特許第6489628号(P6489628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6489628可変速電動機システムの制御方法及び可変速電動機システムの制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489628
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】可変速電動機システムの制御方法及び可変速電動機システムの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/72 20060101AFI20190318BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20190318BHJP
   F16H 61/66 20060101ALI20190318BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20190318BHJP
   H02P 27/04 20160101ALI20190318BHJP
【FI】
   F16H3/72 A
   F16H61/02
   F16H61/66
   F16H59/40
   H02P27/04
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-537175(P2017-537175)
(86)(22)【出願日】2015年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2015075183
(87)【国際公開番号】WO2017037940
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2018年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 義行
(72)【発明者】
【氏名】毛利 靖
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−87698(JP,A)
【文献】 特開2014−217118(JP,A)
【文献】 特開2015−33913(JP,A)
【文献】 特許第4472350(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/72,59/40,61/02,61/66
H02P 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力を発生する電動装置と、
前記電動装置で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える変速装置と、
を備え、
前記変速装置は、
軸線を中心として自転する太陽歯車と、
前記太陽歯車に固定され、前記軸線を中心として、軸方向に延びる太陽歯車軸と、
前記太陽歯車と噛み合い、前記軸線を中心として公転すると共に自身の中心線を中心として自転する遊星歯車と、
前記軸線を中心として環状に複数の歯が並び、前記遊星歯車と噛み合う内歯車と、
前記軸線を中心として軸方向に延びる遊星歯車キャリア軸を有し、前記遊星歯車を、前記軸線を中心として公転可能に且つ前記遊星歯車自身の中心線を中心として自転可能に支持する遊星歯車キャリアと、
前記軸線を中心として軸方向に延びる内歯車キャリア軸を有し、前記内歯車を、前記軸線を中心として自転可能に支持する内歯車キャリアと、
を有し、
前記太陽歯車軸と前記遊星歯車キャリア軸と前記内歯車キャリア軸とのうち、いずれか一つの軸が前記駆動対象に接続される出力軸を成し、他の一つの軸が定速入力軸を成し、残りの一つの軸が可変速入力軸を成し、
前記電動装置は、
前記変速装置の前記定速入力軸に接続されている定速ロータを有する定速電動機と、
前記変速装置の前記可変速入力軸に接続されて正方向及び逆方向の回転数を制御可能な可変速ロータを有し、前記正方向の最小回転数と前記逆方向の最小回転数との間の範囲が制御不能な制御不能範囲である可変速電動機と、
を有する可変速電動機システムの制御方法であって、
前記出力軸の回転数の指示を受け付ける工程と、
前記出力軸の回転数に基づいて前記可変速電動機が回転数を演算する工程と、
演算された前記可変速電動機の回転数が前記制御不能範囲であるか判定する工程と、
演算された前記可変速電動機の回転数が前記制御不能範囲であった場合に、前記可変速電動機を前記正方向の最小回転数で駆動する正方向最小回転数指示と、前記可変速電動機を前記逆方向の最小回転数で駆動する逆方向最小回転数指示と、を繰返し交互に実行する制御不能範囲速度制御を行う工程と、を含む可変速電動機システムの制御方法。
【請求項2】
前記正方向最小回転数指示の長さと前記逆方向最小回転数指示との割合を可変とすることによって、前記制御不能範囲における前記可変速電動機の回転数を近似する請求項1に記載の可変速電動機システムの制御方法。
【請求項3】
回転駆動力を発生する電動装置と、
前記電動装置で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える変速装置と、
を備え、
前記変速装置は、
軸線を中心として自転する太陽歯車と、
前記太陽歯車に固定され、前記軸線を中心として、軸方向に延びる太陽歯車軸と、
前記太陽歯車と噛み合い、前記軸線を中心として公転すると共に自身の中心線を中心として自転する遊星歯車と、
前記軸線を中心として環状に複数の歯が並び、前記遊星歯車と噛み合う内歯車と、
前記軸線を中心として軸方向に延びる遊星歯車キャリア軸を有し、前記遊星歯車を、前記軸線を中心として公転可能に且つ前記遊星歯車自身の中心線を中心として自転可能に支持する遊星歯車キャリアと、
