特許第6489114号(P6489114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489114
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】電子装置用筐体
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/02 20060101AFI20190318BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   H05K5/02 A
   H04R1/02 101F
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-252236(P2016-252236)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-107287(P2018-107287A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石河 宏淑
【審査官】 佐賀野 秀一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−231951(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/073298(WO,A1)
【文献】 特開2003−347757(JP,A)
【文献】 特開平07−235778(JP,A)
【文献】 特開平09−186467(JP,A)
【文献】 特開2003−296023(JP,A)
【文献】 特開2013−219224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/00− 5/06
H04R 1/00− 1/08
H04R 1/12− 1/14
H04R 1/42− 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵌入部を表面に有する筐体と、
前記嵌入部に嵌入される、前記筐体と異なる材質の部品と、
前記嵌入部を有する前記表面に貼着される弾性を有するシートと、
を、有する電子装置用筐体であって、
前記嵌入部は側壁と、前記部品を載置する載置部とを有し、
前記シートは前記表面より前記嵌入部方向に延設された延設部を有し、
前記延設部は前記載置部側に屈曲し、前記載置部に載置された前記部品と前記側壁とによって形成される間隙に配置されることを特徴とする電子装置用筐体。
【請求項2】
前記異なる材質は、前記筐体と吸湿膨張係数が異なっていることを特徴とする請求項1記載の電子装置用筐体。
【請求項3】
前記異なる材質は、前記筐体と熱膨張係数が異なっていることを特徴とする請求項1記載の電子装置用筐体。
【請求項4】
前記側壁は、屈曲した前記延設部に沿った傾斜面であることを特徴とする請求項1から3記載の電子装置用筐体。
【請求項5】
前記側壁に対向する、前記部品の端面は、屈曲した前記延設部に沿った傾斜面であることを特徴とする請求項1から4記載の電子装置用筐体。
【請求項6】
前記側壁の傾斜面は階段状であることを特徴とする請求項4記載の電子装置用筐体。
【請求項7】
前記端面の傾斜面は階段状であることを特徴とする請求項5記載の電子装置用筐体。
【請求項8】
前記シートは片面側に粘着面を有し、前記粘着面により前記表面に貼着され、前記延設部の粘着面は、粘着力を弱める処理が行われていることを特徴とする請求項1から7記載の電子装置用筐体。
【請求項9】
前記延設部は粘着力を有しないことを特徴とする請求項1から7記載の電子装置用筐体。
【請求項10】
嵌入部を表面に有する筐体と、
前記嵌入部に嵌入される、前記筐体と異なる材質の部品と、
前記嵌入部を有する前記表面に貼着される弾性を有するシートと、
を、有する電子装置用筐体の製造方法であって、
前記嵌入部は側壁と、前記部品を載置する載置部とを有し、
前記シートは前記表面より前記嵌入部方向に延設された延設部を有し、
前記部品を前記嵌入部に嵌入するステップと、
前記部品を前記載置部に載置することにより、前記延設部を前記載置部側に屈曲させ、前記載置部に載置された前記部品と前記側壁とによって形成される間隙に配置するステップと、
