(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態の一例であるセンサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成について説明する。
図1は、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した斜視図である。
図2は、
図1のA−A断面図である。なお、ガスセンサ100は、例えば自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの所定のガスの濃度を、センサ素子101により検出するものである。また、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(
図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(
図1の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。なお、
図1は、センサ素子101を右上前方からみた様子を示している。また、
図2は、センサ素子101の左右方向の中心に沿った断面図である。
【0019】
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0020】
センサ素子101の一先端部(前方向の端部)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0021】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0022】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位をガス流通部とも称する。
【0023】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0024】
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0025】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0026】
ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空間へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0027】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0028】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0029】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0030】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0031】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0032】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源25のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0033】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0034】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された第2内部空所40において、さらに、測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
【0035】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0036】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0037】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0038】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0039】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0040】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0041】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0042】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所40内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0043】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。
【0044】
第4拡散律速部45は、セラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担うとともに、測定電極44の保護膜としても機能する。測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0045】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0046】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N
2+O
2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0047】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0048】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0049】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0050】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、を備えている。
【0051】
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0052】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0053】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0054】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0055】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0056】
また、センサ素子101は、
図1,2に示すように、コーティング層24を備えている。コーティング層24は、センサ素子101の上面(第2固体電解質層6の上面)を被覆するコーティング層24aと、センサ素子101の下面(第1基板層1の下面)を被覆するコーティング層24bと、を備えている。なお、コーティング層24aは、外側ポンプ電極23の表面も被覆している。コーティング層24bは、センサ素子101の下面のヒータコネクタ電極71は被覆していない。そのため、コーティング層24bは、外部からヒータコネクタ電極71への電力を供給を妨げないようになっている。コーティング層24は、例えばアルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、マグネシアなどの多孔質セラミックスからなるものである。本実施形態では、コーティング層24はアルミナからなる多孔質セラミックスであるものとした。特に限定するものではないが、コーティング層24の膜厚は例えば5〜50μmであり、コーティング層24の気孔率は例えば10%〜60%である。また、コーティング層24の表面(コーティング層24aの上面及びコーティング層24bの下面)の算術平均粗さRaは2.0〜5.0μmとすることが好ましい。なお、特に限定するものではないが、コーティング層24が形成されるセンサ素子101の本体の表面(第2固体電解質層6の上面及び第1基板層1の下面)の算術平均粗さRaは、例えば0.3〜1.0μmである。
【0057】
また、センサ素子101は、
図1,2に示すように、一部が多孔質保護部90により被覆されている。多孔質保護部90は、センサ素子101の6個の表面のうち5面にそれぞれ形成された多孔質保護層91a〜91eを備えている。多孔質保護層91aは、センサ素子101の上面(コーティング層24aの上面)の一部を被覆している。多孔質保護層91bは、センサ素子101の下面(コーティング層24bの下面)の一部を被覆している。多孔質保護層91cは、センサ素子101の左面の一部を被覆している。多孔質保護層91dは、センサ素子101の右面の一部を被覆している。多孔質保護層91eは、センサ素子101の前端面の全面を被覆している。なお、多孔質保護層91a〜91dの各々は、自身が形成されているセンサ素子101の表面のうち、センサ素子101の前端面から後方に向かって距離L(
図2参照)までの領域を全て覆っている。また、多孔質保護層91aは、外側ポンプ電極23が形成された部分も被覆している。多孔質保護層91eは、ガス導入口10も覆っているが、多孔質保護層91eが多孔質体であるため、被測定ガスは多孔質保護層91eの内部を流通してガス導入口に到達可能である。多孔質保護部90は、センサ素子101の一部(センサ素子101の前端面から距離Lまでの部分)を被覆して、その部分を保護するものである。多孔質保護部90は、例えば被測定ガス中の水分等が付着してセンサ素子101にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。また、多孔質保護層91aは、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23に付着するのを抑制して、外側ポンプ電極23の劣化を抑制する役割を果たす。なお、距離Lは、ガスセンサ100においてセンサ素子101が被測定ガスに晒される範囲や、外側ポンプ電極23の位置などに基づいて、(0<距離L<センサ素子の長手方向の長さ)の範囲で定められている。以下では、多孔質保護層91a〜91eを特に区別しない場合には多孔質保護層91と表記する場合がある。
【0058】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、センサ素子101は前後方向の長さと、左右方向の幅と、上下方向の厚さとがそれぞれ異なっており、長さ>幅>厚さとなっている。また、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとした。そのため、多孔質保護層91a〜91eのうち、多孔質保護層91a,91bの形成面積(=距離L×センサ素子101の幅)が最も広く、次に多孔質保護層91c,91dの形成面積(=距離L×センサ素子101の厚さ)が広く、多孔質保護層91eの形成面積(=センサ素子101の幅×厚さ)が最も狭い。
【0059】
多孔質保護層91は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体、チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などの多孔質体からなるものである。本実施形態では、多孔質保護層91はアルミナ多孔質体からなるものとした。特に限定するものではないが、多孔質保護層91の膜厚t(
図2参照)は例えば100〜700μmであり、多孔質保護層91の気孔率は例えば10%〜40%である。なお、密着力が高くなるため、コーティング層24a,24bと、その表面に形成される多孔質保護層91a,91bとは、同じ材質であることが好ましい。また、本実施形態では、多孔質保護層91a〜91eの膜厚tはいずれも同じ値とした。
【0060】
次に、こうしたガスセンサ100の製造方法について説明する。ガスセンサ100の製造方法は、センサ素子101を用意する第1工程と、センサ素子101の表面の一部を形成領域102として、形成領域102に被膜としての多孔質保護層91a〜91dを形成する第2工程と、を含む。
【0061】
