【文献】
AMINEH R. K. et al.,A Space Mapping Methodology for Defect Characterization From Magnetic Flux Leakage Measurements,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS.,2008年 9月 3日,VOL.44, NO.8, AUGUST 2008,pp. 2058-2065,DOI:http://dx.doi.org/10.1109/TMAG.2008.923228
【文献】
AHMAD KHODAYARI-TOSTAMABAD et al.,Machine Learning Techniques for the Analysis of Magnetic Flux Leakage Images in Pipeline Inspection,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,2009年 7月21日,Vol.45, No.8, AUGUST 2009,pp. 3073-3084,DOI:http://dx.doi.org/10.1109/TMAG.2009.2020160
【文献】
関原 謙介,生体磁場計測による磁場源の画像化,光学,1991年11月,第20巻第11号,pp. 718(14)-723(19)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る減肉検出システム10の構成を示すブロック図である。減肉検出システム10は、プラント100内に敷設された金属配管(監視対象配管110と称する)の減肉検出を行なうシステムである。本実施形態では、金属配管を減肉検出の対象例として説明するが、減肉検出システム10は、金属配管に限られず、例えば、蒸留塔や反応装置等の金属設備を減肉検出の対象とすることができる。
【0017】
本図に示すように、減肉検出システム10は、プラント100の監視対象配管110近傍に配置される電流印加装置120、磁界計測装置130と、制御用ネットワーク200に接続された計測管理装置210とを備えている。
【0018】
電流印加装置120と磁界計測装置130は、無線通信機能を備えている。また、計測管理装置210は、制御用ネットワーク200を介して無線センサネットワークゲートウェイ220と接続している。これにより、計測管理装置210、電流印加装置120、磁界計測装置130は、無線センサネットワーク280により相互に無線通信を行なえるようになっている。ただし、各装置間の通信は有線で行なうようにしてもよい。
【0019】
無線センサネットワーク280は、ISA100.11aやWirelessHARTといった産業用無線センサネットワークや、IEEE802.11やIEEE802.15.4のような汎用の無線ネットワークを用いることができる。
【0020】
図2に示すように、本実施形態の減肉検出システム10では、監視対象配管110の金属表面に設置された一対の電極111を介して、電流印加装置120が監視対象配管110の金属表面に交流電流を印加する。磁界計測装置130は、監視対象配管110近傍に配置され、磁界分布を計測する。
【0021】
監視対象配管110に印加された電流は、金属面の持つ抵抗分布にしたがった電流密度で流れ、磁界を発生させる。この際に、監視対象配管110に局部腐食等による減肉があれば、その付近の抵抗が変化するため、電流密度分布が変化し、磁界分布も変化する。磁界分布の変化から減肉分布、すなわち、減肉の位置、形状、深さを推定する方法については後述する。
【0022】
図3は、電流印加装置120の構成例を示すブロック図である。本図に示すように、電流印加装置120は、演算部121、信号発生部122、電流制御部123、記憶部124、磁界計測装置同期部125、無線通信部126を備えている。
【0023】
演算部121は、計測管理装置210から送られる設定情報に基づいて、印加する電流の電流値、周波数等の設定処理等を行なう。信号発生部122は、演算部121の設定にしたがって印加する電流波形を生成する。電流制御部123は、信号発生部122が生成した電流波形にしたがって印加電流を制御する。記憶部124は、電流の設定値等の設定情報を記憶する。磁界計測装置同期部125は、磁界計測装置130との同期処理を行なう。無線通信部126は、無線センサネットワーク280へ接続処理を行なう。
【0024】
一般に磁界の計測は、地磁気をはじめとする環境磁界の影響を受ける。このため、電流印加装置120が印加する電流は、例えば、商用周波数の50Hzあるいは60Hzの整数倍から離れた周波数や、素数となる周波数等の信号選択性のよい周波数とすることが望ましい。
【0025】
