(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0014】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る緩衝器Aは、自動二輪車である車両Vの車体Bと後輪Wとの間に介装される。そして、緩衝器Aは、
図2に示すように、緩衝器本体1と、この緩衝器本体1の外周に設けた懸架ばね2と、この懸架ばね2の
図2中下端を支持するばね受20と、懸架ばね2の
図2中上端を支持するばね受21と、このばね受21の位置を調整するジャッキ3と、ばね受21とジャッキ3との間に介在させた補助ばね22とを備える。
【0015】
緩衝器本体1は、筒状のアウターシェル10と、このアウターシェル10内に移動可能に挿入されるロッド11とを備え、アウターシェル10とロッド11の軸方向の相対移動を抑制する減衰力を発揮する。アウターシェル10とロッド11には、それぞれブラケット12,13が固定されており、アウターシェル10側のブラケット12が車体Bに連結されるとともに、ロッド11側のブラケット13が後輪Wを支えるスイングアームb1(
図1)に図示しないリンクを介して連結される。よって、路面凹凸による衝撃が後輪Wに入力されると、ロッド11がアウターシェル10に出入りして緩衝器本体1が伸縮し、減衰力を発揮する。そして、緩衝器本体1とともに懸架ばね2が伸縮する結果、緩衝器Aが伸縮する。
【0016】
懸架ばね2は、線材をコイル状に巻き回して形成されたコイルばねであり、圧縮されると当該圧縮に抗する弾性力を発揮する。懸架ばね2の
図2中下端を支持するばね受20は、環状に形成されてロッド11の外周に設けられ、ロッド11に対する
図2中下方への移動を
図2中下側のブラケット13で規制される。また、懸架ばね2の
図2中上端を支持するばね受21は、環状に形成されて、ジャッキ3の後述するピストン34の外周に設けられ、このピストン34により補助ばね22を介して支えられる。
【0017】
ジャッキ3は、アウターシェル10の外周に設けられて上記ピストン34を有するジャッキ本体30と、このジャッキ本体30に作動油を供給するポンプ31と、このポンプ31を駆動するモータ32とを備える。ポンプ31及びモータ32は、如何なる構成であってもよく、周知の構成を採用できるので、ここでの詳細な説明を省略する。なお、ポンプ31がギヤポンプである場合には、ポンプ31が安価であるとともに、耐久性に優れ、ジャッキ本体30へ作動油を素早く供給できる。
【0018】
また、アウターシェル10の
図2中上端部外周には、外側に突出するフランジ14が固定され、アウターシェル10のフランジ14よりも
図2中下側の外周が筒状のガイド15で覆われている。ガイド15には、軸方向の両端部に周方向に沿う環状溝(符示せず)が形成されるとともに、各環状溝にスナップリング16,17が嵌る。そして、ガイド15の外周にジャッキ本体30が取り付けられて、両スナップリング16,17により抜け止めされている。
【0019】
ジャッキ本体30は、ガイド15の外周に設けられる環状のベース33と、このベース33の外周に摺動自在に装着される有頂筒状のピストン34とを備える。ベース33は、外径の小さい
図2中下側の小径部33aと、この小径部33aの
図2中上側に連なり、外径が小径部33aの外径よりも大きい大径部33bとを有する。そして、小径部33aと大径部33bの境界部分に環状の段差33cが設けられている。他方のピストン34は、ガイド15の外周に摺接する環状の頂部34aと、この頂部34aの外周部から
図2中上方へ延びて小径部33aの外周に摺接する筒部34bと、筒部34bの
図2中上端部から外側に突出する環状の支持部34cとを有する。
【0020】
ベース33とガイド15との間、ピストン34の頂部34aとガイド15との間、及びピストン34の筒部34bとベース33の小径部33aとの間は、それぞれ環状のOリング(符示せず)で塞がれている。そして、頂部34a、筒部34b、小径部33a、及びガイド15で囲われる空間が環状の液室Lとなっており、作動油が充填される。
【0021】
上記液室Lはホース等を介してポンプ31に接続されており、ポンプ31で液室Lに作動油を供給すると、ピストン34が
