【実施例】
【0053】
以下に、添付の図面に基づいて本発明に従う気化器を説明する。
【0054】
図4、
図5は本発明に採用可能な気化器の一つの具体例を説明するための図である。
図4、
図5に示す参照符号2は、スロットルバルブ式の気化器を示す。この気化器2は従来から既知の層状掃気式2サイクル内燃エンジンに組み込まれる。層状掃気式の2サイクルエンジンの構成は様々である。層状掃気式エンジンの機構や作用は特許文献3(JP特開2002−227653号公報)、特許文献4(WO 98/57053号公報)に詳しく説明されていることから、特許文献3及び4を本願明細書に組み込む。
【0055】
層状掃気式の2サイクルエンジンの概要を説明すると次の通りである。層状掃気式2サイクルエンジンは、一般的な2サイクルエンジンと同様に、クランク室と燃焼室とに連通する掃気通路を有する。そして、クランク室に混合気が充填される。クランク室の混合気は掃気通路を通じて燃焼室に導入される。層状掃気式2サイクルエンジンは、掃気行程において、クランク室の混合気を燃焼室に導入する直前つまり掃気行程の初期に燃料成分を含まない先導エアが燃焼室に導入される点に特徴がある。
【0056】
図4、
図5を参照して、気化器2は吸入エア通路4を有している。吸入エア通路4にはスロットルバルブ6が配設されている。スロットルバルブ6は軸6aを中心に揺動可能であり、このスロットルバルブ6の開度によって吸入空気量が変化し、エンジン出力が制御される。図中、矢印は吸入エアの流れ方向を示している。気化器2には、エアクリーナで濾過したエアが供給される。気化器2の下流端はインテーク部材12を介してエンジン本体に連結される。
【0057】
インテーク部材12は、気化器2とエンジン本体とを連結するための部材であり、吸気通路を構成するための部材である。このインテーク部材12は、長手方向に連続した単一の部材で構成してもよいし、複数の部材で構成してもよい。
【0058】
吸入エア通路4
はベンチュリ部
無しである。
【0059】
吸入エア通路4に臨んで、スロットルバルブ6の直上流側にメインポート14が配設されている。メインポート14は、吸入エアの流れ方向下流側に向けて斜めに開口しているのがよい。また、図示のように、吸入エア通路4の壁面に小さな山15を形成し、この局部的な小山15の頂部付近にメインポート14を開口させるのが好ましい。
【0060】
図4は高速運転のときの気化器2の状態を示している。高速運転つまりスロットルバルブ6が全開状態のときには、従来と同様に、スロットルバルブ6及びその下流のインテーク部材12の仕切り壁12aで混合気通路16が形成される。そして、メインポート14から吐出される燃料は、スロットルバルブ6によって案内されて混合気通路16を通じてエンジン本体のクランク室に充填される。
【0061】
図5はパーシャル運転のときの気化器2の状態を示す。パーシャル運転ではスロットルバルブ6は半開きの状態である。半開きのスロットルバルブ6の下流端とインテーク部材12の仕切り壁12aとの間には隙間18を通じて、従来と同様に、メインポート14から吐出された燃料の一部がフレッシュエア通路20に流れ込む。メインポート14から吐出された燃料の大部分は混合気通路16を通じてエンジン本体に供給される。
【0062】
図6、
図7の参照符号D2は、スロットルバルブ6の軸6aと吸入エア通路4の下流端との間の距離を示す。従来に比べて、この距離D2が小さいことが分かるであろう。すなわち、スロットルバルブ軸6aは吸入エア通路の下流端に隣接して位置決めされている。この距離D2は、スロットルバルブ軸6aの直径が5.0mmであるとすると約2.5mm〜約6.0mm、好ましくは約2.6mm〜約5.0mm、最も好ましくは約2.8mm〜約4.0mmである。
【0063】
このスロットルバルブ軸6aの配置によって、半開きのスロットルバルブ6とインテーク部材12の仕切り壁12aとの間の隙間18を小さくすることができる。換言すれば、パーシャル運転のときの、混合気とフレッシュエアとの分離度を、この比較的小さな隙間18の大きさによって制御することができる。パーシャル運転のときの分離度を所望の値にすることができるように、スロットルバルブ軸6aと吸入エア通路4の下流端との間の距離D2を決めればよい。
【0064】
