特許第6489519号(P6489519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489519
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】強化繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/74 20060101AFI20190318BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20190318BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   D06M11/74
   C08J5/06
   D06M101:40
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-216037(P2014-216037)
(22)【出願日】2014年10月23日
(65)【公開番号】特開2016-84547(P2016-84547A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】小向 拓治
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 麻季
(72)【発明者】
【氏名】輝平 広美
(72)【発明者】
【氏名】中井 勉之
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−076198(JP,A)
【文献】 特表2009−535530(JP,A)
【文献】 特表2010−531934(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/175319(WO,A1)
【文献】 特開2003−239171(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0151111(US,A1)
【文献】 特表2007−523033(JP,A)
【文献】 特表2013−511465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08 − 15/14
C01B 32/00 − 32/39
C08J 5/04 − 5/10
C08J 5/24
D01F 9/08 − 9/32
D06M 10/00 − 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 − 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、前記繊維表面に設けられた複数のカーボンナノチューブとからな、前記複数のカーボンナノチューブが介在物が無い状態で前記繊維表面に直接付着している複合素材と、前記複合素材表面を覆う樹脂組成物とを備える強化繊維の製造方法であって、
表面が露出した繊維束を、複数のカーボンナノチューブを含む分散液が収容されたCNT付着槽内に配置したガイドローラに巻き掛け、前記CNT付着槽内を走行させ、前記分散液に超音波による機械的エネルギーが付与された状態で前記表面が露出した繊維束を前記分散液に浸漬し、前記表面が露出した繊維束の繊維の表面に前記複数のカーボンナノチューブを付着し複合素材束を得る工程と、
前記複合素材束を、加熱により溶解した樹脂組成物が収容された樹脂被覆槽内に配置したガイドローラに巻き掛け、前記樹脂被覆槽内を走行させ、前記複合素材束を前記溶解した樹脂組成物に含浸させる工程と
を備えることを特徴とする強化繊維の製造方法
【請求項2】
前記繊維が、炭素繊維であることを特徴とする請求項記載の強化繊維の製造方法
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、長さ0.1〜50μmで、かつ、直径30nm以下の多層であることを特徴とする請求項1または2記載の強化繊維の製造方法
【請求項4】
前記樹脂組成物は、熱硬化性エポキシ樹脂または熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の強化繊維の製造方法。
【請求項5】
前記機械的エネルギーが付与されることにより、前記分散液中では、前記複数のカーボンナノチューブが分散する状態と凝集する状態とが常時発生する可逆的反応状態が作り出されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の強化繊維の製造方法。
【請求項6】
前記分散液は、分散剤を含有していないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の強化繊維の製造方法。
【請求項7】
