【文献】
里川孝臣,ふっ素樹脂ハンドブック,日刊工業新聞社,1990年11月30日,p.144−147,210,211,314,315,334,335,ISBN:4−526−02831−2
【文献】
大西俊次,ふっ素樹脂と異種材料接着法−特に超微粒子効果について−,ポリファイル,1987年6月1日,Vol.24, No.5,p.21−23,ISSN:0910−2175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭酸塩粉の前記フッ素樹脂フィルムの少なくとも一方の面への付着を、前記フッ素樹脂フィルムの前記少なくとも一方の面に撒いた前記炭酸塩粉を前記フッ素樹脂フィルムの前記少なくとも一方の面に押圧することによって行う、
請求項4記載の光触媒膜の接合方法。
請求項1記載の光触媒膜の接合方法に用いられる、前記光触媒膜に含まれるフッ素樹脂の中で過半を占めるフッ素樹脂である基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第1フッ素樹脂により形成されたフッ素樹脂フィルムであって、
前記基本フッ素樹脂がPTFEであり、
融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸カルシウムを含む、前記基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第2フッ素樹脂により形成された炭酸塩含有フッ素樹脂層を少なくともその一方の面に有する、フッ素樹脂フィルム。
請求項7記載の光触媒膜の接合方法に用いられる、前記光触媒膜に含まれるフッ素樹脂の中で過半を占めるフッ素樹脂である基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第1フッ素樹脂により形成されたフッ素樹脂フィルムであって、
前記基本フッ素樹脂がPTFEであり、
前記炭酸カルシウムが前記第1フッ素樹脂中に添加された、フッ素樹脂フィルム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、光触媒膜の接合に、上述の如きフッ素樹脂フィルムを用いた場合であっても、接合部の剥離強度が劣化する可能性がある。この可能性は、光触媒膜の縁部同士を接合した場合に限らず、光触媒膜を接合した場合に一般に生じる。上述の剥離強度の劣化は、より正確には、接合を行った後の時間の経過によって生じるのであるが、そのような強度の劣化が起きる可能性が生じる原因を本願発明者は次のように推測している。
光触媒膜を製造する一般的な方法の一つは、フッ素樹脂製の膜材に対して光触媒粉とフッ素樹脂を含む分散液を塗布し、その後その分散液を乾燥させ、高温で焼成することにより、膜材の表面に光触媒層を形成するというものである。
ところで、上述の分散液には一般に、フッ素樹脂、及び光触媒粉の分散液中での分散性を高めることを主な目的として界面活性剤等の有機物である添加剤が添加されている。これらの添加剤は、焼成後も一定期間光触媒層の中に残存する。そして、光触媒膜が、膜構造物の一部として施工された後、太陽光が照射される等により、残存した添加剤は、紫外線により、或いは光触媒の光酸化作用により酸化され、徐々に分解されて分解物となる。詳しい機序は現時点では不明であるが、おそらく、上記分解物が、光触媒膜の表面上に出てくる等の原因により、接合部の剥離強度の劣化の可能性が生じるのだと考えられる。このような場合、接合部以外の場所であれば、降雨等により分解物等が流されるため問題は生じないが、接合面である光触媒層とフッ素樹脂フィルムの当接している部分に分解物等が移動すると、光触媒層とフッ素樹脂フィルムの接合面に移動した分解物等の存在が、上述の接合部における剥離強度の劣化を生じる原因となっている、と本願発明者は考えている。
【0006】
本発明は、フッ素樹脂フィルムを用いて行う光触媒膜同士の接合部の剥離強度の劣化を低減させるようにすることをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本願発明者は以下の3つの発明を提案する。便宜上それらをそれぞれ、第1発明、第2発明、及び第3発明と呼ぶ。
【0008】
第1発明は、フッ素樹脂と光触媒粉とを含む光触媒層をその少なくとも一方の面に有する光触媒膜同士を所定幅で重ね合わせる際、前記光触媒膜の重ね合わせられる部分の間に、前記光触媒膜に含まれるフッ素樹脂の中で過半を占めるフッ素樹脂である基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第1フッ素樹脂により形成されたフッ素樹脂フィルムを挟み込み、その状態で前記光触媒膜の重ね合わせられる部分を加熱することで、前記フッ素樹脂フィルムを介して前記光触媒膜の重ね合わせられた部分同士を接合する光触媒膜の接合方法である。
そして、この第1発明では、前記フッ素樹脂フィルムとして、前記融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩を含む、基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第2フッ素樹脂により形成された炭酸塩含有層を少なくともその一方の面に有するものを用い、前記光触媒膜の重ね合わせられる部分の間に前記フッ素樹脂フィルムを挟み込む際に、前記炭酸塩含有層を前記光触媒層に当接させる。
本願発明者の研究の結果、光触媒膜の光触媒層に残留した添加剤から、紫外線によって、或いは光触媒の光酸化作用によって生じる分解物等は、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩との反応によって消失するか、炭酸塩に吸着される等して、光酸化作用が生じた後に上記光触媒膜とフッ素樹脂フィルムの接合部の界面での剥離をそれが促進するために必要となる何らかの機能を失うことが判った。第1発明では、フッ素樹脂フィルムのうちの炭酸塩を含む炭酸塩含有層を光触媒層に当接させた状態で、フッ素樹脂フィルムを介して光触媒膜の重ね合わせられた部分同士を接合することにより、後に光触媒膜が、膜構造物の一部として施工された後等、紫外線によって、或いは光触媒による光酸化作用によって添加剤から生じた分解物等が光触媒層とフッ素樹脂フィルムの炭酸塩含有層との接合面に移動したとしても、その分解物は、炭酸塩との反応によって消失するか、炭酸塩に吸着される等して、光触媒膜とフッ素樹脂フィルムの接合界面での剥離を促進するために必要となる何らかの機能を上記の如く失うので、光触媒膜同士の接合部の剥離強度が長期にわたって落ちにくくなる。