上記距離D2を小さな値に設定する技術的思想は、本発明の実施例に限定されることなく、広く一般的に層状掃気式2サイクル内燃エンジンに適用可能であることは言うまでもない。
【0065】
勿論、メインポート14の配置位置は、アイドル域、パーシャル域、高回転域で従来と同様の働きをすることができる位置に設定すればよい。具体的にはメインポート14の配置位置は次の条件を満たす位置に設定される。(1)パーシャル運転乃至高回転運転でメインポート14から燃料が吐出する。(2)アイドル運転ではメインポート14から燃料が吐出しない。この(1)、(2)の条件は従来と同じである。
【0066】
なお、インテーク部材12の仕切り壁12aに関し、その上流端部に段部12bが形成され、この段部12bにスロットルバルブ6が着座することによりスロットルバルブ6が全開状態になる。
【0067】
この仕切り壁12aの変形例として、
図6、
図7に示すように、段部12b無しに仕切り壁12aがインテーク部材12の上流端まで延びていてもよい。
【0068】
図8、
図9は本発明に採用可能な気化器の一つの具体例を説明するための図である。
図8、
図9に示す気化器22は、基本的には前述した
図4、
図5に示す気化器2に対応している。
図8、
図9に示す気化器22の説明において、
図4、
図5を参照して説明した要素と同じ要素には同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0069】
図4、
図5に図示の気化器2は、吸入エア通路4を規定する壁面に開口したメインポート14を備えているが、このメインポート14に代えて、
図8、
図9に示す気化器22は、吸入エア通路4の壁面から突出して位置するメインノズル24を備えている。メインノズル24は、好ましくは、吸入エアの流れ方向下流側に向けて傾斜した状態で位置決めされる。この傾斜角度を
図10に“α”で図示してある。
【0070】
メインノズル24は、揺動するスロットルバルブ6と干渉しないことを条件に、その長さ及び傾斜角度が設定されている。メインノズル24の傾斜角度αは、気化器22を生産するときに、吸入エア通路4を規定する壁面の孔にメインノズル24を圧入する作業を支障なく実施できる角度を念頭において、圧入可能な角度よりも小さく且つメインノズル24から燃料が安定的に吐出する角度に設定される。この傾斜角度αは具体的には0°〜50°、好ましくは10°〜40°、最も好ましくは10°〜35°である。
【0071】
前述した特許文献1に開示の気化器では、メインノズルの傾斜角度αは30°よりも大きい。
【0072】
図8は高回転運転のときの気化器22の状態を示している。
図9はパーシャル運転のときの気化器22の状態を示す。
図8、
図9に図示の気化器22の作用は、
図4、
図5を参照して前述した気化器2と実質的に同じであることから、その説明を省略する。
【0073】
図11以降の図面は実施例のスロットルバルブ式の気化器30を示す。実施例の気化器30は層状掃気式の2サイクル内燃エンジンに適用される。当該2サイクルエンジンは単気筒であり且つ排気量は20cc乃至120ccである。この実施例の気化器30の説明において、
図4などを参照して説明した要素と同じ要素には同じ参照符号を使うことにより、その説明を省略する。実施例のエンジンを搭載したポータブル作業機の具体例は、チェーンソー、トリマー、パワーブロワー、エンジン式のポンプ、小型発電機、農薬噴霧機などである。
【0074】
図11(気化器30の斜視図)を見ると当業者であれば、気化器30がコンパクトであることが直ぐに分かるであろう。
図12は、気化器30の断面図である。
図12を参照して、気化器30はスロットルバルブ6に加えてチョークバルブ32を有している。先に参照した
図18などの従来例と対比すると直ぐに分かるように、実施例の気化器30の吸入エア通路4にはベンチュリ部(
図18の符号104)が無い。
【0075】
図12の矢印は吸入エアの流れ方向を示している。スロットルバルブ6とチョークバルブ32が互いに隣接して配置されている。スロットルバルブ軸6aとチョークバルブ軸32aとの間の軸間距離D1(
図12)は、スロットルバルブ6の半径とチョークバルブ32の半径とを合算した値と実質的に等しい。スロットルバルブ6とチョークバルブ32とが共に全開状態のときには、スロットルバルブ6とチョークバルブ32は同一平面で実質的に連続した面を形成する。
