【文献】
JIN G S , et al.,Lens-free shadow image based high-throughput continuous cell monitoring technique,Biosensors and Bioelectronics,2012年 5月27日,Vol.38,p.126-131,http://dx.doi.org/10.1016/j.bios.2012.05.022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記試料(14;64)の前記全回折像は、前記光源と対向するように配置されたマトリクス光検出器(16;66;76;86)を用いて取得され、当該試料と当該マトリクス光検出器の間に拡大装置が配置されていないことを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
前記光源(71;81)を保持し、前記光源(71;81)と前記マトリクス光検出器(76;86)の間に第一透明窓(712;812)を有する第一封止ハウジング(711;811)と、
前記前記マトリクス光検出器(76;86)を保持し、前記第一透明窓(712;812)と前記マトリクス光検出器(76;86)の間に第二透明窓(712;812)を有する第二封止ハウジング(761;861)と、
を備えており、
前記第一透明窓(712;812)と前記第二透明窓(712;812)の間の距離は可変であり、
前記第一封止ハウジング(711;811)、前記光源(71;81)、前記第二封止ハウジング(761;861)および前記マトリクス光検出器(76;86)は、浸漬プローブ(70;80;92)を形成していることを特徴とする、
請求項5または6に記載の装置(60)。
前記第二透明窓(762)を前記第一透明窓(712)に対して変位させる手段は、前記第二封止ハウジング(761)に対して固定されており、かつ歯車によって送り駆動されるラック(702)を含んでいることを特徴とする、
請求項8に記載の装置(60)。
前記第一透明窓(812)と前記第二透明窓(862)は、前記第一透明窓(812)と前記第二透明窓(862)の間の距離が前記第二透明窓(862)上の位置に依存するように傾斜した二つの平面をなすことを特徴とする、
請求項10に記載の装置(60)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の一つは、生細胞と死細胞を区別する方法であって、従来技術に係る短所の少なくとも一つを有することのないものを提供することにある。
【0009】
具体的には、本発明の目的の一つは、特に大量の(例えば数百から数千に及ぶ)細胞の同時観測に適しており、経済的な方法を提供することにある。
【0010】
染色物質の添加を必要としない、非侵襲の方法を提案することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、生細胞を死細胞と区別する方法により構成される。当該方法においては、
細胞を含む溶液の試料を照明するために光源を使用し、
前記光源と対向するようにマトリクス光検出器を配置して前記試料の全回折像を取得する。前記全回折像は、各々が一つの細胞に対応する複数の要素回折像を含んでいる。
【0012】
本発明によれば、細胞は、当該細胞に対応する要素回折像における中央領域の光強度に応じて、生細胞カテゴリと死細胞カテゴリのいずれかに分類される。
【0013】
各要素回折像は、一連の同心閉曲線を有することが有利である。
【0014】
好ましくは、前記中央領域は、前記要素回折像における最小の回折リングにより囲まれる領域に含まれる。
【0015】
本発明に係る方法は、以下の工程を含みうる。
前記中央領域の光強度を表す数値標識の値が定められ、
前記数値標識の値と所定の閾値との比較が行なわれ、
前記比較の結果に応じて、前記細胞が前記生細胞カテゴリと前記死細胞カテゴリのいずれかに分類される。
【0016】
前記数値標識は、最大強度値、平均強度値、またはピークトゥピーク強度値であると有利である。
【0017】
前記所定の閾値は、基準強度であることが好ましい。
前記基準強度を下回る数値標識値は生細胞に対応する。
前記基準強度を上回る数値標識値は死細胞に対応する。
【0018】
本発明に係る方法は、バイオリアクタにおける細胞処理をその場でモニタリングするために有利に使用される。
