【実施例】
【0028】
実施例1
Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、純然たるVTMS中に室温で約12時間浸漬した。その後繊維を取り出し、約100%の相対湿度の空気で飽和したグローブバッグ中に置いた。約48時間後、グローブバッグから繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間乾燥した。処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維の一部を試験用に取っておいた。処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維の残部を、超高純度アルゴン(約99.9%)の雰囲気下にて約650℃の最大熱分解温度で熱分解処理した。繊維を最大熱分解温度で約2時間保持した。
【0029】
処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維(すなわち熱分解前繊維)と改質CMS中空繊維(すなわち熱分解後繊維)の両方を、
29Si固体状態核磁気共鳴(NMR)によって試験した。VTMSで処理した後、Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維は、シロキサン結合(シロキサンブリッジと呼ばれることもある)の存在を示すピークを示した。これらのシロキサンブリッジは、ゾル−ゲル反応を介したVTMSの加水分解と縮合が起きたことを示している。熱分解処理を受けた後、CMS中空繊維も、シロキサンブリッジの存在を示すピークを示した。
29Si固体状態NMRは、非対称改質CMS中空繊維がゾル-ゲル反応の残分(residue)を含むことを示している。この研究の結果を
図5Aと5Bに示す。
【0030】
実施例2
Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、純然たるVTMS中に室温で約12時間浸漬した。繊維を取り出し、約100%の相対湿度の空気で飽和したグローブバッグ中に入れた。繊維を取り出し、約100%の相対湿度の空気で飽和したグローブバッグ中に置いた。約48時間後、グローブバッグから繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間乾燥した。
【0031】
処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を
13C溶液核磁気共鳴(NMR)により試験し、得られた結果を、未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維に対する
13C溶液核磁気共鳴スペクトルと比較した。結果を
図6に示す。特に目立つことに、処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維の
13C溶液NMRスペクトルは、VTMS改質剤と接触させていないMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維の
13C溶液NMRスペクトルと実質的な差がない。これらの結果は、改質剤がMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維と反応しないこと(すなわち、改質剤とポリマー前駆体との間にゾル−ゲル反応が起こらなかったこと)を示している。むしろ、ゾル−ゲル反応は、Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維の細孔中に存在する水分と改質剤との間で起こる、ということが確認された。
【0032】
前駆体繊維
本発明の非対称ポリマー前駆体繊維は、熱分解処理を受けた後に、分離すべき所望のガス(たとえば、二酸化炭素や天然ガス)の通過が可能となって、該所望ガスの少なくとも1種が他の成分とは異なる拡散速度にてCMS繊維を透過するというCMS膜、をもたらす任意のポリマー材料を含んでよい。ポリイミドが好ましいポリマー前駆体材料である。好適なポリイミドとしては、たとえば、Ultem(登録商標)1000、Matrimid(登録商標)5218、6FDA/BPDA-DAM、6FDA-6FpDA、および6FDA-IPDAなどがある。
【0033】
Matrimid(登録商標)5218として市販されているポリイミドは、特殊なジアミンである5(6)-アミノ-1-(4'-アミノフェニル)-1,3,-トリメチルインダンをベースとする熱可塑性ポリイミドである。その構造は以下のとおりである。
【0034】
【化1】
【0035】
実施例で使用されているMatrimid(登録商標)5218ポリマーは、Huntsman International LLC社から入手した。6FDA/BPDA-DAMは、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジアミン(DAM)、3,3,4,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、および5,5-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス-1,3-イソベンゾフランジオン(6FDA)で構成されるポリマーであり、以下の構造を有する。
【0036】
【化2】
【0037】
上記のポリマーを得るのに、市販の材料を使用することもできるし、あるいは合成することもできる。たとえば、このようなポリマーは米国特許第5,234,471号(該特許の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載されている。
【0038】
他の好適な前駆体ポリマーとしては、たとえば、ポリスルホン;ポリ(スチレン)(アクリロニトリル-スチレンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、およびスチレン-ビニルベンジルハライドコポリマー等のスチレン含有コポリマーを含む);ポリカーボネート;セルロース系ポリマー(たとえば、セルロースアセテート-ブチレート、セルロースプロピオネート、エチルセルロース、メチルセルロース、およびニトロセルロース等);ポリアミドとポリイミド(アリールポリアミドとアリールポリイミドを含む);ポリエーテル;ポリエーテルイミド;ポリエーテルケトン;ポリ(アリーレンオキシド)〔たとえば、ポリ(フェニレンオキシド)やポリ(キシレンオキシド)〕;ポリ(エステルアミド-ジイソシアネート);ポリウレタン;ポリエステル〔ポリ(エチレンテレフタレート)等のポリアリーレート、ポリ(アルキルメタクリレート)、ポリ(アクリレート)、およびポリ(フェニレンテレフタレート)等を含む〕;ポリピロールオン(polypyrrolone);ポリスルフィド;上記以外のα−オレフィン性不飽和を有するモノマーからのポリマー[たとえば、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ブテン-1)、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリビニル〔たとえば、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、およびポリ(ビニルアルコール)〕、ポリ(ビニルエステル)〔たとえば、ポリ(ビニルアセテート)やポリ(ビニルプロピオネート)〕、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(ビニルケトン)、ポリ(ビニルアルデヒド)〔たとえば、ポリ(ビニルホルマール)やポリ(ビニルブチラール)〕、ポリ(ビニルアミド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルウレタン)、ポリ(ビニルウレア)、ポリ(ビニルホスフェート)、およびポリ(ビニルサルフェート)];ポリアリル;ポリ(ベンゾベンズイミダゾール);ポリヒドラジド;ポリオキサジアゾール;ポリトリアゾール;ポリ(ベンズイミダゾール);ポリカルボジイミド;ポリホスファジン;上記からの反復構造単位を含有するブロックインターポリマーを含めたインターポリマー(たとえば、パラ-スルホフェニルメタリルエーテルのアクリロニトリル-臭化ビニル-ナトリウム塩のターポリマー);ならびに、上記ポリマーのうちの任意のポリマーを含有するグラフトおよびブレンド;などがある。置換されたポリマーをもたらす代表的な置換基としては、ハロゲン(フッ素、塩素、および臭素等)、ヒドロキシル基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、単環式アリール基、および低級アシル基などがある。
【0039】
