特許第6487785号(P6487785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6487785-ゴム補強充填用含水ケイ酸 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487785
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】ゴム補強充填用含水ケイ酸
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20190311BHJP
   C01B 33/193 20060101ALI20190311BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C01B33/193
   C08K3/36
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-118783(P2015-118783)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-2210(P2017-2210A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228903
【氏名又は名称】東ソー・シリカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】金満 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】米井 英伸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悠軌
(72)【発明者】
【氏名】古城 大祐
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−236208(JP,A)
【文献】 特開2013−224391(JP,A)
【文献】 特開2005−053728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L7/00−21/02
C08K3/00−13/08
C01B33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CTAB比表面積が160 m2/g以上であり、
窒素吸脱着法による細孔分布のピークが細孔半径10〜24nmの範囲にあり、かつ
細孔分布のピークの半値を示す細孔分布の細孔半径xをx1及びx2(x2>x1)としたときに、x1が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の55%以下であり、x2が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の190%以上であり、Al2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2をASR1とし、この含水ケイ酸を10%希塩酸に10質量%の濃度で30分間分散した後分離して、pHが6以上になるまで水洗して得られる含水ケイ酸のAl2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2量をASR2としたとき、0.20≦ASR1-ASR2≦0.60であ
ことを特徴とするゴム補強充填用含水ケイ酸。
【請求項2】
硫酸過多法により調製した含水ケイ酸である請求項1に記載のゴム補強充填用含水ケイ酸。
【請求項3】
シランカップリング剤を併用するジエン系ゴム組成物の補強充填用である請求項に記載のゴム補強充填用含水ケイ酸。
【請求項4】
水銀法圧入法による細孔分布においてピークが半径7〜12nmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のゴム補強充填用含水ケイ酸。
【請求項5】
(ア)SiO2濃度15〜25g/l、pH11〜12である80〜85℃に加熱したケイ酸アルカリ水溶液に、ケイ酸アルカリ水溶液と硫酸とを80〜85℃の温度で添加して、反応液のpHが10〜11の範囲になるようにケイ酸アルカリ水溶液と硫酸の添加量を制御しつつ中和反応を行い、SiO2濃度が60〜70g/lの範囲になるまで、前記添加を行い水溶液中にケイ酸を形成する工程、
を含む、CTAB比表面積が160 m2/g以上であり、
窒素吸脱着法による細孔分布のピークが細孔半径10〜24nmの範囲にあり、かつ