なお、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩としては、炭酸カルシウム(CaCO
3)、炭酸バリウム(BaCO
3)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)の何れかまたは組み合わせを利用することが可能であり、炭酸塩についての以上の説明は、第2発明、第3発明の場合にも適用される。
【0009】
第1発明における炭酸塩含有層は、上述のように、基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第2フッ素樹脂と、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩により形成されている。炭酸塩含有層を構成する第2フッ素樹脂を、基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂とするのは、炭酸塩含有層のフッ素樹脂の溶融性を高めることで、光触媒膜同士の接合部の剥離強度を高めることができるからである。
第1フッ素樹脂の少なくとも一方の面に炭酸塩含有層を形成したフッ素樹脂フィルムを製造する方法は、基本的に自由である。例えば、前記フッ素樹脂フィルムは、第2フッ素樹脂で形成されたフッ素樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面に、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体)のディスパージョンに、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩の粉である炭酸塩粉を添加した分散液を塗布し、その分散液を乾燥させることにより製造することができる。分散液を乾燥した後、更にFEPのディスパージョンに含まれていたFEPと炭酸塩を加熱して焼成することにより、第1フッ素樹脂と炭酸塩含有層の固着をより強固にすることもできるが、フッ素樹脂フィルムの表面の炭酸塩含有層のフッ素樹脂は、光触媒膜同士の接合の際にどのみち溶融するのであるから、上述の焼成の過程は必ずしも必要なものではない。
なお、炭酸塩含有層は、第2フッ素樹脂で形成されたフッ素樹脂フィルム基材の一方の表面、又は双方の表面に設けられる。接合する対象となる光触媒膜は、光触媒層をその一方の表面のみに持つこともあれば、その双方の表面に持つ場合もある。光触媒層をその一方の表面にのみ持つ光触媒膜同士を接合する場合には通常、光触媒膜は、光触媒層を有する面の向きを揃えて接合される。この場合、光触媒膜同士を重ね合わせた部分に挟み込まれるフッ素樹脂フィルムは、その一方の面のみが光触媒層に当接することになる。この場合にはフッ素樹脂フィルムの光触媒層と当接することになる面にのみ炭酸塩含有層が設けられていれば足りる、ということになる。他方、光触媒層をその双方の表面に持つ光触媒膜同士を接合する場合、光触媒膜同士を重ね合わせた部分に挟み込まれるフッ素樹脂フィルムは、その双方の面が光触媒層に当接することになる。この場合には光触媒膜の光触媒層と当接することになるフッ素樹脂フィルムの双方の面に炭酸塩含有層が設けられる、ということになる。
【0010】
第1発明のフッ素樹脂フィルムに使われる上述の第1フッ素樹脂も、第2フッ素樹脂と同様に、基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である。第1フッ素樹脂の融点がそのようなものである理由は、以下に説明する第2発明、第3発明の場合も含めて、第2フッ素樹脂の融点がそのようになっている既に述べた理由に同じである。
なお、第1発明の光触媒膜における「基本フッ素樹脂」は、以下のようなものである。光触媒膜は上述のように、光触媒層を有しており、光触媒層にはフッ素樹脂が含まれている。ところで、光触媒膜は、光触媒層以外の部分にもフッ素樹脂を含んでいるのが通常である。光触媒層に含まれるフッ素樹脂と、光触媒膜の光触媒層以外の部分に含まれるフッ素樹脂は同じである場合もあり、同じでない場合もある。また、光触媒膜の光触媒層以外の部分に含まれるフッ素樹脂は1種類の場合も2種類以上の場合もある。このように光触媒膜におけるフッ素樹脂は複数種類混合あるいは積層される場合があるので、第1発明では、光触媒膜に含まれるフッ素樹脂の中で過半を占めるフッ素樹脂を、基本フッ素樹脂と定義することにする(「過半」を判断する場合の基準は、重量であるものとする。)。例えば、基本フッ素樹脂がPTFEである場合、相対的にかなり厚いPTFEの層の上にFEPの層が設けられ、その上層に光触媒層が設けられた光触媒膜が、光触媒膜における基本フッ素樹脂の例となる。なお、光触媒膜には、ガラス繊維等の無機繊維で織られるなどした基材や、フッ素樹脂の嵩増しを行うためのガラスビーズなどフッ素樹脂以外の材料が含まれる場合もあるが、それらは光触媒膜を占めるフッ素樹脂のうちどれが基本フッ素樹脂であるかの判断には影響を与えないものとする。なお、「基本フッ素樹脂」についての以上の説明は、第2発明、第3発明の場合にも適用される。
【0011】
第1発明では、前記第2フッ素樹脂を前記第1フッ素樹脂と同じものとすることも可能である。これにより、光触媒膜同士の接合を行った場合に、フッ素樹脂フィルムの炭酸塩含有層と第1フッ素樹脂の固着についてもより強固にし易くなる。
【0012】
