(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)を得ることが可能である。
【0012】
図1は、実施形態に係る車高調整装置10の構成を説明する図であり、作動流体の流動がない状態を示す図である。
【0013】
図示を省略した車両の各車輪には、それぞれ車高調整部として機能する空気ばね12FR,12FL,12RR,12RL(以下、各空気ばねを区別しない場合は単に「空気ばね12」と示す場合もある)が接続されている。各空気ばね12は、作動流体(例えば、空気)の給排にしたがって車両の車体に対して車輪の懸架状態を変化させる。また、空気ばね12内に封入した圧縮空気による弾性により車両の振動を吸収する機能を有する。なお、空気ばね12FR,12FLは、前輪車高調整部という場合もある。また、空気ばね12RR,12RLは、後輪車高調整部という場合もある。空気ばね12は、公知の構造が利用可能である。空気ばね12は、空気の弾性を利用するため金属ばねに比べて細かい振動を吸収しやすい。また、空気圧を制御することにより車高を一定に保つ、または所望の車高に調整したり、ばね定数を所望の値に変更したりすることができる。
【0014】
前輪車高調整部である空気ばね12FR,12FLは、車高調整弁14FR,14FLを介して作動流体が流れる主流路16に接続されている。同様に、後輪車高調整部である空気ばね12RR,12RLは、車高調整弁14RR,14RLを介して作動流体が流れる主流路16に接続されている。車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RLを区別しない場合は単に「車高調整弁14」と示す場合もある。また、本実施形態において、空気ばね12と車高調整弁14とを併せて車高調整部という場合もある。
【0015】
本実施形態においては、車高調整弁14FR,14FLは、例えば金属や樹脂で形成される流路ブロック内に埋め込み配置されて、前輪バルブユニット18aを構成している。同様に、車高調整弁14RR,14RLは、流路ブロック内に埋め込み配置されて後輪バルブユニット18bを構成している。なお、別の実施形態では、各車高調整弁14を個別に配置してもよい。この場合、各車高調整弁14のレイアウトの自由度が向上する。また、4個の車高調整弁14を纏めてユニット化してもよい。この場合、ユニット化による部品点数の削減に寄与できる。
【0016】
図1に示すように、前輪バルブユニット18aと後輪バルブユニット18bを別々のユニットで構成することで、前輪バルブユニット18aを前輪側に配置可能になる。その結果、前輪バルブユニット18aから前輪側の各空気ばね12への流路配管の長さを、全ての車高調整弁14を纏めてユニット化する場合に比べて短くすることができる。同様に、後輪バルブユニット18bを後輪側に配置可能となり、後輪バルブユニット18bから後輪側の各空気ばね12への流路配管の長さを、全ての車高調整弁14を纏めてユニット化する場合に比べて短くすることができる。その結果、流路配管の配索が容易になるとともに、流路配管の長さが短くなることで当該流路配管の破損等のリスクも軽減できる。
【0017】
前輪バルブユニット18aの一端面には、主流路16が接続される第1ポート18a1が形成され、前輪バルブユニット18aの内部には、当該第1ポート18a1を一端とし、他端を第2ポート18a2とする主流路チャネル20が貫通形成されている。前輪バルブユニット18aの内部において、主流路チャネル20から副流路チャネル22が2本分岐形成されている。そして、車高調整弁14FRの一端は、副流路チャネル22のうち1本に接続され、車高調整弁14FRの他端は、第3ポート18a3を介して空気ばね12FRに接続されている。同様に、車高調整弁14FLの一端は、副流路チャネル22のもう1本に接続され、車高調整弁14FLの他端は、第4ポート18a4を介して空気ばね12FLに接続されている。
【0018】
第2ポート18a2には、連通用主流路16a(主流路16)が接続されている。この連通用主流路16aは、後輪バルブユニット18bの第1ポート18b1に接続されている。後輪バルブユニット18bの内部には、第1ポート18b1を一端とする主流路チャネル20が形成されている。後輪バルブユニット18bの内部にも、主流路チャネル20から副流路チャネル22が2本分岐形成されている。そして、車高調整弁14RRの一端は、副流路チャネル22のうち1本に接続され、車高調整弁14RRの他端は、第2ポート18b2を介して空気ばね12RRに接続されている。車高調整弁14RLの一端は、副流路チャネル22のもう1本に接続され、車高調整弁14RLの他端は、第3ポート18b3を介して空気ばね12RLに接続されている。
【0019】
なお、
図1の場合、前輪バルブユニット18aは4ポートタイプを用い、後輪バルブユニット18bは3ポートタイプを用いた例を示したが、例えば、前輪側と後輪側とで、同じ4ポートタイプのバルブユニットを用いることも可能である。後輪バルブユニット18bとして前輪バルブユニット18aと同じ4ポートタイプを用いる場合は、第2ポート18a2に対応するポートをプラグキャップ(メクラ栓)で封止する。この場合、バルブユニットの共通化による部品種類の低減、設計コストの低減等に寄与することができる。
【0020】
各車高調整弁14(14FR,14FL,14RR,14RL)は、同一タイプの開閉弁が利用可能であり、例えばON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有している。何れの制御弁もソレノイドが非通電状態にある場合に閉弁状態とされる常閉型電磁制御弁とすることができる。
【0021】
主流路16は、回路バルブブロック24及びタンク接続主流路16bを介して圧力タンク26(作動流体の供給源)に接続されている。回路バルブブロック24は、コンプレッサ流出流路28aを介してコンプレッサユニット30の流出側に接続されている。また、回路バルブブロック24は、コンプレッサ流入流路28bを介してコンプレッサユニット30の流入側に接続されている。回路バルブブロック24は、複数の開閉弁、例えば4個の開閉弁を含む弁体ブロックとして構成されている。具体的に回路バルブブロック24は、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dで構成されている。第1開閉弁24a及び第2開閉弁24bは、一端側がタンク接続主流路16b(主流路16)を介して圧力タンク26に接続される。第3開閉弁24cは、一端側がコンプレッサ流出流路28aを介してコンプレッサユニット30の流出側と接続されるとともに第2開閉弁24bの他端側に接続される。また、第3開閉弁24cの他端側が空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a側)に接続されている。第4開閉弁24dは、一端側がコンプレッサ流入流路28bを介してコンプレッサユニット30の流入側に接続されるとともに第1開閉弁24aの他端側に接続される。また、第4開閉弁24dの他端側が空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a側)と接続されている。
