特許第6487631号(P6487631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487631
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】層状掃気式2サイクル内燃エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 11/00 20060101AFI20190311BHJP
   F02M 19/00 20060101ALI20190311BHJP
   F02M 1/02 20060101ALI20190311BHJP
   F02B 25/22 20060101ALI20190311BHJP
   F02B 25/20 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   F02M11/00 H
   F02M11/00 J
   F02M11/00 V
   F02M19/00 D
   F02M19/00 M
   F02M11/00 G
   F02M1/02 G
   F02B25/22
   F02B25/20 D
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-105688(P2014-105688)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2015-218717(P2015-218717A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100085707
【弁理士】
【氏名又は名称】神津 堯子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 隆広
(72)【発明者】
【氏名】山口 史郎
(72)【発明者】
【氏名】大辻 孝昌
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−038904(JP,A)
【文献】 米国特許第07549618(US,B1)
【文献】 実開昭58−027560(JP,U)
【文献】 特開平09−021354(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/021293(WO,A1)
【文献】 米国特許第3078079(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 1/02
F02M 11/00
F02M 19/00
F02B 25/20
F02B 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンバルブ方式のエンジン本体と、
該エンジン本体とエアクリーナとの間に介装された気化器と、
前記気化器内に配設され、板状のバタフライ弁で構成されたスロットルバルブと、
全開状態の前記スロットルバルブの板面に向けて燃料を吐出するメインノズル又はメインポートと、
前記気化器と前記エンジン本体とに連結され且つフレッシュエア通路と混合気通路とを有するインテーク部材と、
前記混合気通路は、混合気ポートを通じて前記エンジン本体のクランク室と連通可能であり、
前記エンジン本体は、
掃気を行うために前記クランク室の混合気を燃焼室に供給する掃気通路と、
前記フレッシュエア通路からフレッシュエアを受け取る空気ポートと、
該空気ポートからのフレッシュエアで前記掃気通路の上部を満たすために、ピストンの周面に形成されたピストン溝とを含み、
加速時に増量燃料を供給する加速支援装置を備えていない層状掃気式2サイクルエンジンであって、
前記スロットルバルブの上流側が、仕切り壁のない開放された空間で構成されており、
前記混合気ポートの開くタイミングが、前記ピストン溝を介して前記空気ポートと前記掃気通路とが連通するタイミングよりも早く設定され、
前記ピストンの上昇過程で、前記ピストン溝と前記掃気通路とが連通して前記掃気通路の上部にフレッシュエアが充填される、その開始タイミングに先だって、前記混合気通路から前記クランク室への混合気の充填が開始され、
前記気化器がベンチュリ部を含んでいないことを特徴とする層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記メインノズルが、下流側に向けて傾斜して配置されている、請求項1に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記メインノズル又はメインポートから、燃料が、斜めに且つ前記混合気通路の下流側に向けて吐出される、請求項1に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項4】
前記メインノズルの吐出口が、前記スロットルバルブの外端縁の回転軌跡と干渉しない且つ該回転軌跡に隣接して位置している、請求項2又は3に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項5】
平面視したときに、前記スロットルバルブの軸と前記気化器の下流側端面との距離が、該スロットルバルブの半径の1/2以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項6】
前記メインポートが、前記混合気通路を規定する壁面から突出する局部的な小山の頂部に開口している、請求項1又は3に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項7】
前記メインノズル又は前記メインポートに隣接し且つその直ぐ上流に配置され且つ前記メインノズル又は前記メインポートを通過する吸入エアの流れを整える整流要素を更に有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項8】
