(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中間層を構成するアルミニウム合金が、更に、0.3質量%以下のTi、0.3質量%以下のZr、及び0.3質量%以下のCrのうちのいずれか1種類又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
前記心材を構成するアルミニウム合金が、更に、0.3質量%以下のTi、0.3質量%以下のZr、及び0.3質量%以下のCrのうちのいずれか1種類又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
前記ろう材層を構成するアルミニウム合金が、更に、0.1質量%以下のSrを含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、心材の空気側の面に、該心材側から順に、中間層とろう材層とがクラッドされて積層されている3層材であり、
該中間層は、Mnを0.2質量%以上0.35質量%未満、Siを0.6質量%以下、Feを0.7質量%以下、Cuを0.1質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、
該心材は、Siを1.2質量%以下、Feを1.0質量%以下、Cuを0.3質量%以上1.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上2.0質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、
該ろう材層は、Siを4質量%以上13質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金であること、
を特徴とする熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートである。
【0022】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、熱交換器のチューブ、ヘッダ、タンク等の内側に必ず閉塞空間を有する部材の作製に用いられるアルミニウム合金ブレージングシートである。
【0023】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、心材の空気側の面に、心材側から順に、中間層とろう材層とがクラッドされて積層されている3層材である。つまり、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートでは、熱交換器用の部材に成形されたときに、空気側、すなわち、外面側から順に、ろう材層、中間層、心材となるように、ろう材層、中間層及び心材が積層されている。
【0024】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに係る心材は、Siを1.2質量%以下、Feを1.0質量%以下、Cuを0.3質量%以上1.0質量%以下、Mnを0.5質量%以上2.0質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金により構成されている。
【0025】
Mnは強度を向上させるとともに、固溶することで電位を貴化する。心材を構成するアルミニウム合金のMn含有量は、0.5〜2.0質量%、好ましくは0.8〜1.8質量%である。心材を構成するアルミニウム合金のMn含有量が上記範囲にあることにより、心材の強度が高くなり且つ電位が適切な値となる。一方、心材を構成するアルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲未満だと、熱交換器を構成する材料の心材としての強度が不足し、また、後述する中間層のMn量との含有量差が小さくなり、中間層と心材間での電位差を大きく確保できなくなり、また、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成したり、圧延性が低下するため製造が困難となる。
【0026】
Cuは強度を向上させるとともに、固溶することで電位を貴化する。電位貴化効果はMnよりもCuのほうが大きい。心材を構成するアルミニウム合金のCu含有量は、0.3〜1.0質量%、好ましくは0.4〜0.9質量%である。心材を構成するアルミニウム合金のCu含有量が上記範囲にあることにより、心材の強度が高くなり且つ電位が適切な値となる。一方、心材を構成するアルミニウム合金のCu含有量が、上記範囲未満だと、熱交換器を構成する材料の心材としての強度が不足し、また、中間層と心材間での電位差を大きく確保できなくなり、また、上記範囲を超えると、鋳造時に割れが生じやすくなったり、固相線温度が低下しろう付加熱時に溶融を生じるおそれがある。
【0027】
