特許第6487419号(P6487419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6487419TAFA4化合物及び疼痛を処置するためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487419
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】TAFA4化合物及び疼痛を処置するためのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20190311BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20190311BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   A61K38/17ZNA
   A61P25/04
   A61P29/00
【請求項の数】8
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2016-512345(P2016-512345)
(86)(22)【出願日】2014年5月6日
(65)【公表番号】特表2016-519138(P2016-519138A)
(43)【公表日】2016年6月30日
(86)【国際出願番号】EP2014059247
(87)【国際公開番号】WO2014180853
(87)【国際公開日】20141113
【審査請求日】2017年4月21日
(31)【優先権主張番号】13305592.1
(32)【優先日】2013年5月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】511025226
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス−マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’AIX−MARSEILLE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】モクリッチ,アジズ
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーニ,マリー−クレール
(72)【発明者】
【氏名】マンティッレリ,アナベル
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/013462(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0077680(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61P 25/04
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における疼痛を予防又は処置するための医薬の製造のための活性成分としての、単離されたTAFA4タンパク質の使用であって、前記TAFA4タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、使用。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記タンパク質が、被験体に、筋肉内、静脈内、腹腔内、経口、肛門内、皮膚、皮下、真皮、経皮又は髄腔内で投与される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
TAFA4タンパク質の用量が、1μg〜100mg/kg/日の間で含まれる、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
前記タンパク質が、疼痛に対して有効な少なくとも1つの更なる活性化合物と組み合わせて使用される、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
前記被験体が、哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
前記疼痛が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、侵害受容体が媒介する疼痛、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性疼痛、体性疼痛、内臓痛、アロディニア、痛覚過敏、又は神経傷害と関連する疼痛である、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
前記疼痛が、神経障害性疼痛である、請求項7記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体における疼痛を予防、軽減又は処置するために使用するための新規化合物に関する。また、本明細書には、医薬組成物、それらの調製及び使用、並びにそのような化合物及び組成物を用いて、疼痛を予防、軽減又は処置するための方法が記載されている。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、実際の又は潜在的な組織損傷と関連する不愉快な感覚的経験である。したがって、疼痛は、各種傷害及び疾患の最も共通する症状である。様々な分類の疼痛、例えば侵害受容性疼痛、組織損傷及び免疫細胞の浸潤と関連する炎症性疼痛、神経系に対する損傷によって(すなわち、神経障害性疼痛)又はその異常機能によって(線維筋痛症、過敏性大腸症候群、緊張型頭痛などにおけるような機能障害性疼痛)引き起こされる疾患状態である病理学的疼痛がある。疼痛は、侵害刺激が除去されるか或いは根底にある損傷又は病理が治癒されるまでのみ続く通常は一時的なものであるが、関節リウマチ、末梢神経障害、ガン及び特発性疼痛(外傷又は病理が治癒した後も続くか又は何らかの明らかな原因がなく起きる疼痛)などのいくつかの疼痛性状態は、何年も持続し得る。長期間にわたり続く疼痛は、慢性と称され、速やかに解消する疼痛は、急性と称される。伝統的には、急性疼痛と慢性疼痛との区別は、発症からの時間の任意の間隔に依拠しており;2つの最も共通して用いられている目印は、疼痛の発症から3か月及び6か月である(非特許文献1)が、急性疼痛から慢性疼痛への移行を12か月とする理論家及び研究者もいる(非特許文献2)。他には、30日未満続く疼痛を急性、6か月の期間を超える疼痛を慢性、そして1〜6か月続く疼痛を亜急性とする者もいる(非特許文献3)。恣意的に固定された期間を含まない、慢性疼痛の代表的な別の定義は、「治癒の予測される期間を超える疼痛」である(非特許文献4)。慢性疼痛は、ガン性疼痛又は良性に分類され得る(非特許文献5)。
【0003】
疼痛の感覚は、侵害受容体とも称される感覚神経によって脳まで運ばれる。侵害受容体は、熱、機械的及び化学的刺激などの多くの形の侵害性の又は強い刺激に応答し得るため、ポリモーダル(polymodal)であると考えられている。侵害受容体の感覚求心性線維は、多くの点で異種性である。例えば、感覚神経は、それらの直径及びミエリン形成の程度によって、Aα、−β、−δ及びC−線維に分類される。そこで、末梢からの感覚入力は、脊髄内の興奮性及び阻害性介在神経細胞を含む複雑な回路によって、処理されてより高次の脳領域へ運ばれる(非特許文献6、非特許文献7)。興奮と阻害とのバランスは、正常な感覚機能の維持には不可欠であり、これらの回路の機能障害により、炎症性及び神経障害性疼痛などの疼痛の発症がもたらされる。
【0004】
疼痛の処置には、神経伝達を遮断して感覚及び疼痛に影響する局所麻酔剤、並びに疼痛を緩和して更には炎症の化学伝達物質の活性に干渉し得る鎮痛剤の使用が含まれる。急性疼痛は、通常は、鎮痛剤及び麻酔剤などの薬物療法によって処置される。しかしながら、慢性疼痛の管理は、はるかにもっと困難である。
【0005】
鎮痛剤の効果は、疼痛受容体によって脳へ送られる神経のメッセージをそれらがどのように遮断することができるかにかかっている。鎮痛剤は更に体温を上昇させる(発熱として知られている)か又は体温を低下させる効果を有する。鎮痛剤は、末梢及び中枢神経系に対して多様な様式で作用する;鎮痛剤には、パラセタモール(パラ−アセチルアミノフェノール。アセトアミノフェン又は単にAPAPとしても知られている)、サリチレートなどの非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)、並びにモルヒネ及びアヘンなどのオピオイド剤が含まれる。
【0006】
パラセタモール/アセトアミノフェンの正確な作用メカニズムは不確かではあるが、末梢よりも中枢に(神経末端においてよりも脳において)作用しているようである。アスピリン及びその他の非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)は、シクロオキシゲナーゼを阻害して、プロスタグランジン産生の低下をもたらす。これは、(パラセタモール及びオピオイドとは反対に)疼痛と、また炎症も軽減する。パラセタモールには副作用はほとんどなく、安全であるとみなされているが、推奨量を超えて摂取すると、重度かつ生命を脅かし得る肝障害、そして時には腎障害が生じ得る。NSAIDは、消化性潰瘍、腎不全、アレルギー反応、そして時には難聴にかかりやすくし、そして血小板機能に影響することにより出血の危険性を増大させ得る。ウイルス性疾患に罹患している16歳より下の小児におけるアスピリンの使用は、稀ではあるが重度の肝障害であるライ症候群と関連づけられている。典型的なオピオイドであるモルヒネ、及び各種のその他の物質(例えば、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロモルヒネ、ペチジン)は全て、脳のオピオイド受容体系に対して同様の影響を及ぼす。全てのオピオイドの用量は、オピオイドの毒性(錯乱、呼吸抑制、ミオクローヌス発作、及び針先大瞳孔)、痙攣(トラマドール)によって制限され得るが、耐性を蓄積している患者では、用量上限(dose ceiling)はない。
【0007】
鎮痛剤の選択は、疼痛の型によっても決定される:神経障害性疼痛については、伝統的な鎮痛剤はあまり有効ではなく、三環系抗うつ剤及び抗痙攣剤などの通常では鎮痛剤であるとは考えられない種類の薬物によりしばしば利益が得られる。三環系抗うつ剤、特にアミトリプチリンは、中枢様式(central manner)であるようである疼痛の処置を改善することが示されている。ネフォパムは、併用するオピオイドと共に疼痛の緩和のためにヨーロッパで用いられている。カルバマゼピン、ガバペンチン及びプレガバリンの正確なメカニズムは、同様に明確ではないが、これらの抗痙攣剤は、神経障害性疼痛を処置するために用いられているが、成功の程度は異なる。抗痙攣剤は、それらの作用メカニズムが、疼痛の感覚を阻害する傾向にあるため、神経障害性疼痛に最も共通して用いられている。
【0008】
しかしながら、特定の組み合わせ鎮痛剤製品は、最も頻繁にはこれらの組み合わせの複数の(そしてしばしば作用を有しない)成分から生じる乱れに起因する、偶発的な過剰投与を含む顕著な有害事象をもたらし得る(非特許文献8)。
【0009】
疼痛の不適切な処置は、外科病棟、集中治療室及び救急外来全体にわたって、一般診療において、ガン疼痛を含むあらゆる形態の慢性疼痛の管理において終末期ケアにおいて、広がっている。この軽視は、新生児から虚弱高齢者まであらゆる年齢に広がっている。選択される公知の鎮痛性分子が何であろうと、特に、処置が不完全なままである神経障害性、炎症性及び/又は慢性の疼痛を考慮する場合、疼痛の改善された処置が現在でも未だに、患者によって非常に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Turk, Okifuji, Pain terms and taxonomies of pain; In: Bonica, Loeser, Chapman, Turk, Butler, Bonica's management of pain. Hagerstwon: Lippincott Williams & Wilkins, 2001
【非特許文献2】Spanswick, Main, Pain management: an interdisciplinary approach. Edinburgh: Churchill Livingstone, 2000
【非特許文献3】Thienhaus, Cole, Classification of pain. In: Weiner, Pain management: a practical guide for clinicians. Boca Raton: CRC Press, 2002
【非特許文献4】Turk, Okifuji, 2001, Pain terms and taxonomies. In Loeser, Butler, Chapman, et al. Bonica's management of pain, Lippincott Williams&Wilkins. ISBN 0-683-30462-3
【非特許文献5】Thienhaus, Cole, 2002, Classification of pain. In Weiner, Pain management: A practical guide for clinicians, American Academy of Pain Management, ISBN 0-8493-0926-3
【非特許文献6】Basbaum et al., 2009
【非特許文献7】Todd, 2010
【非特許文献8】Murnion, Combination analgesics in adults. Australian Prescriber (33):113-5. http://www.australianprescriber.com/magazine/33/4/113/5
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、疼痛を処置するための新規で効果的な組成物及び方法を提供することである。特に、本発明は、神経細胞の興奮を調節することによって、疼痛を予防又は処置するための新規な組成物及び方法を提案する。
【0012】
より具体的には、本発明の目的は、被験体における疼痛を処置又は予防するための活性成分としての使用のためのTAFA4タンパク質又はそのアゴニストに関する。
【0013】
本発明はまた、被験体における疼痛を予防又は処置する方法であって、それを必要とする被験体に、有効量のTAFA4タンパク質又はそのアゴニストを、単独で又は疼痛に対して有効な1つ又はそれ以上の更なる活性化合物と組み合わせてのいずれかで、投与することを含む方法に関する。
【0014】
本発明の別の目的は、i)TAFA4タンパク質又はそのアゴニスト、或いはこのようなタンパク質又はそのアゴニストを含む組成物、及びii)疼痛に対して有効な少なくとも1つの更なる別の活性化合物、を含むキットに関する。
