【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Aが、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gdの少なくとも一つから構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二次電池システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の二次電池システムについて、詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明におけるフッ化物イオン電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示されるフッ化物イオン電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。本発明においては、正極活物質層1が、特定の正極活物質を含有する。
【0016】
図2は、本発明の二次電池システムの一例を示す模式図である。
図2に示される二次電池システム20は、フッ化物イオン電池10と、フッ化物イオン電池10の充放電を制御する制御部11とを、少なくとも有する。制御部11は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)111と、PCU(Power Control Unit)112とを有する。ECU111は、外部からの要求X(例えば、充電要求または放電要求)と、フッ化物イオン電池10の電圧Vおよび電流Aとに基づいて、PCU112に充放電の指示(例えば、開始指示または停止指示)を行う。PCU112は、放電時には、負荷12に対して電力を供給し、充電時には、電源13から電力を受給する。本発明においては、制御部11は、正極活物質を過充電状態まで充電するように制御することを一つの特徴とする。
【0017】
本発明によれば、層状ペロブスカイト構造を有し、かつ、特定の結晶相を有する正極活物質を過充電状態まで充電するように制御することで、高電圧で動作する二次電池システムとすることができる。例えば、正極活物質としてCuF
2を用い、負極活物質としてCeを用いたフッ化物イオン電池は、2.7V程度で動作する。これに対して、例えば、後述する実施例においては、4V級の高電圧電池とすることができた。
【0018】
ここで、従来知られているフッ化物イオン電池用活物質の多くは金属活物質であり、金属のフッ化脱フッ化反応により活物質としての機能が発現する。
MeF
x+xe
− ⇔ Me+xF
−(Meは1種類以上の金属元素から構成される)
【0019】
これに対して、本発明者等は、これまでの研究で、A
n+1B
nO
3n+1で表される結晶相を有する活物質が、フッ化脱フッ化反応ではなく、挿入脱離反応(インターカレート反応)により活物質としての機能が発現するという知見を得た。インターカレート反応は、結晶構造の変化が少ない反応であるため、抵抗が低いという利点があり、結晶構造変化時の膨張収縮が小さいため、サイクル特性が高いという利点がある。
【0020】
A
n+1B
nO
3n+1(n=1、2)で表される結晶相は、結晶構造の空間を考慮すると、挿入可能なF
−の数(Intersititialサイトの数)は、最大で2であると推定される。具体的には、n=1に該当するA
2BO
4で表される結晶相の場合、A
2BO
4F
2(F/B=2)の組成までF
−を挿入可能であり、n=2に該当するA
3B
2O
7で表される結晶相の場合、A
3B
2O
7F
2(F/B=1)の組成まで、F
−を挿入可能であると推定される。
【0021】
本発明者等は、この活物質を正極活物質として用い、F/Bが2/nよりも大きくなる状態(過充電状態)まで充電すると、高電位の新たな電極反応が生じることを見い出した。この点について、
図3を用いて説明する。
図3(a)は、A
3B
2O
7で表される結晶相の一例である。このような結晶相を有する活物質を正極活物質として用い、充電(F
−の挿入)を行うと、
図3(b)に示すように、A
3B
2O
7F
2の組成まで、IntersititialサイトにF
−が挿入される。その後、さらに充電を行い、過充電状態になると、
図3(b)に示すように、一部のO元素(例えばApicalサイトのO元素)がF元素に置換されると推測される。その結果、高電位の新たな電極反応が生じると推測される。このように、正極活物質を過充電状態まで充電するように制御することで、高電圧で動作する二次電池システムを得ることができる。また、例えば、高電圧での動作に加えて通常の電位での動作を行うことで、容量を向上させることができる。すなわち、電池のエネルギー密度(電圧×容量)を飛躍的に向上させることができる。さらに、上述したように、A
n+1B
nO
3n+1で表される結晶相を有する活物質を用いることで、良好なサイクル特性を有する二次電池システムとすることができる。
以下、本発明の二次電池システムについて、構成ごとに説明する。
【0022】
1.フッ化物イオン電池
本発明におけるフッ化物イオン電池は、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有する。
【0023】
(1)正極活物質層
本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、導電化材および結着材の少なくとも一方をさらに含有していても良い。
【0024】
正極活物質層は、層状ペロブスカイト構造を有し、かつ、A
n+1B
nO
3n+1−αF
