(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6488067
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車用電源装置
(51)【国際特許分類】
B60K 6/28 20071001AFI20190311BHJP
B60K 6/22 20071001ALI20190311BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20190311BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20190311BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20190311BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20190311BHJP
F02N 11/04 20060101ALI20190311BHJP
F02N 11/08 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
B60K6/28ZHV
B60K6/22
B60L1/00 L
B60L11/14
B60R16/02 645D
B60W10/26 900
F02N11/04 D
F02N11/08 L
F02N11/08 Y
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-174275(P2013-174275)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-42509(P2015-42509A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年7月29日
【審判番号】不服2018-2831(P2018-2831/J1)
【審判請求日】2018年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(72)【発明者】
【氏名】谷内 博一
【合議体】
【審判長】
冨岡 和人
【審判官】
水野 治彦
【審判官】
鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−328530(JP,A)
【文献】
特開平10−184506(JP,A)
【文献】
特開2004−364352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K6/20-6/547
B60L1/00-3/12
B60L7/00-13/00
B60L15/00-15/42
B60W10/00-20/50
B60R16/00-16/02
F02N1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータとエンジンとを備えたハイブリッド車に装備され、前記エンジンを始動するセルモータに電力を供給するエンジン始動用バッテリと、前記走行用モータに電力を供給するための駆動用バッテリの電圧を降圧して車載電装機器に電力を供給するDCDCコンバータと、前記エンジン始動用バッテリと前記DCDCコンバータとの間に設けられたスイッチとを有して成るハイブリッド車用電源装置において、
前記エンジン始動用バッテリと前記DCDCコンバータとの間には、前記スイッチに並列に接続された抵抗を有し、
前記エンジン始動用バッテリと前記抵抗とは直接接続され、
前記スイッチをオープンにした状態で前記DCDCコンバータが故障した場合には、前記セルモータが回転する間は前記スイッチをオープンにした状態で前記エンジン始動用バッテリから前記抵抗を経由して前記車載電装機器に電力を供給する
ことを特徴とするハイブリッド車用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車用電源装置において、
前記スイッチは、前記エンジン始動用バッテリから前記セルモータへ電力を供給して前記セルモータが回転する間、オープンする
ことを特徴とするハイブリッド車用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走行用モータとエンジンとを備えたハイブリッド車に装備されるハイブリッド車用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9には従来のハイブリッド車用電源装置の構成を示す。
図9に示す従来のハイブリッド車用電源装置は、駆動源として走行用モータとエンジンとを備えたハイブリッド車に装備されるものであり、エンジン始動用バッテリ2と補機用電源4の2つの電源を備えたシステムとなっている。
【0003】
詳述すると、このハイブリッド車用電源装置は、前記エンジンを始動するセルモータ1に電力を供給するエンジン始動用バッテリ2と、車載電装機器3に電力を供給する補機用電源4と、エンジン始動用バッテリ2と補機用電源4との間に設けられたリレー5とを有して成るものである。
