(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
撮影装置には、像振れを補正する像振れ補正機能を備えるものが知られている。この種の撮影装置の具体的構成が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の撮影装置は、ジャイロセンサを備えている。ジャイロセンサは、撮影装置本体の振れを検出して振れ検出信号を出力する。ジャイロセンサには、撮影装置が静止状態であるときにも出力電圧(直流オフセット成分)がある。ジャイロセンサの直流オフセット成分は、温度変化や時間経過等でドリフトする。直流オフセット成分のドリフトに起因して、振れ検出信号に低周波ノイズが重畳される。そのため、ジャイロセンサより出力される振れ検出信号は、ハイパスフィルタを用いてこの種の低周波ノイズが除去される。これにより、低周波ノイズによる像振れ補正の劣化が抑えられる。
【0004】
撮影装置が三脚等に固定された状態で像振れ補正が行われると、振れ検出信号に含まれる低周波ノイズ等により振れ補正部材(撮像素子や撮影光学系内の一部のレンズ)が不必要に駆動されることがある。この場合、三脚固定時であるにも拘わらず撮影画像が振れる等の問題が起こり得る。そのため、三脚固定時等には、振れ補正部材を駆動させないという技術が知られている。その一方で、三脚固定時等であっても、レリーズスイッチが押された時の振動やシャッタ等の動作機構の振動による像振れが懸念される。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の撮影装置は、三脚等に固定された状態での撮影時にハイパスフィルタのカットオフ周波数を低く設定し、レリーズスイッチが全押しされてから規定時間が経過するまで、カットオフ周波数が低く設定された状態で像振れ補正を継続し、規定時間が経過すると像振れ補正を停止する。これにより、レリーズスイッチが押された時の振動やシャッタ等の動作機構の振動による像振れが補正されつつ、振れ検出信号に含まれる低周波ノイズ等による振れ補正部材の不必要な駆動が低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1に記載の撮影装置では、三脚等に固定された状態での撮影時にハイパスフィルタのカットオフ周波数が低く設定されている。しかし、三脚固定時等であっても、ジャイロセンサの状態によっては、低周波ノイズが大きく(比較的高い周波数で)発生することがある。そのため、カットオフ周波数を単に低く設定するだけでは、像振れが必ずしも良好に補正されるわけではない。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ジャイロセンサ等の振れ検出信号を出力する手段の状態に応じた適切なカットオフ周波数を設定することが可能な像振れ補正装置、及びこのような像振れ補正装置における像振れ補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る像振れ補正装置は、被写体を撮像する撮像素子と、振れを検出して振れ検出信号を出力する振れ検出信号出力手段と、振れ検出信号出力手段より出力される振れ検出信号と振れ検出に関する所定の基準信号とを比較する信号比較手段と、信号比較手段による比較結果に基づいて所定のカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定手段と、カットオフ周波数設定手段により設定されたカットオフ周波数に基づいて振れ検出信号に含まれる低周波成分を除去する低周波成分除去手段と、低周波成分が除去された振れ検出信号に基づいて撮像素子の受光面上での像振れを補正する像振れ補正手段とを備える。
【0010】
このような構成によれば、振れ検出信号出力手段の状態に応じた適切なカットオフ周波数を設定することができる。これにより、振れ検出信号に含まれる低周波成分が良好に除去されて、像振れ補正の精度が向上する。
【0011】
また、本発明の一実施形態に係る像振れ補正装置は、静止状態であるか否かを判定する静止状態判定手段を備える構成としてもよい。この構成において、カットオフ周波数設定手段は、像振れ補正装置が静止状態であると判定された場合に、カットオフ周波数を信号比較手段による比較結果に基づいた値に設定してもよい。
【0012】
また、本発明の一実施形態において、カットオフ周波数は、像振れ補正装置が静止状態であると判定されていないときには、規定の値に設定されてもよい。
【0013】
また、本発明の一実施形態において、静止状態判定手段は、カットオフ周波数が信号比較手段による比較結果に基づいた値に設定されてから所定時間継続して像振れ補正装置が静止状態でないか否かを判定する構成としてもよい。また、カットオフ周波数設定手段は、静止状態判定手段により所定時間継続して像振れ補正装置が静止状態でないと判定された場合に、カットオフ周波数を既定の値に設定する構成としてもよい。
【0014】
また、本発明の一実施形態において、信号比較手段は、振れ検出信号出力手段より出力される振れ検出信号と基準信号との差分の絶対値を計算する構成としてもよい。また、カットオフ周波数設定手段は、信号比較手段により計算された差分の絶対値に基づいてカットオフ周波数を設定する構成としてもよい。
【0015】
また、本発明の一実施形態において、カットオフ周波数設定手段は、信号比較手段により計算された差分の絶対値について所定の閾値判定を行い、閾値判定の結果に基づいてカットオフ周波数設定を設定する構成としてもよい。
【0016】
また、本発明の一実施形態において、カットオフ周波数設定手段は、信号比較手段により計算された差分の絶対値が所定の第一の閾値よりも大きい場合に、カットオフ周波数を既定の値よりも高い値に設定し、該差分の絶対値が第一の閾値よりも小さい第二の閾値よりも小さい場合に、カットオフ周波数を既定の値よりも低い値に設定する構成としてもよい。
【0017】
また、本発明の一実施形態において、カットオフ周波数設定手段は、信号比較手段により計算された差分の絶対値に基づいて所定の関数を演算し、演算によって得られた値を用いてカットオフ周波数を設定する構成としてもよい。
【0018】
また、本発明の一実施形態において、信号比較手段は、振れ検出信号出力手段より所定期間内に出力される振れ検出信号の平均値、中央値又は最頻値を基準信号と比較する構成としてもよい。
【0019】
また、本発明の一実施形態において、像振れ補正手段は、低周波成分が除去された振れ検出信号に基づいて撮影光学系の一部をなすレンズと撮像素子の少なくとも一方を駆動することにより、該撮像素子の受光面上での像振れを補正する構成としてもよい。
【0020】
また、本発明の一実施形態に係る像振れ補正装置における像振れ補正方法は、振れを検出して振れ検出信号を出力する振れ検出信号出力ステップと、出力された振れ検出信号と振れ検出に関する所定の基準信号とを比較する信号比較ステップと、信号比較ステップでの比較結果に基づいて所定のカットオフ周波数を設定するカットオフ周波数設定ステップと、カットオフ周波数設定ステップにて設定されたカットオフ周波数に基づいて振れ検出信号に含まれる低周波成分を除去する低周波成分除去ステップと、低周波成分が除去された振れ検出信号に基づいて撮像素子の受光面上での像振れを補正する像振れ補正ステップとを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態によれば、ジャイロセンサ等の振れ検出信号を出力する手段に応じた適切なカットオフ周波数を設定することが可能な像振れ補正装置、及びこのような像振れ補正装置における像振れ補正方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態の撮影装置について図面を参照しながら説明する。以下においては、本発明の一実施形態として、デジタル一眼レフカメラについて説明する。なお、撮影装置は、デジタル一眼レフカメラに限らず、例えば、ミラーレス一眼カメラ、コンパクトデジタルカメラ、ビデオカメラ(放送スタジオカメラ等)、カムコーダ、タブレット端末、PHS(Personal Handy phone System)、スマートフォン、フィーチャフォン、携帯ゲーム機など、撮影機能を有する別の形態の装置に置き換えてもよい。
【0024】
[撮影装置1全体の構成]
図1は、本実施形態の撮影装置1の構成を示すブロック図である。撮影装置1は、
図1に示されるように、CPU(Central Processing Unit)100、操作部102、駆動回路104、撮影レンズ106、絞り108、シャッタ110、固体撮像素子112、信号処理回路114、画像処理エンジン116、バッファメモリ118、カード用インタフェース120、LCD(Liquid Crystal Display)制御回路122、LCD124、ROM(Read Only Memory)126、外部接続インタフェース128、ジャイロセンサ130、AD変換回路132、デジタルハイパスフィルタ回路134及び像振れ補正機構136を備えている。なお、撮影レンズ106は複数枚構成であるが、
