(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のように,衛生用紙の風合い等の指標となるHF値を向上させるためには,衛生用紙に柔軟剤を内添することが好ましいことは周知の事実である。しかしながら,ティシュペーパー等の薄型の衛生用紙の場合,その原料に柔軟剤を添加しても,柔軟剤の定着率が低く,衛生用紙のHF値を効率的に向上させることができないという問題があることが,本発明者らによって見出された。
【0006】
そこで,本発明は,柔軟剤の定着率が高く風合いに優れた衛生用紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は,上記課題の解決手段について鋭意検討した結果,衛生用紙に柔軟剤とともに凝結剤を内添することにより,柔軟剤の定着率を高め,結果として衛生用紙のHF値(風合いの指標)を高めることができるという知見を見出した。そして,本発明者は,上記知見に基づけば,従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の構成を有する。
【0008】
本発明の第1の側面は,ティシュペーパーやトイレットペーパー等の衛生用紙に関する。本発明の衛生用紙は,凝結剤及び柔軟剤を含有することを特徴としている。このように,衛生用紙に柔軟剤とともに凝結剤を内添することにより,柔軟剤の定着率を高め,結果として衛生用紙のHF値(風合い)を高めることができる。
【0009】
本発明の衛生用紙において,凝結剤は,カチオン性凝結剤であることが好ましい。衛生用紙が柔軟剤と共にカチオン性凝結剤を含有していることで,柔軟剤の定着率がさらに向上する。すなわち,衛生用紙の原料となるパルプスラリーには,微細繊維やアニオン性夾雑物が多く存在している。このため,パルプスラリーの中にカチオン性の凝結剤を添加することで,カチオン性凝結剤とアニオン性夾雑物が結合し,アニオン性夾雑物による薬品定着の阻害が軽減される。その後,柔軟剤をパルプスラリーに添加することで,柔軟剤が,アニオン性夾雑物に阻害されずに,パルプ繊維と結合しやすくなるため,柔軟剤がパルプ繊維に対して均一に定着するようになる。このように,パルプスラリーに対して,カチオン性凝結剤と共に柔軟剤を添加する,あるいはカチオン性凝結剤の後に柔軟剤を添加することで,スラリー内における柔軟剤の分布が均一化し,その定着率が向上するものと考えられる。その結果,衛生用紙の手触りと風合いが良化される。
【0010】
本発明の衛生用紙において,凝結剤の含有量は,1重量ppm以上であることが好ましい。凝結剤の含有量の上限値は特に限定されないが,凝結剤の含有量は,例えば500重量ppm以下であることが好ましい。ここにいう「重量ppm」は,衛生用紙を構成するパルプの重量に対するppmである。このように,衛生用紙が1重量ppm以上の凝結剤を含有することで,それに伴って,柔軟剤の定着率を,衛生用紙の風合いが良好になる好適な値にまで高めることができる。
【0011】
本発明の衛生用紙は,上記凝結剤及び柔軟剤に加えて,さらに,乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤の両方又はいずれか一方を含有することが好ましい。衛生用紙に凝結剤が含有されていることで,柔軟剤のみならず,乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤の定着率が向上する。このため,衛生用紙に凝結剤を内添することで,手触りが良く強度に優れた衛生用紙となる。
【0012】
本発明の衛生用紙は,坪量が10〜25g/m
2の範囲にある薄葉紙であることが好ましい。特に本発明の衛生用紙は,坪量が10〜25g/m
2の範囲にあるティシュペーパーであることが好ましい。坪量が10〜25g/m
2の範囲の薄葉紙は,柔軟剤の定着率を向上させることが困難であるとされている。この点,本発明の衛生用紙のように,柔軟剤とともに凝結剤を含有することにより,坪量が10〜25g/m
2であっても,効率的に柔軟剤の定着率を高め,風合いを良化することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