前記複合素材束を得る工程の前に、繊維束を、樹脂除去剤が収容された樹脂除去槽内に配置したガイドローラに巻き掛け、前記樹脂除去槽内を走行させ、樹脂を除去して前記表面が露出した繊維束を得る工程をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の強化繊維の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂除去剤に超音波による機械的エネルギーが付与された状態で、前記繊維束を前記樹脂除去槽内を走行させることを特徴とする請求項7記載の強化繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維表面にカーボンナノチューブ(以下、「CNT」という)が付着した複合素材およびこれを用いた強化繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる複合素材では、繊維表面にCNTが均一に付着していることが、複合素材としての機能を発揮するうえでは望ましい。
【0003】
このような複合素材は、CNTがナノレベルで分散された溶液(明細書中ではCNTナノ分散液と略す場合がある)の中に繊維を投入し、繊維表面にCNTが付着した後、CNTナノ分散液中から繊維を引き上げ乾燥させることで製造されている。
【0004】
しかしながら、CNTはファンデルワールス力によりCNTナノ分散液中で不可逆に凝集するので、繊維表面にCNTを均一に付着させるには、CNTナノ分散液中に、多量に分散剤を投入してCNTの凝集を防止してCNTを分散させる必要がある。
【0005】
また、この分散に際しては、CNTナノ分散液に対して補助的に超音波照射が行われたり、攪拌が行われたりする(特許文献1参照)。分散剤はCNTの分散に必要であり、一般に前記複合素材の製造過程では必須のものとして使用されていた。
【0006】
その上、CNTナノ分散液には、前記分散剤に加えて、繊維表面にCNTを接着させるために接着剤やその他の添加剤等も投入されている。
【0007】
こうして製造された複合素材は、繊維にCNTが付着していることにより、繊維本来の機能だけでなく、複合素材としてCNT由来の電気導電性、熱伝導性、機械強度等が向上することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−59561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、繊維とCNTの間に、分散剤、接着剤や、その他の添加剤が介在することにより、CNTが大量に付着しているにもかかわらず、複合素材としての電気導電性、熱伝導性、機械強度等が、実用化の要求レベルに到達するには至っていない。
【0010】
本発明は、繊維本来の機能を発現可能とすると同時に、CNT由来の電気導電性、熱伝導性、機械強度等の機能を発揮することができる複合素材および強化繊維を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る複合素材は、繊維と、前記繊維表面に設けられた複数のカーボンナノチューブとからなる複合素材において、前記複数のカーボンナノチューブが、前記繊維表面に直接付着していることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る強化繊維は、複合素材と、前記複合素材表面を覆う樹脂組成物とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、CNTは、繊維表面に介在物無しの状態で付着しているので、繊維表面からCNTが剥離しにくい複合素材を得ることができる。したがって複合素材及び強化繊維は、繊維本来の機能を発現可能とすると同時に、CNT由来の電気導電性、熱伝導性、機械強度等の機能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る複合素材の概念図(1)である。
図2】第1実施形態に係る複合素材の概念図(2)である。
図3】第2実施形態に係る強化繊維の製造工程図である。
図4】実施例に係る複合素材のSEM写真である。
図5】比較例に係る繊維のSEM写真である。
図6】CNTが絡み合うことで互いに介在物無しで直接接触ないしは直接接続されてネットワーク構造を形成している複合素材のSEM写真である。
図7】界面接着強度の測定方法を示す模式図である。
図8】複合素材界面特性評価を行った後の試料表面のSEM写真であり、図8Aは比較例、図8Bは実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
1.第1実施形態
(1)構成
図1に示すように複合素材1は、繊維3と、当該繊維3の表面に設けられたCNT5とを備える。
【0017】
繊維3は、特に限定されず、炭素材料、樹脂材料、金属材料、セラミック材料などで形成することができる。本実施形態の場合、繊維3は炭素繊維が適用される。なお、本図では、繊維3は単本で図示されているが、複数本束ねて用いてもよい。繊維3は、特に限定されないが、ポリアクリルニトリル、レーヨン、ピッチなどの石油、石炭、コールタール由来の有機繊維や、木材や植物繊維由来の有機繊維の焼成によって得られる、直径が約3〜15μmの炭素繊維を例示することができる。