図1においては便宜上一枚のレンズとして示す。また、撮影レンズ106の光軸AX方向をZ軸方向と定義し、Z軸方向と直交し且つ互いに直交する二軸方向をそれぞれX軸方向(水平方向)、Y軸方向(垂直方向)と定義する。
【0025】
操作部102には、電源スイッチやレリーズスイッチ、撮影モードスイッチなど、ユーザが撮影装置1を操作するために必要な各種スイッチが含まれる。ユーザにより電源スイッチが操作されると、図示省略されたバッテリから撮影装置1の各種回路に電源ラインを通じて電源供給が行われる。CPU100は電源供給後、ROM126にアクセスして制御プログラムを読み出してワークエリア(不図示)にロードし、ロードされた制御プログラムを実行することにより、撮影装置1全体の制御を行う。
【0026】
レリーズスイッチが操作されると、CPU100は、例えば、固体撮像素子112により撮像されたライブビュー(後述)に基づいて計算された測光値や、撮影装置1に内蔵されたTTL(Through The Lens)露出計(不図示)で測定された測光値に基づき適正露出が得られるように、駆動回路104を介して絞り108及びシャッタ110を駆動制御する。より詳細には、絞り108及びシャッタ110の駆動制御は、プログラムAE(Automatic Exposure)、シャッタ優先AE、絞り優先AEなど、撮影モードスイッチにより指定されるAE機能に基づいて行われる。また、CPU100はAE制御と併せてAF(Autofocus)制御を行う。AF制御には、アクティブ方式、位相差検出方式、コントラスト検出方式等が適用される。また、AFモードには、中央一点の測距エリアを用いた中央一点測距モード、複数の測距エリアを用いた多点測距モード等がある。CPU100は、AF結果に基づいて駆動回路104を介して撮影レンズ106を駆動制御し、撮影レンズ106の焦点を調整する。なお、この種のAE及びAFの構成及び制御については周知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0027】
被写体からの光束は、撮影レンズ106、絞り108、シャッタ110を通過して固体撮像素子112の受光面にて受光される。なお、固体撮像素子112の受光面は、光軸AX方向(Z軸方向)と直交するXY平面である。固体撮像素子112は、例えばベイヤ型画素配置を有する単板式カラーCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサである。固体撮像素子112は、受光面上の各画素で結像した光学像を光量に応じた電荷として蓄積して、R(Red)、G(Green)、B(Blue)の画像信号を生成して信号処理回路114に出力する。なお、固体撮像素子112は、CCDイメージセンサに限らず、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサやその他の種類の撮像装置に置き換えられてもよい。固体撮像素子112はまた、補色系フィルタを搭載したものであってもよい。
【0028】
信号処理回路114は、固体撮像素子112より入力される画像信号に対してクランプ、デモザイク等の所定の信号処理を施して、画像処理エンジン116に出力する。画像処理エンジン116は、信号処理回路114より入力される画像信号に対してマトリクス演算、Y/C分離、ホワイトバランス等の所定の信号処理を施して輝度信号Y、色差信号Cb、Crを生成し、JPEG(Joint Photographic Experts Group)等の所定のフォーマットで圧縮する。バッファメモリ118は、画像処理エンジン116による処理の実行時、処理データの一時的な保存場所として用いられる。また、撮影画像の保存形式は、JPEG形式に限らず、最小限の画像処理(例えばクランプ)しか施されないRAW形式であってもよい。
【0029】
カード用インタフェース120のカードスロットには、メモリカード200が着脱可能に差し込まれている。
【0030】
画像処理エンジン116は、カード用インタフェース120を介してメモリカード200と通信可能である。画像処理エンジン116は、生成された圧縮画像信号(撮影画像データ)をメモリカード200(又は撮影装置1に備えられる不図示の内蔵メモリ)に保存する。
【0031】
