(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、前記血液回路への患者の血液の流入が停止された状態において前記補液供給手段に補液を供給させたときに、前記圧力測定手段による圧力の測定値が低下しなかった場合に、当該測定値が当該値と異なることを報知するように構成されている、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の透析システム。
前記血液回路への患者の血液の流入が停止された状態において前記血液回路に補液を供給させたときに、当該血液回路における圧力の測定値が低下しなかった場合に、当該測定値が当該値と異なることを報知するステップをさらに備える、請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の方法。
血液浄化器と、前記血液浄化器に血液を流入し、また、前記血液浄化器から血液を流出させるための血液回路と、前記血液浄化器に新鮮透析液を流入し、また、前記血液浄化器から使用済透析液を排出するための透析液回路とを備える透析システムのコンピュータに、請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載された方法を実行させるためのプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
【0023】
[第1の実施の形態]
<1.透析システムの構成>
図1は、透析装置の第1の実施の形態を含む透析システムの一例の構成を示す図である。
図1を参照して、透析システムの構成を説明する。
【0024】
透析システム101は、血液透析器30を有する透析ユニット100と透析装置60とを含む。血液透析器30は、たとえば中空糸膜からなる半透膜等を含む。透析ユニット100は、また、上流側血液ラインBC1および下流側血液ラインBC2を有する血液回路BCと、上流側透析液ラインDC1および下流側透析液ラインDC2を有する透析液回路DCと、補液回路SCとを備える。
【0025】
血液透析器30の血液入口BF1には、上流側血液ラインBC1の一端が連結される。上流側血液ラインBC1の他端には、動脈用穿刺針1が設けられている。動脈用穿刺針1は、患者P1の動静脈シャント(動静脈シャントの、非透析時における血流の下流側の部位)に穿刺される。
【0026】
血液透析器30の血液出口BF2には、下流側血液ラインBC2の一端が連結される。下流側血液ラインBC2の他端には、静脈用穿刺針2が設けられている。静脈用穿刺針2は、患者P1の静脈に穿刺される。
【0027】
血液回路BCには、血液を送るための血液用ポンプ23と、動脈側ドリップチャンバ41と、静脈側ドリップチャンバ42とが設けられている。血液回路BCでは、患者P1の血液が、血液用ポンプ23によって、動脈から、動脈側ドリップチャンバ41を介して血液透析器30へ導入され、その後、静脈側ドリップチャンバ42を介して、静脈へ戻される。
【0028】
動脈側ドリップチャンバ41と静脈側ドリップチャンバ42のそれぞれには、患者P1から取り出されて血液回路BC上にある血液の、圧力を測定するための上流側圧力測定装置21と下流側圧力測定装置22とが設けられている。
【0029】
血液透析器30の透析液入口DF1には、上流側透析液ラインDC1の一端が連結される。上流側透析液ラインDC1の他端は、透析装置60に連結される。これにより、透析装置60から透析液入口DF1に、新鮮な透析液が導入される。
【0030】
血液透析器30の透析液出口DF2には、下流側透析液ラインDC2の一端が連結される。下流側透析液ラインDC2の他端は、透析装置60に連結される。これにより、使用後の透析液が透析液出口DF2から透析装置60へと排出される。
【0031】
透析装置60は、さらに、補液回路SCを介して、動脈側ドリップチャンバ41に、新鮮な透析液を供給(注入)する。これにより、動脈側ドリップチャンバ41では、患者P1の血液に、補液の一例としての新鮮な透析液が供給される。
【0032】
透析装置60は、透析液ポンプ24を含む。また、補液回路SC上には、透析装置60から透析液を動脈側ドリップチャンバ41へ送るための補液用ポンプ25が設けられている。透析液ポンプ24と補液用ポンプ25の動作は、上流側透析液ラインDC1を通して血液透析器30へ送られる透析液の量と、補液回路SCを通して動脈側ドリップチャンバ41へ送られる透析液(補液)の量との和が、下流側透析液ラインDC2を通して透析装置60へ戻される透析液の量と等しくなるように、制御される。なお、除水設定がされる場合には、上流側透析液ラインDC1を通して血液透析器30へ送られる透析液の量と、補液回路SCを通して動脈側ドリップチャンバ41へ送られる透析液(補液)の量と除水設定量との和が、下流側透析液ラインDC2を通して透析装置60へ戻される透析液の量と等しくなるように制御される。
【0033】
<2.本開示における前提>
透析治療の準備段階で、透析システム101では、血液透析器30の上流側と下流側が、鉗子などによって、補液回路SCが遮断される場合がある。
図1中の点CLは、通常遮断され得る補液回路SC上の位置の一例を示す。
【0034】
第1の実施の形態は、透析開始時に補液用ポンプ25が動作を開始しても、点CLにおいて補液の流れが遮断されたままとなっていることによって、実際には血液回路BCへの補液の注入が行なわれない、という事態の発生がより確実に検出されることを目的の一つとする。このことから、第1の実施の形態では、「補液用ポンプ25が動作すること」と、「補液回路SCから血液回路BCへ補液が実際に注入されること」とは、区別して言及される。
【0035】
<3.ハードウェア構成>
図2は、第1の実施の形態の透析システム101のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2を参照して、透析システム101のハードウェア構成を説明する。
【0036】
