(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487614
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】火格子の冷却方法と、火格子の冷却機構及び該冷却機構を備えたストーカ式焼却炉
(51)【国際特許分類】
F23H 3/04 20060101AFI20190311BHJP
F23H 7/08 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
F23H3/04
F23H7/08 A
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-46432(P2013-46432)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-173785(P2014-173785A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月10日
【審判番号】不服2017-17364(P2017-17364/J1)
【審判請求日】2017年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125842
【氏名又は名称】虹技株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】梶野 正則
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 稔
(72)【発明者】
【氏名】中島 毅
(72)【発明者】
【氏名】松下 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知弘
【合議体】
【審判長】
藤原 直欣
【審判官】
井上 哲男
【審判官】
槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−181311(JP,A)
【文献】
特開2000−161618(JP,A)
【文献】
英国特許出願公告第796155(GB,A)
【文献】
特開平4−55609(JP,A)
【文献】
実公昭57−46035(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23H 1/02,3/04
F23H 7/00,7/08,11/10
F23G 5/00
F23L 1/00,17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に、外部から圧縮空気を導入してエアノズルの管内に取り込まれる燃焼空気室内の燃焼空気の流速を高めることで、外部圧縮空気に比してエアノズル吐出口からの燃焼空気の排出風量を増量させる外部圧縮空気導入式の風量増幅型エアノズルを、該エアノズルの吐出口を火格子に向けてかつ火格子の下面と離間させて配設せしめたことを特徴とする、ストーカ式焼却炉の火格子冷却機構。
【請求項2】
前記風量増幅型エアノズルは、該エアノズルの吐出口を火格子の下面と15cmから100cm離間させて燃焼空気室内に配設されたものであることを特徴とする、請求項1記載のストーカ式焼却炉の火格子冷却機構。
【請求項3】
前記風量増幅型エアノズルは、該エアノズルの吐出口を火格子の下面に対して斜めに向けてかつ該火格子下面と離間させて配置せしめたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のストーカ式焼却炉の火格子冷却機構。
【請求項4】
外部圧縮空気導入式の風量増幅型エアノズルは、ノズルの流路の横断方向内周面に設けられたスリットから噴出させる外部圧縮空気を、内壁面に沿うように吐出させることでエアノズル吐出口からの燃焼空気の風量を増幅させるトランスベクターを用いたものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のストーカ式焼却炉の火格子冷却機構。
【請求項5】
外部圧縮空気導入式の風量増幅型エアノズルは、圧縮空気の導入圧力もしくは導入風量を調整することで該エアノズル吐出口の風量を調整しうる調整手段を備えたものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のストーカ式焼却炉の火格子冷却機構。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の火格子冷却機構を備えたストーカ式焼却炉。
【請求項7】
ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に送り込まれた燃焼空気を、該燃焼空気室内の風量増幅型エアノズルの取込口から該エアノズルの管内に取り込み、該燃焼空気とは別に外部から導入する圧縮空気(外部空気)を該エアノズルの管内に供給せしめて管内の燃焼空気の空気流を加速せしめ、該加速された空気流を該エアノズルの吐出口から火格子下面に向かって放出させることで、火格子下面の周囲の滞留空気を流動させ、火格子下面の放熱を促進させることで火格子上表面の冷却を促進するストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法。
【請求項8】
ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に送り込まれた燃焼空気を、該燃焼空気室内の風量増幅型エアノズルの取込口から該エアノズルの管内に取り込み、該燃焼空気とは別に外部から導入する圧縮空気(外部空気)を該エアノズルの管内に供給せしめて管内の燃焼空気の空気流を加速せしめ、該加速された空気流を該エアノズルの吐出口から火格子下面に向かって15cmから100cm離間した位置から斜め上方に放出させることで、火格子下面直下の滞留空気を流動させ、火格子下面の放熱を促進させることで火格子上表面の冷却を促進するストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法。
【請求項9】
ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に送り込まれた燃焼空気を、該燃焼空気室内の風量増幅型エアノズルの取込口から該エアノズルの管内に取り込み、該燃焼空気とは別に外部から導入する圧縮空気(外部空気)を圧力もしくは風量を調整可能に該エアノズルの管内へと供給することで管内の燃焼空気の空気流を加速せしめ、該加速された空気流を該エアノズルの吐出口から火格子下面に向かって風量調整可能に放出させることで、火格子下面の周囲の滞留空気を流動させ、火格子下面の放熱を促進させることで火格子上表面の冷却を促進するストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法。
【請求項10】
火格子表面の温度が所期の設定温度よりも高いときには前記圧縮空気の圧力もしくは風量を調整することで前記エアノズルの管内に導入する供給を増やし、所期の設定温度領域よりも火格子表面の温度が低いときには前記圧縮空気の圧力もしくは風量を調整することで前記エアノズルの管内に導入する供給を減らす、という火格子表面の温度に応じたフィードバック制御によって火格子表面の冷却温度を所期の設定温度領域に保持せしめることを特徴とする、請求項9記載のストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法。
【請求項11】
前記風量増幅型エアノズルとしてノズルの流路の横断方向内周面に設けられたスリットから噴出させる外部圧縮空気を、内壁面に沿うように吐出させることでエアノズル吐出口からの燃焼空気の風量を増幅させるトランスベクターを用いたものであることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載のストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、ストーカ式焼却炉において、火格子(ロストル)の底面側に空気等の気体を吹きあてて火格子を空冷する冷却方法と、火格子の冷却機構及び該冷却機構を備えたストーカ式焼却炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にゴミ焼却施設では、火格子のロストル金物の上にホッパーから投入された可燃ゴミを順次供給していきながら、送り込まれたゴミを順次連続的に燃焼させていく階段式のストーカ式焼却炉が用いられていることが多い。ストーカ式焼却炉の一般的な運用では、まず、ごみピットに集積されたゴミはクレーン等で保持されて、上方のホッパーから、ストーカ式焼却炉の階段状に多段に配されたストーカを備えた炉内上流側へと投入される。炉内の熱で「乾燥」されたゴミは、ストーカ上を移動して、やがて炉内中央の燃焼部で「燃焼」し、下流側のストーカ側で「後燃焼」されるようにして、灰となり、下流から灰出し用のコンベアで排出される。炉内でのゴミや焼却灰は、たとえばストーカの一部あるいは全部を可動式にしておき、ストーカを前後あるいは左右に機械的に揺動することで、上流から下流へと順次送られていくようになっている。
【0003】
炉内の燃焼温度はダイオキシン類の分解とNO
xの抑制の観点からは適切な温度範囲で運用されることが有用であることから、800℃から950℃といった温度域で使用されており、またストーカ炉はバッチ処理ではなく連続運転で使用されるので、燃焼温度が安定的に維持し易いものとなっている。また連続的に運転することで低温燃焼下で生じやすいダイオキシン類の生成を可及的に回避することができる。さらに近時はダイオキシン抑制の観点から1000℃以上でのさらなる高温焼却の運用が試行されている。そして、通常の燃焼炉は、ストーカの上部に燃焼室が設けられ、ストーカの下方に設けた空間に、燃焼用空気を外部から導入している。燃焼用空気は、たとえば150〜200℃程度に予め昇温されており、送風機とダクトを介して外部から送風されて炉内に供給されている。
【0004】
さらに、近時、ゴミ焼却施設についても省エネルギーな焼却施設が志向されており、焼却炉から排出される排ガス量を削減することによって、さらに下流側の集塵機や通風設備を小型化・小規模化するといった試みがなされている。たとえば、余分な燃焼空気を減らすことによって、燃焼ガスの発生量を低減するなどしている低空気比燃焼炉が次世代型のストーカ炉として注目されている。
【0005】
たしかに低空気比運転を行うと、燃焼ガスの発生量は減少するが、その分だけ焼却時の炉内が高温になりやすくなるので、従来に比して、火格子や耐火物が熱損耗して痛みやすくなる。そこで、火格子を焼損させない対応が特に緊喫の課題となっている。すなわち、ストーカ式焼却炉の火格子(ロストル金物)は、その表面温度が500℃以上になると先端部分の損耗が著しく進みやすくなるからである。
【0006】
ダイオキシンの発生や燃焼効率を考慮した場合には燃焼炉内は高温に保つことが望ましいので、一方では炉内の燃焼部を高温に保ちつつも、他方では火格子の金物表面温度を450℃未満に保持することが望ましい。従来はそうした火格子の放熱としては、火格子の上表面側にフィンを設けるなどして、炉内に供給する燃焼用の空気によって放熱していた。しかし、焼却炉内の燃焼室の火格子は、火格子が使用される場所によって温度が異なるので熱損耗の度合いも違っており、ゴミが乾燥する箇所、激しく燃焼する箇所などの使用場所によって冷却されるべき度合いにも差がある。これらを炉底部のダクトから導入される焼却炉用の一次燃焼空気でもって空冷するだけであると、効率的に局所的・集中的に冷却することには適していなかった。
【0007】
そこで、従来から火格子を空冷したり、液冷したりする手法が次のように試みられている。たとえば、その1つは、冷却専用に外部より冷却用の空気を炉内下方へと導き、空気通路を備えた火格子の金物に通風することで火格子を強制的に冷却する方法である。具体的には、可動式と固定式のフレーム上に火格子を載置し、その下方にウインドボックスを配置したストーカ式焼却炉で、火格子、可動フレーム、固定フレーム、ウインドボックスを中空構造とし、このウインドボックスとノズルを介して火格子下側に冷却気体を導入する気体流路を構成し、前記中空構造を有する火格子及びスクレーパの内面側に、又は火格子単独構造の場合は、火格子下面に補強リブ兼用の放熱用フィンで冷却気体が通る流路溝を形成すると共に、前記ノズルは、前記流路溝内の全て又は一部に配列されており、火格子列が広がろうとした場合、広がりをノズルの機械的拘束により抑制するように構成したことを特徴とするストーカ式燃焼炉用焼却装置における冷却機構である(たとえば特許文献1参照。)。
【0008】
