特許第6488070号(P6488070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6488070
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】端子金具
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20190311BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20190311BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C25D7/00 H
   C25D5/50
   H01R13/03 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-232915(P2013-232915)
(22)【出願日】2013年11月11日
(65)【公開番号】特開2015-93999(P2015-93999A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年12月24日
【審判番号】不服2017-15054(P2017-15054/J1)
【審判請求日】2017年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 玄
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 長谷山 健
【審判官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/140850(WO,A1)
【文献】 特開2013−174008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
H01R 13/00-13/74
C22C 5/02-5/08
C22C 13/00
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金よりなる基材と、
該基材上に形成された湿式めっき被膜とを有し、
湿式めっき被膜は、最表面に露出した摩擦低減層を有し、
前記摩擦低減層は、略全面が均一な組成を有するSn−Pd系合金相からなり、深さ方向におけるSnの濃度分布に偏析がないことを特徴とする端子金具。
【請求項2】
上記摩擦低減層は、1〜20原子%のPdを含有していることを特徴とする請求項1に記載の端子金具。
【請求項3】
上記湿式めっき被膜同士を摺動させる際の動摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の端子金具。
【請求項4】
相手方端子金具との接触荷重が2N以上で使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の端子金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、銅又は銅合金等の基材の表面にSnめっきが施されたコネクタ端子が知られている。コネクタ端子の表面にSn層を形成することにより、相手方端子との間に良好な電気的接触が形成され、接触抵抗を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−147579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Snは他の金属に比べて非常に柔らかい。それ故、表面にSn膜を有する端子金具は、上述したように相手方端子金具との接触抵抗を低減できる反面、相手方端子金具を接続する際に、Sn膜の表面が変形しやすいという特性を有する。
【0005】
また、上記端子金具は、相手方端子金具を接続する際に、場合によっては相手方端子金具によりSn膜の表面が削り取られるおそれがある。この場合には、Snの新生面が露出するため、Sn膜の凝着が起こり易いという問題がある。
【0006】
そして、Snの性質に由来してSn膜の変形や凝着が生じる結果、端子金具同士を接続する際に、端子金具間に生じる摩擦力が増大しやすい。そのため、表面にSn膜を有する端子金具は、相手方端子との接続の際に加える挿入力が大きくなり、端子金具の接続作業が困難となる。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、端子金具を接続する際の挿入力が小さく、接続信頼性に優れた端子金具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、銅または銅合金よりなる基材と、
該基材上に形成された湿式めっき被膜とを有し、
湿式めっき被膜は、最表面に露出した摩擦低減層を有し、