本発明のポリマーは、ゴム状ポリマーや可撓性ガラス質ポリマーとは対照的に、室温にて硬質でガラス質のポリマーであるのが好ましい。ガラス質ポリマーは、ポリマー鎖のセグメント運動の速度によってゴム状ポリマーと区別される。ガラス状態のポリマーは、液体様特性と長い距離(>0.5nm)にわたってセグメント形態を速やかに調整する能力をゴム状ポリマーにもたらす急激な分子運動をしない。ガラス質ポリマーは、固まった立体配座での固定された分子主鎖を有する絡み合った分子鎖と非平衡状態にて存在する。ガラス転移温度(Tg)は、ゴム状態とガラス状態との間の分割点である。Tgより高い温度では、ポリマーはゴム状態で存在し、Tgより低い温度では、ポリマーはガラス状態で存在する。一般には、ガラス質ポリマーは、ガスの拡散に対して選択的な環境をもたらし、ガス分離の用途向けに有利である。硬質のガラス質ポリマーとは、制限された分子内回転運動性を有する剛性のポリマー主鎖を含んだポリマーを表わしており、しばしば高いガラス転移温度を有することを特徴とする。好ましいポリマー前駆体は、少なくとも200℃のガラス転移温度を有する。
【0040】
硬質のガラス質ポリマーでは、拡散係数により選択性が制御される傾向があり、ガラス質の膜は、低沸点の小分子の方に対して選択的である。たとえば、好ましい膜は、二酸化炭素、硫化水素、および窒素を、メタンや他の軽質炭化水素より優先的に通す硬質のガラス質ポリマー材料から製造することができる。このようなポリマーは当業界によく知られており、ポリイミド、ポリスルホン、およびセルロース系ポリマー等がある。
【0041】
非対称ポリマー前駆体繊維は、多孔質の第2のポリマー材料上に支持された第1のポリマー材料を含む複合構造物である。複合構造物は、非対称中空繊維紡糸プロセス時に、1種以上のポリマー材料をドープとして使用することによって製造することができる。
【0042】
幾つかの実施態様では、ポリマー前駆体繊維は、改質剤と反応する反応性官能基を含有してよい。実施例2に示すように、改質剤とポリマー前駆体繊維との反応は、モルホロジー安定剤または改質CMS中空繊維膜の形成にとって必要ではない。しかしながら、前駆体ポリマー材料の一部が改質剤と反応することがある、と考えられる。たとえば、ヒドロキシル基(-OH)や酸性可能基(-COOH等)を含有するポリマー材料を使用して製造される前駆体は改質剤と反応することがある。この反応は、細孔内の水分と改質剤との間のゾル-ゲル反応に加えて起こることがあり、それでもなお熱分解の結果、モルホロジー安定剤と非対称改質CMS中空糸膜が得られる、と考えられる。
【0043】
改質剤
本明細書で使用されている“改質剤”という術語は、ポリマー前駆体繊維の細孔内において反応を受けて、繊維の機械的特性に悪影響を及ぼすことなくモロホロジー安定剤を形成することのできる化合物を表わしている。
【0044】
好ましい改質剤は、重縮合反応を受けてシロキサンブリッジを形成する改質剤である。たとえば、改質剤は、一般式R
1R
2R
3R
4Si(式中、R
1、R
2、R
3、およびR
4のそれぞれは、独立してC
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルケニル、アルコキシ、またはハロゲンである)を有するシランであってよく、但し該シランは、少なくとも1つのC
1-C
6アルキルもしくはC
1-C
6アルケニル置換基と少なくとも1つのアルコキシもしくはハロゲン置換基を含有する。少なくとも1つのアルコキシもしくはハロゲン置換基は、シランにシロキサン結合の鎖状ネットワークを形成する能力をもたらす。少なくとも1つのC
1-C
6アルキルもしくはC
1-C
6アルケニル置換基が存在すると、繊維を改質剤で処理しても繊維は脆くならない。こうした条件に従って、置換基のそれぞれを、シランに所望の特性を付与するように変えることができる。たとえば、置換基を選択することによって、得られるモルホロジー安定剤の多孔性を変えることができる。
【0045】
幾つかの好ましい実施態様では、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)を、前駆体処理のための改質剤として使用するが、他のシランも改質剤として使用することができる。たとえば改質剤は、モノシランであってもよいし、あるいはジシロキサンやトリシロキサン等のオリゴシロキサンであってもよい。たとえば種々の実施態様では、改質剤は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシクロロシラン、ビニルジエトキシクロロシラン、ビニルメトキシジクロロシラン、ビニルエトキシジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルペンタメトキシジシロキサン、ジビニルテトラメトキシジシロキサン、およびこれらの組み合わせからなる群から選ぶことができる。種々の特に好ましい実施態様では、少なくとも1つのアルコキシもしくはハロゲン置換基はメトキシまたはエトキシを含む。種々の特に好ましい実施態様では、少なくとも1つのC
1-C
6アルキルもしくはC
1-C
6アルケニル置換基はビニルを含む。特に好ましい改質剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、エタントリメトキシシラン、およびメチルトリメトキシシランなどがある。
【0046】
他の改質剤としては、重縮合反応を受けて金属-オキソ結合及び/又は金属-オキシカーバイド結合を形成するものがある。たとえば、たとえば、改質剤は、一般式R
1R
2R
3R
4M(式中、Mは金属であり;R
1、R
2、R
3、およびR
4のそれぞれは、独立してC
1-C
6アルキル、C
1-C
6アルケニル、アルコキシ、またはハロゲンである)を有する金属アルコキシドであってよく、但し該金属アルコキシドは、少なくも1つのC1-C
6アルキルもしくはC1-C
6アルケニル置換基、および少なくとも1つのアルコキシもしくはハロゲン置換基を含有する。少なくとも1つのアルコキシもしくはハロゲン置換基は、金属アルコキシドに、金属-オキソ結合及び/又は金属オキシカーバイド結合の鎖状ネットワークを形成する能力を付与する。少なくとも1つのC
1-C
6アルキルもしくはC
1-C
6アルケニル置換基が存在すると、繊維を金属アルコキシドで処理しても繊維は脆くならない。こうした条件に従って、置換基のそれぞれを、金属アルコキシドに所望の特性を付与するように変えることができる。たとえば、置換基を選択することによって、得られるモルホロジー安定剤の多孔性を変えることができる。好ましい実施態様では、金属Mは、Ge、B、Al、Ti、V、Fe、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0047】
処理条件と熱分解条件
実質的に非崩壊の非対称改質CMS中空糸膜を製造するためにポリマー前駆体繊維を改質する際に、本発明のプロセスは、ポリマー前駆体を供給する工程;改質剤を含む接触用溶液(改質剤は、溶液中に100重量%未満の濃度にて存在する)を供給する工程;ポリマー前駆体の少なくとも一部と改質剤を含む接触用溶液の少なくとも一部とを接触させて、熱分解処理をしたときに実質的に非崩壊の非対称改質CMS中空糸膜を生成する改質ポリマー前駆体を作製する工程;を含む。改質剤を所望の濃度にて含む溶液中に、ポリマー前駆体を、改質剤が前駆体繊維のサブ構造細孔に入り込むのを可能にするのに充分な時間にわたって浸漬するのが好ましい。この時間は、約30分〜約24時間であるのが好ましい。
【0048】
改質剤を含有する溶液が、前駆体繊維のサブ構造細孔に入り込むのに中空前駆体繊維の端部と接触する必要はない。むしろ、改質剤が前駆体繊維の外側スキンを半径方向に貫通し、このようにして繊維のサブ構造細孔中に入り込むことがある、ということが見出された。
【0049】
前駆体繊維と改質剤との接触は、室温で行うのが好ましい。しかしながら、幾つかのさらなる実施態様では、接触温度は、約20℃〜約ポリマー前駆体ガラス転移温度;約100℃〜約ポリマー前駆体ガラス転移温度;および約100℃から約250℃;から選ばれる範囲内に保持することができる。
【0050】
種々の実施態様では、モルホロジー安定剤を形成させるための改質剤の反応は、触媒の添加を必要とすることがある。たとえば、ビニルトリエトキシシランを改質剤として使用するときは、触媒を加えてゾル-ゲル反応を促進させるのが望ましい。これは、たとえばVTMSのメトキシ基と比較して、エトキシ基の反応が遅いことによるものである。ゾル-ゲル反応は酸性条件下で著しく増大するということが当業界に知られているように、本発明のゾル-ゲル反応は、酸(たとえば鉱酸)を加えることで促進させることができる。好ましい酸触媒としては、容易に入手できる任意の鉱酸があり、たとえば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、過塩素酸、およびこれらの組合わせ等がある。
【0051】
いったん前駆体繊維を改質剤と接触させたら(たとえば、改質剤を選定された濃度で含有する溶液中に浸漬することによって)、処理した前駆体繊維を水分と接触させる(たとえば、繊維を水分含有雰囲気下に置くことによって)。ここでの水分含有雰囲気は、約50%〜約100%の相対湿度を有する雰囲気である。前駆体繊維を、水分含有雰囲気下に約1時間〜約60時間にわたって保持するのが好ましい。
【0052】