を、有することを特徴とする、電子装置用筐体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子装置用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子装置用筐体の材料は、金属、木材、樹脂などが用いられるが、特にスピーカーは音響特性の観点から木材が用いられることが一般的である。さらにアンプを内蔵したスピーカーの場合、木材の筐体に樹脂の操作パネルが設けられることが多い。樹脂が用いられる理由は、操作パネルにスイッチ類や端子等を設けるために、作りやすい材料であることだけでなく、筐体と異なる材料を用いてデザイン性を高めることが目的とされる場合もある。
【0003】
操作パネルは筐体に形成された嵌入部に嵌入させて固定される。木材を用いる場合、乾燥と吸湿による寸法変化の割合(吸湿膨張係数)の差を吸収するために、筐体と操作パネルとの間に、筐体表面において間隙(クリアランス)を設ける必要がある。また筐体の木材と操作パネルの樹脂とでは熱膨張係数が異なるため、熱膨張係数による寸法差を吸収するためにも、間隙を設ける必要がある。この間隙は外部から見えるため、デザイン性を損なうことが多い。そのため、間隙を目立ち難くする工夫が行われている。
【0004】
図9(a)は間隙9を隠さない場合の断面である。木材で形成される筐体1と、樹脂で形成される部品3(操作パネルに相当)との接続部近傍の断面を示す。筐体1の表面8には、デザイン性を高めるため、また木材の表面を保護するためにシート2が貼着されている。外部からは筐体1の表面8は直接見えず、シート2が見える部分となる。筐体1には部品3を嵌入するための嵌入部15が形成されている。嵌入部15は側壁5と、部品3を載置する載置部6によって構成される。部品3の端面7と筐体1の側壁5との間には、吸湿膨張係数差や熱膨張係数差を吸収するための間隙9が設けられている。
【0005】
しかし、この構造では電子装置の外側(図1の上側)から側壁5と載置部6の一部分が、直接見えてしまう。側壁5と載置部6は装飾を施されていない木口面(ザグリ端面)であることが多く、見栄えが悪くデザイン性を損ねるという問題があった。この問題を解決するには、側壁5と載置部6とにシート2を貼着する方法があるが、複雑な形状の嵌入部15にシートをきれいに貼着するには真空貼合などの技術が必要であり、専用の設備も必要であった。また側壁5と載置部6を装飾面としても、間隙9から側壁5や載置部6が見えること自体がデザイン性を損なう場合もあった。図9(a)において、シート2を表面8から部品3まで、間隙9を跨いで貼着すると、間隙9を隠すことはできるが、吸湿膨張係数差や熱膨張係数差によりシート2にしわが寄ることがあった。また場合によってはシート2が切れてしまうことがあった。
【0006】
筐体1と部品3との間の吸湿膨張係数差や熱膨張係数差を吸収する間隙9を形成し、かつ間隙9が外部から見えないように隠す技術として、図9(b)の様に部品3にフランジ部70を設ける方法がある。フランジ部70を設けることにより、筐体1と部品3との吸湿膨張係数差や熱膨張係数差による寸法差により間隙9が広がっても、フランジ部70で覆い隠されるため、側壁5と載置部6が外部から見えることはない。
【0007】
また特許文献1には、筐体(特許文献1の筐体4。この段落内で以下同様)の載置部(載置面24)と部品(パネル18)との間に、固定手段(26、28)を介してシート(加飾シート30)を挟む技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−230228公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図9(b)記載の背景技術では、フランジ部70の厚みがあるため、部品3が筐体1の表面8よりも突出し、デザイン性を損ねる場合があった。また特許文献1記載の技術は、構造が複雑であり、間隙を隠すための専用のシートと固定手段が必要であり、また製造工程が複雑となるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子装置用筐体は、嵌入部を表面に有する筐体と、前記嵌入部に嵌入される、前記筐体と異なる材質の部品と、前記嵌入部を有する前記表面に貼着される弾性を有するシートと、を、有する電子装置用筐体であって、前記嵌入部は側壁と、前記部品を載置する載置部とを有し、前記シートは前記表面より前記嵌入部方向に延設された延設部を有し、前記延設部は前記載置部側に屈曲し、前記載置部に載置された前記部品と前記側壁とによって形成される間隙に配置されることを特徴とする。
【0011】
上記電子装置用筐体において、前記異なる材質は、前記筐体と吸湿膨張係数が異なっていることを特徴とする。
【0012】
上記電子装置用筐体において、前記異なる材質は、前記筐体と熱膨張係数が異なっていることを特徴とする。
【0013】