細孔分布のピークの半値を示す細孔分布の細孔半径xをx1及びx2(x2>x1)としたときに、x1が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の55%以下であり、x2が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の190%以上であり、Al2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2をASR1とし、この含水ケイ酸を10%希塩酸に10質量%の濃度で30分間分散した後分離して、pHが6以上になるまで水洗して得られる含水ケイ酸のAl2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2量をASR2としたとき、0.20≦ASR1-ASR2≦0.60である、
含水ケイ酸の製造方法。
【請求項6】
さらに以下の工程(イ)、(ウ)および(エ)を含む、請求項に記載の含水ケイ酸の製造方法。
(イ)前記ケイ酸アルカリ水溶液の添加を停止し、硫酸添加を継続して、反応液のpHが5以下となるまで添加して沈澱物を得る工程、
(ウ)得られた沈澱物を濾過、水洗してケークを得る工程、及び
(エ)得られたケークを乾燥、粉砕してケイ酸粉末を得る工程。
【請求項7】
CTAB比表面積が160 m2/g以上であり、
窒素吸脱着法による細孔分布のピークが細孔半径10〜24nmの範囲にあり、かつ
細孔分布のピークの半値を示す細孔分布の細孔半径xをx1及びx2(x2>x1)としたときに、x1が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の55%以下であり、x2が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の190%以上であり、Al2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2をASR1とし、この含水ケイ酸を10%希塩酸に10質量%の濃度で30分間分散した後分離して、pHが6以上になるまで水洗して得られる含水ケイ酸のAl2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2量をASR2としたとき、0.20≦ASR1-ASR2≦0.60である含水ケイ酸のゴム補強充填への使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強充填用含水ケイ酸に関する。本発明は、詳細には天然ゴム、合成ゴムのうちジエン系ゴムに配合した際に、ゴムの耐摩耗性を向上させたゴム補強用充填剤として有用であり、耐摩耗性が要求されるゴム製工業製品の補強用として有用な含水ケイ酸を提供する。
【背景技術】
【0002】
含水ケイ酸はホワイトカーボンの名で知られ、カーボンブラックと並んで古くからゴム補強充填剤として使用されてきた。含水ケイ酸は加硫ゴムの耐熱老化性、引裂抵抗性、耐屈曲亀裂性、接着性等に優れている。反面、高充填配合時に配合物の粘度が高く加工性が劣ること、並びに一般的なゴム特性の中で引張強度及び耐磨耗性がカーボンブラックに比べて劣っている。これらの欠点を解消するため、シランカップリング剤やその他の有機配合物の併用配合等が行われている。しかし、未だ満足のいくゴム物性を提供できる含水ケイ酸は得られておらず、ゴム配合処方の研究とともに、含水ケイ酸のさらなる改質が強く望まれている。
【0003】
有機ゴムの耐摩耗性を向上することができる含水ケイ酸は、例えば、特許文献1及び2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−302912号公報
【特許文献2】特開平11−236208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ゴム組成物が関連する市場、例えば、タイヤ市場においては、環境問題およびエネルギー問題に関連して、従来にも増して耐摩耗性が向上したゴム組成物が求められており、そのようなゴム組成物を提供できるゴム補強充填用含水ケイ酸が求められている。本発明の目的は、従来にも増して耐摩耗性が向上したゴム組成物を提供できるゴム補強充填用含水ケイ酸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、含水ケイ酸の細孔構造を制御し、ゴム分子を含水ケイ酸の細孔内部まで侵入しやすくするという観点から、鋭意検討を行った。加えて、含水ケイ酸の表面とゴム分子の化学結合をより強力にするという観点から鋭意検討を行った。