特許第6487989号(P6487989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許648798913族窒化物複合基板、半導体素子、および13族窒化物複合基板の製造方法
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  • 特許6487989-13族窒化物複合基板、半導体素子、および13族窒化物複合基板の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487989
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】13族窒化物複合基板、半導体素子、および13族窒化物複合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20190311BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20190311BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20190311BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20190311BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20190311BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20190311BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20190311BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   C30B29/38 D
   C30B29/38 C
   C30B25/18
   C23C16/34
   H01L21/208 Z
   H01L21/205
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-220051(P2017-220051)
(22)【出願日】2017年11月15日
(62)【分割の表示】特願2015-521425(P2015-521425)の分割
【原出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-64103(P2018-64103A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2017年11月15日
(31)【優先権主張番号】61/831,671
(32)【優先日】2013年6月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】倉岡 義孝
(72)【発明者】
【氏名】市村 幹也
(72)【発明者】
【氏名】岩井 真
【審査官】 恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−228442(JP,A)
【文献】 特開2011−049467(JP,A)
【文献】 特開2004−342907(JP,A)
【文献】 特開2006−332367(JP,A)
【文献】 特開2012−049465(JP,A)
【文献】 特開2006−278857(JP,A)
【文献】 特開2011−018844(JP,A)
【文献】 特開2006−093683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
C23C 16/34
C30B 25/18
C30B 29/38
H01L 21/205
H01L 21/208
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaNからなり、n型の導電性を呈する基材と、
前記基材の直上に形成された、AlGa1−pN(0.1≦p≦0.98)からなり1×10Ωcm以上の比抵抗を有するAlGaN層である下地層と、
前記下地層の上に形成された、不純物濃度の総和が1×1017/cm以下のGaN層であるチャネル層と、
前記チャネル層の上に形成された、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1)なる組成の13族窒化物からなる障壁層と、
を備えることを特徴とする13族窒化物複合基板。
【請求項2】
請求項1に記載の13族窒化物複合基板と、
前記13族窒化物複合基板の前記障壁層の上に形成されてなり、前記障壁層との間にオーミック性接触を有してなるソース電極およびドレイン電極と、
前記13族窒化物複合基板の前記障壁層の上に形成されてなり、前記障壁層との間にショットキー性接触を有してなるゲート電極と、
を備えることを特徴とする半導体素子。
【請求項3】
13族窒化物複合基板の製造方法であって、
GaNからなり、n型の導電性を呈する基材の直上に、AlGa1−pN(0.1≦p≦0.98)からなり1×10Ωcm以上の比抵抗を有するAlGaN層である下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層の上に、不純物濃度の総和が1×1017/cm以下のGaN層であるチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、
前記チャネル層の上に、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1)なる組成の13族窒化物からなる障壁層を形成する障壁層形成工程と、
を備えることを特徴とする13族窒化物複合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子に関し、特に高周波用途に適した半導体素子を得ることができる13族窒化物複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、高い絶縁破壊電界、高い飽和電子速度を有することから次世代の高周波/ハイパワーデバイス用半導体材料として注目されている。特に、AlGaNとGaNからなる層を積層することにより形成した多層構造体には、窒化物材料特有の大きな分極効果(自発分極効果とピエゾ分極効果)により積層界面(ヘテロ界面)に高濃度の二次元電子ガス(2DEG)が生成するという特徴があることから、係る多層構造体を基板として利用した高電子移動度トランジスタ(HEMT)の開発が活発に行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
携帯電話基地局などのように、大電力・高周波(100W以上、2GHz以上)という条件の下で動作させるHEMTの場合、発熱によるデバイスの温度上昇を抑制するため、極力熱抵抗の低い材料を用いて作製することが望まれる。一方、高周波動作を行わせるHEMTの場合は、寄生容量を極力抑制する必要があることから、絶縁性の高い材料を用いて作製すること望まれる。窒化物半導体を用いてこれらの要件をみたすデバイスを作製する場合、良好な窒化物膜を成長できることもあり、1×10Ωcm以上という高い比抵抗を有する、半絶縁性SiC基板が下地基板として用いられる。
【0004】
一方、導電性SiC基板に、HVPE法(ハイドライド気相成長法)やMOCVD法などにて絶縁性のAlN膜を堆積し、これを下地基板として用いることも提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
ただし、非特許文献2に開示された手法の場合、下地基板の上に形成する窒化物エピタキシャル膜の結晶品質が、HVPE法によって形成したAlN膜の品質に依存するため、窒化物エピタキシャル膜の品質向上にはAlN膜の品質を向上させることが必須となる。しかしながら、HVPE法によってAlN膜を成長させるにあたってその結晶品質(例えば転位密度など)がウェハー全面で均一になるようにその成長を制御することが困難であり、結果的にエピタキシャル膜ひいてはデバイスのウェハー面内での特性バラツキという問題を生じさせてしまう、という問題がある。
【0006】
他方、導電性SiC基板上にバナジウムドープ半絶縁性SiC膜を形成した下地基板を用いることで、半絶縁性のSiC基板を用いる場合と同様の効果を得る態様についても、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、近年、HEMT素子用の下地基板として、さらに高い性能および信頼性が期待できる窒化ガリウム(GaN)基板が、実用化されるようになった。GaN基板を、気相法や液相法で製造する態様がすでに公知である(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【0008】
導電性のGaN基板上に、炭素(C)をドープしてなるGaN層を形成することにより、高周波用途に使用できるGaN基板を得る態様もすでに公知である(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、亜鉛(Zn)をドープすることにより、高抵抗の窒化物単結晶を得る技術もすでに公知である(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−062168号公報
【特許文献2】特許3631724号公報
【特許文献3】国際公開第2010/084675号
【特許文献4】特開2012−199398号公報
【特許文献5】特許5039813号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】"Highly Reliable 250W GaN High Electron Mobility Transistor Power Amplifier", T. Kikkawa, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 44, No. 7A,2005, pp. 4896-4901.