第2発明も、フッ素樹脂と光触媒粉とを含む光触媒層をその少なくとも一方の面に有する光触媒膜同士を所定幅で重ね合わせる際、前記光触媒膜の重ね合わせられる部分の間に、前記光触媒膜に含まれるフッ素樹脂の中で過半を占めるフッ素樹脂である基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第1フッ素樹脂により形成されたフッ素樹脂フィルムを挟み込み、その状態で前記光触媒膜の重ね合わせられた部分を加熱することで、前記フッ素樹脂フィルムを介して前記光触媒膜の重ね合わせられた部分同士を接合する光触媒膜の接合方法である。
そして、第2発明では、前記フッ素樹脂フィルムとして、その少なくとも一方の面に、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩の粉である炭酸塩粉が付着させられたものを用い、前記光触媒膜の重ね合わせられる部分の間に前記フッ素樹脂フィルムを挟み込む際に、前記フッ素樹脂フィルムの前記炭酸塩粉が付着させられた面を前記光触媒層に当接させる。
第2発明が第1発明と異なるのは、第1発明のフッ素樹脂フィルムが第1フッ素樹脂にて形成のフィルム基材の上に、第2フッ素樹脂と炭酸塩を含む炭酸塩含有層を有していたのに対し、第2発明のフッ素樹脂フィルムは上記フィルム基材と事実上同じ第1フッ素樹脂にて形成のフッ素樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、単に前記炭酸塩粉が付着させられているという点である。
このような炭酸塩粉を付着させたフッ素樹脂フィルムを用いても、第1発明の場合と同様に、光触媒膜の縁部同士を接合した場合における接合部の剥離強度が長期にわたって落ちにくくなる。
炭酸塩粉は、フッ素樹脂フィルムの少なくとも一方の面に付着させれば良いが、双方の面に付着させても良い。第1発明の場合に炭酸塩含有層をフッ素樹脂フィルムの一方の面のみに設ける場合と双方の面に設ける場合があったのと、その理由は同じである。
【0013】
炭酸塩粉のフッ素樹脂フィルムへの付着のさせかたは、どのようなものであっても構わない。
例えば、前記炭酸塩粉の前記フッ素樹脂フィルムの少なくとも一方の面への付着を、前記フッ素樹脂フィルムに静電気を帯びさせることによる静電付着によって行うことができる。或いは、前記炭酸塩粉の前記フッ素樹脂フィルムの少なくとも一方の面への付着を、前記フッ素樹脂フィルムの前記少なくとも一方の面に撒いた前記炭酸塩粉を前記フッ素樹脂フィルムの前記少なくとも一方の面に押圧することによって行うことができる。これら2つの方法は、炭酸塩粉をフッ素樹脂フィルムに付着させる作業を光触媒膜同士の接合を行う現場でも行えるので手軽に用いることができる。
炭酸塩粉とフッ素樹脂フィルムの固着が強固に行なわれていなくても、光触媒膜同士の接合を、光触媒膜の重ね合わせられる部分の間にフッ素樹脂フィルムを挟み込んで行った際に、光触媒膜の光触媒層とフッ素樹脂フィルムの境界面に炭酸塩粉を配することができることには変わりないので、第2発明の作用効果に影響を与えることはない。
【0014】
第3発明も、フッ素樹脂と光触媒粉とを含む光触媒層をその少なくとも一方の面に有する光触媒膜同士を所定幅で重ね合わせる際、前記光触媒膜の重ね合わせられる部分の間に、前記光触媒膜に含まれるフッ素樹脂の中で過半を占めるフッ素樹脂である基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂である第1フッ素樹脂により形成されたフッ素樹脂フィルムを挟み込み、その状態で前記光触媒膜の重ね合わせられた部分を加熱することで、前記フッ素樹脂フィルムを介して前記光触媒膜の重ね合わせられた部分同士を接合する光触媒膜の接合方法である。
そして、第3発明では、前記フッ素樹脂フィルムとして、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩が添加されたものを用いる。
第3発明が第1発明と異なるのは、第1発明のフッ素樹脂フィルムが第1フッ素樹脂にて形成のフィルム基材の上に、第2フッ素樹脂と炭酸塩を含む炭酸塩含有層を有していたのに対し、第3発明のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂フィルムそれ自体に前記炭酸塩が添加されたものを用いるという点である。
このような炭酸塩粉が添加されたフッ素樹脂フィルムを用いても、第1発明の場合と同様に、光触媒膜同士を接合した場合における接合部の剥離強度が長期にわたって落ちにくくなる。
第3発明のフッ素樹脂フィルムは、そもそもその全体に炭酸塩が存在しているので、光触媒膜がその一方の面のみに光触媒層を持つ場合にも、その双方の面に光触媒層を持つ場合にも対応することができる。
【0015】
第1発明から第3発明における基本フッ素樹脂、第1フッ素樹脂、第2フッ素樹脂には、様々なものを使用することができる。ただし、基本フッ素樹脂と、第1フッ素樹脂、及び第2フッ素樹脂とは、その融点について既に述べた通りの関係を満たす必要がある。
基本フッ素樹脂、第1フッ素樹脂、第2フッ素樹脂に用いられるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。融点は327℃である。)、テトラフルオロエチレン/エチレンの共重合体(以下、ETFEという。融点は260〜270℃である。)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体(以下、PFAという。融点は310℃である。)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(以下、FEPという。融点は260℃である。)、ポリクロロトリフルオロエチレン(以下、PCTFEという。融点は220℃である。)、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFという。融点は151〜178℃である。)、ポリフッ化ビニル(以下、PVFという。融点は203℃である。)等を挙げることができる。
例えば、基本フッ素樹脂には、PTFE、ETFE、又はFEPを、前記第1フッ素樹脂にはFEPを用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい第1、第2、第3実施形態を説明する。
