特許第6487621号(P6487621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487621
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】赤外光源
(51)【国際特許分類】
   H01K 1/10 20060101AFI20190311BHJP
   H01K 1/04 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   H01K1/10
   H01K1/04
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-9300(P2014-9300)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-138638(P2015-138638A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−289689(JP,A)
【文献】 特開平02−278651(JP,A)
【文献】 特開平09−139193(JP,A)
【文献】 特開2004−311213(JP,A)
【文献】 特表2008−507099(JP,A)
【文献】 特開2011−222211(JP,A)
【文献】 特開2013−131467(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0361675(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/10
H01K 1/04
H01K 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱基体と、
前記加熱基体上に設けられ、金属ホウ化物、ZrN、HfNのいずれかもしくはこれらの混合物または合金より構成された放射制御層と
を具備する赤外光源。
【請求項2】
W、TaまたはMoよりなる加熱基体と、
前記加熱基体上に設けられ、ZrC、HfCのいずれかもしくはこれらの混合物または合金より構成された放射制御層と
を具備する赤外光源。
【請求項3】
近赤外領域において前記放射制御層の実効放射率は前記加熱基体の実効放射率より大きく、かつ遠赤外領域において前記放射制御層の実効放射率は前記加熱基体の実効放射率の1.5倍以下である請求項1又は2に記載の赤外光源。
【請求項4】
さらに、前記加熱基体及び前記放射制御層を封止する石英ガラス、好ましくは、無水石英ガラスよりなる封止管を具備する請求項1〜のいずれかに記載の赤外光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外光源、特に、近赤外領域の赤外光源に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タングステン(W)等のフィラメントに電流を流すことによりフィラメントを加熱して発光源とする赤外光源は、半導体製造における各種のアニール等の工業用加熱プロセス、印刷物・塗料の乾燥プロセス等に広く用いられており、低消費電力化が望まれている。
【0003】
図6は第1の従来の赤外光源を示す断面図である。図6の赤外光源はハロゲン電球である(参照:特許文献1)。
【0004】
図6において、たとえばタングステンフィラメントにより構成される加熱基体101は封止管102の中に配置され、垂れないようにかつ封止管102に接触しないように、支持部材103により支持されている。加熱基体101のリード104a、104bは封止部105a、105bによって外気から分離されると共に、給電線106a、106bに電気的に接続されている。封止管102はたとえば無水石英ガラスにより構成され、封止管102の内部にはN2ガス、Arガス、Krガスのような不活性ガスもしくはハロゲンガスが封入されている。給電線106a、106b間に電流を供給することにより、加熱基体101が通電加熱され、外部へ可視光及び赤外光が放射される。
【0005】
図6の赤外光源において、加熱基体101への投入電力Pinは次の(1)式で表せる:
Pin=Pr+Pc (1)
但し、Prは赤外光源から放射によって外部へ放射される放射エネルギー成分であって、加熱基体101からの放射成分及び封止管102の管壁からの放射成分の和よりなり、従って、加熱対象を加熱するために用いられ、損失とならない。
Pcは封止管102の管壁からの対流、伝導による対流・伝導エネルギー成分であって、空気等を通じて外部へ逃げていき、従って、加熱対象の加熱に用いられず、純粋な損失となる。
【0006】
図6の赤外光源の低消費電力化のためには、つまり、投入電力Pinから放射エネルギー成分Prへの変換効率Pr/Pinを上げるためには、対流・伝導エネルギー成分Pcを減少させればよい。
【0007】
対流・伝導エネルギー成分Pcは次の(2)式で表せる:
Pc=A・D・(Tlamp-Tair) (2)
但し、Aは封止管102の表面積、
Dは熱伝達係数であって、ファン等の強制冷却が行われていなければ、5〜10W/m・K程度、
Tlampは封止管102の管壁温度、
Tairは外気温度である。
【0008】
封止管102の管壁温度Tlampの増大は加熱基体101から封止管102への熱の移動によって発生する。この熱の移動は次の2つの量Q1、Q2に依存する。
Q1:加熱基体101からの放射エネルギーのうち封止管102の管壁が吸収した吸収量
Q2:加熱基体101からの対流・伝導エネルギーのうち封止管102の封入ガスが移動した熱移動量
【0009】
