【実施例】
【0044】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0045】
例1
(1)酸化亜鉛基板の作製
市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)99.5重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)0.5重量部とを、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。得られたスラリーをロータリーエバポレーターにて乾燥し、混合粉末を得た。得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0046】
(2)酸化亜鉛基板の評価
こうして作製された酸化亜鉛基板に対して以下に示す各種評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0047】
<定量分析>
基板のMg含有量及び3B族元素含有量をICP(誘導結合プラズマ)発光分光法により測定した。
【0048】
<平均粒径>
基板の平均粒径は、基板より約10mm角の試料を切り出し、板面と垂直な面を研磨し、濃度0.3Mの硝酸にて10秒間エッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、板面に平行及び垂直な直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。板面に平行に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa
1とし、同様に、板面に垂直に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa
2とし、(a
1+a
2)/2を平均粒径とした。
【0049】
<抵抗率>
基板の抵抗率は、抵抗率計(三菱化学製、ロレスタGP MCP−T610型)を用いて四探針法により測定した。
【0050】
<MgO異相の有無>
基板のMgO異相の有無は、酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRD装置(株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、2θ=20°〜80°の範囲にて、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより、評価した。ZnO(異種元素を固溶したものも含む)に起因するピークの最大値をm
1、MgO(異種元素を固溶したものも含む)に起因するピークの最大値をm
2としたとき、m
2/m
1≦0.01となった場合に「MgO異相なし」と、m
2/m
1>0.01となった場合に「MgO異相あり」と判定した。
【0051】
(3)MOCVD−GaNの成膜
MOCVD法を用い、TMG(トリメチルガリウム)及びNH
3(アンモニア)を原料ガスとして、かつ、N
2をキャリアガスとして、基板温度800℃にて、ZnO基板上にGaNを約4μm堆積した。
【0052】
(4)GaN結晶性の評価
顕微ラマン分光装置(堀場製作所製ARAMIS)を用い、波長532nmのレーザー光にて、568cm
−1付近のGaN E2フォノンによるラマンピークについて、半値幅を測定した。半値幅は32cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0053】
例2
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)92.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)8.0重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は35cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0054】
例3(比較)
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)99.95重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)0.05重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、明瞭なGaN E2フォノンによるラマンピークは観測されず、GaNの結晶性は低かった。
【0055】
例4
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)85.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)14.2重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は82cm
−1であり、良好な結晶性を示した。
【0056】
例5
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部とし、HIP処理の温度を1400℃としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は28cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0057】
例6
HIP処理の温度を1200℃としたこと以外、例5と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は42cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0058】
例7
市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部とを、エタノールを溶媒としてボールミルにて4h混合した。混合物を乾燥した後、1400℃で5時間熱処理した。得られた粉末を乳鉢で粗解砕した後、アルミナ製ボールを用いてボールミルにより体積基準D
50平均粒径1μmまで粉砕した。
【0059】
上記で得られた粉末を、種基板として酸化亜鉛単結晶基板(10mm×10mm角、c板)を用いて、
図1に示される結晶製造装置20によりMgO固溶酸化亜鉛単結晶を製造した。この装置は、チャンバー内温度が1200℃に対応する、エアロゾルデポジション(AD)法により結晶を製造する装置である。この結晶製造装置20は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部22と、原料粉末を種基板21に噴射して原料成分を含む膜を形成すると共にこの膜を結晶化させる結晶生成部30とを備えている。エアロゾル生成部22は、原料粉末を収容し図示しないガスボンベからの搬送ガスの供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室23と、生成したエアロゾルを結晶生成部30へ供給する原料供給管24とを備えている。原料供給管24の結晶生成部30側には、エアロゾルを予備加熱する予備加熱ヒーター26が配設されており、予備加熱したエアロゾルが結晶生成部30へ供給されるようになっている。結晶生成部30は、種基板21にエアロゾルを噴射する真空チャンバー31と、真空チャンバー31内に設けられた部屋状の断熱材32と、断熱材32の内部に配設され種基板21を固定する基板ホルダ34と、基板ホルダ34をX軸−Y軸方向に移動するX−Yステージ33とを備えている。また、結晶生成部30は、断熱材32の内部に配設され種基板21を加熱する加熱部35と、先端にスリット37が形成されエアロゾルを種基板21へ噴射する噴射ノズル36と、真空チャンバー31を減圧する真空ポンプ38とを備えている。この結晶製造装置20では、真空チャンバー31内において、原料粉末が単結晶化する温度での加熱処理を行えるように、石英ガラスやセラミックスなどの部材を用いて各々が構成されている。
【0060】
この装置において、エアロゾルの噴射は、搬送ガス及び圧力調整ガスとしてHeを用い、長辺5mm×短辺0.4mmのスリット37が形成されたセラミックス製のノズル36を用いて行った。その際、ノズル36は0.5mm/sのスキャン速度でスキャンさせた。このスキャンは、
図2に示されるように、スリット37の長辺に対して垂直且つ進む方向に10mm移動させ(第1成膜領域21a)、スリット37の長辺方向に5mm移動させ、スリット37の長辺に対して垂直且つ戻る方向に10mm移動させ(第2成膜領域21b)、スリット37の長辺方向且つ初期位置方向に5mm移動させるサイクルを200サイクル繰り返すことにより行った。室温での1サイクルの製膜において、搬送ガスの設定圧力を0.06MPa、流量を6L/min、チャンバー内圧力を100Pa以下に調整した。結晶成長条件として、単結晶が成長する温度であるチャンバー成膜室の温度を1200℃とした。得られた単結晶基板の厚さは0.5mmであった。
【0061】
得られた単結晶基板(MgO固溶酸化亜鉛単結晶成長面)上にMOCVD法を用い、TMG(トリメチルガリウム)及びNH
3(アンモニア)を原料ガスとして、かつ、N
2をキャリアガスとして、基板温度800℃にて、GaNを約4μm堆積した。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は50cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0062】
例8
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al
2O
3粉末(比表面積82m
2/g)2.0重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は26cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0063】
例9
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部と、市販の高純度Ga
2O
3粉末(比表面積5.3m
2/g)0.1重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は28cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0064】
例10
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部と、市販の高純度In
2O
3粉末(比表面積4.2m
2/g)0.3重量部としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は25cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0065】
例11
MOCVD成膜温度を700℃としたこと以外、例5と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は39cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0066】
例12
MOCVD成膜温度を900℃としたこと以外、例5と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は22cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0067】
例13
硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)1730gとグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)4.5gをイオン交換水3000gに溶解した。この溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱した。この溶液を90℃に保持し且つ攪拌しながら、25%アンモニウム水490gをマイクロチューブポンプにて滴下した。滴下終了後、90℃にて攪拌しながら4時間保持した後、静置した。沈殿物をろ過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質をジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、板状多孔質酸化亜鉛粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。得られた板状酸化亜鉛粉末をZrO
2製ボールを用い、ボールミルにて平均粒径1.0μmまで粉砕した。
【0068】
上記の方法により得た酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al
2O
3粉末(比表面積82m
2/g)0.6重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。こうして得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0069】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1と同様にして評価を行うとともに、配向度及びアスペクト比の評価も以下のとおり行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は29cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。酸化亜鉛基板を構成する粒子のアスペクト比は1.1と小さかった。
【0070】
<(002)配向度>
基板配向度は酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRDにより(002)面の配向度を測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製 製品名「RINT−TTR III」)を用い、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行った。(002)配向度は、以下の式により算出した(ただし、本例ではI
0(102)とI
0(110)は無視可能なレベルとして省略可能である)。
【数5】
【0071】
<アスペクト比>
基板の平均粒径測定時に求めたa
1及びa
2を用い、a
1/a
2をアスペクト比とした。
【0072】
例14
硝酸亜鉛六水和物(関東化学株式会社製)を用いて、濃度0.1MのZn(NO
3)
2水溶液を作製した。また、水酸化ナトリウム(シグマアルドリッチ社製)を用いて、濃度0.1MのNaOH水溶液を作製した。NaOH水溶液に対し、Zn(NO
3)
2水溶液を体積比1:1で混合し、攪拌しながら80℃で6時間保持して、沈殿物を得た。沈殿物をイオン交換水で3回洗浄した後、乾燥することで、板状の酸化亜鉛一次粒子が凝集した球状の二次粒子を得た。続いて、直径2mmのZrO
2製ボールを用い、エタノールを溶媒として、ボールミル粉砕処理を3時間行うことにより、酸化亜鉛二次粒子を体積基準D
50平均粒径0.6μmの板状一次粒子へと粉砕した。
【0073】
上記の方法により得た酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al
2O
3粉末(比表面積82m
2/g)0.15重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。こうして得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0074】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1と同様にして評価を行うとともに、例13と同様にして粒子アスペクト比を測定した。また、配向度の評価を以下のとおり行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は31cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。粒子アスペクト比は1.3と小さかった。
【0075】
<(100)配向度>
基板配向度は酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRDにより(100)面の配向度を測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製 製品名「RINT−TTR III」)を用い、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行った。(100)配向度は、以下の式により算出した(ただし、本例ではI
0(102)とI
0(110)は無視可能なレベルとして省略可能である)。
【数6】
【0076】
例15
酸化亜鉛基板の原料混合比を、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)94.8重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部とし、HIP処理の温度を1450℃としたこと以外、例1と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は24cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0077】
例16
硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)1730gとグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)4.5gをイオン交換水3000gに溶解した。この溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱した。この溶液を90℃に保持し且つ攪拌しながら、25%アンモニウム水490gをマイクロチューブポンプにて滴下した。滴下終了後、90℃にて攪拌しながら4時間保持した後、静置した。沈殿物をろ過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質のうち100gをジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、65gの板状多孔質酸化亜鉛粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。得られた板状酸化亜鉛粉末をZrO
2製ボールを用い、ボールミルにて平均粒径0.5μmまで粉砕した。
【0078】
上記の方法により得た酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al
2O
3粉末(比表面積82m
2/g)0.6重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4h混合した。得られたスラリーをロータリーエバポレーターにて乾燥し、混合粉末を得た。得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが3μmとなるようにシート状に成形した。得られたシート状成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、シート状のZnO質焼結体を得た。これをポットミルで粉砕し、厚さ2.0μm、板面方向の大きさが7μm程度の板状粉末を得た。
【0079】
