けるためには、各遅延信号光SL’iにおける時間遅延Δtiを4.8×(i−1)psに設定すればよい。
【0037】
フェイズドアレイアンテナ1において注目すべき第1の点は、各放射素子Aiに入力される遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)の時間遅延量が周波数に依存しない点である。したがって、フェイズドアレイアンテナ1においては、放射する電磁波の周波数が変更されても、信号光SLに与える時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを変更することなく、一定の方向に電磁波を放射することができる。
【0038】
フェイズドアレイアンテナ1において注目すべき第2の点は、光変調器OMにて変調されるデータ信号が、無線周波数信号よりも周波数の低い、中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)との和信号VIF+LO(t)である点である。これにより、フェイズドアレイアンテナ1をミリ波帯で動作させる(無線周波数が30GHz以上300GHz以下となる)場合であっても、入手容易又は安価な光変調器を用いてフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0039】
なお、各給電回路Fiにおいて分波器DPiと混合器MXiとの間に、遅延局所信号VLO(t−Δti)を逓倍する逓倍器を挿入してもよい。この場合、混合器MXiに入力される遅延局所信号VLOM(t−Δti)は、(9)式のようになり、混合器MXiにより生成される遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)は、(10)式のようになる。ここで、kは、2以上の任意の整数であり、例えば、2又は3である。この場合であっても、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)の時間遅延量は、周波数に依存しない。
【0040】
【数9】
【0041】
【数10】
(フェイズドアレイアンテナの第1の具体例)
次に、フェイズドアレイアンテナ1の第1の具体例について、図2を参照して説明する。図2は、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1の構成を示すブロック図である。
【0042】
本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1は、上述した搬送光CLを生成するための構成として、n個の光源LS1,LS2,…,LSnからなる光源群と、光合波器OMPと、を備えている。
【0043】
光源LSi(i=1,2,…,n)は、搬送光CLiを生成する。光源LS1〜LSnにて生成される搬送光CL1,CL2,…,Cnの波長λ1,λ2,…,λnは、互いに異なっている。各光源LSiにて生成された搬送光CLiは、光合波器OMPに供給される。なお、本具体例においては、光源LSiとして、半導体レーザ素子を用いる。
【0044】
光合波器OMPは、搬送光CL1,CL2,…,CLnを合波することによって、搬送光CLを生成する。搬送光CLには、波長λ1,λ2,…,λnを有する搬送光CL1,CL2,…,CLnが成分として含まれる。光合波器OMPにて生成された搬送光CLは、上述した光変調器OMに供給される。
【0045】
また、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1において、時間遅延器TDは、光導波路OWGと、波長分波器WDMと、により構成されている。
【0046】
光導波路OWGは、波長分散媒質により構成された光導波路であり、信号光SLに波長分散(波長λに依存した時間遅延)ΔD(λ)を与えることによって、遅延信号光SL’を生成する。信号光SLには、波長の異なる信号光SL1,SL2,…,SLnが成分として含まれ、遅延信号光SL’には、波長及び位相の異なる遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nが成分として含まれる。信号光SLに与える波長分散ΔD(λ)は、放射する電磁波の主ビーム方向に応じた時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを各信号光SL’1,SL’2,…,SL’nに与えられるよう、十分な大きさに設定される。光導波路OWGにて生成された遅延信号光SL’は、波長分波器WDMに供給される。なお、本具体例においては、光導波路OWGとして、シングルモードファイバを用いる。
【0047】
波長分波器WDMは、遅延信号光SL’を波長分波することによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成(抽出)する。波長分波器WDMにて生成された各遅延信号光SL’iは、上述した給電回路Fiに供給される。
【0048】
なお、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1においては、以下のいずれかの構成によりビーム走査を実現することができる。
【0049】
<構成1>
本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1においては、各搬送光CLiの波長λiを変化させることによって、対応する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。光導波路OWGとして、波長分散媒質により構成された光導波路を用いているからである。
【0050】
したがって、生成する搬送光CLiの波長λiが可変な光源を光源LSiとして用い、各光源LSiが生成する搬送光CLiの波長λiを、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0051】
<構成2>
また、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1においては、信号光SLに与えられる波長分散ΔD(λ)を変化させることによっても、各遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。
【0052】
したがって、信号光SLに与えられる波長分散ΔD(λ)が可変な光導波路を光導波路OWGとして用い、光導波路OWGが信号光SLに与える波長分散ΔD(λ)を、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0053】
なお、60GHz帯においてビーム走査が可能なフェイズドアレイアンテナ1を実現するためには、例えば、放射素子A1,A2,…,Anを2.4mm間隔で同一直線上に並べ、中間周波数信号VIF(t)の周波数fIFを22GHz以上31GHz以下に設定し、局所信号VLO(t)の周波数fLOを35GHzに設定すればよい。また、70GHz帯においてビーム走査が可能なフェイズドアレイアンテナを実現するためには、例えば、放射素子A1,A2,…,Anを2.1mm間隔で同一直線上に並べ、中間周波数信号VIF(t)の周波数fIFを31GHz以上36GHz以下に設定し、局所信号VLO(t)の周波数fLOを40GHzに設定すればよい。データ信号の周波数が40GHz以下であれば、本願出願時点で市場に広く流通しているMZ変調器を光変調器OMとして利用することができるからである。
【0054】
(フェイズドアレイアンテナの第2の具体例)
次に、フェイズドアレイアンテナ1の第2の具体例について、図3を参照して説明する。図3は、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1の構成を示すブロック図である。
【0055】
本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1は、上述した搬送光CLを生成するための構成として、単一の光源LSを備えている。
【0056】
光源LSは、搬送光CLを生成する。光源LSにて生成された搬送光CLは、上述した光変調器OMに供給される。なお、本具体例においては、光源LSとして、半導体レーザ素子を用いる。
【0057】
また、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ1において、時間遅延器TDは、光分岐器ODと、n個の光導波路OWGiからなる光導波路群と、により構成されている。光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnは、波長分散の異なる光導波路、又は、光路長の可変な光導波路である。なお、波長分散の異なる光導波路としては、例えば、シングルモードファイバと分散補償ファイバとの組み合わせや分散シフトファイバなどが挙げられる。
【0058】
光分岐器ODは、信号光SLを分岐することによって、信号光SL1,SL2,…,SLnを生成する。光分岐器ODにより生成された各信号光SLiは、対応する光導波路OWGiに供給される。
【0059】
光導波路OWGiは、信号光SLiに時間遅延Δtiを与えることによって、遅延光信号SL’iを生成する。光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnにて与えられる時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnの大きさは、放射する電磁波の主ビーム方向に応じて設定される。各光導波路OWGiにて生成された遅延信号光SL’iは、対応する給電回路Fiに供給される。なお、本具体例においては、光導波路OWGiとして、時間遅延Δtiに応じた光路長を有する光ファイバを用いる。
【0060】
なお、本具体例に係るフェイズドアレイにアンテナ1においては、以下のいずれかの構成によりビーム走査を実現することができる。
【0061】
<構成1>
光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnが波長分散の異なる光導波路(異なる波長分散値を持つ波長分散媒質により構成された光導波路)である場合、搬送光CLの波長λを変化させることによって、各遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。
【0062】
したがって、この場合、生成する搬送光CLの波長λが可変な光源を光源LSとして用い、光源LSが生成する搬送光CLの波長λを、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0063】
<構成2>
一方、光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnが光路長の可変な光導波路である場合、各光導波路OWGiの光路長を変化させることによって、対応する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。
【0064】
したがって、この場合、光路長が可変な光導波路を光導波路OWGiとして用い、各光導波路OWGiの光路長を、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0065】
(フェイズドアレイアンテナの変形例)
次に、フェイズドアレイアンテナ1の変形例について、図4を参照して説明する。図4は、本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ1の構成を示すブロック図である。
【0066】
本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ1は、図1に示したフェイズドアレイアンテナ1に受信用の構成を付加した送受信兼用アンテナである。
【0067】
図4に示すように、本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ1の各給電回路Fiは、受信用の構成として、混合器RMX1iと、合波器RMPiと、光変調器ROMiと、O/E変換器ROEiと、分波器RDPiと、混合器RMX2iとを有しており、送受信兼用化のための構成として、サーキュレータC1iと、サーキュレータC2iとを有している。また、フェイズドアレイアンテナ1は、送受信兼用化のための構成として、サーキュレータC3と、波長分波器RWDMとを有している。
【0068】
混合器RMX1iは、無線周波数信号VRF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、中間周波数信号VIF’(t+Δti)を生成する。ここで、無線周波数信号VRF’(t+Δti)は、対応する放射素子Aiを用いて受信した無線周波数信号である。無線周波数信号VRF’(t)は、(11)式のように表され、遅延局所信号VLO(t−Δti)は、(6)式のように表されるので、中間周波数信号VIF’(t+Δti)は、(12)式のように表される。
【0069】
【数11】
【0070】
【数12】
合波器RMPiは、中間周波数信号VIF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを加算することによって、和信号VIF+LO’(t+Δti)を生成する。中間周波数信号VIF’(t+Δti)が(12)式のように表され、遅延局所信号VLO(t−Δti)が(6)式のように表されるので、和信号VIF+LO’(t+Δti)は、(13)式のように表される。
【0071】
【数13】
光変調器ROMiは、搬送光CLiを和信号VIF+LO’(t+Δti)で強度変調することによって、信号光RSLiを生成する。光変調器ROMiにて生成された信号光RSLiは、時間遅延器TDに供給される。なお、図2に示す第1の具体例の構成を採用する場合には、各光変調器ROMiに与える搬送光CLiとして、対応する光源LSiにて生成されて搬送光を用い、図3に示す第2の具体例の構成を採用する場合には、各光変調器ROMiに与える搬送光CLiとして、単一の光源LSにて生成された搬送光を用いる。
【0072】
時間遅延器TDは、信号光RSL1,RSL2,…,RSLnから遅延信号光RSL’を生成する。図2に示す第1の具体例の構成を採用する場合、時間遅延器TDは、(1)信号光RSL1,RSL2,…,RSLnを合波することによって、信号光RSLを生成し、(2)信号光RSLに波長分散ΔD(λ)を与えることによって、遅延信号光RSL’を生成する。一方、図3に示す第2の具体例の構成を採用する場合、時間遅延器TDは、(1)信号光RSL1,RSL2,…,RSLn毎に時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光RSL’1,RSL’2,…,RSL’nを生成し、(2)遅延信号光RSL’1,RSL’2,…,RSL’nを合波することよって、遅延信号光RSL’を生成する。時間遅延器TDにて生成された遅延信号光RSL’は、波長分波器RWDMに供給される。
【0073】
波長分波器RWDMは、遅延信号光RLS’を波長分波することによって、遅延信号光RSL’1,RSL’2,…,RSL’nを生成(抽出)する。波長分波器RWDMにて得られた各遅延信号光RSL’iは、対応する給電回路FiのO/E変換器ROEiに供給される。
【0074】
O/E変換器ROEiは、遅延信号光RSL’iをO/E変換することによって、遅延和信号VIF+LO’(t)を生成する。和信号VIF+LO’(t+Δti)が(13)式のように表されるので、遅延和信号VIF+LO’(t)は、(14)式のように表される。
【0075】
【数14】
分波器RDPiは、遅延和信号VIF+LO’(t)を分波することによって、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t−2Δti)とを生成する。遅延和信号VIF+LO’(t)が(14)式のように表されるので、遅延中間周波数信号VIF’(t)及び局所信号VLO’(t−2Δti)は、(15)式及び(16)式のように表される。
【0076】
【数15】
【0077】
【数16】
混合器RMX2iは、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t−2Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF’(t)を生成する。遅延中間周波数信号VIF’(t)及び局所信号VLO’(t−2Δti)が(15)式及び(16)式のように表されるので、遅延中間周波数信号VIF’(t)は、(17)式のように表される。混合器RMX2iにて生成された遅延無線周波数信号VRF’(t)は、他の給電回路Fjにて生成された遅延無線周波数信号VRF’(t)と合波された後、受信回路Rに供給される。
【0078】
【数17】
サーキュレータC1iは、混合器MXiと放射素子Aiとの間に挿入され、混合器RMX1iに接続されている。このサーキュレータC1iは、混合器MXiから出力された遅延無線周波数信号VRF(t-Δti)を放射素子Aiに入力する(送信時動作)と共に、放射素子Aiから出力された無線周波数信号VRF’(t+Δti)を混合器RMX1iに入力する(受信時動作)。
【0079】
サーキュレータC2iは、時間遅延器TDとO/E変換器OEiとの間に挿入され、光変調器ROMiに接続されている。このサーキュレータC2iは、時間遅延器TDから出力された遅延信号光SL’iをO/E変換器OEiに入力する(送信時動作)と共に、光変調器ROMiにて生成された信号光RSLiを時間遅延器TDに入力する(受信時動作)。
【0080】
サーキュレータC3は、光変調器OMと時間遅延素子TDとの間に挿入され、波長分波器RWDMに接続されている。このサーキュレータC3は、光変調器OMにて生成された信号光SLを時間遅延器TDに入力する(送信時動作)と共に、時間遅延器TDから出力された遅延信号光RSL’を波長分波器RWDMに入力する(受信時動作)。
【0081】
〔第2の実施形態〕
(フェイズドアレイアンテナの構成)
本発明の第2の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナ2の構成について、図5を参照して説明する。図5は、フェイズドアレイアンテナ2の構成を示すブロック図である。
【0082】
フェイズドアレイアンテナ2は、図1に示すように、光変調器OMと、時間遅延器TDと、n個の給電回路F1,F2,…,Fnからなる給電回路群と、n個の放射素子A1,A2,…,Anからなる放射素子群と、を備えた送信用アンテナである。ここで、nは、2以上の任意の整数であるが、図1においては、n=4の場合の構成を例示している。
【0083】
光変調器OMは、搬送光CLを中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)とで直角位相振幅変調することによって、信号光SLを生成する。中間周波数信号VIF(t)及び局所信号VLO(t)は、例えば、(18)式及び(19)式のように与えられる。光変調器OMにて生成された信号光SLは、時間遅延器TDに供給される。なお、本実施形態においては、光変調器OMとして、DPMZ変調器(Dual-Parallel Mach-Zehnder Modulator)を用いる。また、搬送光CLを生成する光源の構成については、参照する図面を代えて後述する。
【0084】
【数18】
【0085】
【数19】
時間遅延器TDは、信号光SLに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する。すなわち、時間遅延器TDは、中間周波数信号VIF(t)及び局所信号VLO(t)がI信号及びQ信号として重畳された光信号SLから、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)及び遅延局所信号VLO(t−Δti)がI信号及びQ信号として重畳された遅延光信号SL’iを生成する。各遅延信号光SL’iにおける時間遅延Δtiは、第1の実施形態と同様、放射する電磁波の主ビーム方向に応じて設定される。時間遅延器TDにて生成された各遅延信号光SL’iは、対応する給電回路Fiに供給される。なお、時間遅延器TDの構成については、参照する図面を代えて後述する。
【0086】
給電回路Fi(i=1,2,…,n)は、遅延信号光SL’iを遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に変換する。給電回路Fiにて生成された遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)は、対応する放射素子Aiに供給される。
【0087】
各給電回路Fiは、図5に示すように、光復調器ODMiと、混合器MXiと、を有している。なお、各給電回路Fiの構成は共通なので、図1においては、給電回路F1を構成する光復調器ODM1及び混合器MX1にのみ参照符号を付している。
【0088】
光復調器ODMiは、遅延信号光SL’iを復調することによって、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを生成する。中間周波数信号VIF(t)及び局所信号VLO(t)が(18)式及び(19)式のように与えられている場合、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)及び遅延局所信号VLO(t−Δti)は、(20)式及び(21)式のように与えられる。本実施形態においては、光復調器ODMiとして、コヒーレントレシーバを用いる。
【0089】
【数20】
【0090】
【数21】
混合器MXiは、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する。遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)及び遅延局所信号VLO(t−Δti)が(20)式及び(21)式以下のように与えられている場合、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)は、(22)式のように与えられる。
【0091】
【数22】
フェイズドアレイアンテナ2において注目すべき第1の点は、各放射素子Aiに入力される遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)の時間遅延量が周波数に依存しない点である。したがって、フェイズドアレイアンテナ2においては、放射する電磁波の周波数が変更されても、信号光SLに与える時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを変更することなく、一定の方向に電磁波を放射することができる。
【0092】
フェイズドアレイアンテナにおいて注目すべき第2の点は、光変調器OMにて変調されるデータ信号が、無線周波数信号よりも周波数の低い、中間周波数信号VIF(t)及び局所信号VLO(t)である点である。これにより、フェイズドアレイアンテナをミリ波帯で動作させる(無線周波数が30GHz以上300GHz以下となる)場合であっても、入手容易又は安価な光変調器を用いてフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0093】
なお、各給電回路Fiにおいて分波器DPiと混合器MXiとの間に、遅延局所信号VLO(t−Δti)を逓倍する逓倍器を挿入してもよい。この場合、混合器MXiに入力される遅延局所信号VLOM(t−Δti)は、(23)式のようになり、混合器MXiにより生成される遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)は、(24)式のようになる。ここで、kは、2以上の任意の整数であり、例えば、2又は3である。この場合であっても、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)の時間遅延量は、周波数に依存しない。
【0094】
【数23】
【0095】
【数24】
(フェイズドアレイアンテナの第1の具体例)
次に、フェイズドアレイアンテナ2の第1の具体例について、図6を参照して説明する。図6は、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナの構成を示すブロック図である。
【0096】
本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ2は、上述した搬送光CLを生成するための構成として、n個の光源LS1,LS2,…,LSnからなる光源群と、光合波器OMPと、を備えている。
【0097】
光源LSi(i=1,2,…,n)は、搬送光CLiを生成する。光源LS1〜LSnにて生成される搬送光CL1,CL2,…,Cnの波長λ1,λ2,…,λnは、互いに異なっている。各光源LSiにて生成された搬送光CLiは、光合波器OMPに供給される。なお、本具体例においては、光源LSiとして、半導体レーザ素子を用いる。
【0098】
光合波器OMPは、搬送光CL1,CL2,…,CLnを合波することによって、搬送光CLを生成する。搬送光CLには、波長λ1,λ2,…,λnを有する搬送光CL1,CL2,…,CLnが成分として含まれる。光合波器OMPにて生成された搬送光CLは、上述した光変調器OMに供給される。
【0099】
また、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ2において、時間遅延器TDは、光導波路OWGと、波長分波器WDMと、により構成されている。
【0100】
光導波路OWGは、波長分散媒質により構成された光導波路であり、信号光SLに波長分散(波長λに依存した時間遅延)ΔD(λ)を与えることによって、遅延信号光SL’を生成する。信号光SLには、波長の異なる信号光SL1,SL2,…,SLnが成分として含まれ、遅延信号光SL’には、波長及び位相の異なる遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nが成分として含まれる。信号光SLに与える波長分散ΔD(λ)は、放射する電磁波の主ビーム方向に応じた時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを各信号光SL’1,SL’2,…,SL’nに与えられるよう、十分な大きさに設定される。光導波路OWGにて生成された遅延信号光SL’は、波長分波器WDMに供給される。なお、本具体例においては、光導波路OWGとして、シングルモードファイバを用いる。
【0101】
波長分波器WDMは、遅延信号光SL’を波長分波することによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成(抽出)する。波長分波器WDMにて生成された各遅延信号光SL’iは、上述した給電回路Fiに供給される。
【0102】
なお、本具体例に係るフェイズドアレイにアンテナ2においては、以下のいずれかの構成によりビーム走査を実現することができる。
【0103】
<構成1>
本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ2においては、各搬送光CLiの波長λiを変化させることによって、対応する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。光導波路OWGとして、波長分散媒質により構成された光導波路を用いているからである。
【0104】
したがって、生成する搬送光CLiの波長λiが可変な光源を光源LSiとして用い、各光源LSiが生成する搬送光CLiの波長λiを、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0105】
<構成2>
また、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ2においては、信号光SLに与えられる波長分散ΔD(λ)を変化させることによっても、各遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。
【0106】
したがって、信号光SLに与えられる波長分散ΔD(λ)が可変な光導波路を光導波路OWGとして用い、光導波路OWGが信号光SLに与える波長分散ΔD(λ)を、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0107】
(フェイズドアレイアンテナの第2の具体例)
次に、フェイズドアレイアンテナ2の第2の具体例について、図7を参照して説明する。図7は、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ2の構成を示すブロック図である。
【0108】
本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ2は、上述した搬送光CLを生成するための構成として、単一の光源LSを備えている。
【0109】
光源LSは、搬送光CLを生成する。光源LSにて生成された搬送光CLは、上述した光変調器OMに供給される。なお、本具体例においては、光源LSとして、半導体レーザ素子を用いる。
【0110】
また、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナにおいて、時間遅延器TDは、光分岐器ODと、n個の光導波路OWGiからなる光導波路群と、により構成されている。光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnは、波長分散の異なる光導波路、又は、光路長の可変な光導波路である。なお、波長分散の異なる光導波路としては、例えば、シングルモードファイバと分散補償ファイバとの組み合わせや分散シフトファイバなどが挙げられる。
【0111】
光分岐器ODは、信号光SLを分岐することによって、信号光SL1,SL2,…,SLnを生成する。光分岐器ODにより生成された各信号光SLiは、対応する光導波路OWGiに供給される。
【0112】
光導波路OWGiは、信号光SLiに時間遅延Δtiを与えることによって、遅延光信号SL’iを生成する。光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnにて与えられる時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnの大きさは、放射する電磁波の主ビーム方向に応じて設定される。各光導波路OWGiにて生成された遅延信号光SL’iは、対応する給電回路Fiに供給される。なお、本具体例においては、光導波路OWGiとして、時間遅延Δtiに応じた光路長を有する光ファイバを用いる。
【0113】
なお、本具体例に係るフェイズドアレイアンテナ2においては、以下のいずれかの構成によりビーム走査を実現することができる。
【0114】
<構成1>
光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnが波長分散の異なる光導波路(異なる波長分散値を持つ波長分散媒質により構成された光導波路)である場合、搬送光CLの波長λを変化させることによって、各遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。
【0115】
したがって、この場合、生成する搬送光CLの波長λが可変な光源を光源LSとして用い、光源LSが生成する搬送光CLの波長λを、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0116】
<構成2>
一方、光導波路OWG1,OWG2,…,OWGnが光路長の可変な光導波路である場合、各光導波路OWGiの光路長を変化させることによって、対応する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に与えられる遅延時間Δtiを変化させることができる。
【0117】
したがって、この場合、光路長が可変な光導波路を光導波路OWGiとして用い、各光導波路OWGiの光路長を、求める主ビーム方向に応じて制御する構成を採用すれば、ビーム走査を実現することができる。
【0118】
(フェイズドアレイアンテナの変形例)
次に、フェイズドアレイアンテナ2の変形例について、図8を参照して説明する。図8は、本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ2の構成を示すブロック図である。
【0119】
本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ2は、図5に示したフェイズドアレイアンテナ2に受信用の構成を付加した送受信兼用アンテナである。
【0120】
図8に示すように、本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ2の各給電回路Fiは、受信用の構成として、混合器RMX1iと、光変調器ROMiと、光復調器ROMDiと、混合器RMX2iとを有しており、送受信兼用化のための構成として、サーキュレータC1iと、サーキュレータC2iとを有している。また、フェイズドアレイアンテナは、送受信兼用化のための構成として、サーキュレータC3と、波長分波器RWDMとを有している。
【0121】
混合器RMX1iは、無線周波数信号VRF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、中間周波数信号VIF’(t+Δti)を生成する。ここで、無線周波数信号VRF’(t+Δti)は、対応する放射素子Aiを用いて受信した無線周波数信号である。無線周波数信号VRF’(t+Δti)は、(25)式のように表され、遅延局所信号VLO(t−Δti)は、(21)式のように表されるので、中間周波数信号VIF’(t+Δti)は、(26)式のように表される。
【0122】
【数25】
【0123】
【数26】
光変調器ROMiは、搬送光CLiを中間周波数信号VIF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とで直角位相振幅変調することによって、信号光RSLを生成する。光変調器ROMiにて生成された信号光RSLiは、時間遅延器TDに供給される。なお、本変形例においては、光変調器ROMiとして、DPMZ変調器を用いる。図6に示す第1の具体例の構成を採用する場合には、各光変調器ROMiに与える搬送光CLiとして、対応する光源LSiにて生成され搬送光を用い、図7に示す第2の具体例の構成を採用する場合には、各光変調器ROMiに与える搬送光CLiとして、単一の光源LSにて生成された搬送光を用いる。
【0124】
時間遅延器TDは、信号光RSL1,RSL2,…,RSLnから遅延信号光RSL’を生成する。図6に示す第1の具体例の構成を採用する場合、時間遅延器TDは、(1)信号光RSL1,RSL2,…,RSLnを合波することによって、信号光RSLを生成し、(2)信号光RSLに波長分散ΔD(λ)を与えることによって、遅延信号光RSL’を生成する。一方、図7に示す第2の具体例の構成を採用する場合、時間遅延器TDは、(1)信号光RSL1,RSL2,…,RSLnに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光RSL’1,RSL’2,…,RSL’nを生成し、(2)遅延信号光RSL’1,RSL’2,…,RSL’nを合波することよって、遅延信号光RSL’を生成する。時間遅延器TDにて生成された遅延信号光RSL’は、波長分波器RWDMに供給される。
【0125】
波長分波器RWDMは、遅延信号光RLS’を波長分波することによって、遅延信号光RSL’1,RSL’2,…,RSL’nを生成(抽出)する。波長分波器RWDMにて得られた各遅延信号光RSL’iは、対応する給電回路Fiの光復調器RODMiに供給される。
【0126】
光復調器RODMiは、遅延信号光RSL’iを復調することによって、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t−2Δti)とを生成する。中間周波数信号VIF’(t+Δti)及び遅延局所信号VLO(t−Δti)が(26)式及び(21)式のように表されるので、遅延中間周波数信号VIF’(t)及び局所信号VLO’(t−2Δti)は、(27)式及び(28)式のように表される。なお、本変形例においては、光復調器RODMiとして、コヒーレントレシーバを用いる。
【0127】
【数27】
【0128】
【数28】
混合器RMX2iは、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t−2Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF’(t)を生成する。遅延中間周波数信号VIF’(t)及び局所信号VLO’(t−2Δti)が(27)式及び(28)式のように表されるので、遅延無線周波数信号VRF’(t)は、(29)式のように表される。混合器RMX2にて生成された遅延無線周波数信号VRF’(t)は、他の給電回路Fjにて生成された遅延無線周波数信号VRF’(t)と合波された後、受信回路Rに供給される。
【0129】
【数29】
サーキュレータC1iは、混合器MXiと放射素子Aiとの間に挿入され、混合器RMX1iに接続されている。このサーキュレータC1iは、混合器MXiから出力された遅延無線周波数信号VRF(t-Δti)を放射素子Aiに入力する(送信時動作)と共に、放射素子Aiから出力された無線周波数信号VRF’(t+Δti)を混合器RMX1iに入力する(受信時動作)。
【0130】
サーキュレータC2iは、時間遅延器TDと光復調器ODMiとの間に挿入され、光変調器ROMiに接続されている。このサーキュレータC2iは、時間遅延器TDから出力された遅延信号光SL’iを光復調器ODMiに入力する(送信時動作)と共に、光変調器ROMiにて生成された信号光RSLiを時間遅延器TDに入力する(受信時動作)。
【0131】
サーキュレータC3は、光変調器OMと時間遅延素子TDとの間に挿入され、波長分波器RWDMに接続されている。このサーキュレータC3は、光変調器OMにて生成された信号光SLを時間遅延器TDに入力する(送信時動作)と共に、時間遅延器TDから出力された遅延信号光RSL’を波長分波器RWDMに入力する(受信時動作)。
【0132】
(第1の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナのさらなる変形例)
次に、第1の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナ1のさらなる変形例について、図9を参照して説明する。図9は、本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ9の構成を示すブロック図である。
【0133】
本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ9は、図4に示したフェイズドアレイアンテナ1と同様の送受信兼用アンテナである。
【0134】
図9に示すように、さらなる変形例に係るフェイズドアレイアンテナ9は、変形例に係るフェイズドアレイアンテナ1において、サーキュレータC1iをスイッチSiに置き換えたものである。
【0135】
送信時には、混合器MXiと放射素子Aiとが接続されるようにスイッチSiを制御して、混合器MXiから出力された遅延無線周波数信号VRF(t-Δti)を放射素子Aiに入力する。また、受信時には、放射素子Aiと混合器RMX1iとが接続されるようにスイッチSiを制御して、放射素子Aiから出力された無線周波数信号VRF’(t+Δti)を混合器RMX1iに入力する。
【0136】
(第2の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナのさらなる変形例)
次に、第2の実施形態に係るフェイズドアレイアンテナ2のさらなる変形例について、図10を参照して説明する。図10は、本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ10の構成を示すブロック図である。
【0137】
本変形例に係るフェイズドアレイアンテナ10は、図8に示したフェイズドアレイアンテナ2と同様の送受信兼用アンテナである。
【0138】
図10に示すように、さらなる変形例に係るフェイズドアレイアンテナ10は、変形例に係るフェイズドアレイアンテナ2において、サーキュレータC1iをスイッチSiに置き換えたものである。
【0139】
送信時には、混合器MXiと放射素子Aiとが接続されるようにスイッチSiを制御して、混合器MXiから出力された遅延無線周波数信号VRF(t-Δti)を放射素子Aiに入力する。また、受信時には、放射素子Aiと混合器RMX1iとが接続されるようにスイッチSiを制御して、放射素子Aiから出力された無線周波数信号VRF’(t+Δti)を混合器RMX1iに入力する。
【0140】
〔まとめ〕
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナは、n個(nは2以上の整数)の放射素子A1,A2,…,Anを備えたフェイズドアレイアンテナにおいて、中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)と加算することによって、和信号VIF+LO(t)を生成する合波器と、搬送光CLを和信号VIF+LO(t)で強度変調することによって、信号光SLを生成する光変調器と、信号光SLに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する時間遅延器と、遅延信号光SL’iを放射素子Aiに供給する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に変換する給電回路Fiからなる給電回路群と、を備え、各給電回路Fi(i=1,2,…,n)は、遅延信号光SL’iをO/E変換することによって、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を生成するO/E変換器と、遅延和信号VIF+LO(t−Δti)を分波することによって、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを生成する分波器と、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する混合器と、を有している、ことを特徴とする。
【0141】
上記の構成によれば、各放射素子Aiに供給される遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)の時間遅延が周波数に依存しなくなる。したがって、上記の構成によれば、放射する電磁波の周波数を変更しても、信号光SLに与える時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを変更することなく、一定の方向に電磁波を放射することができる。
【0142】
また、上記の構成によれば、光変調器にて変調されるデータ信号が、無線周波数信号VRF(t)よりも周波数の低い、中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)との和信号VIF+LO(t)になる。したがって、上記の構成によれば、ミリ波帯で動作させる(無線周波数が30GHz以上300GHz以下となる)場合であっても、入手容易又は安価なO/E変換器及び光変調器を用いてフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0143】
また、上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナは、n個(nは2以上の整数)の放射素子A1,A2,…,Anを備えたフェイズドアレイアンテナにおいて、搬送光CLを中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)とで直角位相振幅変調することによって、信号光SLを生成する光変調器と、信号光SLに時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを与えることによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する時間遅延器と、遅延信号光SL’iを放射素子Aiに供給する遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)に変換する給電回路Fiからなる給電回路群と、を備え、各給電回路Fi(i=1,2,…,n)は、遅延信号光SL’iを復調することによって、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを生成する光復調器と、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する混合器と、を有している、ことを特徴とする。
【0144】
上記の構成によれば、各放射素子Aiに供給される遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)の時間遅延が周波数に依存しなくなる。したがって、上記の構成によれば、放射する電磁波の周波数を変更しても、信号光SLに与える時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを変更することなく、一定の方向に電磁波を放射することができる。
【0145】
また、上記の構成によれば、光変調器にて変調されるデータ信号が、無線周波数信号VRF(t)よりも周波数の低い、中間周波数信号VIF(t)と局所信号VLO(t)との和信号VIF+LO(t)になる。したがって、上記の構成によれば、ミリ波帯で動作させる(無線周波数が30GHz以上300GHz以下となる)場合であっても、入手容易又は安価なO/E変換器及び光変調器を用いてフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0146】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいては、搬送光CLiを生成する光源からなる光源群であって、各光源にて生成される搬送光CL1,CL2,…,CLnの波長が異なる光源群と、搬送光CL1,CL2,…,CLnを合波することによって、搬送光CLを生成する合波器と、を更に備え、前記時間遅延器は、信号光SLに波長分散を与えることによって、遅延信号光SL’を生成する光導波路と、遅延信号光SL’を波長分波することによって、遅延信号光SL’1,SL’2,…,SL’nを生成する波長分波器と、を有している、ことが好ましい。

【0147】
上記の構成によれば、信号光SLを遅延させるための導波路がひとつで済む。したがって、より安価なフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0148】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいては、前記光源は、生成する搬送光CLiの波長が可変な光源である、ことが好ましい。