前記気化器が、前記スロットルバルブの上流側に配置され且つバタフライ弁で構成されたチョークバルブを更に有し、該チョークバルブと前記スロットルバルブとの間が、仕切り壁のない開放した空間である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項9】
前記チョークバルブと前記スロットルバルブとの間の開放した空間を通じて、前記チョークバルブの上方領域を流れる吸入エアが前記スロットルバルブの下方領域に流入し、
前記開放空間を通じて前記スロットルバルブの下方領域に流入する第1吸入エアが、チョークバルブの下方領域を流れる第2吸入エアと合流する位置又はその下流側に向けて前記メインノズル又は前記メインポートから吐出される燃料が差し向けられる、請求項8に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【請求項10】
前記チョークバルブと前記スロットルバルブとが互いに干渉しない位置まで接近して配置され、前記チョークバルブの軸と前記スロットルバルブの軸との間の距離が、前記チョークバルブの半径と前記スロットルバルブの半径とを合算した値にほぼ等しい、請求項8に記載の層状掃気式2サイクルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は層状掃気式2サイクル内燃エンジンに関する。本発明は、典型的には、刈り払い機、チェーンソー、パワーブロワーなどのポータブル作業機に搭載される単気筒エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ポータブル作業機に搭載される単気筒2サイクル内燃エンジンを開示している。この種の2サイクルエンジンには気化器が組み込まれる。
【0003】
一般的な気化器の基本的な構造及び動作を図18図20を参照して説明する。気化器は、次のように定義される。「ベルヌーイの法則を利用して液体燃料を気化器内部の吸入エア通路に霧状に散布し、この霧状の燃料と吸入エアとが混合した混合気を生成する。」そして、ベルヌーイの法則を利用するために気化器はベンチュリ部を備えている。
【0004】
ベンチュリ部は、周知のように、気化器内の吸入エア通路の途中を細く絞った構造を意味している。吸入エアがベンチュリ部を通過するとき流速が増加する。流速が増加した吸入エアは静圧が低下するため、液体燃料が吸入エア通路に吸い出される。この理論に従い、従来の気化器にあっては、吸入エア通路に燃料を供給するポート又はノズルがベンチュリ部の頂部近傍に位置決めされていた。
【0005】
図18図20を参照して、図中、矢印は、エンジンの吸入エアの流れを示す。気化器100は吸入エア通路102を有し、この吸入エア通路102をエアクリーナ(図示せず)で濾過したエアが通過する。吸入エア通路102はベンチュリ部104を有している。吸入エア通路102には、ベンチュリ部104の下流側にスロットルバルブ106が配設され、ベンチュリ部104の上流側にはチョークバルブ108が配設されている。スロットルバルブ106及びチョークバルブ108はバタフライ弁で構成され、バタフライ弁は円板の形状を有している。
【0006】
気化器100は、パーシャル運転(部分負荷域)乃至高速運転(高負荷域)で燃料を吸入エア通路102に供給するメイン系統と、アイドル運転などの低速運転で燃料を吸入エア通路102に供給するアイドリング系統とを有している。メイン系統はスロットル系統とも呼ばれている。アイドリング系統はスロー系統とも呼ばれている。
【0007】
図示の気化器100は、メイン系統のメインポート110と、スロー系統のスローポート112と有する。メインポート110はベンチュリ部104の頂部に位置決めされている。スローポート112は、全閉位置にあるスロットルバルブ106の周縁近傍に位置決めされている。スローポート112は、第1乃至第3のアイドルポート112(1)〜112(3)で構成されている。
【0008】
第1のアイドルポート112(1)は「プライマリアイドルポート」と呼ばれている。第1のアイドルポート112(1)は、エアの流れ方向下流側に位置している。第3のアイドルポート112(3)は、エアの流れ方向上流側に位置している。第2のアイドルポート112(2)は、第1のアイドルポート112(1)と第3のアイドルポート112(3)との間に位置決めされている。
【0009】
図18はアイドル運転での気化器の状態を示す。アイドル運転ではスロットルバルブ106が全閉位置にある。この状態では、燃料は第1のアイドルポート112(1)から供給される。
【0010】
図19はパーシャル運転での気化器の状態を示す。パーシャル運転ではスロットルバルブ106が半開きの状態にある。この状態では、燃料は第1乃至第3のアイドルポート112(1)〜112(3)に加えてメインポート110からも供給される。
【0011】
図20は高速運転での気化器の状態を示す。高速運転ではスロットルバルブ106が全開状態にある。高速運転は「フルスロットル(全開)」運転と呼ばれている。高速運転では、上述したパーシャル運転のときと同様に、第1乃至第3のアイドルポート112(1)〜112(3)及びメインポート110から燃料が供給される。この高速運転では多量の燃料が吸入エア通路102に供給される。したがって、高速運転では、吸入エア通路102に供給される燃料は、ベンチュリ部104の頂部に位置するメインポート110から供給される燃料が主体となる。
【0012】
特許文献2は、層状掃気式2サイクルエンジンに組み込まれた気化器を開示している。層状掃気方式の2サイクル内燃エンジンは特許文献3及び4に詳しく説明されている。
【0013】
特許文献5は、加速時に増量燃料を供給する加速支援装置を組み込んだ2サイクルエンジンを開示している。この特許文献5は、また、加速支援装置を組み込むことでベンチュリ部を省いた気化器を開示している。