補機用電源4は各種の車載電装機器3に接続されている。車載電装機器3は、ABS(Antilock Brake System)、ASC(Active Stability Control)、EPS(Electric Power Steering)アシストなどの車両制御に関わる電装機器などである。エンジン始動用バッテリ2は、リレー6を介してセルモータ1に接続されている。
【0004】
このハイブリッド車用電源装置において、リレー6を閉じると、矢印aの如くエンジン始動用バッテリ2からセルモータ1へ電力が供給されるため、セルモータ1が回転する。その結果、このセルモータ1の回転によって前記エンジンが始動する。このエンジンの始動は、停止中の車両を始動させるときや、前記走行用モータで走行中の車両を加速させるときなどに実施される。
【0005】
しかし、エンジン始動のためにエンジン始動用バッテリ2からセルモータ1に電力を供給すると、矢印aの如くセルモータ1には大量のエネルギー(電流)が流れるため、
図10に示すようにエンジン始動用バッテリ2の電圧Vが低下する。そして、この電圧低下が大きいと、ABS、ASC、EPSアシストなどの車両制御に関わる車載電装機器3がリセット(初期化)してしまう。
【0006】
そこで、エンジン始動用バッテリ2からセルモータ1へ電力を供給してセルモータ1が回転する間は、リレー5をオープンさせることにより、エンジン始動用バッテリ2の電圧低下が車載電装機器3に伝達されるのを防止する。リレー5がオープンしている間は、補機用電源4によって車載電装機器3の電源を維持する。
【0007】
なお、ハイブリッド車用電源装置について記載されている先行技術文献としては、下記の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−328530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図9に示す従来のハイブリッド車用電源装置においては、先述のとおり、リレー5がオープンしている間は補機用電源4によって車載電装機器3の電源を維持する。しかし、
図11に示すように補機用電源4に故障が発生した場合、リレー5がオープンしている間は、車載電装機器3の電源経路が失陥することになる。
【0010】
リレー5がオープンしている時間はセルモータ1が回転している僅かな時間ではあるが、その間に車載電装機器3の電源経路が失陥すると、ABS、ASC、EPSアシストなどの車両制御に関わる車載電装機器3の電源経路も失陥してしまう。このため、車両走行中に車載電装機器3の電源経路が失陥した場合には、車両制御が不能となり、車両走行に悪影響を与えることが懸念されていた。
【0011】
従って本発明は上記の事情に鑑み、リレーがオープン状態のとき(セルモータの回転時)に補機用電源が故障しても、車載電装機器の電源経路を確保することができるハイブリッド車用電源装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する第1発明のハイブリッド車用電源装置は、
走行用モータとエンジンとを備えたハイブリッド車に装備され、前記エンジンを始動するセルモータに電力を供給するエンジン始動用バッテリと、前記走行用モータに電力を供給するための駆動用バッテリの電圧を降圧して車載電装機器に電力を供給するDCDCコンバータと、前記エンジン始動用バッテリと前記DCDCコンバータとの間に設けられたスイッチとを有して成るハイブリッド車用電源装置において、
前記エンジン始動用バッテリと前記DCDCコンバータとの間には、前記スイッチに並列に接続された抵抗を有し、
前記エンジン始動用バッテリと前記抵抗とは直接接続され、
前記スイッチをオープンにした状態で前記DCDCコンバータが故障した場合には、
前記セルモータが回転する間は前記スイッチをオープンにした状態で前記エンジン始動用バッテリから前記抵抗を経由して前記車載電装機器に電力を供給する
ことを特徴とする。
【0013】
また、第
2発明のハイブリッド車用電源装置は、第1発
明のハイブリッド車用電源装置において、
前記スイッチは、前記エンジン始動用バッテリから前記セルモータへ電力を供給して前記セルモータが回転する間、オープンする