【非特許文献2】"A 100-W High-Gain AlGaN/GaN HEMT Power Amplifier on a Conductive N-SiC Substrate for Wireless Bass Station Applications", M. Kanamura, T. Kikkawa, and K. Joshin, Tech. Dig. of 2004 IEEE International Electron Device Meeting(IEDM2008), pp.799-802.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、高周波用途に窒化物半導体を適用する場合、基板には寄生容量がないことが望ましい。それゆえ、GaN基板を用いる場合であっても、半絶縁性のものを用いるのが望ましいが、現状、半絶縁性GaN基板は高価で入手が困難である。その一方で、導電性窒化ガリウム基板は、現状でも比較的安価で入手しやすい。なぜならば、縦型LD用途に量産が進められているからである。
【0013】
特許文献4に開示された手法は、この点を鑑みたものである。しかしながら、特許文献4に開示された手法では、電子走行層のC濃度が高くなってしまい、デバイスの性能を上げることが難しい。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、導電性のGaN基板を用いつつも高周波用途に適した半導体素子を実現可能な13族窒化物複合基板、および、これを用いて作製した半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様では、13族窒化物複合基板が、GaNからなり、n型の導電性を呈する基材と、前記基材の直上に形成された、AlGa1−pN(0.1≦p≦0.98)からなり1×10Ωcm以上の比抵抗を有するAlGaN層である下地層と、前記下地層の上に形成された、不純物濃度の総和が1×1017/cm以下のGaN層であるチャネル層と、前記チャネル層の上に形成された、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1)なる組成の13族窒化物からなる障壁層と、を備えるようにした。
【0016】
本発明の第2の態様では、半導体素子が、第1の態様に係る13族窒化物複合基板と、前記13族窒化物複合基板の前記障壁層の上に形成されてなり、前記障壁層との間にオーミック性接触を有してなるソース電極およびドレイン電極と、前記13族窒化物複合基板の前記障壁層の上に形成されてなり、前記障壁層との間にショットキー性接触を有してなるゲート電極と、を備えるようにした。
【0017】
本発明の第3の態様では、13族窒化物複合基板の製造方法が、GaNからなり、n型の導電性を呈する基材の直上に、AlGa1−pN(0.1≦p≦0.98)からなり1×10Ωcm以上の比抵抗を有するAlGaN層である下地層を形成する下地層形成工程と、前記下地層の上に、不純物濃度の総和が1×1017/cm以下のGaN層であるチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、前記チャネル層の上に、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1)なる組成の13族窒化物からなる障壁層を形成する障壁層形成工程と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0018】
第1ないし第3の態様によれば、導電性のGaN基板を基材としつつも、1000cm/V・s以上という高い移動度を有する一方でゲート・ソース電極間の容量が0.1pF未満に抑制された、高周波用途に適した半導体素子を実現可能な13族窒化物複合基板、さらには当該半導体素子を、実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】13族窒化物複合基板10を含んで構成されるHEMT素子20の断面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中に示す周期表の族番号は、1989年国際純正応用化学連合会(International Union of Pure Applied Chemistry:IUPAC)による無機化学命名法改訂版による1〜18の族番号表示によるものであり、13族とはアルミニウム(Al)・ガリウム(Ga)・インジウム(In)等を指し、15族とは窒素(N)・リン(P)・ヒ素(As)・アンチモン(Sb)等を指す。
【0021】
<複合基板およびHEMT素子の構成>
図1は、本発明に係る13族窒化物(III族窒化物)複合基板の一実施形態としての13族窒化物複合基板10を含んで構成される、本発明に係る半導体素子の一実施形態としてのHEMT素子20の断面構造を、模式的に示す図である。
【0022】
13族窒化物複合基板10は、基材(種基板)1と、下地層(高抵抗層)2(2A、2B、または2C)と、チャネル層(低不純物層)3と、障壁層4とを備える。また、HEMT素子20は、13族窒化物複合基板10の上に(障壁層4の上に)ソース電極5とドレイン電極6とゲート電極7とを設けたものである。なお、図1における各層の厚みの比率は、実際のものを反映したものではない。また、以下においては、13族窒化物複合基板10に備わる、チャネル層3の上に障壁層4が設けられた構成を、HEMT構造と称することがある。
【0023】
基材1は、比抵抗が1Ωcm以下でありn型の導電性を呈する、(0001)面方位のGaN基板である。基材1の厚みに特に制限はないが、ハンドリングの容易さなどを考慮すると、数百μm〜数mm程度であるのが好適である。係る基材1としては、例えば、HVPE法などの公知の手法によって作製されたバルクGaNを用いることができる。