【0014】
層状掃気式2サイクルエンジンは、掃気行程の初期に発生する未燃焼ガスの吹き抜け現象を低減することを目的として、掃気行程の初期に先導エアを燃焼室に導入し、次いで混合気を燃焼室に導入して掃気を行う。層状掃気式2サイクルエンジンは、特許文献5に開示のような加速支援装置を備えていない2サイクルエンジンで開発が始まり、また、進化している。すなわち、層状掃気は、ベンチュリ部を備えた気化器を備えた2サイクルエンジンを前提として開発が始まり且つ進化し続けている。層状掃気方式のエンジンに組み込まれた気化器は、スロットルバルブが全開状態のときに、エアクリーナで濾過したエアをエンジン本体に供給するフレッシュエア通路と、混合気を生成して、当該混合気をエンジン本体(クランク室)に供給する混合気通路とが作られる。フレッシュエア通路は、クランク室と燃焼室とに連通する掃気通路に接続される。
【0015】
層状掃気式エンジンにおいては、スロットル全開(高速運転)の状態では、未燃焼ガスの吹き抜けに相当する量のフレッシュエアを上記掃気通路の上部に充填するのが望ましく、また、気化器で生成された混合気の全てをエンジン本体のクランク室に充填するのが望ましい。
【0016】
特許文献2に開示の気化器は、スロットルバルブの上流側に配置された気化器内仕切り壁を有している。この気化器内仕切り壁はスロットルバルブの上流側の吸入エア通路を第1通路と第2通路とに区画している。すなわち、この仕切り壁で区画された第1、第2の通路は各々が独立して気化器の上流端からスロットルバルブの近傍まで延びている。
【0017】
スロットルバルブが全開状態になると、スロットルバルブが前記気化器内仕切り壁と隣接した状態となり、これにより高速運転(スロットル全開)では、スロットルバルブによって上記第1通路、上記第2通路が気化器の下流端まで延長される。
【0018】
スロットル全開つまり高速運転のとき、上記第1通路を通じてエアクリーナで濾過されたフレッシュエアをエンジン本体に供給する。
【0019】
特許文献2に開示の気化器は、ベンチュリ部の頂部に位置するメインポートが上記気化器内仕切り壁に臨んで位置している。上記第2通路は混合気通路を構成し、混合気はエンジン本体(クランク室)に供給される。
【0020】
図21は特許文献1に開示の気化器の概略図である。図21を参照して、特許文献1の気化器200はメインノズル202を有する。参照符号204はスロットルバルブを示し、206はベンチュリ部を示す。なお、参照符号208はエアクリーナである。
【0021】
メインノズル202はベンチュリ部206の頂部の近傍に配置され、また、全開状態のスロットルバルブ204の板面に向けて傾斜した状態で位置決めされている。すなわち、メインノズル202は下流側に向けて傾斜して配置されている。他方、スロットルバルブ204の上流端部には隆起部212が形成され、メインノズルと接近するよう混合気通路内部に突出している。この隆起部212は、混合気通路を狭めることによって矢印で図示した吸入エアの流速を高めることを目的としている。
【0022】
図21に示す参照符号220はインテーク部材を示す。気化器200はインテーク部材220によってエンジン本体214と連結される。インテーク部材220は、仕切り壁222によって形成されたフレッシュエア通路224と混合気通路226とを有する。混合気通路226はエンジン本体214のクランク室216に連通している。
【0023】
スロットル全開つまり高速運転のとき、メインノズル202から吐出された燃料はスロットルバルブ204によって受け止められ、その全量がエンジン本体214のクランク室216に供給される。図中、参照符号218はピストンであり、228は燃焼室である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】US 7,201,120 B2
【特許文献2】US 7,100,551 B2
【特許文献3】JP特開2002−227653号公報
【特許文献4】WO 98/57053号公報
【特許文献5】US 7,549,618 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
特許文献1及び2に開示の気化器は、スロットルバルブが全開状態のときは、このスロットルバルブによって混合気がフレッシュエア通路に侵入するのを防止できる。
【0026】
特許文献1に開示の気化器200(図21)は、スロットルバルブ204の下面の隆起部212とベンチュリ部206との間に形成された隙間に流れ込む吸入エアによって混合気が生成される。
【0027】
特許文献2に開示の気化器は、気化器内仕切り壁によって区画される第2通路を通る吸入エアによって混合気が生成される。
【0028】
前述したように、従来の気化器はベンチュリ部の頂部又は頂部の近傍にメインノズル又はメインポートが位置決めされている。
【0029】
図21を参照して、特許文献1の気化器は、流速を高めて混合気とフレッシュエアとの分離度を高めることを目的として、スロットルバルブ204の隆起部212によって、スロットルバルブ204とベンチュリ部206との間の間隔を実質的に狭めることを提案している。しかしながら、このことは、混合気を生成するために利用可能な吸入エアの量を絞り込むことと等価である。つまりクランク室に導入する混合気の量を制限する構造であるため給気比を高めることが困難になる。また、隆起部212は吸気抵抗を高める要素となる。
【0030】
特許文献2の気化器によれば、上流端から下流端に亘って気化器内部を混合気通路とフレッシュエア通路とに完全に区画するため、混合気を生成するのに利用可能なエアの量は、常に夫々の通路有効断面積によって規定され、したがって気化器がエアクリーナから取り込む吸入エアの約半分である。
【0031】
本発明の目的は、層状掃気式エンジンの給気比を高め、吸気抵抗を低減して燃焼状態を向上しながらエミッション特性を改善することのできる層状掃気式エンジンを提供することにある。