各実施形態において共通する対象には共通する符号を付すものとし、共通する説明は場合により省略するものとする。
【0018】
≪第1実施形態≫
第1実施形態では、
図1の斜視図に示したようにして、2枚の光触媒膜1を所定幅で重ね合わせようとする部分に、挟み込んだフッ素樹脂フィルム2を介して重ね合わせ、接合することにより、2枚の光触媒膜1を接合する。
なお、
図1では、光触媒膜1の縁部同士を所定幅で重ね合わせて重ね合わせられた光触媒膜1の縁部同士を接合することとしているが、接合される部分は必ずしも光触媒膜1の縁部同士に限られない。
【0019】
光触媒膜1は、例えば既存のものであり、これには限られないが、
図2の断面図に示したように構成されている。 光触媒膜1は、その中心にガラス繊維11を織る又は編むなどして構成された布である基材を備えている。この実施形態における基材はガラス繊維11を織って作られている。基材はフッ素樹脂でできたフッ素樹脂層12でその両面を被覆されている。このフッ素樹脂層12を形作るフッ素樹脂は、公知のフッ素樹脂から適当に選択でき、例えば、PTFE、ETFE、PFA、FEP、PCTFE、PVDF、PVFのうちのいずれかとすることができる。この実施形態では、フッ素樹脂層12は、PTFE(融点は327℃)にて形成されている。なお、図示はしないが、フッ素樹脂層12は、PTFE層とFEP層等、多層になっていても良い。
フッ素樹脂層12の少なくとも一方の最表層には、光触媒層13が設けられている。
図2に示した光触媒膜1では、光触媒層13は光触媒膜1の片面にだけ設けられている。光触媒層13の厚さは、フッ素樹脂層12の厚さと比較して相対的にかなり薄くされている。光触媒層13は、フッ素樹脂と光触媒粉とを含んでいる。また、光触媒層13には、その製造過程で用いられた界面活性剤等の添加剤が、少なくとも光触媒膜1自体の製造、もしくは接合等の加工時(光触媒による光触媒作用の発生前)には、僅かにではあるが残留している。光触媒層13に含まれるフッ素樹脂は、フッ素樹脂層12を形作るフッ素樹脂と同じでも良いし、同じでなくても良いが、この実施形態では両者は異なるものとされている。この実施形態では、光触媒層13に含まれるフッ素樹脂はFEPである。
上述したように、光触媒層13はフッ素樹脂層12よりも相対的にかなり薄い。したがって、光触媒膜1に含まれるフッ素樹脂の重量比で過半を占めるフッ素樹脂は、フッ素樹脂層12を形成するPTFEであるということになる。つまり、本願で言う基本フッ素樹脂は、この実施形態ではPTFEである。
なお、光触媒膜1は、上記基材がなくてもよく、フッ素樹脂層12と光触媒層13からなるものであっても良い。
【0020】
次に、フッ素樹脂フィルム2について、
図3を参照しつつ説明する。
フッ素樹脂フィルム2は、フィルム基材21と、フィルム基材21の少なくとも一方の面を覆う炭酸塩含有層22とを備えて構成されている。
フィルム基材21は、微量の添加剤などの残留物を除けば基本的にフッ素樹脂のみでできている。フィルム基材21を形成しているフッ素樹脂は、基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂であり、本願における第1フッ素樹脂にあたる。基本フッ素樹脂が上述のようにPTFEであり、その融点は327℃であるから、フィルム基材21を形成するフッ素樹脂は融点が327℃以下のものから選択されることになる。これには限られないが、この実施形態では、フィルム基材21を形成するフッ素樹脂は、その融点が260℃のFEPである。 炭酸塩含有層22は、フッ素樹脂と炭酸塩粉を含んで構成されている。炭酸塩含有層22に含まれるフッ素樹脂は、基本フッ素樹脂と融点が同じかそれ以下のフッ素樹脂であり、本願における第2フッ素樹脂にあたる。これには限られないが、この実施形態では、炭酸塩含有層22に含まれるフッ素樹脂はFEPである。なお、炭酸塩含有層22に含まれるフッ素樹脂をFEPとすると、炭酸塩含有層22に含まれるフッ素樹脂とフィルム基材21を構成するフッ素樹脂とが同じものとなるが、これらはかならずしも同じでなくても良い。
なお、フィルム基材21を形成するフッ素樹脂は、基本フッ素樹脂の融点以下のフッ素樹脂を使用することが好ましく、より好ましくは、フィルム基材21を形成するフッ素樹脂と、炭酸塩含有層22に含まれるフッ素樹脂の両者について、基本フッ素樹脂の融点以下のフッ素樹脂を使用することが好ましい。これにより、より強固に接合が可能となる。
【0021】
このようなフッ素樹脂フィルム2は、例えば、以下のようにして製造することができる。
この実施形態では、フッ素樹脂フィルム2は、FEPで形成されたフィルム基材21の少なくとも一方の表面に、FEPのディスパージョンに、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100gである炭酸塩として、炭酸カルシウムを添加した分散液を塗布し、その分散液を乾燥させることにより製造した。なお、上記条件を満たす炭酸塩としては、炭酸カルシウム(CaCO
3)、炭酸バリウム(BaCO
3)、炭酸マグネシウム(MgCO
3)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)の何れかまたは組み合わせを利用することが可能である。
フィルム基材21は、例えば、フッ素樹脂としてのFEPペレットを原料に溶融押出しでフィルム状に製膜してもよいし、FEPのディスパージョンをステンレス等の金属板の表面に薄く塗布し、乾燥後に焼成して金属板から剥がすことによって製造することもできるが、既存のフッ素樹脂フィルムを用いても良い。既存のフッ素樹脂フィルムとしては、例えば、ダイキン工業株式会社が製造、販売するネオフロンFEPフィルム等がある。
