(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487701
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】燃料電池用ガスケット
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0276 20160101AFI20190311BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20190311BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20190311BHJP
【FI】
H01M8/0276
H01M8/0247
H01M8/10
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-16574(P2015-16574)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-143479(P2016-143479A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】堀本 隆之
(72)【発明者】
【氏名】由井 元
【審査官】
渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−156216(JP,A)
【文献】
特開2013−101849(JP,A)
【文献】
特開2011−003528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0276
H01M 8/0247
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のセパレータ間にMEAを含む中間部品を介装した燃料電池セルに備えられるガスケットであって、前記一対のセパレータのうち一方のセパレータに保持されたガスケット本体および他方のセパレータに保持されたガスケット本体が平面上重なる位置にてそれぞれ前記中間部品に接触する構造の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記ガスケット本体はそれぞれ、平板状のガスケット基部と、前記ガスケット基部の平面上に設けられた接触部と、前記ガスケット本体の幅方向両側または片側に位置して設けられた定寸止め用の土手部とを一体に有し、
前記定寸止め用の土手部は平面上重なる位置にてそれぞれ前記中間部品に接触し、
前記定寸止め用の土手部は、前記セパレータに設けられ、前記土手部に埋設された凸部により支持され、
前記凸部は、その厚みを前記ガスケット基部の厚みよりも大きく、前記定寸止め用の土手部の厚みよりも小さく形成されている
ことを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記両ガスケット本体のうち一方のガスケット本体は、断面山形のリップ状の接触部を備え、他方のガスケット本体は、平面状の接触部を備え、
前記一方のガスケット本体における前記リップ状の接触部と前記定寸止め用の土手部との間に凹部が設けられ、前記他方のガスケット本体における前記平面状の接触部と前記定寸止め用の土手部との間にも凹部が設けられていることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルにおけるシール部を構成する燃料電池用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用ガスケットには、イオン交換膜をシールする膜面シールと、冷却側をシールする冷媒シールがある。ガスケットの組付け方法としては、セパレータやMEA、GDLと云ったセル部材にガスケットを一体成形する方式、粘着材付きの樹脂補強体にガスケットを一体成形してセパレータ等のセル部材に貼り付ける方式、ガスケットを単体で成形してセル部材に組み付ける方式等がある。スタックの締結方法としては、或る寸法(厚み寸法)になるように締結する方法と、或る荷重で締結する方法がある。尚、後者の、決められた荷重による締結方法において、ガスケットを設計するに際しては、使用するGDLの圧縮状態および荷重を考慮する必要がある。
【0003】
また、燃料電池用ガスケットの一種として従来から
図3に示すように、一対のセパレータ52,53間にMEA55を含む中間部品54を介装した燃料電池セル51に備えられるガスケット11であって、一対のセパレータ52,53のうち一方のセパレータ52に保持された第1ガスケット本体21および他方のセパレータ53に保持された第2ガスケット本体31が平面上重なる位置にてそれぞれ中間部品54に接触する構造の燃料電池用ガスケット11が知られており、両ガスケット本体21,31の平面上の配置が少々ずれてもシール面圧を確保できるように、両ガスケット本体21,31のうち第1ガスケット本体21には断面山形のリップ状の接触部23が備えられ、第2ガスケット本体31には平面状の接触部33が備えられている。
【0004】
上記
図3の燃料電池用ガスケット11の場合、セル締結時に第1ガスケット本体21のリップ状接触部23と第2ガスケット本体31の平面状接触部33が中間部品54を挟むように圧縮される構成となるが、中間部品54としてMEA55とともに配置されたGDL56の締結荷重が小さい場合に、ガスケット本体21,31が想定以上に圧縮されてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−236671号公報
【特許文献2】特開2005−166508号公報
【特許文献3】特開2005−5191号公報(