最初に、第1工程について説明する。第1工程では、多孔質保護部90を形成する前のセンサ素子101を製造することで、センサ素子101を用意する。まず、6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに電極や絶縁層、抵抗発熱体等のパターンを印刷する。また、第2固体電解質層6となるセラミックスグリーンシートの表面(センサ素子101の上面となる面)には、焼成後にコーティング層24aとなるペーストをスクリーン印刷する。同様に、第1基板層1となるセラミックスグリーンシートの表面(センサ素子101の下面となる面)には、焼成後にコーティング層24bとなるペーストをスクリーン印刷する。なお、コーティング層24a,24bとなるペーストは、上述したコーティング層24の材質からなる原料粉末(本実施形態ではアルミナの粉末)と、有機バインダー及び有機溶剤等を混合したものを用いる。また、このペーストは、焼成後のコーティング層24の表面の算術平均粗さRaが2.0〜5.0μmとなるように、予め調整しておくことが好ましい。特にこれに限定するものではないが、例えば、原料粉末の粒径をD50=2〜20μm,体積割合を5〜20vol%とし、バインダー溶液を20〜40vol%とし、助溶剤を30〜50vol%とし、分散剤を1〜5vol%としてこれらを調合し、回転数を50〜250rpmとして2〜6時間混合したペーストを用いることで、焼成後のコーティング層24の表面の算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとすることができる。このように各種のパターンを形成したあと、グリーンシートを乾燥する。その後、それらを積層して積層体とする。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分け、所定の焼成温度で焼成して、センサ素子101を得る。なお、複数のグリーンシートを積層してセンサ素子101を製造する方法は公知であり、例えば特開2008−164411号公報,特開2009−175099号公報などに記載されている。なお、第1工程では、センサ素子101を製造する代わりに、製造済みのセンサ素子101を用意してもよい。
【0062】
次に、第2工程について説明する。第2工程は、(a)多孔質保護層91a〜91dの形成領域102と隣接する非形成領域103を覆うようにマスク110を配置する工程と、(b)プラズマ溶射により形成領域102に多孔質保護層91a〜91dを形成する工程と、(c)マスク110を取り外す工程と、を含む。
【0063】
まず、工程(a)で用いるマスク110について説明する。
図3は、マスク110の説明図である。
図3(a)は、マスク110を右上前方からみた斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)のB視図である。マスク110は、内部空間112cにセンサ素子101を挿入することで、センサ素子101のうち多孔質保護層91a〜91dを形成する形成領域102以外の非形成領域103を覆うための部材である。マスク110は、略直方体の箱状の部材であり、本体部112と、底部113と、隙間形成部114と、を備えている。本体部112は、前方の端面である本体部端面112aと、本体部端面112aに形成された本体部開口112bと、本体部開口112bから底部113まで形成された略直方体の内部空間112cと、を備えている。本体部開口112bの上下高さ及び左右幅はセンサ素子101とほぼ同じ寸法になっており、内部空間112cはこの本体部開口112bからセンサ素子101を挿入可能になっている。底部113は、本体部112の後端に接続された板状の部材であり、内部空間112cの後端を塞いでいる。隙間形成部114は、本体部112の本体部端面112aよりも前方に形成されている。また、隙間形成部114は、本体部112から前方に突出する四角い枠形状の部材であり、前端面に隙間形成部開口115を形成している。隙間形成部114は、本体部112の前端のうち本体部端面112aよりも上側から前方に突出した隙間形成部114aと、本体部112の前端のうち本体部端面112aよりも下側から前方に突出した隙間形成部114bと、本体部112の前端のうち本体部端面112aよりも左側から前方に突出した隙間形成部114cと、本体部112の前端のうち本体部端面112aよりも右側から前方に突出した隙間形成部114dと、を備えている。この隙間形成部114a〜114dと本体部端面112aとで囲まれた空間は隙間形成部開口115で外部に開口していると共に、本体部開口112bを介して内部空間112cと連通している。なお、隙間形成部開口115は本体部開口112bよりも面積が広い。隙間形成部114aの上面は、本体部112の上面と同一平面上に位置している。隙間形成部114b,114c,114dの下面,左面,右面についても、それぞれ同様に本体部112の下面,左面,右面と同一平面上に位置している。隙間形成部114aの下面(隙間形成部114の内周面のうちの上側の面)は、本体部開口112bよりも高さTだけ上方に位置している(
図3(b)参照)。隙間形成部114b,114c,114dの上面,右面,左面についても、それぞれ同様に本体部開口112bよりも高さTだけ下方,左方,右方に位置している。また、隙間形成部114a〜114dの前端面は同一平面上にあり、前端面から本体部端面112aまでが長さMだけ離れている(
図3(a)参照)。
【0064】
なお、マスク110の材質は、例えばSUS(ステンレス鋼),炭素鋼,クロムモリブデン鋼などの金属製の部材である。マスク110は、樹脂製の部材としてもよい。マスク110に用いる樹脂としては、プラズマ溶射に使用できる耐熱性を有する耐熱性樹脂が好ましく、例えばテフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂,ナイロン(登録商標)などが挙げられる。また、マスク110に用いる樹脂としては、撥水性樹脂が好ましく、例えばテフロンなどのフッ素樹脂,ナイロンなどが挙げられる。また、マスク110は、表面が撥水コーティングされていてもよい。撥水コーティングの材質としては、耐熱性を有するものが好ましく、例えばテフロンやナイロンなどの撥水性樹脂,DLC(ダイヤモンドライクカーボン),Si含有DLCなどが挙げられる。マスク110が撥水性樹脂製であるか又はマスク110が撥水コーティングされていることで、工程(b)における多孔質保護層91の形成材料である粉末溶射材料134(後述)のマスク110への付着が抑制されるため、工程(c)でマスク110を取り外す際の多孔質保護層91の剥離をより抑制することができる。また、本実施形態では、本体部112と隙間形成部114とは一体形成された部材であり、本体部112に底部113を例えば溶接やボルト等で取り付けたものとした。ただし、これに限らず本体部112と隙間形成部114とが別部材であってもよいし、本体部112と底部113とが一体形成された部材であってもよい。また、隙間形成部114a〜114dが一体形成されておらず互いに別の部材であってもよい。
【0065】
