【実施例】
【0033】
本発明の実施の形態に係る内燃機関1は、
図1に示すように、シリンダヘッド2と、シリンダヘッド2の上部に取り付けられたロッカーカバー4と、シリンダヘッド2の下部に取り付けられた本発明の実施の形態に係るシリンダブロック6と、シリンダブロック6の下部に取り付けられたアッパーオイルパン8と、アッパーオイルパン8の下部に取り付けられたロアオイルパン10と、シリンダヘッド2に接続されたインテークマニホールド12と、シリンダブロック6に取り付けられたウォータポンプ16と、を備えている。
【0034】
内燃機関1は、3つの気筒が直列に配置された直列3気筒エンジンとして構成されており、後述する燃焼室で生じる燃焼圧力によって図示しないピストンを往復運動させ、当該ピストンの往復運動を図示しないクランクシャフトの回転運動に変換することにより動力を出力する。なお、本実施の形態では、便宜上、ロッカーカバー4側、即ち、
図1中の紙面上方を、「上方」ないし「上方側」として規定し、ロアオイルパン10側、即ち、
図1中紙面下方を、「下方」ないし「下方側」として規定する。
【0035】
シリンダヘッド2は、
図2に示すように、前壁部26aと、後壁部26bと、前壁部26aおよび後壁部26bを接続する側壁部26cと、アッパーデッキ部22と、ロアデッキ部24と、を備えている。側壁部26cには、インテークマニホールド12を取り付けるための取付部28が形成されている。
【0036】
アッパーデッキ部22およびロアデッキ部24は、前壁部26a、後壁部26bおよび側壁部26cに接続されている。アッパーデッキ部22とロアデッキ部24との間には、
図3に示すように、ヘッド用ウォータジャケットHWJが形成されている。また、ロアデッキ部24には、燃焼室の一部を構成する燃焼室構成凹部25が形成されている。
【0037】
燃焼室構成凹部25は、
図3に示すように、直列に3つ配置されている。なお、燃焼室構成凹部25と、シリンダブロック6に形成された後述するシリンダボア66aと、シリンダボア66a内に収容される図示しないピストンの上面と、によって燃焼室が構成される。
【0038】
ヘッド用ウォータジャケットHWJは、冷却水が流れる冷却水通路として構成されており、シリンダヘッド2がシリンダブロック6に締結された際に、後述するシリンダブロック6のブロック用ウォータジャケットBWJと連通する。ヘッド用ウォータジャケットHWJを流れる冷却水によって、シリンダヘッド2、特に、燃焼室構成凹部25周りが冷却される。
【0039】
シリンダブロック6は、
図4および
図5に示すように、前壁部62aと、後壁部62bと、前壁部62aおよび後壁部62bに接続された二つの側壁部62c,62dと、シリンダボア66aを有するシリンダボア壁部66と、側壁部62c,62dおよびシリンダボア壁部66を連結する複数の連結壁部64,65と、備えている。
【0040】
前壁部62a、後壁部62b、側壁部62c,62dおよびシリンダボア壁部66の上方端面は、面一状に形成されており、シリンダヘッド2のロアデッキ部24が当接するトップデッキ面60として構成されている。前壁部62a、後壁部62bおよび側壁部62c,62dは、本発明における「外壁部」に対応し、トップデッキ面60は、本発明における「デッキ面」に対応する実施構成の一例である。
【0041】
側壁部62cには、
図6に示すように、ウォータポンプ16を取り付けるためのウォータポンプハウジング部72と、当該ウォータポンプハウジング部72に冷却水を導くサクション通路部74と、が設けられている。
【0042】
前壁部62a,後壁部62bおよび側壁部62c,62dと、シリンダボア壁部66との間には、
図4および
図5に示すように、ブロック用ウォータジャケットBWJが形成されている。
【0043】
シリンダボア壁部66は、
図4および
図5に示すように、3つのシリンダボア66aが直列に配置されるように互いに連結されてサイアミーズシリンダーを構成している。シリンダボア66a内には、図示しないピストンが摺動する。
【0044】
ブロック用ウォータジャケットBWJは、冷却水が流れる冷却水通路として構成されており、ブロック用ウォータジャケットBWJを流れる冷却水によって、シリンダブロック6、特に、シリンダボア壁部66周りが冷却される。ブロック用ウォータジャケットBWJは、トップデッキ面60において開口している。本実施の形態では、ブロック用ウォータジャケットBWJの深さLjは、シリンダボア66aの全長Lbの70%〜90%となるように構成されている。
【0045】
ブロック用ウォータジャケットBWJは、所定幅をもって各シリンダボア壁部66を囲むように各シリンダボア壁部66に同心状に構成されている。ブロック用ウォータジャケットBWJは、本発明における「ウォータジャケット部」に対応する実施構成の一例である。
【0046】
ブロック用ウォータジャケットBWJは、基本的には円弧面により構成されているが、ブロック用ウォータジャケットBWJのうち連結壁部64,65が設けられた部分は、
図7に示すように、平坦面32により構成されている。以下、ブロック用ウォータジャケットBWJのうち平坦面32によって構成された部分を平坦部30と称する。
【0047】
平坦部30は、
図7に示すように、シリンダボア66aの中心を角の頂点とする中心角(平坦部30の端部のうちブロック用ウォータジャケットBWJの周方向と交差する両端部と、シリンダボア66aの中心と、により構成される中心角)が25°ないし35°望ましくは30°の扇形領域の範囲内となるように構成されている。
【0048】
連結壁部64および連結壁部65は、
図4および
図5に示すように、ブロック用ウォータジャケットBWJのうちシリンダボア壁部66を挟んでシリンダボア66aの配列方向に延在する右側ジャケット部BWJRおよび左側ジャケット部BWJLにそれぞれ設けられている。連結壁部64,65は、互いに対向するように配置されており、各シリンダボア壁部66と側壁部62cおよび側壁部62dとをシリンダボア66aの配列方向と直交する方向に連結するように構成されている。
【0049】
また、連結壁部64,65は、ブロック用ウォータジャケットBWJをシリンダボア66aの配列方向に複数の室に仕切るように構成されている。連結壁部64,65は、本発明における「仕切壁部」に対応する実施構成の一例である。また、連結壁部64,65は、本発明における「第1仕切壁部」および「第2仕切壁部」に対応する実施構成の一例である。
【0050】
さらに、連結壁部64,65は、
図8および
図9に示すように、ブロック用ウォータジャケットBWJの深さ方向全域に亘って設けられておらず、ブロック用ウォータジャケットBWJの底部からシリンダボア66aの全長Lbの20%〜70%に相当する高さとなるように構成されている。
【0051】
言い換えると、連結壁部64,65は、当該連結壁部64,65の上方部分がシリンダボア66aの全長Lbの20%〜50%に相当する深さまで機械加工によって削り取られている。これにより、シリンダボア66aの配列方向におけるブロック用ウォータジャケットBWJの連通が確保されている。
【0052】
また、連結壁部64のうちシリンダブロック6の後壁部62bを向く壁面64bは、
図9に示すように、ブロック用ウォータジャケットBWJの底部に向かうに従い連結壁部64のうちシリンダブロック6の前壁部62aを向く壁面64aから遠ざかるような傾斜を有するように構成されている。なお、壁面64aは、ほぼ鉛直方向に沿うように構成されている。
【0053】
さらに、図示は省略するが、連結壁部65も連結壁部64と同様の構成をしている。即ち、連結壁部65のうちシリンダブロック6の後壁部62bを向く壁面65bは、ブロック用ウォータジャケットBWJの底部に向かうに従い連結壁部65のうちシリンダブロック6の前壁部62aを向く壁面65aから遠ざかるような傾斜を有するように構成されており、壁面65aは、ほぼ鉛直方向に沿うように構成されている。壁面64a,65aは、本発明における「上流側壁面」に対応し、壁面64b,65bは、本発明における「下流側壁面」に対応する実施構成の一例である。
【0054】
次に、こうして構成されたシリンダブロック6の製造方法について説明する。まず、鋳型を型締めして溶湯を流し込むことにより、
図10および
図11に示すように、前壁部62aと、後壁部62bと、側壁部62c,62dと、シリンダボア壁部66と、複数の連結壁部64,65と、備えるシリンダブロックを鋳造成型する。
【0055】
なお、
図12に示すように、鋳型には、側壁部62cが成型される側の面の下方部分に湯口INPが設置されると共に、側壁部62dが成型される側の面の上方部分にガス抜き口GOUTが設置され、溶湯が
図12の左下側から右上側に向かって流れるように構成されている(
図12の太線矢印)。
【0056】
ここで、シリンダブロックの鋳造成型段階では、連結壁部64,65は、ブロック用ウォータジャケットBWJの深さ方向全域に亘って底部からシリンダブロック6のトップデッキ面60に達する長さに成型される(
図10および
図11参照)。
【0057】
このように、連結壁部64,65をブロック用ウォータジャケットBWJの底部からシリンダブロック6のトップデッキ面60に達する長さに成型する構成とすることにより、連結壁部64,65を成型するための鋳型の連結壁部用空洞部を、シリンダボア壁部66を成型するための鋳型のボア壁部用空洞部へ溶湯を流し込むための湯道として利用することができるため、ボア壁部用空洞部の長手方向(シリンダボア66aの軸線方向であって
図12の上下方向)全域に亘って良好に溶湯を充填させることができる。
【0058】
また、
図12の太線矢印で示すように、連結壁部64,65が溶湯の主流方向に沿うように設けられているため、連結壁部64,65を成型するための鋳型の連結壁部用空洞部内への溶湯の流入性を向上することができる。なお、本実施の形態では、「溶湯の主流方向」とは、典型的には、溶湯が湯口INP側(側壁部62c側)から側壁部62d側に向かう方向、、例えば、シリンダボア66aの配列方向と交差する方向および溶湯がシリンダボア66aの軸線方向を上方に向かう方向がこれに該当する。さらに、連結壁部64,65がシリンダボア壁部66を挟んで互いに対向するように設けられているため、連結壁部64を成型するための鋳型の連結壁部用空洞部からボア壁部用空洞部に流れ込んだ溶湯を、連結壁部65を成型するための鋳型の連結壁部用空洞部を介して側壁部62dを成型する側壁部用空洞部に流出させることができる。これにより、ボア壁部用空洞部への溶湯の流れ込みをより一層良好なものとすることができる。
【0059】
この結果、シリンダボア壁部66のトップデッキ面60側まで溶湯が良好に充填され、シリンダボア壁部66のトップデッキ面60側に鋳巣が発生することを良好に防止し得る。したがって、シリンダブロック6の品質が向上すると共に、シール性およびシリンダボア壁部66の放熱性が向上する。なお、連結壁部64,65によってシリンダボア壁部66の強度も向上する。
【0060】
また、連結壁部64,65の壁面64b,65bに設けた傾斜が、型開きの際に、ブロック用ウォータジャケットBWJを成型するための鋳型を抜くための鋳抜き傾斜として機能するため、型抜き性が向上する。なお、ブロック用ウォータジャケットBWJを成型するための鋳型を抜く方向は、
図9の上方向である。
【0061】
そして、シリンダブロック6を鋳造成型した後、
図7および
図13に示すように、エンドミルEMなどによって連結壁部64,65の上方部分を削り取る機械加工を行う。当該機械加工は、ブロック用ウォータジャケットBWJの幅寸法とほぼ同じ直径を有するエンドミルEMを用いて行う。
【0062】
具体的には、
図13に示すように、エンドミルEMを連結壁部64,65の上方側から下降させて連結壁部64,65に当接させ、当接した状態から所定距離だけエンドミルEMを鉛直下方向に下降させることにより連結壁部64,65の上方部分を削り取る。なお、エンドミルEMの鉛直下方向への移動は、本実施形態では、シリンダボア66aの全長Lbの20%〜50%の範囲内で行われる。
【0063】
そして、エンドミルEMを鉛直下方向へ所定距離だけ下降させた状態のままシリンダボア66aの配列方向に直線的に所定距離だけエンドミルEMを移動させ、その後、エンドミルEMを鉛直上方向に上昇させることにより、機械加工が完了する。
【0064】
こうした機械加工によって、ブロック用ウォータジャケットBWJのうち連結壁部64,65が設けられた部分に、
図7に示すように、平坦面32からなる平坦部30が構成される。なお、エンドミルEMによるシリンダボア66aの配列方向への直線的な移動は、本実施形態では、シリンダボア66aの中心を角の頂点とする中心角(平坦部30の端部のうちブロック用ウォータジャケットBWJの周方向と交差する両端部と、シリンダボア66aの中心と、により構成される中心角)が25°ないし35°望ましくは30°の範囲内で行われる。
【0065】
即ち、エンドミルEMによる連結壁部64,65の加工開始位置におけるエンドミルEMの中心と、シリンダボア66aの中心と、エンドミルEMによる連結壁部64,65の加工終了位置におけるエンドミルEMの中心とを結ぶことにより構成される角度が25°ないし35°望ましくは30°の範囲内となっている。
【0066】
こうして、ブロック用ウォータジャケットBWJのうち連結壁部64,65が設けられた部分に、ブロック用ウォータジャケットBWJとほぼ同じ幅およびシリンダボア66aの全長Lbの20%〜50%の深さを有する平坦部30が設けられたシリンダブロック6が製造される。
【0067】
続いて、こうして構成された内燃機関1の動作に伴って駆動されるウォータポンプ16によって吐出され、ブロック用ウォータジャケットBWJに供給された冷却水の流れについて説明する。ウォータポンプ16によって吐出された冷却水は、最も前壁部62a寄りのシリンダボア壁部66を囲うブロック用ウォータジャケットBWJの側壁部62c側からブロック用ウォータジャケットBWJ内に導入され、最も後壁部62b寄りのシリンダボア壁部66を囲うブロック用ウォータジャケットBWJに向けてブロック用ウォータジャケットBWJの両側部BWJL,BWJRを流れる。
【0068】
ここで、ブロック用ウォータジャケットBWJの下方部においては、
図14の太破線矢印によって示すように、連結壁部64,65によって冷却水の流れが阻害されるため、冷却水による過冷却が抑制される。一方、ブロック用ウォータジャケットBWJの上方部においては、
図14の太実線矢印によって示すように、連結壁部64,65によって冷却水の流れが阻害されることがないため、冷却水による良好な冷却効果を得ることができる。
【0069】
なお、平坦部30が、ブロック用ウォータジャケットBWJの幅寸法とほぼ同じ直径を有するエンドミルEMを用いてブロック用ウォータジャケットBWJとほぼ同じ幅に形成されると共に、シリンダボア66aの中心を角の頂点とする中心角(平坦部30の端部のうちブロック用ウォータジャケットBWJの周方向と交差する両端部と、シリンダボア66aの中心と、により構成される中心角)が25°ないし35°望ましくは30°の範囲内に形成される構成であるため、平面視でブロック用ウォータジャケットBWJを流れる冷却水の抵抗となるような段差を生じることがない。これにより、冷却性の低下を招くことがない。
【0070】
また、平坦部30がシリンダボア66aの全長Lbの20%〜50%の深さに形成される構成であるため、シリンダボア66aのうちピストンが摺動する部分に対応するシリンダボア壁部66を効果的に冷却しながら、当該部分以外の冷却を抑制して熱損失を防止することができる。
【0071】
本実施の形態では、連結壁部64および連結壁部65をシリンダボア壁部66を挟んで互いに対向する位置に設ける構成としたが、連結壁部64および連結壁部65は対向していなくても良い。
【0072】
本実施の形態では、溶湯の主流方向(溶湯が湯口INP側(側壁部62c側)から側壁部62dに向かう方向であって、例えば、シリンダボア66aの配列方向と交差する方向およびシリンダボア66aの軸線方向を上方に向かう方向)に沿うように連結壁部64,65を配置する構成としたが、これに限らない。例えば、溶湯の支流方向(主流から分かれて鋳型空洞部の各部に向かって流れる方向であって、例えば、シリンダボア66aの配列方向)に沿うように連結壁部64,65を配置する構成でも良い。
【0073】
本実施の形態では、連結壁部64および連結壁部65をシリンダボア66aの配列方向に直交する方向にのみ設ける構成としたが、これに限らない。例えば、
図15に示すように、連結壁部64および連結壁部65をシリンダボア66aの配列方向にも設ける構成としても良い。
【0074】
本実施の形態では、鋳型には、側壁部62cが成型される側の面の下方部分に湯口INPを設置すると共に、側壁部62dが成型される側の面の上方部分にガス抜き口GOUTを設置する構成としたが、これに限らない。例えば、
図16に示すように、鋳型には、後壁部62bが成型される側の面の下方部分に湯口INPを設置すると共に、前壁部62aが成型される側の面の上方部分にガス抜き口GOUTを設置する構成としても良い。
【0075】
この場合、連結壁部64,65は、溶湯の流れの主流方向に沿うように、シリンダボア66aの配列方向に設置する構成が望ましい。具体的には、
図17に示すように、連結壁部64は、後壁部62bとシリンダボア壁部66のうち最も後壁部62b寄りに配置されたシリンダボア壁部66とを連結するように設けると共に、連結壁部65は、前壁部62aとシリンダボア壁部66のうち最も前壁部62a寄りに配置されたシリンダボア壁部66とを連結するように設ける構成とすれば良い。
【0076】
本実施の形態では、連結壁部64,65のうちシリンダブロック6の後壁部62bを向く壁面64b,65bに傾斜を設ける構成としたが、これに限らない。例えば、壁面64b,65bには傾斜を設けない構成としても良い。また、
図18に示すように、壁面64b,65bに加えて連結壁部64,65のうちシリンダブロック6の前壁部62aを向く壁面64a,65aにも傾斜を設ける構成としても良い。
【0077】
本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。