含水ケイ酸の細孔構造を所定の構造にした含水ケイ酸が、これまでにない優れた耐摩耗性を有するゴム組成物を提供できることを見出して本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明者らは、CTAB比表面積160 m2/g以上である含水ケイ酸に、窒素吸脱着法による細孔分布のピークが細孔半径10〜24nmの範囲にあり、かつ細孔分布のピークの半値を示す細孔分布の細孔半径xをx1及びx2(x2>x1)としたときに、x1が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の55%以下であり、x2が前記細孔分布のピークにおける細孔半径の190%以上であることを特徴とする細孔分布を持たせることで、ゴムに対する補強性が増し、この含水ケイ酸を充填したゴムの耐摩耗性が向上する事を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴム補強充填用含水ケイ酸は、天然ゴム、合成ゴムのうちジエン系ゴムに配合した際に、ゴムの耐摩耗性を向上させることが出来るため、耐摩耗性に対する要求の高いタイヤやベルト等のゴム製工業製品の補強充填剤として有用に使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1および比較例1の含水ケイ酸の窒素吸脱着法による細孔分布測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ゴム補強充填用含水ケイ酸>
本発明のゴム補強充填用含水ケイ酸は、
(A)CTAB比表面積が160 m2/g以上であり、
(B)窒素吸脱着法による脱着分布において窒素細孔ピークが半径10〜24nmの範囲にあり、かつ
(C)細孔分布のピークの値の半値になる時のx(細孔半径)の値をx1、x2(x2>x1)とするときx1がピーク半径の55%以下であり、x2がピーク半径の190%以上であることを特徴とする。
【0011】
(A)本発明の含水ケイ酸は、CTAB比表面積が160 m2/g以上の範囲である。CTAB比表面積の測定は、ASTM D3765(CARBON BLACK-CTAB SURFACE AREA)に準拠して行い、CTAB分子の吸着断面積を35Å2として算出する。CTAB比表面積は、好ましくは200 m2/g以上の範囲である。CTAB比表面積が160 m2/g未満では、ゴム分子とシリカの相溶性が弱まり、ゴムに対して低い補強性しか提供できない。CTAB比表面積は高いほど、ゴムに対する補強性は増すが、380 m2/gを超えるCTAB比表面積を有する含水ケイ酸は、製造が困難であることから、CTAB比表面積の事実上の上限は380 m2/gである。
【0012】
(B)本発明の含水ケイ酸は、窒素吸脱着法による細孔分布のピークが細孔半径10〜24nmの範囲にある。上記細孔分布は、窒素吸脱着法による脱着分布において得られる細孔分布であり、測定方法は実施例に記載する。細孔分布のピークが細孔半径10〜24nmの範囲である。細孔分布のピークは、より好ましくは細孔半径12〜20nmの範囲である。細孔分布がピークを示す細孔半径が小さ過ぎると細孔内にゴム分子が入らず、所望の補強効果を得られにくい。また、細孔分布がピークを示す細孔半径が大き過ぎると細孔内でゴム分子を捕捉することができず、この場合も、所望の補強効果を得られにくい。
【0013】
(C)本発明の含水ケイ酸は、細孔分布のピークの半値を示す細孔分布の細孔半径xをx1及びx2(x2>x1)としたときに、x1が細孔分布のピークにおける細孔半径の55%以下であり、x2が細孔分布のピークにおける細孔半径の190%以上である。好ましくは、x1がピークにおける細孔半径の50%以下、x2がピークにおける細孔半径の200%以上の範囲である。x1の値が大き過ぎる場合やx2の値が小さ過ぎる場合には、細孔内部までゴム分子が侵入し難くなり、所望の補強効果を得られにくい。
【0014】
上記(A)を満足する本発明の含水ケイ酸は、ゴムとの相溶性が高く、かつ(B)及び(C)を満足する本発明の含水ケイ酸は、窒素吸脱着法による細孔分布が比較的ブロードであるが故にゴム分子が細孔内部まで侵入し易く、その結果、従来にない高い補強効果が得られ、本発明の含水ケイ酸を配合したゴム組成物は高い耐摩耗性を示すものと推察される。
【0015】
本発明の(A)、(B)及び(C)を満足する本発明の含水ケイ酸は、硫酸過多法により調製した含水ケイ酸である。硫酸過多法は、ケイ酸一次粒子の凝集を早く起こし、本発明の(A)、(B)及び(C)を満足する本発明の含水ケイ酸を調製するために、含水ケイ酸製造のための中和反応における初期のケイ酸ナトリウム濃度を通常の方法より高く設定している。これにより従来技術で提供される含水ケイ酸よりも密な凝集体とし、発達した細孔構造を形成させることにより、様々な半径の細孔が多数生成し、ブロードな細孔分布を有する本発明の含水ケイ酸を製造できる。さらに、新たな核生成の機会を増やすことで、本発明の(A)、(B)及び(C)を満足する本発明の含水ケイ酸を調製するために、中和反応中の硫酸滴下量を通常の方法より過剰量で滴下している。これにより従来技術で提供される含水ケイ酸よりも、不均一な粒子径のシリカを多数生成し、ブロードな細孔分布を有する本発明の含水ケイ酸を製造できる。