【0024】
下地層2は、1×10Ωcm以上の比抵抗を有する高抵抗の(半絶縁性の)13族窒化物層である。下地層2は、8μm以上の厚みで設けられるのが好ましく、10μm以上200μm以下の厚みで設けられるのがより好適である。
【0025】
好ましくは、下地層2は、ZnドープGaN層2A、C含有GaN層2B、またはAlGaN層2Cのいずれかである。それぞれの層の詳細については後述する。
【0026】
チャネル層3は、MOCVD法により形成される、不純物濃度の総和が1×1017/cm以下とされたGaN層である。チャネル層3は、少なくとも下地層2に比して不純物濃度の小さい層となっている。
【0027】
チャネル層3における不純物は、代表的にはCである。それゆえ、チャネル層3においては、Cの濃度が1×1017/cmを下回れば、実質的には、不純物濃度の総和が1×1017/cm以下であるとみなすことができる。チャネル層3は、0.05μm以上5μm以下の厚みで設けられるのが好適である。
【0028】
障壁層4は、MOCVD法により形成される、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1)なる組成の13族窒化物層である。障壁層4は、5nm〜30nmの厚みに形成されるのが好適である。
【0029】
ソース電極5とドレイン電極6とは、それぞれに十数nm〜百数十nm程度の厚みを有する金属電極である。ソース電極5およびドレイン電極6は、障壁層4との間にオーミック性接触を有してなる。
【0030】
ソース電極5とドレイン電極6とは、例えば、Ti/Al/Ni/Auからなる多層電極として形成されるのが好適である。係る場合、Ti膜、Al膜、Ni膜、Au膜の厚みは、それぞれ、10nm〜50nm、50nm〜200nm、10nm〜50nm、500nm〜1000nm程度であるのが好ましい。
【0031】
ゲート電極7は、十数nm〜百数十nm程度の厚みを有する金属電極である。ゲート電極7は、障壁層4との間にショットキー性接触を有してなる。
【0032】
ゲート電極7は、例えば、Pd/Auからなる多層電極として構成されるのが好適である。係る場合、Pd膜、Au膜の厚みは、それぞれ、5nm〜50nm、50nm〜500nm程度であるのが好ましい。
【0033】
以上のような構成を有することで、具体的には、導電性のGaN基板たる基材1の上に、高抵抗層たる下地層2を設けたうえで、低不純物層たるチャネル層3と、障壁層4とを順次に設けることで、本実施の形態に係るHEMT素子20においては、1000cm/V・s以上という高い移動度が得られる一方で、ゲート・ソース電極間の容量は0.1pF未満にまで抑制されたものとなっている。これらの特性値は、HEMT素子20を高周波用途で使用するのに十分に好適なものである。特に、ゲート・ソース電極間の容量は寄生容量となって高周波特性を劣化させる要因となることから、HEMT素子20を高周波用途で使用するには、その値は小さい方が好ましい。
【0034】
すなわち、本実施の形態に係るHEMT素子20は、導電性のGaN基板を基材1として用いつつも、高周波用途に好適に使用されるものとなっている。また、本実施の形態に係る13族窒化物複合基板10は、導電性のGaN基板を基材1として用いつつも、高周波用途に好適に使用されるHEMT素子を作製可能なものとなっている。
【0035】
<下地層の詳細構成>
上述のように、下地層2は、ZnドープGaN層2A、C含有GaN層2B、またはAlGaN層2Cのいずれかであることが好ましい。そこで、次にそれぞれについて詳説する。
【0036】
ZnドープGaN層2Aは、フラックス法(ナトリウムフラックス法)により形成される、Zn(亜鉛)をドープしてなるGaN層である。ただし、ZnドープGaN層2AにおけるZn濃度は、1×1018/cm以上2×1019/cm以下であるのが好ましい。係る場合、比抵抗は1×10Ωcm以上となり、移動度は1150cm/V・s以上となり、かつ、ゲート・ソース電極間の容量は0.1pFを下回る。
【0037】
なお、ZnドープGaN層2AにおいてZn濃度を1×1018/cmよりも小さくした場合には、移動度は高くなるものの、ゲート・ソース電極間の容量が0.1pFよりも大きくなってしまい好ましくない。また、Zn濃度を2×1019/cmよりも大きくした場合には、移動度が小さくなってしまい好ましくない。ここで、Zn濃度が2×1019/cmを超えると移動度が低下するのは、ZnドープGaN層2Aの結晶性が低下し、その影響を受けてチャネル層3の結晶性も低下するためであると考えられる。
【0038】
C含有GaN層2Bは、MOCVD法(有機金属化学的気相成長法)により形成される、不純物としてC(炭素)を意図的に含ませてなるGaN層である。ただし、C含有GaN層2BにおけるC濃度は、8×1016/cm以上3×1018/cm以下であるのが好ましい。係る場合、比抵抗は3×10Ωcm以上となり、移動度は1250cm/V・s以上となり、かつ、ゲート・ソース電極間の容量は0.1pFを下回る。
【0039】
なお、C含有GaN層2BにおいてC濃度を8×1016/cmよりも小さくした場合には、移動度は高くなるものの、ゲート・ソース電極間の容量が0.1pFよりも大きくなってしまい好ましくない。また、C濃度を3×1018/cmよりも大きくした場合には、移動度が小さくなってしまい好ましくない。ここで、C濃度が3×1018/cmを超えると移動度が低下するのは、C含有GaN層2Bの結晶性が低下し、その影響を受けてチャネル層3の結晶性も低下するためであると考えられる。
【0040】
AlGaN層2Cは、MOCVD法により形成される、AlGa1−pNからなる層である。ただし、0.1≦p≦0.98であるのが好ましい。係る場合、比抵抗は2×10Ωcm以上となり、移動度は1050cm/V・s以上となり、かつ、ゲート・ソース電極間の容量は0.1pFを下回る。
