(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同軸上に配置される入力軸と出力軸の二軸と、前記二軸の間で回転の伝達と遮断とを機械的に切り替える機械機構部とを備え、電磁力を用いて前記機械機構部の切り替えを行うことによって前記二軸の間でトルクの伝達と遮断とを可能にする電磁クラッチにおいて、
前記電磁力の発生源であって、前記二軸の軸方向に移動可能に設けられる電磁コイルと、
前記電磁コイルの通電によって磁気回路を形成することで前記機械機構部の切り替えに供されるとともに、前記電磁コイルの同軸上且つ前記二軸に対して移動不能に設けられてなる固定吸着物と、
前記電磁コイルの通電によって磁気回路を形成することで前記機械機構部の切り替えに供されるとともに、前記電磁コイルに対して前記固定吸着物の逆側において該電磁コイルの同軸上且つ前記二軸の軸方向に移動可能に設けられてなる移動吸着物と、
前記電磁コイルの非通電時、前記固定吸着物から離間する方向に前記電磁コイル及び前記移動吸着物のそれぞれが付勢部材によって付勢されるなかで、前記電磁コイル及び前記固定吸着物の間隔と、前記電磁コイル及び前記移動吸着物の間隔とをそれぞれ所定の間隔に保つ間隔保持部と、を備えたことを特徴とする電磁クラッチ。
前記二軸のうち前記入力軸の外周には、前記電磁コイルの通電によって前記電磁コイルに対する前記移動吸着物の吸着後、前記電磁コイルとの間に隙間を有するように前記移動吸着物の移動を規制する移動規制部が形成される請求項2に記載の電磁クラッチ。
前記移動吸着物の前記電磁コイル側には、前記電磁コイルの通電によって前記電磁コイルに対する前記移動吸着物の吸着後、前記電磁コイルに対して前記移動吸着物をすべり回転可能にするすべり構造を有する請求項4に記載の電磁クラッチ。
前記間隔保持部は、前記電磁コイル及び前記固定吸着物の間隔と、前記電磁コイル及び前記移動吸着物の間隔とをそれぞれ所定の間隔に保つべく前記電磁コイル及び前記移動吸着物が前記固定吸着物から離間する方向への移動を規制するように引っ掛けるフック構造をなす請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の電磁クラッチ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、電磁コイルに通電することでアーマチュアを吸着させる吸着力を小さくすることなく電磁コイルとアーマチュアとのストローク量を大きくしたいとの要望もある。ただし、電磁コイルに通電することでアーマチュアを吸着させる吸着力、すなわち電磁力は、電磁コイルとアーマチュアとの間隔(ストローク量に一致する)の二乗の逆数に比例することが知られている。つまり、電磁コイルとアーマチュアとのストローク量を大きくする場合、電磁コイルとアーマチュアとの間隔が大きくなり、二乗の逆数に比例して電磁力が小さくなる。そのため、上記要望に対しては、電磁コイルのコイル巻数を増やしたり、電磁コイルに通電する電力を大きくしたりして対処するしかなく、電磁コイルの大型化や消費電力の増大の回避が困難である。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁コイルの大型化や消費電力の増大を抑えながら吸着力の増大を図ることのできる電磁クラッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、電磁クラッチは、同軸上に配置される入力軸と出力軸の二軸と、二軸の間で回転の伝達と遮断とを機械的に切り替える機械機構部とを備えている。こうした電磁クラッチは、電磁力を用いて機械機構部の切り替えを行うことによって二軸の間でトルクの伝達と遮断とを可能にしている。そして、上記電磁クラッチは、電磁力の発生源であって、二軸の軸方向に移動可能に設けられる電磁コイルと、電磁コイルの通電によって磁気回路を形成することで機械機構部の切り替えに供されるとともに、電磁コイルの同軸上且つ二軸に対して移動不能に設けられてなる固定吸着物と、電磁コイルの通電によって磁気回路を形成することで機械機構部の切り替えに供されるとともに、電磁コイルに対して固定吸着物の逆側において該電磁コイルの同軸上且つ二軸の軸方向に移動可能に設けられてなる移動吸着物とを備えている。またさらに、上記電磁クラッチは、電磁コイルの非通電時、固定吸着物から離間する方向に電磁コイル及び移動吸着物がそれぞれ付勢部材によって付勢されるなかで、電磁コイル及び固定吸着物の間隔と、電磁コイル及び移動吸着物の間隔とをそれぞれ所定の間隔に保つ間隔保持部とをさらに備えている。
【0007】