図2中下方へ前進して液室Lが拡大する。反対に、ポンプ31で液室Lから作動油を排出させると、ピストン34が
図2中上方へ後退して液室Lが縮小する。
【0022】
上記ピストン34の外周には、懸架ばね2の
図2中上端を支えるばね受21と補助ばね22が軸方向に並べて設けられる。ばね受21は、ピストン34の支持部34cよりも
図2中下側の外周に摺接し、緩衝器本体1の軸方向に移動自在となっている。また、補助ばね22は、線材をコイル状に巻き回して形成されたコイルばねであり、圧縮されると当該圧縮に抗する弾性力を発揮する。そして、この補助ばね22の内側にピストン34の筒部34bが挿通されるとともに、補助ばね22の
図2中下端がばね受21で支えられ、
図2中上端がピストン34の支持部34cで支えられている。
【0023】
つまり、上記緩衝器Aでは、ばね受21を介して補助ばね22が懸架ばね2と直列に接続される。このように直列に接続された懸架ばね2、ばね受21及び補助ばね22を合わせた構成をばね部材Sとすると、このばね部材Sの弾性力がピストン34に作用し、ジャッキ本体30が上記弾性力でフランジ14に押し付けられる。また、ジャッキ本体30のベース33は、
図2中上側のスナップリング17でガイド15に対して抜け止めされており、ジャッキ本体30を上記弾性力でフランジ14に押し付けると、ガイド15のアウターシェル10に対する軸方向の移動がスナップリング17とフランジ14で規制される。また、ばね部材Sの弾性力は
図2中下側のばね受20にも作用し、このばね受20が上記弾性力でブラケット13に押し付けられる。よって、緩衝器本体1が伸縮するとばね部材Sが伸縮し、当該ばね部材Sで車体Bを弾性支持する。
【0024】
図2は、緩衝器Aに負荷がかからない無負荷状態において緩衝器Aが自然長となり、緩衝器本体1が伸び切った状態を示している。そして、
図2中中心線の右側にピストン34を最大限前進させた状態を示し、左側にピストン34を最大限後退させた状態を示している。
【0025】
図2中右側に示すように、無負荷状態においてピストン34を最大限前進させた状態では、補助ばね22が懸架ばね2を一定量撓ませて初期撓みを与え、懸架ばね2に所定のイニシャル荷重をかける。最大限前進した状態においてもピストン34は、緩衝器Aの組立状態では
図2中下側のスナップリング16に干渉しないようになっている。このようにスナップリング16を設けると、緩衝器Aの組立工程の途中で、ピストン34がガイド15から抜け出るのを防止できるので、緩衝器Aの組立作業を容易にできる。また、緩衝器Aの組立が完了した後では、スナップリング16がピストン34に干渉せず、当該ピストン34の移動の妨げにならない。
【0026】
また、
図2中左側に示すように、無負荷状態においてピストン34を最大限後退させた状態では、ピストン34がベース33の段差33cに当接し、懸架ばね2と補助ばね22が自然長(自由高さ)に近くなる。ピストン34の基部34aの
図2中上端部には、外周側に環状の凹み34dが設けられており(
図4)、当該凹み34dが液室Lとホースとをつなぐ流路の開口に対向する。よって、最後退時にピストン34の頂部34aをベース33の小径部33aの先端に突き当てても作動油の圧力を受けるピストン34の受圧面積が大きくなる。なお、上記凹み34dを小径部33a側に設けてもよい。
【0027】
つづいて、上記補助ばね22の自然長は、ピストン34のストローク長(ピストン34が最大限前進した状態から最大限後退した状態になるまでに移動した距離)から、懸架ばね2の初期撓み(圧縮長)を引いた長さ以上である。
【0028】
ここで、例えば、緩衝器Aにおいて、ピストン34を最大限前進させた状態で、懸架ばね2に初期撓みX(mm)を与えるイニシャル荷重を懸架ばね2にかけた状態を最適とし、ピストン34のストローク長をY(mm)とする。そして、補助ばね22がない場合を考えると、ピストン34のストローク長Yが懸架ばね2の初期撓みXを超えない範囲であれば、無負荷状態でピストン34を最大限後退させても懸架ばね2が遊んだ状態にならない。
【0029】