【0019】
前記試料は、空間干渉性を有する光源を用いて照明されうる。
【0020】
前記試料の全回折像は、前記光源に対向するように配置されたマトリクス光検出器を用いて取得され、前記試料と前記マトリクス光検出器の間に拡大装置が配置されないことが有利である。
【0021】
本発明は、生細胞を死細胞と区別する装置であって、
細胞を含む溶液の試料を照明するように配置された光源と、
前記光源と対向し、前記試料の全回折像を取得するように配置されたマトリクス光検出器と、
を備えているものにも関連する。前記全回折像は、各々が一つの細胞に対応する複数の要素回折像を含んでいる。
【0022】
本発明によれば、前記装置は、
前記全回折像を入力として受け付け、
ある細胞に対応する要素回折像における中央領域の光強度を判断し、
前記細胞が生細胞であるか死細胞であるかの分類を出力として提供する、
演算手段を備えている。
【0023】
各要素回折像は、一連の同心閉曲線を有することが有利である。
【0024】
好ましくは、前記試料と前記マトリクス光検出器の間に拡大装置が配置されていない。
【0025】
本発明に係る装置は、
前記光源を保持し、前記光源と前記マトリクス光検出器の間に第一透明窓を有する第一封止ハウジングと、
前記前記マトリクス光検出器を保持し、前記第一透明窓と前記マトリクス光検出器の間に第二透明窓を有する第二封止ハウジングと、
を備えうる。
前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離は可変であり、前記第一封止ハウジング、前記光源、前記第二封止ハウジング、および前記マトリクス光検出器は、浸漬プローブを形成している。
【0026】
本発明の第一実施形態によれば、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離は経時的に可変であり、前記第一透明窓と前記第二透明窓は、互いに平行な二つの平面をなし、前記第二透明窓を前記第一透明窓に対して変位させる手段を備えている。
【0027】
前記第二透明窓を前記第一透明窓に対して変位させる手段は、前記第二封止ハウジングに対して固定されており、かつ歯車によって送り駆動されるラックを含みうる。
【0028】
本発明の第二実施形態によれば、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離は空間的に変化している。
【0029】
前記第一透明窓と前記第二透明窓は、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離が前記第二透明窓上の位置に依存するように傾斜した二つの平面をなしうる。
【0030】
前記光源は、空間干渉性を有することが有利である。
【0031】
前記演算手段は、ある細胞に対応する要素回折像における中央領域の光強度を判断可能であり、前記中央領域は、前記要素回折像における最小の回折リングにより囲まれる領域に含まれる。
【0032】
本発明は、浸漬プローブであって、
粒子を含む溶液の試料を照明するように配置された光源と、
前記光源と対向し、前記試料の全回折像を取得するように配置されたマトリクス光検出器と、
を備えているものにも関連する。前記全回折像は、各々が一つの粒子に対応する複数の要素回折像を含んでいる。
【0033】
本発明によれば、前記浸漬プローブは、
前記光源を保持し、前記光源と前記マトリクス光検出器の間に第一透明窓を有する第一封止ハウジングと、
前記前記マトリクス光検出器を保持し、前記第一透明窓と前記マトリクス光検出器の間に第二透明窓を有する第二封止ハウジングと、
を備えている。前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離は可変である。
【0034】
本発明に係る浸漬プローブの第一実施形態は、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離は経時的に可変であり、前記第一透明窓と前記第二透明窓は、互いに平行な二つの平面をなし、前記第二透明窓を前記第一透明窓に対して変位させる手段を備えている。
【0035】
前記第二透明窓を前記第一透明窓に対して変位させる手段は、前記第二封止ハウジングに対して固定されており、かつ歯車によって送り駆動されるラックを含むことが有利である。
【0036】