前記摩擦低減層は、略全面が均一な組成を有するSn−Pd系合金相からなり、深さ方向におけるSnの濃度分布に偏析がないことを特徴とする端子金具にある。
【発明の効果】
【0009】
上記端子金具は、Sn−Pd(スズ−パラジウム)系合金相からなる摩擦低減層を有するめっき被膜を有している。Sn−Pd系合金相は、純Snに比べて硬い。そのため、上記端子金具は、相手方端子金具を接続する際に、めっき被膜の変形が生じにくく、また、めっき被膜の表面が相手方端子金具に削り取られにくいものとなる。それ故、上記端子金具は、相手方端子金具との接続の際に生じる摩擦力が小さいものとなり、ひいては相手方端子金具を接続する際に要する挿入力を小さくできる。その結果、上記端子金具は、相手方端子金具との接続が容易なものとなる。
【0010】
また、Sn−Pd系合金相を有するめっき被膜は、従来のSn膜と同等の接触抵抗を示す。そのため、上記端子金具は、相手方端子との間の電気的接続が良好なものとなる。
【0011】
また、摩擦低減層がSn−Pd系合金相からなることにより、例えば使用時の温度上昇等に起因するめっき被膜の組織の変化を長期間にわたり抑制し、初期のめっき被膜の特性を長期間維持することができる。その結果、上記端子金具は、例えば接触抵抗等の特性を長期間維持することができ、接続信頼性に優れたものとなる。
【0012】
以上のように、上記端子金具は、挿入力が小さく、接続信頼性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】摩擦低減層を有する端子金具の断面図。
図2】試験材1の断面にかかる(a)電子顕微鏡写真、(b)Sn濃度マップ、(c)Pd濃度マップ、(d)Ni濃度マップ。
図3】試験材1のめっき被膜にリフロー処理を施す前の状態の断面図。
図4】試験材1における、めっき被膜の深さ方向分析により得られた元素濃度のプロファイル。
図5】動摩擦係数の測定結果を示すグラフ。
図6】接触荷重の増加に伴う接触抵抗の変化をプロットしたグラフ。
図7】Sn−Pd系合金相がSn母相中に分散した構造を有する試験材3の断面図。
図8】試験材3の断面にかかる(a)電子顕微鏡写真、(b)Sn濃度マップ(c)Pd濃度マップ、(d)Ni濃度マップ。
図9】高温耐久試験後における試験材1の断面にかかる(a)電子顕微鏡写真、(b)Sn濃度マップ、(c)Pd濃度マップ、(d)Ni濃度マップ。
図10】高温耐久試験後における試験材3の断面にかかる(a)電子顕微鏡写真、(b)Sn濃度マップ、(c)Pd濃度マップ、(d)Ni濃度マップ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記端子金具において、上記めっき被膜は、少なくとも相手方端子金具と接触する部分に形成されていればよい。
【0015】
また、上記めっき被膜は、摩擦低減層のみから構成されていてもよく、摩擦低減層と、摩擦低減層とは別の作用を有する層とを含む多層積層構造であっても良い。多層積層構造の例としては、基材と摩擦低減層との間に、基材からの金属元素の拡散を防止する拡散防止層を設ける構成等がある。
【0016】
また、上記Sn−Pd系合金相は、少なくともPdを含むSn合金より構成されている。つまり、Sn−Pd系合金相は、SnとPdとからなる2元系Sn合金、あるいは、少なくともSn及びPdを含む多元系Sn合金から構成されている。Sn及びPd以外にSn−Pd系合金相に含まれる元素としては、例えばNiやCu等がある。そして、上記摩擦低減層は、その全面が実質的に上記Sn−Pd系合金相のみによって構成されている。
【0017】
摩擦低減層は、1〜20原子%のPdを含有していることが好ましい。この場合には、摩擦低減層内におけるPdの濃度が均一になり易く、摩擦低減層内の機械特性等のばらつきを低減することができる。つまり、この場合には、摩擦低減層中に、相手方端子により変形を受け易い箇所や、加熱によりめっき組織が変化し易い箇所等が形成されにくくなる。その結果、上記端子金具は、挿入力がより小さく、接続信頼性により優れたものとなり易い。
【0018】
摩擦低減層におけるPd濃度が1原子%未満の場合には、摩擦低減層内のPd濃度のばらつきが大きくなり易く、場合によってはPd濃度が過度に低い箇所が形成されるおそれがある。Pd濃度が過度に低い箇所は、相手方端子により変形を受け易くなったり、加熱によりめっき組織が変化し易くなる等の問題の原因となる恐れがあるため、好ましくない。
【0019】
かかる問題を回避するためには、摩擦低減層におけるPd濃度を高くすることが好ましい。しかしながら、Pd濃度が20%を超える場合には、材料コストが高くなる一方で、濃度に見合った効果を得ることが難しい。それ故、摩擦低減層のPd濃度は、1〜20原子%が好ましく、2〜10原子%がより好ましく、4〜7原子%がさらに好ましい。
【0020】