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイブリッド車用電源装置によれば、スイッチに並列に接続された抵抗を有することを特徴としているため、スイッチがオープン状態のとき(セルモータの回転時)にDCDCコンバータなどの補機用電源が故障しても、エンジン始動用バッテリから抵抗を経由して車載電装機器へ電力を供給することができる。このため、スイッチがオープン状態のときに補機用電源が故障しても、車載電装機器の電源経路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置において補機用電源の故障が発生した状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置における補機用電源の具体例を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置における補機用電源の具体例を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置における補機用電源の具体例を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置における補機用電源の具体例を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置においてエンジン始動用バッテリの故障が発生した状態を示す図である。
【
図8】ダーオードを用いたハイブリッド車用電源装置においてエンジン始動用バッテリの故障が発生した状態を示す図である。
【
図9】従来のハイブリッド車用電源装置の構成を示す図である。
【
図10】セルモータが回転するときのエンジン始動用バッテリの電圧低下を示す図である。
【
図11】従来のハイブリッド車用電源装置において補機用電源の故障が発生した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1に示す本発明の実施の形態例に係るハイブリッド車用電源装置は、駆動源として走行用モータとエンジンとを備えたハイブリッド車に装備されたものであり、12Vのエンジン始動用バッテリ2と12Vの補機用電源4の2つの電源を備えたシステムとなっている。
【0019】
詳述すると、本実施の形態例のハイブリッド車用電源装置は、前記エンジンを始動するセルモータ11に電力を供給するエンジン始動用バッテリ12と、車載電装機器13に電力を供給する補機用電源14と、エンジン始動用バッテリ12と補機用電源14との間に設けられたリレー15(スイッチ)と、抵抗17とを有している。
補機用電源14は各種の車載電装機器3に接続されている。なお、補機用電源14の具体例については後述する(
図3〜
図6)。車載電装機器13は、ABS、ASC、EPSアシストなどの車両制御に関わる電装機器などである。エンジン始動用バッテリ12は、リレー16を介してセルモータ11に接続されている。
【0020】
そして、抵抗17は、エンジン始動用バッテリ12と補機用電源14との間において、リレー15に並列に接続されている。なお、このようなリレー15に抵抗17を並列に組み合わせた構成のものとしては、リレーに抵抗を並列に組み合わせたinrush current reduction relay(ICRリレー)を用いることもできる。
【0021】
このハイブリッド車用電源装置において、リレー16を閉じると、矢印bの如くエンジン始動用バッテリ12からセルモータ11へ電力が供給されるため、セルモータ11が回転する。その結果、このセルモータ11の回転によって前記エンジンが始動する。このエンジンの始動は、停止中の車両を始動させるときや、前記走行用モータで走行中の車両を加速させるときなどに実施される。
【0022】
しかし、このエンジン始動のためにエンジン始動用バッテリ12からセルモータ11に電力を供給すると、矢印bの如くセルモータ1には大量のエネルギー(電流)が流れるため、エンジン始動用バッテリ12の電圧低下が発生する。そして、この電圧低下が大きいと、ABS、ASC、EPSアシストなどの車両制御に関わる車載電装機器13がリセット(初期化)してしまう。
【0023】
そこで、エンジン始動用バッテリ12からセルモータ11へ電力を供給してセルモータ11が回転する間は、リレー15をオープンさせることにより、エンジン始動用バッテリ12の電圧低下が車載電装機器13に伝達されるのを防止する。リレー15がオープンしている間は、補機用電源14によって車載電装機器13の電源を維持する。
【0024】
そして、リレー15がオープンしている状態では、抵抗17を経由してエンジン始動用バッテリ12と車載電装機器13が接続された状態となる。
この状態では抵抗17の分、エンジン始動用バッテリ12の電力は車載電装機器13よりもセルモータ11の方に供給されやすい。
また、セルモータ11の回転エネルギーによりエンジン始動用バッテリ12の電圧の方が補機用電源14の電圧よりも低下したとしても、補機用電源14は抵抗17を経由してセルモータ11と接続されているため、補機用電源14の電力がセルモータ11に一気に供給されきってしまうことを防止することができ、車載電装機器13の電源経路を確保することができる。
【0025】
図2に示すように、リレー17がオープンの状態において補機用電源14が故障した場合、補機用電源14から車載電装機器13への電力の供給は不可となる。
しかし、車載電装機器13は抵抗17を経由してエンジン始動用バッテリ12に接続された状態になっているため、車載電装機器13の電源経路を確保することができる。