【0015】
特定の実施態様では、TAFA4タンパク質は、配列番号1若しくは2のアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2と少なくとも90%の同一性を有する配列を含む。好ましくは、アゴニストは、侵害受容体又は介在神経細胞、好ましくはC−線維侵害受容体(好ましくは、C−LTMR)又は脊髄介在神経細胞(好ましくは、脊髄第IIi層(lamina IIi)介在神経細胞)の興奮を調節するTAFA4タンパク質のペプチド断片を含む。典型的には、アゴニストは、配列番号1若しくは2の少なくとも10の連続するアミノ酸残基、好ましくは少なくとも20、25、27又は30の連続するアミノ酸残基の断片を含むペプチドであり、より好ましくは、アゴニストは、配列番号3若しくは4のアミノ酸配列を含む。
【0016】
この点に関し、本発明の更なる目的は、TAFA4タンパク質のポリペプチド又はペプチドのアゴニストに関する。好ましくは、ポリペプチドアゴニストは、TAFA4タンパク質の断片を含み、侵害受容体又は介在神経細胞、好ましくはC−線維侵害受容体(好ましくは、C−LTMR)又は脊髄介在神経細胞(好ましくは、脊髄第IIi層介在神経細胞)の興奮を調節する。
【0017】
本発明は、任意の疼痛を予防又は処置するのに適当である。特に、それは、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、侵害受容体介在疼痛、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性疼痛、体性疼痛、内臓痛、アロディニア、痛覚過敏、又は神経傷害と関連する疼痛を処置又は予防するために用いてもよい。本発明は特に、炎症性及び/又は神経障害性疼痛を処置するために適している。
【0018】
TAFA4タンパク質又はアゴニストは、局所、経口、肛門、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮膚、皮下、真皮(dermical)、経皮、又は髄腔内の経路など任意の経路で投与又は適用され得る。
【0019】
本発明の更なる目的は、本明細書に記載されるTAFA4タンパク質又はそのアゴニスト、及び好ましくは薬学的に許容し得る担体を含む組成物に関する。
【0020】
本発明のTAFA4化合物は、単独で又は1つ若しくは幾つかの更なる活性化合物又は処置と更に組み合わせてのいずれかで用いられ得る。本発明において使用するための化合物は、同時、別々、又は経時的に処方してもよいし又は投与してもよい。
【0021】
本発明の更なる目的は、欠損したTAFA4遺伝子を有する、より好ましくは標的とする不活化されたTAFA4遺伝子を有するトランスジェニック齧歯動物に関する。このような齧歯動物は、好ましくは、増強された機械的及び化学的過敏、並びに増強された神経細胞の過興奮を呈する。
【0022】
本発明は、任意の哺乳動物の被験体において、特にヒト被験者において、疼痛を処置するために用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】TAFA4は、具体的にはC−LTMRを示す。(A)野生型成体マウスのL4(n=3;7.5%±1.3%)及びT12(n=3;19.2%±0.5%)DRGにおけるTAFA4陽性神経細胞のパーセント。(B)DRG Tafa4発現データの略図。図表中の円の大きさは、異なる分子マーカーにより表現される細胞集団の大きさにおおよそ比例する。(C〜H)成体マウス腰部(C〜F)及び胸部(G,H)DRG切片におけるTafa4プローブについてのインサイチュハイブリダイゼーションとそれに続く免疫染色、又はTrkA(C)、cRet(D)、MrgprD(E)、IB4(フルオレセインがコンジュゲートしたG. simplicifolia IB4−レクチン)(F)、TH(G)及びEGFP(H)についてのインサイチュハイブリダイゼーション(スケールバー=100μm)。
図2】GFP神経細胞は、C−無髄侵害受容体の多くの特性を示した。(A)TAFA4GFP/+(GFP)神経細胞の細胞膜キャパシタンス(Cm)及び入力抵抗(Rinput)のドットプロット。(B、C)TAFA4GFP/+神経細胞における単離されたNav1.8−、T−型Ca2+−、IK−、及びh−電流(B)の記録、並びに対応する周波数ヒストグラム(C)。試験した神経細胞の数を示す。(D)短期の2ms−脱分極工程(左パネル)、又は長期の脱分極及び過分極の工程(右パネル)により惹起されるTAFA4GFP/+神経細胞における代表的な作用電位、及び興奮応答。T−型Ca2+電流により誘発された膜過分極及び遅延したリバウンド電位についてのIhが介在する低下(sag)に留意。点線は、0mVレベルを示す。(E)様々な感覚刺激に応答するGFP−(TAFA4GFP/+)及びGFP神経細胞のパーセント(示すとおり)。右パネル:バス適用された低張溶液(200mOsmol/l)及びAITC(100μM)に応答して、TAFA4GFP/+神経細胞において惹起されたカルシウムシグナルの代表例。(F)4種の異なるTAFA4GFP/+神経細胞において標準的機械刺激により誘発された8μmのMA電流の代表的トレース。機械的プローブの速度は、機械刺激の前方運動の間、800μm/sであった。保持電位:−100mV。右パネル:速やかに適用(RA)、緩徐に適用(SA)、非常に緩徐に適用(uSA)、及び混合MA電流の周波数分布。データは、33のTAFA4GFP/+神経細胞にわたり採取され、標準的な機械刺激8μmにより刺激された。(G)TAFA4GFP/+神経細胞の速度と関連している興奮特性。機械的刺激が、緩徐な開始速度で適用されるにしたがい、興奮が増強されたことに留意(n=7)。
図3】TAFA4欠損マウスでは、組織傷害に誘発される過敏性が増大する。(A)CFA注射前及び注射後のダイナミックVon Frey装置を用いた、TAFA4欠損マウス(n=12)及びWT同腹仔(n=11)の機械的閾値。(B〜E)増大する内径の4つの異なるフィラメント(0.07、0.4、0.6及び1.4g)を用いたカラギーナン注射前(0日)及び注射後のTAFA4欠損マウス(n=12)及びWT同腹仔(n=7)の機械的感受性の時間経過。D+7では、スコアは、ヒト組換えTAFA4 2μgの髄腔内注射前及び注射15分後である。(F〜H)増大する内径の3つの異なるフィラメント(0.07、0.6及び1.4g、n=15)を用いたTAFA4欠損マウス(n=12)及びWT同腹仔(n=13)の坐骨神経狭窄(CCI)後の機械的感受性の時間経過。数値は、CCI前(0日)及びCCI後5日毎に決定した。D+30では、スコアは、ヒト組換えTAFA4 2μgの髄腔内注射前及び注射15分後である(TAFA4欠損マウス(n=5)、WT(n=7))。(I、J)2%ホルマリン注射後、引っ込める、噛む及び舐める行動に費やす時間経過及び合計時間(2相:第1期の0〜10分、第2期の10〜60分)(WT n=11、TAFA4欠損マウス n=12)。(K)TAFA4欠損マウスにおいて、ヒト組換えTAFA4 2μgの髄腔内注射により、ホルマリンにより惹起されたWTレベルに対する過敏性が回復される(ビヒクル(Vehicule) n=8、hTAFA4 n=8)。示したデータは、平均±SEMである。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、一元配置分散分析、続いて独立t検定。
図4】TAFA4欠損マウスでの第IIi層(Lamina IIi)神経細胞の興奮。(A1)WT(上)又はTAFA4欠損(下)の脊髄切片由来の神経細胞の2s脱分極(+25)又は過分極(−25pA)電流パルスへの応答を示す代表的記録。(A2)増大する強度の電流パルス(5〜50pA)により誘発されたAPの平均数の定量。(共分散分析、p<0.01)。(A3)WT及びTAFA4欠損マウスの第IIi層神経細胞における、2s脱分極電流パルス(+25pA)によって誘発された放電の異なる時間での平均興奮速度。(A4)2s過分極電流パルス(−50及び−25pA)後のリバウンド作用電位の平均数。(t検定、p<0.05)。(B1)WT及びTAFA4欠損神経細胞から、−40〜−100mVの前後の電圧勾配への代表的な電流応答。各トレースは、5回の逐次応答の平均を示す。(B2)WT及びTAFA4欠損動物の第IIi層神経細胞における上昇する電圧ランプの末端で測定された外向き電流のピークの定量(t検定、p<0.05)。(C1)WT条件下、並びに20nM組換えTAFA4、TEA(2.5mM)、及び4AP(1mM)の存在下での、前後の電圧ランプに対するTAFA4欠損第IIi層神経細胞の応答。(C2)TAFA4−第IIi層神経細胞における電圧ランプの立ち上がりエッジの末端で測定した外向き電流の定量。TAFA4適用後の外向き電流の増大(p<0.05)及び4APによるこの電流の遮断に留意。(D1、D2)TAFA5及びTAFA2(各々20nM)のバススーパーフュージョン(bath super fusion)後のTAFA4欠損動物の第IIi神経細胞における外向き電流の代表的トレース及び定量。(E1)WTにおける及び組換えTAFA4スーパーフュージョン(superfusion)後の、低閾値外向き電流の発生。(E2)GAD65/67層陰性(左)及び陽性(右)神経細胞の例。像は、単一共焦点面(single confocal plane)である。白い矢印は、GAD陽性細胞体の標識を示す。
図5】TAFA4 GFPマウスの発生及び提示。(A)TAFA4ノックインマウスの作製のための、Tafa4遺伝子座における相同組換えを誘発するために用いたTAFA4GFP BACに基づくストラテジーの略図。(B〜C)WT(B)及びTAFA4欠損マウス(C)(n=5)由来の成体胸部DRG切片におけるTafa4プローブでのインサイチュハイブリダイゼーション。(D)WT DRG(n=3、T12において6209+/−385、及びL4において7616+/−173)、並びにTAFA4欠損マウス(n=3、T12において5933+/−324、及びL4において7805+/−439)における神経細胞の総数。(E、F)WT及びTAFA4欠損成体マウス(n=3)のT12(B)及びL4(C)DRGにおけるRet、TH、TrkA、TrkB、TrkC及びTAFA4陽性神経細胞のパーセント。(G、H)新生仔TAFA4GFP/+(G)の横断切片における及び全組織標本成体DRG(H)における、GFPの免疫染色。(I、I’)成体TAFA4GFP/+マウス(I)及びTAFA4欠損マウス(I’)(n>3)由来の腰髄切片における、IB4染色を用いたGFP及びPKCγの免疫染色。(J、J’)TAFA4GFP/+(J)又はTAFA4欠損成体マウス(J’)(n>3)の背部皮膚切片におけるGFP及びS100の免疫染色。スケールバー=100μm。一元配置分散分析及びそれに続く独立t検定によりP>0.1。エラーバーは、SEMを表す。
図6】TAFA4欠損マウスは、運動活性、不安、掻痒、急性及び傷害誘導性の温度過敏については正常に振る舞う。TAFA4欠損マウスは、オープンフィールド試験による不安(n=14 WT、n=17 TAFA4欠損)(A)、ロータロッド(rotaroad)試験による運動協調性(n=22 WT、n=21 TAFA4欠損)(B)、ホットプレート試験(n=18 WT、n=17 TAFA4欠損)(C)、勾配試験による急性熱過敏(n=15 WT、n=17 TAFA4欠損)(D)、CFA誘発熱痛覚過敏(n=12 WT、n=14 TAFA4欠損)(E)、及び起痒性試薬48/80 100μgの注射後の掻痒試験(F)、において、WTの同腹マウスと比較して、未変化の表現型を示す。一元配置分散分析及びそれに続く独立t検定によりP>0.1。エラーバーは、SEMを表す。
図7】TAFA4欠損第IIi層神経細胞における受動的特性及び低閾値カチオン電流。(A)WT及びTAFA4欠損動物の第IIi神経細胞における膜電位(A1)、細胞入力抵抗(A2)、細胞キャパシタンス(A3)及び基電流(A4)の平均値。(B1)WT及びTAFA4欠損動物において、−25pAの過分極性電流パルスによって惹起されたIh低下を示す代表的記録。(B2)−50及び−25pAの過分極電流パルスによって惹起された平均Ih低下の定量。(B3)WT及びTAFA4欠損動物の第IIi層神経細胞における過分極パルス(範囲:−5pA −50pA)間のピークと定常状態(steady-stade)電位との間の相関。(C1)−100mVの保持電位から振幅を増大させて(25〜60mV)電圧を脱分極させる工程によって惹起されたWT及びTAFA4欠損第IIi層神経細胞の、代表的な単離されたT型様電流応答。(C2)T型様電流密度の定量により、WTとTAFA4欠損マウスとの間の有意差が明らかとなった(t検定;p<0.05)。(C3、C4)ヒト組換えTAFA4のバス適用前後のTAFA4欠損神経細胞で測定されたT型電流。
図8】疼痛のカラギーナンモデルにおけるインビボ髄腔内TAFA4タンパク質の鎮痛効果。
図9】神経障害性疼痛のSNIモデルにおけるインビボ髄腔内TAFA4タンパク質の鎮痛効果。
図10】TAFA4髄腔内注射後の反対側の足の応答。
図11】疼痛のカラギーナンモデルにおけるインビボ皮下TAFA4タンパク質の鎮痛効果。
図12】神経障害性疼痛のSNIモデルにおけるインビボ皮下TAFA4タンパク質の鎮痛効果。
図13】外科処置後7、14、及び21日目の神経障害性疼痛のSNIモデルにおけるインビボ皮下TAFA4タンパク質の鎮痛効果。
図14】重量モニタリング。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
本発明は、疼痛を処置するための新規な治療アプローチを提供する。より詳細には、本発明は、疼痛、特に神経障害性疼痛及び炎症性疼痛を効果的に管理するための新規な解決手段を提供する。この解決手段は、TAFA4化合物を用いることによる感覚感受性及び/又は神経細胞興奮の調節を含む。
【0025】
TAFA4は、ごく最近発見されたTAFAケモカイン様タンパク質ファミリーに属する小さな分泌タンパク質である(Tang et al., 2004)。TAFA4は、35アミノ酸のシグナル配列及び105アミノ酸の成熟鎖を含む140アミノ酸の前駆体として合成される。ヒトTAFA4は、マウスTAFA4と90%のアミノ酸同一性を有する。リアルタイムPCR分析によって、TAFA4のmRNA発現は、中枢神経系(CNS)に限定されており、視床で最大レベルであることが示されている。
【0026】
国際公開第2006/013462号は、幾つかの遺伝子配列及びそれらの使用に関する。しかしながら、これらの遺伝子、特にNsG28について提案されている用途は、本質的に推測のものであり、発現プロフィルのみに基づいている。この点に関し、参考文献は疼痛について述べているものの、当該用途についての理論的根拠及びこのような活性を支持する実験データはなく、少なくともこれらの遺伝子の幾つかについては、このような活性は誤りであることが判明している。更に、参考文献は、単離されたタンパク質の効果又は用途を開示していないので、当業者はこの文献を何らかの技術的教示を提供しているとは考えないだろう。