【0041】
なお、AlGaN層2CにおいてAl組成比pを0.1も小さくした場合には、移動度は高くなるものの、ゲート・ソース電極間の容量が0.1pFよりも大きくなってしまい好ましくない。また、Al組成比pを0.98よりも大きくした場合には、移動度が小さくなってしまい好ましくない。ここで、Al組成比が0.98を超えると移動度が低下するのは、チャネル層に微細なクラックが発生し、その結果、チャネル層の結晶性が低下したためであると考えられる。
【0042】
以上のように、本実施の形態に係るHEMT素子20においては、下地層2をZnドープGaN層2A、C含有GaN層2B、またはAlGaN層2Cのいずれで形成したとしても、1000cm/V・s以上という高い移動度が得られる一方で、ゲート・ソース電極間の容量は0.1pF未満にまで抑制されるものとなっている。
【0043】
<複合基板およびHEMT素子の作製手順>
次に、上述のような構成を有する13族窒化物複合基板10およびHEMT素子20の作製手順について説明する。ただし、上述したように、本実施の形態においては、基材1の上に、下地層2として、ZnドープGaN層2A、C含有GaN層2B、または、AlGaN層2Cのいずれかを形成するのが好ましいことから、以降においては、下地層2を形成する方法として、ZnドープGaN層2A、C含有GaN層2B、およびAlGaN層2Cを形成する方法をそれぞれに説明したうえで、下地層2の上に対するチャネル層3および障壁層4の形成について説明する。
【0044】
(ZnドープGaN層の形成)
ZnドープGaN層2Aの作成は、フラックス法により行う。具体的にはまず、基材1たるGaN基板を用意する。そして、種結晶たる基材1と、20g〜70gの金属Gaと、40g〜120gの金属Naと、0.1g〜5gの金属Znとをアルミナ坩堝に充填する。さらに、該アルミナ坩堝を耐熱金属製の育成容器に入れて密閉する。
【0045】
そして、炉内温度を800℃〜900℃とし、かつ、炉内圧力を3MPa〜10MPaとしてなるとともに、窒素ガスを導入してなる、耐熱・耐圧の結晶育成炉内において、該育成容器を、水平回転させながら20時間〜100時間保持する。これによって、金属Gaと金属Naと金属Znとを含む融液を撹拌しながら、基材1上にZnがドープされたGaN単結晶層をおおよそ100μm〜500μm程度の厚みに成長させることができる。
【0046】
室温まで徐冷した後、アルミナ坩堝内からZnドープGaN単結晶層が成長してなる基材1(複合基板)を取り出す。
【0047】
続いて、形成されたZnドープGaN単結晶層の表面を、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨することで平坦化し、10μm〜100μmの厚みとなるようにする。これにより、ZnドープGaN層2Aの形成が完了する。
【0048】
なお、フラックス法により育成された単結晶層の膜厚が10μm未満の場合、その後の研磨によって表面を平坦化させて単結晶層の膜厚を一定値に制御することが難しい。それゆえ、フラックス法によって育成する単結晶層の膜厚は、10μm以上であることが好ましい。
【0049】
(C含有GaN層の形成)
C含有GaN層2Bの形成は、MOCVD法により行う。係るC含有GaN層2Bの形成には、少なくとも、Gaについての有機金属(MO)原料ガス(TMG)と、Nの原料ガスたるアンモニアガスと、水素ガスと、窒素ガスとをリアクタ内に供給可能に構成されてなる、公知のMOCVD炉を用いる。もちろん、該MOCVD炉が他の原料ガスが供給可能に構成されていてもよい。
【0050】
具体的には、まず、基材1たるGaN基板を用意し、リアクタ内に設けられたサセプタ上に載置する。そして、サセプタ加熱によって基材1を1000℃以上1150℃以下の所定の温度(C含有GaN層形成温度)とするとともに、リアクタ内圧力を10kPa以上50kPa以下の所定値に保ちつつ、15族/13族ガス比が100以上2000以下の所定の値となるように原料ガスたるTMGおよびアンモニアガスさらにはキャリアガスの供給を調整する。これにより、基材1の表面に、所望とするC濃度のC含有GaN層2Bが形成される。
【0051】
なお、MOCVD法によってGaN層を形成する場合、そのC濃度は、15族/13族ガス比の値に応じて変化する。本実施の形態におけるC含有GaN層2Bの形成は、このことを利用している。すなわち、GaN層を形成する際のリアクタ内圧力および15族/13族ガス比を適宜に調整することで、GaN層に所望の濃度でCを含有させるようにする。
【0052】
例えば、リアクタ内圧力を100kPaとし15族/13族ガス比を1000とした場合にはC含有GaN層2BのC濃度は5×1016/cmとなり、リアクタ内圧力を10kPaとし15族/13族ガス比を100とした場合にはC含有GaN層2BのC濃度は5×1018/cmとなる。このように15族/13族ガス比の値に応じてC含有GaN層2BのC濃度を変化させることができるのは、C供給量は13族ガス供給量で変化し、さらに、GaN結晶中のC元素の安定性は温度および圧力の影響を受けるからである。
【0053】
ただし、本実施の形態において、15族/13族ガス比とは、13族原料の供給量に対する15族原料の供給量の比(モル比)である。C含有GaN層2Bの形成の場合であれば、Ga原料たるTMGの供給量に対するN原料たるアンモニアガスの供給量のモル比が、15族/13族ガス比に相当する。
【0054】
(AlGaN層の形成)
AlGaN層2Cの形成は、C含有GaN層2Bの形成と同様、MOCVD法により行う。それゆえ、AlGaN層2Cの形成には、Alについての有機金属(MO)原料ガス(TMA)についても供給可能とされていれば、C含有GaN層2Bを形成する場合と同様のMOCVD炉を用いることができる。もちろん、該MOCVD炉が他の原料ガスが供給可能に構成されていてもよい。