次に、マスク110を用いた第2工程について説明する。
図4,5は、マスク110を用いた第2工程の説明図である。まず、工程(a)では、第1工程で用意したセンサ素子101とマスク110とを用意し(
図4(a))、マスク110の本体部開口112bから内部空間112c内にセンサ素子101の後端を挿入して、マスク110を位置決めする(
図4(b))。
【0066】
工程(a)によりマスク110を配置した状態におけるセンサ素子101とマスク110との位置関係について説明する。
図6は、
図4(b)のC−C断面図であり、
図7は、
図4(b)のD−D断面図である。なお、
図6は、センサ素子101の左右方向の中心に沿った断面図であり、隙間形成部開口115に垂直且つ上下方向に平行な断面でみたときの様子を示している。また、
図6にはプラズマ溶射に用いるプラズマガン120や多孔質保護層91aも示しているが、これについては後述する。
図7は、センサ素子101の上下方向の中心に沿った断面図であり、隙間形成部開口115に垂直且つ左右方向に平行な断面でみたときの様子を示している。
図6,7に示すように、工程(a)では、センサ素子101の後端が底部113に接するようにセンサ素子101を内部空間112c内に挿入して、マスク110を位置決め(配置)する。ここで、マスク110の前端面から内部空間112c(
図3参照)の後端までの距離は、(センサ素子の長手方向の長さ−距離L)となるように予め定められている。これにより、
図6に示すように、センサ素子101の上面のうち前端面から後方に向かって距離Lまでの領域である形成領域102aはマスク110に覆われず、上面のうちそれ以外の領域である非形成領域103aがマスク110に覆われる。同様に、センサ素子101の下面のうち前端面から後方に向かって距離Lまでの領域である形成領域102bはマスク110に覆われず、下面のうちそれ以外の領域である非形成領域103bがマスク110に覆われる。センサ素子101の左面及び右面についても同様に、形成領域102c,102dはマスク110に覆われず、非形成領域103c,103dがマスク110に覆われる。(
図7参照)。なお、形成領域102a〜102d,非形成領域103a〜103dを特に区別しない場合にはそれぞれ形成領域102,非形成領域103と表記する場合がある。
【0067】
また、マスク110は、上述した隙間形成部114aを有しており、
図6の状態では隙間形成部114aは形成領域102a側(前側)に突出している。これにより、隙間形成部114aの下面とセンサ素子101の上面(非形成領域103a)とで挟まれた隙間116aが形成されている。この隙間116aは、非形成領域103aのうち形成領域102a側の端部(前端)で形成領域102a側に開口した隙間開口117aを有する隙間(空間)である。この隙間116aの前端部の隙間開口117aの高さ、すなわち、隙間形成部114aの前下端とセンサ素子101の上面との距離は、上述した高さTと同じである。また、
図6の断面における、非形成領域103aのうち隙間116aに露出している部分の前後方向の長さは、上述した長さMと同じである。隙間116aは、
図6の断面において面積S(=高さT×長さM)を有する四角形状の領域である。このように、工程(a)では、隙間形成部114aにより、高さT,長さM,面積Sの隙間116aを形成するように、センサ素子101にマスク110を配置するのである。同様に、隙間形成部114bにより、非形成領域103bのうち形成領域102b側の端部(前端)で形成領域102b側に開口した隙間開口117bを有する隙間116bが形成される。また、
図7に示すように、隙間形成部114c,114dにより、非形成領域103c,103dのうち形成領域102c,102d側の端部(前端)で形成領域102c,102d側に開口した隙間開口117c,117dを有する隙間116c,116dがそれぞれ形成される。隙間開口117a〜117dは、
図3で示した隙間形成部開口115の一部である。本実施形態では、
図6,7の断面における隙間116b〜116dは、いずれも高さT,長さM,面積Sの値が隙間116aと同じであるものとした。なお、隙間116a〜116d、隙間開口117a〜117dを特に区別しない場合にはそれぞれ隙間116,隙間開口117と表記する場合がある。
【0068】
ここで、隙間116aの高さTは、工程(b)で形成する多孔質保護層91aの膜厚tよりも大きい。隙間116b〜116dについても同様に、対応する多孔質保護層91b〜91dのそれぞれの膜厚tよりも大きい。また、隙間116の高さTは膜厚tの2倍以上であることが好ましい。また、長さMは1mm以上であり、面積Sは0.2mm
2以上である。
【0069】
工程(a)を行うと、次に、プラズマ溶射により形成領域102a〜102dに多孔質保護層91a〜91dを形成する工程(b)を行う。プラズマガン120を用いたプラズマ溶射について、
図6を用いて説明する。
図6では、例として多孔質保護層91aを形成する様子を示しており、プラズマガン120を断面で示している。プラズマガン120は、プラズマを発生させる電極となるアノード126及びカソード128と、それらを覆う略円筒状の外周部122と、を備えている。外周部122は、アノード126と絶縁するための絶縁部(インシュレータ)123を備えている。外周部122の下端には、多孔質保護層91の形成材料である粉末溶射材料134を供給するための粉末供給部132が形成されている。外周部122とアノード126との間には水冷ジャケット124が設けられており、これによりアノード126を冷却可能となっている。アノード126は筒状に形成されており、下方に向けて開口したノズル126aを有している。アノード126とカソード128との間には、上方からプラズマ発生用ガス130が供給される。なお、このようなプラズマガン120は公知であり、例えば上述した特許文献1に記載されている。
【0070】
多孔質保護層91aを形成する際には、プラズマガン120のアノード126とカソード128との間に電圧を印加し、供給されたプラズマ発生用ガス130の存在下でアーク放電を行って、プラズマ発生用ガス130を高温のプラズマ状態にする。プラズマ状態となったガスは、高温且つ高速のプラズマジェットとしてノズル126aから
図6の下方へ噴出する。一方、粉末供給部132からは、キャリアガスと共に粉末溶射材料134を供給する。これにより、粉末溶射材料134はプラズマにより加熱溶融及び加速されてセンサ素子101の表面(上面)に衝突し、急速固化することで、多孔質保護層91aが形成される。なお、プラズマ溶射は、例えば大気及び常温の雰囲気にて行う。また、特に限定するものではないが、プラズマガン120の溶射の向き(ノズル126aの向き)は、センサ素子101における多孔質保護層91aの形成面(形成領域102a)に対して30°〜90°である。本実施形態では90°(ノズル126aの向きがセンサ素子101の上面に対して垂直)とした。
