特許第6489621号(P6489621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6489621酸化亜鉛基板及びそれを用いた第13族窒化物結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489621
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】酸化亜鉛基板及びそれを用いた第13族窒化物結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20190318BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20190318BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20190318BHJP
   H01L 21/365 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B25/18
   C23C16/34
   !H01L21/365
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-546355(P2016-546355)
(86)(22)【出願日】2015年6月16日
(86)【国際出願番号】JP2015067290
(87)【国際公開番号】WO2016035417
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2017年12月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-180659(P2014-180659)
(32)【優先日】2014年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-60776(P2015-60776)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100202511
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 卓
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
(72)【発明者】
【氏名】倉岡 義孝
(72)【発明者】
【氏名】滑川 政彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尭之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆史
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 努
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/092163(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/092167(WO,A1)
【文献】 特開2010−212611(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/121000(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 16/00−16/56
H01L 21/365
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを0.1重量%以上含有する酸化亜鉛基板であって、その上にMOCVD法により第13族窒化物結晶を成長させるための基板として用いられ、前記酸化亜鉛基板を構成する結晶粒のアスペクト比が2.0以下である、酸化亜鉛基板。
【請求項2】
2Ω・cm以下の抵抗率を有する、請求項1に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項3】
平均粒径が10〜200μmの多結晶体である、請求項1又は2に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項4】
MgO相を異相として含まない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項5】
Al、Ga及びInからなる群から選択される1種以上のドーパント元素を0.05〜2重量%含有している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項6】
0.1Ω・cm以下の抵抗率を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項7】
基板面における(002)面の配向度、(100)面の配向度、(110)面の配向度、又は(100)面及び(110)の合計配向度が30%以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項8】
基板面における(100)面の配向度、(110)面の配向度、又は(100)面及び(110)面の合計配向度が40%以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項9】
基板面における(100)面の配向度、(110)面の配向度、又は(100)面及び(110)面の合計配向度が70%以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項10】
Mgの含有量が0.1〜5.0重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板を用意する工程と、
前記酸化亜鉛基板上に、GaAlIn1−x−yN(式中、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される第13族窒化物結晶をMOCVD法により成長させる工程と、
を含む、第13族窒化物結晶の製造方法。
【請求項12】
前記酸化亜鉛基板上に成長した前記第13族窒化物結晶の結晶方位が、前記酸化亜鉛基板を構成する酸化亜鉛粒子の結晶方位と概ね一致している、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化亜鉛基板の表面に、絶縁性の層を形成することなく、前記第13族窒化物結晶を成長させる、請求項11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛基板及びそれを用いた第13族窒化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)系発光素子等用の基板材料として、酸化亜鉛(ZnO)が注目されている(例えば特許文献1(国際公開第2014/092163号)参照)。これは、ZnOがGaNと格子定数が近いため、ZnO基板上に成長させたGaNの結晶品質の向上が期待されるためである。
【0003】
しかしながら、GaNとZnOは反応性が高いため、MOCVD法(有機金属気相成長法)を用いてGaNをZnO基板に成膜する場合、GaNとZnOの反応を抑制させることが望まれる。例えば、非特許文献1(Ray-Ming Lin et al., Proc. SPIE, 2010, vol. 7602, pp. 76021L-1-6)及び非特許文献2(S-J Wang et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 42 (2009) 245302)には、GaNとZnOの反応を抑制させて高品質なGaNを得るべく、予めAlNやAlのバッファ層をZnO基板上に成膜しておくことが提案されている。この場合、AlNやAlは絶縁性であるため、高効率かつ小型化に有利な縦型のLED構造を作製することは不可能であった。また、このような層の成膜は製造コストの増加につながるため、省略されることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/092163号