【0055】
具体的には、まず、基材1たるGaN基板を用意し、リアクタ内に設けられたサセプタ上に載置する。そして、サセプタ加熱によって基材1を1050℃以上1200℃以下の所定の温度(AlGaN層形成温度)とするとともに、リアクタ内圧力を5kPa以上30kPa以下の所定値に保ちつつ、15族/13族ガス比が500以上5000以下の所定の値となるように原料ガスたるTMG、TMAおよびアンモニアガスさらにはキャリアガスの供給を調整する。これにより、基材1の表面へのAlGaN層2Cの形成が実現される。
【0056】
なお、AlGaN層2CのAl組成比pを所望の値に設定するには、Al原料ガス(TMA)が13族原料ガス中に占める割合を、つまりは、TMAの流量の13族原料ガス全体の流量(TMAとTMGの流量の総和)に対する比を、所望の組成比に一致するように調整すればよい。係る流量比をTMA/(TMA+TMG)比と表すとすると、例えばTMA/(TMA+TMG)比を0.1とした場合には、AlGaN層2CのAl組成比p=0.1となり、TMA/(TMA+TMG)比を0.98とした場合には、p=0.98となる。
【0057】
(チャネル層以降の形成)
上述したいずれかの態様にて下地層2を形成した後、続いて、チャネル層3および障壁層4を順次に形成する。チャネル層3および障壁層4の形成は、MOCVD法にて行う。好ましくは、チャネル層3と障壁層4とは、一のMOCVD炉を用いて連続的に行う。なお、下地層2としてC含有GaN層2BまたはAlGaN層2Cを形成する場合には、これらの層の形成も含め、一のMOCVD炉を用いて連続的に行うのが好ましい。
【0058】
チャネル層3および障壁層4の形成には、13族元素(Ga,Al、In)についての有機金属(MO)原料ガス(TMG、TMA、TMI)と、窒素(N)の原料ガスたるアンモニアガスと、水素ガスと、窒素ガスとをリアクタ内に供給可能に構成されてなる、公知のMOCVD炉を用いる。
【0059】
チャネル層3を形成するには、まず、下地層2までが形成された複合基板を、該リアクタ内に設けられたサセプタ上に載置する。そして、サセプタ加熱によって複合基板を1000℃以上1150℃以下の所定の温度(チャネル層形成温度)とするとともに、リアクタ内圧力を50kPa以上100kPa以下の所定値に保ちつつ、15族/13族ガス比が1000以上5000以下の所定の値となるように原料ガスたるTMGおよびアンモニアガスとキャリアガスの供給を調整する。これにより、チャネル層3が形成される。
【0060】
係るチャネル層3の形成に続いて障壁層4を形成するには、チャネル層3形成後の複合基板を1050℃以上1200℃以下の所定の温度(障壁層形成温度)とするとともに、リアクタ内圧力を5kPa以上30kPa以下の所定値に保ちつつ、15族/13族ガス比が5000以上50000以下の所定の値となるように原料ガスたるTMG、TMA、TMIおよびアンモニアガスとキャリアガスの供給を障壁層4の組成に応じて調整する。これにより、障壁層4が形成される。
【0061】
障壁層4が形成されたことで、本実施の形態に係る13族窒化物複合基板10が得られたことになる。
【0062】
13族窒化物複合基板10が形成されると、これを用いてHEMT素子20が形成される。以降の各工程は、公知の手法で実現されるものである。
【0063】
まず、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法を用いて、障壁層4の形成対象個所に、Ti/Al/Ni/Auなる構成の多層膜を形成することで、ソース電極5およびドレイン電極6となる多層金属を形成する。
【0064】
次いで、ソース電極5およびドレイン電極6のオーミック性を良好なものにするため、これらソース電極5およびドレイン電極6が形成された13族窒化物複合基板10に対し、650℃〜1000℃の所定温度の窒素ガス雰囲気中において、数十秒間の熱処理を施す。
【0065】
続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法を用いて、障壁層4の形成対象個所に、Pd/Auなる構成の多層膜を形成することで、ゲート電極7となる多層金属を形成する。
【0066】
以上、説明したように、本実施の形態においては、導電性のGaN基板たる基材の上に、高抵抗層たる下地層を設けたうえで、低不純物層たるチャネル層と、障壁層とを順次に設けることで、1000cm/V・s以上という高い移動度を有する一方でゲート・ソース電極間の容量が0.1pF未満に抑制されたHEMT素子が実現されてなる。すなわち、本実施の形態によれば、導電性のGaN基板を基材として用いつつも高周波用途に適したHEMT素子を実現可能な13族窒化物複合基板、さらには高周波用途に適したHEMT素子を、実現することができる。
【実施例】
【0067】
(参考例1)
本参考例では、下地層2としてZnドープGaN層2Aを形成することによって13族窒化物複合基板10を作製し、さらに、該13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。そして、それらの作製途中および作製後に、いくつかの特性評価を行った。
【0068】
より詳細には、本参考例では、ZnドープGaN層2AのZn濃度に係る条件を違えた6種類の13族窒化物複合基板10を作製し、それぞれについてHEMT素子20を作製した(No.1−1〜1−6)。ただし、以降においては、Znが検出されないGaN層についても、便宜上、ZnドープGaN層2Aと称することがある。
【0069】
また、HEMT素子20の作製にあたっては、一の母基板から多数個の素子を作製可能な、いわゆる多数個取りの手法を採用した。