たしかに、外部から冷却用の空気を新規に導入することから、燃焼用の空気とは無関係に火格子を効率よく冷却することに適しているといえよう。
しかしながら、冷却用に特化した空気を別途大量に供給する必要がある。すると、火格子内部に空気通路が必要となることから、冷却空気用の多くの配管が必要となり、また冷却通風用の空気通路を備えた特殊形状の「専用の火格子」が必要となってくる。それでは従来のストーカ式焼却炉や、従来の火格子にそのまま適用できるわけではなく、改良目的での導入しやすい機構とはなり難く、またストーカ炉の火格子は可動する方式であることが一般であることからすると、ストーカの駆動装置を含めた焼却炉全体の設計を見直す必要も生じてしまうことが考えられるなど、その構造も複雑化することがネックとなるものであった。
【0009】
さらに、燃焼用の空気と冷却用の空気が合算されて排ガスとして排出されることになるのであれば、排煙処理設備への負荷は小さくならないので、排ガス量の削減によって排ガス処理に伴うエネルギーを削減することにはなじまず、省エネルギーな焼却炉システムの運用目的からすれば、迂遠な方法となってしまっている。
【0010】
別な手段として、冷却用の空気を外部から導入するように用意するのではなく、炉内に導入している燃焼用空気の送風風量を増加させて放熱を促す方法も試みられている。たしかに、別途、冷却用の空気を導入するための設備は不要となる。しかしながら、燃焼用空気は、炉内の温度を全体として制御することが必要となるため、その流量は燃焼制御に左右されるようにして供給され、律速されているものである。すなわち、吹き当てる空気量が冷却とは別な要因で変化することとなることから、燃焼効率が優先される結果、冷却効率を一定には保ちにくいものであって、無闇に風量を増加できない。他方で火格子の金物の熱焼損は温度が高くなると急激に進むことから、火格子を痛めないように冷却する、という観点においては、燃焼用空気の送風量を全体として上昇させるのみでは、必ずしも十分とはいい難かった。
【0011】
その他の手段として、冷却する火格子を限定して、一部の火格子のみを冷却することで、冷却に必要な空気を少なくして、燃焼空気量の変化の影響をなくす方式もある。たしかに、冷却に伴う燃焼空気量の変化が小さくなるので、その影響は受けにくいものとなる。しかしながら、一部の火格子しか冷却しないため、想定外の火格子損耗に対して対処が困難といえた。また、冷却空気用の配管やノズルを一部の火格子の直近に設ける必要があるために従来の火格子に後付けでの追加の設置が難しいといえる。結局、すると、当初から専用の火格子で設計していることが必要的となり、火格子の揺動の駆動装置を含め、構造が複雑化することも否めないものであった。
【0012】
また、空冷以外にも、火格子そのものを液冷するといったことも考えられている(たとえば特許文献2参照。)。しかしながら冷却水を通水する配管を火格子の下方に密着させるように配置するとなれば、設置への自由度は少なく、実質的には新規設備に限られてしまう。従来の空冷式の設備において、火格子そのものを液冷式に対応したものへと置き換えることは、設置スペースや配管などの関係で必ずしも容易に実施ができるものとはいい難い。また、揺動する火格子の間を張りめぐらせる水冷ジャケットには、揺動への追従のみならず、沸点の低い水等を冷却媒体に用いることへの対応が必要となるので、配管や継手の耐圧対策も講じなければならないなど、設置導入はどうしても大がかりなものとならざるを得なかった。
【0013】
【特許文献1】特許第3922992号公報
【特許文献2】特開2000−146141号公報
【特許文献3】実公昭57−46035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
火格子を効率よく冷却させるためには、燃焼用空気に速度を与えることにより効果的であることから、火格子下部の燃焼空気室内に、扇風機のような風速を与える装置を設けることができれば攪拌が容易となる。しかしながら、燃焼空気室は約120℃から250℃程度までの燃焼用の空気(燃焼空気)が内部に充満することから、電動機を内蔵した装置等を使用するにも困難を伴い容易ではない。また、動力を外部に設置することになると、構造が複雑化するほか、既存施設に設置するにはスペース等の制約が大きいため、必ずしも望ましくない。
【0015】
すなわち、上述のような従来の冷却方法においては、次のような問題がみられる。たとえば、既存のストーカ炉に設置されている火格子は、階段式のストーカ炉の大きさや、火格子の形状が種々にあり多様であることから、汎用品としての大量な供給が難しく、各炉にあわせて適用しなければならず、冷却用に専用の火格子形状のものに置き換えることはコスト的にも現実的には容易とはいえない。また、専用の冷却空気を導入するには、新たに配管を敷設することが望ましいものの、既存の焼却炉の火格子直下の燃焼空気室の空間にはスペースに限りがあるので、必ずしもそうした配管の設置および最適な配置が容易に追加できない事情もある。
【0016】
その他に、火格子の一部を冷却する方法も考えられるが、それではどうしても冷却箇所が偏りやすくなるので、冷却箇所の効率化をはかるべく、選択や配置を最適化することが望まれるが、ストーカ炉のサイズも形状も様々であるから、適合箇所を最適化せず、気にせずに施工実施することもできず、現実的には容易とはいえなかった。
【0017】
さらに、焼却物の適切な燃焼を目的として供給送風する燃焼用空気以外に冷却用空気を導入すれば、炉に流入する空気量が全体として増加すると考えられる。しかし、それでは排煙設備への負荷が高まってしまう。他方、燃焼用空気をストーカの下方に漫然と導入しても、ゆっくりと引き込まれるのみなので、空気の流動性が低く火格子下面直下周辺の燃焼空気はすぐに熱せられて滞留してしまい、十分な放熱や冷却が進みにくくなる。
【0018】
また、焼却炉のオペレーションは、あくまで投入されたゴミの適切な焼却処理が優先されることとなるので、燃焼用空気の制御は、火格子の冷却に主眼はなく、火格子の冷却に十分となるように供給量を増やすことは必ずしも容易ではない。燃焼状態に影響されることとなるので、火格子の熱損耗が避け難いものといえた。
【0019】
さらに、乾燥、焼却、後焼却と場所によって火格子の温度状況は全く異なるので、全ての火格子を一様に冷却することは効果的とはいえず、焼損耗しやすい箇所を効率よく冷却するほうが、排気量を増やすことにならず、効率的であるから、火格子の設置箇所や火格子の部位に応じて適宜冷却しうることが、望まれている。
