【実施例】
【0067】
(参考例1)
本参考例では、下地層2としてZnドープGaN層2Aを形成することによって13族窒化物複合基板10を作製し、さらに、該13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。そして、それらの作製途中および作製後に、いくつかの特性評価を行った。
【0068】
より詳細には、本参考例では、ZnドープGaN層2AのZn濃度に係る条件を違えた6種類の13族窒化物複合基板10を作製し、それぞれについてHEMT素子20を作製した(No.1−1〜1−6)。ただし、以降においては、Znが検出されないGaN層についても、便宜上、ZnドープGaN層2Aと称することがある。
【0069】
また、HEMT素子20の作製にあたっては、一の母基板から多数個の素子を作製可能な、いわゆる多数個取りの手法を採用した。
【0070】
いずれの条件の試料を作製する場合においても、まず、基材1となる母基板として、n型の導電性を呈する、4インチ径で(0001)面方位の導電性GaN基板を用意した。なお、係るGaN基板の比抵抗は、0.1Ω・cmであった。
【0071】
そして、アルミナるつぼに、導電性GaN基板と、金属Ga、金属Na、金属Znを充填した。その際、金属Gaおよび金属Naの充填量はそれぞれ45g、66gとしたが、Zn濃度を違えるべく、金属Znの充填量は条件毎に(試料毎に)違えた。具体的には、試料1−1〜1−6について順に、0g(充填なし)、0.1g、0.2g、0.5g、2g、5gとした。
【0072】
その後、それぞれの条件のアルミナ坩堝を耐熱金属製の育成容器に入れて密閉し、さらに、該育成容器を、窒素ガスが導入される結晶育成炉内で、炉内温度900℃、炉内圧力5MPaという条件のもとで、約10時間、水平回転させながら保持した。
【0073】
育成終了後、アルミナるつぼから導電性GaN基板を取り出したところ、いずれの条件においても、その(0001)面上にGaN単結晶が約150μmの厚さで堆積していることが確認された。
【0074】
次に、導電性GaN基板上に形成されてなるGaN単結晶の表面を、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨し、平坦化させるとともに、厚みを25μmとした。これにより、導電性GaN基板の上に下地層2としてZnドープGaN層2Aが形成された、6種類の複合基板が得られた。なお、試料によらず、ZnドープGaN層2Aの表面にクラックは確認されなかった。
【0075】
それぞれの複合基板について、SIMSにより、ZnドープGaN層2AのZn濃度を同定した。また、van der Pauw法により、ZnドープGaN層2Aの比抵抗を測定した。
【0076】
表1に、条件毎の(試料毎の)ZnドープGaN層2A(下地層)のZn濃度と比抵抗とを示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、ZnドープGaN層2AのZn濃度は、金属Znの充填量が多いほど大きな値となった。なお、試料1−1ではZn濃度の測定値が検出下限値である1×10
16/cm
3未満となったことから、事実上、Znは存在していないことが確認された。
【0079】
また、ZnドープGaN層2Aの比抵抗は、試料1−1を除いて1×10
6Ω・cm以上となり、Zn濃度が高いほど大きな値となった。特に、試料1−3〜1−6においては、1×10
7Ω・cm以上の値となった。これにより、Znをドープした試料1−2〜1−6ではZnドープGaN層2Aは半絶縁性を有する層として形成されていることが確認された。
【0080】
このように得られたそれぞれの複合基板について、MOCVD炉のリアクタ内のサセプタに載置した。リアクタ内部を真空ガス置換した後、リアクタ内圧力を100kPaとし、水素/窒素混合フロー状態の雰囲気を形成した。次いで、サセプタ加熱によって基板を昇温した。サセプタ温度が1100℃に達すると、TMGガスとアンモニアガスとをリアクタ内に導入し、チャネル層3としてのGaN層を2μmの厚みに形成した。
【0081】
なお、チャネル層3の形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、水素ガスを用いた。また、15族/13族ガス比は2000とした。
【0082】
なお、チャネル層3の形成までをそれぞれの試料と同じ条件で行った試料について、C濃度をSIMS測定により測定したところ、いずれの試料も2×10