上述したとおり,本発明によれば,柔軟剤の定着率が高く風合いに優れた衛生用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0015】
本願明細書において,「衛生用紙」とは,JISの「紙・板紙及びパルプ用語」(JIS P 0001)で定義された「衛生用紙」を意味する。「衛生用紙」には,タオル,生理用紙,ティシュペーパー,トイレットペーパー,ちり紙が含まれる。「衛生用紙」は,JISで定められている他の紙類(新聞巻取紙,印刷・情報用紙,包装用紙,雑種紙)や,板紙類(段ボール原紙,紙器用板紙,建材原紙,紙管原紙,ワンプ,その他板紙)とは明確に区別される。
【0016】
本発明は,ティシュペーパーやトイレットペーパーとして利用される家庭用の衛生用紙に関する。特に,本発明の衛生用紙は,坪量が10〜25g/m
2の範囲にある薄葉紙であることが好ましい。また,本発明の衛生用紙は,2枚又は3枚以上を重ね合わせて,2プライ又は3プライ以上の製品とすることもできる。
【0017】
本発明の衛生用紙は,原料パルプ繊維の懸濁液である抄紙原料(パルプスラリー)を得る調製工程と,抄紙原料から原料パルプ繊維を抄いて繊維ウェブを形成し乾燥させる抄紙工程とによって製造できる。本発明の衛生用紙は,凝結剤及び柔軟剤を含有するものとなる。
【0018】
調整工程では,衛生用紙の原料となる抄紙原料を調整する。抄紙原料は,パルプを主原料としている。原料パルプとしては,例えば,広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)や針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP); サルファイトパルプ(SP)やソーダパルプ(AP)等の化学パルプ; セミケミカルパルプ(SCP)やケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ; 砕木パルプ(GP)やサーモメカニカルパルプ(TMP,BCTMP)等の機械パルプ; あるいは,楮,三椏,麻,ケナフ等を原料とする非木材パルプ,コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ,古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。抄紙原料は,薄葉紙の用途や要求される性能に応じて,1種類の原料パルプを使用してもよく,又は複数種類の原料パルプを任意の比率で使用してもよい。原料パルプは,未叩解パルプであってもよく,全体または一部が叩解されていてもよい。
【0019】
調整工程においては,上記の抄紙原料(パルプスラリー)に対して,凝結剤と柔軟剤を含む薬品が添加される。本発明においては,抄紙原料に対して凝結剤を添加し,撹拌して凝結剤を均一に混合した後に,凝結剤が混合された抄紙原料に対して,柔軟剤やその他の薬品を添加することが好ましい。ただし,凝結剤と柔軟剤等を同時に抄紙原料に対して添加することも可能である。
【0020】
抄紙原料には,微細繊維やアニオン性夾雑物が多く存在している。そこで,まず,凝結剤と呼ばれるポリマーを,抄紙原料に対して添加することで,抄紙原料に含まれるアニオン性夾雑物を封鎖することができ,その後に添加する柔軟剤等の薬品を抄紙原料内に均一に分布させることが可能となる。このため,凝結剤としては,カチオン性の凝結剤を用いることが好ましい。カチオン性凝結剤の種類としては,例えば,ポリジアリルジメチル,アンモニウムクロライド(pDADMAC)又はその誘導体,ジアリルジメチルアンモニウムクロライドと他のモノマーの共重合体,ポリアクリルアミド,ポリアミン,ポリエチレンイミン,2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド重合物,変性ポリエチレンイミン等が挙げられる。特に,ポリアクリルアミド,2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド重合物の2つが好ましく,さらに2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド重合物が好ましい。また,カチオン性凝結剤としては,ここに挙げたものを1種又は2種以上併用して使用することができる。なお,凝結剤の種類は,ここに例示したものに限定されない。