透析システム101は、上述した、上流側圧力測定装置21、下流側圧力測定装置22、血液用ポンプ23、透析液ポンプ24、および補液用ポンプ25に加えて、
図2に示されるように、当該透析システム101の動作を制御するコントローラ10と、記憶装置11とを含む。
【0037】
コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む。記憶装置11は、たとえば、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記録媒体によって実現される。記憶装置11の記憶領域は、コントローラ10のプロセッサが実行するプログラムを記憶するためのプログラム記憶領域111と、当該プログラムの実行に利用される各種のデータ(後述する「目標圧力値」等)を記憶するためのデータ記憶領域112とを含む。
【0038】
透析システム101は、さらに、通信装置12と、操作器13と、表示装置14とを含む。通信装置12は、透析システム101が他の機器と通信するために設けられ、たとえば無線送受信装置からなる。操作器13は、透析システム101が外部からの操作を受け付けるために設けられる。そして、操作器13は、たとえば、操作ボタン、および/または、タッチパネルによって実現される。表示装置14は、透析システム101が情報を表示するために設けられる。そして、表示装置14は、たとえば液晶表示装置やプラズマディスプレイ等によって実現される。
【0039】
コントローラ10と、記憶装置11と、通信装置12と、操作器13と、表示装置14とは、透析装置60を構成する。記憶装置11は、透析装置60の本体に固定されていてもよいし、当該本体に対して着脱可能であってもよい。
【0040】
コントローラ10は、上流側圧力測定装置21、下流側圧力測定装置22、血液用ポンプ23、透析液ポンプ24、および補液用ポンプ25に電気的に接続されている。上流側圧力測定装置21および下流側圧力測定装置22は、コントローラ10に、それぞれの測定値を入力する。そして、コントローラ10は、血液用ポンプ23、透析液ポンプ24、および補液用ポンプ25の動作を制御する。
【0041】
<4.補液回路の開閉と圧力の測定値との関係>
(上流側圧力測定装置21)
図3は、補液用ポンプ25の駆動開始前後の上流側圧力測定装置21の測定値の一例を示す図である。
図3では、縦軸は圧力の測定値を示し、横軸は時間を示す。
図3において、測定値は、線L1によって示されている。また、
図3において、時刻T1は、補液用ポンプ25の駆動が開始された時刻を示す。
【0042】
線L1によって示されるように、上流側圧力測定装置21の測定値は、時刻T1から時刻T2までの間、初期値の値P1から値P2まで上昇している。この上昇は、血液回路BCへの補液の注入の開始時に、一時的に、血液透析器30内で血液が濃縮されることによる。
【0043】
より具体的には、補液用ポンプ25の駆動が開始することにより、血液回路BCへの補液の注入が開始される。これにより、血液が、血液透析器30で、補液の注入速度と同じ速度でろ過される。補液用ポンプ25の駆動初期であって、血液回路BCに注入された補液が血液透析器30に到達するまでは、血液透析器30においてろ過される血液は補液によって希釈される前の血液である。このことから、血液透析器30では、補液が到達するまでは、ろ過によって血液が濃縮される。以上より、補液用ポンプ25の駆動初期では、血液透析器30において血液が濃縮され、これにより、上流側圧力測定装置21の測定値が上昇する。
【0044】
なお、補液用ポンプ25の駆動初期には、動脈側ドリップチャンバ41に補液が注入されることによって、血液回路BC内の液体の流量が増加する。当該流量の増加も、上流側圧力測定装置21の測定値の増加の一因であると考えられる。
【0045】
時刻T2で値P2まで上昇した後、上流側圧力測定装置21の測定値は、時刻T3に向けて、値P2から値P3へと下降している。この下降は、上記の血液の濃縮の影響が緩和されたことによると考えられる。
【0046】
つまり、時刻T3以降では、血液回路BCに注入された補液によって希釈された血液が血液透析器30に到達すると考えられる。希釈された血液が血液透析器30に到達すると、上記の血液の濃縮が緩和される。これにより、時刻T2以降、上流側圧力測定装置21の測定値が低下する。
【0047】
(下流側圧力測定装置22)
図4は、補液用ポンプ25の駆動開始前後の下流側圧力測定装置22の測定値の時間の経過に伴う変化の一例を示す図である。
図4では、縦軸は圧力の測定値を示し、横軸は時間を示す。
図4において、測定値は、線L2によって示されている。また、
図4では、
図3と同様に、時刻T1は、補液用ポンプ25の駆動が開始された時刻を示す。
【0048】
線L2によって示されるように、下流側圧力測定装置22の測定値は、時刻T1から少し遅れた時刻T4で、上昇を開始している。そして、時刻T4の後、下流側圧力測定装置22の測定値は、値P4まで上昇する(時刻T4〜T5)。
【0049】
当該測定値が時刻T1から少し遅れて上昇することは、
図3の説明において言及されたように濃縮された血液が静脈側ドリップチャンバ42に到達するまでに多少の時間を要することに関連する。つまり、補液用ポンプ25の駆動開始後、上記のように濃縮がされた血液が静脈側ドリップチャンバ42に到達すると、下流側圧力測定装置22の測定値が上昇を開始する。補液用ポンプ25の駆動が開始してから濃縮がされた血液が静脈側ドリップチャンバ42に到達するまでの時間が、
図4の時刻T1から時刻T4に相当すると考えられる。
【0050】
時刻T5の後、線L2に示されるように、下流側圧力測定装置22の測定値は、下降している(時刻T5〜T6)。時刻T5〜T6の下降は、
図3の時刻T2〜T3の下降と同様に、上記のように、希釈された後に血液透析器30でろ過された血液が、静脈側ドリップチャンバ42に到達したことによると考えられる。
【0051】