次いで処理した前駆体繊維を乾燥し、熱分解処理する。熱分解処理は、不活性雰囲気下で行うのが有利である。熱分解温度は約500℃〜約800℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約500℃〜約700℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約500℃〜約650℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約500℃〜約600℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約500℃〜約550℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約550℃〜約700℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約550℃〜約650℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約600℃〜約700℃であってよく;これとは別に、熱分解温度は約600℃〜約650℃であってよい。熱分解温度は通常、温度がゆっくり上昇するプロセスによって到達させる。たとえば、650℃の熱分解温度を使用する場合、熱分解温度は、13.3℃/分の上昇速度にて温度を50℃から250℃まで増大させ、3.85℃/分の上昇速度にて温度を250℃から635℃まで増大させ、そして0.25℃/分の上昇速度にて温度を635℃から650℃まで増大させることによって達成することができる。いったん熱分解温度に達したら、繊維を熱分解温度にて浸漬時間にわたって加熱する(長時間となることがある)。
【0053】
多量の改質CMS中空糸膜を1回の熱分解処理で得るために、ポリマー前駆体繊維を束ね、バンドルとして熱分解処理することができる。熱分解は一般に、前駆体繊維の熱分解に関して述べられているが、本明細書で使用されている熱分解の記載はいずれも、束ねられた前駆体繊維だけでなく束ねられていない前駆体繊維の熱分解を含むように意図されている。
【0054】
通常、束ねたポリマー前駆体繊維をポリマー材料のガラス転移温度より上に加熱すると(たとえば熱分解処理時に起こる)、繊維が互いに付着するようになる。このように束ねられた繊維が付着すると、CMS中空糸膜として使用するための望ましさが低下する。ポリマー前駆体繊維を、前述したように改質剤で処理することによって、バンドルになった繊維の間の付着を少なくするか又はなくすことができる。処理時に、改質剤が反応して、前駆体繊維の外側スキン表面上に薄膜を形成する。たとえば、前駆体繊維をVTMSで処理すると、処理した前駆体繊維が外側スキン表面上にケイ素含有物質の薄膜を構成し、そして熱分解処理後に、改質CMS中空繊維が外側スキン表面上にシリカの薄膜を構成する。この薄膜は機械的なバリヤーとして作用し、熱分解処理時に繊維がくっつくのを防止する。その結果、バンドル状にて熱分解処理を受ける非対称改質CMS中空糸膜のガス分離特性は、熱分解処理時にバンドル化されていない非対称改質CMS中空糸膜とほぼ同等となる。
【0055】
したがって、より詳細に後述するように、選定された前駆体繊維から製造される改質CMS中空糸膜のガス分離特性に最も影響を及ぼすのは、処理時の改質剤の濃度および熱分解温度である。
【0056】
改質剤の濃度の選定
さて驚くべきことに、ポリマー前駆体繊維を処理する前に改質剤を希釈すると、ポリマー前駆体を純然たる改質剤で処理することによって製造される改質CMS中空糸膜を凌ぐ増大したパーミアンスを有する改質CMS中空糸膜が得られる、ということが見出された。希釈剤は、改質剤がモルホロジー安定剤を形成する反応を妨げない任意の液体であってよい。好適な希釈剤としては、C
5以上の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素がある。好ましい希釈剤としては、たとえばn-ヘキサン、トルエン、およびn-ヘプタンなどがある。
【0057】
比較例1
未処理のMartimid(登録商標)5218前駆体繊維をステンレス鋼製のワイヤメッシュ上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0058】
得られたCMS繊維を単一の繊維モジュールで試験した〔たとえば、Korosらによる米国特許第6,565,631号(該特許の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載〕。Korosらによる米国特許第6,565,631号に記載の場合と同様に、単一ガス供給物と混合ガス供給物の両方に関して、一定容積可変圧力透過システム(a constant-volume variable pressure permeation system)にてCMS繊維モジュールを試験した。CMS繊維は、50モル%のCO
2と50モル%のCH
4を含有する混合ガス供給物を使用して150psi(ポンド/in
2)の圧力にて試験した。温度は35℃に保持した。
【0059】
CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約8〜10GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約99〜100と測定された。
【0060】
比較例2
Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、純然たるVTMS(すなわち100重量%VTMS)中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0061】
得られた改質CMS繊維を単一の繊維モジュールで試験した〔たとえば、Korosらによる米国特許第6,565,631号(該特許の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載〕。Korosらによる米国特許第6,565,631号に記載の場合と同様に、単一ガス供給物と混合ガス供給物の両方に関して、一定容積可変圧力透過システムにてCMS繊維モジュールを試験した。改質CMS繊維は、50モル%のCO
2と50モル%のCH
4を含有する混合ガス供給物を使用して150psi(ポンド/in
2)の圧力にて試験した。温度は35℃に保持した。
【0062】
改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約35〜40GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約90〜95と測定された。
【0063】
実施例3
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の75重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0064】
得られた改質CMS繊維を単一の繊維モジュールで試験した〔たとえば、Korosらによる米国特許第6,565,631号(該特許の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載〕。Korosらによる米国特許第6,565,631号に記載の場合と同様に、単一ガス供給物と混合ガス供給物の両方に関して、一定容積可変圧力透過システムにてCMS繊維モジュールを試験した。改質CMS繊維は、50モル%のCO
2と50モル%のCH
4を含有する混合ガス供給物を使用して150psi(ポンド/in
2)の圧力にて試験した。温度は35℃に保持した。
【0065】
改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約40〜42GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約90〜100と測定された。
【0066】
実施例4
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の75重量%を構成し、ヘキサンが残りの25重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0067】
得られた改質CMS繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した。SEM分析により、サブ構造の崩壊が制限されていることがわかった。CMS繊維のSEM画像を
図7に示す。
【0068】
実施例5
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の50重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0069】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約45〜48GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約90〜95と測定された。
【0070】
実施例6
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の50重量%を構成し、ヘキサンが残りの50重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0071】
得られた改質CMS繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した。SEM分析により、サブ構造の崩壊が制限されていることがわかった。CMS繊維のSEM画像を