図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、セル締結時にガスケット本体の接触部同士が中間部品を挟むように圧縮される構成において、ガスケット本体が想定以上に圧縮されるのを抑制することができる燃料電池用ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による燃料電池用ガスケットは、一対のセパレータ間にMEAを含む中間部品を介装した燃料電池セルに備えられるガスケットであって、前記一対のセパレータのうち一方のセパレータに保持されたガスケット本体および他方のセパレータに保持されたガスケット本体が平面上重なる位置にてそれぞれ前記中間部品に接触する構造の燃料電池用ガスケットにおいて、
前記ガスケット本体はそれぞれ、平板状のガスケット基部と、前記ガスケット基部の平面上に設けられた接触部と、前記ガスケット本体の幅方向両側または片側に位置して設けられた定寸止め用の土手部とを一体に有し、前記定寸止め用の土手部は平面上重なる位置にてそれぞれ前記中間部品に接触し、前記定寸止め用の土手部は、前記セパレータに設けられ、前記土手部に埋設された凸部により支持され、前記凸部は、その厚みを前記ガスケット基部の厚みよりも大きく、前記定寸止め用の土手部の厚みよりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の
請求項2による燃料電池用ガスケットは、上記した
請求項1記載の燃料電池用ガスケットにおいて、前記両ガスケット本体のうち一方のガスケット本体は、断面山形のリップ状の接触部を備
え、他方のガスケット本体は、平面状の接触部を備え、前記一方のガスケット本体における
前記リップ状の接触部と前記定寸止め用
の土手部との間に凹部が設けら
れ、前記他方のガスケット本体における
前記平面状
の接触部と前記定寸止め用
の土手部との間にも凹部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
上記構成を備える本発明の燃料電池用ガスケットにおいては、両ガスケット本体における幅方向両側または片側にガスケット厚み寸法に係る定寸止め用の土手部が一体成形されており、セル締結時にこの両定寸止め用土手部が平面上重なる位置にてそれぞれ中間部品に接触するため、この両定寸止め用土手部がスペーサーとして作用することによりガスケット全体としての圧縮量が規制される。したがって、ガスケット本体が想定以上に圧縮されるのを抑制することが可能とされる。
【0012】
定寸止め用土手部は、ガスケット本体に対し別途成形しても良いが、ガスケット本体に対し一体成形するのが金型キャビティを一体化できるので成形工程上、好都合である。但し、このように定寸止め用土手部をガスケット本体に対し一体成形すると、定寸止め用土手部がガスケット本体と同材質とされるため、定寸止め用土手部自体が強く圧縮されたときに倒れたり、その高さ寸法が大きく減じたりすることが懸念される。
【0013】
そこで、これに対策するには、セパレータに凸部を設けて、この凸部によって定寸止め用土手部を支持するようにするのが好適であり、これによれば、比較的硬材質の凸部によって比較的軟材質の定寸止め用土手部が支持され実質嵩上げされるため、定寸止め用土手部が倒れたりするのを抑制することが可能とされる。
【0014】
凸部によって両定寸止め用土手部を支持する形状としては、凸部の高さ方向先端に両定寸止め用土手部を配置しても良いが、凸部を定寸止め用土手部に埋設する(換言すると凸部を土手部によって被覆する)ようにしても良く、これによれば、定寸止め用土手部が一層倒れにくくなる。
【0015】
また、ガスケット本体に対し定寸止め用土手部を一体成形する形状としては、両ガスケット本体のうち一方のガスケット本体が断面山形のリップ状の接触部を備えるとともに他方のガスケット本体が平面状の接触部を備えることを前提として、一方のガスケット本体におけるリップ状接触部と定寸止め用土手部との間に凹部を設けるとともに他方のガスケット本体における平面状接触部と定寸止め用土手部との間にも凹部を設けるのが好適であり、これによれば、定寸止め用土手部が圧縮されてもその影響が接触部に及びにくいため、接触部におけるシール面圧を適正に維持することが可能とされる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0017】
すなわち本発明においては以上説明したように、セル締結時にガスケット本体の接触部同士が中間部品を挟むように圧縮される構成において、ガスケット本体が想定以上に圧縮されるのを抑制することができる。したがって、ガスケットの耐久性およびガスケットによるシール性を長期間に亙って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施例に係る燃料電池用ガスケットの要部断面図
【
図2】本発明の第2実施例に係る燃料電池用ガスケットの要部断面図
【
図3】従来例に係る燃料電池用ガスケットの要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)本発明は、ガスケット形状に係る。本発明のガスケットは例えば、燃料電池用
ガスケットとして用いられる。
(2)従来形状の場合、締結時に一方のガスケットの平面部と他方のガスケットのリップ部がMEAを挟むように圧縮される構成となるが、GDLの締結荷重が小さい場合、ガスケットが想定以上に圧縮される可能性がある。
(3)上記対策として、ガスケットの脇に土手部を設け、締結時に土手の部分で受けることでガスケットが過圧縮となるのを防ぐ構成とする。
(4)また、土手部分が縦長形状となる場合、締結時に倒れが生じ、受けとして成立しない可能性がある。
(5)そこで、上記対策として、ガスケット成形部にセパレータの凸部を設け、その上にガスケットの土手部を形成する。
(6−1)当該構成によれば、セパレータ凸部の上にガスケットの土手部を設けることで、締結時の土手部の反力がより高くなり易くなるため、シール部が過圧縮となりにくくなる。更に、土手部の高さを調整することで、GDLが想定以上に圧縮されるのを抑制できる。
(6−2)ガスケットの土手部をセパレータ凸部に形成することで土手部の締結荷重が高くなるため、シールが過圧縮となることを抑制できる。