上述の吸収量Q1を減少させるためには、加熱基体101からの光放射エネルギーが封止管102の管壁に吸収されないようにすればよい。厚さ1mmの無水石英ガラスは図7に示す透過スペクトルを有する。すなわち、上述のごとく、封止管102を無水石英ガラスにより構成すると、封止管102の管壁は波長4μm以上の遠赤外成分を吸収することが分かる。従って、上述の吸収量Q1を減少させるには、加熱基体101が発生する波長4μm以上の遠赤外成分を減少させればよい。
【0010】
他方、上述の熱移動量Q2を減少させるためには、加熱基体101の放射率を高めればよい。図8に示すように、同一封入条件のもとにおける投入電力Pinに対する対流・伝導エネルギーPcの割合Pc/Pinは、放射率εが高い程、低くなる。従って、放射率εを高くすれば、加熱基体101の加熱温度Tを低くでき、この結果、管壁温度Tlampを低くできる。従って、(2)式により、対流・伝導エネルギーPcを減少でき、従って、赤外光源の損失を減少できる。
【0011】
以上から、変換効率の高い赤外光源を達成するために、加熱基体101の可視光から近赤外領域の放射率εを高め、遠赤外領域の放射率εを低めればよい。
【0012】
図9は第2の従来の赤外光源を示す断面図である(参照:特許文献2)。
【0013】
図9において、たとえばWよりなる加熱基体201上に、放射制御層202として金属酸化物たとえばMgOよりなる誘電体中に金属たとえばWを分散させたサーメット層を積層する。これにより、図10に示す放射率スペクトルが得られ、可視光及び近赤外領域の放射率εを高められ、かつ遠赤外領域の放射率εを低められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭60−253146号公報
【特許文献2】特開2011−222211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述の第2の従来の赤外光源においては、放射制御層202が誘電体を含むので、干渉効果を利用して加熱基体201からの放射エネルギーを制御することになり、この結果、放射制御層202から放射される可視光及び赤外光は角度依存性を有する。従って、円状の加熱基体からの放射率は各角度からの放射率を平均した放射率スペクトルとなり、所望の放射率スペクトルが得られず、この結果、変換効率の高い赤外光源が達成できないという課題がある。
【0016】
また、上述の第2の従来の赤外光源においては、加熱基体201に積層された放射制御層202の金属酸化物(たとえばMgO)を通電加熱した場合、放射制御層202の金属酸化物中のOと加熱基体201の金属たとえばWとが反応して酸化物WO3が形成される。従って、さらに酸化が進むと、酸化物WO3が蒸発して封止管の管壁に付着し、変換効率が低下すると共に、放射制御層202の金属酸化物が経年変化で劣化して寿命が短くなるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題を解決するために、本発明に係る赤外光源は、加熱基体と、加熱基体上に設けられた放射制御層とを具備し、
I. 加熱基体上に金属ホウ化物、ZrN、HfNのいずれかもしくはこれらの混合物または合金からなる放射制御層を備えること、
II. W、Ta又はMoからなる加熱基体上にZrC、HfCのいずれかもしくはこれらの混合物または合金からなる放射制御層を備えること
これにより、放射エネルギーは干渉効果を利用しないので、放射エネルギーは角度依存性を有しない。また、放射制御層は酸化物でないため理想的には酸素を含まないので、通電加熱しても放射制御層は加熱基体と反応しない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、放射エネルギーは角度依存性を有しないので、所望の放射率スペクトルが得られ、変換効率の高い赤外光源を達成できる。また、放射制御層と加熱基体との反応がなくなるので、放射制御層の経年変化による劣化が抑制されて長寿命の赤外光源を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る赤外光源の実施の形態を示す断面図である。
図2図1の赤外光源の第1の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
図3図1の赤外光源の第2の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
図4図1の赤外光源の第3の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
図5図1の赤外光源の第4の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
図6】第1の従来の赤外光源を示す断面図である。
図7図6の封止管の無水石英ガラスの透過スペクトルを示すグラフである
図8図6の赤外光源の投入電力Pinに対する対流・伝導エネルギーの割合を示すグラフである。
図9】第2の従来の赤外光源を示す断面図である。
図10図9の赤外光源の放射率スペクトルを示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明に係る赤外光源の実施の形態を示す断面図である。
【0021】
図1においては、加熱基体1の上に放射制御層2を積層している。図9の放射制御層202は酸化金属層を含む誘電体により構成されているのに対し、図1の放射制御層2は金属層よりなる点で異なる。
【0022】
加熱基体1は、電流を流すことにより発熱する抵抗体であって、赤外波長の反射率が高く(つまり、赤外波長の放射率εが低く)融点が1800K以上の高融点金属より形成される。たとえばTa(融点3269K)、Os(融点3318K)、Ir(融点2716K)、Mo(融点2896K)、Re(融点3453K)、W(融点3653K)、Ru(融点2523K)、Nb(融点2740K)、V(融点2000K)、Cr(融点2176K)、Rh(融点2239K)、Zr(融点2128K)、及びHf(融点2503K)のいずれか、または、これらのいずれかを含有する融点が1800K以上の高融点合金によって形成することができる。
