(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態に係る軌道輪は、車両用軸受の軌道輪に関する。前記軌道輪は、軌道部と、フランジと、カラーとを備える。前記軌道部は、軌道を有し、金属で形成される。前記フランジは、炭素繊維強化樹脂で形成される。前記フランジは、前記軌道部の表面から前記軌道部の径方向外方に突出する。前記フランジは、締結部材が挿入される締結孔を有する。前記カラーは、金属製であり環状をなす。前記カラーは、前記フランジの前記締結孔に挿入される。前記カラーは、前記締結孔の内周に接する内周部と、前記締結孔の一方端において前記内周部から前記締結孔の径方向外方へ延びるカラーフランジとを有する。前記カラーの内周部の軸方向の長さは、前記締結孔の軸方向の長さより短い(第1の構成)。
【0011】
第1の構成によれば、フランジ本体が炭素繊維樹脂で構成されている。このため、軌道輪を軽量化することができる。
【0012】
また、カラーはカラーフランジを有し、カラーの内周部の軸方向の長さが、締結孔の軸方向の長さより短くなっている。これにより、金属製のカラーが熱膨張した場合であっても、カラーの内周部が締結孔から外方へ突出しないか、又は、突出の度合いが小さくなる。すなわち、熱膨張したカラーは、締結孔の端部に配置される相手部材と干渉しないか、又は、干渉度合いが小さくなる。そのため、カラーの熱膨張による相手部材の変形が抑えられる。結果として、締結力の低下を抑えることができる。
【0013】
前記フランジは、前記締結孔の軸方向に垂直な方向の炭素繊維を含む炭素繊維樹脂の層が積層されて形成されてもよい(第2の構成)。
【0014】
第2の構成によれば、炭素繊維樹脂の層に垂直な方向に締結力が加わる。これにより、炭素繊維樹脂の層間の密着度を高めることができる。
【0015】
前記カラーの内周部の軸方向の長さは、例えば、前記締結孔の軸方向の長さの98.7%〜98.8%程度とすることができる。これにより、カラーの熱膨張による相手部材の変形をより効果的に抑えることができる。
【0016】
前記カラーは、前記締結孔の一方端から挿入される第1カラーと、前記締結孔の他方端から挿入される第2カラーにより構成されてもよい。この場合、前記第1カラーは、前記締結孔の内周に接する前記第1内周部と、前記一方端において前記第1内周部から前記締結孔の径方向外方へ延びる第1カラーフランジとを有することができる。前記第2カラーは、前記締結孔の内周に接する前記第2内周部と、前記他方端において前記第2内周部から前記締結孔の径方向外方へ延びる第2カラーフランジとを有することができる。前記第1内周部及び前記第2内周部との間には、隙間を設けることができる(第3の構成)。
【0017】
第3の構成によれば、締結孔の内部で、第1カラーの第1内周部と、第2カラーの第2内周部とが、隙間をはさんで軸方向に対向する。そのため、第1カラー及び第2カラーは、熱膨張した場合であっても、締結孔の外に突出しないか、又は、突出度合いが小さくなる。そのため、相手部材の損傷を抑えることができる。
【0018】
前記カラーは、前記内周部の外周面の一部に、周方向において他の部分と径方向の高さが異なる変形部を有してもよい(第4の構成)。
【0019】
第4の構成によれば、カラーが締結孔に対して周方向にずれにくくなる。
【0020】
前記軌道輪は、前記締結孔に挿入され、前記フランジに取り付けられる相手部材に達する締結部材をさらに備えてもよい。この場合、前記締結部材によって前記フランジが前記相手部材に固定された状態において、前記カラーの内周部の軸方向の長さが前記締結孔の軸方向の長さより短くなっている構成とすることができる(第5の構成)。
【0021】
第5の構成によれば、締結部材により、フランジが相手部材に取り付けられた状態において、カラーの内周部の軸方向の長さが締結孔の軸方向の長さより短くなっている。そのため、フランジを相手部材に取り付けた状態において、カラーが熱膨張した場合であっても、カラーと相手部材との干渉がより抑えられる。
【0022】