【0018】
CNT5は、繊維3の表面のほぼ全体で均等に分散して、繊維3の表面との境界に介在物無しの状態で当該表面に直接付着している(図2)。すなわち、CNT5は、繊維3表面との間に、界面活性剤などの分散剤や接着剤等が介在せず、直接繊維3表面に付着している。ここでいう付着とは、ファンデルワールス力による結合をいう。
【0019】
CNT5は、繊維3の表面に局所的に偏在する。この偏在により、繊維3表面は、CNT5から露出している。この「偏在」は、CNT5が繊維3の表面全体を均一には覆っていないことを示しているに過ぎず、CNT5の分散性の良否を示したものではない。
【0020】
CNT5は、絡み合うことで互いに介在物無しで直接接触ないしは直接接続されてネットワーク構造を形成しているのが好ましい。ここでいう接続とは、物理的な接続(単なる接触)を含む。さらに「直接接触ないし直接接続」とは複数のCNT5が単に介在物無しで単に接触している状態を含む他に、複数のCNT5が一体的になって接続している状態を含むものであり、限定して解釈されるべきではない。
【0021】
CNT5の長さは、0.1〜50μmであるのが好ましい。CNT5は長さが0.1μm以上であると、CNT5同士が絡まり合って直接接続される。またCNT5は長さが50μm以下であると、均等に分散しやすくなる。一方、CNT5は長さが0.1μm未満であるとCNT5同士が絡まりにくくなる。またCNT5は長さが50μm超であると凝集しやすくなる。
【0022】
CNT5は、平均直径約30nm以下であるのが好ましい。CNT5は直径が30nm以下であると、柔軟性に富み、繊維3表面の曲率に沿って変形するので、より確実に繊維3表面に付着することができる。一方、CNT5は直径が30nm超であると、柔軟性がなくなり、繊維3表面に沿って変形しにくくなるので、繊維3表面に付着しにくくなる。なおCNT5の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を用いて測定した平均直径とする。CNT5は、平均直径が約20nm以下であるのがより好ましい。
【0023】
CNT5は、繊維3に対して、0.001〜20wt%の濃度で繊維3表面に付着しているのが好ましい。CNT5が上記範囲内の濃度である場合、繊維3表面においてCNT5で覆われていない部分が形成される。このCNT5で覆われていない部分は、接着剤などで覆われておらず、繊維3表面が露出している。これにより繊維3は、CNT5によって機能が損なわれることがない。CNT5の濃度は、繊維3に対して、0.01〜10wt%であるのがより好ましい。
【0024】
(2)製造方法
次に、複合素材1の製造方法を説明する。複合素材1は、CNT5を作製し、次いで当該CNT5を含む分散液を作製し、当該分散液を用いて繊維3表面にCNT5を付着させることにより製造することができる。以下、各工程について順に説明する。
【0025】
(CNTの作製)
CNT5としては、例えば特開2007−126311号公報に記載されているような熱CVD法を用いてシリコン基板上にアルミ、鉄からなる触媒膜を成膜し、CNT5の成長のための触媒金属を微粒子化し、加熱雰囲気中で炭化水素ガスを触媒金属に接触させることにより製造したものを用いる。アーク放電法、レーザ蒸発法などその他の製造方法により得たCNT5を使用することも可能であるが、CNT5以外の不純物を極力含まないものを使用することが好ましい。この不純物についてはCNT5を製造した後、不活性ガス中での高温アニールにより除去してもかまわない。この製造例で製造したCNT5は、直径が30nm以下で長さが数100μmから数mmという高いアスペクト比と直線性とを備えている。CNT5は単層、多層を問わないが、好ましくは、多層である。
【0026】
(分散液の作製)
次に、上記のように製造されたCNT5を用いて、CNT5がナノ分散した分散液を作製する。ナノ分散とは、CNT5が1本ずつ物理的に分離して絡み合っていない状態で溶液中に分散している状態を言い、2以上のCNT5が束状に集合した集合物の割合が10%以下である状態を意味する。
【0027】
分散液は、上記のようにして作製されたCNT5を、溶媒に投入し、圧縮力、せん断力、衝撃力、摩擦力などの機械的エネルギーを付与することによりCNT5の分散の均一化を図る。機械的エネルギーは、例えば、攪拌機、ボールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、超音波分散機などによって付与し得る。
【0028】
溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類やトルエン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いることができる。分散液は、分散剤、界面活性剤、接着剤、添加剤等を含有していない。
【0029】
(CNTの付着)