【0071】
ここで、プラズマ発生用ガス130としては、例えばアルゴンガスなどの不活性ガスを用いることができる。また、プラズマが発生しやすくなるため、アルゴンと水素とを混合したものをプラズマ発生用ガス130とすることが好ましい。特に限定するものではないが、アルゴンガスの流量は例えば40〜50L/minであり、水素の流量は例えば9〜11L/minである。アノード126とカソード128との間に印加する電圧は、例えば50〜70Vの直流電圧であり、電流は例えば500〜550Aである。
【0072】
粉末溶射材料134は、上述した多孔質保護層91の材料となる粉末であり、本実施形態ではアルミナ粉末とした。特に限定するものではないが、粉末溶射材料134の粒径は例えば10μm〜30μmである。粉末溶射材料134の供給に用いるキャリアガスとしては、例えばプラズマ発生用ガス130と同じアルゴンガスを用いることができる。特に限定するものではないが、キャリアガスの流量は例えば3〜4L/minである。
【0073】
プラズマ溶射を行う際は、プラズマガン120におけるプラズマガスの出口であるノズル126aとセンサ素子101における多孔質保護層91を形成する面(
図6ではコーティング層24aの上面)との距離Wを、50mm〜300mmとすることが好ましい。距離Wは120mm〜250mmとしてもよい。また、多孔質保護層91を形成する面積に応じて、適宜プラズマガン120を移動(
図6では左右方向に移動)させながらプラズマ溶射を行ってもよいが、その場合も距離Wは上述した範囲に保つことが好ましい。プラズマ溶射を行う時間は、形成する多孔質保護層91の膜厚tや面積に応じて、適宜定めればよい。
【0074】
以上のようにしてセンサ素子101の上面(コーティング層24aの上面)に対してプラズマ溶射を行うと、
図6に示すようにマスク110が非形成領域103aを覆っているため、形成領域102aに粉末溶射材料134が付着して膜厚tの多孔質保護層91aが形成される。このとき、上述したように隙間116aの隙間開口117aの高さTは膜厚tより大きい。そのため、形成領域102aと非形成領域103aとの境界上において、隙間形成部114aと多孔質保護層91aとは多孔質保護層91aの厚さ方向(上下方向)に離間しやすい。したがって、形成された多孔質保護層91aのうちマスク110側の端部(後端)は、マスク110のうち形成領域102a側の端部(隙間形成部114aの前端)には接触しにくくなる。
【0075】
工程(b)では、多孔質保護層91b〜91dについても、センサ素子101に形成する面が異なる点以外は同様にして1層ずつ形成する。なお、多孔質保護層91bは、上述したようにコーティング層24bの表面に形成する。多孔質保護層91c〜91dは、センサ素子101の本体(各層1〜6)の表面に直接形成する。ここで、マスク110が非形成領域103b〜103dを覆っているため、多孔質保護層91aと同様に、膜厚tの多孔質保護層91b〜91dは形成領域102b〜102dに形成される。また、隙間116b〜116dの隙間開口117b〜117dの高さTは膜厚tより大きい。そのため、形成された多孔質保護層91b〜91dのうちマスク110側の端部(後端)は、マスク110のうち形成領域102b〜102d側の端部(隙間形成部114b〜114dの前端)には接触しにくい。なお、工程(b)においてまず多孔質保護層91a,91bを形成した状態が
図4(c)であり、その後に多孔質保護層91c,91dを形成した状態が
図5(a)である。
図5(a)に示すように、形成された多孔質保護層91a〜91dは互いに隣接する層と接続された状態になる。
【0076】
なお、本実施形態では、工程(b)において、多孔質保護層91eも形成するものとした。多孔質保護層91eの形成は、センサ素子101の前端面に形成する点以外は、上述した多孔質保護層91a〜91dの形成と同様にして行う。ただし、センサ素子101の前端面はマスク110で覆われていないため、多孔質保護層91eはセンサ素子101の前端面の全面を被覆するように形成される。また、多孔質保護層91eは、隣接する多孔質保護層91a〜91dと接続された状態になる。以上により、センサ素子101の上下左右の面及び前端面には多孔質保護層91a〜91eがそれぞれ形成されて多孔質保護部90となる。その後、工程(c)においてセンサ素子101を内部空間112cから引き抜いて、マスク110を取り外す(
図5(b))。以上のように、工程(a)〜(c)を含む第2工程を行って、ガスセンサ100を得る。
【0077】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100の製造方法では、多孔質保護層91(91a〜91d)の形成領域102と隣接する非形成領域103を覆うマスク110が隙間形成部114を有している。この隙間形成部114により、非形成領域103を覆うようにマスク110を工程(a)で配置したときに、非形成領域103のうち形成領域102側の端部(前端)で形成領域102側に開口した隙間116が形成される。また、隙間形成部114の内周面が本体部開口112bよりも高さTだけ上下左右に離れて位置しており、隙間116の開口の高さTは、形成される多孔質保護層91の膜厚tよりも大きい。そのため、プラズマ溶射により形成領域102に形成される多孔質保護層91のうちマスク110側の端部(後端)と、マスク110のうち形成領域102側の端部(前端)とが、接触しにくくなる。これにより、工程(c)でマスク110を取り外す際の多孔質保護層91の剥離をより抑制することができる。また、高さTを膜厚tの2倍以上とすることで、形成領域102に形成される多孔質保護層91のうちマスク110側の端部とマスク110のうち形成領域102側の端部とがより接触しにくくなるため、マスク110を取り外す際の多孔質保護層91の剥離をさらに抑制できる。なお、高さTが大きいほど多孔質保護層91と隙間形成部114とが多孔質保護層91の厚さ方向に離間するため、多孔質保護層91とマスク110とが接触しにくくなる効果が高まる。また、高さTは距離W未満であればよいが、例えば距離Wの10%以下としてもよいし、膜厚tの40倍以下としてもよい。
【0078】
