特許第6487850号(P6487850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6487850アジュバント組成物およびこれを含むワクチン組成物、並びにこれらの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487850
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】アジュバント組成物およびこれを含むワクチン組成物、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20190311BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20190311BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20190311BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   A61K39/39
   A61K39/00 Z
   A61K47/28
   A61K47/12
   A61K47/26
   A61K47/24
   A61K47/10
   A61K47/14
   A61K47/44
   A61K47/22
【請求項の数】8
【全頁数】56
(21)【出願番号】特願2015-550654(P2015-550654)
(86)(22)【出願日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】JP2014080380
(87)【国際公開番号】WO2015079952
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-248543(P2013-248543)
(32)【優先日】2013年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】坂口 奈央樹
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−509452(JP,A)
【文献】 特表2004−527264(JP,A)
【文献】 特開2012−232949(JP,A)
【文献】 特開2008−120718(JP,A)
【文献】 特開昭63−201133(JP,A)
【文献】 第35回バイオマテリアル学会大会予稿集,2013年11月25日,p.239
【文献】 Vaccine,2011年,Vol.29,p.9611-9617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH感受性担体と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を含み、
前記pH感受性担体が、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を含み、膜破壊機能促進効果を発現する、アジュバント組成物。
【請求項2】
前記自然免疫を活性化する刺激を有する物質が、モノホスホリルリピドAである、請求項1に記載のアジュバント組成物。
【請求項3】
前記自然免疫を活性する刺激を有する物質の含有量が、前記両親媒性物質100molに対して、0.0227〜22.7molである、請求項1または2に記載のアジュバント組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のアジュバント組成物および抗原を含む、ワクチン組成物。
【請求項5】
前記抗原がペプチドまたはタンパク質である、請求項に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記抗原の含有量が、前記両親媒性物質100nmolに対して、3.2〜400μgである、請求項4または5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、
炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、
自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、
を会合させる工程を含む、アジュバント組成物の製造方法。
【請求項8】
デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、
炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、
自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、
を会合させる工程;
前記会合により得られた会合体に抗原を混合する工程;
前記混合により得られた混合物を凍結融解する工程;および
前記凍結融解により得られた融解物を凍結乾燥する工程を含む、ワクチン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジュバント組成物およびこれを含むワクチン組成物、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系とは、生体内に侵入した異物や異常細胞等を排除して、生体を病気等から保護する防御機構である。
【0003】
免疫系の機能は、一般に、液性免疫および細胞性免疫という2種の機構を介して発現する。
【0004】
液性免疫の免疫応答は、通常、以下のように発現する。すなわち、生体内に侵入した細菌等の外因性抗原が、エンドサイトーシスにより抗原提示細胞に取り込まれ、抗原提示細胞内のエンドソームでタンパク分解酵素により消化されて、ペプチド断片に分解される。当該ペプチド断片は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子と結合し、得られた複合体が抗原提示細胞の表面でCD4陽性T細胞に提示されて、CD4陽性T細胞が活性化される。そして、活性化されたCD4陽性T細胞が、サイトカインの放出等を行うことにより、最終的にB細胞から抗体が産生される。なお、上記MHCクラスII分子は、マクロファージ、樹状細胞、活性化T細胞、B細胞等に発現する。
【0005】
一方、細胞性免疫の免疫応答は、通常、以下のように発現する。すなわち、ウイルス感染細胞やガン細胞で産生されるタンパク質等の内因性抗原が、ユビキチン化された後、プロテアソームによってペプチドにまで分解される。分解されたペプチドは、MHCクラスI分子と結合し、得られた複合体が抗原提示細胞の表面でCD8陽性T細胞に提示されて、CD8陽性T細胞が活性化される。そして、活性化されたCD8陽性T細胞が、細胞傷害性T細胞(CTL)へと分化する。なお、上記MHCクラスI分子は、ほとんどすべての有核細胞および血小板の細胞表面に存在する。
【0006】
ところで、細胞性免疫を担うCTLは、ウイルス感染細胞やガン細胞の排除をすることができることから、特に注目されている。近年では、外因性抗原によりCTLの誘導へ導く、いわゆるクロスプレゼンテーションについての研究が試みられている。より詳細には、外因性抗原は、上述のように、抗原提示細胞内のエンドソーム内で分解されて、MHCクラスII分子と結合する。しかしながら、クロスプレゼンテーションにおいては、一部の量でも、外因性抗原を細胞膜あるいはエンドソームの膜を通過させて細胞質基質に移行させることにより、細胞質基質に移行した外因性抗原が内因性抗原のように作用し、最終的にMHCクラスI分子と結合して、CTLを誘導する。
【0007】
クロスプレゼンテーションにおいては、外因性抗原がエンドソームの膜を通過する必要があり、これについて種々の検討がなされている。例えば、非特許文献1には、pH感受性のポリ(プロピルアクリル酸)(PPAA)共役体を用いて抗原を効率良く細胞質基質に輸送することが記載されている。また、非特許文献2には、がん免疫療法のためのナノ粒子に基づくワクチンデリバリーが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bioconjug Chem. 2009 Feb.20(2):241−248
【非特許文献2】Immune Netw. 2013 Oct 13(5) 177−183
【発明の概要】
【0009】
細胞性免疫を担うCTLの誘導は、治療を目的としたワクチン開発の観点から、実現が強く望まれており、アジュバント分子の探索や改良が盛んに行われているが、依然としてCTLを誘導する効果は十分とは言えない。
【0010】
また、CTLの強力な誘導を目的とし、クロスプレゼンテーションに着目した検討例では、新規の合成材料や、ウイルスの成分を用いたものが多く、安全性の観点から懸念が存在している。
【0011】
そこで、本発明は、安全性が高く、かつ、効果的にCTLを誘導することができる担体を提供することを目的とする。
【0012】
本発明者は鋭意研究を行った。その結果、pHに感受性を有する担体に、自然免疫を活性化する刺激を有する物質を併用することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の上記課題は以下の手段により達成される。
【0014】
(1)pH感受性担体と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を含むアジュバント組成物;
(2)前記pH感受性担体が、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を含み、膜破壊機能促進効果を発現する、(1)に記載のアジュバント組成物;
(3)前記自然免疫を活性化する刺激を有する物質が、モノホスホリルリピドAである、(1)または(2)に記載のアジュバント組成物;
(4)前記自然免疫を活性する刺激を有する物質の含有量が、前記両親媒性物質100molに対して、0.0227〜22.7molである、(2)または(3)に記載のアジュバント組成物;
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアジュバント組成物および抗原を含む、ワクチン組成物;
(6)前記抗原がペプチドまたはタンパク質である、(5)に記載のワクチン組成物;
(7)前記抗原の含有量が、前記両親媒性物質100nmolに対して、3.2〜400μgである、(5)または(6)に記載のワクチン組成物;
(8)デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を会合させる工程を含む、アジュバント組成物の製造方法;
(9)デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を会合させる工程;前記会合により得られた会合体に抗原を混合する工程;前記混合により得られた混合物を凍結融解する工程;および前記凍結融解により得られた融解物を凍結乾燥する工程を含む、ワクチン組成物の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るアジュバント組成物およびこれを含むワクチン組成物の模式図である。
図2】ELIspot法によるCTL誘導の評価結果である。(A)は、IFNγのspot形成数を評価したグラフであり、(B)はペプチド単独を用いた場合のSpot形成の様子であり、(C)は、ペプチドと、MPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(アジュバント組成物)を用いた場合のSpot形成の様子である。評価条件は2×10cells/wellである。
図3】Intracellular Cytokine Staining(ICS)法によるCTL誘導率の評価結果である。(A)は、ペプチド単独を用いた場合の結果であり、(B)はペプチドと、MPL分散液を用いた場合の結果であり、(C)はペプチドと、モノホスホリルリピドA(MPL)含有DLPC−デオキシコール酸複合体(アジュバント組成物)を用いた場合の結果である。
図4】種々の調製方法によって調製したワクチン組成物を用いた場合における、CTL誘導率の評価結果である。(A)は、MPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(分散調製法)を用いた場合の結果であり、(B)はMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(混合調製法)を用いた場合の結果であり、(C)はMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(凍結融解−凍結乾燥調製法)を用いた場合の結果である。
図5】組込率の評価結果である。(A)は、ペプチド溶液のフィルター前後における、Lowrry法の吸光度を示すグラフであり、(B)は、アジュバント組成物のフィルター前後における、リン脂質テストワコーによる吸光度を示すグラフである。(C)は、種々のワクチン組成物における組込率を評価した結果である。
図6】評価系の確認をするための、自然免疫を活性化する刺激の評価を行った図である。(A)は、培養したマウス脾臓細胞を染色せずに評価したフローサイトメトリーの結果であり、(B)および(C)は、PBS単独、LPSを添加した場合のCD80の発現増強を確認した結果であり、(D)は種々の濃度でLPSを添加した場合における、フローサイトメトリーの結果をまとめたグラフであり、(E)および(F)は、他の補助刺激分子であるCD86、およびCD40の発現増強を確認した結果である。
図7】(A)は、CD80の産生増強を評価した結果であり、(B)および(C)は、他の指標であるCD86、CD40の発現増強を評価した結果である。
図8】種々の材料における自然免疫を活性化する刺激の有無を調べた結果である。(A)は、MPLを含まないDLPC−デオキシコール酸複合体を、種々の量にて添加してCD80の産生増強を調べた結果であり、(B)は培養したマウス脾臓細胞に、種々のサンプル溶液を添加してCD80の産生増強を調べた結果である。
図9】(A)は、MPL含率0.227に相当する量のMPLを投与した場合の溶出率であり、(B)はMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体の各pHにおける溶出率であり、(C)は、MPLの含有量を変化させた場合のDLPC―デオキシコール酸複合体のpH7.4とpH5.0における溶出率の結果である。
図10】分散調製法、混合調製法、凍結融解−凍結乾燥調製法により調製したワクチン組成物におけるpH7.4とpH5.0の溶出率を調べた結果である
図11】アジュバント組成物の膜破壊機能促進効果に及ぼす、MPL含有の影響を、種々のデオキシコール酸複合化量において調べた結果である。(A)は、複合化量が10の場合の結果であり、(B)は、複合化量が20の場合の結果であり、(B)は、複合化量が640の場合の結果である。
図12】アジュバント組成物の膜融合促進効果に及ぼすMPL含有の影響を調べた結果である
図13】ワクチン組成物の自然免疫の活性化に及ぼす抗原量の影響を調べた結果である。(A)は、ペプチドを用いた場合の結果であり、(B)は、OVAを用いた場合の結果である。
図14】アジュバント組成物の自然免役を活性化する刺激に対する、両親媒性物質の影響を調べた結果である。
図15】アジュバント組成物、およびワクチン組成物の自然免疫を活性化する刺激の強さに及ぼす、pH感受性化合物の複合化の影響を調べた結果である。(A)はMPL含率が0.0227における、種々の複合化量のデオキシコール酸を用いて調製した場合の結果であり、(B)は、MPL含率が22.7における、種々の複合化量のデオキシコール酸を用いて調製した場合の結果である。
図16】ワクチン組成物の自然免疫を活性化する刺激の強さに及ぼす、pH感受性化合物の種類の影響を調べた結果である。(A)は、MPL含率が0.0227における、種々のpH感受性化合物を用いて調製した場合の結果であり、(B)は、MPL含率が22.7における、種々のpH感受性化合物を用いて調製した場合の結果である。
図17】ワクチン組成物を用いた場合の、ELIspot法の評価結果である。(A)は、高MPLの条件において、ペプチドとMPL分散液を用いた場合のspot形成の様子であり、(B)は、高MPLの条件において、ペプチドとアジュバント組成物を用いた場合のspot形成の様子である。評価条件は1×10cells/wellである。
図18】種々のpH感受性化合物を用いて調製したワクチン組成物における、ELIspot法の評価結果である。抗原はOVAを使用し、自然免疫を刺激する物質、あるいはアジュバント組成物として(A)は、MPL分散液を用いた場合のSpot形成の様子であり、(B)は、MPL含有DLPC−デオキシコール酸を用いた場合のSpot形成の様子であり、(C)は、MPL含有DLPC−コール酸を用いた場合のSpot形成の様子であり、(D)は、MPL含有DLPC−ウルソデオキシコール酸を用いた場合のSpot形成の様子であり、(E)は、MPL含有DLPC−ヒオデオキシコール酸を用いた場合のSpot形成の様子である。評価条件は2×10cells/wellである。
図19】各調製方法で調製したワクチン組成物のCTL誘導率を示すグラフである。
図20】ワクチン組成物によって誘導されたCTLの抗原特異性を評価した結果である。(A)は抗原の再刺激を加えた場合のCTL誘導率であり、(B)は抗原の再刺激を加えなかった場合のCTL誘導率である。
図21】CTLの抗原特異性を評価したELIspot法の評価結果である。(A)〜(F)は、再刺激ありの場合のspot形成の様子であり、(G)〜(L)は、再刺激なし場合のspot形成の様子である。マウスへの投与物として、(A)と(G)は、80μgのOVAとMPL分散液を用いた場合の結果であり、(B)と(H)は、80μgのOVAと、160nmolのデオキシコール酸を用いて調製したアジュバント組成物を用いた場合の結果であり、(C)と(I)は、80μgのOVAと、640nmolのデオキシコール酸を用いて調製したアジュバント組成物を用いた場合の結果であり、(D)と(J)は、80μgのペプチドとMPL分散液を用いた場合の結果であり、(E)と(K)は、80μgのペプチドと、160nmolのデオキシコール酸を用いて調製したアジュバント組成物を用いた場合の結果であり、(F)と(L)は、80μgのペプチドと、640nmolのデオキシコール酸を用いて調製したアジュバント組成物を用いた場合の結果である。評価条件は2×10cells/wellである。
図22】各調製方法で調製したワクチン組成物を用いた場合における、IgG抗体価を示すグラフである。
図23】CpG−ODNを用いた場合における、ELIspot法の評価結果である。(A)は、80μgのOVAとCpG−ODN単独をマウスに投与した場合のspot形成の様子であり、(B)は80μgのOVAと、CpG−ODNを含むアジュバント組成物を用いた場合のspot形成の様子であり、(C)は抗原の再刺激を加えなかった場合における、80μgのOVAとCpG−ODN単独をマウスに投与した場合のspot形成の様子であり、(D)は、抗原の再刺激を加えなかった場合における、80μgのOVAと、CpG−ODNを含むアジュバント組成物を用いた場合のspot形成の様子である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、pH感受性担体と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を含むアジュバント組成物が提供される。上記アジュバント組成物により、効果的にCTLを誘導することができる担体が提供される。また、当該アジュバント組成物により、安全性の高い担体が提供される。
【0017】
<アジュバント組成物>
