特許第6488976号(P6488976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6488976
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20190318BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20190318BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20190318BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20190318BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   C22C38/00 303D
   C22C33/02 H
   B22F3/24 K
   B22F3/24 B
   B22F3/00 F
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-199488(P2015-199488)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-73463(P2017-73463A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】早川 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 信
(72)【発明者】
【氏名】鹿子木 史
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/139559(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/191276(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/004994(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/150843(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rが希土類元素を表し、Tが希土類元素以外の金属元素を表し、Bがホウ素、または、ホウ素および炭素を表すR−T−B系焼結磁石であって、
前記Tとして少なくともFe、Cu、Mn、Al、Co、Ga、Zrを含有し、
前記R−T−B系焼結磁石の総質量を100質量%として、
前記Rの含有量が28.0〜31.5質量%、
前記Cuの含有量が0.04〜0.50質量%、
前記Mnの含有量が0.02〜0.10質量%、
前記Alの含有量が0.15〜0.30質量%、
前記Coの含有量が0.50〜3.0質量%、
前記Gaの含有量が0.08〜0.30質量%、
前記Zrの含有量が0.10〜0.25質量%、
前記Bの含有量が0.85〜1.0質量%であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項2】
前記Rとして含有する重希土類元素が実質的にDyのみである請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石。
【請求項3】
前記Rとして重希土類元素を実質的に含有しない請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石。
【請求項4】
Ga/Alが質量比で0.60以上、1.30以下である請求項1〜3のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石。
【請求項5】
重希土類元素が請求項1〜4のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の粒界に拡散されているR−T−B系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B系の組成を有する希土類焼結磁石は、優れた磁気特性を有する磁石であり、その磁気特性の更なる向上を目指して多くの検討がなされている。磁気特性を表す指標としては、一般的に、残留磁束密度(残留磁化)Brおよび保磁力HcJが用いられる。これらの値が高い磁石は優れた磁気特性を有するといえる。
【0003】
例えば、特許文献1には、良好な磁気特性を有するNd−Fe−B系希土類焼結磁石が記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、各種希土類元素を含有する微粉末を水あるいは有機溶媒に分散させたスラリーに磁石体を浸漬させた後に加熱して粒界拡散させた希土類焼結磁石が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−210893号公報