Siは強度を向上させるとともに、固溶することで電位を貴化する。心材を構成するアルミニウム合金のSi含有量は、1.2質量%以下、好ましくは1.0質量%以下である。心材を構成するアルミニウム合金のSi含有量が上記範囲にあることにより、心材の強度が高くなり且つ電位が適切な値となる。一方、心材を構成するアルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲を超えると、固相線温度が低下しろう付加熱時に溶融を生じるおそれがある。
【0028】
Feは強度を向上させる。心材を構成するアルミニウム合金のFe含有量は、1.0質量%以下、好ましくは0.8質量%以下である。心材を構成するアルミニウム合金のFe含有量が上記範囲にあることにより、心材の強度が高くなる。一方、心材を構成するアルミニウム合金のFe含有量が、上記範囲を超えると、Al−Fe系の電位が貴な金属間化合物の生成量が多くなり、自己耐食性が低くなる。
【0029】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに係る心材を構成するアルミニウム合金は、上記元素に加え、更に、0.3質量%以下のTi、0.3質量%以下のZr、及び0.3質量%以下のCrのうちのいずれか1種類又は2種以上を含有してもよい。
【0030】
心材を構成するアルミニウム合金のTi含有量は、0.3質量%以下である。心材が上記範囲のTiを含有することにより、アルミニウム合金中に、Tiの高濃度の領域と低濃度の領域が形成され、これらの領域が材料の肉厚方向に交互に層状に分布し、Tiが低濃度の領域は高濃度の領域に比べて優先的に腐食するために、腐食形態が層状になり肉厚方向への腐食の進行が抑制される。このことにより、耐孔食性及び耐粒界腐食性を向上する。さらに、常温及び高温での強度が向上する。一方、心材を構成するアルミニウム合金のTi含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成し、製造が困難となる。
【0031】
心材を構成するアルミニウム合金のZr含有量は、0.3質量%である。心材が上記範囲のZrを含有することにより、ろう付加熱時に再結晶する際の結晶粒が粗大化する。このことにより、粒界密度を低くし、Al−Si合金液相ろうが結晶粒界へ浸透することにより生じるエロージョンを抑制するとともに、結晶粒界の優先的な腐食により生じる脱粒を抑制することができる。一方、心材を構成するアルミニウム合金のZr含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成し、製造が困難となる。Crの含有は、Zrの含有と同様の効果を発揮する。心材を構成するアルミニウム合金のCr含有量は、0.3質量%である。一方、心材を構成するアルミニウム合金のCr含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成し、製造が困難となる。また、ZrとCrを複合添加した場合は、その効果も複合的に得られる。
【0032】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに係る中間層は、Mnを0.2質量%以上0.35質量%未満、Siを0.6質量%以下、Feを0.7質量%以下、Cuを0.1質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金により構成されている。
【0033】
中間層では、中間層のMn含有量を心材のMn含有量よりも低くすることで、中間層の電位を心材より卑化させ、且つ、心材との電位差と大きくする。中間層を構成するアルミニウム合金のMn含有量は、0.2質量%以上0.35質量%未満である。中間層を構成するアルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲にあることにより、中間層と心材間の電位差が適切な値となる。一方、中間層を構成するアルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲未満だと、中間層の変形抵抗が小さく、クラッド圧延性が低くなり、また、上記範囲を超えると、中間層の電位が貴化し心材との電位差が大きく取れない。
【0034】
中間層では、電位貴化効果が大きいCu含有量を、下記範囲に制限することで、電位を卑に維持し、心材との電位差を大きくすることができる。中間層を構成するアルミニウム合金のCu含有量は、0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以下である。中間層を構成するアルミニウム合金のCu含有量が、上記範囲にあることにより、中間層と心材間の電位差が適切な値となる。
【0035】