また、隙間形成部114は、工程(a)でマスク110を配置した状態で、隙間116の開口面に垂直且つ工程(b)で形成する多孔質保護層91の厚さ方向に平行な断面でみたときに、面積Sが0.2mm
2以上となる形状をしている。そのため、隙間116の大きさが十分なものとなり、多孔質保護層91の端部が隙間116の中に入り込むように形成されたとしても、多孔質保護層91とマスク110とが接触しにくい。例えば、
図6において粉末溶射材料134の一部が隙間116a内に入り込むことで、多孔質保護層91aが非形成領域103aの一部も被覆する場合がある。このような場合でも、面積Sが大きいほど、多孔質保護層91とマスク110(例えば本体部端面112a)とが接触しにくい。面積Sが0.2mm
2以上であれば、接触しにくい効果が十分なものとなり、工程(c)でマスク110を取り外す際の多孔質保護層91の剥離をより抑制できる。
【0079】
さらに、隙間形成部114は、前端面から本体部端面112aまでが長さMだけ離れており、工程(a)でマスク110を配置した状態で、隙間116の開口面に垂直且つ工程(b)で形成する多孔質保護層91の厚さ方向に平行な断面でみたときに、長さMが1mm以上となる形状をしている。そのため、隙間116内における非形成領域103の露出部分(=マスク110が直に接していない部分)の大きさが十分なものとなり、多孔質保護層91の端部が隙間116の中に入り込むように形成されたとしても、多孔質保護層91とマスク110とが接触しにくい。そのため、面積Sが大きい場合と同様に、マスク110を取り外す際の多孔質保護層91の剥離をより抑制できる。
【0080】
さらにまた、隙間形成部114は、工程(a)でマスク110を配置した状態で、非形成領域103から離間し且つ形成領域102側(前側)に向けて突出する形状をしていてる。そのため、隙間116をより確実に形成することができる。
【0081】
そしてまた、工程(a)〜(c)を行うことでマスク110を取り外す際の多孔質保護層91の剥離をより抑制するから、ガスセンサ100の歩留まりが向上する。
【0082】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0083】
例えば、上述した実施形態では、隙間116a〜116dは
図6,7の断面において四角形状の領域としたが、これに限られない。
図8〜10は、変形例のマスク210,310,410の部分断面図である。なお、マスク210〜410は、隙間形成部214〜314の形状が隙間形成部114と異なる点以外は、上述したマスク110と同じ構成をしている。そのため、マスク210〜410のうちマスク110と同じ構成要素については同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。また、
図8〜10は、いずれも
図6と同じ断面の断面図であり、センサ素子101の上面における形成領域102aと非形成領域103aとの境界周辺を図示している。
【0084】
図8に示すように、変形例のマスク210の隙間形成部214aは、本体部112から前方に突出しており、その下面は断面が楕円(又は円)の円弧状をした曲面に形成されている。なお、隙間形成部214aの下面は下側前方に膨らんだ形状をしている。このマスク210が工程(a)で配置されると、隙間形成部214aにより、非形成領域103aのうち形成領域102a側の端部(前端)で形成領域102a側に開口した隙間開口217aを有する隙間216aが形成される。なお、この隙間216aの面積Sは、高さT×長さMの四角形の領域から、楕円の1/4形状の部分を除いた面積となるため、面積S=(高さT×長さM)−(π×高さT×長さM×1/4)となる。
【0085】
図9に示すように、変形例のマスク310の隙間形成部314aは、本体部112から前方に突出しており、その下面は断面が楕円(又は円)の円弧状をした曲面に形成されている。なお、隙間形成部314aの下面は、隙間形成部214aとは逆に上側後方に窪んだ形状をしている。このマスク310が工程(a)で配置されると、隙間形成部314aにより、非形成領域103aのうち形成領域102a側の端部(前端)で形成領域102a側に開口した隙間開口317aを有する隙間316aが形成される。なお、この隙間216aの面積Sは、楕円の1/4形状の面積となるため、面積S=(π×高さT×長さM×1/4)となる。
【0086】
図10に示すように、変形例のマスク410の隙間形成部414aの下面は、断面が上側前方から下側後方に向かう直線状をした平面(斜面)に形成されている。このマスク410が工程(a)で配置されると、隙間形成部414aにより、非形成領域103aのうち形成領域102a側の端部(前端)で形成領域102a側に開口した隙間開口417aを有する隙間416aが形成される。なお、この隙間416aの面積Sは、三角形の面積となるため、面積S=(高さT×長さM×1/2)となる。
【0087】
図8〜
図10に示した変形例のマスク210〜410においても、高さT、長さM、面積Sをそれぞれ上述したマスク110と同様に調整すれば、上述した実施形態と同様に、それぞれに対応した効果が得られる。なお、図示は省略したが、変形例のマスク210〜410では、センサ素子101の下面側や左右面側に形成される隙間(上述した実施形態の隙間116b〜116dに相当)も、それぞれ隙間216a〜416aと同じ形状をしている。
【0088】
図8〜10に示した変形例のマスク210〜410以外でも、少なくとも高さTが膜厚tより大きくなるような隙間を形成できれば、マスク110はどのような形状であってもよい。例えば
図8,9における隙間形成部214a,314aの下面は断面視で楕円の円弧状としたが、他の曲線状としてもよい。あるいは、隙間形成部のうち非形成領域103に対向する面(例えば隙間形成部114a〜414aの場合は下面)が断面視で直線と曲線との組み合わせからなる形状としてもよい。また、マスク210〜410では、隙間形成部214a〜414aの下面の非形成領域103aからの高さが、後端に向かうほど小さくなる傾向にあるものとしたが、これに限られない。例えば、隙間形成部の下面の非形成領域103aからの高さが、後端に向かうほど大きくなる傾向にあってもよい。すなわち、隙間の形状が、隙間の開口の高さTよりも高い部分が存在するような形状をしていてもよい。また、隙間形成部の下面の非形成領域103aからの高さが、後端に向かう途中で大きくなり(又は小さくなり)さらに後端に向かうと小さくなる(又は大きくなる)傾向にあってもよい。
【0089】
上述した実施形態では、面積Sが0.2mm
2以上としたが、これに限らず面積Sは0mm
2超過であればよい。ただし、上述した効果が得られるため、0.2mm