【0027】
本発明前には、TAFAのファミリーメンバーの生物学的機能は、決定されていないままであった。
【0028】
ここで、本発明者らは、驚くべきことに、TAFA4タンパク質が、疼痛の制御に関与していることを初めて示した。より詳細には、本発明は、TAFA4が、C−LTMR(C−線維低閾値機械受容体)と称される後根神経節(DRG)神経細胞の特定のサブセットに、特異的に発現されることを示す。本発明は更に、TAFA4欠損マウスが、組織傷害後に持続した機械的及び化学的過敏を呈し、その両方が、ヒト組換えTAFA4タンパク質の投与によって解消され得ることを示す。
【0029】
本発明者らはまた、TAFA4欠損マウスが、内部第II層脊髄神経細胞の有意な過興奮を呈することを示した。理論に縛られるものではないが、本発明者らは、有痛性刺激に応答して、病理学的条件下、C−LTMRにおける神経細胞活性の上昇が、低閾値電流の活性化を介して脊髄の特定の介在神経細胞の興奮を調節するTAFA4タンパク質の分泌を増強すると考えている。
【0030】
興味深いことに、本発明者らはまた、実験の部において、TAFA4タンパク質が、温度に誘導されるシグナルを標的にすることなく、機械的及び化学的に誘導される侵害受容性シグナルを特異的に標的にすることができることを示した。これは、熱に誘導される侵害刺激も標的としているためより特異的ではない公知の疼痛処置製品と比較して、かなりの長所である。
【0031】
本発明のTAFA4化合物及び組成物は、脊髄介在神経細胞(好ましくは、第IIi層介在神経細胞)のC−LTMR−侵害受容体が媒介する興奮を、例えば、当該介在神経細胞上に存在する受容体(カリウムイオンチャネル、カルシウムイオンチャネル、又は低密度リポタンパク質受容体、例えばLRP1、など)の活性の調節により、調節することによって、新たな鎮痛経路を活性化することができる。
【0032】
本発明は、以下の定義を参照することにより最も理解される。
【0033】
(定義)
本発明の状況内で、用語「TAFA4化合物」は、以下に定義するようなTAFA4タンパク質又はTAFA4アゴニストを意味する。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「TAFA4タンパク質」は、配列番号1(これはヒトTAFA4アミノ酸配列に対応する)又は配列番号2(これはマウスTAFA4アミノ酸配列に対応する)のアミノ酸配列、及びその任意の自然変異体(例えば、他の動物種に存在する変異体、又は多型若しくはスプライシングの結果としての変異体)を好ましくは含む、TAFAケモカイン様タンパク質のファミリーに属するタンパク質を意味する。本発明の状況内で、用語「TAFA4タンパク質」は、配列番号1又は2に示す配列に対して、少なくとも90%の配列同一性、好ましくは少なくとも95%の配列同一性又はそれ以上の配列同一性を有する配列を含む任意のタンパク質も包含する。典型的には、TAFA4タンパク質は、下記に定義するように、侵害受容体の感受性及び/又は神経細胞の興奮を調節することができる。
【0035】
本発明の状況内で、用語「TAFA4遺伝子」は、TAFA4タンパク質をコードする遺伝子又は核酸を意味する。特に、「TAFA4遺伝子」は、配列番号1若しくは2を含むタンパク質、又はこのようなタンパク質の自然変異体をコードする任意の核酸を包含する。
【0036】
用語「TAFA4アゴニスト」は、本発明の状況内で、TAFA4活性を有する、又は仲介する若しくは調節する任意の物質(例えば、ペプチド、ポリペプチド、組換えタンパク質、コンジュゲート、ケモカイン、抗原、天然若しくは人工リガンド、ホモログ、核酸、DNA、RNA、アプタマーなど、又はこれらの組み合わせ)を包含する。特に、TAFA4アゴニストは、TAFA4活性に関与する受容体の活性を、例えば、このような受容体に結合し、それにより神経細胞の興奮を調節することによって、調節する。用語「アゴニスト」は、完全及び部分的アゴニストの両方を包含する。典型的には、TAFA4アゴニストは、本願に記載されるように、感覚神経細胞(好ましくはC−LTMR)の感受性及び/又は介在神経細胞(好ましくは脊髄第IIi介在神経細胞)の興奮を、特に当該神経細胞上に存在する受容体の活性を調節することによって、調節することができる任意の化合物を意味する。
【0037】
TAFA4アゴニストは、侵害受容体又は介在神経細胞、好ましくはC−線維侵害受容体(好ましくは、C−LTMR)又は脊髄介在神経細胞(好ましくは、脊髄第IIi層介在神経細胞)の興奮を調節するTAFA4タンパク質の任意のペプチド断片を包含する。典型的には、TAFA4アゴニストは、配列番号1又は2の60未満のアミノ酸残基の断片を含むペプチドである。好ましくは、TAFA4アゴニストは、配列番号1又は2の少なくとも10の連続するアミノ酸残基、好ましくは、少なくとも20、15、25、27、28若しくは30の連続するアミノ酸残基を含む。最も好ましい態様では、このような断片は、上記で定義した「TAFA4タンパク質」のN末端部分の少なくとも10、15、20、25、27、28、若しくは30の連続するアミノ酸残基を含む断片である。別の実施態様では、TAFA4アゴニストは、上記で定義した「TAFA4タンパク質」のC末端部分の少なくとも10、15、20、25、27、28若しくは30の連続するアミノ酸残基を含む。TAFA4アゴニストの具体例は、(i)配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチド(これは配列番号1のヒトTAFAタンパク質のN末端部分の25アミノ酸残基に対応する);及び(ii)配列番号4のアミノ酸配列を含むペプチド(これは配列番号1のヒトTAFAタンパク質のC末端部分の27アミノ酸残基に対応する)である。本発明のTAFA4アゴニストは、本願におけるように、侵害受容体の感受性及び神経細胞の興奮を調節することができる。核酸又はタンパク質配列に適用される用語「配列同一性」は、スミス−ウオーターマンアラインメント(Smith and Waterman (1981) J Mol Biol 147:195-197)、CLUSTALW(Thompson et al. (1994) Nucleic Acids Res 22:4673-4680)、又はBLAST2(Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res 25:3389-3402)などの標準化されたアルゴリズムを用いて配列比較された少なくとも2つの配列の間のヌクレオチド又はアミノ酸残基のマッチの定量(通常は、パーセント)を指す。BLAST2は、アラインメントを最適化し、それらの間のより有意義な比較を達成する目的で、配列の一つにギャップを挿入するために標準化された再現性のある方法で用いられ得る。
【0038】
用語「疼痛」は、本発明の状況内では、組織損傷と関連のある任意の疼痛又は感受性を指す。好ましくは、本明細書で使用される疼痛との用語は、異常な感受性として、すなわち、典型的には侵害受容体によって(特に、C−LTMRによって)媒介される過敏として、理解される。疼痛の用語は、侵害受容体が媒介する疼痛(本明細書では、侵害受容性疼痛とも称される)、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、病理学的疼痛、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性疼痛、機械的疼痛、化学的疼痛、体性疼痛、内臓痛、深部体性疼痛、表在性体性疼痛、身体表現性疼痛、アロディニア、痛覚過敏、又は神経傷害と関連する疼痛から選択される任意の疼痛を含む。「侵害受容性」疼痛、又は「侵害受容体が媒介する」疼痛は、激しい又は侵害性の刺激による末梢感覚神経、(侵害受容体)の特定のサブセットの活性化に応答して起こる。本発明に係る侵害受容性疼痛には、機械的疼痛(挫滅、断裂など)、及び化学的疼痛(切り傷にヨウ素、目にチリパウダー)が含まれる。侵害受容性疼痛の例には、外傷性又は外科的疼痛、陣痛、捻挫、骨折、火傷、隆起(bumps)、打撲、注射、歯科処置、皮膚生検、及び閉塞が含まれるが、これらに限定されるものではない。侵害受容性疼痛は、内臓痛、深部体性疼痛、及び表在性体性疼痛を含む。内臓痛は、びまん性であり、位置を突き止めるのが困難であり、遠位の(通常は表在性の)構造にしばしば関連する。それは、吐き気及び嘔吐を伴うことがあり、気持ちが悪くなる、深部の、圧迫する、及び鈍く感じられると描写され得る。深部体性疼痛は、靭帯、腱、骨、血管、筋膜及び筋肉の侵害受容体の刺激によって開始され、鈍く感じられる、痛む、あまり局在化しない疼痛である。深部体性疼痛の例には、捻挫及び骨折が含まれる。表在性疼痛は、皮膚又はその他の表在組織の侵害受容体の活性化によって開始され、鋭く、はっきりしており、明確に局在している。表在性体性疼痛を起こす傷害の例には、軽度の創傷及び軽度の(第1度の)火傷が含まれる。炎症性疼痛は、術後、外傷後疼痛、関節炎の(リウマチ又は骨関節炎の)疼痛、並びに軸背下部疼痛におけるような関節、筋肉、及び腱への損傷と関連するを含む、組織損傷又は炎症の存在下で起こる疼痛である。炎症は、末梢感覚神経の感作の原因であり、自発的な疼痛をもたらし、疼痛過敏を無効にする。急性又は慢性の病理学的組織炎症は、末梢感覚神経を感作し、局所的及び普通に生活できなくする疼痛過敏を引き起こすことにより、疼痛の認知に対して強力な影響を与える。炎症性メディエーターは、部分的には、神経末端に存在するイオンチャネルの発現及び/又は機能を調節することにより、侵害受容性原発性求心性線維の興奮を増強することが知られている。侵害受容性疼痛は、慢性、非悪性疼痛の共通する型であり、末梢又は中枢神経系における傷害又は機能異常の結果である。神経障害性疼痛は、各種の病因を有し得、例えば外傷、外科処置、椎間板ヘルニア、脊髄傷害、糖尿病、帯状ヘルペスによる感染(帯状疱疹)、HIV/AIDS、末期ガン、切断術(乳房切除術を含む)、手根管症候群、慢性アルコール中毒、放射線被ばくに起因して、そして特定の抗HIV及び化学療法剤などの神経毒性を有する処置剤の意図しない副作用として、起こり得る。それはしばしば、慢性アロディニア(軽度の接触など、通常は疼痛性応答を起こさない刺激に起因する疼痛として定義される)、及び痛覚過敏(正常な疼痛性刺激に対する増大した感受性として定義される)により特徴付けられ、そして、任意の損傷した組織の見かけの治癒を超えて数か月間又は数年間持続し得る。疼痛はまた、ガンを有する患者においても起こり得、これは、複数の原因;炎症、圧迫、侵襲、骨又はその他の組織への転移性の広がりに起因し得る。疼痛はまた、脳の髄膜を神経支配する感覚線維の活性化と関連する片頭痛及び頭痛も含む。好ましくは、本発明のTAFA4化合物は、神経障害性及び/又は炎症性疼痛を予防又は処置するために使用される。
【0039】
疼痛の「閾値」は、本発明の状況内では、疼痛を生ずるのに必要な最少の刺激を意味する。特に、疼痛知覚閾値は、刺激が痛み始める点であり、被験者が疼痛を止めるために行動するときに疼痛耐性閾値に到達する。例えば、身体に適用される電流又は熱などの刺激の強度を徐々に増大させることにより、疼痛閾値は測定される。
【0040】
用語「侵害受容体」は、本発明の状況内では、疼痛に関連する侵害受容性情報を媒介する全ての可能性のある知覚神経を指す。侵害受容体は、皮膚組織を神経支配する。用語「侵害受容体」は、化学的、温度的若しくは機械的な刺激、又はこれらの刺激の組み合わせを含む各種の侵害性刺激を検出及び伝達する機械受容体、機械侵害受容体、マルチモーダルな侵害受容体(multimodal nociceptor)、化学受容体(chimioreceptor)及び/又は受容体前駆体(pruriceptor)を含むが、これらに限定されない。本発明に係る侵害受容体の具体例は、低閾値機械受容体(C−LTMR)に対応し、具体的には機械的及び化学的刺激に応答する。
【0041】
侵害受容体は、本発明のTAFA4化合物によって調節され得るか、又は脊髄の特定の介在神経細胞の興奮を、例えば低閾値電流の活性化を介して更に調節するために、このような化合物を用い得る。
【0042】
用語「介在神経細胞」は、本発明の状況内では、他の神経細胞間で情報を伝達するリレー神経細胞を指す。好ましくは、介在神経細胞は、知覚神経から脊髄の投射神経細胞へと侵害受容情報をリレーする神経細胞である。本発明による好ましい介在神経細胞は、脊髄第IIi層介在神経細胞である。介在神経細胞は、神経化学的に多様であり、例えばそれらは、興奮性介在神経細胞(グルタミン酸を用いる)及び/又は阻害性介在神経細胞(GABA又はグリシンを用いる)であり得る。
【0043】
典型的には、本発明による介在神経細胞は、本願に記載されるTAFA4化合物によって直接的及び/又は間接的に調節される介在神経細胞である。介在神経細胞は、各種組織化学的マーカー、各種の型の受容体(エンドサイトーシス受容体、代謝型受容体、イオンチャネル型受容体(inotropic receptor)、成長因子受容体を含む)を発現するが、その他のシグナル伝達分子も発現し、介在神経細胞の興奮は、好ましくは、このような受容体の活性の調節を介して調節される。
【0044】
用語「受容体」は、本発明の状況内では、代謝型受容体、エンドサイトーシス受容体(例えば、LRP1受容体)、並びにリガンド開口型イオンチャネル及び電位開口型イオンチャネル(例えば、カリウムチャネル、カルシウムチャネル及びナトリウムチャネル)等のイオンチャネル型受容体から選択される任意の受容体、又はこれらの組み合わせを含み、その活性は、本発明のTAFA4化合物によって調節することができる。エンドサイトーシス受容体には、リポタンパク質、プロテイナーゼ、プロテイナーゼ−阻害剤複合体及び細胞外マトリックスタンパク質を含む、様々な細胞外高分子及び高分子複合体の内在化を媒介する受容体が含まれる。本発明のこのようなエンドサイトーシス受容体の具体例は、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1(LRP1受容体)である。エンドサイトーシス受容体には、リガンドが媒介するシグナル伝達にも関与する受容体が含まれる。イオンチャネル型受容体には、イオンチャネル、チャネル連結受容体及びリガンド開口型イオンチャネル(LGIC)が含まれる。電位開口型イオンチャネル(カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネルなど)は、活動電位の開始と伝播の直接の原因となり異なる慢性疼痛障害に関与する、神経細胞の興奮において基本的な役割を果たすチャネルである。LGICには、神経伝達物質などの化学的メッセンジャー(すなわち、リガンド)の結合に応答して開くか又は閉じる、一群の膜貫通イオンチャネルが含まれる。LGICタンパク質複合体上の内因性リガンドの結合部位は、通常は、イオン透過孔が位置する場所に比べてタンパク質の異なる部分(アロステリック結合部位)に位置している。リガンド結合とイオンチャネルの開閉との間の直接的関連は、リガンド開口型イオンチャネルの特徴であり、二次メッセンジャーを使う代謝型受容体の間接的機能とは、対照的である。LGICは、電位開口型イオンチャネル(これは膜電位に応じて開閉する)、及び伸展活性化イオンチャネル(これは細胞膜の機械的変形に応じて開閉する)とも異なる。代謝型受容体は、細胞外の分子を感知し、内部シグナル伝達経路と最終的には細胞性応答を活性化する、膜貫通受容体の巨大タンパク質ファミリーを含む。代謝型受容体には、7回膜貫通ドメイン受容体、ヘプタヘリカル(heptahelical)受容体、セルペンチン受容体、及びGタンパク質結合受容体(GPLR)としても知られている、Gタンパク質共役受容体(GPCR)が含まれる。