16/cm
3程度であった。これにより、チャネル層3が低不純物層として形成されてなることが確認された。なお、このときのSIMS測定におけるC濃度の検出下限値は1×10
16/cm
3であった。
【0083】
チャネル層3が得られると、続いて、サセプタ温度を1100℃に引き続き保ち、リアクタ圧力を10kPaとした。次いでTMGおよびTMAとアンモニアガスとを所定の流量比でリアクタ内に導入し、障壁層4としてのAl
0.2Ga
0.8N層を25nmの厚みに形成した。なお、障壁層4の形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、全て水素ガスを用いた。また、15族/13族ガス比は5000とした。
【0084】
障壁層4が形成された後、サセプタ温度を室温付近まで降温し、リアクタ内を大気圧に復帰させた後、リアクタを大気開放して、作製された13族窒化物複合基板10を取り出した。
【0085】
次に、13族窒化物複合基板10に形成されたHEMT構造について、ホール測定(van der Pauw法)による移動度の測定を行った。
【0086】
具体的には、まず、全6種の13族窒化物複合基板10のそれぞれから6mm角の試験片を切り出した。続いて、該試験片の四隅に0.5mm角のTi/Al電極を蒸着したうえで、窒素ガス中にて600℃にて1分間アニールし、その後室温にまで降温させることで、測定用サンプルを得た。Ti/Al電極とHEMT構造との間にオーミック性接触が得られていることを確認した後、ホール測定によりHEMT構造の移動度を測定した。係る移動度の測定結果についても表1に示す。
【0087】
続いて、13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。なお、HEMT素子20は、ゲート幅が1mm、ソース−ゲート間隔が1μm、ゲート−ドレイン間隔が7.5μm、ゲート長が1.5μmとなるように設計した。
【0088】
なお、HEMT素子20の作製に際しては、各電極の形成に先立ち、パッシベーション膜として13族窒化物複合基板10の上に(障壁層4の上に)図示しないSiN膜を100nmの厚みに形成した。
【0089】
続いてフォトリソグラフィを用いてソース電極5、ドレイン電極6およびゲート電極7の形成予定箇所に形成されてなるSiN膜をエッチング除去することで、SiNパターンを得た。
【0090】
次に、ソース電極5およびドレイン電極6を形成した。具体的には、まず、真空蒸着法とフォトリソグラフィープロセスとを用い、所定の形成予定箇所にTi/Al/Ni/Au(それぞれの膜厚は25/75/15/100nm)からなる多層金属パターンを形成することにより形成した。次いで、ソース電極5およびドレイン電極6のオーミック性を良好なものにするために、800℃の窒素ガス雰囲気中にて30秒間の熱処理を施した。
【0091】
続いて、ゲート電極7を形成した。具体的には、真空蒸着法とフォトリソグラフィとを用いて、所定の形成予定箇所に、Pd/Au(それぞれの膜厚は30/100nm)からなるショットキー性金属パターンを形成することにより形成した。
【0092】
最後に、ダイシングにより素子単位に個片化することで、HEMT素子20が得られた。
【0093】
得られたHEMT素子20について、ゲート・ソース電極間容量を測定した。各試料のゲート・ソース電極間容量の測定結果についても表1に示す。
【0094】
表1に示す結果からは、ZnドープGaN層2Aの比抵抗が1×10
6Ω・cm以上であるNo.1−2〜1−6のHEMT素子において0.5pF以下というゲート・ソース電極間容量が実現され、特に、ZnドープGaN層2AのZn濃度の範囲が1×10
18/cm
3以上2×10
19/cm
3以下であるNo.1−3〜1−5のHEMT素子においては、1000cm
2/V・s以上という高い移動度と、0.1pF未満という小さなゲート・ソース電極間容量とがともに実現されることが、確認される。
【0095】
Zn濃度が1×10
18/cm
3よりも小さいNo.1−1〜1−2のHEMT素子では、ゲート・ソース電極間容量が必ずしも十分には低下せず、一方、Zn濃度が2×10
19/cm
3よりも大きいNo.1−6のHEMT素子では、移動度が低下することも確認される。
【0096】
(参考例2)