上記構成によれば、電磁コイルでは、その両側において電磁力を発生させてそれぞれの側に設けられる各吸着物を吸着することができる。これにより、移動吸着物のストローク量は電磁コイルのストローク量も含めたストローク量となる。一方、電磁コイル及び移動吸着物の間隔は、移動吸着物のストローク量よりも小さくすることができる。同じく、電磁コイル及び固定吸着物の間隔は、移動吸着物のストローク量よりも小さくすることができる。
【0008】
そのため、上記[発明が解決しようとする課題]で述べたように、電磁コイル及び移動吸着物が移動吸着物のストローク量だけ離間する場合に対して、電磁コイルが発生させる電磁力、すなわち移動吸着物を吸着する吸着力を増大させることができる。また、電磁コイル及び固定吸着物の間にも吸着力を発生させることによって移動吸着物を吸着するための吸着力をさらに増大させることができる。すなわち、移動吸着物のストローク量を大きくしたりすることにも好適に順応することができる。
【0009】
ただし、電磁コイルの非通電時には、電磁コイルと各吸着物とを離間させる必要があるため、固定吸着物から離間する方向に電磁コイルや移動吸着物をそれぞれ付勢部材によって付勢しなければいけない。もっとも、こうした付勢によって固定吸着物に対して電磁コイルが離れ過ぎたり、電磁コイルに対して移動吸着物が離れ過ぎたりしてしまうと、増大の図られた折角の吸着力を減少させてしまいかねない。
【0010】
そこで、上記構成では、増大させた吸着力を保つべく、電磁コイルの非通電時、電磁コイル及び固定吸着物の間隔と、電磁コイル及び移動吸着物の間隔とをそれぞれ所定の間隔に保つ間隔保持部を備えている。したがって、電磁コイルの大型化や消費電力の増大を抑えながら吸着力の増大を図ることができる。
【0011】
上記電磁クラッチにおいて、移動吸着物は、電磁コイルの通電によって電磁コイルへの吸着後、電磁コイルとの間に隙間を有するようにすることが好ましい。この場合、電磁コイルに対して移動吸着物が物理的に接触しないこととなるので、電磁クラッチとしての動作をより好適に行うことができる。
【0012】
そして、電磁コイルの通電によって電磁コイルへの吸着後、電磁コイルとの間に隙間を有するようにする場合、二軸のうち入力軸の外周には、電磁コイルとの間に隙間を有するように移動吸着物の移動を規制する移動規制部を形成することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、電磁コイルと移動吸着物との間に隙間を有するように構成する場合、入力軸についてのみ構成を変更すれば済むこととなり、該入力軸以外にまで構成の変更が及ぶことが抑制される。したがって、電磁クラッチとしての動作の担保が容易に叶うようになる。
【0014】
その他、上記電磁クラッチにおいて、移動吸着物は、電磁コイルの通電によって電磁コイルへの吸着後、入力軸とともに回転されるものであり、入力軸とともに回転する場合、電磁コイルに対してすべり回転可能に構成されることが好ましい。
上記構成によれば、電磁コイルの通電によって移動吸着物が入力軸とともに回転する。この場合、移動吸着物の回転が電磁コイルまで伝達してしまうこと、さらには固定吸着物まで伝達してしまうことを防ぐことができる。これにより、上述のように、電磁コイルの大型化や消費電力の増大を抑えながら吸着力の増大を図る構成を有していても、電磁クラッチとしての動作を好適に行うことができる。
【0015】
そして、上記すべり回転させるための構成の具体例として、移動吸着物の電磁コイル側には、電磁コイルの通電によって電磁コイルに対する移動吸着物の吸着後、電磁コイルに対して移動吸着物をすべり回転可能にするすべり構造を有するようにすることができる。この場合、電磁コイルに対して移動吸着物が直接的に接触しないこととなるので、電磁クラッチとしての動作をより好適に行うことができる。
【0016】
また、上記電磁クラッチにおいて、間隔保持部は、電磁コイル及び固定吸着物の間隔と、電磁コイル及び移動吸着物の間隔とをそれぞれ所定の間隔に保つべく電磁コイル及び移動吸着物が固定吸着物から離間する方向への移動を規制するように引っ掛けるフック構造をなすことが好ましい。
【0017】
