【0025】
放射制御層2の実効放射率ε
fは次の2条件a)、b)のいずれかを満足する:
a)波長4μm以下の近赤外領域において、実効放射率ε
fが加熱基体1の実効放射率ε
fより大きく、かつ波長4μmより長い遠赤外領域において、実効放射率ε
fが加熱基体1の実効放射率ε
fの1.5倍以下好ましくは1.0倍以下であること、これにより、近赤外光の放射エネルギーの割合が増加して変換効率が上昇する。
b)波長4μm以下の近赤外領域において、実効放射率ε
fが加熱基体1の実効放射率ε
fと同等もしくはそれ以上であり、かつ波長4μmより長い遠赤外領域において、実効放射率ε
fが加熱基体1の実効放射率ε
fより小さいこと、これにより、遠赤外光の放射エネルギーの割合が減少して変換効率が上昇する。
たとえば、このような条件を満足する金属としては、Ta、Mo、Re、Ir等の純金属、ZrN、TiN、HfN等の金属窒化物、ZrB、HfB、CrB、NbB、TiB等の金属ホウ化物、TaC、HfC、ZrC等の金属炭化物がある。あるいは、これらの混合物または合金がある。
【実施例】
【0029】
図2は
図1の赤外光源の第1の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0030】
第1の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にTiNよりなる厚さ500nmの放射制御層2を堆積し、TiN/W赤外光源を実現した。このTiN放射制御層2は加熱基体1を500℃に加熱したイオンプレーティング法によって成膜した。この結果、
図2の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光/近赤外領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。また、
図2の(B)に示すように、加熱温度T
h=2600KにおけるTiN/W赤外光源の実効放射率ε
fは0.348であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの0.240の1.45倍となる。従って、加熱基体1を加熱温度T
h=2400Kまで加熱すれば、加熱温度T
h=2600Kまで加熱した放射制御層なしのW赤外光源と同程度の放射照度を得ることができ、この結果、高変換効率の赤外光源を実現できる。尚、遠赤外領域では、実効放射率ε
fは放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの1.5倍以下であり、従って、第1の実施例は上述の条件a)を満足する。
【0031】
図3は
図1の赤外光源の第2の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0032】
第2の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にHfCよりなる厚さ200nmの放射制御層2を堆積し、TiN/W赤外光源を実現した。このHfC放射制御層2は加熱基体1を300℃に加熱したスパッタリング法によって成膜した。この結果、
図3の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光/近赤外領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。また、
図3の(B)に示すように、加熱温度T
h=2600KにおけるHfC/W赤外光源の実効放射率ε
fは0.459であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの0.240の1.91倍となる。従って、加熱基体1を加熱温度T
h=2250Kまで加熱すれば、加熱温度T
h=2600Kまで加熱した放射制御層なしのW赤外光源と同程度の放射照度を得ることができ、この結果、高変換効率の赤外光源を実現できる。尚、遠赤外領域では、実効放射率ε
fは放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの1.5倍以下であり、従って、第2の実施例は上述の条件a)を満足する。
【0033】
図4は
図1の赤外光源の第3の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0034】
第3の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にTaCよりなる厚さ200nmの放射制御層2を堆積し、TaC/W赤外光源を実現した。このTaC放射制御層2は加熱基体1を300℃に加熱したスパッタリング法でTaを成膜した後に、Ar(96%)+CH
4(4%)の雰囲気で2000Kまで加熱した浸炭処理でTaCを形成した。この結果、
図4の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光/近赤外領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。また、
図4の(B)に示すように、加熱温度T
h=2600KにおけるTaC/W赤外光源の実効放射率ε
fは0.378であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの0.240の1.58倍となる。従って、加熱基体1を加熱温度T
h=2350Kまで加熱すれば、加熱温度T
h=2600Kまで加熱した放射制御層なしのW赤外光源と同程度の放射照度を得ることができ、この結果、高変換効率の赤外光源を実現できる。尚、遠赤外領域では、実効放射率ε
fは放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの1.5倍以下であり、従って、第3の実施例は上述の条件a)を満足する。
【0035】
図5は
図1の赤外光源の第4の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0036】
第4の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にZrNよりなる厚さ200nmの放射制御層2を堆積し、ZrN/W赤外光源を実現した。このZrN放射制御層2は加熱基体1を300℃に加熱したスパッタリング法によって成膜した。この結果、
図5の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。実効放射率は
図5の(B)に示すようになり、加熱温度T
h=2600KにおけるZrN/W赤外光源の実効放射率ε
fは0.233であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの0.240の0.97倍でほぼ同等となる。他方、遠赤外領域では、加熱温度T
h=2600KにおけるZrN/W赤外光源の実効放射率ε
fは0.127であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率ε
fの0.151の0.84倍となる。この結果、遠赤外光の放射エネルギーが減少して封止管の無水石英ガラスに吸収される放射エネルギー成分が低減し、高変換効率の赤外光源を実現できる。従って、第4の実施例は上述の条件b)を満足する。
【0037】
放射制御層2の厚さは、可視光領域から遠赤外領域の透過率が0となるよう形成される。つまり、放射制御層2は、表皮効果における波長10μmの光の侵入深さより厚い膜厚であればよい。表皮効果における光の侵入深さより厚い膜厚であれば、透過率が0となるためである。
放射制御層2を表皮効果における光の侵入深さより厚い膜厚とし、透過率を0とすることにより、放射制御層2は、放射制御層2を構成する金属に固有の放射特性を示すので、加熱基体1の放射特性によらず安定した放射特性を得ることができる。
ここで、表皮効果による光の侵入深さdは、d=c/(ω・κ)(c:光速、ω:角振動数、κ:消衰係数)により求めることができる。また、上記にて波長10μmの光を基準としたのは、室温(300K)における黒体の放射率スペクトルのピーク値であると共に、10μmより短波長の光については、その侵入深さはより小さくなるためである。従って、放射制御層2が波長10μmの光の侵入深さより厚い膜厚であれば、放射制御層2は可視光領域から遠赤外領域において透過率が0となり、安定した放射特性を得ることができる。
【0038】
尚、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲内のいかなる変更にも適用し得る。