また、上記めっき被膜は、上記摩擦低減層上に、摩擦低減層よりもSn濃度の高いSnリッチ層を有していることが好ましい。この場合には、摩擦低減層による摩擦力の低減効果を得ると共に、接触抵抗をより低減させることができる。その結果、上記端子金具は、接続信頼性により優れたものとなりやすい。
【0021】
また、上記Snリッチ層の厚みは10nm以下であることが好ましい。この場合には、例えば使用時等に上記端子金具が温度上昇した後における接触抵抗の増大をより抑制し易いものとなる。その結果、上記端子金具は、初期の接触抵抗が長期間維持され易く、接続信頼性により優れたものとなり易い。
【0022】
また、上記めっき被膜同士を摺動させる際の動摩擦係数が0.4以下であることが好ましい。上記端子金具が上記特定の範囲の動摩擦係数を有することにより、相手方端子金具を接続する際の挿入力を十分に小さくすることができる。また、この場合には、例えばPCB(Print Circuit Board)コネクタ等の、多数の端子金具を同時に接続する用途においても挿入力を十分に小さくすることができる。なお、上記端子金具は、電線の端末等に組みつけられる雄端子金具や雌端子金具の用途にも当然に用いることができる。
【0023】
また、上記端子金具は、相手方端子金具との接触荷重が2N以上となる用途に好適に使用することができる。端子金具の接続信頼性は、相手方端子金具との接触抵抗が小さいほど向上する。それ故、接触抵抗を小さくするために、相手方端子金具との接触荷重を高くする手段がとられることがある。しかしながら、接触荷重が高くなると、一般的には相手方端子金具との接続を行う際に必要な挿入力が大きくなり、端子金具の接続が困難になるという問題が生じ易い。これに対し、上記めっき被膜を有する端子金具は、上述したように、相手方端子金具との接続の際に生じる摩擦力が小さいため、相手方端子金具との接触荷重を2N以上に設定した場合にも、挿入力が増大しにくいものとなる。その結果、上記端子金具は、相手方端子金具との接触荷重が2N以上となる場合にも十分に低い挿入力を示すものとなり、相手方端子金具との接続を容易に行うことができる。
【0024】
上記めっき被膜を基材上に形成する方法としては、例えば、以下の方法を用いることができる。
【0025】
まず、基材にめっき処理を施し、摩擦低減層のPd源となるPd膜と、Sn源となるSn膜とを順次積層する。このとき、必要に応じて他の元素を含む膜を積層してもよい。例えば、実質的にNiよりなる拡散防止層を設ける場合には、基材とPd膜との間に、Ni源となるNi膜を設けてもよい。
【0026】
それぞれの膜の膜厚は、得ようとする上記めっき被膜の組成及び構造等に応じて適宜選択することができる。例えば、実質的にNiよりなる拡散防止層と、拡散防止層に積層された摩擦低減層とを有する上記めっき被膜を形成する場合には、Ni膜の膜厚を1〜3μmの膜厚とし、Pd膜の膜厚を10〜20nmとし、Sn膜の膜厚を1〜2μmとすることができる。
【0027】
次いで、Sn膜及びPd膜を加熱することにより、SnとPdとを合金化させ、Sn−Pd系合金よりなる摩擦低減層を形成する。このときの加熱温度は、例えば230〜400℃の範囲とすることができる。
【0028】
また、上述した方法以外に、例えば、SnとPdとの両方を少なくとも含むめっき液を使用し、SnとPdとを共析させることにより摩擦低減層を形成する方法を採用しても良い。
【実施例】
【0029】
上記端子金具の参考例を、図1図10を用いて説明する。図1に示すように、端子金具1は、銅または銅合金よりなる基材2と基材2上に形成されためっき被膜3とを有している。そして、図1及び図2に示すように、めっき被膜3は、Sn−Pd系合金相41からなる摩擦低減層4を有している。
【0030】
本例においては、上述した端子金具1を作製するとともに、端子金具1との比較のために、基材2上に膜厚1.0μmのSnめっき膜を積層させた従来公知の端子金具及びSn−Pd系合金相41がSn母相42中に分散した表面合金層43を有する端子金具(図7参照)を作製した。そして、各々の端子金具について、めっき被膜3の組成分析や特性評価を行った。以下に、端子金具の作製方法及びより詳しい構成について説明する。なお、以下において、摩擦低減層4を有する端子金具1を「試験材1」、Snめっき膜を積層させた従来公知の端子金具を「試験材2」、表面合金相43を有する端子金具を「試験材3」という。
【0031】
<試験材1の作製方法>
まず、基材2として、黄銅からなる板材を準備した。なお、基材2の材質及び形態は、用途に応じて種々変更可能である。
【0032】
基材2の表面に電解脱脂処理を実施した後、以下の条件でめっき処理を行った。これにより、図3に示すように、膜厚2.0μmのNi膜301と、膜厚0.02μmのPd膜302と、膜厚1.0μmのSn膜303とを順次積層した。