本発明に係る浸漬プローブの第二実施形態によれば、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離は空間的に変化している。
【0037】
前記第一透明窓と前記第二透明窓は、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離が前記第二透明窓上の位置に依存するように傾斜した二つの平面をなしうる。
【0038】
前記光源は、空間干渉性を有することが有利である。
【0039】
本発明は、細胞などの粒子を含む溶液を保持するタンクを備えているバイオリアクタにも関連する。当該バイオリアクタは、当該溶液に浸漬された本発明に係る浸漬プローブを備えている。この場合、第一透明窓と第二透明窓の間の空間は、当該溶液により占有される。
【0040】
本発明は、本発明に係る浸漬プローブを使用する方法にも関連する。当該方法においては、
細胞などの粒子を含む溶液に前記浸漬プローブが浸されることにより、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の空間が当該溶液により占有され、
前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離は、前記溶液中の前記粒子の濃度の関数として定められる。
この場合、前記全回折像における前記複数の要素回折像の少なくとも30%(50%や80%でもよい)が他の要素回折像と重ならないようにされる。各要素回折像は、細胞などの一つの粒子に対応している。
【0041】
本発明の第一実施形態に係る浸漬プローブが使用され、前記第二透明窓に対して前記第一透明窓を変位させることにより前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離が定められることが有利である。
【0042】
変形例として、本発明の第二実施形態に係る浸漬プローブが使用され、前記全回折像を取得するために使用される前記マトリクス光検出器の一部を区切ることにより、前記第一透明窓と前記第二透明窓の間の距離が定められる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
あくまで例示を目的とした添付の図面を参照しつつ、複数の態様を通じて本発明を説明する。
【0045】
まず
図1を参照しつつ、レンズフリー撮像装置10について説明する。このような装置は当業者の間では周知であるため、専門家であれば文献を通じて当該装置の構成法の詳細を容易に知りうるであろう。
【0046】
光源11は、試料14を照明する光ビーム12を出射する。当該光源は、空間干渉性を有することが好ましい。当該光源は、レーザダイオードや発光ダイオード(LED)でありうる。後段にはフィルタ穴が設置される。フィルタ穴は、LEDにより出射された光ビームの空間干渉性を改善する。当該光源は、時間干渉性も有することが有利である。
【0047】
例えば、LEDは、450nmを中心とする放射スペクトルを有するもの、すなわち青色を放射するものが使用されうる。450nmにおけるピーク幅は40nmである。当該LEDの放射パワーは、例えば10mWから1Wの間でありうる。当該LEDの後段には、当該LEDと直接接触する直径150μmのフィルタ穴が配置される。
【0048】
試料14は、光源11とマトリクス光検出器16の間に配置される。
【0049】
図1に示される例においては、試料14は、光源の放射波長において透明な二つのスライド13、15の間に配置された液体試料である。したがって、本発明に係る装置10は、透過型である。スライド13(光源と同じ側のスライド)と光源の間の距離は、1cmから10cmの間とされる。
【0050】
例えば、試料14は、生体液の試料でありうる。生体液の例としては、血液、細胞培養液、湖水のような自然から採取された試料などが挙げられる。装置10は、試料中に含まれる小径の粒子(直径100nmから500μm)を検出できる。
【0051】
マトリクス光検出器16は、入射した電磁放射をアナログ電気信号に変換する。このマトリクス光検出器16は、デジタル画像を提供するためにA/Dコンバータに接続される。「マトリクス光検出器」という語が用いられる理由は、光検出器の検出領域がマトリクスを形成する画素からなるからである。マトリクス光検出器16は、例えばCCD(電荷結合素子)センサやCMOS(相補型金属酸化膜半導体)センサでありうる。光検出器における各画素は、例えば一辺が9μm未満の正方形でありうる。一辺が5μmを下回る場合もあり、例えば2.2μmである。具体的には、画素ピッチが2.2μmの24mm