前記軸線を中心として軸方向に延びる内歯車キャリア軸を有し、前記内歯車を、前記軸線を中心として自転可能に支持する内歯車キャリアと、
を有し、
前記太陽歯車軸と前記遊星歯車キャリア軸と前記内歯車キャリア軸とのうち、いずれか一つの軸が前記駆動対象に接続される出力軸を成し、他の一つの軸が定速入力軸を成し、残りの一つの軸が可変速入力軸を成し、
前記電動装置は、
前記変速装置の前記定速入力軸に接続されている定速ロータを有する定速電動機と、
前記変速装置の前記可変速入力軸に接続されて正方向及び逆方向の回転数を制御可能な可変速ロータを有し、前記正方向の最小回転数と前記逆方向の最小回転数との間の範囲が制御不能な制御不能範囲である可変速電動機と、
を有する可変速電動機システムの制御装置であって、
指示された前記出力軸の回転数に基づいて演算された前記可変速電動機の回転数が前記制御不能範囲であった場合に、前記可変速電動機を前記正方向の最小回転数で駆動する正方向最小回転数指示と、前記可変速電動機を前記逆方向の最小回転数で駆動する逆方向最小回転数指示と、を繰返し交互に実行する可変速電動機システムの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変速電動機システムの制御方法及び可変速電動機システムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機等の回転機械を駆動する装置としては、回転駆動力を発生する電動装置と、この電動装置で発生した回転駆動力を変速させて回転機械に伝える変速装置と、を備えているものがある。
特許文献1には、変速比を正確に制御するために、電動装置として定速電動機と変速用の可変速電動機とを用い、変速装置として遊星歯車変速装置を用いたものが記載されている。この装置では、可変速電動機の回転数(回転速度)を変えることで、回転機械に接続される変速装置の出力軸の回転数を変えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許第4472350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可変速電動機として、例えば、3相誘導電動機を用いた場合は、例えば、接続される電源線を入れ替える回路を用いることによって、可変速電動機を正回転及び逆回転させることが可能である。即ち、可変速電動機の回転数を変えると共に、回転方向を変更することによって、可変速電動機の回転数を正方向の最大回転数から、逆方向の最大回転数まで変化させることができる。これにより、可変速電動機を有する可変速電動機システムの可変速範囲を大きくすることができる。
【0005】
ところで、指示される出力軸の回転数によっては可変速電動機の回転数を0rpm近傍にする必要があるが、可変速電動機として誘導電動機を用いた場合は、回転数を0rpm近傍に保持することができない。よって、指示された出力軸の回転数を実現することができない場合がある。
【0006】
本発明は、定速電動機と可変速電動機とからなる電動装置と、電動装置で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える遊星歯車変速装置とを備える可変速電動機システムにおいて、変速装置の出力軸の回転数の自由度をより高くすることができる可変速電動機システムの制御方法及び可変速電動機システムの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様によれば、可変速電動機システムの制御方法は、回転駆動力を発生する電動装置と、前記電動装置で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える変速装置と、を備え、前記変速装置は、軸線を中心として自転する太陽歯車と、前記太陽歯車に固定され、前記軸線を中心として、軸方向に延びる太陽歯車軸と、前記太陽歯車と噛み合い、前記軸線を中心として公転すると共に自身の中心線を中心として自転する遊星歯車と、前記軸線を中心として環状に複数の歯が並び、前記遊星歯車と噛み合う内歯車と、前記軸線を中心として軸方向に延びる遊星歯車キャリア軸を有し、前記遊星歯車を、前記軸線を中心として公転可能に且つ前記遊星歯車自身の中心線を中心として自転可能に支持する遊星歯車キャリアと、前記軸線を中心として軸方向に延びる内歯車キャリア軸を有し、前記内歯車を、前記軸線を中心として自転可能に支持する内歯車キャリアと、を有し、前記太陽歯車軸と前記遊星歯車キャリア軸と前記内歯車キャリア軸とのうち、いずれか一つの軸が前記駆動対象に接続される出力軸を成し、他の一つの軸が定速入力軸を成し、残りの一つの軸が可変速入力軸を成し、前記電動装置は、前記変速装置の前記定速入力軸に接続されている定速ロータを有する定速電動機と、前記変速装置の前記可変速入力軸に接続されて正方向及び逆方向の回転数を制御可能な可変速ロータを有し、前記正方向の最小回転数と前記逆方向の最小回転数との間の範囲が制御不能な制御不能範囲である可変速電動機と、を有する可変速電動機システムの制御方法であって、前記出力軸の回転数の指示を受け付ける工程と、前記出力軸の回転数に基づいて前記可変速電動機が回転数を演算する工程と、演算された前記可変速電動機の回転数が前記制御不能範囲であるか判定する工程と、演算された前記可変速電動機の回転数が前記制御不能範囲であった場合に、前記可変速電動機を前記正方向の最小回転数で駆動する正方向最小回転数指示と、前記可変速電動機を前記逆方向の最小回転数で駆動する逆方向最小回転数指示と、を繰返し交互に実行する制御不能範囲速度制御工程と、を含む。
【0008】
