特許第6488747号(P6488747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6488747
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】電線固定具および電線固定方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/02 20060101AFI20190318BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20190318BHJP
   F16B 2/24 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   H02G7/02
   H02G1/02
   F16B2/24 E
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-25703(P2015-25703)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-149874(P2016-149874A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】井上 和典
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−9525(JP,A)
【文献】 特開2011−62004(JP,A)
【文献】 実公平5−2062(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/02
H02G 1/02
F16B 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支点部を支点として一端部が回動可能に設けられた一対のピンチ部材を備え、当該一対のピンチ部材の間に複数の電線を挟むピンチ部と、
前記一対のピンチ部材の一端部と当該一対のピンチ部材の回動軸心方向に沿って平行な上に設けられ、前記複数の電線を引っ掛ける鈎状をなすフック部と、
前記回動軸心方向の平行な方向に沿って延出し、前記フック部と前記ピンチ部とを連結する誘導部と、
を備えたことを特徴とする電線固定具。
【請求項2】
前記複数の電線は、幹線と分岐線とからなることを特徴とする請求項1に記載の電線固定具。
【請求項3】
電線固定具を用いて複数の電線を固定する電線固定方法であって、
前記電線固定具は、支点部を支点として一端部が回動可能に設けられた一対のピンチ部材を備えて当該一対のピンチ部材の間に前記複数の電線を挟むピンチ部と、前記一対のピンチ部材の一端部と当該一対のピンチ部材の回動軸心方向に沿って平行な上に設けられた鈎状をなすフック部と、前記回動軸心方向の平行な方向に沿って延出し、前記フック部と前記ピンチ部とを連結する誘導部と、備え、
前記フック部を、前記複数の電線に引っ掛ける第1の工程と、
前記一対のピンチ部材における他端部を挟持することにより、当該一対のピンチ部材どうしの間隔を開く第2の工程と、
前記フック部を前記複数の電線に引っ掛けた状態で、前記ピンチ部を前記複数の電線に押し付けることにより、間隔が開かれた前記一対のピンチ部材の間に当該複数の電線を位置付ける第3の工程と、
前記他端部の挟持を解除する第4の工程と、
を含むことを特徴とする電線固定方法。
【請求項4】
前記複数の電線は、幹線と分岐線とからなることを特徴とする請求項3に記載の電線固方法。
【請求項5】
前記第1の工程、前記第2の工程および前記第3の工程の少なくとも一つは、間接活線工具を用いておこなうことを特徴とする請求項3または4に記載の電線固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の電線を固定する電線固定具および電線固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架空線工事の径間途中分岐の施工にあたっては、分岐元の電線(幹線)と分岐された電線(分岐線)との接続点に張力が加わらないように施設することが定められている。従来、架空線工事の径間途中分岐の施工に際しては、接続点から15cm程度離した箇所における幹線および分岐線に、直径2.0mmのビニル被覆アルミバインド線を5回以上巻き付けることによって、幹線と分岐線とを相互に固定していた。
【0003】
ビニル被覆アルミバインド線は、2つ折りにしたバインド線を、1名が絶縁ヤットコで把持し、別の1名がバインド打ち器を使用して巻きつけていた。このため、作業をおこなうためには2名の作業員が必要であり、当該2名の作業員が協調して作業をおこなう必要があった。
【0004】
幹線と分岐線との固定を、たとえば、ラインスペーサ方式によっておこなう場合、分岐元の電線(幹線)と分岐された電線(分岐線)との接続点、および、分岐線と分岐先の電線(幹線)との接続点の2箇所を縛って固定していた。電線相互を固定する方法としては、ビニル被覆アルミバインド線を巻き付ける方法の他に、ラッシングワイヤーを巻き付ける方法があった。
【0005】
関連する技術として、従来、たとえば、中央部のループ部を碍子の首部に巻き付け、当該ループ部から両端部に至るまでをスパイラル状に形成した電線用巻付バインドにより、単独の腕金に支持された碍子に電線を確実に固定できるようにした技術があった(たとえば、下記特許文献1を参照。)。
【0006】