2CMOSセンサが使用されうる。
【0052】
マトリクス光検出器16は、試料14中の粒子が光ビーム12に与える影響に対応する回折像を検出する。具体的には、マトリクス光検出器16は、光源11から直接到来する入射光波と試料14中の粒子により回折された光波の間の干渉に対応する回折像を検出する。このような回折像は、ホログラムと称される。このような回折像の利点の一つは、検出信号の振幅が大きいことである。この回折像の別の利点は、検出視野が大きい(例えば20mm
2を上回る)ことである。光検出器16は、試料14の付近に配置される。例えば、光検出器16は、スライド15(光検出器16と同じ側のスライド)から0.8mmの箇所に配置される。
【0053】
したがって、対象物の像が直接検出されるのではなく、当該対象物に対応する回折像が検出される。この技術は、レンズフリー撮像と称される。本明細書を通じて、対象物に対応する回折像を検出するこの種の装置を指して「レンズフリー撮像装置」という語を用いる。なお、当該装置は、検出される干渉に対応するビームを各画素に集光するマイクロレンズマトリクスを含みうる。しかしながら、当該装置は、対象物と光検出器の間に配置される拡大光学系を含まない。
【0054】
当業者であれば、光源11、試料14、および光検出器16を含む要素同士の配置を容易に定めうるであろう。
【0055】
試料14を保持するために支持体(不図示)が設けられうる。この支持体は、光源11と光検出器16の間に配置される。
【0056】
本発明によれば、この装置10は、細胞を含む溶液の試料14に使用される。例えば、HeLaがん細胞の溶液が使用されうる。具体的には、3−d試料の使用が選択され、二つのスライド13、15の間の厚さは、例えば0.2mmとされる。光検出器16に回折像の形態で結像される試料14の体積は、約5μLである。
【0057】
結果として、光検出器16においては、光源11から直接到来する波と光源から出射されて試料14内の細胞により回折された波の干渉に対応する全回折像が取得される。全回折像は、幾つかの要素回折像を含む。各要素回折像は、試料14内の細胞に対応付けられ、光源11から直接到来する波と光源から出射されて当該細胞により回折された波の干渉に対応する。
【0058】
各要素回折像は、細胞が生きているか死んでいるかに応じて特徴のある形状を有することがわかる。
【0059】
図2Aは、生きているHeLa細胞に対応する要素回折像20を示している。要素回折像20は、上記の装置を用いて取得される。
図2Aにおいては、横軸と縦軸により光検出器16の面が形成されている。暗い色は、光強度が低い領域に対応している。明るい色は、光強度が高い領域に対応している。
図2Aにおいて確認されうる暗いリングと明るいリングの繰り返しは、回折リングと称される。回折リングは、観測される細胞の円形状を伝える。要素回折像20は、暗いリングと明るいリングに共通の中心を通る対称軸に対する軸対称性を有している。
【0060】
図2Bは、上記対称軸を通る平面に沿う要素回折像20の断面を示している。
図2Bにおいて、横軸は画素に伴って変化する距離に対応し、縦軸は諧調に伴って変化する光強度に対応する(光検出器16から出力される256諧調に対応するアナログ信号は、8ビットのデジタル信号に変換される)。低諧調値は、低光強度に対応する。高諧調値は、高光強度に対応する。
図2Bにおいて、要素回折像20の対称軸は、横軸の105番目の画素に引かれる直線に相当することがわかる。この軸上に中央のピークが識別されうる。その最大諧調値は約70である。当該中央のピークは、諧調値が約110である二つの二次ピークによって囲まれている。この中央のピークは、
図2Aにおいては低い光強度で確認されうる。複数のリングは、この灰色のディスクと同心である。
【0061】
図3Aは、死んだHeLa細胞に対応する要素回折像30を示している。要素回折像30は、上記の装置を用いて取得される。この場合も暗いリングと明るいリングの繰返しが確認されうる。要素回折像30は、暗いリングと明るいリングに共通の中心を通る対称軸に対する軸対称性を有している。
【0062】
図3Bは、上記対称軸を通る平面に沿う要素回折像30の断面を示している。
【0064】