上記電子装置用筐体において、前記側壁は、屈曲した前記延設部に沿った傾斜面であることを特徴とする。
【0014】
上記電子装置用筐体において、前記側壁に対向する、前記部品の端面は、屈曲した前記延設部に沿った傾斜面であることを特徴とする。
【0015】
上記電子装置用筐体において、前記側壁の傾斜面は階段状であることを特徴とする。
【0016】
上記電子装置用筐体において、前記端面の傾斜面は階段状であることを特徴とする。
【0017】
上記電子装置用筐体において、前記シートは片面側に粘着面を有し、前記粘着面により前記表面に貼着され、前記延設部の粘着面は、粘着力を弱める処理が行われていることを特徴とする。
【0018】
上記電子装置用筐体において、前記延設部は粘着力を有しないことを特徴とする。
【0019】
本発明の電子装置用筐体の製造方法は、嵌入部を表面に有する筐体と、前記嵌入部に嵌入される、前記筐体と異なる材質の部品と、前記嵌入部を有する前記表面に貼着される弾性を有するシートと、を、有する電子装置用筐体の製造方法であって、前記嵌入部は側壁と、前記部品を載置する載置部とを有し、前記シートは前記表面より前記嵌入部方向に延設された延設部を有し、前記部品を前記嵌入部に嵌入するステップと、前記部品を前記載置部に載置することにより、前記延設部を前記載置部側に屈曲させ、前記載置部に載置された前記部品と前記側壁とによって形成される間隙に配置するステップと、を、有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、筐体と筐体に嵌入する部品との吸湿膨張係数差や熱膨張係数差による寸法差を吸収するために設けられる間隙(クリアランス)を見え難くした電子装置用筐体を、簡単な構造、低コスト、簡単な製造工程で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る電子装置用筐体の断面を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る電子装置用筐体の製造方法を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る電子装置用筐体の断面を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る電子装置用筐体の断面を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る電子装置用筐体の断面を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る電子装置用筐体の断面を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る電子装置用筐体の断面を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係るアンプ内蔵型スピーカーの断面図である。
図9】従来の電子装置用筐体に係る断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、筐体と筐体に嵌入する部品とが、吸湿膨張係数が異なる材料や、熱膨張係数が異なる材料の組み合わせであって、筐体表面において筐体と部品との間に吸湿膨張係数差や熱膨張係数差による寸法変化の差を吸収するための間隙(クリアランス)を有する電子装置用筐体に適用可能である。以下、アンプ内蔵型スピーカーを例にとって説明するがこれに限るものではなく、アンプ、ディスクプレーヤー、ネットワークプレーヤーなど、いろいろな電子装置の筐体に実施可能である。また材料として、木材と樹脂(ABS樹脂)を例にとって説明するが、この組み合わせに限るものではなく、木材と他の材料の組み合わせや、乾燥吸湿で寸法変化が生じない材料でも熱膨張係数の異なる材料を組み合わせる場合に本発明を実施することが可能である。なお、木材の乾燥吸湿による寸法変化は大きいので、木材と他の材料の組み合わせは、本発明により好適である。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電子装置用筐体の断面図を示したものである。図1は、筐体1と、部品3と、シート2と、筐体1に部品3を嵌入して固定する嵌入部15と、の一部分のみを示している(以下同様)。筐体1の表面8に形成された窪み、もしくは貫通孔である嵌入部15は、側壁5と載置部6とで構成されている。嵌入部15は筐体1の材料を切削加工によって形成されることが多いため、その場合、側壁5と載置部6とは、装飾を施されていない木口面(ザグリ端面)である。
【0024】