線L2では、時刻T6以降の下流側圧力測定装置22の測定値は、初期値P1(補液用ポンプ25の駆動前の測定値)と同程度の値に戻っている。これは、動脈側ドリップチャンバ41への透析液の流入によって当該チャンバ内での血液の圧力が上昇しても、その影響は血液回路BCの血液透析器30までの部分で概ね解消され、血液回路BCの血液透析器30より下流側の部分には影響を与えないことによると考えられる。つまり、透析液出口DF2近傍で局所的に血液濃度が上昇しても、定常状態では、血液回路BC内の血液は、透析液入口DF1近傍で十分に透析液から溶液を供給され、これにより、血液濃度は初期値に戻ると考えられる。
【0052】
(比較例)
図5および
図6は、補液用ポンプ25による補液(透析液)の搬送がなされていないときの、上流側圧力測定装置21および下流側圧力測定装置22のそれぞれの測定値を示す図である。
図5では、上流側圧力測定装置21による測定値が、線L3で示される。
図6では、下流側圧力測定装置22による測定値が、線L4によって示される。なお、
図5には
図3の線L1が、
図6には
図4の線L2が、それぞれ参考として破線で示されている。
【0053】
透析システム101において、たとえば
図1の点CLで鉗子等により補液回路が遮断されたまま補液用ポンプ25が駆動されると、動脈側ドリップチャンバ41への透析液の搬送は行なわれない。このような場合、線L3および線L4に示されるように、上流側圧力測定装置21および下流側圧力測定装置22のそれぞれの測定値は、初期値P1から変化しないことが想定される。
【0054】
透析システム101は、
図5における線L1と線L3との間の違い、および/または、
図6における線L2と線L4との間の違いに基づいて、動脈側ドリップチャンバ41に実際に補液(透析液)が搬送されているかどうかを判断し、そして、その結果を出力する。当該出力に基づいて、透析システム101を用いた透析に従事する作業者は、点CL等において鉗子等によって回路の遮断がなされたままで透析治療が開始されている事態が生じた場合、当該事態を認識することができる。
【0055】
<5.処理の流れ>
図7は、透析システム101を利用した透析治療の処理の一例のフローチャートである。
図7を参照して、透析治療のためにコントローラ10によって実行される処理の内容を説明する。
【0056】
図7に示されるように、コントローラ10は、たとえば操作器13に透析治療の開始の指示を入力されると、まずプライミング(生理食塩水や透析液などの電解質液を用いた、血液回路および血液透析器30の洗浄および充填)を実行する(ステップS100)。
【0057】
プライミングが完了すると、コントローラ10は、治療のために透析システム101内の各装置の駆動を開始する(治療開始:ステップS200)。
【0058】
治療のための透析システム101内の各装置の動作が定常状態に達すると、コントローラ10は、透析システム101内の各装置の状態を監視する(治療監視:ステップS300)。ステップS300では、コントローラ10は、たとえば上流側圧力測定装置21または下流側圧力測定装置22の圧力の測定値が予め定められた閾値を超える等の異常の発生を検出した場合には、その旨の報知等の必要な処理を実行する。
【0059】
操作器13に対して指示が入力される等、透析治療を終了するための条件が成立したと判断すると、コントローラ10は、透析システム101内の各装置の動作を治療終了に向けて制御する(治療終了:ステップS400)。
【0060】
そして、透析治療のための処理が終了する。
図8は、
図7のステップS200(治療開始)の処理のサブルーチンの一例のフローチャートである。
図8を参照して、ステップS200の治療開始時の制御内容を説明する。
【0061】
ステップS100においてプライミングが完了すると、ステップS202で、コントローラ10は、操作器13等を介して透析液ポンプ24および血液用ポンプ23に対する動作開始の指示が入力されたか否かを判断する。そして、コントローラ10は、当該指示がまだ入力されていないと判断すると(ステップS202でNO)、ステップS202に制御をとどめ、当該指示が入力されたと判断すると(ステップS202でYES)、ステップS204へ制御を進める。
【0062】
ステップS204で、コントローラ10は、透析液ポンプ24および血液用ポンプ23の動作を開始させる。そして、制御はステップS206へ進められる。なお、透析液ポンプ24の動作開始の指示とその動作の開始と、血液用ポンプ23の動作開始の指示とその動作の開始とは、別々のタイミングで行なわれてもよい。
【0063】
ステップS206で、コントローラ10は、上流側圧力測定装置21から、圧力の測定値を取得し、そして、データ記憶領域112に記録する。そして、制御はステップS208へ進められる。
【0064】
ステップS208で、コントローラ10は、操作器13等を介して補液用ポンプ25に対する動作開始の指示が入力されたか否かを判断する。そして、コントローラ10は、当該指示がまだ入力されていないと判断すると(ステップS208でNO)、ステップS204に制御をとどめ、当該指示が入力されたと判断すると(ステップS208でYES)、ステップS210へ制御を進める。
【0065】
ステップS210で、コントローラ10は、補液用ポンプ25の動作を開始させる。そして、制御はステップS212へ進められる。
【0066】
ステップS212で、コントローラ10は、上流側圧力測定装置21から、圧力の測定値を取得し、データ記憶領域112に記録し、そして、表示装置14に表示する。そして、制御はステップS214へ進められる。これにより、
図3または
図5に示されたようなグラフのうち、その時点までに取得された上流側圧力測定装置21の測定値が表示装置14に表示される。
【0067】
ステップS214で、コントローラ10は、ステップS210で補液用ポンプ25の動作を開始させてから予め定められた時間が経過したかどうかを判断する。そして、コントローラ10は、予め定められた時間がまだ経過していないと判断すると(ステップS214でNO)、ステップS212へ制御を戻し、予め定められた時間が経過していると判断すると(ステップS214でYES)、ステップS216へ制御を進める。上記の「予め定められた時間」は、血液透析器30の大きさ、補液用ポンプ25の流量、および、血液回路BCにおけるプライミングボリューム等を含む種々の要因によると考えられるが、一般的なシステムでは、たとえば30〜60秒程度である。