このような構成によれば、可変速電動機システムの出力軸の回転数を制御するにあたって、より回転数の自由度を高めることができる。即ち、可変速電動機の制御不能範囲に回転数を設定する場合においても、平均回転数がその回転数となるように、可変速電動機を回転駆動させることによって、出力軸の回転数を所望の回転数に近似することができる。
【0009】
上記可変速電動機システムの制御方法において、前記正方向最小回転数指示の長さと前記逆方向最小回転数指示との割合を可変とすることによって、前記制御不能範囲における前記可変速電動機の回転数を制御してもよい。
【0010】
本発明の第二の態様によれば、可変速電動機システムの制御装置は、回転駆動力を発生する電動装置と、前記電動装置で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える変速装置と、を備え、前記変速装置は、軸線を中心として自転する太陽歯車と、前記太陽歯車に固定され、前記軸線を中心として、軸方向に延びる太陽歯車軸と、前記太陽歯車と噛み合い、前記軸線を中心として公転すると共に自身の中心線を中心として自転する遊星歯車と、前記軸線を中心として環状に複数の歯が並び、前記遊星歯車と噛み合う内歯車と、前記軸線を中心として軸方向に延びる遊星歯車キャリア軸を有し、前記遊星歯車を、前記軸線を中心として公転可能に且つ前記遊星歯車自身の中心線を中心として自転可能に支持する遊星歯車キャリアと、前記軸線を中心として軸方向に延びる内歯車キャリア軸を有し、前記内歯車を、前記軸線を中心として自転可能に支持する内歯車キャリアと、を有し、前記太陽歯車軸と前記遊星歯車キャリア軸と前記内歯車キャリア軸とのうち、いずれか一つの軸が前記駆動対象に接続される出力軸を成し、他の一つの軸が定速入力軸を成し、残りの一つの軸が可変速入力軸を成し、前記電動装置は、前記変速装置の前記定速入力軸に接続されている定速ロータを有する定速電動機と、前記変速装置の前記可変速入力軸に接続されて正方向及び逆方向の回転数を制御可能な可変速ロータを有し、前記正方向の最小回転数と前記逆方向の最小回転数との間の範囲が制御不能な制御不能範囲である可変速電動機と、を有する可変速電動機システムの制御装置であって、指示された前記出力軸の回転数に基づいて演算された前記可変速電動機の回転数が前記制御不能範囲であった場合に、前記可変速電動機を前記正方向の最小回転数で駆動する正方向最小回転数指示と、前記可変速電動機を前記逆方向の最小回転数で駆動する逆方向最小回転数指示と、を繰返し交互に実行する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可変速電動機システムの出力軸の回転数を制御するにあたって、より回転数の自由度を高めることができる。即ち、可変速電動機の制御不能範囲に回転数を設定する場合においても、平均回転数がその回転数となるように、可変速電動機を回転駆動させることによって、出力軸の回転数を所望の回転数に近似することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施形態の可変速電動機システムの断面図である。
図2】本発明に係る実施形態の変速装置の断面図である。
図3】本発明に係る実施形態の電動装置の断面図である。
図4】本発明に係る実施形態の変速装置の構成を示す模式図である。
図5】本発明に係る実施形態の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図6】本発明に係る実施形態の可変速電動機の制御不能範囲速度制御における回転数指示値を示すグラフである。
図7】本発明に係る実施形態の可変速電動機の制御不能範囲速度制御における回転数指示値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の可変速電動機システムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の可変速電動機システム1は、回転駆動力を発生する電動装置50と、電動装置50で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える変速装置10と、を備えている。可変速電動機システム1は、例えば、圧縮機システム等の流体機械システムに適用することができる。
電動装置50は、定速入力軸Acとしての内歯車キャリア軸37を定速で回転駆動させる定速電動機51と、可変速入力軸Avとしての入力側遊星歯車キャリア軸27iを任意の回転数で回転駆動させる可変速電動機71とを有している。可変速電動機システム1は、可変速電動機71の回転数(回転速度)を変えることによって、駆動対象に接続される変速装置10の出力軸の回転数を変えることができる。
電動装置50は、電動装置支持部50Sによって架台90に支持されている。変速装置10は、変速装置支持部10Sによって架台90に支持されている。これら支持部により、重量物である電動装置50及び変速装置10の確実な固定が可能となる。
【0015】
変速装置10は、遊星歯車変速装置である。この変速装置10は、図2に示すように、水平方向に延在する軸線Arを中心として自転する太陽歯車11と、太陽歯車11に固定されている太陽歯車軸12と、太陽歯車11と噛み合い、軸線Arを中心として公転すると共に自身の中心線Apを中心として自転する複数の遊星歯車15と、軸線Arを中心として環状に複数の歯が並び、複数の遊星歯車15と噛み合う内歯車17と、複数の遊星歯車15を、軸線Arを中心として公転可能に且つ遊星歯車15自身の中心線Apを中心として自転可能に支持する遊星歯車キャリア21と、内歯車17を、軸線Arを中心として自転可能に支持する内歯車キャリア31と、これらを覆う変速ケーシング41と、を有する。
【0016】
ここで、軸線Arが延びている方向を軸方向とし、この軸方向の一方側を出力側、この出力側の反対側を入力側とする。また、以下では、この軸線Arを中心とする径方向を単に径方向という。