【0076】
スロットルバルブ6の直ぐ上流にメインノズル24が位置決めされている。互いに隣接して配置されたスロットルバルブ6とチョークバルブ32との中間にメインノズル24が配置されている。
【0077】
スロットルバルブ6の直上流に位置するメインノズル24は傾斜して位置決めされている。この実施例では、メインノズル24の傾斜角度αは25°である。このメインノズル24は、その先端が、全開状態のチョークバルブ32の板面から離れる方向に傾斜し、そして、全開状態のスロットルバルブ6の板面に差し向けられている。この構成により、スロットルバルブ6とチョークバルブ32との間の仕切り壁は不要となる。すなわち、スロットルバルブ6の上流側に仕切り壁を設けなくても、メインノズル24から吐出された燃料がスロットルバルブ6の上流側からフレッシュエア通路に入り込んでしまうのを阻止することができる。
【0078】
スロットルバルブ6の軸6aに隣接して気化器30の下流側端面30aが位置している。同様にチョークバルブ32の軸32aに隣接して気化器30の上流側端面30bが位置している。
【0079】
上記の構成を備えた実施例の気化器30は、従来の気化器100(
図18)に比べて、吸入エアの流れ方向の長さ寸法L1が小さい。
【0080】
寸法L1を小さくできる理由を列挙すると次の通りである。
(1)従来例で説明したベンチュリ部104(
図18)が存在しない。
(2)スロットルバルブ軸6aとチョークバルブ軸32aとの間の距離D1が小さい。
【0081】
(3)スロットルバルブ軸6aが気化器30の下流側端面30aに隣接して位置している。つまり
図6などで説明した距離D2が小さい。具体的には、距離D2は3.2mmである。ちなみに気化器30のボア径は17.5mmである。
(4)チョークバルブ軸32aが気化器30の上流側端面30bに隣接して位置している。
【0082】
実施例に含まれる気化器30は、上述したようにベンチュリ部104(
図18)が存在していない。このことにより、互いに干渉しない位置までスロットルバルブ6とチョークバルブ32とを近接した状態で配置することができる。
【0083】
図13は、スロットルバルブ6とチョークバルブ32との配置を説明するための図である。
図13の(I)は、スロットルバルブ6とチョークバルブ32とを若干離して配置した例を示す。
【0084】
図13の(II)は、スロットルバルブ6とチョークバルブ32とが互いに干渉しない位置まで接近して配置することが可能であることを説明するための図である。スロットルバルブ6とチョークバルブ32との間に配置されるメインノズル24は、スロットルバルブ6及びチョークバルブ32と干渉しない位置及び突出量に設定されるのは言うまでもない。
【0085】
前述したように、従来の気化器100(
図18)はベンチュリ部104を必須の要素としていた。従来の気化器100は、ベンチュリ部104の頂部にメインポート110又はメインノズルを配置する構成が採用され、この構成は必須であると考えられていた。
【0086】
本願発明者らは、従来必須と考えられてきたベンチュリ部が、層状掃気式エンジンに適用される気化器においては必須ではないとの検証を得た。この検証結果に基づいて実施例の気化器30はベンチュリ部を備えていない。このことから、メインポート14又はメインノズル24の配置位置に関する自由度は従来に比べて高い。換言すれば、スロットルバルブ6とメインポート14又はメインノズル24との間の距離を小さく設定することができる。
【0087】
また、スロットルバルブ6の直上流にメインノズル24を位置決めできるため、メインノズル24から吐出した燃料を、全開状態のスロットルバルブ6の板面に差し向けるためにメインノズル24の傾斜角度αを大きく設定する必要はない。メインノズル24の傾斜角度αは、既に生産実績のある角度に設定することができる。この実施例では25°である。
【0088】
図14を参照して、気化器30は、その下流側端面30aとスロットルバルブ軸6aとの間の距離D2が従来に比べて小さい。これにより気化器30の長さ寸法L1を小さくできる。つまり、気化器30を従来に比べてコンパクトにできる。
図15は従来例を示す。
【0089】