しかし、補助ばね22がない状態で、懸架ばね2の長手寸法を変えずにピストン34のストローク長Yを増やして車高調整量を増やした場合、上記ストローク長Yが初期撓みXを超えると、懸架ばね2が遊んだ状態になることがある。なぜなら、無負荷状態でピストン34を最大限後退させると、懸架ばねがX(mm)伸びて自然長になった後、更にピストン34がY−X(mm)後退するので、この余剰後退(Y−X)分、懸架ばね2が軸方向に動けるためである。
【0030】
これに対して、上記緩衝器Aは補助ばね22を備え、この補助ばね22の自然長がピストン34のストローク長Yから初期撓みXを引いた長さ、即ち(Y−X)よりも長い。よって、懸架ばね2の長手寸法を変えずに車高調整量を増やしたとしても、上記補助ばね22は、懸架ばね2が軸方向に動ける分(余剰後退分)の隙間を埋めて、懸架ばね2が遊んだ状態になるのを防止する。
【0031】
さらに、上記補助ばね22のばね定数は、懸架ばね2のばね定数よりも格段に小さい。具体的には、水平な地面上で停車(静止)した車両Vの車重が取付状態の緩衝器Aにかかる状態、即ち、1G状態で、補助ばね22が最大限に圧縮されて密着高さになる。
図3は、1G状態の緩衝器Aを示しており、
図3中中心線の右側にピストン34を最大限前進させた状態を示し、
図3中中心線の左側にピストン34を最大限後退させた状態を示している。
【0032】
上記補助ばね22に対して懸架ばね2は、緩衝器Aが最収縮した状態であっても密着高さにはならない。つまり、1G状態では、前述のように補助ばね22が密着高さになるので、ばね部材Sのばね定数は、懸架ばね2のばね定数となり、実質的に車体Bを懸架ばね2のみで支えた状態となる。
【0033】
以下、本実施の形態の緩衝器Aの作動について説明する。
【0034】
車両Vが走行を開始すると、ポンプ31で液室Lに作動油を供給してピストン34を前進させる。すると、当該ピストン34、ばね部材S、
図3中下側のばね受20及びブラケット13がアウターシェル10に対して
図3中下方へ移動するので、ロッド11がアウターシェル10から退出して緩衝器Aが伸長するとともに、車高が上がる。
【0035】
反対に、車両Vを停車させるため速度を落とすると、ポンプ31で液室Lから作動油を排出させてピストン34を後退させる。すると、当該ピストン34、ばね部材S、
図3中下側のばね受20及びブラケット13がアウターシェル10に対して
図3中上方へ移動するので、ロッド11がアウターシェル10に進入して緩衝器Aが収縮するとともに、車高が下がる。
【0036】
また、車重、搭乗者の体重、積荷の重量等が緩衝器Aにかかる通常の車両走行時には、補助ばね22が最圧縮されて密着高さになる。よって、通常の車両走行時には、ばね部材Sが懸架ばね2のみからなるように振る舞う。しかし、段差を乗り越える場合など、緩衝器Aが伸び切るような場合には、ピストン34が最後退した状態であっても、補助ばね22が伸長して懸架ばね2が遊ぶのを防止する。さらに、車両Vの停車時にも車重等が緩衝器Aにかかるので、補助ばね22は密着高さのまま維持される。
【0037】
以下、本実施の形態に係る緩衝器Aの作用効果について説明する。
【0038】
本実施の形態において、停車した車両Vへの取付状態では、補助ばね22が密着高さになる。よって、補助ばね22を備える緩衝器Aと、補助ばね無しの緩衝器とで、長手寸法の同じ懸架ばね2を利用できるとともに、補助ばね22を設けたとしても、車両走行時における緩衝器Aのばね特性を補助ばね無しの緩衝器のばね特性と近似させられる。
【0039】
なお、上記効果を得るため、停車した車両Vへの取付状態で、ばね受21が補助ばね22を圧縮する方向へ移動するのを規制するストッパを設けてもよい。例えば、
図5に示す形態では、ピストン34の外周に上記ストッパとして機能する段差34eを設け、補助ばね22が密着高さになる前にばね受21が段差34eに突き当たる。この場合、補助ばね22が密着高さにならないので、当該補助ばね22を構成するコイル同士が擦れて塗装が剥がれる等、補助ばね22に外観不良が生じるのを抑制できる。さらに、補助ばね22にかかる負荷を軽減できるので、補助ばね22の耐久性を向上できる。
【0040】
また、補助ばね22を密着高さにしたり、段差(ストッパ)34eで補助ばね22の圧縮を妨げたりするのは、1G状態にライダーの体重が加わった乗車1G状態であってもよい。この場合にも、車両走行時における緩衝器Aのばね特性を補助ばね無しの緩衝器のばね特性と近似させられる。なお、