中間層では、中間層のSi含有量を心材のSi含有量よりも低くすることで、中間層の電位を心材より卑化させ、且つ、心材との電位差と大きくすることができる。中間層を構成するアルミニウム合金のSi含有量は、0.6質量%以下、好ましくは0.3質量%以下である。中間層を構成するアルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲にあることにより、中間層と心材間の電位差が適切な値となる。一方、中間層を構成するアルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲を超えると、中間層の電位が貴化し、心材との電位差が大きく取れない。
【0036】
中間層を構成するアルミニウム合金中に、Feは、不可避不純物として0.7質量%以下、好ましくは0.4質量%以下であれば含有されていてもよい。一方、中間層を構成するアルミニウム合金のFe含有量が、上記範囲を超えると、Al−Fe系の電位が貴な金属間化合物の生成量が多くなり、自己耐食性が低くなる。
【0037】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに係る中間層を構成するアルミニウム合金は、上記元素に加え、更に、0.3質量%以下のTi、0.3質量%以下のZr、及び0.3質量%以下のCrのうちのいずれか1種類又は2種以上を含有してもよい。
【0038】
中間層を構成するアルミニウム合金のTi含有量は、0.3質量%以下である。中間層が上記範囲のTiを含有することにより、アルミニウム合金中に、Tiの高濃度の領域と低濃度の領域が形成され、これらの領域が材料の肉厚方向に交互に層状に分布し、Tiが低濃度の領域は高濃度の領域に比べて優先的に腐食するために、腐食形態が層状になり肉厚方向への腐食の進行が抑制される。このことにより、耐孔食性及び耐粒界腐食性を向上する。さらに、常温及び高温での強度が向上する。一方、中間層を構成するアルミニウム合金のTi含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成し、製造が困難となる。
【0039】
中間層を構成するアルミニウム合金のZr含有量は、0.3質量%である。中間層が上記範囲のZrを含有することにより、ろう付加熱時に再結晶する際の結晶粒が粗大化する。このことにより、粒界密度を低くし、Al−Si合金液相ろうが結晶粒界へ浸透することにより生じるエロージョンを抑制するとともに、結晶粒界の優先的な腐食により生じる脱粒を抑制することができる。一方、中間層を構成するアルミニウム合金のZr含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成し、製造が困難となる。Crの含有は、Zrの含有と同様の効果を発揮する。中間層を構成するアルミニウム合金のCr含有量は、0.3質量%である。一方、中間層を構成するアルミニウム合金のCr含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成し、製造が困難となる。また、ZrとCrを複合添加した場合は、その効果も複合的に得られる。
【0040】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに係るろう材層は、Siを4質量%以上13質量以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金により構成されている。
【0041】
ろう材層を構成するアルミニウム合金のSi含有量は、4〜13質量%、好ましくは6〜13質量%である。一方、ろう材層を構成するアルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲未満だと、生成する液相ろう量が少なく、良好なろう付接合ができなくなり、また、上記範囲を超えると、Al−Si系合金の過共晶域となり、鋳造時に粗大Si粒子が生成し易くなる。粗大Si粒子は製品に残存すると、ろう付時に局所溶融を生じるおそれがある。
【0042】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに係るろう材層を構成するアルミニウム合金は、上記元素に加え、更に、0.1質量%以下のSrを含有してもよい。
【0043】
ろう材層を構成するアルミニウム合金のSr含有量は、0.1質量%以下である。ろう材層を構成するアルミニウム合金がSrを含有することにより、Al−Si合金の共晶組織が微細化され分散する。このことにより、ろう付加熱時にはより均一に液相ろうが生じ、ろうの流動も改善しろう付性が向上し、加えて、粗大Si粒子の生成も抑制するため、局所溶融するおそれがなくなる。一方、ろう材層を構成するSrの含有量が、上記範囲を超えると、Al−Si−Sr系化合物が晶出し共晶組織が微細化しない。