【特許文献2】国際公開第06/43348号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、残留磁束密度Brおよび保磁力HcJが高く、耐食性と製造安定性も優れており、さらに、重希土類元素を粒界拡散させたときの残留磁束密度Brの低下幅が小さく、保磁力HcJの増加幅が大きいR−T−B系焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のR−T−B系焼結磁石は、
Rが希土類元素を表し、Tが希土類元素以外の金属元素を表し、Bがホウ素、または、ホウ素および炭素を表すR−T−B系焼結磁石であって、
前記Tとして少なくともFe、Cu、Mn、Al、Co、Ga、Zrを含有し、
前記R−T−B系焼結磁石の総質量を100質量%として、
前記Rの含有量が28.0〜31.5質量%、
前記Cuの含有量が0.04〜0.50質量%、
前記Mnの含有量が0.02〜0.10質量%、
前記Alの含有量が0.15〜0.30質量%、
前記Coの含有量が0.50〜3.0質量%、
前記Gaの含有量が0.08〜0.30質量%、
前記Zrの含有量が0.10〜0.25質量%、
前記Bの含有量が0.85〜1.0質量%であることを特徴とする。
【0008】
本発明のR−T−B系焼結磁石は、上記の特徴を有することで、残留磁束密度および保磁力を向上させるとともに、高い耐食性および製造安定性を得ることができる。さらに、重希土類元素を粒界拡散させた場合の効果をより高めることができる。具体的には、重希土類元素を拡散させることによる残留磁束密度Brの低下幅を従来品より小さくするとともに、保磁力HcJの増加幅を従来品より大きくすることができる。
【0009】
本発明のR−T−B系焼結磁石は、前記Rとして含有する重希土類元素が実質的にDyのみであってもよい。
【0010】
本発明のR−T−B系焼結磁石は、前記Rとして重希土類元素を実質的に含有しなくてもよい。
【0011】
本発明のR−T−B系焼結磁石は、Ga/Alが0.60以上、1.30以下であることが好ましい。
【0012】
重希土類元素が上記のR−T−B系焼結磁石の粒界に拡散されているR−T−B系焼結磁石も本発明のR−T−B系焼結磁石である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実験例1におけるBr−HcJマップである。
図2】実験例1におけるBr−HcJマップである。
図3】実験例1における粒界拡散前後での磁気特性の変化を表すグラフである。
図4】実験例3における保磁力HcJと第二時効温度との関係を示す図である。
図5】実験例4における残留磁束密度Brの変化幅と拡散温度との関係を示す図である。
図6】実験例4における保磁力HcJの変化幅と拡散温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0015】
<R−T−B系焼結磁石>
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、R14B結晶から成る粒子および粒界を有する。そして、複数の特定の元素を特定の範囲の含有量で含有することにより、残留磁束密度Br、保磁力HcJ、耐食性および製造安定性を向上させることができる。さらに、後述する粒界拡散における残留磁束密度Brの低下幅を小さくし、保磁力HcJの増加幅を大きくすることができる。すなわち、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、粒界拡散工程なしでも優れた特性を有し、かつ、粒界拡散にも適したR−T−B系焼結磁石である。また、保磁力HcJを向上させる観点から、前記粒界拡散で拡散させる元素は重希土類元素であることが好ましい。
【0016】
Rは希土類元素を表す。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素を含む。ランタノイド元素には、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。 また、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石では、Rとして、好ましくはNd、Pr、またはDyを含有する。
【0017】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石におけるRの含有量は、R−T−B系焼結磁石全体を100質量%として、28.0質量%以上31.5質量%以下である。Rの含有量が28.0質量%未満の場合には、保磁力HcJが低下する。Rの含有量が31.5質量%超の場合には、残留磁束密度Brが低下する。また、Rの含有量は29.0質量%以上、31.0質量%以下であることが好ましい。