【0070】
いずれの条件の試料を作製する場合においても、まず、基材1となる母基板として、n型の導電性を呈する、4インチ径で(0001)面方位の導電性GaN基板を用意した。なお、係るGaN基板の比抵抗は、0.1Ω・cmであった。
【0071】
そして、アルミナるつぼに、導電性GaN基板と、金属Ga、金属Na、金属Znを充填した。その際、金属Gaおよび金属Naの充填量はそれぞれ45g、66gとしたが、Zn濃度を違えるべく、金属Znの充填量は条件毎に(試料毎に)違えた。具体的には、試料1−1〜1−6について順に、0g(充填なし)、0.1g、0.2g、0.5g、2g、5gとした。
【0072】
その後、それぞれの条件のアルミナ坩堝を耐熱金属製の育成容器に入れて密閉し、さらに、該育成容器を、窒素ガスが導入される結晶育成炉内で、炉内温度900℃、炉内圧力5MPaという条件のもとで、約10時間、水平回転させながら保持した。
【0073】
育成終了後、アルミナるつぼから導電性GaN基板を取り出したところ、いずれの条件においても、その(0001)面上にGaN単結晶が約150μmの厚さで堆積していることが確認された。
【0074】
次に、導電性GaN基板上に形成されてなるGaN単結晶の表面を、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨し、平坦化させるとともに、厚みを25μmとした。これにより、導電性GaN基板の上に下地層2としてZnドープGaN層2Aが形成された、6種類の複合基板が得られた。なお、試料によらず、ZnドープGaN層2Aの表面にクラックは確認されなかった。
【0075】
それぞれの複合基板について、SIMSにより、ZnドープGaN層2AのZn濃度を同定した。また、van der Pauw法により、ZnドープGaN層2Aの比抵抗を測定した。
【0076】
表1に、条件毎の(試料毎の)ZnドープGaN層2A(下地層)のZn濃度と比抵抗とを示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、ZnドープGaN層2AのZn濃度は、金属Znの充填量が多いほど大きな値となった。なお、試料1−1ではZn濃度の測定値が検出下限値である1×1016/cm未満となったことから、事実上、Znは存在していないことが確認された。
【0079】
また、ZnドープGaN層2Aの比抵抗は、試料1−1を除いて1×10Ω・cm以上となり、Zn濃度が高いほど大きな値となった。特に、試料1−3〜1−6においては、1×10Ω・cm以上の値となった。これにより、Znをドープした試料1−2〜1−6ではZnドープGaN層2Aは半絶縁性を有する層として形成されていることが確認された。
【0080】
このように得られたそれぞれの複合基板について、MOCVD炉のリアクタ内のサセプタに載置した。リアクタ内部を真空ガス置換した後、リアクタ内圧力を100kPaとし、水素/窒素混合フロー状態の雰囲気を形成した。次いで、サセプタ加熱によって基板を昇温した。サセプタ温度が1100℃に達すると、TMGガスとアンモニアガスとをリアクタ内に導入し、チャネル層3としてのGaN層を2μmの厚みに形成した。
【0081】
なお、チャネル層3の形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、水素ガスを用いた。また、15族/13族ガス比は2000とした。
【0082】
なお、チャネル層3の形成までをそれぞれの試料と同じ条件で行った試料について、C濃度をSIMS測定により測定したところ、いずれの試料も2×1016/cm程度であった。これにより、チャネル層3が低不純物層として形成されてなることが確認された。なお、このときのSIMS測定におけるC濃度の検出下限値は1×1016/cmであった。
【0083】
チャネル層3が得られると、続いて、サセプタ温度を1100℃に引き続き保ち、リアクタ圧力を10kPaとした。次いでTMGおよびTMAとアンモニアガスとを所定の流量比でリアクタ内に導入し、障壁層4としてのAl0.2Ga0.8N層を25nmの厚みに形成した。なお、障壁層4の形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、全て水素ガスを用いた。また、15族/13族ガス比は5000とした。
【0084】
障壁層4が形成された後、サセプタ温度を室温付近まで降温し、リアクタ内を大気圧に復帰させた後、リアクタを大気開放して、作製された13族窒化物複合基板10を取り出した。
【0085】
次に、13族窒化物複合基板10に形成されたHEMT構造について、ホール測定(van der Pauw法)による移動度の測定を行った。
【0086】
具体的には、まず、全6種の13族窒化物複合基板10のそれぞれから6mm角の試験片を切り出した。続いて、該試験片の四隅に0.5mm角のTi/Al電極を蒸着したうえで、窒素ガス中にて600℃にて1分間アニールし、その後室温にまで降温させることで、測定用サンプルを得た。Ti/Al電極とHEMT構造との間にオーミック性接触が得られていることを確認した後、ホール測定によりHEMT構造の移動度を測定した。係る移動度の測定結果についても表1に示す。
【0087】
続いて、13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。なお、HEMT素子20は、ゲート幅が1mm、ソース−ゲート間隔が1μm、ゲート−ドレイン間隔が7.5μm、ゲート長が1.5μmとなるように設計した。
【0088】
なお、HEMT素子20の作製に際しては、各電極の形成に先立ち、パッシベーション膜として13族窒化物複合基板10の上に(障壁層4の上に)図示しないSiN膜を100nmの厚みに形成した。