【0045】
用語「調節」又は「神経細胞の興奮の調節」は、本発明の状況内では、本発明のTAFA4化合物を用いることによる、疼痛シグナルの伝達に関与する神経細胞の感受性及び/又は興奮の変化を指す。用語「調節」は、その活性が調節される介在神経細胞の型に応じた、神経細胞の興奮の「低下」及び/又は神経細胞の興奮の「増大」を含む。TAFA4によって調節され得る神経細胞は、知覚神経細胞及び/又は介在神経細胞である。神経細胞は、直接的若しくは間接的に、電気的若しくは化学的に、受容体を介して若しくはイオンチャネルを介して、又は上記の調節モードのいずれかの組み合わせによって、TAFA4により調節され得る。侵害受容体調節の例は、機械的又は化学的な刺激に応答する体性感覚の閾値の制御を含む侵害受容体の調節である。介在神経細胞調節の例は、脊髄介在神経細胞に存在する受容体の活性の調節を含む介在神経細胞の興奮の調節である。
【0046】
本発明の状況内では、用語「処置」又は被験体における疼痛を「処置する」は、本発明による適切なTAFA4化合物又は組成物の適用又は投与後に、本明細書に記載される被験体における任意の型の疼痛、又は疼痛と関連する任意の疾患若しくは状態(特に、神経障害性疼痛と関連する任意の神経障害状態)、又はこのような疾患若しくは状態の任意の症状を、遅らせる、安定化する、治療する(curing)、治癒させる、緩和する、軽減する、変化させる、寛解させる、改善する、治療する(remedying)又は影響することを指す。用語「処置」又は「処置する」もまた、寛解、緩解、進行若しくは重篤度の遅延、安定化、疼痛の症状の減少、又は被験体にとって疼痛をより耐えられやすくするなどの任意の客観的又は主観的なパラメーターを含む疼痛(これは任意の傷害、病態、又は状態と関連し得る)の処置における成功のいずれの指標をも指す。疼痛を「処置する」との用語はまた、疼痛耐性を増大させること及び/又は知覚される疼痛を減少させることを含む。具体的な実施態様では、本発明の方法、化合物及び組成物は、疼痛耐性を増大させるため及び/又は知覚される疼痛を減少させるためのものである。本明細書で使用される用語「疼痛耐性」は、被験体が知覚して、感情的に及び/又は身体的に参ってしまう前に持ちこたえられ得る疼痛の量を指す。疼痛耐性は、疼痛閾値(疼痛を起こすのに必要な最少の刺激)とは異なる。本明細書で使用される「疼痛耐性を増大させる」は、一般的には、例えば被験体への適切なTAFA4化合物又は組成物の投与後に、被験体が、以前の状態と比較した場合に、より大きい疼痛耐性(すなわち、疼痛をより知覚しにくくなる)を獲得することができる状況を指す。
【0047】
本発明の状況内では、被験体における疼痛に関して「予防する」又は「予防」は、本発明による適切なTAFA4化合物又は組成物の適用又は投与後、被験体による何らかの種類の疼痛の獲得のリスクの可能性(又は獲得に対する感受性)を少なくとも減少することを指す。例えば、「予防する」は、疼痛に曝されているか又は疼痛に対する素因はあるが、まだ疼痛の症状を経験又は呈していないであろう被験体において、疼痛の臨床症状の少なくとも一つが発症しないようにすることを含む。
【0048】
(活性成分)
本発明の目的は、被験体における疼痛、特に神経障害性疼痛、炎症性疼痛、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性疼痛、アロディニア、痛覚過敏、部分的に処置された疼痛、化学的に誘導された疼痛、機械的に誘導された疼痛、及び難治性疼痛を、好ましくは、有利には、有害な副作用を避けながら、予防又は処置するための活性成分として使用するためのTAFA4化合物である。好ましい実施態様では、TAFA4化合物は、神経障害性疼痛又は炎症性疼痛を効率的に管理するためのものである。本発明による化合物はまた、ガン、火傷などの病状を患っており、一般的にはそのための(モルヒネなどの)鎮痛剤が、長期間、場合によっては遅延形態で投与されていてもよい、被験体における慢性疼痛を予防又は処置するために用いてもよい。本発明による化合物はまた、患者の臨床像を改善するために、(例えば、腸障害などのモルヒネ様作用薬の副作用を制限することにより)減量した日用量のモルヒネと一緒に使用してもよい。
【0049】
好ましい実施態様では、本発明の化合物は、脊髄介在神経細胞第IIi層上に存在する少なくとも1つの受容体(特に、低密度タンパク質LRP1受容体、又はカリウムチャネル、又はカルシウムチャネル、又は別の生理学的に関連性のある受容体)の活性を調節する、配列番号1の配列又は配列番号1と少なくとも90%の同一性を有する配列を含むTAFA4タンパク質、或いは好ましくは配列番号1の断片、より好ましくは配列番号2の配列に示すようなその少なくとも30アミノ酸の断片を含むTAFA4アゴニストである。特定の実施態様では、本発明のTAFA4化合物は、有利には、更なる受容体(最初の受容体とは異なる)の活性を調節する。
【0050】
(被験体)
本発明の状況では、患者又は被験体は、動物、好ましくは脊椎動物、典型的には哺乳動物である。好ましい実施態様では、哺乳動物は、その年齢又は性別が何であろうと、ヒトである。哺乳動物は更に、動物、特に家畜又は繁殖動物、特にウマ、イヌ、ネコ等であり得る。特定の実施態様では、被験体は、神経障害性疼痛又は炎症性疼痛、特に慢性炎症性疼痛に罹患している。別の特定の実施態様では、被験体は、疼痛と関連し、何らかの様式で引き起こされる何らかの疾患又は状態に苦められている。
【0051】
(組成物)
本発明はまた、活性成分として、本明細書に記載されるTAFA4化合物、及び好ましくは薬学的に許容し得る担体を含む医薬組成物に関する。
【0052】
「医薬組成物」とは、本発明の化合物(活性成分)、及び生物学的に活性な化合物を、それを必要とする被験体に送達するための当該分野において一般的に受容されている媒体の製剤を指す。したがって、このような担体は、全ての薬学的に許容し得る担体、希釈剤、媒体又は支持体を含む。この担体は、例えばメチル−ベータ−シクロデキストリン、アクリル酸のポリマー(カルボポールなど)、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの混合物、モノエタノールアミン(monoetrhanol amine)及びヒドロキシメチルセルロースから選択することができる。被験体へ適切な製剤又は組成物を、例えば単位投与形態で提供するには、従来からの医薬プラクティスを採用すればよい。
【0053】
この組成物は、典型的には、局所鎮痛/抗痛覚過敏の組成物である。
【0054】
本発明の化合物及び組成物は、上述のように、被験体における疼痛を予防、軽減又は処置するための使用に適応される。
【0055】
本発明の化合物は更に、少なくとも1つの更なる活性化合物を含むことができる。この化合物は、有利には、SAID、NSAID又はオピオイド薬物から選択することができる。
【0056】
別の実施態様では、本発明の化合物又は組成物は、例えば同時に起きている状態を処置することを意図する薬剤(例えば、抗腫瘍剤)とともに投与することもできる。
【0057】
本発明に用いるための化合物は、同時に、別々に、又は逐次的に、投与してもよい。
【0058】
(本発明の化合物の製造方法)
本発明はまた、TAFA化合物の製造方法にも関する。
【0059】
本発明のTAFA4化合物(例えば、タンパク質又はペプチドアゴニスト)は、任意の従来から知られているタンパク質発現方法及び精製方法によって製造することができる。例えば:(i)ペプチドを合成する方法;(ii)それらを生体若しくは培養細胞から精製及び単離する方法;又は(iii)それらを遺伝子組換え技術を用いて製造する方法;及び類似のもの(例えば、Molecular Cloning (Sambrook, J., Fritsch, E. F., Maniatis, T., Cold Spring Harbor Laboratory Press) (1989)及びCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel, F. M., John Wiley and Sons, Inc. (1989)に例えば記載された標準技術)。したがって、本発明で使用するための好ましいタンパク質又はアゴニストは、単離又は精製される。通常使用される「単離された」は、例えば、タンパク質又はアゴニストが、細胞培養培地又は生存している有機体などのその天然又は製造環境のいくつかの成分から少なくとも分離されていることを示す。より好ましくは、タンパク質又はアゴニストは、50%を超える、60%を超える、70%を超える、80%を超える、90%を超える、又は更に好ましくは95%を超える純度レベルで単離された又は純粋な物質として使用される。次いで、単離又は精製されたタンパク質又はアゴニストは、引き続くセクションで記載するような賦形剤又は更なる活性剤などの更なる成分と組み合わせるか又は混合してもよい。
【0060】
(処置/プロトコール/レジメン)
本明細書ではまた、被験体における疼痛の予防又は処置方法も教示される。本方法の目的は、上記で定義されたTAFA4化合物又は組成物を用いて神経細胞の興奮を調節することである。それを必要とする被験体において侵害受容体が媒介する疼痛(特に、C−LTMR媒介疼痛)を予防、軽減又は処置する特定の方法は、本明細書に記載されるTAFA4化合物又は組成物の有効量を被験体に投与することを含む。
【0061】
それを必要とする被験体において、疼痛を予防、軽減又は処置するための更に特定の方法は、本明細書に記載されるTAFA4化合物又は組成物を、治療有効量で、ことによると、背景技術の部で述べたいずれか1つの分子(例えばアスピリン、イブプロフェン、パラセタモール、オピオイドなど)等の少なくとも1つの更なる活性化合物と組み合わせて、当該被験体に投与する工程を含む。
【0062】
好ましくは、処置方法は、神経障害性疼痛又は神経障害の処置であって、このような神経障害の症状におけるいずれかの改善、又は表面的な兆候(outward sign)のいずれかの遅延若しくは軽減、例えばそれらの頻度の低下、障害や不快さの軽減、疼痛の軽減、又は神経障害の全体的な消失さえも含む、処置を指す。特定の実施態様では、本発明のTAFA4化合物又は組成物は、被験体が曝される又は曝され得る神経障害性疼痛又は神経障害から被験体を保護するために、疾患の最初の兆候が発症する前に、神経障害性疼痛を予防する又は神経障害を予防するのに有用である。
【0063】
このような処置のために本発明の化合物又は組成物を投与する期間、投与量及び頻度はまた、疼痛の異なる形式(すなわち、急性又は慢性の神経障害性疼痛)に応じて適応され得る。処置は、単独で用いてもよいし、又は、同時若しくは別々に若しくは逐次的にいずれかで、その他の活性成分と組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明による化合物又は組成物は、様々な方法又は経路で投与され得る。本発明の化合物又は組成物は、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮膚、皮下、真皮、経皮的、髄腔内、眼(例えば、角膜)、又は直腸による方法により、或いは炎症部位への局所的投与により、好ましくは筋肉内又は静脈内注射により、投与され得る。
【0065】
局所レジメンは、有効量のTAFA4化合物を、単回、或いは1又は数日、1年まで、そして1週〜約6か月間を含む期間にわたり、繰り返し投与することを含み、それは長期にわたるものであってもよい。インビボで投与される本発明の医薬化合物又は組成物の投与量は、受容者(被験体)の年齢、健康状態、性別及び体重、もしあれば同時に行っている処置の種類、処置の頻度、及び所望の医薬効果の性質に依存することが理解される。本明細書で提供される有効用量の範囲は、好ましい用量範囲を限定又は代表することを意図するものではない。しかしながら、最も好ましい投与量は、関連する技術分野の当業者により理解され決定可能なように、個々の被験体に適合される(例えば、Berkowet et al., eds., The Merck Manual, 16th edition, Merck and Co., Rahway, N.J., 1992; Goodmanetna., eds., Goodman and Cilman’s The pharmacological Basis of Therapeutics, 10th edition, Pergamon Press, Inc., Elmsford, N.Y., (2001)を参照)。
【0066】
各処置に求められる総用量は、複数回の投与で、又は単回投与で、好ましくは疼痛の初期症状が現れたら速やかに、又は予防的に、例えば、必要な場合には外科処置の前又はその間に、投与することができる。医薬化合物は、単独で、或いは病態に向けられた又は病態のその他の症状に向けられた少なくとも1つの他の医薬とともに、投与することができる。本発明による化合物又は組成物の有効量は、約1μg〜100mg/kg体重であり、好ましくは4〜24時間の間隔で、数日、数週間、若しくは数か月、又は1年まで、及び/又はその内の任意の範囲又は値で投与される。例えば0.001〜0.01、0.01〜0.1、0.05〜100、0.05〜10、0.05〜5、0.05〜1、0.1〜100、0.1〜1.0、0.1〜5、1.0〜10、5〜10、10〜20、20〜50、及び50〜100mg/kg、例えば0.05〜100mg/kg、好ましくは0.05〜5mg/kg、例えば0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1、2、3、4、又は5mg/kg、1〜4、4〜10、10〜16、16〜24時間の間隔で、1〜14、14〜28、若しくは30〜44日間、又は1〜24週間の期間、或いはその内の任意の範囲又は値で。典型的な投与スケジュールは、1μg〜100mg/kg/日を含む。
【0067】
本発明の化合物及び/又は組成物の投与の受容者は、本明細書で定義される任意の被験体、好ましくはヒトであり得る。
【0068】
(製剤/濃度)