上記構成では、電磁コイルの非通電時、電磁コイル及び固定吸着物の間隔と、電磁コイル及び移動吸着物の間隔とをそれぞれ所定の間隔に保つための構成として種々の構成が考えられるなかでフック構造を採用することとした。こうしたフック構造であれば、上記それぞれの間隔の調整さえ正確になされていれば、例えば、移動途中の構成等を考慮する必要がなくなる。したがって、間隔保持部を簡素、つまり容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電磁コイルの大型化や消費電力の増大を抑えながら吸着力の増大を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、電磁クラッチの第1実施形態について説明する。本実施形態の電磁クラッチは、例えば、車両に搭載されるステアリング装置であって、運転者が操作するステアリングホイールが設けられるステアリングシャフトと転舵輪との機械的な連結を解除可能にされる、所謂、ステアバイワイヤシステムにおいて、その機械的な連結とその解除をするために用いられる。
【0021】
図1に示すように、電磁クラッチ10は、電磁力を発生させる電磁コイル部11と、該電磁力を用いて機械的な連結とその解除の切り替えを行う機械機構部12とを含む各種部品を収容する円筒状のハウジング13を備える。ハウジング13には、その円筒の軸線Lの同軸上に配置される入力軸14と出力軸15の二軸がそれぞれ反対側から挿入される。ハウジング13は、入力軸14が挿入される側に配置される第1ハウジング13aと、出力軸15が挿入される側に配置される第2ハウジング13bとに分割される。以下の説明において、「軸方向」は入力軸14と出力軸15の二軸の軸長方向を意味し、「径方向」は「軸方向」に直交する方向を意味し、「周方向」は「軸方向」を中心に回転する方向を意味する。
【0022】
入力軸14には、電磁クラッチ10が伝達するトルク(回転)の入力元となるトルク発生軸の軸端が一体回転可能にスプライン結合等によって結合される。出力軸15には、電磁クラッチ10が伝達するトルク(回転)の出力先となるトルク伝達軸の軸端が一体回転可能にスプライン結合等によって結合される。例えば、トルク発生軸は上記ステアリング装置のステアリングシャフトである。また、トルク伝達軸は上記ステアリング装置のピニオンシャフトである。なお、入力軸14及び出力軸15は、一体回転と相対回転とが切り替えられることによってトルクの伝達と遮断とが可能になる。
【0023】
第1ハウジング13aに挿入される入力軸14の外周には、円筒状の入力側回転部材16が外挿される。入力側回転部材16の出力軸15側の端部16aの径方向外側には、端部16aを囲むように円筒状の出力側回転部材17が配置される。出力側回転部材17は、出力軸15の第2ハウジング13bに挿入される側の端部15aが該第2ハウジング13bの内壁に沿って延設されてなる。出力側回転部材17(出力軸15の端部15a)は、第1ハウジング13a近傍まで延びる。なお、入力側回転部材16は、第1ハウジング13aの内周に固定される図示しない軸受と、出力側回転部材17の内周に固定される図示しない軸受とによって回転自在に支持される。また、出力側回転部材17は、第2ハウジング13bの出力軸15の挿入口付近に固定される図示しない軸受によって回転自在に支持される。また、入力側回転部材16及び出力側回転部材17は、ハウジング13に対して軸方向に移動不能に支持される。
【0024】
入力側回転部材16(入力軸14)の径方向外側には、電磁コイル部11及び機械機構部12がそれぞれ構築される。電磁コイル部11及び機械機構部12は、入力軸14の軸方向に沿って並べて配置されるとともに、入力軸14側に電磁コイル部11、出力軸15側に機械機構部12がそれぞれ配置される。
【0025】
なお、機械機構部12は、電磁コイル部11の後述する電磁コイル20の通電状態に応じて可変する可変機構を含んで構成される。例えば、可変機構は、周知のカム機構等のことであり、カム機構のボール(カムフォロア)の状態によって入力側回転部材16と出力側回転部材17との一体回転と相対回転とを切り替える。つまり、可変機構は、入力軸14と出力軸15との一体回転と相対回転とを切り替える。こうした可変機構は、複数層に重ねた薄板の接触と離間との状態を切り替える、所謂、多板式のクラッチ機構であったり、入力軸14(出力軸15)の周方向に設けた複数のローラの径方向の内外への変位を切り替える、上記特許文献1に記載のクラッチ機構であったりする。
【0026】
ここで、電磁コイル部11の構成について詳しく説明する。
図1〜
図3に示すように、電磁コイル部11は、通電によって電磁力を発生させる電磁コイル20を有する。なお、電磁コイル20には、電力供給線20aを介して電力の供給源たるインバータ等を含む外部電源が電気的に接続される。電磁コイル20の通電及び非通電は、電磁クラッチ10の外部において電力供給線20aの先に接続される制御装置によって制御される。なお、制御装置は、例えば、ステアリング装置の操作状態や該ステアリング装置が搭載される車両の走行状態に応じて電磁コイル20の通電及び非通電を制御する。本実施形態では、入力軸14及び出力軸15を一体回転させることによってこれらの間でトルクを伝達させる場合、制御装置によって電磁コイル20が非通電とされる。また、入力軸14及び出力軸15を相対回転させることによってこれらの間でトルクの伝達を遮断する場合、制御装置によって電磁コイル20が通電とされる。
【0027】
電磁コイル20は、樹脂製のボビンに外部電源から供給される電流が流れる巻線21を巻回して構成される。巻線21は、鉄等の強磁性体からなる環状のヨーク22によって保持される。ヨーク22は、入力軸14及び出力軸15の径方向外側、かつ上記二軸(軸線L)の同軸上に配置される。つまり、電磁コイル20は、入力軸14及び出力軸15の径方向外側、かつ上記二軸(軸線L)の同軸上に配置される。
【0028】
ヨーク22は、第1ハウジング13aの内周面にスプライン嵌合することによって、第1ハウジング13aに対してその軸方向に移動可能に設けられる。ヨーク22の外周には、その径方向外側に突出するスプライン嵌合部22aが形成される。スプライン嵌合部22aは、ヨーク22の軸方向に延びるように形成される。また、第1ハウジング13aの内周面には、その径方向外側に削られるスプライン嵌合溝13cが形成される。スプライン嵌合溝13cは、第1ハウジング13aの軸方向に延びるように形成される。スプライン嵌合部22aは、スプライン嵌合溝13cに嵌合される。これにより、電磁コイル20は、第1ハウジング13a、すなわち入力軸14及び出力軸15に対してこれらの軸方向に移動可能になる。また、電磁コイル20は、第1ハウジング13aに対してその周方向に回転不能でもある。なお、電磁コイル20は、入力側回転部材16(入力軸14)に対して離間もしている。
【0029】
電磁コイル20の上記二軸の軸方向の両側には、鉄等の強磁性体からなる環状の固定吸着物23と、同じく鉄等の強磁性体からなる環状の移動吸着物24とが設けられる。固定吸着物23は、電磁コイル20の軸方向の入力軸14側に配置される。移動吸着物24は、電磁コイル20の軸方向の出力軸15側に配置される。固定吸着物23及び移動吸着物24は、入力側回転部材16(入力軸14)の径方向外側、かつ軸線Lの同軸上に配置される。
【0030】
固定吸着物23は、第1ハウジング13aの内周面に嵌合されることによって、第1ハウジング13aに対してその軸方向及び径方向に移動不能に設けられる。第1ハウジング13aにおいて、入力軸14側から出力軸15側に向かう途中で拡径される拡径部13dには、その軸方向に削られる嵌合凹部13eが形成される。嵌合凹部13eは、拡径部13dの径方向に拡がるように形成される。固定吸着物23は、その軸方向の面が嵌合凹部13eに嵌合される。これにより、固定吸着物23は、第1ハウジング13a、すなわち入力軸14及び出力軸15に対してその軸方向及び径方向に移動不能になる。また、固定吸着物23は、第1ハウジング13aに対してその周方向に回転不能でもある。なお、固定吸着物23は、入力側回転部材16(入力軸14)に対して離間もしている。
【0031】
移動吸着物24は、入力側回転部材16の外周面にスプライン嵌合することによって、入力側回転部材16(入力軸14)に対してその軸方向に移動可能に設けられる。すなわち、移動吸着物24はアーマチュアである。移動吸着物24の内周には、その径方向内側に突出するスプライン嵌合部24aが形成される。スプライン嵌合部24aは、移動吸着物24の軸方向に延びるように形成される。また、入力側回転部材16の外周面には、その径方向内側に削られるスプライン嵌合溝16bが形成される。スプライン嵌合溝16bは、入力側回転部材16の軸方向に延びるように形成される。スプライン嵌合部24aは、スプライン嵌合溝16bに嵌合される。これにより、移動吸着物24は、入力側回転部材16、すなわち入力軸14及び出力軸15に対してその軸方向に移動可能になる。また、移動吸着物24は、入力側回転部材16、すなわち入力軸14と一体回転可能でもある。なお、移動吸着物24は、第1ハウジング13aに対して離間もしている。
【0032】
電磁コイル20及び固定吸着物23は、間隔保持部としての鉤状の入力側フック部30によって機械的に連結される。入力側フック部30は、その一端30aが固定吸着物23の外周面に固定されるとともに、他端30bが電磁コイル20のヨーク22の外周面に遊嵌される。また、電磁コイル20及び移動吸着物24は、間隔保持部としての鉤状の出力側フック部31によって機械的に連結される。出力側フック部31は、その一端31aが電磁コイル20のヨーク22の外周面に固定されるとともに、他端31bが移動吸着物24の外周面に遊嵌される。
【0033】
特に、
図3(a),(b)に示すように、ヨーク22の外周面の一部には、入力側フック部30の他端30bが遊びを有して嵌め込まれる略正方形状のフック穴22bが凹設される。また、移動吸着物24の外周面には、その周方向の全体に亘って出力側フック部31の他端31bが遊びを有して嵌め込まれるフック溝24bが形成される。なお、出力側フック部31は、移動吸着物24が電磁コイル20に対して回転する場合、フック溝24bを滑ることによって電磁コイル20及び移動吸着物24の機械的な連結を維持する。
【0034】
また、入力側回転部材16の外周であって、電磁コイル20のヨーク22の内周面との間には、移動規制部としての円筒状のロータ部27が外挿される。ロータ部27は、固定吸着物23に接触しないような構成及び配置をなす。一方、ロータ部27は、電磁コイル20と移動吸着物24のそれぞれの軸方向の移動を通じて該移動吸着物24に対してその軸方向で接触可能な構成及び配置をなす。
【0035】
そして、移動吸着物24には、機械機構部12が機械的に連結されている。本実施形態において、機械機構部12は、その可変機構が電磁コイル20の非通電時、入力軸14と出力軸15とが一体回転するように可変する。また、機械機構部12は、機械機構部12側に近付く方向、すなわち固定吸着物23から離間する方向に移動吸着物24を引っ張るように付勢する引っ張りばね等の付勢部材12a(
図1中、ばねモデルで示す)を有する。この場合、移動吸着物24は、出力軸15側に付勢部材12aが発生させる力Fによって引っ張られて付勢されるように機械機構部12に機械的に連結されるとともに、入力軸14と出力軸15と共に一体回転するように機械機構部12に連結されている。なお、電磁コイル20は、出力側フック部31による機械的な連結を通じて、出力軸15側に付勢部材12aが発生させる力Fによって引っ張られて付勢される。
【0036】
具体的に、
図2(a)及び
図3(a)に示すように、電磁コイル20の非通電時、移動吸着物24が出力軸15側に力Fによって付勢されることによって、移動吸着物24が電磁コイル20に対して出力軸15側に離間する配置をなすとともに、電磁コイル20が固定吸着物23に対して出力軸15側に離間する配置をなす。
【0037】
この場合、移動吸着物24が電磁コイル20に対して離間する間隔は、出力側フック部31の他端31bを移動吸着物24のフック溝24bの電磁コイル20側に引っかけるフック構造によって所定の間隔、すなわち間隔L1に保たれる。つまり、出力側フック部31は、電磁コイル20の非通電時、電磁コイル20に対して上記間隔L1以上離間する出力軸15側への移動吸着物24の移動を規制する。この場合、出力側フック部31は、電磁コイル20に対する入力軸14側への移動吸着物24の移動は許可する。
【0038】
また、電磁コイル20が固定吸着物23に対して離間する間隔は、入力側フック部30の他端30bをフック穴22bの固定吸着物23側に引っかけるフック構造によって所定の間隔、すなわち間隔L2に保たれる。つまり、入力側フック部30は、電磁コイル20の非通電時、固定吸着物23に対して上記間隔L2以上離間する出力軸15側への電磁コイル20の移動を規制する。この場合、入力側フック部30は、固定吸着物23に対する入力軸14側への電磁コイル20の移動は許可する。
【0039】
そして、移動吸着物24がロータ部27に対して離間する間隔は、上記間隔L2よりも大きい、かつ上記間隔L1と上記間隔L2の和よりも小さい間隔L3に設定される。すなわち、ロータ部27は、電磁コイル20が固定吸着物23と接触する場合、移動吸着物24が電磁コイル20及び固定吸着物23に最も近付いたとしても電磁コイル20への接触を規制する構成及び配置をなす。この場合、移動吸着物24が電磁コイル20に対して離間する間隔は、間隔L1+間隔L2から間隔L3を減算した間隔L4(
図2(b)及び
図3(b)中に示す)になる。これにより、移動吸着物24が軸方向に移動可能なストローク量は、移動吸着物24が電磁コイル20に対して離間する間隔L1よりも大きい間隔L3になる。なお、出力側フック部31、移動吸着物24のフック溝24b、及び入力側回転部材16のスプライン嵌合溝16bは、移動吸着物24が軸方向に移動する際、間隔L3分のストローク量を確保可能にする構成及び配置をなす。例えば、フック溝24bの軸方向の間隔は間隔L3よりも大きく設定されるとともに、スプライン嵌合溝16bの軸方向の長さは間隔L3よりも大きく設定される。
【0040】
また、固定吸着物23がロータ部27に対して離間する間隔は、上記L2よりも小さい間隔L5に設定される。なお、この間隔L5は、固定吸着物23及びロータ部27(入力側回転部材16)が共に第1ハウジング13aに対してその軸方向及び径方向に移動不能であることから、電磁コイル20の通電及び非通電に関係なく常に保たれる。これにより、電磁コイル20が軸方向に移動可能なストローク量は、電磁コイル20が固定吸着物23に対して離間する間隔L2と同一になる。なお、入力側フック部30、電磁コイル20のフック穴22b、及び第1ハウジング13aのスプライン嵌合溝13cは、電磁コイル20が軸方向に移動する際、間隔L2分のストローク量を確保可能にする構成及び配置をなす。例えば、フック穴22bの軸方向の間隔は間隔L2よりも大きく設定されるとともに、スプライン嵌合溝13cの軸方向の長さは間隔L2よりも大きく設定される。
【0041】
以上に説明した本実施形態の電磁クラッチ10によれば、以下の(1)〜(4)に示す作用及び効果を得ることができる。
(1)
図2(a)及び
図3(a)に示すように、電磁コイル20の非通電時において、電磁コイル20の通電時となる場合、電磁コイル20によってその周囲に形成される磁束が、電磁コイル20の軸方向の両側に配置される固定吸着物23及び移動吸着物24を通過する。すなわち、固定吸着物23及び移動吸着物24の内部には、磁気回路Mが形成されることによって電磁力が発生する。こうした電磁力が電磁コイル20に対して固定吸着物23及び移動吸着物24を吸着(吸引)する吸着力として、固定吸着物23及び移動吸着物24にそれぞれ作用する。なお、吸着力は、電磁コイル20の非通電時、移動吸着物24が出力軸15側に付勢される力Fよりも十分に大きく設定される。
【0042】
すなわち、
図2(a)及び
図3(a)に一点鎖線で示すように、電磁コイル20及び固定吸着物23の相対距離(間隔L2)が縮まっていくとともに、電磁コイル20及び移動吸着物24の相対距離(間隔L1)が縮まっていく。この縮まる過程では、電磁コイル20に対して固定吸着物23及び移動吸着物24のどちらもが接触する等なく、電磁コイル20及び固定吸着物23の相対距離と、電磁コイル20及び移動吸着物24の相対距離とが自律的に調整される。なお、本実施形態において、固定吸着物23は第1ハウジング13aに対して移動不能に固定されることから、電磁コイル20が発生させる電磁力によっては電磁コイル20それ自体が固定吸着物23に近付くように移動する。
【0043】
その後、
図2(b)及び
図3(b)に示すように、電磁コイル20及び固定吸着物23が接触、すなわち電磁コイル20に対して固定吸着物23が一体に吸着される。一方、電磁コイル20及び移動吸着物24については、移動吸着物24がロータ部27に接触、すなわち電磁コイル20に対して上記間隔L4(隙間)をあけて移動吸着物24が吸着される。
【0044】
そして、機械機構部12は、電磁コイル20の通電時、電磁コイル20及び移動吸着物24がそれぞれ軸方向に移動することによって、その可変機構が入力軸14と出力軸15との一体回転を解除する。つまり、機械機構部12は、入力軸14と出力軸15とが相対回転するように可変する。この場合、移動吸着物24は、入力軸14側に吸着力(電磁力)によって引っ張られて吸着されるように機械機構部12に機械的に連結されるとともに、入力軸14とともに一体回転するように機械機構部12に連結されている。
【0045】
したがって、電磁コイル20では、その軸方向の両側において電磁力を発生させてそれぞれの側に設けられる各吸着物23,24を吸着することができる。これにより、移動吸着物24のストローク量(間隔L3)は電磁コイル20のストローク量(間隔L2)も含めたストローク量となる。一方、電磁コイル20及び移動吸着物24の間隔L1は、移動吸着物24のストローク量よりも小さくすることができる。同じく、電磁コイル20及び固定吸着物23の間隔L2は、移動吸着物24のストローク量よりも小さくすることができる。
【0046】
そのため、上記[発明が解決しようとする課題]で述べたように、電磁コイル20及び移動吸着物24が移動吸着物24のストローク量だけ離間する場合に対して、電磁コイル20が発生させる電磁力、すなわち移動吸着物24を吸着する吸着力を増大させることができる。また、電磁コイル20及び固定吸着物23の間にも吸着力を発生させることによって移動吸着物24を吸着するための吸着力をさらに増大させることができる。すなわち、移動吸着物24のストローク量を大きくしたりすることにも好適に順応することができる。
【0047】
ただし、
図2(a)及び
図3(a)に示すように、電磁コイル20の非通電時には、電磁コイル20と各吸着物23,24とを離間させる必要がある。そのため、固定吸着物23から離間する方向(出力軸15側)に電磁コイル20及び移動吸着物24をそれぞれ付勢部材12aが発生させる力Fによって引っ張って付勢することとしている。もっとも、こうした付勢によって固定吸着物23に対して電磁コイル20が離れ過ぎたり、電磁コイル20に対して移動吸着物24が離れ過ぎたりしてしまうと、増大の図られた折角の吸着力を減少させてしまいかねない。
【0048】
そこで、本実施形態では、増大させた吸着力を保つべく、電磁コイル20の非通電時、電磁コイル20及び固定吸着物23の間隔と、電磁コイル20及び移動吸着物24の間隔とをそれぞれ所定の間隔に保つ各フック部30,31を備えることとしている。したがって、電磁コイル20の大型化や消費電力の増大を抑えながら吸着力の増大を図ることができる。
【0049】
(2)
図2(b)及び
図3(b)に示すように、電磁コイル20への移動吸着物24の吸着後、電磁コイル20と移動吸着物24との間に隙間を有するように構成することとした。この場合、電磁コイル20に対して移動吸着物24が物理的に接触しないこととなる。そのため、移動吸着物24は電磁コイル20への吸着後、入力軸14とともに回転されるものであるところ、移動吸着物24の回転が電磁コイル20に伝達してしまうこと、さらには固定吸着物23まで伝達してしまうことを防ぐことができる。これにより、上述のように、電磁コイル20の大型化や消費電力の増大を抑えながら吸着力の増大を図る構成を有していても、電磁クラッチ10としての動作を好適に行うことができる。
【0050】
(3)電磁コイル20への移動吸着物24の吸着後、電磁コイル20と移動吸着物24との間の隙間は、入力側回転部材16(入力軸14)に外挿されるロータ部27によって移動吸着物24の軸方向の移動を規制することによって現れることとした。
【0051】
このように、電磁コイル20と移動吸着物24との間に隙間を有するように構成する場合、入力側回転部材16(入力軸14)についてのみ構成を変更すれば済むこととなり、該入力軸14以外にまで構成の変更が及ぶことが抑制される。したがって、電磁クラッチ10としての動作の担保が容易に叶うようになる。
【0052】
(4)本実施形態では、電磁コイル20の非通電時、電磁コイル20及び固定吸着物23の間隔と、電磁コイル20及び移動吸着物24の間隔とをそれぞれ所定の間隔(間隔L2又は間隔L1)に保つための構成として種々の構成が考えられるなかで各フック部30,31を用いたフック構造を採用することとした。こうしたフック構造であれば、それぞれの間隔の調整さえ正確になされていれば、例えば、電磁コイル20や移動吸着物24の移動途中の構成等を考慮する必要がなくなる。したがって、間隔保持部を簡素、つまり容易に実現することができる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、電磁クラッチの第2実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成及び同一制御内容などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0054】
図4(a),(b)に示すように、本実施形態の電磁コイル部11(電磁クラッチ10)では、移動吸着物24の電磁コイル20側に周方向に同一間隔をあけて複数(例えば10個)のボールやローラを有するころ軸受等を設けることによって構成されるすべり構造40が構築される。なお、本実施形態では、入力側回転部材16の外周であって、電磁コイル20のヨーク22の内周面との間は、中空とされる。
【0055】
本実施形態において、電磁コイル20の通電時、電磁コイル20及び移動吸着物24については、電磁コイル20に対してすべり構造40を介して移動吸着物24が吸着される。
【0056】
以上に説明した本実施形態の電磁クラッチ10によれば、第1実施形態の(1),(4)に準じた作用及び効果に加え、以下の(5),(6)に示す作用及び効果を奏する。
(5)
図4(a),(b)に示すように、電磁コイル20への移動吸着物24の吸着後、電磁コイル20と移動吸着物24との間にすべり構造40を介在することとした。この場合、電磁コイル20に対して移動吸着物24が直接的に接触しないこととなる。そのため、上述したように、移動吸着物24は電磁コイル20への吸着後、入力軸14とともに回転されるものであるところ、移動吸着物24が回転してもすべり構造40が滑るのみで、その回転は電磁コイル20及び固定吸着物23まで及ぶことがない。
【0057】
すなわち、移動吸着物24が回転してもその回転につられて電磁コイル20まで回転してしまうこと、さらには固定吸着物23まで回転しまうことを防ぐことができる。これにより、上述のように、電磁コイル20の大型化や消費電力の増大を抑えながら吸着力の増大を図る構成を有していても、電磁クラッチ10としての動作を好適に行うことができる。
【0058】
(6)本実施形態では、上記第1実施形態では必要であったロータ部27を不要にすることができる。そのため、入力側回転部材16の外周とヨーク22の内周との間隔を小さくすることができる。したがって、電磁コイル部11の径方向の縮小化を図ることができ、ひいては電磁クラッチ10の径方向の縮小化に寄与する。
【0059】
なお、上記各実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・
図5に示すように、電磁コイル20、固定吸着物23、及び移動吸着物24の連結をフック構造にかえて、連結棒50によって周方向にずれた位置で連結するクランク構造にしてもよい。連結棒50の一端50aは固定吸着物23の外周面に固定されるとともに、中点50bは電磁コイル20のヨーク22の外周面において周方向に移動可能に取り付けられる。また、他端50cは、移動吸着物24の溝24cを滑り可能に取り付けられる。そして、連結棒50は、中点50b及び他端50cの軸方向の間隔L6を、中点50b及び一端50aの軸方向の間隔L7よりも大きくするように電磁コイル20、固定吸着物23、及び移動吸着物24を連結する。これにより、電磁コイル20の非通電時、電磁コイル20及び移動吸着物24の間隔と、電磁コイル及び固定吸着物23の間隔とは、それぞれ所定間隔に保たれる。なお、電磁コイル20の通電時、電磁コイル20と移動吸着物24との間の隙間は、上記間隔L6及び上記間隔L7の差によって現れる。この場合、第1実施形態のようにロータ部27によって移動吸着物24の軸方向の移動を規制してもよいし、第2実施形態のようにロータ部27を設けないようにしてもよい。
【0060】
・
図6に示すように、電磁コイル20、固定吸着物23、及び移動吸着物24の連結をフック構造にかえて、各ばね60,61によって連結するばね構造にしてもよい。入力側ばね60の両端60a,60bは、電磁コイル20のヨーク22の外周面及び固定吸着物23の外周面にそれぞれ固定される。出力側ばね61の一端61aは電磁コイル20のヨーク22の外周面に固定されるとともに、他端61bは移動吸着物24の溝24dを滑り可能に取り付けられる。なお、他端61bには、ボール62が取り付けられる。これにより、電磁コイル20の非通電時、電磁コイル20及び移動吸着物24の間隔と、電磁コイル及び固定吸着物23の間隔とは、各ばね60,61の弾性力によってそれぞれ所定間隔に保たれる。なお、電磁コイル20の通電時、第1実施形態のようにロータ部27によって移動吸着物24の軸方向の移動を規制してもよいし、第2実施形態のようにロータ部27を設けないようにしてもよい。
【0061】
・上記第1実施形態において、ロータ部27は、入力側回転部材16の軸方向に非連続的に設けられていてもよく、入力軸14側及び出力軸15側の端それぞれに一つずつ設けられるものであってもよい。
【0062】
・上記第2実施形態では、すべり構造40にかえて、移動吸着物24の電磁コイル20側にグリース等を塗って低摩擦コーティングを施すようにしてもよい。この場合であっても、上記(5),(6)に準じた作用及び効果を奏しうる。
【0063】
・上記第2実施形態では、電磁コイル20のヨーク22の移動吸着物24側にすべり構造40を設けてもよい。
・上記各実施形態において、付勢部材12aは、機械機構部12が有していたが、これに限らず移動吸着物24が有するものであってもよいし、他の部品が有していてもよい。つまり、付勢部材12aは、固定吸着物23から離間する方向に電磁コイル20及び移動吸着物24を付勢可能に設けられていればよい。
【0064】
・上記各実施形態は、電磁コイル20の非通電時に入力軸14と出力軸15とが相対回転するとともに、電磁コイル20の通電時に入力軸14と出力軸15とが一体回転するようにしてもよい。
【0065】
・上記各実施形態において、移動吸着物24が電磁コイル20に対して離間する間隔L1と、固定吸着物23が電磁コイル20に対して離間する間隔L2と、移動吸着物24がロータ部27に対して離間する間隔L3とは、適宜変更可能である。ただし、上記間隔L3が、上記間隔L2よりも大きい、かつ上記間隔L1と上記間隔L2の和よりも小さいことは少なくとも満たす必要がある。