【実施例】
【0029】
上記端子金具の
参考例を、
図1〜
図10を用いて説明する。
図1に示すように、端子金具1は、銅または銅合金よりなる基材2と基材2上に形成されためっき被膜3とを有している。そして、
図1及び
図2に示すように、めっき被膜3は、Sn−Pd系合金相41からなる摩擦低減層4を有している。
【0030】
本例においては、上述した端子金具1を作製するとともに、端子金具1との比較のために、基材2上に膜厚1.0μmのSnめっき膜を積層させた従来公知の端子金具及びSn−Pd系合金相41がSn母相42中に分散した表面合金層43を有する端子金具(
図7参照)を作製した。そして、各々の端子金具について、めっき被膜3の組成分析や特性評価を行った。以下に、端子金具の作製方法及びより詳しい構成について説明する。なお、以下において、摩擦低減層4を有する端子金具1を「試験材1」、Snめっき膜を積層させた従来公知の端子金具を「試験材2」、表面合金相43を有する端子金具を「試験材3」という。
【0031】
<試験材1の作製方法>
まず、基材2として、黄銅からなる板材を準備した。なお、基材2の材質及び形態は、用途に応じて種々変更可能である。
【0032】
基材2の表面に電解脱脂処理を実施した後、以下の条件でめっき処理を行った。これにより、
図3に示すように、膜厚2.0μmのNi膜301と、膜厚0.02μmのPd膜302と、膜厚1.0μmのSn膜303とを順次積層した。
【0033】
次に、基材2に積層されたNi膜301、Pd膜302及びSn膜303を、大気雰囲気下において300℃で1分間加熱するリフロー処理を行った。その後、基材2に曲げ加工等を施して端子金具1の形状に成形した。なお、曲げ加工等を行うタイミングは、めっき処理やリフロー処理の前であっても良い。以上により、試験材1を得た。
【0034】
<試験材2の作製方法>
基材2の表面に電解脱脂処理を実施した後、試験材1と同様の条件を用いてめっき処理を行い、基材2にSnめっき膜を積層した。その後、基材2に曲げ加工等を施して端子金具1の形状に成形し、試験材2を得た。
【0035】
<試験材3の作製方法>
試験材3は、リフロー条件を変更した以外は試験材1と同様の手順及び条件により作製した。
【0036】
<SEM−EDX分析>
試験材1及び試験材3のSEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)分析を以下の手順により行った。まず、試験材を板厚方向に切断し、断面の電子顕微鏡写真を取得すると共に、EDXによりSn、PdおよびNiのマッピングを行った。その結果を
図2及び
図8に示す。
【0037】
試験材1は、
図2(b)、
図2(c)及び
図2(d)に示すように、基材2側から順に、Niを主成分とする拡散防止層31、Ni及びSnを含有するNi−Sn合金層32、Sn、Pd及びNiを含有し、略全面が均一な組成を有するSn−Pd系合金相41よりなる摩擦低減層4が形成されていることを確認した。Sn−Pd系合金相41中のPd濃度は約6〜7原子%であった。
【0038】
以上のように、試験材1のめっき被膜3は、実質的にNiよりなる拡散防止層31と、Sn−Pd系合金相41よりなる摩擦低減層4とを有する多層積層構造となった。
【0039】
一方、試験材3のめっき被膜3は、
図8(b)、
図8(c)及び
図8(d)に示すように、基材2の上に、Niを主成分とする拡散防止層31と、Ni及びSnを含有するNi−Sn合金層32と、Sn、Pd及びNiを含有する表面合金層43が順に積層した多層積層構造を有していた。
【0040】
また、試験材3の表面合金層43は、略全面に渡って一様な組成のSn−Pd系合金相41よりなる試験材1の摩擦低減層4(
図2参照)とは異なり、Sn−Pd系合金相41が、Sn−Pd系合金相41よりもPd濃度の低いSn母相42に分散された構造(
図8参照)を有していた。表面合金層43におけるSn−Pd系合金相41中のPd濃度は30原子%以下であり、Sn母相42中のPd濃度は0原子%であった。
【0041】
<深さ方向分析>
次に、試験材1におけるめっき被膜3の表面近傍をさらに詳細に分析するために、オージェ電子分光装置を用いた深さ方向分析を行った。
図4にその結果を示す。
図4の縦軸は各元素の濃度(原子%)であり、横軸はSiO
2膜厚に換算した深さ(nm)である。なお、このような深さ方向分析においては、SiO
2膜厚に換算した深さの値を用いることが一般的である。SiO
2膜厚に換算した深さの値と、実際に分析された深さとは必ずしも一致しないが、試験材の材質が同等であれば、得られた深さの値の大小を複数の試験材の間で互いに比較することができる。
【0042】
図4に示すように、試験材1のめっき被膜3は、摩擦低減層4よりもSn濃度の高いSnリッチ層33を最表面に有していることを確認した。Snリッチ層内のSn濃度は、摩擦低減層4側から表面へ向かうにつれて徐々に高くなり、最表面近傍において最大となった。Snリッチ層内のSn濃度の最大値は82.7原子%であった。また、
図4より知られるように、Snリッチ層の膜厚は、SiO
2膜厚換算で約10nmであった。
【0043】
<動摩擦係数の測定>
試験材1及び試験材2を用いて端子金具1の接続過程を模擬した摩擦試験を行い、動摩擦係数を測定した。試験方法は以下の通りである。
【0044】
