(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る電力変換装置について、
図1〜
図7を参照しながら説明する。
【0019】
(全体構成)
図1は、第1の実施形態に係る電力変換装置の全体構成を示す図である。
図1に示すように、電力変換装置1は、蓄電池3から供給される直流電力を三相交流電力に変換して負荷である交流モータ2を駆動させるインバータである。ここで、交流モータ2は、電力変換装置1から供給される三相交流電力によって駆動する電動モータである。
【0020】
第1の実施形態に係る電力変換装置1、交流モータ2及び蓄電池3は、車両に搭載される空調システム(カーエアコン)に利用される。この場合において、交流モータ2は、上記空調システムの圧縮機(コンプレッサ)を駆動する。また、蓄電池3は、車両に搭載されるバッテリーである。
【0021】
図1に示すように、電力変換装置1は、制御部10と、電力変換回路11と、シャント抵抗素子12(判定用電圧検出部)と、基準電圧出力部13と、コンパレータ14と、を備えている。
【0022】
制御部10は、電力変換装置1の動作全体を司る。特に、制御部10は、電力変換回路11(後述)に駆動信号を出力してその駆動を制御するゲートドライバとして機能する。制御部10は、例えば、マイクロコンピュータ等によって実現される。
制御部10の具体的な機能については、
図2を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
電力変換回路11は、制御部10による制御信号に基づいて駆動することで、蓄電池3から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。ここで、電力変換回路11は、6個のスイッチング素子SWを有してなる。各スイッチング素子SWは、制御部10からの駆動信号(ゲート入力)に基づいて、電流を流すON状態、電流を遮断するOFF状態に切り替わる。三相交流をなすU相、V相、W相の各々に対応して、それぞれ2つのスイッチング素子SWが、高電位線α(蓄電池3の高電位側が接続される配線)と低電位線β(シャント抵抗素子12(後述)を通じて接地される配線)との間に直列に接続される。各スイッチング素子SWが規定されたタイミングでON/OFFを繰り返すことで、交流モータ2に三相(U相、V相、W相)の交流電力が供給される。
なお、スイッチング素子SWとしては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が代表的であるが、その他、バイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field effect transistor)等であってもよい。
【0024】
シャント抵抗素子12は、電力変換回路11と接地点との間に挿入された抵抗素子である。シャント抵抗素子12は、交流モータ2を駆動させるのに要する電流(モータ電流)を検出する目的で設けられる。具体的には、シャント抵抗素子12の端子間には、モータ電流に応じた電圧降下が生じる。この端子間電圧であるシャント電圧値Vsh(判定用電圧値)を読み取ることで、モータ電流を検出することができる。
なお、実際には、シャント抵抗素子12は、抵抗素子としての抵抗成分12bだけでなく、当該抵抗成分12bに浮遊するインダクタンス成分12aが存在する。この場合、シャント抵抗素子12の回路図は、
図1に示すように、インダクタンス成分12aと抵抗成分12bとが直列に接続された回路と等価である。
本実施形態において、抵抗成分12bは、1mΩ〜10mΩ程度であり、また、インダクタンス成分12aは、20nH〜40nH程度とされる。
【0025】
基準電圧出力部13は、予め規定された基準電圧を出力する。基準電圧出力部13が出力する基準電圧は、後述する第1判定閾値Vt1に相当する。
【0026】
コンパレータ14は、シャント電圧値Vshと、基準電圧である第1判定閾値Vt1と、を入力し、当該シャント電圧値Vshと第1判定閾値Vt1との大小関係に応じた判定信号を出力する。例えば、コンパレータ14は、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1を上回る場合は、判定信号“High”を出力し、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1以下である場合は、判定信号“Low”を出力する。