炭酸塩含有層22を形成するためのFEPのディスパージョンに炭酸カルシウム粉を添加した分散液は、FEP水系ディスパージョン(固形分54重量%、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 120-JR)を1000g、粒径が10〜20μmの炭酸カルシウム粉(キシダ化学株式会社製、品番:000-13435)を0.54g〜54g、精製水を1000g、シリコーン系界面活性剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、品番:SILWET L−77)を40g、を容器で混合し、攪拌して調整した。なお、炭酸塩の粒径は上記範囲に制限されるわけではないが、0.03〜100μmの粒径のものを利用するのが好ましく、より好ましくは1〜30μmの粒径のものを利用するのが良い。
上記分散液をフィルム基材21にディッピングコート法により両面に塗布し、自然乾燥し、次に60℃で5分間乾燥させ、炭酸塩含有層22を形成した。この後に、FEPの融点の温度以上で焼成を行なっても良いがこの実施形態では省略した。
上記乾燥後の炭酸塩含有層22におけるFEPに対する炭酸カルシウム粉の重量比は、0.1%〜10%とすることができ、より好ましくは、0.1%〜5%とするのが良い。上記範囲の重量比にした炭酸塩含有層22を積層したフッ素樹脂フィルム2を光触媒膜の接合に用いることによって、光触媒作用発生後一定期間経過した後でも十分な接合部の剥離強度を維持することが可能となる。
【0022】
上述のようなフッ素樹脂フィルム2を、光触媒膜1の接合される部分の形状、大きさに対応するように切断するなどして成形し、
図1に示したように、2枚の光触媒膜1の所定幅で重ね合わせられる部分の間に挟み込む。そして、その状態で、2枚の光触媒膜1の重ね合わせられた部分に熱板を押付けながら加熱して熱溶着させる。かかる熱溶着には、周知の熱板溶着機を用いることができる。このときの加熱の温度は、少なくともFEPの融点以上の温度であり、この実施形態では370℃で70秒加熱した。以上により、光触媒膜1の重ね合わせられた部分同士が、フッ素樹脂フィルムを介して接合される。
なお、フッ素樹脂フィルム2を、2枚の光触媒膜1の重ね合わせられる部分の間に挟み込む場合には、フッ素樹脂フィルム2の炭酸塩含有層22を、光触媒膜1の光触媒層13に当接させるように配置する。
光触媒膜1には、
図3(A)に示したような片面にのみ光触媒層13を持つものと、
図3(B)に示したような両面に光触媒層13を持つものとが存在する。
光触媒膜1が片面にのみ光触媒層13を持つものである場合には、光触媒膜1を接合するときには通常、2枚の光触媒膜1の光触媒層13がある側の面の向きを揃える。この場合には、光触媒膜1の重ね合わせられる部分の間に挟み込まれるフッ素樹脂フィルム2は、その一方の面のみが光触媒膜1の光触媒層13に当接することになる。したがって、この場合に用いるフッ素樹脂フィルム2は、その一方の面のみに炭酸塩含有層22を備えていれば足りる。その一方の面側にある炭酸塩含有層22が光触媒層13に当接するようにして、フッ素樹脂フィルム2を2枚の光触媒膜1の重ね合わせられる部分の間に挟み込めば良い。もっとも、この場合でも、炭酸塩含有層22が両面にあるフッ素樹脂フィルム2を用いることができる。そうすれば、フッ素樹脂フィルム2の表裏を考えずにフッ素樹脂フィルム2を光触媒膜1の重ね合わせられる部分の間に挟み込んだとしても、フッ素樹脂フィルム2の炭酸塩含有層22は光触媒膜1の光触媒層13に当接することになる。
他方、光触媒膜1が両面に光触媒層13を持つものである場合には、光触媒膜1の重ね合わせられる部分の間に挟み込まれるフッ素樹脂フィルム2は、その両面とも光触媒膜1の光触媒層13に当接することになる。したがって、この場合に用いるフッ素樹脂フィルム2は、その両方の面に炭酸塩含有層22を備えている必要がある。
【0023】
≪第2実施形態≫
第2実施形態でも、光触媒膜1同士を接合する。
その方法は、第1実施形態の場合と概ね同一である。異なるのは、フッ素樹脂フィルム2の構成である。
第2実施形態のフッ素樹脂フィルム2は、第1実施形態の場合と異なり、そのいずれの面にも第1実施形態の場合に説明した炭酸塩含有層22を備えていない。つまり、第2実施形態のフッ素樹脂フィルム2は、第1実施形態におけるフィルム基材21と同様のもので良い。
【0024】
第2実施形態の光触媒膜1同士の接合方法でも、フッ素樹脂フィルム2を、光触媒膜1の接合される部分の形状、大きさに対応するように切断するなどして成形し、
図1に示したように、2枚の光触媒膜1の所定幅で重ね合わせられる部分の間に挟み込むが、第2実施形態ではその前に、フッ素樹脂フィルム2の少なくとも片方の面に、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩粉を付着させる。
フッ素樹脂フィルム2に炭酸塩粉を付着させる方法は、例えば、フッ素樹脂フィルム2に静電気を帯びさせ、静電気を帯びさせたフッ素樹脂フィルム2対して炭酸塩粉を振り掛けるか、或いは炭酸塩粉の中に静電気を帯びさせたフッ素樹脂フィルム2を入れるなどして、フッ素樹脂フィルム2に炭酸塩粉を付着させる。フッ素樹脂はよく知られている通り、非常に静電気を帯びやすい性質を持つため、フッ素樹脂フィルム2に静電気を帯びさせることは、例えば適当な化学繊維製の布でフッ素樹脂フィルム2をこするなどすれば容易に行える。
フッ素樹脂フィルム2に付着させる炭酸塩粉の量は、0.01mg〜0.8mg/cm
2とすることができ、好ましくは、0.01mg〜0.3mg/cm
2とするのが良い。炭酸塩粉の粒径は、第1実施例と同じ範囲から選択する事が出来る。
或いは、フッ素樹脂フィルム2上に炭酸塩粉を撒いて、例えば布や紙タオル等で炭酸塩粉をフッ素樹脂フィルム2に押付けることによっても炭酸塩粉をフッ素樹脂フィルム2に付着させることが可能である。
以上のようにして、フッ素樹脂フィルム2に炭酸塩粉を付着させ、炭酸塩含有層22の代わりに炭酸塩付着層22とすることができる。
なお、フッ素樹脂フィルム2の一方の面のみに炭酸塩粉を付着させるか、双方の面に炭酸塩粉を付着させるかは、第1実施形態のフッ素樹脂フィルム2の一方の面のみに炭酸塩含有層22を設けるか、双方の面に炭酸塩含有層22を設けるかに準じる。
【0025】