2以上とすることが好ましい。また、0.3mm
2以上、0.4mm
2以上としてもよい。特に限定するものではないが、面積Sは例えば100mm
2以下としてもよい。
【0090】
上述した実施形態では、長さMは1mm以上としたが、これに限らず長さMは0mm超過であればよい。ただし、上述した効果が得られるため、1mm以上とすることが好ましく、2mm以上、3mm以上としてもよい。長さMは、本体部112とセンサ素子101の非形成領域103とが十分接触して互いの位置関係が安定するよう、非形成領域103の長手方向の長さ未満の範囲で適宜定めることができる。特に限定するものではないが、長さMは例えば30mm以下としてもよい。
【0091】
上述した実施形態では、工程(b)で多孔質保護層91a,91bを形成し、多孔質保護層91c,91dを形成し、多孔質保護層91eを形成するものとしたが、多孔質保護層91a〜91eの形成順はこれに限らず、どのような順序で形成してもよい。また、工程(b)では多孔質保護層91a〜91dを形成し、工程(c)でマスク110を取り外した後に、多孔質保護層91eを形成してもよい。
【0092】
上述した実施形態では、工程(a)でマスク110を配置した状態で形成される隙間116a〜116dは、いずれも高さT,長さM,面積Sの値が同じであるものとしたが、これに限られない。また、
図6,7における隙間116a〜116dの形状はいずれも同じ四角形状としたが、これに限らず隙間116a〜116dのうち1以上が他と異なる形状であってもよい。また、膜厚tについても、多孔質保護層91a〜91dのうち1以上が他と異なる値であってもよい。
【0093】
上述した実施形態では、マスク110を用いてプラズマ溶射により多孔質保護層91を形成するものとしたが、被膜を形成するものであればよい。例えば、形成する被膜は多孔質体に限られない。また、外側ポンプ電極23など保護層以外の被膜を形成してもよい。
【0094】
上述した実施形態では、マスク110は隙間形成部114a〜114dを有するものとしたが、これに限らず隙間形成部114a〜114dのうち少なくとも1つを有するものであればよい。また、マスク110は底部113を有するものとしたが、底部113を備えず内部空間112cが後端側に開口していてもよい。なお、この場合、マスク110が非形成領域103の全てを覆う必要はなく、例えば工程(a)でセンサ素子101がマスク110の内部空間112cを貫通するように配置してもよい。このとき、103の後端側の領域の一部がマスク110よりも後方に露出することになるが、露出した部分は形成領域102から遠い領域である。そのため、プラズマガン120のノズル126aの形状や向き、マスク110の前後方向の長さなどによっては、露出していても問題にはならない。
【0095】
上述した実施形態では、マスク110は内部空間112cにセンサ素子101が挿入されてセンサ素子101を固定でき、センサ素子101の上下左右の非形成領域103a〜103dを同時に覆うものとしたが、これに限られない。例えば、マスク110が隙間形成部とそれよりも厚い平板状の部材とを有する略板状の部材であってもよい。この場合、工程(a)では、非形成領域103a〜103dのいずれか1つを覆うように、センサ素子101の表面上にマスクを載置して、工程(b)で対応する多孔質保護層91を形成すればよい。そして、多孔質保護層91を2面以上に形成する場合には、マスクの載置面を変更して工程(a),(b)を適宜繰り返せばよい。
【0096】
上述した実施形態では、コーティング層24は、センサ素子101の上面及び下面に形成されているものとしたが、これに限られない。センサ素子101の表面のうち、多孔質保護層91c〜91eが形成される領域のうち1以上にコーティング層が形成されていてもよい。あるいは、センサ素子101がコーティング層24を備えないものとしてもよい。
【0097】
上述した実施形態では、コーティング層24の表面の算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとすることで、多孔質保護層91a,91bがセンサ素子101と密着しやすくなることを説明したが、センサ素子101の表面のうち多孔質保護層91が形成される領域の算術平均粗さRaが2.0〜5.0μmであればよい。例えば、センサ素子101がコーティング層24を備えない場合でも、センサ素子101の本体(層1〜層6)の表面の算術平均粗さRaが2.0〜5.0μmであればよい。この場合、例えばセンサ素子101の本体の表面をサンドブラストなどで荒らすことで、算術平均粗さRaを2.0〜5.0μmとしてもよい。
【0098】
上述した実施形態では、多孔質保護部90は多孔質保護層91a〜91eを有するものとしたが、これに限られない。多孔質保護部90は多孔質保護層91a〜91dのうち1以上を有すればよい。例えば、上述した実施形態において多孔質保護層91eを備えないものとしてもよい。また、また、多孔質保護層91a〜91dはいずれもセンサ素子101の前端から距離Lまでを覆うものとしたが、これに限られない。例えば、多孔質保護層91a〜91dのうち1以上が、他とは長手方向の形成長さ(本実施形態における距離L)が異なっていてもよい。この場合でも、工程(a)でマスク110を配置したときに上述した隙間116と同様の隙間が非形成領域103のうち形成領域102側に形成されるように、マスク110の形状を調整すればよい。
【0099】
上述した実施形態では、距離Lはセンサ素子101の幅及び厚さよりも大きい値であるものとしたが、これに限られない。例えば距離Lがセンサ素子101の幅及び厚さの少なくとも一方よりも小さくてもよい。
【0100】
上述した実施形態では、ガスセンサ100の製造方法として説明したが、被膜の製造方法としてもよい。
【実施例】
【0101】
以下には、ガスセンサを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1〜6が本発明の実施例に相当し、実験例7が比較例に相当する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0102】
[実験例1]