【0021】
また,凝結剤の重量平均分子量(Mw)は,10万から300万であることが好ましく,50万から250万であることがより好ましい。このように,凝結剤として比較的低分子量のポリマーを使用することで,後に添加する柔軟剤等の薬品をより均一に拡散することができる。なお,重量平均分子量(Mw)は,標準PEOを分子量標準としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)による測定値である。
【0022】
抄紙原料に対する凝結剤の添加量は,抄紙原料に含まれるパルプの重量に対して,例えば,1重量ppm以上,10重量ppm以上,30重量ppm以上,又は50重量ppm以上であることが好ましい。凝結剤の添加量の上限は,特に限定されないが,例えば,500重量ppm以下,400重量ppm以下,300重量ppm,又は200重量ppm以下とすればよい。
【0023】
上記凝結剤を抄紙原料に対して添加して撹拌した後に,この凝結剤が混合された抄紙原料に対して,柔軟剤をさらに添加する。柔軟剤は,紙の柔軟性を向上させるための薬剤である。この柔軟剤としては,例えばアニオン系界面活性剤,非イオン性界面活性剤,カチオン性界面活性剤,及び両性イオン界面活性剤などの公知のものを用いることができる。特に,本発明においては,柔軟剤として,カチオン性界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン性界面活性剤としては,例えば,第4級アンモニウム塩,アミン塩,アミン,脂肪酸アミド,脂肪酸エステルなどを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。柔軟剤の添加量は,抄紙原料に含まれるパルプの重量に対して,例えば,0.02%〜1.00%,0.10%〜0.80%,又は0.20%〜0.50%であることが好ましい。
【0024】
上記凝結剤及び柔軟剤を抄紙原料に添加して撹拌した後に,凝結剤及び柔軟剤が混合された抄紙原料に対して,乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤の両方又はいずれか一方の紙力剤をさらに添加することが好ましい。乾燥紙力剤は,乾燥した状態での紙の強度を増強するための薬剤である。この乾燥紙力剤としては,例えばカチオン化澱粉,ポリアクリルアミド(PAM),及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などの公知のものを単独または2種類以上混合して用いることができる。湿潤紙力剤は,紙が水に濡れたときに紙力(紙の強度)の低下を抑えるための薬剤である。この湿潤紙力剤としては,例えばポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂,尿素樹脂,メラミン樹脂,及び熱架橋性付与ポリアクリルアミド(PAM)などの公知のものを単独または2種類以上混合して用いることができる。特に,乾燥紙力剤や湿潤紙力増強剤の紙力剤としては,カチオン性の紙力剤を用いることが好ましい。これらの紙力剤の添加量は,抄紙原料に含まれるパルプの重量に対して,例えば,0.01%〜0.60%,又は0.05%〜0.30%であることが好ましい。
【0025】
上記のように,本発明の衛生用紙の製造工程においては,抄紙原料に対して,凝結剤,柔軟剤,及び紙力剤(乾燥紙力剤及び/又は湿潤紙力剤)をこの順で,適宜撹拌させながら添加することが好ましい。未処理の抄紙原料の系内には,微細繊維やアニオン性夾雑物が多く存在している。このため,まずは,カチオン性の凝結剤を,抄紙原料に添加してよく撹拌することで,カチオン性凝結剤とアニオン性夾雑物が結合し,その抄紙原料に含まれるアニオン性夾雑物を封鎖することができる。そして,アニオン性夾雑物が一定量封鎖された段階で,抄紙原料の系内に柔軟剤を添加することで,柔軟剤が,アニオン性夾雑物に阻害されずに,パルプ繊維と結合しやすくなるため,柔軟剤がパルプ繊維に対して均一に定着するようになる。これにより,抄紙原料内における柔軟剤の定着分布を均一化させることができる。さらに,柔軟剤が抄紙原料に均一に混合された段階で,乾燥紙力剤や湿潤紙力剤を添加することで,これらの紙力剤を均一に分布させることができる。このため,抄紙原料に対してまずは凝結剤を添加し,その後に柔軟剤及び紙力剤を添加することが好ましい。