【0017】
太陽歯車軸12は、軸線Arを中心として円柱状を成し、太陽歯車11から軸方向の出力側に延びている。この太陽歯車軸12の出力側端部には、フランジ13が形成されている。このフランジ13には、例えば、駆動対象としての圧縮機Cのロータが接続される。太陽歯車軸12は、太陽歯車11の出力側に配置されている太陽歯車軸受42により、軸線Arを中心として自転可能に支持されている。太陽歯車軸受42は、変速ケーシング41に取り付けられている。
【0018】
遊星歯車キャリア21は、複数の遊星歯車15毎に設けられている遊星歯車軸22と、複数の遊星歯車軸22相互の位置を固定するキャリア本体23と、キャリア本体23に固定され軸線Arを中心として軸方向に延びる遊星歯車キャリア軸27と、を有する。
【0019】
遊星歯車軸22は、遊星歯車15の中心線Apを軸方向に貫通し、遊星歯車15をその中心線を中心として自転可能に支持する。キャリア本体23は、複数の遊星歯車軸22から径方向外側に延びる出力側アーム部24と、軸線Arを中心として円筒状を成し出力側アーム部24の径方向外側端から入力側に延びる円筒部25と、円筒部25の出力側端から径方向内側に延びる入力側アーム部26と、を有する。
【0020】
遊星歯車キャリア軸27は、出力側アーム部24から出力側に延びる出力側遊星歯車キャリア軸27oと、入力側アーム部26から入力側に延びる入力側遊星歯車キャリア軸27iと、を有する。出力側遊星歯車キャリア軸27oと入力側遊星歯車キャリア軸27iとは、いずれも、軸線Arを中心として円筒状を成す。
出力側遊星歯車キャリア軸27oは、出力側アーム部24よりも出力側に配置されている遊星歯車キャリア軸受43により、軸線Arを中心として自転可能に支持されている。遊星歯車キャリア軸受43は、変速ケーシング41に取り付けられている。出力側遊星歯車キャリア軸27oの内周側には、太陽歯車軸12が挿通されている。
入力側遊星歯車キャリア軸27iは、入力側アーム部26よりも入力側に配置されている遊星歯車キャリア軸受44により、軸線Arを中心として自転可能に支持されている。この遊星歯車キャリア軸受44は、変速ケーシング41に取り付けられている。入力側遊星歯車キャリア軸27iの入力側端には、径方向外側に向かって広がる環状のフランジ28が形成されている。
【0021】
内歯車キャリア31は、内歯車17が固定されているキャリア本体33と、キャリア本体33に固定され軸線Arを中心として軸方向に延びる内歯車キャリア軸37と、を有する。
【0022】
キャリア本体33は、軸線Arを中心として円筒状を成し、内周側に内歯車17が固定されている円筒部35と、円筒部35の入力側端から径方向内側に延びる入力側アーム部36と、を有する。
【0023】
内歯車キャリア軸37は、軸線Arを中心として円柱状を成し、同じく軸線Arを中心として円柱状を成す太陽歯車軸12の入力側に配置されている。キャリア本体33の入力側アーム部36は、内歯車キャリア軸37に固定されている。内歯車キャリア軸37の入力側端には、径方向外側に向かって広がる環状又は円板状のフランジ38が形成されている。内歯車キャリア軸37の入力側の部分は、円筒状の入力側遊星歯車キャリア軸27iの内周側に挿通されている。内歯車キャリア軸37のフランジ38と、入力側遊星歯車キャリア軸27iのフランジ28とは、軸方向における位置がほぼ一致している。
【0024】
図3に示すように、定速電動機51は、定速ロータ延長軸55を介して変速装置10の内歯車キャリア軸37を回転駆動させる。可変速電動機71は、変速装置10の入力側遊星歯車キャリア軸27iを回転駆動させる。電動装置50は、定速電動機51及び可変速電動機71を冷却するための冷却ファン91と、この冷却ファン91を覆うファンカバー92と、を有する。
【0025】
本実施形態において、定速電動機51は、例えば、3相4極の誘導電動機である。また、可変速電動機71は、極数が定速電動機51よりも多い6極の誘導電動機である。なお、定速電動機51及び可変速電動機71の仕様はこれに限ることはなく、適宜仕様を変更することができる。
【0026】
定速電動機51は、軸線Arを中心として自転し、変速装置10の定速入力軸Acである内歯車キャリア軸37に接続される定速ロータ52と、定速ロータ52の外周側に配置されている定速ステータ66と、定速ステータ66が内周側に固定されている定速電動機ケーシング61と、を有している。
【0027】
定速ロータ52は、定速ロータ軸53と、定速ロータ軸53の外周に固定されている導体56と、を有する。また、定速ロータ軸53は、軸線Arを中心として円柱状を成し、その外周に導体56が固定されている定速ロータ本体軸54と、軸線Arを中心として円柱状を成し、定速ロータ本体軸54の出力側に固定されている定速ロータ延長軸55と、を有する。
定速ロータ延長軸55の軸方向の両端には、それぞれ、径方向外側に向かって広がる環状又は円板状のフランジ55i,55oが形成されている。定速ロータ本体軸54の出力側端には、径方向外側に向かって広がる環状又は円板状のフランジ54oが形成されている。定速ロータ延長軸55と定速ロータ本体軸54とは、それぞれのフランジ55i,55o,54oが互いにボルト等で接続されていることで、一体化している。定速ロータ本体軸54の入力側端には、冷却ファン91が固定されている。
【0028】
定速ステータ66は、定速ロータ52の導体56の径方向外側に配置されている。この定速ステータ66は、複数のコイルで形成されている。
【0029】
定速電動機ケーシング61は、軸線Arを中心として円筒状を成し、内周側に定速ステータ66が固定されているケーシング本体62と、円筒状のケーシング本体62の軸方向の両端を塞ぐ蓋63i,63oとを有している。各々の蓋63i,63oには、定速ロータ本体軸54を、軸線Arを中心として自転可能に支持する定速ロータ軸受65i,65oが取り付けられている。また、各々の蓋63i,63oには、定速ロータ軸受65i,65oよりも径方向外側の位置で、軸方向に貫通する複数の開口64が形成されている。
【0030】
定速ロータ本体軸54の入力側端は、定速電動機ケーシング61の入力側の蓋63iから、入力側に突出している。この定速ロータ本体軸54の入力側端に、前述の冷却ファン91が固定されている。このため、定速ロータ52が回転すると、冷却ファン91も定速ロータ52と一体的に回転する。ファンカバー92は、冷却ファン91の外周側に配置されている円筒状のカバー本体93と、カバー本体93の入口側の開口に取り付けられ、複数の空気孔が形成されている空気流通板94と、を有する。このファンカバー92は、定速電動機ケーシング61の入力側の蓋63iに固定されている。
【0031】
可変速電動機71は、軸線Arを中心として自転し、可変速入力軸Avである入力側遊星歯車キャリア軸27iに接続される可変速ロータ72と、可変速ロータ72の外周側に配置されている可変速ステータ86と、可変速ステータ86が内周側に固定されている可変速電動機ケーシング81と、を有している。
【0032】
可変速ロータ72は、可変速ロータ軸73と、可変速ロータ軸73の外周に固定されている導体76と、を有する。可変速ロータ軸73は、軸線Arを中心として円筒状を成し、軸方向に貫通した軸挿通孔74が形成されている。可変速ロータ軸73の軸挿通孔74には、定速ロータ延長軸55が挿通されている。可変速ロータ軸73の出力側端には、径方向外側に向かって広がる環状のフランジ73oが形成されている。可変速ロータ軸73のフランジ73oと、定速ロータ延長軸55の出力側端に形成されているフランジ55oとは、軸方向における位置がほぼ一致している。
【0033】
可変速ステータ86は、可変速ロータ72の導体56,76の径方向外側に配置されている。この可変速ステータ86は、複数のコイルで形成されている。
【0034】
可変速電動機ケーシング81は、軸線Arを中心として円筒状を成し、内周側に可変速ステータ86が固定されているケーシング本体82と、円筒状のケーシング本体82の出力側端を塞ぐ出力側蓋83oと、可変速ステータ86よりも入力側に配置され円筒状のケーシング本体82の内周側に固定されている入口側蓋83iと、を有している。各々の蓋83i,83oには、可変速ロータ軸73を、軸線Arを中心として自転可能に支持する可変速ロータ軸受85i,85oが取り付けられている。また、各々の蓋83i,83oには、可変速ロータ軸受85i,85oよりも径方向外側の位置で、軸方向に貫通する複数の開口84が形成されている。
【0035】
以上のように、可変速電動機ケーシング81の各々の蓋83i,83oに形成されている複数の開口84、及び、定速電動機ケーシング61の各蓋63i,63oに形成されている複数の開口64により、可変速電動機ケーシング81内の空間と定速電動機ケーシング61内の空間とが連通している。
【0036】
また、本実施形態の可変速電動機システム1において、定速ロータ52と、可変速ロータ72と、太陽歯車軸12とは同一の軸線上に配置されている。
【0037】
本実施形態の可変速電動機システム1は、さらに、可変速入力軸Avである入力側遊星歯車キャリア軸27iと可変速ロータ72との間に配置され、両者を接続する可変速用フレキシブルカップリング95と、定速入力軸Acである内歯車キャリア軸37と定速ロータ52との間に配置され、両者を接続する定速用フレキシブルカップリング97と、を備えている。
【0038】
可変速電動機システム1は、可変速電動機71の回転数を制御する回転数制御装置100と、回転数制御装置100の動作を制御する制御装置120と、を備えている。回転数制御装置100は、可変速電動機71と電気的に接続されている。
【0039】
制御装置120は、コンピュータで構成されている。制御装置120は、オペレータからの指示を直接受け付ける又は上位制御装置からの指示を受け付ける受付部121と、回転数制御装置100に指示を与えるインタフェース122と、受付部121で受け付けた指示等に応じて、回転数制御装置100に対する指示を作成する演算部123と、を有する。
【0040】
回転数制御装置100は、図示しない電力原から供給される電力の周波数を変える周波数変換部101と、可変速ロータ72の回転方向を変更する回転方向変更部102と、を備えている。
周波数変換部101は、制御装置120から指示された周波数の電力を可変速電動機71に供給する。可変速電動機71の可変速ロータ72は、この周波数に応じた回転数で回転する。このように、可変速ロータ72の回転数が変化するため、可変速ロータ72に接続されている変速装置10の遊星歯車キャリア21の回転数も変化する。この結果、変速装置10の出力軸Aoである太陽歯車軸12の回転数も変化する。
回転方向変更部102は、可変速電動機71に接続されている複数(本実施形態の場合3本)の電源線を入れ替える回路を用いることによって、可変速電動機71の回転方向を変更する装置である。即ち、回転方向変更部102は、可変速ロータ72を正回転、及び逆回転させることができる。
【0041】
ここで、変速装置10の各歯車の歯数と、変速装置10の各軸の回転数との関係について、図4を用いて説明する。
【0042】
出力軸Aoとしての太陽歯車軸12の回転数をωs、定速入力軸Acとしての内歯車キャリア軸37の回転数をωi、可変速入力軸Avとしての入力側遊星歯車キャリア軸27iの回転数をωhとする。また、太陽歯車11の歯数をZs、内歯車17の歯数をZiとする。
【0043】
この場合、各歯車の歯数と、変速装置10の各軸の回転数との関係は、以下の式(1)で表すことができる。
ωs/ωi=ωh/ωi−(1−ωh/ωi )×Zi/Zs ・・・(1)
【0044】
仮に、定速電動機51が4極の誘導電動機で、電源周波数が50Hzの場合、定速ロータ52(定速入力軸Ac)の回転数ωi(定格回転数)は1500rpmとなる。また、可変速電動機71が6極の誘導電動機で、電源周波数が50Hzの場合、可変速ロータ72(可変速入力軸Av)の最高回転数ωh(定格回転数)は900rpmとなる。
また、仮に、太陽歯車11の歯数Zsと内歯車17の歯数Ziと比Zi/Zsを4とする。
【0045】
この場合、定速ロータ52の回転の向きを正回転とし、可変速ロータ72の回転の向きが定速ロータ52の回転と逆向きの最大回転数(−900rpm)であると、出力軸Aoである太陽歯車軸12の回転数ωsは、−10500rpmとなる。
【0046】
定速ロータ52の回転の向きを正回転とし、可変速ロータ72の回転の向きが定速ロータ52の回転と同じ向きの最大回転数(900rpm)であると、太陽歯車軸12の回転数は、−1500rpmとなる。
【0047】
このため、仮に、定速ロータ52の回転数(定格回転数)が+1500rpmで、周波数変換部101による周波数制御で、可変速ロータ72の回転数を900rpm(正回転)〜−900rpm(逆回転)の範囲で制御できる場合、出力軸Aoである太陽歯車軸12の回転数を−1500〜−10500rpmの範囲に制御することができる。この範囲は、可変速電動機システム1の出力軸Aoである太陽歯車軸12の可変速範囲であり、可変速電動機システム1は、通常この可変速範囲で出力軸Aoを回転させる。
【0048】
電動装置50を構成する定速電動機51及び可変速電動機71が、上述した仕様である場合、出力軸Aoである太陽歯車軸12の回転数を−6000rpmとするためには、可変速ロータ72の回転数を0rpmにする必要がある。換言すれば、可変速電動機システム1を構成する可変速電動機71の回転数の変動範囲が、正の回転数から負の回転数に及ぶ場合、指示される出力軸Aoの回転数によっては、可変速電動機71の回転数を0rpmにする必要が生じる。
【0049】
ここで、本実施形態の可変速電動機71は、6極の相誘導電動機であり、回転数を0rpm近傍に制御することはできない。本実施形態の可変速電動機71は、例えば、定格回転数の10%以下である−90rpmから90rpmの範囲が、回転数が制御不能である制御不能範囲である。即ち、本実施形態の可変速電動機71の最小回転数は90rpmである。最小回転数90rpmにおいて可変速電動機71に供給される電力は、電源周波数(50Hz)の10%の5Hzである。
【0050】
次に、本実施形態の可変速電動機システム1の制御方法について、図5に示すフローチャート、図6図7に示すグラフに従って説明する。
可変速電動機71の始動後、即ち、定速電動機51が定格回転数の1500rpmで回転駆動し、可変速電動機71が、例えば、最小回転数の90rpmで回転駆動している状態で、制御装置120の受付部121は、外部から出力軸Aoである太陽歯車軸12の回転数の指示を受け付ける(S10)。出力軸Aoの可変速範囲は、−1500rpm〜−10500rpmである。
【0051】
受付部121が出力軸Aoの回転数の指示を受け付けると、演算部123は演算を実施して、出力軸Aoの回転数に対応する可変速電動機71の回転数を導出する(S11)。即ち、指示された出力軸Aoの回転数を実現するための可変速電動機71の回転数を演算する。
【0052】
次に、制御装置120は、導出された可変速電動機71の回転数が可変速電動機71の制御不能回転数か否かを判断する(S12)。
例えば、指示された出力軸Aoの回転数が−10500rpmであるとすると、出力軸Aoの回転数を−10500rpmとするための可変速電動機71の回転数は−900rpmであるという演算結果が導出される。
【0053】
−900rpmは、制御不能回転数ではないため、インタフェース122は、演算結果の回転数を回転数制御装置100に指示する(S14)。
回転数制御装置100は、周波数変換部101を用いて可変速電動機71に供給する電力の周波数を900rpmに対応する50Hzにするとともに、回転方向変更部102を用いて可変速電動機71の回転方向を逆方向に設定する。これにより、可変速電動機71の回転数が−900rpmとなり、太陽歯車軸12の回転数が−10500rpmとなる。
【0054】
次に、演算部123により導出された可変速電動機71の回転数が、可変速電動機71の制御不能範囲であった場合の制御方法について説明する。
例えば、制御装置120の受付部121が、太陽歯車軸12の回転数を−6000rpmとする指示を受け付けると、演算部123は演算を実施し、太陽歯車軸12の回転数を−6000rpmとするための可変速電動機71の回転数が0rpmであるという演算結果を導出する。
【0055】
0rpmは可変速電動機71の制御不能範囲である。即ち、可変速電動機71は、可変速ロータ72を0rpmに維持することができない。
制御装置120は、演算結果が可変速電動機71の制御不能範囲であると判断すると、制御不能範囲速度制御を実施する(S13)。
制御不能範囲速度制御は、可変速電動機71を正方向の最小回転数(90rpm)で駆動する指示を発する正方向最小回転数指示P1(図6参照)と、可変速電動機71を逆方向の最小回転数で駆動する指示を発する逆方向最小回転数指示と、を繰返し交互に実行する制御である。この制御により、可変速電動機71の回転数が0rpm近傍の速度に近似される。
【0056】
図6図7は、横軸を時間、縦軸を可変速電動機71に供給される周波数(50Hzに対する割合、逆回転の場合マイナスで示す)、及び可変速電動機71の回転数としたグラフである。
図6に示すように、制御不能範囲速度制御を行うと、インタフェース122は回転数制御装置100に、周波数5Hz(電源周波数の10%)で可変速ロータ72を正回転させる命令と、周波数5Hzで可変速ロータ72を逆回転させる命令と、を繰り返し交互に発する。正方向最小回転数指示P1とこれに連続する逆方向最小回転数指示P2とからなる周期Tは一定である。
【0057】
周期Tにおける、正方向最小回転数指示P1と、逆方向最小回転数指示P2の時間(パルス幅)は等しい。これにより、可変速電動機71の回転数は、一点鎖線で示すように、サインカーブ状に変動する。即ち、正回転と逆回転を繰り返す。
正方向最小回転数指示P1と、逆方向最小回転数指示P2の時間を等しくすることにより、回転数の平均を0rpmとすることができる。即ち、可変速ロータ72を回転させながら、0rpmの回転数を近似することができる。
【0058】
次に、可変速電動機71の回転数が制御不能範囲であって、0rpm以外である場合の制御方法について説明する。
指示される出力軸Aoの回転数が−5700rpmである場合、演算部123によって導出される可変速電動機71の回転数は60rpmである。60rpmは可変速電動機71の制御不能範囲であるため制御装置120は、制御不能範囲速度制御を実施する(S13)。
【0059】
図7に示すように、制御装置120は、60rpmを近似するために、正方向最小回転数指示P1と、逆方向最小回転数指示P2の時間を異ならせる。具体的には、可変速電動機71の回転数の平均値が60rpmとなるように、正方向最小回転数指示P1の時間を長くすると共に、逆方向最小回転数指示P2の時間を短くする。
【0060】
ここで、例えば、P1:P2=5:5とすれば、回転数0rpmを近似することができ、P1:P2=100とすれば、回転数は90rpmとなる。このように、正方向最小回転数指示P1と逆方向最小回転数指示P2の割合を可変とすることによって、制御不能範囲の回転数を近似することができる。正方向最小回転数指示P1の割合を多くすることによって、近似される可変速電動機71の回転数(可変速電動機71の平均回転数)は、90rpmに近づき、逆方向最小回転数指示P2の割合を多くすることによって、近似される可変速電動機71の回転数は、−90rpmに近づく。
【0061】
上記実施形態によれば、定速電動機51と可変速電動機71とからなる電動装置50と、電動装置50で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える遊星歯車変速装置10とを備える可変速電動機システム1の出力軸の回転数を制御するにあたって、より回転数の自由度を高めることができる。
即ち、可変速電動機71の制御不能範囲に回転数を設定する場合においても、平均回転数がその回転数となるように、可変速電動機71を回転駆動させることによって、出力軸の回転数を所望の回転数に近似することができる。
【0062】
この制御不能範囲速度制御は、誘導電動機の可変速制御において、V/F制御(VVVF制御)を行う際により効果的である。V/F制御は、一般的に、ベクトル制御やDTC(ダイレクトトルクコントロール)制御と比較して、トルクリップルが小さいという利点がある反面、電動機の制御不能範囲が大きくなってしまうという欠点がある。本実施形態の制御不能範囲速度制御を用いることによって、V/F制御を実施する場合においても可変速電動機の制御範囲を大きくすることができる。
【0063】
また、本実施形態では、変速装置10の軸線Ar上に定速電動機51の定速ロータ52及び可変速電動機71の可変速ロータ72を配置しているので、変速装置10の軸線Arから径方向に離れた位置に定速ロータ52及び可変速ロータ72を配置する場合よりも、全体として小型化を図ることができる。さらに、本実施形態では、変速装置10の軸線Arから径方向に離れた位置に定速ロータ52及び可変速ロータ72を配置する場合のように、ベルトやプーリー等の伝達機構を設ける必要がないため、この観点からの装置の小型化、さらに部品点数の減少による製造コストの低減を図ることができる。また、本実施形態では、変速装置10の軸線Arから径方向に離れた位置に定速ロータ52及び可変速ロータ72を配置する場合のように、ベルトやプーリー等の伝達機構を設ける必要がないため、変速装置10の軸線Ar上に位置する軸に対してベルト等から曲げ荷重がかからず、振動の低減も図ることができる。
【0064】
本実施形態では、電動装置50の定速ロータ52と変速装置10の定速入力軸Acとを定速用フレキシブルカップリング97で接続しているので、定速ロータ52と定速入力軸Acとの間の偏芯・偏角・振れを許容することができる。さらに、本実施形態では、電動装置50の可変速ロータ72と変速装置10の可変速入力軸Avとを可変速用フレキシブルカップリング95で接続しているので、可変速ロータ72と可変速入力軸Avとの間の偏芯・偏角・振れを許容することができる。このため、本実施形態では、電動装置50に対する変速装置10の芯出し作業の手間を最小限に抑えることができると共に、電動装置50から変速装置10への軸振れの伝達、変速装置10から電動装置50への軸振れの伝達を抑制することができる。
【0065】
本実施形態では、定速電動機ケーシング61に対して可変速電動機ケーシング81が固定されている。このため、本実施形態では、可変電動機システムの製造工場からの出荷前に、定速ロータ52に対して、可変速ロータ72を正確に位置決め(芯出し)を行うことができる。よって、本実施形態では、設置現場において、定速ロータ52に対する可変速ロータ72の位置決め作業を省くことができる。
【0066】
本実施形態では、定速ロータ52が回転すると、この定速ロータ52の端に設けられている冷却ファン91も回転する。この冷却ファン91の回転により、外部の空気が定速電動機ケーシング61内に流入して、定速ロータ52や定速ステータ66等を冷却する。さらに、本実施形態では、定速電動機ケーシング61と可変速電動機ケーシング81とが連通しているため、定速電動機ケーシング61内に流入した空気が可変速電動機ケーシング81内にも流入して、可変速ロータ72や可変速ステータ86等を冷却する。よって、本実施形態では、一つの冷却ファン91で、二つの電動機を冷却することができ、この観点から、装置の小型化及び製造コストの低減を図ることができる。