【0032】
本発明の更なる目的は、気化器内で生成された混合気と、掃気通路の上部に供給するフレッシュエアとの分離度を高いレベルで維持することができる層状掃気式エンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記の技術的課題は、本発明によれば、
ピストンバルブ方式のエンジン本体(214)と、
該エンジン本体(214)とエアクリーナ(208)との間に介装された気化器(240)と、
前記気化器(240)内に配設され、板状のバタフライ弁で構成されたスロットルバルブ(6)と、
全開状態の前記スロットルバルブ(6)の板面に向けて燃料を吐出するメインノズル又はメインポート(14、202)と、
前記気化器(240)と前記エンジン本体(214)とに連結され且つフレッシュエア通路(224)と混合気通路(226)と有するインテーク部材(220)と、
前記混合気通路(226)は、混合気ポートを通じて前記エンジン本体のクランク室(216)と連通可能であり、
前記エンジン本体(214)は、
掃気を行うために前記クランク室(216)の混合気を燃焼室(228)に供給する掃気通路と、
前記フレッシュエア通路(224)からフレッシュエアを受け取る空気ポートと、
該空気ポートからのフレッシュエアで前記掃気通路の上部を満たすために、ピストン(218)の周面に形成されたピストン溝とを含み、
加速時に増量燃料を供給する加速支援装置を備えていない層状掃気式2サイクルエンジンであって、
前記スロットルバルブの上流側が、仕切り壁のない開放された空間で構成されており、
前記混合気ポート(226a)の開くタイミングが、前記ピストン溝を介して前記空気ポートと前記掃気通路とが連通するタイミングよりも早く設定され、
前記ピストン(218)の上昇過程で、前記ピストン溝と前記掃気通路とが連通して前記掃気通路の上部にフレッシュエアが充填される、その開始タイミングに先だって、前記混合気通路から前記クランク室(216)への混合気の充填が開始され、
前記気化器(240)がベンチュリ部(206)を含んでいないことを特徴とする層状掃気式2サイクルエンジンを提供することにより達成される。
【0034】
図1は、本発明の原理を説明するための図である。図1に図示の例は、本発明に採用可能な気化器の一つの典型例であり、図示の気化器はチョークバルブを備えている。図1に図示の要素のうち、図21(特許文献1に開示の気化器の概略図)に図示の要素と同じ要素には、図21と同じ参照符号を使用する。
【0035】
図1に示す参照符号240は本発明に採用可能な気化器の典型例を示し、参照符号242はチョークバルブを示す。この図1は、スロットルバルブ204、チョークバルブ242が共に全開の状態を図示している。ピストン218が上昇する過程で、気化器内で生成された混合気が、インテーク部材220の混合気通路226を通じてクランク室216に充填される。そして燃焼が終わり掃気行程が始まると、掃気通路の上部に充填されているフレッシュエアが先ず燃焼室228に導入され、次いでクランク室216内の混合気が燃焼室228に導入される。
【0036】
インテーク部材220は、気化器240から出るフレッシュエアと混合気とをエンジン本体214に供給する吸気通路を構成する部材である。インテーク部材220は、その長手方向に単一の部材で構成してもよいし、複数の部材で構成してもよい。
【0037】
ピストンが下死点から上死点に上昇する過程で、シリンダ周面に設けられた混合気ポートがクランク室に向けて開口し、混合気ポート上方に位置する空気ポートが、ピストン周面に設けられたピストン溝と連通する。ここに、ピストン溝とは、空気ポートと掃気通路の上部とを連通させるためにピストンの周面に設けられた、従来から知られている溝をいう。次いで、ピストン溝と掃気通路とが連通した時点で、掃気通路の上部に対するフレッシュエアの充填が開始される。
【0038】
なお、上述した層状掃気式エンジンはピストン溝を備えたエンジンであるが、本発明は、特許文献3(JP特開2002−227653号公報)に記載のリード弁式の層状掃気式エンジンにも好適に適用できる。リード弁式の層状掃気式エンジンは、掃気通路へのフレッシュエアの充填がリード弁によって制御される。
【0039】
本発明が最もその効果を発揮するエンジンは、混合気ポートの開口タイミングが、ピストン溝を介して空気ポートと掃気通路とが連通するタイミングよりも早く設定されているエンジンである。このエンジンでは、気化器内の流動が、スロットルバルブ下方側(混合気通路側)から発生する。
【0040】
本発明に採用可能な気化器240は、スロットルバルブ204とチョークバルブ242との間に仕切り壁が無い。つまりスロットルバルブ204とチョークバルブ242との間の隙間244は開放されている。
【0041】
全開状態のスロットルバルブ204で形成される気化器240内の混合気通路246には、チョークバルブ242の上側領域及び下側領域の双方の吸入エアが流れ込む。すなわち、エアクリーナ208から気化器240に流入するエアの全量が混合気通路246に流れ込むタイミングが発生する。
【0042】
全開状態のスロットルバルブ204によって形成される気化器内混合気通路246には、メインノズル202から吐出される燃料が供給される。メインノズル202に代えてメインポートであってもよい。
【0043】
前述した図21に図示の気化器200は、スロットルバルブ204の上流端部に隆起部212を有し、また、スロットルバルブ204の直ぐ上流側にベンチュリ部206を有している。このことから、スロットルバルブ204(隆起部212)とベンチュリ部206との間の隙間250は流速を早める目的から相対的に小さく設定されている。しかし、隆起部212とベンチュリ部206との間隔を狭くしたことで、吸気抵抗が増大し、また、隆起部212付近での流動乱れが発生し、混合気生成用の吸入エア量を制限する要因となっている。一方、全開状態のスロットルバルブ204の上側のフレッシュエア通路には抵抗要素が無いために、相対的に多量のフレッシュエアがエンジン本体214に導入される。