図8に示す。
【0072】
実施例7
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の25重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0073】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約50〜55GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約88〜91と測定された。
【0074】
実施例8
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の25重量%を構成し、ヘキサンが残りの75重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0075】
得られた改質CMS繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した。SEM分析により、サブ構造の崩壊が制限されていることがわかった。CMS繊維のSEM画像を
図9に示す。
【0076】
実施例9
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の10重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0077】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約65〜70GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約85〜90と測定された。
【0078】
実施例10
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の10重量%を構成し、ヘキサンが残りの90重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0079】
得られた改質CMS繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した。SEM分析により、サブ構造の崩壊が制限されていることがわかった。CMS繊維のSEM画像を
図8に示す。
【0080】
実施例11
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の5重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0081】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約18〜20GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約99〜100と測定された。
【0082】
実施例12
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の5重量%を構成し、ヘキサンが残りの95重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0083】
得られた改質CMS繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した。SEM分析により、サブ構造の崩壊が部分的にあることがわかった。CMS繊維のSEM画像を
図9に示す。
【0084】
実施例13
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の1重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から635℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて635℃から650℃;(4)650℃にて2時間浸漬。
【0085】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約10〜12GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約99〜100と測定された。
【0086】
実施例14
ヘキサンとVTMSの溶液を調製した。VTMSが溶液の1重量%を構成し、ヘキサンが残りの99重量%を構成した。Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を溶液中に約12時間浸漬した。次いで溶液から繊維を取り出し、空気を100%の相対湿度で含有するグローブバッグ中に置いた。約48時間後、繊維を取り出し、減圧にて150℃で約12時間加熱することによって乾燥した。次いで処理した前駆体繊維をステンレス鋼製ワイヤメッシュに上に置き、メッシュと繊維の周りにある長さのワイヤを巻き付けることによって所定の位置に保持した。次いで繊維を収容するメッシュサポートを熱分解セットアップ(たとえば
図14に示すタイプ)に装入した。熱分解処理は、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下で以下のように行った:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0087】
得られた改質CMS繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した。SEM分析により、サブ構造のモロホロジーが崩壊していることがわかった。CMS繊維のSEM画像を
図9に示す。
【0088】
上記実施例の試験結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
上記実施例によって示されているように、溶液の100%未満の量にて存在する改質剤を含む溶液と接触させたポリマー前駆体繊維は、驚くべきことに、100%の純然たる改質剤と接触させたポリマー前駆体繊維と比較したときに、ガスパーミアンスの増大した改質CMS繊維膜をもたらす。もっと正確に言えば、改質剤の濃度が、熱分解時にサブ構造の細孔の崩壊を著しく制限することにおいてもはや有効ではないと思われるポイントに達するまで、得られる改質CMS繊維膜のガスパーミアンスは、処理溶液中の改質剤の濃度を減少させることに応じて実際には増大する、ということが見出された。VTMSの場合、サブ構造の崩壊を著しく制限することにおいてもはや有効ではないと思われるポイントは、約1重量%〜約5重量%の濃度において生ずると思われる。試験した溶液について、最も高いガスパーミアンスを有する改質CMS繊維膜をもたらした溶液は、改質剤を約10重量%の濃度で含有した。
【0091】
本発明の種々の実施態様は、改質剤を、約1重量%〜約95重量%;あるいはまた約1重量%〜約90重量%;あるいはまた約1重量%〜約80重量%;あるいはまた約1重量%〜約75重量%;あるいはまた約1重量%〜約50重量%;あるいはまた約1重量%〜約25重量%;あるいはまた約1重量%〜約15重量%;あるいはまた約1重量%〜約12重量%;あるいはまた約5重量%〜約90重量%;あるいはまた約5重量%〜約80重量%;あるいはまた約5重量%〜約75重量%;あるいはまた約5重量%〜約50重量%;あるいはまた約5重量%〜約25重量%;あるいはまた約5重量%〜約15重量%;あるいはまた約5重量%〜約12重量%;あるいはまた約5重量%〜約10重量%;あるいはまた約8重量%〜約90重量%;あるいはまた約8重量%〜約80重量%;あるいはまた約8重量%〜約75重量%;あるいはまた約8重量%〜約50重量%;あるいはまた約8重量%〜約25重量%;あるいはまた約8重量%〜約15重量%;あるいはまた約8重量%〜約12重量%;あるいはまた約10重量%〜約90重量%;あるいはまた約10重量%〜約80重量%;あるいはまた約10重量%〜約75重量%;あるいはまた約10重量%〜約50重量%;あるいはまた約10重量%〜約25重量%;あるいはまた約10重量%〜約15重量%;の濃度にて含む溶液と接触させることに関する。上記のパーセント値は、接触溶液中の改質剤の重量%を示す。
【0092】
さらに、ポリマー前駆体繊維を改質剤で処理すると、非対称改質CMS中空糸膜の外側スキン層上に残留皮膜が(residual film)形成される。特に、前駆体繊維の細孔中でゾル-ゲル反応プロセスを受けることに加えて、改質剤が、類似の反応を受けて非対称改質CMS中空繊維の外側スキン層上に皮膜を形成する。重要なことに、この皮膜は、前駆体繊維がポリマーのガラス転移温度より高い温度に加熱されたときに(たとえば熱分解処理時等)、前駆体繊維のくっつきを防ぐように作用する。
【0093】
しかしながらこの皮膜はさらに、繊維の外側スキン層上に存在する細孔を通るガスの流れを妨げ、したがって非対称改質CMS中空糸膜のパーミアンスを低下させる。ビニルトリメトキシシラン(VTMS)(本発明の好ましい改質剤)のゾル-ゲル反応による皮膜の形成を
図3に示す。したがって、改質剤の濃度を減らすことによって残留皮膜の形成が制限され、この結果、得られるCMS中空糸膜のガスパーミアンスが増大する。特定の理論で拘束されるつもりはないが、この効果は、接触溶液中の改質剤の濃度を低下させることで、ガスパーミアンス特性の向上した改質CMS中空糸膜が得られる、という驚くべき結果を説明すると考えられる。