図15(従来例)を見るとよく分かるように、気化器100の下流側端面100aがスロットルバルブ軸106aから離れていることによって、全開状態のスロットルバルブ106の下流側に隙間Gができる。
図15の参照符号12は、前述したインテーク部材である。インテーク部材12は、気化器100とエンジン本体との間に配設される。参照符号12aは仕切り壁である。この仕切り壁12aによって混合気通路16とフレッシュエア通路20とが区画される(
図4)。
【0090】
図15(従来例)を参照して、全開状態のスロットルバルブ106を平面視したときに、スロットルバルブ106の両側の隙間Gは、高速運転時における混合気とフレッシュエアとの分離度を低下させる一因になる。
【0091】
図14を参照して、実施例の気化器30は、その下流側端面30aとスロットルバルブ軸6aとの間の距離D2が小さい。これによりスロットルバルブ6の両側の隙間Gを限りなく小さくできる。距離D2が小さいほど隙間Gが小さくなるのは言うまでもないが、距離D2の減少に従って隙間Gの面積は二次曲線的に減少する。
【0092】
スロットルバルブ軸6aと、これに隣接する下流側端面30aとの距離D2が、スロットルバルブ6の半径の1/2以下であるとき、隙間Gは、隙間Gを通過するガスの流れをほぼゼロとみなすことができる。実施例では、スロットルバルブ軸6aを下流側端面30aから3.2mmの位置に配置した。この3.2mmの数値は、スロットルバルブ6の半径の1/2よりも小さい。これにより、高速運転つまりスロットルバルブ6が全開状態のときの隙間Gを通じたガスの流れを無視できる。これにより混合気とフレッシュエアとの分離度を高めることができる。
【0093】
すなわち、実施例に採用可能な気化器30によれば、下流側端面30aとスロットルバルブ軸6aとの間の距離D2を小さくすることで、隙間Gを埋めるためにインテーク部材12の仕切り壁12aを延長させる必要性を無くすことができ、シンプルでコンパクトな層状掃気エンジンを提供できる。
【0094】
以上、本発明を具体的に説明した。本発明は特許請求の範囲で定義した発明に含まれる様々な具体的な態様や変形を包含する。
図16は、メインノズル24の直上流に、エアの流れを整えるための要素36を配置させた例を説明するための図である。吸入エア通路4を流れるエアは、その一部の流れが整流要素36によって整えられた状態でメインノズル24を通過する。これにより、メインノズル24から吐出される燃料の吐出量を安定化できる。
【0095】
整流要素36は、吸入エア通路4を規定する壁面の一部を隆起させることにより形成してもよい。吸入エア通路4を規定する壁面の一部を肉盛りすることで整流要素36を形成してもよい。メインノズル24と一体化する部材で整流要素36を形成してもよい。
【0096】
勿論、
図4、
図5を参照して説明したメインポート14についても、その直上流に整流要素36を設けてもよい。
図4、
図5の例で具体的に説明すれば、メインポート14が開口する局部的な小山15の一部を、整流効果を発揮する形状にするのがよい。
【0097】
図1〜
図3を参照して、スロットルバルブ204とチョークバルブ242とを備えた気化器240を例にメインノズル202の好ましい配置を説明する。
図17は、
図1に図示の気化器240と同じである。
【0098】
この
図17を参照して、スロットルバルブ204とチョークバルブ242との間の隙間244を通じて混合気通路246に入り込むフレッシュエアAr(1)と、混合気通路246に入り込む吸い込みエアAr(2)とは、混合気通路246のポイントPで合流する。この合流ポイントP又はその下流に向けて、メインノズル202から吐出される燃料を差し向けるのが好ましい。具体的には、合流ポイントPは、スロットルバルブ204とチョークバルブ242の間に形成される隙間244の前後方向中間位置よりも前方側(下流側)である。すなわち、隙間244の前後方向中間よりも下流側にメインノズル202の吐出口が差し向けられる。勿論、メインノズル202から吐出される燃料の全てをスロットルバルブ204の下面で規定される混合気通路246で受け入れられるように、メインノズル202の配置位置及び傾斜角度を設定するのがよい。
【0099】
このことは、メインノズル202に代えてメインポートを採用した気化器でも同じである。