特許第6489440号(P6489440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489440
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/04 20060101AFI20190318BHJP
【FI】
   C03B17/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-165674(P2015-165674)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-43504(P2017-43504A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】百々 大介
(72)【発明者】
【氏名】金谷 仁
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−112406(JP,A)
【文献】 特開2008−249273(JP,A)
【文献】 特開2009−234873(JP,A)
【文献】 特開2006−321713(JP,A)
【文献】 特開2003−227603(JP,A)
【文献】 特開2005−314189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00−5/44
C03B 7/00−7/22
C03B 8/00−8/04
C03B 9/00−17/06
C03B 19/00−21/06
C03B 23/00−35/26
C03B 40/00−40/04
C03C 1/00−14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを成形する成形体と、前記成形体が配置される成形室と、隔壁を介して前記成形室を加熱する燃焼室と、前記燃焼室を加熱するバーナーとを備えたガラス物品を製造する製造装置において、
前記隔壁が、酸化物系耐火物から成る耐酸化性部と、前記耐酸化性部における前記成形室の側の少なくとも一部領域に配設され、前記耐酸化性部よりも熱伝導率が高い非酸化物系耐火物から成る均熱部とを備え
前記酸化物系耐火物及び前記非酸化物系耐火物は、それぞれ、板状をなす部材であることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項2】
前記非酸化物系耐火物が、炭化珪素質耐火物であることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項3】
前記酸化物系耐火物が、アルミナジルコン質耐火物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項4】
前記成形体が、傾斜した軸線の周りに回転駆動されるスリーブであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項5】
前記成形室が、前記スリーブの前記軸線に沿って、傾斜上方側に設けられる高温領域と傾斜下方側に設けられる低温領域を有し、
少なくとも前記高温領域に、前記均熱部が配設されていることを特徴とする請求項4に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項6】
前記成形室の底側のみに、前記均熱部が配設されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば管状ガラス等のガラス物品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば管状ガラス等のガラス物品の製造装置は、溶融ガラスを成形する成形体と、前記成形体が配置される成形室と、隔壁を介して前記成形室を加熱する燃焼室と、前記燃焼室を加熱するバーナーとを備える。
【0003】
この隔壁には、従来、優れた耐火性、耐熱性、耐熱衝撃性、高い熱伝導性を有することが知られている炭化珪素質耐火物が広く使用されていた。
【0004】
しかしながら、炭化珪素質耐火物は、高温下で、バーナーの排ガス中の残留酸素と反応し、珪酸化合物を生成する。この珪酸化合物は、元の炭化珪素質耐火物に対して、脆弱であり、又、膨張する。そのため、隔壁の一部が剥離、崩落又は変形して隔壁に隙間が生じる場合があった。この場合、この隙間を介して排ガスが成形室に侵入し、これにより、溶融ガラスの成形条件が安定しなくなる。
【0005】
このような問題に対し、例えば、特許文献1では、加熱手段として、バーナーに代えて、電気ヒータを使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−234873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ガラス物品の製造装置で、電気ヒータを使用するためには、変圧器等の設備が必要となるため、製造コストが高騰する可能性があり、このような観点からは、加熱手段としてバーナーを使用することが好ましい。
【0008】