前記軌道輪は、前記軌道部の表面において前記フランジから軸方向に延びる、炭素繊維樹脂で形成された樹脂部さらに備えることができる。この場合、前記フランジでは、炭素繊維が前記軌道部の軸方向に対して垂直になるよう配置されてもよい。前記樹脂部では、炭素繊維が前記軌道部の径方向に対して垂直になるように配置されてもよい。前記樹脂部の炭素繊維と前記フランジの炭素繊維は、少なくとも一部でつながっていてもよい(第6の構成)。
【0023】
第6の構成によれば、フランジでは、締結力が加わる方向に垂直な方向に炭素繊維を配置することができる。そのため、炭素繊維間の密着度を高めることができる。また、フランジの炭素繊維と、これに垂直な方向に配置される樹脂部の炭素繊維とが少なくとも一部でつながっているため、フランジの強度を向上させることができる。
【0024】
<実施形態>
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。説明の便宜上、各図において、構成を簡略化又は模式化して示したり、一部の構成を省略して示したりする場合がある。
【0025】
[実施形態1]
(軸受の構成例)
図1は、直線X1を通る平面で実施形態1に係る車両用の軸受10を切断した側面断面図である。直線X1は、軸受10の軸心である。軸受10は、ハブユニットと称することもできる。
【0026】
図1は、軸受10を車両に取り付けた状態を示している。軸受10において、符号A1側の端は車両への取付状態において車体から遠い方の端であり、符号B1側の端は車両への取付状態において車体に近い方の端である。以後、軸受10において、車体からより遠い位置を軸方向の外方、車体により近い位置を軸方向の内方と称する場合がある。
【0027】
軸受10は、外輪1、内方部材2及び転動体3,4を備える。外輪1及び内方部材2は、軸受10の軌道輪である。外輪1は、内方部材2の外周に設けられる。外輪1の内周には軌道面113,114が設けられる。内方部材2の外周には軌道面213,214が設けられる。内方部材2の軌道面213,214と外輪1の軌道面113,114との間に、回転可能な状態で、複数の転動体3,4が配置される。
【0028】
外輪1は、車両が有するナックル(懸架装置)15に取り付けられる。内方部材2には、ブレーキディスク(ブレーキロータ)(図示せず)が取り付けられる。本実施形態では、外輪1が、固定輪であり、内方部材2は、外輪1の内周側に設けられる回転軸(回転輪又は内軸とも称される)である。
【0029】
(外輪の構成例)
外輪1は、軌道部111と、樹脂部11と、フランジ12とを備える。軌道部111は、筒状をなす。樹脂部11及びフランジ12は、軌道部111に取り付けられる。フランジ12は、軌道部111の外周面から軌道部111の径方向外方へ突出している。樹脂部11は、軌道部111の外周面において軸方向に延びて形成される。フランジ12には、相手部材としてナックル15が取り付けられる。
【0030】
軌道部111は、例えば鋼等の金属で構成される。軌道部111は、筒状をなす。軌道部111の内周面には、軌道面113,114が設けられている。軌道面113,114は、それぞれ、X1を軸芯とする環状をなす。
【0031】
軌道部111の径方向外方には、樹脂部11及びフランジ12が配置される。樹脂部11及びフランジ12は、軌道部111の外周を覆う外径部を構成する。外径部は、筒状をなす。言い換えると、外径部に、軌道部111が挿入される。樹脂部11及びフランジ12(外径部)は、軌道部111と同軸に配置される。樹脂部11及びフランジ12の内周面の少なくとも一部は、軌道部111の外周面に接している。
【0032】
軌道部111の軸方向において、樹脂部11の一方の端(外方端)は、軌道部111の一方の端よりも突出している。樹脂部11の他方の端(内方端)は、軌道部111の他方の端よりも突出している。ただし、軌道部111の軸方向において、軌道部111の端は、樹脂部11の端と同じ位置又は突出した位置に配置することもできる。
【0033】