以上のように炭酸カルシウム粉を付着させたフッ素樹脂フィルム2を、2枚の光触媒膜1の所定幅で重ね合わせられる部分の間に挟み込み、そして、その状態で、2枚の光触媒膜1の重ね合わせられた部分を、熱板溶着機で押付けながら第1実施形態と同じ条件で加熱して熱溶着させる。
以上により、光触媒膜1の重ね合わせられた部分同士が、フッ素樹脂フィルムを介して接合される。
【0026】
≪第3実施形態≫
第3実施形態でも、光触媒膜1同士を接合する。
その方法は、第1実施形態の場合と概ね同一である。異なるのは、フッ素樹脂フィルム2の構成である。
第3実施形態のフッ素樹脂フィルム2は、第1実施形態で説明した第1フッ素樹脂であるFEPに、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩粉を添加したものとなっている。
そのようなフッ素樹脂フィルム2の製造方法は以下の通りである。
【0027】
フッ素樹脂フィルム2は、例えば、フッ素樹脂としてのFEPのペレット(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 100-J)10kgに、融点が330℃以上かつ水溶解度が2g/100g以下である炭酸塩粉として、平均粒子径が1.8μmの炭酸カルシウム粉(白石カルシウム株式会社製、品番:ソフトン1200)を1g〜500g添加して周知の溶融押出機を使用し、320℃で溶融させながら押出成形することにより、フィルム状に加工することができる。
また、上記ペレットと炭酸カルシウム粉を、周知の二軸混錬押出機により320℃で混錬し、その後、周知の圧縮成形機によりフィルム状に加工することも可能である。
これらの場合、フッ素樹脂に対する炭酸塩粉の重量比は、0.01%〜5%の範囲とすることができ、好ましくは0.1%〜3%とするのが良い。
【0028】
以上のようにして得られた炭酸塩粉を含有するフッ素樹脂フィルム2を、2枚の光触媒膜1の所定幅で重ね合わせられる部分の間に挟み込み、そして、その状態で、2枚の光触媒膜1の重ね合わせられた部分を、熱板溶着機で押付けながら加熱して熱溶着させる。
以上により、光触媒膜1の重ね合わせられた部分同士が、フッ素樹脂フィルムを介して接合される。
第3実施形態のフッ素樹脂フィルム2は、そもそもその両表面を含む全体に炭酸塩粉が分散されているので、接合すべき光触媒膜1が光触媒層13をその片面にしか持たない場合にも、その両面に持つ場合にも適用することが可能である。
【0029】
以下、実験例について説明する。まず、実験例に用いた試料について、その作製方法も併せて説明する。
【0030】
試料<試料1>
[試料1−1]
第1実施形態のフッ素樹脂フィルム2の一例として、以下のものを作製した。
試料1−1のフッ素樹脂フィルム2の、炭酸塩含有層22を形成するための、FEPのディスパージョンに炭酸塩粉を添加した分散液は、FEP水系ディスパージョン(固形分54重量%、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 120-JR)を1000g、粒径が10〜20μmの炭酸カルシウム粉(キシダ化学株式会社製、品番:000−13435)を4g、精製水を1000g、シリコーン系界面活性剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、品番:SILWET L−77)を40g、を容器で混合し、攪拌して調整した。
上記分散液を、FEPフィルム基材(厚さ0.125mmのFEPフィルム)21の両面にディッピングコート法により塗布し、自然乾燥し、次に60℃で5分間乾燥させ、炭酸塩含有層22を形成したフッ素樹脂フィルム2を作製した。
上記乾燥後の炭酸塩含有層22におけるFEPに対する炭酸カルシウム粉の重量比は0.7%である。
【0031】
[試料1−2]
第1実施形態のフッ素樹脂フィルム2の他の例として、以下のものを作製した。
試料1−2のフッ素樹脂フィルム2の、炭酸塩含有層22を形成するための、FEPのディスパージョンに炭酸塩粉を添加した分散液は、FEP水系ディスパージョン(固形分54重量%、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 120-JR)を1000g、粒径が10〜20μmの炭酸カルシウム粉(キシダ化学株式会社製、品番:000−13435)を7g、精製水を1000g、シリコーン系界面活性剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、品番:SILWET L−77)を40g、を容器で混合し、攪拌して調整した。
上記分散液をFEPフィルム基材(厚さ0.125mmのFEPフィルム)21の両面にディッピングコート法により塗布し、自然乾燥し、次に60℃で5分間乾燥させ、炭酸塩含有層22を形成したフッ素樹脂フィルム2を作製した。
上記乾燥後の炭酸塩含有層22におけるFEPに対する炭酸カルシウム粉の重量比は1.2%である。
【0032】
[試料1−3]
第1実施形態のフッ素樹脂フィルム2の更に他の例として、以下のものを作製した。
試料1−3のフッ素樹脂フィルム2の、炭酸塩含有層22を形成するための、FEPのディスパージョンに炭酸カルシウム粉を添加した分散液は、FEP水系ディスパージョン(固形分54重量%、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 120-JR)を1000g、粒径が10〜20μmの炭酸カルシウム粉(キシダ化学株式会社製、品番:000−13435)を18g、精製水を1000g、シリコーン系界面活性剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、品番:SILWET L−77)を40g、を容器で混合し、攪拌して調整した。
上記分散液をFEPフィルム基材(厚さ0.125mmのFEPフィルム)21の両面にディッピングコート法により塗布し、自然乾燥し、次に60℃で5分間乾燥させ、炭酸塩含有層22を形成したフッ素樹脂フィルム2を作製した。
上記乾燥後の炭酸塩含有層22におけるFEPに対する炭酸カルシウム粉の重量比は3.2%である。