【0018】
さらに、本実施形態のR−T−B系焼結磁石は、Rとして含有する重希土類元素が実質的にDyのみであってもよい。Rとして含有する重希土類元素が実質的にDyのみであることにより、重希土類元素(特にTb)を粒界拡散させる場合に、効率的に磁気特性を向上させることが出来る。なお、上記の「Rとして含有する重希土類元素が実質的にDyのみ」とは、重希土類元素全体を100重量質量%とした場合に98質量%以上であることを指す。
【0019】
さらに、本実施形態のR−T−B系焼結磁石は、Rとして実質的に重希土類元素を含有しなくてもよい。Rとして実質的に重希土類元素を含有しないことにより、残留磁束密度Brの高いR−T−B系焼結磁石が低コストで得られる。さらに、重希土類元素(特にTb)を粒界拡散させる場合に、最も効率的に磁気特性を向上させることが出来る。なお、上記の「Rとして実質的に重希土類元素を含有しない」とは、重希土類元素の含有量が、R全体を100質量%とした場合に1.5質量%以下であることを指す。
【0020】
Tは希土類元素以外の金属元素等の元素を表す。本実施形態にかかるR−T−B系焼結磁石では、Tとして少なくともFe、Co、Cu、Al、Mn、GaおよびZrを含む。また、例えば、Ti、V、Cr、Ni、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Si、P、Bi、Snなどの金属元素等の元素のうち1種以上の元素をTとして更に含んでいてもよい。
【0021】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石におけるFeの含有量は、R−T−B系焼結磁石の構成要素における実質的な残部である。
【0022】
Coの含有量は0.50質量%以上3.0質量%以下である。Coを含有することで耐食性が向上する。Coの含有量が0.50質量%未満であると、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石の耐食性が悪化する。Coの含有量が3.0質量%を超えると、耐食性改善の効果が頭打ちとなるとともに高コストとなる。また、Coの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、2.5質量%以下である。
【0023】
Cuの含有量は0.04質量%以上0.50質量%以下である。Cuの含有量が0.04質量%未満であると、保磁力HcJが低下し、重希土類拡散後(いわゆる粒界拡散法適用後)の保磁力の向上幅ΔHcJも不十分となる。Cuの含有量が0.50質量%を超えると、保磁力HcJ向上の効果が飽和するとともに残留磁束密度Brが低下する。また、Cuの含有量は、好ましくは0.10質量%以上、0.50質量%以下である。
【0024】
Alの含有量は0.15質量%以上、0.40質量%以下である。Alの含有量が0.15質量%未満であると、保磁力HcJが低下し、重希土類拡散後の保磁力の向上幅ΔHcJも不十分となる。さらに、後述する時効温度の変化に対する磁気特性(特に保磁力HcJ)の変化が大きくなり、量産時における特性のばらつきが大きくなる。すなわち、製造安定性が低下する。Alの含有量が0.40質量%を超えると、残留磁束密度Brが低下する。さらに、重希土類拡散後の残留磁束密度Brの低下幅が大きくなるとともに保磁力の温度変化率が悪化する。また、Alの含有量は好ましくは0.18質量%以上、0.30質量%以下である。
【0025】
ここで、残留磁束密度Brの低下幅についてより詳細に説明する。通常、重希土類拡散により残留磁束密度Brは低下する。すなわち、残留磁束密度Brの向上幅をΔBrとする場合に、ΔBrは負の値となる。前述の通り、Alの含有量が0.40質量%を超えると、残留磁束密度Brの低下幅が大きくなる。残留磁束密度Brの低下幅が大きくなるということは、ΔBrの絶対値が大きくなることを意味する。以上より、Alの含有量が0.40質量%を超えると、ΔBrの絶対値が大きくなる。
【0026】
Mnの含有量は0.02質量%以上、0.10質量%以下である。Mnの含有量が0.02質量%未満であると、残留磁束密度Brが低下するとともに、重希土類元素拡散後の保磁力の向上幅ΔHcJが不十分となる。Mnの含有量が0.10質量%を超えると、保磁力HcJが低下するとともに、重希土類元素拡散後の保磁力の向上幅ΔHcJが不十分となる。また、Mnの含有量は好ましくは0.02質量%以上、0.06質量%以下である。
【0027】
Gaの含有量は、0.08質量%以上、0.30質量%以下である。Gaを0.08質量%以上含有することで保磁力が十分に向上する。Gaの含有量が0.08質量%未満であると、Gaの含有による保磁力HcJ向上の効果が小さい。0.30質量%を超えると、焼結時に異相が生成しやすくなり、残留磁束密度Brが低下する。また、Gaの含有量は、好ましくは0.10質量%以上、0.25質量%以下である。