【0016】
含水ケイ酸の湿式製造方法は、一般に、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液と鉱酸とを反応させることにより行われることは知られている。本発明の含水ケイ酸の製造方法も基本的にはこの方法に基づく。但し、上記のように硫酸過多法により、ブロードな細孔分布を有する本発明の含水ケイ酸を得る。硫酸過多法は以下に示す工程(ア)を含む、含水ケイ酸の製造方法であり、工程(イ)〜(エ)をさらに含むことができる。
(ア)SiO2濃度15〜25g/l、pH11〜12である80〜85℃に加熱したケイ酸アルカリ水溶液に、ケイ酸アルカリ水溶液と硫酸とを80〜85℃の温度で添加して、反応液のpHが10〜11の範囲になるようにケイ酸アルカリ水溶液と硫酸の添加量(比率)を制御しつつ中和反応を行い、SiO2濃度が60〜70g/lの範囲になるまで、前記添加を行い水溶液中にケイ酸を形成する工程、
(イ)前記ケイ酸アルカリ水溶液の添加を停止し、硫酸添加を継続して、反応液のpHが5以下となるまで添加して沈澱物を得る工程、
(ウ)得られた沈澱物を濾過、水洗してケークを得る工程、及び
(エ)得られたケークを乾燥、粉砕してケイ酸粉末を得る工程。
【0017】
工程(ア)では、反応槽に予めSiO2濃度15〜25g/l、pH11〜12のケイ酸アルカリ水溶液を充填し、これを80〜85℃に加熱した後、ケイ酸アルカリ水溶液と硫酸とを添加することで、ケイ酸アルカリの中和反応を進行させる。ケイ酸アルカリ水溶液および硫酸の添加時の温度は、80〜85℃の範囲とする。この中和反応は、反応液のpHを10〜11の範囲、好ましくは10.2〜10.8の範囲に維持し、かつSiO2濃度が60〜70g/lの範囲になるまで行い水溶液中にケイ酸を形成させる。上記反応槽に予め反応槽に充填するケイ酸アルカリ水溶液のSiO2濃度およびpH並びに温度、ケイ酸アルカリ水溶液および硫酸の添加時の温度およびpH、さらには中和反応の終了時のSiO2濃度を、上記範囲にすることで、所望の物性を有する本発明の含水ケイ酸を得ることができる。上記反応に用いる、ケイ酸アルカリ水溶液は特に限定しないが、例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液を用いることができる。工程(ア)においては、反応槽に予め充填するケイ酸アルカリ水溶液のSiO2濃度15〜25g/lとし、かつ中和反応における反応液のpHを10〜11の範囲に維持することで、本発明の(A)〜(C)を満足する含水ケイ酸を得ることができる。
【0018】
工程(イ)では、前記ケイ酸アルカリ水溶液の添加を停止し、硫酸添加を継続して、反応液のpHが5以下、好ましくは3以下となるまで添加して沈澱物を得る。中和反応の途中段階で反応溶液は白濁が進み粘度が急激に上昇するゲル化現象が起こる。反応液の固体濃度が所定の値になったところで、pHを5以下になるように硫酸を添加して反応を停止させる。
【0019】
工程(ウ)では、得られた沈澱物を濾過、水洗してケークを得、次いで、工程(エ)において、得られたケークを乾燥、粉砕してケイ酸粉末を得る。工程(ウ)および(エ)では、得られた沈澱物を濾過、水洗、乾燥させ、場合により粉砕又は顆粒状にすることにより、本発明の沈澱ケイ酸は得られる。具体的には、得られた沈澱物をフィルタープレス等で濾過し、例えば、pH5.5〜7.5、電気伝導度が200μs/cm以下になるまで水洗することで含水ケイ酸ケーキを得る。得られた湿潤ケーキを乾燥した後必要に応じて粉砕分級あるいは顆粒化を行って本発明の含水ケイ酸を得ることができる。
【0020】
<好ましい態様1>
本発明の含水ケイ酸は、前記のように(A)、(B)及び(C)を満足する含水ケイ酸であることに加えて、上記Al2O3とSiO2の質量比に関して以下の条件を満足するものであることが有機ゴム分子とケイ酸表面とをシランカップリング剤を介して化学的に結合させることで、補強性が増し、耐摩耗性が向上することができるという観点から好ましい。
Al2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2をASR1とし、この含水ケイ酸を10%希塩酸に10質量%の濃度で30分間分散した後分離して、pHが6以上になるまで水洗して得られる含水ケイ酸のAl2O3とSiO2の質量比Al2O3/SiO2量をASR2としたとき、0.200≦ASR1-ASR2≦0.600である。