【0094】
したがって本発明の1つの目的は、前駆体繊維を改質剤で処理することであり、このとき改質剤は、残留皮膜の形成を制限する(皮膜の厚さを実質的に最小にする)のに効果的な濃度にて存在する。改質剤の濃度は、サブ構造の崩壊を著しく制限するのに極めて効果的であって、且つ非対称改質CMS中空繊維の外側スキン層上への残留皮膜の形成を制限するのに極めて効果的であるような量にて選定するのが好ましい。このようにして、改良されたパーミアンス特性と有利な非付着特性の両方を有する非対称改質CMS中空糸膜を製造することができる。
【0095】
種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜と比べて、少なくとも300%増大したガスパーミアンスを有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜と比べて、少なくとも400%増大したガスパーミアンスを有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜と比べて、少なくとも500%増大したガスパーミアンスを有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜と比べて、少なくとも600%増大したガスパーミアンスを有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。
【0096】
上記の実施例によって示されているように、パーミアンスの実質的な増大は、選択性の実質的に低下を引き起こさずにもたらすことができる。たとえば、種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜の選択性の少なくとも80%である選択性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜の選択性の少なくとも85%である選択性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜の選択性の少なくとも90%である選択性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、改質剤による処理を受けていない同等の非対称CMS中空糸膜の選択性の少なくとも95%である選択性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。
【0097】
種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、ガスパーミアンス特性と選択性特性の所望の組合わせを有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定する。たとえば、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のCO
2とCH
4の分離に対して有用な特性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のH
2SとCH
4の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中にてCO
2とH
2Sの混合物(CO
2/H
2S)をCH
4から分離することに対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のCO
2とN
2の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のO
2とN
2の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のN
2とCH
4の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のHeとCH
4の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のH
2とCH
4の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中のH
2とC
2H
4の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中にてオレフィンをパラフィンから分離すること(たとえば、エチレンとエタンの分離、あるいはプロピレンとプロパンの分離)に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。溶液中の改質剤の濃度はさらに、任意の数のさらなる成分を含むガスストリーム中にてオレフィンの混合物をパラフィンの混合物から分離すること〔たとえば、エチレンとプロピレンの混合物(エチレン/プロピレン)をエタンプロパンの混合物(エタン/プロパン)から分離すること〕に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。
【0098】
1つの実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、炭化水素を含有するか又は炭化水素含量の多いガスストリーム(たとえば天然ガスストリーム)からの酸性ガス(たとえばCO
2やH
2S)の分離に対して有用な非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。
【0099】
種々の実施態様では、溶液中の改質剤の濃度は、望ましいパーミアンス特性と選択性特性〔たとえば一定容積可変圧力透過システム(たとえばKorosらによる米国特許第6,565,631号に記載のシステム)を使用して、非対称改質CMS中空糸膜を単一繊維モジュールにて試験することによって測定することができる〕を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。たとえば、溶液中の改質剤の濃度が、CO
2とCH
4の分離に対して望ましい特性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定される場合、溶液中の改質剤の濃度は、50モル%のCO
2と50モル%のCH
4を含有する混合供給物に150psiおよび35℃にてさらされたときに、少なくとも50GPUのCO
2パーミアンスと少なくとも60のCO
2/CH
4選択性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。これとは別に、溶液中の改質剤の濃度は、50モル%のCO
2と50モル%のCH
4を含有する混合供給物に150psiおよび35℃にてさらされたときに、少なくとも60GPUのCO
2パーミアンスと少なくとも80のCO
2/CH
4選択性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定することができる。
【0100】
上記実施例は、溶液中の改質剤の濃度を、CO
2とCH
4の分離に対して望ましい特性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定できる仕方を示しているけれども、種々の改質剤濃度を使用して作製した非対称改質CMS中空糸膜を異なるガスストリームの分離に対して試験することによって、任意のガスストリームの分離に対して特に望ましい非対称改質CMS中空糸膜をもたらす溶液中の改質剤の濃度(もしくは濃度の範囲)を容易に決定することができる、ということは当業者にとって言うまでもないことである。
【0101】
改質剤の濃度と熱分解温度の調整
種々の実施態様では、熱分解温度はさらに、ガスパーミアンス特性と選択性特性の所望の組合わせを有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定される。特性の所望の組合わせが得られる熱分解温度は、使用するポリマー前駆体に応じて異なる。熱分解処理において使用する改質剤の濃度と熱分解の温度の両方を慎重に制御することによって、特定の所望するガス分離特性を有する非対称改質CMS中空糸膜を製造することができる。
【0102】
非対称改質CMS中空糸膜のガス分離特性を、処理工程における改質剤の濃度と熱分解温度の両方を制御することによって、どのようにして調整することができるかを示すために、Matrimid(登録商標)5218繊維を、実施例10と11に記載のように、10重量%のVTMSを含有する溶液で処理した。改良されたガスパーミアンスをもたらすよう示された濃度にて改質剤を含む溶液で処理した選定されたポリマー前駆体に対する最も適切な熱分解温度を調べるために、前駆体繊維を種々の温度にて熱分解処理にかけた。比較のため、未処理のMatrimid(登録商標)5218繊維と純然たる(すなわち100%)VTMSで処理したMatrimid(登録商標)5218繊維を、同様の温度範囲にて熱分解処理に付した。試験についてはより詳細に後述する。
【0103】
実施例15
実施例9と10に記載のように10重量%VTMSの溶液で処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下にて以下のように熱分解処理に付した:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0104】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約190〜195GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約15〜20と測定された。
【0105】
実施例16
実施例9と10に記載のように10重量%VTMSの溶液で処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下にて以下のように熱分解処理に付した:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から585℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて585℃から600℃;(4)600℃にて2時間浸漬。
【0106】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約170〜180GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約38〜40と測定された。
【0107】
実施例17
実施例9と10に記載のように10重量%VTMSの溶液で処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下にて以下のように熱分解処理に付した:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から610℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて610℃から625℃;(4)625℃にて2時間浸漬。
【0108】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約70〜75GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約75〜80と測定された。
【0109】
比較例3
未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下にて以下のように熱分解処理に付した:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0110】
得られたCMS繊維を実施例3に記載のように試験した。CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約20〜30GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約30〜40と測定された。
【0111】
比較例4
比較例2のように純然たるVTMS(100%)の液で処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下にて以下のように熱分解処理に付した:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から535℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて535℃から550℃;(4)550℃にて2時間浸漬。
【0112】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約100〜120GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約20〜25と測定された。
【0113】
比較例5
比較例2のように純然たるVTMS(100%)の液で処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を、超高純度アルゴン(純度99.9%)の雰囲気下にて以下のように熱分解処理に付した:(1)13.3℃/分の上昇速度にて50℃から250℃;(2)3.85℃/分の上昇速度にて250℃から585℃;(3)0.25℃/分の上昇速度にて585℃から600℃;(4)600℃にて2時間浸漬。
【0114】
得られた改質CMS繊維を実施例3に記載のように試験した。改質CMS繊維を通るCO
2のパーミアンスは約60〜65GPUと測定された。CO
2/CH
4選択性は約30〜35と測定された。
【0115】
試験の結果を表2に要約する。さらに、2つの異なる温度(550℃と650℃)での結果の比較を
図13に示す。これらの結果から、VTMS改質剤で処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維から優れた性能を有する非対称改質CMS中空糸膜を得るためには、前駆体繊維と、約10重量%のVTMSを含有する処理溶液とを接触させ、次いで前駆体繊維を約600℃〜約650℃の温度で熱分解すればよい、ということがわかる。本明細書に記載の手法を使用すれば、(a)処理溶液中の改質剤濃度の適切な範囲、および(b)熱分解温度の適切な範囲を、いかなる前駆体繊維に対しても同様に決定することができるであろう。たとえばポリイミド前駆体繊維を含めた多くの前駆体繊維に対し、望ましい処理濃度と熱分解温度は、Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維に対して示されたものと同等であると考えられる。
【0116】
【表2】
【0117】
上記の実施例は、改質剤の濃度と熱分解温度を、CO
2とCH
4の分離に対して望ましい特性を有する非対称改質CMS中空糸膜が得られるように選定できる仕方を示しているけれども、種々の改質剤濃度と種々の熱分解温度を使用して作製した非対称改質CMS中空糸膜を、任意のガスストリームの分離に対して試験することによって、任意のガスストリームの分離に対して特に望ましい非対称改質CMS中空糸膜をもたらす改質剤濃度(もしくは濃度範囲)と熱分解温度を容易に決定することができる、ということは当業者にとって言うまでもないことである。
【0118】
強化溶媒交換
種々の実施態様では、ポリマー前駆体繊維の処理を溶媒交換プロセスと結びつけることができる。前駆体繊維を形成(たとえばドライジェット、ウェット-クエンチ法によって)させた後に、繊維を溶媒交換プロセスとして知られているプロセスに付す。乾燥を介して繊維の多孔性を保持するために、膜の細孔中に含有されている水を除去する必要がある。したがって溶媒交換プロセスは、繊維の多孔質構造中に存在する水を表面張力の低い有機化合物で置き換える。前駆体繊維を、有機化合物が繊維の細孔中に存在する水に置き換わるのを可能にするのに効果的な時間にわたって溶媒交換プロセスに付す。
【0119】
溶媒交換は2つ以上のステップ(それぞれのステップが異なる溶媒交換物質を使用する)を含むのが好ましい。たとえば、従来の溶媒交換プロセスは、第1の溶媒を使用して膜中の水を除去すること、次いでアルコールを第2の溶媒で置き換えることを含む。第1のステップは、ポリマーに対して充分に不活性である水混和性アルコールを含む1種以上の溶媒交換物質を使用する。膜中の水に置き換わるのに効果的であるいかなる化合物も、第1の溶媒として使用できると考えられる。1〜3個の炭素原子を有する脂肪族アルコール(すなわちメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、およびこれらの組合わせ)が第1の溶媒交換物質として特に効果的である。
【0120】
第2のステップは、アルコールを表面張力の低い1種以上の揮発性化合物で置き換えるのに効果的である。加熱時における膜の細孔に対する損傷を防ぐための、充分に低い表面張力を有するいかなる溶媒も、第2の溶媒として使用できると考えられる。第2の溶媒交換物質として特に有用である有機化合物としては、C
5以上の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族アルカンがある。トルエンも、第2の溶媒として使用できると考えられている。n-ヘキサンが、第2の溶媒交換物質として使用するための特に好適な有機化合物であることが見出されている。第1と第2の溶媒交換物質は、膜特性の大幅な低下を防ぐよう、膜に対して充分に非反応性でなければならない。
【0121】
この典型的な実施態様に記載のプロセスは2ステップだけを含むけれども、溶媒交換プロセスは、任意のステップ数および任意の溶媒数を含んでよい。溶媒交換プロセスは、任意の数の溶媒交換物質を使用してよく、このとき各後続ステップの溶媒交換物質は、先行ステップの溶媒交換物質に置き換わるのに効果的である。
【0122】
ある量の改質剤を含む溶媒交換物質を使用することによって、ガスパーミアンスの増大した非対称改質CMS中空糸膜を製造することができる、ということが現在見出された。サブ構造の崩壊を制限すべく前駆体繊維を改質剤で処理することを、溶媒交換プロセスと関連させて行うことができるので、非対称CMS中空糸膜の製造において通常行われる以上の追加のプロセスステップを必要とせずに、増大したガスパーミアンスを有する改質CMS中空糸膜を製造することができる。本明細書に記載の、前駆体繊維を改質剤で処理するプロセスは、溶媒交換ステップの一部として、強化溶媒交換プロセス(enhanced solvent exchange process)と呼ぶことができる。