【0044】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、心材を構成するアルミニウム合金のSi含有量と中間層を構成アルミニウム合金のSi含有量の差(心材Si−中間層Si)は、0質量%を超えていることが好ましいが、心材を構成するアルミニウム合金のCu含有量と中間層を構成アルミニウム合金のCu含有量の差および心材を構成するアルミニウム合金のMn含有量と中間層を構成アルミニウム合金のMn含有量の差によって中間層と心材間の電位差が適切な値となっている場合には、中間層と心材間の電位差が逆にならない範囲で(心材Si−中間層Si)が0質量%以下であっても許容される。
【0045】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、中間層のクラッド率は、好ましくは5〜30%である。中間層のクラッド率が、上記範囲未満だと、犠牲層としての体積が小さく、耐食性向上が不十分となり易く、加えて製造が困難となり易く、また、上記範囲を超えると、クラッド圧延性が低くなり易く、製造が困難となり易い。
【0046】
熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ろう材層のクラッド率は、好ましくは5〜20%である。ろう材層のクラッド率が、上記範囲未満だと、ろう材量が不十分となって、ろう付性の確保が困難となり易く、加えて製造が困難となり易く、また、上記範囲を超えると、ろう材量が過多となり、ろう材溶融による板厚寸法変化が大きくなり易く、クリアランスを生じたり、余剰ろうが冷媒流路へ流入し目詰まりを生じ易くなり、また、クラッド圧延性が低くなり、製造が困難となり易い。
【0047】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、自動車用熱交換器、空気調和機用、産業用熱交換器等の冷媒流路を形成するチューブ、ヘッダ、タンク等の内側に必ず閉塞空間を有する部材の作製に用いられ、空気側、すなわち、外側が、ろう材層となり、内側が心材の内側面となるように、内側に閉塞空間を有する部材の形状に成形され、ろう付けされる。ろう付けに際しての雰囲気や加熱温度、時間については、特に限定されるものではなく、ろう付け方法も特に限定されない。
【0048】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート材を用いて製造される自動車用熱交換器は、厳しい市場腐食環境においても良好な耐食性を発揮する。
【0049】
次に、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法について説明する。本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを製造する方法としては、以下に示す4つの形態、すなわち、製造方法1、製造方法2、製造方法3、製造方法4が挙げられる。
【0050】
製造方法1〜4のいずれの場合でも、先ず、所定の組成を有する心材用アルミニウム合金鋳塊、中間層用アルミニウム合金鋳塊、及びろう材層用アルミニウム合金鋳塊を常法により作製する。
【0051】
心材用アルミニウム合金鋳塊は、Siを1.2質量%以下、好ましくは1.0質量%以下と、Feを1.0質量%以下、好ましくは0.8質量%以下と、Cuを0.3〜1.0質量%、好ましくは0.4〜0.9質量%と、Mnを0.5〜2.0質量%、好ましくは0.8〜18質量%と、を含有し、必要に応じて、更に、0.3質量%以下のTi、0.3質量%以下のZr、及び0.3質量%以下のCrのうちのいずれか1種類又は2種以上を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
【0052】
中間層用アルミニウム合金鋳塊は、Mnを0.2質量%以上0.35質量%未満と、Siを0.6質量%以下、好ましくは0.3質量%以下と、Feを0.7質量%以下、好ましくは0.4質量%以下と、Cuを0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、特に好ましくは0.03質量%以下と、含有し、必要に応じて、更に、0.3質量%以下のTi、0.3質量%以下のZr、及び0.3質量%以下のCrのうちのいずれか1種類又は2種以上を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
【0053】
ろう材層用アルミニウム合金鋳塊は、Siを4〜13質量%、好ましくは6〜13質量%を含有し、必要に応じて、更に、Srを0.1質量以下を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
【0054】