【0027】
(制御部の機能構成)
図2は、第1の実施形態に係る制御部の機能構成を示す図である。
図2に示すように、制御部10は、電力変換駆動制御部100と、動作停止指示部101と、判定部102と、永久停止処理部103と、再起動指示部104と、を備えている。
【0028】
電力変換駆動制御部100は、電力変換回路11(
図1)を構成する各スイッチング素子SW(
図1)に駆動信号を出力して直流から交流への電力変換を実施する。
動作停止指示部101は、検出されたシャント電圧値Vshが予め規定された第1判定閾値Vt1を上回った場合に、電力変換駆動制御部100に対し電力変換の運転停止を指示する。
判定部102は、動作停止指示部101による電力変換の運転停止後において、検出されたシャント電圧値Vshが、第1判定閾値Vt1よりも大きい第2判定閾値Vt2を上回っていたか否かを判定する。
永久停止処理部103は、判定部102による判定の結果、シャント電圧値Vshが第2判定閾値Vt2を上回っていた場合に、電力変換の運転再開(再起動)を制限する永久停止処理を施す。
再起動指示部104は、判定部102による判定の結果、シャント電圧値Vshが第2判定閾値Vt2以下であった場合には、電力変換駆動制御部100に対し電力変換の運転再開(再起動)を指示する。
【0029】
(過電流の要因)
図3は、第1の実施形態に係る電力変換装置において生じ得る過電流の要因を説明する第1の図である。
また、
図4は、第1の実施形態に係る電力変換装置において生じ得る過電流の要因を説明する第2の図である。
図3は、電力変換装置1において、「上下アーム直列短絡」に起因して過電流が生じた場合の例を示している。「上下アーム直列短絡」に起因する過電流とは、電力変換回路11を構成するスイッチング素子SWを通じて、高電位線αと低電位線βとが短絡された場合に生じる過電流のことを指す。
ここで、電力変換装置1の通常運転時においては、電力変換回路11の高電位線αと低電位線βとの間に直列に接続された2つのスイッチング素子SWのうち、少なくとも何れか一方が“OFF”となるように制御される。したがって、通常運転時においては、電力変換回路11の高電位線αと低電位線βとが短絡されることはない。しかし、何れかのスイッチング素子SWが故障して“OFF”が機能しなくなった場合、スイッチング素子SWを通じて高電位線αと低電位線βとが短絡される。
具体的には、
図3に示すように、高電位線αと低電位線βとの間に直列に接続された2つのスイッチング素子SWを通じて、当該高電位線αから低電位線βにかけ、「上下アーム直列短絡」に起因する過電流Io1が流れる。
【0030】
また、
図4は、電力変換装置1において、「モータを介した短絡」に起因して過電流が生じた場合の例を示している。「モータを介した短絡」に起因する過電流とは、電力変換装置1の負荷となる交流モータ2を通じて、高電位線αと低電位線βとが短絡された場合に生じる過電流のことを指す。
「モータを介した短絡」に起因する過電流は、例えば、機械的要因により交流モータ2の回転駆動がロックされる等して過負荷状態となった場合や、制御部10(
図1)からの駆動信号にノイズが重畳されスイッチング素子SWが誤動作した場合等に発生する。
具体的には、
図4に示すように、交流モータ2の内部に搭載されるコイル20を通じて、高電位線αから低電位線βにかけ、「モータを介した短絡」に起因する過電流Io2が流れる。
【0031】
(過電流の特性)
図5は、第1の実施形態に係る電力変換装置において生じ得る過電流の特性を説明する図である。
図5に示すグラフは、シャント抵抗素子12を流れる電流の経時的な推移を示している。
図5において、実線で示すグラフは、時刻t1で「上下アーム直列短絡」に起因する過電流Io1が発生した場合の電流の推移を示している。また、破線で示すグラフは、時刻t1で「モータを介した短絡」に起因する過電流Io2が発生した場合の電流の推移を示している。
【0032】
ここで、「上下アーム直列短絡」が発生した場合、高電位線αと低電位線βとがスイッチング素子SWを介して直接的に短絡されるため(
図3参照)、当該「上下アーム直列短絡」に起因する過電流Io1は、極めて急峻に変化する。
他方、「モータを介した短絡」が発生した場合、高電位線αと低電位線βとが交流モータ2内部のコイル20を経由して短絡されるため(