また、画像処理エンジン116は、生成された輝度信号Y、色差信号Cb、Crをフレームメモリ(不図示)にフレーム単位でバッファリングする。画像処理エンジン116は、バッファリングされた信号を所定のタイミングで各フレームメモリから掃き出して所定のフォーマットのビデオ信号に変換し、LCD制御回路122に出力する。LCD制御回路122は、画像処理エンジン116より入力される画像信号を基に液晶を変調制御する。これにより、被写体の撮影画像がLCD124の表示画面に表示される。ユーザは、AE制御及びAF制御に基づいて適正な輝度及びピントで撮影されたリアルタイムのスルー画(ライブビュー)を、LCD124の表示画面を通じて視認することができる。
【0032】
画像処理エンジン116は、ユーザにより撮影画像の再生操作が行われると、操作により指定された撮影画像データをメモリカード200又は内蔵メモリより読み出して所定のフォーマットの画像信号に変換し、LCD制御回路122に出力する。LCD制御回路122が画像処理エンジン116より入力される画像信号を基に液晶を変調制御することで、被写体の撮影画像がLCD124の表示画面に表示される。
【0033】
外部接続インタフェース128は、PC(Personal Computer)等の外部装置と接続するためのインタフェースである。外部接続インタフェース128は、HDMI(High-Definition Multimedia Interface、HDMIは登録商標)、USB(Universal Serial Bus)等の有線接続プロトコルや、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)、IrDA等の無線接続プロトコルを用いてPC等と通信可能である。
【0034】
ところで、撮影者の手振れにより撮影装置1が振動すると、光軸AXの角度振れや回転振れが生じて、固体撮像素子112の受光面に入射される被写体像に振れが生じる。像振れの原因となる撮影装置1の振動(振れ)は、ジャイロセンサ130により検出される。具体的には、ジャイロセンサ130は、撮影装置1に加わる二軸周り(X軸周り、Y軸周り)の角速度を検出し、検出された二軸周りの角速度をXY平面内(換言すると、固体撮像素子112aの受光面112内)の振れを示す振れ検出信号として出力する。
【0035】
ジャイロセンサ130より出力される振れ検出信号は、AD変換回路132によってAD変換されて、CPU100及びデジタルハイパスフィルタ回路134に入力される。
【0036】
ジャイロセンサ130より出力される振れ検出信号には、撮影装置1が静止状態であるときにも出力電圧(直流オフセット成分)が含まれる。デジタルハイパスフィルタ回路134は、例えば一次のバターワースフィルタであり、ジャイロセンサ130の直流オフセット成分(基準信号)の情報を保持している。そのため、デジタルハイパスフィルタ回路134内では、AD変換回路132より入力される振れ検出信号に含まれる直流オフセット成分が除去されて、直流オフセット成分除去後の振れ検出信号が積分される。これにより、角度信号が得られる。
【0037】
CPU100は、デジタルハイパスフィルタ回路134より入力される角度信号に基づいて像振れ補正機構136を駆動制御する。なお、像振れ補正機構136は周知の構成であるため、ここでの詳細な説明は省略する。像振れ補正機構136は、角度信号に基づいて固体撮像素子112をXY平面内で受光面での像振れが打ち消される方向に駆動する。これにより、手振れ等に起因する撮影画像の振れが抑えられる。また、像振れ補正機構136は、デジタルハイパスフィルタ回路134より入力される角度信号に基づいて撮影レンズ106の一部のレンズを光軸AXから偏心させることにより、手振れ等に起因する撮影画像の振れを打ち消す構成に置き換えてもよい。また、像振れ補正機構136は、デジタルハイパスフィルタ回路134より入力される角度信号に基づいて固体撮像素子112と撮影レンズ106の一部のレンズの両方を駆動させることにより、手振れ等に起因する撮影画像の振れを打ち消す構成に置き換えてもよい。
【0038】
[カットオフ周波数の設定フロー]
デジタルハイパスフィルタ回路134には、振れ検出信号に含まれる低周波ノイズを除去するためのカットオフ周波数が設定される。以下に、
図2を用いて、CPU100によるデジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数の設定フローを説明する。
図2に示されるカットオフ周波数の設定フローは、撮影装置1の電源がオンされると開始され、撮影装置1の電源がオフされると終了する。
【0039】
[
図2のS11(デフォルト設定)]