【0068】
ステップS216で、コントローラ10は、最新の上流側圧力測定装置21の測定値が、補液用ポンプ25の動作の開始時の測定値(ステップS206で取得され記録された測定値)から予め定められた値以上増加したかどうかを判断する。予め定められた値は、たとえば「目標圧力値」として、データ記憶領域112に格納されている。コントローラ10は、データ記憶領域112から当該値を読み込む。そして、コントローラ10は、予め定められた値以上増加したと判断すると(ステップS216でYES)、制御を
図7の処理へ戻す。これにより、制御はステップS300へ進められる。一方、コントローラ10は、最新の測定値が補液用ポンプ25の動作開始時から予め定められた値以上増加していないと判断すると(ステップS216でNO)、ステップS218へ制御を進める。
【0069】
ステップS218で、コントローラ10は、警告を報知して、ステップS220へ制御を進める。警告とは、たとえば表示装置14におけるメッセージの表示である。
図9は、警告として表示されるメッセージの一例を示す図である。
【0070】
より具体的には、
図9に示された画面140は、グラフ141とメッセージ142とを含む。グラフ141は、実線L01と破線L02とを含む。実線L01は、上流側圧力測定装置21の測定値を示す。破線L02は、測定値に対する理想的な値を示す。グラフ141では、線L01は一定の値を示すのに対し、線L02は値の上昇と下降とを含む。つまり、グラフ141は、上流側圧力測定装置21の測定値が理想的な測定値とは異なることを示す。
【0071】
メッセージ142は、表示されるメッセージの一例として、「補液が正常に行なわれておりません。」という文を示す。これにより、透析システム101において補液の供給(単に、「補液」ともいう)が正常に行なわれていないことが、透析システムにおける作業者に対して伝えられる。
【0072】
図8に戻って、ステップS218で警告を行なった後、ステップS220で、コントローラ10は、補液用ポンプ25を停止させて、ステップS208に制御を戻す。作業者は、たとえば、補液回路SC上で透析液の流れが遮断されていないかどうかを確認し、遮断されていれば遮断を解消するように対処し、そして、操作器13に対して、補液用ポンプ25の動作を開始させるための指示を入力する。これに応じて、コントローラ10は、ステップS208で当該入力を検出し(ステップS208でYES)、ステップS210で、補液用ポンプ25に、動作を開始させる。
【0073】
以上説明された第1の実施の形態の透析システム101では、補液用ポンプ25によって、血液回路BCに、補液として透析液が注入される。なお、透析装置60のコントローラ10は、補液用ポンプ25の駆動を開始させてから予め定められた時間経過後の血液回路BC内の血液の圧力を取得する。そして、コントローラ10は、当該圧力が、補液用ポンプ25の駆動を開始する前の圧力から予め定められた値(目標圧力値)以上増加していることを検出できなければ、警告を行なう。当該警告により、透析システム101における作業者は、補液用ポンプ25が駆動されているにも関わらず実際には血液回路BCへの補液の注入が行なわれていない事態が生じていることを認識することができる。
【0074】
なお、
図8に示された処理では、「目標圧力値」は、予め定められた時間の補液の注入によって血液回路BC内で血液の圧力が上昇することが期待される値である。換言すれば、透析システム101において、補液用ポンプ25による補液の注入の開始から上記「予め定められた時間」が経過した時点とは、「目標圧力値」以上の血液の圧力の上昇が期待される時点である。
【0075】
目標圧力値および予め定められた時間は、たとえば、確実に補液の注入が行なわれている状況下で透析システム101が駆動されたときに取得された、
図3に示されたような上流側圧力測定装置21の測定値に基づいて設定される。より具体的には、目標圧力値および予め定められた時間は、コントローラ10が
図3において時刻T1〜T3の変化として示されたような測定値の変化を検出できるように設定される。
【0076】
たとえば、予め定められた時間は、時刻T1から時刻T3までの時間の長さ以下とされることが好ましい。さらに好ましくは、予め定められた時間は、時刻T1から時刻T2までの時間の長さ以下とされる。
【0077】
そして、目標圧力値は、たとえば、時刻T1から上記のように設定された予め定められた時間が経過したときの線L1上の値と値P1との差以下とされる。たとえば、「時刻T2と時刻T1との差」が予め定められた時間として設定された場合、目標圧力値は、値P2と値P1との差以下となるように設定される。
【0078】
図8に示された処理では、血液回路BC内の圧力は、少なくとも実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれているかどうかを判断するのに利用されればよい。当該処理において、上流側圧力測定装置21等によって測定される血圧回路BC内の圧力の測定値は、表示される必要はない。
【0079】
(変形例1)
コントローラ10は、補液の注入が実際に行なわれているかどうかを、上流側圧力測定装置21の測定値の代わりに、下流側圧力測定装置22の測定値を用いて、判断してもよい。下流側圧力測定装置22の測定値を用いて判断がなされる場合、目標圧力値および予め定められた時間は、上流側圧力測定装置21の測定値が用いられる場合とは異なることが好ましい。より具体的には、目標圧力値および予め定められた時間は、コントローラ10が
図4において時刻T4〜T6までの変化として示されたような測定値の変化を検出できるように設定される。このことから、予め定められた時間は、「時刻T1から時刻T4までの時間の長さ」から「時刻T1から時刻T6までの時間の長さ」の間の長さとなるように、設定されることが好ましい。