【0023】
放射制御層2は融点が1800K以上である純金属、金属窒化物、金属ホウ化物及び金属炭化物のいずれかの金属よりなる。
【0024】
ここで、実効放射率εfを導入する。実効放射率εfとは、ある温度における特定の波長域における各波長の分光放射照度の積分値を、その波長域における同一温度の黒体の分光放射照度の積分値で割って算出したものである。つまり、放射制御層2の近赤外領域における実効放射率εfが加熱基体1のWの実効放射率εfよりも大きいとした場合、放射制御層2の放射率εが、近赤外領域の全域にわたって加熱基体1のWの放射率εより大きいものだけでなく、部分領域において加熱基体1のWの放射率εより小さいものでも、放射制御層2の近赤外領域における実効放射率εfの値が加熱基体1のWの実効放射率εfより大きいものを用いることができる。
【0025】
放射制御層2の実効放射率εfは次の2条件a)、b)のいずれかを満足する:
a)波長4μm以下の近赤外領域において、実効放射率εfが加熱基体1の実効放射率εfより大きく、かつ波長4μmより長い遠赤外領域において、実効放射率εfが加熱基体1の実効放射率εfの1.5倍以下好ましくは1.0倍以下であること、これにより、近赤外光の放射エネルギーの割合が増加して変換効率が上昇する。
b)波長4μm以下の近赤外領域において、実効放射率εfが加熱基体1の実効放射率εfと同等もしくはそれ以上であり、かつ波長4μmより長い遠赤外領域において、実効放射率εfが加熱基体1の実効放射率εfより小さいこと、これにより、遠赤外光の放射エネルギーの割合が減少して変換効率が上昇する。
たとえば、このような条件を満足する金属としては、Ta、Mo、Re、Ir等の純金属、ZrN、TiN、HfN等の金属窒化物、ZrB、HfB、CrB、NbB、TiB等の金属ホウ化物、TaC、HfC、ZrC等の金属炭化物がある。あるいは、これらの混合物または合金がある。
【0026】
放射制御層2が金属層により構成されているので、干渉効果を利用せず、この結果、放射制御層2から放射される可視光及び赤外光は角度依存性を有しない。また、放射制御層2は酸化物ではないので、放射制御層2を通電加熱しても加熱基体と反応した酸化物が形成されない。従って、酸化物の蒸発による封止管の管壁に対する酸化物の付着はなく、変換効率を向上できると共に、放射制御層2の経年変化による劣化もなく、寿命を長くできる。
【0027】
尚、図1の加熱基体1及び放射制御層2で図6の赤外光源の加熱基体101を置換することにより実際の赤外光源を実現する。つまり、加熱基体1及び放射制御層2は無水石英ガラスなどの透光性気密部材よりなる封止管に封止される。
【0028】
封止管102の内部は、10-1〜10-6Paの高真空状態となっている。尚、封止管102の内部に106〜10-1PaのO2、N2、H2、ハロゲンガス、不活性ガス、並びにこれらの混合ガスを導入することによって、従来のハロゲンランプと同様に、放射制御層を含むフィラメント上の昇華並びに劣化を抑制し、寿命の延伸効果を期待することが可能となる。
【実施例】
【0029】
図2図1の赤外光源の第1の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0030】
第1の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にTiNよりなる厚さ500nmの放射制御層2を堆積し、TiN/W赤外光源を実現した。このTiN放射制御層2は加熱基体1を500℃に加熱したイオンプレーティング法によって成膜した。この結果、図2の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光/近赤外領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。また、図2の(B)に示すように、加熱温度Th=2600KにおけるTiN/W赤外光源の実効放射率εfは0.348であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの0.240の1.45倍となる。従って、加熱基体1を加熱温度Th=2400Kまで加熱すれば、加熱温度Th=2600Kまで加熱した放射制御層なしのW赤外光源と同程度の放射照度を得ることができ、この結果、高変換効率の赤外光源を実現できる。尚、遠赤外領域では、実効放射率εfは放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの1.5倍以下であり、従って、第1の実施例は上述の条件a)を満足する。
【0031】
図3図1の赤外光源の第2の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0032】
第2の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にHfCよりなる厚さ200nmの放射制御層2を堆積し、TiN/W赤外光源を実現した。このHfC放射制御層2は加熱基体1を300℃に加熱したスパッタリング法によって成膜した。この結果、図3の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光/近赤外領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。また、図3の(B)に示すように、加熱温度Th=2600KにおけるHfC/W赤外光源の実効放射率εfは0.459であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの0.240の1.91倍となる。従って、加熱基体1を加熱温度Th=2250Kまで加熱すれば、加熱温度Th=2600Kまで加熱した放射制御層なしのW赤外光源と同程度の放射照度を得ることができ、この結果、高変換効率の赤外光源を実現できる。尚、遠赤外領域では、実効放射率εfは放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの1.5倍以下であり、従って、第2の実施例は上述の条件a)を満足する。