本形態に係るアジュバント組成物は、pH感受性担体(以下、単に「担体」、「会合体」、または「複合体」と称することがある)と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を含む。
【0018】
また、本形態に係るアジュバント組成物は、pH感受性担体が、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を含み、膜破壊機能促進効果を発現する。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るアジュバント組成物およびこれを含むワクチン組成物の模式図である。
【0021】
図1によれば、アジュバント組成物4は、両親媒性物質1と、pH感受性化合物2と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質3と、を含む。図1に示すように、一実施形態によれば、自然免疫を活性化する刺激を有する物質3は、両親媒性物質1の構成する疎水性部分に、pH感受性化合物2とともに会合する。この場合、アジュバント組成物4は、アジュバント複合体ともいうことができる。また、別の一実施形態によれば、自然免疫を活性化する刺激を有する物質3は、両親媒性物質1およびpH感受性化合物2を含むpH感受性担体と独立して存在する。
【0022】
また、ワクチン組成物6は、アジュバント組成物4と、抗原5とを含む。図1に示されるように、抗原5は、上記2つの形態に係るアジュバント組成物4に包含されてもよいし、独立に存在してもよい。このうち、特にアジュバント複合体4に抗原5が包含されるワクチン組成物6については、ワクチン複合体ともいうことができる。
【0023】
本明細書において、「アジュバント組成物」とは、pH感受性担体および自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含むものを意味し、その形態について特に制限はない。すなわち、「アジュバント組成物」は、pH感受性担体および自然免疫を活性化する刺激を有する物質を混合したものであってもよいし、pH感受性担体に自然免疫を活性化する刺激を有する物質を担持または包含したもの(アジュバント複合体)であってもよく、本明細書においては両者をまとめて「アジュバント組成物」と称する。
【0024】
また、本明細書において、「ワクチン組成物」とは、アジュバント組成物および抗原を含むものを意味し、その形態については特に制限はない。すなわち、「ワクチン組成物」には、アジュバント組成物の構成要素および抗原からなる群から選択される2種以上が混合されたものでもあってもよいし、アジュバント複合体に抗原を担持または包含したもの(ワクチン複合体)であってもよく、本明細書においては両者をまとめて「ワクチン組成物」と称する。
【0025】
[pH感受性担体]
pH感受性担体は、pHに感受性を有し、pHが酸性になると細胞内の抗原を細胞質基質に輸送できる機能を有する。
【0026】
pH感受性担体としては、特に制限されないが、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、を含み、膜破壊機能促進効果を発現するものであることが好ましい。なお、本明細書において、両親媒性物質における「炭素数」とは、両親媒性物質の疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0027】
以下、上記のpH感受性化合物および両親媒性物質を含む、膜破壊機能促進効果を発現するpH感受性担体について詳細に説明する。
【0028】
(pH感受性担体の構造)
pH感受性担体は、生理的pH以上において、pH感受性化合物と両親媒性物質とが会合して形成されているものと考えられる。より詳細には、pH感受性担体は、pH感受性化合物が、両親媒性物質の構成する疎水性部分に会合して形成されているものと考えられる。なお、pH感受性担体の当該会合形式は推測であり、pH感受性担体は、当該会合形式には限定されない。
【0029】
(膜破壊機能促進効果)
「膜破壊機能」とは、溶出性試験において溶出を起こす機能を意味する。ここで、本明細書における溶出性試験とは、消光物質と蛍光物質とを含む水溶液を内包したリポソーム(分散液)と、評価サンプル分散液とを、所定のpHに調整した水溶液に添加し、当該水溶液を37℃で90分間あるいは30分間インキュベーションした後、当該水溶液の蛍光を測定する試験である。当該方法により、リポソームから溶出した蛍光物質量が測定することができ、pH感受性担体のリポソームの膜破壊機能を確認することができる。なお、溶出性試験については、後述する実施例で詳細に説明する。
【0030】
また、「膜破壊機能促進効果を発現する」とは、(1)溶出性試験において、生理的pHにおける溶出率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける溶出率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、および、(2)当該生理的pH未満の所定のpHでの溶出性試験において、pH感受性化合物と両親媒性物質が複合体(pH感受性担体)を形成したときの溶出率が、pH感受性化合物単独の溶出率と両親媒性物質単独の溶出率の和より大きいこと、の両者を満たすことを意味する。より具体的には、膜破壊機能促進効果を発現するとは、pH7.4とpH5.0またはpH4.5との溶出性試験において、pH感受性担体(pH感受性化合物と両親媒性物質との複合体)の溶出率Lcが、pH感受性化合物単独の溶出率Laと両親媒性物質単独の溶出率Lbと、下記の関係を双方満たすものをいう。すなわち、上記(1)が、下記式(1)で表され、上記(2)が下記式(2)で表される。なお、下記式中、pH7.4の溶出率を、それぞれ、Lc7.4、La7.4、Lb7.4と表し、pH5.0または4.5の溶出率を、それぞれ、Lc、La、Lbと表す。
【0031】
【数1】
【0032】
上記式(1)において、Δは、0を超えていればよいが、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましい。また、上記式(2)において、Δ’は、0を超えていればよいが、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態において、上記式(1)および上記式(2)におけるΔおよびΔ’が、それぞれ5以上であり、かつ、胆汁酸および脂質を含むpH感受性担体が好ましい。また、本発明の別の一実施形態において、上記式(1)および上記式(2)におけるΔおよびΔ’が、それぞれ5以上であり、かつ、グリチルリチン酸またはグリチルレチン酸および脂質を含むpH感受性担体であることが好ましい。
【0034】
ここで、本明細書において「生理的pH」とは、正常組織や正常体液におけるpHを意味する。生理的pHは、通常、7.4であるが、正常組織や正常体液によって若干(±0.1)異なる。また、「生理的pH未満の所定のpH」とは、pH7.4未満であればよく、好ましくはpH3.0以上、pH7.4未満、より好ましくはpH4.0以上、pH7.3未満、さらに好ましくはpH4.5以上、pH7.0未満である。
【0035】
pH感受性担体が膜破壊機能促進効果を発現するメカニズムは明らかではないが、下記のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されるものではない。
【0036】
pH感受性担体は、周辺環境が生理的pH未満となった場合には、pH感受性化合物と両親媒性物質との会合形態が変化し、その結果、膜破壊機能促進効果を有するものと考えられる。例えば、pH感受性担体と、生体膜(例えば、細胞膜、小胞膜など)とが存在している系で、pHが生理的pH未満となった場合、pH感受性担体の会合形態が変化し、生体膜と接触した後、当該変化に誘起されて、生体膜の膜構造変化も生じるものと推測される。すなわち、pH感受性担体が生体膜の膜構造変化を誘起する。これは、pHが弱酸性に変化することで、pH感受性担体中のpH感受性化合物が該担体の構造中で不安定化し、その結果、pH感受性担体が、系内に存在する生体膜と再配列し、膜破壊機能促進効果が発現すると考えられる。また、換言すれば、pH感受性化合物は、pHが弱酸性に変化すると、プロトン化により疎水的な会合への溶解性を変化させる分子であると考えられる。つまり、pH感受性化合物を含む疎水的な会合は、弱酸性環境に応答し、機能を発現することが可能であるといえる。なお、「膜破壊」とは、このような膜構造の変化を称するものであり、膜構成成分が全て分離または分解しなくてもよい。このような「膜破壊」が生じることにより、生体膜(例えば、エンドソーム)の膜内部に含有されうる成分が生体膜の外部(例えば、細胞質基質)に溶出等する。
【0037】
pH感受性担体は、溶出性試験における溶出率がpH7.4で20%未満であり、かつ、pH4.0で20%より大きいものであることが好ましい。また、溶出性試験における溶出率がpH6.5で20%未満であり、かつ、H4.0で20%より大きいものであることがより好ましい。また、上記においてpH7.4またはpH6.5での溶出率が、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。また、pH4.0での溶出率が、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。pH感受性担体の溶出率が、上記のようになることで、弱酸性pHにおける膜破壊機能促進効果の発現がより発揮される。
【0038】
また、pH感受性担体は、膜破壊機能促進効果とともに、膜融合機能促進効果を発現しうる。
【0039】
本発明において、「膜融合機能」とは、膜融合試験において膜融合を起こす機能を意味する。ここで、本明細書における膜融合試験とは、2種類の蛍光物質を二分子膜に組み込んだリポソーム(分散液)と、評価サンプル分散液とを、所定のpHに調整した水溶液に添加し、当該水溶液を37℃で60分間インキュベーションした後、当該水溶液の蛍光を測定する試験である。当該方法により、リポソーム中に組み込まれた2種類の蛍光物質のエネルギー共鳴移動の変化を測定することができ、pH感受性担体の膜融合機能を確認することができる。なお、膜融合試験については、後述する実施例で詳細に説明する。
【0040】
また、「膜融合機能促進効果を発現する」とは、膜融合試験において、生理的pHにおける融合率よりも生理的pH未満の所定のpHにおける融合率が上昇し、なおかつその上昇幅がpH感受性化合物単独で実験した場合の上昇幅よりも大きいこと、を満たすことを意味する。より具体的には、膜融合機能促進効果を発現するとは、pH7.4とpH5.0との膜融合試験において、pH感受性担体(pH感受性化合物と両親媒性物質との複合体)の融合率Rc(%)が、pH感受性化合物単独の融合率Ra(%)と、下記式(3)の関係を満たすものをいう。なお、下記式中、pH7.4の融合率を、それぞれ、Rc7.4、Ra7.4、と表し、pH5.0の融合率を、それぞれ、Rc、Ra、と表す。
【0041】
【数2】
【0042】
上記式(3)においてΔRは、0を超えていればよいが、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
【0043】
上記式(3)においてΔRが2以上であるpH感受性担体であって、該担体は胆汁酸と脂質を含むものが好ましい。
【0044】
pH感受性担体は、弱酸性pH(生理的pH未満の所定のpH)において、膜融合機能促進効果を発現する。これらのメカニズムは明らかではないが、上記の膜破壊機能促進効果と同様のメカニズムであると考えられる。なお、本発明は、当該推測によって限定されるものではない。
【0045】
すなわち、本発明のpH感受性担体は、周辺環境が生理的pH未満となった場合、pH感受性化合物と両親媒性物質との会合形態が変化し、系内に存在する生体膜と再配列することで、膜融合するものと推測される。この際、膜融合は互いに親和性のある成分どうしで再配列するため、生体膜と親和性がない、または低い成分(例えば、抗原)は、再配列される膜から排除、放出される。
【0046】
上述のように、通常、抗原は、生体膜の一種であるエンドソーム(endosome)に取り囲まれ、細胞(抗原提示細胞等)に取り込まれる。その後、プロトンポンプの作用によってエンドソーム内部のpHが低下する。さらに、エンドソームは、加水分解酵素を含むリソソームと融合して、抗原は分解される(その後、MHCクラスII分子と複合体を形成して、CD4陽性T細胞に抗原提示されうる)。このため、ほとんどの抗原は細胞質基質内にデリバリーされない。
【0047】
これに対して、本形態に係るpH感受性担体を使用すると、抗原(例えば、外因性抗原)を細胞質基質にデリバリーすることができる。より詳細には、抗原がpH感受性担体とともにエンドソームに取り囲まれ、細胞に取り込まれると、同様にして、pHが低下した環境に導かれる。そして、pHの低下(酸性化)に伴い、pH感受性化合物がpH感受性担体を不安定化させ、エンドソームとpH感受性担体との間で膜の再配列が起こる。その結果、pH感受性担体による膜破壊機能(場合によっては膜融合機能とともに発現する膜破壊機能)が生じる。この膜破壊機能(または膜融合機能および膜破壊機能)に伴い、抗原がエンドソームから細胞質基質にデリバリーされうる。なお、上記メカニズムによれば、原則として抗原はpH感受性担体とともにエンドソームに取り込まれさえすれば細胞質基質への輸送が可能となりうることから、抗原とpH感受性担体とを混合した組成物の形態で使用されても、抗原がpH感受性担体に担持または包含された形態で使用されてもよいことが理解される。
【0048】
(pH感受性化合物)
pH感受性化合物は、上記のように、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である。pH感受性化合物の塩としては、特に制限されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩などが挙げられる。これらのpH感受性化合物は、単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、pH感受性化合物は、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
また、本発明の別の一実施形態によれば、pH感受性化合物は、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸またはそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン酸またはそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0051】
pH感受性化合物として好ましく用いられるデオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸およびグリコデオキシコール酸は、胆汁酸と総称される。胆汁酸は、代表的なステロイド誘導体として1920年代以前から知られており、細菌学の分野において利用されている。胆汁酸はヒトの生体内においてコレステロールや脂質、脂溶性ビタミンと複合体を形成し、その吸収を補助する働きを有している。また、物理化学的な性質から脂質やタンパク質、疎水的な材料との複合体を形成することができるため、タンパク質の分離精製や可溶化剤、乳化剤として古くから利用されている。最近ではワクチンの製造工程の用途、胆汁酸トランスポーターを介在させることによる薬剤の吸収促進剤としても注目されている。特に、デオキシコール酸ナトリウム(別名デスオキシコール酸ナトリウム)とウルソデオキシコール酸(別名ウルソデスオキシコール酸)はヒトへの注射が可能な医薬品添加物として実績を有しており、優れた安全性が認められている。そのため、pH感受性化合物として、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸またはその塩(例えば、ナトリウム塩)を用いることがさらに好ましい。
【0052】
pH感受性化合物は、両親媒性物質100molに対して、10mol以上の割合で含有されることが好ましく、10〜640molの割合で含有されることがより好ましく、20〜320molの割合で含有されることがさらに好ましく、20〜160molの割合で含有されることが特に好ましい。なお、本明細書において、pH感受性化合物の、両親媒性物質100molに対する含有量を、「pH感受性化合物の複合化量」とも称する。
【0053】
(両親媒性物質)
両親媒性物質は、上記のように、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種である。これらの両親媒性物質は、単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0054】
なお、本明細書において、両親媒性物質における「炭素数」とは、両親媒性物質の疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0055】
炭素数10〜12のホスファチジルコリンとしては、飽和のアシル基を有するジアシルホスファチジルコリンであることが好ましく、例えば、ジデカノイルホスファチジルコリン(DDPC;1,2−ジデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC;1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン)が挙げられる。これらのうち、ホスファチジルコリンとしては、天然由来または公知の方法で合成したものでもよく、また市販のものを用いることができる。
【0056】
炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)、ポリオキシエチレンソルビタンミリスチン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノミリステート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)等が挙げられる。ポリオキシエチレンの重合度としては、特に制限されないが、ソルビタンに付加したポリオキシエチレン鎖の合計した重合度が、10〜200であることが好ましく、15〜100であることがより好ましく、20〜50であることがさらに好ましい。ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルは、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル)、Tween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸エステル)、Tween60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル)、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル)として販売されているものを好ましく用いることができる。これらのなかでも、炭素数16〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル(Tween20、Tween40、Tween60、Tween80)を用いることが好ましい。
【0057】
炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノパルミチン酸エステル(ソルビタンモノパルミテート)、ソルビタンモノステアリン酸エステル(ソルビタンモノステアレート)、ソルビタンモノオレイン酸エステル(ソルビタンモノオレート)等のソルビタンモノ脂肪酸エステル;ソルビタントリパルミチン酸エステル(ソルビタントリパルミテート)、ソルビタントリステアリン酸エステル(ソルビタントリステアレート)、ソルビタントリオレイン酸エステル(ソルビタントリオレート)等のソルビタントリ脂肪酸エステル等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルは、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。ソルビタン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、SPAN40(ソルビタンパルミチン酸エステル)、SPAN60(ソルビタンステアリン酸エステル)、SPAN80(ソルビタンオレイン酸エステル)、SPAN65(ソルビタントリステアリン酸エステル)、SPAN85(ソルビタントリオレイン酸エステル)として販売されているものを好ましく用いることができる。これらのなかでも、SPAN80、SPAN65、SPAN85を用いることが好ましい。
【0058】
モノオレイン酸グリセロール(モノオレイン酸グリセリル)、ジラウリン酸グリセロール(ジラウリン酸グリセリル)、ジステアリン酸グリセロール(ジステアリン酸グリセリル)、ジオレイン酸グリセロール(ジオレイン酸グリセリル)は、グリセリンに1または2分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロールであり、脂肪酸が結合する部位は特に制限されない。例えば、モノアシルグリセロールであるモノオレイン酸グリセロールであれば、グリセリンのC1位またはC2位に脂肪酸がエステル結合していてよい。また、ジアシルグリセロールであるジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールであれば、グリセリンのC1位およびC2位、またはC1位およびC3位に脂肪酸がエステル結合していればよい。例えば、ジラウリン酸グリセロールとしては、C1位およびC3位が置換された、α、α’−ジラウリンが好ましい。ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロールとしては、C1位およびC2位が置換されたジアシルグリセロールが好ましい。これらのグリセロール誘導体としては、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。
【0059】
ポリオキシエチレンヒマシ油は、ヒマシ油にポリオキシエチレンが付加したものである。ポリオキシエチレンの重合度としては、特に制限されないが、3〜200であることが好ましく、5〜100であることがより好ましく、10〜50であることがさらに好ましい。ポリオキシエチレンヒマシ油は、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。
【0060】
α−トコフェロールとしては、天然由来または公知の方法で合成したものを用いても、市販のものを用いてもよい。
【0061】
上述の両親媒性物質のうち、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレオレート、ソルビタンモノオレオレート、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択されることが好ましく、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレオレート、ソルビタンモノオレオレート、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択されることがより好ましい。
【0062】
(pH感受性化合物および両親媒性物質の組み合わせ)
pH感受性担体は、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより、所望のpHにおいて、膜破壊機能促進効果を発現させることができる。この際、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより、pH感受性担体の膜破壊機能促進効果を発現し始めるpHは異なる。これはpH感受性化合物によってpKaが異なること、さらには両親媒性物質との会合形成の様式が、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせにより異なることに由来するものと考えられる。したがって、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせを適宜変更することによって、機能を発現するpHを選択することが可能であり、デリバリーを詳細に設定することが可能であるといえる。
【0063】
pH感受性担体において、pH感受性化合物と両親媒性物質との組み合わせとしては、コール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびTween20、デオキシコール酸およびTween40、デオキシコール酸およびTween60、デオキシコール酸およびTween80、デオキシコール酸およびSPAN40、デオキシコール酸およびSPAN60、デオキシコール酸およびSPAN80、デオキシコール酸およびSPAN65、デオキシコール酸およびSPAN85、デオキシコール酸およびα−トコフェロール、デオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジステアリン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’−ジラウリン)、デオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、ケノデオキシコール酸およびDLPC、ヒオデオキシコール酸およびDLPC、グリコデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびDDPC、ウルソデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびTween20、ウルソデオキシコール酸およびTween40、ウルソデオキシコール酸およびTween60、ウルソデオキシコール酸およびTween80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN40、ウルソデオキシコール酸およびSPAN60、ウルソデオキシコール酸およびSPAN80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN65、ウルソデオキシコール酸およびSPAN85、ウルソデオキシコール酸およびα−トコフェロール、ウルソデオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジステアリン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジオレイン酸グリセロール、ウルソデオキシコール酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’−ジラウリン)、ウルソデオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、グリチルリチン酸およびDDPC、グリチルリチン酸およびDLPC、グリチルリチン酸およびTween20、グリチルリチン酸およびTween40、グリチルリチン酸およびTween60、グリチルリチン酸およびTween80、グリチルリチン酸およびSPAN40、グリチルリチン酸およびSPAN60、グリチルリチン酸およびSPAN80、グリチルリチン酸およびSPAN65、グリチルリチン酸およびSPAN85、グリチルリチン酸およびα−トコフェロール、グリチルリチン酸およびモノオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジステアリン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびジラウリン酸グリセロール(α、α’−ジラウリン)、グリチルリチン酸およびポリオキシエチレンヒマシ油が好ましい。
【0064】
より好ましくは、コール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびDDPC、デオキシコール酸およびDLPC、デオキシコール酸およびTween20、デオキシコール酸およびTween40、デオキシコール酸およびTween60、デオキシコール酸およびTween80、デオキシコール酸およびSPAN40、デオキシコール酸およびSPAN65、デオキシコール酸およびSPAN80、デオキシコール酸およびSPAN85、デオキシコール酸およびα‐トコフェロール、デオキシコール酸およびモノオレイン酸グリセロール、デオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、ケノデオキシコール酸およびDLPC、ヒオデオキシコール酸およびDLPC、グリコデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびDDPC、ウルソデオキシコール酸およびDLPC、ウルソデオキシコール酸およびTween40、ウルソデオキシコール酸およびTween60、ウルソデオキシコール酸およびTween80、ウルソデオキシコール酸およびSPAN40、ウルソデオキシコール酸およびSPAN65、ウルソデオキシコール酸およびSPAN85、ウルソデオキシコール酸およびα‐トコフェロール、ウルソデオキシコール酸およびモノオレイン、ウルソデオキシコール酸およびポリオキシエチレンヒマシ油、グリチルリチン酸およびDDPC、グリチルリチン酸およびDLPC、グリチルリチン酸およびTween40、グリチルリチン酸およびTween60、グリチルリチン酸およびTween80、グリチルリチン酸およびSPAN40、グリチルリチン酸およびSPAN65、グリチルリチン酸およびSPAN85、グリチルリチン酸およびα−トコフェロール、グリチルリチン酸およびモノオレイン酸グリセロール、グリチルリチン酸およびポリオキシエチレンヒマシ油である。
【0065】
[自然免疫を活性化する刺激を有する物質]
自然免疫を活性化する刺激を有する物質とは、構造パターン認識受容体に認識され、免疫担当細胞を活性化に導く物質を意味する。
【0066】
自然免疫を活性化する刺激を有する物質としては、特に制限されないが、Toll様受容体に対するアゴニストであることが好ましい。
【0067】
自然免疫を活性化する刺激を有する物質の具体例としては、特に制限されないが、ミョウバン等の鉱物塩;水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム等のゲルタイプアジュバント;CpGモチーフを含む免疫調節性DNA配列、免疫刺激性RNA分子、内毒素(リポ多糖(LPS;内毒素)、モノホスホリルリピドA(MPL:登録商標))、外毒素(コレラ毒素、大腸菌(E.coli)熱不安定性毒素、百日咳毒素)、ムラミルジペプチド、フラジェリン等の微生物アジュバント;不完全フロイントアジュバント(IFA)等の油性アジュバント、流動パラフィン、ラノリン等の油性アジュバント生分解性ミクロスフェア、サポニン(QS−21、Quil−A等)、非イオン性ブロックコポリマー、ムラミルペプチド類似物、ポリホスファゼン、合成ポリヌクレオチド(非CpG合成ポリヌクレオチド等)、イミダゾキノリン等の合成アジュバント;DOTAP、DC−Chol、DDA等のカチオン性脂質;一本鎖RNA;二本鎖RNA等が挙げられる。これらのうち、前記自然免疫を活性化する刺激を有する物質は、ミョウバン等の鉱物塩;水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム等のゲルタイプアジュバント;CpGモチーフを含む免疫調節性DNA配列、免疫刺激性RNA分子、モノホスホリルリピドA(MPL:登録商標))、外毒素(コレラ毒素、大腸菌(E.coli)熱不安定性毒素、百日咳毒素)、フラジェリン等の微生物アジュバント、サポニン(QS−21、Quil−A等)、合成ポリヌクレオチド(非CpG合成ポリヌクレオチド等)、イミダゾキノリン等の合成アジュバント、一本鎖RNA;二本鎖RNA等であることが好ましく、モノホスホリルリピドA、CpGモチーフを含む免疫調節性DNA配列であることがより好ましい。
【0068】
自然免疫を活性化する刺激を有する物質は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
自然免疫を活性化する刺激を有する物質の含有量は、使用する自然免疫を活性化する刺激を有する物質の種類によっても異なるが、両親媒性物質100molに対して、0.0227〜22.7molであることが好ましく、0.227〜2.27molであることがより好ましい。自然免疫を活性化する刺激を有する物質の含有量が0.0227mol以上であると、免疫応答を好適に誘導させることができることから好ましい。一方、自然免疫を活性化する刺激を有する物質の含有量が22.7mol以下であると、コストが低減できることから好ましい。
【0070】
[水性溶媒]
アジュバント組成物は、水性溶媒を含んでいてもよい。
【0071】
アジュバント組成物が水性溶媒を含む場合、pH感受性担体、自然免疫を活性化する刺激を有する物質は、水性溶媒中で分散した分散液となりうる。
【0072】
この際、pH感受性担体は、好ましくは、水性媒体中で、pH感受性化合物と両親媒性物質とを含む複合体を形成する。これらの複合体の形態は特に制限されず、pH感受性化合物と両親媒性物質とが膜を形成してもよいし、両親媒性物質が形成する構造にpH感受性化合物の一部分もしくは全体が会合などにより埋め込まれていてもよい。また、pH感受性化合物と両親媒性物質とがミセル状の粒子(pH感受性化合物と両親媒性物質とが疎水性相互作用により粒状に会合した粒子であり、典型的には単分子膜構造の粒子である)を形成するのが好ましい。また、ファゴサイトーシスやエンドサイトーシスによる取り込みは、一定以上の大きさの粒子に対して活発に行われることから、ミセル状の粒子は、粒子径が10〜200nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。なお、上記ミセル状の粒子には、脂質二分子膜構造(例えば、リポソーム)を形成するものは含まない。また、本明細書中、pH感受性担体の粒子径は、動的光散乱法(MALVERN Instruments社製、NanoZS90)により測定することができる。
【0073】
また、アジュバント組成物は、水性媒体中で、複合体を形成したpH感受性担体と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を含む複合体(アジュバント複合体)を形成することが好ましい。複合体の形態は特に制限されないが、pH感受性担体を構成するpH感受性物質および両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質とがミセル状の粒子を形成することが好ましい。当該ミセル状の粒子の粒子径は、10〜200nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。
【0074】
なお、アジュバント組成物を含む水性溶液中、pH感受性化合物、両親媒性物質、自然免疫を刺激する活性を有する物質の少なくとも1つが、会合体を形成せず、遊離の状態で存在していてもよい。
【0075】
本発明のpH感受性担体を含む水性溶液の溶媒としては、緩衝剤、NaCl、グルコース、ショ糖などの糖類を含む水溶液であることが好ましい。
【0076】
緩衝剤としては、アジュバント組成物のpHを生理的pH以上に維持するものであれば公知の緩衝剤が適宜使用でき、特に限定されるものではない。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、クエン酸−リン酸緩衝剤、トリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl緩衝剤(トリス塩酸緩衝剤)、MES緩衝剤(2−モルホリノエタンスルホン酸緩衝剤)、TES緩衝剤(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸緩衝剤)、酢酸緩衝剤、MOPS緩衝剤(3−モルホリノプロパンスルホン酸緩衝剤)、MOPS−NaOH緩衝剤、HEPES緩衝剤(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸緩衝剤)、HEPES−NaOH緩衝剤などのGOOD緩衝剤、グリシン−塩酸緩衝剤、グリシン−NaOH緩衝剤、グリシルグリシン−NaOH緩衝剤、グリシルグリシン−KOH緩衝剤などのアミノ酸系緩衝剤;トリス−ホウ酸緩衝剤、ホウ酸−NaOH緩衝剤、ホウ酸緩衝剤などのホウ酸系緩衝剤;またはイミダゾール緩衝剤などが用いられる。これらのうち、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、クエン酸−リン酸緩衝剤、トリス塩酸緩衝剤、MES緩衝剤、酢酸緩衝剤、HEPES−NaOH緩衝剤を用いることが好ましい。緩衝剤の濃度としては、特に制限されず、0.1〜200mMであることが好ましく、1〜100mMであることがより好ましい。なお、本明細書において「緩衝剤の濃度」とは、水性溶液中に含まれる緩衝剤の濃度(mM)をいう。
【0077】
NaCl、グルコース、ショ糖などの糖類の濃度としては、特に制限されず、0.1〜200mMであることが好ましく、1〜150mMであることがより好ましい。
【0078】
水性溶液中のpH感受性担体の濃度としては、特に制限されないが、pH感受性化合物と両親媒性物質との合計モル濃度が、好ましくは0.73μmol/L〜7.4mmol/L、より好ましくは7.3μmol/L〜6.5mmol/L、さらに好ましくは8.0μmol/L〜4.2mmol/Lである。
【0079】
また、水性溶液中の自然免疫を活性化する刺激を有する物質のモル濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.14nmol/L〜0.227mmol/L、より好ましくは1.4nmol/L〜0.19mmol/L、さらに好ましくは1.6nmol/L〜0.12mmmol/Lである。
【0080】
[他の成分]
アジュバント組成物は、他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、特に制限されないが、安定化剤等が挙げられる。
【0081】