樹脂部11及びフランジ12は、炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)で形成される。フランジ12は、軌道部111の表面(本例では外周面)から径方向外側に延びる。フランジ12は、軌道部111の軸方向に垂直な方向に配置された炭素繊維を含む樹脂で形成される。樹脂部11は、軌道部111の外周面において、フランジ12の根元から軌道部111の軸方向に延びて形成される。樹脂部11は、軌道部111の径方向に垂直な方向に配置された炭素繊維を含む樹脂で形成される。
【0034】
樹脂部11の炭素繊維とフランジ12の炭素繊維は、少なくとも一部でつながっている。すなわち、樹脂部11とフランジ12とは、少なくとも一部において連続した構成とすることができる。
【0035】
樹脂部11とフランジ12とが連続している構成としては、例えば、樹脂部11の少なくとも一部を構成する炭素繊維強化樹脂の層が、フランジ12の炭素繊維強化樹脂の層とつながっている構成とすることができる。具体的には、樹脂部11とフランジ12の双方に渡って配置される炭素繊維強化樹脂のシート(例えば、炭素繊維プリプレグ)が少なくとも1つ存在するよう構成することができる。
【0036】
樹脂部11及びフランジ12を形成する炭素繊維強化樹脂は、炭素繊維によって樹脂を強化した複合材料である。母材となる樹脂としては、例えば、エポキシ、フェノール、ポリイミド等の熱硬化性樹脂又は、ナイロン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0037】
上記炭素繊維強化樹脂は、例えば、炭素繊維プリプレグを用いて形成することができる。炭素繊維プリプレグは、炭素繊維に樹脂を含浸させてシート状に形成したものである。炭素繊維プリプレグは、例えば、炭素繊維を一方向に向くように平面状に配置したものを樹脂で結束したものとすることができる。又は、炭素繊維プリプレグは、炭素繊維を平面状に網組して樹脂で結束したものであってもよい。
【0038】
フランジ12は、軌道部111の軸方向に貫通する締結孔123を有する。締結孔123には、締結部材14が挿入される。締結部材14の軸は、軌道部111の軸と平行となる。フランジ12の軸方向に互いに対向する2つの面は、締結孔123の軸に垂直な面となっている。締結孔123の軸に垂直なフランジ12の面のうち一方の面(本例では、内方の面)に、相手部材の一例であるナックル15が取り付けられる。
【0039】
フランジ12の締結孔123には、金属製のカラー13が挿入される。カラー13は締結孔123と同軸の環状をなす。
図2は、
図1に示すフランジ12付近の拡大図である。
図2に示すように、カラー13は、内周部13aとカラーフランジ13bとを有する。内周部13aは、締結孔123の内周面に接する部分である。カラーフランジ13bは、締結孔123の一方端(
図2に示す例では外方端)において内周部13aから締結孔123の径方向外方へ延びる。
【0040】
カラー13の内周部13aは、筒状をなす。内周部13aの外周の径は、締結孔123の内周の径と略等しい。カラーフランジ13bは、締結孔123の軸に垂直な面を持つ中空の円板である。カラーフランジ13bは、締結孔123の周辺において、締結孔123の軸に垂直なフランジ12の面に接する。カラーフランジ13bは、締結部材14の座面を受ける。カラーフランジ13bの軸に垂直な面の面積は、締結部材14の座面の面積と同じか又は大きくすることができる。
【0041】
カラーフランジ13bにより、締結部材14による軸方向の締結力を、軸方向に垂直なフランジ12の面で受けることができる。そのため、カラー13が、締結孔123に対して軸方向にずれにくくなる。
【0042】
カラー13の内周部13aの軸方向の長さbは、締結孔123の軸方向の長さcより短い。すなわち、締結孔123の他方の端(内方の端)と、カラー13の他方の端部との間に隙間がある。すなわち、カラー13の内周部13aの他方の端部は、締結孔123の内部に位置している。締結孔123の他方の端と、カラー13の他方の端部との間の隙間の軸方向の長さaは、カラー13の内周部13aの軸方向の長さbと締結孔123の軸方向の長さcとの差となっている。
