(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変更工程では、前記方向における前記ターゲットの位置が固定された状態で前記ターゲットを複数回にわたって回動させることによる前記ターゲットが回転した回数に応じて、前記方向における前記ターゲットの位置が変更される、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明をその例示的な実施形態を通して説明する。
【0014】
図1には、本発明の一実施形態の真空処理装置VPの構成が模式的に示されている。真空処理装置VPは、インライン式の成膜装置として構成されうる。真空処理装置VPは、複数の処理室111〜131がゲートバルブを介して矩形の無端状に連結された構成を有する。処理室111〜131は、専用又は兼用の排気系によって排気される真空容器である。処理室111〜131には、基板1を保持したキャリア10を搬送する搬送装置CNV(
図3参照)が組み込まれている。
【0015】
搬送装置CNVは、キャリア10をそれによって保持された基板1の主面が水平面に対して垂直に維持された姿勢で搬送する搬送路を有する。処理室111は、キャリア10に基板1を取り付ける処理を行うためのロードロック室である。処理室116は、キャリア10から基板1を取り外す処理を行うためのアンロードロック室である。基板1は、例えば、磁気記録媒体としての使用に適したものであり、例えば、中心部分に開口(内周孔部)を有する金属製、若しくはガラス製の円板状部材でありうる。ただし、基板1の形状および材料は、特定のものに限定されない。
【0016】
真空処理装置VPにおける基板の処理手順について説明する。まず、処理室(ロードロック室)111内で第1基板1が第1キャリア10に取り付けられる。第1キャリア10は、処理室(密着層形成室)117に移動して、第1基板1に密着層が形成される。第1キャリア10が処理室(密着層形成室)117に配置されているときに、第2キャリア10に第2基板1が取り付けられる。その後、第2キャリア10は、処理室(密着層形成室)117に移動し、第2基板1に密着層が形成され、処理室(ロードロック室)111内で第3キャリア10に第3基板1が取り付けられる。各キャリア10は、処理室117〜131を1つずつ移動しながら、処理室117〜131のそれぞれにおいて基板1に対する処理がなされる。
【0017】
処理室117〜131は、基板1に対する処理を行う処理室である。処理室117〜128は、例えば、密着層、軟磁性層、シード層、中間層、磁性層等の膜を形成する成膜装置の処理室でありうる。処理室129は、例えば、ta−C膜からなる表面保護層を形成するプラズマ処理装置の処理室でありうる。処理室130は、例えば、処理室129内で形成されたta−C膜の表面を処理する処理装置のチャンバでありうる。処理室112〜115は、基板1の搬送方向を90度転換する方向転換装置を備えた処理室である。処理室131は、キャリア10に付着した堆積物を除去するアッシング処理室である。真空処理装置VPによって、例えば、基板1の上に、密着層、下部軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層、ta−C膜が順に形成された構造を得ることができる。
【0018】
図2には、キャリア10の構成例が示されている。キャリア10は、例えば、2枚の基板1を同時に保持することができる。キャリア10は、例えば、基板1をそれぞれ保持する2つの金属製のホルダー201と、2つのホルダー201を支持して搬送路上を移動するスライダ202とを含みうる。スライダ202には、搬送装置CNVがスライダ202を駆動するための永久磁石204が設けられている。ホルダー201は、基板1の表裏の成膜領域を覆うことなく、複数の導電性の弾性部材(板ばね)203によって基板1の外周部の数カ所を把持する。
【0019】
図3には、処理室129を有する成膜装置300の構成および搬送装置CNVの構成が模式的に示されている。搬送装置CNVは、搬送路に沿って並べられた多数の従動ローラ(不図示)と、キャリア10を駆動する磁気ネジ303とを含む。磁気ネジ303が回転駆動されることによって、永久磁石204が設けられたスライダ202(キャリア10)が搬送路に沿って駆動される。キャリア10のホルダー201によって保持された基板1には、導電性の弾性部材203を介して電源309によって電圧が印加される。あるいは、ホルダー201によって保持された基板1は、導電性の弾性部材203を介して接地されうる。ホルダー201には、直流電圧、パルス電圧または高周波電圧が印加されうる。
【0020】
成膜装置300は、例えば、真空アーク成膜法(Vacuum Arc Deposition)によって基板1にta−C膜を形成するように構成されうるが、これは一例に過ぎない。成膜装置300は、他の方式でプラズマを発生してもよい。成膜装置300は、基板を処理する処理室129と、プラズマを発生するプラズマ発生部306と、プラズマ発生部306で発生したプラズマを処理室129に輸送する輸送部304とを備えうる。また、成膜装置300は、プラズマによって基板1が走査されるように該プラズマを回転させる磁場を発生する走査磁場発生部SCLと、処理室129を排気するターボ分子ポンプ等の真空ポンプ(不図示)とを備えうる。この例では、処理室129は、基板1にta−C膜を形成する成膜室を構成する。
図3では、輸送部304およびプラズマ発生部306を1セットのみ示しているが、処理室129の両側に輸送部304及びプラズマ発生部306が1セットずつ(即ち、輸送部304及びプラズマ発生部306が2セット)備えられてもよい。なお、2枚の基板を搭載するキャリアを用いる場合は、2枚の基板の両面を同時に処理することができるように、輸送部304及びプラズマ発生部306を4セット用いてもよい。
【0021】
輸送部304は、
図3に模式的に示されるように二次元的に湾曲したシングルベンド型の輸送管でありうるが、直線型、ダブルベンド型、または三次元的に湾曲した輸送管であってもよい。フィルタコイルFCLは、輸送部304の内側(真空側)に配置された磁場発生部を含んでもよい。フィルタコイルFCLは、プラズマ(電子およびイオン)を輸送する磁場を輸送部304の中に形成する。輸送部304の中には、複数のバッフルが配置されうる。
【0022】