【0033】
次に、基材2に積層されたNi膜301、Pd膜302及びSn膜303を、大気雰囲気下において300℃で1分間加熱するリフロー処理を行った。その後、基材2に曲げ加工等を施して端子金具1の形状に成形した。なお、曲げ加工等を行うタイミングは、めっき処理やリフロー処理の前であっても良い。以上により、試験材1を得た。
【0034】
<試験材2の作製方法>
基材2の表面に電解脱脂処理を実施した後、試験材1と同様の条件を用いてめっき処理を行い、基材2にSnめっき膜を積層した。その後、基材2に曲げ加工等を施して端子金具1の形状に成形し、試験材2を得た。
【0035】
<試験材3の作製方法>
試験材3は、リフロー条件を変更した以外は試験材1と同様の手順及び条件により作製した。
【0036】
<SEM−EDX分析>
試験材1及び試験材3のSEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)分析を以下の手順により行った。まず、試験材を板厚方向に切断し、断面の電子顕微鏡写真を取得すると共に、EDXによりSn、PdおよびNiのマッピングを行った。その結果を図2及び図8に示す。
【0037】
試験材1は、図2(b)、図2(c)及び図2(d)に示すように、基材2側から順に、Niを主成分とする拡散防止層31、Ni及びSnを含有するNi−Sn合金層32、Sn、Pd及びNiを含有し、略全面が均一な組成を有するSn−Pd系合金相41よりなる摩擦低減層4が形成されていることを確認した。Sn−Pd系合金相41中のPd濃度は約6〜7原子%であった。
【0038】
以上のように、試験材1のめっき被膜3は、実質的にNiよりなる拡散防止層31と、Sn−Pd系合金相41よりなる摩擦低減層4とを有する多層積層構造となった。
【0039】
一方、試験材3のめっき被膜3は、図8(b)、図8(c)及び図8(d)に示すように、基材2の上に、Niを主成分とする拡散防止層31と、Ni及びSnを含有するNi−Sn合金層32と、Sn、Pd及びNiを含有する表面合金層43が順に積層した多層積層構造を有していた。
【0040】
また、試験材3の表面合金層43は、略全面に渡って一様な組成のSn−Pd系合金相41よりなる試験材1の摩擦低減層4(図2参照)とは異なり、Sn−Pd系合金相41が、Sn−Pd系合金相41よりもPd濃度の低いSn母相42に分散された構造(図8参照)を有していた。表面合金層43におけるSn−Pd系合金相41中のPd濃度は30原子%以下であり、Sn母相42中のPd濃度は0原子%であった。
【0041】
<深さ方向分析>
次に、試験材1におけるめっき被膜3の表面近傍をさらに詳細に分析するために、オージェ電子分光装置を用いた深さ方向分析を行った。図4にその結果を示す。図4の縦軸は各元素の濃度(原子%)であり、横軸はSiO膜厚に換算した深さ(nm)である。なお、このような深さ方向分析においては、SiO膜厚に換算した深さの値を用いることが一般的である。SiO膜厚に換算した深さの値と、実際に分析された深さとは必ずしも一致しないが、試験材の材質が同等であれば、得られた深さの値の大小を複数の試験材の間で互いに比較することができる。
【0042】
図4に示すように、試験材1のめっき被膜3は、摩擦低減層4よりもSn濃度の高いSnリッチ層33を最表面に有していることを確認した。Snリッチ層内のSn濃度は、摩擦低減層4側から表面へ向かうにつれて徐々に高くなり、最表面近傍において最大となった。Snリッチ層内のSn濃度の最大値は82.7原子%であった。また、図4より知られるように、Snリッチ層の膜厚は、SiO膜厚換算で約10nmであった。
【0043】
<動摩擦係数の測定>
試験材1及び試験材2を用いて端子金具1の接続過程を模擬した摩擦試験を行い、動摩擦係数を測定した。試験方法は以下の通りである。
【0044】
半径1mmの半球状エンボス部を備え、表面に上述しためっき被膜3を有する相手部材を準備した。試験材のめっき被膜3に半球状エンボス部を当接させ、半球状エンボス部に3Nの荷重を印加した。そして、この荷重を維持しつつ、半球状エンボス部を試験材に対して6mm/秒の速度で移動させ、この時の動摩擦係数を測定した。
【0045】
動摩擦係数の測定結果を図5に示す。図5の縦軸は動摩擦係数の値であり、横軸は半球状エンボス部の移動距離(mm)である。また、図5においては、試験材1の測定結果を実線により示し、試験材2の測定結果を破線により示した。
【0046】
図5より知られるように、試験材1の動摩擦係数は、半球状エンボス部の移動を開始した直後に0.28程度まで上昇し、その後、さらに上昇することなく、0.28程度の値を維持した。一方、摩擦低減層4を具備していない試験材2の動摩擦係数は、半球状エンボス部の移動を開始した直後に0.4程度まで上昇した。そして、半球状エンボス部の移動距離が大きくなるにつれて動摩擦係数が徐々に増加した。このように、摩擦低減層4を備えためっき被膜3同士を摺動させる際の動摩擦係数は、0.4以下となった。
【0047】
このように、摩擦低減層4を備えためっき被膜3を有する端子金具1は、十分に小さい動摩擦係数を有するため、相手方端子金具との接続の際に生じる摩擦力の小さいものとなりやすい。それ故、端子金具1は、相手方端子金具を接続する際の挿入力が十分に小さく、相手方端子との接続を容易に行うことができるものとなる。
【0048】
<接触抵抗の測定>
試験材1及び試験材2を用いて端子金具1の接続状態を模擬した接触抵抗の測定を行った。接触抵抗の測定は、作製した直後の試験材を用いた測定(初期評価)と、高温耐久試験後の試験材を用いた測定(高温耐久試験後評価)との2条件にて行った。なお、高温耐久試験とは、試験材を120℃の高温下に100時間保持する試験である。
【0049】
接触抵抗の測定は、以下のように行った。まず、上述した半球状エンボス部を有する相手部材を試験材のめっき被膜3に当接させた。そして、試験材と相手部材との間に付与する荷重を徐々に増加させつつ、両者の間の接触抵抗を測定した。それぞれの条件における接触抵抗の測定は、複数の試料を用いて少なくとも2回以上行った。なお、図には示さないが、試験材1及び試験材2とも、複数回の測定において、再現性のある測定結果となった。
【0050】
図6に、試験材1を用いた初期評価の結果の一例を示す。図6の縦軸は接触抵抗(mΩ)であり、横軸は接触荷重(N)である。
【0051】
図6に示すように、試験材1の接触抵抗は、接触荷重が2N以下の領域においては、接触荷重が増加するにつれて急激に減少した。そして、接触荷重が2Nを超えると、接触荷重の増分に対する接触抵抗の減少の割合が緩やかになった。このことから、めっき被膜3を有する端子金具1は、相手方端子金具との接触荷重が2N以上で使用される用途において、接触抵抗が十分小さくなり、好適に使用できると考えられる。
【0052】
また、表1に、試験材1及び試験材2について、相手部材に10Nの接触荷重を印加したときの接触抵抗の値を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より知られるように、めっき被膜3を有する試験材1は、初期評価と高温耐久試験後評価との間で接触抵抗がほぼ同等の値となった。一方、めっき被膜3を有さない試験材2は、高温耐久試験後評価において得られた接触抵抗が初期評価において得られた接触抵抗の3倍程度となり、高温耐久試験によって接触抵抗が増大した。このように、めっき被膜3を有する試験材1は、高温耐久試験後においても十分小さな接触抵抗を維持し、接続信頼性に優れることを確認した。
【0055】
<接続信頼性の評価>
【0056】
接続信頼性を評価するため、試験材1及び試験材3を用いて、高温耐久試験の前後におけるめっき被膜3の組織の観察を行った。試験後の試験材1及び試験材3について、板厚方向に切断した断面の電子顕微鏡写真及びSn、Pd、Niのマッピングを行った結果を図9及び図10に示す。
【0057】
高温耐久試験の前後において、試験材1におけるSn−Pd系合金相41の組成はほとんど変化しなかった。また、図2及び図9より知られるように、試験材1においては、高温耐久試験を行うことにより、高温耐久試験前に比べて、摩擦低減層4と拡散防止層31との間に形成されるNi−Sn合金層32の膜厚が2倍程度に厚くなった。
【0058】
一方、図8及び図10より知られるように、試験材3は、高温耐久試験によって表面合金層43の構造が変化し、略全面に渡って均一なPd濃度を呈する構造となった。また、試験材3においては、高温耐久試験後を行うことにより、高温耐久試験前に比べて、表面合金層43と拡散防止層31との間に形成されるNi−Sn合金層32の膜厚が3倍程度に厚くなった。
【0059】
また、図9及び図10より知られるように、高温耐久試験後における試験材3のNi−Sn合金層32の膜厚は、試験材1に比べて1.5倍程度の厚みであった。Ni−Sn合金層32は、摩擦低減層4や拡散防止層31等に比べて電気抵抗が高い。それ故、試験材1は、試験材3に比べて高温耐久試験による接触抵抗の増加量が少なくなると考えられる。
【0060】
以上のように、試験材1は、略全面に渡って一様な組成のSn−Pd系合金相41よりなる摩擦低減層4を有することにより、加熱等によるめっき被膜3の組織の変化が起こりにくいものとなる。それ故、摩擦低減層4を有する端子金具1は、初期のめっき被膜3の特性を長期間維持することができ、接続信頼性に優れたものとなる。
【符号の説明】
【0061】
1 端子金具
2 基材
3 めっき被膜
4 摩擦低減層
41 Sn−Pd系合金相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10