こうして得られた板状粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを切断及び積層して、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、直径約65mm×厚さ約1.5mmの円板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、円板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1400℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体の周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0080】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1及び13と同様にして評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、酸化亜鉛基板を構成する粒子のアスペクト比は3.0と大きかった。GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は40cm
−1と小さく、良好な結晶性を示したが、粒子アスペクト比が2.0以下と小さい例13及び14の酸化亜鉛基板よりは結晶性が劣るものであった。
【0081】
酸化亜鉛基板の粒子アスペクト比が小さい方がGaNの結晶性が向上する理由は明らかでないが、ZnO粒子のアスペクト比が小さい方がZnO粒子内に応力が蓄積されにくく、その上に成長するGaNの歪を低減させているものと考えられる。
【0082】
例17
例13と同様にして板状酸化亜鉛粒子を作製した。この酸化亜鉛板状粒子4.8重量部と、市販の高純度ZnO粉末(比表面積9.4m
2/g)90.0重量部と、市販の高純度MgO粉末(比表面積23m
2/g)5.2重量部と、市販の高純度θ−Al
2O
3粉末(比表面積82m
2/g)0.6重量部を、エタノールを溶媒としてボールミルにて4時間混合した。こうして得られた混合粉末100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)6.2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを、8mm×65mmの短冊状に多数切断し、約650枚を積層し、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、65mm×8mm×65mmの成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で脱脂を行った。得られた脱脂体を大気中、1200℃で5時間の条件で常圧焼成して、角板状のZnO質焼結体を得た。得られた焼結体を、Arガスを圧媒とし、雰囲気圧150MPa、1300℃で2時間の条件にてHIP処理した。得られた焼結体を厚さ方向にスライス、又周囲を加工し、ダイヤモンドスラリーにて表面を鏡面研磨した後、コロイダルシリカを用いてCMP処理し、直径約50mm×厚さ約0.6mmの酸化亜鉛基板を得た。
【0083】
<(100)及び(110)合計配向度>
例17の基板に対しては、酸化亜鉛基板の板面を試料面とし、XRDにより(100)面及び(110)面の合計配向度を測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製 製品名「RINT−TTR III」)を用い、酸化亜鉛基板の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定することにより行った。(100)面及び(110)面の合計配向度は、以下の式により算出した。
【数7】
【0084】
こうして得られた酸化亜鉛基板に対して、例1と同様にして評価を行った。結果は表に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は28cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0085】
例18
板状酸化亜鉛をボールミルにて平均粒径0.1μmまで粉砕したこと以外は例17と同様にして酸化亜鉛基板の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであり、GaN結晶性を示すラマンピーク半値幅の値は35cm
−1と小さく、良好な結晶性を示した。
【0086】
MOCVD−GaN膜剥がれ箇所の評価
例7、13、14、17及び18において、酸化亜鉛基板上にMOCVDにてGaN層を成膜したサンプルの表面を光学顕微鏡にて、1mm四方の視野で5視野観察し、膜剥がれ箇所の平均個数を求めた。
【0087】
単結晶基板に関する例7においては、
図3において矢印で示されるような膜剥がれが観察された。5視野での平均膜剥がれ箇所は9箇所であった。一方、(002)面配向多結晶基板に関する例13では平均膜剥がれ箇所は4箇所であった。また、(100)面配向、又は(100)及び(110)面配向の配向多結晶基板に関する例14、例17及び例18では、膜剥がれは観察されなかった。理由は明らかでないが、単結晶と比較して多結晶の方が膜にかかる応力が低減すると共に、(002)面配向よりも、(100)面配向、又は(100)及び(110)面配向の方が、粒子と膜の密着性が高くなり、膜が剥がれにくくなったものと推測される。膜の剥がれはLED構造を作製する際にリーク源となるため、少ない方が好ましい。また、剥がれの少ない結晶性の高いGaNを酸化亜鉛基板上に成膜可能となることで、特許文献2(特開2007−254206号公報)に記載されるような、フラックス法によるGaNの成長が可能となる。フラックス法でのGaN成長に用いられるNaフラックスは、酸化亜鉛との反応性が高く、高温で直接接触させると酸化亜鉛基板が溶解してしまうが、高結晶性のGaNを気相法により予め成膜しておくことで、これが種結晶として機能するだけでなく、酸化亜鉛基板の溶解を抑制するための保護層として機能する。MOCVD法GaN膜に剥がれがあると、剥がれ部よりNaフラックスが侵入し、ZnOと反応、溶解させてしまうため、剥がれ部は少ない方が好ましい。GaNと酸化亜鉛は格子定数及び熱膨張係数が近いため、酸化亜鉛基板を用いることで、フラックス法においても良好な品質のGaNを成長させることが可能となる。
【0088】
EBSDによる結晶方位評価
例1〜18において、GaN成膜後の試料の断面をEBSD(電子線後方散乱回折装置)にて確認した。その結果、例3を除く全ての例において、GaNの結晶方位は下地のZnOの粒子の結晶方位とほぼ一致していることが確認された。
【0089】
【表1】