【0123】
したがって種々の実施態様では、改質剤は、溶媒交換プロセスにおける第2の溶媒に加えられる。たとえば、改質剤は、乾燥時に膜の細孔を維持するに足る充分に低い表面張力を有する有機溶媒に加えられる。1つの適切な実施態様では、有機溶媒はn-ヘキサンである。有機溶媒中の改質剤の濃度は、本明細書に記載のように選定することができる。
【0124】
強化溶媒交換プロセスでは、前駆体繊維を、有機化合物(たとえばn-ヘキサン)と改質剤(たとえばVTMS)を含む溶液中に、改質剤が繊維細孔中の水の一部と反応するのを可能にし、且つ有機溶媒が繊維細孔中の水の他の部分に置き換わるのに効果的である時間にわたって浸漬する。このようにして、前駆体繊維は、従来の溶媒交換プロセスのメリットを失うことなく、改質剤で処理することのメリットを得る。
【0125】
改質剤が非対称前駆体繊維の外側スキンを透過できることで、改質剤は、溶媒交換プロセス時における繊維の処理に対して特に魅力あるものとなる。工業的プロセスでは、前駆体繊維が、溶媒交換物質を通して連続的に移送されることが多い。したがって繊維の端は、溶媒交換物質と、たとえ接触するとしてもめったに接触しない。したがって、非対称CMS中空糸膜の商業生産時における効果的な処理のために、改質剤は、繊維の外側スキンを通って前駆体繊維のサブ構造に到達する。
【0126】
非対称改質CMS中空糸膜
本発明の種々の実施態様は、モルホロジー安定剤をその細孔の少なくとも1つ内に有する非対称CMS中空糸膜に関する。1つの望ましい実施態様では、細孔はサブ構造孔であり、モルホロジー安定剤はそれ自体が多孔質である。
【0127】
実施例18
下記の材料に関して元素分析を行った:a.未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維;b.実施例1と2に従って純然たる(100%)VTMSで処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維;c.未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を550℃と650℃で熱分解することによって製造した非対称CMS中空繊維;d.実施例1と2に従って純然たる(100%)VTMSで処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を550℃と650℃で熱分解することによって製造した非対称改質CMS中空繊維;およびe.10重量%VTMSを含む溶液で処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を実施例9と10に記載のように熱分解することによって製造した非対称改質CMS中空繊維。
【0128】
元素分析の結果は、アリゾナ州ツーソンのALS Environmental Labから得た。この元素分析は、各繊維サンプル中に存在する炭素、水素、窒素、酸素、およびケイ素を特定してそれらの量を測定するための数多くの手法を含んだ。
【0129】
炭素と水素と窒素の含量は、マイクロCHN Analysis(ASTM D5373/D5291)法を使用して測定した。この分析法において使用された機器はPerkin Elmer 2400 Series II CHN Analyzerであった。この機器を使用してサンプルを935℃で燃焼処理し、次いで840℃の炉に通して第2の燃焼処理を行ってさらなる酸化と粒状物の除去を行った。燃焼で生成するガスをキャリヤーガスによって移送し、均一化させ、IR検出器を介してパージする。この検出器は、CO
2ガスとH
2Oからの水素によって炭素を測定する。窒素は、得られる燃焼物(combustate)からのNO
2ガスが窒素として測定される熱伝導率によって検出される。CHNの結果は重量%として報告された。炭素、水素、および窒素のモルパーセント値は、実測の重量%から算出された。サンプルは以下のように調製した。サンプル(サンプルマトリックスから導かれる)の量を、0.0001mg秤量可能な微量天秤により軽量した。各サンプルを、予め計量された燃焼性の錫カプセル中に置き、機器の炉中に落下させて分析した。機器を、特定のサンプルマトリックスと使用されたカプセルに対して較正した。
【0130】
酸素含量は、Oxygen Analysis(ASTM D5373、修正)によって測定した。この方法において使用した機器はLECO TruSpec Oxygen Analyzerであった。各サンプルをカプセル中に置き、0.001mg秤量可能な微量天秤により計量した。次いでカプセルを、1300℃で作動する炉中に落下させた。還元管中にて、ブロークンアップO
2(broken up O
2)を炉中のカーボンブラックと合わせる。全てのCO
x成分を酸化銅を介して流し、CO
2に転化させる。こうして得られるガスを、酸素に関してIR検出により分析する。機器は、特定のサンプルマトリックスと燃焼において使用したカプセルに対して較正した。得られた結果は、サンプル中の酸素の重量%として報告された。次いで酸素のモルパーセント値は、実測の重量%から算出された。
【0131】
改質CMS中空糸膜中のケイ素の含量は、全溶解(total dissolution)を使用する方法によって求めた。特に、分析はICP-OES法によって行った。この方法は、マイクロ波にてサンプルに酸(たとえばHCl、HNO
3、またはHF)を温浸させること;ホウ酸で錯形成させてHFを中和すること;およびナノピュア水を使用して最終体積にすること;を含む。結果は、サンプル中のケイ素の重量%として報告された。ケイ素のモルパーセント値は、実測の重量パーセント値から算出された。
【0132】
元素分析の結果を表3、4、および5に示す。
【0133】
【表3】
【0134】
元素分析から、純然たるVTMSからなる液体中に浸漬することによって処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維が約4重量%のケイ素を含有したことがわかる。実測されたケイ素が、非対称前駆体中空繊維の細孔内に存在する水分とVTMSとの反応によって形成されるシロキサンブリッジの鎖状ネットワークによるものであることを確認するために、未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維も元素分析に付した。未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維は、測定可能な量のケイ素を含有しないことがわかった。したがって、処理したMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維の元素分析によって見出されたケイ素は、処理後の前駆体繊維中に存在する網目改質剤縮合物(chain-linked modifying agent condensate)の量を示すのに役立つことがある。
【0135】
【表4】
【0136】
さらに、Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を純然たるVTMSで処理し、次いで処理された繊維を熱分解することによって製造した非対称改質CMS中空繊維に対しても元素分析を行った。得られた結果から、改質CMS中空繊維は、熱分解温度(550℃〜650℃の範囲)に応じて、約11重量%〜約16重量%(約3モル%〜約6モル%)のケイ素を含有することがわかる。実測されたケイ素が、熱分解後に存在するモルホロジー安定剤によるものであることを確認するために、未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維を熱分解処理する(同じ熱分解温度を使用して)ことによって製造したCMS中空繊維も元素分析に付した。未処理のMatrimid(登録商標)5218前駆体繊維から製造したCMS中空繊維は、測定可能な量のケイ素を含有しないことがわかった。したがって、改質CMS中空繊維の元素分析によって見出されたケイ素の重量%は、非対称改質CMS中空糸膜中に存在するモルホロジー安定剤の量を示すのに役立つことがある。
【0137】
次に、Matrimid(登録商標)5218前駆体繊維を10重量%のVTMSを含有する溶液で処理し、処理した繊維を550℃〜650℃の範囲の種々の熱分解温度で熱分解処理することによって製造した非対称改質CMS中空繊維に対して元素分析を行った。改質CMS中空糸膜は、約4重量%〜約6重量%(約1モル%〜約2モル%)のケイ素を含有することがわかった。
【0138】
【表5】
【0139】