次いで、製造方法1では、少なくとも心材用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度550〜620℃、均質化時間3〜20時間で、均質化処理する。均質化温度は、好ましくは570〜620℃である。均質化時間は、好ましくは5〜20時間である。均質化処理することにより、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを、熱交換器用の部材に加工する際に付与される歪量により生じるろう付エロージョンを抑制することができる。製造方法1では、心材用アルミニウム合金鋳塊の均質化処理を行った後、心材用アルミニウム合金鋳塊を、更に、400〜550℃で、3〜20時間保持して、熱処理してもよい。
【0055】
製造方法1では、中間層用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度550〜620℃、好ましくは570〜620℃、均質化時間3〜20時間、好ましくは5〜20時間で、均質化処理してもよい。製造方法1では、中間層用アルミニウム合金鋳塊の均質化処理を行った後、中間層用アルミニウム合金鋳塊を、更に、400〜550℃で、3〜20時間保持して、熱処理してもよい。
【0056】
製造方法1では、ろう材層に対しては、適宜の条件で均質化処理を行ってもよいし、均質化処理を行わなくてもよい。
【0057】
次いで、製造方法1では、均質化処理後、ろう材層用アルミニウム合金鋳塊、中間層用アルミニウム合金鋳塊、及び心材用アルミニウム合金鋳塊を、この順に重ね合わせ、クラッド熱間圧延及び冷間圧延する。製造方法1では、クラッド熱間圧延の圧延条件は、開始温度が400〜550℃である。製造方法1では、冷間圧延を複数回行うが、冷間圧延の圧延条件及び回数は、冷間圧延後の板厚が所定の厚みとなるように、適宜選択される。
【0058】
そして、製造方法1では、冷間圧延途中には焼鈍を行わず、最終板厚まで冷間圧延を行った後にのみ再結晶焼鈍を行う。製造方法1の再結晶焼鈍の温度は、250〜450℃、好ましくは280〜430℃であり、再結晶焼鈍の保持時間は、2〜10時間、好ましくは2〜8時間である。
【0059】
製造方法2では、少なくとも心材用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度400〜550℃、均質化時間3〜20時間で、均質化処理する。均質化温度は、好ましくは420〜530℃である。均質化時間は、好ましくは5〜20時間である。均質化処理することにより、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを、熱交換器用の部材に加工する際に付与される歪量により生じるろう付エロージョンを抑制することができる。
【0060】
製造方法2では、中間層用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度400〜550℃、好ましくは420〜530℃、均質化時間3〜20時間、好ましくは5〜20時間で、均質化処理してもよい。
【0061】
製造方法2では、ろう材層に対しては、適宜の条件で均質化処理を行ってもよいし、均質化処理を行わなくてもよい。
【0062】
次いで、製造方法2では、均質化処理後、ろう材層用アルミニウム合金鋳塊、中間層用アルミニウム合金鋳塊、及び心材用アルミニウム合金鋳塊を、この順に重ね合わせ、クラッド熱間圧延及び冷間圧延する。製造方法2では、クラッド熱間圧延の圧延条件は、開始温度が400〜550℃である。製造方法2では、冷間圧延を複数回行うが、冷間圧延の圧延条件及び回数は、冷間圧延後の板厚が所定の厚みとなるように、適宜選択される。
【0063】
そして、製造方法2では、冷間圧延途中には焼鈍を行わず、最終板厚まで冷間圧延を行った後にのみ回復焼鈍を行う。製造方法2の回復焼鈍の温度は、200〜400℃、好ましくは220〜380℃であり、回復焼鈍の保持時間は、2〜10時間、好ましくは2〜8時間である。
【0064】
製造方法3では、少なくとも心材用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度400〜550℃、均質化時間3〜20時間で、均質化処理する。均質化温度は、好ましくは420〜530℃である。均質化時間は、好ましくは5〜20時間である。均質化処理することにより、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを、熱交換器用の部材に加工する際に付与される歪量により生じるろう付エロージョンを抑制することができる。
【0065】
製造方法3では、中間層用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度400〜550℃、好ましくは420〜530℃、均質化時間3〜20時間、好ましくは5〜20時間で、均質化処理してもよい。
【0066】
製造方法3では、ろう材層に対しては、適宜の条件で均質化処理を行ってもよいし、均質化処理を行わなくてもよい。
【0067】