また、関連する技術として、従来、たとえば、一対の挟み部材の間に、分岐用スリーブを挟むスリーブ把持部と幹電線および分岐電線を同時に保持可能な電線把持部とを備えた分岐用スリーブクリップにより、分岐用スリーブの落下を防止するようにした技術があった(たとえば、下記特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−28053号公報
【特許文献2】特開2014−147141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の技術のようにビニル被覆アルミバインド線を巻き付ける方法による作業は、バインド打ち器などの専用の間接活線工具を使用するため、熟練度によっては作業に時間がかかり誰でもが容易におこなえる作業ではなく、作業者の熟練度によって作業の効率にばらつきがあるという問題があった。
【0009】
また、上述した従来の技術のようにビニル被覆アルミバインド線を巻き付ける方法による作業は、2つ折りにしたバインド線を把持する作業者の腕がだるくなるなど、作業者の疲労が大きいという問題があった。特に、架空線工事の径間途中分岐は屋外でおこなう作業であり、強風時など天候によっては作業が長時間化し、作業者の疲労が一層大きくなってしまうという問題があった。
【0010】
ビニル被覆アルミバインド線を巻き付ける方法による作業をおこなうためには2名以上の作業員が協調して作業をおこなう必要があり、当該作業にかかる作業者数が多くなってしまい、作業効率に劣るという問題があった。
【0011】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、電線を固定する作業にかかる作業効率の向上を図ることができる電線固定具および電線固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる電線固定具は、支点部を支点として一端部が回動可能に設けられた一対のピンチ部材を備え、当該一対のピンチ部材の間に固定対象物を挟むピンチ部と、前記一対のピンチ部材の一端部と当該一対のピンチ部材の回動軸心方向に沿って平行な上に設けられた鈎状をなすフック部と、前記回動軸心方向の平行な方向に沿って延出し、前記フック部と前記ピンチ部とを連結する誘導部と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる電線固定方法は、支点部を支点として一端部が回動可能に設けられた一対のピンチ部材を備えて当該一対のピンチ部材の間に固定対象物を挟むピンチ部と、前記一対のピンチ部材の一端部と当該一対のピンチ部材の回動軸心方向に沿って平行な上に設けられた鈎状をなすフック部と、前記回動軸心方向の平行な方向に沿って延出し、前記フック部と前記ピンチ部とを連結する誘導部と、を備えた電線固定具を用いた電線固定方法であって、前記フック部を、前記固定対象物に引っ掛け、前記一対のピンチ部材における他端部を挟持することにより、当該一対のピンチ部材どうしの間隔を開き、前記フック部を前記固定対象物に引っ掛けた状態で、前記ピンチ部を前記固定対象物に押し付けることにより、間隔が開かれた前記一対のピンチ部材の間に当該固定対象物を位置付け、前記他端部の挟持を解除する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる電線固定具および電線固定方法によれば、電線を固定する作業にかかる作業効率の向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明にかかる実施の形態の電線固定具を示す説明図である。
図2】取り付け対象例を示す説明図(その1)である。
図3】取り付け対象例を示す説明図(その2)である。
図4】取り付け対象例を示す説明図(その3)である。
図5】取り付け対象例を示す説明図(その4)である。
図6】この発明にかかる実施の形態の電線固定具を用いた、この発明にかかる電線固定方法によって電線を固定する作業手順を示す説明図(その1)である。
図7】この発明にかかる実施の形態の電線固定具を用いた、この発明にかかる電線固定方法によって電線を固定する作業手順を示す説明図(その2)である。
図8】この発明にかかる実施の形態の電線固定具を用いた、この発明にかかる電線固定方法によって電線を固定する作業手順を示す説明図(その3)である。
図9】この発明にかかる実施の形態の電線固定具を用いた、この発明にかかる電線固定方法によって電線を固定する作業手順を示す説明図(その4)である。
図10】この発明にかかる実施の形態の電線固定具を用いた、この発明にかかる電線固定方法によって電線を固定する作業手順を示す説明図(その5)である。
図11】この発明にかかる実施の形態の電線固定具の取り付け状態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電線固定具および電線固定方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
(電線固定具の構成)
まず、この発明にかかる実施の形態の電線固定具の構成について説明する。図1は、この発明にかかる実施の形態の電線固定具を示す説明図である。
【0018】
図1において、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100は、フック部110と、ピンチ部120と、誘導部130と、を備えている。フック部110は、鉤状に湾曲したフック部材と、フックに対向する押さえ部材とを備えている。フック部材と押さえ部材とは、この実施の形態の電線固定具100が固定対象とする電線の直径方向に沿って対向している。フック部材の先端111は、ピンチ部120側に向けて突出している。
【0019】