【0026】
上記の調整工程で調整された抄紙原料は,抄紙工程において抄紙され衛生用紙となる。抄紙工程は,一般的な抄紙機を利用して行うことができる。一般的な抄紙工程は,ワイヤーパート,プレスパート,ドライヤパート,カレンダパート,及びリールパートを含む。
【0027】
ワイヤーパートは,射出された抄紙原料(パルプ)を脱水してシート化する工程である。ワイヤーパートでは,予め成分が調製された抄紙原料を,水分を大量に含んだ状態でフォーミングユニットに供給し,衛生用紙の原型となる1層抄き又は2層抄き合わせの紙層を形成する。抄紙原料に含まれる大量の水分はここで脱水されて,湿紙の地合いが整えられる。
【0028】
プレスパートは,シート化した抄紙原料に圧力を掛けてさらに脱水する工程である。プレスパートでは,ワイヤーパートにおいて形成された湿紙に圧力を掛け,この湿紙に含まれる水分を搾り取る。ここでは,湿紙の表面を平滑にすると同時に,湿紙の主要部を構成するパルプ成分の密度を高めて,強固な湿紙を形成する。
【0029】
ドライヤパートは,乾燥機の内部に抄紙原料のシートを導入して,熱を加えることで完全に乾燥させる工程である。ドライヤパートでは,プレスパートを経た湿紙をヤンキードライヤによって加熱することにより,余分な水分を強制的に蒸発させる。これにより,湿紙を乾燥させた紙を得る。ヤンキードライヤの鏡面ロールに巻き付けて乾燥された紙は,クレーピングドクターによってクレーピング処理されつつ,この鏡面ロールの表面から剥離されて,その後のカレンダパートへと搬出される。
【0030】
カレンダパートは,乾燥後のシートの表面を押圧しながら引き延ばして,シートの表面を滑らかにする工程である。すなわち,カレンダパートでは,ほぼ完成された状態の紙を一対のカレンダーロールの間に導入することにより,紙の表面を平滑に仕上げてその密度を高める。
【0031】
リールパートは,各工程を経て得られた長尺の紙を巻き取って,紙が多重に巻き付けられたロール体を形成する工程である。リールパートでは,できあがった紙,つまり一枚のティシュペーパーとなる衛生用紙の原紙をロール状に巻き取る。また,その後,上記した工程を経て得られた衛生用紙の原紙ロールを2本用意し,別の工程にてこれらを重ね合わせて切断することにより,2枚一組(2プライ)のティシュペーパー製品を得ることができる。また,衛生用紙の原紙ロールを3本用意することで,3枚一組(3プライ)のティシュペーパー製品を得ることも可能である。
【0032】
上記工程を経て,本発明に係る衛生用紙が製造される。本発明の衛生用紙は,坪量が10〜25g/m
2の範囲にある薄葉紙であることが好ましい。特に,本発明の衛生用紙は,ティッシュペーパー又はトイレットペーパーであることが好ましい。
【0033】
上記の工程により,本発明に係る衛生用紙を製造することができる。本発明の衛生用紙は,少なくとも,凝結剤及び柔軟剤を含有する。凝結剤は,カチオン性凝結剤であることが好ましい。また,凝結剤の含有量は,衛生用紙を構成するパルプの重量に対して,1重量ppm以上,10重量ppm以上,30重量ppm,又は50重量ppm以上であることが好ましい。凝結剤の含有量の上限は特に限定されないが,例えば,500重量ppm以下,400重量ppm以下,300重量ppm,又は200重量ppm以下とすればよい。
【0034】
また,柔軟剤の含有量は,衛生用紙を構成するパルプの重量に対して,0.02%以上,0.1%以上,又は0.5%以上であることが好ましい。柔軟剤の含有量は,凝結剤の含有量の増加に伴って増加する。このため,柔軟剤の定着率の向上を図るためには,凝結剤の含有量を増加させればよい。柔軟剤の含有量の上限は特に限定されないが,例えば,1.0%以下,0.9%以下,又は0.8%以下とすればよい。