図4参照)、当該「モータを介した短絡」に起因する過電流Io2は、コイル20により過渡変動が抑制され、比較的緩やかに変化する。
したがって、
図5に示すように、「上下アーム直列短絡」に起因する過電流Io1の方が、「モータを介した短絡」に起因する過電流Io2に比べて急峻に増加する。
【0033】
(シャント電圧値の特性)
図6は、第1の実施形態に係るシャント電圧値の特性を説明する図である。
図6に示すグラフは、シャント抵抗素子12の端子間に生じるシャント電圧値Vshの経時的な推移を示している。
図6において、実線で示すグラフは、時刻t1で「上下アーム直列短絡」に起因する過電流Io1が流れた場合に生じるシャント電圧値Vsh1の推移を示している。また、破線で示すグラフは、時刻t1で「モータを介した短絡」に起因する過電流Io2が流れた場合に生じるシャント電圧値Vsh2の推移を示している。
【0034】
上述したように、本実施形態に係るシャント抵抗素子12は、浮遊するインダクタンス成分12aと抵抗素子としての抵抗成分12bとを有している(
図1参照)。ここで、インダクタンス成分12aのインダクタンスを「L」とすると、当該インダクタンス成分12aの端子間に生じる電圧VLは、「VL=L・di/dt」となる。ここで、「di/dt」は、インダクタンス成分12aに流れる電流(過電流Io1、Io2)の過渡的な変化量である。
また、抵抗成分12bの抵抗値を「R」とすると、抵抗成分12bの端子間に生じる電圧VRは、「VR=R・I」となる。ここで、「I」は、抵抗成分12bに流れる電流(過電流Io1、Io2)である。
したがって、シャント抵抗素子12の端子間に生じるシャント電圧値Vshは、以下の式(1)で表される。
【0035】
Vsh=VL+VR=L・di/dt+R・I・・・(1)
【0036】
このように、シャント抵抗素子12は、電流「I」と当該電流の変化量「di/dt」と、の両方に応じたシャント電圧値Vshを検出する。
【0037】
したがって、時刻t1で過電流Io1、Io2が流れた場合、電流「I」及び電流の変化量「di/dt」に基づいて、シャント電圧値Vshは、
図6に示すように推移する。即ち、過電流Io1、Io2が発生した時刻t1において電流の変化量「di/dt」が最も大きくなるため、シャント電圧値Vshは、上記「VL」に基づいて、時刻t1において瞬間的に上昇する。また、シャント電圧値Vshは、上記「VR」に基づいて、過電流Io1、Io2の電流値そのものによっても上昇する(式(1)参照)。
【0038】
しかしながら、上述した通り、「上下アーム直列短絡」に起因する過電流Io1の方が、「モータを介した短絡」に起因する過電流Io2に比べて急峻に変動するため、過電流Io1の方が電流の変化量「di/dt」が大きくなる。したがって、時刻t1直後においては、電流の変化量「di/dt」の分だけ、シャント電圧値Vsh1の方がシャント電圧値Vsh2よりも大きくなる。
【0039】
図6に示すように、第1判定閾値Vt1は、「上下アーム直列短絡」による過電流Io1に応じて生じたシャント電圧値Vsh1、及び、「モータを介した短絡」による過電流Io2に応じて生じたシャント電圧値Vsh2のいずれもが、時刻t1において当該第1判定閾値Vt1を上回るように予め規定されている。
一方、第2判定閾値Vt2は、「上下アーム直列短絡」による過電流Io1に応じて生じたシャント電圧値Vsh1のみが、時刻t1において当該第2判定閾値Vt2を上回るように予め規定されている。
【0040】
(制御部の処理フロー)
図7は、第1の実施形態に係る制御部の処理フローを示す図である。
図7に示す制御部10の処理フローは、電力変換装置1の起動前の段階から開始される。
まず、制御部10の電力変換駆動制御部100は、外部からの指示等に応じて、電力変換回路11を駆動させ、電力変換の運転を開始する(ステップS01)。電力変換駆動制御部100による電力変換の運転中においては、蓄電池3の直流電力が三相交流電力に変換され、交流モータ2に供給される。したがって、ステップS01以降、空調システムとしての通常運転がなされる。
【0041】
通常運転中、動作停止指示部101は、コンパレータ14(