ピンチ部120は、一端部が鈎状に湾曲した一対のピンチ部材121を備えている。一対のピンチ部材121を構成する各ピンチ部材121の一端部(図1における紙面上側の端部)は、それぞれ、互いの方向に向かってフック状に湾曲している。各ピンチ部材121の他端部(図1における紙面下側の端部)は、それぞれ、一端部の湾曲方向とは逆方向に屈曲している。一対のピンチ部材121は、それぞれ、一端部と他端部との間に設けられた支点部122を支点として揺動可能に設けられている。支点部122どうしの位置関係は固定されていない。
【0020】
ピンチ部120において、支点部122よりも一端部側は、一対のピンチ部材121を形成する部材の弾性力によって、一端部どうしが接近し、他端部どうしが離間するように付勢されている。各ピンチ部材121は、電線固定具100の取り付け対象となる電線の長さ方向に沿って並べた状態で配列され、ピンチ部120を構成している。各ピンチ部材121において、支点部122から一端部までの間は、固定対象とする電線を把持する把持部とされている。把持部は、支点部122と一端部との間の部分が互いに離反する方向に湾曲した形状をなし、湾曲することによって形成される空間に電線を保持する。
【0021】
一対のピンチ部材121は、支点部122よりも他端部側において、他端部どうしを近付けるような外力が作用すると、一端部どうしが離間するように、支点部122を支点として揺動する。一対のピンチ部材121は、外力から解放されると、自身の弾性力によってふたたび一端部どうしが接近し、他端部どうしを離間させるように揺動する。すなわち、一対のピンチ部材121は、各他端部をまとめてその外方から挟むと支点部122を中心として揺動し、挟んでいる間だけ一端部を開くような、いわゆる洗濯ばさみ状の構成をなす。
【0022】
フック部110とピンチ部120との間は、誘導部130によって連結されている。この実施の形態の電線固定具100において、誘導部130は、フック部110およびピンチ部120とともに、連続した1本の針金状の部材を用いて一体に形成されている。
【0023】
電線固定具100において、ピンチ部120が把持することができる電線の太さの最大値(図1における符号Aを参照)は、ピンチ部120における鉤状に湾曲することによる頂点の位置と支点部122との間の長さによって定まる。すなわち、ピンチ部120は、固定対象とする2本の電線のそれぞれの直径を加算した値が、寸法Aと同等以下の電線を固定することができる。
【0024】
また、フック部110におけるピンチ部120側の端部から、ピンチ部120におけるフック部110側の端部との間の長さ(図1における符号Bを参照)、すなわち、ピンチ部120とフック部110との離間距離は、寸法Aと同等程度であることが好ましい。寸法Aと寸法Bとを同等程度とすることにより、後述するように、電線固定具100のフック部110を電線に引っ掛けた際に、フック部110を安定して電線に引っ掛けておくことができる。寸法Bは、寸法Aと完全に同じ長さであることにかぎらず、寸法Aと同等以上であることが好ましい。
【0025】
(電線固定具100の取り付け対象例)
つぎに、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100の取り付け対象となる取り付け対象例について説明する。図2図3図4および図5は、取り付け対象例を示す説明図である。
【0026】
図2および図3においては、取り付け対象例として、水平途中分岐された分岐線と、当該分岐線の分岐元の電線(幹線)との分岐位置を示している。図2においては、高圧水平途中分岐用ポリマースペーサ201を用いて水平途中分岐された取り付け対象例を示している。図3においては、高圧途中支持金物301を用いて水平途中分岐された取り付け対象例を示している。
【0027】
図2および図3に例示するような取り付け対象に対しては、従来、分岐線202と幹線203との分岐位置に、所定の太さ(たとえば2.0mm程度)のビニル被覆アルミバインド線204を所定回数(たとえば5回)以上巻き付けることによって、分岐線202と幹線203とを固定していた。
【0028】
図4においては、取り付け対象例として、ラインスペーサ401を用いて径間途中分岐された場合の分岐線202と幹線203との分岐位置を示している。図4に示すように、ラインスペーサ401を用いて径間途中分岐をおこなう場合、1本の分岐線202に対し、それぞれ、ラインスペーサ401の両端側において2箇所が取り付け対象とされる。
【0029】
図4に例示するような取り付け対象に対しても、従来、ラインスペーサ401の両端側における2箇所の分岐位置に、それぞれ、所定の太さ(たとえば2.0mm程度)のビニル被覆アルミバインド線204を所定回数(たとえば5回)以上巻き付けることによって、分岐線202と幹線203とを固定していた。
【0030】
図5においては、分岐線202と幹線203との分岐位置に、高圧分岐スリーブカバー501が施された場合の取り付け対象例を示している。この場合、高圧分岐スリーブカバー501の外において、高圧分岐スリーブカバー501から高圧途中支持金物502へ引き出された分岐線202と幹線203とを固定する。このような作業対象に対しては、従来、バインド式の所定の電線固定具100を用いて分岐線202と幹線203とを固定していた。
【0031】
(電線固定具100の取り付け作業手順)