加熱手段としてバーナーを使用する場合、上記の問題を解決する方法としては、耐酸化性を有する耐火物を隔壁に使用することが考えられる。しかしながら、この場合には、隔壁が、炭化珪素質耐火物が有するような高い熱伝導性を得られない可能性がある。従来、隔壁としての炭化珪素質耐火物は、その高い熱伝導性から、成形室内の温度のムラを抑制し、成形体上を流れる溶融ガラスを均一に加熱する均熱板としての働きも有していた。従って、単に、耐酸化性を有する耐火物を隔壁に使用すると、この均熱板の働き(均熱作用)を隔壁が得られない可能性があり、溶融ガラスの成形に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、加熱手段としてバーナーを使用するガラス物品の製造装置において、隔壁に耐酸化性と共に均熱作用を付与することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るガラス物品の製造装置は、溶融ガラスを成形する成形体と、前記成形体が配置される成形室と、隔壁を介して前記成形室を加熱する燃焼室と、前記燃焼室を加熱するバーナーとを備えたガラス物品を製造する製造装置において、前記隔壁が、酸化物系耐火物から成る耐酸化性部と、前記耐酸化性部における前記成形室の側の少なくとも一部領域に配設され、前記耐酸化性部よりも熱伝導率が高い非酸化物系耐火物から成る均熱部とを備えていることに特徴づけられる。ここで、酸化物系耐火物とは、主原料として酸化物を含有する耐火物である(以下、同様)。また、非酸化物系耐火物とは、主原料として非酸化物を含有する耐火物である(以下、同様)。なお、主原料とは、質量%で、原料の中で最も多く含まれる原料である。
【0011】
この構成では、隔壁が、耐酸化性部と均熱部とで構成されている。耐酸化性部は、酸化されにくい酸化物系耐火物から成るので、耐酸化性を有する。そして、均熱部は、耐酸化性部よりも熱伝導率が高い非酸化物系耐火物から成るので、均熱作用を有する。均熱部の非酸化物系耐火物は、耐酸化性に劣るが、均熱部は、耐酸化性部における成形室側に配設されており、排ガスの残留酸素に接触しないので、酸化されにくい。このように、隔壁は、耐酸化性部と均熱部とで構成されることによって、耐酸化性と均熱作用を有する。すなわち、本発明のガラス物品の製造装置によれば、隔壁に耐酸化性と共に均熱作用を付与することができる。
【0012】
上記の構成において、前記非酸化物系耐火物が、炭化珪素質耐火物であることが好ましい。
【0013】
炭化珪素質耐火物は熱伝導率がより高いので、より確実に均熱作用を隔壁に付与することができる。
【0014】
上記の構成において、前記酸化物系耐火物が、アルミナジルコン質耐火物であることが好ましい。
【0015】
アルミナジルコン質耐火物は、酸化物系耐火物の中で熱伝導率が比較的高いので、更に均熱作用を隔壁に付与することができる。また、アルミナジルコン質耐火物は、耐熱性が高いので、隔壁の耐熱性を向上させることができる。
【0016】
上記の構成において、前記成形体が、傾斜した軸線の周りに回転駆動されるスリーブであることが好ましい。
【0017】
この構成であれば、所謂ダンナー方式の管状ガラスの製造装置となり、管状ガラスや棒状ガラスを製造することができる。
【0018】
上記の構成において、前記成形室が、前記スリーブの前記軸線に沿って、傾斜上方側に設けられる高温領域と傾斜下方側に設けられる低温領域を有し、少なくとも前記高温領域に、前記均熱部が配設されていることが好ましい。
【0019】
成形室において温度が高い方が、温度ムラができやすいので、均熱部の均熱作用がより有効となる。
【0020】
上記の構成において、前記成形室の底側のみに、前記均熱部が配設されていることが好ましい。
【0021】
成形室の底側に配設する場合、接着剤等を使用せず、載置するだけで配設することが可能であり、接着剤等を使用する場合でも、接着剤が乾燥するまで均熱部を支持する必要が無く、配設が容易である。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、加熱手段としてバーナーを使用するガラス物品の製造装置において、隔壁に耐酸化性と共に均熱作用を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す概略側面断面図である。
図2図1のA−A線矢視概略断面図である。
図3】ガラス物品の製造装置の変形例を示す概略側面断面図である。
図4】ガラス物品の製造装置の変形例を示す図1のA−A線矢視概略断面図に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す概略側面断面図であり、図2は、図1のA−A線矢視概略断面図である。このガラス物品の製造装置1は、所謂ダンナー方式の装置であり、管状ガラスGtを製造する。
【0026】
製造装置1は、溶融ガラスGmを成形する成形体2と、成形体2が配置される成形室3と、隔壁4を介して成形室3を加熱する燃焼室5と、燃焼室5を加熱するバーナー6とを備える。また、製造装置1は、成形体2に溶融ガラスGmを供給するフィーダ7と、製造装置1の外部空間から、成形室3と燃焼室5を区画する外壁8とを備える。
【0027】