図1)からの判定信号に基づいて、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1を上回っていないか否かを常時監視している(ステップS02)。ここで、コンパレータ14からの判定信号が“Low”であった場合(即ち、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1以下の場合(ステップS02:NO))、動作停止指示部101は、過電流が発生しておらず正常に運転できているものとみなし、何らの処理を行わない。したがって、電力変換駆動制御部100は、通常運転を継続する。
【0042】
一方、コンパレータ14からの判定信号が“High”であった場合(即ち、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1を上回った場合(ステップS02:YES))、動作停止指示部101は、過電流が発生した異常状態とみなし、直ちに、電力変換駆動制御部100に対し運転停止を指示する。運転停止の指示を受けた電力変換駆動制御部100は、電力変換の運転を緊急停止する(ステップS03)。
【0043】
動作停止指示部101による緊急停止がなされた後、判定部102は、第1判定閾値Vt1を上回った時点におけるシャント電圧値Vshが更に第2判定閾値Vt2を上回っていたか否かを判定する(ステップS04)。
ここで、シャント電圧値Vshが更に第2判定閾値Vt2を上回っていた場合(ステップS04:YES)、検出された過電流は、電流の変化量「di/dt」が大きいことから「上下アーム直列短絡」に起因して発生したものと想定される(
図6参照)。したがって、永久停止処理部103は、電力変換装置1の再起動を制限する永久停止処理を施す(ステップS07)。
これにより、電力変換装置1は“永久停止状態”となり、空調システムの利用者による再起動が制限される。したがって、電力変換装置1における更なる故障の発生や進行を防止することができる。
【0044】
一方、シャント電圧値Vshが更に第2判定閾値Vt2以下であった場合(ステップS04:NO)、電流の変化量「di/dt」が小さいことから、検出された過電流は、「モータを介した短絡」に起因して発生したものと想定される(
図6参照)。この場合、再起動指示部104は、まず、再起動回数N(初期値は“0”)をカウントアップし(ステップS05)、当該再起動回数Nが所定の規定回数Nth(例えば、“5”)を上回っていないか否かを判定する(ステップS06)。
再起動回数Nが規定回数Nth以下の場合、再起動指示部104は、電力変換駆動制御部100に対し、電力変換の運転再開を指示する。これにより、電力変換駆動制御部100による電力変換の運転が再開される(ステップS01)。
これにより、検出された過電流が「モータを介した短絡」に起因するものと判断された場合は、再起動指示部104により再起動が試みられる。したがって、過電流の要因が一過性のものであった場合は、自動的に通常運転が再開される。
【0045】
一方、再起動回数Nが規定回数Nthを上回った場合は、永久停止処理部103は、電力変換装置1の再起動を制限する永久停止処理を施す(ステップS07)。ここで、過電流が「モータを介した短絡」に起因して発生した場合であっても、その要因が一過性のものではない場合も考えられる。したがって、複数回(例えば5回)の再起動を試みた結果、いずれも過電流が検出され(ステップS02:YES)緊急停止された場合には、電力変換装置1に恒久的な不良要因が存在するものと判断し、永久停止処理が施される。
なお、再起動指示部104は、複数回(例えば5回)の再起動を試みる中で正常に再起動した場合(ステップS02:NO)には、再起動回数Nを初期値に戻す。
【0046】
(作用効果)
以上、第1の実施形態に係る電力変換装置1によれば、電流と当該電流の変化量と、の両方に応じたシャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1を上回った場合、動作停止指示部101が電力変換の運転停止を指示する。そして、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1よりも大きい第2判定閾値Vt2を上回った場合、永久停止処理部103が、電力変換の運転停止後において、電力変換の運転再開を制限する永久停止処理を施す。