【0020】
そこで従来の方法におけるこれらの問題点を改善するべく、本発明が解決しようとする課題は、炉底部にゆっくりした流れで投入される燃焼用空気を火格子下方側において効率よく対流させるように流動可能とさせることで火格子の適度な放熱・冷却を促し、高温になる火格子上表面の熱損耗を可及的に防ぐことで火格子の交換寿命を長くしうる、ストーカ式焼却炉の火格子の冷却装置および冷却の方法を提供することである。そのために基本的な燃焼用空気の供給量を冷却のために変動させるのではなく、かといって外部空気を大量に導入しての冷却に頼るのではなく、火格子下面の空気が熱せられて滞留することに着目して、外部空気の導入量を抑えつつも燃焼空気を効果的に対流させて滞留する空気を流動させて放熱を促すことで冷却効率を向上させる方法を提供することである。また、効率的に必要な箇所を集中的に冷却しうるようにすることで、空気の排出量を可及的に低減して、エネルギー負荷の少ない焼却装置を実現しうるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するための本発明の手段について以下に説明する。その第1の手段は、ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に、外部から圧縮空気を導入して流速を高めることのできる風量増幅型エアノズルを用いたもので、該エアノズルの吐出口を火格子に向けてかつ火格子の下面(裏面側)と離間させて配設せしめたことを特徴とするストーカ式焼却炉の火格子冷却機構である。
【0022】
ストーカ式焼却炉の火格子は、順次その上に送り込まれてくる焼却対象のゴミ等を800〜950℃程度の温度で燃焼させていることから、その温度は上昇しやすい。火格子の上の燃焼室に送り込まれる燃焼空気は、一般に予め余熱されてダクトから送風されてきており、ダクトの先が大きく拡がって火格子の下方につながっており、燃焼空気を火格子の下方から送り込んでいる。燃焼空気が火格子へ到達する経路上に風量増幅型エアノズルを設置することで燃焼空気の流速を上昇させ、エアノズルから火格子下面に燃焼空気を排出して、火格子の放熱を促進させるのである。
【0023】
風量増幅型エアノズルは、一般の扇風機型の送風機とは異なり、モーター等を用いておらず、電熱機器を内蔵していないので、そもそもそうした機器への熱対策等の必要性もなく、故障によるトラブルもない。燃焼空気室内のエアノズルの管内へ別途外部から加圧された空気(圧縮空気)を導入することで、エアノズルの管内に取り込まれる燃焼空気の流速を上昇させて、火格子下面に向けてエアノズルの吐出口から吹き出すことで燃焼空気を対流させて、火格子下面直下に熱い空気が滞留しないようにする。
【0024】
燃焼空気を加速させて火格子下面に効率よく到達させ火格子下面の滞留空気を対流させるための、本発明の外部から圧縮空気を導入する方式の風量増幅型エアノズルとしては、
図2に示すようなトランスベクターが好適である。その他に、
図3(a)に示すようなエジェクタ方式のエアノズル(少量の噴射空気あるいは空気流を経路途中が細くなった導管内部へ放出することで通過する流体の速度を上昇させる装置)や
図4(b)に示す吹き出し口からの圧縮空気を経路途中を細くくびれさせた円筒管の手前に吹き出させることで内壁面の周囲の流速を上昇させるコアンダ効果を利用したエアノズルなど、その他の風量増幅型エアノズルを用いることもできる。
【0025】
課題を解決するための本発明の第2の手段は、前記風量増幅型エアノズルの燃焼空気室内への配設位置を、該エアノズルの吐出口を火格子の下面と15cmから100cm離間させるように配設してものであることを特徴とする、前記第1の手段に記載しているストーカ式焼却炉の火格子冷却機構である。
【0026】
前記離間距離を15cm以上の範囲とすると、風量増幅型エアノズルで加速された燃焼空気が拡がって火格子下面へ広汎に付与しうることとなるから、離間させながらも効率よく滞留した空気を流動させることができる。他方、離間距離があまりに大きいと、火格子下面到達時の加速された燃焼空気の流速が落ちてしまい、滞留した空気を十分に流動させて火格子下面からの放熱を促進する効果が小さくなってくる。そこで、離間距離は15〜100cm程度が、冷却範囲と効率の観点からより好適といえる。
【0027】
課題を解決するための本発明の第3の手段は、前記風量増幅型エアノズルの燃焼空気室内への配置に際しての吐出口の向きについてのもので、該エアノズルの吐出口を火格子の下面に対して斜めに向けてかつ該火格子下面と離間させて配置せしめたことを特徴とする前記第1の手段または第2の手段に記載のストーカ式焼却炉の火格子冷却機構である。
【0028】
課題を解決するための本発明の第4の手段は、前記の外部圧縮空気導入式の風量増幅型エアノズルとして、トランスベクターを用いたものであることを特徴とする前記第1から第3の手段のいずれかの手段に記載のストーカ式焼却炉の火格子冷却機構である。
【0029】
トランスベクターとは、風量増幅方エアノズルのひとつであり、米国のVORTEC社開発の技術等をもとにした公知の低圧・高風量機器をいう(たとえば特許文献3参照。)。トランスベクターは、
図2に示すように、取込口から管内に向かって円錐状に口径が小さくなることでベルヌーイの定理に示されるように管内を通過する気体の流速が増すことに加えて、円筒管の内面壁の途中に外部からの圧縮空気を排出するための細いスリットを横断方向内周面にぐるっと設けて、スリットから円筒の内面壁に沿うようにして吐出口方向へと圧縮空気を速い流速で吹き出させることで、それに連られて円筒内での取込口から取り込まれた空気の移動も加速され、全体の気体の流速が増すことで吐出口から吐出される空気の流量と風速が大きく増加するというものである。
【0030】
課題を解決するための本発明の第5の手段は、前記の外部圧縮空気導入式の風量増幅型エアノズルは、圧縮空気の導入圧力もしくは導入風量を調整することで該エアノズル吐出口の風量を調整しうる調整手段を備えたものであることを特徴とする第1から第4のいずれか1の手段に記載のストーカ式焼却炉の火格子冷却機構である。
【0031】
圧縮空気の導入に際してその圧力や導入風量を調整するバルブやスロットルを外部圧縮空気の経路上に設けたり、加圧するポンプの回転速度を調整したりすることで圧力を調整することができる。