上記のようにして作製した分散液中に繊維3を浸漬した状態で、当該分散液に上記と同様に機械的エネルギーを付与しながら繊維3表面にCNT5を付着させる。
【0030】
分散液に対して、機械的エネルギーを付与することにより、分散液中では、CNT5が分散する状態と凝集する状態とが常時発生する可逆的反応状態が作り出される。
【0031】
この可逆的反応状態にある分散液中に繊維3を浸漬すると、繊維3表面においてもCNT5の分散状態と凝集状態との可逆的反応状態が起こり、分散状態から凝集状態へ移る際に繊維3表面にCNT5が付着する。
【0032】
凝集する際は、CNT5にファンデルワールス力が作用しており、このファンデルワールス力により繊維3表面にCNT5が付着する。その後で、繊維3を分散液中から引き出し、乾燥させると、繊維3表面にCNT5が付着した複合素材1を得ることができる。
【0033】
(3)作用及び効果
本実施形態の場合、CNT5は、繊維3表面に介在物無しの状態で付着しているので、繊維3表面からCNT5が剥離しにくい複合素材1を得ることができる。したがって複合素材1は、繊維本来の機能を発現可能とすると同時に、CNT由来の電気導電性、熱伝導性、機械強度等の機能を発揮することができる。
【0034】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る、強化繊維としてのトウプリプレグについて説明する。トウプリプレグは、複合素材1を複数、例えば数千〜数万本程度束ねた複合素材束と、複合素材束の表面を覆う上記樹脂組成物とを備える。
【0035】
本実施形態に係るトウプリプレグは、市販のトウプリプレグ(CNTが付着していない)から樹脂組成物を取り除いて繊維を得、繊維表面にCNTを付着させて複合素材束を作製し、複合素材束を樹脂組成物で覆うことにより、作製することができる。以下、各工程について、図3を参照して説明する。
【0036】
図3に示すトウプリプレグ製造装置10は、樹脂除去槽11、CNT付着槽14、及び樹脂被覆槽20を備える。樹脂除去槽11には、樹脂除去剤12として例えば、メチルエチルケトン等の有機溶剤が収容されている。CNT付着槽14には、上記第1実施形態で示した分散液(本図中16)が収容されている。樹脂被覆槽20には、加熱により溶解した樹脂組成物22が収容されている。
【0037】
まず、市販のトウプリプレグ100を、樹脂除去槽11内に配置したガイドローラに巻き掛けて、所定の走行速度で走行させる。これにより市販のトウプリプレグ100を樹脂除去剤12に浸漬させ、樹脂組成物を除去する。このとき、上記機械的エネルギーを付与するのが好ましい。機械的エネルギーによりトウプリプレグ100がほつれ、効率的に樹脂組成物を取り除くことができる。このようにして樹脂組成物が取り除かれ、表面が露出した繊維の束(以下、「繊維束」という)102が得られる。
【0038】
上記繊維束102は、CNT付着槽14内に配置したガイドローラに巻き掛けられ、CNT付着槽14内を、所定の走行速度で走行する。これにより繊維束102を分散液16に浸漬させる。このとき、上記機械的エネルギーを付与することにより、繊維表面にCNTが効率的に付着する。このようにして複合素材束18が得られる。
【0039】
次いで、複合素材束18は、樹脂被覆槽20内に配置したガイドローラに巻き掛けられ、樹脂被覆槽20内を所定の走行速度で走行する。これにより、複合素材束18を、溶解した樹脂組成物22に含浸させる。樹脂組成物としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリカーボネイト等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることができる。これにより、表面が樹脂組成物で覆われた複合素材束18からなるトウプリプレグ24を得ることができる。
【0040】
本実施形態に係るトウプリプレグ24は、CNTが繊維の表面に直接付着しているので、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0041】
また、トウプリプレグ24は、繊維及び繊維表面に直接付着しているCNT5が、樹脂組成物で覆われている。したがってトウプリプレグ24は、樹脂組成物が繊維表面に直接付着しているCNTで補強されることにより、機械強度を向上することができる。
【0042】
本実施形態の場合、市販のトウプリプレグ(CNTが付着していない)100から樹脂組成物を取り除き、繊維3表面にCNTを付着させて複合素材束18を作製する手順を説明したが、本発明はこれに限らない。すなわち、樹脂組成物で覆われていない繊維であれば、樹脂組成物を取り除く工程を省略できることはいうまでもない。
【0043】
また本実施形態の場合、強化繊維は、例えば複合素材を数千〜数万本程度束ねた複合素材束を備える場合について説明したが、本発明はこれに限らず、1本の複合素材で形成することとしてもよい。
【0044】
3.実施例
(試料)
