【実施例】
【0028】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によって限定されない。
各測定は、以下の方法で行った。
【0029】
〔炭素繊維束の配向(配向関数):f
φ〕
接合前の炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の接合面をマイクロスコープで100倍に拡大して、任意の視野に観察される繊維束50本について、分度器を使用して振動溶着する時の振動方向と繊維束の長さ軸のなす角である配向角(φ)を測定し、その二乗平均(<cos
2φ>)を求め、下記(1)式で算定した。
f
φ=(3<cos
2φ>−1)/2 (1)
完全一軸配向のf
φは1であり、完全垂直配向のf
φは−0.5、f
φ=0は完全ランダムを表す。
【0030】
〔接合面の表面粗さ:面粗度〕
金属成形品について、サンダーを掛けた後、磨き粉末は、エア噴き付けやウエスで拭き取られた。粗さが調整された接合面の粗さを、株式会社ミツトヨ製SURFTEST SV−600形を使用して、JIS B0601:1994−付属書JAに準じて、触針式により10mmトレースして、十点平均粗さRz(単位:μm)を測定した。Rzを面粗度とした。
【0031】
〔曲げ最大荷重〕
23℃に温度調節された試験室中で、下側に支点間距離350mmとした2点の支点(15R)、可動の上側の中央に幅60mmの圧子(75R)の3点曲げ治具を装備した島津製作所製オートグラフAG−X100形に、圧子側が金属で支持側が繊維強化熱可塑性樹脂成形品となるように接合体を無効束にて支持した。クロスヘッドを5mm/分で変位して、荷重−変位関係を得て、曲げ最大荷重を求めた。
【0032】
[実施例1]
230℃、21.2N荷重下におけるマスメルトフローレートが、60.3g/10分の無水マレイン酸変性されたポリプロピレン樹脂を、シリンダー温度230℃に温度調節された押出機のホッパーに投入して、溶融した変性ポリプロピレン樹脂を含浸台に供給した。一方、東邦テナックス社製炭素繊維UTS50(12000本フィラメント)を加熱開繊して含浸台を通して、出口ダイから30m/分で引き抜き、回転ロールで厚さ0.14mm、幅15mmのテープ状に賦形した。炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂テープ中の樹脂分率は、65質量%であった。
テープを30mmにカットして得られた短冊状の炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂テープ416gを、縦400mm、横400mm、高さ30mmのキャビティに均一に分散した。キャビティを230℃に加熱後、1MPaのプレス圧を掛けて5分間保持した後、50℃まで冷却して、繊維長30mm、単繊維数12000本からなる繊維束が板面内にランダムに配向した厚さ2.1mmの炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂プリプレグシートを得た。
得られた炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂プリプレグシート中央部から縦430mm、横150mmの形状に切削して、得られたブランク材を遠赤外線加熱装置で220〜230℃に予熱した。予熱されたブランク材を130℃に温度制御されたハット形キャビティ金型にセットして、1分間3MPaの加圧下に保持した後、脱型して、
図2(断面図)、
図3(側面図)に示した炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂のハット形成形品を得た。
図2で21は、振動溶着の接合面となるツバ部である。また、
図2、
図3で、長さを表す数値の単位は、mmである。
【0033】
厚さ2mmのアルミニュウム合金5025(アルミニュウム−マグネシュウム合金)板金をプレス加工して、
図4(断面図)、
図5(側面図)に示したハット形のアルミニュウム合金成形品を得た。
図4で41は、振動溶着の接合面となるツバ部である。また、
図4、
図5で、長さを表す数値の単位は、mmである。
ハット形の炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂成形品とハット形のアルミニュウム合金成形品のツバ部のバリ取りした。その後、アルミニュウム合金のツバ部の接合面を#80サンダー処理を行い、表面を荒らした。表面の十点平均粗さRzは、5.0μmであった。
【0034】
日本エマソン社製振動溶着機M−824HJ形の固定型のホルダーに金属成形品を、可動型のホルダーに炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂成形品をセットした。16KNの荷重下、接合面に振幅1.5mm、振動数240Hzにて20秒間摩擦振動した。接合した状態で振動を停止した後、5分間保持冷却後、ホルダーから接合品を取り出した。
図6に繊維強化熱可塑性樹脂成形品と金属成形品の振動溶着模式図を示す。ハット形金属成形品62を下に、ハット形繊維強化熱可塑性成形品61を上の治具にセットし、ツバ部を対称に圧着して、ツバの軸方向に向かい合うように相対振動することを示している。矢印は、振動方向を表している。
図7に接合部の断面図を示す。ハット形繊維強化熱可塑性樹脂成形品71とハット形金属成形品72が振動溶着により、一体化し形成された閉断面を示している。界面には73のツバ部が溶融して接合部を形成し、一部バリとして接合面からはみ出している。
