特許第6487906号(P6487906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6487906ポリプロピレン系樹脂シートおよび成形体
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  • 特許6487906-ポリプロピレン系樹脂シートおよび成形体 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487906
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂シートおよび成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20190311BHJP
【FI】
   C08L23/10
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-513784(P2016-513784)
(86)(22)【出願日】2015年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2015061405
(87)【国際公開番号】WO2015159869
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2018年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-85772(P2014-85772)
(32)【優先日】2014年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 正樹
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−116724(JP,A)
【文献】 特開平11−172016(JP,A)
【文献】 特開平09−188729(JP,A)
【文献】 特開平10−330436(JP,A)
【文献】 特開2010−241978(JP,A)
【文献】 特開2015−205965(JP,A)
【文献】 特開2003−327732(JP,A)
【文献】 特開2007−308622(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/011332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン系樹脂60〜97重量%、および、(B)(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共役ジエン化合物および(c)ラジカル重合開始剤を溶融混練して得られる改質ポリプロピレン系樹脂3〜40重量%を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂シートであって、
(A)ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃、荷重2.16kg)が、0.1〜10g/10分であり、
(a)ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃、荷重2.16kg)が、1〜10g/10分であって、(A)ポリプロピレン系樹脂のMFR以上であり、
(B)改質ポリプロピレン系樹脂のMFRが、(A)ポリプロピレン系樹脂のMFRよりも高く、
(B)改質ポリプロピレン系樹脂が、伸長粘度測定(180℃、歪速度0.1/sec)において歪硬化性を示し、
(A)ポリプロピレン系樹脂に対する(B)改質ポリプロピレン系樹脂の歪量3での伸長粘度比が、1.5以上である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂シート。
【請求項2】
(b)共役ジエン化合物がイソプレンである請求項1記載のポリプロピレン系樹脂シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂シートを熱成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂シート、およびそれを熱成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品容器、自動車部品、建材、家電部品等、様々な用途において、樹脂製のシートを熱成形して得られる成形体が広く使用されている。中でも、ポリプロピレン系樹脂を基材に用いたものは、その高い耐熱性、耐薬品性等が必要な用途において好適に用いられている。
【0003】
しかしながら、ポリプロピレン系樹脂シートは熱成形において、予備加熱時の垂れ下がり(以下、ドローダウンと記載する)が大きく、成形時に成形品にシワが入るなどの不具合を起こしやすいため、十分な加熱ができなくなるなど成形条件に制約があるという問題がある。殊に、ますます高まる深絞り成形の要求に対応するには、従来以上にドローダウンが抑制されるとともに、賦形時の伸びに優れるシートが要求されるようになっている。
【0004】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、特定のポリプロピレンに対し、特定の低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及びタルクからなる組成物からなるシートが開示されている。しかしながら、該方法においてはポリプロピレン系樹脂に対し比較的多量のポリエチレン系樹脂を添加するため、ポリプロピレン系樹脂の耐熱性を損ねたり、また外観に劣るといった問題がある。
【0005】
また、例えば特許文献2には、特定の固有粘度を持つ高分子量ポリエチレンを含有し、かつ特定の溶融張力を示すポリプロピレン系樹脂を含む組成物からなるシートが開示されている。しかしながら、該方法によって得られるドローダウン抑制効果は十分ではない。
【0006】
さらに、例えば特許文献3には、プロピレン重合体とペルオキシジカーボネートとを溶融混練して得られる、特定のMFR、およびメルトテンションを示すシート用ポリプロピレン樹脂が開示されている。該方法によって得られる樹脂もドローダウン抑制効果は十分でなく、また、賦形時の伸びが十分ではないことから、シートが伸長される際に破れたりする場合があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−262897号公報