【0080】
そして、目標圧力値は、たとえば、時刻T1から上記の予め定められた時間が経過したときの線L2上の値と値P1との差以下とされる。たとえば、
図4において、時刻T5に対応する測定値は、値P4である。したがって、「時刻T1と時刻T5との差」が予め定められた時間として設定された場合、目標圧力値は、値P4と値P1との差以下となるように設定される。
【0081】
(変形例2)
「目標圧力値」として、上昇値の代わりに、補液用ポンプ25の駆動開始から予め定められた時間後に期待される圧力の値そのものが設定されてもよい。この場合、コントローラ10は、たとえばステップS216(
図8参照)で、その時点での上流側圧力測定装置21の測定値が、目標圧力値として設定された値以上であるかどうかを判断する。そして、コントローラ10は、測定値が目標圧力値以上であればそのまま制御を
図7の処理に戻し、測定値が目標圧力値未満であれば制御をステップS218へ進める。
【0082】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態の透析システム101は、上流側圧力測定装置21の測定値を表示装置14に表示するが、血液回路BCへの補液の注入が実際に行なわれているか否かを判断しない。第2の実施の形態では、上流側圧力測定装置21の測定値の表示を見た透析システム101における作業者が、当該判断を行なう。
図10は、第2の実施の形態における
図7のステップS200(治療開始)の処理のサブルーチンの一例のフローチャートである。
【0083】
図10に示されるように、コントローラ10は、ステップS202〜ステップS212の制御を実行する。つまり、コントローラ10は、ステップS202で透析液ポンプ24および血液用ポンプ23の動作開始の指示が入力されたと判断すると(ステップS202でYES)、透析液ポンプ24および血液用ポンプ23の動作を開始させ(ステップS204)、上流側圧力測定装置21の測定値を取得しかつ記録する(ステップS206)。そして、コントローラ10は、ステップS208で補液用ポンプ25の動作開始の指示が入力されたと判断すると(ステップS208でYES)、補液用ポンプ25の動作を開始させ(ステップS210)。そして、コントローラ10は、ステップS212で、上流側圧力測定装置21から測定値を取得し、データ記憶領域112に当該測定値を記録し、そして、表示装置14に当該測定値を表示する。表示装置14には、その時点の測定値に加え、当該測定値の履歴(補液用ポンプ25の動作開始以降取得された複数の測定値)が表示されてもよい。第2の実施の形態では、ステップS212の後、制御はステップS222へ進められる。
【0084】
ステップS222で、コントローラ10は、操作器13に、補液用ポンプ25の駆動の停止の指示が入力されたかどうかを判断する。そして、コントローラ10は、当該指示が入力されたと判断すると(ステップS222でYES)、ステップS224へ制御を進める。一方、コントローラ10は、当該指示が入力されていないと判断すると(ステップS222でNO)、ステップS226へ制御を進める。
【0085】
ステップS224で、コントローラ10は、補液用ポンプ25を停止させて、ステップS208へ制御を戻す。これにより、たとえば、上流側圧力測定装置21の測定値の表示を見た透析システム101における作業者が、異常の発生を認識して補液用ポンプ25の停止を指示した場合、コントローラ10は、当該指示に従って補液用ポンプ25を停止させる。
【0086】
一方、ステップS226で、コントローラ10は、補液用ポンプ25の動作を開始させてから特定の時間が経過したか否かを判断する。「特定の時間」については、後述する。そして、コントローラ10は、まだ特定の時間が経過していないと判断すると(ステップS226でNO)、ステップS212へ制御を戻す。一方、コントローラ10は、特定の時間が経過したと判断すると(ステップS226でYES)、
図7へ処理を戻す。これにより、制御はステップS300へ進められる。
【0087】
以上説明された第2の実施の形態では、コントローラ10は、補液用ポンプ25の動作の開始の指示を受け付けると(ステップS208でYES)、補液用ポンプ25の動作を開始させる(ステップS210)。そして、補液用ポンプ25の動作開始後、特定の時間が経過するまで、上流側圧力測定装置21による圧力の測定値を表示装置14に表示する。当該表示は、たとえば
図9のグラフ141として示されたように、実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれているときの上流側圧力測定装置21の測定値の変化のパターン(
図9の線L02)とともに表示されることが好ましい。当該パターンは、たとえば、事前に、確実に補液の注入が行なわれている状況下で透析システム101が駆動されたときに取得され、データ記憶領域112に登録されている。
【0088】
「特定の時間」は、少なくとも、血液回路BCへの補液の注入によって、注入前と比較して、上流側圧力測定装置21の測定値において有意な差異が見られることが期待される時点を含むように設定されることが好ましい。つまり、「特定の時間」は、少なくとも補液用ポンプ25の動作開始の指示から上記時点が経過するまでの長さとされることが好ましい。
図11は、第2の実施の形態における「特定の時間」の設定について説明するための図である。
図11に示された線L1は、
図3に示された線L1である。
【0089】
透析システム101において、上流側圧力測定装置21の測定値における有意な差異の一例が、値PSであるとする。線L1では、時刻T1で補液用ポンプ25の動作が開始された後、時刻T7で、上流側圧力測定装置21の測定値が値PSだけ増加している。この場合、上記「特定の時間」は、時刻T1から時刻T7までの長さ以上となるように設定される。「有意な差異」とは、上流側圧力測定装置21の測定値におけるノイズとは区別可能な値とされる。たとえば、事前に、ノイズが検出される。そして、たとえば、当該ノイズの10倍程度の値が、「有意な差異」として設定される。