つぎに、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100の取り付け作業手順について説明する。図6図7図8図9および図10は、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100を用いた、この発明にかかる電線固定方法によって電線202、203を固定する作業手順を示す説明図である。電線固定具100は、事前に2本の電線202、203(分岐線202および幹線203)が接続された位置の近傍に取り付ける。電線固定具100の取り付け作業に際しては、まず、間接活線工具を用いて、電線固定具100のフック部110におけるフック部材を、固定対象とする電線202、203に、当該電線202、203の上側から引っ掛ける(図6を参照)。このとき、作業者は、電線202、203の下側に立って、フック部110におけるフック部材のみを電線202、203に位置付けるだけで、当該フック部材を電線202、203に上側から引っ掛けることができる。
【0032】
電線固定具100におけるフック部材を電線202、203に引っ掛けるために用いる間接活線工具としては、たとえば、絶縁ヤットコと称される間接活線工具を用いることができる(図6における符号601を参照)。あるいは、電線固定具100におけるフック部材を電線202、203に引っ掛けるために用いる間接活線工具としては、たとえば、絶縁操作棒および当該絶縁操作棒の先端に取り付けた把持金具を用いることができる。あるいは、電線固定具100におけるフック部材を電線202、203に引っ掛けるために用いる間接活線工具としては、たとえば、絶縁操作棒および当該絶縁操作棒の先端に取り付けたフック状のアタッチメント工具であってもよい。
【0033】
電線固定具100においては、フック部材の先端がピンチ部120側に突出しており、また、フック部110とピンチ部120とが一体とされているため、フック部110を電線202、203に引っ掛けた状態では、フック部材を、自重(特にピンチ部120の重さ)により電線202、203に確実に引っ掛けることができる。具体的には、電線固定具100においては、フック部110とピンチ部120とが誘導部130の両端に連結されているため、電線202、203に引っ掛けた状態のフック部110に対しては、ピンチ部120および誘導部130の自重によって鉛直方向における下側に引っ張る力が作用する。これにより、フック部110を電線202、203に確実に引っ掛けることができる。
【0034】
また、フック部材の先端がピンチ部120側に突出しているため、電線固定具100の姿勢にかかわらず、フック部材を電線202、203に確実に引っ掛けることができる。すなわち、ピンチ部120および誘導部130の自重が加わることによって、フック部110の姿勢が、電線固定具100の取り付けが完了した状態の姿勢に対してピンチ部120側を下側に向けるように傾いた場合にも、ピンチ部120側に突出した先端によってフック部110を電線202、203に確実に引っ掛けることができる。
【0035】
このように、この実施の形態の電線固定具100は、格別な固定作業をおこなうことなく、電線固定具100を一時的かつ確実に電線202、203に引っ掛けて、電線固定具100を電線202、203に仮固定することができる。これにより、作業者は、電線固定具100を電線202、203に引っ掛けた後、つぎの作業に移るための準備を落ち着いておこなうことができる。
【0036】
つぎに、電線固定具100を電線202、203に引っ掛けた状態で、間接活線工具(絶縁ヤットコ)を用いて、ピンチ部120における各他端部をまとめてその外方から挟む。ピンチ部120における各他端部をまとめてその外方から挟むと、一端部どうしが離間するように、支点部122を支点として一対のピンチ部材121が揺動する。これにより、一対のピンチ部材121における一端部どうしの間隔が開き、把持部の空間が、一端部を介して開放される。
【0037】
作業者は、一端部どうしが離間して把持部の空間が開放された状態とするように各他端部を把持した状態のまま、取り付け対象とする電線202、203に、一端部どうしの間において把持部の空間を開放する開口801を押し当てる(図7および図8を参照)。そして、開口801を介して把持部における空間内に電線202、203が導入されるまで、そのまま電線固定具100を電線202、203に押し付ける(図8および図9を参照)。図8においては、把持部における空間内に電線202、203が導入された状態の電線固定具100、および、電線固定具100によって固定される部分の電線202、203を切断した断面を、電線202、203の長さ方向に沿って見た状態を示している。
【0038】
電線固定具100においては、先にフック部110を電線202、203に引っ掛けて仮に固定しているため、電線202、203に引っ掛けたフック部110を支点として回動させるようにしてピンチ部120側を下側から上側に向かって電線202、203に押し付けるだけで、開口801に押し付けた電線202、203を容易に把持部における空間内に導入することができる。また、ピンチ部材121の一端部が、鉤状に湾曲しているため、電線202、203に開口801を押し付けるだけで、スムーズに把持部における空間内に電線202、203を導入することができる。
【0039】
また、電線固定具100においては、先にフック部110を電線202、203に引っ掛けて仮に固定しているため、間接活線工法による作業であっても、作業者が、落ち着いて作業をおこなうことができる。具体的には、単独で作業をおこなう場合にも、フック部110を固定する際に用いた間接活線工具から、慌てることなく、他端部を把持する間接活線工具に持ち替えて、ピンチ部120を把持する作業に移行することができる。
【0040】