x(Aはアルカリ土類金属元素および希土類元素の少なくとも一方から構成され、Bは、Mn、Co、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Ni、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、W、Re、Bi、Sbの少なくとも一つから構成され、nは1または2であり、αは0≦α≦3.5を満たし、xは0≦x≦5.5を満たす)で表される結晶相を有する正極活物質を含有する。
【0025】
上記結晶相は、通常、Ruddlesden-Popper構造またはその類似構造の結晶相である。上記結晶相は、例えばX線回折測定(XRD測定)により同定することができる。また、後述するように、挿入脱離のしやすさは、結晶構造と相関しているため、層状ペロブスカイト構造を有し、かつ、特定の組成を有する結晶相を備える活物質であれば、結晶構造を構成する元素に依らず、高電圧で動作すると推測される。
【0026】
上記Aは、層状ペロブスカイト構造のAサイトに該当し、アルカリ土類金属元素および希土類元素の少なくとも一方から構成される。全てのAサイトに占めるアルカリ土類金属元素および希土類元素の合計の割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、上記Aは、アルカリ土類元素のみであっても良く、希土類元素のみであっても良く、アルカリ土類元素および希土類元素であっても良い。また、アルカリ土類元素は、1種類であっても良く、2種類以上であっても良い。同様に、希土類元素は、1種類であっても良く、2種類以上であっても良い。
【0027】
アルカリ土類金属元素としては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raを挙げることができる。一方、希土類元素としては、Sc、Y、Ln(Lnはランタノイド元素である)を挙げることができる。上記Aは、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gdの少なくとも一つであることが好ましい。また、上記Aは、少なくともSrを含有していても良い。また、上記Aは、SrおよびLaであっても良い。上記AにおけるSrの割合は、例えば、30mol%以上であっても良く、50mol%以上であっても良い。
【0028】
上記Bは、層状ペロブスカイト構造のBサイトに該当し、Mn、Co、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Ni、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、W、Re、Bi、Sbの少なくとも一つから構成される。なお、Mn、Co、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、V、Ni、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、W、Reは遷移金属元素に該当する。全てのBサイトに占める遷移金属元素の割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、上記Bは、遷移金属元素のみであっても良い。また、遷移金属元素は、1種類であっても良く、2種類以上であっても良い。また、上記Bは、Mn、Co、Cuの少なくとも一つであっても良い。
【0029】
上記結晶相において、nは1または2である。また、上記結晶相において、αは酸素欠損量であり、αは0≦α≦3.5を満たす。αは、0であっても良く、0よりも大きくても良い。また、αは、3以下であっても良く、2以下であっても良く、1以下であっても良い。また、上記結晶相において、xは0≦x≦5.5を満たす。xは、0であっても良く、0よりも大きくても良く、2.2よりも大きくても良い。また、xは、5以下であっても良く、4以下であっても良い。
【0030】
例えば、n=2の場合、上記結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=23.4°±0.5°、26.6°±0.5°、32.1°±0.5°、32.7°±0.5°、42.7°±0.5°、46.9°±0.5°、57.9°±0.5°の位置にピークを有していても良い。なお、これらのピーク位置は、後述するLa
1.2Sr
1.8Mn
2O
7の結果に基づくピーク位置であり、±0.5°の範囲を規定することで、La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7と類似する結晶相が規定される。また、上記ピーク位置の幅は、±0.3°であっても良く、±0.1°であっても良い。この点は、以下同様である。
【0031】
また、例えば、n=2の場合、上記結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=22.8°±0.5°、23.8°±0.5°、30.5°±0.5°、33.6°±0.5°、41.0°±0.5°、48.2°±0.5°、58.0°±0.5°の位置にピークを有していても良い。なお、これらのピーク位置は、後述するLa
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2の結果に基づくピーク位置であり、±0.5°の範囲を規定することで、La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2と類似する結晶相が規定される。
【0032】
正極活物質は、上記結晶相を主体として含有することが好ましい。具体的には、上記結晶相の割合が、その正極活物質に含まれる全ての結晶相に対して、50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましく、90mol%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