本発明による化合物又は組成物は、様々な形態で投与され得る。したがって、それらは、軟膏、ゲル、ペースト、液体溶液、懸濁剤、錠剤、ゼラチンカプセル、カプセル、坐剤(特に、胃腸症候群と関連のある疼痛の場合)、散剤、点鼻液、又はエアロゾルの形態に、好ましくは軟膏の形態に製剤化され得る。本発明の化合物は、典型的には、軟膏、ゲル、オイル、錠剤、坐剤、散剤、ゼラチンカプセル、カプセルなどの形態で、場合により持続及び/又は遅延の放出を確実にする剤型又はデバイスの手段によって、投与される。この種類の製剤には、セルロース、カルボナート、又はデンプンなどの薬剤が有利には用いられる。注射用には、本化合物を、一般的には、液体懸濁剤の形態で包装し、これを例えば注射器又は灌流を介して注射してもよい。この点では、本化合物を、一般的には、薬学的使用に適合性があり当業者には公知である生理食塩水、生理学的に等張性の又は緩衝化された溶液などに、溶解する。したがって、本組成物は、分散剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤などから選択される1又はそれ以上の薬剤又は賦形剤を含んでもよい。液体及び/又は注射可能な製剤に用いることができる薬剤又は賦形剤は、とりわけ、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、乳糖、植物油、アラビアゴムなどである。投与する流速及び/又は用量は、患者、観察される疼痛、処置すべき面積、関連する活性化合物(単数又は複数)、投与形態などに応じて、当業者によって調節され得ることが理解される。局所適用には、処置される被験体を、例えば処置する末梢神経細胞に隣接する皮膚表面、粘膜などの標的領域に、本発明による医薬化合物又は組成物の有効量に曝すことが好ましい。
【0069】
典型的には、既に記載した判断基準、使用が予防的であるか又は治療的であるかどうか、及び用いる局所ビヒクルの性質に依存して、本発明の化合物約50μg〜約5mg/kg体重で変動し得る用量で、化合物を投与する。好ましい投与は、筋肉内、又は静脈内、又は腹腔内注射である。更に、注射による投与は、必要であれば1日当たり数回(2、3、又は4回)の投与を含んでもよい。加えて、長期にわたる処置については、被験体に有効かつ長期に続く疼痛処置を確保する、遅延又は持続系が有利であり得る。
【0070】
本発明はまた、(i)上述したようなTAFA4化合物又は組成物、及び(ii)疼痛に対して有効な、少なくとも1つの更なる別の活性化合物、そして場合により(iii)キットを使用するための使用説明書を含む、キットにも関する。
【0071】
特定の実施態様によると、本発明はまた、本明細書に記載される方法による処置に適したキットにも関する。これらのキットは、本発明による有効量で、同時に、別々に、又は逐次的に投与するための、(i)典型的には本明細書で示した投与量の既に記載したTAFA4化合物又は組成物、及び(ii)古典的に処方されるのと比較すると一般的には低下された投与量で、鎮痛性化合物、好ましくはオピエート化合物を含む第2の組成物、を含む。
【0072】
図面及び実施例は、本発明を、その範囲を限定することなく説明する。
【実施例】
【0073】
I. 実験手順
全ての動物(マウス)を、標準的な住居条件(22℃、湿度40%、12時間の光サイクル、飼料及び水への自由なアクセス)下で維持した。以下の実験で用いるマウスの数並びにストレス及び苦痛を最小限にするために特に努力を行った。全てのプロトコールは、動物実験に関する欧州連合の勧告に合致している。
【0074】
I.1. 標的化され不活性化されたTAFA4遺伝子によるtafa4−GFP KIマウスの産生
tafa4−GFP KIマウスを産生するために、本発明者らは、胚性幹細胞において、バクテリア人工染色体(BAC)に基づく相同組換えを用いた。最終的なターゲティングベクターを、129SVJ「BACPAC」Resources Center(BPRC)ライブラリーから得たpBAC(RP23−427L8)におけるマウスtafa4遺伝子座の209kbのゲノムクローンに基づき構築した(図2A)。RP23−427L8 BACベクターにおける細菌の組換え(bacterial recombination)は、プラスミドベクターpL452及びpCS2/venus sv40を用いて構築した中間標的構築物を用いて遺伝子操作した。tafa4遺伝子のエクソン1の109bpを、「YFP(Venus、以降はGFP)−polyA loxP−EM7−PGK−Neo−loxP」カセットにより置換した。ホモロジーアーム(arms of homology)は、Taq phusion polymerase(Finnzymes)を用いて、271pb及び265pbのPCR生成物として単離した。細菌におけるBACの相同組換え後、最終標的構築物を、AscIサイトを用いて直線化し、129/SV由来の胚性幹細胞CK35中にトランスフェクトした。相同組換えクローンを、構築物の3’末端に位置するプローブを用いたサザンブロットにより及びネオマイシンプローブにより同定した。2つの標的化されたクローンを、Immunology Centerの遺伝子導入施設において、C57Bl6/J由来の胚盤胞へ注入した。得られたキメラをC57Bl6/J雌性体と交配させて、組換えアレルのジャームライン・トランスミッション(germ line-transmission)を得た。
【0075】
以下のオリゴヌクレオチドを、PCRの遺伝子型同定に用いた:
【化1】
【0076】
異型接合雄性体及び雌性体を交配させて、原稿(manuscript)の行動試験に記載されている集団を産生した。細胞及び分子の実験のためのGFPの視覚化を増大させるために、本発明者らはまた、TAFA4 GFP−NEO株を産生した。TAFA4GFP/+マウスをCre Deleterマウス系統と交雑させることによって、neoカセットを除去した。neoカセットが存在しないことを、PCRにより確認した。行動分析及び後根が付着した脊髄切片からのホールセルパッチクランプ記録を除いては、全ての実験に、Cre組換えTAFA4 GFPマウスを使用した。
【0077】
I.2. 組織切片、及びインサイチュハイブリダイゼーション/免疫蛍光
成体組織を得るために、ケタミン/キシラジンの混合物によりマウスに深い麻酔をかけ、次いで、PBS(PAF)中パラホルムアルデヒド4%の氷冷溶液で経心的に灌流した。切開後、これらを、4℃で同じ固定液中で、少なくとも24時間、ポストフィックスした。氷冷PBS 1×中、P0を回収し、穏やかに洗浄し、4%PAF中で24時間固定した。皮膚の免疫蛍光のために、麻酔をかけたマウスから、胴の皮膚を切り取り、4℃で24時間、15%(v/v)ピクリン酸−2%ホルムアルデヒド中で、直接固定した。次いで、凍結保護のため、組織を、30%(w/v)ショ糖溶液へ移し、その後、凍結し、−80℃で保存した。試料を、標準的なクリオスタット(Leica)を用いて、薄片にした(12〜40μm)。標準的なプロトコール(Moqrich et al., 2004)に従って、インサイチュハイブリダイゼーション及び免疫蛍光を行った。RNAプローブ(Tafa4、TH、Vglut3、TrkB、MrgprD、SCG10)を、遺伝子特異的PCRプライマー及びcDNAテンプレートを用いて、胚性又は成体のマウスDRGから合成した。より詳細には、ジゴキシゲニン及び/又はフルオレセイン/ビオチン標識したプローブの組み合わせを用いて、インサイチュハイブリダイゼーションを行った。プローブを、55℃で一夜ハイブリダイズし、切片を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ抗ジゴキシゲニン/フルオレセイン/ビオチン抗体(Roche)と共にインキュベートした。フルオレセイン/cy3/cy5 TSAプラスキット(Perkin Elmer)を用いて、最終的検出を行った。二重蛍光インサイチュ実験については、H処理を用いて、第一の抗体を不活化した。
【0078】
プローブ合成のためのネステッドPCRについては、以下のオリゴヌクレオチドを用いた:
【化2】
【0079】
免疫蛍光には、第一の抗体を、PBS−10%ロバ又はヤギの血清(Sigma)−3%ウシアルブミン(Sigma)−0.4% Triton X-100中で希釈し、4℃で一夜インキュベートした。第一の抗体の濃度及び基準は以下のとおりである:ウサギ抗TrkA 1:1000 (Interchim)、ヤギ抗TrkC 1:1000 (R&D Systems)、ヤギ抗Ret 1:500 (R&D Systems)、ウサギ抗CGRP 1:2000 (Chemicon)、ニワトリ抗緑色蛍光タンパク質(GFP) 1:1000 (Aves Labs)、ウサギ抗PKCγ1:1000 (Santa Cruz Biotechnology)、抗S100 1:400 (Dako)、及びヤギ抗パルブアルブミン1:1000 (Swant)。第二の検出には、対応するロバ又はヤギの抗ウサギ、抗ニワトリ(anti-chick)及び抗ヤギAlexa 488、555、又は647 (Invitrogen又はMolecular probe antibodies)を用いた。Alexa FluorR 568染料に対するIsolectin IB4 Conjugatesは、1:100で用いた(Invitrogen)。
【0080】
I.3. 細胞計数及び総計学的分析
胸部(T12)及び腰部(L4)DRGの12μm連続切片を、それぞれ6つ及び8つのスライドに配置し、pan-neuronal marker SCG10を含む異なるマーカーに付した。このアプローチにより、本発明者らは、神経細胞の総数を提供することに加えて、SCG10神経細胞のパーセントとして全ての計数を表すことが可能となった。各遺伝子型については、少なくとも3匹の独立のマウスにおいて、2〜4のDRGを計数した。総計学的有意差を、p<0.05に設定し、一元配置分散分析、続いて独立t検定を用いて評価した。
【0081】
I.4. 電気生理学的記録及びカルシウム造影
DRG神経細胞の培養物、及び後根付着脊髄切片由来の培養物のホールセルパッチクランプ記録、並びにカルシウム造影プロトコールを、以下に記載する:
【0082】
− パッチクランプ記録のためのDRG神経細胞の培養
7〜14週齢の異型接合又はTAFA4欠損の雄性マウスを、ハロタンにより麻酔し、「実験動物のケア及び使用のためのガイド」(the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って、頸動脈の切断により供死した。以前記載されているように(Hao and Delmas, 2010, 2011)、それらの結合組織鞘から切り取り遊離させた腰部DRGから、DRG神経細胞の分離及び培養を実現した。コラゲナーゼIAを2mg/ml含む酵素溶液中で、37℃で45分間、それらをインキュベートし、ハンクス液(GIBCO BRL)中で粉砕した。得られた懸濁液を、ラミニン(Sigma)10ng/mlで被覆されたNunclon皿にプレートした。培養培地は、10%熱不活化FCS、100U/mlペニシリン−ストレプトマイシン、2mM l−グルタミン、25ng/ml神経成長因子(NGF7S, Sigma Aldrich, France)、及び2ng/mlグリア由来神経栄養因子(GDNF, Invitrogen, France)(全て、GIBCO BRLから)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)であった。神経細胞を、加湿雰囲気中(5%CO、37℃)で記録前に12時間維持した。
【0083】
− ホールセルパッチクランプ記録
パッチクランプ記録を、2〜3MΩの範囲の抵抗を有するホウケイ酸電極を用いて行った。Nav1.8及びICaTの記録には、(mM):125 CsCl、10 Hepes、5 NaCl、0.4 NaGTP、4 MgATP、1 MgCl、4.8 CaCl、及び10 EGTA(CsOHでpH7.3に調整)からなるCsClベースのピペット溶液を用いた。IKA、h電流及びMA電流を、(mM):134 KCl、10 Hepes、4 MgATP、0.4 NaGTP、1 MgCl、4.8 CaCl、及び10 EGTA(pH7.3)を含むKClベースのピペット溶液を用いて、記録した。同じKClベースのピペット溶液を、電流固定記録に用いた。標準的な外部溶液は、(mM):132 NaCl、1 KCl、1 MgCl、2.5 CaCl、10 HEPES、10 D−グルコース、及びTTX(500nM、Ascent Scientific)(NaOHによりpH7.3に調整、300mOsm/l)からなっていた。神経細胞を、流速2〜3ml/分でバス溶液で灌流した。
【0084】
− 機械的刺激
圧電駆動的に駆動される機械的プローブを用いた機械的刺激は、他で詳細に記載されている(Hao and Delmas, 2010)。簡単に述べると、圧電アクチュエーター(Step Driver PZ-100; Burleigh)に接合した先端熱加工ガラスマイクロピペットを、機械的プローブとして用い、水平から45°の角度に配置した。細胞へ向けてのプローブの下方への動きを、pClampプログラム(Molecular Devices)により駆動した。プローブは、前方への動きのためのコマンドのランプセグメントの間、800μm/sの速度を有しており(そうでなければ記載)、刺激を、200ms〜数秒の範囲の期間で適用した。特記しない限り、電位固定MA電流を、−100mVの保持電位で記録した。
【0085】
MS電流減衰の時間定数を、チェビシェフ非線形最小二乗法を用いて指数関数的に適合させた(Hao and Delmas, 2010)。電流のトレースは、単一指数関数又は双指数関数のいずれかで適合させた。双指数関数は、以下のようなものであった:I(t)=A1・exp(−t/τ1)+A2・exp(−t/τ2)+Ao、ここでτ1及びτ2は、rapid及びslowの指数成分(rapid and slow exponential components)を表し、A1及びA2は、それぞれの成分の振幅を表し、Aoは、基底電流を表す。2つを超える指数成分とのフィットは、残留分析により判断したところ、電流減衰の描写(description)を有意には増強しなかった。−100mVで惹起された電流の主成分(≧80%)が、単一指数関数的に低下した場合には、細胞は、特定のMSカチオン電流を発現していると分類された。この要件を充足しないMS電流は、混合(mixed)と分類された。電流減衰時間定数に基づくと、3種類のMS電流、すなわち、速やかに適合する電流(rapidly adapting currents)(IR、3〜6ms)、緩徐に適合する電流(slowly adapting currents)(IS、200〜300ms)、及び非常に緩徐に適合する電流(ultra-slowly adapting currents)(IuS、≧1000ms)に区別することができた。
【0086】
− データの獲得及び分析
電圧及び電流の記録を、1kHzでフィルターし40〜100μsでサンプリングするAxopatch 200B増幅器(Molecular Devices)を用いて行った。電圧誤差は、75〜85%直列抵抗補正(series resistance compensation)を用いて最小限にした。細胞キャパシタンスを、10mV過分極工程により誘発される過渡電流の遅延相の時間定数から推定した。全ての実験を、室温で行った。PRISM 4.0(GraphPad)ソフトウエアを、データ分析を行うために使用した。結果を、平均±SEMとして表し、nは、試験した神経細胞の数を表す。統計学的分析は、スチューデントのt検定を用い、p<0.01を、統計学的に有意と考えた。