【0028】
Zrの含有量は、0.10質量%以上、0.25質量%以下である。Zrを含有することで、焼結時の異常粒成長を抑制し、角型比Hk/HcJおよび低磁場下での着磁率が改善される。Zrの含有量が0.10質量%未満であると、Zrの含有による焼結時の異常粒成長抑制効果が小さく、角型比Hk/HcJおよび低磁場下での着磁率も悪い。0.25質量%を超えると、焼結時の異常粒成長抑制効果が飽和するとともに残留磁束密度Brが低下する。また、Zrの含有量は、好ましくは、0.13質量%以上、0.22質量%以下である。
【0029】
また、Ga/Alが0.60以上、1.30以下であることが好ましい。Ga/Alが0.60以上、1.30以下であることで、保磁力HcJが向上し、重希土類拡散後の保磁力HcJの向上幅も大きくなる。さらに、後述する時効温度の変化に対する磁気特性(特に保磁力HcJ)の変化が小さくなり、量産時における特性のばらつきが小さくなる。すなわち、製造安定性が大きくなる。
【0030】
本実施形態に係る「R−T−B系焼結磁石」の「B」は、ホウ素(B)、または、ホウ素(B)および炭素(C)を示すものである。すなわち、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石では、ホウ素(B)の一部を炭素(C)に置換することができる。
【0031】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石におけるBの含有量は、0.85質量%以上、1.0質量%以下である。Bが0.85質量%未満であると高角型性を実現しにくくなる。すなわち、角型比Hk/HcJを向上させにくくなる。Bが1.0質量%以上であると残留磁束密度Brが低下する。また、Bの含有量は0.90質量%以上、1.0質量%以下であることが好ましい。
【0032】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石における炭素(C)の好ましい含有量は、他のパラメータ等によって変化するが、概ね0.05〜0.15質量%の範囲となる。
【0033】
また、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石において、窒素(N)量は、好ましくは100〜1000ppm、さらに好ましくは200〜800ppm、特に好ましくは300〜600ppmである。
【0034】
なお、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石中に含まれる各種成分の測定法は、従来から一般的に知られている方法を用いることができる。各種金属元素量については、例えば、蛍光X線分析および誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)等により測定される。酸素量は、例えば、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法により測定される。炭素量は、例えば、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法により測定される。窒素量は、例えば、不活性ガス融解−熱伝導度法により測定される。
【0035】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の形状には、特に限定は無い。例えば、直方体などの形状が挙げられる。
【0036】
以下、R−T−B系焼結磁石の製造方法について詳しく説明していくが、特記しない事項については、公知の方法を用いればよい。
【0037】
[原料粉末の準備工程]
原料粉末は、公知の方法により作製することができる。本実施形態では、単独の合金を使用する1合金法の場合について説明するが、組成の異なる第1合金と第2合金等、2種以上の合金を混合して原料粉末を作製するいわゆる2合金法でもよい。
【0038】
まず、主にR−T−B系焼結磁石の主相を形成する合金を準備する(合金準備工程)。合金準備工程では、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の組成に対応する原料金属を公知の方法で溶解した後、鋳造することによって所望の組成を有する合金を作製する。
【0039】
原料金属としては、例えば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法には特に限定はない。磁気特性の高いR−T−B系焼結磁石を得るためにはストリップキャスト法が好ましい。得られた原料合金は、必要に応じて既知の方法で均質化処理を行ってもよい。
【0040】
前記合金を作製した後、粉砕する(粉砕工程)。なお、粉砕工程から焼結工程までの各工程の雰囲気は、高い磁気特性を得る観点から、低酸素濃度とすることが好ましい。例えば、各工程の酸素の濃度を200ppm以下とすることが好ましい。