図3Bにおいて、要素回折像30の対称軸は、横軸の105番目の画素に引かれる直線に相当することがわかる。この軸上に中央のピークが識別されうる。その最大諧調値は約250である。当該中央のピークは、諧調値が約110である二つの二次ピークによって囲まれている。この中央のピークは、
図3Aにおいては高い光強度で確認されうる。複数のリングは、この白いディスクと同心である。
【0065】
生細胞に対応付けられた要素回折像20と死細胞に対応付けられた要素回折像30の違いは明らかであり、回折像から細胞の状態が検出されうる。したがって、この違いが生細胞と死細胞の区別に使われうる。
【0066】
二つの要素回折像は、特に像の中央領域において(本例においてはディスクの形状が)相違することがわかる。このディスクは、要素回折像における複数のリングの中心と同心に配置されており、要素回折像における第一のリングにより区画されている。本例の場合、この第一のリングは光強度が最小のリングに対応している。要素回折像における第一のリングに対応する最小の光強度は、それぞれ
図2Bと
図3Bにおいて符号21と31であることがわかる。中央のディスクの直径は、例えば100画素未満でありうる。
【0067】
細胞の形が例えば楕円状に変化すると、対応する要素回折像にも変化が生ずる。対応する要素回折像は、常に一連の同心閉曲線を有し、これらもまた回折リングと称される。これらの閉曲線は、最小の要素回折リングにより区画される領域を包囲する。
【0068】
本発明の基本的な思想は、対応する細胞を生細胞のカテゴリと死細胞のカテゴリに分類するために要素回折像の中央領域の光強度を用いることにある。この領域は、干渉リングと同心であるため、中心領域とも称される。具体的には、中央領域は、最小の回折リングにより区画される領域に含まれる。当該領域は、上記の中央ディスクに対応しうる。
【0069】
したがって、本発明は、染色物質の添加を必要とすることなく生細胞を死細胞と区別する方法を提供することがわかる。
【0070】
この方法を実施するための設備手段(具体的にはレンズフリー撮像装置)は簡易かつ安価である。当該撮像装置は、高価な光学系の使用を必要としない。本発明は、非常に高性能な演算手段の使用も必要としない。要素回折像から細胞像を再構成しようとしていないからである。要素回折像を基準回折像のライブラリと比較する処理を行なおうともしていない。単に所定領域の光強度を用いることにより、細胞が分類される。
【0071】
さらに、細胞を再構成しようともしないため、細胞と光検出器の間の距離を知る必要がない。したがって、体積中に含まれる細胞の数の分析が容易である。
【0072】
特定の平面に着目する必要もないため、ある体積中に含まれる細胞の数の分析が容易である。
【0073】
本発明に係る方法の別の利点は、その正確性にある。ある領域内における生細胞と死細胞の数の正確な計数がなされうる。
【0074】
ある要素回折像の中央領域の光強度を用いることについて、より詳細に例示する。
【0075】
図4Aは、
図2Aに示される回折像における上記の中央ディスク41を示している。この中央ディスクは暗く、生細胞の特徴である低光強度に対応していることがわかる。本例における中央ディスク41の直径は、約30画素である。中央領域45は、中央ディスク41上に区画されうる。本例の場合、中央領域45は、中央ディスク41と同心かつ中央ディスク41以下の直径を有するディスクである。
【0076】
図4Bは、
図3Aに示される回折像における上記の中央ディスク42を示している。この中央ディスクは明るく、死細胞の特徴である高光強度に対応していることがわかる。中央領域46は、中央ディスク42上に区画されうる。本例の場合、中央領域46は、中央ディスク42と同心かつ中央ディスク42以下の直径を有するディスクである。
【0077】
したがって、対応する細胞が生きているか死んでいるかを知るために、中央ディスク41または42に含まれる中央領域の光強度を評価すれば十分であることがわかる。
【0078】
中央領域45または46の光強度を特定するために数値標識が設定されうる。
図4Cと
図4Dに示される例においては、この数値標識は、中央領域の平均諧調値である。本例における要素回折像は軸対称であるので、この回折像の対称軸を通る断面に適用できる。
【0079】
図4Cは、
図2Bに対応しており、本発明に係る中央領域45が特定されている。
図4Cにおいて、数値標識は、座標55における直線451により特定されている。