本処理ステップS11では、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数がデフォルトのカットオフ周波数F2に設定されると共に所定のタイマカウンタTcがゼロに設定される。
【0040】
[
図2のS12(カットオフ周波数の設定)]
本処理ステップS12では、サブルーチンが呼び出されて、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数が設定される。
図3に、かかるサブルーチンを示す。
【0041】
・
図3のS12a(状態の判定)
本処理ステップS12aでは、撮影装置1が静止状態であるか否かが判定される。例示的には、デジタルハイパスフィルタ回路134より入力される角度信号のうち一定周波数以上の信号成分の振幅が一定期間継続して第一の閾値以内に収まる場合に静止状態と判定される。撮影装置1の静止状態として、典型的には、撮影装置1が三脚に固定された状態が挙げられる。
【0042】
また、AD変換回路132より入力される振れ検出信号(RAW信号)のうち、一定周波数以上の信号成分の振幅が、一定期間継続して第二の閾値以内に収まる場合に、静止状態と判定されるようにしてもよい。
【0043】
また、撮影装置1は、デジタルハイパスフィルタ回路134と並列に別のデジタルハイパスフィルタ回路を備える構成としてもよい。この場合、別のデジタルハイパスフィルタ回路より入力される角度信号のうち、一定周波数以上の信号成分の振幅が、一定期間継続して第三の閾値以内に収まる場合に、静止状態と判定されるようにしてもよい。なお、別のデジタルハイパスフィルタ回路のカットオフ周波数は、デジタルハイパスフィルタ回路134と異なっており、例示的には、撮影装置1の静止状態を精度良く判定するため、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数よりも低い。
【0044】
なお、上記において、第一から第三の3つの閾値は、その値が同一であるか非同一であるかは問わない。
【0045】
本処理ステップS12aにおいて撮影装置1が静止状態でないと判定された場合(S12a:NO)、本サブルーチンは終了する。
【0046】
・
図3のS12b(エラー値Eの計算)
本処理ステップS12bは、本処理ステップS12aにおいて撮影装置1が静止状態であると判定された場合(S12a:YES)に実行される。本処理ステップS12bでは、AD変換回路132より入力される振れ検出信号(RAW信号)の平均値がエラー値Eとして計算される。平均値は、例えば、AD変換回路132により所定のレートでサンプリングされた時間軸上で直近のN個のサンプリング値(すなわち、所定期間内に入力された振れ検出信号(RAW信号))を平均した値である。なお、サンプリング値は、CPU100内のバッファ100aに保持されている。また、平均値を、時間軸上で直近のN個のサンプリング値の中央値又は最頻値に代えてもよい。
【0047】
・
図3のS12c(エラー値E’の計算)
CPU100は、ジャイロセンサ130の直流オフセット成分(基準信号)の情報を保持している。本処理ステップS12cでは、処理ステップS12b(エラー値Eの計算)にて計算されたエラー値Eと基準信号の値との差分がエラー値E’として計算される。ジャイロセンサ130の直流オフセット成分は、温度変化や時間経過等でドリフトする。これにより、撮影装置1が静止状態であるときの直流オフセット成分以外の、温度変化や時間経過等に起因する低周波ノイズが振れ検出信号に重畳される。そのため、エラー値E’は、主に、温度変化や時間経過等に起因する低周波ノイズ(直流オフセット成分のずれ量)と相関する。
【0048】
・
図3のS12d(エラー値E’の閾値判定)
本処理ステップS12dでは、エラー値E’の絶対値が閾値A1よりも小さいか否かが判定される。
【0049】
・
図3のS12e(カットオフ周波数の設定)
本処理ステップS12eは、本処理ステップS12dにおいてエラー値E’の絶対値が閾値A1よりも小さいと判定された場合(S12d:YES)に実行される。この場合、低周波ノイズが小さい(すなわち、低い周波数でのみノイズが発生している)とみなされる。低周波ノイズが小さいため、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数が低く設定されたとしても、低周波ノイズは良好に除去される。
【0050】