【0087】
− 後根が付着した脊髄切片からのホールセルパッチクランプ記録
幼若(P21〜P34)TAFA4欠損及びWTのマウス由来の後根が付着した横断脊髄切片を、Mourot et al(Mourot et al., 2012)に記載のプロトコールに従い、ホールセル記録用に調製した。マウスをイソフルランで深く麻酔し、その後、速やかに断頭した。椎弓切除、すなわち、脊髄を穏やかに除去しその腰椎部を少量の3%アガロースブロックに配置した後、脊柱及び周囲の筋肉を含む組織の断片を速やかに除去し、氷冷し酸素負荷した低カルシウム人工脳脊髄液(ACSF)(mM:NaCl 101;KCl 3.8;MgCl 18.7、 MgSO 1.3;KHPO 1.2;HEPES 10;CaCl 1;グルコース 1)に浸漬した。脊髄切片(厚さ300μm)を、Leica VTS1000ビブラトームを用いて切断し、パッチクランプ記録開始前の少なくとも1時間、95%O−5%COで平衡にした温かい(31℃)ACSF(mM:NaCl 130.5; KCl 2.4;CaCl 2.4;NaHCO 19.5;MgSO 1.3;KHPO 1.2;HEPES 1.25;グルコース 10;pH 7.4)中に移した。脊髄切片を、温かい(31℃)ACSFを満たした記録チャンバーに入れた。マルチクランプ2B(Molecular devices)を用い、Olympus BX51顕微鏡のコントロール下で、電気生理学的測定を行った。パッチピペット(7〜11Ω)を、適切なピペット溶液(mM:グルコン酸K 120;KCl 20;CaCl 0.1;MgCl 1.3;EGTA 1;HEPES 10;GTP 0.1;cAMP 0.2;ロイペプチン 0.1;NaATP 3; D−マンニトール 77;pH7.3)で満たした。T型カルシウム電流の測定のために、パッチピペットは、以下の濃度(mM:メタンスルホン酸Cs 120;CsCl 20;CaCl 0.1;MgCl 1.3;EGTA 1;HEPES 10;GTP 0.1;cAMP 0.2;ロイペプチン 0.1;NaATP 3;D−マンニトール 77;pH 7.3)を有しており、活性化されたナトリウム電位及びシナプス電流を遮断するために、ACSFに、TTX(0.5μM)、CNQX(5μM)、DL−APV(10μM)、ストリキニーネ(10μM)、ビククリン(5μM)及びTEA(2.5mM)を加えた。後根を刺激するために、Master 8(A.M.P.Instrument Ltd)刺激装置に接続したガラス吸引電極を用いた。典型的には、記録した切片において、多くの一次求心性線維をリクルートするために、高い持続時間(500μs)高い強度の刺激(350μA)を用いた。液間電位差(計算値−16.5mV)は、補正していない。
【0088】
− 脊髄第IIi層の記録した介在神経細胞の分子同定
記録した第II層神経細胞の神経伝達物質の表現型を決定するために、ピペット記録溶液にビオシチン0.5%を加えた。記録の最後に、パッチピペットを慎重に除去して、記録した神経細胞の完全性を可能な限り保存した。次に、脊髄切片を、ビオシチン及びGADのその後の顕色のために、4%PFA中、4℃で一晩固定し、0.5%PFA中、4℃で維持した。切片を、PBST中で3回すすぎ、一次抗体(抗GAD6567、Sigma 5163、PBST 0.5%BSA中、1/2000)中、4℃で48時間、インキュベートした。切片を、PBST中で3回すすぎ、二次抗体(ヤギ抗ウサギalexa568、Molecular Probe A-11011、1/500)及びストレプトアビジンalexa488(invitrogen S-11266、1/500)の混合物中で一晩インキュベートした。切片をPBST中で3回すすぎ、Dako蛍光マウンティング培地中でマウントした。x63油浸対物レンズを用いたLeica SPE共焦点顕微鏡で、取得を実施した。
【0089】
− Ca2+造影
異型接合体又はノックアウトの7〜14週齢のTAFA4マウス由来の腰部DRG神経細胞を、ラミニンを被覆したガラス底チャンバー(fluorodish WPI)上に播種し、100ng/ml NGF 7S(Sigma Aldrich, France)、2ng/ml GDNF(Invitrogen, France)及び10ng/ml NT4(Peprotech, France)を含むB27補充Neurobasal A培地(Invitrogen, France)中、37℃で16〜22時間培養した。播種の12〜17時間後にカルシウム造影を行った。記録の前に、神経細胞を、タイロード液中、5μM fura-2AMと共に、37℃で1時間、インキュベートした。Coolsnap HQカメラ(Roper Scientific, France)を装着した倒立顕微鏡(Olympus IX70)を用いて、蛍光測定を行った。fura-2は、340nm及び380nmで励起し、510nmで発光した蛍光の割合を、Metafluorソフトウエア(Universal Imaging)を用いて、浴温で同時に獲得した。温度を、抵抗性ヒーター(CellMicroControls)と直列にマウントしたペルチエ装置で冷却した重力駆動灌流(gravity driven perfusion)(1〜2ml/分)を用いて制御した。灌流は、最初は12℃で冷却し、次いで37℃で加熱し、その後、チャンバ中に適用した。温度を、常に同じ位置にある灌流出口近くに配置したサーミスタプローブを用いてモニターした。加熱のスイッチを切ることにより行った37℃から15℃未満への急速な冷却は、典型的には40秒未満かかった。幾つかの一過性受容体イオンチャネルの薬理学的アゴニスト(100μM メントール、100μM アリルイソチオシアナート(AITC)、0.5μM カプサイシン、10μM 硫酸プレグネノロン)を、タイロード液中に調製し、37℃で数秒間、神経細胞に連続的に適用した。等張及び低張の刺激については、モル浸透圧濃度を制御するために、NaCl濃度を一定に維持し、マンニトールのレベルを変化させて、細胞外溶液を調製した。等張性溶液(300mOsm)は、以下を含有しており(mM):87 NaCl、100 マンニトール、3 KCl、1 MgCl、2.5 CaCl、10 Hepes、10 グルコース;低張性溶液(200mOsm)は、以下を含有していた(mM):87 NaCl、51 マンニトール、3 KCl、1 MgCl、2.5 CaCl、10 Hepes、10 グルコース。データを、metafluor、excel、及びgraphpad prismを用いて、オフラインで解析した。
【0090】
II. 行動アッセイ
全ての行動分析(オープンフィールド、ロータロッド、ホットプレート、コールドプレート、温度勾配、二種温度選択、温痛覚閾値(ハーグリーブス試験)、掻痒試験、フォンフライ、動的フォンフライ、及びホルマリン試験)を、同腹の8〜12週齢の雄性動物で行った。これらの全ての試験の詳細な説明を以下に提供する。完全フロイントアジュバント(CFA)及びカラギーナンの後ろ足への注射、組換えTAFA4の髄腔内注射、及び坐骨神経の慢性狭窄(CCI)についても、以下に記載する。全ての統計学的計算に、スチューデントのt検定を用いた。
【0091】
より詳細には、交雑C57BL6/129SVの遺伝的背景を有する同腹の8〜12週齢の動物で、全ての行動アッセイを行った。動物を、室温(およそ22℃)で行う全ての実験の前に、それらの試験環境に20分間順化させた。試験の間、実験者は、マウスの遺伝子型を知らされていなかった。全ての統計学的計算に、スチューデントのt検定を用いた。全てのエラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。一般行動(自発運動及び学習活動)を、ロータロッド装置(LSI Letica Scientific Instruments)を用いて測定した。グラジエント、熱プレート、オープンフィールド、ハーグリーブス、及びフォンフライ装置は、Bioseb instrumentsからのものであった。
【0092】
II.1. 一般行動アッセイ
II.1.A. オープンフィールド試験
オープンフィールド試験は、自発運動、探索及び不安様行動を評価するために一般に用いられている。それは、動物が逃げ出すのを防ぐ壁で囲まれた空で明るい四角いアリーナ(40×40×35cm)からなる。動物を、アリーナの中央に個々に置き、その行動を、ビデオカメラで5分間にわたり記録した。不安関連行動を、齧歯動物が中央エリア(20×20cm)を避ける程度により測定し、Bioseb追跡ソフトウエアにより分析する。
【0093】
II.1.B. ロータロッド試験
マウスにおける協調運動、平衡機能及び学習機能を検討するために、ロータロッド装置(LSI Letica Scientific Instruments)を用いた。マウスを、5分間かけて定速回転の4rpmから44rpmまで徐々に加速するロッド上に置き、この間に落ちるまでの待機時間を記録した。試験を、連続する4日間で行った。各日、動物を、少なくとも5分間の休息期間を挟んで3回試験した。温度選択に対する応答試験、及び温度勾配に対する応答アッセイを、(Moqrich et al., 2005)に記載するように、しかしBioseb装置を用いて、行った。
【0094】
II.2. 熱感受性試験
II.2.A. ホットプレート
熱感受性を評価するために、マウスを個々に、高さ20cmのプレキシガラスシリンダーにより、48℃、50℃、又は52℃に維持した金属表面に拘束し、侵害受容性応答(後ろ足を、舐めること、振ること又はジャンプすること)までの待機時間を測定した。組織損傷を避けるために、侵害受容性応答の直後、又はそれぞれ最大90秒、60秒、及び45秒の後に、マウスをプレートから除去した。それぞれのマウスを、各試験の間、5分間の待機時間を置いて2回試験し;回収時間は、2回の測定値の平均値に対応する。各試験温度の間の少なくとも1時間の待機時間を順守した。
【0095】
II.2.B. コールドプレート
寒冷感受性を試験するために、マウスを個々に、22℃、10℃、又は4℃に維持したプレキシガラスチャンバーに入れた。最初の1分間でのマウスの立ち上がり時間を測定する。試験の間、最短5分間の休息時間を置き、温度の間では1時間の分離期間をおいて、各マウスを、それぞれの温度に3回曝す。
【0096】
II.2.C. 温度勾配試験
この試験については、以前に記載されている(Moqrich et al., 2005)。要約すると、温度勾配装置(Bioseb)の4か所の別々のアリーナで、マウスを90分間、個別に追跡した。アルミニウム床の各末端に配置した2つのペルティエ加熱/冷却装置を用いて、14℃〜53.5℃の制御され安定な温度勾配を維持した。各アリーナを、別個の安定な温度の、同じ大きさ(8cm)の15のゾーンに実質的に分割した。製造業者により提供されたソフトウエアにより制御されたビデオカメラを用いて、追跡を行った。
【0097】
II.2.D. 二種温度選択試験(Two-temperature choice test)
2匹のマウスを、二種温度選択装置(Bioseb)の各レーンに同時に入れた。Biosebソフトウエアを用いてマウスを10分間追跡した。第1日目の間、両方のプレートを、10分間20℃に維持した。この馴化期間後の日では、二つのプレートを個々に、異なる温度まで温めるか又は冷却し(42℃〜16℃)、10分間の試験の間は、適切な温度に維持した。2回の異なる試験の間、1時間の経過を順守した。
【0098】
II.2.E. 温痛覚閾値(ハーグリーブス試験)
後ろ足の熱感受性を評価するために、足底試験装置(Bioseb)を用いて、ハーグリーブス試験を行った。マウスを個々に、昇温したガラスプラットフォームのプレキシガラスチャンバーに入れ、試験の前少なくとも30分間順化させた。次に、一定強さの可動性の放射熱源を、ガラス板を介して、足の無毛の表面に適用して、足を引っ込めるまでの待機時間を測定した。足を引っ込めるまでの待機時間を、両方の後ろ足についての3回の測定値(測定の間、少なくとも5分間の休止時間)の平均として報告する。IR源を、20%に調節し、組織損傷を避けるために、20秒のカットオフを適用した。
【0099】
II.3. 機械的感受性試験
II.3.A. 動的フォンフライ
後ろ足の機械的感受性を評価するために、Bioseb装置を用いて、動的フォンフライ試験を行った。20秒間に強度を7gまで上昇させながら、フォンフライ式フィラメントを適用する。注射した及び注射していない後ろ足を、少なくとも5分間の待機時間をおいて3回挟み、引っ込めるまでの平均(g又は秒)を計算する。
【0100】
II.3.B. フォンフライ式フィラメント試験
慢性狭窄モデルには、本発明者らは、3種類の異なる曲げ力(0.07、0.6及び1.4g)のフォンフライ式ヘアフィラメント(hair filament)を用いた。カラギーナンモデルには、4種類の異なる曲げ力(0.07、0.4、0.6、及び1.4g)のフォンフライ式ヘアフィラメントを用いて、機械的アロディニア及び痛覚過敏を評価した。詳細については、「片側性末梢単神経障害」及び「カラギーナン注射」のパラグラフを参照のこと。
【0101】
II.4. 化学的感受性試験
II.4.A. ホルマリン試験
ホルマリンストック(Fischer Scientific)(ホルマリンストックは、37%ホルムアルデヒド溶液に相当することに留意)からPBS 1×中2%でホルマリン溶液を調製した。マウスを個々に、プレキシガラスチャンバーに入れ、30分間試験環境に慣らした。左の後ろ足にホルマリン10μlを皮下注射した後、動物をそれぞれ速やかに観察チャンバーに入れ、次いで、疼痛行動(注射した足を、振る、舐める及び噛む)を60分間観察した。注射した足の疼痛行動累積時間を5分間の間隔で計数した。これらの疼痛行動を呈するのに費やした時間を、第一相(0〜10分)及び第二相(10〜60分)について、記録した。
【0102】
II.4.B. 起痒性試薬48/80を用いた掻痒試験
起痒性試薬48/80(Sigma-Aldrich, C2313)を、PBS 1×中、2μg/μlで調製した。100μg(50μl)をマウスの頸部に注射した。掻痒累積時間を40分間計数した。
【0103】
II.4.C. CFA注射
侵害受容の感受性における炎症及び変化を起こすために、完全フロイントアジュバント(CFA)10μlを、ハミルトンシリンジを用いて、麻酔をかけたマウスの左の後ろ足に注射した。注射した足を、注射後24時間、浮腫及び発赤などの急性炎症の兆候について、評価した。熱及び機械的刺激に対する応答を、注射前(0日目)、並びにCFA注射後1、3及び7日目(機械的刺激についてのみ)に測定した。注射をしなかった右の後ろ足は、対照とする。
【0104】
II.4.D. カラギーナン注射
PBS 1×中の1%λ−カラギーナン(Sigma-Aldrich, 22049-5G-F)20μlを、ハミルトンシリンジを用いて、マウスの左の後ろ足に注射した。
【0105】