【0021】
有機ゴム分子と含水ケイ酸表面の化学結合には触媒の存在が不可欠であり、その触媒として、化学的に結合していないアルミ(以下、表面アルミニウムと呼ぶ)の存在が不可欠であることが本発明者らの検討結果から判明した。この表面アルミニウムの含有量は、0.200%以上、0.600%以下の範囲であることが好ましく、特にシランカップリング剤を使うゴム組成物の配合において充分な効果を発揮する。表面アルミニウムは、10%希塩酸水洗によって簡単に除去できるアルミニウムであり、その含有量は以下の方法に従って測定する。
【0022】
含水ケイ酸の外部に担持されたAl2O3(アルミはAl2O3の形態で担持されていると考えられる)の持つ正の電荷を帯びた酸点が触媒として働き、含水ケイ酸とシランカップリング剤の反応を促進することで、含水ケイ酸とゴムの結合をより強固にし、耐摩耗性を向上させていると考えられる。
0.200≦ASR1-ASR2≦0.600の場合には、含水ケイ酸の外部に担持されたAl2O3の量が充分であり、含水ケイ酸を配合したゴム組成物の耐摩耗性が向上する。それに対してASR1-ASR2<0.200の場合には、含水ケイ酸の外部に担持されたAl2O3の量が充分でなく、耐摩耗性の向上は、0.200≦ASR1-ASR2の場合に比べて小さい。0.600<ASR1-ASR2の場合には、含水ケイ酸の外部に担持されたAl2O3の量が過剰であり、そのため含水ケイ酸とシランカップリング剤の結合点が減少する傾向があり、ゴム中での含水ケイ酸の分散性が悪化し、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0023】
本発明の含水ケイ酸は、種々のゴム組成物の補強充填用として応用でき、ゴム組成物の用途は、タイヤのみではなく、ベルト等の工業用部品も含む。
【0024】
本発明の含水ケイ酸を用いる(配合する)ことができるゴム組成物は特に制限はないが、ゴムとしては、天然ゴム(NR)又はジエン系合成ゴムを単独又はこれらをブレンドして含むゴム組成物であることができる。合成ゴムとしては、例えば、合成ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)やスチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。本発明の含水ケイ酸は、特に、ジエン系合成ゴムを含有するゴム組成物において、耐摩耗性向上効果が顕著である。従って、ゴム成分の50質量%以上がジエン系合成ゴムであるゴム組成物における耐摩耗性向上効果が顕著であり、ゴム成分の70質量%以上がジエン系合成ゴムであることが好ましい。本発明の含水ケイ酸は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム100質量部に対して、例えば、5〜100質量部を配合できる。但し、この範囲に限定する意図ではない。
【0025】
上記ゴム組成物は、シランカップリング剤を添加したものであることができる。シランカップリング剤は、ゴム組成物に用いられているものを例示でき、例えば、下記式(I)〜式(III)に示される少なくとも一つが挙げられる。
【化1】
(式中、Xは炭素数1〜3のアルキル基又は塩素原子、nは1〜3の整数、mは1〜3の整数、pは1〜9の整数を表し、qは1以上の整数で分布を有する場合もある)
【化2】
(式中、Xは炭素数1〜3のアルキル基又は塩素原子、Yはメルカプト基、ビニル基、アミノ基、イミド基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基またはエポキシ基、nは1〜3の整数、mは1〜3の整数、pは1〜9の整数を表す。)
【化3】
(式中、Xは炭素数1〜3のアルキル基又は塩素原子、Zはベンゾチアゾリル基、N,N−ジメチルチオカルバモイル基またはメタクリレート基、nは1〜3の整数、mは1〜3の整数、pは1〜9の整数を表し、qは1以上の整数で分布を有する場合もある。)
【0026】
具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N、N−ジメチルカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、等が挙げられる。シランカップリング剤の配合量は、含水ケイ酸の質量に対し1〜20質量%、好ましくは2〜15質量%である。但し、この範囲に限定する意図ではない。
【0027】