この例では、プラズマ発生部306は、真空アーク放電によってプラズマを発生するが、他の方式でプラズマを発生してもよい。プラズマ発生部306は、イオン発生部310と、ターゲット駆動部312とを有する。イオン発生部310は、その内部が輸送部304の連通されたチャンバ314と、電子およびイオンを生成するための陰極であるターゲットTGと、アノード電極と、ストライカ320とを含みうる。イオン発生部310は、ターゲットTGを保持(載置)するターゲットホルダ318と、安定化コイルACLを含みうる。ストライカ320は、ターゲットTGとアノード316との間でアーク放電を発生させる(即ち、放電を着火する)ための部材である。ターゲット駆動部(変更機構)312は、後述されるように、回転部322と、移動部324とを含みうる。
【0023】
ターゲットTGは、イオン供給ソースである。この例では、ターゲットTGは、ta−C膜を形成するためのグラファイトターゲットであるが、ターゲットTGは、基板1に形成すべき膜に応じた材料(例えば、窒化チタン、酸化チタン、窒化クロム、酸化クロム、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化亜鉛、酸化亜鉛、窒化銅または酸化銅、あるいは、これらの合金)で構成されうる。また、ターゲットTGは、本実施形態では、円柱形状を有するが、その他の形状、例えば、円筒形状や多角形の柱状でもよい。回転部322は、円柱形状を有するターゲットの中心軸と回転軸RAとを一致させてターゲットを水平方向に支持した状態で、回転軸RAの周りにターゲットを回転あるいは回動させる。また、移動部324は、ターゲットを回転軸RA(ターゲットの中心軸)に沿って移動(進退)させる。
【0024】
安定化コイルACLは、ターゲットTGの放電面側(輸送部304側)の逆側に配置され、アーク放電を安定させるための磁場を形成する。安定化コイルACLが発生する磁場とフィルタコイルFCLが発生する輸送磁場とはカスプ磁場(互いに逆方向)になる。このカスプ磁場により、アークスポットの挙動を制御するとともに、ターゲットTGとアノード316との間に低負荷の電流経路を確保し、アーク放電を安定化させることができる。安定化コイルACLの代わりに、永久磁石が設けられてもよい。アーク放電によって生成された炭素イオンを含むプラズマは、輸送部304における輸送磁場に沿って処理室129に輸送され、処理室129の中に配置された基板1にta−C膜が形成される。プラズマ発生部306には、アルゴン等の不活性ガスおよび/または窒素ガスの反応性ガスが、プロセスガスとして供給されてもよい。
【0025】
図4乃至
図7を参照して、成膜装置300の構成を詳細に説明する。
図4は、プラズマ発生部306の拡大正面図であり、
図5は、プラズマ発生部306の拡大下面図である。
図6は、
図4に示すプラズマ発生部306のA−A矢視図であり、
図7は、
図5に示すプラズマ発生部306のB−B矢視図である。
【0026】
安定化コイルACLは、円管状部材の外側に設けられ、ターゲットTGの放電面側(輸送部304側)と逆側のチャンバ314の外側(大気側)に配置され、その一端がチャンバ314に接続されている。本実施形態では、安定化コイルACLが設けられた円管状部材との内部は、チャンバ314と連通し、真空に維持されている。チャンバ314は、その内部が真空排気可能であり、ターゲットTGおよびその周囲の構成要素、即ち、ターゲットTG、アノード316およびストライカ320を収容する。アノード316は、例えば、筒形状を有しうるが、アノード316の形状は、輸送部304への電子および炭素イオンの輸送を遮るものでなければ、特に限定されない。アノード316は、グラファイト材料で構成されうるが、アノード316の材料は、アーク放電で発生したプラズマで溶融せず、導電性を有する材料であればよい。
【0027】
ストライカ320は、ターゲットTGとアノード316との間にアーク放電を誘起させるための電極である。アノード316の外側に退避しているストライカ320をターゲットTGに向かって駆動してターゲットTGに電気的に接触させ、ストライカ320からターゲットTGにアーク電流を流入させることができる。この状態でストライカ320をターゲットTGから引き離すことで、アーク放電を発生させることができる。そして、アノード316とターゲットTGとの間での電子電流もしくはイオン電流を維持することにより、アーク放電を維持することができる。アーク放電により、ターゲットTGから炭素イオンおよび電子が放出され、炭素イオンおよび電子を含むプラズマが生成される。ストライカ320は、アノード316に電気的に接続されている。
【0028】
ストライカ320は、放電部320a(先端部)を有し、放電部320aは、アノード316に電気的に接続されている。ストライカ320は、回動駆動されることによって放電部320aがターゲットTGの外周面TG
0の近傍に配置されることができる。ここで、ターゲットTGの外周面TG
0とは、ターゲットTGの回転軸RAの周り(回転軸周り)の側面である。また、ターゲットTGの外周面TG
0の近傍に放電部320aが配置された状態は、ターゲットTGの外周面TG
0と放電部320aとの間でアーク放電を誘起させることができる状態である。換言すると、ストライカ320は、回動駆動されることによって放電部320aがターゲットTGの外周面TG
0に接触状態になるように設けられている。ターゲットTGの外周面TG
0とストライカ320の放電部320aとが接触状態であることは、ストライカ320の放電部320aが外周面TG
0に物理的に接触することだけを意味するのでない。ターゲットTGの外周面TG
0とストライカ320の放電部320aとが接触状態であることは、ストライカ320の放電部320aが外周面TG
0に近接して電気的に接触することも意味する。換言すれば、ターゲットTGの外周面TG
0とストライカ320の放電部320aとが接触状態であることは、ストライカ320の放電部320aとターゲットTGとが低抵抗で導通することも意味する。
【0029】
ストライカ駆動部326は、
図6に示すように、ターゲットTGの外周面TG
0の近傍にストライカ320の放電部320aが配置された状態、および、外周面TG
0から放電部320aが離間した状態となるように、ストライカ320を回動駆動しうる。ストライカ駆動部326は、例えば、