【特許文献2】特開2002−3668号公報
【特許文献3】特開2003−48996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、十分にドローダウンが抑制されているとともに、溶融伸びに優れ、さらには耐熱性や外観も良好なポリプロピレン系樹脂シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を達成するために種々検討を行い、特定のポリプロピレン系樹脂と、特定の改質ポリプロピレン系樹脂を含む組成物を含むシートにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1](A)ポリプロピレン系樹脂60〜97重量%、および、(B)(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共役ジエン化合物および(c)ラジカル重合開始剤を溶融混練して得られる改質ポリプロピレン系樹脂3〜40重量%を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂シートであって、
(A)ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃、荷重2.16kg)が、0.1〜10g/10分であり、
(a)ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃、荷重2.16kg)が、1〜10g/10分であって、(A)ポリプロピレン系樹脂のMFR以上であり、
(B)改質ポリプロピレン系樹脂が、伸長粘度測定(180℃、歪速度0.1/sec)において歪硬化性を示し、
(A)ポリプロピレン系樹脂に対する(B)改質ポリプロピレン系樹脂の歪量3での伸長粘度比が、1.5以上である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂シート。
[2](B)改質ポリプロピレン系樹脂のMFRが、(A)ポリプロピレン系樹脂のMFRよりも高いことを特徴とする[1]記載のポリプロピレン系樹脂シート。
[3](b)共役ジエン化合物がイソプレンである[1]または[2]記載のポリプロピレン系樹脂シート。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂シートを熱成形して得られる成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、特定のポリプロピレン系樹脂と、特定の改質ポリプロピレン系樹脂を含むため、高い耐ドローダウン性を示し、熱成形時に十分な加熱が可能である。また、溶融伸び性にも優れるため、深絞り成形が可能となる。また、シートが厚く、目付(単位面積当たりの重量)が大きい樹脂シートであっても、熱成形が容易になる。さらには、本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、耐熱性や耐薬品性、剛性を有しつつ、熱成形性を改善できる。さらに、シートの外観も優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例および比較例で使用した樹脂(A−1)、(B−1)および(B−4)の伸長粘度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ポリプロピレン系樹脂組成物>
本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、特定の(A)ポリプロピレン系樹脂60〜97重量%、および、特定の(B)改質ポリプロピレン系樹脂3〜40重量%を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなる。(A)ポリプロピレン系樹脂と(B)改質ポリプロピレン系樹脂の割合は、(A)70〜95重量%および(B)5〜30重量%が好ましく、(A)75〜90重量%および(B)10〜25重量%がより好ましい。(A)ポリプロピレン系樹脂の配合比率が60重量%未満である場合、本発明の特徴である溶融伸びが十分でなくなる傾向にある。一方、(A)ポリプロピレン系樹脂の配合比率が97重量%を超える場合、ドローダウンが大きくなりすぎる傾向にある。
【0014】
<(A)ポリプロピレン系樹脂>
(A)ポリプロピレン系樹脂は、MFR(230℃、2.16kg)が0.1〜10g/10分、より好ましくは0.3〜8g/10分、最も好ましくは0.5〜4g/10分であるポリプロピレン系樹脂である。MFRが0.1g/10分より小さいと、溶融時の流動性が不十分になる傾向があり、得られる樹脂シートの外観が悪化しやすくなる傾向がある。また、熱成形時に賦形性が悪化する傾向にある。一方、MFRが10g/10分を超える場合、(B)改質ポリプロピレン系樹脂の添加にもかかわらず得られた樹脂シートのドローダウンが大きくなりすぎる傾向にある。MFRは、JIS K7210(1999)記載のA法の規定に準拠した方法で測定することができる。
【0015】
(A)ポリプロピレン系樹脂は、本発明の樹脂シートの主たる成分であり、樹脂シートへの成形しやすさ、および樹脂シートの熱成形時の成形性の観点から選択されうる。(A)ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他の単量体とのブロック共重合体、またはプロピレンと他の単量体とのランダム共重合体などの重合体が挙げられる。その重合体は、結晶性を有する重合体であることが好ましい。これらの中でも、剛性が高く、安価である観点から、プロピレン単独重合体が好ましい。また、剛性および耐衝撃性がともに高い観点から、プロピレンと他の単量体とのブロック共重合体であることが好ましい。さまた、透明性が高い観点から、プロピレンと他の単量体とのランダム共重合体が好ましい。さらには、これらの特性を調整するために、前記プロピレン単独重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体を混合してもよい。
【0016】
(A)ポリプロピレン系樹脂が、プロピレンと他の単量体とのブロック共重合体またはプロピレンと他の単量体とのランダム共重合体である場合、ポリプロピレン系樹脂の特徴である高い耐熱性、耐薬品性、剛性を保持する点から、プロピレン単量体成分が全体の75重量%以上であることが好ましく、全体の90重量%以上であることがさらに好ましい。
【0017】
また、前記他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン、環状オレフィン、ジエン系単量体およびビニル単量体よりなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。好ましい具体例としては、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などを挙げることができる。
【0018】
<(B)改質ポリプロピレン系樹脂>
本発明で用いる(B)改質ポリプロピレン系樹脂は、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共役ジエン化合物および(c)ラジカル重合開始剤を溶融混練して得られ、(a)ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃、2.16kg)が1〜10g/10分であるとともに、同条件で測定した(A)のMFR以上であり、伸長粘度測定(180℃、歪速度0.1/sec)において、歪硬化性を示すことを特徴とする。さらに、(A)ポリプロピレン系樹脂に対する(B)改質ポリプロピレン系樹脂の歪量3での伸長粘度比が1.5倍以上である。
【0019】
(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共役ジエン化合物、および、(c)ラジカル重合開始剤の溶融混練の工程において、(B)改質ポリプロピレン系樹脂中に、分岐構造が導入されているものと考えられる。従来より、ポリプロピレン系樹脂シートのドローダウンを抑制するために、通常線状の分子構造を有するポリプロピレン系樹脂を改質して分岐構造を導入することが有効であることは知られている。
【0020】
(a)ポリプロピレン系樹脂は、条件を満たす限り、(A)ポリプロピレン系樹脂として用いられるものを同様に用いることができる。目的に応じ、(A)ポリプロピレン系樹脂と望ましい組み合わせとできる。
【0021】
(b)共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価であることから好ましく、さらには取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点から、イソプレンが特に好ましい。
【0022】
(b)共役ジエン化合物の使用量としては、(a)ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下が好ましく、0.05重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。共役ジエン化合物の添加量が0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また、20重量部を超える添加量においては、効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0023】
このとき、本発明の効果を著しく阻害しない限りにおいて、前記(b)共役ジエン化合物と共重合可能な単量体の1種また2種以上を併用してもよい。具体例として、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、ジビニルベンゼン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0024】
(c)ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、一般にケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、特に水素引き抜き能が高いものが好ましく、具体例として1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンなどのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(c)ラジカル重合開始剤の添加量としては、(a)ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下が好ましく、0.05重量部以上4重量部以下がさらに好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また、10重量部を超える添加量では、(a)ポリプロピレン系樹脂の分解反応が極度に進行する場合がある。
【0026】
(b)共役ジエン化合物、(c)ラジカル重合開始剤の添加量、及び添加量比は、用いる共役ジエン化合物やラジカル重合開始剤の種類や混練条件によって大きく異なるため、より具体的に示すことは困難であるが、(a)ポリプロピレン系樹脂の分解反応が必要十分な程度抑制されるとともに、分岐構造が望ましい程度に生成するように調節する必要がある。
【0027】
一般に、ポリプロピレン系樹脂にラジカル重合開始剤を添加して溶融混練した場合、分解反応が進行し、その量を増やすとともにその程度は増大するが、共役ジエン化合物を併用することで分解反応は抑制されると共に、分岐構造を得ることができる。ラジカル重合開始剤の使用量を一定にすると、共役ジエン化合物の使用量を増加させるにつれて、効果が飽和するまでは分岐構造は増えるものと推察され、得られる改質ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度の歪硬化性は増大する傾向にある。しかるに、共役ジエン化合物の使用量を増やしても満足な伸長粘度特性が得られない場合、ラジカル重合開始剤の使用量を増やす必要がある。このようにして、本発明で用いられる(B)改質ポリプロピレン系樹脂は、比較的容易な調整により得ることが可能である。
【0028】
分岐構造を有するポリプロピレン系樹脂は、伸長粘度の測定において、「歪硬化性」を示すことが知られている。溶融混練する際の配合や条件を調整することで、歪硬化性の程度を調整することができる。一般に歪量の増加と共に伸長粘度は増加していくが、本発明においては、伸長粘度曲線が歪量0.1以上3未満の範囲に変曲点を有し、かつ、該変曲点を境に歪量の増加と共に伸長粘度が急激に増加する(増加率が高くなる)ものを「歪硬化性あり」、そのような特徴を示さないものを「歪硬化性なし」とする。
【0029】
この点につき、図1を用いて詳細に説明する。
まず、伸長粘度は、時間の関数として(式2)で定義される、いわゆる「一軸伸長粘度」を指す。ここで、(式2)における応力σ(t)は、溶融状態としたサンプル片を、(式1)で定義される歪速度γsを一定(本発明では180℃において0.1/sec)にして一軸方向に伸長変形させるのに要する荷重から求められる、時間の関数である。また、時間tにおける歪量γ(t)は(式3)で定義されるものである。
γs=d/dt[{L(t)−L(0)}/L(0)] (式1)
(γs:歪速度、t:時間、L(t):時間tにおけるサンプル長さ、L(0):時間0におけるサンプル長さ)
ηe(t)=σ(t)/γs (式2)
(ηe(t):時間tにおける伸長粘度、σ(t):時間tにおける伸長応力)
γ(t)=γs×t (式3)
本発明においては、以上の方法に相当する装置・条件を用い、歪量、伸長粘度を測定する。具体的には、実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0030】
図1は、本発明の実施例、比較例で(A)ポリプロピレン系樹脂として用いた(A−1)、及び(B)改質ポリプロピレン系樹脂として用いた(B−1)、(B−4)の伸長粘度測定結果を示している。(B−1)と(B−4)はともに歪硬化性を示し、(A−1)は示さないことが分かる。
【0031】
図1において、(B−1)の歪硬化領域(伸長粘度が急激に増大している部分、すなわち、伸長粘度曲線の変曲点よりも歪量が大きい領域)における伸長粘度は、(A−1)のそれよりも大きいことが分かる。本発明の特徴の一つは、歪硬化領域における(B)改質ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度を(A)ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度よりも大きくすることにある。特に、(B)改質ポリプロピレン系樹脂の歪量3(歪硬化領域に相当)での伸長粘度は(A)ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度の1.5倍以上である。このような(B)改質ポリプロピレン系樹脂は、改質ポリプロピレン系樹脂を作製する際の配合や条件を調整することで容易に達成できる。
【0032】
(B)改質ポリプロピレン系樹脂の、歪量3での伸長粘度は、(A)ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度の1.5倍以上であり、3倍以上が好ましく、より好ましくは5倍以上である。一方、上限について、100倍以下が好ましく、40倍以下がさらに好ましい。1.5倍未満であると、ドローダウン抑制効果が不十分になる傾向にある。また、100倍を超える場合、改質ポリプロピレン系樹脂中にゲル状物が生成しやすくなる傾向にあり、外観の観点から好ましくない。
【0033】
(a)ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃、荷重2.16kg)は1〜10g/10分であり、1.5〜9g/10分が好ましく、3〜8g/10分がより好ましい。MFRが1g/10分未満の場合、(B)改質ポリプロピレン系樹脂のせん断粘度が高くなりすぎる傾向にあるため、好ましくない。また、MFRが10g/10分を超える場合、伸長粘度特性を得るために必要となる(b)共役ジエン化合物や(c)ラジカル重合開始剤の量が増えるため、残存する成分が増えたり、製造コストが上がったりして好ましくない。
【0034】
ここで、実施例で用いた(B−1)の伸長粘度曲線において、歪硬化を起こす前(伸長粘度が急激に増大している部分よりも小さい歪領域、すなわち、伸長粘度曲線の変曲点よりも歪量が小さい領域)の伸長粘度(線形領域の伸長粘度と呼ばれる)は、(A−1)の伸長粘度に比べて低くなっていることが分かる。このように、(B)改質ポリプロピレン系樹脂の線形領域の伸長粘度は、(A)ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度と同等かやや低くすることが好ましい。対照的に、比較例において使用した(B−4)は、線形領域の伸長粘度が(A−1)よりも高く、(A−1)と組み合わせて得られた樹脂シートはドローダウン抑制効果が不十分になる傾向にある。
【0035】
(a)ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃、荷重2.16kg)は、(A)ポリプロピレン系樹脂のMFR以上である。(a)ポリプロピレン系樹脂のMFRが(A)ポリプロピレン系樹脂のMFRよりも低いと、比較例で使用した(B−4)のように(B)改質ポリプロピレン系樹脂の線形領域の伸長粘度が(A)ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度より高くなり、樹脂シートのドローダウン抑制効果が不十分になるおそれがある。
【0036】
(B)改質ポリプロピレン系樹脂の、MFR(230℃、2.16kg)は、(A)ポリプロピレン系樹脂に応じて選択されるが、均一な混合状態が得られやすい、また、比較的低い成形温度において賦形が可能になるという観点から、同条件で測定した(A)ポリプロピレン系樹脂のMFRよりも大きいことが好ましい。また、(B)改質ポリプロピレン系樹脂の上記MFRの好ましい範囲は、0.3〜20g/10分であり、より好ましくは0.5〜15g/10分であり、最も好ましくは1.0〜10g/10分である。MFRが0.3g/10分より小さいと、均一な混合状態が得られにくくなる傾向がある。一方、MFRが20g/10分を超える場合、本発明の一つの特徴である耐ドローダウン性が損なわれる傾向にある。
【0037】
以上のように特定の(A)ポリプロピレン系樹脂と特定の(B)改質ポリプロピレン系樹脂を組み合わせることにより、本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、十分にドローダウンが抑制されるとともに、溶融伸びにも優れたものとなる。
【0038】
次に、(B)改質ポリプロピレン系樹脂の製造方法について説明する。
(B)改質ポリプロピレン系樹脂を製造するため、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共役ジエン化合物、および、(c)ラジカル重合開始剤を溶融混練するための装置には特段の制限はない。使用できる装置の具体例として、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、特に押出機が生産性の点から好ましい。
【0039】
(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共役ジエン化合物、および、(c)ラジカル重合開始剤を溶融混練する際、それらを添加する順序、方法にも特段の制限はない。(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)共役ジエン化合物、および、(c)ラジカル重合開始剤を混合したのち一括して溶融混練してもよいし、これらの一部を混合したのち溶融混練し、残りの原料を添加してさらに溶融混練してもよい。さらに、溶融状態とした(a)ポリプロピレン系樹脂に、(b)共役ジエン化合物および(c)ラジカル重合開始剤を同時に、あるいは、別々に、一括してあるいは分割して添加し、溶融混練してもよい。ただし、溶融状態の(a)ポリプロピレン系樹脂に対し、ラジカル重合開始剤のみが添加された状態で長時間混練することは、前記した分解反応が極度に進行する場合があるため避けることが好ましい。
【0040】
溶融混練時の温度は、使用する(a)ポリプロピレン系樹脂が十分溶融し、かつ熱分解しないという観点から選定すればよい。また、温度を高めることで反応は短時間に進行するが、高すぎると、反応が均一でなくなる場合があるため好ましくない。一般に130℃以上300℃以下、より好ましくは160℃以上250℃以下である。また、溶融混練の時間は、反応が完了するのに十分な程度とすればよく、一般に1〜60分である。また、溶融混練中に、未反応のまま残った(b)共役ジエン化合物や(c)ラジカル重合開始剤の反応残渣等をベント等により樹脂から除去する方法は本発明においても好ましく用いられる。
【0041】
このようにして得られる(B)改質ポリプロピレン系樹脂の形状、大きさに特段の制限はなく、一般には後工程でのハンドリング性の観点からペレット状、フレーク状などの粒状物とされる。さらに、得られた(B)改質ポリプロピレン系樹脂は、未反応のまま残った共役ジエン化合物やラジカル重合開始剤の反応残渣等を除く等の目的で、溶融しない程度の温度で加熱処理を行ったり、再度溶融混練を行ってもよい。
【0042】
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、(B)改質ポリプロピレン系樹脂を製造する際、得られた溶融状態の(B)改質ポリプロピレン系樹脂に(A)ポリプロピレン系樹脂を添加し、さらに溶融混練する方法により得ることができる。ポリプロピレン系樹脂組成物は通常粒状物として得られる。
【0043】
このとき、本発明の効果を著しく阻害しない限りにおいて、(A)、(B)成分以外の樹脂、ゴム、添加剤等をポリプロピレン系樹脂組成物に含ませてもよい。前記樹脂またはゴムの具体例としては、たとえばポリエチレン;ポリブテン−1、ポリイソブテン、ポリペンテン−1、ポリメチルペンテン−1などのポリα−オレフィン;プロピレン含有量が75重量%未満のエチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン―1共重合体、プロピレン含有量が75重量%未満のプロピレン/ブテン−1共重合体、プロピレン/ヘキセン−1共重合体、プロピレン/オクテン−1共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン/α−オレフィン共重合体;プロピレン含有量が75重量%未満のエチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン/α−オレフィン/ジエン系単量体共重合体;エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸金属塩共重合体、エチレン/メタクリル酸金属塩共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体などのエチレン/ビニル単量体共重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン系共重合体;スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、などのビニル単量体/ジエン系単量体/ビニル単量体ブロック共重合体、もしくはその水添物;スチレン/イソブチレン/スチレンブロック共重合体;アクリロニトリル/ブタジエン/スチレングラフト共重合体、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレングラフト共重合体などのビニル単量体/ジエン系単量体/ビニル単量体グラフト共重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンなどのビニル重合体;塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体などのビニル系共重合体などが挙げられる。
【0044】
ポリプロピレン系樹脂組成物におけるこれらの樹脂またはゴムの含有量は、樹脂の種類またはゴムの種類により異なるが、通常、ポリプロピレン系樹脂組成物全重量の25重量%以下であることが好ましい。
【0045】
前記添加剤としては、ポリプロピレン系樹脂シートにおいて汎用されるものを使用することができ、具体例として、ポリプロピレン系樹脂の加工または環境への長期暴露における劣化を抑制するためのヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、チオエステル系安定剤、ベンゾトリアゾール系安定剤などの安定剤;難燃性を高めるためのハロゲン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸塩、アンチモン化合物などの難燃剤;剛性を高めるためのタルク、ガラス繊維、カーボン繊維、カーボンブラック、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、カオリン、酸化チタンなどの無機充填剤;透明性、もしくは剛性を高めるためのソルビトール系造核剤、安息香酸塩、有機リン酸塩などの造核剤;ステアリン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N、N’−エチレンビスステアリン酸アミドなどの滑剤;ブロッキング防止剤;帯電防止剤;蛍光増白剤;抗菌剤;顔料;染料などが挙げられる。
【0046】
これら添加剤のポリプロピレン系樹脂組成物における含有量は目的や添加剤の種類によって大きく異なるが、通常ポリプロピレン系樹脂組成物全重量の50重量%以下である。なお、これら添加剤はそのまま、もしくはマスターバッチとして添加される。なお、以上説明した樹脂、ゴム、添加剤等は、ポリプロピレン系樹脂組成物を製造する際のみならず、あらかじめ(A)ポリプロピレン系樹脂、または、(B)改質ポリプロピレン系樹脂に含ませておいてもよい。
【0047】
<ポリプロピレン系樹脂シート>
本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、以上に説明した(A)ポリプロピレン系樹脂、および、(B)改質ポリプロピレン系樹脂を基材として作製される。すなわち、(A)ポリプロピレン系樹脂、および、(B)改質ポリプロピレン系樹脂を含有するポリプロピレン系樹脂組成物をシート状に加工することにより得られる。
【0048】
本発明のポリプロピレン系樹脂シートを得るための成形法・装置については、特段の制限はない。使用できる成形法の具体例として、ロール成形、カレンダー成形、プレス成形、トランスファー成形、インフレーション成形、射出成形、押出成形等、いずれも好ましく用いることができる。これらのうち、Tダイもしくは環状ダイを先端に有する押出機を用いた押出成形やカレンダー成形が、生産性の面で特に好ましい。
【0049】
また、加工条件についても特段の制限はない。通常ポリプロピレン系樹脂の加工で用いられる、170〜250℃程度の加工温度で本発明のポリプロピレン系樹脂シートを問題なく得ることができる。
【0050】
さらに、ポリプロピレン系樹脂シートの作製で汎用される技術として、得られたシートを鏡面ロールに通じて表面の平滑性を高めたり、エンボスロールを通じて表面にシボ付けを行ったり、チルロールに通して透明性を高めたりする技術が存在するが、これらは本発明においても好ましく用いられる。
【0051】
このようにして本発明のポリプロピレン系樹脂シートが得られる。目的に応じて調整されうるが、本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、特定のポリプロピレン系樹脂のみから構成することでその高い耐熱性、耐薬品性、剛性を損なわず、さらには外観にも優れたものとできる。また、その厚みは通常0.1〜10mmの範囲にある。殊に、本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、ドローダウンが効果的に抑制されているため、1.0mm以上の厚いシートとしても優れた熱成形性を示す。また、幅は加工法によって異なるものの、必要に応じ2000mm程度まで可能である。
【0052】
<成形体>
本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、そのまま必要な寸法に裁断して使用することも可能であるが、熱成形により各種の成形体を得るために好適に用いられる。本発明の成形体は、本発明のポリプロピレン系樹脂シートを熱成形して得られるものである。
【0053】
熱成形の方法としては、真空成型、圧空成形、プレス成形、ツインコンポジット成形等があげられ、また賦形前に圧空等によりシートを予張させた後に金型に密着させる方法等も問題なく適用可能である。本発明のポリプロピレン系樹脂シートは、予備加熱時のドローダウンが効果的に抑制されているとともに溶融伸びにも優れているため、上述のものを含め、熱成形のいずれの方法にも制限なく、好適に用いられる。上述の特徴から、厚みが厚かったり、添加剤を多く含むことで目付(単位面積当たりの重量)が重かったりすることでドローダウンの観点から不利なシートであっても成形ができる、深絞りの成形体が容易に得られる、成形体の肉厚が均一になる、成形サイクルを短縮することができる、といった好ましい効果を奏する。
【0054】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂シートを熱成形するに当たり、賦形前の該樹脂シートの温度(以下、成形温度)は、使用する樹脂シートを構成する基材に適する範囲で適宜調整すればよい。一般に前記基材のMFRが小さいほど高い成形温度が必要となり、その場合ドローダウンは大きくなる傾向にあるが、特に本発明において用いられる(B)改質ポリプロピレン系樹脂のMFRを(A)ポリプロピレン系樹脂よりも大きくした場合、比較的低い成形温度において賦形が可能になるといったより好ましい効果を奏する。
【0055】
また、このようにして得られる成形体は、食品容器、自動車部品、建材、家電部品等、広範な用途に置いて好適に用いることができ、誠に有用なものである。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらにより何ら制限されるものではない。実施例および比較例において、各種の評価に用いられた試験法および判定基準は、次の通りである。
【0057】
<メルトフローレート(MFR)>
MFRは、JIS K7210(1999)記載のA法の規定に準拠し、メルトインデクサーS−01(東洋精機製作所社製)を用い、230℃、2.16kg荷重下でダイから一定時間に押し出される樹脂量から、10分間に押し出される量に換算した値とした。
なお、前記一定時間とは、メルトフローレートが0.5g/10分を超え1.0g/10分以下の場合は120秒間、1.0g/10分を超え3.5g/10分以下の場合は、60秒間、3.5g/10分を超え10g/10分以下の場合は30秒間、10g/10分を超え25g/10分以下の場合は10秒間である。一定時間で切り取った切り取り片を3個採取しその平均値を算出することとし、一回の測定で3個採取できない場合は3個採取できるまで測定を継続する。仮に、ある秒数で測定した際のメルトフローレートが対応する範囲に無かった場合は、そのメルトフローレートに応じた秒数で再度測定するものとする。
【0058】
<伸長粘度>
伸長粘度は、下記の方法によって測定した。TAインスツルメンツ社製レオメータであるARESにより、同社から提供されている伸長粘度用フィクスチャーを取り付けて評価した。サンプルとしては、測定対象の樹脂ペレットを240℃でプレス成形して10×18×1.0mmに成形した成形品を用いた。測定は、フィクスチャーにサンプルをセットした後、180℃で5分間予熱した後で開始した。測定時の条件パラメータは以下の通りである。
・歪速度(Extension Rate):0.1/sec
・測定時間(Time):30sec
・固体密度(Solid Density):0.9
・溶融密度(Melt Density):0.8
・Prestretch Rate:0.005(1/sec)
・Relaxation after Prestretch:0sec
測定後、図1に例示するように、横軸を歪量、縦軸を伸長粘度とした両対数グラフを作成した。このとき、歪量、伸長粘度は、装置付属のプログラムにより示される値を用いた。
また、測定結果として得られる、歪量が3になる点における各サンプルの伸長粘度の値を用いて、(A)ポリプロピレン系樹脂に対する(B)改質ポリプロピレン系樹脂の伸長粘度比を算出した。
【0059】
<耐ドローダウン性>
下記する要領で得た樹脂シートを用い、以下のごとく、加熱時にシートの一部が100mm垂れ下がるまでの時間をドローダウン時間として評価した。ドローダウン時間が長い方がドローダウンが抑制され、より好ましい結果である。さらに、用いた(A)ポリプロピレン系樹脂のみから得た樹脂シートのドローダウン時間に対する、樹脂シートのドローダウン時間の比(以下、ドローダウン時間比と呼ぶ)を、以下のごとく評価した。
350mm角に切り出した樹脂シートを、300×300mmの正方形の開口部を有する木枠に挟んで固定した。これを木枠ごと200℃に設定された温風乾燥機(アズワン社製SOFW−600型)中に入れて架台上でシートが水平になるように保持するとともに計時を開始した。このとき、なるべく乾燥機内の温度が低下しないよう、木枠の架台へのセットはできる限り短時間で、かつサンプル間で同程度となるようにして行った。樹脂シートの最も垂れ下がっている位置から、木枠にセットした時点における樹脂シート下面までの垂直方向の距離を、木枠にあらかじめ取り付けておいた金尺で測定し、該距離が100mmとなるまでにかかった時間を「ドローダウン時間」として記録した。また、以下の基準で、耐ドローダウン性の評価を付した。
○:ドローダウン時間比が110%以上
△:ドローダウン時間比が105%以上110%未満
×:ドローダウン時間比105%未満
【0060】
<溶融伸び性>
下記する要領で得た樹脂シートから切り出したペレット状のサンプルを用い、溶融状態のストランドを高速で引き取った際のストランド切断有無を持って溶融伸び性を評価した。引取りによってストランドが切断しないものが好ましい。評価には、メルトテンション測定用アタッチメントが装備されており、φ10mmのシリンダーを有するキャピラリーレオメータ(東洋精機製作所社製キャピログラフ)を、先端にφ1mm、長さ10mmのオリフィスを装着して使用した。初めに、230℃に設定されたシリンダー中に前記したペレット状サンプルを充填し、5分間予熱した。その後、ピストン降下速度10mm/分でピストンを降下させて、溶融状態のサンプルをストランド状に押出すとともに、ダイから吐出されるストランドを350mm下のロードセル付きプーリーに掛けて2m/分の引取り速度で引き取り、安定的に引き取った。次に、引取り速度を40m/分、続いて100m/分に増加させた際の、それぞれの引取り速度におけるストランドの引取り可否を観察し、「溶融伸び性」として以下の基準で評価した。
○:100m/分の引取り速度で安定的に引取り可能
△:40m/分の引取り速度で安定的に引取り可能であるが、100m/分の引取り速度ではストランドが切断する。
×:40m/分の引取り速度でストランドが切断する。
【0061】
次に、実施例、比較例で使用した樹脂について説明する。
(A)ポリプロピレン系樹脂
(A−1):プライムポリマー社製プロピレン単独重合体、F113G、MFR=3.0g/10分(230℃、2.16kg)
(A−2):プライムポリマー社製プロピレン単独重合体、E111G、MFR=0.5g/10分(230℃、2.16kg)
(A−3):プライムポリマー社製プロピレン単独重合体、Y−400GP、MFR=4.0g/10分(230℃、2.16kg)
(A−4):プライムポリマー社製プロピレン−エチレンランダム共重合体、J232WA、MFR=1.5g/10分(230℃、2.16kg)
(B)改質ポリプロピレン系樹脂
(B−1):線状ポリプロピレン系樹脂としてMFR=8.0g/10分(230℃、2.16kg)のプロピレン単独重合体100重量部と、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.7重量部の混合物を、ホッパーから70kg/時で45mmφ二軸押出機(L/D=40)に供給してシリンダ温度200℃、回転数150rpmで溶融混練し、途中に設けた圧入部より共役ジエン化合物としてイソプレンモノマーを、定量ポンプを用い、プロピレン単独重合体100重量部に対して0.4重量部(0.28kg/時)供給し、前記ニ軸押出機中で溶融混練し、押し出されたストランドを水冷、細断することにより得た改質ポリプロピレン系樹脂。MFR=6.7g/10分(230℃、2.16kg)。
(B−2):線状ポリプロピレン系樹脂としてMFR=3.0g/10分(230℃、2.16kg)のプロピレン単独重合体100重量部、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.6重量部、イソプレンモノマーを0.5重量部(0.35kg/時)とした他はB−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂。MFR=1.1g/10分(230℃、2.16kg)。
(B−3):ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.7重量部、イソプレンモノマーを0.5重量部(0.35kg/時)とした他はB−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂。MFR=2.9g/10分(230℃、2.16kg)。
(B−4):線状ポリプロピレン系樹脂としてMFR=2.0g/10分(230℃、2.16kg)のプロピレン単独重合体100重量部、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.6重量部、イソプレンモノマーを0.5重量部(0.35kg/時)とした他はB−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂。MFR=0.8g/10分(230℃、2.16kg)。
(B−5):ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.1重量部、イソプレンモノマーを0.3重量部(0.21kg/時)とした他はB−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂。MFR=8.0g/10分(230℃、2.16kg)。
(B−6):線状ポリプロピレン系樹脂としてMFR=7.0g/10分(230℃、2.16kg)のプロピレン−エチレンランダム共重合体100重量部、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.6重量部、イソプレンモノマーを0.3重量部(0.21kg/時)とした他はB−1と同様にして得た改質ポリプロピレン系樹脂。MFR=3.5g/10分(230℃、2.16kg)。
(B)改質ポリプロピレン系樹脂の組成およびMFRを表1にまとめて示す。
また、(A−1)、(B−1)および(B−4)の伸長粘度を図1に示す。(B−2)、(B−3)、(B−5)及び(B−6)についても伸長粘度を測定した結果、(B−1)〜(B−6)のすべてが歪硬化性を有することを確認した。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例1)
(A)ポリプロピレン系樹脂として、(A−1)90重量部、及び(B)改質ポリプロピレン系樹脂として(B−1)10重量部をペレットブレンドした混合物を、230℃に設定されたφ40mm単軸押出機にて溶融混練した後、その先端に取り付けられたTダイから押出し、さらにチルロールで冷却しながら引き取ることで、厚み1.0mmの樹脂シートを得た。歪量3における伸長粘度比とともに、該樹脂シートの評価結果を表2に示す。
【0064】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
実施例1において、樹脂(A)、(B)の配合量を表2に示したようにそれぞれ変更した他は実施例1と同様にして樹脂シートを得た。評価結果を表2に示す。なお、比較例3のドローダウン時間比は、(A−1)単独の樹脂シート(比較例1)のドローダウン時間に対する比である。
【0065】
【表2】
表2において、(A−1)のMFR(3.0)より高いMFRを有する(a)ポリプロピレン系樹脂を用いて作製し、かつ、(A−1)に対する伸長粘度比が1.5倍以上である(B−1)を配合して得られた各実施例の樹脂シートは、(A−1)単独で作製した樹脂シート(比較例1)と比較して、改善された、良好な耐ドローダウン性を示している。さらに、(B−1)の配合量を3〜40重量%の範囲内とすることで、溶融伸び性にも優れた樹脂シートとできることが分かる。
【0066】
(実施例5)
(A)ポリプロピレン系樹脂として(A−2)90重量部、(B)改質ポリプロピレン系樹脂として(B−2)10重量部を使用した他は実施例1と同様にして樹脂シートを得た。歪量3における伸長粘度比とともに、該樹脂シートの評価結果を表3に示す。
【0067】
(実施例6〜8、比較例4〜8)
樹脂(A)、(B)の種類、及び配合量を表3に示したようにそれぞれ変更した他は実施例5と同様にして樹脂シートを得た。歪量3における伸長粘度比とともに、該樹脂シートの評価結果を表3に示す。
なお、実施例8および比較例6のドローダウン時間比を算出するための比較サンプルとして、(A−4)100重量%の樹脂シート、および、(A−3)100重量%の樹脂シートを別途作製した
【0068】
【表3】
【0069】
表3において、(A−2)のMFR(0.5)より高いMFRを有する(a)ポリプロピレン系樹脂を用いて作製し、かつ、(A−2)に対する伸長粘度比が1.5倍以上である(B−2)、または(B−3)を配合して得られた樹脂シート(実施例5〜7)は、(A−2)単独で作製した樹脂シート(比較例4)と比較して、改善された、良好な耐ドローダウン性を示している。さらに、(B−2)もしくは(B−3)の配合量を3〜40重量%の範囲内とすることで、溶融伸び性にも優れた樹脂シートとできることが分かる。
【0070】
表3において、プロピレン−エチレンランダム共重合体である(A−4)のMFRより高いMFRを有するプロピレン−エチレンランダム共重合体を用いて作製し、かつ、(A−4)に対する伸長粘度比が1.5倍以上である(B−6)を配合して得られた樹脂シート(実施例8)は、(A−4)単独で作製した樹脂シートと比較して、改善された、良好な耐ドローダウン性を示している。さらに、(B−6)の配合量を3〜40重量%の範囲内とすることで、溶融伸び性にも優れた樹脂シートとできることが分かる。
【0071】
比較例6、7は、(A)ポリプロピレン系樹脂のMFRより低いMFRを有する(a)ポリプロピレン系樹脂を用いて作製した樹脂(B)を使用しており、いずれも耐ドローダウン性の改善効果は不十分であることが分かる。
比較例8は、(A)ポリプロピレン系樹脂に対する伸長粘度比が1.5倍未満である(B)改質ポリプロピレン系樹脂を使用しており、耐ドローダウン性の改善効果は見られず、むしろ悪化することが分かる。
【0072】
以上の結果から、(A)ポリプロピレン系樹脂に対する(B)改質ポリプロピレン系樹脂の組み合わせおよび配合量を適切な範囲とすることで、本発明の効果が得られることが示される。
図1