次いで、製造方法3では、均質化処理後、ろう材層用アルミニウム合金鋳塊、中間層用アルミニウム合金鋳塊、及び心材用アルミニウム合金鋳塊を、この順に重ね合わせ、クラッド熱間圧延及び冷間圧延する。製造方法3では、クラッド熱間圧延の圧延条件は、開始温度が400〜550℃である。製造方法3では、冷間圧延を複数回行うが、冷間圧延の圧延条件及び回数は、冷間圧延後の板厚が所定の厚みとなるように、適宜選択される。
【0068】
そして、製造方法3では、冷間圧延途中に再結晶焼鈍又は回復焼鈍を行い、再結晶焼鈍又は回復焼鈍後は、最終板厚まで冷間圧延を行う。製造方法3の再結晶焼鈍の温度は、250〜450℃、好ましくは280〜430℃であり、再結晶焼鈍の保持時間は、2〜10時間、好ましくは2〜8時間である。製造方法3の回復焼鈍の温度は、200〜400℃、好ましくは220〜380℃であり、回復焼鈍の保持時間は、2〜10時間、好ましくは2〜8時間である。
【0069】
製造方法4では、少なくとも心材用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度400〜550℃、均質化時間3〜20時間で、均質化処理する。均質化温度は、好ましくは420〜530℃である。均質化時間は、好ましくは5〜20時間である。均質化処理することにより、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを、熱交換器用の部材に加工する際に付与される歪量により生じるろう付エロージョンを抑制することができる。
【0070】
製造方法4では、中間層用アルミニウム合金鋳塊を、均質化温度400〜550℃、好ましくは420〜530℃、均質化時間3〜20時間、好ましくは5〜20時間で、均質化処理してもよい。
【0071】
製造方法4では、ろう材層に対しては、適宜の条件で均質化処理を行ってもよいし、均質化処理を行わなくてもよい。
【0072】
次いで、製造方法4では、均質化処理後、ろう材層用アルミニウム合金鋳塊、中間層用アルミニウム合金鋳塊、及び心材用アルミニウム合金鋳塊を、この順に重ね合わせ、クラッド熱間圧延及び冷間圧延する。製造方法4では、クラッド熱間圧延の圧延条件は、開始温度が400〜550℃である。製造方法4では、冷間圧延を複数回行うが、冷間圧延の圧延条件及び回数は、冷間圧延後の板厚が所定の厚みとなるように、適宜選択される。
【0073】
そして、製造方法4では、冷間圧延途中に回復焼鈍され、回復焼鈍後は、最終板厚まで冷間圧延を行い、最終板厚までの冷間圧延を行った後、更に回復焼鈍を行う。製造方法4の回復焼鈍の温度は、200〜400℃、好ましくは220〜380℃であり、回復焼鈍の保持時間は、2〜10時間、好ましくは2〜8時間である。
【0074】
このようにして、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは製造される。
【0075】
すなわち、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、心材の空気側の面に、該心材側から順に、中間層とろう材層とがクラッドされて積層されている3層材であり、心材、中間層及びろう材層が、上記の所定の化学組成を有し、製造過程において、少なくとも前記心材を構成するアルミニウム合金は、均質化処理され、該均質化処理後クラッド熱間圧延及び冷間圧延され、且つ、該冷間圧延途中には焼鈍されず最終板厚でのみ再結晶焼鈍されたものである。
【0076】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、心材の空気側の面に、該心材側から順に、中間層とろう材層とがクラッドされて積層されている3層材であり、心材、中間層及びろう材層が、上記の所定の化学組成を有し、製造過程において、少なくとも前記心材を構成するアルミニウム合金は、均質化処理され、該均質化処理後クラッド熱間圧延及び冷間圧延されたものであり、且つ、該冷間圧延途中には焼鈍されず最終板厚でのみ回復焼鈍されたものである。
【0077】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、心材の空気側の面に、該心材側から順に、中間層とろう材層とがクラッドされて積層されている3層材であり、心材、中間層及びろう材層が、上記の所定の化学組成を有し、製造過程において、少なくとも前記心材を構成するアルミニウム合金は、均質化処理され、該均質化処理後クラッド熱間圧延及び冷間圧延されたものであり、且つ、該冷間圧延途中に再結晶焼鈍又は回復焼鈍され、該再結晶焼鈍又は該回復焼鈍後最終板厚まで冷間圧延されたものである。
【0078】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、心材の空気側の面に、該心材側から順に、中間層とろう材層とがクラッドされて積層されている3層材であり、心材、中間層及びろう材層が、上記の所定の化学組成を有し、製造過程において、少なくとも前記心材を構成するアルミニウム合金は、均質化処理され、該均質化処理後クラッド熱間圧延及び冷間圧延されたものであり、且つ、該冷間圧延途中に回復焼鈍され、該回復焼鈍後最終板厚まで冷間圧延され、該最終板厚までの冷間圧延後更に回復焼鈍されたものである。