本参考例では、下地層2としてC含有GaN層2Bを備える13族窒化物複合基板10を作製し、さらに、該13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。13族窒化物複合基板10としては、C含有GaN層2BのC濃度を違えた5種類のものを作製し、それぞれについてHEMT素子20を作製した(No.2−1〜2−5)。その作成手順は、C含有GaN層2B、チャネル層3、および障壁層4の形成を、一のMOCVD炉によって連続的に行うようにしたほかは、参考例1と同様とした。そして、それらの作製途中および作製後に、いくつかの特性評価を行った。
【0097】
いずれの条件の試料を作製する場合においても、まず、参考例1で用いたものと同様の導電性GaN基板をMOCVD炉のリアクタ内のサセプタに載置した。そして、リアクタ内部を真空ガス置換した後、水素/窒素混合フロー状態の雰囲気を形成した。次いで、サセプタ加熱によって基板を昇温した。サセプタ温度が1100℃に達すると、TMGガスとアンモニアガスとをリアクタ内に導入し、GaN層を10μmの厚みに形成した。その際には、C濃度を違えるべく、条件毎に(試料毎に)リアクタ内圧力と15族/13族ガス比とを違えた。具体的には、リアクタ内圧力については試料2−1〜2−5について順に、100kPa、50kPa、50kPa、10kPa、10kPaとした。また、15族/13族ガス比については、試料2−1〜2−5について順に、1000、2000、500、200、100とした。なお、C含有GaN層2Bの形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、水素ガスを用いた。
【0098】
C含有GaN層2Bが形成されると、SIMSによりそのC濃度を測定した。
【0099】
その後、チャネル層3の形成から最終的にHEMT素子20が得られるまでの手順は、参考例1と同様とした。また、移動度の測定およびゲート・ソース電極間容量の測定についても、参考例1と同様に行った。
【0100】
表2に、条件毎の(試料毎の)C含有GaN層2B(下地層)のC濃度および比抵抗と、HEMTの移動度およびゲート・ソース電極間容量を示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示す結果からは、C含有GaN層2BのC濃度の範囲が8×10
16/cm
3以上であるNo.2−2〜2−5のHEMT素子において1×10
6Ω・cm以上という比抵抗が実現されていること、および、C含有GaN層2BのC濃度の範囲が8×10
16/cm
3以上3×10
18/cm
3以下であるNo.2−2〜2−4のHEMT素子において、1000cm
2/V・s以上という高い移動度と、0.1pF未満という小さなゲート・ソース電極間容量とがともに実現されることが、確認される。
【0103】
また、C濃度が8×10
16/cm
3よりも小さいNo.2−1のHEMT素子では、ゲート・ソース電極間容量が必ずしも十分には低下せず、一方、C濃度が3×10
18/cm
3よりも大きいNo.2−5のHEMT素子では、移動度が低下することも確認される。
【0104】
(実施例)
本実施例では、下地層2としてAl
pGa
1−pNなる組成のAlGaN層2Cを備える13族窒化物複合基板10を作製し、さらに、該13族窒化物複合基板10を用いてHEMT素子20を作製した。13族窒化物複合基板10としては、AlGaN層2CのAl組成比pを違えた6種類のものを作製し、それぞれについてHEMT素子20を作製した(No.3−1〜3−6)。その作成手順は、AlGaN層2C、チャネル層3、および障壁層4の形成を、一のMOCVD炉によって連続的に行うようにしたほかは、参考例1と同様とした。そして、それらの作製途中および作製後に、いくつかの特性評価を行った。
【0105】
いずれの条件の試料を作製する場合においても、まず、参考例1で用いたものと同様の導電性GaN基板をMOCVD炉のリアクタ内のサセプタに載置した。そして、リアクタ内部を真空ガス置換した後、リアクタ内圧力を10kPaとし、水素/窒素混合フロー状態の雰囲気を形成した。次いで、サセプタ加熱によって基板を昇温した。サセプタ温度が1100℃に達すると、TMGガスとTMAガスとアンモニアガスとをリアクタ内に導入し、AlGaN層2Cを0.2μmの厚みに形成した。その際には、Al組成比pを違えるべく、条件毎に(試料毎に)TMA/(TMA+TMG)比を違えた。具体的には、試料3−1〜3−6について順に、TMA/(TMA+TMG)比を0.08、0.1、0.2、0.5、0.98、1とした。なお、AlGaN層2Cの形成の際の有機金属原料のバブリング用ガスおよびキャリアガスには、水素ガスを用いた。