半径1mmの半球状エンボス部を備え、表面に上述しためっき被膜3を有する相手部材を準備した。試験材のめっき被膜3に半球状エンボス部を当接させ、半球状エンボス部に3Nの荷重を印加した。そして、この荷重を維持しつつ、半球状エンボス部を試験材に対して6mm/秒の速度で移動させ、この時の動摩擦係数を測定した。
【0045】
動摩擦係数の測定結果を
図5に示す。
図5の縦軸は動摩擦係数の値であり、横軸は半球状エンボス部の移動距離(mm)である。また、
図5においては、試験材1の測定結果を実線により示し、試験材2の測定結果を破線により示した。
【0046】
図5より知られるように、試験材1の動摩擦係数は、半球状エンボス部の移動を開始した直後に0.28程度まで上昇し、その後、さらに上昇することなく、0.28程度の値を維持した。一方、摩擦低減層4を具備していない試験材2の動摩擦係数は、半球状エンボス部の移動を開始した直後に0.4程度まで上昇した。そして、半球状エンボス部の移動距離が大きくなるにつれて動摩擦係数が徐々に増加した。このように、摩擦低減層4を備えためっき被膜3同士を摺動させる際の動摩擦係数は、0.4以下となった。
【0047】
このように、摩擦低減層4を備えためっき被膜3を有する端子金具1は、十分に小さい動摩擦係数を有するため、相手方端子金具との接続の際に生じる摩擦力の小さいものとなりやすい。それ故、端子金具1は、相手方端子金具を接続する際の挿入力が十分に小さく、相手方端子との接続を容易に行うことができるものとなる。
【0048】
<接触抵抗の測定>
試験材1及び試験材2を用いて端子金具1の接続状態を模擬した接触抵抗の測定を行った。接触抵抗の測定は、作製した直後の試験材を用いた測定(初期評価)と、高温耐久試験後の試験材を用いた測定(高温耐久試験後評価)との2条件にて行った。なお、高温耐久試験とは、試験材を120℃の高温下に100時間保持する試験である。
【0049】
接触抵抗の測定は、以下のように行った。まず、上述した半球状エンボス部を有する相手部材を試験材のめっき被膜3に当接させた。そして、試験材と相手部材との間に付与する荷重を徐々に増加させつつ、両者の間の接触抵抗を測定した。それぞれの条件における接触抵抗の測定は、複数の試料を用いて少なくとも2回以上行った。なお、図には示さないが、試験材1及び試験材2とも、複数回の測定において、再現性のある測定結果となった。
【0050】
図6に、試験材1を用いた初期評価の結果の一例を示す。
図6の縦軸は接触抵抗(mΩ)であり、横軸は接触荷重(N)である。
【0051】
図6に示すように、試験材1の接触抵抗は、接触荷重が2N以下の領域においては、接触荷重が増加するにつれて急激に減少した。そして、接触荷重が2Nを超えると、接触荷重の増分に対する接触抵抗の減少の割合が緩やかになった。このことから、めっき被膜3を有する端子金具1は、相手方端子金具との接触荷重が2N以上で使用される用途において、接触抵抗が十分小さくなり、好適に使用できると考えられる。
【0052】
また、表1に、試験材1及び試験材2について、相手部材に10Nの接触荷重を印加したときの接触抵抗の値を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より知られるように、めっき被膜3を有する試験材1は、初期評価と高温耐久試験後評価との間で接触抵抗がほぼ同等の値となった。一方、めっき被膜3を有さない試験材2は、高温耐久試験後評価において得られた接触抵抗が初期評価において得られた接触抵抗の3倍程度となり、高温耐久試験によって接触抵抗が増大した。このように、めっき被膜3を有する試験材1は、高温耐久試験後においても十分小さな接触抵抗を維持し、接続信頼性に優れることを確認した。
【0055】
<接続信頼性の評価>
【0056】
接続信頼性を評価するため、試験材1及び試験材3を用いて、高温耐久試験の前後におけるめっき被膜3の組織の観察を行った。試験後の試験材1及び試験材3について、板厚方向に切断した断面の電子顕微鏡写真及びSn、Pd、Niのマッピングを行った結果を
図9及び
図10に示す。
【0057】
高温耐久試験の前後において、試験材1におけるSn−Pd系合金相41の組成はほとんど変化しなかった。また、
図2及び
図9より知られるように、試験材1においては、高温耐久試験を行うことにより、高温耐久試験前に比べて、摩擦低減層4と拡散防止層31との間に形成されるNi−Sn合金層32の膜厚が2倍程度に厚くなった。
【0058】
一方、
図8及び
図10より知られるように、試験材3は、高温耐久試験によって表面合金層43の構造が変化し、略全面に渡って均一なPd濃度を呈する構造となった。また、試験材3においては、高温耐久試験後を行うことにより、高温耐久試験前に比べて、表面合金層43と拡散防止層31との間に形成されるNi−Sn合金層32の膜厚が3倍程度に厚くなった。
【0059】
また、
図9及び
図10より知られるように、高温耐久試験後における試験材3のNi−Sn合金層32の膜厚は、試験材1に比べて1.5倍程度の厚みであった。Ni−Sn合金層32は、摩擦低減層4や拡散防止層31等に比べて電気抵抗が高い。それ故、試験材1は、試験材3に比べて高温耐久試験による接触抵抗の増加量が少なくなると考えられる。
【0060】
以上のように、試験材1は、略全面に渡って一様な組成のSn−Pd系合金相41よりなる摩擦低減層4を有することにより、加熱等によるめっき被膜3の組織の変化が起こりにくいものとなる。それ故、摩擦低減層4を有する端子金具1は、初期のめっき被膜3の特性を長期間維持することができ、接続信頼性に優れたものとなる。