嵌入する部品3は操作パネルなどで、例えばABS樹脂で形成されている。筐体1を構成する木材の吸湿膨張係数は、木材の種類や繊維の方向によって異なるが、例えば0.3%程度である。これに対しABS樹脂は湿度によって大きな寸法変化は生じない。また木材の熱膨張係数は、種類や繊維の方向により異なるが、例えば3〜60×10―6/℃である。ABS樹脂の熱膨張係数は例えば95〜130×10−6/℃である。この場合、筐体1の湿度による寸法変化が部品3よりも大きいが、本発明はこれに限るものではなく、部品3が木材で、筐体1が樹脂でも良い。また部品3の熱膨張係数が筐体1より大きいが本発明はこれに限るものではなく、筐体1の熱膨張係数が部品3より大きい材料の組み合わせの場合にも適用可能である。この乾燥吸湿の寸法差や熱膨張係数差を吸収するために、筐体1の側壁5と、部品3の端面7との間に間隙9(クリアランス)を設ける必要がある。
【0025】
図1(a)で、筐体1の表面8には筐体1を構成する木材をシート2で覆っている。シート2は木材の表面の保護や加飾機能をもち、材料は例えばPVC(ポリ塩化ビニル)であるが、これに限るものではない。厚さは例えば0.15〜0・2mm程度であり、弾性を有している。シート3は裏面に粘着面を有しており、筐体1の表面8に貼着される。
【0026】
シート2は筐体1の表面8から嵌入部15の方へ延設されている。この延設部4は、表面8と側壁5によって構成されるエッジから、載置部6側に屈曲している。屈曲している延設部4は、側壁5と、部品3の端面7との間の間隙9に配置される。この間隙9の寸法は用いられる材料の熱膨張係数、吸湿膨張係数、製造の公差やデザイン性等から決定されるが、木材とABS樹脂の組み合わせの場合、例えば1.2mm程度である。この屈曲したシート2の延設部4によって、シート2で覆われていない側壁5と載置部6が隠されるため、外部(図1の上側)から見え難くなり、デザイン性が向上する。
【0027】
図1(a)の状態から筐体1の木材の乾燥による収縮や、周囲温度の上昇により、ABS樹脂からなる部品3の膨張量が、木材からなる筐体1の膨張量より大きくなると、図1(b)のように側壁5と端部7とによって形成される間隙9が狭くなる。間隙9が狭くなると弾性を有するシート2が、より大きく屈曲する。
【0028】
逆に、筐体1の木材の吸湿による膨張や、周囲温度の低下により、ABS樹脂からなる部品3の収縮量が、木材からなる筐体1の収縮量より大きくなると、図1(c)の様に、側壁5と端部7とによって形成される間隙9が広くなる。間隙9に配置されている延設部4は弾性を有するため、部品3の収縮に追従するように屈曲の度合いが低下し、間隙9を塞ぐように変形する。これらの動きによって、間隙9は、木材の乾燥吸湿や周囲温度の変化があっても、側壁5と載置部6は、外部から見え難くなっている。
【0029】
図1(a)〜(c)では、シート2の延設部4は常に部品3の端面7と接触しているが、必ずしも接触していなくてもよい。接触していれば、外部から嵌入部15が見えないため、より好ましいが、接触していなくても屈曲した延設部4が間隙9に表面8に対して斜めに配置されていれば、嵌入部15は外部から見え難く、また湿度変化や温度変化に追従して屈曲できるため、本発明の目的は達成できる。同様に図1(b)の時、延設部4は載置部6に接触している必要もない。
【0030】
図1の各部の寸法の実施例として、例えば上記の材料を用いて部品3の厚さが3mmの場合、間隙9の幅(表面8と平行な方向)は1.2mm、シート2の厚さは0.2mm、延設部4の長さは3.2mmである。これらの数値は、用いられる材料の吸湿膨張係数、熱膨張係数、部品3に要求される厚さなどから適宜決定される。
【0031】
図2は本発明の電子装置用筐体の第1の実施形態に係る製造方法を示す図である。(a)から(e)の順に工程が行われる。図2(a)は、嵌入部15を構成する側壁5と載置部6とを有する筐体1の断面図である。側壁5と載置部6は、筐体1の材料である木材を切削加工によって形成され、装飾されていない木口面(ザグリ端面)である。
【0032】
図2(b)は、筐体1の表面8に保護及び装飾を目的としたシート2を貼着した図である。シート2の裏面は粘着面となっており、筐体1の表面8に貼着される。この際、シート2は嵌入部15も覆っている。嵌入部15は通常筐体1の表面に8に形成された窪みもしくは貫通孔であるため、嵌入部15を覆うようにシート2を平らに貼着することができる。
【0033】
延設部4はシート2の一部であるため、延設部4の裏面にも粘着面がある。この粘着面の粘着力を残しておくと、粘着面が側壁5や載置部6に張り付いてしまう恐れがある。そこで、この図2(b)の段階で、延設部の粘着力を低下させる処理を行う。例えば、自然乾燥を48時間程度行うことによって粘着力を低下させることができる。この乾燥工程は、筐体1の表面8にシート2を貼着した部分の乾燥工程と兼用することができる。なお、粘着力を低下させる工程は、延設部4の粘着力を低下させるだけでも良く、粘着力が実質的に失われるまで行っても良い。
【0034】
図2(c)では、シート2の不要部分を切除する。これによって延設部4が形成される。なお、上述の乾燥工程は、図2(c)の後で行っても良い。
【0035】
図2(d)では、部品3を嵌入部15に嵌入させる。この際、シート2の延設部4は、部品3によって屈曲させられる。なお、この嵌入工程を行う前に、シート2の延設部4を手や治具等によって嵌入部15側に屈曲するように癖をつけておいても良い。このようにすると図2(d)〜(e)の工程がよりスムーズに行える。
【0036】
図2(e)では、部品3は嵌入部15の載置部6に載置される。これによりシート2の延設部4はさらに屈曲し、側壁5と端部7との間の間隙9に配置される。この際、延設部4の裏面の粘着面は、乾燥工程により粘着力が低下しているので、側壁5や載置部6に貼着してしまうことはない。部品3の載置部6への固定は、後述する図8の様にボス構造によって固定しても良いし、ねじ止めや接着剤による固定でも良い。
【0037】
上述の実施形態では、シート2の不要部分を切除するとして説明したが、予め不要部分を切り取った形状のシートを筐体に貼着しても良い。また予め延設部4の粘着力が無いシートを用いても良い。また嵌入部15は窪み又は貫通孔であるため、表面8側から見た場合、コーナーがあるが、シート2には弾性があるため、同様の工程で延設部4を屈曲させることができる。なおコーナーには適度な曲率半径を有する円弧にすると、よりスムーズに本発明を実施することができる。
【0038】
このように本発明によれば、真空貼合のような装置を用いることなく、簡便な工程で、低コストで、吸湿膨張係数の異なる材料や、熱膨張係数の異なる材料を組み合わせた場合の間隙(クリアランス)を目立たなくする構造が実現できる。
【0039】
次に図3を参照して、本発明の電子装置用筐体の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態との違いは、筐体1の側壁5が傾斜して傾斜面10となっていることである。第1の実施形態の側壁5は、筐体1の表面8ほぼ直交していたため、湿度や温度変化により間隙9狭くなった場合、寸法設計やシート2の弾性によっては、シート2の延設部4が屈曲しすぎて元に戻らなくなる恐れがあった。第2の実施形態では、側壁5は傾斜面10となっているため、シート2の延設部4が屈曲しすぎて元に戻らなくなるということを防ぐことができる。これにより湿度変化や温度変化を繰り返して、間隙9の寸法が伸縮しても、嵌入部15(傾斜面10と載置部6より構成される)が外部から見え難い状態を維持することができる。また組立作業時に、誤って延設部4を屈曲させすぎてしまうことも防止できる。
【0040】
この傾斜面10はおおむね屈曲したシート2の延設部4に沿うように傾斜していれば良い。延設部4に沿うように傾斜とは、図3からも明らかなように、延設部4と平行であることに限定されず、傾斜面10がオーバーハングする角度の傾斜ではないことを意味する。
【0041】
次に図4を参照して、本発明の電子装置用筐体の第3の実施形態について説明する。第2の実施形態との違いは、筐体1の傾斜面10が階段状に傾斜している階段状傾斜面20をとなっていることである。湿度変化や温度変化による延設部4の動きは第2の実施形態と同様である。
【0042】
本実施形態では、嵌入部15(階段状傾斜面20と載置部6より構成される)の傾斜面は、直線状ではなく階段状となっている。このため、嵌入部15の切削加工工程が簡単になり、より低コストに本発明を実施することができる。また図5(a)の様に、階段状傾斜面20により延設部4は2段階に屈曲するので、単なる傾斜面よりも間隙9を狭く形成することができる。これにより、より嵌入部15が外部から見え難い構造を実現することができる。さらに、図5(b)の様に、側壁5を湾曲した湾曲形状傾斜面30としても良い。
【0043】
階段状傾斜面20の寸法の実施例としては、例えば部品3の厚さが3mmの場合、表面8に近い側の段差が1mm、載置面6に近い側の段差が2mmである。また表面8に近い側の段差の幅は0.5mmである。なお、上述の実施形態では、階段状傾斜面20を2段階の階段形状として説明したが、これに限るものではなく、3段階以上でも同様な効果が得られる。
【0044】