正極活物質の組成は、上記結晶相が得られる組成であれば特に限定されない。ここで、n=1の場合、上記結晶相は、A
2B
1O
4−αF
xで表される。この結晶相を含む正極活物質の組成をA
aB
bO
cF
dX
eと表現する。なお、Xは、A、B、O、F以外の元素とする。
【0034】
aは、例えば1.5以上であり、1.7以上であっても良く、1.9以上であっても良い。また、aは、例えば2.5以下であり、2.3以下であっても良く、2.1以下であっても良い。bは、例えば0.5以上であり、0.7以上であっても良く、0.9以上であっても良い。また、bは、例えば1.5以下であり、1.3以下であっても良く、1.1以下であっても良い。cは、例えば1.5以上であり、1.7以上であっても良く、1.9以上であっても良い。また、cは、例えば5以下であり、4.5以下であっても良い。
【0035】
dは、0であっても良く、0より大きくても良い。また、dは、例えば5.5以下である。eは、0であっても良く、0より大きくても良い。また、eは、例えば3以下であり、2以下であっても良く、1以下であっても良い。
【0036】
一方、n=2の場合、上述した結晶相は、A
3B
2O
7−αF
xで表される。この結晶相を含む正極活物質の組成をA
fB
gO
hF
iX
jとする。なお、Xは、A、B、O、F以外の元素とする。
【0037】
fは、例えば2.5以上であり、2.7以上であっても良く、2.9以上であっても良い。また、fは、例えば3.5以下であり、3.3以下であっても良く、3.1以下であっても良い。gは、例えば1.5以上であり、1.7以上であっても良く、1.9以上であっても良い。また、gは、例えば2.5以下であり、2.3以下であっても良く、2.1以下であっても良い。hは、例えば4.5以上であり、4.7以上であっても良く、4.9以上であっても良い。また、hは、例えば8以下であり、7.5以下であっても良い。
【0038】
iは、0であっても良く、0より大きくても良い。また、iは、例えば5.5以下である。jは、0であっても良く、0より大きくても良い。また、jは、例えば3以下であり、2以下であっても良く、1以下であっても良い。
【0039】
正極活物質の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状を挙げることができる。正極活物質の平均粒径(D
50)は、例えば、0.1μm〜50μmの範囲内であり、1μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。正極活物質の平均粒径(D
50)は、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。
【0040】
正極活物質を製造する方法は、目的とする正極活物質を得ることができる方法であれば特に限定されないが、例えば、固相反応法を挙げることができる。固相反応法では、A元素、B元素、O元素を含有する原料組成物に対して、熱処理を行うことで、固相反応を生じさせ、正極活物質を合成する。さらに、得られた正極活物質にフッ素化処理を行っても良い。
【0041】
一方、正極活物質層に用いられる導電化材としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。また、正極活物質層に用いられる結着材としては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材を挙げることができる。
【0042】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。また、正極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0043】
(2)負極活物質層
本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、負極活物質の他に、導電化材および結着材の少なくとも一方をさらに含有していても良い。
【0044】
本発明における負極活物質は、正極活物質よりも低い電位を有する任意の活物質が選択され得る。負極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、および、これらのフッ化物を挙げることができる。負極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、La、Ca、Al、Eu、Li、Si、Ge、Sn、In、V、Cd、Cr、Fe、Zn、Ga、Ti、Nb、Mn、Yb、Zr、Sm、Ce、Mg、Pb等を挙げることができる。中でも、負極活物質は、La、LaF
x、Ce、CeF
x、Mg、MgF
x、Ca、CaF
x、Al、AlF
xであることが好ましい。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。
【0045】
導電化材および結着材については、上述した「(1)正極活物質層」に記載した材料と同様の材料を用いることができる。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。また、負極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0046】
(3)電解質層
本発明における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。電解質層を構成する電解質は、液体電解質(電解液)であっても良く、固体電解質であっても良い。
【0047】
本発明における電解液は、例えば、フッ化物塩および有機溶媒を含有する。フッ化物塩としては、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、イオン液体等を挙げることができる。無機フッ化物塩の一例としては、例えば、XF(Xは、Li、Na、K、RbまたはCsである)を挙げることができる。有機フッ化物塩のカチオンの一例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン等のアルキルアンモニウムカチオンを挙げることができる。電解液におけるフッ化物塩の濃度は、例えば0.1mol%〜40mol%の範囲内であり、1mol%〜10mol%の範囲内であることが好ましい。
【0048】
電解液の有機溶媒は、通常、フッ化物塩を溶解する溶媒である。有機溶媒としては、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)等のグライム、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネート挙げることができる。また、有機溶媒として、イオン液体を用いても良い。
【0049】
一方、上記固体電解質としては、La、Ce等のランタノイド元素のフッ化物、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ元素のフッ化物、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類元素のフッ化物等を挙げることができる。具体的には、LaおよびBaのフッ化物(例えば、La
0.9Ba
0.1F
2.9)、PbおよびSnのフッ化物等を挙げることができる。
【0050】
また、本発明における電解質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではない。
【0051】
(4)その他の構成
本発明におけるフッ化物イオン電池は、上述した負極活物質層、正極活物質層および電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および、負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状等を挙げることができる。また、フッ化物イオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していても良い。より安全性の高い電池を得ることができるからである。
【0052】
(5)フッ化物イオン電池
本発明におけるフッ化物イオン電池は、通常、二次電池である。そのため、繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用である。また、フッ化物イオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
【0053】
2.制御部
本発明における制御部は、上記フッ化物イオン電池の充放電を制御する機能を有する。制御部としては、例えば
図2に示すように、ECU(Electronic Control Unit)111と、PCU(Power Control Unit)112とを有する制御部11を挙げることができる。ECUは、マイクロコントローラー(MCU)を有することが好ましい。また、PCUは、コンバータおよびインバーターを有することが好ましく、さらに冷却構造を有していても良い。
【0054】
特に、上記制御部は、上記正極活物質におけるF/Bの値が2/nよりも大きくなる過充電状態まで充電するように制御する。ここで、A
n+1B
nO
3n+1−αF
xで表される結晶相では、充放電によりFの数が増減する。具体的には、充電によりFの数は増加し、放電によりFの数は減少する。A
n+1B
nO
3n+1−α(n=1、2)で表される結晶相は、結晶構造の空間を考慮すると、挿入可能なF
−の数は、最大で2であると推定される。そのため、Bに対するFの割合(F/B)が2/nである場合を、通常の充電状態の上限と捉えることができ、F/Bの値が2/nよりも大きくなる状態を過充電状態と捉えることができる。本発明においては、F/Bの値が2/nよりも大きくなるように意図的に過充電を行うことで、高電圧で動作する二次電池システムを得ることができる。
【0055】
n=1の場合、F/Bの値が2.2よりも大きくなるまで充電しても良く、3.0以上になるまで充電しても良く、3.6以上になるまで充電しても良い。一方、n=2の場合、F/Bの値が1.1よりも大きくなるまで充電しても良く、1.5以上になるまで充電しても良く、1.8以上になるまで充電しても良い。
【0056】
上記制御部は、上記正極活物質におけるF/Bの値が2/nよりも小さくなるまで放電するように制御することが好ましい。過充電状態からの放電容量に加えて、通常状態からの放電容量(例えば、
図3(b)→
図3(a)での放電容量)を利用することで、高容量な二次電池システムを得ることができるからである。n=1の場合、F/Bの割合が1以下になるまで放電しても良く、0.6以下になるまで放電しても良く、0.2以下になるまで放電しても良い。一方、n=2の場合、F/Bの割合が0.5以下になるまで放電しても良く、0.3以下になるまで放電しても良く、0.1以下になるまで放電しても良い。
【0057】
また、正極活物質の電位をV
Cとし、F/B=2/nとなった状態の正極活物質の電位をV
αとする。例えば、
図2に示すECU111には、正極活物質の所定電位範囲としてV
min〜V
maxが記憶されている。放電によりV
CがV
minに至った時点で放電を停止し、充電によりV
CがV
maxに至った時点で充電を停止する。
