特許第6488045号(P6488045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6488045アセチルコリン小胞トランスポーターの検出に適した化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6488045
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】アセチルコリン小胞トランスポーターの検出に適した化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20190311BHJP
   C07D 295/135 20060101ALN20190311BHJP
【FI】
   C07F5/02 CCSP
   !C07D295/135
【請求項の数】1
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-82407(P2018-82407)
(22)【出願日】2018年4月23日
(62)【分割の表示】特願2013-79729(P2013-79729)の分割
【原出願日】2013年4月5日
(65)【公開番号】特開2018-119009(P2018-119009A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2018年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134637
【氏名又は名称】株式会社ナード研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】塚田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】西山 新吾
(72)【発明者】
【氏名】北庄司 健
(72)【発明者】
【氏名】小橋 達弘
(72)【発明者】
【氏名】中舛 由美
(72)【発明者】
【氏名】中尾 英和
【審査官】 伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2001/007427(WO,A1)
【文献】 特表2008−500383(JP,A)
【文献】 特開2013−040112(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057528(WO,A1)
【文献】 ASSAAD, Thaer et al.,Radiosynthesis and biological evaluation of 123I-(±)-trans-2-hydroxy-5-((E)-3-(iodo)allyloxy)-3-(4-,Nukleonika,2012年,Vol.57, No.1,pp.81-85
【文献】 ISHIYAMA, T. et al.,The Journal of Organic Chemistry,1995年,Vol. 60,pp. 7508-7510
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(VI)で表される化合物。
【化1】

(式(VI)中、Rは−B(OH)又は下記構造式で表される、Bを含む有機基、OH、又は、SHを示す。)
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチルコリン小胞トランスポーターの検出に適した化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー認知症は、認知機能の低下、人格の変化を主な症状とする認知症の一種であり、一般的にアルツハイマー病として知られている。
【0003】
アルツハイマー病の患者では、アセチルコリン作動性の神経系の前シナプス終末が変性していることで、神経伝達が十分機能せずに痴呆が発症すると考えられている。
【0004】
前シナプス終末には神経刺激によって放出されるアセチルコリンを貯える小胞が存在し、この小胞へアセチルコリンを取り込むための小胞トランスポーター(アセチルコリン小胞トランスポーター)が小胞の膜上に存在する。このアセチルコリン小胞トランスポーターが、アルツハイマー病に関連があると考えられている。アセチルコリン小胞トランスポーターを評価できるようになれば、アルツハイマー病の診断も可能となり、アルツハイマー病の機構の解明及び医薬品の開発が可能になる。
【0005】