図4に示すように、ストライカ用モータ328と、プーリ330a及び330bと、ベルト332と、モータベース334と、磁気シール336とを含みうる。ストライカ320は、プーリ330a、330bとベルト332とを介して、ストライカ用モータ328に接続されうる。ストライカ用モータ328は、チャンバ314に設けられたモータベース334に固定され、ストライカ320を所定角度(例えば、90度程度)だけ回動させうる。ストライカ用モータ328が大気側に設けられているため、ストライカ駆動部326は、磁気シール336を介して、大気側から真空側のストライカ320に回転力を伝達しうる。また、本実施形態では、ストライカ320の回動角度に関係なく電流を安定して供給するために、ロータリーコネクタ(回転導入器)338を介して、電力を供給しうる。
【0030】
ターゲットTGは、ターゲットホルダ318によって保持されうる。ターゲットホルダ318を介して、ターゲットTGに電流を供給することができるように、ターゲット給電端子340が大気側に設けられうる。ターゲットホルダ318は、シャフト342の一端に固定されうる。シャフト342の他端には、回転部322が設けられうる。また、移動部324は、回転部322を支持するベースプレート344を移動(進退)させるように設けられうる。シャフト342は、ターゲットTGを水平に支持する部材でありうる。また、シャフト342は、ターゲットTGに電流を供給するための経路の一部でありうる。また、シャフト342の内部には、ターゲットTGを冷却するための冷却水を流すための水路が形成されうる。ターゲットホルダ318は、シャフト342とターゲットTGとの間に設けられ、ターゲットTGの固定、ターゲットTGの冷却、および、電流経路の機能を有しうる。
【0031】
ターゲット駆動部312は、回転部322と、移動部324とを含みうる。ターゲット駆動部312は、ストライカ320によってアーク放電を誘起させる位置を変更する変更機構を構成しうる。回転部322について説明する。ベースプレート344には、シャフト342の回転シール部346が設けられうる。また、ベースプレート344には、大気側において、回転用モータ348が固定されうる。ベローズ350は、チャンバ314とベースプレート344との間に設けられ、その内部にシャフト342が配置されている。ベローズ350の内部は、チャンバ314と連通し、真空に維持することが可能である。ベローズ350は、ベースプレート344の移動に応じて伸縮する。支柱352には、継手354が固定されうる。継手354を介して、シャフト342の内部に形成された水路に冷却水が供給され、また、該水路から冷却水が排出されうる。回転用モータ348は、プーリ356a、356bとベルト358とを介して、シャフト342を回転させうる。
【0032】
次に、移動部324について説明する。取付ベース360は、チャンバ314に固定された部材でありうる。取付ベース360には、LMガイド362を介して、ベースプレート344が固定されうる。LMガイド362は、回転部322の回転軸RA(ターゲットTGの中心軸)に沿ってベースプレート344を移動させるように設けられている。LMガイド362は、ボールねじ366およびナット372によって構成されうる。
図7に示すように、取付ベース360には、移動用モータ364及びボールねじ366が固定されうる。より具体的には、取付ベース360に取り付けられた第1プレート368a及び第2プレート368bによって、ボールねじ366が支持されうる。移動用モータ364は、第2プレート368bに固定され、歯車370a及び370bを介して、ボールねじ366を回転させるように構成されうる。また、ベースプレート344は、ボールねじ366の回転に応じて移動(進退)するナット372に固定されうる。従って、移動用モータ364の回転によって、ベースプレート344に取り付けられた部分を移動させることができる。ベースプレート344には、上述したように、シャフト342及びベローズ350の一端が取り付けられうる。
【0033】
図8は、成膜装置300の動作、例えば、アーク放電によってターゲットTGから生じたイオンを基板1に照射して基板1に膜を形成する処理に関する動作を制御するシステム構成を示す図である。成膜装置300は、制御部802を有し、上位制御装置801からのコマンド(制御信号)が制御部802に供給されうる。制御部802は、上位制御装置801からのコマンドに従ってターゲット駆動部312(変更機構)、ストライカ駆動部326および電力印加部803を制御するように構成されうる。また、制御部802は、ターゲット駆動部312(変更機構)、ストライカ駆動部326および電力印加部803からの信号を上位制御装置801に送信するように構成されうる。制御部802は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用コンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。上位制御装置801は、真空処理装置VPの全体を制御する機能を有し、例えば、搬送装置、ゲートバルブ、搬送ロボットなど基板搬送系や他のプロセスチャンバの制御系などを制御するように構成されうる。
【0034】
制御部802は、演算部802aおよび記憶部802bを有する装置として構成されうる。演算部802aは、ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326および電力印加部803からの信号に演算処理を施して現在値および変化量を求めうる。記憶部802bは、ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326及び電力印加部803の現在値及び変化量、制御情報等を記憶しうる。また、記憶部802bは、演算部802aからの読み出し信号に応じて、記憶している値(ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326及び電力印加部803の現在値及び変化量など)を演算部802aに返すように構成されうる。
【0035】
ターゲット駆動部312は、上述したように、回転部322や移動部324を含み、ターゲットTGを回転あるいは回動させたり、ターゲットTGを移動(進退)させたりするように構成されうる。ストライカ駆動部326は、上述したように、ターゲットTGの外周面TG
0の近傍にストライカ320の放電部320aが配置された状態、および、外周面TG
0からストライカ320の放電部320aが離間した状態となるように、ストライカ320を駆動しうる。ターゲット駆動部312およびストライカ駆動部326は、回動角度等の操作量を検出するセンサー(例えば、エンコーダ)を備えたモータを含みうる。換言すれば、ターゲット駆動部312およびストライカ駆動部326は、操作量(例えば、位置、角度)を制御可能な駆動源として構成されうる。
【0036】
電力印加部803は、ターゲットTGとアノード316との間にアーク放電を誘起させるための電圧(電力)を供給する。電力印加部803は、例えば、電源として構成されるが、抵抗計などのセンサーを含んでいてもよい。また、電力印加部803は、安定化コイルACLへ電力を供給する電源、フィルタコイルFCLへ電力を供給する電源、走査磁場発生部SCLへ電力を供給する電源、輸送部304へバイアス電圧を印加する電源等を含みうる。
【0037】
ストライカ320は、ターゲット駆動部312によるターゲットTGの駆動が完了した後、制御部802からの制御信号に応じて、ストライカ駆動部326によって駆動されうる。ストライカ駆動部326によるストライカ320の駆動が完了した後(即ち、ターゲットTGの外周面の近傍にストライカ320の放電部320aが配置された後)、電力印加部803がターゲットTGとストライカ320との間に電圧を印加する。ターゲットTGの外周面の近傍にストライカ320の放電部320aが配置されたことの判定は、例えば、ストライカ320を駆動する(回動させる)ストライカ用モータ328の回動速度が0になっていることで行われうる。また、この判定は、ストライカ用モータ328の回動が開始されてからの経過時間に基づいてなされてもよいし、トルクに基づいてなされてもよい。
【0038】
電力印加部803は、ストライカ320の放電部320aがターゲットTGの外周面の近傍に配置されている状態から放電部320aがターゲットTGの外周面から離間されるまでの期間にわたってターゲットTGとストライカ320との間に電圧を印加しうる。具体的には、ストライカ320がターゲットTGの外周面の近傍に配置された状態が所定時間にわたって維持され、電力印加部803は、この所定時間にわたってターゲットTGとストライカ320との間に電圧を印加しうる。そして、電力印加部803が電圧を印加した後、ストライカ駆動部326がストライカ320を退避させ、ターゲットTGとストライカ320とが離間されうる。このような制御を行うことで、アーク放電を安定して発生させることができる。なお、ターゲットTGは、アーク放電の終了後、回転部322によって所定の角度だけ回動され、および/または、移動部324によって所定の距離だけ移動(進退)されうる。
【0039】
成膜装置300は、円柱形状を有するターゲットTGの中心軸を水平にした状態でターゲットを支持し、ターゲットTGの外周面TG
0においてアーク放電を発生させるように構成されうる。成膜装置300は、ターゲット駆動部312によってターゲットTGを回動および/または移動させることができるため、ターゲットTGの外周面TG
0におけるいずれの位置でもアーク放電を発生させることができる。
【0040】
アーク放電は、ターゲットTGの外周面の近傍にストライカ320の放電部320aが配置された状態で誘起される。この際、ターゲットTGの外周面TG
0のうちアーク放電が発生した部分(対向位置)にアークスポットが形成され、当該部分が削れて欠損部が形成されうる。成膜装置300では、次のアーク放電によって欠損部あるいはアークスポットが形成される位置(ストライカ320によってアーク放電を誘起させる位置(以下、ストライク位置ともいう。))が、既にアーク放電によって形成された欠損部に近接させるようにターゲットTGが駆動される。これにより、ターゲットTGが均等に削られてゆくため、ターゲットTGとして利用可能な部分をグラインダー等の加工機械によって削る必要がなくなる。よって、ターゲットTGの利用効率を向上させながら、アーク放電を安定して発生させることができる。また、成膜装置300では、ターゲットTGを加工機械によって削る工程を成膜工程の間に組み入れる必要がない。したがって、スループットの低下、及び、ターゲットTGの削り粉に起因するターゲット駆動部312およびストライカ駆動部326の不具合の発生を抑制することができる。また、連続して均一な膜を形成できる。
【0041】
図9A乃至
図9Fを参照しながら、設定されたストライク範囲(設定された領域)の中でストライカによってアーク放電を誘起させる位置(ストライク位置)を変更する動作を、基板に膜を形成する成膜動作とともに説明する。この動作は、制御部802によるターゲット駆動部312およびストライカ駆動部326の制御によって実現されうる。
【0042】
まず、
図9Aに示すように、ターゲットTGの外周面TG
0の第1のストライク範囲(L
1R〜L
1E)の第1端に位置するストライク位置SP(進退方向(X方向)の位置=L
1R、回動角度=0)において、ターゲットTGとストライカ320の放電部320aとが接触状態となるように、ターゲット駆動部312によってターゲットTGが駆動される。ストライク範囲とは、ストライク位置を移動(変更)させうる範囲である。換言すると、ストライク範囲は、ターゲットTGにおける設定された領域であり、当該領域の中でストライク位置を変更することができる。ストライク位置は、ターゲットTGの外周面TG
0における、ターゲットTGの進退方向の位置、および、ターゲットTGの回動角度で特定されうる。
【0043】
ストライカ駆動部326によってストライカ320が駆動されて、ストライク位置SPにおいて、ターゲットTGの外周面TG
0とストライカ320の放電部320aとが接触状態にされ、アーク放電が誘起される。これにより、ターゲットTGの外周面TG
0におけるストライカ320の放電部320aとの接触位置(ストライク位置SP)にアークスポットが形成され、アーク放電による欠損部CPが形成されうる。また、アーク放電が誘起された後、ストライカ駆動部326によってストライカ320が駆動されて、ストライク位置SP(進退方向の位置=L
1R、回動角度=0)からストライカ320の放電部320aが離間される。このアーク放電は、基板の成膜のために維持され、アーク放電によって形成されたプラズマ(イオン)によって基板に膜が形成される。このアーク放電が維持されている間は、ターゲットTGに形成される欠損部CPが拡大しうる。
【0044】
次いで、
図9Bに示すように、アーク放電によってターゲットTGの外周面TG
0に形成されるべきアークスポットが外周面TG
0において移動するようにターゲット駆動部312(回転部322)によってターゲットTGが回転軸RAの周りに回動角度θだけ回動されうる。そして、ストライカ駆動部326によってストライカ320が駆動され、ストライク位置SP(進退方向の位置=L
1R、回動角度=θ)において、ターゲットTGの外周面TG
0とストライカ320の放電部320aとが接触状態にされ、アーク放電が誘起される。これにより、ターゲットTGの外周面TG
0におけるストライカ320の放電部320aとの接触位置(ストライク位置SP)にアークスポットが形成され、アーク放電によって新たな欠損部CPが形成されうる(換言すると、欠損部CPが拡大されうる)。また、アーク放電が誘起された後、ストライカ駆動部326によってストライカ320が駆動されて、ストライク位置SP(進退方向の位置=L
1R、回動角度=0)からストライカ320の放電部320aが離間される。このアーク放電は、基板の成膜のために維持され、アーク放電によって形成されたプラズマ(イオン)によって基板に膜が形成される。このアーク放電が維持されている間は、ターゲットTGに形成される欠損部CPが拡大しうる。
【0045】
次いで、アーク放電によってターゲットTGの外周面TG
0に形成されるべきアークスポットが外周面TG
0において移動するようにターゲット駆動部312(回転部322)によってターゲットTGが回転軸RAの周りに回動角度θだけ回動されうる。
【0046】
以上のように、アーク放電とターゲットTGの回動とを繰り返すことで、
図9Cに示すように、ターゲットTGの外周面TG
0の第1のストライク範囲の第1端に位置するストライク位置=L
1Rに周状に欠損部CPが形成される。ここで、一例において、ストライク位置=L
1Rでは、ターゲットTGが回転軸RAの周りに2回転されうる。
【0047】
ターゲットTGの外周面TG
0の第1のストライク範囲の第1端に位置するストライク位置=L
1Rに周状に欠損部CPが形成された後、
図9Dに示すように、ターゲット駆動部312(移動部324)によってターゲットTGが回転軸RAに沿って進方向(+X方向)にXmm移動される。この際、アーク放電によって既にターゲットTGに生じている周状の欠損部CPと、以降のアーク放電によってターゲットTGに形成されるべき欠損部CPとが隣接し、或いは、その一部が重なるように、ターゲットTGが進方向にXmm移動されうる。そして、ストライク位置SP(進退方向における位置L
1R+X、回動角度=0)において、ターゲットTGの外周面TG
0とストライカ320の放電部320aとが接触状態にされ、アーク放電が誘起される。これにより、ストライク位置SPにアークスポットが形成され、アーク放電によって新たな欠損部CPが形成されうる(欠損部CPが拡大されうる)。また、アーク放電が誘起された後、ストライカ駆動部326によってストライカ320が駆動されて、ストライク位置SPからストライカ320の放電部320aが離間される。このアーク放電は、基板の成膜のために維持され、アーク放電によって形成されたプラズマ(イオン)によって基板に膜が形成される。このアーク放電が維持されている間は、ターゲットTGに形成される欠損部CPが拡大しうる。
【0048】
次いで、アーク放電によってターゲットTGの外周面TG
0に形成されるべきアークスポットが外周面TG
0において移動するようにターゲット駆動部312(回転部322)によってターゲットTGが回転軸RAの周りに回動角度θだけ回動されうる。そして、ストライカ駆動部326によってストライカ320が駆動されて、ストライク位置SP(進退方向における位置=L
1R+X、回動角度=θ)において、ターゲットTGの外周面TG
0とストライカ320の放電部320aとが接触状態にされ、アーク放電が誘起される。これにより、ターゲットTGの外周面TG
0におけるストライカ320の放電部320aとの接触位置(ストライク位置SP)にアークスポットが形成され、アーク放電によって新たな欠損部CPが形成されうる(換言すると、欠損部CPが拡大されうる)。また、アーク放電が誘起された後、ストライカ駆動部326によってストライカ320が駆動されて、ストライク位置SP(進退方向の位置=L
1R、回動角度=0)からストライカ320の放電部320aが離間される。このアーク放電は、基板の成膜のために維持され、アーク放電によって形成されたプラズマ(イオン)によって基板に膜が形成される。このアーク放電が維持されている間は、ターゲットTGに形成される欠損部CPが拡大しうる。
【0049】
次いで、アーク放電によってターゲットTGの外周面TG
0に形成されるべきアークスポットが外周面TG
0において移動するようにターゲット駆動部312(回転部322)によってターゲットTGが回転軸RAの周りに回動角度θだけ回動されうる。
【0050】
以上のように、アーク放電とターゲットTGの回動とを繰り返すことで、
図9Eに示すように、ストライク位置=L
1R+Xに周状に欠損部CPが形成される。ここで、一例において、ストライク位置=L
1R+Xでは、ターゲットTGが回転軸RAの周りに1回転されうる。ここで、ターゲットTGの1回転は、ターゲットTGの複数回にわたる回動によってなされる。
【0051】
以上の動作は、第1のストライク範囲の第2端に位置するストライク位置=L
1Eまで繰り返えされる。これによって、
図9Fに示すように、第1のストライク範囲の全体にアークスポットによる欠損部CPが形成されうる。一方、ストライク範囲の外側である非ストライク範囲にはアークスポットが発生しないので、ターゲットが削られることはなく、欠損部CPが形成されない。その結果、第1のストライク範囲の第1端と非ストライク範囲との境界、および、第1のストライク範囲の第2端と非ストライク範囲との境界に段差が形成されうる。
【0052】
一例では、第1のストライク範囲の第2端L
1Eでは、ターゲットTGが回転軸RAの周りに2回転されうる。つまり、第1のストライク範囲の第1端L
1R、および、ストライク範囲の第2端L
1Eでは、ターゲットTGが回転軸RAの周りに2回転される。一方、それ以外のストライク位置では1回転とされうる。このように制御によれば、各ストライク位置SPでのアーク放電の発生回数が同じとなり、ターゲットTGを均等に削ることができる。
【0053】
本実施形態の成膜方法では、ストライク範囲(設定された領域)の中でストライク位置(ストライカによってアーク放電を誘起させる位置)を変更する変更工程および成膜工程は、ストライク範囲を縮小しながら繰り返されうる。換言すると、本成膜方法は、ストライク範囲の中でストライク位置を変更する変更工程と、該ストライク位置でアーク放電を起こすことによって発生するプラズマを利用して基板に膜を形成する成膜工程と、ストライク範囲を縮小する縮小工程と、を含みうる。
【0054】
ここで、変更工程と少なくとも1回の成膜工程とを含むサイクルが繰り返えされた後に、縮小工程が実施され、その後、該サイクルが繰り返えされうる。縮小工程では、縮小前のストライク範囲に縮小後のストライク範囲が収まるようにストライク範囲が縮小されうる。変更工程では、ターゲットTGを回動させることによってストライク位置が変更されうる。変更工程では、ターゲットTGの回転軸に平行な方向にターゲットTGを移動させることによってストライク位置が更に変更されうる。
【0055】
以下、
図10A乃至
図10Eを参照しながら、本実施形態における変更工程、成膜工程および縮小工程について説明する。
図10Aには、未使用のターゲットTGが例示されている。ターゲットTGをターゲットホルダ318に固定した後、
図10Bに示すように、第1のストライク範囲の中でストライク位置を変更する変更工程が実施されるとともに、各ストライク位置で成膜工程が実施される。その後、第1のストライク範囲の第1端L
1Rと非ストライク範囲との境界、および、第1のストライク範囲の第2端L
1Eと非ストライク範囲との境界に段差が形成されうる。しかし、該境界で発生させたアーク放電が不安定になる前に、第1のストライク範囲(L
1R〜L
1E)から
図10Cに例示される第2のストライク範囲(L
2R〜L
2E)にストライク範囲が変更(縮小)される。
【0056】
そして、第2のストライク範囲の中でストライク位置を変更する変更工程が実施されるとともに、各ストライク位置で成膜工程が実施される。その後、第2のストライク範囲の第1端L
2Rと非ストライク範囲との境界、および、第2のストライク範囲の第2端L
1Eと非ストライク範囲との境界に段差が形成されうる。しかし、該境界で発生させたアーク放電が不安定になる前に、第2のストライク範囲(L
2R〜L
2E)から
図10Dに示す第3のストライク範囲(L
3R〜L
3E)にストライク範囲が変更(縮小)される。そして、第3のストライク範囲の中でストライク位置を変更する変更工程が実施されるとともに、各ストライク位置で成膜工程が実施される。
【0057】
このようにして、第(n−1)のストライク範囲(L
(n−1)R〜L
(n−1)E)において変更工程および成膜工程が実施された後、ストライク範囲と非ストライク範囲との境界で発生させたアーク放電が不安定になる前に、第(n−1)のストライク範囲(L
(n−1)R〜L
(n−1)E)から
図10Eに示す第nのストライク範囲(L
nR〜L
nE)にストライク範囲が変更(縮小)される。ここで、ストライク範囲は、第1のストライク範囲(L
1Rmm〜L
1Emm)から第nのストライク範囲(L
nRmm〜L
nEmm)(nは整数)まで順次に変更されうる。また、ストライク範囲は、ターゲットTGの長さLmmに対して、L>L
1R〜L
1E>L
2R〜L
2E>L
3R〜L
3E>・・・・L
(n−1)R〜L
(n−1)E>L
nR〜L
nEである。
【0058】
本実施形態によれば、変更工程および縮小工程の実施によって、ストライク位置によらずにアーク放電を安定して発生させることができるので、安定した成膜速度で連続して均一な膜を形成することができる。また、本実施形態では、ターゲットTGをグラインダー等の加工機械によって削る処理が不要であるため、装置の小型化やメンテナンスコストの低減を実現することができる。
【0059】
また、本実施形態では、ターゲットTGの進退方向におけるストライク範囲の両端においては、ターゲットTGを回転軸RAの周りに2回転させた後にターゲットTGが進退方向に移動されうる。また、ターゲットTGの進退方向におけるストライク範囲の両端以外では、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転させた後にターゲットTGが進退方向に移動されうる。但し、ストライク範囲の全域において、進退方向におけるストライク位置の変更の条件としてのターゲットTGの回転の回数を同じにしてもよい。あるいは、ストライク範囲の両端と両端以外とにおいて、進退方向におけるストライク位置の変更の条件としてのターゲットTGの回転の回数を、アーク放電が安定に発生する範囲で適宜変更してもよい。例えば、進退方向におけるストライク位置の変更の条件としてのターゲットTGの回転の回数、即ち周数は、1周から4周の範囲内であることが好ましい。
【0060】
また、本実施形態では、ターゲットTGを回転軸RAの周りに回動させた後、ターゲットTGを進退方向に移動するように、ターゲットTGの回動および移動を制御しているが、これに限定されるものではない。例えば、欠損部CPがらせん状に形成されるように、即ち、対向位置のターゲットTGの外周面TG
0におけるアークスポットの軌跡がらせん状になるように、ターゲットTGの回動および移動を制御してもよい。
【0061】
また、上記の例では、アーク放電を発生させる度にストライク位置が変更されるが、アークスポットによって形成される欠損部のサイズが予め定められたサイズよりも大きくなる度にストライク位置が変更されてもよい。換言すれば、ターゲットTGにアークスポットによって形成される欠損部のサイズが予め定められたサイズよりも大きくなるまでは、スパイク位置が維持されてもよい。
【0062】
アーク放電によって形成されるアークスポットの位置に応じて、基板1に形成される膜の成膜速度が変動しうる。具体的には、アークスポットがアノード316の中心に存在すると成膜速度が向上し、アークスポットがアノード316に近づくと成膜速度が低下しうる。したがって、アークスポットがアノード316から離れた位置に形成されるとよい。そこで、本実施形態では、ストライカ駆動部326は、アノード316と、接触状態におけるストライカ320の放電部320aとの位置関係が一定となるようにターゲットTGが駆動される。これにより、成膜速度を安定させることができる。
【0063】
以下、上述した真空処理装置VPの成膜装置300によってta−C膜を形成する成膜方法の実施例を挙げる。上述した実施形態に示す装置を用いて、基板上に密着層、下部軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層を順次に積層した。次に磁気記録層が形成された基板に表面保護層としてta−C膜を形成した。
【0064】
(実施例1)
図11A乃至
図13Dは、実施例1に係るターゲット駆動制御の一例を示す図である。それぞれの図には、ターゲットTGの各ストライク位置において、ターゲットTGを回転軸RAの周りに回転させる回数である周数(360度回転した回数)が記載されている。
図11A乃至
図11Dに第1のストライク範囲(L
1Rmm〜L
1Emm)におけるターゲットTGの駆動制御を示す。ストライク位置SP(進退方向の位置L
1R、回動角度=0)からターゲットTGの駆動を開始し、ターゲットTGの進退方向におけるストライク位置=L
1Rにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに2回転(
図11A)させる。その後、ターゲットTGを進方向にXmm移動させることによってストライク位置を変更する。そして、ターゲットTGの進退方向の位置=L
1R+Xにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転させた後、ターゲットTGを進方向にXmm移動させることによってストライク位置を変更する。このような動作をストライク位置が第1のストライク範囲の第2端L
1Eに達するまで行う(
図11B)。次いで、第1のストライク範囲の第2端L
1Eにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに更に1回転(
図11C)させた後、ターゲットTGを退方向にXmm移動する。そして、ターゲットTGの進退方向の位置L
1E−Xにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転させた後、ターゲットTGを退方向にXmm移動する。これをターゲットTG進退方向の位置L
1E−XからL
1R+Xまで順次に繰り返し、ターゲットTGを第1のストライク範囲のL
1R+Xに移動する(
図11D)。このようなターゲットTGの回動動作および進退動作をターゲットTG進退方向の各ストライク位置を2回通過するまで繰り返す。
【0065】
図12A乃至
図12Dに第2のストライク範囲(L
2R〜L
2E)におけるターゲットTGの駆動制御を示す。この実施例では、第2のストライク範囲の第1端L
2Rは、L
1R+2Xであり、第2のストライク範囲の第2端L
2Eは、L
1E−2Xである。ターゲットTGの進退方向におけるストライク位置=L
2Rにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに2回転(
図12A)させた後、ターゲットTGを進方向にXmm移動させることによってストライク位置を変更する。そして、ターゲットTGの進退方向の位置=L
2R+Xにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転させた後、ターゲットTGを進方向にXmm移動させることによってストライク位置を変更する。このような動作をストライク位置が第2のストライク範囲の第2端L
2Eに達するまで行う(
図12B)。次いで、第2のストライク範囲の第2端L
2Eにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに更に1回転(
図12C)させる。その後、ターゲットTGを退方向にXmm移動する。そして、ターゲットTG進退方向の位置L
2E−Xにおいて、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転させた後、ターゲットTGを退方向にXmm移動する。これをターゲットTGの進退方向の位置L
2E−XからL
2R+Xまで順次に繰り返し、ターゲットTGを第2のストライク範囲のL
2R+Xに移動する(
図12D)。このようなターゲットTGの回動動作および進退動作をターゲットTGの進退方向の各ストライク位置を2回通過するまで繰り返す。
【0066】
第2のストライク範囲でも、第1のストライク範囲と同様に、ストライク範囲の両端の位置では、ターゲットTGを回転軸RAの周りに2回転(2周)した後、ターゲットTGを進退方向に移動する。それ以外のターゲットTGの進退方向の位置では、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転した後、ターゲットTGを進退方向に移動する。そして、この動作をターゲットTGの進退方向の各ストライク位置を2回通過するまで繰り返した後、第1のストライク範囲から第2のストライク範囲への変更時と同様に第3のストライク範囲(L
3R〜L
3E)にストライク範囲を変更する。
【0067】
図13A乃至
図13Dに第3のストライク範囲(L
3R〜L
3E)におけるターゲットTGの駆動制御を示す。第3のストライク範囲の第1端L
3Rは、L
2R+2Xであり、第3のストライク範囲の第2端L
3Eは、L
2E−2Xである。
【0068】
上記のように各々のストライク範囲において、各ターゲットTGの進退方向の位置を2回通過する毎にストライク範囲を片側2Xmmずつ、即ちストライク範囲が4Xmmずつ狭まるようにターゲットTGを順次に移動させる制御を行う。ストライク範囲を変更する条件としてのターゲットTGの回転の回数は、例えば、ターゲットTGを一回回転させる間における成膜速度の変化に基づいて決定されうる。本実施例では、各ターゲットTGの進退方向の位置を2回通過する度にストライク範囲を変更するが、これに限定されるものではなく、アーク放電が安定に発生する範囲で適宜変更してもよい。さらに、ストライク範囲毎に通過回数を個別に設定することもできる。また、本実施例では、ストライク範囲を片側2Xmmずつ縮小するが、これに限定されるものではない。
【0069】
(実施例2)
次に実施例2について説明する。各ストライク範囲でのターゲットTGの駆動制御は、実施例1と同様であるが、ストライク範囲を変更するかどうかの判定において、ターゲットTGにストライカ320の放電部が接触するときのストライカ320の回動角度(
図6)を利用する。ターゲットTGにストライカ320の放電部320aが接触するときのストライカ320の回動角度をストライカ320の接触回動角度、または、単に接触回動角度という。接触回動角度は、ターゲットTGの外周面TG
0の位置、換言すると、未使用のターゲットTGの外周面TG
0の位置からの現在の外周面TG
0の変化量を示す。実施例1ではストライク範囲を変更する際に、ターゲットTGの進退方向の各ストライク位置の通過回数(回転の回数=周数)で判定する。一方、本実施例では、ターゲットTGとストライカ320の回動角度からターゲットTGの消耗を推定して、ストライク範囲の変更を行う。
【0070】
本実施例では、ストライク毎にストライカ320の接触回動角度の測定を行い、ストライカ320の接触回動角度の変化により、ターゲットTGの消耗を判定し、ストライク範囲を変更する。即ち、未使用のターゲットTGにストライカ320の放電部320が接触するときのストライカ320の接触回動角度と、ストライク毎の接触回動角度との差分により、ターゲットの消耗(ターゲット形状)をリアルタイムで監視することができる。よって、本実施例によれば、成膜条件に関わらず、ターゲットTGを効率よく利用できる。
【0071】
ストライク範囲を変更するどうかを判定するためになされる、ストライカ320の接触回動角度の測定は、ストライク範囲と非ストライク範囲の境界から十分に離れた位置(ストライク範囲内の位置)においてなされうる。これは、ストライク範囲と非ストライク範囲との境界には段差が存在し、この段差によりストライカ320の回動角度のバラツキが大きくなるからである。また、例えば、判定で使用するストライカ320の接触回動角度は、複数ストライク位置で測定された平均値が使用されうる。判定の例としては、未使用のターゲットに関して測定された接触回動角度に比べて使用開始後のターゲットについて測定された接触回動角度が1.0°だけ大きくなった後に、第1のストライク範囲から第2のストライク範囲に縮小する例を挙げることができる。同様に、未使用のターゲットTGに関して測定された接触回動角度に比べて、使用開始後のターゲットについて測定された接触回動角度が2.0°だけ大きくなった後に、第2のストライク範囲から第3のストライク範囲に縮小するような例を挙げることができる。この例では、ストライカ320の接触回動角度が1.0°だけ大きくなる度にストライク範囲が縮小されるようにターゲットが駆動される。
【0072】
ターゲットTGの駆動は、実施例1と同様になされうる。つまり、ストライク範囲の両端の位置では、ターゲットTGを回転軸RAの周りに2回転した後にターゲットTGを進退方向に移動しうる。また、それ以外のターゲットTG進退方向の位置では、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転した後にターゲットTGを進退方向に移動しうる。
【0073】
上記のように、ストライカの回動角度に応じて、ストライク範囲を片側2Xずつ、即ちストライク範囲が4Xずつ短くするようにストライク範囲が段階的に縮小されうる。ストライク範囲を縮小する条件としてのストライカ320との接触回動角度は、例えば、ストライカ320の接触回動角度に対する成膜速度の変化またはアーク放電の安定性に係るデータに基づいてなされうる。本実施例では、ストライカ320の接触回動角度が1.0°だけ大きくなる度にストライク範囲が変更されうるが、これに限定されるものではなく、アーク放電が安定に発生する範囲で適宜変更してもよい。さらに、ストライク範囲毎にストライカ320の接触回動角度(例えば、未使用のターゲットTGについて測定されたストライカ320の回動角度からの変化量)を個別に設定することもできる。また、本実施例では、ストライク範囲を片側2Xmmずつ縮小するが、これに限定されるものではない。
【0074】
(実施例3)
実施例3として、ストライク範囲を変更するかどうかの判定が、輸送されるプラズマ量に基づいてなされる。本実施例は、実施例1および実施例2と同様の効果を得ることができる。ここで、輸送されるプラズマ量は、輸送部304に流入する電流の積算値に基づいて評価されうる。プラズマ量は、基板に形成される膜の厚さと相関関係があり、単位時間当たりのプラズマ量が多いほど成膜速度が速くなる。また、各ストライク範囲でのターゲットTGの駆動制御は、実施例1、2と同様である。
【0075】
本実施例では、輸送部304に正のバイアス電圧を印加した状態で、輸送部304に流入する電流値を計測して積算することでターゲットTGの消耗を判定し、ストライク範囲を変更させる。ここで、輸送部304に流入する電流値は、プラズマ量に相当する。即ち、未使用のターゲットの使用開始直後またはストライク範囲の変更直後における積算電流値と、ターゲットTGの進退方向におけるストライク範囲の両端部に到達したときの積算電流値とを比較する。これにより、ストライク範囲と非ストライク範囲との境界に形成される段差に起因する成膜速度の低下をリアルタイムに監視することができる。実施例2と同様に、成膜条件に応じて、ターゲットTGを効率よく利用できる。例えば、未使用のターゲットの使用開始直後またはストライク範囲の変更直後の積算電流値に対するストライク範囲の端での積算電流値との比率が0.85以下となった後に、第1のストライク範囲から第2のストライク範囲、第2のストライク範囲から第3のストライク範囲、にストライク範囲を変更する。
【0076】
上記のように未使用のターゲットの使用開始直後またはストライク範囲の変更直後の積算電流量とターゲットTGの進退方向におけるストライク範囲の端での積算電流値とに応じて、ストライク範囲を片側2Xmmずつ、即ちストライク範囲が4Xmmずつ短くするようにターゲットを移動させる。本実施例によれば、輸送部304で輸送されるプラズマ量をリアルタイムにモニタできるので、実施例1および実施例2のような事前のデータ取得をすることなく、ストライク範囲と非ストライク範囲に形成された段差により輸送部304で輸送されるプラズマ量が減少する度にストライク範囲を変更することができる。本実施例では、前記比率が0.85以下となった後にストライク範囲を変更したが、これに限定されるものではなく、アーク放電が安定に発生する範囲で適宜変更してもよい。さらに、前記比率を個別に設定することもできる。また、本実施例では、ストライク範囲を片側2Xmmずつ縮小する、これに限定されるものではない。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
ターゲットの近傍にストライカの放電部を配置してアーク放電を誘起し、これによって発生するプラズマを利用して基板に膜を形成する成膜方法は、前記ストライカによってアーク放電を誘起させる位置を前記ターゲットにおける設定された領域の中で変更する変更工程と、前記位置でアーク放電を起こすことによって発生するプラズマを利用して基板に膜を形成する成膜工程と、前記ターゲットの使用に応じて前記領域を縮小する縮小工程と、を含む。