【0058】
本発明においては、通常、V
α<V
maxとなるように設定される。すなわち、充電によりV
CがV
αよりも大きくなるまで充電を行う。これにより、高電圧で動作する二次電池システムを得ることができる。n=1、2のいずれの場合も、V
cが、3.5V(vs Pb/PbF
2)以上になるまで充電を行うことが好ましく、4V(vs Pb/PbF
2)以上になるまで充電を行うことがより好ましい。
【0059】
一方、本発明においては、V
min<V
αとなるように設定されることが好ましい。すなわち、放電によりV
CがV
αよりも小さくなるまで放電を行うことが好ましい。n=1、2のいずれの場合も、V
cが、−1.5V(vs Pb/PbF
2)以下になるまで放電を行うことが好ましく、−2V(vs Pb/PbF
2)以下になるまで放電を行うことがより好ましい。
【0060】
充電時における電流密度は、特に限定されないが、例えば、1μA/cm
2〜300μA/cm
2の範囲内であり、1μA/cm
2〜100μA/cm
2の範囲内であることが好ましい。
【0061】
3.二次電池システム
本発明の二次電池システムは、上述したフッ化物イオン電池および制御部を有する。また、初回の充放電を行う前(電池組立て時)のフッ化物イオン電池は、(i)負極活物質がF元素を含有し、正極活物質がF元素を含有しない態様、(ii)負極活物質および正極活物質がF元素を含有する態様、(iii)負極活物質がF元素を含有せず、正極活物質がF元素を含有する態様のいずれであっても良い。
【0062】
(i)の場合、例えば
図3(a)に示されるように、F元素を含有しない正極活物質を用いて、フッ化物イオン電池を作製する。この場合、通常は、負極活物質がF元素を含有しており、その後の充電により、
図3(b)の状態を経て、
図3(c)の状態に至ることが好ましい。
【0063】
(ii)の場合、例えば
図3(b)に示されるように、F元素を含有する正極活物質を用いて、フッ化物イオン電池を作製する。この場合、通常は、負極活物質がF元素を含有しており、その後の充電により、
図3(c)の状態に至ることが好ましい。
【0064】
(iii)の場合、例えば
図3(c)に示されるように、F元素を過剰に含有する正極活物質を用いて、フッ化物イオン電池を作製する。この場合、負極活物質はF元素を含有していないことが好ましい。その後の放電により、
図3(b)の状態を経て、
図3(a)の状態に至ることが好ましい。また、その後の充電により、
図3(b)の状態を経て、
図3(c)の状態に至ることが好ましい。
【0065】
また、上述したように、正極活物質におけるF/Bの値が2/nである場合を、通常の充電状態の上限と捉えることができる。この状態において、負極活物質がF元素を含有していることが好ましい。その後の過充電が生じやすいからである。n=1の場合、F/Bの値が2.2、3.0、3.6のいずれかの状態において、負極活物質がF元素を含有していることが好ましい。n=2の場合、F/Bの値が1.1、1.5、1.8のいずれかの状態において、負極活物質がF元素を含有していることが好ましい。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0068】
[実施例1]
(活物質の合成)
La
2O
3を1.9403g、SrCO
3を2.6372g、Mn
2O
3を1.5679g秤量し、これらをメノウ乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製ボートに投入し、管状炉を用いて1400℃で焼成を行った。焼成条件は、1400℃まで140分かけて昇温し、1400℃で20時間保持する条件とした。その後、室温まで放冷し、メノウ乳鉢にて粉砕混合した。粉砕混合した試料に対して、同じ条件で再び焼成を行った。その後、室温まで放冷し、メノウ乳鉢にて粉砕混合した。これにより、活物質(La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7)を得た。
【0069】
(活物質のフッ素化処理)
得られた活物質と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)とを、異なるボートに投入し、同じ炉内に設置した。その後、400℃まで40分かけて昇温し、12時間保持し、その後、自然冷却した。冷却後の試料をメノウ乳鉢にて粉砕混合した。これにより、フッ素を含有する活物質(La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2)を得た。
【0070】
(電池の作製)
得られた活物質(La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2)を正極活物質として電池を作製した。正極活物質と、フッ化物イオン伝導性材料であるLa
0.9Ba
0.1F
2.9と、電子伝導性材料であるVGCFとを、正極活物質:フッ化物イオン伝導性材料:電子伝導性材料=30:60:10の重量比で秤量し、ボールミル(600rpm、20時間)で混合して正極合材を得た。また、負極活物質としてLaF
3を準備し、100℃にて一晩真空乾燥を行い、その後、ボールミル(600rpm、20時間)で粉砕した。また、固体電解質層の材料として、La
0.9Ba
0.1F
2.9を準備した。これらの材料をペレット成型することで電池を作製した。
【0071】
[評価]
(サイクリックボルタンメトリ試験)