上記アセチルコリン小胞トランスポーターを評価しうる化合物としては、例えば、特許文献1に記載のベサミコールピペラジン誘導体が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第01/07427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記ベサミコールピペラジン誘導体は、シングルフォトン断層撮影法(SPECT法)の標識化合物として利用できるように設計されたものであり、陽電子放出型断層撮影法(PET法)には不向きである。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、PET法の標識化合物としても利用可能な、アセチルコリン小胞トランスポーターの検出に適した化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、式(I)で表される化合物を提供する。
【化1】

(式(I)中、RはCH、F、(CH−F、NH−(CH−F、O−(CH−F又はS−(CH−F(nは1〜3の整数を示す)を示す。)
【0010】
式(I)で表される化合物は、アセチルコリン小胞トランスポーターの検出に適した化合物である。
【0011】
式(I)において、R11CH18F、(CH18F、N−(CH18F、O−(CH18F又はS−(CH18F(nは1〜3の整数を示す)であることが好ましい。このようにすることで、上記化合物はポジトロンを放出することが可能になる。上記化合物から放出されたポジトロンは、すぐに電子と結合してγ線(消滅放射線)を放出する。このγ線をPET法に用いられる装置で測定することによって、上記化合物の体内分布を定量的かつ経時的に画像化することができる。すなわち、PET法の標識化合物としても利用可能になる。
【0012】
上記化合物は、式(II)〜(V)のいずれかで表わされることが好ましい。これらの化合物を用いることで、効率良くPET法の計測が行える。
【化2】
【0013】
本発明は、式(VI)又は式(VII)で表される化合物を提供する。
【化3】

(式(VI)中、RはB若しくはSnを含む有機基、OH、又は、SHを示す。式(VII)中、Rはアミノ基の保護基を示す。)
【0014】
式(VI)又は式(VII)で表される化合物を用いることで、式(I)で表される化合物を効率良く合成することが可能になる。
【0015】
また、本発明は、式(I)で表される化合物を含む、アセチルコリン小胞トランスポーター検出試薬を提供する。上記化合物は、式(IV)及び(V)で表される化合物であることが好ましい。上記アセチルコリン小胞トランスポーター検出試薬によれば、生体中のアセチルコリン小胞トランスポーターが存在する部位を効率良く検出することができる。
【0016】
本発明は、式(I)で表される化合物を含む、アルツハイマー病の診断薬を提供する。上記化合物は、式(IV)及び(V)で表される化合物であることが好ましい。上記アルツハイマー病の診断薬によれば、生体中のアセチルコリン小胞トランスポーターが存在する部位を効率良く検出することによって、アルツハイマー病の診断が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、PET法の標識化合物としても利用可能な、アセチルコリン小胞トランスポーターの検出に適した化合物の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】アカゲザルの脳内に存在するアセチルコリン小胞トランスポーターに対する[11C]HAPTの結合能を示すグラフである。
図2】アカゲザルの脳内における、[11C]HAPTの動脈血漿活性及び代謝活性を示すグラフである。
図3】アカゲザルの脳の各部位に対する[11C]HAPTの局在を示すグラフである。
図4】(R,R)[11C]HAPT−Bを投与したときのアカゲザルの脳におけるMRI画像及びPET画像を示す図である。
図5】アカゲザルの脳の各部位において、ベサミコールと競合させたときの[11C]HAPTの結合能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態に係るアセチルコリン小胞トランスポーターの検出に適した化合物は、式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)という場合がある)である。
【0021】
【化4】
【0022】
は、CH、F、(CH−F、NH−(CH−F、O−(CH−F又はS−(CH−F(nは1〜3の整数を示す)であり、11CH18F、(CH18F、N−(CH18F、O−(CH18F又はS−(CH18F(nは1〜3の整数を示す)であることが好ましい。R11CH又は18Fを含む有機基とすることで、化合物(I)は、ポジトロンを放出することが可能になる。R11CHである場合、半減期が20分と短いため、1日に複数回の計測を行うことも可能になる。R18F、(CH18F、N−(CH18F、O−(CH18F又はS−(CH18Fである場合、半減期が110分と11CHよりも長いため、1回の計測時間を長くすることが可能になる。