【0044】
未燃焼ガスの「吹き抜け」現象を改善するために、層状掃気のためのフレッシュエアの導入は欠かせない。ただし、2サイクルエンジンの吹き抜けは20%〜25%であり、排気ポートが閉じた後、燃焼室228には正常な燃焼状態を維持するための、適正濃度の充分な混合気が充填されなければならない。エンジンの燃焼を維持できないほどのフレッシュエアを導入することは、排出ガスの低減を実現する反面、出力低減や加速性の悪化などを発生させてしまう。
【0045】
図21に図示の気化器200は、フレッシュエアと混合気との分離を達成し、層状掃気式エンジン本体214にフレッシュエアと混合気を分離した状態で導入するのに成功しているが、混合気とフレッシュエアの供給バランスや、エンジンへの供給タイミングや、エンジン本体214の適正な燃焼状態については勘案していない。
【0046】
図1に図示の本発明に採用可能な気化器240において、気化器内混合気通路246の入口を参照符号252で図示してある。気化器内混合気通路246の入口252は、図21に図示の隙間250よりも相対的に大きい。つまり、本発明に採用可能な気化器240によれば、気化器内混合気通路246に、チョークバルブ242の上側及び下側を通過する吸入エアつまりエアクリーナから気化器240に入り込んだ吸入エアの全体が気化器内混合気通路の入口252に流入可能な状態にある。
【0047】
したがって、本発明に採用可能な気化器を採用することにより、クランク室216に相対的に沢山の混合気を吸い込むことができるため層状掃気式エンジンの給気比(delivery ratio)を向上させることができる。これにより、層状掃気式エンジンの出力を高めることができる。
【0048】
本発明に採用可能な気化器240を図示した図1では、図21に図示したベンチュリ部206が図示されていない。本願発明者らは、層状掃気式エンジンに適用する気化器はベンチュリ部は必ずしも必須ではないとの検証結果を得ている。したがって、本発明に採用可能な気化器240からベンチュリ部206が省かれている。このようにすれば、吸気抵抗が一層減り、混合気通路内の流動乱れ等も発生しづらくなり、混合気の導入がよりスムーズになる。
【0049】
21に図示の気化器200は、スロットルバルブ204の上流端部に隆起部212を有している。これに対して、本発明に採用可能な気化器240は上記隆起部212を有していない。したがって、気化器内混合気通路246の入口252を従来に比べて広く確保することができる。
【0050】
メインノズル202は、その吐出口が、回転するスロットルバルブ204の外端縁と干渉しない位置であり且つ該外端縁の軌跡に隣接して位置するのが好ましい。
【0051】
本発明の他の目的、作用効果は、後に説明する本発明の複数の具体例の詳しい説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明に採用可能な気化器の原理を説明するための図である。
図2】本発明に採用可能な気化器に含まれる変形例を説明するための図である。
図3】本発明に採用可能な気化器に含まれる他の変形例を説明するための図である。
図4】メインポートを備えた気化器を例に本発明の原理を説明するための図であって、スロットルバルブが全開状態である。
図5】メインポートを備えた気化器を例に本発明の原理を説明するための図であって、スロットルバルブが半開きの状態である。
図6】メインポートを備えた気化器に接続されたインテーク部材の仕切り壁の変形例を説明するための図であって、スロットルバルブが全開状態である。
図7】メインポートを備えた気化器に接続されたインテーク部材の仕切り壁の変形例を説明するための図であって、スロットルバルブが半開き状態である。
図8】メインノズルを備えた気化器を例に本発明の原理を説明するための図であって、スロットルバルブが全開状態である。
図9】メインノズルを備えた気化器を例に本発明の原理を説明するための図であって、スロットルバルブが半開き状態である。
図10】傾斜して配置したメインノズルを備えた気化器において、メインノズルの傾斜を説明するための図である。
図11】実施例で採用可能なベンチュリ部無しの気化器の斜視図である。
図12】実施例で採用可能な気化器の内部構造を説明するための断面図である。
図13】(I)は、スロットルバルブとチョークバルブとが互いに干渉しない位置まで接近した状態で配置することが可能であることを説明するための図であり、(II)はスロットルバルブとチョークバルブとを若干離した状態で配置した例を示す。
図14】実施例に含まれる気化器は、平面視したときに、スロットルバルブ軸と、気化器の下流側端面とを互いに隣接させたときの利点を説明するための図である。
図15】従来の気化器は、平面視したときに、スロットルバルブ軸と、気化器の下流側端面とが離れており、これに伴って全開状態のスロットルバルブの下流側に隙間が発生することを説明するための図である。
図16】実施例に含まれる気化器に含まれるメインノズルの直上流に整流要素を配置した例を説明するための図である。
図17】スロットルバルブとチョークバルブとを備えた気化器において、メインノズル又はメインポートから吐出される燃料を差し向ける、好ましい位置を説明するための図である。
図18】従来の典型的な気化器の断面図であって、アイドル運転状態の気化器を示す。
図19】従来の典型的な気化器の断面図であって、パーシャル運転状態の気化器を示す。
図20】従来の典型的な気化器の断面図であって、高速運転状態の気化器を示す。
図21】特許文献1に開示の気化器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0053】
以下に、添付の図面に基づいて本発明に従う気化器を説明する。
【0054】
図4図5は本発明に採用可能な気化器の一つの具体例を説明するための図である。図4図5に示す参照符号2は、スロットルバルブ式の気化器を示す。この気化器2は従来から既知の層状掃気式2サイクル内燃エンジンに組み込まれる。層状掃気式の2サイクルエンジンの構成は様々である。層状掃気式エンジンの機構や作用は特許文献3(JP特開2002−227653号公報)、特許文献4(WO 98/57053号公報)に詳しく説明されていることから、特許文献3及び4を本願明細書に組み込む。
【0055】
層状掃気式の2サイクルエンジンの概要を説明すると次の通りである。層状掃気式2サイクルエンジンは、一般的な2サイクルエンジンと同様に、クランク室と燃焼室とに連通する掃気通路を有する。そして、クランク室に混合気が充填される。クランク室の混合気は掃気通路を通じて燃焼室に導入される。層状掃気式2サイクルエンジンは、掃気行程において、クランク室の混合気を燃焼室に導入する直前つまり掃気行程の初期に燃料成分を含まない先導エアが燃焼室に導入される点に特徴がある。
【0056】
図4図5を参照して、気化器2は吸入エア通路4を有している。吸入エア通路4にはスロットルバルブ6が配設されている。スロットルバルブ6は軸6aを中心に揺動可能であり、このスロットルバルブ6の開度によって吸入空気量が変化し、エンジン出力が制御される。図中、矢印は吸入エアの流れ方向を示している。気化器2には、エアクリーナで濾過したエアが供給される。気化器2の下流端はインテーク部材12を介してエンジン本体に連結される。
【0057】
インテーク部材12は、気化器2とエンジン本体とを連結するための部材であり、吸気通路を構成するための部材である。このインテーク部材12は、長手方向に連続した単一の部材で構成してもよいし、複数の部材で構成してもよい。
【0058】
吸入エア通路4はベンチュリ部無しである。
【0059】
吸入エア通路4に臨んで、スロットルバルブ6の直上流側にメインポート14が配設されている。メインポート14は、吸入エアの流れ方向下流側に向けて斜めに開口しているのがよい。また、図示のように、吸入エア通路4の壁面に小さな山15を形成し、この局部的な小山15の頂部付近にメインポート14を開口させるのが好ましい。
【0060】
図4は高速運転のときの気化器2の状態を示している。高速運転つまりスロットルバルブ6が全開状態のときには、従来と同様に、スロットルバルブ6及びその下流のインテーク部材12の仕切り壁12aで混合気通路16が形成される。そして、メインポート14から吐出される燃料は、スロットルバルブ6によって案内されて混合気通路16を通じてエンジン本体のクランク室に充填される。
【0061】
図5はパーシャル運転のときの気化器2の状態を示す。パーシャル運転ではスロットルバルブ6は半開きの状態である。半開きのスロットルバルブ6の下流端とインテーク部材12の仕切り壁12aとの間には隙間18を通じて、従来と同様に、メインポート14から吐出された燃料の一部がフレッシュエア通路20に流れ込む。メインポート14から吐出された燃料の大部分は混合気通路16を通じてエンジン本体に供給される。
【0062】
図6図7の参照符号D2は、スロットルバルブ6の軸6aと吸入エア通路4の下流端との間の距離を示す。従来に比べて、この距離D2が小さいことが分かるであろう。すなわち、スロットルバルブ軸6aは吸入エア通路の下流端に隣接して位置決めされている。この距離D2は、スロットルバルブ軸6aの直径が5.0mmであるとすると約2.5mm〜約6.0mm、好ましくは約2.6mm〜約5.0mm、最も好ましくは約2.8mm〜約4.0mmである。
【0063】
このスロットルバルブ軸6aの配置によって、半開きのスロットルバルブ6とインテーク部材12の仕切り壁12aとの間の隙間18を小さくすることができる。換言すれば、パーシャル運転のときの、混合気とフレッシュエアとの分離度を、この比較的小さな隙間18の大きさによって制御することができる。パーシャル運転のときの分離度を所望の値にすることができるように、スロットルバルブ軸6aと吸入エア通路4の下流端との間の距離D2を決めればよい。
【0064】
上記距離D2を小さな値に設定する技術的思想は、本発明の実施例に限定されることなく、広く一般的に層状掃気式2サイクル内燃エンジンに適用可能であることは言うまでもない。
【0065】
勿論、メインポート14の配置位置は、アイドル域、パーシャル域、高回転域で従来と同様の働きをすることができる位置に設定すればよい。具体的にはメインポート14の配置位置は次の条件を満たす位置に設定される。(1)パーシャル運転乃至高回転運転でメインポート14から燃料が吐出する。(2)アイドル運転ではメインポート14から燃料が吐出しない。この(1)、(2)の条件は従来と同じである。
【0066】
なお、インテーク部材12の仕切り壁12aに関し、その上流端部に段部12bが形成され、この段部12bにスロットルバルブ6が着座することによりスロットルバルブ6が全開状態になる。
【0067】
この仕切り壁12aの変形例として、図6図7に示すように、段部12b無しに仕切り壁12aがインテーク部材12の上流端まで延びていてもよい。
【0068】
図8図9は本発明に採用可能な気化器の一つの具体例を説明するための図である。図8図9に示す気化器22は、基本的には前述した図4図5に示す気化器2に対応している。図8図9に示す気化器22の説明において、図4図5を参照して説明した要素と同じ要素には同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0069】
図4図5に図示の気化器2は、吸入エア通路4を規定する壁面に開口したメインポート14を備えているが、このメインポート14に代えて、図8図9に示す気化器22は、吸入エア通路4の壁面から突出して位置するメインノズル24を備えている。メインノズル24は、好ましくは、吸入エアの流れ方向下流側に向けて傾斜した状態で位置決めされる。この傾斜角度を図10に“α”で図示してある。
【0070】
メインノズル24は、揺動するスロットルバルブ6と干渉しないことを条件に、その長さ及び傾斜角度が設定されている。メインノズル24の傾斜角度αは、気化器22を生産するときに、吸入エア通路4を規定する壁面の孔にメインノズル24を圧入する作業を支障なく実施できる角度を念頭において、圧入可能な角度よりも小さく且つメインノズル24から燃料が安定的に吐出する角度に設定される。この傾斜角度αは具体的には0°〜50°、好ましくは10°〜40°、最も好ましくは10°〜35°である。
【0071】
前述した特許文献1に開示の気化器では、メインノズルの傾斜角度αは30°よりも大きい。
【0072】
図8は高回転運転のときの気化器22の状態を示している。図9はパーシャル運転のときの気化器22の状態を示す。図8図9に図示の気化器22の作用は、図4図5を参照して前述した気化器2と実質的に同じであることから、その説明を省略する。
【0073】
図11以降の図面は実施例のスロットルバルブ式の気化器30を示す。実施例の気化器30は層状掃気式の2サイクル内燃エンジンに適用される。当該2サイクルエンジンは単気筒であり且つ排気量は20cc乃至120ccである。この実施例の気化器30の説明において、図4などを参照して説明した要素と同じ要素には同じ参照符号を使うことにより、その説明を省略する。実施例のエンジンを搭載したポータブル作業機の具体例は、チェーンソー、トリマー、パワーブロワー、エンジン式のポンプ、小型発電機、農薬噴霧機などである。
【0074】
図11(気化器30の斜視図)を見ると当業者であれば、気化器30がコンパクトであることが直ぐに分かるであろう。図12は、気化器30の断面図である。図12を参照して、気化器30はスロットルバルブ6に加えてチョークバルブ32を有している。先に参照した図18などの従来例と対比すると直ぐに分かるように、実施例の気化器30の吸入エア通路4にはベンチュリ部(図18の符号104)が無い。
【0075】
図12の矢印は吸入エアの流れ方向を示している。スロットルバルブ6とチョークバルブ32が互いに隣接して配置されている。スロットルバルブ軸6aとチョークバルブ軸32aとの間の軸間距離D1(図12)は、スロットルバルブ6の半径とチョークバルブ32の半径とを合算した値と実質的に等しい。スロットルバルブ6とチョークバルブ32とが共に全開状態のときには、スロットルバルブ6とチョークバルブ32は同一平面で実質的に連続した面を形成する。
【0076】
スロットルバルブ6の直ぐ上流にメインノズル24が位置決めされている。互いに隣接して配置されたスロットルバルブ6とチョークバルブ32との中間にメインノズル24が配置されている。
【0077】
スロットルバルブ6の直上流に位置するメインノズル24は傾斜して位置決めされている。この実施例では、メインノズル24の傾斜角度αは25°である。このメインノズル24は、その先端が、全開状態のチョークバルブ32の板面から離れる方向に傾斜し、そして、全開状態のスロットルバルブ6の板面に差し向けられている。この構成により、スロットルバルブ6とチョークバルブ32との間の仕切り壁は不要となる。すなわち、スロットルバルブ6の上流側に仕切り壁を設けなくても、メインノズル24から吐出された燃料がスロットルバルブ6の上流側からフレッシュエア通路に入り込んでしまうのを阻止することができる。
【0078】
スロットルバルブ6の軸6aに隣接して気化器30の下流側端面30aが位置している。同様にチョークバルブ32の軸32aに隣接して気化器30の上流側端面30bが位置している。
【0079】
上記の構成を備えた実施例の気化器30は、従来の気化器100(図18)に比べて、吸入エアの流れ方向の長さ寸法L1が小さい。
【0080】
寸法L1を小さくできる理由を列挙すると次の通りである。
(1)従来例で説明したベンチュリ部104(図18)が存在しない。
(2)スロットルバルブ軸6aとチョークバルブ軸32aとの間の距離D1が小さい。
【0081】
(3)スロットルバルブ軸6aが気化器30の下流側端面30aに隣接して位置している。つまり図6などで説明した距離D2が小さい。具体的には、距離D2は3.2mmである。ちなみに気化器30のボア径は17.5mmである。
(4)チョークバルブ軸32aが気化器30の上流側端面30bに隣接して位置している。
【0082】
実施例に含まれる気化器30は、上述したようにベンチュリ部104(図18)が存在していない。このことにより、互いに干渉しない位置までスロットルバルブ6とチョークバルブ32とを近接した状態で配置することができる。
【0083】
図13は、スロットルバルブ6とチョークバルブ32との配置を説明するための図である。図13の(I)は、スロットルバルブ6とチョークバルブ32とを若干離して配置した例を示す。
【0084】
図13の(II)は、スロットルバルブ6とチョークバルブ32とが互いに干渉しない位置まで接近して配置することが可能であることを説明するための図である。スロットルバルブ6とチョークバルブ32との間に配置されるメインノズル24は、スロットルバルブ6及びチョークバルブ32と干渉しない位置及び突出量に設定されるのは言うまでもない。
【0085】
前述したように、従来の気化器100(図18)はベンチュリ部104を必須の要素としていた。従来の気化器100は、ベンチュリ部104の頂部にメインポート110又はメインノズルを配置する構成が採用され、この構成は必須であると考えられていた。
【0086】
本願発明者らは、従来必須と考えられてきたベンチュリ部が、層状掃気式エンジンに適用される気化器においては必須ではないとの検証を得た。この検証結果に基づいて実施例の気化器30はベンチュリ部を備えていない。このことから、メインポート14又はメインノズル24の配置位置に関する自由度は従来に比べて高い。換言すれば、スロットルバルブ6とメインポート14又はメインノズル24との間の距離を小さく設定することができる。
【0087】
また、スロットルバルブ6の直上流にメインノズル24を位置決めできるため、メインノズル24から吐出した燃料を、全開状態のスロットルバルブ6の板面に差し向けるためにメインノズル24の傾斜角度αを大きく設定する必要はない。メインノズル24の傾斜角度αは、既に生産実績のある角度に設定することができる。この実施例では25°である。
【0088】
図14を参照して、気化器30は、その下流側端面30aとスロットルバルブ軸6aとの間の距離D2が従来に比べて小さい。これにより気化器30の長さ寸法L1を小さくできる。つまり、気化器30を従来に比べてコンパクトにできる。図15は従来例を示す。
【0089】
図15(従来例)を見るとよく分かるように、気化器100の下流側端面100aがスロットルバルブ軸106aから離れていることによって、全開状態のスロットルバルブ106の下流側に隙間Gができる。図15の参照符号12は、前述したインテーク部材である。インテーク部材12は、気化器100とエンジン本体との間に配設される。参照符号12aは仕切り壁である。この仕切り壁12aによって混合気通路16とフレッシュエア通路20とが区画される(図4)。
【0090】
図15(従来例)を参照して、全開状態のスロットルバルブ106を平面視したときに、スロットルバルブ106の両側の隙間Gは、高速運転時における混合気とフレッシュエアとの分離度を低下させる一因になる。
【0091】
図14を参照して、実施例の気化器30は、その下流側端面30aとスロットルバルブ軸6aとの間の距離D2が小さい。これによりスロットルバルブ6の両側の隙間Gを限りなく小さくできる。距離D2が小さいほど隙間Gが小さくなるのは言うまでもないが、距離D2の減少に従って隙間Gの面積は二次曲線的に減少する。
【0092】
スロットルバルブ軸6aと、これに隣接する下流側端面30aとの距離D2が、スロットルバルブ6の半径の1/2以下であるとき、隙間Gは、隙間Gを通過するガスの流れをほぼゼロとみなすことができる。実施例では、スロットルバルブ軸6aを下流側端面30aから3.2mmの位置に配置した。この3.2mmの数値は、スロットルバルブ6の半径の1/2よりも小さい。これにより、高速運転つまりスロットルバルブ6が全開状態のときの隙間Gを通じたガスの流れを無視できる。これにより混合気とフレッシュエアとの分離度を高めることができる。
【0093】
すなわち、実施例に採用可能な気化器30によれば、下流側端面30aとスロットルバルブ軸6aとの間の距離D2を小さくすることで、隙間Gを埋めるためにインテーク部材12の仕切り壁12aを延長させる必要性を無くすことができ、シンプルでコンパクトな層状掃気エンジンを提供できる。
【0094】
以上、本発明を具体的に説明した。本発明は特許請求の範囲で定義した発明に含まれる様々な具体的な態様や変形を包含する。図16は、メインノズル24の直上流に、エアの流れを整えるための要素36を配置させた例を説明するための図である。吸入エア通路4を流れるエアは、その一部の流れが整流要素36によって整えられた状態でメインノズル24を通過する。これにより、メインノズル24から吐出される燃料の吐出量を安定化できる。
【0095】
整流要素36は、吸入エア通路4を規定する壁面の一部を隆起させることにより形成してもよい。吸入エア通路4を規定する壁面の一部を肉盛りすることで整流要素36を形成してもよい。メインノズル24と一体化する部材で整流要素36を形成してもよい。
【0096】
勿論、図4図5を参照して説明したメインポート14についても、その直上流に整流要素36を設けてもよい。図4図5の例で具体的に説明すれば、メインポート14が開口する局部的な小山15の一部を、整流効果を発揮する形状にするのがよい。
【0097】
図1図3を参照して、スロットルバルブ204とチョークバルブ242とを備えた気化器240を例にメインノズル202の好ましい配置を説明する。図17は、図1に図示の気化器240と同じである。
【0098】
この図17を参照して、スロットルバルブ204とチョークバルブ242との間の隙間244を通じて混合気通路246に入り込むフレッシュエアAr(1)と、混合気通路246に入り込む吸い込みエアAr(2)とは、混合気通路246のポイントPで合流する。この合流ポイントP又はその下流に向けて、メインノズル202から吐出される燃料を差し向けるのが好ましい。具体的には、合流ポイントPは、スロットルバルブ204とチョークバルブ242の間に形成される隙間244の前後方向中間位置よりも前方側(下流側)である。すなわち、隙間244の前後方向中間よりも下流側にメインノズル202の吐出口が差し向けられる。勿論、メインノズル202から吐出される燃料の全てをスロットルバルブ204の下面で規定される混合気通路246で受け入れられるように、メインノズル202の配置位置及び傾斜角度を設定するのがよい。
【0099】
このことは、メインノズル202に代えてメインポートを採用した気化器でも同じである。
【符号の説明】
【0100】
2 本発明に採用可能な気化器の一つの具体例
4 吸入エア通路
6 スロットルバルブ
6a スロットルバルブの軸
12 インテーク部材
12a インテーク部材の仕切り壁
14 メインポート
16 混合気通路
18 半開き状態のスロットルバルブと仕切り壁との間の隙間
20 フレッシュエア通路
22 本発明に採用可能な気化器の他の具体例
24 メインノズル
α メインノズルの傾斜角度
30 本発明に採用可能な気化器
32 チョークバルブ
32a チョークバルブの軸
L1 気化器の上流端から下流端までの長さ寸法
D1 スロットルバルブ軸とチョークバルブ軸との間の軸間距離
36 整流要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21