図5では、段差34eをストッパとして機能させているが、ストッパの構成は適宜変更できる。例えば、図示しないがストッパが筒状のスペーサであり、補助ばね22の内周又は外周に設けられて、ばね受21又はピストン34の一方に連結されていてもよい。
【0041】
また、本実施の形態において、ピストン34は、ベース33の外周に摺接する筒部34bと、この筒部34から外側に突出する支持部34cとを有する。そして、補助ばね22がコイル状であり、内側に筒部34bが挿入されて
図2中上端(他端)が支持部34cで支えられるとともに、ばね受21が環状に形成されてピストン34の外周に摺接する。
【0042】
上記構成によれば、補助ばね22の一端をばね受21で支えるとともに他端をピストン34で支えつつ、ピストン34の外周にばね受21と補助ばね22を配置するための構成を簡易にできる。なお、ピストン34の構成は上記の限りではなく、適宜変更できる。そして、このような変更は、ストッパの有無によらず可能である。
【0043】
また、本実施の形態において、緩衝器Aは、緩衝器本体1と、懸架ばね2の
図2中上端(一端)を支持して緩衝器本体1の軸方向に移動可能なばね受21と、緩衝器本体1に取り付けられるベース33と、ベース33の外周に移動可能に装着されてベース33との間に液室Lを形成するピストンと34を有するジャッキ3と、ピストン34の外周に設けられ、
図2中下端(一端)がばね受21で支えられるとともに
図2中上端(他端)がピストン34で支えられる補助ばね22とを備え、ばね受21がピストン34の外周に設けられる。
【0044】
上記構成によれば、懸架ばね2の軸方向長さを変えずに車高調整量を増やしても、懸架ばね2が遊んだ状態になるのを防止できる。そして、車高調整量を増やすと、停車時の足つき性を良好にできる。また、補助ばね22で懸架ばね2が遊ばないようにすると、本実施の形態のように、ジャッキ本体30が懸架ばね2の弾性力で支えられる場合であっても、ジャッキ本体30が落下したり、ジャッキ本体30とフランジ14が離間と接触を繰り返して異音が生じたり、これらがずれたりするのを防止できる。
【0045】
さらに、上記構成によれば、補助ばね22を設けて懸架ばね2の遊びを防止したとしても、ピストン34の外周にばね受21及び補助ばね22を設けているので、ジャッキ本体30、ばね受21、及び補助ばね22を合わせた軸方向長さを短くできる。よって、緩衝器Aの軸方向長さを短くでき、緩衝器Aの搭載性を良好にできる。
【0046】
なお、上記緩衝器Aでは、懸架ばね2及び補助ばね22がコイルばねであるが、断面矩形の材料をコイル状にした角ばねであってもよく、懸架ばね2及び補助ばね22のばね定数も、所望のばね特性に応じて適宜変更できる。
【0047】
また、上記緩衝器Aでは、アウターシェル10の外周にガイド15を設けて、当該ガイド15にピストン34を摺接させているが、アウターシェル10の外周を滑面にして、当該アウターシェル10の外周に直接ピストン34を摺接させるようにしてもよい。
【0048】
また、ジャッキ3は、ピストン34とベース33とを有するジャッキ本体30と、ジャッキ本体30に作動油を供給するポンプ31と、このポンプ31を駆動するモータ32とを有するが、ジャッキ3の構成は適宜変更できる。例えば、ジャッキ3に利用される液体は作動油以外でもよく、水、水溶液等を利用してもよい。
【0049】
また、上記緩衝器Aでは、アウターシェル10が車体Bに連結されるとともにロッド11が後輪Wに連結されており、倒立型となっているが、アウターシェル10が後輪Wに連結されるとともに、ロッド11が車体Bに連結されて、正立型とされてもよい。
【0050】
また、上記緩衝器Aは、自動二輪車の車体Bと後輪Wとの間に介装されるが、当該緩衝器Aを自動二輪車以外の鞍乗型車両、又は自動車等に利用してもよい。
【0051】
そして、前述のような変更は、ストッパの有無、補助ばね22の一端をばね受21で支え他端をピストン34で支えつつ、ピストン34の構成によらず可能である。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形および変更が可能である。