【0090】
第2の実施の形態の透析システム101では、コントローラ10は、補液用ポンプ25の動作を開始させた後、少なくとも特定の時間が経過するまで取得された上流側圧力測定装置21の測定値を表示する。なお、コントローラ10は、連続的に取得された測定値を表示する代わりに、特定の時間が経過した時点の測定値(または当該時点を含む2以上の時点での測定値)を表示してもよい。
【0091】
また、コントローラ10は、ステップS200(
図7)の期間中以外にも、上流側圧力測定装置21の測定値を取得し、表示装置14に表示してもよい。
【0092】
また、コントローラ10は、上流側圧力測定装置21の測定値を表示する代わりに(または、上流側圧力測定装置21の測定値とともに)、下流側圧力測定装置22の測定値を表示装置14に表示してもよい。上流側圧力測定装置21および下流側圧力測定装置22の各測定値は、予め取得されている、実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれているときの各測定値の変化のパターンとともに表示されることが好ましい。
【0093】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態の透析システム101では、コントローラ10は、補液用ポンプ25に動作を開始させた後の上流側圧力測定装置21の測定値の変化のパターンを、データ記憶領域112に予め登録された基準のパターンと比較することによって、実際に血液回路BCに補液が注入されているかどうかを判断する。
【0094】
より具体的には、コントローラ10は、
図3の線L1のような、実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれているときの上流側圧力測定装置21の測定値の変化のパターンを
図8で示されたような処理の開始前に取得する。そして、コントローラ10は、補液用ポンプ25の動作の指示を入力されると、補液用ポンプ25の動作を開始させた後、たとえば
図3の時刻T1,T2,T3に相当する時点の上流側圧力測定装置21の測定値を取得する。そして、コントローラ10は、これらの3点の測定値における関係を、事前に取得したパターンにおける時刻T1,T2,T3の3点の測定値における関係と比較する。そして、コントローラ10は、前者の関係と後者の関係が一致した(または、差異が予め定められた範囲内に収まった)場合には、実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれていると判断する。一方、コントローラ10は、前者の関係と後者の関係が一致しない(または、差異が予め定められた範囲内に収まらない)場合には、実際には血液回路BCへの補液の注入が行なわれていないと判断する。そして、コントローラ10は、当該補液の注入が行なわれていないと判断すると、ステップS218(
図8)において行なわれたような警告等のための制御を実行する。
【0095】
図12は、上流側圧力測定装置21の測定値の一例を示す図である。
図12において、線L5は、時間の経過に伴う上流側圧力測定装置21の測定値の変化を示す。
図12において、時刻T8,T9は、それぞれ、
図3の時刻T2,T3に対応する。線L5として示されるように、時刻T1(補液用ポンプ25の動作開始)以降、上流側圧力測定装置21の測定値は一時的に上昇するが(時刻T1〜T8)、その後、値P1より下回るように下降する(時刻T8〜T9)。その後、線L5として示されるように、上流側圧力測定装置21の測定値は、値P1を超えるように上昇する(時刻T9〜T10)。
【0096】
線L5では、時刻T1から時刻T8において、
図3の線L1において時刻T1から時刻T2において測定値が上昇するように、測定値が上昇している。つまり、線L5は、この点では、線L1と同じ挙動を示すと言える。しかしながら、線L5によって示される挙動は、少なくとも値P1を下回ることがない線L1が示す挙動とは異なる。つまり、線L5の挙動は、線L1に従って示される挙動とは異なる挙動を含む。したがって、コントローラ10は、線L5に示されたような測定値を取得した場合には、警告等のための制御を実行する。
【0097】
透析システム101では、血液回路BCに補液の注入が行なわれている期間中、上流側圧力測定装置21の測定値は、初期値である値P1を下回ることはないと考えられる。したがって、線L5によって示される挙動は、上流側圧力測定装置21による測定において何らかのエラーが発生していると考えられるべきである。そして、第3の実施の形態では、上流側圧力測定装置21の測定値が線L5によって示されるような挙動を示した場合、警告等の制御が実行される。
【0098】
以上説明されたように、第3の実施の形態では、コントローラ10は、上流側圧力測定装置21の測定値の変化のパターンとして、補液用ポンプ25の動作を開始させた後、2以上の時点での上流側圧力測定装置21の測定値を、基準のパターンにおける測定値と比較する。これにより、コントローラ10は、上流側圧力測定装置21の測定値の変化のパターンが、基準のパターンと一部が共通しても他の一部で異なるような場合には、測定値の変化のパターンが基準のパターンと異なると判断して、警告等の制御を実行する。これにより、より確実に、透析システム101における異常が発見され得る。
【0099】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態の透析システムでは、血液回路BCへの補液の注入が、血液透析器30より下流側で行なわれる。
図13は、第4の実施の形態の透析システムの構成の一例を示す図である。
図13に示された透析システム101Aの透析ユニット100Aでは、補液回路SCは、透析装置60から静脈側ドリップチャンバ42へ、補液として新鮮な透析液を供給(注入)する。なお、透析システム101Aのハードウェア構成は、
図2に示された透析システム101のハードウェア構成と同様である。したがって、ハードウェア構成の説明は、繰り返されない。
【0100】