【0106】
その後、チャネル層3の形成から最終的にHEMT素子20が得られるまでの手順は、参考例1と同様とした。また、移動度の測定およびゲート・ソース電極間容量の測定についても、参考例1と同様に行った。
【0107】
表3に、条件毎の(試料毎の)AlGaN層2C(下地層)のAl組成比pおよび比抵抗と、HEMTの移動度およびゲート・ソース電極間容量を示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3に示す結果からは、AlGaN層2CのAl組成比pの範囲が0.1以上であるNo.3−2〜3−6のHEMT素子において1×10
6Ω・cm以上という比抵抗が実現されていること、および、AlGaN層2CのAl組成比pの範囲が0.1以上0.98以下であるNo.3−2〜3−5のHEMT素子において、1000cm
2/V・s以上という高い移動度と、0.1pF未満という小さなゲート・ソース電極間容量とがともに実現されることが確認される。
【0110】
また、C濃度が0.1よりも小さいNo.3−1のHEMT素子では、ゲート・ソース電極間容量が必ずしも十分には低下せず、一方、C濃度が0.98よりも大きいNo.3−6素子では、移動度が低下することも確認される。なお、p=1としたNo.3−6のHEMT素子は、つまり、下地層2をAlNにて形成した試料である。
【0111】
(比較例1)
下地層2を形成しないようにし、基材1の上に直接にHEMT構造を設けるようにしたほかは、参考例1と同様に(参考例2、実施例とも同様である)HEMT素子を作成した。
【0112】
得られたHEMT素子についてゲート・ソース電極間容量を測定したところ、50pFであった。
【0113】
係る結果は、参考例1、参考例2、および実施例のように、下地層2を設けることが、HEMT素子の寄生容量を抑制するうえで効果的であることを指し示している。
【0114】
(比較例2)
参考例1、参考例2、実施例1、および比較例1において基材1として用いた導電性のGaN基板に代えて、比抵抗が1×10
6Ω・cm以上である15mm角の(0001)面方位の半絶縁性GaN基板を用意し、これを用いて、比較例1と同様に下地層2を形成することなくHEMT素子を作製した。
【0115】
作製過程においては、参考例1、参考例2、および実施例と同様にホール測定による移動度測定およびゲート・ソース電極間容量の測定を行った。その結果、移動度は1500cm
2/V・sであり、ゲート・ソース電極間容量は0.1pF未満であった。
【0116】
以上の結果は、参考例1、参考例2、および実施例のように、基材1として導電性GaN基板を用いた場合であっても、チャネル層3との間に所定の要件にて下地層2を設けるようにすることで、半絶縁性のGaN基板の上に直接にHEMT構造を設けたHEMT素子と同程度の特性を有する、高周波用途に適したHEMT素子が実現できることを、意味している。
【0117】
(比較例3)
下地層2としてC含有GaN層2Bを形成した後、これに続いて、C含有GaN層2Bと同じC濃度を有するようにチャネル層3を形成した他は、参考例2のNo.2−3および2−4と同様にHEMT素子を作製した。なお、下地層2とチャネル層3の総膜厚は12μmとなるようにした。以降、No.2−3に対応する条件で作製した試料をNo.2−3aとし、No.2−4に対応する条件で作製した試料をNo.2−4aとする。
【0118】
作製過程においては、参考例1、参考例2、および実施例と同様にホール測定による移動度測定およびゲート・ソース電極間容量の測定を行った。
【0119】
表4に、条件毎の(試料毎の)下地層(およびチャネル層)のC濃度および比抵抗と、HEMTの移動度およびゲート・ソース電極間の容量の測定結果を示す。
【0120】
【表4】
【0121】
表4に示すNo.2−3a、2−4aのHEMT素子の結果を、表2に示す参考例2のNo.2−3、2−4のHEMT素子の結果と対比すると、ゲート・ソース間容量はNo.2−3および2−4のHEMT素子と同様、0.1pF未満にまで抑制されていたが、移動度が1000cm
2/V・sを下回ってしまっていた。
【0122】
係る結果は、導電性の基材1の上に、Cを相対的に高い濃度で含有する下地層2を形成し、続いて、低不純物の(実質的にはCの濃度が相対的に低い)チャネル層3を設ける様にすることが、高周波用途に適したHEMT素子を得るうえにおいて好ましいということを指し示している。