成形体2は、水平面に対して傾斜した軸線の周りに回転駆動されるスリーブである。隔壁4は、本体部4aとその上方に設けられた天井部4bで構成される。バーナー6は、外壁8に複数取り付けられている。また、成形室3内の温度を検知するために、熱電対等の温度センサ9が成形室3内に複数設置されている。そして、外壁8には、バーナー6の排ガスを排出するための排出口8aが設けられている。また、外壁8の内面には、隔壁4の本体部4aを支持する支持壁部8bが設けられている。
【0028】
成形室3は、成形体2(スリーブ)の軸線に沿って、傾斜上方側(溶融ガラスGmの上流側)に設けられる高温領域と傾斜下方側(溶融ガラスGmの下流側)に設けられる低温領域を有する。図1の図示例では、成形室3内で、支持壁部8bの厚さ方向中央より左側が高温領域Hであり、支持壁部8bの厚さ方向中央より右側が低温領域Lである。高温領域の温度は、例えば1200〜900℃である。低温領域の温度は、例えば1100〜700℃である。
【0029】
製造装置1では、成形体2(スリーブ)の内孔から空気を噴出させつつ、成形体2をその軸線周りに回転させて、成形体2上にフィーダ7から溶融ガラスGmを供給し、成形体2上を流れた溶融ガラスGmを、不図示の管引き装置で横方向に牽引することで管状ガラスGtを製造する。
【0030】
本発明の特徴である隔壁4について、次に詳述する。
【0031】
隔壁4は、耐酸化性部10と、耐酸化性部10における成形室3の側の少なくとも一部領域に配設された均熱部11とを備えている。耐酸化性部10は、酸化物系耐火物から成る。均熱部11は、耐酸化性部10よりも熱伝導率が高い非酸化物系耐火物から成る。
【0032】
本実施形態では、均熱部11は、耐酸化性部10における成形室3の側の全領域に配設されている。しかし、本発明は、これに限定されず、図3に示すように、成形室3の高温領域(図3で左側)のみに、均熱部11が配設されていてもよい。また、図4に示すように、成形室3の底側(図4で下側)のみに、均熱部11が配設されていてもよい。
【0033】
均熱部11の耐酸化性部10への配設の方法は、特に限定されず、例えば、接着剤等を用いて接着してもよいし、底側のみに配設する場合には、載置するだけでもよい。
【0034】
耐酸化性部10に使用される酸化物系耐火物としては、例えば、アルミナジルコン質耐火物、ムライト質耐火物、アルミナ質耐火物等が挙げられる。なお、本実施形態のように、耐酸化性部10の全域に均熱部11が配設されている場合には、特に考慮する必要は無いが、耐酸化性部10の全域に均熱部11が配設されていない場合には、耐酸化性部10に使用される酸化物系耐火物は、溶融ガラスGmの揮発成分との反応が問題を生じないものが好ましい。
【0035】
本発明では、アルミナジルコン質耐火物は、Al23とZrO2とSiO2が合量で90mass%以上の耐火物とする。また、ムライト質耐火物は、ムライト(3Al23・2SiO2)が90mass%以上の耐火物とする。また、アルミナ質耐火物はAl23が80mass%以上の耐火物とする。
【0036】
均熱部11に使用される非酸化物系耐火物としては、例えば、炭化珪素質耐火物、窒化アルミニウム質耐火物、窒化珪素質耐火物等が挙げられる。なお、均熱部11に使用される非酸化物系耐火物は、溶融ガラスGmの揮発成分との反応が問題を生じない材質が好ましい。
【0037】
本発明では、炭化珪素質耐火物は、SiCが35mass%以上の耐火物とする。また、窒化アルミニウム質耐火物は、AlNが80mass%以上の耐火物とする。また、窒化珪素質耐火物は、Si34が15mass%以上の耐火物とする。
【0038】
均熱部11に使用される非酸化物系耐火物の熱伝導率は、8W/m・K以上が好ましく、10W/m・K以上がさらに好ましく、13W/m・K以上が最も好ましい。非酸化物系耐火物の熱伝導率が8W/m・K未満の場合、均熱作用が十分に得られない可能性がある。
【0039】
以上のように構成された本発明の製造装置1では以下の効果を享受できる。
【0040】
隔壁4が、耐酸化性部10と均熱部11とで構成されている。耐酸化性部10は、酸化されにくい酸化物系耐火物から成るので、耐酸化性を有する。そして、均熱部11は、耐酸化性部10よりも熱伝導率が高い非酸化物系耐火物から成るので、均熱作用を有する。均熱部11の非酸化物系耐火物は、耐酸化性に劣るが、均熱部11は、耐酸化性部10における成形室3側に配設されており、排ガスの残留酸素に接触しないので、酸化されにくい。このように、隔壁4は、耐酸化性部10と均熱部11とで構成されることによって、耐酸化性と均熱作用を有する。すなわち、本実施形態のガラス物品の製造装置1によれば、隔壁に耐酸化性と共に均熱作用を付与することができる。
【0041】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内で、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、ガラス物品の製造装置は、ダンナー方式で管状ガラスを製造するものであったが、本発明はこれに限定されること無く、例えば、オーバーフローダウンドロー方式等で板ガラスを製造するものであってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 ガラス物品の製造装置
2 成形体(スリーブ)
3 成形室
4 隔壁
5 燃焼室
6 バーナー
10 耐酸化性部
11 均熱部
Gm 溶融ガラス
Gt 管状ガラス(ガラス物品)
図1
図2
図3
図4