【0035】
上記のように,衛生用紙に柔軟剤とともに凝結剤を含有させることで,柔軟剤の定着率が向上し,柔軟剤の含有濃度(対パルプ重量)が高まる。このため,衛生用紙は,風合いや手触りに優れたものとなる。衛生用紙の風合いや手触りは,HF値(ハンドフィール値)によって示すことができる。HF値は,以下に示す条件にて測定される。
【0036】
[HF値の測定条件]
本願明細書において,「HF値」とは,以下の測定条件に従って測定した値を意味する。
・測定機:ティシューソフトネスアナライザー
・メーカー:Emtec Electronic GmbH(ドイツ)
・日本代理店:日本ルフト株式会社
・標準サンプル形状:直径約112.8mmの円形に切り取ったサンプル
・測定環境:ISO187に準拠した環境(23℃±1℃,湿度50%(±2%))
・測定条件:付属の説明書に従い標準サンプル(emtec ref.2X(nn.n))で1点校正し,アルゴリズムをfacialIIに設定する。計算用ソフトウェアは,emtec measurement system ver.2.98を使用した。
試料台に設置したサンプルに対し,ブレード付きローターを100mNの押し込み圧力で上方から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させた時の振動周波数と,試料台に設置したサンプルに対し,ブレード付きローターを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだときの上下方向の変形変位量とからHF値(ハンドフィール値)が取得できる。測定は各サンプルの表面と裏面のそれぞれにつき8回ずつ行い,取得した8個のHF値の平均値から±2×[平均値の標準偏差]を超えて外れた数値を除外し,再度平均して各サンプルのHF値を取得した。
【0037】
本発明の衛生用紙は,手触りと風合いに優れたものとするために,上記条件で測定したHF値が,80以上であることが好ましい。HF値が80未満であると,衛生用紙は,手触りが硬く風合いが劣るものとなる。衛生用紙のHF値は,80以上又は81以上であることが好ましく,83以上又は85以上であることが特に好ましい。
【0038】
また,上記の凝結剤及び柔軟剤に加えて,衛生用紙は,乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤の両方又はいずれか一方の紙力剤をさらに含有するものであってもよい。紙力剤の含有量は,衛生用紙を構成するパルプの重量に対して,0.05%以上,0.08%以上,又は0.10%以上であることが好ましい。
紙力剤の含有量の上限は特に限定されないが,例えば,3%以下,2%以下,又は1%以下とすればよい。
【0039】
上記のとおり,衛生用紙に柔軟剤とともに凝結剤を内添することにより,衛生用紙における柔軟剤の含有濃度が向上し,風合いや手触りの指標となるHF値を高めることができる。以下に,本発明の効果を確認するための実施例を示す。
【実施例】
【0040】
【表1】
【0041】
上記表1は,本発明の実施例と比較例に関する各種測定結果の一覧表を示している。
【0042】
本発明の実施例1は,衛生用紙を抄造するにあたり,原料となるパルプスラリー全体(100%)のうち,広葉樹クラフトパルプ(以下「LBKP」)を60%配合し,針葉樹パルプ(以下「NBKP」)を40%配合した。実施例1では,このパルプスラリーに,凝結剤を0.005重量%(対パルプ重量:50ppm)添加して撹拌し,その後,柔軟剤を0.2重量%添加して撹拌し,さらにその後,湿潤紙力剤を0.08重量%添加して撹拌して,1層抄き長網抄紙機を用いて,坪量15.2g/m
2の衛生用紙を得た。添加薬品として,凝結剤は,ハイモ株式会社製のNR70Nを使用した。NR70Nの主成分は,2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド重合物である。柔軟剤は,星光PMC株式会社のFS8015を使用した。湿潤紙力剤は,荒川化学工業株式会社のアラフィックス255を使用した。
【0043】
本発明の実施例2は,衛生用紙を抄造するにあたり,上記した実施例1と同じ配合のパルプスラリーを用いた。実施例2では,このパルプスラリーに,凝結剤を0.01重量%(対パルプ重量:100ppm)添加して撹拌し,その後,柔軟剤を0.2重量%添加して撹拌し,さらにその後,湿潤紙力剤を0.08重量%添加して撹拌して,1層抄き長網抄紙機を用いて,坪量15.5g/m
2の衛生用紙を得た。凝結剤,柔軟剤,及び湿潤紙力剤は,実施例1と同じものを用いた。つまり,実施例2は,実施例1と比較して,凝結剤の添加量を増加させたものである。
【0044】
比較例1は,衛生用紙を抄造するにあたり,上記した実施例1と同じ配合のパルプスラリーを用いた。比較例1では,このパルプスラリーに,凝結剤を0.005重量%(対パルプ重量:50ppm)添加して撹拌し,その後,柔軟剤を添加せずに,湿潤紙力剤を0.08重量%添加して撹拌して,1層抄き長網抄紙機を用いて,坪量15.1g/m
2の衛生用紙を得た。凝結剤及び湿潤紙力剤は,実施例1と同じものを用いた。つまり,比較例1は,実施例1と比較し,柔軟剤が添加されていないものである。
【0045】
比較例2は,衛生用紙を抄造するにあたり,上記した実施例1と同じ配合のパルプスラリーを用いた。比較例2では,このパルプスラリーに,凝結剤を添加せずに,柔軟剤を0.2重量%添加して撹拌し,その後,湿潤紙力剤を0.08重量%添加して撹拌して,1層抄き長網抄紙機を用いて,坪量15.3g/m
2の衛生用紙を得た。柔軟剤及び湿潤紙力剤は,実施例1と同じものを用いた。つまり,比較例1は,実施例1と比較し,凝結剤が添加されていないものである。
【0046】
上記した実施例1,実施例2,比較例1,及び比較例2の衛生用紙のそれぞれについて,凝結剤・柔軟剤・湿潤紙力剤の含有濃度,坪量,厚さ,HF値,乾燥引張強度,及び湿潤引張強度を測定した。
【0047】
凝結剤,柔軟剤,及び湿潤紙力剤の各種薬品の含有濃度を測定するにあたり,まず,衛生用紙をくり抜いたサンプル(200〜300μg)を2組作成した。そして,各サンプルについて,熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(熱分解装置:フロンティアラボ社製 PY−2020D,ガスクロマトグラフ質量分析装置:アジレントテクノロジー社製 5973N)を用いて,薬品含有濃度(対パルプ重量比)を測定した。測定は,各サンプルについて2回ずつ行い,その平均値を衛生用紙の薬品含有濃度(対パルプ重量比)とした。凝結剤の含有濃度は,ppmで示し,柔軟剤と湿潤紙力剤の含有濃度は,重量%で示している。
【0048】
坪量の測定値は,1プライの衛生用紙の測定値を示している。坪量は,JIS P8124の規定に従って測定した。
【0049】
厚さの測定値は,1プライの衛生用紙の測定値を示している。厚さは,ISO187に準拠した環境(温度23℃±1℃,湿度50%±2%)で,厚さ計(ハイブリッジ製作所製)を用いて,測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろして測定した値である。なお,測定は試料8枚を1枚ずつ測定し,取得した8つの厚さの値を平均した。
【0050】
衛生用紙のHF値は,2プライの衛生用紙を,2プライの状態のまま用いて測定した値である。衛生用紙のHF値の測定条件は,上述した測定条件と同じである。HF値が80を下回ると,衛生用紙が風合いと手触りに劣るものとなる。このためHF値が80未満のものを不適とした。
【0051】
衛生用紙の乾燥引張強度の測定は,2プライの状態のままで実施した。乾燥引張強度は,JIS P8113に準拠して測定した。縦方向と横方向の乾燥引張強度の幾何平均が1.5[N/25mm]を下回ると,抄造中に断紙等のトラブルが発生する。このため,乾燥引張強度の測定結果としては,幾何平均が1.5[N/25mm]以下のものを不適とした。
【0052】