図4は、磁界計測装置130の構成例を示すブロック図である。本図に示すように、磁界計測装置130は、磁気センサアレイ131A、演算部132、センサ切換部133、信号変換部134、記憶部135、電流印加装置同期部136、無線通信部137を備えている。
【0026】
磁気センサアレイ131Aは、磁束密度を検出する磁気センサ131をアレイ化して構成したものであり、本図に示すように、監視対象配管110に取り付ける。これにより、監視対象配管110表面の磁界分布(磁束密度分布)を得ることができる。磁気センサ131は、小型かつ低消費電力なセンサであるため、大面積に対して高密度で実装することができる。そのため、高い面分解能で磁界分布を計測することができる。
【0027】
磁気センサアレイ131Aは、監視対象配管110に常時取り付けておくようにしてもよい。これにより、計測毎に監視対象配管110に磁気センサを取り付ける手間を省くことができ、継続的に計測することができる。
【0028】
センサ切換部133は、磁気センサアレイ131Aを構成する磁気センサ131から計測値取得対象の磁気センサ131を切り換える。すなわち、本実施形態では、各磁気センサから順次計測値を取得するようにしている。計測値の取得方法には、本実施形態のように各磁気センサ131から順次計測値を取得する方法と、一斉に計測値を取得する方法があるが、一般に腐食による肉厚変化は緩やかであり、回路の部品コストを低減できるため、本実施形態では順次計測値を取得する方法を示した。もちろん、測定時間を短縮するために、各磁気センサ131から一斉に計測値を取得するようにしてもよい。
【0029】
信号変換部134は、計測値をデジタル信号に変換する。記憶部135は、デジタル信号に変換した計測値や計測のための設定情報等を記憶する。演算部132は、計測値のノイズ除去や実効値への換算処理、設定情報の処理などを行なう。具体的なノイズ除去手法については後述する。電流印加装置同期部136は、電流印加装置120との同期処理を行なう。無線通信部137は、無線センサネットワーク280へ接続処理を行なう。
【0030】
この構成により、磁界計測装置130は、電流印加装置120が印加する交流電流により発生した交流磁界を磁気センサアレイ131Aで計測する。そして、計測結果に対して、後述するノイズ除去処理を施してから、実効値への変換処理を行なう。磁界計測装置130は、例えば、アレイ化した磁気センサ131に対応した実効値の配列を、無線センサネットワーク280を介して計測管理装置210に計測結果として送信する。
【0031】
本実施形態では、電流印加装置120と磁界計測装置130とを分離して独立した装置としている。この第1の理由は、石油・石油化学産業等の防爆エリアで動作させることを想定しているためである。電流印加装置120は、磁界計測装置130に比較して大きな電力を扱う必要があり、装置を分離することで、回路構成を単純化でき、故障時等に考慮すべき回路を限定することができるようになる。
【0032】
第2の理由は、それぞれの持つカバレッジの違いである。電流印加装置120は、基本的に電極111を設置した間の領域をカバーすることができ、比較的大きな領域を容易にカバーすることが可能である。
【0033】
一方、磁界計測装置130は、アレイ化した磁気センサ131がカバーする範囲の磁界が計測対象となるため、計測領域を拡張するには磁気センサアレイ131Aの磁気センサ数を増やす必要があるため、領域拡張が簡易ではない。
【0034】
そこで、装置を分離して、1つの電流印加装置120と複数の磁界計測装置130を動作させることで、電流印加装置120を増やすことなく、計測領域を容易に拡張することが可能となる。もちろん、筐体コストや省スペース化のために、電流印加装置120と磁界計測装置130とが一体となった装置でもよい。
【0035】
磁界を計測する際には、磁界を計測するタイミングで電流を印加するように、電流印加装置120と磁界計測装置130とが同期して動作することが必要となる。同期の方法としては、電気回路を分離しているため赤外線のような光による通信でトリガーをかける方法や、無線センサネットワーク280を介した同期方法が考えられる。これらの処理を行なうため、電流印加装置120には、磁界計測装置同期部125が備えられ、磁界計測装置130には、電流印加装置同期部136が備えられている。
【0036】
具体的には、一方を主、他方を従として、一方(例えば、磁界計測装置130)に開始時刻と動作時間を設定し、それを主として同期させる方法が考えられる。また、計測管理装置210が無線センサネットワーク280を介して同期させた上で、消費電力を効率化するために局所的に同期部を介して電流印加装置120と磁界計測装置130とが同期してもよい。本実施形態では、計測管理装置210が、電流印加装置120と磁界計測装置130の両方に、それぞれ開始時刻と動作時間を設定情報として送信する。このため、磁界計測装置同期部125、電流印加装置同期部136を省いてもよい。