カラギーナンモデルについては、4種類の異なる曲げ力(0.07、0.4、0.6及び1.4g)のフォンフライ式ヘアフィラメントを用いて、注射前後の機械的アロディニア及び痛覚過敏を評価した。各フィラメントについては、3〜5秒の間隔で、2×5の刺激(two times five stimuli)を適用した。注射をしなかった右の後ろ足は、対照とする。
【0106】
II.4.E. 片側性末梢単神経障害
坐骨神経の慢性狭窄(CCI)モデルのために、総坐骨神経(common sciatic nerve)の周りをゆるく(約1mmの間隔で)結ぶ3か所のクロム製ガット(4_0)結紮術を用いて、ケタミン(40mg/kg、ip)及びキシラジン(5mg/kg、ip)で麻酔をかけたマウスにおいて、片側性末梢単神経障害を誘導した(Bennett and Xie, 1988)。
【0107】
神経上膜の血管系を介した循環を妨げないようにして、かろうじて認識可能な程度まで神経を狭窄した(Descoeur et al., 2011)。慢性狭窄モデルについては、3種の異なる曲げ力(0.07、0.6及び1.4g)のフォンフライ式ヘアフィラメントを用いて、外科処置前、及び外科処置後5日毎に、機械的アロディニア及び痛覚過敏を評価した。各フィラメントについては、3〜5秒の間隔で、2×5の刺激を適用した。
【0108】
II.4.F. 組換えTAFA4の髄腔内注射
ホルマリン試験の15分前に、容量10μl中のTAFA4(200μg/ml、ヒト組換えTAFA4、R & D systems)又はビヒクル(PBS)の髄腔内(i.t.)注射を行った。骨盤帯によりマウスを片手で保持し、20μlハミルトンシリンジに接続した25ゲージの針を、腰椎L5とL6との間のクモ膜下腔に、テールフリックが惹起されるまで挿入した。
【0109】
III. 結果
III.1. TAFA4は、C−LTMRの特異的マーカーである
興味深いことに、本発明者らは、Tafa4転写物が、成熟DRG及び三叉神経に高度に豊富であることを見出した。インサイチュハイブリダイゼーションを用いて、本発明者らは、Tafa4転写物が、全ての腰椎(L4)及び胸椎(T12)成熟DRG神経細胞のそれぞれ約8%及び19%において発現していることを示した(図1A)。二重蛍光標識実験により、Tafa4が、TrkA神経細胞からは完全に除外されており、Ret神経細胞のサブセットを同定することが示された(図1C及び1D)。TAFA4神経細胞は、IB4と結合せず、mrgprd神経細胞とは、完全に異なる(図1E及び1F)。反対に、TAFA4は、TH及びVGLUT3とともに、主に同時発現している(図1G)。VLUT3−EGFP DRG切片(Seal et al., 2009)を用いて、本発明者らは、TAFA4神経細胞の92+/−4%が、EGFPを同時発現し、EGFP神経細胞の94+/−6%がTAFA4を同時発現することを見出し(図1H)、TAFA4を、C−LTMRの特異的マーカーであると同定した。TH及びVGLUT3とは反対に、TAFA4は、中枢神経系の神経細胞において、すなわち脳幹及び視床下部の核における神経細胞の手綱において及び散在性集団において、低発現のDRG及び三叉神経にほぼ制限されている。
【0110】
III.2. TAFA4を発現する神経細胞は、機械侵害受容体の特性を呈する
C−LTMRにおけるTAFA4の役割を検討するために、本発明者らは、標的化された態様(すなわち、未知の遺伝子に影響することがない)でTAFA4タンパク質を排除しつつ、TAFA4を発現する神経細胞を遺伝的に標識することを可能とするノックインマウスモデルを産生した(図5A)。本発明者らは、最初に、TAFA4GFP/GFPホモ接合マウス(本明細書では、TAFA4欠損マウス)において、TAFA4転写物が完全に消滅していることを確認した(図5B及び5C)。中枢的かつ排他的に第II層の最内層に投射されたGFP神経細胞は、皮膚の有毛部分を末梢的に神経支配した(図5G〜5J)。
【0111】
パッチクランプ記録及びカルシウム造影を用いて、本発明者らは、GFP神経細胞が、C−無髄侵害受容体の多くの特性(小細胞キャパシタンス、高インプット抵抗、再分極相における顕著な瘤を欠く短い持続時間の活動電位、並びに、TTX抵抗性Nav1.8、低閾値のT型Ca2+(ICa)、A型K電流(IK)、及び過分極により活性化されるh(I)電流の顕著な同時発現を含む)を呈したことを、見出した(図2A〜2C)。ICaが媒介するリバウンド電位もまた、再分極で典型的に観察された(図2D)。IKの活性化は、陽性又は陰性電流段階のそれぞれに応答して活動電位(AP)又はリバウンド電位の発生に遅れをもたらした(図2D及び6)。これらの異なる電流の均質的な存在は、Iに起因する陰性電流段階に対する脱分極「低下(sag)」応答、及び脱分極電流段階に応答してのAP興奮における「gap」を持つ、独特な態様での細胞の興奮を形作る。これらの興奮特性は、TAFA4を発現する神経細胞を分類するための特異的な判断基準として使用できる。
【0112】
GFP神経細胞は、カプサイシン、メントール、硫酸プレグネノロン及び5HTを含む多くの侵害受容性であると推定される薬剤に、又は速やかな冷却に、応答しなかった(図2E)。反対に、GFP神経細胞は、TRPA1アゴニスト、アリルイソチオシアナート(AITC)に、及び低浸透圧性溶液に、異なる応答を示し(図2E)、これにより、C−LTMR内のいくらかの機能的不均一性が示唆された。
【0113】
C−LTMRの古典的な特性(緩徐な伝導速度、軽度の機械的な力に応答しての一連のスパイク、及び持続的な機械的刺激に対する緩徐な適応を含む)は、エキソビボの皮膚神経の調製物を用いて決定されている(Bessou et al., 1971; Li et al., 2011; Seal et al., 2009; Woodbury et al., 2001)。GFP神経細胞の細胞本体に対する機械的な力の適用により、試験した神経細胞の95%で機械的に活性化された(MA)カチオン電流の存在が明らかにされた(図2F及び2G)。速やかに適合するMA電流には場合によっては遭遇できた(15%)が、GFP神経細胞では、緩徐及び非常に緩徐に適合するMA電流が優勢である(それぞれ、21.3及び57.9%)(図2F)。これらの電流は全て、カチオン性であり、非選択的であり、逆電位は、−2〜+4mVの範囲であった。MA電流の緩徐な適合特性と一致して、緩徐な速度勾配刺激(velocity ramp stimulus)が、APをトリガーすることができ(図2G)、これにより、機械感覚性のGFP神経細胞が、緩徐な運動刺激に応答することが示された。
【0114】
結論すると、上記の発現データの全ては、カルシウム造影及び電気生理学的記録と組み合わせると、TAFA4神経細胞が、C−無髄機械侵害受容体の生理学的特性を呈することを示している。
【0115】
III.3. TAFA4欠損マウスは、重度の障害誘発性機械的及び化学的過敏を発症する
C−LTMRにおけるTAFA4の機能的役割に関する見識を得るために、本発明者らは、TAFA4欠損マウスを、急性、炎症性及び神経障害性疼痛の条件下、一連の体性感覚試験(large battery of somatosensory tests)に付した。TAFA4欠損マウスは、体重、オープンフィールド(図6A)及びロータロッド(図6B)のプロフィールに関しては正常であるようであったことから、TAFA4欠損マウスは、運動活性又は不安においては異常を有しないことが示された。本発明者らは、ホットプレート(図6C)、熱走性勾配アッセイ(図6D)又はハーグリーブス試験(図6E)において、並びにコールドプレート、二種温度選択及び動的コールド及びホットプレート試験において、WT及びTAFA4欠損マウスの間に差を見出さなかった。次いで、本発明者らは、急性、炎症性及び神経障害性疼痛の条件下で機械的刺激を知覚する能力についてTAFA4欠損マウスを試験した。
【0116】
完全フロイントアジュバント(CFA)モデルでは、自動フォンフライ装置を用いて、機械的感受性を測定した(図3A)。両方の遺伝子型が、CFA注射24時間後、処置された足について引っ込める閾値の有意な低下を示した。CFAの3日後に試験したところ、TAFA4欠損マウスは、WTマウスと比較して、有意に低い、足を引っ込める閾値を示した。
【0117】
炎症7日後に、両方の遺伝子型について完全な回復が達成された。機械的感受性におけるTAFA4の役割を更に検討するために、本発明者らは、カラギーナンに応答するフォンフライ式フィラメントを用いた(図3B〜3E)。CFAモデルと一致して、TAFA4欠損マウスは、処置の3及び7日後において、全ての試験フィラメントに応答して、延長された疼痛過敏を示した。非常に興味深いことに、TAFA4欠損マウスは、最も細いカリバー0.07及び0.4gを含め全てのフィラメントで、カラギーナン処置後早くも1及び3時間で、増強された機械的過敏を示し、これにより、接触性アロディニアにおけるTAFA4の重要な役割が示唆された(図3B〜3E)。
【0118】
最後に、神経障害性疼痛におけるTAFA4の役割を評価するために、本発明者らは、坐骨神経の慢性狭窄(CCI)モデルを用いた(図3F〜3H)。TAFA4欠損マウスは、試験した全てのフィラメントで、延長された機械的過敏の表現型を示し、これにより、神経障害性疼痛におけるTAFA4の役割が示された。
【0119】
III.4. ヒト組換えTAFA4は、TAFA4欠損マウスにおいて、機械的及びホルマリンにより誘導される疼痛過敏を完全に救済した
カラギーナン処置7日後、又はCCI処置30日後にヒト組換えTAFA4 2μgを髄腔内投与したところ、TAFA4欠損マウスで観察された両方の過敏の表現型が、WTレベルにまで逆転した(図3B〜3H、7日目+TAFA4、及び30日目+TAFA4)。
【0120】
TAFA4欠損マウスにおいて増強された機械的過敏が、様式(modality)特異的であるかどうかを試験するために、本発明者らは、ホルマリン試験を行った(図3I及び3J)。2%ホルマリン10μlを足底内へ注射したところ、両方の遺伝子型で、強い最初の疼痛反応が誘発された。TAFA4欠損マウスは、第2相において劇的に上昇した応答を示し、これらのマウスでの増強された中枢性感作が示唆された。重要なことに、TAFA4欠損マウスでのホルマリンにより誘発された過敏は、ホルマリン注射の15分前のTAFA4髄腔内投与後に、WTレベルにまで逆転された(図3K)。
【0121】
総合すると、上記の結果は、傷害により誘発される機械的及び化学的疼痛過敏の正常閾値を維持するのに、TAFA4が必要であることを示している。
【0122】
III.5. TAFA4欠損マウスにおいて、第IIi層神経細胞は、興奮の増大を示す
TAFA4の欠損により誘導される中枢感作の表現型を更に検討するために、本発明者らは、WT(n=19)及びTAFA4欠損マウス(n=25)から得た後根が付着している脊髄切片において、第IIi層神経細胞のホールセル記録を行った。しかしながら、振幅を増大させながら(0〜50pA)脱分極電流パルスを注射したところ、WTにおけるよりもTAFA4欠損神経細胞において、活動電位がより誘発された(図4A1及び4A2、共分散分析、p<0.001)。この効果は、脱分極電流パルスの発生時に更により明白であった。WT神経細胞のものに匹敵する放電速度に適合させる前に、TAFA4欠損神経細胞は、電流パルスの開始時、放電頻度の上昇を示したからである(図4A3)。更に、過分極性の電流パルス(−50又は−25pA)の注射により、WTと比較してTAFA4欠損神経細胞において、より高いリバウンドAPが誘発された(図4A1及び4A4、それぞれp=0.049及びp=0.001)。ともに、これらのデータは、TAFA4欠損マウスにおける第IIi層神経細胞の興奮の増大を示している。
【0123】
TAFA4欠損マウスにおいて観察される差異は、低閾値電流を緩徐に不活化する弁別調節(differential regulation)を示す。これらの電流をキャラクタライズするために、本発明者らは、対称的な電圧ランププロトコール(−40〜−120、そして−40mVに戻る)を用いて、第IIi層神経細胞において、−40mVで誘導される外向き電流を測定した。WT神経細胞では、緩徐な脱感作を伴う外向き電流は、上昇する電圧ランプの末端で観察することができた一方、この電流は、TAFA4欠損神経細胞では、ほとんど存在していなかった(図4B1及び4B2、p=0.001)。髄腔内投与した組換えTAFA4は、傷害されたTAFA4欠損マウスにおける悪化した疼痛行動を軽減するため、本発明者らは、TAFA4欠損マウス由来の第IIi層神経細胞に組換えヒトTAFA4を加えることの効果を試験した。本発明者らは、対照条件下(すなわち、TAFA4なし)でのWT動物由来の神経細胞で観察されたのと同様に、TAFA4(20〜30mn、20nM)の外因性の適用が、外向き電流の発現を誘導したことを見出した(図4C1及び4C2、n=19、p<0.001)。この電流は、外部のTEA(2.5mM、n=3)による影響は受けなかったが、4AP(1mM)によって完全に遮断され、したがって、A型電流の薬理、すなわちカリウムイオンチャネルが関与していることを示している。組換えTAFA5(n=5、図4D1及び4D2)又はTAFA2(n=6、図4D2)の添加によっては、TAFA4欠損神経細胞からのこの低閾値の外向き電流を誘導することができなかったため、これらの効果は、TAFA4に特異的であった。
【0124】
TAFA4の添加後、第IIi層神経細胞間での外向き電流の強度の分布は、2つのガウシアンカーブの混合によって最も良好にフィットされており、これは2つの異なる集団の存在を明らかにしている:神経細胞の1/3は、顕著な外向き電流を示した一方、残りの神経細胞は、TAFA4のバス適用の影響をわずかに受けるか又は受けなかった(図4E1)。TAFA4応答性神経細胞の表現型のキャラクタリゼーションにより、TAFA4は、GAD陽性及びGAD陰性の神経細胞の両方において、同様の外向き電流を誘導したことが示された(図4E2)。
【0125】
実験データは、TAFA4は、グルタミン酸作動性(glutamergic)興奮(GAD−)及びGABA作動性阻害の介在神経細胞(GAD+)のサブセットを、好ましくは低閾値外向き電流の活性化により、抑制することを示している。特に、興奮伝達が、脊髄の膠様質(脊髄第II層に相当する)における知覚処理を支配するとみられるので、TAFA4によるGABA作動性及びグルタミン酸作動性の神経細胞のこのような二重抑制の全体的な結果は、興奮伝達における低下によって支配されているようであり、それにより、第I層投射神経細胞に伝達される侵害受容性情報の量を減少する。したがって、本発明によるTAFA4化合物は、脊髄介在神経細胞における興奮伝達を減少させることにより、侵害受容性情報を減少する。
【0126】
低閾値電流のなかでも、Ih及びT型カルシウム電流はまた、第IIi層神経細胞の興奮を形付け得る。WT及びTAFA4欠損マウスにおけるIh様電流をキャラクタライズするために、本発明者らは、過分極電流パルスに応答するピーク電位と定常状態電位との差を測定することにより、過分極により誘発される低下を定量した(図7B1)。本発明者らは、矩形の電位パルス(方法を参照)により誘発された単離されたT型電流が、TAFA4欠損マウスにおけるよりもWTにおいて弱いことが多かったことを見出した(図7C1)。統計学的分析により、WTと比較して、TAFA4欠損の第IIi層神経細胞では、T型電流密度が有意に上昇することが明らかとなった(図7C2;p=0.001)。