【0023】
化合物(I)としては、式(II)〜(V)で表される化合物が好ましい。以下、式(II)〜(V)で表される化合物を、それぞれ、(S,S)HAPT−A、(R,R)HAPT−A、(S,S)HAPT−B、(R,R)HAPT−Bという場合がある。また、これらを総称して単にHAPTという場合がある。
【0024】
【化5】
【0025】
式(VI)で表される化合物(以下、化合物(VI)という場合がある)は、上記化合物(I)の前駆体である。特に、RがCHである化合物(I)の合成に好ましく用いられる。
【0026】
【化6】
【0027】
はB若しくはSnを含む有機基、OH、又は、SHである。B又はSnを含む有機基としては、例えば、−B(OH)、−Sn(Bu)及び下記構造式で表される有機基が挙げられる。Bを含む有機基は、一般に毒性が低く環境に負荷を与えにくい点及び塩基との組み合わせによって反応性が高くなる点で、好ましく用いられる。
【0028】
【化7】
【0029】
化合物(VI)としては、式(VIII)〜(XI)で表される化合物が好ましい。
【0030】
【化8】
【0031】
がBを含む有機基である化合物(VI)は、公知の化合物から合成可能である。例えば、後述する実施例に記載の合成スキーム(C)〜(F)を経て合成が可能である。
【0032】
がSnを含む有機基である化合物(VI)は、公知の化合物から合成可能である。例えば、反応式(G)を経て合成が可能である。
【0033】
【化9】
【0034】
化合物(VI)から化合物(I)を生成する方法は、公知の方法であれば特に制限されずに用いることができる。例えば、R11CHである化合物(I)は、反応式(A)を経て合成できる。
【化10】
【0035】
反応式(A)において、[11C]CHIは、公知の方法によって合成が可能である。例えば、反応式(B)を経て合成できる。
【化11】
【0036】
がO−(CH18Fである化合物(I)は、例えば、nが2である場合、反応式(H)によって合成できる。
【化12】
【0037】
が(CH−Fである化合物(I)は、例えば、nが3である場合、反応式(I)によって合成できる。下記反応式(I)において、アセチル基の脱保護は、公知の方法によって行えばよく、例えば酸触媒によって脱保護する方法が挙げられる。
【化13】
【0038】
式(VII)で表される化合物(以下、化合物(VII)という場合がある)は、上記化合物(I)の前駆体である。
【0039】
【化14】
【0040】
は、アミノ基の保護基であれば特に制限されないが、例えば、アセチル基、tert−ブトキシカルボニル基(Boc基)及び9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)が挙げられる。
【0041】
化合物(VII)は、例えば、後述する実施例に記載の合成スキーム(E)によって合成が可能である。
【0042】
化合物(I)は、生体に投与した場合、アセチルコリン小胞トランスポーターに特異的に結合する傾向がある。したがって、例えば、蛍光色素等を化合物(I)に結合させる、又はポジトロン標識を化合物(I)に行えば、アセチルコリン小胞トランスポーターの標識化合物として使用できる。特に化合物(I)がRとして11CH又は18Fを含む場合、化合物(I)はポジトロンを放出することが可能になる。上記化合物(I)から放出されたポジトロンは、すぐに電子と結合してγ線を放出する。このγ線をPET法に用いられる装置で測定することによって、化合物(I)の体内分布を定量的かつ経時的に画像化することができる。したがって、化合物(I)を用いることで、被験者の生体内のアセチルコリン小胞トランスポーターが存在する部位を検出し、その変化を経時的に可視化できる。
【0043】
化合物(I)は、アセチルコリン小胞トランスポーター検出試薬として有用である。本実施形態に係るアセチルコリン小胞トランスポーター検出試薬は、化合物(I)を含み、生体に投与されると、生体中の化合物(I)から放出されるγ線をPET法で計測することによって、アセチルコリン小胞トランスポーターが存在する部位を効率良く検出できる。
【0044】
化合物(I)は、アルツハイマー病の診断薬としても有用である。上記アルツハイマー病の診断薬によれば、生体中のアセチルコリン小胞トランスポーターが存在する部位を効率良く検出することによって、アルツハイマー病の診断が可能になる。
【0045】