そして、ピンチ部120の空間内に固定対象とする2本の電線202、203が収まった状態で、他端部から間接活線工具を取り外す。一対のピンチ部材121は、自身を形成する材質の弾性力によって、外力から解放されると元のように一端部どうしが接近した状態になる(図9を参照)。これにより、ピンチ部120によって電線202、203を確実に挟んで固定することができる。
【0041】
その後、把持する間接活線工具を用いて、電線202、203を挟んだ状態のピンチ部120を外側から掴むようにして挟み込む(図10を参照)。挟み込む位置は、ピンチ部材121において鉤状に湾曲した一端部であることが好ましい。これにより、ピンチ部材121と電線202、203との隙間をなくし、ピンチ部120を電線202、203に確実に取り付けることができるとともに、ピンチ部120が電線202、203に取り付けられたことを容易に確認することができる。
【0042】
現場によっては、分岐線202の直径が、幹線203の直径に対して小さい場合がある。この発明にかかる実施の形態の電線固定具100は、このような現場であっても、上記と同様の簡易な作業によって、容易かつ確実に分岐線202と幹線203とを固定することができる。
【0043】
図11は、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100の取り付け状態の一例を示す説明図である。上記のように、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100は、一対のピンチ部材121における支点部122どうしの位置関係が固定されていない。このため、電線固定具100は、固定する2本の電線202、203の直径を加算した値が寸法Aよりも小さい場合は、図11に示すように、把持部の空間内の電線202、203の直径に応じて支点部122の位置を相対的にずらすことができる。
【0044】
ピンチ部120においては、電線固定具100を形成する針金状の部材の弾性力によって形状を維持しようとする付勢力が作用している。この付勢力により、2本の電線202、203を把持した状態のピンチ部120においては、支点部122よりも一端部側を互いに開く方向に付勢する力が作用する。そして、一対のピンチ部材121における支点部122どうしの位置関係が固定されていないため、開く方向に付勢する力が支点部122を交差する方向に付勢する力として作用する。これにより、作業者が格別な作業をおこなわなくても、固定対象とする電線202、203の太さにかかわらず電線202、203どうしを容易かつ確実に固定することができる。
【0045】
以上説明したように、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100は、支点部122を支点として一端部が回動可能に設けられた一対のピンチ部材121を備え、当該一対のピンチ部材121の間に固定対象物を挟むピンチ部120と、一対のピンチ部材121の一端部と当該一対のピンチ部材121の回動軸心方向に沿って平行な上に設けられた鈎状をなすフック部110と、当該回動軸心方向の平行な方向に沿って延出し、フック部110とピンチ部120とを連結する誘導部130と、を備えたことを特徴としている。
【0046】
この発明にかかる実施の形態の電線固定具100によれば、フック部110を電線202、203に引っ掛けた状態で、当該電線202、203をピンチ部120によって挟み込むことができるので、作業者が一人であっても容易かつ確実に電線202、203どうしを固定することができる。
【0047】
また、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100によれば、フック部110を電線202、203に引っ掛けた後、フック部110を支点として電線固定具100を回転させピンチ部120を電線202、203に押し付けるだけで電線202、203どうしを固定することができるので、取り付け作業に利用できるスペースが狭い箇所においても誰でも容易に取り付けることができる。
【0048】
また、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100によれば、ピンチ部120によって洗濯ばさみのように挟み込むことによって電線202、203どうしを固定することができるので、作業者による力の加減が不要であり、作業者に左右されることなく電線202、203どうしを固定することができる。
【0049】
また、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100によれば、電線固定具100を形成する材料の弾性力によって固定するため、作業者に左右されることなく電線202、203どうしを堅固に固定できる。
【0050】
また、この発明にかかる実施の形態の電線固定具100は、フック部110を電線202、203に引っ掛け、ピンチ部120によって挟み込むだけで電線202、203どうしを容易に固定することができるので、電線202、203を固定する作業における作業者の負担(疲労など)を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、この発明にかかる電線固定具および電線固定方法は、2本の電線を固定する作業に用いる電線固定具に有用であり、特に、取り付け作業に利用できるスペースが狭い箇所において2本の電線を固定する作業に用いる電線固定具に適している。
【符号の説明】
【0052】
100 電線固定具
110 フック部
120 ピンチ部
121 ピンチ部材
130 誘導部
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