【0080】
図4Dは、
図3Bに対応しており、本発明に係る中央領域46が特定されている。
図4Dにおいて、数値標識は、座標160における直線451により特定されている。
【0081】
本発明によれば、数値標識の値は、細胞を生細胞と死細胞のカテゴリに分類するために使用される。
【0082】
生細胞と死細胞に対応付けられた数値標識の複数の値に対し所定の閾値が設定される。
【0083】
この場合、基準強度は、具体的には下記のように考慮される。
・当該基準強度を下回る数値標識は、生細胞に対応する。
・当該基準強度を上回る数値標識は、死細胞に対応する。
【0084】
当該基準強度は、諧調で表すと、例えば、80から150の間に設定され、一般的には140に設定される。
【0085】
よって、生細胞を死細胞から区別するために必要なのは、上記の数値標識を計算し、次いで当該数値標識を所定の閾値と比較するだけである。
【0086】
具体的には、当該閾値は実験的に定められる。
【0087】
本発明の趣旨から逸脱しなければ、様々な種別の数値標識が提供されうる。例えば、絶対光強度や光強度のピークトゥピーク振幅などが考慮されうる。
【0088】
ここではHeLa細胞を例に挙げたが、どのような種別の細胞も同様の手法で分類できる。
【0089】
図示の例においては、生細胞が要素回折像の中央における低光強度に対応しており、死細胞が要素回折像の中央における高光強度に対応している。生細胞あるいは死細胞に対応付けられた要素回折像の特性形状は、取り扱われる細胞の種別に依存しうる。よって、要素回折像の中央における低光強度が死細胞に対応し、要素回折像の中央における高光強度が生細胞に対応しうる。
【0090】
本発明に係る中央領域は、所定の寸法を有する領域でありうる。例えば、本発明に係る中央領域は、要素回折像における回折リングの中央と同心に配置されて所定の直径を有するディスクでありうる。当該所定の直径を設定するために、下記の工程が実施されうる。
・細胞の回折像は、エアリーパターンとみなされる。要素回折像における最小の暗いリングの直径は、細胞と光検出器の間の距離と角度θにより次式のように定められる。
sinθ=1.22λ/d
ここでλは光源の発光波長であり、dは細胞の直径である。当該最小の暗いリングの直径は、中央ディスク41、42の直径を定める。試料の厚さ、光源の波長、細胞の直径のオーダーが既知であれば、中央ディスク41、42の直径の値の範囲が見積もられうる。
・当該範囲の低い方の値が選択される。
・当該低い方の値以下の値として、中央領域の上記所定の直径が定められる。
【0091】
最小の暗いリングを各要素回折像について特定してもよい。中央領域の直径は、例えば当該最小の暗いリングの直径に対する一定の割合の値でありうる。
【0092】
中央ディスクの直径は、例えば10画素から50画素の範囲でありうる(20画素から50画素の範囲でもよい)。中央領域の直径は、例えば5画素から50画素の範囲でありうる(10画素から50画素の範囲でもよい)。
【0093】
図5は、当初生きていた細胞が徐々に衰えて死ぬまでの当該細胞に対応する要素回折像の変化を示している。当初生きていたHeLa細胞の温度を10分間で37℃から45度まで上昇させた。当該細胞の要素回折像は、30秒ごとに記録した。当該要素回折像は、取得された時系列順に保存され、左から右へ、上から下へ並んでいる。要素回折像が
図2Aに示したような像から
図3Aに示したような像へと徐々に変化している様子がわかる。この変化は単調であり、中央のピークが徐々に明るくなる。
図5は、生細胞を死細胞と区別するために光強度の閾値が本発明に係る中央領域に設定されうることを示している。
【0094】
図6は、本発明に係る方法を実施するための装置60を模式的に示している。
図6における参照符号61、62、63、64、65、66は、それぞれ
図1における参照符号11、12、13、14、15、16に対応している。
【0095】
光源61は、細胞を含む溶液試料を照明するように配置される。
【0096】
光検出器66は、光源に対向し、試料の全回折像を取得するように配置されたマトリクス光検出器である。全回折像は、複数の要素回折像を含んでいる。各要素回折像は、一つの細胞に対応している。
【0097】
光検出器66は、演算手段67に接続されている。演算手段67は、上記のように定義された全回折像を入力として受け取る。
【0098】