【0037】
図5は、計測管理装置210の構成例を示すブロック図である。本図に示すように計測管理装置210は、演算部211、通信部212、記憶部213、入出力部214を備えている。
【0038】
通信部212は、制御用ネットワーク200を介した通信処理を行なう。記憶部213は、プラント100に設置された磁界計測装置130と監視対象配管110との相対位置や減肉検出システム10における各種設定、磁界計測装置130から無線センサネットワークを介して受信した実効値の配列、演算部211の演算結果等を記憶する。
【0039】
演算部211は、磁界計測装置130から受信した実効値の配列に基づいて監視対象配管110に生じている減肉分布、すなわち減肉の位置と形状と深さを推定する処理と、減肉分布を視覚化する処理と、減肉状態に基づいて次回の計測タイミングを電流印加装置120と磁界計測装置130とに設定する計測設定処理とを行なう。入出力部214は、ユーザの操作を受け付けたり、演算部211の処理結果である減肉分布を視覚化した情報を出力する処理を行なう。減肉分布の視覚化は三次元マッピング、カラーマッピング等とすることができる。なお、ここでは、計測管理装置210とユーザの操作を受ける入出力部214を一体としたが、別途入出力装置を用意し、例えば制御用ネットワーク200を用いて接続してもよい。
【0040】
減肉分布の視覚化として三次元マッピングを行なう場合には、例えば、算出された減肉の形状と大きさを監視対象配管110の形状にマッピングする。計測設定処理では、減肉の形状と大きさから肉厚方向の深さと、断面欠損率を計算する。そして、前回計測した減肉の深さおよび断面欠損率と比較することで、単位時間あたりの変化率を計算する。さらに、それぞれを最小許容肉厚および最大許容せん断応力と比較することで時間的なマージンを計算し、マージンの小さな方をもとに次の計測タイミングを電流印加装置120と磁界計測装置130に設定する。
【0041】
次に、本実施形態の減肉検出システム10において、磁界分布の変化から減肉分布、すなわち減肉の位置、形状、深さを推定する原理について説明する。減肉検出システム10では、本願発明者が新たに開発した本発明に関わる仮想渦電流法を用いて減肉分布推定を行なう。
【0042】
ここで、仮想渦電流とは、減肉がある場合の電流分布から減肉がない場合の電流分布を引いたときに得られる、減肉の位置、形状、深さに対応した渦状の仮想的な電流である。本発明は、仮想渦電流が減肉との相関が高いことを見出したことに基づいて成されたものである。
【0043】
例えば、監視対象配管110の電極111間に定電流を流す場合に、
図6(a)に示す、減肉がない状態の監視対象配管110の電流分布と、
図6(b)に示す、減肉が発生した監視対象配管110の電流分布との差分を考える。両者とも電極111からの電流の流入量は等しいため、差として得られる仮想的な電流は、
図6(c)に示すように、電極111への流出入はなく、渦状の電流になる。本発明では、この仮想的な渦状の電流を、仮想渦電流と称している。
【0044】
数値シミュレーションの結果、この仮想渦電流は、減肉との相関が高いことが判明した。具体的には、仮想渦電流の局所的な電流密度がその部分の減肉量を表し、仮想渦電流の渦の巻き方が減肉の形状を表すことが見出された。すなわち、仮想渦電流を求めることで、減肉の位置、形状、深さを推定できることになる。
【0045】
このため、本実施形態では、あらかじめ減肉の無い状態の監視対象配管110の磁界分布を実験やシミュレーション等により求めておき、検査時に得られた磁界分布との差分を計算する。この磁界分布の差分は、仮想渦電流によって生じた磁界分布と捉えることができる。したがって、磁界分布の差分を仮想渦電流に変換し、得られた仮想電流から減肉分布を推定する。
【0046】
これらの処理を行なうため、計測管理装置210の演算部211、記憶部213には、
図7に示すような機能ブロックが形成される。すなわち、記憶部213に、正方格子パラメータ格納部311、測定磁界格納部312、リファレンス磁界格納部313、磁界電流変換行列格納部314、電流制約行列格納部315、正則化パラメータ格納部316、減肉比例係数格納部317が形成され、演算部211に、差分計算部321、2次計画問題求解部322、減肉分布計算部323が形成される。
【0047】
正方格子パラメータ格納部311は、2次計画問題求解部322で用いる有向正方格子のサイズを格納する。
【0048】
ここで、有向正方格子について説明する。有向正方格子は、監視対象配管110を仮想的に流れる電流をモデル化するために用いられ、
図8に示すようなM×N個のノードvと2MN−M−N個のエッジeで定められる有向グラフである。電流は、x軸あるいはy軸に平行な格子状のエッジeを経路として流れるものとして取り扱う。なお、本図では、煩雑さを避けるため、x軸方向のエッジeのみにe
1〜e
MN−Mの識別子を付しているが、y軸方向のエッジeに対してもe
MN−M+1〜e
2MN−M−Nの識別子が付される。また、隣接するノードvのx軸方向の距離をw
xとし、y軸方向の距離をw
yとする。
【0049】
有向正方格子のノード数M×Nを大きくすることにより、電流経路の分解能が高まり、渦電流の近似精度が向上するが、その分、計算量が増えることになる。以下では、正方格子パラメータ格納部311に格納されたサイズで定められる有向正方格子をグラフG(V,E)と称する。Vは、ノードvの全体集合であり、Eは、エッジeの全体集合である。
【0050】
また、エッジe
iを流れる電流をx
iと称する。このため、求解対象である監視対象配管110の仮想電流分布は、x=(x
1、x
2、…、x
2MN−M−N)と表すことができる。
【0051】
測定磁界格納部312は、検査時に磁界計測装置130によって測定された測定磁界分布(実効値の配列)を格納する。リファレンス磁界格納部313は、減肉がない状態の監視対象配管110の磁界分布(リファレンス磁界分布)を格納する。減肉がない状態の磁界分布は、実測やシミュレーション等により得ることができる。
【0052】
磁界電流変換行列格納部314は、磁界分布から電流分布を推定する際に用いる磁界電流変換行列を格納する。ここで、磁界分布は磁界計測装置130によって計測される磁界分布であり、電流分布は求解対象である監視対象配管110の仮想電流分布xである。
【0053】
磁界電流変換行列をU(u
ij)とする。ただし、u
ijは、磁界電流変換行列Uのi行j列であり、エッジjに流れる電流と、その電流がi番目の磁気センサ131に及ぼす磁束密度とを関係付ける比例係数である。すなわち、
エッジe
jの電流x
jが磁気センサiに及ぼす磁束密度=u
ij×x
j
となる。磁気センサiが測定する磁束密度は、各エッジに流れる電流が及ぼす磁束密度の総和であるため、
磁気センサiが測定する磁束密度=Σ(u
ij×x
j)
となる。
【0054】
u
ijは、電流によって作られる磁界の大きさを示すビオ・サバールの法則に従うため、磁気センサアレイ131Aの各磁気センサ131の座標と、監視対象配管110における有向正方格子の座標とに基づいて、[数1]から求めることができる。
【数1】
電流制約行列格納部315は、有向正方格子の接続行列であり、エッジを流れる電流を表現する行列を格納する。エッジを流れる電流は、キルヒホッフの法則を満たすことが条件となるため、各ノードについて流入する電流と流出する電流とを表現する必要がある。電流制約行列K=(k
ij)は、[数2]で表すことができる。
【数2】
正則化パラメータ格納部316は、2次計画問題求解部322が利用する正則化パラメータλを格納する。正則化パラメータλについては後述する。減肉比例係数格納部317は、算出された仮想渦電流から減肉分布を計算する際に用いる比例係数αを格納する。比例係数αについては後述する。
【0055】
差分計算部321は、測定磁界格納部312に格納された測定磁界分布と、リファレンス磁界格納部313に格納されたリファレンス磁界分布との差分である差分磁界分布bを計算する。
【0056】
2次計画問題求解部322は、差分計算部321が算出した差分磁界分布bから、磁界電流変換行列格納部314に格納された磁界電流変換行列Uと、電流制約行列格納部315に格納された電流制約行列Kと、正則化パラメータ格納部316に格納された正則化パラメータλとを用いて、仮想電流分布xを算出する。
【0057】
差分磁界分布から仮想電流分布xの算出は、[数3]に示す2次計画問題Pを解くことにより行なわれる。
【数3】
ここで、制約条件のKx=0は、各ノードについて流入する電流と流出電流が等しくなるというキルヒホッフの法則を満たすための条件である。
【0058】
この制約条件の下で、仮想電流分布xにより生じる磁界分布Uxと差分磁界分布bとの差が最小となるような仮想電流分布xを求めるのが、2次計画問題Pである。なお、実装上は、有向正方格子の密度と比較して磁気センサ131の配置密度は圧倒的に小さいため、最適解を一意に決定できなくなる。このため、生じる渦電流が極力少ないものを解として選択するように、正則化パラメータλを用いた項を正則化項として評価式に加えている。
【0059】
2次計画問題Pの解xは、[数4]で求めることができる。[数4]において、Sは、Kの核空間の表現行列である。ただし、他の手法により解xを求めてもよい。例えば、一般の2次計画問題は、インフィージブル主双対内点法で解かれる場合が多い。
【数4】
減肉分布計算部323は、仮想渦電流を示す仮想電流分布xから減肉分布を計算する。上述のように、仮想渦電流の局所的な電流密度がその部分の減肉量を表し、仮想渦電流の渦の巻き方が減肉の形状を表すため、減肉分布計算部323は、仮想電流分布xを有向正方格子に対応した行列に変換するとともに、減肉比例係数αを乗じて減肉分布行列Dを作成し、減肉の位置、形状、深さに変換する。
【0060】
減肉比例係数αは、仮想渦電流法を数値シミュレーションで取得した磁界に対して行ない、その結果がシミュレーションの減肉分布と一致するように定めておき、減肉比例係数格納部317に格納しておく。
【0061】
減肉分布行列Dで示される減肉の位置、形状、深さは、三次元マッピング、カラーマップ等で表示することにより、可視化することができる。
【0062】
このように仮想渦電流を利用した減肉分布推定は、パターンマッチングをベースとした減肉検出手法と違って特定の減肉パターンに依存しないため、特定の減肉パターンを事前に用意する必要はなく、多様な減肉形状に対応した減肉推定を行なうことができる。
【0063】
次に、本実施形態の減肉検出システム10の動作について説明する。まず、実際の運用に先立つ準備フェーズについて
図9のフロー図を参照して説明する。準備フェーズでは、監視対象配管110の三次元形状について、3Dスキャナ技術による測定や製造時の3D−CADデータを利用して取得する(S101)。
【0064】
そして、監視対象配管110の形状に対応した磁気センサアレイ131A取り付け部材を作成する(S102)。3Dスキャナを用いて計測した場合には、監視対象配管110の歪み等にも対応した磁気センサアレイ131A取り付け部材を作成することができる。
【0065】
なお、取り付け部材は、異金属接触による監視対象配管110への影響を避けるため、脚等を用いた点接触で取り付ける形態が好ましいが、磁気センサ131と監視対象配管110との位置関係が長期間変化しないような堅牢性を備えさせるものとする。
【0066】
作成した取り付け部材を用いて、監視対象配管110の周囲に磁気センサアレイ131Aを設置して、磁界計測装置130に接続するとともに、電極111を表面に取り付け、電流印加装置120に接続する(S103)。
【0067】
そして、設置した磁気センサアレイ131Aの各磁気センサ131について監視対象配管110との相対位置関係を計測し、記憶部213に記録する(S104)。監視対象配管110と磁気センサ131との位置関係が望ましくない場合には、取り付け部材の修正や取り付け調整等を行なう。
【0068】
磁気センサアレイ131Aを監視対象配管110に取り付けると、有向正方格子のサイズを決定し、正方格子パラメータ格納部311に格納する(S105)。有向正方格子のサイズには、ノード数MN、ノード間距離w
x、w
yが含まれるものとする。ノード数MNは、上述のように推定精度と演算時間とを考慮して定められる。
【0069】
そして、有向正方格子のサイズ、各磁気センサ131の位置に基づいて、磁界電流変換行列Uを計算し、磁界電流変換行列格納部314に格納する(S106)
また、有向正方格子のサイズに基づいて電流制約行列Kを作成し、電流制約行列格納部315に格納する(S107)。
【0070】
減肉比例係数αを磁界シミュレーションにより計算し、減肉比例係数格納部317に格納する(S108)。上述のように、減肉比例係数αは、仮想渦電流法を数値シミュレーションで取得した磁界に対して行ない、その結果がシミュレーションの減肉分布と一致するように定める。
【0071】
2次計画問題Pの正則化パラメータλを決定し、正方格子パラメータ格納部311に格納する(S109)。
【0072】
減肉の無い監視対象配管110に測定用定電流を流し、リファレンス磁界を計測し、リファレンス磁界格納部313に格納する(S110)。シミュレーションにより得られた磁界分布をリファレンス磁界としてもよい。なお、処理(S106〜S110)については、処理の順序は問わない。
【0073】
次に、減肉検出システム10の運用時の動作の概要について
図10のフロー図を参照して説明する。所定の計測タイミングになると(S201:Yes)、電流印加装置120が所定の測定用定電流を印加し(S202)、磁界計測装置130が磁界分布を計測する(S203)。
【0074】
磁界計測装置130の演算部132は、計測値からノイズを除去した上で、実効値を取得する(S204)。実効値は、磁気センサアレイ131に対応した配列で表すことができ、これにより、監視対象配管110表面の磁界分布を得ることができる。
【0075】
配列で表された実効値は計測管理装置210に送られ、計測管理装置210の演算部211が、仮想渦電流法により減肉分布を算出する(S205)。そして、減肉分布の変化等に基づいて次回の計測タイミングを設定する(S206)。
【0076】
また、演算部211は、減肉の形状と深さについて、その減肉の位置を元に視覚化を行なう(S207)。視覚化は、監視対象配管110へのカラーマッピングや三次元マッピング等を行なう。減肉の形状と大きさ、位置やマッピング結果は、記憶部213に記録し、必要に応じて表示画面等に出力する(S208)。
【0077】
次に、各装置の具体的な動作について説明する。まず、電流印加装置120の動作について
図11のフロー図を参照して説明する。電流印加装置120は、起動すると、無線通信部126により無線センサネットワーク280を介して計測管理装置210に設定情報を要求する(S301)。
【0078】
この応答として計測管理装置210から設定情報を受信し(S302)、記憶部124に記録する(S303)。設定情報には、印加する交流電流の周波数、電流値、印加開始時刻(周期)、電流印加継続時間等が含まれる。
【0079】
設定情報で示された電流印加開始時刻になると(S304:Yes)、電流の印加を開始する(S305)。このとき、電流印加を開始したことを計測管理装置210に通知するようにしてもよい。
【0080】
設定情報で示された電流印加継続時間が経過すると電流印加を終了する(S306)。このとき、電流印加を終了したことを計測管理装置210に通知するようにしてもよい。
【0081】
電流印加装置120は、さらに次の計測タイミングに関する設定情報を計測管理装置210から受信し(S307)、次の開始時刻を待つ(S304)。ただし、設定情報が停止指示であれば(S308:Yes)、停止する。
【0082】
次に、磁界計測装置130の動作について
図12のフロー図を参照して説明する。磁界計測装置130は、起動すると、無線通信部137により無線センサネットワーク280を介して計測管理装置210に設定情報を要求する(S401)。
【0083】
この応答として計測管理装置210から設定情報を受信し(S402)、記憶部135に記録する(S403)。設定情報には、計測開始時刻(周期)、1センサあたりの計測時間、電流印加装置120が印加する交流電流の周波数等が含まれる。
【0084】
設定情報で示された計測開始時刻になると(S404:Yes)、計測を行なう磁気センサ131を切り換えて(S405)、磁界を計測する(S406)。このとき、磁界計測を開始したことを計測管理装置210に通知するようにしてもよい。
【0085】
設定情報で示された1磁気センサあたりの計測時間が経過すると、その磁気センサ131での計測を終了し、演算部132が、ノイズ除去、実効値算出処理を行なう(S407)。この処理を、未計測の磁気センサ131があれば(S408:No)、磁気センサ131を切り換えて(S405)、計測処理を繰り返す。
【0086】
すべての磁気センサ131での計測が終了すると(S408:Yes)、実効値を磁気センサアレイ131に対応した配列形式で計測管理装置210に送信する(S409)。
【0087】
磁界計測装置130は、さらに次の計測タイミングに関する設定情報を計測管理装置210から受信し(S410)、次の開始時刻を待つ(S404)。ただし、設定情報が停止指示であれば(S411:Yes)、停止する。
【0088】
ここで、磁界計測装置130の演算部132が(S407)で行なうノイズ除去処理について説明する。磁界計測装置130が計測する交流磁界信号には一般にノイズが含まれることから、ノイズを除去した上で実効値とすることが必要となる。ノイズ除去の方法としては、次のような4つの方法が考えられる。
【0089】
ノイズ除去第1の方法:計測した交流信号を離散フーリエ変換やZ変換により周波数空間に変換し、その上で電流印加装置120が印加した周波数を切り出す方法である。
【0090】
ノイズ除去第2の方法:計測した交流信号を離散フーリエ変換やZ変換により周波数空間に変換するとともに、高次のノイズを打ち消すために平滑化を行い、[数5]にしたがって回帰し、回帰パラメータk
0のみを取り出す方法である。本方法は、ノイズを除去したい信号列の瞬時値を用いるため、信号をメモリ上に保持する必要がなく、記憶部135のRAMの使用量を削減することが可能となる。
【数5】
より具体的に説明すると、ノイズ除去第2の方法は、離散フーリエ変換を利用したノイズ除去第1の方法を本発明の目的に沿うように改良したものである。改良のポイントは次の2点である。
【0092】
・指定した周波数成分しか取り出せず、それ以外の周波数に関する情報は一切得られない。
【0093】
ノイズ除去第1の方法では、切り出す周波数の分解能を高くするためには測定時間を長くせざるを得ないが、減肉検出システム10では、電流印加装置120や磁界計測装置130の消費電力の観点から測定時間を長くすることは好ましくない。逆に特定の周波数成分だけを計算すればよく、それ以外の周波数成分を算出する必要はない。ノイズ除去第2の方法は、周波数分解能と測定時間が両立するように、ノイズ除去第1の方法を改良したものである。
【0094】
ノイズ除去第2の方法の原理について説明する。角周波数ω
0付近にだけ周波数成分を持つ信号f(t)は、[数6]と記述できる。ただし、ω
i≒ω
0とする。
【数6】
このとき、求めたい値は角振動数ω
0に対応する振幅w
0である。信号f(t)の区間0≦t≦Tにおけるフーリエ積分は、[数7]で計算することができる。
【数7】
F[f](ω
0)はT→∞の極限においてω
0に収束する。ノイズ除去第1の方法はこの積分値を算出する手法である。しかし、上式が[数8]と展開できることに注意すれば、
【数8】
次の2つの手順により、T→∞の極限を取ることなく、F[f](ω
0)をω
0に収束させることができる。
【0095】
・平均化を施すことで振動項をキャンセルする。
【0096】
・回帰式[数5]を用いて回帰し、パラメータk
0のみを取り出す。
【0097】
この手順をフローチャート化したものが
図13である。すなわち、磁界計測結果のデジタル値を取得し(S501)、フーリエ積分を行なう(S502)。そして、平滑化を行なって(S503)、回帰演算を行ない(S504)、回帰結果を出力する(S505)。なお、前提とした条件ω
i≒ω
0が満たされない場合は、角振動数ω
0に対応する成分は0に等しいことを意味するから、平滑化や回帰を行うまでもなく、ω
0=0が得られる。
【0098】
ノイズ除去第3の方法:ノイズの主成分は、磁界計測装置130の回路が発生するノイズであることから、ノイズを正規分布と仮定し、カルマンフィルタを適用する方法である。
【0099】
ノイズ除去第4の方法:ノイズの主成分は、磁界計測装置130の回路が発生するノイズであることから、対象とする系を線形と仮定し、粒子フィルタ(パーティクルフィルタ)を適用する方法である。
【0100】
磁界計測装置130は、磁気センサアレイ131の各磁気センサが計測した交流信号に対して、上記のいずれかのノイズ除去を行なった上で交流信号の実効値を計算し、無線センサネットワーク280を介して計測管理装置210に送信する。ただし、他のノイズ除去方法を採用してもよい。
【0101】
次に、計測管理装置210の動作について
図14のフロー図を参照して説明する。計測管理装置210は、記憶部213に記録された装置配置に関する各種情報、例えば、監視対象配管110に設置した電極111、磁気センサアレイ131の各磁気センサそれぞれの相対位置関係と監視対象配管110の形状等を装置配置情報として参照する(S601)。
【0102】
他装置から設定情報の要求を受信すると(S602)、あらかじめ記憶部213に記録しておいた設定情報を送信する(S603)。具体的には、電流印加装置120から設定情報の要求を受信した場合には、印加する交流電流の周波数、電流値、印加開始時刻(周期)、電流印加継続時間等を設定情報として送信し、磁界計測装置130から設定情報の要求を受信した場合には、計測開始時刻(周期)、1磁気センサあたりの計測時間、電流印加装置120が印加する交流電流の周波数等を設定情報として送信する。
【0103】
設定情報で示した計測開始時刻になると(S604:Yes)、電流印加装置120、磁界計測装置130から開始通知を受信する(S605)。また、磁界計測装置130から測定結果である実効値を配列形式で受信する(S606)。
【0104】
そして、計測管理装置210の演算部211が、磁界計測装置130から受信した測定磁界分布に基づいて減肉分布を算出する(S607)。
【0105】
図15は、演算部211が行なう減肉分布算出処理の具体的な手順を説明するフロー図である。まず、受信した測定磁界分布を測定磁界格納部312に格納する(S701)。
【0106】
そして、差分計算部321が、リファレンス磁界格納部313に格納されているリファレンス磁界分布と測定磁界分布との差分である差分磁界分布bを計算する(S702)。
【0107】
2次計画問題求解部322が、2次計画問題Pの求解を行ない(S703)、仮想電流分布xを算出し(S704)、減肉分布計算部323が、仮想電流分布xを減肉分布Dに変換する(S705)。
【0108】
図14の説明に戻って、計測管理装置210の演算部211は、配列形式の実効値である測定磁界分布から減肉分布を算出すると(S607)、減肉の形状と大きさの変化等に基づいて次回の計測タイミングを設定する(S608)。
【0109】
具体的には、減肉の形状と大きさから肉厚方向の深さと、断面欠損率を計算する。そして、前回計測した減肉の深さおよび断面欠損率と比較することで、単位時間あたりの変化率を計算する。さらに、それぞれを最小許容肉厚および最大許容せん断応力と比較することで時間的なマージンを計算し、マージンの小さな方をもとに次の計測タイミングを電流印加装置120と磁界計測装置130に設定する(S609)。
【0110】
さらに、演算部211は、算出された減肉分布の可視化を行なう(S610)。減肉分布の可視化は、例えば、監視対象配管110への三次元マッピングにより行なうことができる。
図16は、算出された減肉分布に基づいて行なった三次元マッピングの例を示している。
【0111】
減肉分布や三次元マッピング結果は、記憶部213に記録し、必要に応じて表示画面等に出力する(S611)。停止指示がなければ(S612:No)、次の開始時刻を待ち(S604)、停止指示があれば(S612:Yes)、停止する。このとき、電流印加装置120、磁界計測装置130に停止の設定情報を送信する。
【0112】
ところで、本実施形態の減肉検出システム10では、計測した磁界分布を減肉分布に換算する手法の特性から、設置時や脱着時に監視対象配管110と磁界計測装置130の磁気センサアレイ131A、電流印加装置120の電極111の位置を管理し、相対的な位置を管理する必要がある。なぜなら、磁束密度は発生源から計測点までの距離に応じて変化し、これが換算時に誤差として現れるためである。
【0113】
このため、上述のように、磁気センサアレイ131Aの取り付け部材は、監視対象配管110と点接触とし、また、堅牢性を備えることが好ましい。
【0114】
しかしながら、設備の経時変化により、磁気センサアレイ131Aと監視対象配管110との相対位置がずれたり、また、実際に取り付けられた場所がシステム計算上の位置からずれている場合もある。このようなずれが生じた場合には、磁気センサ131の計測値をずれ量に応じて補正することで、誤差の発生を防ぐことができる。
【0115】
補正の方法は、例えば、x軸方向、y軸方向(監視対象配管110の表面と平行な面)のずれであれば、本来の磁気センサ131の位置と、実際の磁気センサ131の位置とのずれ量に応じて、隣接する磁気センサ131の測定値を利用した線形補完やバイキュービック補完等の既存技術を用いて各磁気センサ131の測定値を補正することが考えられる。
【0116】
また、z軸方向(監視対象配管110の表面と垂直方向)のずれであれば、測定値は距離の2乗に反比例するため、例えば、実際の磁気センサ131が本来の位置よりも1.5倍離れていれば、測定値を1.5の2乗倍することで補正を行なうことができる。
【0117】
磁気センサ131の実際の位置を取得する方法としては、3Dスキャナを用いる方法が考えられるが、z軸方向の位置であれば、磁気センサ131の測定値を用いて取得することもできる。
【0118】
これは、導体に流れる交流電流は周波数の増加と共に導体表面に集中し、内部の電流密度が減るという表皮効果を利用するものである。一般に、電流密度が導体表面の1/e倍になる距離を表皮深さと呼び、周波数が定まればその導体における表皮深さを特定することができる。
【0119】
具体的には、
図17(a)に示すように、周波数f1の交流電流を監視対象配管110に流したときに磁気センサ131で測定される磁束密度をH1とする。このときの表皮深さδ1は既知である。次に、
図17(b)に示すように、周波数f1よりも高い周波数f2の交流電流を監視対象配管110に流したときに磁気センサ131で測定される磁束密度をH2とする。このときの表皮深さδ2は既知であり、表皮深さδ1よりも浅くなる。なお、減肉発生時であっても表皮深さが減肉部分に達しない程度の表皮深さδ1となるように、周波数f1を選択する。
【0120】
ここで、監視対象配管110と磁気センサ131との距離をdとすると、[数9]が成り立つ。ただし、kは、印加した電流や監視対象配管110等によって決まる定数である。
【数9】
[数9]をdについて整理すると、kが消去された[数10]を得ることができるため、これにより磁気センサ131の監視対象配管110に対するz軸方向の位置を取得することができる。
【数10】
あるいは、
図18に示すように、磁気センサ131の上方に補助磁気センサ131bを配置することで、磁気センサ131の監視対象配管110に対するz軸方向の位置を取得することもできる。ここで、磁気センサ131と補助磁気センサ131bとの距離をrとし、この距離rは取り付け部材等により強固に保たれ、変化しないものとする。また、監視対象配管110の肉厚をtとする。
【0121】
監視対象配管110に交流電流を流し(表皮効果は考慮しなくてよい)、磁気センサ131で測定される磁束密度をH1とし、補助磁気センサ131bで測定される磁束密度をH2とすると、[数11]が成り立つ。ただし、kは、印加した電流や監視対象配管110等によって決まる定数である。
【数11】
[数11]をdについて整理すると、kが消去された[数12]を得ることができるため、これにより磁気センサ131の監視対象配管110に対するz軸方向の位置を取得することができる。
【数12】
このようにして得られた距離dが本来の距離と異なっていれば、その差に応じた補正を測定値に対して行なうことで、減肉分布推定の精度低下を防ぐことができる。
【0122】
ここでは配管とセンサの相対位置や補正係数の導出に、電流中心という概念を利用して近似的に計算を行ったため、[数9]や[数11]、補正係数はすべて距離の2乗の反比例という形になっている。これを、電流中心という概念を用いずに、例えば電流分布の精密な計算や数値シミュレーションなどを援用することで、より現実に即した補正式を導くことも可能である。