【0032】
さらに、燃焼空気や燃焼室の空気の温度、火格子表面(上平面もしくは下面)の温度を計測する赤外線放射温度計などのセンサーを設置して、測定結果を圧縮空気の導入風量の調整に反映させるようにすることで、効率的な冷却が実現可能となり、さらにフィードバック制御させるようにすると、所期の設定温度領域に火格子の冷却温度が最適化され、燃焼室の空気の余計な増加を避けることができる。
【0033】
課題を解決するための第6の手段は、第1から第5のいずれかの手段に記載の火格子冷却機構を備えたストーカ式焼却炉である。すなわち、本発明の手段は、ストーカ式焼却炉の火格子(ロストル)そのものにエアノズルを接触させることなく実施しうるので、従来設置済みの階段摺動式ストーカ(たとえば階段状のストーカの縦1列を1列飛ばしで摺動するもの。)および平行揺動式ストーカ(たとえば階段状のストーカの横1段を1段飛ばしに前後に揺動するもの。)等のストーカ式焼却炉の形式を問わず、広くストーカ式焼却炉の火格子の冷却に適用可能である。
【0034】
なお、火格子冷却機構は後からでも適用可能な構造であるため、新設のストーカ式焼却炉に本発明の火格子冷却機構を備え付ける場合のみならず、従来式のストーカ式焼却炉に本件発明の火格子冷却機構を備え付ける場合も含む。
【0035】
課題を解決するための本発明の第7の手段は、ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に送り込まれた燃焼空気を、該燃焼空気室内の風量増幅型エアノズルの取込口から該エアノズルの管内に取り込み、該燃焼空気とは別に外部から導入する圧縮空気を該エアノズルの管内に供給せしめて管内の燃焼空気の空気流を加速せしめ、該加速された空気流を該エアノズルの吐出口から火格子下面に向かって放出することで、火格子下面の周囲の滞留空気を流動させ、火格子下面の放熱を促進させることで火格子上表面の冷却を促進するストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法である。
【0036】
前記の火格子冷却機構を用いて、外部からの圧縮空気を用いて燃焼空気の対流速度を上昇させ、火格子の直下で熱せられて滞留している空気を順次効率よく循環させることで、火格子下面からの放熱を促進するのである。空気の熱伝導率は決して高くないので、熱せられた軽い空気が火格子直下に対流すると、放熱が進みにくくなる。そこで、燃焼空気を強い風量で吹き付けることにより、滞留した空気を押し出すことが効率的な冷却に非常に有効である。
【0037】
課題を解決するための本発明の第8の手段は、ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に送り込まれた燃焼空気を、該燃焼空気室内の風量増幅型エアノズルの取込口から該エアノズルの管内に取り込み、該燃焼空気とは別に外部から導入する圧縮空気を該エアノズルの管内に供給せしめて管内の燃焼空気の空気流を加速せしめ、該加速された空気流を該エアノズルの吐出口から火格子下面に向かって15cmから100cm離間した位置から斜め上方に放出することで、火格子下面直下の滞留空気を流動させ、火格子下面の放熱を促進させることで火格子上表面の冷却を促進するストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法である。
【0038】
課題を解決するための本発明の第9の手段は、ストーカ式焼却炉の火格子の下方に備えられた燃焼空気室内に送り込まれた燃焼空気を、該燃焼空気室内の風量増幅型エアノズルの取込口から該エアノズルの管内に取り込み、該燃焼空気とは別に外部から導入する圧縮空気を圧力もしくは風量を調整可能に該エアノズルの管内へと供給することで管内の燃焼空気の空気流を加速せしめ、該加速された空気流を該エアノズルの吐出口から火格子下面に向かって風量調整可能に放出させることで、火格子下面の周囲の滞留空気を流動させ、火格子下面の放熱を促進させることで火格子上表面の冷却を促進するストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法である。
【0039】
前記外部から導入する圧縮空気の圧力もしくは風量の調整は、圧力の調整であれば圧縮空気の加圧力を加圧ポンプの速度を切り替えるなどして行い、風量の調整であれば圧縮空気の経路上にある風量調整バルブの開閉度合いを調整する。圧力と風量のいずれも組み合わせてもよい。エアノズルの管内に投入される圧縮空気の圧力が高いと、管内に導入される圧縮空気の噴出圧力が上昇するので、従動的に燃焼空気の空気流も加速されることとなる。また、投入される圧縮空気の風量が増加すると、流入する圧縮空気の噴出量が増加して速度が上昇するので、同様に燃焼空気の空気流も加速されることとなる。
【0040】
課題を解決するための本発明の第10の手段は、第9の手段の調整度合いを、火格子表面の温度に基づいたフィードバック制御とするものである。すなわち、火格子表面の温度が所期の設定温度よりも高いときには前記圧縮空気の圧力もしくは風量を調整することで前記エアノズルの管内に導入する供給を増やし、所期の設定温度領域よりも火格子表面の温度が低いときには前記圧縮空気の圧力もしくは風量を調整することで前記エアノズルの管内に導入する供給を減らす、という火格子表面の温度に応じたフィードバック制御によって火格子表面の冷却温度を所期の設定温度領域に保持せしめることを特徴とする、第9の手段記載のストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法である。
【0041】
火格子の表面温度を計測し、フィードバックさせることで圧縮空気の導入風量を決定するようにすると、焼却室での燃焼に用いられる燃焼空気と圧縮空気の合計が必要以上に増えることがない。これにより燃焼室の高温での燃焼温度の維持と排気ガスの総量低減が最適化された運用が効率よく可能となる。
【0042】
たとえば、火格子の上表面の温度を赤外線放射温度計で測定し、温度が所期の設定領域より高いときは圧縮空気の導入風量を大きくし、火格子下面からの放熱を促進させる一方で、温度が所期の設定領域より低いときには、圧縮空気の導入風量を抑え、燃焼室の空気量を必要以上に増やさないようにするのである。
【0043】