演算手段67は、細胞に対応する要素回折像における中央領域の光強度を特定し、出力として当該細胞を生細胞カテゴリ68
1と死細胞カテゴリ68
2のいずれかに分類する。中央領域はより早い段階で定められる。
【0099】
具体的には、演算手段67は、上記のような数値標識を演算し、当該数値標識を所定の閾値と比較し、その要素回折像に対応する細胞を上記二つのカテゴリ68
1、68
2の一方に割り当てるように構成されている。
【0100】
具体的には、演算手段67は、電子的手段およびコンピュータと、ソフトウェア手段の少なくとも一方を含んでいる。一般的には、演算手段67は、マイクロプロセッサとコンピュータの少なくとも一方に関連付けられたデジタルまたはアナログ電子回路(好ましくは専用のもの)を備えている。
【0101】
本発明に係る方法は、バイオリアクタにおける細胞処理をその場で制御するために有利に用いられうる。
【0102】
本発明に係る方法は、それぞれが一つの細胞に対応付けられた複数の要素回折像を使用する。各要素回折像を使用可能とするために、各像は互いに重畳していないことが必須である。したがって、試料14中の細胞の濃度は、ある厚さについて所定の最大濃度を下回ることを要する。
【0103】
例えば、
図1を参照して説明した実施形態の場合、24mm
2の面積を有する光検出器16が撮像できる要素回折像は1万個までである。これに対応する細胞の最大濃度は2×10
6個/mLである。なお、試料14の体積は、約5μLである。
【0104】
したがって、本発明に係る方法を実施するために用いられるレンズフリー撮像装置は、試料14中の細胞濃度に対応させる必要があると言える。
【0105】
このような目的のために、特に本発明に係る方法を実施するために、浸漬プローブがある。なお、この浸漬プローブは他の目的にも使用可能である。よって、以降の説明においては、当該浸漬プローブを、本発明に係る方法を実施するための演算手段とは独立して説明する。
【0106】
この浸漬プローブにおいて用いられる原理は、試料の厚みを粒子(この場合は細胞)の濃度に適合させることである。
【0107】
浸漬プローブは、プローブを溶液中に浸すことによって測定が行なわれるように構成されている。これにより、試料を採取してスライド上に載せる工程が不要である。試料は残りの溶液から隔離されないため、観察に伴う試料の乱れも抑制される。
【0108】
図7は、本発明の第一実施形態に係る浸漬プローブ70を模式的に示している。
【0109】
図7における参照符号71と76は、それぞれ
図1における参照符号11と16に対応している。したがって、光源71と光検出器76は、ともに
図1を参照して説明したレンズフリー撮像装置を形成している。
【0110】
浸漬プローブ70は、光源71を保持する第一封止ハウジング711を備えている。したがって、光源71は、封止されたハウジング内に保護される。これにより、光源が故障のおそれなく完全に浸漬されうる。第一封止ハウジング711は、光源71の発光波長において透明な第一窓712を有している。第一窓712は、光源71と光検出器76の間に配置されている。
【0111】
浸漬プローブ70は、光検出器76を保持する第二封止ハウジング761も備えている。したがって、光検出器76は、封止されたハウジング内に保護される。これにより、光検出器が故障のおそれなく完全に浸漬されうる。第二封止ハウジング761は、光源71の発光波長において透明な第二窓762を有している。第二窓762は、第一窓712と光検出器76の間に配置されている。
【0112】
試料は、浸漬プローブ70が完全に浸漬される溶液の一部からなる。当該溶液の一部は、第一透明窓712と第二透明窓762の間の空間704を占有する。当該溶液は、細胞などの粒子を含む。
【0113】
光検出器76は、全回折像を取得するように配置される。全回折像は、各々が一つの粒子に対応する複数の要素回折像を含む。試料の厚さは、細胞の濃度に適合させることを要する。具体的には、全回折像における複数の要素回折像の少なくとも80%が相互に重ならないようにされる。そのため、第一透明窓712と第二透明窓762の間の距離は可変である。
【0114】
図7に示される実施形態において、この距離は経時変化する。
【0115】
第一透明窓712は第二透明窓762と平行である。第二透明窓762は、これらの窓に直交する軸701に沿って移動可能である。
【0116】