図14は、透析システム101Aにおける上流側圧力測定装置21による圧力の測定値を示す図である。
図14では、補液用ポンプ25が動作することにより実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれているときの測定値の一例が実線の線L6で示され、補液用ポンプ25が動作しても実際には血液回路BCへの補液の注入が行なわれないていないときの測定値の一例が破線の線L7で示されている。
【0101】
図15は、透析システム101Aにおける下流側圧力測定装置22による圧力の測定値を示す図である。
図15では、補液用ポンプ25が動作することにより実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれているときの測定値の一例が実線の線L8で示され、補液用ポンプ25が動作しても実際には血液回路BCへの補液の注入が行なわれないていないときの測定値の一例が破線の線L9で示されている。
【0102】
図14および
図15において、縦軸は圧力を示し、横軸は時間を示し、そして、時刻T11は透析装置60のコントローラ10が補液用ポンプ25の動作を開始させた時刻を示す。
【0103】
図14の線L7では、上流側圧力測定装置21による測定値は、初期値の値P11から変動しない。一方、線L6では、上流側圧力測定装置21による測定値は、値P11から、時刻T11以降上昇する。そして、時刻T12で、値P11より高い値P12に到達した後、値P12でほぼ一定となる。このような挙動は、血液回路BCに透析液が注入されることによって、血液透析器30において血液が濃縮される度合いが高まるからである。
【0104】
より具体的には、時刻T11で血液回路BCへの補液(透析液)の注入が開始されることにより、当該注入された量だけ、下流側透析液ラインDC2を通して透析装置60へ戻される透析液の量が増加する。第1の実施の形態の透析システム101と同様に、透析システム101Aにおいても、透析液ポンプ24と補液用ポンプ25の動作は、上流側透析液ラインDC1を通して血液透析器30へ送られる透析液の量と、補液回路SCを通して動脈側ドリップチャンバ41へ送られる透析液(補液)の量との和が、下流側透析液ラインDC2を通して透析装置60へ戻される透析液の量と等しくなるように、制御されるからである。そして、下流側透析液ラインDC2を通して透析装置60へ戻される透析液の量が増加することにより、血液透析器30における血液と透析液との間での物質の交換の機会が増え、これにより、血液透析器30において血液の濃度が上昇し、この影響が時刻T11から時刻T12にわたって、徐々に、上流側圧力測定装置21が設置される動脈側ドリップチャンバ41まで伝搬される。これにより、線L6として示されるように、上流側圧力測定装置21による測定値が時刻T11から時刻T12にわたって徐々に上昇する。
【0105】
図15の線L9では、下流側圧力測定装置22による測定値は、初期値の値P11から変動しない。一方、線L8では、下流側圧力測定装置22による測定値は、時刻T11より後の時刻T13で、下降を始める。そして、下流側圧力測定装置22による測定値は、時刻T14で値P13まで下降した後、再び上昇する。そして、下流側圧力測定装置22による測定値は、時刻T15で初期値の値P11まで戻った後、ほぼ一定となる。このような下降と上昇を含む挙動の理由としては、以下の現象が考えられる。
【0106】
時刻T11で血液回路BCへの補液(透析液)の注入が開始されることにより、下流側圧力測定装置22が設置される静脈側ドリップチャンバ42では、血液の濃度が低下する。これにより、
図15の時刻T13から時刻T14において見られたように、下流側圧力測定装置22の測定値が低下する。その後、時間の経過とともに、静脈側ドリップチャンバ42における血液の濃度の低下は緩和される。これにより、
図15の時刻T14から時刻T15において見られたように、下流側圧力測定装置22の測定値は初期値である値P11に戻る。
【0107】
透析システム101Aにおいても、コントローラ10は、透析システム101において実行した処理と同様の処理を実行することができる。つまり、たとえば、透析装置60のコントローラ10は、表示装置14に、上流側圧力測定装置21および/または下流側圧力測定装置22の測定値を表示することができる。また、コントローラ10は、補液用ポンプ25を補液の注入のために駆動させてから予め定められた時間経過後の血液回路BC内の血液の圧力を取得する。そして、取得した圧力と、線L6(
図14)および/または線L8(
図15)として示されたような、圧力の基準のパターンに基づいて、実際に血液回路BCへの補液の注入が行なわれているかどうかを判断できる。そして、コントローラ10は、実際には血液回路BCへの補液の注入が行なわれていないと判断した場合、警告等(
図8のステップS218)の制御を実行することができる。
【0108】
[第5の実施の形態]
第5の実施の形態の透析システム101は、
図7のステップS300において実行する処理の一つとして、緊急補液処理を実行する。緊急補液処理は、透析治療中に患者の血圧が下がりすぎたときに、血液回路BCの血流を止めた上で、患者の体内に補液を注入するために実行される。血液回路BCの血流は、たとえば上流側血液ラインBC1の動脈側ドリップチャンバ41よりも上流側で図示せぬ弁が閉鎖されることにより血液の流れが遮断されることによって、止められる。第5の実施の形態の透析システム101のハードウェア構成は、
図2に示された透析システム101のハードウェア構成と同様である。したがって、ハードウェア構成の説明は、繰り返されない。
【0109】
緊急補液処理では、血流(患者からの血液の流入)が止められた上で血液回路BCに補液(透析液)が注入されることによって、血液回路BC内の圧力が低下することが期待される。このことに基づいて、緊急補液処理では、血液回路BCが止められたときに、血液回路BC内の圧力の測定値が適切に低下したかに基づいて、血液回路BCにおける血流が確実に止められ、かつ、補液の供給が確実に行なわれているか、が判断される。