本実施形態に係るアセチルコリン小胞トランスポーター検出試薬及びアルツハイマー病の診断薬において、化合物(I)は、式(IV)及び(V)で表される化合物、すなわち(S,S)HAPT−B及び(R,R)HAPT−Bであることが好ましい。(S,S)HAPT−B及び(R,R)HAPT−Bは、その化学構造が互いに類似している一方で、(R,R)HAPT−Bのみがアセチルコリン小胞トランスポーターに特異的に結合する。したがって、(S,S)HAPT−Bを陰性対照として、(R,R)HAPT−Bをアセチルコリン小胞トランスポーター標識化合物として用いることで、より正確なアセチルコリン小胞トランスポーターの検出及びアルツハイマー病の診断が可能になる。すなわち、(S,S)HAPT−Bの結合を非特異的結合とみなして(R,R)HAPT−Bの結合から差し引いたものを、アセチルコリン小胞トランスポーターへの特異的結合とすることにより、より正確なアセチルコリン小胞トランスポーターの検出及びアルツハイマー病の診断が可能になる。
【0046】
本実施形態に係るアセチルコリン小胞トランスポーター検出試薬及びアルツハイマー病の診断薬は、例えば、化合物(I)を任意の緩衝液に溶解することによって製造することができる。この場合、上記検出試薬及び診断薬は、溶液として提供され、上記緩衝成分の他、界面活性剤、防腐剤、安定化剤等のその他の成分を含有してもよい。投与方法は、通常、静脈内投与である。
【0047】
本実施形態に係るアセチルコリン小胞トランスポーター検出試薬及びアルツハイマー病の診断薬の対象としては、例えば、ヒト、サル、マウス及びラットが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、本実施形態に係る化合物(I)を用いて、PET測定を行うに際し、その測定方法は特に制限されず、公知の方法に準じて実施することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
製造例1 化合物6(N−(2−(ピペラジン−1−イル)フェニル)アセトアミド)の合成
反応式(C)の合成スキームに従って、化合物6を合成した。以下、製造例1−1〜1−4に詳細を示す。
【化15】
【0050】
(製造例1−1)化合物12(tert−ブチル−4−(2−ニトロフェニル)ピペラジン−1−カルボキシレート)の合成
2−クロロニトロベンゼン(168g,1.07mol)とBoc−ピペラジン(199g,1.07mol)とDMSO(1460ml)とを反応用フラスコに仕込み、更に炭酸カリウム(295g,2.13mol)を加えた。
得られた反応混合物を80℃で60時間反応させた後、氷水6Lに注加し、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。
濃縮残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル,移動相:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製することによって、化合物12(294g,収率89.5%)を得た。
【0051】
(製造例1−2)化合物13(tert−ブチル−4−(2−アミノフェニル)ピペラジン−1−カルボキシレート)の合成
化合物12(299g,974mmol)とエタノールとを反応用フラスコに仕込み、5%パラジウム炭素(30g)を添加した。得られた反応混合物に水素ガスを吹き込みながら、2.5時間反応させた。
反応混合物をろ過後、減圧下で濃縮して、化合物13(256g,収率94.8%)を得た。
【0052】
(製造例1−3)化合物14(tert−ブチル−4−(2−アセトアミドフェニル)ピペラジン−1−カルボキシレート)の合成
化合物13(256g,923mol)と塩化メチレン1500mlとジイソプロピルエチルアミン(179g,1.39mol)とを反応用フラスコに仕込み、0℃まで冷却した。得られた反応混合物に10℃以下でアセチルクロリド(87g,1.11mol)を添加後、5〜10℃で1時間反応させた。
反応混合物を飽和重曹水に注加し、塩化メチレンで抽出した。有機層を合わせて水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。
濃縮残渣を酢酸エチル/n−ヘキサンの混合溶媒で洗浄して、化合物14(275g,収率95.2%)を得た。
【0053】
(製造例1−4)化合物6(N−(2−(ピペラジン−1−イル)フェニル)アセトアミド)の合成
化合物14(150g,479mmol)と塩化メチレン(1500ml)とを反応用フラスコに仕込み、トリフルオロ酢酸(600ml、8.06mol)を2時間かけて添加した。
得られた反応混合物を常温で1時間反応させた後、飽和重曹水に注加し、クロロホルム/メタノールの混合溶液で抽出した。有機層を合わせて水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル,移動相:クロロホルム/メタノール=10/1)で精製することによって、化合物6(103g,収率100%)を得た。得られた化合物6のH−NMR測定結果を以下に示す。