所期の設定温度領域は、火格子の焼損、損耗が進行しにくい温度領域であって、かつ冷却のために導入空気を必要以上に増やさないで済む領域である。そこで、たとえば上限を400℃とし、下限を350℃としたりする。上限に近づいた段階で風量を増やすなどして、予め設定温度領域内をキープしやすくするなど、設定温度領域内でも段階的な制御が可能にしておくことができる。また、フィードバック制御に際しては、各焼却炉毎の火格子の温度変化の様子と導入する圧縮空気の風量や圧力との関係をベースにしつつも、さらにダクトからの燃焼空気量の変化も勘案してもよい。こうすることで、圧縮空気との関係に加えて、燃焼空気量との関係も踏まえた好適なフィードバック条件が設定でき、火格子表面の余計な温度変動を抑えることができるので、排気ガス量を必要以上に増加させない運用がより簡易に実現しうるものとなる。
【0044】
課題を解決するための本発明の第11の手段は、前記風量増幅型エアノズルとしてトランスベクターを用いたものであることを特徴とする前記第7から第10の手段のいずれかの手段に記載のストーカ式焼却炉の火格子の冷却方法である。
【発明の効果】
【0045】
本発明では、風量増幅型エアノズルに外部から少量の圧縮空気を導入することで、周囲の燃焼空気をエアノズルの取り込み口から大量に引き込んで勢いよく流動させることとなるので、結果的に投入した圧縮空気の何倍もの気体風量に増幅でき、流速を加速させることとなる。とりわけトランスベクターは効率がよく外部圧縮空気に比して5〜20倍もの気体をエアノズルから吐出することができるので、その分だけ流速を大きく加速させることができる。そして、風速を増して火格子下面に時間あたりに接触しうる風量を増加させることで、燃焼空気室内にダクトから取り込まれた燃焼空気をさらに効率よく火格子下面に対流させて勢いよく吹き当てることができる。すると、火格子下面周辺で熱せあれた燃焼空気が滞留しにくくなり、燃焼空気と入れ代わるように対流することとなるので、火格子下面直下の燃焼空気の温度が下がり、下面からの放熱をより大きく促すことが容易となる。さらに火格子内部の熱伝導によって、火格子の上表面の温度も下がりやすくなるので、火格子上表面が焼損しにくくなり、十分に冷却されるので火格子の寿命が伸び、長期の利用が可能となる。燃焼空気の量に対して圧縮空気の量は少ないので、焼却室部への空気量への影響を抑えつつ、冷却効果を効率的に得ることができる。
【0046】
なお、トランスベクターでは、その吐出口を緩くテーパ状に拡がるように開口せしめることができ、吐き出す方向を15度程度まで拡散させることができる。こうすることで吹き出す際にトランスベクターの吐出口の外周の周囲の燃焼空気も誘引するようになり、より多くの気体を巻き込むようにしながら移動させることができる。
【0047】
また、本発明の第3の手段のように、風量増幅型エアノズルの吐出口を燃焼空気室内の火格子下面とやや離間した距離から斜め上方に向けて設置することで、コアンダ効果によって火格子の下面に沿うようにして流れるので、離間した距離からでも火格子下面に流速の速い燃焼空気を効率よく付与することができる。火格子の下面で熱せられて滞留していた空気が効率よく対流されるので、それだけ放熱効率が上昇することとなり、より高い冷却効果が得られ、火格子の過熱が回避されることとなる。火格子下面の熱くなった滞留空気を大きく流動させることができるので、離間させることでより広い下面に燃焼空気を吹きあてることで滞留空気を広範囲で効率的に流動させることができる。
【0048】
風量増幅型エアノズルの吐出口と火格子下面との離間距離を15〜100cmの範囲で変えることで、火格子下面へ付与する範囲や燃焼空気の流速を調整できる。離間距離が大きいと広範な火格子に吹き出す範囲は拡がる一方で火格子下面に到達する風速は遅くなる。離間距離が短ければ、より狭い火格子に速い風速で強く吹きつけることができることとなる。
【0049】
複数の風量増幅型エアノズルを火格子下面に配置する場合には、外部から導入される圧縮空気の配管を共通としたときでも、各エアノズルの吐出口毎に火格子下面との離間距離を変えることができるので、燃焼部直下の火格子を重点的に冷却するといったことが容易にできることとなる。こうした離間距離を変えての配置が可能なことにより、余計な外部の圧縮空気を導入せずに済むので、燃焼室への空気量を徒に増やすこともないので、燃焼効率を容易に維持しうる。
【0050】
導入される外部の圧縮空気の風量や圧力を変動調整可能とすることで、エアノズルから吐出される燃焼空気の風速、風量を調整可能に変動させることができるので、火格子下面への燃焼空気の対流を効率化できる。とりわけ、火格子表面の温度に基づいて圧縮空気の導入風量が変動するようにすれば、冷却の必要がある場合にだけ、冷却をすることができ、過度な冷却しすぎといった状態も回避できるので、最低限の圧縮空気量の導入で、火格子の最適な冷却効果を得ることができ、余計な廃棄ガスの増加を回避し、燃焼室の温度制御への影響を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明を実施するための形態について、図面を適宜用いながら以下に説明する。なお、以後、風量増幅型エアノズルとしては、トランスベクターを例に説明するが、他の風量増幅型エアノズル4の使用を排除するものではない(たとえば
図3。)。さて、本発明に用いるストーカ式焼却炉は、その火格子の形状やゴミを送る方式には種々あるが、一般的なものとして、
図6に階段揺動式ストーカを、
図7に平行揺動式ストーカの火格子の配列と揺動してゴミの送り動作をする様子を示す。本発明は、ストーカ式焼却炉の火格子そのものにエアノズルを接触させずに実施しうるものであるから、ストーカ式焼却炉一般に適用しうるものである。そこで、以下の説明では、
図1に示すストーカ式焼却炉1として、平行揺動式ストーカを例に説明する。
【0052】
図1にストーカ式焼却炉1の火格子2を中心とした位置関係を概略的に示している。ゴミなどの焼却物は、連続的に移動しながら焼却されており、図面右側上方のホッパー8から投入されて、火格子2の上で焼却されて後燃焼されたのち、焼却灰となって左側下方の焼却灰排出口9から排出されていく。
図1の火格子2は、多数の金物を並べて多段の階段状になっており、横10列×縦9段の階段状の領域を1セットとして、右側上段の燃焼用の火格子のセットと、左側下段の後燃焼用火格子のセットからなっている。火格子2は、1段飛ばしに横1列が前後に揺動するようにして、焼却物を順次送り出すことができる。