(6−3)ガスケットの土手部をセパレータ凸部に形成することで土手部の締結荷重が高くなるため、GDLが想定以上に圧縮されるのを抑制できる。
【実施例】
【0020】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0021】
第1実施例・・・
図1に示すように、当該実施例に係る燃料電池用ガスケット11は、一対のセパレータ52,53間にMEA(膜電極複合体)55およびGDL(ガス拡散層)56を含む中間部品54を介装した燃料電池セル51に備えられるガスケットであって、一対のセパレータ52,53のうち一方のセパレータ52に保持されたガスケット本体(第1ガスケット本体)21および他方のセパレータ53に保持されたガスケット本体(第2ガスケット本体)31を備え、両ガスケット本体21,31が平面上重なる位置にてそれぞれ中間部品54におけるMEA55に接触する構造を備えるガスケットとされている。ガスケット本体21,31はそれぞれ所定のゴム状弾性体などによって成形されている。
【0022】
図1における下側の、第1ガスケット本体21は、平板状のガスケット基部22および断面山形のリップ状の接触部23を備え、平板状のガスケット基部22の幅方向中央部に断面山形のリップ状の接触部23が一体成形されている。またこの第1ガスケット本体21の幅方向両側に位置してそれぞれ、ガスケット厚み寸法に係る定寸止め用の土手部24が一体成形されており、リップ状接触部23と定寸止め用土手部24との間にそれぞれ凹部25が形成されている。ガスケット基部22、リップ状接触部23および定寸止め用土手部24の各厚み(高さ)寸法の大小関係は、ガスケット基部22の厚み寸法をt
1、リップ状接触部23の厚み寸法をt
2、定寸止め用土手部24の厚み寸法をt
3として、
t
1<t
3<t
2
の関係とされている。
【0023】
一方、
図1における上側の、第2ガスケット本体31は、平板状のガスケット基部32および平面状の接触部33を備え、平板状のガスケット基部32の幅方向中央部に平面状の接触部33が一体成形されている。またこの第2ガスケット本体31の幅方向両側に位置してそれぞれ、ガスケット厚み寸法に係る定寸止め用の土手部34が一体成形されており、平面状接触部33と定寸止め用土手部34との間にそれぞれ凹部35が形成されている。ガスケット基部32、平面状接触部33および定寸止め用土手部34の各厚み(高さ)寸法の大小関係は、ガスケット基部32の厚み寸法をt
4、平面状接触部33の厚み寸法をt
5、定寸止め用土手部34の厚み寸法をt
6として、
t
4<t
5<t
6
の関係とされている。
【0024】
上記構成の燃料電池用ガスケット11においては、第1および第2ガスケット本体21,31における幅方向両側にそれぞれ、ガスケット厚み寸法に係る定寸止め用の土手部24,34が一体成形され、セル締結時にこの両定寸止め用土手部24,34が平面上重なる位置にてそれぞれ中間部品54におけるMEA55に接触するため、この両定寸止め用土手部24,34がスペーサーとして作用し、これによりガスケット11全体としての圧縮量が規制されることになる。したがって、ガスケット本体21,31が想定以上に圧縮されてその耐久性やシール性が損なわれるのを抑制することが可能とされている。
【0025】
また、ガスケット本体21,31に対して定寸止め用土手部24,34を一体成形する形状として、両ガスケット本体21,31のうち第1ガスケット本体21が断面山形のリップ状の接触部23を備えるとともに第2ガスケット本体31が平面状の接触部33を備え、第1ガスケット本体21におけるリップ状接触部23と定寸止め用土手部24との間に凹部25が設けられるとともに第2ガスケット本体31における平面状接触部33と定寸止め用土手部34との間にも凹部35が設けられているため、定寸止め用土手部24,34が圧縮されてもその影響が接触部23,33に及びにくい。したがって、接触部23,33におけるシール面圧を適正に維持することが可能とされている。
【0026】
第2実施例・・・
つぎに、当該第2実施例に係る燃料電池用ガスケット11においては、上記第1実施例と同様の構成に加えて、各セパレータ52,53に凸部57,58が設けられ、この凸部57,58によって各定寸止め用の土手部24,34が支持される構成とされている。凸部57,58は例えば金属製のセパレータ52,53の一部をプレス加工することにより中空の立体形状として形成され、その全部または一部(図では全部)が定寸止め用の土手部24,34に埋設されている。
【0027】
したがってこの構成によれば、比較的硬材質の凸部57,58によって比較的軟材質の定寸止め用土手部24,34が支持されるため、定寸止め用土手部24,34が倒れたりするのを抑制することが可能とされている。
【0028】
凸部57の厚み(高さ)寸法t
7はその機能からして、ガスケット基部22の厚み寸法をt
1、定寸止め用土手部24の厚み寸法をt
3として、
t
1<t
7<t
3
の関係とするのが好適であり、同様に、凸部58の厚み(高さ)寸法t
8はその機能からして、ガスケット基部32の厚み寸法をt
4、平面状接触部33の厚み寸法をt
5、定寸止め用土手部34の厚み寸法をt
6として、
t
4<t
8<t
6
とし、かつ
t
8<t
5
の関係とするのが好適である。
【0029】
尚、上記第1および第2実施例においては、ガスケット本体21,31の幅方向両側にそれぞれ定寸止め用土手部24,34を設けたが、ガスケット本体21の幅方向片側のみに定寸止め用土手部24,34を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0030】
11 燃料電池用ガスケット
21 第1ガスケット本体
22,32 ガスケット基部
23 リップ状接触部
24,34 定寸止め用土手部
25,35 凹部
31 第2ガスケット本体
33 平面状接触部
51 燃料電池セル
52,53 セパレータ
54 中間部品
55 MEA
56 GDL
57,58 凸部