【0033】
図4図1の赤外光源の第3の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0034】
第3の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にTaCよりなる厚さ200nmの放射制御層2を堆積し、TaC/W赤外光源を実現した。このTaC放射制御層2は加熱基体1を300℃に加熱したスパッタリング法でTaを成膜した後に、Ar(96%)+CH4(4%)の雰囲気で2000Kまで加熱した浸炭処理でTaCを形成した。この結果、図4の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光/近赤外領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。また、図4の(B)に示すように、加熱温度Th=2600KにおけるTaC/W赤外光源の実効放射率εfは0.378であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの0.240の1.58倍となる。従って、加熱基体1を加熱温度Th=2350Kまで加熱すれば、加熱温度Th=2600Kまで加熱した放射制御層なしのW赤外光源と同程度の放射照度を得ることができ、この結果、高変換効率の赤外光源を実現できる。尚、遠赤外領域では、実効放射率εfは放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの1.5倍以下であり、従って、第3の実施例は上述の条件a)を満足する。
【0035】
図5図1の赤外光源の第4の実施例の特性を示し、(A)は放射率スペクトルを示すグラフ、(B)は加熱温度に対する実効放射率特性を示すグラフである。
【0036】
第4の実施例においては、Wよりなる加熱基体1上にZrNよりなる厚さ200nmの放射制御層2を堆積し、ZrN/W赤外光源を実現した。このZrN放射制御層2は加熱基体1を300℃に加熱したスパッタリング法によって成膜した。この結果、図5の(A)に示すごとく、放射率εは、可視光領域では大きくかつ遠赤外領域では小さい。実効放射率は図5の(B)に示すようになり、加熱温度Th=2600KにおけるZrN/W赤外光源の実効放射率εfは0.233であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの0.240の0.97倍でほぼ同等となる。他方、遠赤外領域では、加熱温度Th=2600KにおけるZrN/W赤外光源の実効放射率εfは0.127であり、放射制御層なしのW赤外光源の実効放射率εfの0.151の0.84倍となる。この結果、遠赤外光の放射エネルギーが減少して封止管の無水石英ガラスに吸収される放射エネルギー成分が低減し、高変換効率の赤外光源を実現できる。従って、第4の実施例は上述の条件b)を満足する。
【0037】
放射制御層2の厚さは、可視光領域から遠赤外領域の透過率が0となるよう形成される。つまり、放射制御層2は、表皮効果における波長10μmの光の侵入深さより厚い膜厚であればよい。表皮効果における光の侵入深さより厚い膜厚であれば、透過率が0となるためである。
放射制御層2を表皮効果における光の侵入深さより厚い膜厚とし、透過率を0とすることにより、放射制御層2は、放射制御層2を構成する金属に固有の放射特性を示すので、加熱基体1の放射特性によらず安定した放射特性を得ることができる。
ここで、表皮効果による光の侵入深さdは、d=c/(ω・κ)(c:光速、ω:角振動数、κ:消衰係数)により求めることができる。また、上記にて波長10μmの光を基準としたのは、室温(300K)における黒体の放射率スペクトルのピーク値であると共に、10μmより短波長の光については、その侵入深さはより小さくなるためである。従って、放射制御層2が波長10μmの光の侵入深さより厚い膜厚であれば、放射制御層2は可視光領域から遠赤外領域において透過率が0となり、安定した放射特性を得ることができる。
【0038】
尚、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲内のいかなる変更にも適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は放射融雪システム以外に、種々の赤外検出器と組み合わせることによって、NH3、CO2(温室効果ガス)、H2S(火山地帯での利用)、N2O(温室効果ガス、CO2の310倍、光化学スモッグ成分)、C2H2、H2O(湿度センサー)、HCN、CH4(温室効果ガス、CO2の21倍)、等、様々なガスを検出するガスセンサシステムに応用できる。また、3μmの短波長赤外光源においては、特にガン細胞を、高感度で検出することができる。赤外光源の応用分野として、赤外線治療光源、赤外分光用光源、熱光起電力発電応用、農業応用、食品応用、セキュリティ・防犯用光源、ガスセンサ用光源、融雪用光源、膜厚計、試料加熱装置用光源、赤外線温熱機、サーモグラフィー用光源、熱画像計測用光源、薬品検査用光源、製紙検査用光源、塗装応用、環境モニター用光源(CO2)がある。
【符号の説明】
【0040】
1:加熱基体
2:放射制御層(金属層)
101:加熱基体
102:封止管
103:支持部材
104a、104b:リード
105a、105b:封止部
106a、106b:給電線
201:加熱基体
202:放射制御層(サーメット層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10