そこで、本処理ステップS12eでは、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数がデフォルト値F2よりも低いF1に設定される。これにより、CPU100が本来取得したい波形がデジタルハイパスフィルタ回路134にて除去されにくくなり、像振れ補正の精度が向上する。本処理ステップS12eが終了すると、本サブルーチンも終了する。
【0051】
・
図3のS12f(エラー値E’の閾値判定)
本処理ステップS12fは、本処理ステップS12dにおいてエラー値E’の絶対値が閾値A1以上と判定された場合(S12d:NO)に実行される。本処理ステップS12fでは、エラー値E’の絶対値が閾値A2よりも大きいか否かが判定される。なお、閾値A2は、閾値A1よりも大きい値である。
【0052】
・
図3のS12g(カットオフ周波数の設定)
本処理ステップS12gは、本処理ステップS12fにおいてエラー値E’の絶対値が閾値A2よりも大きいと判定された場合(S12f:YES)に実行される。この場合、低周波ノイズが大きい(すなわち、低くない周波数においてもノイズが発生している)とみなされる。低周波ノイズが大きいため、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数が低く設定されると、低周波ノイズが良好には除去できない。
【0053】
そこで、本処理ステップS12gでは、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数が、デフォルト値F2よりも高いF3に設定される。これにより、例えば、低周波ノイズが大きい場合であっても、低周波ノイズが良好に除去されて、像振れ補正の精度の劣化が抑えられる。本処理ステップS12eが終了すると、本サブルーチンも終了する。
【0054】
・
図3のS12h(カットオフ周波数の設定)
本処理ステップS12hは、本処理ステップS12fにおいてエラー値E’の絶対値が閾値A2以下と判定された場合(S12f:NO)に実行される。この場合、低周波ノイズが通常レベルとみなされる。そこで、本処理ステップS12hでは、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数がデフォルト値F2に設定される。これにより、低周波ノイズが良好に除去されて、像振れ補正の精度の劣化が抑えられる。本処理ステップS12eが終了すると、本サブルーチンも終了する。
【0055】
レリーズスイッチが全押しされると、像振れ補正機構136は、カットオ周波数が設定されたデジタルハイパスフィルタ回路134より出力される角度信号に基づいて、例えば、所定時間が経過するまで動作し、所定時間が経過すると、固体撮像素子112を規定位置に戻して停止する。これにより、像振れが精度良く補正されつつ、振れ検出信号に含まれる低周波ノイズ等による固体撮像素子112の不必要な駆動が低減される。
【0056】
[
図2のS13(状態の判定)]
本処理ステップS13は、
図3のサブルーチンが終了すると実行される。本処理ステップS13では、
図3の処理ステップS12a(状態の判定)にて撮影装置1が静止状態であると判定されたか否かが判定される。
【0057】
[
図2のS14(タイマカウンタTcのリセット)]
本処理ステップS14は、
図3の処理ステップS12a(状態の判定)の判定結果が静止状態である場合(S13:YES)に実行される。本処理ステップS14では、タイマカウンタTcがゼロにリセットされる。本フローは、タイマカウンタTcのリセット後、処理ステップS12(カットオフ周波数の設定)に戻る。
【0058】
[
図2のS15(タイマカウンタTcのインクリメント)]
本処理ステップS15は、
図3の処理ステップS12a(状態の判定)の判定結果が静止状態でない場合(S13:NO)に実行される。本処理ステップS15では、タイマカウンタTcが所定値インクリメントされる。
【0059】
[
図2のS16(タイマカウンタTcの閾値判定)]
本処理ステップS16では、タイマカウンタTcが所定値Tsよりも大きいか否かが判定される。タイマカウンタTcが所定値Ts以下と判定された場合(S16:NO)、本フローは、処理ステップS12(カットオフ周波数の設定)に戻る。
【0060】
[
図2のS17(カットオフ周波数の設定)]
本処理ステップS17は、処理ステップS16(タイマカウンタTcの閾値判定)にてタイマカウンタTcが所定値Tsよりも大きいと判定された場合(S16:YES)、すなわち、撮影装置1が所定時間継続して静止状態にない場合に実行される。
【0061】