【0079】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
熱交換器の冷媒流路を構成するチューブ材を製造するため、表1に示す中間層用アルミニウム合金、表2示す心材用アルミニウム合金、及び表3に示すろう材層用アルミニウム合金を鋳造した。中間層用アルミニウム合金鋳塊、及び心材用アルミニウム合金鋳塊に対し、600℃で10時間保持する均質化処理を行った。
その後、いずれのアルミニウム合金についても鋳塊表面を面削し、ろう材層用アルミニウム合金鋳塊と中間層用アルミニウム合金鋳塊については、所定の板厚まで熱間圧延を行い、表4に示す3層クラッド材となるようにそれぞれを組み合わせてクラッド熱間圧延を行った。
その後、途中焼鈍を行わずに0.3mmの板厚まで冷間圧延を行い、最終焼鈍にて再結晶させ、O材調質とし、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを製造した。
なお、得られた熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、外面側から、ろう材、中間層、心材の構成である。
これらの熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを用いて、以下の評価1〜3を行った。
【0081】
(評価1)
これらの材料の製造結果について表5に示す。鋳造、圧延工程において、問題なく良好に製造できたものは〇、製造は可能であったが、困難であったものを△、製造できなかったものを×とした。
【0082】
(評価2)
評価1で製造できたものについて、ろう材層同士が接合される部分においては一般的なドロンカップタイプの形状とし、一般的なドロンカップの形状では心材側同士が接合される部分においては、ろう材層側を折り返すように曲げ加工を行ってろう材層同士が接合するようにしたドロンカップ形状のチューブ成形を行い、一般的なアウターベアフィンと一般的なクラッドインナーフィンなどの部材と組み付けてドロンカップ熱交換器をろう付加熱し作製した。ノコロックフラックスを水で縣濁させたフラックス混合液を、組み付けた熱交換器にスプレーで塗布した後に乾燥させ、ろう付加熱条件は、窒素ガス雰囲気中で平均50℃/分の昇温速度にて600℃まで加熱し、3分保持後に室温まで降温した。その後、外観観察及びリーク試験を行った結果を表6に示す。外観上問題なく、かつ漏れがなかったものを〇とし、局所溶融や漏れが発生したものを×とした。
【0083】
(評価3)
同様に評価1で製造できたものについて、単板でろう付加熱を行い、ASTM−G85 A3に規定されるSWAAT試験に供試した。ろう付加熱条件は評価2と同条件で、SWAATの評価面は外面側、試験時間は1000hとした。試験後の最大腐食深さを測定した結果を表7に示す。最大腐食深さが0.1mm以下を〇、0.1mmを超えて0.2mm以下を△、0.2mmを超えて貫通までを×とした。なお、評価3に限り、同板厚のA4343/A3003/A4343構成、両面10%クラッドの3層材を従来材(試験材No.26)として比較評価した。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
評価1〜3の結果は次の通りである。
3層クラッド材の製造結果については、実施例の材料はいずれも製造性良好であった。
一方、比較例の材料においては、No.16、17、23、25がクラッド圧延で未接合や割れが生じたため製造不可であった。No.17は一部心材で鋳造割れが生じた。No.22、24はクラッド圧延が困難であったが、最終的に製造は可能であった。
【0092】
熱交換器ろう付結果については、実施例の材料はいずれもろう付性良好であった。一方、比較例の材料においては、No.19は局所溶融が見られ、No.20、22はろう付後のリーク試験で漏れが生じた。
【0093】
SWAAT試験については、実施例の材料はいずれも最大腐食深さが0.1mm以下であり、ほぼ外面側のろう材と中間層の合計厚さまでの腐食深さに留まっていた。これは1000h経過後でも犠牲防食期間内にあることを示唆しており、耐食性良好であった。一方、比較例の材料においては、No.15、18、24が0.1mmを超えて0.2mm以下の腐食深さであった。これらはいずれも中間層と心材の電位差が不足しており、十分な犠牲陽極効果が得られなかったと考えられる。また、No.21は貫通したが、これはさらに電位差が小さく、犠牲陽極効果がほとんど得られていなかったと考えられる。さらに、従来材として比較評価した3層材No.26も貫通していた。このことから、3層材にしても中間層/心材電位差を十分に取れば、耐食性向上することが確認された。