図8に接合部の側面図を示す。ハット形繊維強化熱可塑性樹脂成形品81とハット形金属成形品82が振動溶着により、一体化し形成された部材の側面図を示している。83は81のツバ部表面が溶融して形成した接合部を示している。
【0035】
得られた接合体の曲げ最大荷重を測定した。最大荷重から接合力を評価した。
図9に曲げ試験の模式図を示す。一体化部品を金属成形品が下側になるように、2点の支点(91)に乗せ、上側の炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の中央部を一定速度で圧子(92)を下降させて、荷重―変位の関係を試験している。変位と共に荷重が上昇し、接合界面に発現するせん断力で接合が破断すると荷重は低下する。
接合品の曲げ最大荷重は13.4KNであり、高い接合強度を示した。破壊は、支点付近の接合面で起こっており、接合界面のせん断破壊であった。接合部の破断面を観察したところ、アルミニュウム合金の表面に部分的に炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂が観察された。炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂とアルミニュウム合金という異種材の溶融接合にもかかわらず、炭素繊維強化ポリプロピレンが凝集破壊する程、高い接合力があることが分かった。
【0036】
[実施例2〜16]
実施例1の構成要件を表1に示したようにそれぞれ変更した以外は、全く同様にして、試料作製と評価試験を行った。それぞれについて、接合強度の尺度である最大荷重を表1に合わせて示した。
なお、金属成形品のツバの接合面の面粗度は、サンドペーパーの#20〜#8000を選択して調節した。繊維束の単繊維数はプリプレグテープ作製時のロービング銘柄により、炭素繊維含有質量分率は樹脂/炭素繊維比、長さはテープのカット長を変更して試作した。
また、ポリアミド6樹脂としては、260℃、11.8Nにおけるマスフローレートが32g/10分の東洋紡製T802を、ポリアミド6T共重合体としては、東洋紡製TY502NZを使用した。アルミニュウム合金6065は、アルミニュウム−マグネシュウム−珪素合金であり、アルミニュウム合金3003は、アルミニュウム−マンガン合金であり、高張力鋼は、引張り強度が780MPaの高張力鋼を使用した。
【0037】
[比較例1〜5]
構成要件を表2に示したように変更した以外は、実施例1と全く同様にして得られた炭素繊維強化熱可塑性樹脂のハット形成形品と金属ハット形成形品を実施例1と全く同様にして接合を試みた。
比較例3は、次のようにして成形品を得た。実施例1と全く同様にして得たプリプレグテープを外枠が長さ450mm×450mmの金属製ラップリールの長手方向にテープ幅の半分が重なるように一列に6層巻きつけ、金型にセットした。これを230℃に温度制御したプレス機の加圧盤にて、15分間、5MPaにて圧縮した後、加圧盤を開き、金型を水冷した加圧盤の間に移動して、30分間、5MPaの圧縮下で冷却した後、金型から成形品を取り出した。得られた一方向強化の成形品から150mm×430mm(繊維の長さ軸方向が150mm)を2枚切り出して、繊維長さ軸を同じ方向に重ねて、UDブランク(0度/0度)とした。得られたUDブランク材を実施例1のブランク材と同様に、予備加熱し、圧縮成形して、一方向強化の炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂のハット形成形品を得た。
比較例4は、比較例3と全く同様にして得た一方向強化の成形品2枚から、150mm×430mm(繊維の長さ軸方向が150mm)と430mm×150mm(繊維の長さ軸方向が430mm)を切り出し、繊維長さ軸が直交するように(0度/90度)重ねて、得られたUDブランク材を実施例1のブランク材と同様に、予備加熱し、圧縮成形して、直交強化の炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂のハット形成形品を得た。
比較例5は、次のようにして成形品を得た。230℃、21.2N荷重下におけるマスメルトフローレートが、60.3g/10分の無水マレイン酸変性されたポリプロピレン樹脂を、シリンダー温度230℃に温度調節された押出機のホッパーに投入して、溶融した変性ポリプロピレン樹脂をTダイから押し出し、チルロールで引き取り冷却して、幅22cm、厚さ約10μmのフイルムを得た。目付け36g/m
2の連続炭素繊維マットの両面に、得られた変性ポリプロピレンフイルムをそれぞれ3層配置して、フッ素樹脂シートにはさみ230℃で5分プレス成形した後、成形品を取り出し、室温まで放冷して、厚さ約100μmの樹脂が含浸したプリプレグシートを得た。得られたプリプレグシートを20枚重ねて、再度230℃で5分プレスして、厚さ2mmのプリプレグシートを得た。得られたプリプレグシートから150mm×430mmの形状で切削し、ブランク材とした。実施例1のブランク材と同様に、ブランク材を予備加熱し、圧縮成形して、炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂のハット形成形品を得た。
比較例では、炭素繊維強化熱可塑性樹脂は十分溶融せず、接合できないか、または最大荷重は低く、要求に未達であった。
【0038】
【表1】
【表2】