【0053】
火格子2の右側のセットの上には、燃焼室部4であり、焼却物が高温で焼却される部分である。燃焼室部4の上方は、焼却ガスの処理装置につながっている。火格子2の左側のセットの上は後燃焼室部5であり、燃焼室部4で焼却された残渣物が火格子上が後燃焼して灰となっていく。火格子の左右の各セットの下には、それぞれ燃焼空気室3が備えられており、各燃焼空気室3にはダクト7から120〜250℃程度に余熱された燃焼空気6が順次供給されている。燃焼空気6は、燃焼空気室3に送り込まれた後、火格子2の下方から上方に抜けて、燃焼室部4もしくは後燃焼部5へと送り出される。燃焼室部4や後燃焼室5の燃焼温度は、燃焼空気6の供給量によって燃焼温度がコントロールされており、ダクト7から送風する量を制御することでコントロールしている。
【0054】
燃焼空気室3の内部には、
図4および
図5に示すように、風量増量型エアノズル4としてトランスベクター11が火格子下面20から離間された位置に配置されている。
図4および
図5では、トランスベクター11は45度傾けられており、燃焼空気6はトランスベクター11の管内を、右斜め下の吸入口12から左斜め上の吐出口15に向かって吐出されることとなる。トランスベクター11には、燃焼空気室3へと別途外部から配管で加圧して送り込まれる圧縮空気を投入している。この圧縮空気を管内内壁スリットから噴出させることで管内を通過する大量の燃焼空気6の流速を効率よく上昇させている。なお、外部からの圧縮空気の配管は風量増幅型エアノズルに連結されているものであって、外部に圧縮するための加圧ポンプや、風量や圧力を調整する調整弁などが設けられている。配管は、外部から燃焼空気室のダクト内を通って燃焼空気室内へ導くこともできるし、燃焼空気室の側壁に穴を開けて、外部からの配管を挿通させたうえで、その配管を主配管として分岐させ、複数配列された風量増幅型エアノズルの圧縮空気取入口へと分岐された配管の先を接続する。
【0055】
火格子下面20の直下の空気は放熱作用で熱くなり、軽いのでそのまま滞留しやすいものである。吐出口15から吐出された燃焼空気6は、周囲の空気を流動させながら、火格子下面20の直下に達すると、火格子下面に沿って移動することとなる。コアンダ効果により火格子下面に沿って移動するのであるから、トランスベクター11は、離間した距離に配置することができる。そして火格子下面に滞留した空気が対流させられ、より温度の低い燃焼空気6を効率よく供給することとなる。当然ながら熱は温度の高いところから低いところに伝わるので、温度差が大きくなると、その分だけ火格子下面20から火格子2の熱が燃焼空気6への放熱が促進されることとなるので、火格子2の温度が下がることとなり、燃焼室部4の温度は高いままでも、火格子上表面21の温度は低下しうるものとなる。
【0056】
さて、トランスベクター11を動作させるために外部から送り込む必要な圧縮空気13は、これにより促進搬送される燃焼空気6の1/5〜1/20程度の量でよいため、投入される圧縮空気13が燃焼室部4に送られる燃焼空気6に加味されたとしても、全体の空気量が供給過剰になることは回避することが容易である。さらに、あらかじめ燃焼空気6のダクト7からの投入量を圧縮空気13の分量だけ減少させておくなどすれば、ストーカ式焼却炉1の焼却室部4の燃焼に用いられる空気量を抑制的に運用できるので、燃焼室部4での燃焼温度をコントロールしながら効率のよい運転は容易に実現しうる。
【0057】
なお、トランスベクターは
図2に示すような構造の風量増量型エアノズルである。吸入口12から吸入空気16(燃焼空気6)が取り込まれる。管内に向かって円錐状に口径が小さくなることでベルヌーイの定理に示されるように管内を通過する燃焼空気6の流速が増すことに加えて、円筒管の内面壁の途中に外部から導入される圧縮空気13を排出するための細いスリット14を横断方向内周面にぐるっと設けて、スリット14から円筒の内面壁に沿うようにして吐出口15の方向へと圧縮空気13を速い流速で吹き出させることで、それに連られて円筒内での吸入口12から取り込まれた空気の移動も加速され、全体の気体の流速が増すことで吐出口15から吐出される吐出空気19の流量と風速が大きく上昇するというものである。吐出空気19は吐出口15周辺の空気も誘引する(誘引空気18)。
【0058】
ところで、トランスベクター11は、後述のとおり、風速が毎秒約2mが9mにまで上昇するなど、小型で吐出速度も大きいことから、火格子2から50cm程度離間したところに設置しても火格子下面20近傍に対して十分な風速を付与しうる。したがって設置に際して火格子2を揺動させる駆動装置などの構造物の影響を受けにくく、きわめて自由度が高い配置ができる。そこで、専用の火格子等を用いずとも、また、火格子に隣接させずとも、既存のストーカ炉に新たな特殊な火格子形状への交換等をすることなしに、設置しうるものである。
【0059】
なお、火格子2の冷却に際しては、複数枚の火格子2を広汎に冷却するか、局部的な火格子の冷却をするかを、トランスベクターの取付方法の変更等により選択が可能である。たとえば、燃焼室部4と、後燃焼室部5とでは燃焼室部4のほうが温度が高いなど、火格子上表面の表面温度は場所によって異なっている。そこで広汎な領域をカバーするために少し距離を大きくとってトランスベクター11を配置する部分と、離間距離を短めにして、トランスベクターの個数を増やして配置する部分と、離間距離にバリエーションを設けつつ、配置することにしてもよい。このようにすることで、外部配管から供給される圧縮空気13を複数のトランスベクターで共用することができ、その分だけ内部構造を簡単にすることができる。
【0060】
たとえば、本願出願人の虹技製の市販のトランスベクター、モデル903は、最小口径40mm、圧縮空気投入量が360〜730Nリットル/分、増幅比は1:8である。モデル904は、最小口径78mm、圧縮空気が730〜1470Nリットル/分であり、増幅比は最大1:10である。モデル903は全長82mm、904は170mmであり、比較的小型であり、燃焼空気室3内の比較的狭い空間であっても、火格子下面20からたとえば50cm程度離間するように配置することは十分可能といえる。
【0061】
(火格子下方への接触風速について)
たとえば、8時間あたり10tのゴミを処理しうる階段状のストーカ式焼却炉において、従来のように、設定温度170℃の燃焼空気を下方から燃焼空気室内へとゆっくりと送り込む場合には、約10m