本発明の含水ケイ酸をゴム組成物に用いる場合には、上記のゴムおよびシランカップリング剤以外に、必要に応じて、カーボンブラック、軟化剤(ワックス、オイル)、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の通常ゴム工業で使用される配合剤を適宜配合することができる。ゴム組成物は、上記ゴム成分、含水ケイ酸、シランカップリング剤、上記必要に応じて配合する上記カーボンブラック、ゴム配合剤等をバンバリーミキサーなどの混練機で調製することができる。
【0028】
本発明の含水ケイ酸を配合したゴム組成物は、タイヤ、コンベアベルト、ホースなどのゴム製品に好適に適用できるものであり、製品となったタイヤ、コンベアベルト、ホースなどのゴム製品は補強性、高耐磨耗性等に優れたものとなる。また、本発明の含水ケイ酸を配合したゴム組成物を用いた空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をタイヤトレッド部に使用したものであることができ、タイヤトレッド部の補強性、高耐磨耗性に優れた空気入りタイヤが得られる。
【実施例】
【0029】
以下本発明を具体的に説明するために実施例および比較例を挙げて説明するが、もちろんこれらに限定されるものではない。なお、含水ケイ酸の各物性値の測定はJIS K−5101(顔料試験法)に基づき、次に示す方法により実施した。
【0030】
●含水ケイ酸原粉中のAl2O3の測定
粉体試料を酸溶液に溶解したのち、ICP発光分析装置(型式:SPS3100;エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いてAl2O3量の定量分析を行った。
【0031】
●含水ケイ酸原粉中のSiO2量の測定
医薬部外品原料規格2006の無水ケイ酸定量法によってSiO2量の定量分析を行った。10%希塩酸は、医薬部外品原料規格2006に基づき調製した。また、測定サンプルのうち、ASR2は10gの非晶質含水ケイ酸を100mlの10%希塩酸中で30分攪拌後、ヌッチェ及び5A濾紙を用いて真空濾過し、pHが6以上になるまで水洗した後にろ別した含水ケイ酸を105℃、2時間以上充分乾燥したものを使用した。なお、pHは市販のガラス電極pHメーター(型式:D-14 (株)堀場製作所製)で測定した。
【0032】
●CTAB法比表面積
ASTM D3765(CARBON BLACK-CTAB SURFACE AREA)に準拠して測定を行った。但し、CTAB分子の吸着断面積を35Å2として算出した。
【0033】
●BET比表面積(N2法比表面積)
全自動比表面積測定装置(型式:Macsorb(R) HM model-1201;(株)マウンテック社製)を用いて1点法により測定した。
【0034】
●窒素吸脱着法による細孔分布
高精度ガス/蒸気吸着量測定装置(型式:Belsorp max;(株)日本ベル社製)を用いてBarret-Joyner-Halenda法により測定した。
【0035】
●水銀圧入法による細孔分布
水銀ポロシメーター(型式:PASCAL 440;ThermoQuest社製)を用いて水銀細孔を測定した。
【0036】
●配合物調製法
容量1.7リットルのバンバリーミキサーにて、JSR SL552(溶液重合スチレンブタジエンゴム)を80部とIR2200(ポリイソプレンゴム)を20部とを、30秒間素練り後、ステアリン酸を2部、含水ケイ酸を45部、シランKBE846(ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)を1.8〜10.8部の範囲(詳細は表1〜表3に記載)で投入し、全練り時間5分後取り出した。取り出し時のコンパウンド温度を140〜150℃にラム圧や回転数で調整を行い、コンパウンドを室温にて冷却後、更に老化防止剤ノクラック810NA(N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン)を1部、亜鉛華を3部、加硫促進剤ノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン)を1.5部、同ノクセラーCZ-G(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)を1.2部、硫黄(200メッシュ)を1.5部添加して約1分間混練り(取り出し時の温度を100℃以下とする)し、後8インチロールにてシーティングして未加硫物及び加硫物特性を測定した。
【0037】
●ムーニー粘度
ムーニー粘度計VR−1132型(上島製作所製)を用いて、125℃、L型ローターにて測定。
●キュラストタイム
JSR型キュラストメーターIIF型により、最適加硫時間(T90)を測定した。