即ち、リレー17がオープンの状態において補機用電源14が故障しても、矢印cのようにエンジン始動用バッテリ12から抵抗17を経由して車載電装機器13へ電力を供給することができるため、車載電装機器13は電源失陥に至らない。
【0026】
また、エンジン始動用バッテリ12は抵抗17を経由して車載電装機器13に接続されているため、エンジン始動用バッテリ12の電力はセルモータ11の方に供給されやすく、エンジン始動の支障とはならない。速やかにエンジン始動できるため、エンジン始動用バッテリ12から抵抗17を経由して車載電装機器13に電力を供給する時間は僅かとなり、車両制御への影響を防ぐことが可能である。
【0027】
ここで
図3〜
図6に基づき、補機用電源14の具体例について説明する。
図3に示すハイブリッド車用電源装置では、補機用電源14としてDCDCコンバータ21を備えている。DCDCコンバータ21は、走行用モータに電力を供給するための駆動用バッテリ22の電圧(115V)を車載電装機器13に適した電圧(12V)に変換する。
図4に示すハイブリッド車用電源装置では、補機用電源14としてDCDCコンバータ21と12Vの補機用バッテリ23とを備えている。
図5に示すハイブリッド車用電源装置では、補機用電源14として12Vの補機用バッテリ23を備えている。
図6に示すハイブリッド車用電源装置では、補機用電源14としてキャパシタ24を備えている。
【0028】
以上のように、本実施の形態例のハイブリッド車用電源装置によれば、リレー15に並列に接続された抵抗17を有することを特徴としているため、リレー15がオープン状態のとき(セルモータ11の回転時)にDCDCコンバータ14などの補機用電源14が故障しても、エンジン始動用バッテリ12から抵抗17を経由して車載電装機器13へ電力を供給することができる。このため、リレー15がオープン状態のときに補機用電源14が故障しても、車載電装機器13の電源経路を確保することができる。
【0029】
なお、
図8に示すように、抵抗17の代わりにダイオード31をリレー15に並列に接続することも考えられる。しかし、抵抗17である(ダイオード31ではない)メリットとしては、次のような2つのメリットがある。
【0030】
(メリット1) エンジン始動用バッテリ12と補機用電源14の間にリレーを設けたシステムにおいて、電源の故障はエンジン始動用バッテリ12と補機用電源14のどちらでも発生する可能性がある。
ダイオード31を用いた場合、ダイオード31に流せる電流の方向は一方向であるため、
図8に示すようにエンジン始動用バッテリ12に故障が発生したときには対応することができない。
これに対して抵抗17を用いた場合、抵抗17は双方向に電流を流せるため、
図7に示すようにエンジン始動用バッテリ12に故障が発生したときには、補機用電源14から抵抗17を経由してセルモータ11に電力を供給することができる。即ち、抵抗17を用いた場合には、双方向に電流を流せるため、エンジン始動用バッテリ12と補機用電源14のどちらの電源故障にも対応することができるというメリットがある。
【0031】
(メリット2) 抵抗17とダイオード31の抵抗値Rを比較すると、本ハイブリッド車用電源装置の回路においては、抵抗17の方がダイオード31よりも抵抗値Rを圧倒的に低くすることができる(抵抗17の抵抗値R<<ダイオード31の抵抗値R)。
本ハイブリッド車用電源装置の回路において、車載電装機器13に流れる電流Iは最大100A以上となる。そして、このときの素子(抵抗17、ダイオード31)の電力量WはW=I
2×Rとなるため、抵抗17とダイオード31の抵抗値Rの違いで大きく異なる。抵抗値Rが大きいダイオード31の場合には、電力量Wが大きくて発熱量が大きくなるため、放熱が必要となり、放熱するための措置(冷却など)が必要となる。従って、この放熱するための措置がレイアウト上で大きな支障となる。
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、発明の形態は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、リレーにより回路を開閉しているが、これに限るものではなく、例えばボタンスイッチなどにより開閉しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は走行用モータとエンジンとを備えたハイブリッド車に装備されるハイブリッド車用電源装置に関するものであり、エンジン始動用バッテリと補機用電源の間にリレーを設けたシステムにおいて、リレーがオープン状態のとき(セルモータの回転時)に補機用電源が故障しても、車載電装機器の電源経路を確保することができるようにする場合に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0033】
11 セルモータ
12 エンジン始動用バッテリ
13 車載電装機器
14 補機用電源
15 リレー
16 リレー
17 抵抗
21 DCDCコンバータ
22 駆動用バッテリ
23 補機用バッテリ
24 キャパシタ