第二封止ハウジング761は、軸701に沿って延びるロッド702に対して固定されている。ロッド702は切り欠かれており、図示しない歯車によって送り駆動されるラックを形成している。当該歯車は、節付きハンドル703により回転される。したがって、ロッド702は、第二封止ハウジング761とともに、第一封止ハウジング711に対して軸701に沿って送り移動されうる。
【0117】
当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、一方の透明窓を他方の透明窓に対して両窓に直交する軸にそって変位させる別構成を提供できるであろう。
【0118】
よって、第一透明窓712と第二透明窓762の間の距離は、第二透明窓762を第一透明窓712に対して変位させることによって調整されうる。
【0119】
浸漬プローブは、
図6を参照して説明したように、不図示の演算手段と接続されうる。すなわち、
図6に示される装置60は、本発明に係る浸漬プローブを備えうる。この場合、浸漬プローブの光源と光検出器が、それぞれ光源61と光検出器66を構成する。
【0120】
図8は、本発明の第二実施形態に係る浸漬プローブ80を模式的に示している。
【0121】
浸漬プローブ80と浸漬プローブ70の差異のみを説明する。
図8における参照符号81、811、812、86、861、862、804は、それぞれ
図7における参照符号71、711、712、76、761、762、704に対応している。
【0122】
図8に示される実施形態において、第一透明窓812と第二透明窓862の間の距離は、場所によって変化している。
【0123】
第一透明窓812は、第二透明窓862に対して角度αだけ傾けられている。これらの窓は平らである。角度αは、10度から45度の間が一般的である。
【0124】
変形例として、平らな窓と階段状の窓を設けてもよい。
【0125】
光源81は、第一透明窓812の上方に並べられた複数の単位光源81
1、81
2からなる。この特徴は必須ではなく、
図1を参照して説明した単一のLEDやレーザダイオードからなる光源を使用してもよい。
【0126】
光検出器86の領域805は、第一透明窓812と第二透明窓862の間の短い方の距離に対応している。この領域805は、溶液の濃度が高い場合(例えば10
6細胞/mLを超える)に全回折像を取得するために使用される。領域805は、単位光源81
1に対向している。
【0127】
光検出器86の領域806は、第一透明窓812と第二透明窓862の間の長い方の距離に対応している。この領域806は、溶液の濃度が低い場合(例えば10
4〜10
5細胞/mLを超える)に全回折像を取得するために使用される。領域806は、単位光源81
2に対向している。
【0128】
第一透明窓812と第二透明窓862の間の距離は、分析対象の要素回折像を取得するために光検出器86の一部を区切ることにより調整されうる。
【0129】
図9は、本発明に係るバイオリアクタ90を模式的に示している。本例において、バイオリアクタ90は、細胞を培養するための装置、あるいは有機体を伴う化学プロセスを実施、当該有機体から得られる生化学物質を活性化する装置を意味する。
【0130】
バイオリアクタは、以下のような複数のパラメータを調節および制御することにより、細胞培養または化学プロセスに最適な条件を提供できるように構成される。
・細胞、有機体、または活性生化学物質を含む溶液の撹拌
・この溶液のpH
・この溶液の温度
・この溶液に溶解している酸素の量
【0131】
図9に示される例において、細胞を含む溶液91がバイオリアクタ90に加えられる。この溶液は、バイオリアクタのタンク95内に配置される。
【0132】
バイオリアクタ90の状態を確認するために、バイオリアクタのタンクに形成された複数の開口を通じてプローブが挿入される。これらの開口の一つは、本発明に係る浸漬プローブ92を挿入するために使用される。浸漬プローブ92は、直径12mm未満で50mmを上回る長さの長尺筒形状である。浸漬プローブ92は、上述の第一封止ハウジングを受容する上部93と、上述の第二封止ハウジングを受容する下部94を有している。これら二つのハウジングの間の空間は、溶液91により占有される。
【0133】
このようにしてバイオリアクタ内の生細胞の量の経時変化が測定されうる。全回折像の取得時間は、細胞の動きの影響を避けるためにミリ秒オーダーであることが有利である。