上記製造方法に示す手順で実施例に係る複合素材を作製した。CNTは熱CVD法によりシリコン基板上に直径10〜15nm、長さ100μm以上に成長させたMW−CNT(Multi-Walled Carbon Nanotubes、多層カーボンナノチューブ)を用いた。CNTの触媒残渣除去には硫酸と硝酸の3:1混酸を用い、洗浄後に濾過乾燥した。
【0045】
トウプリプレグは、直径7μmの炭素繊維を12000本束ねたトウプリプレグ(東レ(株)製、型番:T−700)を用いた。樹脂除去剤として、MEKを用いた。分散液は、溶媒としてメチルエチルケトンを用いた。分散液におけるCNT5の濃度は0.01wt%とした。樹脂組成物として、熱硬化性エポキシ樹脂を用いた。
【0046】
まず、トウプリプレグを樹脂除去剤に浸漬させ樹脂組成物を取り除き、繊維束を得た。このときのトウプリプレグの走行速度は1.5m/minとした。また、樹脂除去剤に、超音波により機械的エネルギーを付与した。
【0047】
次いで、繊維束を分散液に浸漬し、繊維にCNTが付着した複合素材束を得た。このときの繊維束の走行速度は1.5m/minとした。また、分散液に、超音波により機械的エネルギーを付与した。このようにして得られた複合素材のSEM写真を図4に示す。図4は、1本の複合素材の長さ方向に異なる4か所を撮影した写真である。
【0048】
このようにして実施例に係る複合素材を作製した。またCNTを付着する前の繊維を比較例とした。図5にCNTを付着する前の繊維のSEM写真を示す。
【0049】
また実施例1〜10とは別に、CNTをより多く付着させて作製した複合素材のSEM写真を、図6に示す。本図に示す複合素材1は、CNT5が、絡み合うことで互いに介在物無しで直接接触ないしは直接接続されてネットワーク構造を形成している。
【0050】
最後に、溶解した樹脂組成物に繊維束を浸漬し、トウプリプレグを得た。このときの繊維束の走行速度は1.5m/minとした。
【0051】
(評価)
得られたトウプリプレグをMEKで洗浄して、1本の強化繊維を取り出して試料とし、試料に対し、界面接着強度を測定した。界面接着強度は、複合材界面特性評価装置(東栄産業(株)製、HM410)を用いた。まず80℃雰囲気中で試料に、樹脂組成物でマイクロドロップレットを作製し、125℃×1時間の条件で加熱した。マイクロドロップレットは、樹脂組成物として熱硬化性エポキシ樹脂、及び熱可塑性樹脂(宇部興産(株)製、型番:ナイロン6(1013B))を用いて形成した。
【0052】
室温に冷却後、図7に示すように、試料30をブレード32で挟んだ。次いで、0.12mm/minの速度で試料30の長手方向(図中矢印方向)に試料30を移動させ、マイクロドロップレット34から試料30を引き抜くと共に、ロードセル(図示しない)で引き抜き時の最大荷重Fを測定した。測定は、室温、大気雰囲気下で、各試料につき5回ずつ行った。次式(1)により、界面せん断強度τを算出し、実施例及び比較例の界面接着強度を評価した。なお、下記式(1)中、F:引き抜き時の最大荷重、d:繊維径、L:マイクロドロップレットの引き抜き方向の長さである。
τ=F/(dπL)・・・(1)
【0053】
その結果を表1に示す。本表に示す通り、実施例1〜5に係る複合素材は、比較例1〜5に係る繊維に比べ、界面せん断強度が約10%、実施例6〜10に係る複合素材は、比較例6〜10に係る繊維に比べ約30%向上することが確認できた。実施例に係る複合素材は、繊維表面を覆っている熱硬化性エポキシ樹脂が、繊維の表面に直接付着しているCNTによって補強されることにより、界面せん断強度が向上したものと考えられる。
【0054】
また、実施例1〜10のそれぞれにおいて、比較例に比べ界面せん断強度が向上している。このことから、実施例に係る複合素材は、樹脂組成物の種類によらず、界面せん断強度を向上できるといえる。
【0055】
図8は、複合素材界面特性評価を行った後の実施例6〜10及び比較例6〜10に係る試料のマイクロドロップレットが剥離した部分のSEM写真である。実施例6〜10に係る複合素材の表面は、CNT及び樹脂組成物が剥がれ、一部の繊維表面が露出している。このことから、実施例6〜10の場合、104部分にCNTと有機的に結合している部分の熱可塑性樹脂が繊維表面に残存している様子が確認できることより、繊維表面に設けられた熱可塑性樹脂で形成されたマイクロドロップレットと、CNTが有機的に結合しているので、界面せん断強度が向上したといえる。
【0056】
一方、比較例6〜10の場合、繊維表面に設けられた熱可塑性樹脂で形成されたマイクロドロップレットが繊維と樹脂の界面で剥離していることから、熱可塑性樹脂で形成されたマイクロドロップレットは有機的に結合しているとはいえず、実施例に比べ、界面せん断強度が低下したものと考えられる。
【0057】
【表1】
【符号の説明】
【0058】
1 複合素材
3 繊維
5 カーボンナノチューブ(CNT)
18 複合素材束
24 トウプリプレグ(強化繊維)
102 繊維束
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8