【0033】
<試料2>
[試料2−1]
第2実施形態のフッ素樹脂フィルム2の一例として、以下のものを作製した。
試料2−1は、厚さ0.125mm、長さ600mm、幅75mmのFEPフィルム基材21上に紙タオルに炭酸塩として炭酸カルシウム粉(白石カルシウム製、品番:ソフトン1200、平均粒子径1.8μm)を付着させ、FEPフィルムに擦りつけることによって炭酸カルシウム粉をFEPフィルムの両面に付着させることにより、炭酸塩含有層の代わりに炭酸塩付着層22を形成させたフッ素樹脂フィルム2である。
この炭酸カルシウム付着FEPフィルムにおける炭酸カルシウムの付着量は0.012mg/cm
2であった。
【0034】
[試料2−2]
第2実施形態のフッ素樹脂フィルム2の他の例として、以下のものを作製した。
試料2−2は、厚さ0.125mm、長さ600mm、幅75mmのFEPフィルム基材21上に紙タオルに炭酸塩として炭酸カルシウム粉(白石カルシウム製、品番:ソフトン1200、平均粒子径1.8μm)を付着させ、FEPフィルムに擦りつけることによって炭酸カルシウム粉をFEPフィルムの両面に付着させ炭酸塩含有層の代わりに炭酸塩付着層22を形成させたフッ素樹脂フィルム2を作製した。
この炭酸カルシウム付着FEPフィルムにおける炭酸カルシウムの付着量は0.22mg/cm
2であった。
【0035】
<試料3>
[試料3−1]
第3実施形態のフッ素樹脂フィルム2の一例として、以下のものを作製した。
試料3−1は、FEPのペレット(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 100-J)10kgに、炭酸塩として平均粒径が1.8μmの炭酸カルシウム粉(白石カルシウム株式会社製、品番:ソフトン1200)を10g添加して周知の溶融押出機を使用し、320〜380℃の範囲で溶融させながら押出成形することにより製造された、厚さ0.125mmの炭酸カルシウム含有FEPフィルムである。
この場合、フッ素樹脂に対する炭酸カルシウム粉の重量比は、0.1%であった。
【0036】
[試料3−2]
第3実施形態のフッ素樹脂フィルム2の他の例として、以下のものを作製成した。
試料3−2は、FEPのペレット(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 100-J)10kgに、炭酸塩として平均粒径が1.8μmの炭酸カルシウム粉(白石カルシウム株式会社製、品番:ソフトン1200)を100g添加して周知の溶融押出機を使用し、320〜380℃の範囲で溶融させながら押出成形することにより製造されたものであり、厚さ0.125mmの炭酸カルシウム含有FEPフィルムである。
この場合、フッ素樹脂に対する炭酸カルシウム粉の重量比は、1.0%であった。
【0037】
[試料3−3]
第3実施形態のフッ素樹脂フィルム2の更に他の例として、以下のものを作製した。
試料3−3は、FEPのペレット(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 100-J)10kgに、炭酸塩として平均粒径が1.8μmの炭酸カルシウム粉(白石カルシウム株式会社製、品番:ソフトン1200)を300g添加して周知の溶融押出機を使用し、320〜380℃の範囲で溶融させながら押出成形することにより製造されたものであり、厚さ0.125mmの炭酸カルシウム含有FEPフィルムである。
この場合、フッ素樹脂に対する炭酸カルシウム粉の重量比は、3.0%であった。
【0038】
[試料3−4]
第3実施形態のフッ素樹脂フィルム2の更に他の例として、以下のものを作製しようとしたが、フッ素樹脂フィルム2を得ることができなかった。
試料3−4では、FEPのペレット(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 100-J)10kgに、炭酸塩として平均粒径が1.8μmの炭酸カルシウム粉(白石カルシウム株式会社製、品番:ソフトン1200)を500g添加して周知の溶融押出機を使用し、320〜380℃の範囲で溶融させながら押出成形を試みたが、発泡や穴がひどく、均一なフィルムを成形するのは困難であった。
この場合、フッ素樹脂に対する炭酸カルシウム粉の重量比は、5.0%であった。
【0039】
<比較用試料>
フッ素樹脂フィルム2に代わるものとして、試料1−1〜1−3、試料2−1及び2−2に使用した市販の厚さ0.125mmのFEPフィルムに、炭酸カルシウムを含有や付着させず、そのまま使用した場合を比較例用試料として準備した。
【0040】
<光触媒膜>
光触媒膜は、平均厚さが0.4mmのガラス繊維織物の両面にPTFEを約0.2mm、さらにそのPTFEの両面にFEPを約10μm被膜された既存の膜材料の最表層に、光触媒を含有したFEP分散液を塗布して光触媒層を設けたものである。
上記光触媒を含有したFEP分散液の組成は以下の通りであった。
分散剤は、粒径が1nm〜100nmのアナターゼ型TiO
2 を用いた水系ディスパージョン(固形分28重量%、特注品)を2000g、精製水を3000g、FEPの水系ディスパージョン(固形分54重量%、三井デュポンフロロケミカル株式会社製、品番:FEP 120−JR)を4148g、シリコン系界面活性剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、品番:SILWET L−77)を137.2gそれぞれ用意し、それらを混合、攪拌して調製した。FEPと酸化チタン粉末の重量比率は20:80である。
光触媒を含有させたFEP層は、以下の製造工程で被覆した。
最初に、上記最表層がFEPである上記膜材料に対し、そのさらなる最表層に上記分散剤をディッピングコート法により両面に塗布し、60℃で3分乾燥させたのち、次第に乾燥温度を上げて、最終的に300℃で3分間焼成し、自然冷却させ、酸化チタンを含有したFEP層を両面に形成した膜材を光触媒膜として実験的に製造した。
【0041】
<試験内容>
以上の試料及び比較例によるフッ素樹脂フィルム2を間に挟んで光触媒膜を熱溶着により接合し、その剥離強度の試験を行った。
【0042】
[熱溶着]
熱溶着によるフッ素樹脂フィルム2を間に挟んでの光触媒膜の接合は、以下の要領で行った。
上記光触媒膜を、幅150mm、長さ600mmにカットしたものを2枚重ね合わせ、その間に接着剤的な役目をする、試料1−1〜1−3で作製した炭酸カルシウム含有FEPディスパージョンを塗布したFEPフィルム(幅75mm、長さ600mm)、試料2−1、2−2で作製した炭酸カルシウムが付着したFEPフィルム(幅75mm、長さ600mm)、試料3−1〜3−3で作製した炭酸カルシウム含有FEPフィルム(幅75mm、長さ600mm)、又は比較例の炭酸カルシウムが付着していないFEPフィルム(幅75mm、長さ600mm)をそれぞれ1枚挟み込み、熱板設定温度370℃、溶着時間70秒、圧力0.5kg/cm
2の条件で、幅75mm、長さ600mmの各接合サンプルを作製した。
【0043】
[剥離試験サンプルの採取]
上述の各接合サンプルから剥離試験サンプルとして、幅75mm、長さ600mmの長手方向の中央部分から幅50mm、長さ150mmを2枚切り出し、1枚は促進暴露試験をしない後述する初期剥離試験評価用サンプルとして用い、残り1枚を促進暴露試験1000時間後の後述する暴露後剥離試験評価用サンプルに供した。
【0044】
[促進暴露試験]
促進暴露試験は、キセノンウェザーメーター(スガ試験機製SX75−2、放射照度180W/m
2(300〜400nm)、120分中18分:照射+水スプレー、120分中102分:照射のみ)を用いて、1000時間の暴露を上記暴露後剥離試験評価用サンプルに対して行った。
【0045】
[剥離試験]
上述の初期剥離試験評価用サンプルと、暴露後剥離試験評価用サンプルに対して剥離試験を行った。
剥離試験は、(JIS K6404−5、B法)に準じて行った。ただし、1つの剥離試験に供する試験片の大きさは、幅20mm×長さ150mmとし、幅50mm×長さ150mmの初期剥離試験評価用サンプルと、暴露後剥離試験評価用サンプルの双方からそれぞれ2本ずつ採取した。
それら試験片のうち、長手方向の一端側から50mmの部分を手剥離し、その後、引張試験機で剥離試験を行った。剥離試験結果の評価は、剥離試験後に剥離した面について、フッ素樹脂とガラス繊維織物の間で剥離した部分の割合を目視で判定し2本の平均値で評価とした。
通常、このような材料では、フッ素樹脂とガラス基布が剥がれる際の剥離強度は一般的に高いのに対して、フッ素樹脂とフッ素樹脂の間で剥がれる場合の剥離強度は、相対的に低くなることが知られているためである。
【0046】
[剥離試験結果]
初期剥離試験評価用サンプルと、暴露後剥離試験評価用サンプルについて剥離試験を行った。その結果による、接合部の全面積に占める光触媒膜中のガラス繊維織物とフッ素樹脂(PTFE)の間で剥離が生じた面積の割合と、剥離強度の向上度の評価結果を下記表1に示す。
【表1】
※「初期剥離試験評価用サンプル」と、「暴露後剥離試験評価用サンプル」の各数値は、剥離した面のうちガラス繊維織物とフッ素樹脂の間で剥離した部分の割合(%)
※「剥離強度の向上度の評価」の上欄の各数値は、比較用試料と比較した場合に向上した分の数値
※「剥離強度の向上度の評価」の下欄の○、△、×は、比較用試料と比較した場合に向上した分の数値に基づき、剥離強度の向上の程度を、以下の評価凡例により3段階で評価した評価結果
×:10%未満
△:10〜25%
○:25%以上
【0047】
以上の通り、試料1−1〜試料3−3を光触媒膜の間に挟んで接合を行ったか、比較用試料を光触媒膜の間に挟んで接合を行ったかに関わらず、初期剥離試験評価用サンプルの剥離試験の場合はすべて、「初期剥離試験評価用サンプル」の各数値が100%となっている。これは、従来技術と同じ比較用試料を接合に用いた場合であっても、試料1−1〜試料3−3を接合に用いた場合であっても、剥離は、光触媒膜と比較用試料の間、又は光触媒膜と試料1−1〜試料3−3の間、つまり接合した光触媒膜同士の接合面ではなく、すべてが光触媒膜の内部で生じている、ということを意味している。つまり、促進暴露試験を経ていない状態では、試料1−1〜試料3−3を光触媒膜の間に挟んで接合を行った場合も、比較用試料を光触媒膜の間に挟んで接合を行った場合も、接合した光触媒膜同士の接合面での剥離の前に光触媒膜の破壊が生じるほど、光触媒膜間の接合の強度が高いことが判る。
他方、比較用試料を光触媒膜の間に挟んで接合を行った場合には、「暴露後剥離試験評価用サンプル」の数値は55%となっている。これは、剥離試験を行った場合に、接合部の45%については、光触媒膜の破壊に先駆けて、接合した光触媒層同士の接合面で剥離が生じてしまったということを意味する。つまり、比較用試料を光触媒膜の間に挟んで接合を行った接合部は、促進暴露試験を経た場合に、その強度が劣化する場合があることが分かる。
他方、試料1−1〜試料3−3を光触媒膜の間に挟んで接合を行った場合には、「暴露後剥離試験評価用サンプル」の各数値は65%〜100%となっている。試料1−1〜試料3−3を光触媒膜の間に挟んで接合を行った接合部は、暴露試験を経た後においても、比較用試料を光触媒膜の間に挟んで接合を行った場合と比較して、剥離強度の劣化が小さくなっている。特に、上記数値が100%の試料2−2ついては、暴露試験を経ていない接合部と同等の接合強度を有しているから、剥離強度の劣化は略ないといえる。その他のものについても、最低の数値で65%であるから、その数値が55%である比較用試料を光触媒膜の間に挟んで接合を行った場合と比較して、接合部の剥離強度の向上が見られている。試料2−2を用いた場合以外についても、「剥離強度の向上度の評価」の下欄に「○」の評価が付された試料1−2、試料1−3、試料2−1、試料3−2は、暴露試験を経た後においても、暴露試験前からの接合部の剥離強度の下落が小さい。
なお、炭酸塩として他のもの、つまり、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ストロンチウムを用いた場合でも、この試験結果と略同等の結果を得られた。