【0149】
上記の構成によれば、各光源が生成する搬送光CLiの波長を制御することによって、ビーム走査を実現することができる。
【0150】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいては、前記光導波路は、信号光SLに与える波長分散が可変な光導波路である、ことが好ましい。
【0151】
上記の構成によれば、光導波路が信号光に与える波長分散を制御することによって、ビーム走査を実現することができる。
【0152】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいては、搬送光CLを生成する光源を更に備え、前記時間遅延器は、信号光SLを分岐することによって、信号光SL1,SL2,…,SLnを生成する光分岐器と、各信号光SLiに時間遅延Δtiを与えることによって、遅延光信号SL’iを生成する光導波路からなる光導波路群であって、各光導波路にて与えられる時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnの大きさが異なる光導波路群と、を有している、ことが好ましい。
【0153】
上記の構成によれば、搬送光CLを生成するための光源がひとつで済む。したがって、より安価なフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0154】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいて、前記光源は、生成する搬送光CLの波長が可変な光源であり、前記光導波路群は、波長分散の異なる光導波路により構成されている、ことが好ましい。
【0155】
上記の構成によれば、光源が生成する搬送光CLの波長を制御することによって、ビーム走査を実現することができる。
【0156】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいて、前記光導波路群は、光路長が可変な光導波路からなる、ことが好ましい。
【0157】
上記の構成によれば、各光導波路が信号光に与える時間遅延Δtiを制御することによって、ビーム走査を実現することができる。
【0158】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいて、各給電回路Fiは、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)を生成する混合器に代えて、遅延局所信号VLO(t−Δti)を逓倍することによって遅延局所信号VLOM(t−Δti)を生成する逓倍器と、遅延中間周波数信号VIF(t−Δti)と遅延局所信号VLOM(t−Δti)とを乗算することによって遅延無線周波数信号VRF(t−Δt)を生成する混合器と、を有している、ことが好ましい。
【0159】
上記の構成を採用した場合であっても、各放射素子Aiに供給される遅延無線周波数信号VRF(t−Δti)の時間遅延が周波数に依存しなくなる。したがって、上記の構成を採用した場合であっても、放射する電磁波の周波数を変更しても、信号光SLに与える時間遅延Δt1,Δt2,…,Δtnを変更することなく、一定の方向に電磁波を放射することができる。
【0160】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいて、各給電回路Fiは、対応する放射素子Aiを用いて受信した無線周波数信号VRF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、中間周波数信号VIF’(t+Δti)を生成する混合器と、中間周波数信号VIF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを加算することによって、和信号VIF+LO’(t+Δti)を生成する合波器と、
和信号VIF+LO’(t+Δti)で強度変調された信号光RSLiを生成する光変調器と、前記時間遅延器を用いて信号光RSLiに時間遅延を与えることにより得られた遅延信号光RSL’iをO/E変換することによって、遅延和信号VIF+LO’(t)を生成するO/E変換器と、遅延和信号VIF+LO’(t)を分波することによって、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを生成する分波器と、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF’(t)を生成する混合器と、とを更に有している、ことが好ましい。
【0161】
上記の構成によれば、送受信兼用のフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0162】
上記実施形態に係るフェイズドアレイアンテナにおいて、各給電回路Fiは、対応する放射素子Aiを用いて受信した無線周波数信号VRF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とを乗算することによって、中間周波数信号VIF’(t+Δti)を生成する混合器と、中間周波数信号VIF’(t+Δti)と遅延局所信号VLO(t−Δti)とで直角位相振幅変調された信号光RSLiを生成する光変調器と、前記時間遅延器を用いて信号光RSLiに時間遅延を与えることにより得られた遅延光信号RSL’iを復調することによって、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを生成する光復調器と、遅延中間周波数信号VIF’(t)と局所信号VLO’(t)とを乗算することによって、遅延無線周波数信号VRF’(t)を生成する混合器と、とを更に有している、ことが好ましい。
【0163】
上記の構成によれば、送受信兼用のフェイズドアレイアンテナを実現することができる。
【0164】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態や各変形例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態または各変形例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0165】
1,2 フェイズドアレイアンテナ
MP 合波器
OM 光変調器
TD 時間遅延素器
Fi 給電回路
OEi O/E変換器
DPi 分波器
MXi 混合器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13