【0067】
また、本実施形態では、定速ロータ52と、可変速ロータ72と、太陽歯車軸12とが同一の軸線上に配置されていることによって、可変電動機システムの据え付けスペース(設置空間)を少なくすることができる。また、回転を伝達するための部品(かさ歯車など)が不要となり、部品点数の増加を抑制、製造コストの低減を図ることができる。
また、本実施形態では、軸挿通孔74が形成された円筒状の軸である可変速ロータ軸73に棒状の軸である定速ロータ軸53(定速ロータ延長軸55)が挿通されている。即ち、出力の大きな定速電動機51の定速ロータ軸53が定速電動機51よりも出力の小さい可変速電動機71の可変速ロータ軸73に挿通されている。これにより、定速電動機51としてより大きな出力(馬力)のあるものを採用することができる。
また、本実施形態では、定速電動機51、可変速電動機71、変速装置、圧縮機Cの順に直線状に配置していることにより、装置全体をよりコンパクトにすることができる。
【0068】
なお、上記実施形態では、定速ロータ52と、可変速ロータ72と、太陽歯車軸12とを同一の軸線上に配置しているがこれに限ることはない。例えば、可変速電動機71を、可変速ロータ72の軸線が定速ロータ52の軸線と平行であって異なる位置となるように配置してもよい。
【0069】
また、上記実施形態の可変電動機システムは、いずれも、駆動対象を圧縮機Cとし、この圧縮機Cを7500rpm以上の高速回転させるものである。以上の各実施形態の可変電動機システムは、このように駆動対象を高速回転させるため、変速装置10により、定速電動機51の回転数を増速させている。このため、上記実施形態の変速装置10では、太陽歯車軸12を出力軸Aoとし、内歯車キャリア軸37を定速入力軸Acとし、入力側遊星歯車キャリア軸27iを可変速入力軸Avとしている。
【0070】
しかしながら、本発明における変速装置は、例えば、定速電動機51の回転数を減速するためのものであってもよい。この場合、太陽歯車軸12を定速入力軸Acとし、遊星歯車キャリア軸27を可変速入力軸Avとし、内歯車キャリア軸37を出力軸Aoとしてもよい。また、例えば、太陽歯車軸12を以上の実施形態と同様に出力軸Aoとし、内歯車キャリア軸37を可変速入力軸Avとし、遊星歯車キャリア軸27を定速入力軸Acとしてもよい。以上のように、太陽歯車軸12、遊星歯車キャリア軸27、内歯車キャリア軸37のうち、いずれか一の軸を出力軸Aoとし、他の軸を定速入力軸Acとし、残りの軸を可変速入力軸Avとするかは、入力に対して出力を増速させるか否か、出力の増減速の変化範囲等により、適宜設定される。
【0071】
また、上記実施形態では、圧縮機Cを高速回転させるために好適な定速電動機51として、4極の誘導電動機を例示し、圧縮機Cの回転数を一定の範囲内で可変速させるために好適な可変速電動機71として、6極の誘導電動機を例示している。しかしながら、駆動対象を高速回転させる必要がない場合には、定速電動機51や可変速電動機71として他のタイプの電動機を用いてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、可変速ロータ72に軸挿通孔74が形成され、軸挿通孔74に定速ロータ52が挿通されるが、定速ロータに軸挿通孔が形成され、この軸挿通孔に可変速ロータが挿通される構成としてもよい。
【0073】
また、上記各実施形態では、可変速ロータ72と可変速入力軸Avとを接続する可変速用フレキシブルカップリング95が第一フレキシブルカップリングを成し、定速ロータ52と定速入力軸Acとを接続する定速用フレキシブルカップリング97が第二フレキシブルカップリングを成している。しかしながら、定速用フレキシブルカップリングが可変速用フレキシブルカップリングの外周側に配置される場合、定速用フレキシブルカップリングが第一フレキシブルカップリングを成し、可変速用フレキシブルカップリングが第二フレキシブルカップリングを成すことになる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の一態様では、可変速電動機システムの可変速範囲の自由度を高めることができる。
【符号の説明】
【0075】
1:可変速電動機システム、10:変速装置(遊星歯車変速装置)、11:太陽歯車、12:太陽歯車軸、15:遊星歯車、17:内歯車、21:遊星歯車キャリア、22:遊星歯車軸、23:キャリア本体、27:遊星歯車キャリア軸、27i:入力側遊星歯車キャリア軸、28:フランジ、31:内歯車キャリア、33:キャリア本体、37:内歯車キャリア軸、38:フランジ、41:変速ケーシング、50:電動装置、51:定速電動機、52:定速ロータ、53:定速ロータ軸、54:定速ロータ本体軸、55:定速ロータ延長軸、56:導体、61:定速電動機ケーシング、62:ケーシング本体、63i,63o:蓋、64:開口、66:定速ステータ、71:可変速電動機、71S:可変速電動機支持部、72:可変速ロータ、73:可変速ロータ軸、73o:フランジ、74:軸挿通孔、76:導体、81:可変速電動機ケーシング、82:ケーシング本体、83i,83o:蓋、84:開口、86:可変速ステータ、91:冷却ファン、100:回転数制御装置、101:周波数変換部、102:回転方向変更部、116:キャリア本体、117:伝達部、118:キャリア軸歯車、119:キャリア本体歯車、120:制御装置、Ap:中心線、Ar:軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7