このようにすることで、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vt1を上回り、過電流が検出された場合であっても、当該過電流が、第2判定閾値Vt2を上回っていた場合に限り永久停止処理が施される。したがって、再起動を試みれば正常に動作する可能性が高い場合にまで永久停止処理が施されることが無いので、利用者が所望に運転を再開させることができる。即ち、過電流が検出された場合において、利用者による再起動の制限を適切に行うことができる。
【0047】
また、第1の実施形態に係る電力変換装置1によれば、シャント電圧値Vshが第2判定閾値以下であった場合には、再起動指示部104が電力変換の運転再開を指示する。
このようにすることで、過電流が検出されて緊急停止した場合であっても、再起動を試みれば正常に動作する可能性が高い場合には、自動的に再起動がなされる。したがって、再起動にあたり利用者が操作する手間を軽減することができる。
【0048】
また、第1の実施形態に係る電力変換装置1によれば、再起動指示部104は、電力変換の運転停止後において、予め規定された所定回数(規定回数Nth)だけ再起動の指示を繰り返す。
このようにすることで、「モータを介した短絡」に起因する過電流が想定される場合に、その要因が一過性のものか否かを判断することができ、適切な処理を行うことができる。例えば、複数回の再起動に渡って過電流が検出された場合には、正常動作の見込みがないものと判断し、永久停止処理を通じて利用者に起動させないようにすることができる。
【0049】
また、第1の実施形態に係る電力変換装置1によれば、シャント抵抗素子12は、インダクタンス成分と抵抗成分とを含む単一の素子であることを特徴とする。
このようにすることで、シャント電圧値Vshが、電流の変化量「di/dt」に依存して変化する度合いが高まるため、過電流の要因が「上下アーム直列短絡」か、「モータを介した短絡」か、を精度よく切り分けることできる。また、単一の素子(シャント抵抗素子12)を設けるのみでよいので、搭載すべき部品数を少なくすることができ、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0050】
なお、第1の実施形態に係る制御部10の処理フロー(
図7)のステップS04において、判定部102が、時刻t1におけるシャント電圧値Vshが更に第2判定閾値Vt2を上回っているか否かを判定する具体的な手段としては、以下のような態様が考えられる。
例えば、基準電圧出力部13(
図1)とコンパレータ14(
図1)とは別に、同様の基準電圧出力部及びコンパレータの組を有しており、当該基準電圧出力部が第2判定閾値Vt2に相当する基準電圧を出力する態様としてもよい。この場合、判定部102は、第2判定閾値Vt2を比較対象とする上記コンパレータからの判定信号に基づいて、シャント電圧値Vshが第2判定閾値を上回っているか否かを判定する(ステップS04)。
また、判定部102は、別途設けられたA/D変換器を通じてシャント抵抗値Vshのサンプリング値を取得し、該当時刻(時刻t1)に取得されたサンプリング値を参照することで、上記判定処理を行ってもよい。
【0051】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る電力変換装置について、
図8、
図9を参照しながら説明する。
【0052】
(全体構成)
図8は、第2の実施形態に係る電力変換装置の全体構成を示す図である。
図8において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図8に示すように、第2の実施形態に係る電力変換装置1は、ホールド部15を備えている。
ホールド部15は、シャント電圧値Vshが第1判定閾値Vthを上回った時点から所定時間経過後のシャント電圧値Vshを保持する。具体的には、コンパレータ14からの判定信号“High”の入力をトリガとして、所定時間経過後のシャント電圧値Vshを取得して保持する。
【0053】
また、第2の実施形態に係る制御部10の機能構成は、第1の実施形態と同様であるため詳細な説明を省略する。ただし、第2の実施形態に係る判定部102(
図2)は、ホールド部15から保持値Vholdの入力を受け付けて、当該ホールド部15によって保持された保持値Vholdが第2判定閾値Vth2を上回っているか否かを判定する。
【0054】
図9は、第2の実施形態に係るシャント電圧値の特性を説明する図である。