1つの実施態様では、非対称改質CMS中空糸膜は、元素分析によって測定できるある量のモルホロジー安定剤を、非対称改質CMS中空糸膜が、繊維中におけるその相当量の存在が改質剤による処理によるものである元素〔すなわち指示元素(indicating element)〕を所望のモル%にて含有するように含む。たとえば、指示元素は、シラン及び/又は金属アルコキシド改質剤の頭部(head)を形成するケイ素及び/又は金属元素を含む。たとえば非対称改質CMS中空糸膜は指示元素を、約0.1モル%〜約10モル%;これとは別に約0.1モル%〜約8モル%;これとは別に約0.1モル%〜約7モル%;これとは別に約0.1モル%から約6モル%;これとは別に約0.1モル%から約5モル%;これとは別に約0.1モル%から約4モル%;これとは別に約0.1モル%から約3モル%;これとは別に約0.1モル%から約2モル%;これとは別に約0.5モル%から約10モル%;これとは別に約0.5モル%から約8モル%;これとは別に約0.5モル%から約7モル%;これとは別に約0.5モル%から約6モル%;これとは別に約0.5モル%から約5モル%;これとは別に約0.5モル%から約4モル%;これとは別に約0.5モル%から約3モル%;これとは別に約0.5モル%から約2モル%;これとは別に約0.75モル%から約10モル%;これとは別に約0.75モル%から約8モル%;これとは別に約0.75モル%から約7モル%;これとは別に約0.75モル%から約6モル%;これとは別に約0.75モル%から約5モル%;これとは別に約0.75モル%から約4モル%;これとは別に約0.75モル%から約3モル%;これとは別に約0.75モル%から約2モル%;これとは別に約1モル%から約10モル%;これとは別に約1モル%から約8モル%;これとは別に約1モル%から約7モル%;これとは別に約1モル%から約6モル%;これとは別に約1モル%から約5モル%;これとは別に約1モル%から約4モル%;これとは別に約1モル%から約3モル%;これとは別に約1モル%から約2モル%;含んでよい。
【0140】
非対称改質CMS中空糸膜は、ある量のモロホロジー安定剤を、非対称改質CMS中空糸膜が所望の重量パーセント値の指示元素を含有するように含むのが有利である。たとえば、モルホロジー安定剤がケイ素含有化合物を含む実施態様では、非対称改質CMS中空糸膜はケイ素を、約0.1重量%〜約20重量%;これとは別に約0.1重量%〜約15重量%;これとは別に約0.1重量%〜約10重量%;これとは別に約0.1重量%〜約8重量%;これとは別に約0.1重量%〜約6重量%;これとは別に約0.1重量%〜約5重量%;これとは別に約0.5重量%〜約20重量%;これとは別に約0.5重量%〜約15重量%;これとは別に約0.5重量%〜約10重量%;これとは別に約0.5重量%〜約8重量%;これとは別に約0.5重量%〜約6重量%;これとは別に約0.5重量%〜約5重量%;これとは別に約1重量%〜約20重量%;これとは別に約1重量%〜約15重量%;これとは別に約1重量%〜約10重量%;これとは別に約1重量%〜約8重量%;これとは別に約1重量%〜約6重量%;これとは別に約1重量%〜約5重量%;これとは別に約2重量%〜約20重量%;これとは別に約2重量%〜約15重量%;これとは別に約2重量%〜約10重量%;これとは別に約2重量%〜約8重量%;これとは別に約2重量%〜約6重量%;これとは別に約2重量%〜約5重量%;これとは別に約3重量%〜約20重量%;これとは別に約3重量%〜約15重量%;これとは別に約3重量%〜約10重量%;これとは別に約3重量%〜約8重量%;これとは別に約3重量%〜約6重量%;これとは別に約3重量%〜約5重量%;これとは別に約4重量%〜約20重量%;これとは別に約4重量%〜約15重量%;これとは別に約4重量%〜約10重量%;これとは別に約4重量%〜約8重量%;これとは別に約4重量%〜約6重量%;含んでよい。
【0141】
種々の実施態様では、前駆体繊維が、繊維の外側スキン上に改質剤反応生成物の層を含んでよく、非対称改質CMS中空糸膜が残留改質剤反応生成物の層を含んでよい。たとえば、改質剤で処理した前駆体繊維は、繊維の外側スキン上にケイ素含有物質の層を含んでよい。同様に、非対称改質CMS中空糸膜は、繊維の外側スキン上にケイ素含有残留物質の層を含んでよい。これとは別に、前駆体繊維の予備熱分解処理に金属含有改質剤が使用される場合、処理された前駆体繊維は、繊維の外側スキン上に金属含有物質の層を含んでよく、非対称改質CMS中空糸膜は、繊維の外側スキン上に金属含有残留物質の層を含んでよい。
【0142】
改質剤反応生成物の層は、処理された前駆体繊維に、束状の繊維の熱分解処理にとって望ましい非粘着性をもたらす。したがって、本発明の実施態様は、繊維をポリマー材料のガラス転移温度より高い温度に加熱したときに、前駆体繊維が他の前駆体繊維に粘着するのを防ぐ機械的バリヤー層、を含む前駆体ポリマー繊維に関する。
【0143】
本発明の実施態様はさらに、熱分解処理後に実質的に互いにくっつかないという非対称改質CMS中空繊維のバンドルに関する。改質CMS中空繊維は、外側スキン表面上に、残留改質剤反応生成物(たとえばシリカ物質)の層を含むのが好ましい。しかしながら前述したように、改質CMS中空糸膜上の残留改質剤反応生成物の層は、非対称改質CMS中空糸膜の外側スキンを通るガス流による妨害を極力抑えるために薄いことが好ましい。
【0144】
実施例19〜70
数多くの異なる前駆体ポリマーと改質剤を使用して実施例7に記載の手順を行った。後述のように、使用を意図するさらなるポリマーは以下のものを含む:P1. 6FDA:BPDA-DAM;P2. 6FDA:BTDA-DAM;P3. 6FDA:DSDA-DAM;およびP4. 6FDA:ODPA-DAM。
【0145】
後述のように、好適な改質剤は以下のものを含んでよい:M1. ビニルトリエトキシシラン;M2. ビニルトリプロポキシシラン;M3. ビニルトリブトキシシラン;M4. ジビニルジメトキシシラン;M5. ジビニルジエトキシシラン;M6. テトラメトキシチタン;M7. チタンメトキシプロポキシド;M8. テトラプロポキシチタン;M9. テトラエトキシチタン;M10. テトラメトキシバナジウム;M11. バナジウムメトキシプロポキシド;M12. テトラプロポキシバナジウム;およびM13. テトラエトキシバナジウム。
【0146】
【表6】
【0147】
熱的に再配列されたポリマー膜の処理
ポリマー皮膜もしくはポリマー繊維内の細孔と溝は通常、サイズの範囲が広く、このためポリマー構造がガス分離用途に対して一般には不適切なものとなっている。種々の実施態様では、ポリマー材料を熱分解処理すると、規則的に配列した細孔を有する炭素モレキュラーシーブ材料が形成される。しかしながら、特定のポリマーを処理して、ポリマー自体をガス分離用途に対して適切なものにすることができる。熱的に再配列されたポリマー膜(TRポリマー膜またはTRポリマー繊維としても知られている)は、より制御されたサイズを有する細孔を得るために、ガラス相中の剛性ポリマー鎖セグメントの空間的再配列を熱的に駆り立てることによって、可変の細孔サイズという問題を改善する。こうしたポリマー構造の変化は、透過性と選択性を高めると言われており、このためポリマーはガス分離に適したものとなる。
【0148】
好ましい熱的再配列ポリマー膜は、複素環と相互連結した芳香族ポリマーを含む。たとえばポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、およびポリベンゾイミダゾールなどがある。好ましい熱的再配列ポリマー前駆体は、オルト位に官能基を有するポリイミド〔たとえばHAB-6FDA(下記の構造を有するポリイミド)〕を含む。
【0149】
【化3】
【0150】
このような物質中のフェニレン複素環単位は、剛性の鎖エレメントおよび2つの環の間の回転に対する高いねじりエネルギーバリアを有し、これが無差別な回転を妨げる。したがって、狭いサイズ分布を有する細孔が造られるように、これらのポリマーの熱的再配列を制御することができ、これによりこれらのポリマーは、ガス分離用途に対して有用なものとなる。
【0151】
熱的再配列が起こる温度は通常、熱分解処理(熱分解によりポリマー繊維は炭素繊維に変わる)に使用される温度より低い。たとえばポリイミドは、通常は約250℃〜約500℃の温度に、好ましくは約300℃〜約450℃の温度に加熱される。ポリマーの加熱は通常、不活性雰囲気中にて長時間にわたって行われる。ポリマーは熱分解という同じストレスは受けないけれども、熱的再配列を引き起こすに足る温度でポリマーを加熱する結果、望ましくない細孔崩壊が起こる。
【0152】
したがって、本発明の実施態様は、ポリマー材料を改質剤で処理してから熱的再配列を行うことに関し、このとき該処理は、熱的に再配列されたポリマー材料の望ましくない細孔崩壊を制限するのに効果的である。ポリマー材料の処理は、ポリマー前駆体繊維の処理に関して前述したのと同じ仕方で行われる(この後で熱分解処理して非対称CMS中空糸膜を形成させる)。言うまでもないことであるが、違いは、処理されたポリマー材料を、熱分解処理とは対照的に熱的再配列(当業界に公知)に付すという点である。本発明の実施態様はさらに、細孔の崩壊が制限された熱的に再配列されたポリマー材料(本明細書に記載のような、改質剤で処理されたポリマー材料)に関する。
【0153】
記載の実施態様は、当業界のものを凌ぐ数多くの利点を有するユニークで新規な処理プロセス、非対称改質CMS中空糸膜、および熱的に再配列されたポリマー膜を提供する、ということがわかる。ここでは本発明を具現する特定の構造物が明示・説明されているが、基本的な本発明の概念の要旨を逸脱することなく、部分の種々の改良や再配列を行うことができること、そして添付の特許請求の範囲によって示されている場合を除いて、種々の改良形や再配列形は、ここに明示・説明されている特定の形態に限定されないことは、当業者にとっては明らである。