【特許文献2】特開2007−254206号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ray-Ming Lin et al., Proc. SPIE,2010, vol. 7602, pp. 76021L-1-6
【非特許文献2】S-J Wang et al., J. Phys. D:Appl. Phys. 42 (2009) 245302
【非特許文献3】Gui Han et. al., e-J. Surf. Sci.Nanotech. Vol. 7 (2009) 354-357
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、所定量のMgを含有する酸化亜鉛基板を用いることで、絶縁性の層を予め形成することなく、MOCVD法により、結晶性に優れた第13族窒化物結晶を基板上に成長させることができるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、絶縁性の層を予め形成することなく、MOCVD法により、結晶性に優れた第13族窒化物結晶を基板上に成長させることが可能な酸化亜鉛基板を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、Mgを0.1重量%以上含有する酸化亜鉛基板であって、その上にMOCVD法により第13族窒化物結晶を成長させるための基板として用いられる、酸化亜鉛基板が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、上記態様による酸化亜鉛基板を用意する工程と、
前記酸化亜鉛基板上に、GaAlIn1−x−yN(式中、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される第13族窒化物結晶をMOCVD法により成長させる工程と、
を含む、第13族窒化物結晶の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】例7で使用した結晶製造装置20の構成を示す概略模式図である。
図2図1に示されるスリット37の走査方法を説明する図である。
図3】例7において観察されたMOCVD−GaN膜の膜剥がれを撮影した画像であり、矢印が膜剥がれ箇所を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による酸化亜鉛基板は、Mgを0.1重量%以上含有する酸化亜鉛基板である。そして、このMg含有酸化亜鉛基板は、その上にMOCVD法により第13族窒化物結晶を成長させるための基板として用いられる。こうすることで、絶縁性の層を予め形成することなく、MOCVD法により、結晶性に優れた第13族窒化物結晶を基板上に成長させることが可能となる。
【0012】
すなわち、前述のとおり、ZnOはGaN等の第13族窒化物結晶と格子定数が近いため、酸化亜鉛基板上に成長させたGaNの結晶品質の向上が期待される。しかしながら、GaNとZnOは反応性が高いため、MOCVD法を用いてGaNをZnO基板に成膜する場合、GaNとZnOの反応を抑制させて高品質なGaNを得るためには、予めAlNやAlのバッファ層をZnO基板上に成膜しておくことが望まれていた(例えば、非特許文献1及び2)。しかし、この場合、AlNやAlは絶縁性であるため、高効率かつ小型化に有利な縦型のLED構造を作製することは不可能であった。かかる状況の下、本発明者らは、Mgを0.1重量%以上含有する酸化亜鉛基板を用いることで、絶縁性の層を予め形成することなく、MOCVD法により、結晶性に優れた第13族窒化物結晶を基板上に成長させることができるとの知見を得た。酸化亜鉛へのMgの含有及びMOCVD法の採用により第13族窒化物結晶の結晶性が向上するメカニズムは必ずしも明らかではないが、MgのZnOへの固溶により、MOCVDにおけるGaN成膜雰囲気におけるZnOの揮発やGaN等の第13族窒化物との反応性が抑制されるためではないかと推定される。
【0013】
ところで、第13族窒化物結晶は、第13族元素窒化物を主相とする結晶であれば特に限定されないが、好ましくは窒化ガリウム(GaN)系結晶、窒化アルミニウム(AlN)系結晶、窒化インジウム(InN)系結晶、特に好ましくは窒化ガリウム(GaN)系結晶である。また、第13族元素窒化物結晶は、例えばGaNにAlN、InN等を固溶させた混晶としてもよい。したがって、好ましい第13族元素窒化物はGaAlIn1−x−yN(式中、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される第13族窒化物結晶と表現することができ、より好ましくは0.5≦x≦1、0≦y≦0.5、さらに好ましくは0.7≦x≦1、0≦y≦0.3である。さらに、第13族元素窒化物結晶は、ノンドープの材料であってもよいし、p型ないしn型に制御するためのドーパントを適宜含むものであってよい。
【0014】
本発明による酸化亜鉛基板は、Mgを0.1重量%以上含有する。Mgが酸化亜鉛に一定量以上固溶されることで第13族窒化物結晶の結晶性向上効果が期待できる。従って、Mg含有量の上限は特に限定されない。Mgの含有量は、好ましくは0.1〜5.0重量%であり、より好ましくは0.5〜4.5重量%、さらに好ましくは1.0〜4.0重量%、特に好ましくは2.0〜4.0重量%である。このような範囲内であると異相であるMgO相の生成を防止又は抑制しつつ、Mgを酸化亜鉛に十分に固溶させることができる。その結果、MOCVD法により基板上に成膜される第13族窒化物結晶の結晶性をさらに向上させることができる。なお、スパッタリング法を用いれば、通常の固相反応と比較して、より多くの量(上記好ましい範囲を超えうる)のMgを異相(MgO相)を生成させることなくZnOに固溶可能である。
【0015】
このように、本発明の酸化亜鉛基板はMgO相を異相として含まないのが好ましい。MgO相を含まないことで、MOCVD法により基板上に成膜される第13族窒化物結晶の結晶性がさらに向上する。基板のMgO異相の有無は、酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRD装置(例えば、株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、2θ=20°〜80°の範囲にて、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより、評価することができる。ZnO(異種元素を固溶したものも含む)に起因するピークの最大値をm、MgO(異種元素を固溶したものも含む)に起因するピークの最大値をmとしたとき、m/m≦0.01となった場合に「MgO異相なし」と、m/m>0.01となった場合に「MgO異相あり」と判定すればよい。
【0016】
本発明による酸化亜鉛基板は、Al、Ga及びInからなる群から選択される1種以上のドーパント元素を0.05〜2重量%含有しているのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5重量%、さらに好ましくは0.2〜1.3重量%である。このようなドーパントの添加により、MOCVD法により基板上に成膜される第13族窒化物結晶の結晶性をさらに向上させることができる。また、基板に導電性を付与し、高効率かつ小型化が可能な縦型のLED構造を作製することが可能となる。なお、本発明の趣旨を損なわない範囲において酸化亜鉛基板がMg、Al、Ga及びIn以外の他の元素(n型ドーパント又はp型ドーパントでありうる)及び/又は不可避不純物が含有されていてもよいことはいうまでもない。