【0041】
以下、前記粉砕工程として、粒径が数百μm〜数mm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程の2段階で実施する場合を以下に記述するが、微粉砕工程のみの1段階で実施してもよい。
【0042】
粗粉砕工程では、粒径が数百μm〜数mm程度になるまで粗粉砕する。これにより、粗粉砕粉末を得る。粗粉砕の方法には特に限定は無く、水素吸蔵粉砕を行う方法や粗粉砕機を用いる方法など、公知の方法で行うことができる。
【0043】
次に、得られた粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕する(微粉砕工程)。これにより、微粉砕粉末を得る。前記微粉砕粉末の平均粒径は、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは2μm以上6μm以下、さらに好ましくは3μm以上5μm以下である。
【0044】
微粉砕の方法には特に限定はない。例えば、各種微粉砕機を用いる方法で実施される。
【0045】
前記粗粉砕粉末を微粉砕する際、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド等の各種粉砕助剤を添加することにより、成形時に配向性の高い微粉砕粉末を得ることができる。
【0046】
[成形工程]
成形工程では、上記微粉砕粉末を目的の形状に成形する。成形工程には特に限定はないが、本実施形態では、上記微粉砕粉末を金型内に充填し、磁場中で加圧する。これにより得られた成形体は、主相結晶が特定方向に配向しているので、より残留磁束密度の高いR−T−B系焼結磁石が得られる。
【0047】
成形時の加圧は、20MPa〜300MPaで行うことが好ましい。印加する磁場は、950kA/m〜1600kA/mであることが好ましい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
【0048】
なお、成形方法としては、上記のように微粉砕粉末をそのまま成形する乾式成形の他、微粉砕粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0049】
微粉砕粉末を成形して得られる成型体の形状は任意の形状とすることができる。また、この時点での成型体の密度は4.0〜4.3Mg/mとすることが好ましい。
【0050】
[焼結工程]
焼結工程は、成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し、焼結体を得る工程である。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、成形体に対して、例えば、真空中または不活性ガスの存在下、1000℃以上1200℃以下、1時間以上20時間以下で加熱する処理を行うことにより焼成する。これにより、高密度の焼結体が得られる。本実施形態では、最低7.48Mg/m以上、好ましくは7.50Mg/m以上の密度の焼結体を得る。
【0051】
[時効処理工程]
時効処理工程は、焼結体を焼結温度より低温で熱処理する工程である。時効処理を行うか否かには特に制限はなく、時効処理の回数にも特に制限はなく所望の磁気特性に応じて適宜実施する。また、後述する粒界拡散工程が時効処理工程を兼ねてもよい。本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石では2回の時効処理を行うことが最も好ましい。以下、時効処理を2回行う実施形態について説明する。
【0052】
1回目の時効工程を第一時効工程、2回目の時効工程を第二時効工程とし、第一時効工程の時効温度をT1、第二時効工程の時効温度をT2とする。
【0053】
第一時効工程における温度T1および時効時間には、特に制限はない。好ましくは700℃以上900℃以下で1〜10時間である。
【0054】
第二時効工程における温度T2および時効時間には、特に制限はない。好ましくは、450℃以上700℃以下の温度で1〜10時間である。
【0055】
このような時効処理によって、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石の磁気特性、特に保磁力HcJを向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の製造安定性は、時効温度の変化に対する磁気特性の変化量の大きさで確認できる。例えば、時効温度の変化に対する磁気特性の変化量が大きければ、わずかな時効温度の変化で磁気特性が変化することとなる。このため、時効工程において許容される時効温度の範囲が狭くなり、製造安定性が低くなる。逆に、時効温度の変化に対する磁気特性の変化量が小さければ、時効温度が変化しても磁気特性が変化しにくいこととなる。このため、時効工程において許容される時効温度の範囲が広くなり、製造安定性が高くなる。
【0057】
このようにして得られる本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、所望の特性を有する。具体的には、残留磁束密度および保磁力が高く、耐食性と製造安定性も優れている。さらに、後述する粒界拡散工程を実施する場合には、重希土類元素を粒界拡散させたときの残留磁束密度の低下幅が小さく、保磁力の向上幅が大きい。すなわち、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、粒界拡散に適した磁石である。
【0058】
なお、以上の方法により得られた本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、着磁することにより、R−T−B系焼結磁石製品となる。
【0059】
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、モーター、発電機等の用途に好適に用いられる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0061】
以下、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石に重希土類元素を粒界拡散させる方法について説明する。
【0062】
[加工工程(粒界拡散前)]
必要に応じて、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石を所望の形状に加工する工程を有してもよい。加工方法は、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0063】
[粒界拡散工程]
以下、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石に対して、重希土類元素を粒界拡散させる方法について説明する。
【0064】
粒界拡散は、必要に応じて前処理を施した焼結体の表面に、塗布または蒸着等によって重希土類元素を含む化合物や合金等を付着させた後、熱処理を行うことにより、実施することができる。重希土類元素の粒界拡散により、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石の保磁力HcJをさらに向上させることができる。
【0065】
なお、前記前処理の内容には特に制限はない。例えば公知の方法でエッチングを施した後に洗浄し、乾燥する前処理が挙げられる。
【0066】
前記重希土類元素としては、DyまたはTbが好ましく、Tbがより好ましい。
【0067】
以下に説明する本実施形態では、前記重希土類元素を含有する塗料を作製し、前記塗料を前記焼結体の表面に塗布する。
【0068】
前記塗料の態様には特に制限はない。前記重希土類元素を含む化合物や合金として何を用いるか、溶媒または分散媒として何を用いるかも特に制限はない。また、溶媒または分散媒の種類にも特に制限はない。また、塗料の濃度にも特に制限はない。
【0069】
本実施形態に係る粒界拡散工程における拡散処理温度は、800〜950℃が好ましい。拡散処理時間は1〜50時間が好ましい。
【0070】
また、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石の製造安定性は、粒界拡散工程における拡散処理温度の変化に対する磁気特性の変化量の大きさで確認できる。例えば、拡散処理温度の変化に対する磁気特性の変化量が大きければ、わずかな拡散処理温度の変化で磁気特性が変化することとなる。このため、粒界拡散工程において許容される拡散処理温度の範囲が狭くなり、製造安定性が低くなる。逆に、拡散処理温度の変化に対する磁気特性の変化量が小さければ、拡散処理温度が変化しても磁気特性が変化しにくいこととなる。このため、粒界拡散工程において許容される拡散処理温度の範囲が広くなり、製造安定性が高くなる。
【0071】
また、拡散処理後に、さらに熱処理を施してもよい。その場合の熱処理温度は450〜600℃が好ましい。熱処理時間は1〜10時間が好ましい。
【0072】
[加工工程(粒界拡散後)]
粒界拡散工程の後には、主面の表面に残存する前記塗料を除去するために研磨を行うことが好ましい。
【0073】
また、粒界拡散後加工工程で実施する加工の種類に特に制限はない。例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などを前記粒界拡散後に行ってもよい。
【0074】
なお、本実施形態では、粒界拡散前および粒界拡散後の加工工程を行っているが、これらの工程は、必ずしも行う必要はない。また、最終的に粒界拡散後のR−T−B系焼結磁石を得る場合には、粒界拡散工程が時効工程を兼ねてもよい。粒界拡散工程が時効工程を兼ねる場合の加熱温度には、特に限定はない。粒界拡散工程において好ましい温度であり、かつ、時効工程においても好ましい温度で実施することが特に好ましい。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0076】
(実験例1)
(希土類焼結磁石基材(希土類焼結磁石体)の作製)
原料として、Nd、Pr(純度99.5%以上)、Dy−Fe合金、電解鉄、低炭素フェロボロン合金を準備した。さらに、Al、Ga、Cu、Co、Mn、Zrを、純金属またはFeとの合金の形で準備した。
【0077】
前記原料に対し、ストリップキャスト法により、最終的に得られる磁石組成が表1、表2に示す各組成となるように焼結体用合金(原料合金)を作製した。ここで、前記原料合金の組成と最終的に得られる磁石組成とを比較すると、最終的に得られる磁石組成におけるRの量が、前記原料合金の組成におけるRの量より約0.3%低下していた。このとき、Rの中でも特に存在量の多いNdの量のみが約0.3%低下したように見える。また、前記原料合金の合金厚みは0.2〜0.4mmとした。
【0078】
次いで、前記原料合金に対して室温で1時間、水素ガスをフローさせて水素を吸蔵させた。次いで雰囲気をArガスに切り替え、600℃で1時間、脱水素処理を行い、原料合金を水素粉砕した。さらに、冷却後にふるいを用いて425μm以下の粒度の粉末とした。なお、水素粉砕から後述する焼結工程までは、常に酸素濃度200ppm未満の低酸素雰囲気とした。
【0079】
次いで、水素粉砕後の原料合金の粉末に対し、質量比で0.1%のオレイン酸アミドを粉砕助剤として添加し、混合した。
【0080】
次いで、衝突板式のジェットミル装置を用いて窒素気流中で微粉砕し、平均粒径が3.9〜4.2μmである微粉を得た。なお、前記平均粒径は、レーザ回折式の粒度分布計で測定した平均粒径D50である。
【0081】
得られた微粉の組成は蛍光X線の酸化物法で評価した。B(ホウ素)のみICPで評価した。各試料における微粉の組成が表1、表2の通りであることを確認した。前記微粉の組成と最終的に得られる磁石組成とは実質的に一致する。
【0082】
なお、表1、表2に記載していない元素では、O、N、Cの他、H、Si、Ca、La、Ce、Cr等が検出される場合がある。Siは主にフェロボロン原料および合金溶解時のるつぼから混入する。Ca、La、Ceは希土類の原料から混入する。また、Crは電解鉄から混入する可能性がある。
【0083】
得られた微粉を磁界中で成形して成形体を作製した。このときの印加磁場は1200kA/mの静磁界である。また、成形時の加圧力は98MPaとした。なお、磁界印加方向と加圧方向とを直交させるようにした。この時点での成型体の密度を測定したところ、全ての成型体の密度が4.10〜4.25Mg/mの範囲内であった。
【0084】
次に、前記成形体を焼結し、希土類焼結磁石基材(以下、単に基材ともいう)を得た。焼結条件は、組成等により最適条件が異なるが、1040〜1100℃の範囲内で4時間保持とした。焼結雰囲気は真空中とした。このとき焼結密度は7.51〜7.55Mg/mの範囲にあった。その後、Ar雰囲気、大気圧中で、第一時効温度T1=850℃で1時間の第二時効処理を行い、さらに、第二時効温度T2=520℃で1時間の第二時効処理を行った。
【0085】
その後、前記基材をバーチカルにより14mm×10mm×11mmに加工し、BHトレーサーで磁気特性の評価を行った。なお、測定前に4000kA/mのパルス磁場により着磁を行った。結果を表1、表2に記す。
【0086】
残留磁束密度Brおよび保磁力HcJは総合的に評価した。具体的には、表1、表2に記載した全実施例および比較例をBr−HcJマップ(縦軸にBr、横軸にHcJをとったグラフ)にプロットした。Br−HcJマップで右上側にある試料ほどBrおよびHcJが良好である。表1、表2より作成したBr−HcJマップが図1であり、図1の試料の多い箇所を拡大したBr−HcJマップが図2である。表1、表2では、BrおよびHcJが良好な試料を○、良好でない試料を×とした。なお、図1図2では、全ての実施例においてBrおよびHcJが良好であることを明確にするため、BrおよびHcJが良好であり、ΔBr、ΔHcJ、耐食性、または角型比が良好ではない比較例(比較例1、3a、6、9)を記載していない。
【0087】
本実施例では、角型比は97%以上を良好としている。表1では、実施例2およびZrを実施例2から変化させている実施例24a、24〜27および比較例8、9のみ角型比を記載している。これは、Zr量以外は角型比への影響が小さく、Zr量が実施例2と同量であるその他の試料の角型比は実施例2と同等程度に良好であるためである。
【0088】
また、各試料に対し、耐食性試験を行った。耐食性試験は、飽和蒸気圧下におけるPCT試験(プレッシャークッカー試験:Pressure Cooker Test)により実施した。具体的には、R−T−B系焼結磁石を2気圧、100%RHの環境下に1000時間おいて、試験前後での質量変化を測定した。質量変化が3mg/cm以下である場合に耐食性が良好であると判断とした。結果を表1、表2に記す。耐食性が良好な試料を○、耐食性が良好ではない試料を×とした。
【0089】
(Tb拡散)
さらに、前記した工程で得られた焼結体を、磁化容易軸方向厚み4.2mmに加工した。そして、エタノール100質量%に対し硝酸3質量%とした硝酸とエタノールとの混合溶液に3分間浸漬させた後、エタノールに1分間浸漬する処理を2回行い、焼結体のエッチング処理とした。次いで、エッチング処理後の基材の全面に対し、TbH粒子(平均粒径D50=10.0μm)をエタノールに分散させたスラリーを、磁石の質量に対するTbの質量比が0.6質量%となるように塗布した。
【0090】
前記スラリーを塗布後に大気圧でArをフローしながら930℃、18時間の拡散処理を実施し、続いて520℃、4時間の熱処理を施した。
【0091】
前記熱処理後の基材の表面を各面あたり0.1mm削り落とした後に、BHトレーサーで磁気特性の評価を行った。前記基材の厚みが薄いため、前記基材を3枚重ねして評価した。そして、拡散前からの変化幅を算出した。結果を表1、表2に記す。なお、実験例1では、Tb拡散による残留磁束密度の低下幅、すなわち、ΔBrの絶対値が10mT以下である場合を良好とした。Tb拡散による保磁力の変化幅ΔHcJはΔHcJ≧600kA/mを良好とした。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1、表2、図1図2より、全ての実施例はTb拡散前の残留磁束密度Br、保磁力HcJおよび耐食性が良好であった。また、全ての実施例は角型比も良好であった。さらに、全ての実施例はTb拡散による残留磁束密度Brの低下幅が小さく、保磁力HcJの増加幅が大きかった。これに対し、全ての比較例はTb拡散前のBrおよびHcJ、Tb拡散前の角型比、Tb拡散による残留磁束密度Brの低下幅、Tb拡散による保磁力HcJの増加幅、耐食性のいずれか一つ以上が良好ではなかった。
【0095】
例えば、実施例2と比較例4とを比較したグラフが図3である。図3はTb拡散前の磁気特性からTb拡散後の磁気特性へと矢印を引いたグラフである。グラフより、実施例2は比較例4と比べてTb拡散前の磁気特性がすぐれており、Tb拡散後の残留磁束密度Brの低下幅が小さく、保磁力HcJの増加幅が多いことが明確である。
【0096】
(実験例2)
拡散条件を変化させて拡散試験を行った。実験例2のために、実施例の焼結体として基材Aを、比較例の焼結体として基材a、bを作成した。各基材の組成を表3に記す。各基材の作成方法は実験例1と同様である。
【0097】
【表3】
【0098】
表3より、基材Aおよび基材aはTb拡散前の残留磁束密度Br、保磁力HcJおよび耐食性が良好であった。これに対し、基材bはTb拡散前の残留磁束密度Brおよび保磁力HcJが良好ではなかった。
【0099】
さらに、基材A、a、bに対してTbH粒子を含むスラリーを、磁石の質量に対するTbの質量比が0.3質量%となるように塗布し、拡散条件を変化させてTb拡散を実施し、残留磁束密度Brおよび保磁力HcJの変化を測定した結果が表4である。さらに、TbH粒子を含むスラリーを、磁石の質量に対するTbの質量比が0.6質量%となるように塗布し、拡散条件を変化させてTb拡散を実施した結果が表5である。
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
表4、表5より、スラリーの塗布量、拡散時間および拡散温度を変化させても、基材Aを用いた実施例は基材a、基材bを用いた比較例と比べて、Tb拡散による残留磁束密度Brの低下幅が小さく、保磁力HcJの増加幅が大きかった。
【0103】
(実験例3)
実施例2および比較例1について、第二時効温度T2を変化させて、基材の特性評価を行った。結果を表6、図4に記す。
【0104】
【表6】
【0105】
表6、図4より、Al等の組成が本発明の範囲内である実施例2は、Alの含有量が少なすぎる比較例1と比較して、第二時効温度T2の変化に対する特性変化(HcJ変化)が小さかった。
【0106】
(実験例4)
実施例2および比較例1のR−T−B系焼結磁石に対して粒界拡散を行う際の拡散温度を変化させ、粒界拡散前後での残留磁束密度Brおよび保磁力HcJの変化幅(ΔBr、ΔHcJ)を評価した。結果を表7、図5図6に記す。
【0107】
【表7】
【0108】
表7、図5図6より、Al等の組成が本発明の範囲内である実施例2は、Alの含有量が少なすぎる比較例1と比較して、拡散温度の変化に対するΔBr、ΔHcJの変化が小さかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6