実験例1として、多孔質保護部90が多孔質保護層91aのみを備える点以外は上述した実施形態のガスセンサ100と同様のガスセンサを作製した。まず、第1工程では、上述した実施形態のガスセンサ100の製造方法に従って、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmのセンサ素子101を作製した。なお、センサ素子101を作製するにあたり、コーティング層24を形成するためのペーストは、以下のように調整した。原料粉末(アルミナ粉末)の粒径をD50=5μm,体積割合を10vol%とし、バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール)を40vol%とし、助溶剤(アセトン)を45vol%とし、分散剤(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル)を5vol%としてこれらを調合し、ポットミル混合機の回転数を200rpmとして3時間混合して、ペーストの調整を行った。また、作製したセンサ素子101についてコーティング層24の膜厚を測定したところ、いずれも約10〜20μmであった。また、コーティング層24a,24bの表面の算術平均粗さRaはいずれも約2.4μmであった。なお、上記のセンサ素子101の寸法は、コーティング層24を含んだ寸法である。
【0103】
第2工程では、センサ素子101の表面に、多孔質保護層91aを形成し、実験例1のガスセンサとした。具体的には、まず、工程(a)で上述した実施形態と同様にセンサ素子101の非形成領域103aを覆うようにマスク110を配置した。なお、距離Lは、10mmとした。このとき、隙間形成部114aにより、
図6と同じ断面で高さT=5.0mm、長さM=3.0mm、面積S=15.0mm
2の四角形状の隙間116aが形成された。なお、マスク110の材質は、金属とした。
【0104】
次に、工程(b)でプラズマガン120を用いて多孔質保護層91aを形成領域102aに形成した。多孔質保護層91aを形成するプラズマ溶射の条件は、以下のようにした。プラズマ発生用ガス130として、アルゴンガス(流量50L/min)と水素(流量10L/min)とを混合したものを用いた。アノード126とカソード128との間に印加する電圧は、70Vの直流電圧とした。電流は500Aであった。粉末溶射材料134としては、粒径分布が10μm〜30μmの範囲であるアルミナ粉末を用いた。粉末溶射材料134の供給に用いるキャリアガスは、アルゴンガス(流量4L/min)とした。距離Wは、200mmとした。また、プラズマ溶射は、大気及び常温の雰囲気にて行った。プラズマガン120の溶射の向き(ノズル126aの向き)は、センサ素子101における多孔質保護層91aの形成面に対して垂直とした。形成された多孔質保護層91aの膜厚tは、0.5mmであった。
【0105】
そして、工程(c)でマスク110を取り外して、実験例1のガスセンサを得た。工程(c)の後の多孔質保護層91aにおけるマスク110近傍に位置していた部分(形成領域102aのうち非形成領域103a付近)を確認したところ、剥離は生じていなかった。
【0106】
[実験例2]
実験例1における隙間形成部114aの形状を変更して、工程(a)でマスク110を配置した状態で、
図6と同じ断面で高さT=3.0mm、長さM=5.0mm、面積S=15.0mm
2の四角形状の隙間116aが形成されるようにした点以外は、実験例1と同様の工程を行い、実験例2のガスセンサを得た。実験例2においても、実験例1と同様に多孔質保護層91aの剥離の有無を調べたところ、剥離は生じていなかった。
【0107】
[実験例3]
実験例1における隙間形成部114aの形状を変更して、工程(a)でマスク110を配置した状態で、
図6と同じ断面で高さT=1.0mm、長さM=3.0mm、面積S=3.0mm
2の四角形状の隙間116aが形成されるようにした点以外は、実験例1と同様の工程を行い、実験例3のガスセンサを得た。実験例3においても、実験例1と同様に多孔質保護層91aの剥離の有無を調べたところ、剥離は生じていなかった。
【0108】
[実験例4]
図10に示したマスク410を用いた点以外は、実験例1と同様の工程を行い、実験例3のガスセンサを得た。なお、工程(a)でマスク410を配置した状態で、隙間形成部414aにより、
図10と同じ断面で高さT=1.0mm、長さM=3.0mm、面積S=1.5mm
2の三角形状の隙間416aが形成された。実験例4においても、実験例1と同様に多孔質保護層91aの剥離の有無を調べたところ、剥離は生じていなかった。
【0109】
[実験例5]
図9に示したマスク310を用いた点以外は、実験例1と同様の工程を行い、実験例5のガスセンサを得た。なお、工程(a)でマスク310を配置した状態で、隙間形成部314aにより、
図9と同じ断面で高さT=1.0mm、長さM=3.0mm、面積S=約2.4mm
2の隙間316aが形成された。実験例5においても、実験例1と同様に多孔質保護層91aの剥離の有無を調べたところ、剥離は生じていなかった。
【0110】
[実験例6]
図8に示したマスク210を用いた点以外は、実験例1と同様の工程を行い、実験例6のガスセンサを得た。なお、工程(a)でマスク210を配置した状態で、隙間形成部214aにより、
図8と同じ断面で高さT=1.0mm、長さM=3.0mm、面積S=約0.6mm
2の隙間216aが形成された。実験例6においても、実験例1と同様に多孔質保護層91aの剥離の有無を調べたところ、剥離は生じていなかった。
【0111】
[実験例7]
実験例1における隙間形成部114aの形状を変更して、工程(a)でマスクを配置した状態で、
図6と同じ断面で隙間116aが形成されない(高さT=0mm、長さM=0mm、面積S=0mm
2)ようにした点以外は、実験例1と同様の工程を行い、実験例7のガスセンサを得た。実験例7では、工程(c)でマスクを取り外した際に、多孔質保護層91aのうちマスクの前端と接していた部分が剥離した。
【0112】
実験例1〜7における膜厚t,高さT,長さM,面積S,多孔質保護層91aの剥離の有無を表1にまとめて示す。なお、表1では、実験例1〜6における隙間の形状に対応する図番号も併せて示した。
【0113】
【表1】
【0114】
実験例1〜7の結果から、非形成領域103aのうち形成領域102a側の端部で形成領域102a側に開口した隙間を形成するようにマスクを配置し、且つ隙間の開口の高さT>膜厚tであることで、マスクを取り外す際の多孔質保護層91aの剥離をより抑制できることが確認できた。
【0115】
なお、マスクの材質をテフロンとした点以外は実験例1〜6の各々と同様にしてガスセンサを作製した場合も、実験例1〜6と同様に多孔質保護層91aの剥離は生じなかった。また、マスクの材質をテフロンコーティングしたステンレス鋼とした点以外は実験例1〜6の各々と同様にしてガスセンサを作製した場合も、実験例1〜6と同様に多孔質保護層91aの剥離は生じていなかった。