H−NMR(300 MHz, CDCl) δ8.53(1H,br s),8.35(1H,d),7.17−7.02(3H,m),3.01−3.03(4H,m),2.85−2.82(4H,m),2.2(3H,s)
【0054】
製造例2 化合物24(2,2,2−トリフルオロ−N−(1a,2,7,7a−テトラヒドロナフト[2,3−b]オキシレン−3−イル)アセトアミド)の合成
反応式(D)の合成スキームに従って、化合物24を合成した。以下、製造例2−1〜2−3に詳細を示す。
【化16】
【0055】
(製造例2−1)化合物22(5,8−ジヒドロナフタレン−1−アミン)の合成
ジエチルエーテル320mlに−63℃〜−46℃で全体の容量が640mlになるまでアンモニアガスを吹き込んだ。−57℃〜−48℃で1−アミノナフタレン(85.0g,594mmol)と2−メチル−2−プロパノール(53ml)とナトリウム(31.6g,1.37mol)とを順に上述のアンモニアを含有するジエチルエーテルに添加した。−49℃〜−44℃でさらに2−メチル−2−プロパノール(53ml)を得られた反応混合物に加え、−52℃〜−44℃で1時間反応させた後、ゆっくり25℃まで昇温した。氷冷下エチルアルコール(106ml)と飽和塩化アンモニウム水溶液(425ml)とを順に上記反応混合物に滴下した。
反応混合物を酢酸エチルで抽出し、水洗して、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。
得られた抽出溶液を減圧下で濃縮して化合物22(85.1g,収率98.7%)を得た。
【0056】
(製造例2−2)化合物23(N−(5,8−ジヒドロナフタレン−1−イル)−2,2,2−トリフルオロアセトアミド)の合成
化合物22(85.1g,586mmol)とトルエン(296ml)とを反応用フラスコに仕込み、氷冷下、トリフルオロ酢酸無水物(125g,593mmol)を滴下した。
得られた反応混合物を減圧下で濃縮して化合物23(142g,収率100%)を得た。
【0057】
(製造例2−3)化合物24(2,2,2−トリフルオロ−N−(1a,2,7,7a−テトラヒドロナフト[2,3−b]オキシレン−3−イル)アセトアミド)の合成
化合物23(142g,586mmol)とジエチルエーテル(426ml)とを反応用フラスコに仕込み、氷冷下、m−クロロ過安息香酸(108g,432mmol)を添加した。
得られた反応混合物を22℃〜25℃で4時間反応させた後、不溶物をろ別後、減圧下で濃縮した。
濃縮残渣を塩化メチレンで再結晶して化合物24(85.1g,収率56%)を得た。得られた化合物24のH−NMR測定結果を以下に示す。
H−NMR(300 MHz,DMSO−d) δ10.94(1H,br s),7.23−7.06(3H,m),3.46(2H,m),3.23(2H,m),3.14−2.87(2H,m)
【0058】
製造例3 化合物7−B (N−(2−(4−(5−アミノ−3−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−イル)ピペラジン−1−イル)フェニル)アセトアミド)の合成
反応式(E)の合成スキームに従って、化合物7−Bを合成した。
【化17】
【0059】
化合物6(55g,251mmol)と化合物24(71g,276mmol)とエタノール1150mlとを反応用フラスコに仕込み、78℃〜79℃で16時間反応させた。得られた反応混合物を減圧下で濃縮し、メタノール(275ml)に溶解させた。
2N−水酸化ナトリウム水溶液1200mlを上記反応混合物に加えて18時間攪拌後、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。
濃縮残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:NHシリカゲル,移動相:n−へプタン/酢酸エチル=1/2)で精製後、エタノールで再結晶することによって、化合物7−B(29.6g,収率30.0%)を得た。得られた化合物7−BのH−NMR測定結果を以下に示す。
H−NMR(300 MHz, CDCl) δ8.45(1H,br s),8.36(1H,d),7.20−6.98(4H,m),6.59−6.55(2H,m),4.21(1H,s),3.95(1H,m),3.64(2H,s),3.16(1H,m),3.00−2.71(11H,m),2.24 (1H,m),2.24(3H,m)
【0060】
製造例4 化合物(S,S)−10−B ((2S,3S)−3−(4−(2−アミノフェニル)ピペラジン−1−イル)−8−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボラン−2−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−オール)の合成
反応式(F)の合成スキームに従って、化合物(S,S)−10−Bを合成した。以下、製造例4−1〜4−3に詳細を示す。
【化18】
【0061】
(製造例4−1)化合物(S,S)−8−B N−(2−(4−((2S,3S)−3−ヒドロキシ−5−ヨード−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−イル)ピペラジン−1−イル)フェニル)アセトアミドの合成
化合物7−B(23.4g,61.5mmol)と酢酸312mlと硫酸156mlとを反応用フラスコに仕込み、氷冷下亜硝酸ナトリウム(4.86g,70.4mmol)の水溶液(312ml)を滴下した。
得られた反応混合物を−1℃〜1℃で30分間攪拌後、ヨウ化カリウム(12.6g,76.2mmol)とヨウ素(9.28g,36.6mmol)の水溶液(156ml)を上記反応混合物に滴下した。
上記反応混合物を0℃〜3℃で3.5時間反応させた後、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
上記反応混合物をクロロホルム/メタノールの混合溶液で抽出した。得られた有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮した。
濃縮残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:NHシリカゲル,移動相:n−へプタン/酢酸エチル=1/2)で精製した後、得られた固体をメタノールで洗浄し、化合物8−B(2.84g,収率9.4%)をラセミ体として得た。ラセミ体の8−Bをセミ分取用キラルカラム(CHIRALPAK IA,移動相:クロロホルム/n−ヘキサン=1/1 流速:10mL/min)にて光学分割し保持時間が長いフラクションを回収することによって、化合物(S,S)−8−B(1.18g,収率3.9%)を得た。また、保持時間が短いフラクションを回収することで化合物(R,R)−8−Bを得た。
【0062】
(製造例4−2)化合物(S,S)−9−B (2S,3S)−3−(4−(2−アミノフェニル)ピペラジン−1−イル)−8−ヨード−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−オールの合成
化合物(S,S)−8−B(200mg,0.407mmol)を6Nの塩酸(6mL)に溶かし、2時間加熱還流した。反応終了後、反応液を氷浴下0℃まで冷却し、2Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和した。塩化メチレンで反応液を抽出後、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下で濃縮した。濃縮残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル,移動相:n−ヘプタン/酢酸エチル=4/1〜3/2)で精製し、化合物(S,S)−9−Bを定量的に得た。
【0063】
(製造例4−3)化合物(S,S)−10−B (2S,3S)−3−(4−(2−アミノフェニル)ピペラジン−1−イル)−8−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−オールの合成
化合物(S,S)−9−B(170mg,0.378mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(96mg,0.378mmol)、(dppf)PdCl・塩化メチレン1/1錯体(77mg,0.0945mmol)及び酢酸カリウム(148mg,1.51mmol)をアルゴン雰囲気下、無水ジメチルスルホキシド(10mL)に溶かし、80℃で2時間加熱攪拌した。反応液を室温まで冷却後、水(10mL)へ注ぎ、酢酸エチルにて抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下で濃縮した。濃縮残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:NHシリカゲル,移動相:n−へプタン/酢酸エチル=7/3)で精製した後、得られた固体を冷却した酢酸エチル及びn−へプタンでよく洗浄し、化合物(S,S)−10−B(86mg,収率50%)を得た。得られた化合物(S,S)−10−BのH−NMR測定結果を以下に示す。なお、化合物(R,R)−10−Bは、上記製造例4−2及び4−3と同様の方法によって、化合物(R,R)−8−Bから得た。
H−NMR(400 MHz, CDCl) δ7.65(1H, dd, J = 1.6, 7.6 Hz),7.11−7.18(2H, s),7.04(1H, d, J = 8.0 Hz),6.95(1H, dt, J = 1.6, 8.0 Hz),6.74−6.78(2H, m),4.24(1H, -br s),3.98(2H, br s),3.85−3.91(1H, m),2.70−3.01(12H, m),1.34, 1.33(12H, s)
【0064】
製造例5 化合物(R,R)[11C]HAPT−B ((2R,3R)−3−(4−(2−アミノフェニル)ピペラジン−1−イル)−8−[11C]メチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−オール)の合成及び製剤化
反応式(A1)の合成スキームに従って、(R,R)[11C]HAPT−Bを合成した。
【化19】
【0065】
14N(p,α)11C反応の窒素ガスのプロトン照射により、ポジトロン放出核種であるllCで標識された[11C]二酸化炭素を得た。これを水素化リチウムアルミニウムによる還元反応後、ヨウ化水素酸処理、加熱蒸留によって[11C]CHIを得た。
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd(dba))4.6mgとトリ−o−トリルホスフィン(P(o−Tol))6.2mgとをDMF0.3mLに溶かし軽く加熱して溶液の色が黒から若干黄色になった溶液を得た。得られた溶液に[11C]CHIを加えた。
CO1.4mg及び化合物(R,R)−10−B2.0mgをDMF0.3mLに溶かした。得られた溶液を先の[11C]CHIを加えた溶液に加えた。
上記反応混合物のメチル化反応は70℃で5分間行った。得られた反応液を直径13mm、ポアサス0.7μmのグラスフィルターでろ過し、ろ液をHPLCに導入し分離した。(R,R)[11C]HAPT−Bの分画をエパポレーターに導入し、その後分離溶媒を減圧加熱留去した。残さに生理食塩液を加え(R,R)[11C]HAPT−Bを含む製剤とした。
【0066】
製造例6 化合物10−Sn (2R,3R)−3−(4−(2−アミノフェニル)ピペラジン−1−イル)−8−(トリブチルスタンニル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2−オールの合成
下記反応式(G1)の合成スキームに従って、化合物10−Snを合成した。
【化20】
【0067】
化合物9−B(265mg,0.59mmol)とトルエン(15mL)とを反応用フラスコに仕込み、アルゴンガスをバブリングさせながら30分間脱気した。
アルゴンガス雰囲気下、ビス(トリ−n−ブチルスズ)635μL(1.27mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh)41.1mg(0.036mmol)とを添加し、還流温度で反応させた。
還流開始から19時間目、24時間目、38時間目にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)15mg(0.013mmol)及びトルエン(5mL)を追加した。還流開始から22時間目にビス(トリ−n−ブチルスズ)158μL(0.32mmol)を追加した。合計46時間還流した。
反応液を室温まで冷却し、減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル,移動相:n−ヘキサン→塩化メチレン→塩化メチレン/メタノール=100/1)で精製し、化合物10−Sn(309mg,収率85.5%)を得た。
[α]22=−22.0(c=0.138,CHCl
【0068】
合成反応液の分離精製および検定
合成反応液は下記HPLCの条件にて分離した。
カラム:Megapak SIL C18−10 (日本分光)(7.6x250mm)
溶媒アセトニトリル/30mM酢酸アンモニウム/酢酸=450/550/2
流速:6ml/min
検出波長:254nm
【0069】
得られた化合物は下記のHPLC系を用いて検定した。
カラム:Finepak SIL C18S(日本分光)(4.6x150mm)
溶媒:アセトニトリル/30mM 酢酸アンモニウム/酢酸=500/500/2
流速:2ml/min
検出波長:254nm
カラム:キロバイオティクV(ASTEC)(4.6x250mm)
溶媒:メタノール/酢酸/トリエチルアミン=1000/0.3/0.1
流速:1ml/min
検出波長:254nm
【0070】
(S,S)[11C]HAPT−A、(R,R)[11C]HAPT−A及び(S,S)[11C]HAPT−Bも製造例5と同様の合成ルートで、製造した。なお、HAPTの絶対配置は、X線解析によって決定した。
【0071】
PET測定
体重5kg前後のアカゲザルを無麻酔下でPET装置(浜松ホトニクス社製、商品名、SHR7700)に固定し、吸収補正のためのトランスミッション計測後、[11C]HAPTを静脈より投与し、180分間のダイナミック計測を行った。
【0072】
同一個体から得た核磁気共鳴断層画像装置(以下、MRI)による断層画像から、関心領域(ROI)を決めて、各ROIにおける標識化合物([11C]HAPT)の経時変化を求めた。結果を図1に示す。(S,S)[11C]HAPT−A、(R,R)[11C]HAPT−A及び(R,R)[11C]HAPT−Bは、アセチルコリン小胞トランスポーターに特異的に結合しているのに対し、(S,S)[11C]HAPT−Bは、アセチルコリン小胞トランスポーターと結合せず、非特異的な結合のみが確認された。この結果から、(S,S)[11C]HAPT−Bは陰性対照として、その他の3つの[11C]HAPTは、アセチルコリン小胞トランスポーターの標識化合物として用いられ得ることが示唆された。特に(R,R)[11C]HAPT−Bは、測定開始から約15分の時点で平衡状態に達しており、競合実験にも使用可能であることが示唆された。
【0073】
次に、[11C]HAPTの動脈血漿活性及び代謝活性を調べた。具体的には、以下の方法によって行った。結果を図2に示す。
【0074】
PET計測
被験動物の静脈内投与の経路として橈側皮静脈脈又は伏在静脈を、動脈血採血用の経路として大腿動脈又は後頚骨動脈をそれぞれ確保した。
被験動物に留置した留置針から[11C]HAPTを、約30秒かけて全量を静脈内に投与した。投与開始と同時にEmission計測(10秒6フレーム、30秒6フレーム、1分12フレーム、3分25フレーム、5分6フレーム計121分間、55フレーム)を開始してモニターした。なお、実際に投与した[11C]HAPTの放射能量は、投与前の放射能と投与後に注射器に残った放射能とを計測することによって算出した。この際、投与した時刻に基づいて、上記放射能量の半減期補正を行った。
【0075】
11C]HAPTの代謝分析
11C]HAPT投与16、40、64秒後及び6、10、20、30、45、60、75、90分後の動脈血採血から得られた血漿100μLにエタノール100μLを加え、攪拌した。血漿とエタノールとの混合液を遠心分離機で12000rpm、5分間遠心分離を行い、上清を得た。得られた上清を薄層クロマトグラフィー上で、溶媒としてジクロロメタン/ジエチルエーテル/トリエチルアミン=100/40/1を用いて展開した。その後、上精を展開した薄層プレートを、イメージングプレートに密着させた。イメージングプレート上の放射能分布をフルオロイメージアナライザーによって計測して、代謝物と未代謝物の割合を求めた。
【0076】
この結果から、[11C]HAPT由来であって脳内に戻ってくる脂溶性の代謝産物は存在しないことが示唆され、[11C]HAPTが標識化合物として適していることが分かった。
【0077】
アカゲザルの脳の各部位に対する各[11C]HAPTの局在を調べた。(S,S)HAPT−A及び(R,R)HAPT−Aを用いた場合の結果を図3(A)に、(S,S)HAPT−B及び(R,R)HAPT−Bを用いた場合の結果を図3(B)に示す。大脳、脳橋、海馬、延髄縫線、扁桃体、側頭皮質(TempCtx)、視床下部、視床、後頭皮質(OccCtx)、被殻、尾状核、前頭皮質(FmtCtx)及び帯状回を調べたところ、(S,S)HAPT−A、(R,R)HAPT−A及び(R,R)HAPT−Bでは、被殻に最も局在していることが明らかとなった(図3)。一方、(S,S)HAPT−Bは、どの部位においても非特異的な結合を示していることが示唆された。
【0078】
小胞トランスポーター阻害剤(ベサミコール)を用いて、阻害実験を行った。具体的には以下の手順によって行った。結果を図4及び5に示す。
【0079】
PET計測
被験動物の静脈内投与の経路として橈側皮静脈脈又は伏在静脈を、動脈血採血用の経路として大腿動脈又は後頚骨動脈をそれぞれ確保した。
11C]HAPTを投与する30分前にL−(−)ベサミコール投与を1mg/kgの投与量で静脈内投与した。
投与前の[11C]HAPTの放射能量を計測した。被験動物に留置した留置針から[11C]HAPTを、約30秒かけて全量を静脈内に投与した。投与開始と同時にEmission計測(10秒6フレーム、30秒6フレーム、1分12フレーム、3分25フレーム、5分6フレーム計121分間、55フレーム)を開始してモニターした。
【0080】
ベサミコールを投与した場合(図4(C)、図5(B))では、ベサミコールを投与していないコントロール実験(図4(B)、図5(A))と比較して(R,R)[11C]HAPT−Bのアセチルコリン小胞トランスポーターに対する結合が減少していることが明らかになった。この結果から、(R,R)[11C]HAPT−Bは、競合実験に適していることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5