例えば処理ステップS12(カットオフ周波数の設定)にてデジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数がF1やF3に設定されてから、撮影装置1が所定時間継続して静止状態にない場合を考える。この場合、ジャイロセンサ130の直流オフセット成分が時間経過に伴いドリフトすることから、処理ステップS12(カットオフ周波数の設定)にてカットオフ周波数を設定した時とは状況が異なる。そこで、本処理ステップS17では、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数がデフォルトのカットオフ周波数F2に戻される。次いで、本フローは、処理ステップS14(タイマカウンタTcのリセット)にてタイマカウンタTcがリセットされ、処理ステップS12(カットオフ周波数の設定)に戻る。
【0062】
このように、本実施形態によれば、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数がジャイロセンサ130の個体差(例えば、ジャイロセンサ130が潜在的に持つ直流オフセット成分(基準信号))、及びその時の状態(例えば、撮影装置1が静止状態にあることや、温度変化や時間経過等に起因して振れ検出信号に重畳される低周波ノイズの程度等)に応じて適切な値に設定される。これにより、ジャイロセンサ130より出力される振れ検出信号に含まれる低周波ノイズが良好に除去されて、像振れ補正機構136による像振れ補正が良好に行われる。
【0063】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。
【0064】
デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数は、上記の実施形態では、2つの閾値A1、A2を用いて3つのパターンに設定可能であるが、別の実施形態では、より多くの閾値を用いてより多くのパターンに設定可能であってもよい。
【0065】
また、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数は、1つの閾値を用いて設定されてもよい。例示的には、
図2の本処理ステップS12d(エラー値E’の閾値判定)においてエラー値E’の絶対値が閾値A1よりも小さいと判定された場合(S12d:YES)に、カットオフ周波数がF1に設定され、エラー値E’の絶対値が閾値A1以上と判定された場合(S12d:NO)に、処理ステップS12f(エラー値E’の閾値判定)が実行されることなく、カットオフ周波数がF2又はF3に設定される処理が考えられる。
【0066】
また、例示的には、
図2の本処理ステップS12d(エラー値E’の閾値判定)が実行されることなく、処理ステップS12f(エラー値E’の閾値判定)においてエラー値E’の絶対値が閾値A2よりも大きいと判定された場合(S12f:YES)に、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数がF3に設定され、エラー値E’の絶対値が閾値A2以下と判定された場合(S12f:NO)に、カットオフ周波数がF1又はF2に設定される処理が考えられる。
【0067】
また、デジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数は、閾値A1やA2を用いた閾値判定を行うことなく設定されてもよい。カットオフ周波数は、例えば、エラー値E’の絶対値を変数xとした所定の関数f(x)を用いて演算され、演算によって得られた値を用いて設定されてもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、撮影装置1が静止状態である場合にデジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数が適切な値に設定される構成となっているが、別の実施形態では、撮影装置1が静止状態以外の特定の状態である場合にデジタルハイパスフィルタ回路134のカットオフ周波数が適切な値に設定される構成としてもよい。静止状態以外の特定の状態には、例えば、レール機材に取り付けられた撮影装置1を該レール上で所定の速度で移動させる状態、雲台に取り付けられた撮影装置1を雲台上で所定の角速度で移動させる状態、等が挙げられる。例示的には、撮影装置1が上記の特定の状態にあるときに操作部102に対する所定の操作が行われると、エラー値E’が計算され、エラー値E’に応じたカットオフ周波数が設定される。