【0043】
締結部材14が挿入されていない状態、すなわち締結部材14による締結力が作用していない状態における上記のa、b及びcの寸法は、例えば、カラー13の線膨張率に基づいて設定することができる。カラー13の熱膨張によって長さbが変化する。そこで、熱膨張によって変化する長さbの想定される最大値を基に、締結部材14が挿入されていない状態における長さbとcを決定することができる。例えば、長さbの想定される最大値が、締結孔123の軸方向の長さcと同じか又は小さくなるよう長さb及びcを決定することができる。
【0044】
例えば、締結部材14が挿入されていない状態における長さbは、その状態における長さcの98.7%〜98.8%とすることができる。これにより、想定される温度範囲(例えば、120°以下)において、カラー13の熱膨張によりナックル15に重大な変形を与えることを抑えることができる。
【0045】
フランジ12が締結部材14によりナックル15に取り付けられた状態(すなわち締結力が作用している状態)においても、長さbはcより短くなるようにすることで、カラー13が膨張した場合のナックル15との干渉をより抑えることができる。
【0046】
ただし、フランジ12が締結部材14によりナックル15に取り付けられた状態においては、必ずしも、長さbがcより短くなくてもよい。例えば、締結部材14を挿入しない状態では、b<cとなっており、締結部材14でフランジ12とナックル15を締結した状態で、b=c又はb>cとなってもよい。この場合、熱膨張したカラー13の締結孔123からの突出の度合いが、ナックル15の座屈など重大な変形を生じさせない程度に長さb、cを設定することが好ましい。
【0047】
また、フランジ12の弾性限界を考慮して、締結部材14が挿入されていない状態におおける長さb、cを決定することもできる。締結部材14により、フランジ12が軸方向に圧縮される。そこで、例えば、締結前はb<cとし、締結時は、締結部材14による応力がフランジ12の弾性限界を超える前に、カラー13がナックル15に接触する(b=cとなる)ように、締結前の長さb及びcを決定することができる。
【0048】
すなわち、フランジ12の炭素繊維樹脂が塑性変形に達する前に、カラー13が、締結孔123の他方端においてナックル15(相手部材)に接するように、締結前の長さb及びcを設定することができる。これにより、締結力によって軸方向に圧縮されるフランジの変形を、弾性変形の範囲内とすることができる。そのため、締結部材14による軸方向の力(軸力)を、ナックル15及びフランジ12の弾性で受けることができる。結果として、ナックル15の損傷が起こりにくくなる。
【0049】
カラー13は、例えば、アルミニウム、鋳鉄又等の金属により形成される。
【0050】
締結部材14は、例えば、ボルトであり、頭と軸を有する。締結部材14の軸には、ねじが切られている。締結時には、締結部材14が締結孔123に挿入され、締結部材14の軸がナックル15に達する。ナックル15にも、内周にねじが切られた締結穴151が形成されている。締結孔123の他方端から突出した締結部材14の軸は、ナックル15の締結穴151に挿入される。
【0051】
(内方部材の構成例)
図1に示すように、内方部材2は、軌道部21と、フランジ22とを備える。フランジ22には、ディスクホイール(図示略)やブレーキディスク(図示略)等が取り付けられる。
【0052】
軌道部21は、外輪1に挿入されている。より具体的には、軌道部21は、外輪1が有する軌道部111の径方向内方に配置されている。内方部材2の軌道部21は、外輪1の軌道部111と同軸に配置される。
【0053】
軌道部21は、部材本体211と、内輪212とを有する。部材本体211は、軸受10の軸方向に延びる。内輪212は、部材本体211の外周面に固定されている。内輪212は、軌道部21の軸方向内方の端部に配置される。内輪212は、環状をなす。内輪212は、部材本体211と同軸に配置される。