図9に示すグラフは、シャント抵抗素子12の端子間に生じるシャント電圧値Vshの経時的な推移を示している。
図9において、実線で示すグラフは、時刻t1で「上下アーム直列短絡」に起因する過電流Io1が流れた場合に生じるシャント電圧値Vsh1の推移を示している。また、破線で示すグラフは、時刻t1で「モータを介した短絡」に起因する過電流Io2が流れた場合に生じるシャント電圧値Vsh2の推移を示している。
【0055】
第2の実施形態に係るホールド部15は、過電流の検出信号であるコンパレータ14からの判定信号“High”を時刻t1で受け付けると、当該時刻t1から所定時間経過後の時刻t2において、シャント電圧値Vshを保持する処理を行う(
図9参照)。一方、動作停止指示部101(
図2)は、コンパレータ14からの判定信号“High”に基づいて電力変換駆動制御部100に対し動作停止を指示する(
図7、ステップS03参照)。
ここで、動作停止指示部101による動作停止の指示の結果、電力変換駆動制御部100により実際に運転停止がなされる。そして、時刻t3において、過電流が流れなくなる(
図9参照)。ホールド部15は、判定信号“High”を受け付けた時刻t1から動作停止指示部101及び電力変換駆動制御部100によって実際に緊急停止がなされる時刻t3までの間に、シャント電圧値Vshの保持を行う(即ち、時刻t1<時刻t2<時刻t3の関係を有する)。
なお、第1の実施形態と同様に、シャント電圧値Vsh1とシャント電圧値vsh2とは、過電流が検出された時刻t1において電流の変化量「di/dt」に応じた電位差が生じている。この電位差は、時刻t1から所定時間経過後の時刻t2においても維持される。
【0056】
判定部102は、ステップS04(
図7)においてホールド部15によって保持された保持値Vhold(即ち、時刻t2におけるシャント電圧値Vsh)を取得して、当該保持値Vholdが、第2判定閾値Vt2を上回っているか否かを判定する。
【0057】
このように、第2の実施形態に係る電力変換装置1は、別途、ホールド部15を有することで、簡素な回路構成で精度よく、過電流の要因の切り分け(判定閾値Vt2を上回っているか否かの判定)を行うことができる。
【0058】
(各実施形態の変形例)
以上、第1、第2の実施形態に係る電力変換装置1について詳細に説明したが、電力変換装置1の具体的な態様は、上述のものに限定されることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を加えることは可能である。
【0059】
例えば、第1、第2の実施形態に係る電力変換装置1においては、シャント電圧値Vshが第2判定閾値Vt2以下であった場合には、再起動指示部104が電力変換の運転再開を指示するものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
例えば、電力変換装置1は、シャント電圧値Vshが第2判定閾値Vt2以下であった場合に自動的に運転再開を行うのではなく、単に、利用者に対し再起動の操作を促す態様であってもよい。
【0060】
また、第1、第2の実施形態に係る電力変換装置1においては、電流と当該電流の変化量と、の両方に応じた判定用電圧値を検出する判定用電圧検出部として、インダクタンス成分12aと抵抗成分12bとを含む単一のシャント抵抗素子12であるものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
他の実施形態に係る電力変換装置1においては、判定用電圧検出部として、例えば、抵抗素子とインダクタンス素子とを直列に接続した態様であってもよい。
【0061】
なお、上述の各実施形態においては、電力変換装置1の制御部10の各種機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各種処理を行うものとしている。ここで、上述した制御部10の各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
また、制御部10は、各種機能構成が単一の装置筐体に収められる態様に限定されず、制御部10が有する各種機能構成が、ネットワークで接続される複数の装置に渡って具備される態様であってもよい。
【0062】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものとする。