【文献】
K. LEE et al.,Dicalcium nitride as a two-dimensional electride with an anionic electron layer,Nature,2013年,494,336-341.,whole document.
【文献】
X. ZHANG et al.,Two-Dimensional Transition-Metal Electride Y2C,Chem. Mater.,2014年,26,6638-6643.,Published: October 24, 2014.
【文献】
T. TADA et al.,High-Throughput ab Initio Screening for Two-Dimensional Electride Materials,Inorg. Chem.,2014年,53,10347-10358.,Published: September 11, 2014.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項10又は14記載の方法において、反応は、100℃から600℃以下の反応温度、10kPa以上、20MPa未満の反応圧力の条件で行うことを特徴とするアンモニア合成方法。
前記担体は、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物から選ばれる促進化合物を添加しないで用いることを特徴とする請求項10又は14に記載のアンモニア合成方法。
前記担体を構成する化合物粉末に前記遷移金属を含浸法、物理的混合法、熱分解法、液相法、又は蒸着法により担持させることを特徴とする請求項10又は14に記載のアンモニア合成方法に用いる触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
M
3N
2(Mは、Ca,Sr,又はBa)で示されるアルカリ土類金属窒化物は、半導体装置に用いる窒化アルミニウムの原料、金属摺動部材用のセラミック粒子、電池電極構成材料、導電性微粒子などに用いられる(特許文献1)。特許文献1には、第2族金属アミドを熱分解してM
3N
2(Mは、Be,Mg,Ca,Sr,又はBa)又はM
2N(Mは、Be,Mg,Ca,Sr,又はBa)等を製造する方法が開示されており、特許文献2には、第2族金属にアンモニアを反応させて液相化し、得られた第2族金属アミドを熱分解して高純度のM
3N
2(Mは、Be,Mg,Ca,Sr,又はBa)を製造する方法が開示されている。
【0003】
窒化カルシウムとしては、これまでにα-Ca
3N
2, β-Ca
3N
2, γ-Ca
3N
2, Ca
11N
8,Ca
2N等が知られている。また、窒化カルシウムの水素化物であるCa
2NH,CaNH, Ca(NH
2)
2等(以下、「Ca−N−H系化合物」ということもある)も知られている。
【0004】
Ca
3N
2はCaを液体アンモニア中に溶解させ、窒素雰囲気で熱分解すると得られる。Ca
3N
2は下式に示すように、空気中の水分と反応して水酸化カルシウムとアンモニアになる。この反応は水中でも生じる。
Ca
3N
2+6H
2O→3Ca(OH)
2+2NH
3【0005】
また、Ca
2Nは、容易に酸化が起こり、非常に不安定な物質であることが知られており、Ca
2Nが安定に存在できる範囲としてはAr中で1000℃以下、又は窒素中で250℃から800℃の間と報告されている(非特許文献1)。
【0006】
一方、2013年に、本発明者らによりCa
2Nが2次元のエレクトライドであることが見出された(非特許文献2)。Ca
2N:e
-は、[Ca
2N]
+で構成される層間に電子が陰イオンとして結びついた層状化合物であり、Ca
3N
2と金属Caを真空中で加熱することにより得られる。Ca
2N:e
-の伝導電子濃度は1.39×10
22/cm
3であり、2.6eVの仕事関数を有することが報告されている。その後、非特許文献3において、この2次元のエレクトライドについて報告されている。
【0007】
さらに、本発明者らは、層状結晶構造を持ち、イオン式[AE
2N]
+e
-で表記される窒化物(AEは、Ca、Sr、Baから選択される少なくとも一種類の元素)からなる窒化物エレクトライドに係わる発明について特許出願した(特許文献3)。
【0008】
一方、水素と窒素を含有するガスを原料とするアンモニア合成は、酸化鉄を触媒とし、アルミナや酸化カリウムを促進剤として用いるハーバー・ボッシュ(Haber-Bosch)法が普及しており、この方法は、100年ほど大きな変化はなかった。ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成では、300℃〜500℃、20〜40MPaという高温高圧下で、窒素及び水素ガスを触媒上で反応させて行われる。
【0009】
アンモニア合成用の触媒としては、VIII族金属及びVIB族金属の三元窒化物(特許文献4)、コバルト・モリブデン複合窒化物(特許文献5)なども知られている。本発明者らは、マイエナイト型化合物をアンモニア合成触媒の担体とした担持金属触媒を開発した(特許文献6〜7、非特許文献4〜5)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
Ca
3N
2は、半導体装置に用いる窒化アルミニウムの原料、金属摺動部材用のセラミック粒子、電池電極の構成材料、導電性微粒子などに用いられるが、Ca
2Nは、非常に不安定な物質であることが知られており、その用途は、従来殆ど開発されておらず、その構造や物性の研究も進んでいなかった。
【0013】
アンモニア合成の触媒は、Fe粒子を活性金属とした触媒が主流であったが、近年は活性炭を担体としたRu/C触媒も使用されている。酸化鉄触媒の発見以来、様々な触媒金属や担体材料が研究開発されてきたが、既知の金属+担体の組み合わせはほぼ調べ尽くされた。既知の金属+担体の組み合わせによって達成できる活性を大きく上回る触媒、特に、促進剤を多量に用いないでも高活性で、化学的、熱的に安定な新触媒の探索は極めて困難な現状である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、窒化カルシウムについての物質構造や物性についての研究過程で、前述のとおり、層状化合物であるCa
2Nは、[Ca
2N]
+で構成される層間に電子が陰イオンとして結びついた層状化合物、すなわち、層同士を層間に存在する電子が結びつけているエレクトライド(電子化物)であることを発見した。このエレクトライドは、[Ca
2N]
+・e
-という示性式で示され、層状化合物の層同士の隙間、すなわち、2次元の隙間に化学量論から予想される濃度の電子が存在するので「2次元エレクトライド」と言うことができる。2次元エレクトライドでは、電子が2次元的に非局在化された陰イオン的電子として空間的隙間に存在するため、物質全体を極めてスムーズに動き回ることができる。
【0015】
本発明者らは、このCa
2Nは、非常に不安定な物質であるにもかかわらず、窒化カルシウムの高温反応特性が意外にも水素と窒素を含有するガスを原料とする連続的なアンモニア合成に極めて効果的であることを見出した。
【0016】
すなわち、Ca
2NにRu、Fe、Co等のアンモニア合成に触媒活性を示す遷移金属(以下、「Ru等の遷移金属」という)を担持させて担持金属触媒を形成すると、アンモニア合成活性が飛躍的に向上し、不安定なアルカリ金属やアルカリ土類金属及びそれらの化合物を促進剤化合物に用いることなく、長時間の合成反応においても安定であり、従来よりも著しく高性能なアンモニア合成触媒となることを見出した。
【0017】
さらに、Ru等の遷移金属触媒を窒化カルシウムの一種であるCa
3N
2に担持した場合は、アンモニア合成反応中に担体の構造がCa
3N
2から2次元エレクトライドのCa
2N構造に変化し、高い触媒活性を示すことも分かった。すなわち、Ca
3N
2はCa
2Nからなる2次元エレクトライドの前駆体として用いることができる。
【0018】
このような、高い触媒活性は、2次元エレクトライドによってもたらされる特有な特性であり、Ca
2Nと同様のイオン式[AE
2N]
+e
-で表記される窒化物であるSr
2NやBa
2Nを担体としても同様の効果が得られる。また、Ca
2NのCa,Sr
2NのSr,Ba
2NのBaの一部はLi、Na、K、Rb、Csからなる群から選ばれる少なくとも一種類以上のアルカリ金属元素で置換されていてもよい。
【0019】
また、このような、高い触媒活性は、Ca
2Nと同様の層状化合物であるY
2C, Sc
2C, Gd
2C,Tb
2C, Dy
2C, Ho
2C,Er
2Cなどの炭化物からなる2次元エレクトライド及びそれらの前駆体物質を担体にした場合に共通の普遍的な特性であると考えられる。本発明者は、実施例5に示すように炭化物であるY
2CをRu等の遷移金属の担体とした触媒についてもCa
2Nを担体とした場合と同様の高い触媒活性を確認した。Y
2Cは、Ca
2Nと同様に形式的にイオン式[Y
2C]
2+・2e
-と表すことができ、また反応中に相間に存在する電子の一部は容易に水素と置き換わり、水素化物の構造を形成すると考えられることから、これらの水素化物も触媒活性に寄与すると推察される。
【0020】
また、窒化カルシウムの水素化物であるCa
2NH、CaNH、Ca(NH
2)
2等(以下、「Ca−N−H系化合物」ということもある)も知られており、これらはCa
2Nの前駆体として、又はアンモニア合成反応中にCa
3N
2が反応中にCa
2Nに変化する際、Ca
2NHやCaNHのような水素化物の構造となり、これらの化合物も触媒活性に寄与すると推測される。
【0021】
過去にSr
3N
2、Be
3N
2、Ca
3N
2、Ba
3N
2、Mg
3N
2と水素を反応させてアンモニアが生成する反応を計算した文献(非特許文献4)が存在するが、これらは化学量論反応であり、連続してアンモニアを生成することができない。一方、本発明の触媒を用いる方法は、遷移金属ナノ粒子を2次元エレクトライドに担持して触媒とすることで、連続してアンモニアを生成することが可能な方法である。
【非特許文献4】Thermodynamics of synthesis of ammonia through a calcium nitride-hydride system, Kondrat'ev, A. V.; Beglov, B. M.; Rylov, A. A. Deposited Doc. Avail. BLLD. (1975), (VINITI 2626-75), 10 pp
【0022】
本発明の担持金属触媒は、含浸法、物理的混合法、熱分解法、液相法、蒸着法などの方法で製造できる。好ましくは、担体を構成する化合物の粉末又は成型体に、Ru等の遷移金属錯体の熱分解を利用してRu等の遷移金属を蒸着することにより担持することにより製造される。この触媒を用いて、アンモニア合成反応装置内で、100℃から600℃以下の反応温度、好ましくは10kPa以上、20MPa未満の反応圧力条件で、原料の窒素と水素を触媒上で反応させることによってアンモニアを連続して高効率に合成することができる。
【0023】
本発明の触媒は、例えば、RuをCa
2NやY
2Cのような2次元エレクトライドに担持した場合、従来用いられている触媒の中で最高レベルの活性を示す担持金属触媒であるRu-Cs/MgOの活性を上回り、本発明者らが先に開発した10
18cm
-3以上の伝導電子を含むマイエナイト型化合物を担体とする担持金属触媒であるRu/C12A7:e
-と同等以上の活性を示す。さらに、RuをCa
3N
2に担持した場合は、アンモニア合成反応中に担体の構造がCa
3N
2から2次元エレクトライドのCa
2N、及びCa
2NH、CaNH、Ca(NH
2)
2等の「Ca−N−H系化合物」へと構造変化し、340℃以下の低温度領域でRu/C12A7:e
−よりも2倍以上高い触媒活性を示す。
【発明の効果】
【0024】
本発明の触媒を用いれば、水素と窒素の反応により連続的にアンモニアを合成する方法において、カルシウム、窒素、水素といったクラーク数の順位が上位の元素のみで構成された安価な化合物を用い、かつ、好ましくは、10kPa以上、20MPa未満、より好ましくは10kPa〜10MPaの低い反応圧力で少ないエネルギー消費をもってアンモニアを合成でき、かつ合成反応を繰り返しても触媒活性の低下が見られないので、高効率に長期の化学的、熱的な安定性をもって合成できる。
【0025】
また、Ruのような高価な希少金属以外の遷移金属元素、例えば、FeやCoなどを坦持物に用いることも可能であり、資源の有効利用の観点からも有用である。また、従来のアルミナ等の担体のようにアルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等の促進化合物を添加しないでもよいので、製造が簡便である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、水素と窒素を含有するガスを原料とする連続的なアンモニア合成用の触媒に関する。この触媒は、触媒活性を示す遷移金属を担持した担体が2次元エレクトライド又はその前駆体である。
【0028】
前記2次元エレクトライド又はその前駆体は、MxNyHz(ただし、Mは、Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選ばれる第2族金属の1種又は二種以上、x、y、zは、1≦x≦11、1≦y≦8、0≦z≦4の範囲であり、xは整数であり、y,zは整数に限らない。)で示される。この式においてz=0の場合は、金属窒化物であり、0<zの場合は水素化物である。Nは欠損を生じる場合があり、yは整数に限らない。また、水素は、金属窒化物に取り込まれるので、zは整数に限らない。
【0029】
代表的な金属窒化物としては、x=3、y=2、Z=0の場合、M
3N
2(ただし、Mは、Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選ばれる第2族金属の1種又は二種以上)で示される金属窒化物が挙げられる。具体的な金属窒化物としては、MがCaの場合のCa
3N
2又はCa
2Nで示されるカルシウム窒化物が挙げられる。前記2次元エレクトライド又はその前駆体は、金属窒化物に限られず、Y
2C, Sc
2C, Gd
2C,Tb
2C, Dy
2C, Ho
2C及びEr
2Cからなる群から選ばれる金属炭化物、又はその水素化物でもよい。
【0030】
以下、本発明の触媒及び該触媒の製造方法並びに該触媒を用いたアンモニア合成方法(以下、「本発明の方法」という)について窒化カルシウムを具体例として詳細に説明するが、他の2次元エレクトライド化合物についても同様に実施することができる。
【0031】
カルシウム窒化物系の化合物として水素化物も含めると、α-Ca
3N
2,β-Ca
3N
2,γ-Ca
3N
2,Ca
11N
8,Ca
2N,Ca
2NH,CaNH,Ca(NH
2)
2等が知られており、Caは最大11、Nは最大8、Hは最大4を取り得る。したがって、本発明の触媒におけるカルシウム窒化物及び「Ca−N−H系化合物」は、包括して一般式CaxNyHz(ただし、Mは、Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選ばれる第2族金属の1種又は二種以上、x、y、zは、1≦x≦11、1≦y≦8、0≦z≦4の範囲であり、xは整数であり、y,zは整数に限らない。)で表される。0<zは水素化物を意味するが、水素化物の場合は、zは1未満の値もとり得るし、整数に限られない。
【0032】
更に、窒化カルシウム以外のMg
3N
2、Sr
2N、Ba
2Nの各金属窒化物もアンモニア合成反応中にCa
3N
2と同様な構造変化が進行していると考えられることから、本発明の触媒における窒化物又は水素を含む窒化物は、一般式、MxNyHz(ただし、Mは、Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選ばれる第2族金属の1種又は二種以上、x、y、zは、1≦x≦11、1≦y≦8、0≦z≦4の範囲であり、xは整数であり、y,zは整数に限らない。)で示すことができる。
【0033】
<窒化カルシウムの合成>
窒化カルシウム(Ca
3N
2)は、市販されているが、金属カルシウムを液体アンモニアに溶解させ、得られたカルシウムアミドを窒素気流中で熱分解する方法等でも得られる。窒化カルシウム(Ca
2N)は、例えば、Ca
3N
2を金属カルシウムとともに、真空中1000℃程度で加熱することにより得られる 。
【0034】
<Ca−N−H系化合物触媒の合成>
式CaxNyHz(x、y、zは、1≦x≦11、1≦y≦8、0<z≦4の範囲であり、xは整数であり、y,zは整数に限らない。)で示される窒化カルシウムの水素化物も、担体として用いてCa
2Nと同様の高い触媒活性を示す。これらのCa−N−H系化合物の具体例としては、Ca
2NH,CaNH,Ca(NH
2)
2等が挙げられる。
【0035】
窒化カルシウム(Ca
3N
2)に、Ru等の遷移金属元素触媒を担持し、アンモニア合成を行うことで、合成反応中にCa
3N
2が還元され、Ru担持Ca
2N、Ru担持Ca−N−H化合物又はそれらの混合化合物へと変化する。また、別の方法として、Ca
3N
2又はCa
2Nを水素気流中、500℃程度で加熱することでCa−N−H化合物が得られ、これにRu等の遷移金属元素を担持することでも触媒として機能する。
【0036】
<Ru等の遷移金属の担持工程>
遷移金属元素は均一系・不均一系の触媒として各種の合成反応に使用されており、特に、Fe,Ru,Os,Co,Mo等の6族、8族又は9族遷移金属は水素と窒素との直接反応によりアンモニアを合成する触媒として適することが知られている。本発明においては、遷移金属元素として、Cr,Mo,Wから選ばれる6族金属、Mn,Tc,Reから選ばれる7族、Fe,Ru,Osから選ばれる8族、Co,Rh,Irから選ばれる9族の各元素を単独又は組み合わせて用いることができる。また、これらの元素の化合物、例えば、Co
3Mo
3N,Fe
3Mo
3N,Ni
2Mo
3N,Mo
2Nを用いることもできる。
【0037】
窒化カルシウムやCa−N−H系化合物を担体として用いる場合は、前記窒化カルシウムの合成工程で得られた物質を、Ru等の遷移金属化合物と含浸法や物理的混合法で混合する。物理的混合法とは例えば、Ru等の金属錯体と窒化カルシウムを乳鉢などで粉砕しながら、混合する方法、ガラス管封入後、振とう又は回転することにより混合する方法、ボールミルによる粉砕混合法などがあげられる。
【0038】
担体として、固体焼結体、薄膜、固体単結晶などを用いる場合は、粉末や多孔体と同様に含浸法や、Ru等の遷移金属化合物をその表面にCVD法(化学蒸着法)、スパッタ法等で堆積させ、該遷移金属化合物を熱分解して遷移金属を析出させるなどの方法を使用できる。前記の遷移金属の化合物を用いる場合は、例えば、それぞれの金属原料を担体上にCVD法等で堆積させ、熱分解した後にアンモニアガスにより窒化させる方法を使用することができる。
【0039】
前記遷移金属化合物は特に限定されないが、例えば、トリルテニウムドデカカルボニル[Ru
3(CO)
12]、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)[RuCl
2(PPh
3)
4]、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)[RuCl
2(PPh
3)
3]、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)[Ru(acac)
3]、ルテノセン[Ru(C
5H
5)]、塩化ルテニウム[RuCl
3]、ペンタカルボニル鉄[Fe(CO)
5]、テトラカルボニル鉄ヨウ化物[Fe(CO)
4I
2)]、塩化鉄[FeCl
3]、フェロセン[Fe(C
5H
5)
2]、トリス(アセチルアセトナト)鉄(III)[Fe(acac)
3]、ドデカカルボニル三鉄[Fe
3(CO)
12]、塩化コバルト[CoCl
3]、トリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)[Co(acac)
3]、コバルト(II)アセチルアセトナト[Co(acac)
2]、コバルトオクタカルボニル[Co
2(CO)
8]、コバルトセン[Co(C
5H
5)
2]、トリオスミウムドデカカルボニル[Os
3(CO)
12]、モリブデンヘキサカルボニル[Mo(CO)
6]、などの熱分解し易い無機金属化合物又は有機金属錯体などを例示できる。
【0040】
含浸法としては、次の工程を採用できる。例えば、担体粉末、あるいは成型体を遷移金属化合物溶液(例えば、Ruカルボニル錯体のヘキサン溶液)に分散し、撹拌する。この際、遷移金属化合物は、担体粉末に対して0.01〜40wt%、好ましくは0.02〜30wt%、より好ましくは0.05〜20wt%程度である。その後、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス気流中、又は真空下、50〜200℃で30分から5時間の間、加熱して溶媒を蒸発させ乾固する。次に、乾固した遷移金属化合物からなる触媒前駆体を還元する。以上の工程により担体粉末に数nm〜数百nmの粒子径の微粒子としてRu等の遷移金属を坦持した担持金属触媒が得られる。
【0041】
この担持金属触媒の比表面積は0.1〜200m
2/g程度であり、Ru等の遷移金属の担持量は担体粉末、あるいは成型体に対して0.01〜30wt%、好ましくは0.02〜20wt%、より好ましくは0.05〜10wt%である。
【0042】
また、上記の方法に代えて、同様の条件で窒化カルシウムやCa−N−H系化合物とRu等の遷移金属化合物粉末とを物理的混合法により固相混合した後に加熱して、Ru等の遷移金属化合物をRu等の遷移金属に還元分解することによっても同様の形態の担持金属触媒を得ることができる。
【0043】
また、本発明の担持金属触媒は通常の成型技術を用い成型体として使用することができる。具体的には、粒状、球状、タブレット、リング、マカロニ、四葉、サイコロ、ハニカム状などの形状の成型体が挙げられる。また、本発明の担持金属触媒は、適当な支持体にコーティングしてから使用することもできる。
【0044】
<アンモニアの合成>
本発明のアンモニア合成方法は、前記の担持金属触媒を触媒として用い、水素と窒素とを触媒上で反応させてアンモニアを合成する方法である。反応の代表的一形態は、従来のハーバー・ボッシュ法と同じく、原料の窒素と水素の混合気体を加熱加圧下で直接反応させ、N
2+3H
2→2NH
3の反応よって生成したアンモニアを冷却又は水で吸収して分離する方法である。窒素及び水素ガスは、反応器内に設置した担持金属触媒に接触するように供給する。未反応窒素及び水素ガスは生成アンモニアを除去後、反応器にリサイクル循環される。窒素及び水素ガスを供給する前に担持金属触媒の表面を水素ガス又は水素と窒素の混合ガスで還元処理を行い、担持されたRu等の遷移金属に付着している酸化物等を還元除去する前処理をすることが好ましい。
【0045】
窒化カルシウムやCa−N−H系化合物は大気中では、水の吸着が優先されてしまい、また、過剰な水分下では化合物自体が分解してしまうので、アンモニア合成反応はできるだけ水分を含有しない雰囲気、すなわち、水分含有量が100ppm以下、好ましくは、50ppm以下の、窒素、及び水素ガスを原料として使用することが好ましい。
【0046】
次に、原料の窒素と水素の混合ガス雰囲気下で担持金属触媒を加熱することによって、アンモニアを合成する。窒素と水素のモル比は約1/10〜1/1、好ましくは1/5〜1/1の条件で行うことが好ましい。反応温度は好ましくは100℃以上〜600℃未満、好ましくは200℃以上〜500℃程度、より好ましくは250℃以上〜500℃程度がよい。反応温度が低いほど平衡はアンモニア生成に有利であり、十分なアンモニア生成速度を得ると同時に平衡をアンモニア生成に有利にするには上記範囲が好ましい。
【0047】
合成反応を行う際の窒素と水素の混合ガスの反応圧力は特に限定されないが、好ましくは10kPa以上、20MPa未満、実用的な利用を考えると、加圧条件下で反応することが好ましく、実用上は、100kPa〜20MPa程度がより好ましく、3MPa未満でも合成反応が十分可能である。
【0048】
合成反応の形式は、バッチ式反応形式、閉鎖循環系反応形式、流通系反応形式のいずれでもかまわないが、実用的な観点からは流通系反応形式が最も好ましい。アンモニア合成反応は平衡の関係で、高圧でかつ低温条件が有利である。また、発熱反応のため、反応熱を除去しながら反応させると有利であり、工業的には収率をあげるため、様々な工夫がなされている。例えば、流通系反応装置を用いる場合、触媒が充填された反応器を直列に複数個連結し、各反応器の出口にインタークーラーを設置して除熱することで、各反応器の入り口温度を下げ、高いアンモニア収率を得る方法が提案されている。また、Fe触媒とRu系触媒を充填した触媒層複数個を内部に有する反応器を使用し、各反応層の出口温度を精密制御する方法も提案されている。
【0049】
本発明においては、従来行われている方法と同様に、触媒を充填した一種類の反応器、又は複数の反応器を用いて、アンモニア合成を行うことができる。使用する触媒は本発明の触媒単独、又は本発明の触媒から選ばれる二種類以上の触媒の組み合わせ、若しくは本発明の触媒と公知触媒との組み合わせ、の何れも使用することができる。また、複数の反応器を連結させる方法や、同一の反応器内に複数の反応層を設ける方法の何れの方法も使用することができる。
【0050】
本発明において、触媒を組み合わせて使用する場合、本発明の触媒は低温での活性が高いことから、最後の反応器で使用することが好ましい。すなわち、最終的な反応を平衡的に有利な低温で行うことにより高いアンモニア収率を得ることができる。
【0051】
工業的なアンモニア合成の平衡反応条件下において、平衡制約のため反応器の出口の反応ガス中のアンモニア濃度は20%以下であるので、反応ガス中の生成アンモニアを冷却除去後、未反応原料は反応ガスや未反応原料中に含まれる不純物の一部を膜分離などで分離して系外にパージした後、原料としてリサイクル使用される。
【0052】
アンモニア合成法の水素原料は、石炭や石油又は天然ガスを原料に用いて、水蒸気改質、部分酸化改質法、あるいは水蒸気改質と部分酸化を組み合わせた自己熱改質法やシフト反応の組み合わせで製造する方法、バイオマスを原料に用いる方法、水の電気分解による方法、光触媒による水分解の方法など各種の方法で製造される水素原料のいずれの原料も使用することができる。
【0053】
アンモニア合成法の原料として天然ガス原料を用いる場合、水素ガスと窒素ガスは天然ガスの水蒸気改質工程及び部分酸化改質工程、COのシフト反応工程、CO
2除去工程、引き続くCOメタネーションによるCO除去工程を経て製造される。前記水蒸気改質反応は吸熱であるためオートサーマル反応で発生する反応熱を利用しており、窒素ガス原料として空気を用いる場合のH/N比は、1.7−2.5モル比程度である。水蒸気改質の未反応ガスは水素ガスを含むため改質工程にリサイクルガスとして循環使用することが好ましく、フレッシュガスとリサイクルガスの比をコントロールすることによって効率的に反応を行う方法が開発されており、本発明においても、同様に前述の方法を使用することができる。
【0054】
一方、高いH/N比の原料を得る方法として、酸素富化した空気を用いる方法が開発されており、このような原料を用いるとリサイクルガス量が減るのでエネルギー的に好ましい方法である。更に、空気を圧縮分離後、酸素はオートサーマル法による水素製造に使用し、窒素を反応ガスやプロセス窒素に使用する方法は、エネルギー節約の観点から好ましい方法であり、本発明における原料製造法としていずれも使用できる。
【0055】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。NH
3の生成量をガスクロマトグラフで求めるか、又は硫酸水溶液中に生成したNH
3を溶解させ、その溶液をイオンクロマトグラフにより定量してアンモニア合成速度を求めることにより本発明及び比較例の触媒のアンモニア合成活性の評価行った。
【実施例1】
【0056】
<Ruを担持したCa
3N
2の調製>
市販試薬のCa
3N
2粉末(BET表面積約1m
2g
-1)1gをAr雰囲気のグローブボックス中でRu
3(CO)
12粉末0.042gと混合して真空の石英ガラスに封入した。ガラス封入した試料を回転させながら250℃で15時間加熱した。これにより2wt%のRu金属粒子を担持したCa
3N
2触媒が得られた。この触媒のBET表面積は、約1m
2g
-1であり、担持後もほとんどBET表面積は変わらなかった。CO吸着法で測定したRu分散度(%)は3.0であった。
【0057】
<アンモニア合成反応>
窒素ガス(N
2)と水素ガス(H
2)を反応させてアンモニアガス(NH
3)を生成する合成反応を行った。上記の方法で得られた触媒を反応温度が400℃の場合は、0.2g、340℃の場合は0.1gをガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で合成反応を行った。ガスの流量は、N
2:15mL/min,H
2:45mL/min,計60mL/minに設定し、圧力:大気圧で反応を行った。流通系の反応器から出てきたガスを0.005M硫酸水溶液中にバブリングさせ、生成したアンモニアを溶液中に溶解させ、生じたアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフにより定量した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、2760μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、3164μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は164.2であった。
【実施例2】
【0058】
実施例1のCa
3N
2に代えてCa
2N(BET表面積1m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/Ca
2N触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、2750μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、3386μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は171.2であった。
【実施例3】
【0059】
実施例1のCa
3N
2に代えてCa(NH
2)
2(BET表面積120 m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/Ca(NH
2)
2触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、2118μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は3.2であった。
【実施例4】
【0060】
実施例1のCa
3N
2に代えてCaNH(BET表面積1m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/CaNH触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、1107μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は38.4であった。
【実施例5】
【0061】
実施例1のCa
3N
2に代えてY
2C(BET表面積0.2 m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/Y
2C触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、580μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、1101μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は59.4であった。
【0062】
表1に、各種担体にRuを担持した触媒によるアンモニア合成反応の結果を示す(反応温度:340℃、流量:60mLmin
-1,圧力:0.1MPa、N
2:H
2=1:3)。
【表1】
【実施例6】
【0063】
実施例1のCa
3N
2に担持するRu量を0.5wt%にした以外は、実施例1と同じ方法で0.5wt%Ru/Ca
3N
2触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表2に示すとおり、2009μmolg
-1h
-1であった。
【実施例7】
【0064】
実施例1のCa
3N
2に担持するRu量を1.0wt%にした以外は、実施例1と同じ方法で1.0wt%Ru/Ca
3N
2触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表2に示すとおり、2399μmolg
-1h
-1であった。
【実施例8】
【0065】
実施例1のCa
3N
2に担持するRu量を3.0wt%にした以外は、実施例1と同じ方法で3.0wt%Ru/Ca
3N
2触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表2に示すとおり、3446μmolg
-1h
-1であった。
【実施例9】
【0066】
実施例1のCa
3N
2に担持するRu量を5.0wt%にした以外は、実施例1と同じ方法で5.0wt%Ru/Ca
3N
2触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表2に示すとおり、3922μmolg
-1h
-1であった。
【0067】
表2に、Ru担持量の異なるCa
3N
2によるアンモニア合成反応の結果を示す(反応温度:340℃、流量:60mLmin
-1,圧力:0.1MPa、N
2:H
2=1:3)。
【表2】
【実施例10】
【0068】
<Coを担持したCa
3N
2の合成>
市販試薬のCa
3N
2粉末1gをAr雰囲気のグローブボックス中でCo
2(CO)
8粉末0.058gと混合し、真空の石英ガラスに封入した。ガラス封入した試料を250℃で15時間加熱した。これにより2wt%のCo金属を担持したCa
3N
2触媒が得られた。この触媒のBET表面積は、約1m
2g
-1であった。合成した触媒を用い、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表3に示すとおり、439μmolg
-1h
-1であった。
【実施例11】
【0069】
<Feを担持したCa
3N
2の合成>
市販試薬のCa
3N
2粉末1gをAr雰囲気のグローブボックス中でFe
2(CO)
8粉末0.065gと混合し、真空の石英ガラスに封入した。ガラス封入した試料を250℃で15時間加熱した。これにより2wt%のFe金属を担持したCa
3N
2触媒が得られた。この触媒のBET表面積は、約1m
2g
-1であった。合成した触媒を用い、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表3に示すとおり、284μmolg
-1h
-1であった。
【0070】
表3に、各種遷移金属を担持したCa
3N
2によるアンモニア合成反応の結果を示す(反応温度:340℃、流量:60mLmin
-1,圧力:0.1MPa、N
2:H
2=1:3)。
【表3】
【実施例12】
【0071】
実施例1のCa
3N
2に代えてMg
3N
2(BET表面積1m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、2wt%Ru/Mg
3N
2触媒を調製し、実施例1の条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表4に示すとおり、365μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は16.9であった。
【実施例13】
【0072】
実施例1のCa
3N
2に代えてSr
2N(BET表面積1m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/Sr
2N触媒を調製し、実施例1の条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表4に示すとおり、1520μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は70.2であった。
【実施例14】
【0073】
実施例1のCa
3N
2に代えてBa
2N(BET表面積1m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/Ba
2N触媒を調製し実施例1の条件でアンモニア合成反応を実施した。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表4に示すとおり、566μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は26.1であった。
【0074】
表4に、各種金属窒化物担体にRu(2wt%)を担持した触媒によるアンモニア合成反応の結果を示す(反応温度:340℃、流量:60mLmin
-1,圧力:0.1MPa、N
2:H
2=1:3)。
【表4】
【0075】
[比較例1]
<マイエナイト型化合物粉末の合成>
CaCO
3及びAl
2O
3の各粉末をCaとAlの割合が11:14となるように混合し、合計30gをアルミナ坩堝中にて1300℃で6時間加熱した。得られた粉末をシリカガラス管内に挿入し1×10
-4Paの真空中で1100℃、15時間加熱し原料のマイエナイト型化合物粉末を得た。この段階での比表面積は1m
2g
-1以下であった。
【0076】
<還元処理による電子注入>
これによって得た粉末3gを、シリカガラス管内に金属Ca粉末0.18gとともに挿入し、700℃で15時間加熱することにより内部を金属Ca蒸気雰囲気として粉体と反応させた。真空に封管された試料を取り出し、乳鉢ですりつぶした後再びシリカガラス管内に詰めて真空に引きながら封管した。これを1100℃、2時間加熱することで伝導電子濃度が約2×10
21cm
-3、比表面積は1m
2g
-1の導電性マイエナイト型化合物粉末C12A7:e
−を得た。C12A7:e
−を用いた以外は実施例1と同じ条件でRuを2wt%担持し、アンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、2684μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、1571μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は52.1であった。
【0077】
[比較例2]
比較例1の導電性マイエナイト型化合物に代えて伝導電子を含まない化学当量組成のC12A7(non-doping)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/C12A7触媒を調製し、実施例1の条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、546μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、88μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は2.7であった。
【0078】
[比較例3]
実施例1のCa
3N
2に代えてCaO・Al
2O
3(CAと表記する)(BET表面積1 m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/CA触媒を調製し、実施例1の条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、467μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、22μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は0.7であった。
【0079】
[比較例4]
実施例1のCa
3N
2に代えてCsを添加したMgO(Cs/MgOと表記する)(BET表面積12 m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同方法で、2wt%Ru−Cs/MgO触媒(Cs/Ru元素比=1)を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、2264μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、2367μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は13.3であった。