【0017】
本発明による酸化亜鉛基板は、2Ω・cm以下の抵抗率を有するのが好ましく、より好ましくは0.1Ω・cm未満、さらに好ましくは2×10−2Ω・cm未満である。抵抗率が低いほど酸化亜鉛基材は導電性基材として好ましく使用可能となる。したがって、基板に導電性を付与し、高効率かつ小型化が可能な縦型のLED構造を作製することが可能となる。
【0018】
本発明による酸化亜鉛基板は、単結晶体及び多結晶体のいずれであってもよいが、多結晶体の方が粒径を制御することでMOCVD法により基板上に成膜される第13族窒化物結晶の結晶性を向上しやすい点で好ましい。多結晶体である場合、酸化亜鉛基板は酸化亜鉛結晶粒子を含んで構成される。酸化亜鉛結晶粒子は酸化亜鉛を含んで構成される粒子であり、Mg及び上記ドーパント元素(すなわちAl、Ga及び/又はIn)は六方晶ウルツ鉱型構造のZnサイトやOサイトに置換されていてもよいし、結晶構造を構成しない添加元素として含まれていてもよいし、あるいは粒界に存在するものであってもよい。
【0019】
酸化亜鉛基板が多結晶体である場合、多結晶体の平均粒径(すなわち酸化亜鉛基板を構成する結晶粒の平均粒径)は10〜200μmが好ましく、より好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは50〜200μmである。これにより、MOCVD法により基板上に成膜される第13族窒化物結晶の結晶性をさらに向上させることができる。また、酸化亜鉛基板を構成する結晶粒のアスペクト比が2.0以下であるのが好ましく、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.4以下で、特に好ましくは1.0〜1.3である。このアスペクト比は、(酸化亜鉛基板の板面に平行な方向)/(酸化亜鉛基板の板面に垂直な方向)の長さ比であり、上記範囲内であるとMOCVD法により基板上に成膜される第13族窒化物結晶の結晶性がさらに向上するとの利点がある。
【0020】
本発明において、平均粒径及びアスペクト比は次のようにして決定することができる。すなわち、酸化亜鉛基板より約10mm角の試料を切り出し、板面と垂直な面を研磨し、濃度0.3Mの硝酸にて10秒間エッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影する。視野範囲は、円板面に平行及び垂直な直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とする。円板面に平行に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をaとし、同様に、円板面に垂直に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をaとし、(a+a)/2を平均粒径とし、a/aをアスペクト比とする。
【0021】
好ましい多結晶体は配向多結晶体である。配向多結晶体においては、酸化亜鉛基板を構成する結晶粒子が一定の方向に配向したものである。配向多結晶体の板面において配向する面方位は特に限定されるものではないが、(002)面であってもよいし、(100)面や(110)面であってもよいし、他の面であってもよい。
【0022】
本発明による酸化亜鉛基板は、基板面における(002)面の配向度、(100)面の配向度、(110)面の配向度、又は(100)面及び(110)面の合計配向度が30%以上であるのが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらにより好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、特により好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。これらの配向度が高いほど発光デバイスを作製した際の発光効率が向上するとの利点がある。
【0023】
特に、基板面における(100)面の配向度、(110)面の配向度、又は(100)面及び(110)面の合計配向度が30%以上であるのが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらにより好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、特により好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。このようにm面やa面に配向した酸化亜鉛基板上にMOCVD法でGaN膜を作製した場合、c面に配向した酸化亜鉛基板を用いた場合と比べて、MOCVD−GaN膜の結晶品質が良くなり、膜が剥がれにくくなるとの利点がある。膜の剥がれはLED構造を作製する際にリーク源となるため、少ない方が好ましい。また、剥がれの少ない結晶性の高いGaNを酸化亜鉛基板上に成膜可能となることで、特許文献2(特開2007−254206号公報)に記載されるような、フラックス法によるGaNの成長が可能となる。フラックス法でのGaN成長に用いられるNaフラックスは、酸化亜鉛との反応性が高く、高温で直接接触させると酸化亜鉛基板が溶解してしまうが、高結晶性のGaNを気相法により予め成膜しておくことで、これが種結晶として機能するだけでなく、酸化亜鉛基板の溶解を抑制するための保護層として機能する。MOCVD法GaN膜に剥がれがあると、剥がれ部よりNaフラックスが侵入し、ZnOと反応、溶解させてしまうため、剥がれ部は少ない方が好ましい。GaNと酸化亜鉛は格子定数及び熱膨張係数が近いため、酸化亜鉛基板を用いることで、フラックス法においても良好な品質のGaNを成長させることが可能となる。
【0024】
したがって、(002)面の配向度、(100)面の配向度、(110)面の配向度、又は(100)面及び(110)面の合計配向度の上限は特に限定されるべきではなく、理想的には100%である。この(002)面の配向度、(100)面の配向度、(110)面の配向度、又は(100)面及び(110)面の合計配向度は、XRD装置(株式会社リガク製 製品名「RINT−TTR III」)を用い、円板状酸化亜鉛系基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行うことができる。
【0025】
(002)面の配向度は、以下の式により算出することができる(ただし、I(102)とI(110)が無視可能なレベルの場合、省略可能である)。
【数1】
【0026】
また、(100)面の配向度は、以下の式により算出することができる(ただし、I(102)とI(110)が無視可能なレベルの場合、省略可能である)。
【数2】
【0027】
さらに、(110)面の配向度は、以下の式により算出することができる(ただし、I(102)が無視可能なレベルの場合、省略可能である)。
【数3】
【0028】
さらに、(100)及び(110)面の合計配向度は、以下の式により算出することができる(ただし、I(102)が無視可能なレベルの場合、省略可能である)。
【数4】
【0029】
第13族窒化物結晶の製造方法
上述したとおり、本発明の酸化亜鉛基板を用いることで、MOCVD法により、結晶性に優れた第13族窒化物結晶を基板上に成長させることができる。すなわち、本発明による第13族窒化物結晶の製造は、上述した本発明の酸化亜鉛基板を用意し、この酸化亜鉛基板上に、GaAlIn1−x−yN(式中、0≦x≦1、0≦y≦1)で表される第13族窒化物結晶をMOCVD法により成長させることにより行われる。第13族窒化物結晶の詳細については前述したとおりである。
【0030】
MOCVD法は、酸化亜鉛基板上に第13族窒化物結晶をエピタキシャル成長させることが可能な公知の手順及び条件を適宜採用して行えばよい。例えば、窒化ガリウム系材料からなる第13族窒化物結晶を製造する場合、MOCVD装置内に、少なくともガリウム(Ga)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルガリウム)と窒素(N)を少なくとも含むガス(例えばアンモニア)を原料として基板上にフローさせ、水素、窒素又はその両方を含む雰囲気等において好ましくは450〜1200℃、より好ましくは600〜1100℃の温度範囲で成長させればよい。この場合、バンドギャップ制御のためインジウム(In)、アルミニウム(Al)、n型及びp型ドーパントとしてシリコン(Si)及びマグネシウム(Mg)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルインジウム、トリメチルアルミニウム、モノシラン、ジシラン、ビス−シクロペンタジエニルマグネシウム)を適宜導入して成膜を行ってもよい。
【0031】
本発明の酸化亜鉛基板を用いることで、酸化亜鉛基板の表面に、絶縁性の層を形成することなく、第13族窒化物結晶を成長させることができる。また、こうして酸化亜鉛基板上に成長した第13族窒化物結晶の結晶方位は、酸化亜鉛基板を構成する酸化亜鉛粒子の結晶方位と概ね一致しているのが好ましく、それにより、MOCVD法により基板上に成膜される第13族窒化物結晶の結晶性がさらに向上するとの利点がある。
【0032】
酸化亜鉛基板の製造方法
本発明による酸化亜鉛基板は、Mgを0.1重量%以上含有する酸化亜鉛基板が最終的に得られるかぎり、単結晶体、多結晶体、及び配向の有無を問わず、いかなる方法により製造されたものであってもよい。したがって、本発明による酸化亜鉛基板の製造は、Mgを酸化亜鉛に固溶させることが可能な公知の手順及び条件を適宜採用して行えばよい。
【0033】
例えば、酸化亜鉛基板の好ましい態様である配向多結晶酸化亜鉛基板(配向多結晶酸化亜鉛焼結体)は、以下に説明するように、原料に板状酸化亜鉛粉末を用いて成形及び焼結を行うことにより製造することができる。
【0034】
(1)板状酸化亜鉛粉末の作製
原料となる板状酸化亜鉛粉末は、後述する成形及び焼成工程によって配向焼結体(配向多結晶体)が得られる限り、いかなる方法により製造されたものであってもよい。
【0035】
例えば、(002)面配向焼結体を得るには、以下の製法を持って製造した板状酸化亜鉛粉末を原料として用いればよい。該板状酸化亜鉛粉末は、亜鉛イオン含有原料溶液を用いて溶液法により酸化亜鉛前駆体板状粒子を生成させる工程と、前駆体板状粒子を150℃/h以下の昇温速度で仮焼温度まで昇温させて仮焼し、複数の酸化亜鉛板状粒子からなる酸化亜鉛粉末を生成させる工程とを有する方法により作製することができる。
【0036】
(002)面配向焼結体を得るための板状酸化亜鉛粉末の製造方法においては、まず、亜鉛イオン含有原料溶液を用いて溶液法により酸化亜鉛前駆体板状粒子を生成させる。亜鉛イオン供給源の例としては、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の有機酸塩、亜鉛アルコキシド等が挙げられるが、硫酸亜鉛が後述する硫酸イオンも供給できる点で好ましい。溶液法による酸化亜鉛前駆体板状粒子の生成手法は特に限定されず公知の手法に従って行うことができる。
【0037】
原料溶液は水溶性有機物質及び硫酸イオンを含むのが多孔質として比表面積を大きくできる点で好ましい。水溶性有機物質の例としてはアルコール類、ポリオール類、ケトン類、ポリエーテル類、エステル類、カルボン酸類、ポリカルボン酸類、セルロース類、糖類、スルホン酸類、アミノ酸類、及びアミン類が挙げられ、より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、グルセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール、フェノール、カテコール、クレゾール等の芳香族アルコール、フルフリルアコール等の複素環を有するアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ポリオキシアルキレンエーテル、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等のエーテルあるいはポリエーテル類、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、グリシンエチルエステル等のエステル類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、酪酸、蓚酸、マロン酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、サリチル酸、安息香酸、アクリル酸、マレイン酸、グリセリン酸、エレオステアリン酸、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸−マレイン酸コポリマー等のカルボン酸、ポリカルボン酸、あるいはヒドロキシカルボン酸やその塩類、カルボキシメチルセルロース類、グルコース、ガラクトース等の単糖類、蔗糖、ラクトース、アミロース、キチン、セルロース等の多糖類、アルキルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、アルキルスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルスルホン酸、リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類やその塩類、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン等のアミノ酸、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブタノールアミン等のヒドロキシアミン類、トリメチルアミノエチルアルキルアミド、アルキルピリジニウム硫酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムハロゲン化物、アルキルベタイン、アルキルジエチレントリアミノ酢酸等が挙げられる。これらの水溶性有機物質の中でも、水酸基、カルボキシル基、アミノ基のうち少なくとも一種の官能基を有するものが好ましく、水酸基とカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸やその塩類が特に好ましく、例えばグルコン酸ナトリウム、酒石酸等が挙げられる。水溶性有機物質は、後述するアンモニア水が添加された原料溶液中に約0.001重量%〜約10重量%の範囲で共存させるのが好ましい。好ましい硫酸イオン供給源は、上述したとおり硫酸亜鉛である。原料溶液は前述したドーパント等の添加物質を更に含むものであってもよい。
【0038】
このとき、原料溶液は70〜100℃の前駆反応温度に加熱されるのが好ましく、より好ましくは80〜100℃である。また、この加熱後又はその間に原料溶液にアンモニア水が添加されるのが好ましく、アンモニア水が添加された原料溶液が70〜100℃で0.5〜10時間保持されるのが好ましく、より好ましくは80〜100℃で2〜8時間である。
【0039】
次に、前駆体板状粒子を150℃/h以下の昇温速度で仮焼温度まで昇温させて仮焼し、複数の酸化亜鉛板状粒子からなる酸化亜鉛粉末を生成させる。昇温速度を150℃/h以下と遅くすることで、前駆物質から酸化亜鉛に変化する際に前駆物質の結晶面が酸化亜鉛に引き継がれ易くなり、成形体における板状粒子の配向度が向上するものと考えられる。また、一次粒子同士の連結性が増大して板状粒子が崩れにくくなるとも考えられる。好ましい昇温速度は120℃/h以下であり、より好ましくは100℃/h以下であり、更に好ましくは50℃/h以下であり、特に好ましくは30℃/h以下であり、最も好ましくは15℃/h以下である。仮焼前に、酸化亜鉛前駆体粒子は洗浄、濾過及び乾燥されるのが好ましい。仮焼温度は水酸化亜鉛等の前駆化合物が酸化亜鉛に変化できる温度であれば特に限定されないが、好ましくは800〜1100℃、より好ましくは850〜1000℃であり、このような仮焼温度で前駆体板状粒子が好ましくは0〜3時間、より好ましくは0〜1時間保持される。このような温度保持条件であると水酸化亜鉛等の前駆化合物を酸化亜鉛により確実に変化させることができる。このような仮焼工程により、前駆体板状粒子が多くの気孔を有する板状酸化亜鉛粒子に変化する。上記に示した方法の他、公知の方法(例えば非特許文献3(Gui Han et. al., e-J. Surf. Sci. Nanotech. Vol. 7 (2009) 354-357)参照)も適用可能である。
【0040】
一方、(100)面配向焼結体を得るには、以下の製法を持って製造した板状酸化亜鉛粉末を原料として用いればよい。該板状酸化亜鉛粉末は、亜鉛塩水溶液にアルカリ水溶液を加えて60〜95℃で2〜10時間攪拌することにより沈殿物を析出させ、この沈殿物を洗浄及び乾燥し、さらに粉砕することにより得ることができる。亜鉛塩水溶液は、亜鉛イオンを含む水溶液であればよく、好ましくは、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等の亜鉛塩の水溶液である。アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液であるのが好ましい。亜鉛塩水溶液及びアルカリ水溶液の濃度及び混合比は特に限定されないが、モル濃度が同じ亜鉛塩水溶液及びアルカリ水溶液を同じ体積比で混合するのが好ましい。沈殿物の洗浄はイオン交換水で複数回行うのが好ましい。洗浄された沈殿物の乾燥は100〜300℃で行われるのが好ましい。乾燥された沈殿物は板状の酸化亜鉛一次粒子が凝集した球状の二次粒子であるため、粉砕工程に付されるのが好ましい。この粉砕は、洗浄された沈殿物にエタノール等の溶媒を加えてボールミルで1〜10時間行うのが好ましい。この粉砕によって、一次粒子としての板状酸化亜鉛粉末が得られる。こうして得られる板状酸化亜鉛粉末は、好ましくは0.1〜1.0μmであり、より好ましくは0.3〜0.8μmの体積基準D50平均粒径を有する。この体積基準D50平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0041】
ところで、後続の工程である配向成形体の作製に先立ち、Mgと、所望によりAl、Ga及びInからなる群から選択されるドーパント元素とが酸化亜鉛粉末に添加されるか、又はMg及び所望により上記ドーパント元素が酸化亜鉛粉末に予め含有されるのが好ましい。これらのドーパント元素はこれらの元素を含む化合物又はイオンの形態で酸化亜鉛粉末に添加すればよい。添加物質の添加方法は特に限定されないが、酸化亜鉛粉末の微細気孔の内部にまで添加物質を行き渡らせるため、(1)添加物質をナノ粒子等の微細粉末の形態で酸化亜鉛粉末に添加する方法、(2)添加物質を溶媒に溶解させた後に酸化亜鉛粉末を添加し、この溶液を乾燥する方法等が好ましく例示される。Mgを含む添加物質(例えば酸化マグネシウム)は、最終的に得られる酸化亜鉛基板におけるMg含有量が0.1重量%以上、好ましくは0.1〜5.0重量%、より好ましくは0.1〜4.5重量%、さらに好ましくは1.0〜4.0重量%、特に好ましくは2.0〜4.0重量%となるような量で添加すればよい。Al、Ga及びInからなる群から選択される1種以上のドーパント元素を含む添加物質が添加される場合は、最終的に得られる酸化亜鉛基板におけるドーパント元素含有量が0.05〜2重量%以上、より好ましくは0.1〜1.5重量%、さらに好ましくは0.2〜1.3重量%となるような量で添加すればよい。
【0042】
(2)成形及び焼成工程
上記の方法で製造した板状酸化亜鉛粉末をせん断力を用いた手法により配向させ、配向成形体とする。このとき、板状酸化亜鉛粉末に、ドーパント用の金属酸化物粉末(例えばα−Al粉末)等の他の元素又は成分を添加してもよい。せん断力を用いた手法の好ましい例としては、テープ成形、押出し成形、ドクターブレード法、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。せん断力を用いた配向手法は、上記例示したいずれの手法においても、板状酸化亜鉛粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、基板上にシート状に吐出及び成形するのが好ましい。吐出口のスリット幅は10〜400μmとするのが好ましい。なお、分散媒の量はスラリー粘度が5000〜100000cPとなるような量にするのが好ましく、より好ましくは8000〜60000cPである。シート状に成形した配向成形体の厚さは5〜300μmであるのが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。このシート状に成形した配向成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さを有する前駆積層体とし、この前駆積層体にプレス成形を施すのが好ましい。このプレス成形は前駆積層体を真空パック等で包装して、50〜95℃の温水中で10〜2000kgf/cmの圧力で静水圧プレスにより好ましく行うことができる。また、押出し成形を用いる場合には、金型内の流路の設計により、金型内で細い吐出口を通過した後、シート状の成形体が金型内で一体化され、積層された状態で成形体が排出されるようにしてもよい。得られた成形体には公知の条件に従い脱脂を施すのが好ましい。
【0043】
上記のようにして得られた配向成形体は1000〜1500℃、好ましくは1100〜1400℃の焼成温度で焼成されて、酸化亜鉛結晶粒子を配向して含んでなる酸化亜鉛焼結体を形成する。上記焼成温度での焼成時間は特に限定されないが、好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。こうして得られた酸化亜鉛焼結体は、前述した原料となる板状酸化亜鉛粉末の種類により(100)面、(002)面等に配向した配向焼結体、すなわち配向多結晶酸化亜鉛基板となる。その配向度は高いものであり、好ましくは基板表面における50%以上であるのが好ましく、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0045】
例1
(1)酸化亜鉛基板の作製
市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)99.5重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)0.5重量部とを、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。得られたスラリーをロータリーエバポレーターにて乾燥し、混合粉末を得た。得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0046】
(2)酸化亜鉛基板の評価
こうして作製された酸化亜鉛基板に対して以下に示す各種評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0047】
<定量分析>
基板のMg含有量及び3B族元素含有量をICP(誘導結合プラズマ)発光分光法により測定した。
【0048】
<平均粒径>
基板の平均粒径は、基板より約10mm角の試料を切り出し、板面と垂直な面を研磨し、濃度0.3Mの硝酸にて10秒間エッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、板面に平行及び垂直な直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。板面に平行に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をaとし、同様に、板面に垂直に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をaとし、(a+a)/2を平均粒径とした。
【0049】
<抵抗率>
基板の抵抗率は、抵抗率計(三菱化学製、ロレスタGP MCP−T610型)を用いて四探針法により測定した。
【0050】
<MgO異相の有無>
基板のMgO異相の有無は、酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRD装置(株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、2θ=20°〜80°の範囲にて、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより、評価した。ZnO(異種元素を固溶したものも含む)に起因するピークの最大値をm、MgO(異種元素を固溶したものも含む)に起因するピークの最大値をmとしたとき、m/m≦0.01となった場合に「MgO異相なし」と、m/m>0.01となった場合に「MgO異相あり」と判定した。
【0051】
(3)MOCVD−GaNの成膜
MOCVD法を用い、TMG(トリメチルガリウム)及びNH(アンモニア)を原料ガスとして、かつ、Nをキャリアガスとして、基板温度800℃にて、ZnO基板上にGaNを約4μm堆積した。
【0052】
(4)GaN結晶性の評価
顕微ラマン分光装置(堀場製作所製ARAMIS)を用い、波長532nmのレーザー光にて、568cm−1付近のGaN E2フォノンによるラマンピークについて、半値幅を測定した。半値幅は32cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0053】
例2
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)92.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)8.0重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は35cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0054】
例3(比較)
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)99.95重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)0.05重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、明瞭なGaN E2フォノンによるラマンピークは観測されず、GaNの結晶性は低かった。
【0055】
例4
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)85.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)14.2重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は82cm−1であり、良好な結晶性を示した。
【0056】
例5
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部とし、HIP処理の温度を1400℃としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は28cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0057】
例6
HIP処理の温度を1200℃としたこと以外、例5と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は42cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0058】
例7
市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部とを、エタノールを溶媒としてボールミルにて4h混合した。混合物を乾燥した後、1400℃で5時間熱処理した。得られた粉末を乳鉢で粗解砕した後、アルミナ製ボールを用いてボールミルにより体積基準D50平均粒径1μmまで粉砕した。
【0059】
上記で得られた粉末を、種基板として酸化亜鉛単結晶基板(10mm×10mm角、c板)を用いて、図1に示される結晶製造装置20によりMgO固溶酸化亜鉛単結晶を製造した。この装置は、チャンバー内温度が1200℃に対応する、エアロゾルデポジション(AD)法により結晶を製造する装置である。この結晶製造装置20は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部22と、原料粉末を種基板21に噴射して原料成分を含む膜を形成すると共にこの膜を結晶化させる結晶生成部30とを備えている。エアロゾル生成部22は、原料粉末を収容し図示しないガスボンベからの搬送ガスの供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室23と、生成したエアロゾルを結晶生成部30へ供給する原料供給管24とを備えている。原料供給管24の結晶生成部30側には、エアロゾルを予備加熱する予備加熱ヒーター26が配設されており、予備加熱したエアロゾルが結晶生成部30へ供給されるようになっている。結晶生成部30は、種基板21にエアロゾルを噴射する真空チャンバー31と、真空チャンバー31内に設けられた部屋状の断熱材32と、断熱材32の内部に配設され種基板21を固定する基板ホルダ34と、基板ホルダ34をX軸−Y軸方向に移動するX−Yステージ33とを備えている。また、結晶生成部30は、断熱材32の内部に配設され種基板21を加熱する加熱部35と、先端にスリット37が形成されエアロゾルを種基板21へ噴射する噴射ノズル36と、真空チャンバー31を減圧する真空ポンプ38とを備えている。この結晶製造装置20では、真空チャンバー31内において、原料粉末が単結晶化する温度での加熱処理を行えるように、石英ガラスやセラミックスなどの部材を用いて各々が構成されている。
【0060】
この装置において、エアロゾルの噴射は、搬送ガス及び圧力調整ガスとしてHeを用い、長辺5mm×短辺0.4mmのスリット37が形成されたセラミックス製のノズル36を用いて行った。その際、ノズル36は0.5mm/sのスキャン速度でスキャンさせた。このスキャンは、図2に示されるように、スリット37の長辺に対して垂直且つ進む方向に10mm移動させ(第1成膜領域21a)、スリット37の長辺方向に5mm移動させ、スリット37の長辺に対して垂直且つ戻る方向に10mm移動させ(第2成膜領域21b)、スリット37の長辺方向且つ初期位置方向に5mm移動させるサイクルを200サイクル繰り返すことにより行った。室温での1サイクルの製膜において、搬送ガスの設定圧力を0.06MPa、流量を6L/min、チャンバー内圧力を100Pa以下に調整した。結晶成長条件として、単結晶が成長する温度であるチャンバー成膜室の温度を1200℃とした。得られた単結晶基板の厚さは0.5mmであった。
【0061】
得られた単結晶基板(MgO固溶酸化亜鉛単結晶成長面)上にMOCVD法を用い、TMG(トリメチルガリウム)及びNH(アンモニア)を原料ガスとして、かつ、Nをキャリアガスとして、基板温度800℃にて、GaNを約4μm堆積した。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は50cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0062】
例8
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al粉末(比表面積82m/g)2.0重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は26cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0063】
例9
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部と、市販の高純度Ga粉末(比表面積5.3m/g)0.1重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は28cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0064】
例10
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部と、市販の高純度In粉末(比表面積4.2m/g)0.3重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は25cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0065】
例11
MOCVD成膜温度を700℃としたこと以外、例5と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は39cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0066】
例12
MOCVD成膜温度を900℃としたこと以外、例5と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は22cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0067】
例13
硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)1730gとグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)4.5gをイオン交換水3000gに溶解した。この溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱した。この溶液を90℃に保持し且つ攪拌しながら、25%アンモニウム水490gをマイクロチューブポンプにて滴下した。滴下終了後、90℃にて攪拌しながら4時間保持した後、静置した。沈殿物をろ過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質をジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、板状多孔質酸化亜鉛粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。得られた板状酸化亜鉛粉末をZrO製ボールを用い、ボールミルにて平均粒径1.0μmまで粉砕した。
【0068】
上記の方法により得た酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al粉末(比表面積82m/g)0.6重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。こうして得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0069】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1と同様にして評価を行うとともに、配向度及びアスペクト比の評価も以下のとおり行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は29cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。酸化亜鉛基板を構成する粒子のアスペクト比は1.1と小さかった。
【0070】
<(002)配向度>
基板配向度は酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRDにより(002)面の配向度を測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製 製品名「RINT−TTR III」)を用い、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行った。(002)配向度は、以下の式により算出した(ただし、本例ではI(102)とI(110)は無視可能なレベルとして省略可能である)。
【数5】
【0071】
<アスペクト比>
基板の平均粒径測定時に求めたa及びaを用い、a/aをアスペクト比とした。
【0072】
例14
硝酸亜鉛六水和物(関東化学株式会社製)を用いて、濃度0.1MのZn(NO水溶液を作製した。また、水酸化ナトリウム(シグマアルドリッチ社製)を用いて、濃度0.1MのNaOH水溶液を作製した。NaOH水溶液に対し、Zn(NO水溶液を体積比1:1で混合し、攪拌しながら80℃で6時間保持して、沈殿物を得た。沈殿物をイオン交換水で3回洗浄した後、乾燥することで、板状の酸化亜鉛一次粒子が凝集した球状の二次粒子を得た。続いて、直径2mmのZrO製ボールを用い、エタノールを溶媒として、ボールミル粉砕処理を3時間行うことにより、酸化亜鉛二次粒子を体積基準D50平均粒径0.6μmの板状一次粒子へと粉砕した。
【0073】
上記の方法により得た酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al粉末(比表面積82m/g)0.15重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。こうして得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0074】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1と同様にして評価を行うとともに、例13と同様にして粒子アスペクト比を測定した。また、配向度の評価を以下のとおり行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は31cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。粒子アスペクト比は1.3と小さかった。
【0075】
<(100)配向度>
基板配向度は酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRDにより(100)面の配向度を測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製 製品名「RINT−TTR III」)を用い、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行った。(100)配向度は、以下の式により算出した(ただし、本例ではI(102)とI(110)は無視可能なレベルとして省略可能である)。
【数6】
【0076】
例15
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部とし、HIP処理の温度を1450℃としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は24cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0077】
例16
硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)1730gとグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)4.5gをイオン交換水3000gに溶解した。この溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱した。この溶液を90℃に保持し且つ攪拌しながら、25%アンモニウム水490gをマイクロチューブポンプにて滴下した。滴下終了後、90℃にて攪拌しながら4時間保持した後、静置した。沈殿物をろ過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質のうち100gをジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、65gの板状多孔質酸化亜鉛粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。得られた板状酸化亜鉛粉末をZrO製ボールを用い、ボールミルにて平均粒径0.5μmまで粉砕した。
【0078】
上記の方法により得た酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al粉末(比表面積82m/g)0.6重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4h混合した。得られたスラリーをロータリーエバポレーターにて乾燥し、混合粉末を得た。得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが3μmとなるようにシート状に成形した。得られたシート状成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、シート状のZnO質焼結体を得た。これをポットミルで粉砕し、厚さ2.0μm、板面方向の大きさが7μm程度の板状粉末を得た。
【0079】
こうして得られた板状粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1400℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0080】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1及び13と同様にして評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、酸化亜鉛基板を構成する粒子のアスペクト比は3.0と大きかった。GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は40cm−1と小さく、良好な結晶性を示したが、粒子アスペクト比が2.0以下と小さい例13及び14の酸化亜鉛基板よりは結晶性が劣るものであった。
【0081】
酸化亜鉛基板の粒子アスペクト比が小さい方がGaNの結晶性が向上する理由は明らかでないが、ZnO粒子のアスペクト比が小さい方がZnO粒子内に応力が蓄積されにくく、その上に成長するGaNの歪を低減させているものと考えられる。
【0082】
例17
例13と同様にして板状酸化亜鉛粒子を作製した。この酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al粉末(比表面積82m/g)0.6重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。こうして得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを、8mm×65mmの短冊状に多数切断し、約650枚を積層し、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、65mm×8mm×65mmの成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、角板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体を厚さ方向にスライス、又周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0083】
<(100)及び(110)合計配向度>
例17の基板に対しては、酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRDにより(100)面及び(110)面の合計配向度を測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製 製品名「RINT−TTR III」)を用い、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行った。(100)面及び(110)面の合計配向度は、以下の式により算出した。
【数7】
【0084】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1と同様にして評価を行った。結果は表に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は28cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0085】
例18
板状酸化亜鉛をボールミルにて平均粒径0.1μmまで粉砕したこと以外は例17と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は35cm−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0086】
MOCVD−GaN膜剥がれ箇所の評価
例7、13、14、17及び18において、酸化亜鉛基板上にMOCVDにてGaN層を成膜したサンプルの表面を光学顕微鏡にて、1mm四方の視野で5視野観察し、膜剥がれ箇所の平均個数を求めた。
【0087】
単結晶基板に関する例7においては、図3において矢印で示されるような膜剥がれが観察された。5視野での平均膜剥がれ箇所は9箇所であった。一方、(002)面配向多結晶基板に関する例13では平均膜剥がれ箇所は4箇所であった。また、(100)面配向、又は(100)及び(110)面配向の配向多結晶基板に関する例14、例17及び例18では、膜剥がれは観察されなかった。理由は明らかでないが、単結晶と比較して多結晶の方が膜にかかる応力が低減すると共に、(002)面配向よりも、(100)面配向、又は(100)及び(110)面配向の方が、粒子と膜の密着性が高くなり、膜が剥がれにくくなったものと推測される。膜の剥がれはLED構造を作製する際にリーク源となるため、少ない方が好ましい。また、剥がれの少ない結晶性の高いGaNを酸化亜鉛基板上に成膜可能となることで、特許文献2(特開2007−254206号公報)に記載されるような、フラックス法によるGaNの成長が可能となる。フラックス法でのGaN成長に用いられるNaフラックスは、酸化亜鉛との反応性が高く、高温で直接接触させると酸化亜鉛基板が溶解してしまうが、高結晶性のGaNを気相法により予め成膜しておくことで、これが種結晶として機能するだけでなく、酸化亜鉛基板の溶解を抑制するための保護層として機能する。MOCVD法GaN膜に剥がれがあると、剥がれ部よりNaフラックスが侵入し、ZnOと反応、溶解させてしまうため、剥がれ部は少ない方が好ましい。GaNと酸化亜鉛は格子定数及び熱膨張係数が近いため、酸化亜鉛基板を用いることで、フラックス法においても良好な品質のGaNを成長させることが可能となる。
【0088】
EBSDによる結晶方位評価
例1〜18において、GaN成膜後の試料の断面をEBSD(電子線後方散乱回折装置)にて確認した。その結果、例3を除く全ての例において、GaNの結晶方位は下地のZnOの粒子の結晶方位とほぼ一致していることが確認された。
【0089】
【表1】
図1
図2
図3