●加硫物特性(TB, M300, EB, Hs)
JIS の試験法に準じ測定を行った。
【0038】
●摩耗試験
アクロン型摩耗試験機で測定。傾角;15°、荷重;6ポンド試験回数;1000回転での摩耗減容を測定した。測定結果は比較例1を100とした場合の指数で求めた。指数が高い程耐摩耗性が良いことを示し、指数が110以上の場合を、耐摩耗性が10%以上向上したものとみなし○とした。
【0039】
(実施例1)
ケイ酸一次粒子の凝集を早く起こすことを目的として、初期ケイ酸ナトリウム濃度を高くする反応を行った。これにより後述する比較例1よりも密な凝集体とし、発達した細孔構造を形成させることにより、様々な半径の細孔が多数生成し、ブロードな細孔分布を有する含水ケイ酸を製造できる。具体的には、撹拌機を備えた240リットルのジャケット付きステンレス容器に、水を80リットル及びケイ酸ナトリウム水溶液を通常より多い14リットル(SiO2150g/l、SiO2/Na2O質量比3.3)を投入し、加熱して温度82℃とした。この時のSiO2濃度は22g/l、pHは11.5になった。
【0040】
硫酸過多による中和反応を行うことにより、不均一な粒子径のケイ酸を形成することで、ブロードな細孔分布を有する含水ケイ酸が生成される反応を行った。具体的には、本水溶液に、上記同様のケイ酸ナトリウム水溶液と硫酸(18.4mol/l)とを、温度82±1℃を維持しながら100分間で、SiO2濃度が65g/l、pHが10.9となるように添加して、100分でケイ酸ナトリウム水溶液のみを停止した。尚、上記反応液(反応開始前のpHは11.5)におけるpHが10.9になるようにケイ酸ナトリウム水溶液に対する硫酸の添加量が過剰になるように硫酸添加を行った。
【0041】
所定の中和反応終了後は同様の硫酸をpH3となるまで添加して沈澱物を得た。その後得られた反応物を濾過、水洗してケークを得た。得られたケークを乳化し、この乳化液を乾燥して含水ケイ酸を製造し、評価を行った。窒素吸脱着法による細孔分布の測定結果を図1に示す。
【0042】
(実施例2)
得られたケークを乳化し、この乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.30%分追加投入した以外は、実施例1と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0043】
(実施例3)
得られたケークを乳化し、この乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.50%分追加投入した以外は、実施例1と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0044】
(実施例4)
得られたケークを乳化し、この乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.70%分追加投入する以外は、実施例1と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、ブロードな細孔分布を有する(請求項1の条件を全て満たす)実施例1,2,3,4は、後述する比較例1に対し耐摩耗性向上効果が認められた。とりわけこれらの実施例1,2,3,4の中でも、乳化液にアルミン酸ソーダを適切な量添加し、ASR1‐ASR2が0.2〜0.6の範囲内にある実施例2と3は、特に高い耐摩耗性向上効果が認められた。
【0047】
(実施例5)
撹拌機を備えた240リットルのジャケット付きステンレス容器に、水を80リットル及びケイ酸ナトリウム水溶液3.5リットル(SiO2150g/l、SiO2/Na2O質量比3.3)を投入し、加熱して温度72℃とした。この時のSiO2濃度は6.0g/l、pHは10.9になった。本水溶液に、上記同様のケイ酸ナトリウム水溶液と硫酸(18.4mol/l)とを、温度72±1℃、pH10.9を維持しながら100分間で、SiO2濃度が65g/lとなるように添加して、100分でケイ酸ナトリウム水溶液のみを停止した。比較例1の場合に比べて反応温度を低くすることで、ケイ酸一次粒子の成長速度を抑制し、一次粒子が微粒子の段階で凝集を起こさせている。これにより比較例1よりも密な凝集体とし、発達した細孔構造を形成させることにより、様々な半径の細孔が多数生成し、ブロードな細孔分布を有する含水ケイ酸を製造した。
【0048】
所定の中和反応終了後は同様の硫酸をpH3となるまで添加して沈澱物を得た。その後得られた反応物を濾過、水洗してケークを得た。得られたケークを乳化し、この乳化液を乾燥して含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0049】
(実施例6)
得られたケークを乳化し、この乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.30%分追加投入した以外は、実施例5と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0050】
(実施例7)
ケイ酸ナトリウム水溶液と硫酸(18.4mol/l)の同時滴下が終了した直後に、アルミン酸ソーダを、反応液中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.40%分追加投入した以外は、実施例5と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0051】
(実施例8)
得られたケークを乳化し、乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.50%分追加投入した以外は、実施例5と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0052】
(実施例9)
得られたケークを乳化し、乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.70%分追加投入した以外は、実施例5と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、ブロードな細孔分布を有する(請求項1の条件を全て満たす)実施例5,6,7,8,9は、後述する比較例1に対し耐摩耗性向上効果が認められた。とりわけこれらの実施例5,6,7,8,9の中でも、乳化液または反応液にアルミン酸ソーダを適切な量添加しASR1‐ASR2が0.2〜0.6の範囲内にある実施例6,7,8は、特に高い耐摩耗性向上効果が認められた。
【0055】
(比較例1)
撹拌機を備えた240リットルのジャケット付きステンレス容器に、水を85リットル及びケイ酸ナトリウム水溶液6.0リットル(SiO2150g/l、SiO2/Na2O質量比3.3)を投入し、加熱して温度90℃とした。この時のpHは11.2、SiO2濃度は10.0g/lであった。本水溶液に、上記同様のケイ酸ナトリウム水溶液と硫酸(18.4mol/l)とを、温度90±1℃、pH11.2を維持しながら100分間で、SiO2濃度が60g/lとなるように添加して、100分でケイ酸ナトリウム水溶液のみを停止した。続けて同様の硫酸をpH3となるまで添加して沈澱物を得た。その後得られた反応物を濾過、水洗してケークを得た。
【0056】
得られたケークを乳化(強い攪拌によりケークを水中に分散させ液状とする)し、この乳化液を乾燥してゴム用の基準となる含水ケイ酸を製造し、評価を行った。窒素吸脱着法による細孔分布の測定結果を図1に示す。
【0057】
尚、比較例1の含水ケイ酸は、従来よりゴム用含水ケイ酸の基準反応として広く利用されているものである。この含水ケイ酸の摩耗指数を100として、実施例1〜9、比較例2〜4の摩耗指数を求めた。
【0058】
(比較例2)
得られたケークを乳化し、乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.30%分追加投入した以外は、比較例1と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0059】
(比較例3)
得られたケークを乳化し、乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.50%分追加投入した以外は、比較例1と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0060】
(比較例4)
得られたケークを乳化し、乳化液にアルミン酸ソーダを、ケーク中のケイ酸量に対し、Al23/SiO2質量比で0.70%分追加投入した以外は、比較例1と同様な方法で含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
【0061】
請求項1の条件を前述のように(A)(B)(C)に分け、請求項3は条件(D)として、比較例1〜4がどの条件を満たすかを表3に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示すように、比較例1〜4は、ブロードな細孔分布を有する実施例1〜9に比べて耐摩耗性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、含水ケイ酸、特にゴム組成物の補強充填用に適した含水ケイ酸が関連する分野に有用である。
図1