【0054】
部材本体211の外周面及び内輪212の外周面には、それぞれ、軌道面214,213が設けられている。軌道面213,214は、それぞれ、環状をなす。軌道面213は、軸受10の軸方向において、軌道面214よりも内方に配置される。軌道面213,214は、それぞれ、外輪1が有する軌道面113,114と対向する。
【0055】
複数の転動体3は、外輪1の軌道部111が有する軌道面113と、内輪212が有する軌道面213との間に配置される。複数の転動体4は、外輪1の軌道部111が有する軌道面114と、内方部材2の軌道部21が有する軌道面214との間に配置される。
【0056】
フランジ22は、軌道部21の外周面から軌道部21の径方向外方に突出している。フランジ22は、軸受10の軸方向において、外輪1のフランジ12よりも外方に位置している。フランジ22は、軌道部21の外周面のうち、外輪1と対向していない部分に設けられる。
【0057】
フランジ22は、フランジ12と同様に、炭素繊維強化樹脂で形成される。フランジ22は、軌道部21の軸方向に垂直な方向に配置された炭素繊維を含む樹脂で形成される。炭素繊維強化樹脂は、例えば、炭素繊維プリプレグを用いて形成することができる。具体例として、フランジ22は、軌道部21の軸方向に積層された炭素繊維プリプレグによって形成することができる。
【0058】
フランジ22は、軌道部21の軸方向に貫通する締結孔221を有する。締結孔221には、締結部材24が挿入される。締結部材24の軸は、軌道部21の軸と平行となる。フランジ22における、軸方向に互いに対向する2つの面は、締結孔221の軸に垂直な面となっている。締結孔221に垂直なフランジの面のうち、一方の面(本例では外方の面)に対向する位置に、相手部材が取り付けられる。相手部材は、例えば、ディスクホイール(図示略)又はブレーキディスク(図示略)となる。
【0059】
フランジ22の締結孔221には、金属製のカラー23が挿入される。カラー23は締結孔221と同軸の環状をなす。カラー23には、は、外輪1のカラー13と同様の材料を用いることができる。
【0060】
図3は、
図1に示すフランジ22付近の拡大図である。
図3に示すように、カラー23は、内周部23aとカラーフランジ23bとを有する。内周部23aは、締結孔221の内周面に接する部分である。カラーフランジ23bは、締結孔221の一方端(
図3に示す例では内方端)において内周部23aから締結孔221の径方向外方へ延びる。
【0061】
カラー23の内周部23aは、筒状をなす。内周部23aの外周の径は、カラー23の内周の径と略等しい。カラーフランジ23bは、締結孔221の周辺において、締結孔221の軸に垂直なフランジ22の面に接する。カラーフランジ23bは、締結部材24の座面を受ける。カラーフランジ23bの軸に垂直な面における面積は、締結部材24の座面の面積と同じか又は大きくすることができる。
【0062】
車載状態において、カラー23の内周部23aの軸方向の長さfは、締結孔221の軸方向の長さgより短い。すなわち、締結孔221の他方の端(外方の端)と、カラー23の他方の端部との間に隙間がある。カラー23の内周部23aの他方の端は、締結孔221の内部に位置している。締結孔221の他方の端と、カラー23の他方の端部との間の隙間の軸方向の長さeは、カラー23の内周部23aの軸方向の長さfと締結孔221の軸方向の長さgとの差となっている。
【0063】
締結部材24が挿入されていない状態、すなわち締結部材24による締結力が作用していない状態における上記のe、f及びgの寸法は、例えば、外輪1のカラー13の場合と同様に、カラー23の線膨張率に基づいて設定することができる。例えば、長さfは、長さgの98.7%〜98.8%とすることができる。これにより、想定される温度範囲(例えば、120°以下)において、カラー23の熱膨張により相手部材に重大な変形を与えることを抑えることができる。
【0064】
フランジ22が締結部材24により相手部材に取り付けられた状態においても、長さfをgより短くすることで、カラー23が膨張した場合の相手部材との干渉をより抑えることができる。
【0065】
なお、締結部材24によりフランジ22に相手部材に取り付けられた状態(すなわち車載状態)においては、必ずしも、長さfがgより短くなくてもよい。例えば、締結部材24を挿入しない状態では、f<gとなっており、締結部材24でフランジ22と相手部材とを締結した状態で、f=g又はf>gとなってもよい。この場合、熱膨張したカラー23の締結孔221からの突出の度合いが、相手部材の座屈など重大な変形を生じさせない程度に長さf、gを設定することができる。また、フランジ12の場合と同様に、フランジ22の弾性限界を考慮して、長さf、gを決定することもできる。
【0066】
(外輪の製造方法)
以下、外輪1の製造方法について説明する。
図4、
図5及び
図6は、外輪1の製造工程を示す図である。
【0067】
まず、
図4に示すように、鋼等の金属製且つ筒状の軌道部111を準備する。次に、軌道部111の外周面上に、複数の炭素繊維プリプレグ30を積層する。各炭素繊維プリプレグ30は、炭素繊維を含む樹脂の層である。各炭素繊維プリプレグ30において、炭素繊維は各層の面内方向に延びて形成される。
【0068】
軌道部111の外周面において、各炭素繊維プリプレグは、軌道部111の径方向に積層される。積層される複数の炭素繊維プリグレグ30の少なくとも一部は、フランジ12(
図1参照)を形成する部分で折り曲げられ、折り曲げられた炭素繊維プリグレグの面が軌道部111の軸方向に垂直な面と平行になる状態で固定される。これにより、軌道部111の外周面上に積層される炭素繊維プリプレグ30の少なくとも一部の層は、フランジ12を形成する炭素繊維プリプレグと連続した構成とすることができる。
【0069】
このように、炭素繊維プリプレグ30を、軌道部111上で、径方向に垂直な面と軸方向に垂直な面を有する状態で固定したものを、複数、積層することができる。これにより、軌道部111の径方向に垂直な方向に積層される部分と、軸方向に垂直な方向に積層される部分が連続した状態で、炭素繊維プリプレグ30を積層することができる。軌道部111の径方向に垂直な方向に積層される部分は、樹脂部11(
図1参照)を形成する。軸方向に垂直な方向に積層される部分は、フランジ12を形成する。ただし、炭素繊維プリプレグの積層方向及び配置は特に限定されるものではない。
【0070】
次に、炭素繊維プリプレグ30が積層された軌道部111に所定の型及びバキュームバッグを装着し、真空引きを行う。その後、オートクレーブによって加熱及び加圧を施すことにより、
図5に示す中間体12iを製造することができる。
図5に示す中間体12iでは、締結孔がないフランジ12が、軌道部111の外周に成形されている。
【0071】
図6に示すように、中間体12iのフランジ12の部分を加工して、締結孔123を穿つ。締結孔123に、カラー13を圧入する。これにより、
図1に示す外輪1が形成される。
【0072】
(実施形態の効果)
上記実施形態における軸受10において、外輪1及び内方部材2が有するフランジ12,22は、炭素繊維強化樹脂で構成されている。よって、外輪1及び内方部材2を軽量化することができる。なお、外輪1又は内方部材2のいずれかのフランジ12又は22のみを炭素繊維強化樹脂で構成することもできる。言い換えれば、外輪1の全体又は内方部材2の全体のいずれかを金属によって構成してもよい。
【0073】
締結部材14により締結される前のフランジ12,22のカラー13、23では、内周部13a,23aの軸方向の長さb,fは、フランジ12,22の軸方向の長さ(厚み)c,gより大きくなっている。そのため、締結後の高温の環境においてカラー13、23が熱膨張にした場合の、カラー13、23と相手部材(ナックル15又はブレーキディス等)との干渉度合いが小さくなる。これにより、高温の環境における相手部材又はフランジの変形を抑えることができる。その結果、例えば、フランジ12が変形したり、各締結孔123,221が位置ずれしたり、相手部材において座屈が発生したりするのを防ぐことができる。
【0074】
また、カラー13,23は、カラーフランジ13b,23bを有するので、締結部材14,24による軸方向の締結力によって、カラー13,23がフランジ12,22に対して軸方向へずれることが防止される。仮に、カラーフランジがないカラーが、上記実施形態のように相手部材と接していない状態で、軸方向に締結力を受けると、軸方向に滑る可能性が高い。カラーフランジを設けることで、これを防ぐことができる。
【0075】
また、フランジ12,22では、炭素繊維強化樹脂のシートが、締結孔の軸方向に積層される。締結部材14,24による締結時に、フランジ12,22軸方向に力がかかると、炭素繊維強化樹脂のシート間の密着度及び炭素繊維強化樹脂と相手部材との密着度が強化される。そのため、フランジ12,22の強度をより高めることができる。
【0076】
さらに、フランジ12の炭素繊維強化樹脂のシートと、これに垂直な方向に配置される樹脂部11の炭素繊維強化樹脂のシートとが少なくとも一部でつながっている。これにより、フランジ12と軌道部111との軸方向のずれに対する強度をより高めることができる。
【0077】
外輪1及び内方部材2は、軌道部111,21と、フランジ12,22とを含む。フランジ12,22は、炭素繊維強化樹脂で構成される。このため、外輪1及び内方部材2をさらに軽量化することができる。一方、軌道面113,114,213,214を有する軌道部111,21は金属で構成されている。このため、軌道面113,114,213,214に要求される耐高面圧及び耐摩耗性を確保することもできる。
【0078】
以上、各実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0079】
(変形例1)
上記実施形態では、カラーフランジが、締結部材の頭(座面)を受ける構成である。すなわち、カラーのカラーフランジが設けられる側から締結部材が挿入される。締結部材の挿入方向はこれに限られない。例えば、
図7に示すように、締結孔123に対して、カラー13のカラーフランジ13bが設けられる側とは反対側から締結部材が挿入されてもよい。
図7に示す例では、相手部材であるナックル15が、締結部材14の座面を受ける。この場合、カラー13の内周部13aの内周面にねじが切られてもよい。
【0080】
(変形例2)
図8は、カラーの変形例を示す断面図である。
図8に示す例では、カラーフランジが、締結孔の軸方向両端に設けられる。具体的には、カラーは、第1カラー131と第2カラーにより構成される。
【0081】
第1カラー131は、締結孔123の一方端(本例では外方端)から挿入される。第1カラー131は、締結孔123の内周に接する第1内周部131aと、第1カラーフランジ131bとを有する。第1カラーフランジ131bは、締結孔123の一方端において第1内周部131aから締結孔123の径方向外方へ延びる。
【0082】
第2カラー132は、締結孔123の他方端(本例では内方端)から挿入される。第2カラー132は、締結孔123の内周に接する第2内周部132aと、第2カラーフランジ132bとを有する。第2カラーフランジ132bは、締結孔123の他方端において第2内周部132aから締結孔123の径方向外方へ延びる。
【0083】
締結部材14による締結力の下で、締結孔123内において、第1内周部131a及び第2内周部132aとの間に隙間が存在する。すなわち、締結時(すなわち車載状態)において、第1内周部131aの軸方向の長さiと、第2内周部132aの軸方向の長さjとの和(i+j)は、フランジ12の軸方向の長さkより小さい(i+j<k)。隙間の軸方向の長さhは、(i+j)とkの差となっている。なお、この場合、締結力がかかっていない状態でも、i+j<kとなる。
【0084】
締結部材14による締結力がかかってない状態(すなわち締結前)における上記のh、i、j及びkの寸法は、例えば、カラー13と同様に、カラー131,132の線膨張率に基づいて設定することができる。例えば、締結前の内周部131a,132aの長さの和(i+j)は、締結前のフランジの軸方向の長さkの98.7%〜98.8%とすることができる。これにより、想定される温度範囲(例えば、120°以下)において、131,132の熱膨張により相手部材に重大な変形を与えることを抑えることができる。
【0085】
なお、締結部材14によりフランジ12に相手部材に取り付けられた状態(すなわち車載状態)においては、必ずしも、長さ(i+j)がkより短くなくてもよい。例えば、締結部材14を挿入しない状態では、i+j<kとなっており、締結部材14でフランジ12と相手部材とを締結した状態では、i+j=k又はi+j>kとなってもよい。
【0086】
図8に示す例では、カラーフランジ131b,132bが、締結孔123の軸方向両側に設けられる。そのため、締結孔123の両側において強度を高めることができる。その結果、締結孔123がより変形しにくくなる。
【0087】
また、
図8に示す例では、カラーフランジ131b,132bの表面が、フランジ12の表面と略同一平面上に配置されている。
図2及び
図3に示す構成においても、同様に、カラーフランジの表面とフランジ12の表面とを面一にすることができる。
(変形例3)
【0088】
図9は、カラーの他の変形例を示す斜視図である。
図9に示すカラー133は、内周部133aとカラーフランジ133bを有する。内周部133aの外周面には、周方向において他の部分と径方向の高さが異なる変形部133cが設けられる。変形部133cは、カラー133の軸方向に垂直な面の断面で見た場合、軸心から外周側端部までの距離(すなわち径方向の高さ)が他の部分と異なっている部分である。
【0089】
図9に示す例では、変形部133cは、内周部133aの外周面の一部であって、周方向おいて他の部分より径方向外方へ突出している部分である。変形部133cは、カラーフランジ133bに垂直な面であって、カラーフランジ133bから軸方向へ延びる面を有する。変形部133cは、カラーフランジ133bの内周部側の面及び内周部133bの外周面の双方に接する板状部材で形成される。
【0090】
カラー133が、フランジ12の締結孔123に挿入された状態では、変形部133cは、周方向においてフランジ12の炭素繊維強化樹脂と接する。そのため、カラー133が、フランジ12に対して周方向にずれない。すなわち、変形部133cにより、カラー133が締結孔123の軸を中心に回転するのが防止される。
【0091】
なお、変形部133cとして、突出部の代わりに、径方向内方へ凹む凹部が設けられてもよい。この場合も、カラー133の回転を抑制することができる。
【0093】
上記各実施形態では、金属板を含むフランジにおいて、全ての締結孔に対してカラーが設けられている。しかしながら、複数の締結孔のうち一部に対してカラーを設けてもよいし。
【0094】
上記各実施形態では、カラーフランジは、カラーが挿入される締結孔の周辺に形成される。カラーフランジをさらに延長することもできる。例えば、1つの締結孔におけるカラーフランジを他の締結孔のカラーフランジまで延ばして形成することができる。すなわち、複数の締結孔のカラーで、1つのカラーフランジ(金属板)を共有することができる。或いは、カラーフランジを、軌道部111,21まで延ばして形成することができる。
【0095】
上記実施形態では、外輪1が、固定輪であり、内方部材2が、回転軸である。これに対して、外輪1を回転輪に、内方部材2を固定軸にすることもできる。この場合、例えば、外輪1のフランジをブレーキディスクに取り付け、内方部材2のナックルに取り付けることができる。
【0096】
上記例では、樹脂部及びフランジが軌道部の外周面に接する構成である。これに対して、軌道部の内周面に樹脂部が接する構成とすることもできる。例えば、内方部材のハブ軸を中空の筒状に形成し、ハブ軸の内周に樹脂部を設けることができる。樹脂部は軸方向においてハブ軸の外まで延び、ハブ軸の外において径方向に延びるフランジにつながる構成とすることができる。