【0022】
回路バルブブロック24に含まれる第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dは、同一タイプの開閉弁が利用可能であり、例えばON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有している。何れの開閉弁もソレノイドが非通電状態にある場合に閉弁状態とされる常閉型電磁制御弁とすることができる。
【0023】
本実施形態の車高調整装置10は、第1圧力センサ32aと第2圧力センサ32bを備えている。
図1の場合、例えば、回路バルブブロック24(複数の開閉弁)の上流側に第1圧力センサ32aが配置され、下流側に第2圧力センサ32bが配置されている。つまり、回路バルブブロック24(弁体ブロック)は、圧力タンク26側の圧力を検出する第1圧力センサ32a及び空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a側)の圧力を検出する第2圧力センサ32bを含む。回路バルブブロック24は、例えば金属や樹脂で形成され、内部には第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dを上述したように接続するためのチャネルが形成されている。第1圧力センサ32aは、第1開閉弁24aの一端または第2開閉弁24bの一端をタンク接続主流路16b(主流路16)に接続するためのチャネルに接続されている(
図1の場合は、第1開閉弁24aの一端から延びるチャネルに接続されている)。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24cの一端または第4開閉弁24dの一端を主流路16に接続するためのチャネルに接続されている(
図1の場合は、第3開閉弁24cの一端から延びるチャネルに接続されている)。
【0024】
第1圧力センサ32aは、例えば、第1開閉弁24a及び第2開閉弁24bが閉弁状態の場合、圧力タンク26側の静的圧力を正確に検出できる。また、第1開閉弁24aと第2開閉弁24bの少なくとも一方が開弁して作動流体が流動している場合は圧力タンク26側の動的圧力を検出できる。同様に、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24c及び第4開閉弁24dを閉弁状態にして、少なくとも前輪側の車高調整弁14FRまたは車高調整弁14FLを開弁状態にすれば、空気ばね12側の静的圧力を測定できる。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24cと第4開閉弁24dおよび車高調整弁14RRと車高調整弁14RLを閉弁状態にして、車高調整弁14FRまたは車高調整弁14FLの一方を開弁状態にすることにより、前輪側の空気ばね12FRまたは空気ばね12FLのいずれか一方の静的圧力が検出できる。また車高調整弁14FR及び車高調整弁14FLの両方を開弁状態にすることで空気ばね12FR,12FL両方の平均静的圧力が検出できる。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24cと第4開閉弁24dおよび車高調整弁14FRと車高調整弁14FLを閉弁状態にして、車高調整弁14RRまたは車高調整弁14RLの一方を開弁状態にすることにより、後輪側の空気ばね12RRまたは空気ばね12RLのいずれか一方の静的圧力が検出できる。また車高調整弁14RR及び車高調整弁14RLの両方を開弁状態にすることで空気ばね12RR,12RL両方の平均静的圧力が検出できる。さらに、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24cと第4開閉弁24dを閉弁状態にして、車高調整弁14FR、車高調整弁14FL、車高調整弁14RR、車高調整弁14RLを開弁状態にすることにより、全ての車輪に対応する空気ばね12FR,12FL,12RR,12RLの全体としての静的圧力が検出できる。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24cや第4開閉弁24dが開弁状態の場合、空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a及び後輪バルブユニット18b側)の動的圧力の測定が可能である。
【0025】
このように、第1圧力センサ32aは、回路バルブブロック24の上流側(例えば圧力タンク26側)の圧力(静的圧力または動的圧力)を検出可能であり、第2圧力センサ32bは、回路バルブブロック24の下流側(例えば空気ばね12側)の圧力(静的圧力または動的圧力)を検出可能である。後述するが、圧力タンク26側の圧力と空気ばね12側の圧力の圧力差(差圧)により作動流体を圧力タンク26側から空気ばね12側へ流動させることで車高調整ができる。言い換えれば、圧力差が小さい場合は車高調整のための作動流体の流動が十分に行えなくなるので、コンプレッサユニット30の駆動が必要になる。そこで、車高調整装置10は、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bの検出結果に基づく圧力差(差圧)を取得(算出)して、その結果を利用してコンプレッサユニット30の駆動制御を行うことができる。例えば、車高上昇制御の場合、圧力タンク26側と空気ばね12側の圧力差が所定値(閾値)以上ある場合、その圧力差によって作動流体を空気ばね12側へ流動させることができる。この場合、コンプレッサ36を非駆動とすることができる。一方、圧力タンク26側と空気ばね12側の圧力差が所定値(閾値)未満になった場合で車高上昇制御を継続する場合は、そのタイミング(コンプレッサ36による圧送が必要になったタイミング)でコンプレッサ36を駆動することができる。
【0026】
圧力タンク26は、例えば、金属製または樹脂製で、空気ばね12による車高調整制御時及び非制御時を含め流路系内で発生する圧力に十分に耐え得る耐圧性と容量を有している。また、圧力タンク26は、タンク本体26aの内圧が何らかの原因により設定圧(予め試験等により設定した圧力)以上になった場合に減圧するためのリリーフ弁26bを有する。
【0027】
コンプレッサユニット30は、モータ34により駆動するコンプレッサ36、ドライヤ38、オリフィス40a及び逆止弁40bで構成される絞り機構40を主要構成としている。
図1の場合、この他、リリーフ弁42、逆止弁44,46,48、フィルタ50,52等を含む例を示している。
【0028】
コンプレッサユニット30は、車高上昇制御時に圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差が所定値(予め試験等により設定した値)以下になった場合や、車高下降制御時に空気ばね12側から圧力タンク26へ作動流体を汲み上げる(戻す)場合にモータ34によりコンプレッサ36を動作させて作動流体を圧送する。なお、本実施形態の車高調整装置10は、経路内の作動流体(当初から封入された空気)を圧力タンク26側と空気ばね12側との間で移動させることで車高調整を行うクローズドタイプの装置である。したがって、基本的には、装置内に外気は進入することなく湿度変動等の環境変化はないとみなせる。したがって、クローズドタイプの装置の場合、基本的には、ドライヤ38や絞り機構40は省略することができる。ただし、何らかの原因により装置内の作動流体(空気)が外部に漏れてしまう場合がある。そのような場合は、フィルタ52及び逆止弁48を介して外部から雰囲気(外気)を取り込み、装置内の作動流体を補充する。この場合、雰囲気(外気)は車高調整装置10内の構成部品に不利となる水分(湿気)を含んでいる場合がある。そのため、
図1に示す車高調整装置10は、コンプレッサ36の下流側に、取り込んだ雰囲気の湿気を所定量取り除くドライヤ38や当該ドライヤ38における雰囲気の通過速度を調整するための絞り機構40が設けられている。なお、車高調整装置10内の圧力が何らかの原因で制限圧を超えた場合に減圧するために、コンプレッサユニット30はリリーフ弁42を有している。このリリーフ弁42は、例えばON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有し、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉弁状態とされる常閉型電磁制御弁とすることができる。なお、本実施形態のリリーフ弁42は、非通電時の閉弁状態をいかなる場合も維持するものではなく、車高調整装置10内の圧力が制限圧(予め試験等により設定した圧力)を超えた場合に大気開放方向に作動流体の流動を許容する逆止弁54を含む。例えば、何らかの不具合が生じて車高調整装置10の内部圧力が制限圧を超えた場合は、逆止弁54の付勢力に逆らい開弁状態となり、自動的に制限圧以下になるように減圧が行われる。なお、リリーフ弁42は、後述する制御部からの制御信号に基づいて開弁状態に移行することも可能で、制限圧に拘わらず、車高調整装置10の内部圧力を減圧することができる。コンプレッサ36は作動流体を空気ばね12側に供給する供給源としても機能する。
【0029】
このように構成される車高調整装置10は、当該車高調整装置10に含まれる制御部(ECU)56によって、車高調整部(後述する空気ばねや車高調整弁等)等の車高調整に関する制御が実行される。例えば、ECU56は、コントローラー・エリア・ネットワーク(CAN;Controller Area Network)を介して取得した車高調整要求や各空気ばね12の伸縮(車高)状態(車高情報)を検出する車高センサ58の検出結果や第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bの検出結果を取得可能である。そして、ECU56は、取得した情報に基づいて、車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RL、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24d、リリーフ弁42等の開閉制御やモータ34の駆動制御を行う。なお、
図1の場合、単一のECU56が各制御対象を統合的に制御する例を示しているが、各制御対象を個別制御する制御部やいくつかの制御対象をグループ化して制御する制御部を設け、それを統合的に制御する上位制御部を設けてもよい。
【0030】
各空気ばね12には、車高センサ58が個別に配置され、空気ばね12の伸縮状態を車高情報(車高値)として検出する。ECU56は、車高センサ58が取得した車高値を時間微分することで車高調整制御中の単位時間あたりの車高変化値、つまり、車高調整速度(車高上昇速度)を算出(取得)することができる。ECU56は、車高センサ58が検出した車高値及びそれに基づいて取得した車高調整速度を用いて、車高調整制御を実行する。
【0031】
このように、本実施形態の車高調整装置10においては、回路バルブブロック24の上流側に第1圧力センサ32aを配置し、下流側に第2圧力センサ32bを配置することで、圧力タンク26側および空気ばね12側の圧力状態が検出できる。特に車高上昇制御中の圧力状態がリアルタイムで検出できる。その結果、ECU56は、作動流体が圧力差により流動可能か否か正確に判定し、圧力差が不足の場合には、適切なタイミングで、必要な期間のみコンプレッサ36を駆動することができる。その結果、コンプレッサ36の駆動制御が適正化され、省電力制御やコンプレッサ36の駆動に起因する騒音や振動の軽減に寄与できる。なお、第1圧力センサ32aおよび第2圧力センサ32bを用いることによって、圧力タンク26側の圧力状態と空気ばね12側の圧力状態をリアルタイムに検出し、車高制御に反映させることができる。例えば、前述したように適切なタイミングでコンプレッサ36を駆動することで、常時スムーズな車高調整が実現できる。また、路面状況に応じたスムーズな車高調整も実現できる。その結果、乗り心地の向上や操作性の向上にも寄与できる。
【0032】
また、適切なタイミングでコンプレッサ36を動作させることができるので、例えば車輪が縁石等に乗り上げるなどして、車体が左右に傾斜した場合でも適切な車高調整により車体を実質的な水平状態に保つことが可能で、搭乗者等の違和感や不安感を軽減することができる。また、ドアの開閉時にかかる力(ヒンジ部にかかる力)を車体が水平状態にある場合と同様に保つことが可能となり、ドアの開閉を容易にすることができる。また、乗降性を水平状態のときと同様にすることができる。
【0033】
このように構成される車高調整装置10の車高上昇時及び車高下降時の制御を
図2〜
図4を用いて詳細に説明する。
【0034】
図2を用いて、車高上昇制御を行う場合に、圧力タンク26側の圧力が空気ばね12側の圧力より十分に高く、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差によって作動流体(空気)が、圧力タンク26から各空気ばね12に流動可能な場合の車高調整装置10の動作を説明する。なお、ECU56は、圧力タンク26側の圧力を第1圧力センサ32aの検出結果に基づき取得し、空気ばね12側の圧力を第2圧力センサ32bの検出結果に基づき取得し、その圧力差を演算することにより、圧力差による作動流体(空気)の移動が可能か否かを判定する。
【0035】
車高調整装置10が車高上昇制御を行う場合、ECU56は、回路バルブブロック24に含まれる第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉制御を行うとともに、車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RLを開弁状態に制御する。
【0036】
本実施形態の車高調整装置10は、回路バルブブロック24の第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉状態の組み合わせを変えることで、作動流体の流動態様(流動方向や流動量等)を切り替えることができる。例えば、圧力タンク26側から車高調整部側(空気ばね12側)へ両者間の圧力差により作動流体を流動させる場合、ECU56は、第1開閉弁24aと第4開閉弁24dを開弁して形成する第1流路系と、第2開閉弁24bと第3開閉弁24cを開弁して形成する第2流路系の少なくとも一方を利用することが選択できる。例えば、第1流路系の第1流動態様(流路開口径、流動抵抗による流動し易さ)と第2流路系の第2流動態様(流路開口径、流動抵抗による流動し易さ)が実質的に同じ場合で、ECU56が第1流路系または第2流路系のいずれか一方を選択した場合を考える。この場合、タンク接続主流路16bを介して圧力タンク26から流出した作動流体は、第1流路系または第2流路系を通過して第1速度態様(例えば低速上昇態様)で各空気ばね12側に供給可能となり、各車高調整弁14の開弁により空気ばね12が伸長して車高を低速で上昇させることができる。
【0037】
また、ECU56が第1流路系と第2流路系の両方を選択した場合、いずれか一方を選択する場合に比べ、作動流体の流動し易さは実質的に2倍となり、第1速度態様より速い第2速度態様(例えば高速上昇態様)の作動流体が各空気ばね12側に供給可能となる。その結果、各車高調整弁14の開弁により空気ばね12が伸長して第1速度態様の場合より高速で車高上昇が実行できる。
【0038】
このように、第1流路系と第2流路系の選択を行うことで、単位時間あたりの作動流体の流動し易さ(作動流体の流動量)の切り替えが可能になり、車高上昇速度を容易に変化させることができる。また、第1流路系と第2流路系のいずれかを選択して、流動量を絞ることで、空気ばね12に供給する作動流体の量の調整ができる。つまり、空気ばね12の内部圧力(ばね圧)の微調整が実行し易くなる。なお、他の実施形態においては、第1開閉弁24a及び第4開閉弁24dの開弁で規定される第1流路系の第1流動態様と第2開閉弁24b及び第3開閉弁24cの開弁で規定される第2流路系の第2流動態様が異なるようにしてもよい。例えば開閉弁の開口径を第1流路系より第2流路系を大きくする。
その結果、ECU56が第1開閉弁24a及び第4開閉弁24dを開弁して第1流路系を選択した場合は、例えば空気ばね12を低速上昇態様または内部圧力の微調整態様とすることができる。また、ECU56が第2開閉弁24b及び第3開閉弁24cを開弁して第2流路系を選択した場合、例えば空気ばね12を中速上昇態様または内部圧力の中調整態様とすることができる。さらに、ECU56が第1流路系と第2流路系の両方を選択した場合は、例えば空気ばね12を高速上昇態様または内部圧力の高速調整態様とすることができる。
【0039】
また、上述したような第1流路系及び第2流路系の選択を1回の車高上昇過程中で複数回行ってもよい。例えば車高上昇初期期間の上昇速度を第1流路系または第2流路系の一方を用いた第1速度態様とし、中間期間で第1流路系と第2流路系の両方を用いて第1速度態様より速い第2速度態様とし、最終期間で再び第1速度態様としてもよい。このように、第1速度態様でゆっくりと車高上昇を開始することにより、上昇開始時のショックを軽減することができる。また、中間期間で第2速度態様の高速上昇に移行することで、車高上昇制御完了までの時間短縮を行い、最終期間で再度第1速度態様のゆっくりとした車高上昇に切り替えることで、上昇停止時のショックを軽減することができる。
【0040】
ところで、本実施形態の車高調整装置10の場合は
図2等に示すように、第2開閉弁24bの他端側と第3開閉弁24cの一端側が共に絞り機構40に接続されているが、第2開閉弁24bの他端側は第3開閉弁24cの一端側にも接続されている。つまり、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差に基づいて作動流体を空気ばね12側へ流動させる場合、絞り機構40側、つまりコンプレッサユニット30とは関係なく、第1開閉弁24a及び第4開閉弁24dで形成される第1流路系または第2開閉弁24b及び第3開閉弁24cで形成される第2流路系のいずれか一方または両方を用いて作動流体を通過させることができる。言い換えれば、圧力差により作動流体を流動させる場合は、コンプレッサユニット30を経由させないで済む。したがって、作動流体を圧力差によって流動させる場合の流路がシンプル化され、流動時の圧損発生を軽減することができる。
【0041】
車高調整装置10の場合、基本的には、圧力タンク26側の圧力と空気ばね12側との圧力差により作動流体を空気ばね12側に向けて流動させる。しかし、圧力タンク26側から空気ばね12側へ作動流体が流動した結果、作動流体を十分に流動させるだけの圧力差が圧力タンク26側と空気ばね12側の間になくなってしまう場合がある。また、車高上昇制御開始の時点で圧力タンク26側と空気ばね12側とで十分な圧力差(差圧)がない場合がある。そのような場合、ECU56は、コンプレッサユニット30のモータ34を駆動させてコンプレッサ36により圧力タンク26から作動流体を強制的に汲み上げ、空気ばね12側に圧送することになる。
【0042】
図3は、車高上昇制御時にコンプレッサ36を用いて作動流体を空気ばね12側へ圧送する場合の車高調整装置10の動作を示している。例えば、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bの検出結果に基づき、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差が所定値以下になった場合、ECU56は第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉状態を切り替えて、コンプレッサ36による作動流体の圧送を開始する。この開閉状態の切り替えの契機となる圧力差の所定値は、予め試験等により決定することができる。例えば、車高上昇速度が所定値より低くなるような差圧値を定めておくことができる。この場合、車高上昇が停止する前にコンプレッサ36による圧送を開始するようにすることが望ましい。
【0043】
他の実施形態においては、コンプレッサ36による圧送の開始を車高センサ58からの検出結果に基づいて実行してもよい。すなわち、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差が低下すると車高上昇速度も低下する。したがって、ECU56は、各車高センサ58から提供される車高値を時間微分して車高上昇速度を算出し、車高上昇速度が所定値(予め試験等により定めた下限上昇速度)以下になった場合に、コンプレッサ36による作動流体の圧送を開始するようにしてもよい。また、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bによる検出結果と、車高センサ58による検出結果の両方を用いて、コンプレッサ36の駆動開始を決定してもよい。
【0044】
ECU56は、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bによる検出結果に基づく圧力差が所定値以下になった場合、または各車高センサ58の検出した車高値に基づく車高上昇速度が所定値以下になった場合、
図3に示すように、第1開閉弁24aを開弁状態にし、第4開閉弁24dを閉弁状態にする。この状態で、圧力タンク26側とコンプレッサ36側が連通状態になる。また、第2開閉弁24bを閉弁状態にし、第3開閉弁24cを開弁状態にする。この様態で、コンプレッサ36側と空気ばね12側が連通状態になる。その結果、コンプレッサ36が駆動することで、圧力タンク26内の作動流体がタンク接続主流路16b、第1開閉弁24a、コンプレッサ流入流路28bを介して、コンプレッサ36に汲み上げられる。そして、汲み上げられた作動流体は圧縮されて、コンプレッサ流出流路28a、第3開閉弁24cを介して空気ばね12側へ圧送される。その結果、圧力タンク26側と空気ばね12側との間で十分な圧力差がない状態でも各空気ばね12の車高上昇制御が実行できる。なお、この場合、車高上昇速度は、コンプレッサ36の出力、つまりモータ34の出力によって定まる。そのため、ECU56は、要求される車高上昇速度、例えば、高速車高上昇要求や低速車高上昇要求に応じてモータ34の出力を制御する。また、前述したように、1回の車高上昇過程で、車高上昇速度を複数回変化させる場合も、ECU56は、モータ34の出力を制御すればよい。
【0045】
なお、車高上昇制御前または車高上昇制御中に圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差がある場合でも車両重量が増加した場合、例えば車両の利用者(乗員)が増えた場合や積荷が増えた場合、空気ばね12が支えるべき荷重が増えるので空気ばね12が短縮する。その結果、空気ばね12側の圧力が上昇して、圧力タンク26側との間で圧力差(差圧)がなくなってしまう場合がある。このような場合も車高上昇速度は低下する。その状況は、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bまたは車高センサ58の検出値に基づいて検出可能である。したがって、ECU56は適切なタイミングでコンプレッサ36による圧送を開始することができる。
【0046】
次に、
図4を用いて車高下降制御時の車高調整装置10の動作を説明する。ECU56は、例えば、CANを介して取得した車高下降要求を取得した場合、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉状態を切り変える。その結果、コンプレッサ36により作動流体を空気ばね12側から汲み上げて圧力タンク26に戻す(圧力タンク26へ向けて作動流体を圧送する)ことが可能になり、空気ばね12を短縮させて車高を下降させることができる。
【0047】
ECU56は、車高下降制御を実行する場合、
図4に示すように、第1開閉弁24aを閉弁状態にし、第4開閉弁24dを開弁状態にする。また、第2開閉弁24bを開弁状態にし、第3開閉弁24cの閉弁状態を維持する。また、車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RLを開弁状態にする。その結果、空気ばね12側とコンプレッサ36は、第4開閉弁24d及びコンプレッサ流入流路28bを介して連通状態となる。また、コンプレッサ36の流出側は、コンプレッサ流出流路28a、第2開閉弁24b、タンク接続主流路16bを介して圧力タンク26と連通状態となる。そして、空気ばね12側の作動流体は、コンプレッサ36により汲み上げられ、圧力タンク26に圧送される。
【0048】
車高下降制御の場合、車高下降速度はコンプレッサ36による作動流体の汲み上げ速度に依存する。つまり、ECU56は、モータ34の出力を任意に調整可能なので車高下降速度を任意に選択可能である。したがって、車高下降速度を早めたい場合ECU56は、モータ34の出力を増加し、車高下降速度を遅めたい場合には、モータ34の出力を減少させる。例えば、運転者を含む搭乗者が車両を駐車(停車)状態にして車両を離れようとする場合に、車両が休止状態に移行したことを示すようにしてもよい。この場合、運転者を含む搭乗者が車両の周囲に居る期間、例えば、車両の駆動源をオフにして、さらに降車してドアロックを行った後数秒以内に急速に車高を標準車高より下げることで車両が自ら休止したような演出をすることができる。また、走行中に車高を下げた方が安定した走行ができる場合には、安定した走行を維持しつつ違和感のない速度範囲内で車高を下降させることができる。
【0049】
また、ECU56は、車高の下降量はコンプレッサ36の駆動期間で調整できる。例えば、運転者を含む搭乗者が車両を駐車(停車)状態にして車両を離れた場合、車高を下降させることで、駐停車状態の車両のシルエットを美しく見せる演出ができる。また、車高を下げることで、車輪や車両自体の盗難抑制に寄与することができる。なお、車高下降制御を行う場合、車両の下面側及び周囲に障害物がないことをセンサ等により検出し、車両の破損が生じないようにすることが望ましい。
【0050】
ところで、本実施形態の車高調整装置10のECU56は、車高調整を行う場合、まず、目標車高を取得し、その目標車高に空気ばね12の伸縮状態(実車高)が到達するように回路バルブブロック24や車高調整弁14等の開閉弁の開閉制御を行い所定量の作動流体を空気ばね12に対し給排する。この場合、空気ばね12は、速度を伴う作動流体の給排によって伸縮するので、開閉弁の制御がした後も、流路内で作動流体が流れて空気ばね12を伸縮させてしまう場合がある。つまり実際の車高(実車高)が目標車高に対してオーバーシュートしてしまう場合がある。
【0051】
例えば、
図5は、車高を上昇させる場合の実車高Yの変化を示す図である。
図5に示すように、目標車高Hが設定されている場合、ECU56が、車高センサ58から提供される車高値に基づき、実車高Yが目標車高Hに到達した時間Aで回路バルブブロック24や車高調整弁14等の開閉弁を閉弁状態にした場合、前述したように作動流体の流れが直ちに止まらないので、実車高Yは、目標車高Hを超えてしまう。つまり、オーバーシュートする(オーバーシュート量Mが生じる)。したがって、目標車高H(最終目標車高)に実車高Yが到達(収束)するようにするためには、開閉弁の制御停止後に発生するオーバーシュート量を推定して、目標車高Hを修正(例えば低車高へ修正)した修正目標車高に基づいて作動流体の給排(開閉弁の制御)を行う必要がある。
【0052】
ただし、空気ばね12は、車両への組み付け状態(組み付け誤差)による特性のばらつきや使用に伴う経時変化が原因で特性がばらつく場合がある。つまり、設計段階の空気ばね12の特性と実際に使用されるときの空気ばね12の特性が異なる場合がある。したがって、車高調整時に発生するオーバーシュート量が変動する場合がある。また、空気ばねを伸縮させる作動流体(例えば空気)は、周囲温度(周囲環境)によって膨縮するので、同じ空気ばね12でも車高調整を行うときの温度(環境)でオーバーシュート量が変動する場合がある。したがって、オーバーシュート量の推定精度を向上するためには、空気ばね12の直近の挙動に基づく特性を反映させることが望ましい。
【0053】
そこで、本実施形態の車高調整装置10は、ECU56による今回の制御実行終了後の目標車高(今回目標車高)に対する実車高の変化状態を示す状態情報を記憶する記憶部60を備えている(
図1〜
図4参照)。そして、ECU56は、記憶部60に記憶した状態情報に基づき、次回の制御実行時の目標車高(次回目標車高)を修正して、車高調整を実行する。つまり、1回目の車高制御で発生したオーバーシュートの特性(空気ばね12の特性)を学習しておき、2回目以降の車高制御では、直近の空気ばね12の特性を反映させて修正した修正目標車高を用いて車高制御を実行する。このような修正を行うことで、2回目以降の車高が本来目標とする目標車高(修正前の目標車高、最終目標車高)に近づきやすくしている。
【0054】
記憶部60は、状態情報として、例えばECU56が回路バルブブロック24や車高調整弁14の制御を終了した後に車高変化が収束するまでの収束時間N(オーバーシュートの収束時間)を記憶することができる。この収束時間Nは空気ばね12の特性に応じて変化するので、空気ばね12の取り付けに起因する特性変化や経時変化に起因する特性変化を反映している空気ばね12の現在の状態を示す情報の一つとなり得る。収束時間Nは、
図5に示すように、実車高Yが目標車高に到達した時間Aから車高が安定するまでの時間であり、例えば、車高センサ58の検出する車高が安定(停止)した時間Bまでの時間である。この収束時間Nは、車高センサ58が検出する車高値を用いて、例えば、以下の(式1)で算出することができる。
N=Nmemo+(M/F) ・・・(式1)
ここで、「N」は、今回の車高制御時のオーバーシュートの収束時間である。「Nmemo」は、前回の車高制御時の前回収束時間であり、記憶部60に記憶された値である。したがって、1回目の車高制御で収束時間Nを算出する場合、前回収束時間Nmemoの値は、「0」である。また、「M」は、今回の車高制御におけるオーバーシュート量であり、車高センサ58により実測した実車高Yと目標車高Hとの差分である。なお、オーバーシュート量Mは、車高制御を実行するときの圧力タンク26(供給源)の圧力状態に応じて異なる。例えば、圧力タンク26の圧力が十分に高い第1の圧力状態の場合は、回路バルブブロック24や車高調整弁14が閉弁状態にされたとき(上昇制御終了時)の作動流体の流速は早く、そのとき車高上昇速度が大きい。つまり、オーバーシュート量が大きくなり、安定するまでの時間が長くなり、収束時間が長くなる。逆に圧力タンク26と空気ばね12との間の差圧により作動流体が流動可能であるが、第1の圧力状態より低い第2の圧力状態の場合は、回路バルブブロック24や車高調整弁14が閉弁状態にされたとき(上昇制御終了時)の作動流体の流速は遅く、車高上昇速度が低下する。つまり、オーバーシュート量が小さくなり、安定するまでの収束時間が短くなる。したがって、
図5における収束時間Nを算出するために用いるオーバーシュート量を確定するための確定時間T、つまり、収束時間を取得するために必要な取得期間は、圧力タンク26の圧力状態に応じて変えている。このように確定時間Tを車高調整時の条件によって変えることで、オーバーシュート量の検出を適切な期間で、効率的に行うことができる。「F」は、ECU56による回路バルブブロック24や車高調整弁14が制御され、空気ばね12への作動流体の給排が制御上終了した時の空気ばね12の変位速度(変化速度)である。つまり、オーバーシュートが始まった時の変位速度である。この場合、ECU56は、車高制御を終了したとき(開閉弁を閉弁する信号を出力したとき)に車高センサ58が取得した車高値を時間微分することで車高制御終了時の車高調整速度(車高上昇速度)が算出(取得)できる。なお、オーバーシュートの収束時間は、ある車高調整速度のときに車高制御を停止した場合に、どれだけの時間をかけてオーバーシュートが終了(収束)するかを示す状態情報である。ECU56は、記憶部60に算出した収束時間Nを記憶させる。なお、記憶部60は、収束時間Nに代えて、オーバーシュート量Mとそのときの空気ばね12の変位速度等他の形態で情報を記憶しておき、後から必要な形態の情報に変換してもよい。この場合、記憶部60に記憶した情報を他の制御にも利用できる。
【0055】
ECU56は、次の車高制御(2回目)を行う場合、目標車高を記憶部60に記憶した収束時間Nを用いて修正する。例えば、今回(1回目)の車高制御で実車高Yが目標車高Hを大きくオーバーシュートした場合、強制的に車高を目標車高Hに戻す場合がある。すなわち、車高下降制御が行われる場合がある。また、1回目の車高制御中または制御終了後に、一部の利用者が乗車したり荷物が積載されたりすると、その重量により車高が降下する。つまり、ECU56は再度、乗車に適した目標車高Hを設定し、その目標車高Hに到達するように2回目の車高制御を開始する。このとき、空気ばね12が持ち上げるべき積載量は、1回目の車高制御のときと異なるので、発生するオーバーシュート量は、今回(1回目)のオーバーシュート量とは異なる。つまり、次の車高制御で目標車高(最終目標車高)に近づけようとする場合、現在の空気ばね12の状態でのオーバーシュート量を推定する必要がある。この場合、正確なオーバーシュート量の推定を行うためには、空気ばね12の組み付け誤差や経時変化、周囲の環境変化(外気温変化)等に伴う特性の変化も含めて、オーバーシュート量の推定を行う必要がある。
【0056】
前述したように、記憶部60は、空気ばね12の組み付け誤差や経時変化、周囲の環境変化(外気温変化)等に伴う特性の変化を含めた状態で動作した空気ばね12の収束時間Nを記憶している。したがって、この収束時間Nを用いて、2回目のオーバーシュート量(予測オーバーシュート量m)を推定することで、現在の空気ばね12の挙動に則した予測オーバーシュート量が得られる。具体的には、以下の(式2)で予測オーバーシュート量
mが算出できる。
m=f×N ・・・・(式2)
ここで、「f」は、
図6に示すように、2回目の車高調整の実行中の空気ばね12の変位速度であり、車高センサ58が取得した車高値を時間微分することで取得できる。(式2)に示すように、現在の空気ばね12の特性で、目標車高に向かうように上昇する場合オーバーシュート量(予測オーバーシュート量m)が算出できる。つまり、この予測オーバーシュート量mは、現在の空気ばね12の特性で、現在の積載状態の車両を持ち上げる場合のオーバーシュート量となる。この予測オーバーシュート量mを考慮して目標車高Hより手前で回路バルブブロック24や車高調整弁14の制御を終了すれば、実車高Yはオーバーシュートしつつも修正前の目標車高H(最終目標車高)に近づく。この場合、修正目標車高hは、以下の(式3)で算出できる。
h=H−m・・・・(式3)
図6に示すように、予測オーバーシュート量m分だけ、目標車高Hから減算することで、予測オーバーシュート量m分のオーバーシュートは発生するものの、そのオーバーシュート量が減じられた車高になるように、車高制御を停止することができる。つまり、目標車高Hで制御するより早く制御を終わらせることにより、実車高Yを最終目標車高に近づけることができる。
【0057】
図6には、非修正の目標車高Hで車高制御を継続した場合の制御終了車高(オーバーシュート車高)yを示す。非修正の制御終了車高yは、
図5と同様に、実車高yが目標車高に到達した時刻Cで回路バルブブロック24や車高調整弁14が閉弁状態に制御されるので、目標車高Hを超えてオーバーシュートする。一方、ECU56は、2回目の車高制御の実行中に修正目標車高hを算出し、目標車高Hと入れ替えることにより実車高Yが修正目標車高hに到達した時刻aで、回路バルブブロック24や車高調整弁14が閉弁状態に制御するので、オーバーシュートは発生するものの、そのオーバーシュートは、修正目標車高hから始まるので、最終目標車高(最初に設定した目標車高H)を超えてオーバーシュートすることが抑制できる。
【0058】
なお、2回目の車高制御において、目標車高Hに対しオーバーシュートした場合、上述した(式1)の演算を再度行い、記憶部60の記憶内容を更新する。つまり、修正目標車高hからのオーバーシュート量Mと、車高制御を終了した時刻aにおける空気ばね12の変位速度Fに基づいて、今回(2回目)の車高制御時のオーバーシュートの収束時間Nを算出する。この場合、前回収束時間Nmemoは、記憶部60に記憶された1回目の収束時間Nである。そして、3回目以降の車高調整の場合に、順次更新された収束時間Nを用いて予測オーバーシュート量mを算出し、修正目標車高hを算出する。このように、現在の空気ばね12の特性を反映した状態情報(収束時間N)を用いて目標車高を修正することにより、本来目標とする目標車高(最終目標車高)により近づくように車高調整を行うことができる。つまり、前述したように強制的に目標車高Hに戻すような制御は不要になる。
【0059】
なお、目標車高Hには、
図7に示すように、許容車高Pが設定されている。つまり、目標車高Hに対して、±Pの車高範囲を設けて、オーバーシュートの検出が敏感になりすぎないようにしている。例えは、外乱により車高が微動するような場合をオーバーシュートと誤判定しないようにしている。したがって、ECU56は、実車高が目標車高に定められた許容車高を超えた場合に、オーバーシュートが発生したと判定して、記憶部60に記憶された状態情報を更新するようにしている。
【0060】
上述したように構成される車高調整装置10の車高制御の制御手順を
図8および
図9のフローチャートを用いて説明する。まず、
図8を用いて、状態情報(オーバーシュートの収束時間)の算出および学習の手順を説明する。なお、
図8のフローチャートは、所定の制御周期、例えば10msで繰り返し実行される。また、
図8では、車高の上昇制御を行う場合を説明する。
【0061】
ECU56は、前回の制御周囲では車高制御が実行され、かつ今回の制御周期で車高制御が終了したか否かを監視する(S100)。つまり、前回の制御周期のときには、回路バルブブロック24や車高調整弁14が開弁状態に制御され、圧力タンク26から空気ばね12に向けて作動流体が供給されている状態であるか否かを監視する。また、今回の制御周期のときには、回路バルブブロック24や車高調整弁14が閉弁状態に制御され、圧力タンク26から空気ばね12に向かう作動流体が制御上遮断された状態に推移したか否かを監視する。そして、前回の制御周囲では車高制御が実行されており、かつ今回の制御周期で車高制御が終了した場合(S100のYes)、ECU56は車高制御の学習中であること示す学習フラグ(内部フラグ)をONする(S102)。つまり、実車高Yが目標車高Hに到達し開閉弁を閉弁状態にした状態である。それと同時に、空気ばね12において、目標車高Hを超えてオーバーシュートが始まったタイミングである。ECU56は、続いて、制御終了時の空気ばね12の変位速度を算出する(S104)。この場合、ECU56は、車高センサ58から提供される車高値のうち車高制御を終了したとき、つまり空気ばね12への作動流体の供給を終了したときに得られた車高値を時間微分することにより算出する。
【0062】
続いて、ECU56は、圧力タンク26の圧力を第1圧力センサ32aの検出結果に基づき取得し、圧力タンク26内の圧力が所定値Q以上あるか否かを確認する(S106)。この所定値Qは、例えば、予め試験等により決めることができる。圧力タンク26の圧力が所定値Q以上であれば(S106のYes)、空気ばね12に供給する作動流体の流速が一定値以上であり、車高がオーバーシュートした場合に安定するまでの時間が長くなる。この場合、オーバーシュート量Mを確定するための確定時間Tは、圧力タンク26の圧力が所定値Q未満の場合に選択される確定時間t2より長い確定時間t1が選択される(S108)。一方、圧力タンク26の圧力が所定値Q未満の場合(S106のNo)、空気ばね12に供給する作動流体の流速が一定値未満であり、車高がオーバーシュートした場合に安定するまでの時間が圧力タンク26の圧力が所定値Q以上の場合より短くなる。この場合、オーバーシュート量Mを確定するために確定時間Tは、確定時間t1より短い確定時間t2が選択される(S110)。
【0063】
ECU56は、学習フラグがONであり(S112のYes)、選択されたオーバーシュートの確定時間が経過した場合(S114のYes)、オーバーシュート量Mを算出する(S116)。この場合、ECU56は、車高センサ58が検出した実車高Yと目標車高Hとの差を算出することでオーバーシュート量Mを算出する。ECU56は、算出したオーバーシュート量Mが
図7に示す許容車高Pを超えている場合(S118のNo)、車高制御の学習が必要であると判定して、前述した(式1)にも基づいて、オーバーシュート量Mの収束時間Nを算出するとともに、その値を記憶部60に記憶(更新)する(S120)。そして、この制御周期における学習が終了したことを示すために学習フラグ(内部フラグ)をOFFして(S122)、一旦このフローを終了する。
【0064】
S118において、算出された今回のオーバーシュート量Mが許容範囲以内(許容車高P以内)の場合(S118のYes)、ECU56は、発生したオーバーシュート量Mは許容できる範囲であると判定する。つまり、実車高Yは、最終目標車高(目標車高H)であると見なせると判定する。この場合、今回の車高制御の結果を学習する必要なしと判定し、学習内容の更新を省略する。つまり、前回の学習内容を維持して、今回の制御周期のフローを一旦終了する。また、S114において、選択した確定時間が経過していない場合(S114のNo)、車高値がまだ変化している(車高が変動している)と判定して、ECU56の内部タイマのカウントを継続し(S124)、一旦この制御周期のフローを終了する。
【0065】
S112において、学習フラグがOFFの場合(S112のNo)、つまり、今回の制御周期は車高制御の終了タイミングでない場合、または前回の制御周期で車高制御が行われていない場合で、この場合は学習タイミングではないと判定して一旦このフローを終了する。また、S100において、今回の制御周期は、車高制御の終了タイミングでない場合、または前回の制御周期で車高制御が行われていない場合(S100のNo)、S112に移行してS112以降の処理を実行する。
【0066】
このように、車高制御の終了タイミングになった場合にそのときのオーバーシュートの状態に基づき記憶部60の記憶内容を更新して、常に最新の空気ばね12の状態に基づく制御が実行できるよいにする。
【0067】
図9は、車高調整の手順を説明するフローチャートである。ECU56は、現在の車高制御が2回目以降の車高制御中の場合(S200のYes)、(式2)を用いて、予測オーバーシュート量mを算出する(S202)。つまり、現在の空気ばね12の変位速度(車高値の時間微分値)と記憶部60に記憶した収束時間Nに基づき、現在の空気ばね12の挙動に則した予測オーバーシュート量mを得る。
【0068】
そして、ECU56は、修正目標車高hを(式3)に基づいて算出し(S204)、車高制御で実車高Yと比較する対象を算出した修正目標車高hとする。そして、実車高Yが修正目標車高hに到達した場合(S206のYes)、ECU56は、回路バルブブロック24や車高調整弁14を閉弁状態にして車高制御を一旦終了させて(S208)、このフローを終了する。この場合、実車高Yは、オーバーシュートはするものの、修正目標車高hに基づく制御に切り替わっているので、最終目標車高(目標車高H)に近づかせて、車高変化を終了させることができる。
【0069】
ECU56が車高制御を終了した後、空気ばね12が目標車高Hに対してオーバーシュートしていない場合は、ECU56はこのまま車高制御を完了させる。一方、修正目標車高を用いた車高制御が終了した後、オーバーシュートがまだ発生している場合は、そのオーバーシュート量Mを用いた学習を再度行うとともに、次の車高制御を開始する。
【0070】
S206において、実車高が修正目標車高に到達していない場合(S206のNo)、一旦このフローを終了し、次の制御周期でS200以降の処理を実行する。この場合、空気ばね12の変位速度に対応して予測オーバーシュート量m、修正目標車高hが更新されていく。なお、S200において、現在車高制御中でない場合は、今回の制御周期におけるこのフローを終了する。
【0071】
上述した実施形態では、クローズドタイプの作動流体の給排システムを備える車高調整装置10について説明した。別の実施形態では、例えば、雰囲気(外気)を取り入れて、コンプレッサ36で圧縮して圧力タンク26を介して空気ばね12側に供給する、いわゆるオープンタイプの給排システムを備えた車高調整装置にも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。また、オープンタイプの一種で、コンプレッサと高圧タンクおよび低圧タンクを備える給排システム、を備えた車高調整装置にも適用可能である。このタイプの場合、コンプレッサは、例えば、車高調整制御が行われていないときに、高圧タンクや低圧タンクの圧力を所定値に調整しておき、作動流体の給排が必要な場合には、高圧タンクまたは低圧タンクの圧力と空気ばね12側との差圧による作動流体の移動を迅速に実現するようにしている。つまり、常時タンク側と空気ばね12側との間で圧力差が形成可能であり、スムーズな車高制御が可能で、他の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
上述した車高制御時の学習は、全ての空気ばね12を一括に管理しつつ、行ってもよいし、個別の空気ばね12について、個別に学習を行ってもよく、同様の効果を得ることができる。また、上述の実施形態では、主として車高を上昇させる場合について説明したが、車高を降下させる場合にも同様にオーバーシュートが発生する。この場合も上述の実施形態と同様に現在の空気ばね12の特性を取得するような学習を行い、次回の車高制御に反映させることが可能である。したがって、オーバーシュート量の推定精度を向上して、より迅速に実車高を目標車高(最終目標車高)に近づけることができるという同様の効果を得ることができる。
【0073】
本発明において実施形態及び変形例を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。