安定化剤としては、pH感受性担体および自然免疫を活性化する刺激を有する物質に悪影響を与えなければ特に制限されず、例えば、1−オクタノール、1−ドデカノール、1−ヘキサドデカノール、1−エイコサノール等の飽和および不飽和の炭素数4〜20のアルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の飽和および不飽和の炭素数12〜18の脂肪酸;カプリル酸メチル(オクタン酸メチル)、カプリル酸エチル(オクタン酸エチル)、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル等の飽和および不飽和の炭素数8〜18の脂肪酸アルキルエステル(炭素数1〜3のアルキル);D(L)−アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、フェニルアラニン等のD(L)−アミノ酸;トリカプロイン、トリカプリリン等のアミノ酸トリグリセライド;ポリオキシエチレンソルビタントリパルミチン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタントリ脂肪酸エステル(例えば、Tween65、Tween85);ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンミリスチン酸エステル、ポリオキシエチレンパルミチン酸エステル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル等の炭素数12〜18のポリオキシエチレンアルキルエステル(例えば、PEG20ステアリルエーテル、PEG23ラウリルエーテル);ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油(例えば、PEG10硬化ヒマシ油、PEG40硬化ヒマシ油、PEG60硬化ヒマシ油);カプリリン(オクタン酸グリセロール)、モノカプリン酸グリセロール、モノラウリン酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、モノオレイン酸グリセロール等の飽和および不飽和の炭素数8〜18のモノ脂肪酸グリセロールエステル;ジオクタン酸グリセロール、ジカプリン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジミリスチン酸グリセロールエステル、ジパルミチン酸グリセロール等の炭素数8〜16のジ脂肪酸グリセロール;α−トコフェロール酢酸エステル、ヒマシ油、大豆油、コレステロール、スクアレン、スクアラン、ラクトース、パルミチン酸アスコルビル、安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、等の公知の安定化剤が用いられうる。なお、安定化剤における「炭素数」とは、疎水部を構成する脂肪酸成分(アシル基)の炭素数を意味する。
【0082】
これら他の成分の含有量としては、pH感受性担体および自然免疫を活性化する刺激を有する物質に悪影響を与えなければ特に制限されないが、両親媒性物質100molに対して、150mol以下であることが好ましく、0molを超えて66.4mol以下であることがより好ましい。
【0083】
本形態に係るアジュバント組成物は、抗原とともに投与することにより、効果的にCTLを誘導することができる。
【0084】
すなわち、本形態に係るアジュバント組成物においては、pH感受性担体に、自然免疫を活性化する刺激を有する物質を併用しても、pH感受性担体の機能、例えば、膜破壊機能促進効果(および膜融合機能促進効果)を好適に発揮することができる。また、pH感受性担体とともに自然免疫を活性化する刺激を有する物質を用いると、自然免疫を活性化する刺激を有する物質の機能も好適に発揮することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のような理由によるものと推察される。
【0085】
すなわち、pH感受性担体は、好ましい形態において、pH感受性化合物および両親媒性物質を含み、膜破壊機能促進効果(場合によっては、膜破壊機能促進効果および膜融合機能促進効果)を有する。この際、前記膜破壊機能促進効果(および膜融合機能促進効果)は、上述のように、酸性環境下におけるpH感受性化合物によるpH感受性担体の会合状態の変化の惹起、およびこの場合における両親媒性物質によるエンドソーム等の細胞膜との再配列に基づくものである。ここで、pH感受性担体に自然免疫を活性化する刺激を有する物質を併用しても、pH感受性化合物のpH感受性は変動しないため、pH感受性化合物は、pH感受性担体の会合状態の変化を惹起することができる。また、自然免疫を活性化する刺激を有する物質が、例えば、両親媒性物質に組み込まれていても、pH感受性担体と独立に存在していても、両親媒性物質による細胞膜との再配列には影響を与えない。そうすると、自然免疫を活性化する刺激を有する物質をpH感受性担体と併用しても、pH感受性担体の機能は損なわれない。そして、自然免疫を活性化する刺激を有する物質は、例えば、疎水的な相互作用によりpH感受性担体の両親媒性物質に組み込まれているだけであり、または、単にpH感受性担体と独立して存在しているだけであり、その機能も損なわれない。その結果、本形態に係るアジュバント組成物は、抗原とともに投与した場合、pH感受性担体の機能により抗原を細胞質基質に導入することができるとともに、自然免疫を活性化する刺激を有する物質が作用することにより、細胞質基質に導入された抗原に基づくクロスプレゼンテーションを好適に誘導することができ、効果的にCTLを誘導することができる。
【0086】
なお、上記理由は推定のものであり、これ以外の理由によって本発明の効果がもたらされたとしても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
また、本発明の好ましい一実施形態によれば、液性免疫をも好適に誘導することができる。
【0088】
上述のように、外因性抗原は、通常であれば、抗原提示細胞内のエンドソームでペプチド断片まで分解され、MHCクラスII分子と複合体を形成して、CD4陽性T細胞に提示される。
【0089】
本形態に係るアジュバント組成物が、共に投与された抗原をクロスプレゼンテーションすることにより、CTLを誘導する場合には、pH感受性担体が、エンドソームの細胞膜の再配列を起こす際に抗原や自然免疫を活性化する刺激を有する物質が細胞質基質に導入されうる。しかし、一実施形態においては、再配列が起きたとしても、抗原および自然免疫を活性化する刺激を有する物質の一部または全部がエンドソーム内に残存する場合がありうる。また、一実施形態において、抗原とアジュバント組成物とが独立して存在する場合には、一部のエンドソームにおいては、抗原のみが取り込まれる場合がありうる。そうすると、エンドソームで抗原がペプチド断片まで分解され、MHCクラスII分子と複合体を形成して、CD4陽性T細胞に提示されて液性免疫が誘導される。この際、クロスプレゼンテーションを好適に誘導している樹状細胞は、免疫的に活性化された状態にあることから、当該液性免疫の誘導は好適に発現することとなる。あるいは、クロスプレゼンテーションを好適に誘導している樹状細胞は、免疫を活性化するサイトカイン(例えば、IFNγ)を盛んに産生し、周りの環境を、免疫誘導に適した環境に導くこととなる。
【0090】
したがって、本発明の別の一実施形態によれば、クロスプレゼンテーションとともに、またはクロスプレゼンテーションに代えて、液性免疫を誘導することができる。
【0091】
<ワクチン組成物>
ワクチン組成物は、アジュバント組成物および抗原を含む。
【0092】
[アジュバント組成物]
アジュバント組成物としては、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
【0093】
[抗原]
抗原としては、免疫応答を生じさせるものであれば特に制限されないが、ペプチドまたはタンパク質であることが好ましい。
【0094】
前記ペプチドまたはタンパク質としては、ウイルス抗原、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫性または寄生虫性抗原、ガン抗原、アレルギー関連抗原、疾患関連抗原、移植片拒絶関連抗原等が挙げられる。
【0095】
前記ウイルス抗原としては、特に制限されないが、gag、pol、およびenv遺伝子の遺伝子産物、Nefタンパク質、逆転写酵素、並びに他のHIVコンポーネント等のヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原;B型肝炎ウイルスのS、M、およびLタンパク質、B型肝炎ウイルスのpre−S抗原、C型肝炎ウイルスRNA、並びにA、B、およびC型肝炎のウイルスコンポーネント等の肝炎ウイルス抗原;赤血球凝集素およびノイラミニダーゼ、並びに他のインフルエンザウイルスコンポーネント等のインフルエンザウイルス抗原;麻疹ウイルス抗原;風疹ウイルス抗原;ロタウイルス抗原;サイトメガロウイルス抗原;呼吸器合胞体ウイルス抗原;単純ヘルペスウイルス抗原;水痘帯状疱疹ウイルス抗原;日本脳炎ウイルス抗原;狂犬病ウイルス抗原が挙げられる。その他、アデノウイルス、レトロウイルス、ピコルナウイルス、ヘルペスウイルス、ロタウイルス、ハンタウイルス、コロナウイルス、トガウイルス、フラビウイルス(flavirvirus)、ラブドウイルス、パラミクソウイルス、オルソミクソウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、レオウイルス、パピローマウイルス(papilomavirus)、パルボウイルス、ポックスウイルス、ヘパドナウイルス又は海綿状ウイルス由来のペプチドが挙げられる。
【0096】
前記細菌性抗原としては、特に制限されないが、百日咳毒素、線維状赤血球凝集素、パータクチン、FIM2、FIM3、アデニル酸シクラーゼ、他の百日咳細菌性抗原コンポーネント等の細菌性抗原;ジフテリア毒素またはトキソイド、他のジフテリア細菌性抗原コンポーネント等のジフテリア細菌性抗原;破傷風毒素又はトキソイド、他の破傷風細菌性抗原コンポーネント等の破傷風細菌性抗原連鎖球菌細菌性抗原;リポ多糖、他のグラム陰性細菌性抗原コンポーネント等のグラム陰性桿菌細菌性抗原;ミコール酸、熱ショックタンパク質65(HSP65)、30kDa主要分泌タンパク質、抗原85A、他のマイコバクテリア抗原コンポーネント等の結核菌細菌性抗原;ヘリコバクター・ピロリ細菌性抗原コンポーネント;肺炎球菌細菌性抗原;インフルエンザ菌細菌性抗原;炭疽菌細菌性抗原;リケッチア細菌性抗原等が挙げられる。
【0097】
前記真菌性抗原としては、特に制限されないが、カンジダ真菌性抗原コンポーネント;ヒストプラズマ真菌性抗原;クリプトコッカス真菌性抗原;コクシジオイデス真菌性抗原;白癬真菌性抗原等が挙げられる。
【0098】
前記原虫性または寄生虫性抗原としては、特に制限されないが、熱帯熱マラリア原虫抗原;トキソプラズマ抗原;住血吸虫抗原;リーシュマニア抗原;トリパノソーマ・クルージ抗原等が挙げられる。
【0099】
前記ガン抗原としては、特に制限されず、腫瘍組織の細胞の細胞表面、細胞質、核、細胞小器官等に由来するガン抗原が挙げられる。当該ガンとしては、白血病、リンパ腫、神経性腫瘍、メラノーマ、乳癌、肺癌、頭頸部癌、胃癌、結腸癌、肝癌、膵癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌、腟癌、精巣癌、前立腺癌、陰茎癌、骨腫瘍、血管腫瘍、口唇癌、上咽頭癌、咽頭癌、食道癌、直腸癌、胆嚢癌、胆管癌、喉頭癌、肺癌、膀胱癌、腎臓癌、脳腫瘍、甲状腺癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫等が挙げられる。なお、ガン抗原の具体例を挙げると、HER2/neu(Human EGFR related 2)、CEA(Carcinogenic Embryonic Antigen)、MAGE(Melanoma−associated Antigen)、XAGE(X antigen family member)、NY−ESO−1、gp100、Melan/mart−1、Tyrosinase、PSA(Prostate Specific Antigen)、PAP(Prostate Acid Phosphatase)、p53、K−ras、N−ras、Bcr−Abl、MUC−1(Mucin−1)、PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen)、survivin、WT−1(Wilms tumor suppressor gene 1)、AFP(Alpha Fetoprotein)、GPC(Glypican)、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)、等が挙げられる。
【0100】
前記アレルギー関連抗原としては、特に制限されないが、スギ花粉抗原、ブタクサ花粉抗原;ライグラス花粉抗原等の花粉抗原;イエダニ抗原、ネコ抗原等の動物由来抗原;組織適合性抗原、ペニシリン等の治療薬等が挙げられる。
【0101】
前記疾患関連抗原(自己免疫疾患、アレルギー等)は、特に制限されないが、糖尿病、関節リウマチ、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、アトピー性皮膚炎、乾癬、シェーグレン症候群、円形脱毛症、クローン病、潰瘍性大腸炎、結膜炎、角結膜炎、喘息、アレルギー性喘息、直腸炎、薬疹、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳症、再生不良性貧血、赤芽球貧血症、特発性血小板減少症、ウェゲナー肉芽腫症、スティーブンス・ジョンソン症候群、間質性肺線維症等が挙げられる。具体例を挙げると、例えば、自己免疫疾患に関与する抗原の例として、グルタミン酸脱炭酸酵素65(GAD65)、天然DNA、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンプロテオリピドタンパク質、アセチルコリン受容体コンポーネント、サイログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体が挙げられる。
【0102】
前記移植片拒絶関連抗原としては、特に制限されないが、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、神経移植片コンポーネント等の移植片レシピエントに移植される移植片の抗原性コンポーネントが挙げられる。
【0103】
上述の抗原は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
抗原の含有量は、pH感受性担体を構成する両親媒性物質100nmolに対して、3.2〜400μgであることが好ましく、16μg〜80μgであることがより好ましい。
【0105】
抗原の組込率は、特に制限されず、抗原とアジュバント組成物が独立して存在してもよいが、3%以上であることが好ましく、5〜80%であることがより好ましく、10〜60%であることがより好ましい。組込率が3%以上であると、例えば、ワクチン組成物が細胞にエンドサイトーシスされる際に、抗原がアジュバント組成物と同じエンドソームに導入される可能性が高くなり、発明の効果を好適に得られうることから好ましい。なお、「抗原の組込率」は、主として抗原がアジュバント組成物に担持または包含された割合を意味し、その値は、実施例に記載の方法によって測定された値を採用するものとする。
【0106】
[添加剤]
ワクチン組成物は、他の医薬品添加剤を含んでいてもよい。
【0107】
使用されうる添加剤は、ワクチン組成物の剤型によって異なりうる。この際、ワクチン組成物は、錠剤、粉末、カプセルなどの固形製剤の形態であっても、注射製剤のような液体製剤の形態であってもよいが、液体製剤であることが好ましい。なお、液体製剤の場合には、用時に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供されてもよい。
【0108】
ワクチン組成物が錠剤およびカプセルである場合には、通常の方法により腸溶コーティングを施すことが望ましい。腸溶コーティングとしては、当該分野において通常用いられるものを利用できる。また、カプセルは粉末又は液体のいずれを含有することもできる。
【0109】
また、ワクチン組成物が固形製剤である場合には、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖のような糖類、トウモロコシデンプンのようなデンプン類、結晶セルロースのようなセルロース類、アラビアゴム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールなど)、結合剤(例えばマンニトール、ショ糖のような糖類、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉のようなデンプン類、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース類、架橋ポリビニルピロリドンなど)、着色剤、矯味矯臭剤などを含みうる。
【0110】
一方、ワクチン組成物が液体製剤である場合には、溶媒(例えば生理食塩水、滅菌水、緩衝液など)、膜安定剤(例えばコレステロールなど)、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、グルコース、グリセリンなど)、抗酸化剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなど)、防腐剤(例えばクロルブタノール、パラベンなど)などを含みうる。なお、前記溶媒は、ワクチン組成物の製造に用いる溶媒であってもよい。
【0111】
本発明の一実施形態によれば、ワクチン組成物は、抗原を効率良くクロスプレゼンテーションさせることにより、細胞性免疫を誘導することができる。これにより、例えば、CTLを誘導することができる。なお、本明細書において、「細胞性免疫を誘導する」とは、ワクチン組成物未処置のコントロールと対比して、高いCTLの誘導率が得られることを意味する。また、「CTLの誘導率」とは、全CD8陽性細胞中に占めるIFNγ産生細胞の割合を意味する。
【0112】
なお、本形態に係るアジュバント組成物は、投与に用いた抗原が同様であっても、自然免疫を活性化する物質を処置したコントロールと対比して、より高いCTL誘導率を示しうることから、細胞性免疫を増強する効果を有しうる。本明細書において、「CTL誘導増強効果を有する」とは、自然免疫を刺激する物質を単独で使用した場合と対比して、高いCTLの誘導率が得られることを意味する。したがって、CTL誘導増強効果が示された場合、細胞性免疫を誘導することも同時に示される。
【0113】
また、本発明の別の一実施形態によれば、ワクチン組成物は、液性免疫の免疫応答を誘導することができる。これにより、IgG等の抗体を産生することができる。この際、「液性免疫を誘導する」とは、ワクチン組成物未処置のコントロールと対比して高いIgG抗体価となることを意味する。
【0114】
なお、本形態に係るワクチン組成物は、自然免疫を活性化する物質を処置したコントロールと対比しても、より高いIgG抗体価を示しうることから、液性免疫を増強する効果を有しうる。
【0115】
[用途]
本形態のワクチン組成物は、対象者に投与して、ワクチン組成物の外部環境が生理的pH未満(例えば、pH6.5)となったときに、膜破壊機能促進効果、または膜破壊機能促進効果および膜融合機能促進効果を発現し、抗原を効率よく細胞質基質に放出させることが可能になる。そして、好適に細胞性免疫を誘導することができ、免疫を付与することができる。
【0116】
よって、本形態に係るワクチン組成物により、治療または予防を必要とする対象者に、上記のワクチン組成物の有効量を投与することを含む、疾患の治療または予防方法が提供される。
【0117】
ワクチン組成物の投与方法としては、特に制限はなく、経口投与;静脈内注射、動脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、髄腔内注射、経皮投与または経皮的吸収等の非経口的投与等が挙げられる。例えば、抗原としてペプチドおよびタンパク質を用いる場合は、非経口経路、特に皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、静脈注射による投与が好ましい。なお、抗原がアジュバント組成物に担持または包含されずに独立に混合されてなるワクチン組成物については、局所投与、具体的には、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与の形態で投与することが好ましい。
【0118】
上記の対象者は、哺乳動物が好ましく、特に好ましくはヒトである。
【0119】
上記疾患としては、例えば、ヒト免疫不全症候群(HIV)、肝炎、インフルエンザ等のウイルス感染症;百日咳、ジフテリア、破傷風、結核、ヘリコバクター・ピロリ、肺炎球菌等による細菌感染症;カンジダ等の真菌感染症;マラリア等の原虫性または寄生虫性感染症;白血病、リンパ腫、神経性腫瘍、メラノーマ、乳癌、肺癌、頭頸部癌、胃癌、結腸癌、肝癌、膵癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌、腟癌、精巣癌、前立腺癌、陰茎癌、骨腫瘍、血管腫瘍、口唇癌、上咽頭癌、咽頭癌、食道癌、直腸癌、胆嚢癌、胆管癌、喉頭癌、肺癌、膀胱癌、腎臓癌、脳腫瘍、甲状腺癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫等のガン;スギ花粉等によるアレルギー;糖尿病、関節リウマチ、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患;移植片対宿主病(GVHD)等の移植による拒絶反応が挙げられる。
【0120】
本発明の好ましい一実施形態によれば、疾患の治療または予防方法が提供される。このような知見は出願時の技術常識を適宜参照することができる。
【0121】
また、本発明の一実施形態において、ワクチン組成物は、培養により、細胞に抗原を輸送することもできる。すなわち、本発明の一形態によれば、抗原を細胞に輸送するための培養方法が提供される。
【0122】
前記培養方法は、細胞を、ワクチン組成物を含む培地で培養する工程を含む。
【0123】
前記培地としては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。具体的には、MEM、DMEM、RPMI等が挙げられる。
【0124】
前記培地へのワクチン組成物の添加量としては、特に制限されないが、両親媒性物質のモル濃度が0.66μmol/L〜1.0mmol/Lであることが好ましく、6.6μmol/L〜0.88mmol/Lであることがより好ましく、7.2μmol/L〜0.56mmol/Lであることがさらに好ましい。
【0125】
また、前記培地のpHは、7.0以上であることが好ましく、7.2〜7.8であることがより好ましい。培地のpHが7.0以上であると、培地中でのpH感受性担体を構成するpH感受性化合物の不安定化を防止できることから好ましい。
【0126】
前記細胞としては、特に制限されないが、対象者から採取された細胞、株化された培養細胞等が挙げられる。
【0127】
この際、前記対象者から採取された細胞または株化された培養細胞の具体例としては、樹状細胞、NK(Natural Killer)細胞、Tリンパ細胞、Bリンパ球細胞、リンパ球細胞等が挙げられる。
【0128】
上記細胞のうち、対象者から採取された細胞を用いることが好ましく、対象者から採取された樹状細胞、NK細胞、T細胞、リンパ細胞等を用いることがより好ましく、樹状細胞を用いることがさらに好ましい。
【0129】
対象者から採取された細胞を用いる場合には、対象者を採血、生検等により当該細胞を採取することができる。すなわち、一実施形態において、前記培養方法は、対象者から細胞を採取する工程を含みうる。
【0130】
なお、培養した細胞は、対象者に投与してもよい。これにより、対象者の疾患の治療または予防をすることができる。すなわち、本発明の一実施形態において、疾患の治療または予防方法が提供される。
【0131】
好ましい一実施形態において、前記治療または予防方法は、対象者から細胞を採取する工程と、ワクチン組成物を含む培地で前記採取した細胞を培養する工程と、前記培養した細胞を前記対象者に投与する工程と、を含む。
【0132】
これにより、疾患の治療または予防をすることができる。なお、前記疾患は上述のとおりである。
【0133】
<アジュバント組成物の製造方法>
本発明に係るアジュバント組成物は、特に制限されず、種々の方法により製造することができる。
【0134】
例えば、pH感受性担体と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質とが独立に存在するアジュバント組成物においては、pH感受性担体および自然免疫を活性化する刺激を有する物質を混合することにより製造することができる。また、自然免疫を活性化する刺激を有する物質が、pH感受性担体に担持または包含されるアジュバント組成物においては、pH感受性担体と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質とを会合させることにより製造することができる。
【0135】
以下、pH感受性担体として、所定のpH感受性化合物および所定の両親媒性物質を含み、膜破壊機能促進効果を有するpH感受性担体を用いる好ましい形態について、以下に詳細に説明する。
【0136】
本形態に係るアジュバント組成物の製造方法は、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を会合させる工程を含む。
【0137】
pH感受性化合物、両親媒性物質、および自然免疫を活性化する刺激を有する物質を会合させる方法としては、pH感受性化合物、両親媒性物質、および自然免疫を活性化する刺激を有する物質が、水性溶液中で接触すればよい。したがって、本形態に係るアジュバント組成物は、pH感受性化合物と、両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質とを、水性溶液中で接触させることにより製造することができる。
【0138】
pH感受性化合物と、両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質とを、水性溶液中で接触させる方法としては、これらが会合体を形成すれば特に制限されない。例えば、(1)pH感受性化合物を含む水性溶液と、両親媒性物質を含む水性溶液と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む水性溶液とを別々に調製し、これら水性溶液を混合し、当該溶液を、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて強く撹拌し分散させてアジュバント組成物を得る方法;(2)リポソームの製造法として公知であるバンガム法にて調製する方法等が挙げられる。なお、前記バンガム法の具体的な方法としては、例えば以下の方法で行うことができる。すなわち、ガラス容器中で、アジュバント組成物の構成成分を有機溶媒(例えば、メタノール、クロロホルム)に溶解し、ロータリーエバポレーターなどによって有機溶媒を除去して、ガラス容器の壁に薄膜を形成させる。次いで、水性溶液を、薄膜を形成したガラス容器に加えて、5〜35℃で薄膜を膨潤させた後、5〜35℃でガラス容器を振盪する。この際、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波を用いて強く撹拌し、薄膜を十分に水性溶液中に分散させることができる。バンガム法の方法の詳細は、公知のリポソームの製造方法を参考にすることができ、「リポソーム」(野島庄七、砂本順三、井上圭三編、南江堂)および「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田弘、吉村哲郎編、シュプリンガー・フェアラーク東京)に記載されている。また、上記の(1)製造方法において、両親媒性物質を含む水性溶液に、pH感受性化合物、自然免疫を活性化する刺激を有する物質を混合させてもよい。なお、水性溶液の溶媒としては、上述した水性溶液の溶媒を使用することができる。上記(1)の方法では、各水性溶液を調製する際の温度および水性溶液を混合する温度は、特に制限されないが、5〜35℃、好ましくは常温の15〜25℃であるのが好ましい。
【0139】
なお、水性溶媒を成分として含むアジュバント組成物に含有されうる安定化剤等の他の成分の添加方法は、特に制限されない。例えば、pH感受性化合物を含む水性溶液、両親媒性物質を含む水性溶液、および/または自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む水性溶液に添加していてもよいし、バンガム法により薄膜を調製する際に、アジュバント組成物の構成成分と一緒に溶解させて、これらの成分を含む薄膜を用いて、アジュバント組成物を含む水性溶液を得てもよい。
【0140】
<ワクチン組成物の製造方法>
本発明に係るワクチン組成物は、特に制限されず、種々の方法により製造することができる。具体的なワクチン組成物の製造方法としては、分散調製法、混合調製法、および凍結融解−凍結乾燥調製法等が挙げられる。
【0141】
(分散調製法)
分散調製法は、pH感受性化合物と、両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、抗原と、を混合する工程を含む。すなわち、ガラス容器の壁に、アジュバント組成物の構成成分を含む薄膜を形成させる。次いで、抗原を含む溶液を、薄膜を形成したガラス容器に加えて、5〜35℃で薄膜を膨潤させた後、ガラス容器を振盪する。この際、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波を用いて強く撹拌し、分散させる方法で、ワクチン組成物を調製する。または、ガラス容器の壁に、pH感受性化合物と両親媒性物質を含む薄膜を形成させ、次いで、抗原と自然免疫を活性化する刺激を有する物質とを、含む溶液を、薄膜を形成したガラス容器に加えて、5〜35℃で薄膜を膨潤させた後、ガラス容器を振盪する。この際、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波を用いて強く撹拌させる方法で、ワクチン組成物を調製する。
【0142】
前記抗原を含む溶液、および抗原と自然免疫を活性化する刺激を有する物質とを含む溶液は、下記混合調製法と同様のものまたは参考にして調製したものが用いられうる。
【0143】
(混合調製法)
混合調製法は、pH感受性化合物を含む溶液と、両親媒性物質を含む溶液と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む溶液と、抗原を含む溶液と、を混合する工程を含む。すなわち、混合調製法では、アジュバント組成物を、上記(1)および(2)の方法で調製する。たとえば、アジュバント組成物を(2)の方法で調製する場合は、アジュバント組成物の分散液と、抗原または抗原を含む溶液とを混合することでワクチン組成物を得ることができる。また、(1)の方法でアジュバント組成物を得る場合は、下記の溶液を準備するのが好ましい。
【0144】
pH感受性化合物を含む溶液
前記pH感受性化合物を含む溶液は、pH感受性化合物および溶媒を含む。また、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0145】
前記pH感受性化合物としては、上述したものが使用されうることからここでは説明を省略する。
【0146】
前記溶媒としては、緩衝剤、NaCl、グルコース、ショ糖などの糖類を含む水溶液の他、滅菌水等が用いられうる。これらのうち、ワクチン組成物を生体に好適に投与する観点から、生理食塩水、滅菌水、緩衝液を用いることが好ましい。
【0147】
前記pH感受性化合物を含む溶液におけるpH感受性担体の濃度は、pH感受性化合物のモル濃度が0.066μmol/L〜6.4mmol/Lであることが好ましく、0.66μmol/L〜5.6mmol/Lであることがより好ましく、0.72μmol/L〜3.6mmol/Lであることがさらに好ましい。
【0148】
両親媒性物質を含む溶液
前記両親媒性物質を含む溶液は、両親媒性物質および溶媒を含む。また、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0149】
前記両親媒性物質および前記溶媒としては、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
【0150】
前記両親媒性物質を含む溶液における両親媒性物質の濃度は、両親媒性物質のモル濃度が0.66μmol/L〜1.0mmol/Lであることが好ましく、6.6μmol/L〜0.88mmol/Lであることがより好ましく、7.2μmol/L〜0.56mmol/Lであることがさらに好ましい。
【0151】
自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む溶液
前記自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む溶液は、自然免疫を活性化する刺激を有する物質および溶媒を含む。また、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0152】
前記自然免疫を活性化する刺激を有する物質および前記溶媒としては、上述したものが使用されうることからここでは説明を省略する。
【0153】
前記自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む溶液における自然免疫を活性化する刺激を有する物質の濃度は、自然免疫を活性化する刺激を有する物質のモル濃度が、好ましくは0.14nmol/L〜0.227mmol/L、より好ましくは1.4nmol/L〜0.19mmol/L、さらに好ましくは1.6nmol/L〜0.12mmmol/Lである。
【0154】
抗原を含む溶液
前記抗原を含む溶液は、抗原および溶媒を含む。
【0155】
前記抗原および前記溶媒としては、上述したものが使用されうることからここでは説明を省略する。
【0156】
混合
上述のpH感受性化合物を含む溶液、両親媒性物質を含む溶液、自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む溶液、および抗原を含む溶液の混合方法は特に制限されない。
【0157】
得られた混合液は分散させることが好ましく、当該分散は、例えば、乳化機、ボルテックスミキサー、超音波などを用いて行うことができる。
【0158】
なお、一実施形態において、pH感受性化合物を含む溶液、両親媒性物質を含む溶液、自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む溶液、および抗原を含む溶液は、別途の溶液とせず、2種以上の混合液を使用してもよい。例えば、pH感受性化合物および自然免疫を活性化する刺激を有する物質を含む溶液を調製し、これを両親媒性物質を含む溶液、抗原を含む溶液と混合してもよい。
【0159】
(凍結融解−凍結乾燥調製法)
凍結融解−凍結乾燥調製法は、分散調製法または混合調製法により得られた溶液を凍結融解して融解液を調製する工程、当該融解液を凍結乾燥する工程を含む。
【0160】
融解液を調製する工程
融解液は、分散調製法または混合調製法により得られた溶液を凍結融解することにより調製することができる。
【0161】
凍結融解とは、溶液を凍結乾燥した後、得られた乾燥物を融解させることを意味する。
【0162】
凍結乾燥の方法としては、特に制限されないが、液体窒素、冷却したメタノール等を用いた水分を昇華させる方法が好ましい。
【0163】
また、乾燥物の融解方法としては、特に制限されないが、冷却して得られた乾燥物を昇温する方法、溶媒を添加する方法が好ましい。
【0164】
凍結乾燥する工程
本工程は、上記で得られた融解液を、凍結乾燥する工程である。
【0165】
凍結乾燥の方法は、上記と同様に特に制限されないが、液体窒素、冷却したメタノール等を用いた水分を昇華させる方法が好ましい。
【0166】
上述のワクチン組成物の製造方法のうち、抗原の凍結融解−凍結乾燥調製法を用いることが好ましい。凍結融解−凍結乾燥調製法によれば、抗原がアジュバント組成物に担持または包含されやすくなり、高い抗原の組込率が得られうる。より詳細には、凍結融解−凍結乾燥調製法によれば、凍結融解の段階において、凍結乾燥して得られた乾燥物を融解する際、融解は一定時間をかけて進行する。その結果、融解初期段階では、抗原およびアジュバント組成物は近接した状態となる。抗原およびアジュバント組成物は、一度近接した状態となると、その状態が解除されにくくなる。その結果、融解が完了した融解液中においても抗原およびアジュバント組成物は近接した状態は維持されうる。そして、このような状態で凍結乾燥をすると、抗原はアジュバント組成物に担持または包含されやすくなり、高い抗原の組込率が実現されうる。
【0167】
本発明の好ましい一実施形態によれば、pH感受性担体は、所定のpH感受性化合物および所定の両親媒性物質を含む。したがって、好ましい実施形態に係るワクチン組成物の製造方法は、デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、高級胆汁酸、グリコデオキシコール酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のpH感受性化合物と、炭素数10〜12のホスファチジルコリン、炭素数12〜18のポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、炭素数16〜18のソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸グリセロール、ジラウリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、ジオレイン酸グリセロール、ポリオキシエチレンヒマシ油およびα−トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種の両親媒性物質と、自然免疫を活性化する刺激を有する物質と、を会合させる工程;前記会合により得られた会合体に抗原を混合する工程;前記混合により得られた混合物を凍結融解する工程;および前記凍結融解により得られた融解物を凍結乾燥する工程を含む。
【実施例】
【0168】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0169】
<原料>
実施例では、下記の化合物を用いた。試薬名と製品名が同一の場合は製品名を省略した。
【0170】
(1)pH感受性化合物
・デオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・コール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・ウルソデオキシコール酸ナトリウム(東京化成工業社製)
・ケノデオキシコール酸(東京化成工業社製)
・ヒオデオキシコール酸(東京化成工業社製)
・グリコデオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)
・グリチルリチン酸モノアンモニウム(東京化成工業社製)
(2)両親媒性物質
・DDPC(1,2−ジデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−1010)
・DLPC(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME MC−1212)
・ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル(Tween20,80:東京化成工業社製)
・ソルビタン脂肪酸エステル(SPAN80:ナカライテスク社製−ソルビタンモノオレエート)
・ポリオキシエチレンヒマシ油(和光純薬工業社製、ポリオキシエチレン10ヒマシ油)
・α−トコフェロール(ナカライテスク社製、DL−α−トコフェロール)
(3)自然免疫を活性化する刺激を有する物質等
・MPL(Monophoshoryl Lipid A)(Sigma社製、リピッドA,モノホスホリル サルモネラ菌 セロタイプ/In Vivogen社製、Monophoshoryl Lipid A(synthetic)
・IFA(Freund‘s Incomplete Adjuvant:不完全フロイントアジュバント) (Santa Cruz Biotechnology社製)
・CpG−DNA(CpG−ODN:InvivoGen社製、ODN−2395)
・LPS(内毒素)(和光純薬工業社製、大腸菌O111由来フェノール抽出品)
(4)溶媒等
・注射用水:(大塚製薬株式会社製)
・MES−Na(メルク社製)
・塩化ナトリウム(関東化学社製)
・PBS Tabltes(Phosphate buffered saline:タカラバイオ社製)
・メタノール(ナカライテスク社製)
・クロロホルム(和光純薬工業社製)
・水酸化ナトリウム水溶液(0.1mol/L:ナカライテスク社製)
・塩酸(0.1mol/L、1mol/L:ナカライテスク社製)
・OVAペプチド:SIINFEKL,(ピーエイチジャパン委託合成)(以下、単に「ペプチド」とも称する。)
・OVAタンパク質:OVA(EndoFit Ovalbumin:InvivoGen社製社製)(以下、単に「OVA」とも称する。)
(5)培地等
・RPMI(ナカライテスク社製、RPMI 1640培地(液体))
・Penicillin−Streptamycin Mixed Solution(ナカライテスク社製)
・FBS(Fetal Bovine Serum,Centified,Heat Inactivatied,US Origin:Gibco社製)
(6)試薬
・EYPC(未水添卵黄ホスファチジルコリン:日油社製、COATSOME NC−50)
・リン脂質C−テストワコー(和光純薬工業株式会社製):リン脂質測定試薬
・Pyranine(東京化成工業社製):蛍光物質
・DPX(p−xylene−bis−pyridinium bromide:Molecular probes社製):消光剤
・Triton−X100(和光純薬工業社製):界面活性剤
・NBD−PE(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine−N(7−nitro−2−1,3−benzoxadiazol−4−yl)ammonium:AvAnti polar lipids社製)
・Rh−PE(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoehanolamine−N−(lissamine rhodamine B sulfonyl)ammonium:AvAnti polar lipids社製):蛍光標識脂質
・Rh−PE(1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoehanolamine−N−(lissamine rhodamine B sulfonyl)ammonium:Avanti polar lipids社製):蛍光標識脂質
・Bio−Rad DC Protein Assay Reagent A、B(Bio−Rad Laboratories社製):タンパク質定量キット
IsoFlow(Beckman Coulter社製):フローサイトメトリー専用シース液
・RBC lysis buffer(Santa Cruz Biotechnology社製):赤血球溶血バッファー
・細胞分散用コラゲナーゼ(和光純薬工業社製):細胞分散試薬
・Anti−CD11cFITC(eBioscience社製、Anti−Mouse CD11cFITC):フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗体
・Anti−CD80PE(eBioscience社製、Anti−Mouse CD80(B7−1)PE):R−フィコエリスリン(PE)標識抗体(以下、CD80PEとも称する。)
・Anti−CD86PE(eBioscience社製、Anti−Mouse CD86(B7−2)PE):PE標識抗体(以下、CD86PEとも称する。)
・Anti−CD40PE(eBioscience社製、Anti−Mouse CD40PE):PE標識抗体(以下、CD40PEとも称する。)
・Anti−mouse CD16/32 (BD バイオサイエンス社製)
・Cytofix/Cytoperm(BD バイオサイエンス社製):細胞固定・細胞膜透過キット
・BD Stain Buffer:染色用バッファー
・BD GolgPlug:細胞刺激キット
・Anti−CD8αPE(eBioscience社製):PE標識抗体
・Mouse IFNγ ELISPOT Set(BD バイオサイエンス社製)
・AEC Substrate Set(BD バイオサイエンス社製)
・炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業社製)
・炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
・二次抗体(anti−mouse IgG HRP conjugate、R&D system社製)
・アルブミン(Albumin from bovine serum、Sigma社製)
・ペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト株式会社製)
(7)動物
雌、C57BL/6Nマウス(6−8週齢)は日本エスエルシーより購入した。実験はテルモ株式会社における動物実験に関する指針に従って実施した。
【0171】
<試料の調製等>
・MES Buffer
MES:25mM、NaCl:125mMの配合量で調製した。MES Bufferは、特別な記載のない限りpHは7.4である。
・PBS
PBS Tabltes(タカラバイオ社製)を用いて調製した。具体的には、PBS Tabltes10錠を蒸留水に溶解し、全量を1000mLとして調製した。なお、pHは、7.35〜7.65である。
・MPLストック溶液の作製
MPLのストック溶液は、クロロホルム、メタノール(7:3)の混合溶液を用いて、100ng/μLとなるように調製した。また、必要であればさらに希釈して使用した。
・RPMIメディウム
抗生物質としてペニシリン(100unit/mL)およびストレプトマイシン(100mg/mL)を添加し、必要に応じてFBSを追加で添加し、10%血清含有RPMIメディウムとした。
【0172】
<使用機器>
超音波照射機:USC−J
分光光度計:FP−6500
フローサイトメーター:(FC500,ソフトウェア:CXP Software ver2)
UV−vis分光光度計:UV−3600
凍結乾燥機:EYELA FREEZE DRYER FDU506
真空ポンプ:GCD135XA
CO、インキュベーター:MCO20AIC
分離用フィルター:Amicon Ultra 30K
<細胞の培養>
細胞の培養は、5%CO、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC)を用いて実施した。
【0173】
(アジュバント組成物およびワクチン組成物の調製)
分散調製法による製造
メタノール(またはクロロホルム)に溶解した1000nmolの両親媒性物質と、メタノール(またはクロロホルム)に溶解したpH感受性化合物と、MPLのストック溶液とを10mLナスフラスコで混合し、ロータリーエバポレーターを用いて薄膜とした。
【0174】
作製した薄膜に1.0mLのMES Buffer(溶出性試験および膜融合試験の場合)または1.0mLのPBS(組込率の測定、自然免疫を活性化する刺激の評価、マウスへの免疫の場合)を添加し、超音波照射装置を用いて分散させ、アジュバント組成物の分散液を調製した。ワクチン組成物の場合は、所定量の抗原を溶解させたMES BufferあるいはPBSを使用した。
【0175】
なお、両親媒性物質とpH感受性化合物との比率は、所望の比率となるよう調整した。また、複数の両親媒性物質を使用する場合は、両親媒性物質の総量が、所望のモル数(1000nmol)となるように調整した。また、実施例や図の説明におけるpH感受性化合物の使用量は、100nmolの両親媒性物質に対する使用量である。
【0176】
混合調製法による製造
メタノール(またはクロロホルム)に溶解した1000nmolの両親媒性物質と、メタノール(またはクロロホルム)に溶解したpH感受性化合物と、MPLのストック溶液とを10mLナスフラスコで混合し、ロータリーエバポレーターを用いて薄膜とした。得られた薄膜に、0.5mLのMES Buffer(溶出性試験および膜融合試験の場合)または0.5mLのPBS(組込率の測定、自然免疫を活性化する刺激の評価、マウスへの免疫の場合)を添加し、5〜35℃で超音波照射装置を用いて分散させ、アジュバント組成物の分散液を調製した。
【0177】
得られたアジュバント組成物の分散液に、種々の濃度の抗原溶液を等量添加し、混合することで、ワクチン組成物の分散液を調製した。
【0178】
凍結融解−凍結乾燥調製法による製造
混合調製法と同様の方法で、アジュバント組成物の分散液を調製した。得られたアジュバント組成物の分散液に、種々の濃度の抗原溶液を等量添加し、凍結融解および凍結乾燥を順次行った。得られた凍結乾燥物を5〜35℃で1.0mLの注射用水にて再分散させることで、ワクチン組成物の分散液を調製した。
【0179】
なお、凍結融解は、10mLナスフラスコを冷却したメタノールに浸漬させ、分散液を凍結させた後、さらに5〜35℃での蒸留水に浸漬させることで行った。
【0180】
また、凍結乾燥は、凍結乾燥機(EYELA FREEZE DRYER FDU506)と真空ポンプ(GCD135XA)を用いて、分散液を凍結乾燥させた。
【0181】
CpG−DNA(CpG−ODN)を用いる場合は、1000nmolの両親媒性物質と、所定量のpH感受性化合物からなる混合薄膜を作製し、0.5mLのPBSと超音波照射装置によって分散液とした。さらに、所定量のCpG-DNAと、所定量の抗原を溶解させた0.5mLのPBSを添加し、実験に使用した。
【0182】
(比較試料の調製)
比較試料として、MPL単独の分散液(MPL分散液)、両親媒性物質単独の分散液、pH感受性担体単独の分散液をそれぞれ調製した。なお、マウスへの免疫を実施する場合は、さらに所定量の抗原を含む。
【0183】
すなわち、MPLストック溶液またはメタノール(またはクロロホルム)に溶解した両親媒性物質もしくはpH感受性担体を10mLナスフラスコに所定量添加し、ロータリーエバポレーターにより薄膜とした。得られた薄膜に1.0mLのMES Buffer(溶出性試験および膜融合試験の場合)または1.0mLのPBS(組込率の測定、自然免疫を活性化する刺激の評価、マウスへの免疫の場合)を添加し、超音波照射装置を用いて分散させることで、MPL単独の分散液、両親媒性物質単独の分散系、またはpH感受性担体単独の分散液を調製した。CTL誘導率を評価する場合は、所定量の抗原を溶解させたPBSを使用した。
【0184】
<測定方法>
(溶出性試験:Leakage(溶出率)の測定)
Leakage(溶出率)は、K.Kono et al. Bioconjugate Chem. 2008 19 1040−1048に記載の方法に従い、蛍光物質であるPyranineと消光剤であるDPXとを内包したEYPCリポソームを用いて評価した。
【0185】
クロロホルムに溶解させた3000nmolのEYPCを10mLナスフラスコに測り入れ、ロータリーエバポレーターを用いて薄膜とした。Pyranine溶液(Pyranine:35mM、DPX:50mM、MES:25mM、pH7.4)500μLを加え、超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させた後、エクストルーダーを用いて孔径100nmのポリカーボネート膜を通し、粒子径を揃えた。MES BufferとG100カラムを用いて外水層の置換を行い、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液を得た。リン脂質C−テストワコーを用いてリン脂質の濃度を求め、リン脂質が1.0mmol/LとなるようにMES Bufferを用いて濃度を調整した。
【0186】
濃度を調製したEYPCリポソーム分散液20μLと、評価サンプル分散液20μLを、pHを調整した2960μLのMES Bufferに投与し、37℃にて90あるいは30分間インキュベーションした後(実施例において、特別な記載のない限り、90分間の結果である)、分光光度計FP−6500を用いてEx416、Em512nmの蛍光を観察することにより、Leakageをモニターした。
【0187】
なお、EYPCリポソーム分散液のみの場合を0%とし、10倍希釈したTriton−X100を30μL加えた場合の値を100%として、溶出率を算出した。具体的には、溶出率は、下記式に従って計算した。なお、下記式中において、測定した蛍光強度をLとし、蛍光物質を内包したEYPCリポソーム分散液のみの蛍光強度をL、Triton−X100を加えた場合の蛍光強度をL100と表す。
【0188】
【数3】
【0189】
(膜融合試験:Fusion(膜融合)の測定)
Fusion(膜融合)は、K.Kono et al.Biomaterials 2008 29 4029−4036に記載の方法に従い、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用して評価した。蛍光標識は、NBD−PE、Rh−PEを用いた。
【0190】
EYPCに対して0.6mol%のNBD−PE、およびRh−PEを含むEYPC(EYPC1000nmol)の薄膜を作製し、1.0mLのMES Bufferを加え、超音波照射装置(USC−J)を用いて分散させた後、エクストルーダーを用いて孔径100nmのポリカーボネート膜を通し、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液を得た。
【0191】
二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液20μLと、評価サンプル分散液20μLを、pHを調製した2960μLのMES Bufferに投与し、37℃にて60分間インキュベーションした後、分光光度計(FP−6500)を用いて450nmの励起光による500nm〜620nmの蛍光スペクトルを測定し、520nmと580nmとの蛍光強度比を求めた。
【0192】
融合率は、上記で得られた二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と両親媒性物質とをインキュベーションした場合の蛍光強度比を0%とし、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と、評価サンプル分散液と、をメタノール処理したものを100%として算出した。なお、メタノール処理は二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と評価サンプル分散液との両者をメタノールに溶解させた後、ロータリーエバポレーターを用いて薄膜とし、3.0mLのMES Bufferと超音波照射装置を用いて分散させて実施した。
【0193】
具体的には、融合率は、下記式に従って計算した。なお、下記式中において、測定して得られた蛍光強度比をRとし、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と両親媒性物質とをインキュベーションした場合の蛍光強度比をR、二重蛍光標識したEYPCリポソーム分散液と評価サンプル分散液をメタノール処理して得られた蛍光強度比をR100と表す。
【0194】
【数4】
【0195】
(組込率の測定)
組込率の評価は、抗原が、単独であるとフィルターを通過し、アジュバント組成物に担持または包含されたものであるとフィルターを通過しないことを利用して、下記のように実施した。
【0196】
アジュバント組成物および抗原を含む分散液を、室温、7000rpm、10分の条件にて、Amicon Ultra 30Kのフィルターを通した。
【0197】
フィルター前後の抗原を測定することで、組込率を算出した。フィルター前後において、Lowry法により抗原の呈色を行い、UV−vis分光光度計で750nmの吸光度を測定し、下記式に従って組込率を算出した。なお、呈色には200μLを用いて実施した。また、下記式中において、フィルター前の分散液の抗原の呈色に基づく吸光度をAbeforeとし、フィルター後の分散液の抗原の呈色に基づく吸光度をAafterとし、PBSを用いた場合の吸光度をABufferとした。すなわち、分子はフィルターを通過しなかった抗原、つまりアジュバント組成物に組み込まれた(担持または包含された)抗原を表す。
【0198】
【数5】
【0199】
(自然免疫を活性化する刺激の評価)
自然免疫を活性化する刺激の評価は、下記に従って実施した。
【0200】
すなわち、C57BL/6Nマウスの脾臓を摘出し、2mg/mLのコラゲナーゼ溶液500μL(RPMIメディウムを用いて調製)を摘出した脾臓に注射し、37℃にて30分間インキュベートした。BD Falconセルストレーナーを用いて脾臓を処理し、細胞懸濁液とした。RBC lysis bufferを用いて溶血操作を行った後、RPMIメディウムを用いて細胞を洗浄した。細胞をRPMIメディウムにて分散した後、細胞数をカウントし、次の操作に使用した。
【0201】
96well dishに、1.0×10cells/100μLとなるように細胞を播種した後、各種分散液を含むRPMIメディウム100μLをさらに添加し、一晩インキュベーションした。これらの操作は、血清非含有RPMIメディウムを用いて行った。
【0202】
細胞を回収し、BD stain bufferを用いて洗浄した後、0.25μg/100μLのAnti−CD11cFITCとインキュベーションし(4℃、30分)、細胞を染色した。細胞を洗浄した後、さらに0.25μg/100μLのAnti−CD80PE、Anti−CD86PE、またはAnti−CD40PEとインキュベーションし(4℃、30分)、染色した。細胞を少なくとも3回以上洗浄した後、フローサイトメーター(Cytomics FC500,ソフトウェア:CXP software ver2)を用いて細胞の評価を行った。
【0203】
(マウスへの免疫)
投与は麻酔下にて実施し、背部1箇所に100μL/headにて皮下注射した。両親媒性物質は100nmol/headとし、pH感受性化合物は10〜640nmol/head、MPL含率は0.0227〜22.7nmol/headとした。抗原量は、3.2〜400μg/headとした。細胞性免疫を評価する場合は、投与を1回とし、投与から7日後にアッセイを実施した。液性免疫を評価する場合は、投与を2回とした。初回投与から14日後に2回目の投与を実施し、2回目の投与から7日後にアッセイを実施した。
【0204】
(マウス脾臓からの細胞分散液の調製)
最終の投与から7日目においてマウスを安楽死させ、脾臓を摘出した。3.0mLの10%血清含有RPMIメディウムを添加した後、BD Falconセルストレーナーを用いて脾臓を処理し、細胞懸濁液とした。RBC lysis bufferを用いて溶血操作を行った後、10%血清含有RPMIメディウムを用いて細胞を洗浄した。細胞を10%血清含有RPMIメディウムにて分散した後、細胞数をカウントし、脾臓の細胞分散液を得た。
【0205】
(CTL誘導率の評価−ICS法)
脾臓の細胞分散液を10%血清含有メディウムにて1.0×10cells/100μLとなるように播種した。抗原の再刺激として、40μg/mLのOVAペプチドを含む10%血清含有RPMIメディウム100μLを添加し、3時間インキュベーションした。その後、BD GolgiPlugを0.2μL/100μLとなるように加え、一晩培養した。再刺激を加えない場合は、OVAペプチドを含まない10%血清含有RPMIメディウムを使用した。
【0206】
細胞を回収し、BD stain bufferを用いて洗浄した後、Anti−mouse CD16/32を添加し、4℃にて10分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、Anti−CD8αPEにて細胞を染色し(4℃、30分)、再度、細胞を洗浄した。その後、Cytofix/Cytopermを用いて細胞を透過処理し、洗浄した後、Anti−IFNγFITCにて細胞を染色した(4℃、30分)。細胞を少なくとも3回以上洗浄した後、フローサイトメーター(Cytomics FC500,ソフトウェア:CXP software ver2)を用いて細胞の評価を行った。CTL誘導率は、全CD8陽性細胞中に占めるIFNγ産生細胞の割合として算出した。
【0207】
(ELIspot法)
ELIspot法は、Mouse IFNγ ELISPOT Setを用いて実施した。細胞を播種する前日に、96well ELIspotプレートにキットに付属のdetection antibodyを吸着させて、プレートを作製した。作製したプレートを10%血清含有RPMIメディウムにて洗浄した後、200μLの10%血清含有RPMIメディウムを添加し、37℃にて2時間静置しブロッキングを行った。10%血清含有RPMIメディウムにてプレートを洗浄した後、抗原の再刺激を加える場合は、40μg/mLのOVAペプチドを含む10%血清含有RPMIメディウム100μLをプレートに添加し、抗原の再刺激を加えない場合は10%血清含有RPMIメディウム100μLをプレートに添加した。前記プレートに、脾臓の細胞分散液を所定の細胞数となるように播種し、最後に、10%血清含有RPMIメディウムを用いて1穴あたりの全量が200μLとなるように、調整した。その後、二晩培養し、プレートの呈色を行った。
【0208】
プレートの呈色は、Mouse IFNγ ELISPOT Set、およびAEC Substrate Setに記載のプロトコールに従って実施した。
【0209】
(抗体価の測定)
2回目の投与から7日後に採血を実施し、血清を得た。500mLのPBSに5gのアルブミンを溶解し、Block bufferとした。1.47gの炭酸水素ナトリウムと0.80gの炭酸ナトリウムを500mLの水に溶解させ、Coating Bufferとした。プレートの洗浄には、500mLのPBSに2.5mLのTween20を添加したものを使用した。
【0210】
OVAタンパク質をCoating Bufferに溶解させ、0.1μg/well(100μL)となるように、96wellプレートに添加した。37℃にて2時間静置した後、300μLのBlock bufferと置換し、4℃にて一晩静置した。プレートを洗浄した後、所定の倍率に希釈した血清を各wellに100μL添加し、37℃にて2時間静置した。プレートを洗浄した後、Block bufferにて1000倍希釈した二次抗体溶液を各wellに100μL添加し、37℃にて2時間静置した。プレートを洗浄した後、ペルオキシダーゼ用発色キットを用いて発色を行い、抗体価を求めた。
【0211】
[評価]
前記記載の方法に従って調製した分散液を用いて各種評価を行った。
【0212】
(1)免疫応答の誘導
細胞性免疫の誘導について検討した。アジュバント組成物の両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。MPL含率は0.227とし、モデル抗原としてOVAペプチド(以下、「ペプチド」とも称する)を選択した。この際、MPL含率とは100nmolの両親媒性物質に対するMPLの量(nmol)であり、pH感受性化合物の量は100nmolの両親媒性物質に対する量である。
調製法は分散調製法である。
【0213】
また、比較試料としては、ペプチド単独の溶液、pH感受性担体(DLPC−デオキシコール酸)およびペプチドの分散液、不完全フロイントアジュバント(IFA)およびペプチドの溶液を用いた。上記の溶液または分散液を、それぞれC57BL/6Nマウスの背部皮下に1回投与し、脾臓におけるIFNγ産生細胞数を測定し、CTLの誘導を評価した。
【0214】
具体的な評価は、ELIspot法により行った。得られた結果を図2に示す。評価条件は、2×10cells/wellである。図2の(A)は、IFNγのspot形成数を評価したグラフであり、(B)はペプチド単独を用いた場合のSpot形成の様子であり、(C)は、ペプチドと、MPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(アジュバント組成物)を用いた場合のSpot形成の様子である。ペプチド単独は未処置と同等のspot数であり、CTLは誘導されなかった(図2(A))。また、MPLを含まないDLPC−デオキシコール酸複合体も未処置と同等のspot数であり、CTLの誘導には至らなかった(図2(A))。これは興味深い結果であり、CTLの誘導には自然免疫を活性化する刺激が必要であることを示している。
【0215】
一方、アジュバント組成物であるMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体を用いた場合は、未処置やペプチド単独に比べて多数のspotを形成した(図2(A)〜(C))。spot数はポジティブコントロールのIFAと同等であったことから、IFAと同程度に強くCTLを誘導したものと考えられる。IFAはCTLを誘導するアジュバントとして臨床試験に広く使用されており、同等の活性をもつ本発明は臨床における有効性が期待される。
【0216】
(2)MPLとの比較
MPLは自然免疫を活性化し、単独でもアジュバントとして機能することが知られている。また、細胞性免疫を誘導することが知られている。そこで、抗原と共に投与するものとして、MPLを単独で使用した場合と、MPLをpH感受性担体と共に使用した場合(アジュバント組成物)における、細胞性免疫の誘導を比較した。なお、抗原は80μgのペプチドを使用し、MPLはMPL含率0.227あるいは前記に相当する量を使用した。アジュバント組成物は、上記(1)と同様、MPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体の分散液とした。上記の溶液または分散液を、それぞれC57BL/6Nマウスの背部皮下に1回投与し、ICS法によりCTL誘導率を求めた。この際、CTL誘導率は、死細胞の影響を受けにくい所定の領域における全CD8陽性細胞に対するIFNγ産生細胞の割合(IFNγ産生細胞/全CD8陽性細胞)である。
【0217】
得られた結果を図3に示す。図3の(A)は、ペプチドの溶液(ペプチド単独)を用いた場合の結果であり、(B)はペプチドと、MPL分散液(MPL単独)を用いた場合の結果であり、(C)はペプチドと、MPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(アジュバント組成物)を用いた場合の結果である。
【0218】
ペプチドとMPL分散液を用いた場合のCTL誘導率は0.27%であり、ペプチド単独を用いた場合(0.14%)に比べて、僅かに高い値となった(図3(A)、(B))。また、ペプチドとMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体を用いた場合のCTL誘導率は0.53%となり、MPL分散液の場合と比べて、高い値となった(図3(B)、(C))。同様の抗原を用いたにも関わらず、MPLを含むpH感受性担体(アジュバント組成物)は、MPL分散液を用いた場合よりも高いCTL誘導率を示した。この結果は、アジュバント組成物のCTL誘導増強効果を示している。
【0219】
以上の結果により、MPLのCTL誘導効果はpH感受性担体によって増強されることが示された。pH感受性担体の膜破壊機能促進効果が、細胞質基質への抗原のデリバリーを可能とし、クロスプレゼンテーションの促進を通じてCTL誘導効果を増強したものと考えられる。
【0220】
(3)調製方法の検討
ワクチン組成物は、抗原とアジュバント組成物を含む。ワクチン組成物の調製方法を検討することにより、アジュバント組成物のCTL誘導増強効果を、より高めることが出来ると考え、検討を行った。
【0221】
分散調製法、混合調製法、および凍結融解−凍結乾燥調製法を用いてワクチン組成物の分散液を調製し、上記(2)と同様の方法で、CTL誘導率を求めた。両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。MPL含率は0.227とし、抗原は80μgのペプチドとした。
【0222】
得られた結果を図4に示す。図4の(A)は、MPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(分散調製法)を用いた場合の結果であり、(B)はMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(混合調製法)を用いた場合の結果であり、(C)はMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体(凍結融解−凍結乾燥調製法)を用いた場合の結果である。
【0223】
分散調製法、混合調製法、および凍結融解−凍結乾燥調製法によって調製したワクチン組成物は、いずれもMPL単独よりも高いCTL誘導率を示した(0.53%、0.54%、1.47%、図4(A)〜(C))。このため、ワクチン組成物中における、アジュバント組成物は、いずれの調製方法においてもCTL誘導増強効果を有することが確認された。特に、凍結融解−凍結乾燥調製法により調製したワクチン組成物は、非常に高いCTL誘導率を示しており、凍結融解−凍結乾燥調製法は、ワクチン組成物中におけるアジュバント組成物に対して、高いCTL誘導増強効果を与えることが明らかとなった(図4(C))。
【0224】
(4)組込率の評価
(3)において、凍結融解−凍結乾燥調製法により調製されたワクチン組成物は、非常に高いCTL誘導率を示した。
【0225】
アジュバント組成物への抗原の組込が、細胞質基質へのデリバリー効率の向上をもたらし、高いCTL誘導増強効果をもたらしたと考えられる。そこで、アジュバント組成物への抗原の組込率を評価した。まず、評価系の確認を行った。ペプチド単独の溶液では、フィルター前後においてLowry法の吸光度に変化はなく、ペプチドはフィルターに捕獲されなかった(図5(A))。一方、テストワコーによる吸光度はフィルターにより、ほぼ完全に消失し(図5(B))、アジュバント組成物はフィルターによって捕獲されることが明らかとなった。以上より、本評価系によりアジュバント組成物への抗原の組込率を評価可能であると考えた。
【0226】
図5の(C)は、分散調製法、混合調製法、および凍結融解−凍結乾燥調製法によってワクチン組成物を調製し、組込率の評価を行った結果である。分散調製法は5%前後と低い組込率であり、混合調製法においても低い組込率であった。一方、凍結融解−凍結乾燥調製法は、最大で約60%の組込率であった(図5(C))。凍結融解−凍結乾燥調製法により調製したワクチン組成物は、アジュバント組成物と抗原が高い割合で一体となっていることが示された。なお、両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。MPL含率は0.227である。
【0227】
凍結融解−凍結乾燥調製法は、抗原の高い組込率を実現し、アジュバント組成物と抗原が同一のエンドソームに取り込まれる確率を高めたと考えられる。その結果、膜破壊機能促進効果による細胞質基質デリバリーが効率良く実現し、上記(3)の結果でも示されたような高いCTL誘導増強効果に繋がったと考えられる。
【0228】
(5)MPLの量について
上述の(1)の結果において、MPLを含まないDLPC−デオキシコール酸複合体を用いた場合は、CTLの誘導には至らなかったことが確認された。これは、pH感受性担体をアジュバント組成物として利用するためには、自然免疫を活性化する物質が必要であることを示している。そこで、nature materials 2011 vol:10(3) 243−251やCancer Res. 2011 71 2858−2870の報告を参考にマウス脾臓細胞を用いたex vivo実験を行うことで、自然免疫を活性化する刺激の強さを調べた。これにより必要なMPLの量を求めた。
【0229】
まず、評価系の確認を行った。
【0230】
図6に、評価系の確認を行った結果を示す。図6の(A)は、培養したマウス脾臓細胞を染色せずに評価したフローサイトメトリーの結果であり、死細胞の領域を調べたものである。図6の(B)および(C)は培養したマウス脾臓細胞にPBS単独、LPSを400ng/mLの濃度で添加し、CD80の発現増強を確認した結果である。図6の(D)は種々の濃度でLPSを添加した場合における、フローサイトメトリーの結果をまとめたグラフである。図6の(E)および(F)は、他の補助刺激分子であるCD86、およびCD40の発現増強を確認した結果である。
【0231】
モニターした領域において、CD80PEの蛍光強度がLPS量に依存して増大した(図6(B)〜(D))。また、他の補助刺激分子であるCD86やCD40も同様に増強された(図6(E)、(F))。以上から本評価系により、自然免疫を活性化する刺激の強さが評価可能であることを確認した。
【0232】
次に、MPLの含有量を適宜変更し、アジュバント組成物による、自然免疫を活性化する刺激の評価を行った。得られた結果を図7に示す。アジュバント組成物の両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。また、比較試料としては、PBS、pH感受性担体(DLPC−デオキシコール酸)の分散液、リポ多糖(LPS)の溶液を用いた。
【0233】
図7の(A)は、CD80の産生増強を評価した結果であり、(B)および(C)は、他の指標であるCD86、CD40の発現増強を評価した結果である。MPLを含まないDLPC−デオキシコール酸複合体は、0.1μLと10μLの、いずれの添加量においてもPBS単独と同等の蛍光強度であり、自然免疫を活性化する刺激は認められなかった(図7(A))。一方、MPL含率を増大させた場合、得られる蛍光強度は増大し、自然免疫を活性化する刺激も増大する傾向であることが明らかとなった(図7(A))。この際、MPL含率が、0.00227の場合、MFI(蛍光強度)の値は、41.6であり、PBS単独のMFI(39.1)およびMPL含率がゼロの場合(pH感受性担体)のMFI(38.8)よりも大きい値となった。また、MPL含率が、2.27である場合および22.7である場合のMFIの値を対比すると、それぞれ69.1および70.9であり、自然免疫を活性化する刺激に若干の飽和が見られた(図7(A)値は添加量10μLのもの)。
【0234】
なお、他の共刺激分子であるCD40やCD86の産生増強も確認されたことから、これらのアジュバント組成物は確かに自然免疫を活性化する刺激を有していることが確認された(図7(B)、(C))。
【0235】
(6)細胞性免疫の増強と自然免疫の活性化について
ここで、細胞性免疫の増強と自然免疫の活性化について、相関を検証した。
【0236】
まず、(1)において、CTLの誘導に至らなかった、MPLを含まないDLPC−デオキシコール酸複合体は、(5)において、自然免疫を活性化する刺激は認められなかった。図8(A)は、さらに詳細を調べた結果である。MPLを含まないDLPC−デオキシコール酸複合体を0.5μLから50μLで添加した場合においても、CD80PEの蛍光強度はPBSのそれから増加せず、MPLを含まないDLPC−デオキシコール酸複合体は、自然免疫を活性化する刺激を有していないことが明らかとなった(図8(A))。
【0237】
一方、(2)においてCTL誘導増強効果を示したアジュバント組成物のMPL含率は0.227であり、(5)において、確かに自然免疫を活性化する刺激が認められている。以上より、細胞性免疫の増強と、自然免疫の活性化は相関していると考えられる。
【0238】
なお、図8(B)は、種々のサンプルにおいて、培養したマウス脾臓細胞に5μLの溶液を添加し、CD80の産生増強(自然免疫の活性化)を調べた結果である。ペプチドおよびOVA溶液は800μg/mL、DLPC単独は1000nmol/mL、デオキシコール酸単独は1600nmol/mLの溶液を使用した結果である。
【0239】
ペプチド単独、OVA単独、DLPC単独、およびデオキシコール酸単独を添加した場合、CD80PEの蛍光強度は、PBSを添加した場合と変わらず、自然免疫を活性化する刺激は認められなかった(図8(B))。
【0240】
(7)膜破壊機能促進効果に及ぼす影響
(7−1)MPLの影響
アジュバント組成物の膜破壊機能促進効果に及ぼすMPL含有の影響を調べた。結果を図9に示す。図9の(A)は、MPL含率0.227に相当する量のMPLを、溶出性試験の評価系に投与した場合の溶出率であり、(B)はMPL含有DLPC−デオキシコール酸複合体の各pHにおける溶出率であり、(C)は、MPL含率を変化させた場合のDLPC―デオキシコール酸複合体のpH7.4とpH5.0における溶出率である。
【0241】
MPLを、PBSあるいはDMSOに分散させてセル中に添加し、低pHにおける溶出率の増大を調べたところ、いずれの場合においても、PBS単独と同等であった。(図9(A))。MPLは溶出を引き起こす性質を有していないことが示された。
【0242】
次に、MPLを種々の割合でpH感受性担体に含有させて、アジュバント組成物とし、種々のpHにおける溶出率を調べた。MPL含率が、0.227や、2.27である場合であっても、各pHにおける溶出率は、通常のpH感受性担体(DLPC−デオキシコール酸複合体)と一致する値を示した(図9(B))。したがって、膜破壊機能促進効果を発現するpHに対して、MPL含有の影響は小さいことが示された。また、pH5.0の溶出率をモニターし、広範囲のMPL含率の影響を調べたところ、MPL含率が22.7においても、溶出率は通常のpH感受性担体(MPL含有割合=0)と変化がなかった(図9(C))。膜破壊機能促進効果に及ぼすMPL含有の影響は小さいことが改めて確認された。含有されるMPLが、pH感受性担体の両親媒性物質に対して少量であるため、MPLによる膜破壊機能促進効果に及ぼす影響は少ないものと考えられる。
【0243】
(7−2)調製方法の影響
抗原とアジュバント組成物からなる、ワクチン組成物において、膜破壊機能促進効果に及ぼす、調製方法の影響を調べた。図10は、分散調製法、混合調製法、凍結溶融−凍結乾燥法により調製したワクチン組成物におけるpH7.4とpH5.0の溶出率である。なお、ワクチン組成物の両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物はデオキシコール酸を使用した。MPL含率は0.227であり、複合化量は160nmolである。15μgのペプチドを使用した。
【0244】
いずれの調製方法によるワクチン組成物においても、pH7.4とpH5.0における溶出率は同様の値を示したことから、ワクチン組成物の調製方法の相違は、膜破壊機能促進効果に影響を及ぼさないことを確認した(図10)。
【0245】
(7−3)pH感受性化合物の複合化量の影響
図11は、アジュバント組成物の膜破壊機能促進効果に及ぼす、MPL含有の影響を、種々のデオキシコール酸複合化量において調べた結果である。アジュバント組成物の両親媒性物質はDLPCとし、デオキシコール酸の複合化量は(A)10、(B)20、(C)640nmolである。MPL含率は、0.0227および22.7のものを使用した。比較試料としては、DLPC単独、デオキシコール酸単独、pH感受性担体(MPL不含)を用いた。溶出率は、pH7.4とpH5.0の条件で測定した。
【0246】
まず、MPLを含まないアジュバント組成物(pH感受性担体、図中:MPL不含)は、いずれの複合化量においても、膜破壊機能促進効果を発現した(図11(A)〜(C))。次に、MPL含率が0.0227および22.7であるアジュバント組成物の溶出率は、pH7.4およびpH5.0の双方において、MPLを含まないアジュバント組成物の溶出率と同様の値を示しており、同程度の膜破壊機能促進効果を有していた(図11(A))。また、同様の結果は、複合化量が20および640のアジュバント組成物においても確認された(図11(B)、(C))。これらの結果は、いずれの複合化量のアジュバント組成物においても、MPLの含有は膜破壊機能促進効果に影響を及ぼさないことを示している。
【0247】
pH感受性化合物の複合化量の相違により、MPLの含有による膜破壊機能促進効果への影響はないことを確認した(図11)。
【0248】
(7−4)両親媒性物質またはpH感受性化合物の種類による影響
アジュバント組成物の膜破壊機能促進効果に及ぼす、両親媒性物質およびpH感受性化合物の種類の影響を調べた。
【0249】
表1および表2に、それぞれ、種々の両親媒性物質を用いて調製したアジュバント組成物の膜破壊機能促進効果と、種々のpH感受性化合物を用いて調製したアジュバント組成物の膜破壊機能促進効果を評価した結果を示す。
【0250】
【表1】
【0251】
【表2】
【0252】
まず、いずれの両親媒性物質やpH感受性化合物においても、調製したpH感受性担体(表中、MPL:0)は、膜破壊機能促進効果を発現した(表1、表2)。次に、MPLを含むアジュバント組成物(表中、MPL:0.227)は、いずれの両親媒性物質やpH感受性化合物を用いて調製した場合においても、pH7.4とpH5.0の双方において、MPLを含まないアジュバント組成物、すなわちpH感受性担体と同様の溶出率となり、同様に膜破壊機能促進効果を有していた(表1、表2)。これらの結果は、いずれの両親媒性物質や、いずれのpH感受性化合物を用いて調製したアジュバント組成物においても、MPLの含有は膜破壊機能促進効果に影響を及ぼさないことを示している。
【0253】
両親媒性物質またはpH感受性化合物の種類の相違は、MPLの含有による膜破壊機能促進効果への影響に対して、無関係であることを確認した。
【0254】
以上の(7−1)〜(7−4)の結果から、調製方法、複合化量、両親媒性物質、pH感受性化合物、の要因において、いずれの設定においても、アジュバント組成物は膜破壊機能促進効果を有すると考えられる。
【0255】
(8)膜融合促進効果に及ぼす影響
図12は、アジュバント組成物の膜融合促進効果に及ぼす、MPL含有の影響を調べた結果である。両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。また、MPL含率は0〜0.227とし、アジュバント組成物は、分散調製法により調製した。図12の結果からも明らかなように、MPLの含有による膜融合促進機能に及ぼす影響はないことを確認した。
【0256】
(9)自然免疫を活性化する刺激への影響
(9−1)抗原量の影響
抗原とアジュバント組成物からなる、ワクチン組成物において、自然免疫を活性化する刺激の強さに及ぼす、抗原量の影響を調べた。なお、両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸を使用した。MPL含率は、0.0227(以下、単に「低MPL」とも称する)および22.7(以下、単に「高MPL」とも称する)の2種のアジュバント組成物を用い、ワクチン組成物は、分散調製法により調製した。
【0257】
結果を図13に示す。図13の(A)は、種々の量のペプチドを含むワクチン組成物を、培養したマウス脾臓細胞に添加した場合のCD80PEの蛍光強度であり、(B)は、種々の量のOVAタンパク質(以下、単に「OVA」とも称する)を含むワクチン組成物を、添加した場合のCD80PEの蛍光強度である。
【0258】
低MPLおよび高MPLの双方において、CD80PEの蛍光強度はペプチド量、およびOVA量に依存せず一定の値となった(図13(A),(B))。すなわち、抗原量は、自然免疫を活性化する刺激の強さに影響を及ぼさないことが示された。
【0259】
(9−2)両親媒性物質の種類による影響
アジュバント組成物の自然免役を活性化する刺激に対する、両親媒性物質の影響を調べた。表3、図14に、種々の両親媒性物質を用いて調製したアジュバント組成物の結果を示す。pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とし、MPL含率は0.0227〜22.7とした。調製方法は分散調製法である。
【0260】
【表3】
【0261】
いずれの両親媒性物質を用いた場合においても、両親媒性物質単独に比べて、アジュバント組成物は、高いCD80PEの蛍光強度となり、自然免疫を活性化する刺激が付加された(表3、図14)。この結果は、いずれの両親媒性物質を用いても、アジュバント組成物として機能することを示唆している。
【0262】
(9−3)pH感受性化合物の複合化量による影響
図15は、アジュバント組成物、およびワクチン組成物の自然免疫を活性化する刺激の強さに及ぼす、pH感受性化合物の複合化の影響を調べた結果である。両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物はデオキシコール酸とした。MPL含率は0.0227と、227とし、抗原は0μg(アジュバント組成物)と400μg(ワクチン組成物)とした。調製方法は、いずれも分散調製法である。なお、評価は、5μLの分散液を用いて実施した。
【0263】
図15の(A)は、MPL含率が0.0227において、DLPCに種々の量のデオキシコール酸を複合化させた場合の、CD80PEの蛍光強度であり、(B)は、MPL含率が22.7において、DLPCに種々の量のデオキシコール酸を複合化させた場合の、CD80PEの蛍光強度である。
【0264】
MPL含率0.0227、および22.7の双方の場合において、CD80PEの蛍光強度は、デオキシコール酸の複合化、および複合化量に関わらず、一定の値となった。すなわち、デオキシコール酸の複合化は、アジュバント組成物、およびワクチン組成物の自然免疫を活性化する刺激の強さに影響を及ぼさないことが示された(図15(A)、(B))。
【0265】
(9−4)pH感受性化合物の種類による影響
図16は、ワクチン組成物の自然免疫を活性化する刺激の強さに及ぼす、pH感受性化合物の種類の影響を調べた結果である。図16の(A)および(B)は、種々のpH感受性化合物を用いて調製したワクチン組成物を、培養したマウス脾臓細胞に添加した場合における、CD80の蛍光強度である。両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物の複合化量は160nmolとした。MPL含率は0.0227〜22.7とし、抗原は400μgのペプチドとした。調製法は混合調製法である。
【0266】
いずれのpH感受性化合物においてもCD80PEの蛍光強度は、抗原とPBS(図中、PBS単独)よりも大きく、自然免疫を活性化する刺激が付加された。すなわち、pH感受性化合物の種類は、自然免疫を活性化する刺激の強さに影響を及ぼさないことが明らかとなった(図16(A)、(B))。
【0267】
以上の(9−1)〜(9−4)の結果から、抗原量、両親媒性物質、複合化量、pH感受性化合物の要因において、いずれの設定においても、アジュバント組成物として機能すると考えられる。
【0268】
(10)免疫応答誘導の検証
(10−1)MPL量の影響
MPL含率0.0227(低MPL)、および22.7(高MPL)において、アジュバント組成物のCTL誘導増強効果を検証した。両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。抗原は1匹あたり3.2μgから400μgのOVAペプチドとし、C57BL/6Nマウスの背部皮下に1回投与した。調製法は、分散調製法であり、各群n=3とした。下記表4に結果を示す。なお、MPL単独は、抗原とMPL分散液を用いた場合の結果である。
【0269】
【表4】
【0270】
同一の抗原量の結果を比較した場合、双方のMPL含率において、アジュバント組成物を用いた場合は、MPL単独を用いた場合よりも高いCTL誘導率となった(表4)。前記の条件において、アジュバント組成物のCTL誘導増強効果が示された。また、図17に、ワクチン組成物を用いた場合の、ELIspot法の評価結果を示す。用いた抗原は、80μgのOVAであり、図17の(A)は、高MPLの条件において、ペプチドとMPL分散液(MPL単独)を用いた場合のSpot形成の様子であり、(B)は、高MPLの条件において、ペプチドとアジュバント組成物を用いた場合(ワクチン組成物)のSpot形成の様子である。なお、評価条件は、1×10cells/wellである。
【0271】
ELIspot法の評価においても、アジュバント組成物を用いた場合は、MPL単独と比較して、多数のIFNγのspotを誘導しており、前記結果を支持している(図17(A)、(B))。
【0272】
(10−2)pH感受性化合物の複合化量の影響について
アジュバント組成物のCTL誘導増強効果に及ぼす、pH感受性化合物の複合化量の影響を調べた。具体的には、DLPCに種々の量のデオキシコール酸を複合化させてアジュバント組成物を調製し、CTL誘導増強効果を検証した。MPL含率は0.227とし、80μgのペプチド、あるいは80μgのOVAを抗原としてC57BL/6Nマウスに投与した。分散調製法により調製し、各群n=1とした。結果を表5に示す。
【0273】
【表5】
【0274】
ペプチド、およびOVAの双方において、アジュバント組成物を用いた場合のCTL誘導率は、いずれの複合化量においてもMPL単独(抗原とMPL分散液)に比べて高い値を示した(表5)。100nmolの両親媒性物質に対して、10〜640nmolのpH感受性化合物において、CTL誘導増強効果が得られることが示された。
【0275】
(10−3)両親媒性物質またはpH感受性化合物の種類による影響
続いて、アジュバント組成物のCTL誘導増強効果に及ぼす、両親媒性物質およびpH感受性化合物の種類の影響を調べた。具体的には、種々の両親媒性物質またはpH感受性化合物を用いてアジュバント組成物を調製し、CTL誘導増強効果の有無を検証した。
【0276】
この際、MPL含率は0.227とし、80μgのOVAを抗原とした。pH感受性化合物の複合化量は160nmolとし、分散調製法により調製した。各群n=1である。
【0277】
表6に、種々の両親媒性物質を用いて調製した場合の結果を示し、表7に、種々のpH感受性化合物を用いて調製したアジュバントの結果を示す。
【0278】
【表6】
【0279】
【表7】
【0280】
いずれの両親媒性物質、およびいずれのpH感受性化合物を用いて調製した場合においても、アジュバント組成物を用いた場合のCTL誘導率は、MPL単独のそれよりも高い値を示しており、アジュバント組成物のCTL誘導増強効果が確認された(表6、表7)。
【0281】
また、図18に、種々のpH感受性化合物を用いて調製したワクチン組成物における、ELIspot法の評価結果を示す。評価条件は2×10cells/wellであり、用いた抗原は80μgのOVAである。MPL含率は0.227であり、自然免疫を刺激する物質、あるいはアジュバント組成物として、図18の(A)は、MPL分散液を用いた場合のSpot形成の様子であり、(B)は、MPL含有DLPC−デオキシコール酸を用いた場合のSpot形成の様子であり、(C)は、MPL含有DLPC−コール酸を用いた場合のSpot形成の様子であり、(D)は、MPL含有DLPC−ウルソデオキシコール酸を用いた場合のSpot形成の様子であり、(E)は、MPL含有DLPC−ヒオデオキシコール酸を用いた場合のSpot形成の様子である。
【0282】
いずれのpH感受性化合物を用いて調製したアジュバント組成物においても、MPL単独の場合と比較して、多数のIFNγのspotを誘導しており、アジュバント組成物は、いずれのpH感受性化合物を用いて調製した場合においても、CTL誘導増強効果を有することが示された図18(A)〜(E))。これらの結果は、ICS法における結果と一致している。
【0283】
(11)調製方法について
タンパク質を用いた場合における、ワクチン組成物の調製方法の相違が与える影響について調べた。図19は、各調製方法で調製したワクチン組成物のCTL誘導率を示すグラフである。ワクチン組成物は、分散調製法、混合調製法、凍結融解−凍結乾燥調製法により調製し、両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。MPL含率は0.0227〜22.7とし、抗原は80μgのOVAを投与した。各群はn=1である。
【0284】
図19からも明らかなように、いずれの調製方法においてもワクチン組成物は、MPL単独よりも高いCTL誘導率を示した。また、凍結融解−凍結乾燥調製法は、高いCTL誘導率を示した。これらの結果は、どのようなワクチン組成物の調製方法においても、アジュバント組成物はCTL誘導増強効果を有していることを示している(図19)。抗原としてタンパク質を用いた場合においても、凍結融解−凍結乾燥調製法により調製されたワクチン組成物は、他の調製方法と比較して、高いCTL誘導率を示した(図19)。
【0285】
(12)抗原特異性について
ワクチン組成物により誘導されたCTLが抗原特異性を有するかどうかを確認した。具体的には、マウスから摘出した脾臓細胞の懸濁液に、抗原であるOVAペプチドを添加した場合(再刺激あり)と、OVAペプチドを添加することなく、メディウムのみで培養した場合(再刺激なし)におけるCTL誘導率を比較した。ワクチン組成物の両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。MPL含率は22.7であり、80μgのOVAをC57BL/6Nマウスに投与した。ワクチン組成物の分散液は、混合調製法により調製した。各群n=1とした。
【0286】
得られた結果を図20に示す。図20の(A)は再刺激ありの場合のCTL誘導率であり、(B)は再刺激なしの場合のCTL誘導率である。再刺激ありの場合におけるCTL誘導率は1.08%であり、CTLの誘導が確認された。一方、再刺激なしの場合におけるCTL誘導率は0.31%であり、抗原の再刺激を加えた場合と対比して、小さな値となった(図20)。同様の結果は、種々のpH感受性化合物を用いた場合においても確認されている(表7)。これらの結果は、ワクチン組成物により誘導されたCTLは、抗原特異的であることを示している。
【0287】
さらに、ELIspot法においても抗原特異性の確認を行った。ワクチン組成物の両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolおよび640nmolのデオキシコール酸とした。MPL含率は0.227であり、80μgのOVAあるいは80μgのペプチドをC57BL/6Nマウスに投与した。ワクチン組成物の分散液は、分散調製法により調製した。評価条件は2×10cells/wellである。
【0288】
得られた結果を図21に示す。図21の(A)〜(F)は、抗原であるOVAペプチドを添加して培養した場合(再刺激あり)のspot形成の様子であり、(G)〜(L)は、メディウムのみで培養した場合(再刺激なし)のspot形成の様子である。ワクチン組成物を用いた場合のspot形成は、再刺激を加えた場合に比べて、再刺激を加えない場合に顕著に少ないものとなっており、ワクチン組成物により誘導されたCTLは、抗原特異的であることを示している(図21)。ELIspot法においても、ICS法と同様の結論を示す結果が得られた。
【0289】
(13)液性免疫の増強について
ワクチン組成物による液性免疫の誘導、およびアジュバント組成物の液性免疫誘導増強効果を検証した。具体的には、種々の調製法に従って調製したワクチン組成物を、C57BL/6Nマウスの背部皮下に2回投与し、血中のIgG抗体価を測定した。両親媒性物質はDLPCとし、pH感受性化合物は160nmolのデオキシコール酸とした。MPL含率は0.227であり、抗原は80μgのOVAとした。比較としては、抗原を投与しない未処置群と、抗原を含むMPL単独群を設けた。各群n=3とした。
【0290】
得られた結果を図22に示す。分散調製法、混合調製法、および凍結融解−凍結乾燥調製法のいずれの調製法においても、ワクチン組成物は未処置群と比較して、高いIgG抗体価を示したことから、ワクチン組成物によって液性免疫が誘導されることが明らかとなった(図22)。
【0291】
また、いずれの調製方法のワクチン組成物(抗原とアジュバント組成物)においても、抗体価の値は、MPL単独群(抗原とMPL分散液)と比較して高い値を示した(図22)。アジュバント組成物を用いた場合は、MPLを単独で用いた場合と比較して、高い抗体価を示したことから、アジュバント組成物は液性免疫誘導増強効果を有していることが示された(図22)。
【0292】
(14)CpG−DNAを含むアジュバント組成物について
MPL以外の自然免疫を活性化する物質として、CpG−DNA(CpG−ODN)を用いた場合における、アジュバント組成物のCTL誘導増強効果を検証した。具体的には、1匹あたり5μgのCpG−ODNと、DLPC−デオキシコール酸複合体を混合し、アジュバント組成物とし、さらに80μgのOVAを混合することで、ワクチン組成物とした。デオキシコール酸は160nmolとし、ワクチン組成物の全量は100μLとした。各群1匹とし、C57BL/6Nマウスに投与した。ELIspot法における評価条件は2×10cells/wellである。
【0293】
表8は、抗原の再刺激を加えた場合と、再刺激を加えなかった場合における、CTL誘導率であり、抗原とCpG−ODN(CpG−ODN単独)、または抗原と、CpG−ODNを含むアジュバント組成物(ワクチン組成物)を投与に用いた場合の結果である。CpG−ODNを含むアジュバント組成物を用いた場合のCTL誘導率は、CpG−ODN単独の場合に比べて高い値を示した(表8)。MPL以外の自然免疫を活性化する物質を用いた場合によっても、アジュバント組成物はCTL誘導増強効果を有することが示された。また、再刺激を加えなかった場合のCTL誘導率は、再刺激を加えた場合に比べて、小さな値となったことから、CpG−ODNを含むワクチン組成物により誘導されたCTLは、MPLの場合と同様に、抗原特異的であることが明らかとなった(表8)。これらと同様の結果は、ELIspot法の評価においても得られた(図23)。
【0294】
なお、図23において、(A)は、80μgのOVAとCpG−ODN単独をマウスに投与した場合のspot形成の様子であり、(B)は80μgのOVAと、CpG−ODNを含むアジュバント組成物を用いた場合のspot形成の様子であり、(C)は抗原の再刺激を加えなかった場合における、80μgのOVAとCpG−ODN単独をマウスに投与した場合のspot形成の様子であり、(D)は、抗原の再刺激を加えなかった場合における、80μgのOVAと、CpG−ODNを含むアジュバント組成物を用いた場合のspot形成の様子である。
【0295】
【表8】
【0296】
本出願は、2013年11月29日に出願された日本特許出願番号2013−248543号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
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