【0127】
総合すると、上記の結果は、第IIi層神経細胞では、TAFA4が、低閾値外向き電流の強度を、直接的又は間接的に調節することを示している。
【0128】
IV. 神経障害性疼痛を有する動物におけるTAFA4の髄腔内投与の鎮痛効果
IV.1. 神経障害性疼痛モデルSN1
SNIモデル(神経部分損傷、Decosterd and Woolf, 2000; Pain, Vol. 87, p 149-158によって開発)を用いた。SNIモデルは、脛骨分岐部の、及び坐骨神経の総腓骨神経の、横断切片からなり:腓腹神経は、インタクトなままである。後者は次いで、実質的な機械的アロディニアと共に、神経障害性疼痛の兆候を発症する。SNIモデルは、以下の多くの利点を有する:
・ 神経障害性疼痛が持続的である。このため、TAFA4の繰り返し注射による馴化現象を把握することができる。
・ 産生される疼痛が強い。
・ このモデルは、非常に再現性がある。
【0129】
IV.2. 用量−効果の研究
最適な濃度を決定するために、「速い」炎症性疼痛モデル(1%カラギーナン)で、最初の試験を行った。
【0130】
手順:
18匹の8週齢の雄性TAFA4−KOマウスを用いる。
組換えヒトTAFA4(#5099-TA, R&D, バッチ#PXC0213101)を、3種類の異なる濃度(12.5μg/mL、50μg/mL、及び200μg/mL)で、0.9%NaClに再懸濁する。
ベースラインを決定するためのアップ/ダウン法を用いたフォンフライ式フィラメント測定。
後ろ足におけるカラギーナン(1%)20μlの足底内注射。
炎症性疼痛の発生をチェックするための、注射4時間後の応答閾値の測定。
24時間後、新たな測定を行う。
次いで、3種類の異なる濃度(12.5μg/mLではn=6;50μg/mLではn=5;200μg/mLではn=6)でのTAFA4溶液10μlの盲検法による髄腔内注射を行う。
応答閾値の測定を、注射30分後に行う。
【0131】
結果:
結果を図8に示す。機械的アロディニアの発生が、カラギーナンの注射4時間後に観察され、その後24時間維持される。各TAFA4溶液10μlの注射により、フォンフライ式フィラメントに対する閾値応答の強力な増大が誘導された。3種類の試験濃度により、カラギーナンにより誘導される疼痛における統計学的に有意な減少が誘導された(p<0.05)。
【0132】
SNI神経障害性疼痛モデルにおける髄腔内注射によるTAFA4の鎮痛効果の以降の試験には、これらの濃度(12.5;50、及び200μg/mL)を用いた。
【0133】
IV.3. SNI動物における髄腔内注射
手順:
8週齢のWT C57Bl6マウスで実験を行う。42匹のマウスを使用した。組換えヒトTAFA4(#5099-TA, R&D, バッチ#PXC0213101)を、3種類の異なる濃度(12.5μg/mL、50μg/mL、及び200μg/mL)で、0.9%NaClに再懸濁する。陰性対照として、200μg/mLBSA溶液を用いる。アップ/ダウン法によりフォンフライ式フィラメントを用いてマウスのベース閾値を測定した後、SNIモジュールを設置する。マウスに麻酔をかけ、脛骨神経及び腓骨神経の結紮を実行して、これら2種の神経を切断する。インタクトなままの腓腹神経は、きわめて速やかに神経障害を発症する。外科処置の3日後、神経障害の発生を確認する。それにより、同側の足のフォンフライ式フィラメントに対する応答閾値の減少を観察する。
【0134】
外科処置の7日後、応答閾値を再度測定する。次いで、3種類のTAFA4溶液(12.5μg/mLでn=10;50μg/mLでn=10;200μg/mLでn=9)及びBSA溶液(n=10)それぞれ10μlを、盲検的に髄腔内注射する。
【0135】
応答閾値を、注射後30分、2時間、4時間、6時間、次いで24時間に測定する。
【0136】
結果:
結果を図9に示す。髄腔内注射後、3種類のTAFA4溶液については応答閾値の有意な増大が、注射後30分と速やかに観察された。一方、BSAの注射は、マウスの応答閾値に対して影響を与えなかった。2時間後、3種類の濃度について、鎮痛効果はその最大で維持される。4時間後、TAFA4 2μgの注射を受けたマウスは、依然、高い応答閾値を示す(**:p<0.01;*:p<0.05)。本発明者らはまた、TAFA4又はBSA溶液の髄腔内注射後、反対側の足の応答も観察し、統計学的な差は観察されなかった(図10を参照)。
【0137】
これらの結果は、3種類の試験したTAFA4濃度の髄腔内投与により、神経障害性疼痛に対して実質的に同等の鎮痛作用が惹起されたことを示している。最強濃度(200μg/ml、すなわちTAFA4 2μg)の効果が長期に続く。更に、TAFA4は、反対側の足の応答において変化がなかったことにより示されるように、知覚神経細胞の神経インパルス活性を阻害しなかった。
【0138】
V. 神経障害性疼痛を有する動物における皮下TAFA4の鎮痛効果
本実施例は、皮下注射後の神経障害性疼痛モデルに対するTAFA4の鎮痛効果を説明する。
【0139】
V.1. 用量−効果研究
皮下試験し得る用量を把握するために、限られた数のTAFA4−KOマウスにおいて、炎症性疼痛モデル(1%カラギーナン)に対する最初の「速い」試験を行った。
【0140】
手順:
9匹の8週齢の雄性TAFA4−KOマウスを用いる。グラム当たり10μlの注射のために、組換えヒトTAFA4(#5099-TA, R&D, バッチ#PXC0213101)を、2種類の異なる濃度(10μg/mL及び30μg/mL)で、0.9%NaClに再懸濁する。ベースラインを決定するためのアップ/ダウン法によるフォンフライ式フィラメントを用いた測定。後ろ足へのカラギーナン(1%)20μlの足底内注射。注射24時間後の応答閾値の測定と、それに続く2種類の異なる濃度(100μg/kgでn=3;300μg/kgでn=3)でのTAFA4溶液、又は30mg/kg(n=3)でのプレガバリン溶液の実験者に盲検の皮下注射。
【0141】
化合物の注射30分後と、引き続く2時間及び4時間後の応答閾値の測定。
【0142】
結果:
結果を図11に示す。カラギーナンの注射後、マウスは、機械的アロディニアを発症した。プレガバリンの注射により、応答閾値の増大が引き起こされる。同様に、TAFA4の注射もまた、100μg/kgで応答閾値の統計学的に有意な増大を誘発し、300μg/kgでは、はるかに強力な増大を誘発した。
【0143】
したがって、TAFA4は、カラギーナンモデルにおいて、皮下注射により鎮痛効果を引き起こした。
【0144】
V.2. SNI動物における皮下注射
手順:
実験を、8週齢の雄性WT C57Bl6マウスで行った。48匹のマウスを使用した。組換えヒトTAFA4(#5099-TA, R&D, バッチ#PXC0213101)を、3種類の異なる濃度(3μg/mL、10μg/mL、及び30μg/mL)で、0.9%NaClに再懸濁する。30μg/ml BSA溶液を陰性対照として用いる。アップ/ダウン法によりフォンフライ式フィラメントを用いてマウスのベース閾値を測定した後、SNIモデルを設置する。マウスに麻酔をかけ、脛骨神経及び腓骨神経の結紮を実行して、これら2種の神経を切断する。インタクトなままの腓腹神経は、きわめて速やかに神経障害を発症する。外科処置の3日後、神経障害の発生を確認する。それにより、同側の足のフォンフライ式フィラメントに対する応答閾値における減少を観察する。
【0145】
外科処置の7日後、応答閾値を再度測定する。次いで、TAFA4溶液(30μg/kgでn=11;100μg/kgでn=12;300μg/kgでn=11)及びBSA溶液(n=12)それぞれ100μl/10gを、実験者に盲検で皮下注射する。
【0146】
応答閾値を、注射後1時間、2時間、4時間、6時間、次いで24時間に測定する。
【0147】
結果(図12):
TAFA4の皮下注射により、注射後1時間と速やかに、応答閾値の強力な増大が誘導された。この効果は、3種類の試験した濃度で少なくとも4時間維持された。髄腔内注射については、効果は、より高い濃度ではより長く続くとみられる。
【0148】
したがって、TAFA4の皮下注射は、SNI神経障害性疼痛モデルにより誘導される機械的アロディニアに対して鎮痛効果を誘導する。研究の継続のために、300μg/kgの濃度を使用した。
【0149】
VI. TAFA4は、副作用なく、持続する鎮痛効果を誘導する
これらの実験の目的は、SNIモデルにおける皮下注射によるTAFA4の鎮痛効果を更に確認し、この作用が、幾つかの注射ポイントを達成することにより維持され安全であることをチェックすることである。
【0150】
手順:
実験は、8週齢の雄性WT C57Bl6マウスで行った。24匹のマウスを使用した。組換えヒトTAFA4(#5099-TA, R&D, バッチ#PXC0213101及び#PXC0214011)を、0.9%NaCl 30μg/mLに再懸濁する。30μg/mLBSA溶液を、陰性対照として使用する。アップ/ダウン法によりフォンフライ式フィラメントを用いてマウスのベース閾値を測定した後、SNIモデルを配置する。マウスに麻酔をかけ、脛骨神経及び腓骨神経の結紮を実行して、これら2種の神経を切断する。インタクトなままの腓腹神経は、きわめて速やかに神経障害を発症する。
【0151】
外科処置の7日後、同側の足のフォンフライ式フィラメントに対する応答閾値の減少が観察される。次いで、TAFA4(300μg/kg)及びBSA溶液10μl/gを盲検法により皮下注射する(BSA及びTAFA4群それぞれについてn=12)。応答閾値を、注射後1時間、2時間、4時間、及び6時間で測定する。同じ実験手順を、外科処置後7日目、14日目、及び21日目に行う。
【0152】
結果(図13):
外科処置後7日目、14日目、及び21日目に、TAFA4 300μg/kgの皮下注射後に、機械的刺激に対する応答閾値における強力な増大が観察された。初期値(外科処置前)の約40〜50%に達し得る。3つのケースにおいて、曲線下面積の分析により示されるように、効果は同様のままであった(有意差なし)。
【0153】
したがって、これらの結果により、本発明のTAFA4タンパク質又はアゴニストの強力な鎮痛効果が確認される。
【0154】
皮下処置された動物の各種器官(肝、脾、腎、心、及び肺)を取り出し、以降の研究のために凍結した。処置した動物の体重を、実験の間中、観察した。体重曲線に差は観察されなかった(図14)。更に、各種の取り出した器官を高精度のはかりで秤量してから、4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、4℃で一夜置き、次いでショ糖30%中でインキュベートしてから、OCT中、−80℃で低温維持した。試験した器官(肝、脾、腎、心、及び肺)の全てで、処置動物と対照動物との間で差は観察されなかった。
【0155】
したがって、本発明者らの結果は、SNI神経障害性疼痛モデルにおけるTAFA4タンパク質の効果を示している。このモデルによって誘導された機械的アロディニア(応答閾値における減少)は、TAFA4の髄腔内又は皮下注射によって阻害され得る。用いた用量が低い(2μgを髄腔内、及び6〜8μgを皮下)ことに留意することが重要である。更に、反対側の足の応答閾値が、TAFA4の注射後も変わらないままであったので、これは、TAFA4が、神経インパルスを遮断する薬剤としては作用しないことを示している。
【0156】
VII 結論
− 本発明は、TAFA4タンパク質が、疼痛の制御に関与していることを初めて示し、異なる疼痛モデルでの疼痛の処置におけるその有効性を示す。
− 本発明はまた、TAFA4が、小径知覚神経細胞C−LTMRに特異的に発現することを示す。
− 本発明は更に、TAFA4の機能の喪失が、傷害により誘導される機械的及び化学的過敏の増加、及び第IIi層神経細胞の興奮の増大をもたらしたことを示す。
− 本発明はまた、TAFA4求心性神経が、末梢における毛嚢を排他的に神経支配し、第II層の最内層を中枢的に投射していることを示す。
− 本発明は、Tafa4が、神経細胞の興奮及び体性感覚の閾値を調節することを示す。
− 本発明は更に、TAFA4タンパク質が、機械的及び化学的に誘導される侵害受容性シグナルを特異的に標的とすることができることを示す。
− 本発明はまた、TAFA4化合物及び組成物が、脊髄介在神経細胞(好ましくは、第IIi層介在神経細胞)のC−LTMR−侵害受容体が媒介する興奮を、例えば当該介在神経細胞上に存在する受容体(カリウムイオンチャネル、カルシウムイオンチャネル、又は低密度リポタンパク質受容体、例えばLRP1、など)の活性の調節を介して、調節することにより、新規な鎮痛経路を活性化することができることを示す。
− 本発明者らはまた、TAFA4が、一次求心性神経においてシナプス前チャネルを調節し得、これが次にシナプス伝達を増大させることを提唱する。シナプス後性的には、「TAFA4作動性」C−LTMR求心性神経は、第I層に属する投射神経細胞に接続される、第IIi層興奮性グルタミン酸作動性及び阻害性GABA作動性/グリシン作動性介在神経細胞のネットワークに向かう。
− 本発明者らは更に、TAFA4欠損マウスにおける機械的及びホルマリン誘導疼痛過敏は、ヒト組換えTAFA4の投与後、WTレベルまで反転したことを示す。
− 本願において発明者らにより示された全ての実験データはまた、C−LTMR誘導TAFA4が、ホルマリン誘発疼痛の第2相を調節することを明らかにした。特に、本明細書に提供されるデータは、TAFA4欠損マウスは、悪化/増強されたホルマリン誘発疼痛を呈したことを示している。本発明者らは、ホルマリンが誘発した侵害防御機構の行動が、C−LTMR知覚神経細胞によって特異的に誘発され得ることを提唱している。
− Tafa4を発現する神経細胞の遺伝的マーキングにより、C−LTMRの生理学的特性の詳細なインビトロ研究が可能になった。パッチクランプ分析により、小キャパシタンス、独特の短期間のAP、TTX耐性Nav1.8電流の存在、及び幾つかの低閾値電流の顕著な同時発現、並びに緩徐及び非常に緩徐に適合する興奮性の機械開口型電流、を有する神経細胞の著しく均一な集団が明らかとなった。
− 野生型(WT)又はTAFA4欠損マウスにおける疼痛の表現型を比較することによって、発明者らは、TAFA4の機能を妨げることが神経細胞の興奮の調節を引き起こし、それが疼痛のシグナル伝達に寄与するという概念の証拠を確立した。特に、本発明者らは、各種疼痛モデルにおいて、TAFA4の機能の損失が、機械的及び化学的過敏を増強することを明確に示した。結論すると、神経細胞の興奮の調節を介して病理学的疼痛シグナル伝達を処置するための活性成分としてのTAFA4の使用。
【0157】
【表1】

図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]