次に図6(a)、及び(b)を参照して、本発明の電子装置用筐体の第4の実施形態について説明する。部品3の端面7が、テーパー状の形状であるテーパー状端面40となっている点が、上述の実施形態と異なる。テーパー状端面40の角度は、概ね傾斜面10や階段状傾斜面20に沿った角度であればよい。ただし、これは、テーパー状端面40の角度が、傾斜面10と平行であることに限定されるものではない。
【0045】
これにより、外部から見える間隙9の幅を狭めることが可能となり、より嵌入部15を見え難くすることができる。また、テーパー状端面40とすると、外部から見える延設部4は表面に近い部分のみとなる。このため間隙9の深さが浅くなったように見える効果がある。この構造をとることにより、より間隙9が目立ち難くデザイン性に優れた電子装置用筐体が実現できる。
【0046】
なお、図6(c)は、テーパー状端面40の先端を、階段状傾斜面20の表面8に近い側の段(上段45)の端部と合わせた図である。間隙9が材料の寸法変化で最も大きくなる条件の時、テーパー状端面40の先端が、上段45の端部に一致する、もしくは上段45に重なる様にすると、外部から見える延設部4は、必ず上段45より表面8側にある部分になる。上述したように延設部4の先端部分は、材料の寸法変化に伴い、部品3に追従するように屈曲するが、十分屈曲しなかった場合でも、載置部6が外部から見えてしまうことを防止できる。
【0047】
また図7に示すように部品3のテーパー状端面を階段状にした、階段状端面41としても同様の効果を得ることができる。またこの階段状端面41の段数は2段に限られるものではなく、3段以上でも良い。
【0048】
上述の本発明の第1の実施形態から第4の実施形態で説明した筐体1の、側壁5、傾斜面10、階段状傾斜面20、湾曲形状傾斜面30と、部品3の端面7、テーパー状端面40、階段状端面41とを、それぞれ適宜組み合わせても、本発明の効果が得られることは言うまでもない。
【0049】
次に、図8を参照して、本発明をアンプ内蔵型のスピーカー60に実施した例を説明する。アンプ内蔵型スピーカー60は、筐体1と、筐体1を被覆するシート2と、スピーカーユニット65と、操作パネルである部品3と、部品3に接続されたアンプ部62と、からなる。筐体1は木材であり、表面8の保護及び装飾のために、PVCのシート2が貼着されている。筐体1には開口部64が設けられており、スピーカーユニット65と部品3がそれぞれ固定されている。部品3はABS樹脂である。なお、操作パネルのボタン等や電源ケーブル、アンプ部62とスピーカーユニット65とを接続する線材、筐体1内部に配置される吸音材など、通常のアンプ内蔵型スピーカーに用いられる部分は省略している。
【0050】
部品3は筐体1に形成された嵌合孔63に、部品3に形成されたボス61を嵌合することによって固定される。なお、この固定はねじ止めでも、接着等でも良い。部品3の端面はテーパー状端面40となっており、また筐体1の嵌入部は階段状傾斜面20となっている。筐体1の表面8に貼着されたシート2は延設部4を有し、屈曲して、筐体1の階段状傾斜部20と部品3のテーパー状端面40との間に配置されている。これにより筐体1と部品3との吸湿膨張係数差や熱膨張係数差による寸法差があっても、間隙を目立ちにくくすることができる。
【0051】
図8では、部品3は筐体1の天板部分に設けられているが、これに限るものではなく前面板、背面板、側面板、底板に部品3を配置しても良い。本発明は筐体1と部品3との間の間隙を目立ちにくくすることが目的であるので、ユーザーの目につきやすい前面板や天板部分に用いるとより効果が大きい。
【0052】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電子装置用筐体もまた本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、筐体と筐体に嵌入する部品との吸湿膨張係数差や熱膨張係数差による寸法差を吸収するために設けられる間隙(クリアランス)を、見え難くする必要がある電子装置用筐体に好適に採用され得る。
【符号の説明】
【0054】
1…筐体、2…シート、3…部品、4…延設部、5…側壁、6…載置部、7…端面、8…表面、9…間隙、10…傾斜面、15…嵌入部、20…階段状傾斜面、30…湾曲形状傾斜面、40…テーパー状端面、41…階段状端面、45…上段、60…アンプ内蔵型スピーカー、61…ボス、62…アンプ部、63…嵌合孔、64…開口部、65…スピーカーユニット、70…フランジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9