衛生用紙の湿潤引張強度の測定は,2プライの状態のままで実施した。湿潤引張強度は,ISO187に準拠した環境(23℃±1℃,湿度50%±2%)で,25mm幅の試料2枚1組をテンシロン万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製)にて測定した。測定にあたり,フェルト付きのピンセットに蒸留水を含ませ,そのピンセットで試料を挟むことで湿潤させて測定を行った。縦の湿潤引張強度が,0.6[N/25mm]を下回った場合,衛生用紙が濡れた際に容易に破れてしまうため,不適とした。
【0053】
上記表1に示されるように,実施例1の衛生用紙(凝結剤及び柔軟剤含有)は,柔軟剤含有濃度が0.29重量%であり,HF値が81.3であり,風合いや手触りの観点から良好な値を示していた。また,実施例2は,抄造時における柔軟剤の添加量が実施例1と等しいものであるが,実施例2では,凝結剤の添加量を増加させている。これにより,実施例2の衛生用紙は,柔軟剤含有濃度が0.36重量%であり,HF値が85.1となり,風合いや手触りがさらに良好なものとなった。このことは,抄造時における凝結剤の添加量を増加させることで,柔軟剤の定着率が高まり,衛生用紙のHF値が向上することを示している。このため,凝結剤が,衛生用紙における柔軟剤含有濃度を向上させ,衛生用紙のHF値を高めることを確認できた。
【0054】
また,比較例1は,柔軟剤を添加せずに,凝結剤を添加したものである。この場合,比較例1の衛生用紙は,柔軟剤含有量がゼロ若しくは極めて少なくなるため,HF値が,実施例1や実施例2の衛生用紙と比べて低いものとなった。比較例1の衛生用紙は,HF値が76.5であり,風合いや手触りの観点から製品として不適格なものであった。このことは,凝結剤の添加のみでは衛生用紙の風合いを改善することができず,風合いの改善のためには,凝結剤と柔軟剤の両方を添加する必要があることを示している。なお,比較例1の衛生用紙は,柔軟剤含有濃度が0.03重量%となっているが,これは系内に残存していた柔軟剤が衛生用紙に定着したものであり,測定結果に特に影響はない。
【0055】
また,比較例2は,凝結剤を添加せずに,柔軟剤を添加したものである。この場合,比較例2の衛生用紙は,柔軟剤含有濃度やHF値が,実施例1や実施例2の衛生用紙と比べて低いものとなった。比較例2の衛生用紙は,HF値が77.3であり,風合いや手触りの観点から製品として不適格なものであった。このことは,柔軟剤の添加のみでは衛生用紙の風合いを改善することができず,風合いの改善のためには,凝結剤と柔軟剤の両方を添加する必要があることを示している。
【0056】
また,比較例2では,抄造時における柔軟剤添加量が0.2重量%であり,衛生用紙の柔軟剤含有濃度が0.21重量%であって,両者に殆ど変化はない。他方で,実施例1では,抄造時における柔軟剤添加量が0.2重量%であるのに対して,衛生用紙の柔軟剤含有濃度が0.29重量%であり,柔軟剤の含有濃度が向上していることがわかる。さらに,実施例2では,抄造時における柔軟剤添加量が0.2重量%であるのに対して,衛生用紙の柔軟剤含有濃度が0.36重量%であり,その含有濃度が格段に向上している。このことは,抄造段階で凝結剤を添加することにより,衛生用紙に対する柔軟剤の定着率を高めることができることを示している。
【0057】
また,比較例2は,凝結剤を添加せずに,湿潤紙力剤を添加したものである。比較例2の衛生用紙は,湿潤紙力剤含有濃度が0.11であり,実施例1や実施例2の衛生用紙と比べて低い。また,比較例2の衛生用紙は,縦方向の湿潤引張強度が0.633[N/25mm]であり,これも,実施例1や実施例2の衛生用紙と比べて低い。このことは,実施例1や実施例2のように,凝結剤を添加することで,湿潤紙力剤の定着率も向上し,衛生用紙の湿潤引張強度を高めることができることを示している。
【0058】
以上のとおり,衛生用紙は,凝結剤と柔軟剤を含有することで,柔軟剤の定着率が高くなり,手触りや風合いに優れたものになることが確認できた。また,衛生用紙は,凝結剤と紙力剤を含有することで,紙力剤の定着率が高くなり,引張強度が向上することを確認できた。
【0059】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,本発明の実施形態及び実施例の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。