実施例1で得られた電池を用いて、150℃に加熱したセルの中で、CV試験を実施した。CV試験の条件は、室温、掃引速度0.1mV/sの条件で実施した。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、酸化電流のピークが4.5V付近に現れ、還元電流のピークが3.1V付近に現れた。両者の平均値から、平均電圧3.8Vにて動作することが確認された。このように、平均電圧3.8V以上(4V級)の高電圧電池が得られた。
【0072】
(充放電試験)
実施例1で得られた電池を用いて、150℃に加熱したセルの中で、充放電試験を実施した。充放電試験の条件は、−1.5V〜4.3V(電圧)、10μA/cm
2の定電流充放電とした。その結果を
図5に示す。
図5では、まず、充電を行うことで、負極活物質(LaF
3)に含まれるF
−が、固体電解質層を伝導し、正極活物質(La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2)に移動する。これにより、正極活物質は過充電状態となり、電圧が高くなる。
図5では、充電曲線の3.5V〜4.5V付近にプラトーが現れており、充電反応が生じていることが確認された。次に、放電を行うことで、正極活物質に含まれるF
−が、固体電解質層を伝導し、負極活物質に移動する。
図5では、放電曲線の3V〜4V付近にプラトーが現れており、放電反応が生じていることが確認された。このように、実施例1で得られた電池は、従来にはない高電圧にて充放電反応が進行した。
【0073】
なお、実施例1で使用した正極活物質(La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2)はF元素を含有することから、この正極活物質がF
−を放出した場合(La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2−Xにおいて、X>0となる場合)も活物質として機能し得るが、
図5には、そのプラトーは現れていない。その理由は、以下のように推測される。すなわち、負極活物質(LaF
3)もF元素を含有しており、負極活物質が、さらにF
−を受け取ることができないためであると推測される。言い換えると、初回の充電時に、負極活物質(LaF
3)に含まれるF
−は、正極側に移動する。正極側に移動した分だけ、負極活物質はF
−を受け取ることができるが、LaF
3になった時点で、さらにF
−を受け取ることができなくなり、それ以上、電池反応が進行しなくなる。その結果、La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2−Xにおいて、X>0となる場合まで、電池反応が進行しないと推測される。
【0074】
(XRD測定)
実施例1におけるフッ素化処理前後の活物質に対して、XRD測定(CuKα線使用)を行った。その結果を
図6に示す。
図6に示すように、フッ素化処理前には、2θ=23.4°、26.6°32.1°、32.7°、42.7°、46.9°、57.9°の位置に特徴的なピークが確認され、ほぼ単相のLa
1.2Sr
1.8Mn
2O
7相を有する活物質が合成された。また、フッ素化処理後には、2θ=22.8°、23.8°、30.5°、33.6°、41.0°、48.2°、58.0°の位置に特徴的なピークが確認され、La
1.2Sr
1.8Mn
2O
7F
2相が形成されていることが確認された。
【0075】
[実施例2]
(活物質の合成)
La
2O
3を3.258g、SrCO
3を2.953g、Mn
2O
3を1.579g秤量し、これらをメノウ乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製ボートに投入し、管状炉を用いて1400℃で焼成を行った。焼成条件は、1400℃まで140分かけて昇温し、1400℃で20時間保持する条件とした。その後、室温まで放冷し、メノウ乳鉢にて粉砕混合した。粉砕混合した試料(5.2g)に対して、同じ条件で再び焼成を行った。その後、室温まで放冷し、メノウ乳鉢にて粉砕混合した。これにより、活物質(LaSrMnO
4)を得た。
【0076】
(電池の作製)
得られた活物質(LaSrMnO
4)を正極活物質として電池を作製した。正極活物質と、フッ化物イオン伝導性材料であるLa
0.9Ba
0.1F
2.9と、電子伝導性材料であるVGCF(気相成長炭素繊維)とを、正極活物質:フッ化物イオン伝導性材料:電子伝導性材料=30:60:10の重量比で秤量し、ボールミル(100rpm、20時間)で混合して正極合材を得た。また、負極活物質としてPbSnF
4を準備し、この負極活物質と、電子伝導性材料であるAB(アセチレンブラック)とを、ボールミル(600rpm、20時間)で混合して負極合材を得た。また、固体電解質層の材料として、La
0.9Ba
0.1F
2.9を準備した。これらの材料をペレット成型することで、ペレット電池を作製した。なお、負極活物質層の負極集電体側にはPb箔を配置した。
【0077】
[評価]
実施例2で得られた電池を用いて、150℃に加熱したセルの中で、充放電試験を実施した。充放電条件は、−1.5V〜3.0V(vs.Pb/Pb
2+)、30μA/cm
2の定電流充放電とした。その結果を
図7に示す。
図7に示すように、充電容量は約0.7mAhであり、比容量に換算すると、225mAh/g程度になる。これは、LaSrMnO
4からLaSrMnO
4F
2が得られる反応の理論容量115mAh/gを超えている。そのため、F
−が、正極活物質中に過剰に挿入されていることが示唆された。なお、LaSrMnO
4からLaSrMnO
2F
4が得られると仮定すると、理論容量は310mAh/gとなる。また、負極活物質を実施例1と同じくLaF
3に変更すると、LaF
3の電位(vs Pb/PbF
2)は、PbSnF
4の0Vに比べて、−2.4Vであることから、実施例1と同様に、高電圧にて充放電反応が進行することが示唆された。