【0089】
続いてフォトリソグラフィを用いてソース電極5、ドレイン電極6およびゲート電極7の形成予定箇所に形成されてなるSiN膜をエッチング除去することで、SiNパターンを得た。
【0090】
次に、ソース電極5およびドレイン電極6を形成した。具体的には、まず、真空蒸着法とフォトリソグラフィープロセスとを用い、所定の形成予定箇所にTi/Al/Ni/Au(それぞれの膜厚は25/75/15/100nm)からなる多層金属パターンを形成することにより形成した。次いで、ソース電極5およびドレイン電極6のオーミック性を良好なものにするために、800℃の窒素ガス雰囲気中にて30秒間の熱処理を施した。
【0091】
続いて、ゲート電極7を形成した。具体的には、真空蒸着法とフォトリソグラフィとを用いて、所定の形成予定箇所に、Pd/Au(それぞれの膜厚は30/100nm)からなるショットキー性金属パターンを形成することにより形成した。
【0092】
最後に、ダイシングにより素子単位に個片化することで、HEMT素子20が得られた。
【0093】
得られたHEMT素子20について、ゲート・ソース電極間容量を測定した。各試料のゲート・ソース電極間容量の測定結果についても表1に示す。
【0094】
表1に示す結果からは、ZnドープGaN層2Aの比抵抗が1×10Ω・cm以上であるNo.1−2〜1−6のHEMT素子において0.5pF以下というゲート・ソース電極間容量が実現され、特に、ZnドープGaN層2AのZn濃度の範囲が1×1018/cm以上2×1019/cm以下であるNo.1−3〜1−5のHEMT素子においては、1000cm/V・s以上という高い移動度と、0.1pF未満という小さなゲート・ソース電極間容量とがともに実現されることが、確認される。
【0095】
Zn濃度が1×1018/cmよりも小さいNo.1−1〜1−2のHEMT素子では、ゲート・ソース電極間容量が必ずしも十分には低下せず、一方、Zn濃度が2×1019/cmよりも大きいNo.1−6のHEMT素子では、移動度が低下することも確認される。
【0096】
(参考例2)
本参考例では、下地層2としてC含有GaN層2Bを備える13族窒化物複合基板10を作製し、さらに、該13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。13族窒化物複合基板10としては、C含有GaN層2BのC濃度を違えた5種類のものを作製し、それぞれについてHEMT素子20を作製した(No.2−1〜2−5)。その作成手順は、C含有GaN層2B、チャネル層3、および障壁層4の形成を、一のMOCVD炉によって連続的に行うようにしたほかは、参考例1と同様とした。そして、それらの作製途中および作製後に、いくつかの特性評価を行った。
【0097】
いずれの条件の試料を作製する場合においても、まず、参考例1で用いたものと同様の導電性GaN基板をMOCVD炉のリアクタ内のサセプタに載置した。そして、リアクタ内部を真空ガス置換した後、水素/窒素混合フロー状態の雰囲気を形成した。次いで、サセプタ加熱によって基板を昇温した。サセプタ温度が1100℃に達すると、TMGガスとアンモニアガスとをリアクタ内に導入し、GaN層を10μmの厚みに形成した。その際には、C濃度を違えるべく、条件毎に(試料毎に)リアクタ内圧力と15族/13族ガス比とを違えた。具体的には、リアクタ内圧力については試料2−1〜2−5について順に、100kPa、50kPa、50kPa、10kPa、10kPaとした。また、15族/13族ガス比については、試料2−1〜2−5について順に、1000、2000、500、200、100とした。なお、C含有GaN層2Bの形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、水素ガスを用いた。
【0098】
C含有GaN層2Bが形成されると、SIMSによりそのC濃度を測定した。
【0099】
その後、チャネル層3の形成から最終的にHEMT素子20が得られるまでの手順は、参考例1と同様とした。また、移動度の測定およびゲート・ソース電極間容量の測定についても、参考例1と同様に行った。
【0100】
表2に、条件毎の(試料毎の)C含有GaN層2B(下地層)のC濃度および比抵抗と、HEMTの移動度およびゲート・ソース電極間容量を示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示す結果からは、C含有GaN層2BのC濃度の範囲が8×1016/cm以上であるNo.2−2〜2−5のHEMT素子において1×10Ω・cm以上という比抵抗が実現されていること、および、C含有GaN層2BのC濃度の範囲が8×1016/cm以上3×1018/cm以下であるNo.2−2〜2−4のHEMT素子において、1000cm/V・s以上という高い移動度と、0.1pF未満という小さなゲート・ソース電極間容量とがともに実現されることが、確認される。
【0103】
また、C濃度が8×1016/cmよりも小さいNo.2−1のHEMT素子では、ゲート・ソース電極間容量が必ずしも十分には低下せず、一方、C濃度が3×1018/cmよりも大きいNo.2−5のHEMT素子では、移動度が低下することも確認される。
【0104】
(実施例)
本実施例では、下地層2としてAlGa1−pNなる組成のAlGaN層2Cを備える13族窒化物複合基板10を作製し、さらに、該13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。13族窒化物複合基板10としては、AlGaN層2CのAl組成比pを違えた6種類のものを作製し、それぞれについてHEMT素子20を作製した(No.3−1〜3−6)。その作成手順は、AlGaN層2C、チャネル層3、および障壁層4の形成を、一のMOCVD炉によって連続的に行うようにしたほかは、参考例1と同様とした。そして、それらの作製途中および作製後に、いくつかの特性評価を行った。