2の180枚の火格子(横10枚×縦9段×2)に対して8195Nm
3/hの風量であれば、火格子の下表面には、約2.3m/sの風速で接触することとなる。
【0062】
他方、吐出口を45度上方へ向けた空気流量増幅器のトランスベクターを、火格子下部の燃焼空気室内の火格子から500mm下方に火格子と離間して設置させて、トランスベクター1台あたり10枚の火格子をカバーするように18台設置した場合には、同じ設定温度170℃の燃焼空気を同量の8195Nm
3/hの風量で送り込むときでも、トランスベクターによる風速の上昇により、実質的な風量は24585Nm
3/h増加することができる。すると、火格子への接触風量は、合計で32780Nm
3/hとなり、火格子下表面には、約9.1m/sの風速で接触することとなる。これは気象庁の風力階級で表せば、風力2から風力5に上昇したこととなる。従来と比べて、火格子下面の接触風量が約4倍に上昇するので、より燃焼空気が流動しやすく、火格子下面からの放熱が良好に行なわれることとなる。
【0063】
(火格子表面温度の変化について)
本発明の空気流量増幅器の使用による火格子表面温度の温度上昇抑制の効果を確認するべく、小型の実験炉において、トランスベクターを使用しながら、燃焼室の炉内温度を850℃まで上昇させた場合と、その後850℃で保持しつつトランスベクターを停止させた場合について、火格子表面温度、火格子下面温度の変化する様子を観察した。なお、トランスベクター使用時と、トランスベクター停止時のいずれも、小型実験炉へ導入される空気の総量は、約13m
3/hとすることで、燃焼室への風量の総量はほぼ同量として、燃焼室内の温度を同様な条件でコントロールしている。トランスベクター稼動時の各箇所の温度変化の様子を
図8に、トランスベクター停止後の温度変化の様子を
図9にグラフで示す。
【0064】
トランスベクターを稼動させることで火格子下面側への燃焼空気の接触風量を増加させた場合には、
図8に示すように、炉内温度が850℃の時点で、火格子上表面の温度は325℃、火格子下面温度は226℃であった。なお、燃焼室の燃焼空気は火格子下面に接触するように流動され、攪拌された結果、予熱投入時130℃だったものが145℃前後まで上昇した。燃焼空気が火格子下方の燃焼空気室において攪拌されたことで、火格子表面の温度は焼損が大きくなる400℃を大きく下回った。
【0065】
他方、炉内温度850℃を保持した状態でトランスベクターを停止すると、
図9に示すように、16分後には火格子表面温度が400℃に到達し、30分後には435℃に達した。火格子下面温度は30分経過時に240℃であった。なお、燃焼空気は、130℃前後であった。
【0066】
トランスベクターを使用した場合と使用しなかった場合とでは火格子下面に接触する燃焼空気の風速が大きく異なってくるので、使用しない場合には、火格子下面に熱い空気が滞留し、放熱を妨げるのに対して、トランスベクターを使用して、火格子下面に燃焼空気を付与しつづけると火格子下面から放熱しやすくなるので、トランスベクターを使用した本発明の場合には火格子上表面の温度が使用しない場合と比して100℃近くも低温で維持しうることが実験においても確認された。
【0067】
以上のように、本発明の冷却機構によると、火格子の冷却が効率的にでき冷却性能が高いことから、エアノズルの吐出口からの風量を調整することで、冷却効率の最適化をはかることが十分に可能といえる。そこで、具体的には、たとえばPID制御で、入力値の制御を出力値と目標値との偏差、その積分、および微分の3つの要素によって行うフィードバック制御をすることとし、火格子上表面、火格子下面、燃焼空気温度、などの温度状況に応じて、外部から導入する圧縮空気の圧力や風量を調整し、エアノズル吐出口からの吐出風量を調整することとする。
【0068】
たとえば、火格子上表面の設定温度を380℃とする。これは、火格子の焼損が極端に進むことがない温度を選択しつつも、燃焼室の焼却温度が下らないように影響の少ない温度設定をして、排ガス量を増やさないことにつながる。火格子上表面の温度以外にも、火格子下面およびその周辺の滞留空気の温度、燃焼空気の温度、外部からの圧縮空気の温度、圧力、調整弁の開閉具合、などを計測しており、火格子上表面の温度が上昇すれば、外部から導入する圧縮空気の圧力もしくは風量を増し、火格子の上表面の温度が下降しそうになれば圧縮空気の圧力もしくは風量を減らしていくが、その際、PID制御を用いることで、目標値である380℃に向かっての比例制御での偏差が早めに修正することができ、また修正動作に伴う変動を大きくしないことが容易となるので、より安定的な連続的な燃焼運転が可能となる。これにより、連続式の処理をするストーカ式焼却炉における燃焼運転において、安定的に火格子を冷却し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】ストーカ式焼却炉の火格子を中心とした位置関係を示す概略図である。
【
図2】トランスベクターの長手方向断面図を用いて、取込口、スリット、管内、吐出口近辺での空気の流れの様子を示した図である。
【
図3】(a)はエジェクタ方式の風量増幅型エアノズルの、(b)はコアンダ効果を利用した風量増幅型エアノズルの空気の流れを示した概略図である。
【
図4】風量増幅型エアノズルの階段揺動式ストーカへの配置図である。
【
図5】風量増幅型エアノズルの平行揺動式ストーカへの配置図である。
【
図6】階段摺動式ストーカの火格子の配列と揺動する様子を示した図である。
【
図7】平行揺動式ストーカの火格子の配列と、1段おきに揺動する様子を(a)(b)に示した図である。
【
図8】トランスベクター稼動時の小型実験炉の各所の温度変化の様子を示した図である。
【
図9】トランスベクター停止時の小型実験炉の各所の温度変化の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ストーカ式焼却炉1
2 火格子
3 燃焼空気室
4 燃焼室部
5 後燃焼室部
6 燃焼空気
7 ダクト
8 ホッパー
9 焼却灰排出口
10 風量増幅型エアノズル
11 トランスベクター
12 吸入口
13 圧縮空気
14 スリット
15 吐出口
16 吸引空気
18 誘引空気
19 吐出空気
20 火格子下面
21 火格子上表面