【0080】
[比較例5]
実施例1のCa
3N
2に代えてBaを添加した活性炭(Ba/ACと表記する)(BET表面積310 m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru−Ba/C触媒(Ba/Ru元素比=1)を調製し実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、148μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、29μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は0.2であった。
【0081】
[比較例6]
実施例1のCa
3N
2に代えてCaO(BET表面積3 m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/CaO触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、158μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、261μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は7.5であった。
【0082】
[比較例7]
実施例1のCa
3N
2に代えてAl
2O
3(BET表面積170 m
2g
-1)を用いた以外は、実施例1と同じ方法で2wt%Ru/Al
2O
3触媒を調製し、実施例1と同じ条件でアンモニア合成反応を実施した。400℃におけるアンモニアの合成速度は
図1に示すとおり、8.5μmolg
-1h
-1であった。340℃におけるアンモニアの合成速度は、表1に示すとおり、10μmolg
-1h
-1であった。TOF(×10
-3s
-1)は0.1であった。
【0083】
[アンモニア合成速度の比較]
表1に示すアンモニア合成速度からみて、既存の触媒担体(Al
2O
3、CaO、Ba/AC、Cs/MgO、CA)にRuを担持した触媒と比較すると、Ruを担持したCa
3N
2、Ca
2Nは、比表面積が小さいにもかかわらず、同じ重量あたりの触媒活性が高く、高いTOF値を示す非常に優れた触媒であることが分かった。この触媒活性は、Ruを担持したC12A7:e
−よりも高い値を示すことが分かった。
【0084】
一方、実施例5のRuを担持したY
2Cは、単位重量あたりのアンモニア合成速度は、Ru/C12A7:e
−に劣るが、BET表面積が0.2m
2/g
-1であることを考慮すると、表面積あたりの触媒活性では、Ru/C12A7:e
−に匹敵する触媒性能である。
[評価試験1]
【0085】
反応温度以外は実施例1と同様の条件により、アンモニア合成反応を行い、触媒の反応温度依存性を評価した。触媒量は0.1g、ガスの流量は、N
2:15mL/min,H
2:45mL/min,計60mL/minに設定し、圧力:大気圧で反応を行った。
図2に、2wt%Ru/Ca
3N
2と2wt%Ru/C12A7:e
−を触媒として用いて、様々な反応温度でアンモニア合成反応を行った結果について示す。400℃ではほぼ同等の活性であったが、340℃以下の低温度領域では、2wt%Ru/Ca
3N
2は2wt%Ru/C12A7:e
−と比較して2倍程度触媒活性が高いことが明らかとなった。
[評価試験2]
【0086】
図3に、反応温度以外は実施例1と同様の条件でアンモニア合成反応を行いながら2wt%Ru/Ca
3N
2触媒(a)と2wt%Ru/Ca
2N触媒(b)の構造変化をRamanスペクトルで調べた結果を示す。反応温度を上昇させると、2wt%Ru/Ca
3N
2では258cm
-1に見られたCa-N伸縮振動に由来するピークが減少し、反応温度350℃になると、180cm
-1と322cm
-1に二本のピークが観察された。
【0087】
一方、2wt%Ru/Ca
2Nもアンモニア合成条件である窒素と水素気流中で加熱すると、180cm
-1と322cm
-1に二本のピークが観察された。これらの結果から、2wt%Ru/Ca
3N
2はアンモニア合成反応条件下、350℃で加熱すると、Ca
2Nと類似した構造に変化し、高い触媒活性を示すようになることが明らかとなった。
[評価試験3]
【0088】
反応温度340℃で20時間合成反応を継続して反応を行い、触媒の安定性を評価した。
図4に、実施例2の2wt%Ru/Ca
2Nを触媒として用いて、アンモニア合成を行った結果を示す。約20時間の反応においても安定してアンモニアを生成し、ほとんど反応活性が低下しないことが分かった。
【0089】
Ruの他にCoやFeをCa
3N
2上に担持した触媒の反応温度340℃でのアンモニア合成活性を表2に示した。実施例1の2wt%Ru/Ca
3N
2と比較すると、CoやFeを担持した触媒(実施例6、実施例7)の性能は劣るが、比較例4のRu-Cs/MgO以外の既存のRu触媒に匹敵するか、それ以上の触媒性能を示した。
【0090】
カルシウム窒化物(Ca
3N
2、Ca
2N)及びマグネシウム窒化物、ストロンチウム窒化物、バリウム窒化物(Mg
3N
2、Sr
2N、Ba
2N)の上に2wt%Ru担持した触媒の、反応温度340℃でのアンモニア合成活性を表3に示した。実施例8の2wt%Ru/Mg
3N
2、実施例9の2wt%Ru/Sr
2N、実施例10の2wt%Ru/Ba
2N触媒は、2wt%Ru/Ca
3N
2や2wt%Ru/Ca
2Nと比較すると、触媒の性能は劣るが、比較例4のRu-Cs/MgO以外の既存のRu触媒よりも高い触媒性能を示した。