【0105】
いずれの条件の試料を作製する場合においても、まず、参考例1で用いたものと同様の導電性GaN基板をMOCVD炉のリアクタ内のサセプタに載置した。そして、リアクタ内部を真空ガス置換した後、リアクタ内圧力を10kPaとし、水素/窒素混合フロー状態の雰囲気を形成した。次いで、サセプタ加熱によって基板を昇温した。サセプタ温度が1100℃に達すると、TMGガスとTMAガスとアンモニアガスとをリアクタ内に導入し、AlGaN層2Cを0.2μmの厚みに形成した。その際には、Al組成比pを違えるべく、条件毎に(試料毎に)TMA/(TMA+TMG)比を違えた。具体的には、試料3−1〜3−6について順に、TMA/(TMA+TMG)比を0.08、0.1、0.2、0.5、0.98、1とした。なお、AlGaN層2Cの形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、水素ガスを用いた。
【0106】
その後、チャネル層3の形成から最終的にHEMT素子20が得られるまでの手順は、参考例1と同様とした。また、移動度の測定およびゲート・ソース電極間容量の測定についても、参考例1と同様に行った。
【0107】
表3に、条件毎の(試料毎の)AlGaN層2C(下地層)のAl組成比pおよび比抵抗と、HEMTの移動度およびゲート・ソース電極間容量を示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3に示す結果からは、AlGaN層2CのAl組成比pの範囲が0.1以上であるNo.3−2〜3−6のHEMT素子において1×10Ω・cm以上という比抵抗が実現されていること、および、AlGaN層2CのAl組成比pの範囲が0.1以上0.98以下であるNo.3−2〜3−5のHEMT素子において、1000cm/V・s以上という高い移動度と、0.1pF未満という小さなゲート・ソース電極間容量とがともに実現されることが確認される。
【0110】
また、C濃度が0.1よりも小さいNo.3−1のHEMT素子では、ゲート・ソース電極間容量が必ずしも十分には低下せず、一方、C濃度が0.98よりも大きいNo.3−6素子では、移動度が低下することも確認される。なお、p=1としたNo.3−6のHEMT素子は、つまり、下地層2をAlNにて形成した試料である。
【0111】
(比較例1)
下地層2を形成しないようにし、基材1の上に直接にHEMT構造を設けるようにしたほかは、参考例1と同様に(参考例2、実施例とも同様である)HEMT素子を作成した。
【0112】
得られたHEMT素子についてゲート・ソース電極間容量を測定したところ、50pFであった。
【0113】
係る結果は、参考例1、参考例2、および実施例のように、下地層2を設けることが、HEMT素子の寄生容量を抑制するうえで効果的であることを指し示している。
【0114】
(比較例2)
参考例1、参考例2、実施例1、および比較例1において基材1として用いた導電性のGaN基板に代えて、比抵抗が1×10Ω・cm以上である15mm角の(0001)面方位の半絶縁性GaN基板を用意し、これを用いて、比較例1と同様に下地層2を形成することなくHEMT素子を作製した。
【0115】
作製過程においては、参考例1、参考例2、および実施例と同様にホール測定による移動度測定およびゲート・ソース電極間容量の測定を行った。その結果、移動度は1500cm/V・sであり、ゲート・ソース電極間容量は0.1pF未満であった。
【0116】
以上の結果は、参考例1、参考例2、および実施例のように、基材1として導電性GaN基板を用いた場合であっても、チャネル層3との間に所定の要件にて下地層2を設けるようにすることで、半絶縁性のGaN基板の上に直接にHEMT構造を設けたHEMT素子と同程度の特性を有する、高周波用途に適したHEMT素子が実現できることを、意味している。
【0117】
(比較例3)
下地層2としてC含有GaN層2Bを形成した後、これに続いて、C含有GaN層2Bと同じC濃度を有するようにチャネル層3を形成した他は、参考例2のNo.2−3および2−4と同様にHEMT素子を作製した。なお、下地層2とチャネル層3の総膜厚は12μmとなるようにした。以降、No.2−3に対応する条件で作製した試料をNo.2−3aとし、No.2−4に対応する条件で作製した試料をNo.2−4aとする。
【0118】
作製過程においては、参考例1、参考例2、および実施例と同様にホール測定による移動度測定およびゲート・ソース電極間容量の測定を行った。
【0119】
表4に、条件毎の(試料毎の)下地層(およびチャネル層)のC濃度および比抵抗と、HEMTの移動度およびゲート・ソース電極間の容量の測定結果を示す。
【0120】
【表4】
【0121】
表4に示すNo.2−3a、2−4aのHEMT素子の結果を、表2に示す参考例2のNo.2−3、2−4のHEMT素子の結果と対比すると、ゲート・ソース間容量はNo.2−3および2−4のHEMT素子と同様、0.1pF未満にまで抑制されていたが、移動度が1000cm/V・sを下回ってしまっていた。
【0122】
係る結果は、導電性の基材1の上に、Cを相対的に高い濃度で含有する下地層2を形成し、続いて、低不純物の(実質的にはCの濃度が相対的に低い)チャネル層3を設ける様にすることが、高周波用途に適したHEMT素子を得るうえにおいて好ましいということを指し示している。
【符号の説明】
【0123】
1 基材
2 下地層
2C AlGaN層
3 チャネル層
4 障壁層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 ゲート電極
10 13族窒化物複合基板
20 HEMT素子
図1