【0110】
図16は、緊急補液処理のフローチャートである。
図16を参照して、緊急補液処理では、ステップSA10で、コントローラ10は、患者の血圧Pxが予め定められた値Paを下回ったかどうかを判断する。患者の血圧Pxは、図示せぬ血圧計(上流側圧力測定装置21とは異なる装置)によって計測される。そして、コントローラ10は、血圧Pxが値Pa以上であると判断すると(ステップSA10でNO)、制御をステップSA10に留まらせ、血圧Pxが値Paを下回ったと判断すると(ステップSA10でYES)、ステップSA20へ制御を進める。
【0111】
ステップSA20では、コントローラ10は、血液用ポンプ23を停止させる。また、コントローラ10は、図示せぬ電磁弁を閉鎖する等して、上流側血液ラインBC1における血液の流れを遮断する。そして、制御はステップSA30へ進められる。
【0112】
ステップSA30では、コントローラ10は、上流側圧力測定装置21の測定値を取得し、データ記憶領域112へ記録する。そして、制御はステップSA40へ進められる。
【0113】
ステップSA40では、コントローラ10は、ステップSA20で血液用ポンプ23を停止させてから一定時間(たとえば1秒間)が経過したかどうかを判断する。コントローラ10は、当該一定時間が経過するまでは(ステップSA40でNO)、制御をステップSA40に留まらせ、そして、当該一定時間が経過したと判断すると(ステップSA10でYES)、ステップSA50へ制御を進める。
【0114】
ステップSA50で、コントローラ10は、その時点での上流側圧力測定装置21の測定値が、ステップSA30で記録した測定値(血液用ポンプ23を停止させた時点の測定値)に対して一定値以上下降したかどうかを判断する。そして、コントローラ10は、測定値が一定値以上下降したと判断すると(ステップSA50でYES)、ステップSA60へ制御を進める。一方、コントローラ10は、上流側圧力測定装置21の測定値が一定値以上下降していないと判断すると(ステップSA50でNO)、ステップSA80へ制御を進める。
【0115】
ステップSA80では、コントローラ10は、補液(血液回路BCに補液を注入する動作)に異常が生じていることを報知して、ステップSA90へ制御を進める。当該報知は、たとえば
図9を参照して説明したようなメッセージの表示である。
【0116】
ステップSA90では、コントローラ10は、ステップSA80における報知が透析システム101における作業者によって確認されたかどうかを判断する。コントローラ10は、たとえば、操作器13の予め定められたキーに対する操作を検出することによって、上記報知が上記作業者によって確認されたと判断する。そして、コントローラ10は、上記報知が上記作業者によって確認されていないと判断する間は(ステップSA90でNO)、ステップSA90へ制御をとどめ、上記報知が確認されたと判断すると(ステップSA90でYES)、ステップSA100へ制御を進める。
【0117】
ステップSA100で、コントローラ10は、ステップSA80で開始した報知を停止して、ステップSA110へ制御を進める。
【0118】
ステップSA110で、コントローラ10は、操作器13等に対して、緊急補液処理のための制御の再開が指示されたか否かを判断する。コントローラ10は、たとえば操作器13内の特定のキーが操作されたことを検出すると、上記制御の再開が指示されたと判断する。そして、コントローラ10は、当該指示が入力されたと判断するまで(ステップSA110でNO)、ステップSA110に制御を留め、当該指示が入力されたと判断すると(ステップSA110でYES)、ステップSA60へ制御を戻す。
【0119】
ステップSA60では、コントローラ10は、患者の血圧Pxが値Pa以上となったかどうかを判断する。コントローラ10は、血圧Pxが値Pa以上ではないと判断すると(ステップSA60でNO)、ステップSA60へ制御を留め、血圧Pxが値Pa以上であると判断すると(ステップSA60でYES)、ステップS70へ制御を進める。
【0120】
ステップSA70で、コントローラ10は、血液用ポンプ23を再び動作させる。なお、ステップSA70では、上流側血液ラインBC1における血液の流れを遮断していた弁が開放される。これにより、血液回路BCにおける血液の流れが再開される。そして、制御は、ステップSA10に戻される。
【0121】
第5の実施の形態の透析システムでは、患者の血圧Pxが予め定められた値Paを下回ると(ステップSA10でYES)、血液回路BCへの当該患者の血液の流入が停止する(ステップSA20)。そして、患者に、補液(透析液)が注入される。なお、血液回路BCへの当該患者の血液の流入が停止したにも関わらず、血液回路BC内の圧力が下降しなければ(ステップSA50でNO)、ステップSA80の報知が実行される。
【0122】
当該報知なされると、作業者は、透析システム101の緊急補液において異常が発生していることを認識する。そして、作業者は、報知を止めるための操作を行なう(ステップSA90でYES)。これにより、報知が停止される(ステップSA100)。そして、血液回路BCにおいて血流が確実に止められているかなどを確認し、止められていない場合には必要な措置を講じる。そして、作業者は、すべての確認(および措置)が完了すると、透析システム101の操作器13の、緊急補液処理の制御を再開させるためのキーを操作する(ステップSA110でYES)。これにより、コントローラ10による制御は、ステップSA60へ戻される。
【0123】
今回開示された各実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【0124】
各実施の形態の透析システム101は、補液として、透析液を、血液回路BCへ注入する。近年、このようなシステムは、「オンライン」と呼ばれ、一般化している。なお、本開示に従った各実施の形態は、可能な限り、補液として透析液以外の溶液(たとえば生理食塩水)が血液回路BCに注入されるシステムにも適応され得る。